説明

カルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法

【課題】 第1の目的は、低濃度での増粘性に優れた中和粘稠液を与えるカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法を提供すること。第2の目的は、低濃度での増粘性に優れた中和粘稠液を与えると共に、高濃度においても容易に水に分散、溶解が可能なカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、α,β−不飽和カルボン酸と、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物とを、ラジカル重合開始剤の存在下に反応させるカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法において、下記一般式(1);
【化1】


(式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を、nは1または2を示す。)で表される(メタ)アクリル酸誘導体の存在下、好ましくは不活性溶媒中で反応させることを特徴とするカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法に関する。さらに詳しくは、化粧品等の増粘剤、パップ剤等の保湿剤、乳化物や懸濁物等の懸濁安定剤等として好適に使用しうるカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシル基含有水溶性重合体としては、例えば、アクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸とポリアリルエーテルとの共重合体(例えば、特許文献1参照。)、α,β−不飽和カルボン酸とヘキサアリルトリメチレントリスルホンとの共重合体(例えば、特許文献2参照。)、α,β−不飽和カルボン酸とリン酸トリアリルとの共重合体(例えば、特許文献3参照。)、α,β−不飽和カルボン酸とグリシジルメタクリレート等の共重合体(例えば、特許文献4参照。)、アクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸とペンタエリスリトールアリルエーテルとの共重合体(例えば、特許文献5、6および7参照。)、アクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとペンタエリスリトールアリルエーテルとの共重合体(例えば、特許文献8参照。)等が知られている。これらのカルボキシル基含有水溶性重合体は、水に溶解させた後、アルカリで中和して中和粘稠液とすることにより、化粧品等の増粘剤、パップ剤等の保湿剤、乳化物や懸濁物等の懸濁安定剤等の用途に用いられている。
【0003】
前記カルボキシル基含有水溶性重合体をこれらの用途に使用するためには、まず、カルボキシル基含有水溶性重合体の均一な水溶液を調製し、その後アルカリで中和して中和粘稠液とする必要がある。しかしながら、前記カルボキシル基含有水溶性重合体は、通常、微粉末であるため、水に溶解させる際に塊状物(ママコ)が生じやすい。いったんママコが生成すると、その表面にゲル状の層が形成されるため、その内部に水が浸透する速度が遅くなり、均一な水溶液を得ることが困難となるという欠点がある。
【0004】
したがって、カルボキシル基含有水溶性重合体の水溶液を調製する場合には、ママコの生成を防ぐために、カルボキシル基含有水溶性重合体の粉末を水中に高速攪拌下で徐々に添加するという生産効率が悪い操作を必要とし、場合によってはママコの生成を防止するために特殊な溶解装置を必要とする。さらに、生産効率を改善する観点から、カルボキシル基含有水溶性重合体を予め高濃度に分散、溶解させた後、希釈して使用するといった溶解方法が主体となってきている。
【0005】
一方、化粧品等の分野では、化粧品等の質感向上のため、カルボキシル基含有水溶性重合体の使用量を低減する傾向にある。したがって、より低濃度で増粘性に優れた中和粘稠液を与えるカルボキシル基含有水溶性重合体が望まれている。
【特許文献1】米国特許第2923692号明細書
【特許文献2】米国特許第2958679号明細書
【特許文献3】米国特許第3426004号明細書
【特許文献4】特開昭58−84819号公報
【特許文献5】米国特許第5342911号明細書
【特許文献6】米国特許第5663253号明細書
【特許文献7】米国特許第4996274号明細書
【特許文献8】特開昭59−232107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第1の目的は、低濃度での増粘性に優れた中和粘稠液を与えるカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、低濃度での増粘性に優れた中和粘稠液を与えると共に、高濃度においても水に容易に分散、溶解が可能なカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、α,β−不飽和カルボン酸と、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物とを、ラジカル重合開始剤の存在下に反応させるカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法において、下記一般式(1);
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を、nは1または2を示す。)で表される(メタ)アクリル酸誘導体の存在下で反応させることを特徴とするカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法に関する。
