説明

カルボン酸ニトリルの加水分解のための二酸化マンガン触媒

容易に酸化可能な基、例えばチオール−又はチオエーテル基を有する有機ニトリルの、相応するカルボン酸アミドへの加水分解のための、少なくとも1種のランタニド化合物を含有する二酸化マンガン触媒、並びに、前記触媒の製造方法、及び、有機ニトリルの加水分解のためのその使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ニトリルの、相応するカルボン酸アミドへの加水分解のために使用されることができる新規の二酸化マンガン触媒、並びに、前記触媒の製造方法に関する。本発明はしかしながら、前記触媒を用いた、有機ニトリルの、相応するカルボン酸アミドへの触媒による加水分解方法にも関する。
【0002】
この際、本発明は特に、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリルの、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−酪酸アミドへの加水分解のための触媒による方法に関し、前記化合物は、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−酪酸、メチオニンのヒドロキシ類似体(MHA)及びその塩の製造の際に重要な中間生成物である。この物質は、飼料添加剤として、特に、家禽飼育の際に使用される。この、メチオニン類似化合物は、メチオニンを代替でき、かつ、飼料中でのタンパク質の使用を顕著に改善することができる。
【0003】
2−ヒドロキシカルボン酸ニトリル(シアンヒドリン)の加水分解とは、ニトリル加水分解の特殊なケースである。強塩基が使用される、ニトリルの鹸化のための全ての公知の方法は適用されることができず、というのも、この反応条件下では、シアンヒドリンのアルデヒド及びシアン水素への逆反応が起こるからである。
【0004】
2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−ブチロニトリルは、高濃縮化した鉱酸を用いて、有利には硫酸を用いて、ほぼ等モル量で鹸化されることもできる。この際、第1の反応工程において、置換された酪酸のアミドが生じる。硫酸を、新たに使用することができるとの目的を有しての、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ酪酸アミド及び硫酸の技術的に良好に実現可能な分離は、しかしながら公知ではない。この鉱酸は、アミドのヒドロキシカルボン酸への鹸化後すぐに、アンモニウムヒドロゲンスルファートとして分離され、かつ、更なる、高価な方法工程において再度硫酸へと変換処理される。
【0005】
二酸化マンガンが、カルボン酸ニトリルのアミドへの加水分解反応を触媒作用することも公知であり、例えばDE 1593320中に記載されている。
【0006】
天然の並びに合成の二酸化マンガンの化学量論的な組成は、結晶格子中への他の酸化数のマンガンの組み込みにより、MnO1.7〜MnO2.0の範囲内にある。この結晶中には、外来イオン、例えばカリウム、ナトリウムが含有されていることができる。二酸化マンガンは、複数の同素体の変態において存在する。これらは、触媒としての挙動において極めて相違する。軟マンガン鋼(Pyrolysit)(β−二酸化マンガン)は、これは安定な変態であり、最も高い結晶性が顕著である。この形態は触媒的に不活性である。この結晶性は、更なる変態においては、あまり顕著でなく、かつ、無定形の生成物、ラムスデライト(Ramsdelit)にまでなる。レントゲン回折によれば、この変態は分類されることができる。二酸化マンガンのこの化学的及び触媒的に活性のある形態は、部分的に水和されていて、かつ、更にヒドロキシル基を含有する。
【0007】
数々の特許公報においては、二酸化マンガンを用いた、カルボン酸ニトリル、特に2−ヒドロキシニトリル(シアンヒドリン)の、触媒による加水分解方法が記載されている。この方法は例えば、実に良く、アセトンシアンヒドリンの鹸化のために適していて、例えばUS4018829は、アセトンシアンヒドリンの2−ヒドロキシブチルアミドへの加水分解の際には、二酸化マンガンを用いて、90%を上回る収率が達成されることを示す。
【0008】
この触媒活性のある、二酸化マンガンの変態はしかしながら、酸化剤としても活性であり、これは、チオエーテル−又はチオ−置換したニトリルの加水分解の際のこの使用を、この容易な酸化能力に条件付けられて、明らかに制限する。この際、四価のマンガンは部分的に三価のマンガンへと還元され、この硫黄は相応して酸化される。
【0009】
