説明

カルボン酸系重合体の製造方法

【課題】レドックス開始剤の濃度が低い場合でも速やかにカルボン酸系重合体の重合を進行させるようにする。
【解決手段】α−不飽和カルボン酸及び/又はその塩を含有するモノマーの水溶液、亜硫酸塩を含有する水溶液、並びに酸素を含有するガスを用いてモノマーを重合させるカルボン酸系重合体の製造方法であって、反応液に導入された亜硫酸塩の濃度が0.001〜0.05mol/L、該反応液のpHが5.0〜10.0、及び重合率が10%以上の状態を反応履歴に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルボン酸系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸系重合体は、洗剤用ビルダー、分散剤、スケール防止剤等として好適に使用されている。
【0003】
かかるカルボン酸系重合体の製造方法として、特許文献1及び2には、第1重合反応工程において、α−不飽和カルボン酸又はその塩を含有するpH5〜9のモノマーの水溶液、亜硫酸塩を含有する水溶液、及び酸素を含有するガスを流通式混合器に導入してモノマーを重合させ、 第2重合反応工程において、第1重合反応工程で得られた未反応のモノマーを含有する反応生成物を更に重合させるカルボン酸系重合体の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献3には、アクリル酸系モノマーを、重合系のpHを6〜9の範囲に保ちながら水溶液重合法により重合させることが開示されている。
【0005】
特許文献4には、アクリル酸単量体又はアクリル酸塩単量体を主体とするアクリル系単量体を水性媒体中で重合させてポリアクリル系重合体を連続的に製造するにあたり、第1反応器として槽型反応器である連続反応装置を用い、その第1反応器における反応液のpH値を3.5以下に管理することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−252911号公報
【特許文献2】特開2008−120939号公報
【特許文献3】特開平5−86125号公報
【特許文献4】特開2003−40912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、モノマー及びレドックス開始剤を供給しながら半回分操作でカルボン酸系重合体を製造する場合、レドックス開始剤の濃度が低い初期段階の重合反応に関して上記特許文献1〜4にはpH等の重合条件が開示されていない。
【0008】
半回分操作で重合体を製造する際に初期段階の重合反応が速やかに進行しない場合、反応中期で急激な重合反応を起こすことがある。このため重合物の分子量や分子量分布が制御できなくなるだけでなく、重合による発熱で反応槽の温度が上昇して温度制御が不能となる危険性がある。
【0009】
本発明の課題は、レドックス開始剤の濃度が低い場合でも速やかにカルボン酸系重合体の重合を進行させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、α−不飽和カルボン酸及び/又はその塩を含有するモノマーの水溶液、亜硫酸塩を含有する水溶液、並びに酸素を含有するガスを用いてモノマーを重合させるカルボン酸系重合体の製造方法であって、反応液に導入された亜硫酸塩の濃度が0.001〜0.05mol/L、該反応液のpHが5.0〜10.0、及び重合率が10%以上の状態を反応履歴に有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反応液に導入された亜硫酸塩の濃度が0.001〜0.05mol/L、該反応液のpHが5.0〜10.0、及び重合率が10%以上の状態を反応履歴に有することにより、速やかにカルボン酸系重合体の重合を進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】循環型反応装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態では、亜硫酸塩と酸素を含むガスとからなるレドックス開始剤を用いた半回分操作の場合を例示するが、特にこれに限定されるものではない。
【0014】
(循環型反応装置)
図1は、本実施形態に係るカルボン酸系重合体(以下、「重合体」という。)の製造方法において用いることができる循環型反応装置10の一例を示す。
【0015】
上記循環型反応装置10は、撹拌機能及び温度調節機能を有する反応槽11に、外部循環ライン12の両端が接続されている。外部循環ライン12には循環ポンプ13(送液手段)が介設されており、この循環ポンプ13が反応槽11内の反応液を槽下部から槽上部に向かって外部循環ライン12内を送液することにより循環させる。
【0016】