上記カルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法は、不活性溶媒中で反応させるものであることが好ましい。
【0010】
本発明は、上記製造方法により得られるカルボキシル基含有水溶性重合体の0.2重量%中和粘稠液の粘度が20000〜50000mPa・sであるカルボキシル基含有水溶性重合体である。
本発明は、不活性溶媒中で反応させる上記製造方法により得られる中位粒子径が75〜500μmのカルボキシル基含有水溶性重合体である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の第1の目的は、α,β−不飽和カルボン酸と、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物とを、ラジカル重合開始剤の存在下に反応させるカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法において、前記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸誘導体の存在下に反応させることにより達成される。
前記一般式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を、nは1または2を示す。なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
本発明においては、(メタ)アクリル酸誘導体の存在下に反応させることにより、低濃度での増粘性に優れた中和粘稠液を与えるカルボキシル基含有水溶性重合体を製造することができる。
【0012】
(メタ)アクリル酸誘導体の具体例としては、3−(アクリロイルオキシ)プロピオン酸、3−(メタクリロイルオキシ)プロピオン酸、3−(アクリロイルオキシ)−2−メチルプロピオン酸、3−(メタクリロイルオキシ)−2−メチルプロピオン酸、3−[3−(アクリロイルオキシ)プロピオニルオキシ]プロピオン酸、3−[3−(メタクリロイルオキシ)−2−メチルプロピオニルオキシ]−2−メチルプロピオン酸等が挙げられる。中でも工業的に入手が容易である観点から、3−(アクリロイルオキシ)プロピオン酸が好ましい。
【0013】
(メタ)アクリル酸誘導体の使用量は、α、β―不飽和カルボン酸100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。(メタ)アクリル酸誘導体の使用量が0.01重量部未満の場合、使用する効果が得られない。また、10重量部を超える場合、使用量に見合う効果なく経済的でない。
【0014】
なお、(メタ)アクリル酸誘導体の添加方法は、特に限定されず、重合開始前にα,β−不飽和カルボン酸と共に一括で添加しても良いし、重合中に複数回に分割して添加しても良い。
【0015】
本発明で用いられるα,β−不飽和カルボン酸としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等が挙げられる。
【0016】
α,β−不飽和カルボン酸の量は、後述する溶媒100容量部に対して6〜25容量部、好ましくは8〜22容量部、さらに好ましくは13〜20容量部であることが望ましい。α,β−不飽和カルボン酸の量が6容量部未満の場合、得られるカルボキシル基含有水溶性重合体の中和粘稠液の透明性が悪化するおそれがある。また、α,β−不飽和カルボン酸の量が25容量部を超える場合、反応が進行するにつれ、カルボキシル基含有水溶性重合体が析出し均一に攪拌することが困難となるおそれがある。
【0017】
本発明においては、前記α,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルとを併用してもよい。α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、特に限定されず、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸n−デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ミリスチル、アクリル酸パルミチル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ベへニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸n−デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ミリスチル、メタクリル酸パルミチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ベへニル等が挙げられる。これらの中では、安価で入手が容易であり、しかもカルボキシル基含有水溶性重合体から得られる中和粘稠液の透明性に優れている観点から、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリルおよびメタクリル酸ベヘニルが好ましい。
【0018】
なお、α,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルとを併用する際において、α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルの量は、得られるカルボキシル基含有水溶性重合体が水に溶解しにくくなるのを回避する観点から、α,β−不飽和カルボン酸に対して10モル%未満、好ましくは5モル%未満であることが好ましい。
