カルボニル基の選択的還元方法
【課題】アミド基を含む複数のカルボニル基が共存する1種類又は2種類以上の化合物の還元反応において、オルガノヒドロシランを還元剤とし、ルテニウム錯体を触媒とすることにより、アミド基のみを選択的に還元する方法の提供。
【解決手段】オルガノヒドロシランを還元剤としてルテニウム錯体を触媒とすることにより、オルガノヒドロシランのSi−H結合を活性化し、還元反応を行う。
【効果】容易に入手可能であり、取り扱い性が良く、保存安定性の高いオルガノヒドロシランを還元剤として使用できる。また、通常では反応性の低いアミド基を、非常に穏和な条件下で還元反応を行うことが可能となる。
【解決手段】オルガノヒドロシランを還元剤としてルテニウム錯体を触媒とすることにより、オルガノヒドロシランのSi−H結合を活性化し、還元反応を行う。
【効果】容易に入手可能であり、取り扱い性が良く、保存安定性の高いオルガノヒドロシランを還元剤として使用できる。また、通常では反応性の低いアミド基を、非常に穏和な条件下で還元反応を行うことが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボニル基の選択的還元反応に関し、詳細には、アミド基を含む異種のカルボニル基を有する化合物の還元反応において、アミド基を有する化合物のみを還元してアミン化合物を得る方法、乃至は1分子中にアミド基を含む複数のカルボニル基を有する化合物の還元反応において、アミド基のみが選択的に還元された化合物を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボニル基の還元反応には、一般的に典型金属の水素化物が用いられる。カルボニル基の種類に対するこれら還元剤の反応性は、通常アルデヒド基への反応速度が高く、次いで、ケトン基、エステル基、カルボン酸基、アミド基の順である。例えば、最も代表的で汎用に用いられる還元剤であるLiAlH4では、複数のカルボニル基が存在する反応において、ケトン基やエステル基を還元することなく、反応性の低いアミド基のみを選択的に還元することはできない(非特許文献1)。
【0003】
エステル基とアミド基が存在する場合に、反応性の低いアミド基のみを選択的に還元する方法としては、アミド基をチオアミド基に変換し、更にチオアミン基に変換した後、NaBH4又はNaBH3CNで還元する方法が知られている(非特許文献2)。しかしながら、この方法は、有毒で悪臭を放つイオウ化合物を用いる上、多段階の反応を経由しなければならず、好適な方法ではない。
【0004】
カルボニル基の還元反応において、選択性が得られる還元剤の例としては、ジボラン及びボラン誘導体が知られている(非特許文献1)。ジボランはケトン基、アルデヒド基、カルボン酸塩基を還元できるが、エステル基は還元できないという反応性を有している。この反応性を利用することにより、分子内にエステル基とアミド基の両方を有する化合物で、アミド基を選択的に還元することができる(非特許文献3)。
【0005】
【化1】
【0006】
しかしながら、ジボランは熱に対して不安定であり、更に発火性であるため、取り扱いに難を有する。ジボランをTHFやジメチルスルフィドで安定化した溶液状の試薬が市販されており、これらを用いれば取り扱い性は良くなるものの、上記の反応で用いられるボランとTHFの錯体は室温で数日以内に分解して活性を失うために、還元剤を長期保存できない。ジメチルスルフィド錯体は、それに較べると保存安定性は高いが、有毒であり、悪臭を放つイオウ化合物を用いている点において取り扱い性は良くない。また、保存安定性が高いが、反応性は低いため収率が低いと言う欠点を有している。以下のように収率を上げる改良方法も報告されているが、3段階の反応を必要とするため、目的物の収率はあがるものの、有効な解決手段とは言えない(非特許文献4,5)。
【0007】
【化2】
【0008】
比較的取り扱い性の良いNaBH4を用いた場合は一般的にアミド基は還元できないが、カルボン酸を存在させて、ケトン基を還元させずにアミド基のみの還元を達成している例が報告されている(非特許文献6)。
【0009】
【化3】
【0010】
しかしながら、この反応においては強酸であるトリフルオロ酢酸の取り扱いに注意を要すること、還元可能なアミド基の種類もトリフルオロ酢酸アミド基に限定されており、汎用性の高い還元反応とはいえない。
【0011】
NaBH4を用いる他の方法としては、ピリジン中で加熱する方法、ZrCl4,TiCl4等の強いルイス酸を用いる方法があるが、前者は高温を必要とし、後者は強酸を必要とする点で操作性が悪い。また、リチウムジイソプロピルアミノボロハイドライドや Bu4NBH4を用いる方法が報告されているが、これらの反応剤は入手容易とはいえない。また、これらの例では、エステルやケトンが存在した場合の還元挙動が明らかにされていない。
【0012】
還元剤として、上記の典型金属水素化物を用いる方法の他に、ヒドロシランを用いる方法も知られている。この還元剤の利点は、ヒドロシラン自体が安定な化合物であり、発火性もなく、空気雰囲気下で長期保存可能なことである。
【0013】
しかしながら、化合物として安定であることは、還元剤としての反応性が低いことを意味している。ヒドロシラン化合物のSi−H結合を活性化して還元反応性を高めるためには触媒が必要とされ、アルデヒド基やケトン基の還元反応にRh錯体が使用された報告がある。
【0014】
アミド基の還元反応例としては、還元剤としてジフェニルシランを用いる方法が知られている(非特許文献7,8,9)。
【0015】
ジフェニルシランよりも工業的に容易に入手可能なトリアルキルシランを用いると、還元反応に高温条件が必要とされる(非特許文献10)。
【0016】
また、還元剤としてトリアルキルシランを用い、ルテニウム錯体を触媒とすることによって、室温条件でアミド基を還元する方法も報告されている(非特許文献11,12、特許文献1)。
【0017】
しかし、これまでに報告されている典型金属水素化物を還元剤として使用する方法、遷移金属錯体触媒とヒドロシランを使用する方法の何れにおいても、複数のカルボニル基が共存する還元反応において、反応性の低いアミド基のみを選択的に還元して効率良く目的物を得る方法は未だ知られていない。
【0018】
【非特許文献1】F.Carey,R.J.Sundberg,Advanced Organic Chemistry,2nd Ed.1981,Prenum,New York;pp.203.
【非特許文献2】実験化学講座(第4版)26巻、213ページ(丸善)
【非特許文献3】H.C.Brown,S.Krishnamurthy,J.Am.Chem.Soc.1972,94,7159
【非特許文献4】N.Langlois and A.Rojas,Tetrahedron Lett.,1993,34,2477.
【非特許文献5】C.Pedregal,J.Ezquerra,A.Escribano,M.C.Carreno,J.L.Garcia Ruano,Tetrahedron Lett.1994,35,2053
【非特許文献6】J.Seyden−Penne,Reductions by the Alumino− and Borohydrides in Organic Synthesis、2nd Ed.,Wiley−VCH,1997,pp.105.