DE 1593320中には、二酸化マンガンを用いた、ニトリルの、アミドへの加水分解方法が記載されていて、この際、脂肪族ニトリルを用いて、90%を上回る収率が達成されている。チオジプロピオニトリルを用いて、アミドに関して8%のみの収率が得られ、これにより、容易に酸化可能なチオエーテル基の存在下で、市販の二酸化マンガンは触媒としてほとんど適しないことが明らかである。
【0010】
EP 0 597 298中には、触媒特性を改善するための、特にここではオキサミド形成を抑制するための、二酸化マンガンの、還元剤、例えばアルコールを用いた前処理による部分的な還元が記載される。三価の酸化マンガンの増加する割合でもってしかしながら、この触媒の活性は、減少する。
【0011】
二酸化マンガンの酸化作用は、容易に酸化可能な基、例えばチオール−又はチオエーテル基を有するニトリルの加水分解の際に、一般的に不所望である。特に、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−ブチロニトロルの、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−酪酸アミド(飼料助剤、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−酪酸の製造の際の重要な中間生成物)への加水分解の際のS−酸化は不所望である。硫黄の酸化により、スルホキシドが形成され、結局は、これにより、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−酪酸アミドに関する収率が減少される。この、酸化により生じる副生成物は、かなりの手間無しには分離されることができず、かつ従って、もはや容易く飼料添加剤として使用されることができない汚染された終生成物を生じる。
【0012】
硫黄の酸化に関連した、触媒の還元により更に、その寿命が短縮され、これは、技術的な方法の際に、経済的な欠点、例えば、相応するコストと共に、高められた触媒消費又は再生の手間を生じる。
【0013】
特許公報中JP 09104665には、活性のあるδ−二酸化マンガンの製造が記載され、かつ、その活性は、この表面の大きさを介して定義される。この触媒を用いて、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−ブチロニトリルの鹸化もまた、完全な変換率でもって記載されてもいる。スルホキシドの形成に関しては、この刊行物中では、出願人の側で、そもそも詳しく述べられていない。ここに挙げられた条件の調整(Nachstellen)によればしかしながら、この反応の間に、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリルのスルホキシドは少なくとも1.6%から4%を上回るまでの選択率で生じることが見出され(比較例、実施例11)、これは大きな欠点である。更に、連続的な運転様式では、ニトリル変換率は96.1%のみであり、このアミド収率は79.8%であった。
【0014】
この同一出願人は、特許公報EP 0 731 079中で、二酸化マンガンを用いた、シアンヒドリンの加水分解及びカルボン酸の塩へのアルカリ液を用いた、形成されたアミドの引き続く鹸化による、カルボン酸の製造方法を記載する。電気透析によりこの後に、カルボン酸及び苛性ソーダ液が相互に分離される。実施例3においては、塔反応器中で、より詳細には記載されていないδ−二酸化マンガン(無定形)を用いて、50℃で、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−ブチロニトリルの加水分解によるMHA−アミドの形成が、ニトリル変換率100%でもって、100%のMHA−アミド収率で挙げられる。この結果は、同様に確認されることができない。更に、特に、塔反応器中で、高い触媒濃度を用いて、活性二酸化マンガンの酸化作用が効力を発することが確認された。これは、マンガン4+の同時の還元の際に、触媒不活性なMn3+を生じ、かつ、スルホキシドの形成を増加させる。このJP 09104665に比較して極めて類似の実施例の模倣(Nacharebeiten)もまた、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−酪酸アミドのスルホキシドが、約2%〜4%よりも高い選択率でもって形成されることを示す。
【0015】
特許公報FR 2 750 987中では、硫黄の酸化の問題が、二酸化マンガンでの二酸化ケイ素の被覆により解消される。この触媒はしかしながら、5〜10%のみの有効な触媒成分を含有する。これは、多大な触媒量の使用により又は17〜45時間の反応時間により補償されなくてはならない。技術的な方法のためには、この処理方法は、有利でない。
【0016】