外部循環ライン12には、循環ポンプ13の下流側に、亜硫酸塩供給源から延びた亜硫酸塩供給管14及び酸素含有ガス供給源(例えば、コンプレッサーやブロアー設備等)から延びた酸素含有ガス供給管15がそれぞれ接続されている。この亜硫酸塩供給管14が反応液に対して亜硫酸塩を溶解した水溶液を供給すると共に酸素含有ガス供給管15が反応液に対して酸素を含有するガスを供給することにより、反応液に対して亜硫酸塩と酸素とからなるレドックス開始剤を供給する。従って、これらの亜硫酸塩供給管14及び酸素含有ガス供給管15が重合開始剤供給手段を構成する。
【0017】
外部循環ライン12には、亜硫酸塩供給管14及び酸素含有ガス供給管15の接続部が上流側に配置されるように流通式混合器16が介設されている。この流通式混合器16が外部循環ライン12を流通する反応液と酸素含有ガスとの気液混合を行う。このように流通式混合器16の上流側に酸素含有ガス供給管15の接続部が配置されていることにより、気液の分散性を高めると共に循環する反応液への酸素の溶解性を高めることができる。
【0018】
流通式混合器16としては、例えば、スタティックミキサー、オリフィスミキサー等の静止型混合器;エジェクター等の噴流ノズル;ラインミキサー等の管路攪拌機等が挙げられる。これらの中では、少ないガス量においても高い混合性能を発揮させることができる観点及び設備の耐久性、メンテナンス等の観点から、静止型混合器が好ましい。静止型混合器としては例えば「分散君」(株式会社フジキン社製)を好ましく用いることができる。
【0019】
外部循環ライン12には、流通式混合器16の下流側の部分に、熱交換器17が設けられている。この熱交換器17が外部循環ライン12における流通式混合器16よりも下流側の部分を流通する気液混合流体の温度調節を行う。
【0020】
外部循環ライン12には、流通式混合器16の下流側に、コントロールバルブ18が設けられている。このコントロールバルブ18が外部循環ライン12における流通式混合器16よりも下流側の部分を流通する気液混合流体の流量を調節することにより、気液混合流体にかける循環ライン戻り部圧力を設定する。
【0021】
反応槽11には、その槽上部に、モノマー供給源から延びたモノマー供給管19が接続されている。このモノマー供給管19が反応槽11内の反応液に対してモノマーを供給する。従って、このモノマー供給管19がモノマー供給手段を構成する。
【0022】
なお、上記循環型反応装置10において、反応槽11や外部循環ライン12には、モノマーを中和する中和剤を供給するための中和剤供給ラインが設けられていてもよい。
【0023】
(重合体の製造方法)
本実施形態に係る重合体の製造方法は、上記循環型反応装置10を用い、反応槽11内における反応系中の反応液に対して、モノマー供給管19からモノマーを連続供給又は間欠供給すると共に、亜硫酸塩供給管14からの亜硫酸塩及び酸素含有ガス供給管15からの酸素からなるレドックス開始剤を連続供給することにより、モノマーを重合させて半回分操作により重合体を製造するものである。
【0024】
そして、反応液に導入された亜硫酸塩の濃度が0.001〜0.05mol/L、該反応液のpHが5.0〜10.0、及び重合率が10%以上の状態を反応履歴に有する。上記重合率は15%以上がより好ましく、20%以上が更に好ましく、40%以上が特に好ましい。
【0025】
これにより、反応液に導入された亜硫酸塩の濃度が0.001〜0.05mol/Lであるといった半回分操作での初期段階のようにレドックス開始剤の濃度が低い場合であっても、反応液のpHが5.0〜10.0であれば重合開始が容易化されるものと考えられ、一旦、重合が開始して重合率が10%以上となれば、その後は速やかに重合体の重合を進行させることができる。
【0026】
上記状態は、亜硫酸塩の濃度が0.001〜0.05mol/Lの全範囲において実現される必要はない。従って、亜硫酸塩の濃度が0.001〜0.05mol/Lの範囲における少なくとも一時において、反応液のpHが5.0〜10.0、及び重合率が10%以上という状態が実現されればよく、その場合、その他の濃度においては反応液のpHが5.0〜10.0の範囲から外れてもよい。但し、重合体の重合をより速やかに進行させる観点からは、反応液に導入された亜硫酸塩の濃度が0.001〜0.05mol/Lであるとき、反応液のpHを5.0〜10.0に制御することが好ましい。
【0027】
上記状態は、反応液に、モノマー、亜硫酸塩、及び酸素のうち少なくとも1つを添加しつつ混合する操作過程において実現されてもよく、また、その添加混合操作後の熟成過程において実現されてもよい。
【0028】
ここで、反応液に導入された亜硫酸塩の濃度は、反応のある時点における反応液の総体積をA(L)とし、その時点までに反応液に導入した亜硫酸塩の総モル数をB(mol)としたときに、B/A(mol/L)として求められる。また、重合体の重合率は下記式(1)で表される。
【0029】
【数1】

【0030】