【非特許文献7】R.Kuwano,M.Takahashi,and Y.Ito,Tetrahedron Lett.,39,1017(1998)
【非特許文献8】T.Ohta,M.Kamiya,K.Kusui,T.Michibata,M.Nobutomo,and I.Furukawa,Tetrahedron Lett.,40,6963(1999)
【非特許文献9】T.Ohta,T.Michibata,K.Yamada,R.Omori,and I.Furukawa,Chem.Commun.,2003,1192
【非特許文献10】M.Igarashi and T.Fuchikami,Tetrahedron Lett.,42,1945(2001)
【非特許文献11】K.Matsubara and H.Nagashima,J.Synth.Org.Chem.Jpn.,63,122(2005)
【非特許文献12】K.Matsubara,T.Iura,T.Maki,and H.Nagashima,J.Org.Chem.,67,4985(2002)
【特許文献1】特開2003−261578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、複数のカルボニル基が存在する還元反応において、取り扱い性が容易で、保存安定性が良く、反応性が高い還元剤を用い、反応性の低いアミド基のみを選択的に還元して容易に、かつ収率良く目的物を得ることができるカルボニル基の選択的還元方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、アミド基を含む複数のカルボニル基が共存する1種類又は2種類以上の化合物の還元反応において、SiH基を有するオルガノヒドロシランを還元剤として用い、必要によっては更に有機アミン化合物を存在させ、ルテニウム錯体を触媒とすることによって、アミド基のみが選択的に還元された生成物を得ることができることを知見し、本発明をなすに至った。
【0021】
従って、本発明は、下記の還元方法を提供する。
〔請求項1〕
アミド基を含む複数のカルボニル基が共存する1種類又は2種類以上の化合物の還元反応において、オルガノヒドロシランを還元剤とし、ルテニウム錯体を触媒とすることにより、アミド基のみを選択的に還元する方法。
〔請求項2〕
1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物を還元反応に供することを特徴とする請求項1記載の還元方法。
〔請求項3〕
アミド基を有する化合物と、アミド基以外のカルボニル基を有する化合物からなる混合物から、アミド基のみが選択的に還元された生成物を得ることを特徴とする請求項1記載の還元方法。
〔請求項4〕
有機アミン化合物の存在下に還元反応を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の還元方法。
〔請求項5〕
有機アミン化合物が、一般式R23N(但し、R2は互いに同一又は異種の炭素数1〜10の1価炭化水素基を示す)で表される3級アミンであることを特徴とする請求項4記載の還元方法。
〔請求項6〕
還元剤が、一般式R13Si−H(但し、R1は互いに同一又は異種の炭素数1〜30の非置換もしくは置換1価炭化水素基、又はアルコキシ基を示す)で表されるトリオルガノシランであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の還元方法。
〔請求項7〕
ルテニウム錯体触媒が、下記式(A)、(B)又はRu3(CO)12で示されるルテニウムカルボニル錯体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の還元方法。
【化4】
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法は、容易に入手可能であり、取り扱い性が良く、保存安定性の高いオルガノヒドロシランを還元剤として使用できる。また、ルテニウム錯体を触媒とすることにより、オルガノヒドロシランのSi−H結合を活性化し、高い還元反応力を得ることによって、通常では反応性の低いアミド基を、非常に穏和な条件下で還元反応を行うことが可能となる。アミド基が還元されるとアミノ基となるが、還元反応によって生成したアミノ基は他のカルボニル基への還元反応を抑制する。その結果、カルボニル基の中でアミド基のみを選択的に還元することが可能となる。本発明の方法では、アミノ基が存在してもアミド基の還元反応は抑制されない。そのため、還元反応の選択性が低いときには、有機アミンの存在下で還元反応を行うことにより、アミド基のみを選択性良く還元することができる。アミド基を有する化合物と、アミド基以外のカルボニル基を有する化合物からなる混合物からは、アミド基のみが還元された目的物が得られ、アミド基以外のカルボニル基を有する化合物は、還元されずに回収できる。また、1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基が存在する化合物を還元することにより、アミド基のみが還元された目的物を得ることができ、従って本発明の還元方法は、汎用性の高い選択的還元方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る還元方法は、アミド基(−CONR2基)を含み、しかもアミド基以外のカルボニル基を有する複数のカルボニル基が共存する1種又は2種以上の化合物、つまり1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物、又はアミド基を有する化合物とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物からなる混合物を出発原料とし、この出発原料のアミド基のみを選択的に還元して、−CONR2基を−CH2NR2基とするものである。なお、Rは水素原子又は1価炭化水素基(好ましくは炭素数1〜30)である(以下同じ)。
【0024】
アミド基以外のカルボニル基としては、アルデヒド基(−CHO)、ケトン基(−CO−)、エステル基(−COOR)、カルボン酸基(−COOH)、カルボン酸塩基(−COOM;MはNa、Kなど)であり、これら官能基を有する化合物であれば、構造が直鎖状、分岐状、環状の何れでもよいし、置換基の種類も任意に選択できる。
【0025】
1分子中に複数の官能基を有する化合物を還元するときは、上記のアミド基と、アミド基以外のカルボニル基が同一分子中にあれば良い。
【0026】
1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物としては、具体的には、レブリン酸のアミド(ケトンとアミドが共存)、ピロリジンカルボン酸、及びその塩、エステル(カルボン酸とアミドが共存)のほか、N,N−ジメチルオクタンアミドメチルエステル、1−アセチル−4−ピペリドンなどが挙げられる。また、アミドの窒素上の置換基は、メチル、エチル、プロピル、フェニル、シクロヘキシルのような鎖、環状のものの組み合わせ、又は窒素上の2つの置換基が環状になっているピロリジン、モルホリンなど多様である。
【0027】
また、アミド基を有する化合物の具体例は、安息香酸アミド、酢酸アミド、シクロヘキサン酸アミド、アジピン酸ジアミド、ナイロンなどが挙げられる。アミドの窒素上の置換基は、メチル、エチル、プロピル、フェニル、シクロヘキシルのような鎖、環状のものの組み合わせ、又は窒素上の2つの置換基が環状になっているピロリジン、モルホリンなど多様である。
【0028】
2種類以上の化合物からなる混合物を還元するときは、上記のアミド基を有する化合物と、アミド基以外のカルボニル基を有する化合物であればよい。これらアミド基を有する化合物とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物との混合割合は、特に制限されるものではないが、質量比として前者:後者=1:100〜100:1、特に1:50〜50:1であることが好ましい。
【0029】
本発明においては、前記出発原料に対し、オルガノヒドロシランを還元剤とし、必要により有機アミン化合物の存在下にルテニウム錯体を触媒として還元反応を行うものである。
【0030】
この場合、本発明の方法で使用するオルガノヒドロシランは、一般式R1aSi(H)4-aで示すことができる。ここで、R1は、同一であっても互いに異なっていても良い、炭素数1〜30、より好ましくは1〜10の非置換もしくは置換1価炭化水素基、又はアルコキシ基であり、aは1〜3の整数である。
【0031】
R1の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;トリフロロプロピル基、ノナフロロヘキシル基、ヘプタデシルフロロデシル基等のフッ素置換アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基などを挙げることができる。特に好ましくは、上記式においてa=3のR13Si−Hで示されるトリオルガノシランであり、R1がメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基である。
【0032】
オルガノヒドロシランは、アミド基を有する化合物1モルに対して、2.0〜100.0当量、好ましくは2.0〜50.0当量、特に好ましくは2.0〜10.0当量となる範囲で使用される。SiH結合の量が前記下限値より少ないと未反応アミド化合物が残留する場合があり、前記上限値を超えても、使用量に比例する収率の向上は期待できない。
【0033】
本発明の方法では、まずアミド基が還元されてアミノ基が生成し、このアミノ基が触媒活性を抑えることになるため、アミド基以外のカルボニル基に対する還元力が失われ、還元反応の選択性が得られるものである。また、本触媒はアミノ基が存在してもアミド基に対しては高い還元反応力を維持できる。そのため、還元反応の初期段階でアミド基が還元されてアミノ基を生成すると同時に、他のカルボニル基が還元されると、少量の副生成物を生じることになる。このような時には、有機アミン化合物の存在化で還元反応を行うことにより、選択性を高くすることができる。
【0034】
本発明の方法で使用する有機アミン化合物は、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミンなどの1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミンなどの2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミンなどの3級アミン、ピペリジン、ピリジン、モルホリンなどの環状アミンである。
【0035】
好ましくは、一般式R23Nで示される3級アミンである。ここで、R2は、同一であっても、互いに異なっていても良い、炭素数1〜10のアルキル基である。
【0036】
R2の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基である。
【0037】
有機アミン化合物の使用量は、アミド基及びアミド基以外のカルボニル基を有する化合物1モルに対して、0.01〜10.0当量、好ましくは、0.05〜5.0当量、特に好ましくは、0.1〜2.0当量となる範囲で使用される。この際の有機アミン化合物は、別途添加でもよく、反応中でアミドの還元により生成してもよい。有機アミン化合物の量が前記下限値より少ないと、還元反応の選択性が低くなる場合があり、前記上限値を超えても、還元反応の選択性向上は期待できない。
【0038】
本発明の方法で使用するルテニウム錯体触媒は、ルテニウムの核数が1〜6、好ましくは2〜3の多核錯体であり、配位子が、カルボニル基、芳香族炭化水素、不飽和炭化水素、ヘテロ原子含有化合物から選択されるものを使用することができる。好ましくは、下記式(A)で示されるアセナフチレンが配位した3核ルテニウムカルボニル錯体(以下、AceRu3(CO)7と示す)、下記式(B)で示されるアズレンが配位した3核ルテニウムカルボニル錯体、又はRu3(CO)12である。これらのルテニウム錯体触媒を用いることにより、極めて穏和な条件下で還元反応を行うことができる。
【0039】
【化5】
【0040】
本発明の方法において、ルテニウム触媒はアミド基を有する化合物1モルに対して、0.0001〜0.1モル(0.01〜10モル%)の範囲で使用することが好ましい。触媒が前記下限値より少ないと反応時間が長くなりすぎ、一方、上限値を超えても反応時間が更に短縮されることはない。好ましくは、0.001〜0.05モルの範囲である。
【0041】