技術水準のこの欠点を背景として、本発明者が提示した課題は、容易に酸化可能な基、例えばチオール−又はチオエーテル基を有するカルボン酸ニトリル、特に相応するヒドロキシニトリルの、相応するアミドへの加水分解を触媒作用する、二酸化マンガンをベースとする触媒を調整することであった。この触媒の酸化性の作用は、酸化可能な官能基、例えばチオール−又はチオエーテル基を有するシアンヒドリン、即ち、例えば2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−ブチロニトロルをも、言うに値するS−酸化無しに、これにより加水分解されることができるように低いことが望ましい。更なる課題は、この触媒のための適した製造方法を提供することであった。第3の課題は、容易に酸化可能な基、例えばチオール−又はチオエーテル基を有するカルボン酸ニトリルに対して、特に相応するヒドロキシニトリルのカルボン酸ニトリルに対して適用可能な、カルボン酸ニトリルのための技術的にたやすく実施可能な加水分解方法であって、但し、この公知の方法の欠点、特に、硫黄の容易な酸化は、起こらないか又は減少された程度でのみ起こる、との条件付きである、加水分解方法を提供することであった。
【0017】
この、並びに、明示はされていないが、本願明細書において議論された関連からたやすく誘導可能な又は推論可能な課題は、請求項1に記載の二酸化マンガンにより、請求項6に記載のその製造方法により、並びに、本発明による触媒を用いた請求項16に記載のニトリルの加水分解方法により解決される。本発明による触媒、並びにその製造方法、及び、その適用方法の、目的に応じた態様及び変形は、請求項1、6、16に従属する下位請求項において保護のもとに提示される。
【0018】
本発明により前記課題は、マンガン少なくとも52質量%、有利にはマンガン少なくとも53質量%、特に有利にはマンガン少なくとも55質量%、及び、更に少なくとも1種のランタニド化合物を含有する、二酸化マンガン触媒が提供されることにより解決される。意外にも、少ない量のランタニドの二酸化マンガン中への取り込みにより、カルボン酸ニトリルの加水分解の際の触媒作用に不利に影響を及ぼすことなく、チオエーテル又はチオール基に対するその不所望な酸化性の作用が極めて減少されることが確認された。
【0019】
特に、前記課題は、一般式:
MnMexyz
[式中、xは、0.05〜0.002の数、yは、0.06〜0.02の数、及びzは1.7〜2.0の数であり、Meは、ランタニドの元素少なくとも1つであり、Mはアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)である]
を有する、かつ、場合により更なる水和水が含有されている、前述の種類の触媒の提供により解決された。
【0020】
本発明により特に適した、ランタニドの群からの元素は、Cer及びランタンである。特に有利には従って、MeがCer及び/又はランタンである触媒である。
【0021】
本発明により修飾される軟マンガン鋼は、外来イオンとしてのランタニドの他に、有利にはリチウム、ナトリウム又はカリウム、特に有利にはカリウムを含有し、これはニトリル鹸化の触媒作用の際の作用のために有利である。特に有利には従って、Mがカリウムである触媒でもある。
【0022】
本発明により修飾された軟マンガン鋼は、比表面積(BET)50〜550m2/g、有利には150〜400m2/g、特に有利には200〜300m2/gを提供し、これは、試験規定DIN66131により算出される。
【0023】
触媒の製造は、簡易であり、かつ、例えば、市販の活性のある二酸化マンガンの、ランタニドの塩の水溶液を用いた処理により行われることができる。本発明による触媒の製造方法は、アルカリ金属含有二酸化マンガンを、水溶液又は懸濁液中の少なくとも1種のランタニド塩と反応させ、この生じる固形物を分離し、場合により洗浄及び乾燥させることにより特徴付けられる。
【0024】
前記の触媒の製造方法は有利には、アルカリ金属含有二酸化マンガンを水溶液又は懸濁液中の少なくとも1種のランタニド塩と、適したモル量比で反応させ、この結果、生じる、所望の組成MnMexyzを有する固形物を得、これを分離し、場合により洗浄及び引き続き乾燥させることにより実施される。
【0025】
活性のある二酸化マンガンは通常は、過マンガン酸カリウムと硫酸マンガン(II)の硫酸溶液との反応により製造され、例えば、EP412310中の実施例1中に挙げられる。ランタニドの塩はしかしながら、この反応溶液の反応の際に既に添加されることもできる。
【0026】
本発明による触媒の有利な製造方法は従って、二酸化マンガンとランタニド塩との反応の前及び/又は間に、アルカリ金属含有二酸化マンガンを、アルカリ金属過マンガン酸塩、有利には過マンガン酸カリウム、及び、硫酸溶液中の硫酸マンガン(II)から直接的に製造することにより特徴付けられる。これは特にコスト的に有利であり、かつこの際、特に活性のある触媒が得られる。