【0019】
本発明で用いられるエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物としては、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、サッカロース、ソルビトール等のポリオールのアクリル酸エステル類;これらポリオールのメタクリル酸エステル類;これらポリオールのアリルエーテル類;フタル酸ジアリル、リン酸トリアリル、メタクリル酸アリル、トリアリルシアヌレート、アジピン酸ジビニル、クロトン酸ビニル、1,5−ヘキサジエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用しても良い。中でも、高い粘度を有するカルボキシル基含有水溶性重合体の中和粘稠液が得られ、乳化物、懸濁物等に高い懸濁安定性を付与することができる観点から、ペンタエリスリトールアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、ポリアリルサッカロースが好ましい。
【0020】
エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物の使用量は、α,β−不飽和カルボン酸100重量部に対して、0.15〜2重量部、好ましくは0.3〜1.5重量部であることが望ましい。エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物の使用量が0.15重量部未満の場合、カルボキシル基含有水溶性重合体から得られる中和粘稠液の粘度が低下するおそれがある。また、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物の使用量が2重量部を超える場合、カルボキシル基含有水溶性重合体から得られる中和粘稠液中に不溶性のゲルが生成しやすくなるおそれがある。
【0021】
本発明で用いられるラジカル重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、α,α’−アゾイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビスメチルイソブチレート、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、第三級ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。中でも、取り扱いやすく、安定性に優れている観点から、α,α’−アゾイソブチロニトリルが好ましい。
【0022】
ラジカル重合開始剤の使用量は、α,β−不飽和カルボン酸1モルに対して0.00003〜0.002モルであることが望ましい。ラジカル重合開始剤の使用量が0.00003モル未満の場合、反応速度が遅くなるため経済的でなくなるおそれがある。また、ラジカル重合開始剤の使用量が0.002モルを超える場合、重合が急激に進行するため除熱が困難となり、反応の制御が難しくなるおそれがある。
【0023】
α,β−不飽和カルボン酸と、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物と、(メタ)アクリル酸誘導体とを反応させる際は、溶媒中で行うことが好ましい。本発明で用いられる溶媒としては、α,β−不飽和カルボン酸と、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物を溶解するが、得られるカルボキシル基含有水溶性重合体を溶解しない溶媒が好ましい。上記溶媒としては、(メタ)アクリル酸誘導体を溶解しないものであってもよいし、(メタ)アクリル酸誘導体を溶解するものであってもよい。本明細書において、「溶媒」は、後述の不活性溶媒をも含み得る概念である。
【0024】
溶媒としては、例えば、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、イソオクタン等の鎖状炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素;エチレンジクロライド等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用しても良い。
【0025】
本発明のカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法において、α,β−不飽和カルボン酸と、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物と、(メタ)アクリル酸誘導体とを反応させる際の雰囲気は、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の雰囲気下であることが好ましい。
【0026】
反応温度は、50〜90℃、好ましくは55℃〜75℃であることが望ましい。反応温度が50℃未満の場合、反応溶液の粘度が上昇し、均一に攪拌することができなくなるおそれがある。また、反応温度が90℃を超える場合、反応が急激に進行し、反応の制御ができなくなるおそれがある。反応時間は、反応温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、0.5〜5時間である。
【0027】
反応終了後、反応溶液を80〜130℃に加熱し、溶媒を留去することにより、白色粒状または微粉末状のカルボキシル基含有水溶性重合体を得ることができる。加熱温度が80℃未満の場合、乾燥に長時間を要するおそれがある。また、加熱温度が130℃を超える場合、得られるカルボキシル基含有水溶性重合体の溶解性が悪化するおそれがある。
【0028】