還元反応は、アミド基を有する化合物と、アミド基以外のカルボニル基を有する化合物からなる混合物で行っても良いし、1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物を用いても良いが、この場合、反応溶媒は、還元反応される化合物に応じて適宜選択することが好ましい。典型的には、ジオキサン、ジメトキシエタン、テトラヒドロピラン、トルエン、エーテルなどが使用される。また、反応温度は、−10〜+70℃が好ましく、反応時間は0.1〜10時間であることが好ましい。
【0042】
本発明の還元方法は、医薬品原料、化成品原料、溶媒、触媒、配位子などに幅広く利用される有用な化合物であるアミン化合物の合成方法として有効である。
【実施例】
【0043】
以下、参考例及び実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、下記例で、Meはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基、Bnはベンジル基を示す。
【0044】
[参考例]
(I)ケトン基、アルデヒド基、アミド基、エステル基を有する化合物単独の還元反応性
各種カルボニル基含有化合物を用い、ルテニウム触媒存在下、同条件でPhMe2SiHによる還元反応を行った。
(1−1)封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気し、C6D6(0.4mL)を加えた。別の容器にN,N−ジメチルデカンアミド(43mg,0.2mmol)、PhMe2SiH(94μL,0.6mmol)、内標としてアニソール(22mg,0.2mmol)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液を封管NMRチューブに添加し、封管した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図1に示す(図中アミドと記載)。
【0045】
(1−2)封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気し、C6D6(0.4mL)を加えた。別の容器にデカリン酸メチル(42μL,0.2mmol)、PhMe2SiH(94μL,0.6mmol)、内標としてアニソール(22mg,0.2mmol)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液を封管NMRチューブに添加し、封管した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図1に示す(図中エステルと記載)。
【0046】
(1−3)封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気し、C6D6(0.4mL)を加えた。別の容器に2−ウンデカノン(45μL,0.2mmol)、PhMe2SiH(94μL,0.3mmol)、内標としてアニソール(22mg,0.2mmol)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液を封管NMRチューブに添加し、封管した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図1に示す(図中ケトン1,2と記載)。
【0047】
(1−4)封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気した。別の容器に2−ウンデカノン(45μL,0.2mmol)、PhMe2SiH(47μL,0.3mmol)、内標としてアニソール(22mg,0.2mmol)、重溶媒としてC6D6(0.4mL)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液をアルゴン気流下で錯体の入ったNMRチューブに添加した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図1に示す(図中ケトン3と記載)。
【0048】
(1−5)封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気し、C6D6(0.4mL)を加えた。別の容器にデカナール(38μL,0.2mmol)、PhMe2SiH(94μL,0.6mmol)、内標としてアニソール(22mg,0.2mmol)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液を封管NMRチューブに添加し、封管した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図1に示す(図中アルデヒドと記載)。
【0049】
上記結果より、カルボニル基含有化合物の種類によって反応速度の違いはあるが、いずれも室温条件で還元反応がすみやかに進行する。
【0050】
(II)アミド基含有化合物と、アミド基以外のカルボニル基含有化合物が共存する系での還元反応選択性
[実施例1]
封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気し、C6D6(0.4mL)を加えた。別の容器にデカン酸アミド(28mg,0.1mmol、図2中アミドと記載)、デカリン酸メチル(18.8mg,0.1mmol、図2中エステルと記載)、PhMe2SiH(47μL,0.3mmol)、内標としてアニソール(11mg,0.1mmol)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液を封管NMRチューブに添加し、封管した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図2に示す。
【0051】
[実施例2]
封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気し、C6D6(0.4mL)を加えた。別の容器にデカン酸アミド(25μL,0.1mmol、図3中アミドと記載)、2−ウンデカノン(23μL,0.1mmol、図3中ケトンと記載)、PhMe2SiH(47μL,0.3mmol)、内標としてアニソール(11mg,0.1mmol)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液を封管NMRチューブに添加し、封管した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図3に示す。
以上のように、アミド基を含有する化合物を選択的に還元することが可能であった。
【0052】
(III)1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物での還元反応選択性
[実施例3]N,N−ジメチルオクタンアミドメチルエステルの還元
30mL二口フラスコに、磁気撹拌子、AceRu3(CO)7(6.51mg,0.01mmol)を加えて、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した。1,4−ジオキサン(0.18mL)をマイクロシリンジで加えて錯体を溶解した。この錯体溶液に、Me2PhSiH(0.47mL,3.0mmol)を加えて30分撹拌すると、溶液の色が濃橙色からうすい橙色へと変化した。次に、N,N−ジメチルオクタンアミドメチルエステル(233mg,1.08mmol)、内標としてアニソール(96.5mg,0.89mmol)を加え、室温で30分撹拌した。メタノールで反応を停止した後に、溶媒を留去した。アルミナカラムを用いて精製した。単離収率は87%であった。
【0053】
【化6】
得られたアミン−エステルは、1H及び13Cの核磁気共鳴スペクトルにより、その主骨格の構造を確認した。
【0054】
1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 1.20-1.37 (br, 6H, -(CH2)3-), 1.44 (m, 2H, -CH2-CH2N), 1.61 (m, 2H, -CH2-CH2C(O)), 2.20 (s, 6H, -N(CH3)2), 2.21 (t, J = 6.4 Hz, 2H, -CH2-C(O)), 2.29 (t, J = 7.6 Hz, 2H, -CH2-N(CH3)2 ), 3.66 (s, 3H, OCH3).
13C NMR (67.8 MHz, CDCl3) δ 24.6 (CH2), 27.0 (CH2), 27.4 (CH2), 28.8 (CH2), 28.9 (CH2), 33.7 (-CH2-C(O)), 45.2 (N(CH3)2), 51.1 (OCH3), 59.6 (-CH2-NMe2), 173.8 (C=O).
IR ν 2933, 2857, 2813, 2762, 1744, 1462, 1361, 1171, 1099, 1042, 844 cm-1.
なお、図4に1H NMRスペクトル、図5に13C NMRスペクトルを示す。
【0055】
[実施例4]N,N−ベンジルメチルオクタンアミドメチルエステルの還元
30mL二口フラスコに、磁気撹拌子、AceRu3(CO)7(6.51mg,0.01mmol)を加えて、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した。1,4−ジオキサン(0.18mL)をマイクロシリンジで加えて錯体を溶解した。この錯体溶液に、Me2PhSiH(0.47mL,3.0mmol)を加えて30分撹拌すると、溶液の色が濃橙色からうすい橙色へと変化した。次に、N,N−ベンジルメチルオクタンアミドメチルエステル(304mg,1.04mmol)、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、室温で撹拌した。1時間撹拌後、メタノールで反応を停止した後に、溶媒を留去した。アルミナカラムを用いて精製した。単離収率は96%であった。
【0056】
【化7】
得られたアミン−エステルは、1H及び13Cの核磁気共鳴スペクトルにより、その主骨格の構造を確認した。
【0057】
1H NMR (395 MHz, CDCl3) δ 1.25-1.37 (br, 6H, -(CH2)3-), 1.50 (m, 2H, -CH2 -CH2N), 1.61 (m, 2H, CH2-CH2C(O)), 2.17 (s, 3H, NCH3), 2.29 (t, J = 7.5 Hz, 2H, -CH2-C(O)), 2.34 (t, J = 7.5 Hz, 2H, -CH2-N ), 3.46 (s, 2H, N-CH2- Ph), 3.66 (s, 3H, OCH3), 7.20-7.35 (m, 5H, Ph ).
13C NMR (99.4 MHz, CDCl3) δ 24.8 (CH2), 27.2 (CH2), 27.3 (CH2), 29.0 (CH2), 29.1 (CH2), 34.0 (-CH2-C(O)), 42.2 (NCH3), 51.3 (OCH3), 57.4 (-CH2-NMeBn), 62.3 (Ph-CH2N), 126.7 (p-Ph), 128.1 (Ph), 129.0 (Ph), 139.3 (ipso-Ph), 174.2( C=O).
IR ν 2931, 2855, 2788, 1740, 1171, 737, 699 cm-1.
なお、図6に1H NMRスペクトル、図7に13C NMRスペクトルを示す。
【0058】
[実施例5]N,N−ジメチルアミド安息香酸メチルの還元
30mL二口フラスコに、磁気撹拌子、AceRu3(CO)7(6.51mg,0.01mmol)を加えて、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した。テトラヒドロピラン(0.18mL)をマイクロシリンジで加えて錯体を溶解した。この錯体溶液に、Me2PhSiH(0.47mL,3.0mmol)を加えて30分撹拌すると、溶液の色が濃橙色からうすい橙色へと変化した。次に、N,N−ジメチルアミド安息香酸メチル(203mg,0.98mmol)、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、室温で3.5時間撹拌した。メタノールで反応を停止した後に、溶媒を留去した。アルミナカラムを用いて精製した。単離収率は81%であった。
【0059】
【化8】
得られたアミン−エステルは、1H及び13Cの核磁気共鳴スペクトルにより、その主骨格の構造を確認した。
【0060】
1H NMR ( 270 MHz, CDCl3) δ 2.24 (s, 6H, N(CH3)2), 3.46 (s, 2H, -CH2 NMe2), 3.91 (s, 3H, OCH3), 7.38 ( d, J = 8.2 Hz, 2H, o-CH2NMe2), 8.00 ( d, J = 8.2 Hz, 2H, o-CO2Me).
