説明

カルボニル化合物からオレフィンを製造する方法

【課題】
大量の副生成物が生成せず反応条件の厳密な管理を要しない製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
一般式I
【化10】


(式中、R1及びR2は、同一でも相違していてもよく、おのおの水素、置換若しくは非置換のアルキル、または置換若しくは非置換のアリールであり、R3は、水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアリール、または例えばOR4、NR5R6、SR7などで表される官能基であって、R4、R5、R6、R7は、アルキル基、アリール基、ハロゲンなどの一般的な置換基であり、EWGは、例えばCOOH、COOR8、CONR9R10、COSR11、CN、NO2、SOOR12、CHO、COR13などといった電子求引性官能基であって、R8、R9、R10、R11、R12及びR13は、アルキル基、アリール基などの一般的な置換基である)で表されるα、β−不飽和化合物を、一般式II
【化11】


(式中、R1及びR2は、おのおの上記に規定した置換基)で表される化合物と、一般式III
【化12】


(式中、R3及びEWGは、おのおの上記に規定した置換基)
で表されるカルボン酸または同じ該カルボン酸の塩に酸を加えてin situで生成した該カルボン酸とをアミンの存在下にて反応させることで得る。
穏やかな反応条件下にて、高い(E)立体選択性を有した不飽和エステルを得ることができる。前記反応は、室温またはそれ以下の温度にて、不活性ガス、防湿、加熱などのような特別な条件も要することなく、実施することができる。副生成物として、二酸化炭素と水だけが生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボニル化合物からオレフィンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式2に示すリン化合物と一般式1に示すカルボニル化合物との反応によるオレフィン化は、不飽和カルボニル化合物及びそれに類似した化合物を製造する公知の合成方法である(化学反応式(1)、EWGは電子求引基)。
【0003】
【化4】

【0004】
一般的に使用される合成方法には、ウィッティヒ反応(Wittig reaction)(PR3=PPh3)やヘルナー・ヴォズワース・エモンズ反応(Horner-Wadsworth-Emmons)(PR3=P(OM)(OEt)2)などがある。前記2つの反応は、実験室内にて比較的少量を調製したり、高収率や高い選択性が必要な商業目的に使用される。しかし、前記反応では、化学量論的な量で副生成物が生じてしまうという問題がある。目的とする生成物とともに、ウィッティヒ反応では1当量のトリフェニルホスフィンオキサイド(Ph3PO)が生じ、ヘルナー・ヴォズワース・エモンズ反応ではホスフェイト(PO(OEt)2OM)が生じる。この2つの反応で生じた副生成物は、目的とする生成物から除去して廃棄するかまたは再加工しなければならないことから、上記反応を工業的規模で使用する場合には相当な問題となる。さらに、上記反応を工業的規模で使用する場合には、ヘルナー・ヴォズワース・エモンズ反応では、化学量論的な量の塩基やn-BuLi、LDA、NaHといった空気及び湿気感受性の化合物をも使用しなければならない問題がある。
【0005】
他に、α、β−不飽和エステル、カルボン酸、まれにケトンを合成する方法には、マロン酸モノエステルまたはこれに類似した化合物をカルボニル化合物と反応させるもの(ガラト・ドエブナー・クノエベナゲル反応(Galat-Doebner-Knoevenagel))があるが、副生成物として水と二酸化炭素が生じる(化学反応式(2)参照)。
【0006】
【化5】

【0007】
改良クノエベナゲル反応といわれる上記反応は、一般的には、塩基性触媒であるピペリジンの存在下にて溶媒としてピリジンを用い、50℃以上の高温にて行う。
【0008】
立体選択性は、一般的にウィッティヒ反応やヘルナー・ヴォズワース・エモンズ反応よりも低く、エノール化可能なカルボニル化合物を使用すると、希望するα、β−不飽和エステルまたは酸と不要なα、β−不飽和エステルまたは酸との両方(さらにこれらの混合物)が単離される。例えば、還流下、相違した有機溶媒中であって触媒量のピペリジンアセテート存在下におけるヘキサナールとマロン酸モノエステルとの反応では、主生成物はα、β−不飽和エステルである。より低いE/Z選択性及びα、β対β、γ選択性により、さらには高温という反応条件高温により、ガラト・ドエブナー・クノエベナゲル反応は、ヘルナー・ヴォズワース・エモンズ反応よりも使用頻度は低い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、α、β−不飽和カルボニル化合物とこれに関する化合物の製造方法であって、従来技術の問題点がない、特に大量の副生成物が生成せず反応条件の厳密な管理を要しない製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、一般式I
【0011】
【化6】