【0027】
アルカリ金属含有二酸化マンガンはこの際、有利には約2モル当量のアルカリ金属過マンガン酸塩及び約3モル当量の硫酸マンガン(II)から製造される。
【0028】
触媒製造のためにこの際、無機のまた同様に有機のランタニド塩が使用されることができ、これは触媒製造を更に簡易化する。
【0029】
無機のランタニド塩の場合には、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩又はリン酸塩が有利には使用され、その際リン酸塩が最良に適している。
【0030】
有機のランタニド塩では、カルボン酸塩、特にギ酸塩又は酢酸塩が有利には使用される。
【0031】
本発明による触媒は、有利にはCer−及び/又はランタンを含有しているので、その製造には有利には、この相応するCer−及び/又はランタン塩が使用される。
【0032】
Cerの三価の塩を用いると、この酸化作用は大抵は減少され、これは従って有利に使用される。しかしながら、Cerの四価の塩も触媒調整のために使用されることができる。
【0033】
有利には従って、三価の及び/又は四価の、Cerの塩が触媒調整のために使用される方法が適用される。
【0034】
使用された二酸化マンガンが、α−二酸化マンガンの結晶変態にある場合に、最も活性のある触媒が得られることも確認された。
【0035】
本発明の更なる本質的な観点は、ニトリルの加水分解のための本発明による触媒の使用である。
【0036】
本発明による触媒はこの際、チオエーテル含有ニトリルの加水分解の際の減少されたスルホキシド形成の他に、また同時に、使用される二酸化マンガン触媒の更なる活性化が、ランタニド塩無しに製造された二酸化マンガン触媒に対して達成されることによっても特徴付けられる。
【0037】
これを、特に、実施例5(ランタニド無しの二酸化マンガン触媒)、実施例6(Cer含有二酸化マンガン触媒)、及び実施例9(ランタン含有二酸化マンガン触媒)の加水分解結果の比較が明らかにする。おおよそ同じ滞留時間の間に、95.3%(実施例5)の反応率が、99.2%(実施例6)又は99.5%(実施例9)に上昇し、この選択率は不所望なスルホキシドに関して、同じ順番で、5.2%から1.1%又は1.9%に減少する。
【0038】
加水分解反応における最良の、この触媒の活性化及びスルホキシド形成の減少化は、触媒を、上述した本発明による方法に応じて、水溶液又は懸濁液中で製造することにより達成される。多かれ少なかれ乾燥した状態での、二酸化マンガンとランタニド塩との混合及び練磨(Verreiben)は、制限された成功のみを生じ、例えばこれは実施例5、6及び7の比較から明らかになっている。
【0039】
チオエーテル(S−R)−又はチオール(S−H)−、有利にはS−R−置換された、一般式R1−CR23−CN
[式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なっていてよく、かつ水素、S−R又はS−H置換された少なくとも1つの炭化水素残基を意味し、かつR3は場合によりヒドロキシル残基であり、その際このそれぞれの炭化水素残基R1、R2、R3は、線状の又は場合により分枝のC1〜C10−アルキル残基、C6〜C10−アリール残基、O、N及び/又はS含有C4〜C8−ヘテロアリール残基又はC7〜C12−アラルキル残基を意味し、かつ、残基Rは線状の又は場合により分枝のC1〜C4−アルキル残基、C6〜C10−アリール残基、O、N及び/又はS含有C4〜C8−ヘテロアリール残基又はC7〜C12−アラルキル残基を意味する]のカルボン酸ニトリルの、相応するカルボン酸アミドへの、上記した本発明による触媒を用いた、触媒による加水分解のための方法が実施されることにより、冒頭部で挙げた課題が解決される。
【0040】
この際有利には、R3がヒドロキル残基でない場合に、S−R−又はS−H−置換された、特にS−R−置換された、R1、R2、R3、Rが、C1〜C4−アルキル、フェニル、ナフチル、フリル、チエニル、イミダゾリル、ピリジル、ピリミジル又はインドリル、ベンジル、又は、ナフチルメチルを意味するカルボン酸ニトリルが使用される。
【0041】
この方法は、条件の正確な選択に応じて、例えば2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−ブチロニトリルの場合に、少なくとも96%〜100%の変換率により優れる。特に、十分に長い反応時間により、少なくとも99%、有利には>99.5%、そして100%までのニトリル変換率が達成されることができる。この際、理論値の<2%の、不所望のS−酸化生成物のための選択率が得られる。特に、チオエーテル基含有カルボン酸ニトリルの加水分解の際には、スルホキシド生成物の不所望な形成の選択率は、顕著に、理論値の2%未満、特に理論値の≦1.1%、そして理論値の≦0.2%までが可能になる。これは、終生成物純度に関して又は顕著に減少した精製の手間に関して特にとりわけ有利である。