13C NMR ( 67.8 MHz, CDCl3) δ 45.4 (N(CH3)2), 51.9 (OCH3), 63.9 (-CH2-NMe2), 128.8 (C6H4), 128.9(C6H4 ), 129.5 (ipso-CO2Me), 144.3 (ipso-CH2NMe2), 166.9 (C=O).
IR ν 2948, 2816, 2769, 1726, 1611, 1435, 1414, 1361, 1280, 1173, 1146, 1110, 1019, 968, 865, 757, 700 cm-1.
なお、図8に1H NMRスペクトル、図9に13C NMRスペクトルを示す。
【0061】
[実施例6]1−アセチル−4−ピペリドンの還元
30mL二口フラスコに、磁気撹拌子、AceRu3(CO)7(13.2mg,0.02mmol)を加えて、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した。テトラヒドロピラン(0.36mL)をマイクロシリンジで加えて錯体を溶解した。この錯体溶液に、Me2PhSiH(0.94mL,6.0mmol)を加えて30分撹拌すると、溶液の色が濃橙色からうすい橙色へと変化した。次に、トリエチルアミン(28μL,0.2mmol)、1−アセチル−4−ピペリドン(250μL,2.0mmol)を添加し、室温で撹拌した。1時間撹拌後、溶媒を留去し、1−エチルピペリジン−4−オンを収率85%で得た。なお、トリエチルアミンを添加しない場合、1−エチルピペリジン−4−オンの収率は67%であった。
【化9】
【0062】
1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 1.14 (t, J = 7.3 Hz , 3H, NCH2-CH3 ), 2.47 (t, J = 6.0 Hz , 2H, C(O)-CH2-), 2.53 (q, J = 7.3 Hz, 2H, N-CH2-CH3 ), 2.74 (t, J = 6.0 Hz, 2H, N-CH2-CH2).
13C NMR (67.8 MHz, CDCl3) δ 12.5 (NCH2-CH3), 41.1 (-CH2-C(O)-CH2-), 51.3 (N-CH2-CH3), 52.6 (-CH2-N(C2H5)-CH2-), 209.0 (C=O).
IR ν 2968, 2807, 1722, 1476, 1379, 1344, 1296, 1221, 1137, 1083, 1023, 751 cm-1.
なお、図10に1H NMRスペクトル、図11に13C NMRスペクトルを示す。
【0063】
[実施例7]アミドが混在したエステルの酸、塩基による容易な精製
30mL二口ナスフラスコに、ACE−Ru3(0.01mmol,6.51mg)を入れ、脱気し、アルゴン気流下でTHP(180μL)、PhMe2SiH(2.2mmol,360μL)を加え、30分撹拌した。その後、N,N−ジメチルデカンアミド(1.0mmol,215μL)、デカリン酸メチル(9.0mmol,1.9mL)、Et3N(1.0mmol,140μL)を添加し、2時間室温で反応させた。溶媒を留去後、希塩酸を添加し撹拌した。エーテル抽出し、デカリン酸メチルを収率95%で得た。なお、トリエチルアミンを添加しない場合も、デカリン酸メチルの収率は95%であった。
【0064】
1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.82 (t, J = 6.8 Hz, 3H, -CH3), 1.13-1.39 (br, 12H, CH3- (CH2)6-CH2-), 1.55 (m, 2H, CH2-CH2-C(O)-), 2.23 (t, J = 7.5 Hz 3H, -CH2-C(O)-), 3.59 (s, 3H, OCH3).
13C NMR (67.8 MHz, CDCl3) δ 14.1 (CH3-), 22.6, 24.9, 29.1, 29.2, 29.4, 31.8, 34.1 (-CH2-C(O)-), 51.4 (OCH3), 174.0 (C=O).
IR ν 3643, 3461, 2936, 2858, 1738, 1644, 1504, 1435, 1397, 1259, 1171, 1089, 1013, 922, 880, 731, 607 cm-1.
なお、図12に1H NMRスペクトルを示す。
【0065】
[実施例8]ケトンが混在したアミドの還元 酸、塩基による容易な精製
30mL二口ナスフラスコに、ACE−Ru3(0.05mmol,33mg)を入れ、脱気し、アルゴン気流下でTHP(0.9mL),PhMe2SiH(11mmol,360μL)を加え、30分撹拌した。その後、N,N−ジメチルデカンアミド(4.4mmol,0.75mL)、2−ウンデカノン(1.0mmol,190μL)、Et3N(1.0mmol,140μL)を添加し、2時間室温で反応させた。溶媒を留去後、希塩酸を添加し、撹拌した。エーテルを加え、2−ウンデカノンとシラン残渣を有機相へ移し、除去した。次に水相に炭酸水素ナトリウム水溶液を添加し、塩基性にしたのち、エーテル抽出により、N,N−ジメチルデカンアミンを収率85%で得た。なお、トリエチルアミンを添加しない場合、N,N−ジメチルデカンアミンの収率は62%であった。
【0066】
1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.86 (t, J = 6.6 Hz, 3H, CH3-), 1.08-1.53 (br, 12H, CH3- (CH2)7-CH2), 1.42 (m, 2H, -CH2-CH2NMe2), 2.19 (s, 6H, N(CH3)2), 2.21 (t, J = 7.2 Hz, 2H, -CH2-NMe2).
13C NMR ( 67.8 MHz, CDCl3) δ 14.1, 22.6, 27.5, 27.8, 29.3, 29.57, 29.59, 29.62, 31.8, 45.5 (N(CH3)2), 60.0 (-CH2-NMe2).
IR ν 2929, 2854, 2813, 2761, 1464, 1377, 1265, 1042, 721 cm-1.