【0012】
(式中、R1及びR2は、同一でも相違していてもよく、おのおの水素、置換若しくは非置換のアルキル、または置換若しくは非置換のアリールであり、R3は、水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアリール、または例えばOR4、NR5R6、SR7などで表される官能基であって、R4、R5、R6、R7は、アルキル基、アリール基、ハロゲンなどの一般的な置換基であり、EWGは、例えばCOOH、COOR8、CONR9R10、COSR11、CN、NO2、SOOR12、CHO、COR13などといった電子求引性官能基であって、R8、R9、R10、R11、R12及びR13は、アルキル基、アリール基などの一般的な置換基である)で表されるα、β−不飽和化合物を、一般式II
【0013】
【化7】

【0014】
(式中、R1及びR2は、おのおの上記に規定した置換基)で表される化合物と、一般式III
【0015】
【化8】

【0016】
(式中、R3及びEWGは、おのおの上記に規定した置換基)で表されるカルボン酸またはこのカルボン酸の塩に酸を加えてin situで生成させたカルボン酸とをアミンの存在下にて反応させることで得る、α、β−不飽和化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
例えば、触媒であるアミン存在下にて、アルデヒドとマロン酸モノエステルといったカルボン酸とを反応させると、穏やかな反応条件下にて高い(E)立体選択性を有した不飽和エステルを得ることができる。本発明に係る製造方法は触媒反応であり、室温またはそれ以下の温度にて、不活性ガス、防湿、加熱などの特別な条件を要することもなく実施できる。副生成物として二酸化炭素と水だけが生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
「アルキル」とは、直鎖状、分岐鎖状または環状の炭化水素基であり、炭素原子数は一般的には1〜30個であり、1〜24個が好ましく、1〜6個が特に好ましい。例として、メチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、t‐ブチル、オクチル、デシルなどがあり、さらには、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのシクロアルキル基も挙げることができる。前記炭化水素基の炭素原子数は1〜18個でも好ましく、1〜12個でも特に好ましい。
【0019】
本発明における「アリール基」とは、5〜30個の炭素原子を有し、環内にN、O、S、P、Siといったヘテロ原子を含有してもよい芳香族環系である。前記芳香環は単環、または例えば縮合芳香族環系または単結合若しくは多重結合を介して相互に結合された環系である多環である。芳香環の例として、フェニル、ナフチル、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルアミン、ベンゾフェノンなどがある。置換されたアリール基は、1または2以上の置換基を有している。ヘテロアルキル基の例として、アルコキシアリール、アルキルスルホニル‐置換アルキル、N‐アルキル化アミノアルキルなどがある。ヘテロアリル置換基の例として、ピロリル、ピロリジニル、ピリジニル、キノリニル、インドリル、ピリミジニル、イミダゾリル、1,2,4−トリアゾリル、テトラゾリルなどがある。ヘテロ原子含有脂環式の置換基の例として、ピロリジノ、モルホリノ、ピペラジノ、ピペリジノなどがある。
【0020】
上記基が有する置換基には、OH、F、Cl、Br、I、CN、NO2、NO、SO2、SO3、アミノ、−COOH、−COO(C1‐C6アルキル)、モノ‐及びジ‐C1‐C24アルキル‐置換アミノ、モノ‐及びジ‐(C5‐C20アリール)‐置換アミノ、例えばC1‐C6アルキル、アリール、フェニルで置換されたイミノなどが含まれる。特に、環状ラジカルは、置換基としてC1‐C6アルキル基も有していてもよい。
【0021】
本発明は、触媒であるアミンの存在下にて行われる。使用するアミンは、第1級、第2級または第3級アミンであり、DBU、DBN、DABCO、ピリジン、ピペリジン、イミダゾール及びこれらの誘導体といった環状アミン、アニリン及びその誘導体、アミンの混合物などが好ましい。4−ジメチルアミノピリジンといったジメチルアミノピリジン類は特に適している。前記アミンは触媒として作用し、本発明では、前記一般式IIまたは一般式IIIの量を基準にして、0.1〜15mol%が好ましく、5〜10mol%が特に好ましい。
【0022】
本発明に係る製造方法は穏やかな反応条件で行うことができる利点がある。反応温度は0〜30℃であり、10〜25℃が好ましい。不活性ガス雰囲気下や防湿下にて反応させる必要はない。
【0023】
この製造方法は有機溶媒中で行われるのが好ましい。有機溶媒には反応に悪影響を与えないものが使用され、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル、トルエン、キシレン、エチルアセテート、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、1,4−ジオキサン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジメチルホルムアミド、スルホラン、1,2−ジクロロエタンなどがある。
【実施例1】
【0024】
実施例