本発明の製造方法により得られたカルボキシル基含有水溶性重合体の0.2重量%中和粘稠液の粘度は、20000〜50000mPa・s、好ましくは22000〜40000mPa・s、さらに好ましくは24000〜35000mPa・sである。中和粘稠液の粘度が20000mPa・s未満の場合、化粧品等の調合時に増粘性を発揮できず、得られる化粧品等の質感が悪化するおそれがある。また、50000mPa・sを超える場合、塩や光等に対する長期間の安定性に欠ける傾向がある。
【0029】
得られたカルボキシル基含有水溶性重合体を用いて中和粘稠液を調製する方法としては、特に限定されず、例えば、カルボキシル基含有水溶性重合体の濃度が、0.01〜3重量%となるように水中に溶解させた後、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアミン類等のアルカリで、pHが6.5〜7.5になるように中和すればよい。
【0030】
本発明の第2の目的は、α,β−不飽和カルボン酸と、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物とを、ラジカル重合開始剤の存在下に反応させるカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法において、特に、前記反応を不活性溶媒中で行うことにより達成される。即ち、本発明のカルボキシル基含有水溶性重合体の好ましい製造方法は、α,β−不飽和カルボン酸と、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物とを、ラジカル重合開始剤の存在下に反応させるカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法において、前記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸誘導体の存在下、不活性溶媒中で反応させるものである。
前記反応を不活性溶媒中で行うことにより、低濃度での増粘性に優れた中和粘稠液を与えると共に、高濃度においても水に容易に分散、溶解が可能なカルボキシル基含有水溶性重合体を製造することができる。
【0031】
本明細書にいう不活性溶媒とは、α,β−不飽和カルボン酸およびエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物を溶解するが(メタ)アクリル酸誘導体を溶解せず、かつ得られるカルボキシル基含有水溶性重合体を溶解しない溶媒をいう。
【0032】
不活性溶媒としては、例えば、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、イソオクタン等の鎖状炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用しても良い。中でも、安価で入手しやすい観点から、鎖状炭化水素、とりわけノルマルヘキサンが好ましい。
【0033】
本発明のカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法において、前記反応を不活性溶媒中で行う場合、α,β−不飽和カルボン酸と、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物と、(メタ)アクリル酸誘導体とを反応させる際の雰囲気は、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の雰囲気下であることが好ましい。
【0034】
前記反応を不活性溶媒中で行う場合、反応温度は、50〜90℃、好ましくは55℃〜75℃であることが望ましい。反応温度が50℃未満の場合、反応溶液の粘度が上昇し、均一に攪拌することができなくなるおそれがある。また、反応温度が90℃を超える場合、反応が急激に進行し、反応の制御ができなくなるおそれがある。反応時間は、反応温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、0.5〜5時間である。
【0035】
不活性溶媒中における反応終了後、反応溶液を80〜130℃に加熱し、溶媒を留去することにより、白色粒状のカルボキシル基含有水溶性重合体を得ることができる。加熱温度が80℃未満の場合、乾燥に長時間を要するおそれがある。また、加熱温度が130℃を超える場合、得られるカルボキシル基含有水溶性重合体の溶解性が悪化するおそれがある。
【0036】
かくして得られたカルボキシル基含有水溶性重合体は、その中位粒子径が好ましくは75〜500μm、より好ましくは100〜350μmのほぼ球状の粒子である。中位粒子径が75μm未満の場合、カルボキシル基含有水溶性重合体の粉立ち等が激しくなる場合があり取り扱いにくくなるばかりか、高濃度に水に分散、溶解させる際にママコが発生しやすくなる。一方、500μmを超える場合、カルボキシル基含有水溶性重合体の水に対する水和が遅くなる傾向にあり、溶解時間が長くなる場合があり、生産性の悪化につながることがある。
【0037】
なお、中位粒子径とは、カルボキシル基含有水溶性重合体の粒子を篩で分級したときに各篩上に残っているカルボキシル基含有水溶性重合体の粒子の重量を順次積算して得られた積算重量が、カルボキシル基含有水溶性重合体の粒子の全重量の50重量%に達したときに相当する篩の目開きをいう。
【0038】
具体的には、カルボキシル基含有水溶性重合体の粒子30gを秤量し、JIS−Z8801−1982対応の7つの標準篩(上から目開き850μm、500μm、300μm、250μm、180μm、106μm、75μm、受け皿の順に積み重ねた)の一番上の篩にカルボキシル基含有水溶性重合体の粒子を入れ、ロータップ式篩振動器を用いて30分間振動させて篩分けした後に篩毎に秤量し、その結果に基づいて下記式:
中位粒子径(μm)=[(15−A)/(C−A)]×(D−B)+B
にしたがって求めた。
【0039】
なお、式中、Aは、粒子径の大きい方から順次重量を積算し、積算重量が50重量%未満であり、かつ50重量%に最も近い点の積算値を求めた場合の当該積算値(g)であり、また、Bは、当該積算値を求めた時の篩の目開き(μm)である。また、Cは、粒子径の大きい方から順次重量を積算し、積算重量が50重量%以上であり、かつ50重量%に最も近い点の積算値を求めた場合の当該積算値(g)であり、また、Dは、当該積算値を求めたときの篩の目開き(μm)である。
【0040】
本発明において、不活性溶媒中で反応させることにより得られるカルボキシル基含有水溶性重合体は、上述の範囲内の中位粒子径を有するものであれば、0.2重量%中和粘稠液が20000〜50000mPa・sの粘度を必ずしも有している必要はないが、該範囲内の粘度を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明により得られるカルボキシル基含有水溶性重合体から得られる中和粘稠液は、低濃度においても優れた増粘性を有するため、より少量で化粧品等の質感向上が可能となる。また、不活性溶媒中の反応で得られるカルボキシル基含有水溶性重合体は、粒状であるため、ママコの発生を防ぎ、高濃度においても水に分散、溶解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
実施例1
攪拌機、温度計、窒素吹き込み管および冷却管を備えた500mL容の四つ口フラスコに、アクリル酸40g(0.56モル、38.1mL)、3−(アクリロイルオキシ)プロピオン酸(東亞合成株式会社の商品名:アロニックスM−5600)1.2g、ペンタエリスリトールアリルエーテル0.20g、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル0.13g(0.00079モル)、ノルマルヘキサン177g(264mL)を仕込んだ。引き続き、均一に攪拌、混合した後、反応容器の上部空間、原料および溶媒中に存在している酸素を除去するために、溶液中に窒素ガスを吹き込んだ。次いで、窒素雰囲気下、55〜60℃に保持して4時間反応させた。反応終了後、生成したスラリーを90℃に加熱して、ノルマルヘキサンを留去し、中位粒子径が348μmで白色粒状のカルボキシル基含有水溶性重合体39gを得た。
【0043】
実施例2
攪拌機、温度計、窒素吹き込み管および冷却管を備えた500mL容の四つ口フラスコに、アクリル酸45g(0.625モル、42.9mL)、3−(アクリロイルオキシ)プロピオン酸(東亞合成株式会社の商品名:アロニックスM−5600)0.9g、ジエチレングリコールジアリルエーテル0.40g、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル0.14g(0.00085モル)、ノルマルヘキサン150g(224mL)を仕込んだ。引き続き、均一に攪拌、混合した後、反応容器の上部空間、原料および溶媒中に存在している酸素を除去するために、溶液中に窒素ガスを吹き込んだ。次いで、窒素雰囲気下、55〜60℃に保持して4時間反応させた。反応終了後、生成したスラリーを90℃に加熱して、ノルマルヘキサンを留去し、中位粒子径が185μmで白色粒状のカルボキシル基含有水溶性重合体43gを得た。
【0044】
実施例3
攪拌機、温度計、窒素吹き込み管および冷却管を備えた500mL容の四つ口フラスコに、アクリル酸43g(0.60モル、41.0mL)、メタクリル酸ラウリル2g(0.008モル)、、ペンタエリスリトールアリルエーテル0.23g、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル0.14g(0.00085モル)、ノルマルヘキサン177g(264mL)を仕込んだ。引き続き、均一に撹拌、混合した後、反応容器の上部空間、原料および溶媒中に存在している酸素を除去するために、溶液中に窒素ガスを吹き込んだ。次いで、窒素雰囲気下、55〜60℃に保持して1時間反応させた。その後、3−(アクリロイルオキシ)プロピオン酸(東亞合成株式会社の商品名:アロニックスM−5600)0.9gを反応系に添加し、3時間反応させた。反応終了後、生成したスラリーを90℃に加熱して、ノルマルヘキサンを留去し、中位粒子径が307μmで白色粒状のカルボキシル基含有水溶性重合体45gを得た。
【0045】
実施例4
攪拌機、温度計、窒素吹き込み管および冷却管を備えた500mL容の四つ口フラスコに、アクリル酸40g(0.56モル、38.1mL)、3−(アクリロイルオキシ)プロピオン酸(東亞合成株式会社の商品名:アロニックスM−5600)1.2g、ペンタエリスリトールアリルエーテル0.20g、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル0.01g(0.00006モル)、エチレンジクロライド330g(264mL)を仕込んだ。引き続き、均一に攪拌、混合した後、反応容器の上部空間、原料および溶媒中に存在している酸素を除去するために、溶液中に窒素ガスを吹き込んだ。次いで、窒素雰囲気下、70〜75℃に保持して4時間反応させた。反応終了後、生成した微粉状のスラリーを105℃に加熱して、エチレンジクロライドを留去し、白色微粉末のカルボキシル基含有水溶性重合体41gを得た。なお、得られたカルボキシル基含有水溶性重合体は、微粉末であり、目開き75μmの標準篩をすべて通過するため中位粒子径が測定できなかった。
【0046】
比較例