なお、図13に1H NMRスペクトルを示す。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】参考例にてそれぞれアミド、エステル、ケトン、アルデヒドの還元を行った場合の反応率を示すグラフである。
【図2】実施例1にてアミドとエステルとの混合物の還元を行った場合の反応率を示すグラフである。
【図3】実施例2にてアミドとケトンとの混合物の還元を行った場合の反応率を示すグラフである。
【図4】実施例3にてN,N−ジメチルオクタンアミドメチルエステルの還元により得られた生成物の1H NMRスペクトルである。
【図5】実施例3にてN,N−ジメチルオクタンアミドメチルエステルの還元により得られた生成物の13C NMRスペクトルである。
【図6】実施例4にてN,N−ベンジルメチルオクタンアミドメチルエステルの還元により得られた生成物の1H NMRスペクトルである。
【図7】実施例4にてN,N−ベンジルメチルオクタンアミドメチルエステルの還元により得られた生成物の13C NMRスペクトルである。
【図8】実施例5にてN,N−ジメチルアミド安息香酸メチルの還元により得られた生成物の1H NMRスペクトルである。
【図9】実施例5にてN,N−ジメチルアミド安息香酸メチルの還元により得られた生成物の13C NMRスペクトルである。
【図10】実施例6にて1−アセチル−4−ピペリドンの還元により得られた生成物の1H NMRスペクトルである。
【図11】実施例6にて1−アセチル−4−ピペリドンの還元により得られた生成物の13C NMRスペクトルである。
【図12】実施例7で精製されたデカリン酸メチルの1H NMRスペクトルである。
【図13】実施例8にてN,N−ジメチルデカンアミドの還元により得られた生成物の1H NMRスペクトルである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボニル基の選択的還元反応に関し、詳細には、アミド基を含む異種のカルボニル基を有する化合物の還元反応において、アミド基を有する化合物のみを還元してアミン化合物を得る方法、乃至は1分子中にアミド基を含む複数のカルボニル基を有する化合物の還元反応において、アミド基のみが選択的に還元された化合物を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボニル基の還元反応には、一般的に典型金属の水素化物が用いられる。カルボニル基の種類に対するこれら還元剤の反応性は、通常アルデヒド基への反応速度が高く、次いで、ケトン基、エステル基、カルボン酸基、アミド基の順である。例えば、最も代表的で汎用に用いられる還元剤であるLiAlH4では、複数のカルボニル基が存在する反応において、ケトン基やエステル基を還元することなく、反応性の低いアミド基のみを選択的に還元することはできない(非特許文献1)。
【0003】
エステル基とアミド基が存在する場合に、反応性の低いアミド基のみを選択的に還元する方法としては、アミド基をチオアミド基に変換し、更にチオアミン基に変換した後、NaBH4又はNaBH3CNで還元する方法が知られている(非特許文献2)。しかしながら、この方法は、有毒で悪臭を放つイオウ化合物を用いる上、多段階の反応を経由しなければならず、好適な方法ではない。
【0004】
カルボニル基の還元反応において、選択性が得られる還元剤の例としては、ジボラン及びボラン誘導体が知られている(非特許文献1)。ジボランはケトン基、アルデヒド基、カルボン酸塩基を還元できるが、エステル基は還元できないという反応性を有している。この反応性を利用することにより、分子内にエステル基とアミド基の両方を有する化合物で、アミド基を選択的に還元することができる(非特許文献3)。
【0005】
【化1】
【0006】
しかしながら、ジボランは熱に対して不安定であり、更に発火性であるため、取り扱いに難を有する。ジボランをTHFやジメチルスルフィドで安定化した溶液状の試薬が市販されており、これらを用いれば取り扱い性は良くなるものの、上記の反応で用いられるボランとTHFの錯体は室温で数日以内に分解して活性を失うために、還元剤を長期保存できない。ジメチルスルフィド錯体は、それに較べると保存安定性は高いが、有毒であり、悪臭を放つイオウ化合物を用いている点において取り扱い性は良くない。また、保存安定性が高いが、反応性は低いため収率が低いと言う欠点を有している。以下のように収率を上げる改良方法も報告されているが、3段階の反応を必要とするため、目的物の収率はあがるものの、有効な解決手段とは言えない(非特許文献4,5)。
【0007】
【化2】
【0008】
比較的取り扱い性の良いNaBH4を用いた場合は一般的にアミド基は還元できないが、カルボン酸を存在させて、ケトン基を還元させずにアミド基のみの還元を達成している例が報告されている(非特許文献6)。
【0009】
【化3】
【0010】
しかしながら、この反応においては強酸であるトリフルオロ酢酸の取り扱いに注意を要すること、還元可能なアミド基の種類もトリフルオロ酢酸アミド基に限定されており、汎用性の高い還元反応とはいえない。
【0011】
NaBH4を用いる他の方法としては、ピリジン中で加熱する方法、ZrCl4,TiCl4等の強いルイス酸を用いる方法があるが、前者は高温を必要とし、後者は強酸を必要とする点で操作性が悪い。また、リチウムジイソプロピルアミノボロハイドライドや Bu4NBH4を用いる方法が報告されているが、これらの反応剤は入手容易とはいえない。また、これらの例では、エステルやケトンが存在した場合の還元挙動が明らかにされていない。
【0012】
還元剤として、上記の典型金属水素化物を用いる方法の他に、ヒドロシランを用いる方法も知られている。この還元剤の利点は、ヒドロシラン自体が安定な化合物であり、発火性もなく、空気雰囲気下で長期保存可能なことである。
【0013】
しかしながら、化合物として安定であることは、還元剤としての反応性が低いことを意味している。ヒドロシラン化合物のSi−H結合を活性化して還元反応性を高めるためには触媒が必要とされ、アルデヒド基やケトン基の還元反応にRh錯体が使用された報告がある。
【0014】
アミド基の還元反応例としては、還元剤としてジフェニルシランを用いる方法が知られている(非特許文献7,8,9)。
【0015】
ジフェニルシランよりも工業的に容易に入手可能なトリアルキルシランを用いると、還元反応に高温条件が必要とされる(非特許文献10)。
【0016】
また、還元剤としてトリアルキルシランを用い、ルテニウム錯体を触媒とすることによって、室温条件でアミド基を還元する方法も報告されている(非特許文献11,12、特許文献1)。
【0017】
しかし、これまでに報告されている典型金属水素化物を還元剤として使用する方法、遷移金属錯体触媒とヒドロシランを使用する方法の何れにおいても、複数のカルボニル基が共存する還元反応において、反応性の低いアミド基のみを選択的に還元して効率良く目的物を得る方法は未だ知られていない。
【0018】
【非特許文献1】F.Carey,R.J.Sundberg,Advanced Organic Chemistry,2nd Ed.1981,Prenum,New York;pp.203.
【非特許文献2】実験化学講座(第4版)26巻、213ページ(丸善)
【非特許文献3】H.C.Brown,S.Krishnamurthy,J.Am.Chem.Soc.1972,94,7159
【非特許文献4】N.Langlois and A.Rojas,Tetrahedron Lett.,1993,34,2477.
【非特許文献5】C.Pedregal,J.Ezquerra,A.Escribano,M.C.Carreno,J.L.Garcia Ruano,Tetrahedron Lett.1994,35,2053
【非特許文献6】J.Seyden−Penne,Reductions by the Alumino− and Borohydrides in Organic Synthesis、2nd Ed.,Wiley−VCH,1997,pp.105.
【非特許文献7】R.Kuwano,M.Takahashi,and Y.Ito,Tetrahedron Lett.,39,1017(1998)
【非特許文献8】T.Ohta,M.Kamiya,K.Kusui,T.Michibata,M.Nobutomo,and I.Furukawa,Tetrahedron Lett.,40,6963(1999)
【非特許文献9】T.Ohta,T.Michibata,K.Yamada,R.Omori,and I.Furukawa,Chem.Commun.,2003,1192
【非特許文献10】M.Igarashi and T.Fuchikami,Tetrahedron Lett.,42,1945(2001)
【非特許文献11】K.Matsubara and H.Nagashima,J.Synth.Org.Chem.Jpn.,63,122(2005)
【非特許文献12】K.Matsubara,T.Iura,T.Maki,and H.Nagashima,J.Org.Chem.,67,4985(2002)
【特許文献1】特開2003−261578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、複数のカルボニル基が存在する還元反応において、取り扱い性が容易で、保存安定性が良く、反応性が高い還元剤を用い、反応性の低いアミド基のみを選択的に還元して容易に、かつ収率良く目的物を得ることができるカルボニル基の選択的還元方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、アミド基を含む複数のカルボニル基が共存する1種類又は2種類以上の化合物の還元反応において、SiH基を有するオルガノヒドロシランを還元剤として用い、必要によっては更に有機アミン化合物を存在させ、ルテニウム錯体を触媒とすることによって、アミド基のみが選択的に還元された生成物を得ることができることを知見し、本発明をなすに至った。
【0021】
従って、本発明は、下記の還元方法を提供する。
〔請求項1〕
アミド基を含む複数のカルボニル基が共存する1種類又は2種類以上の化合物の還元反応において、オルガノヒドロシランを還元剤とし、ルテニウム錯体を触媒とすることにより、アミド基のみを選択的に還元する方法。
〔請求項2〕
1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物を還元反応に供することを特徴とする請求項1記載の還元方法。
〔請求項3〕
アミド基を有する化合物と、アミド基以外のカルボニル基を有する化合物からなる混合物から、アミド基のみが選択的に還元された生成物を得ることを特徴とする請求項1記載の還元方法。
〔請求項4〕
有機アミン化合物の存在下に還元反応を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の還元方法。
〔請求項5〕
有機アミン化合物が、一般式R23N(但し、R2は互いに同一又は異種の炭素数1〜10の1価炭化水素基を示す)で表される3級アミンであることを特徴とする請求項4記載の還元方法。
〔請求項6〕
還元剤が、一般式R13Si−H(但し、R1は互いに同一又は異種の炭素数1〜30の非置換もしくは置換1価炭化水素基、又はアルコキシ基を示す)で表されるトリオルガノシランであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の還元方法。
〔請求項7〕
ルテニウム錯体触媒が、下記式(A)、(B)又はRu3(CO)12で示されるルテニウムカルボニル錯体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の還元方法。
【化4】