【0042】
1回の使用では、この触媒はその有効性を失わない。従って、触媒を、終了した加水分解反応後に、反応溶液から分離し、かつ新たに使用することが問題無しに可能である。この反応は従って、連続的に及び非連続的に実施されることができる。
【0043】
意外にも、この触媒の酸化作用は、加水分解反応のための能力が劣悪化すること無しに、繰り返された使用の場合に更に減少することが見出された。従って、不所望なS−酸化の選択率は、<0.2%にまで減少される。この使用される触媒量は重要でなく、かつ、単に、反応速度に対して影響を有する。
【0044】
特に有利には、この触媒を連続方法で使用することである。この際、ニトリルの加水分解のために、触媒で充填された塔反応器又は懸濁反応器(Suspensionsreaktor)も使用されることができる。連続的に運転される撹拌槽化スケード又は他の当業者に公知の実施形態が選択されることもできる。
【0045】
水は、この加水分解反応の際に溶媒であり、かつ同時に反応物である。この反応は有利には、加水分解の際に、ニトリル1モルにつき水10〜200モル、特に有利には水20〜100モルが使用されるように実施される。特に、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−ブチロニトリルの加水分解の際には、ニトリル1モルにつき水20〜100モルの範囲が有利である。より多くの水の量は、この変換率及び選択率のためには有害ではないものの、この空時収率を減少させる。
【0046】
使用される反応物、及び従って使用されるニトリルの溶解性又は混合能のためにより有利である場合には、特に、少ない水の量で、可溶化剤として不活性な有機溶媒、例えばC1〜C4−アルコール、C3〜C6−ケトン、有利にはアセトンが添加されることができる。
【0047】
本発明による方法が実施される温度は、広い範囲で変動されることができる。有利には、このニトリルの加水分解はしかしながら、10〜90℃の温度で、特に有利には20〜50℃の範囲内の温度で実施される。
【0048】
シアンヒドリンの使用の際には、90℃を上回るより高い温度の適用の際に、シアンヒドリンからのアルデヒド及びシアン水素の再形成が促進され、かつ、不所望の副生成物が形成される。従ってここでは、20〜50℃の温度範囲が特に有利である。
【0049】
この方法は有利には、上で定義した一般式R1−CR23−CN[式中、R3はヒドロキシルである]の、チオエーテル(S−R)−又はチオール(S−H)−置換されたカルボン酸ニトリルの加水分解のために使用される。
【0050】
相応するシアンヒドリン化合物のうちR1−CR2OH−CN[式中、R1、R2及びRは、アルキル残基としてC1〜C4−アルキル残基、アリール残基としてフェニル又はナフチル、ヘテロアリール残基としてフリル、チエニル、イミダゾリル、ピリジル、ピリミジル又はインドリル、そしてアラルキアール残基(Aralkyalrest)としてベンジル又はナフチルメチルである]が特にとりわけ有利である。
【0051】
特に傑出した様式において、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリルの、相応する2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−酪酸アミドへの加水分解のための方法が適する。
【0052】
この方法は更に、硫黄を含有しないシアンヒドリンの加水分解のためにも使用されることができる。
【0053】
アセトンシアンヒドリンを前述した条件下で、本発明による二酸化マンガン触媒を用いてイソ酪酸アミド(メタクリル酸化合物のための重要な前駆体)へと反応させる場合に傑出した収率及び選択率が達成される。この際の利点は特に、同じ触媒を用いてS−R−又はS−H−置換したニトリルもまた同様に非置換のニトリルも加水分解できることにあると理解される。この方法はまた、相次いで硫黄含有ニトリルに対してもまた同様に硫黄を含有しないニトリルに対しても同じ装置中で触媒交換無しに実施されることができ、これは、このような装置の柔軟性のある使用能を有利に高める。
【0054】
以下の実施例は、この方法を、限定すること無しに詳説するものである。
【0055】
触媒の製造:
実施例1:
カリウム含有量1.6%、マンガン含有量55%、粒径範囲3.0〜5.5ミクロン及び230m2/gの表面積を有する市販のα−二酸化マンガン(Erachem社、タイプHSA)30gをCer−III−ホスファート811mgと一緒に、脱塩水300ml中で、24時間60℃で撹拌した。この後で、この固形物をフィルターヌッチェを介して吸引濾過し、3つのポーションにおいて脱塩水1lでもって洗浄した。このようにして製造された触媒を20時間110℃及び50mbarで乾燥させた。この触媒の比表面積は、乾燥後に239m2/gであり、Cer含有量0.97%であった。
【0056】
実施例2:
実施例1を繰り返したが、Cer−III−ホスファートの代わりにCer−IV−スルファート1.15gを使用した。このようにして製造された触媒の比表面積は、乾燥後に266m2/gであった。
【0057】
実施例3:
実施例1を繰り返したが、Cer−III−ホスファートの代わりにランタン−III−ニトラート六水和物1.4gを使用した。このようにして製造された触媒の比表面積は、乾燥後に283m2/gであった。
【0058】
実施例4:
撹拌機及び滴下漏斗を有する丸底フラスコ中で、過マンガン酸カリウム14.2g及びCer−III−ホスファート1.76gを脱塩水550mlと一緒に装入し、85℃に加熱した。2分間のうちに、濃縮された硫酸4.1gを有する脱塩水250ml中のマンガン−II−スルファート10.14gからなる溶液を強力な撹拌下で滴加した。この得られる黒色の懸濁液を、更なる6時間85℃で撹拌した。25℃への冷却後に、この固形物を吸引濾過により分離し、5つのポーションにおいて水2lで洗浄した。この触媒の乾燥を14時間にわたり110℃かつ50mbarで行った。
【0059】
触媒による加水分解反応:
実施例5:比較例(ランタニド無しの二酸化マンガン触媒)
機械的な撹拌機を有する丸底フラスコ中で、変わらないα−二酸化マンガン(ErachemのタイプHSA)2.0g及び脱塩水120gを水浴中で40℃に加熱し、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−ブチロニトリル13.1gを添加した。2時間後に、このシアンヒドリンの変換率は95.3%であった。この反応溶液のHPLC分析は、この2−ヒドロキシ−4−メチルチオ酪酸アミドのスルホキシドに関して5.2%の選択率を生じた。
【0060】
実施例6:
実施例5の試験を繰り返したが、触媒としてCer−III−ホスファートで修飾した、実施例1からの触媒2.0gを使用した。2時間の40℃での反応時間後に、シアンヒドリン99.2%が反応された。スルホキシドに関するこの選択率は1.1%であった。
【0061】
実施例7:
カリウム含有量1.6%及び230m2/gの表面積を有する市販のα−二酸化マンガン(Erachem社のタイプHSA)30gを、Cer−III−ホスファート811mgと混合し、乳鉢中で微細に粉砕した。この混合物2.0gを触媒として、水120gと一緒に2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−ブチロニトリル13.1gの加水分解の際に、40℃の温度で使用した。2時間後に、シアンヒドリンの96.8%が反応された。不所望のスルホキシドに関するこの選択率は4.2%であった。
【0062】
実施例8:
実施例5の試験を繰り返したが、触媒として、Cer−IV−スルファートで修飾された、実施例2からの触媒2.0gを使用した。2時間の反応時間後に、45℃で、シアンヒドリン99.6%が反応された。スルホキシドに関する選択率は、1.9%であった。
【0063】
実施例9:
実施例5の試験を繰り返したが、触媒として、硝酸ランタンで修飾された、実施例3からの触媒2.3gを使用した。2.5時間の反応時間後に、35℃で、シアンヒドリンの99.5%が反応された。スルホキシドに関する選択率は、1.9%であった。
【0064】
実施例10:
試験系列において、前記触媒を再利用した。このために、機械的撹拌機を有する丸底フラスコ中に、実施例1に応じて修飾された二酸化マンガン2.0gを、脱塩水120gと一緒に水浴中で、40℃に加熱し、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−ブチロニトロリル13.1gを添加した。2.5時間後にシアンヒドリンの変換率は99.8%であった。スルホキシドに関するこの選択率は1.1%であった。この後にこの触媒を濾別し、新たに、加水分解反応の際に同じ条件下で使用した。この工程を、更なる5回実施した。この後に、シアンヒドリン変換率は更に、99.8%であり、スルホキシドに関するこの選択率は、0.2%に減少した。
【0065】
実施例11比較例(JP 09104665、実施例2に応じて)