モノエステルとの反応(一般的方法)
5mlのガラス容器内にて反応を行った。4−ジメチルアミノピリジン(24.4mg、0.2mmol)を5mlのDMFに溶解させ、これにアルデヒド(2mmol)とモノエステル(3mmol)を加えた。短時間経過後、二酸化炭素が発生した。5〜60時間後に反応が完了すると、反応混合物をジエチルエーテルで抽出し、有機相をNH4Cl溶液、水、NaHCO3溶液、そして最後に再度水で洗浄した。この有機相をNa2SO4で乾燥させ、Na2SO4をフィルターで除去し、エバポレーターにて濃縮した。ほとんどの場合、上記処理後の粗生成物には95%以上の純度があった。全化合物を1H NMR、13C NMR及びHR−MSを用いて特定した。
【0025】
芳香族アルデヒドまたは例えばピバルアルデヒドといった立体障害のアルデヒドの場合には、ピペリジン(17mg、0.2mmol)を添加することで十分反応時間を短縮できる。このために、全反応混合物を一時的に冷却(約10℃)し、ピペリジンを滴下して添加した。次に、室温にて継続的に攪拌した。
【実施例2】
【0026】
2−ヘプテン酸エチル
4−ジメチルアミノピリジン(24.4mg、0.2mmol)を5mlのDMFに溶解させ、これにペンタナール(172.3mg、2mmol)とマロン酸モノエチル(396.4mg、3mmol)を加え、この混合物を10℃にて60時間攪拌した。前記水処理(aqueous workup)後、無色の油分である上記エステルが収率91%にて得られた(284mg、1.82mmol、E/Z=95:5)。
【実施例3】
【0027】
3−シクロヘキシル−2−プロペン酸エチル
4−ジメチルアミノピリジン(24.4mg、0.2mmol)を5mlのDMFに溶解させ、これにシクロヘキサンカルボキシアルデヒド(224.3mg、2mmol)とマロン酸モノエチル(396.4mg、3mmol)を加え、この混合物を室温にて48時間攪拌した。前記水処理後、無色の油分である上記エステルが収率92%にて得られた(335.4mg、1.84mmol、E/Z=98:2)。
【実施例4】
【0028】
4−メチル−2−ペンテン酸エチル
4−ジメチルアミノピリジン(24.4mg、0.2mmol)を5mlのDMFに溶解させ、これにイソブチルアルデヒド(144.2mg、2mmol)とマロン酸モノエチル(396.4mg、3mmol)を加え、この混合物を室温にて16時間攪拌した。前記水処理後、無色の油分である上記エステルが収率96%にて得られた(273.2mg、1.92mmol、E/Z=99:1)。
【実施例5】
【0029】
4,4−ジメチル−2−ペンテン酸エチル
4−ジメチルアミノピリジン(24.4mg、0.2mmol)を5mlのDMFに溶解させ、これにピバルアルデヒド(172.1mg、2mmol)とマロン酸モノエチル(396.4mg、3mmol)を加え、この混合物を室温にて60時間攪拌した。前記水処理後、無色の油分である上記エステルが収率92%にて得られた(286.4mg、1.83mmol、E/Z=99:1)。
【実施例6】
【0030】
桂皮酸ベンジル
4−ジメチルアミノピリジン(24.4mg、0.2mmol)を5mlのDMFに溶解させ、これにベンズアルデヒド(210mg、2mmol)とマロン酸モノベンジル(582mg、3mmol)を加え、この混合物を室温にて5時間攪拌した。前記水処理後、黄色がかった油分である桂皮酸ベンジルが収率96%にて得られた(452mg、1.9mmol、E/Z=99:1)。
【実施例7】
【0031】
p−メトキシフェニル−2−プロペン酸エチル
4−ジメチルアミノピリジン(24.4mg、0.2mmol)を5mlのDMFに溶解させ、これにアニスアルデヒド(272.3mg、2mmol)とマロン酸モノエチル(396.4mg、3mmol)を加えた。この混合物を10℃に冷却し、ピペリジン(17mg、0.2mmol)をゆっくり滴下して添加した。ピペリジンを加えた後、室温にて24時間攪拌した。前記水処理後、黄色の油分である上記エステルが定量的収率にて得られた(412.5mg、2mmol、E/Z=99:1)。
【実施例8】
【0032】
酸を添加してマロン酸モノエチルのカリウム塩との反応
A)塩酸の添加
4−ジメチルアミノピリジン(24.4mg、0.2mmol)を5mlのDMFに溶解させ、これにマロン酸モノエチルのカリウム塩(510.6mg、3mmol)と、その後すぐに塩酸のジエチルエーテル溶液(1N、3ml)を加えた。次にアニスアルデヒド(272.3mg、2mmol)を加えた。この混合物を10℃に冷却し、ピペリジン(17mg、0.2mmol)をゆっくり滴下して添加した。ピペリジンを加えた後、室温にて24時間攪拌した。前記水処理後、黄色の油分である上記エステルが収率96%にて得られた(409.3mg、1.98mmol、E/Z=99:1)。
【実施例9】
【0033】
B)酢酸の添加
4−ジメチルアミノピリジン(24.4mg、0.2mmol)を5mlのDMFに溶解させ、これにマロン酸モノエチルのカリウム塩(510.6mg、3mmol)と、その後すぐに酢酸(180.2mg、3mmol)を加えた。次にアニスアルデヒド(272.3mg、2mmol)を加えた。この混合物を10℃に冷却し、ピペリジン(17mg、0.2mmol)をゆっくり滴下して添加した。ピペリジンを加えた後、室温にて24時間攪拌した。前記水処理後、黄色の油分である上記エステルが定量的収率にて得られた(412.5mg、2mmol、E/Z=99:1)。
【0034】
【化9】