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法は、容易に入手可能であり、取り扱い性が良く、保存安定性の高いオルガノヒドロシランを還元剤として使用できる。また、ルテニウム錯体を触媒とすることにより、オルガノヒドロシランのSi−H結合を活性化し、高い還元反応力を得ることによって、通常では反応性の低いアミド基を、非常に穏和な条件下で還元反応を行うことが可能となる。アミド基が還元されるとアミノ基となるが、還元反応によって生成したアミノ基は他のカルボニル基への還元反応を抑制する。その結果、カルボニル基の中でアミド基のみを選択的に還元することが可能となる。本発明の方法では、アミノ基が存在してもアミド基の還元反応は抑制されない。そのため、還元反応の選択性が低いときには、有機アミンの存在下で還元反応を行うことにより、アミド基のみを選択性良く還元することができる。アミド基を有する化合物と、アミド基以外のカルボニル基を有する化合物からなる混合物からは、アミド基のみが還元された目的物が得られ、アミド基以外のカルボニル基を有する化合物は、還元されずに回収できる。また、1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基が存在する化合物を還元することにより、アミド基のみが還元された目的物を得ることができ、従って本発明の還元方法は、汎用性の高い選択的還元方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る還元方法は、アミド基(−CONR2基)を含み、しかもアミド基以外のカルボニル基を有する複数のカルボニル基が共存する1種又は2種以上の化合物、つまり1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物、又はアミド基を有する化合物とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物からなる混合物を出発原料とし、この出発原料のアミド基のみを選択的に還元して、−CONR2基を−CH2NR2基とするものである。なお、Rは水素原子又は1価炭化水素基(好ましくは炭素数1〜30)である(以下同じ)。
【0024】
アミド基以外のカルボニル基としては、アルデヒド基(−CHO)、ケトン基(−CO−)、エステル基(−COOR)、カルボン酸基(−COOH)、カルボン酸塩基(−COOM;MはNa、Kなど)であり、これら官能基を有する化合物であれば、構造が直鎖状、分岐状、環状の何れでもよいし、置換基の種類も任意に選択できる。
【0025】
1分子中に複数の官能基を有する化合物を還元するときは、上記のアミド基と、アミド基以外のカルボニル基が同一分子中にあれば良い。
【0026】
1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物としては、具体的には、レブリン酸のアミド(ケトンとアミドが共存)、ピロリジンカルボン酸、及びその塩、エステル(カルボン酸とアミドが共存)のほか、N,N−ジメチルオクタンアミドメチルエステル、1−アセチル−4−ピペリドンなどが挙げられる。また、アミドの窒素上の置換基は、メチル、エチル、プロピル、フェニル、シクロヘキシルのような鎖、環状のものの組み合わせ、又は窒素上の2つの置換基が環状になっているピロリジン、モルホリンなど多様である。
【0027】
また、アミド基を有する化合物の具体例は、安息香酸アミド、酢酸アミド、シクロヘキサン酸アミド、アジピン酸ジアミド、ナイロンなどが挙げられる。アミドの窒素上の置換基は、メチル、エチル、プロピル、フェニル、シクロヘキシルのような鎖、環状のものの組み合わせ、又は窒素上の2つの置換基が環状になっているピロリジン、モルホリンなど多様である。
【0028】
2種類以上の化合物からなる混合物を還元するときは、上記のアミド基を有する化合物と、アミド基以外のカルボニル基を有する化合物であればよい。これらアミド基を有する化合物とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物との混合割合は、特に制限されるものではないが、質量比として前者:後者=1:100〜100:1、特に1:50〜50:1であることが好ましい。
【0029】
本発明においては、前記出発原料に対し、オルガノヒドロシランを還元剤とし、必要により有機アミン化合物の存在下にルテニウム錯体を触媒として還元反応を行うものである。
【0030】
この場合、本発明の方法で使用するオルガノヒドロシランは、一般式R1aSi(H)4-aで示すことができる。ここで、R1は、同一であっても互いに異なっていても良い、炭素数1〜30、より好ましくは1〜10の非置換もしくは置換1価炭化水素基、又はアルコキシ基であり、aは1〜3の整数である。
【0031】
R1の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;トリフロロプロピル基、ノナフロロヘキシル基、ヘプタデシルフロロデシル基等のフッ素置換アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基などを挙げることができる。特に好ましくは、上記式においてa=3のR13Si−Hで示されるトリオルガノシランであり、R1がメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基である。
【0032】
オルガノヒドロシランは、アミド基を有する化合物1モルに対して、2.0〜100.0当量、好ましくは2.0〜50.0当量、特に好ましくは2.0〜10.0当量となる範囲で使用される。SiH結合の量が前記下限値より少ないと未反応アミド化合物が残留する場合があり、前記上限値を超えても、使用量に比例する収率の向上は期待できない。
【0033】
本発明の方法では、まずアミド基が還元されてアミノ基が生成し、このアミノ基が触媒活性を抑えることになるため、アミド基以外のカルボニル基に対する還元力が失われ、還元反応の選択性が得られるものである。また、本触媒はアミノ基が存在してもアミド基に対しては高い還元反応力を維持できる。そのため、還元反応の初期段階でアミド基が還元されてアミノ基を生成すると同時に、他のカルボニル基が還元されると、少量の副生成物を生じることになる。このような時には、有機アミン化合物の存在化で還元反応を行うことにより、選択性を高くすることができる。
【0034】
本発明の方法で使用する有機アミン化合物は、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミンなどの1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミンなどの2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミンなどの3級アミン、ピペリジン、ピリジン、モルホリンなどの環状アミンである。
【0035】
好ましくは、一般式R23Nで示される3級アミンである。ここで、R2は、同一であっても、互いに異なっていても良い、炭素数1〜10のアルキル基である。
【0036】
R2の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基である。
【0037】
有機アミン化合物の使用量は、アミド基及びアミド基以外のカルボニル基を有する化合物1モルに対して、0.01〜10.0当量、好ましくは、0.05〜5.0当量、特に好ましくは、0.1〜2.0当量となる範囲で使用される。この際の有機アミン化合物は、別途添加でもよく、反応中でアミドの還元により生成してもよい。有機アミン化合物の量が前記下限値より少ないと、還元反応の選択性が低くなる場合があり、前記上限値を超えても、還元反応の選択性向上は期待できない。
【0038】
本発明の方法で使用するルテニウム錯体触媒は、ルテニウムの核数が1〜6、好ましくは2〜3の多核錯体であり、配位子が、カルボニル基、芳香族炭化水素、不飽和炭化水素、ヘテロ原子含有化合物から選択されるものを使用することができる。好ましくは、下記式(A)で示されるアセナフチレンが配位した3核ルテニウムカルボニル錯体(以下、AceRu3(CO)7と示す)、下記式(B)で示されるアズレンが配位した3核ルテニウムカルボニル錯体、又はRu3(CO)12である。これらのルテニウム錯体触媒を用いることにより、極めて穏和な条件下で還元反応を行うことができる。
【0039】
【化5】
【0040】
本発明の方法において、ルテニウム触媒はアミド基を有する化合物1モルに対して、0.0001〜0.1モル(0.01〜10モル%)の範囲で使用することが好ましい。触媒が前記下限値より少ないと反応時間が長くなりすぎ、一方、上限値を超えても反応時間が更に短縮されることはない。好ましくは、0.001〜0.05モルの範囲である。
【0041】
還元反応は、アミド基を有する化合物と、アミド基以外のカルボニル基を有する化合物からなる混合物で行っても良いし、1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物を用いても良いが、この場合、反応溶媒は、還元反応される化合物に応じて適宜選択することが好ましい。典型的には、ジオキサン、ジメトキシエタン、テトラヒドロピラン、トルエン、エーテルなどが使用される。また、反応温度は、−10〜+70℃が好ましく、反応時間は0.1〜10時間であることが好ましい。
【0042】
本発明の還元方法は、医薬品原料、化成品原料、溶媒、触媒、配位子などに幅広く利用される有用な化合物であるアミン化合物の合成方法として有効である。
【実施例】
【0043】
以下、参考例及び実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、下記例で、Meはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基、Bnはベンジル基を示す。
【0044】
[参考例]
(I)ケトン基、アルデヒド基、アミド基、エステル基を有する化合物単独の還元反応性
各種カルボニル基含有化合物を用い、ルテニウム触媒存在下、同条件でPhMe2SiHによる還元反応を行った。
(1−1)封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気し、C6D6(0.4mL)を加えた。別の容器にN,N−ジメチルデカンアミド(43mg,0.2mmol)、PhMe2SiH(94μL,0.6mmol)、内標としてアニソール(22mg,0.2mmol)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液を封管NMRチューブに添加し、封管した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図1に示す(図中アミドと記載)。
【0045】
(1−2)封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気し、C6D6(0.4mL)を加えた。別の容器にデカリン酸メチル(42μL,0.2mmol)、PhMe2SiH(94μL,0.6mmol)、内標としてアニソール(22mg,0.2mmol)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液を封管NMRチューブに添加し、封管した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図1に示す(図中エステルと記載)。
【0046】
(1−3)封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気し、C6D6(0.4mL)を加えた。別の容器に2−ウンデカノン(45μL,0.2mmol)、PhMe2SiH(94μL,0.3mmol)、内標としてアニソール(22mg,0.2mmol)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液を封管NMRチューブに添加し、封管した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図1に示す(図中ケトン1,2と記載)。