攪拌機、温度計、窒素吹き込み管および冷却管を備えた500mL容の四つ口フラスコに、アクリル酸40g(0.56モル、38.1mL)、ペンタエリスリトールアリルエーテル0.20g、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル0.16g(0.001モル)、ノルマルヘキサン177g(264mL)を仕込んだ。引き続き、均一に攪拌、混合した後、反応容器の上部空間、原料および溶媒中に存在している酸素を除去するために、溶液中に窒素ガスを吹き込んだ。次いで、窒素雰囲気下、60〜65℃に保持して4時間反応させた。反応終了後、生成したスラリーを90℃に加熱して、ノルマルヘキサンを留去し、白色微粉末のカルボキシル基含有水溶性重合体38gを得た。なお、得られたカルボキシル基含有水溶性重合体は、微粉末であり、目開き75μmの標準篩をすべて通過するため中位粒子径が測定できなかった。
【0047】
各実施例および比較例で得られたカルボキシル基含有水溶性重合体の物性として、その中和粘稠液の粘度および透明性、高濃度における分散性を以下のようにして評価した。
(1)中和粘稠液の粘度
1L容のガラス製ビーカーにイオン交換水493.4g、カルボキシル基含有水溶性重合体1.0gを仕込み、マグネティックスターラーで3時間攪拌し、カルボキシル基含有水溶性重合体を溶解させた。得られた溶液に6重量%水酸化ナトリウム水溶液5.6gを添加し、CTFA(ザ・コスメティック・トイレタリ・アンド・フラグランス・アソシエーション)に準拠したS字翼で毎分200回転の速度で1時間撹拌混合した。得られた0.2重量%中和粘稠液(pH7.2)の粘度を、BH型回転粘度計を用い、ローターNo.6、毎分20回転、温度25℃の条件下、60秒後の粘度を測定した。
【0048】
(2)中和粘稠液の透明性
1L容のガラス製ビーカーにイオン交換水483.3g、カルボキシル基含有水溶性重合体2.5gを仕込み、マグネティックスターラーで3時間攪拌し、カルボキシル基含有水溶性重合体を溶解させた。得られた溶液に6重量%水酸化ナトリウム水溶液14.2gを添加し、CTFAに準拠したS字翼で毎分200回転の速度で1時間撹拌混合して得られた0.5重量%中和粘稠液を1cm×1cmのセルに入れ、425nmの波長での透過率を測定した。
【0049】
(3)高濃度における分散性
2L容のガラス製ビーカー(直径14cm)にイオン交換水980gを入れ、ホモディスパー(TKホモディスパー f model:特殊機化学製)を毎分2000回転の速度に設定し、ビーカーの中心部よりやや偏心させた位置に設置した。カルボキシル基含有水溶性重合体20gをガラス製ビーカー内壁直近に10秒以内で投入し、カルボキシル基含有水溶性重合体が分散するまでの時間、ママコ生成の有無を目視評価した。
【0050】
【表1】

【0051】
表1より、実施例1〜4で得られたカルボキシル基含有水溶性重合体の中和粘稠液は、0.2重量%といった低濃度でも20000mPa・s以上の粘度を有すると共に、その透明性に優れていることがわかる。さらに、実施例1〜3で得られたカルボキシル基含有水溶性重合体は、高濃度における分散性が良いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により得られるカルボキシル基含有水溶性重合体から得られる中和粘稠液は、低濃度においても優れた増粘性を有するため、より少量で化粧品等の質感向上が可能となる。また、不活性溶媒中の反応で得られるカルボキシル基含有水溶性重合体は、粒状であるため、ママコの発生を防ぎ、高濃度においても水に容易に分散、溶解することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−不飽和カルボン酸と、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物とを、ラジカル重合開始剤の存在下に反応させるカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法において、下記一般式(1);
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を、nは1または2を示す。)
で表される(メタ)アクリル酸誘導体の存在下で反応させることを特徴とするカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸誘導体の使用量が、α,β−不飽和カルボン酸100重量部に対して、0.01〜10重量部である請求項1記載のカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸誘導体が、3−(アクリロイルオキシ)プロピオン酸である請求項1または2記載のカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法。
【請求項4】
不活性溶媒中で反応させる請求項1ないし3いずれか1項に記載のカルボキシル基含有水溶性重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の製造方法により得られるカルボキシル基含有水溶性重合体の0.2重量%中和粘稠液の粘度が20000〜50000mPa・sであるカルボキシル基含有水溶性重合体。
【請求項6】
請求項4に記載の製造方法により得られる中位粒子径が75〜500μmの請求項5記載のカルボキシル基含有水溶性重合体。

【公開番号】特開2006−36982(P2006−36982A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220600(P2004−220600)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】