ガラスカラム(直径1cm、長さ10cm)を、二酸化マンガン触媒(JP 09104665、実施例1に応じて製造)10gで充填した。10質量%の2−ヒドロキシ−4−メチルブチロニトリル水溶液を、10g/hでもって40℃で向流においてこのカラムを通じてポンプ供給した。この流出する溶液をHPLCを用いて分析した。この使用時間は、反応の開始時から100時間であった。この際、理論値の96.1%のニトリル変換率、理論値の79.8%のアミド収率(=83.0%選択率)及びMHAアミド−スルホキシドの理論値の1.5%の収率(=1.6%選択率)が得られた。100%のニトリル変換率の際に少なくとも99.1%である、JP09104665、実施例2中に挙げられたアミド収率は、確認されることができなかった。この収率はちょうど15%の水性2−ヒドロキシ−4−メチルブチロニトリルの使用の際に更に減少し、というのもこの際、油状の、主としてニトリルを含有する第二の相が析出し、これが触媒を被覆し、かつ、同程度の変換率が妨げられるからである。
【0066】
同様に実施されるバッチ試験において、二酸化マンガン触媒(JP 09104665、実施例1に応じて製造)2gを、10質量%の水溶液としての2−ヒドロキシ−4−メチルブチロニトリル0.1モルと一緒に、40℃で3.5時間のうちに反応させた。このアミド収率は、理論値の81.6%(=84.1%選択率)、ニトリル変換率は理論値の97.0%であった。MHA−アミド−スルホキシドに関する収率は、使用されるニトリルに対して、理論値の4.0%(=4.1%選択率)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン少なくとも52質量%及び更に少なくとも1種のランタニド化合物並びにリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム又はセシウムを含有し、かつBETによる比表面積50〜500m2/を提供する、二酸化マンガン触媒。
【請求項2】
一般式:
MnMexyz
[式中、xは、0.05〜0.002の数、yは、0.06〜0.02の数、そしてzは1.7〜2.0の数であり、Meは、ランタニドの少なくとも1つの元素であり、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの群からのアルカリ金属である]の、場合により更なる水和水が含有されている
請求項1記載の触媒。
【請求項3】
Meが、Cer及び/又はランタンであることを特徴とする、請求項2記載の触媒。
【請求項4】
Mがカリウムであることを特徴とする、請求項2又は3記載の触媒。
【請求項5】
比表面積(BET)が150〜400m2/gであることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項6】
アルカリ金属含有二酸化マンガンを、水溶液又は懸濁液中の少なくとも1種のランタニド塩と反応させ、この生じる固形物を分離し、場合により洗浄及び乾燥させることを特徴とする、請求項1記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
アルカリ金属含有二酸化マンガンを、水溶液又は懸濁液中の少なくとも1種のランタニド塩と適したモル量比で反応させ、組成MnMexyzを有するこの生じる固形物を得、分離し、場合により洗浄及び乾燥させることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項8】
アルカリ金属含有二酸化マンガンを、この反応前及び/又は間に、アルカリ金属過マンガン酸塩及び硫酸溶液中の硫酸マンガン(II)から製造することを特徴とする、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
アルカリ金属含有二酸化マンガンを、約2モル当量のアルカリ金属過マンガン酸塩及び約3モル当量の硫酸マンガン(II)から製造することを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
無機の又は有機のランタニド塩を使用することを特徴とする、請求項6から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
ランタニドのハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩又はリン酸塩を使用することを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
ランタニドのカルボン酸塩、特に、ギ酸塩又は酢酸塩を使用することを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
Cer−及び/又はランタン塩を使用することを特徴とする、請求項6から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