【0047】
(1−4)封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気した。別の容器に2−ウンデカノン(45μL,0.2mmol)、PhMe2SiH(47μL,0.3mmol)、内標としてアニソール(22mg,0.2mmol)、重溶媒としてC6D6(0.4mL)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液をアルゴン気流下で錯体の入ったNMRチューブに添加した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図1に示す(図中ケトン3と記載)。
【0048】
(1−5)封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気し、C6D6(0.4mL)を加えた。別の容器にデカナール(38μL,0.2mmol)、PhMe2SiH(94μL,0.6mmol)、内標としてアニソール(22mg,0.2mmol)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液を封管NMRチューブに添加し、封管した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図1に示す(図中アルデヒドと記載)。
【0049】
上記結果より、カルボニル基含有化合物の種類によって反応速度の違いはあるが、いずれも室温条件で還元反応がすみやかに進行する。
【0050】
(II)アミド基含有化合物と、アミド基以外のカルボニル基含有化合物が共存する系での還元反応選択性
[実施例1]
封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気し、C6D6(0.4mL)を加えた。別の容器にデカン酸アミド(28mg,0.1mmol、図2中アミドと記載)、デカリン酸メチル(18.8mg,0.1mmol、図2中エステルと記載)、PhMe2SiH(47μL,0.3mmol)、内標としてアニソール(11mg,0.1mmol)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液を封管NMRチューブに添加し、封管した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図2に示す。
【0051】
[実施例2]
封管用NMRチューブにAceRu3(CO)7(1.32mg,0.002mmol)を入れ、脱気し、C6D6(0.4mL)を加えた。別の容器にデカン酸アミド(25μL,0.1mmol、図3中アミドと記載)、2−ウンデカノン(23μL,0.1mmol、図3中ケトンと記載)、PhMe2SiH(47μL,0.3mmol)、内標としてアニソール(11mg,0.1mmol)を入れ、溶液を調製した。この調製した溶液を封管NMRチューブに添加し、封管した。室温に放置し、各時間の1H NMRを測定し、反応率を求めた。結果を図3に示す。
以上のように、アミド基を含有する化合物を選択的に還元することが可能であった。
【0052】
(III)1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物での還元反応選択性
[実施例3]N,N−ジメチルオクタンアミドメチルエステルの還元
30mL二口フラスコに、磁気撹拌子、AceRu3(CO)7(6.51mg,0.01mmol)を加えて、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した。1,4−ジオキサン(0.18mL)をマイクロシリンジで加えて錯体を溶解した。この錯体溶液に、Me2PhSiH(0.47mL,3.0mmol)を加えて30分撹拌すると、溶液の色が濃橙色からうすい橙色へと変化した。次に、N,N−ジメチルオクタンアミドメチルエステル(233mg,1.08mmol)、内標としてアニソール(96.5mg,0.89mmol)を加え、室温で30分撹拌した。メタノールで反応を停止した後に、溶媒を留去した。アルミナカラムを用いて精製した。単離収率は87%であった。
【0053】
【化6】
得られたアミン−エステルは、1H及び13Cの核磁気共鳴スペクトルにより、その主骨格の構造を確認した。
【0054】
1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 1.20-1.37 (br, 6H, -(CH2)3-), 1.44 (m, 2H, -CH2-CH2N), 1.61 (m, 2H, -CH2-CH2C(O)), 2.20 (s, 6H, -N(CH3)2), 2.21 (t, J = 6.4 Hz, 2H, -CH2-C(O)), 2.29 (t, J = 7.6 Hz, 2H, -CH2-N(CH3)2 ), 3.66 (s, 3H, OCH3).
13C NMR (67.8 MHz, CDCl3) δ 24.6 (CH2), 27.0 (CH2), 27.4 (CH2), 28.8 (CH2), 28.9 (CH2), 33.7 (-CH2-C(O)), 45.2 (N(CH3)2), 51.1 (OCH3), 59.6 (-CH2-NMe2), 173.8 (C=O).
IR ν 2933, 2857, 2813, 2762, 1744, 1462, 1361, 1171, 1099, 1042, 844 cm-1.
なお、図4に1H NMRスペクトル、図5に13C NMRスペクトルを示す。
【0055】
[実施例4]N,N−ベンジルメチルオクタンアミドメチルエステルの還元
30mL二口フラスコに、磁気撹拌子、AceRu3(CO)7(6.51mg,0.01mmol)を加えて、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した。1,4−ジオキサン(0.18mL)をマイクロシリンジで加えて錯体を溶解した。この錯体溶液に、Me2PhSiH(0.47mL,3.0mmol)を加えて30分撹拌すると、溶液の色が濃橙色からうすい橙色へと変化した。次に、N,N−ベンジルメチルオクタンアミドメチルエステル(304mg,1.04mmol)、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、室温で撹拌した。1時間撹拌後、メタノールで反応を停止した後に、溶媒を留去した。アルミナカラムを用いて精製した。単離収率は96%であった。
【0056】
【化7】
得られたアミン−エステルは、1H及び13Cの核磁気共鳴スペクトルにより、その主骨格の構造を確認した。
【0057】
1H NMR (395 MHz, CDCl3) δ 1.25-1.37 (br, 6H, -(CH2)3-), 1.50 (m, 2H, -CH2 -CH2N), 1.61 (m, 2H, CH2-CH2C(O)), 2.17 (s, 3H, NCH3), 2.29 (t, J = 7.5 Hz, 2H, -CH2-C(O)), 2.34 (t, J = 7.5 Hz, 2H, -CH2-N ), 3.46 (s, 2H, N-CH2- Ph), 3.66 (s, 3H, OCH3), 7.20-7.35 (m, 5H, Ph ).
13C NMR (99.4 MHz, CDCl3) δ 24.8 (CH2), 27.2 (CH2), 27.3 (CH2), 29.0 (CH2), 29.1 (CH2), 34.0 (-CH2-C(O)), 42.2 (NCH3), 51.3 (OCH3), 57.4 (-CH2-NMeBn), 62.3 (Ph-CH2N), 126.7 (p-Ph), 128.1 (Ph), 129.0 (Ph), 139.3 (ipso-Ph), 174.2( C=O).
IR ν 2931, 2855, 2788, 1740, 1171, 737, 699 cm-1.
なお、図6に1H NMRスペクトル、図7に13C NMRスペクトルを示す。
【0058】
[実施例5]N,N−ジメチルアミド安息香酸メチルの還元
30mL二口フラスコに、磁気撹拌子、AceRu3(CO)7(6.51mg,0.01mmol)を加えて、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した。テトラヒドロピラン(0.18mL)をマイクロシリンジで加えて錯体を溶解した。この錯体溶液に、Me2PhSiH(0.47mL,3.0mmol)を加えて30分撹拌すると、溶液の色が濃橙色からうすい橙色へと変化した。次に、N,N−ジメチルアミド安息香酸メチル(203mg,0.98mmol)、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、室温で3.5時間撹拌した。メタノールで反応を停止した後に、溶媒を留去した。アルミナカラムを用いて精製した。単離収率は81%であった。
【0059】
【化8】
得られたアミン−エステルは、1H及び13Cの核磁気共鳴スペクトルにより、その主骨格の構造を確認した。
【0060】
1H NMR ( 270 MHz, CDCl3) δ 2.24 (s, 6H, N(CH3)2), 3.46 (s, 2H, -CH2 NMe2), 3.91 (s, 3H, OCH3), 7.38 ( d, J = 8.2 Hz, 2H, o-CH2NMe2), 8.00 ( d, J = 8.2 Hz, 2H, o-CO2Me).
13C NMR ( 67.8 MHz, CDCl3) δ 45.4 (N(CH3)2), 51.9 (OCH3), 63.9 (-CH2-NMe2), 128.8 (C6H4), 128.9(C6H4 ), 129.5 (ipso-CO2Me), 144.3 (ipso-CH2NMe2), 166.9 (C=O).
IR ν 2948, 2816, 2769, 1726, 1611, 1435, 1414, 1361, 1280, 1173, 1146, 1110, 1019, 968, 865, 757, 700 cm-1.
なお、図8に1H NMRスペクトル、図9に13C NMRスペクトルを示す。
【0061】
[実施例6]1−アセチル−4−ピペリドンの還元
30mL二口フラスコに、磁気撹拌子、AceRu3(CO)7(13.2mg,0.02mmol)を加えて、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した。テトラヒドロピラン(0.36mL)をマイクロシリンジで加えて錯体を溶解した。この錯体溶液に、Me2PhSiH(0.94mL,6.0mmol)を加えて30分撹拌すると、溶液の色が濃橙色からうすい橙色へと変化した。次に、トリエチルアミン(28μL,0.2mmol)、1−アセチル−4−ピペリドン(250μL,2.0mmol)を添加し、室温で撹拌した。1時間撹拌後、溶媒を留去し、1−エチルピペリジン−4−オンを収率85%で得た。なお、トリエチルアミンを添加しない場合、1−エチルピペリジン−4−オンの収率は67%であった。
【化9】
【0062】
1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 1.14 (t, J = 7.3 Hz , 3H, NCH2-CH3 ), 2.47 (t, J = 6.0 Hz , 2H, C(O)-CH2-), 2.53 (q, J = 7.3 Hz, 2H, N-CH2-CH3 ), 2.74 (t, J = 6.0 Hz, 2H, N-CH2-CH2).