【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I
【化1】

(式中、R1及びR2は、同一でも相違していてもよく、おのおの水素、置換若しくは非置換のアルキル、または置換若しくは非置換のアリールであり、R3は、水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアリール、またはOR4、NR5R6、SR7などで表される官能基であって、R4、R5、R6、R7は、アルキル基、アリール基、ハロゲンなどの一般的な置換基であり、EWGは、COOH、COOR8、CONR9R10、COSR11、CN、NO2、SOOR12、CHO、COR13などの電子求引性官能基であって、R8、R9、R10、R11、R12及びR13は、アルキル基、アリール基などの一般的な置換基である)で表されるα、β−不飽和化合物を、
一般式II
【化2】

(式中、R1及びR2は、おのおの上記に規定した置換基)で表される化合物と
一般式III
【化3】

(式中、R3及びEWGは、おのおの上記に規定した置換基)で表されるカルボン酸誘導体とをアミンの存在下にて反応させて得る、α、β−不飽和化合物の製造方法。
【請求項2】
前記アミンが、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミン(特にピリジン、ピペリジン及びこれらの誘導体である環状アミン)からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アミンが、4−ジメチル−アミノピリジンであることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応が、0℃〜30℃の温度で行われることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応が、有機溶媒中で行われることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記一般式IIIのカルボン酸誘導体が、酸を添加することにより、in situにてその塩から得られることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の製造方法。

【公表番号】特表2008−540464(P2008−540464A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510398(P2008−510398)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【国際出願番号】PCT/DE2006/000796
【国際公開番号】WO2006/119745
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(591091515)シュトゥディエンゲゼルシャフト・コーレ・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (18)
【氏名又は名称原語表記】STUDIENGESELLSCHAFT KOHLE MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
【Fターム(参考)】