三価の及び/又は四価の、Cerの塩を使用することを特徴とする、請求項6から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
二酸化マンガンが、α−二酸化マンガンの結晶変態にあることを特徴とする、請求項6又は7記載の方法。
【請求項16】
一般式R1−CR23−CN
[式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なっていることができ、かつ水素、少なくとも1つのS−R−又はS−H−置換された炭化水素残基を意味し、かつ、R3は場合によりヒドロキシル残基である、
その際、それぞれの炭化水素残基R1、R2、R3は、線状の又は場合により分枝のC1〜C10−アルキル残基、C6〜C10−アリール残基、O−、N−及び/又はS−含有C4〜C8−ヘテロアリール残基又はC7〜C12−アラルキル残基を意味し、かつ残基Rは線状の又は場合により分枝のC1〜C4−アルキル残基、C6〜C10−アリール残基、O−、N−及び/又はS−含有C4〜C8−ヘテロアリール残基又はC7〜C12−アラルキル残基を意味する]
のカルボン酸ニトリルの、相応するカルボン酸アミドへの触媒による加水分解のための方法であって、この加水分解を、請求項1から5までのいずれか1項記載の触媒を用いて実施することを特徴とする、カルボン酸ニトリルの、相応するカルボン酸アミドへの触媒による加水分解のための方法。
【請求項17】
1、R2、R3、Rが、C1〜C4−アルキル、フェニル、ナフチル、フリル、チエニル、イミダゾリル、ピリジル、ピリミジル、インドリル、ベンジル、又は、ナフチルメチルを意味するカルボン酸ニトリルを使用する、但し、R3はヒドロキル残基でないとの条件付きである、ことを特徴とする、請求項16記載の方法。
【請求項18】
3がヒドロキシルを意味するカルボン酸ニトリルを使用することを特徴とする、請求項16記載の方法。
【請求項19】
1、R2、Rが、C1〜C4−アルキル、フェニル、ナフチル、フリル、チエニル、イミダゾリル、ピリジル、ピリミジル又はインドリル、ベンジル又はナフチルメチルを意味するカルボン酸ニトリルを使用することを特徴とする、請求項18記載の方法。
【請求項20】
2−ヒドロキシ−4−メチルチオ−ブチロニトリルを加水分解のために使用することを特徴とする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
触媒を、反応終了後に、反応溶液から分離し、かつ、新たに使用することを特徴とする、請求項16から20までのいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
触媒を、連続方法において使用することを特徴とする、請求項16から21までのいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
ニトリルの加水分解のために塔反応器又は懸濁反応器を使用することを特徴とする、請求項22記載の方法。
【請求項24】
加水分解の際に、ニトリル1モルあたり水10〜200モルを使用することを特徴とする、請求項16から23までのいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
ニトリルの加水分解を、不活性な有機溶媒の存在下で実施することを特徴とする、請求項16から24までのいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
ニトリルの加水分解を、10〜90℃の温度で実施することを特徴とする、請求項16から25までのいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
アセトンシアンヒドリンの、イソ酪酸アミドへの触媒による加水分解のための方法であって、この加水分解を、請求項1から5までのいずれか1項記載の触媒を用いて実施することを特徴とする、アセトンシアンヒドリンの、イソ酪酸アミドへの触媒による加水分解のための方法。
【請求項28】
有機カルボン酸ニトリルの、相応するカルボン酸への加水分解のための、請求項1から5までのいずれか1項記載の触媒の使用。

【公表番号】特表2009−511241(P2009−511241A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533980(P2008−533980)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際出願番号】PCT/EP2006/066820
【国際公開番号】WO2007/039536
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】