13C NMR (67.8 MHz, CDCl3) δ 12.5 (NCH2-CH3), 41.1 (-CH2-C(O)-CH2-), 51.3 (N-CH2-CH3), 52.6 (-CH2-N(C2H5)-CH2-), 209.0 (C=O).
IR ν 2968, 2807, 1722, 1476, 1379, 1344, 1296, 1221, 1137, 1083, 1023, 751 cm-1.
なお、図10に1H NMRスペクトル、図11に13C NMRスペクトルを示す。
【0063】
[実施例7]アミドが混在したエステルの酸、塩基による容易な精製
30mL二口ナスフラスコに、ACE−Ru3(0.01mmol,6.51mg)を入れ、脱気し、アルゴン気流下でTHP(180μL)、PhMe2SiH(2.2mmol,360μL)を加え、30分撹拌した。その後、N,N−ジメチルデカンアミド(1.0mmol,215μL)、デカリン酸メチル(9.0mmol,1.9mL)、Et3N(1.0mmol,140μL)を添加し、2時間室温で反応させた。溶媒を留去後、希塩酸を添加し撹拌した。エーテル抽出し、デカリン酸メチルを収率95%で得た。なお、トリエチルアミンを添加しない場合も、デカリン酸メチルの収率は95%であった。
【0064】
1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.82 (t, J = 6.8 Hz, 3H, -CH3), 1.13-1.39 (br, 12H, CH3- (CH2)6-CH2-), 1.55 (m, 2H, CH2-CH2-C(O)-), 2.23 (t, J = 7.5 Hz 3H, -CH2-C(O)-), 3.59 (s, 3H, OCH3).
13C NMR (67.8 MHz, CDCl3) δ 14.1 (CH3-), 22.6, 24.9, 29.1, 29.2, 29.4, 31.8, 34.1 (-CH2-C(O)-), 51.4 (OCH3), 174.0 (C=O).
IR ν 3643, 3461, 2936, 2858, 1738, 1644, 1504, 1435, 1397, 1259, 1171, 1089, 1013, 922, 880, 731, 607 cm-1.
なお、図12に1H NMRスペクトルを示す。
【0065】
[実施例8]ケトンが混在したアミドの還元 酸、塩基による容易な精製
30mL二口ナスフラスコに、ACE−Ru3(0.05mmol,33mg)を入れ、脱気し、アルゴン気流下でTHP(0.9mL),PhMe2SiH(11mmol,360μL)を加え、30分撹拌した。その後、N,N−ジメチルデカンアミド(4.4mmol,0.75mL)、2−ウンデカノン(1.0mmol,190μL)、Et3N(1.0mmol,140μL)を添加し、2時間室温で反応させた。溶媒を留去後、希塩酸を添加し、撹拌した。エーテルを加え、2−ウンデカノンとシラン残渣を有機相へ移し、除去した。次に水相に炭酸水素ナトリウム水溶液を添加し、塩基性にしたのち、エーテル抽出により、N,N−ジメチルデカンアミンを収率85%で得た。なお、トリエチルアミンを添加しない場合、N,N−ジメチルデカンアミンの収率は62%であった。
【0066】
1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.86 (t, J = 6.6 Hz, 3H, CH3-), 1.08-1.53 (br, 12H, CH3- (CH2)7-CH2), 1.42 (m, 2H, -CH2-CH2NMe2), 2.19 (s, 6H, N(CH3)2), 2.21 (t, J = 7.2 Hz, 2H, -CH2-NMe2).
13C NMR ( 67.8 MHz, CDCl3) δ 14.1, 22.6, 27.5, 27.8, 29.3, 29.57, 29.59, 29.62, 31.8, 45.5 (N(CH3)2), 60.0 (-CH2-NMe2).
IR ν 2929, 2854, 2813, 2761, 1464, 1377, 1265, 1042, 721 cm-1.
なお、図13に1H NMRスペクトルを示す。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】参考例にてそれぞれアミド、エステル、ケトン、アルデヒドの還元を行った場合の反応率を示すグラフである。
【図2】実施例1にてアミドとエステルとの混合物の還元を行った場合の反応率を示すグラフである。
【図3】実施例2にてアミドとケトンとの混合物の還元を行った場合の反応率を示すグラフである。
【図4】実施例3にてN,N−ジメチルオクタンアミドメチルエステルの還元により得られた生成物の1H NMRスペクトルである。
【図5】実施例3にてN,N−ジメチルオクタンアミドメチルエステルの還元により得られた生成物の13C NMRスペクトルである。
【図6】実施例4にてN,N−ベンジルメチルオクタンアミドメチルエステルの還元により得られた生成物の1H NMRスペクトルである。
【図7】実施例4にてN,N−ベンジルメチルオクタンアミドメチルエステルの還元により得られた生成物の13C NMRスペクトルである。
【図8】実施例5にてN,N−ジメチルアミド安息香酸メチルの還元により得られた生成物の1H NMRスペクトルである。
【図9】実施例5にてN,N−ジメチルアミド安息香酸メチルの還元により得られた生成物の13C NMRスペクトルである。
【図10】実施例6にて1−アセチル−4−ピペリドンの還元により得られた生成物の1H NMRスペクトルである。
【図11】実施例6にて1−アセチル−4−ピペリドンの還元により得られた生成物の13C NMRスペクトルである。
【図12】実施例7で精製されたデカリン酸メチルの1H NMRスペクトルである。
【図13】実施例8にてN,N−ジメチルデカンアミドの還元により得られた生成物の1H NMRスペクトルである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミド基を含む複数のカルボニル基が共存する1種類又は2種類以上の化合物の還元反応において、オルガノヒドロシランを還元剤とし、ルテニウム錯体を触媒とすることにより、アミド基のみを選択的に還元する方法。
【請求項2】
1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物を還元反応に供することを特徴とする請求項1記載の還元方法。
【請求項3】
アミド基を有する化合物と、アミド基以外のカルボニル基を有する化合物からなる混合物から、アミド基のみが選択的に還元された生成物を得ることを特徴とする請求項1記載の還元方法。
【請求項4】
有機アミン化合物の存在下に還元反応を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の還元方法。
【請求項5】
有機アミン化合物が、一般式R23N(但し、R2は互いに同一又は異種の炭素数1〜10の1価炭化水素基を示す)で表される3級アミンであることを特徴とする請求項4記載の還元方法。
【請求項6】
還元剤が、一般式R13Si−H(但し、R1は互いに同一又は異種の炭素数1〜30の非置換もしくは置換1価炭化水素基、又はアルコキシ基を示す)で表されるトリオルガノシランであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の還元方法。
【請求項7】
ルテニウム錯体触媒が、下記式(A)、(B)又はRu3(CO)12で示されるルテニウムカルボニル錯体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の還元方法。
【化1】
【請求項1】
アミド基を含む複数のカルボニル基が共存する1種類又は2種類以上の化合物の還元反応において、オルガノヒドロシランを還元剤とし、ルテニウム錯体を触媒とすることにより、アミド基のみを選択的に還元する方法。
【請求項2】
1分子中にアミド基とアミド基以外のカルボニル基を有する化合物を還元反応に供することを特徴とする請求項1記載の還元方法。
【請求項3】
アミド基を有する化合物と、アミド基以外のカルボニル基を有する化合物からなる混合物から、アミド基のみが選択的に還元された生成物を得ることを特徴とする請求項1記載の還元方法。
【請求項4】
有機アミン化合物の存在下に還元反応を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の還元方法。
【請求項5】
有機アミン化合物が、一般式R23N(但し、R2は互いに同一又は異種の炭素数1〜10の1価炭化水素基を示す)で表される3級アミンであることを特徴とする請求項4記載の還元方法。
【請求項6】
還元剤が、一般式R13Si−H(但し、R1は互いに同一又は異種の炭素数1〜30の非置換もしくは置換1価炭化水素基、又はアルコキシ基を示す)で表されるトリオルガノシランであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の還元方法。
【請求項7】
ルテニウム錯体触媒が、下記式(A)、(B)又はRu3(CO)12で示されるルテニウムカルボニル錯体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の還元方法。
【化1】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−238545(P2007−238545A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65904(P2006−65904)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】
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