半回分操作での重合初期段階においては反応液に導入されたモノマーの濃度は、例えば0.1〜2.0mol/Lである。反応液に導入されたモノマーの濃度は、反応のある時点における反応液の総体積をA(L)とし、その時点までに反応液に導入したモノマーの総モル数をC(mol)としたときに、C/A(mol/L)として求められる。
【0031】
<モノマー>
モノマーは反応液に対してモノマー水溶液として供給する。
【0032】
モノマーは、反応原料であって、α−不飽和カルボン酸及び/又はその塩である。α−不飽和カルボン酸及び/又はその塩の中では、単独重合又は共重合に適しているということから、アクリル酸及び/又はその塩を必須成分とするモノマーが好ましい。アクリル酸は、無水アクリル酸又はアクリル酸を60質量%以上を含有するアクリル酸水溶液として用いることができる。アクリル酸水溶液は、一部乃至全部を中和したアクリル酸アルカリ金属塩の水溶液、例えば、アクリル酸ナトリウム水溶液、アクリル酸カリウム水溶液等であってもよい。
【0033】
モノマーには、α−不飽和カルボン酸及び/又はその塩と共重合可能な親水性モノマー、例えば、マレイン酸、アクリルアミド、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が含有されていてもよい。全モノマーにおける親水性モノマーの含有量は、重合反応速度を高めると共に、分子量の制御を容易にする観点から0〜30モル%とすることが好ましい。
【0034】
モノマー水溶液中のモノマー濃度は、10〜100質量%とすることが好ましく、30〜100質量%とすることがより好ましい。
【0035】
モノマー水溶液の温度は、水溶液として取り扱う観点から5℃以上、また、反応開始前のモノマーの重合を抑制する観点から30℃以下とすることが好ましい。これらの観点から、モノマー水溶液の温度は5〜30℃とすることが好ましい。なお、マレイン酸を共重合させる場合、マレイン酸塩を水溶液として用いるときには、そのマレイン酸塩水溶液の温度は50〜90℃とすることが好ましい。
【0036】
モノマー水溶液には、その他にpH調整剤等が含まれていてもよい。
【0037】
<レドックス開始剤>
レドックス開始剤は、亜硫酸塩と酸素とからなる。亜硫酸塩は反応液に対して亜硫酸塩水溶液として供給する。酸素は反応液に対して酸素含有ガスとして供給する。
【0038】
亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素マグネシウム等が挙げられる。これらの中では、還元作用の強い亜硫酸水素ナトリウムが好ましい。
【0039】
亜硫酸塩水溶液中の亜硫酸塩の濃度は、生産性の観点から1〜40質量%とすることが好ましく、20〜40質量%とすることがより好ましい。
【0040】
亜硫酸塩水溶液の供給量は、使用用途に適した分子量の制御を容易にすると共に、亜硫酸塩とα−不飽和カルボン酸及び/又はその塩との付加反応物質(以下、「付加物」という。)の生成を抑制する観点から、モノマー1モルに対して亜硫酸イオン(HSO)0.008〜0.1モルとなる量とすることが好ましい。
【0041】
亜硫酸塩水溶液には、その他にpH調整剤等が含まれていてもよい。
【0042】
また、酸素含有ガスとしては、一般的に空気が挙げられるものの、純酸素や純酸素を不活性ガスで希釈したガスであってもよい。
【0043】
酸素含有ガス中の酸素濃度は、亜硫酸塩との反応性の観点から10容量%以上とすることが好ましく、20容量%以上とすることがより好ましい。また、反応を安定化させる観点からは、酸素含有ガスを定圧且つ定容量で供給することが好ましい。
【0044】
外部循環ライン12を有する循環型反応装置10を用いて反応をおこなう場合、外部循環ライン12に導入される反応流体における単位時間当たりの反応液流量に対する酸素含有ガス流量の比(酸素含有ガスの標準状態(273K、101.3kPa)の体積を反応液の体積で除した値(以下、「液ガス比」という。)は、反応液に対する酸素含有ガスの溶解度を高め、開始剤効率の高い重合反応を行う観点から0.1以上とすることが好ましく、0.5以上とすることがより好ましい。一方、混合部における圧力損失を低減させると共に酸素含有ガスを供給するコンプレッサー等の酸素含有ガス供給源の負荷を低減する観点から50以下とすることが好ましく、20以下とすることがより好ましい。これらの観点から、液ガス比は0.1〜50とすることが好ましく 、0.5〜20 とすることがより好ましい。
【0045】
<反応液のpH制御>
本実施形態に係る重合体の製造方法では、上記の通り、重合体の重合をより速やかに進行させる観点から、反応液に導入された亜硫酸塩の濃度が0.001〜0.05mol/Lであるとき、該反応液のpHを5.0〜10.0に制御することが好ましく、5.5〜10.0に制御することがより好ましく、5.5〜9.5に制御することが好ましく、6.0〜9.5に制御することが特に好ましい。
【0046】
pH制御手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、モノマー水溶液及び/又は亜硫酸塩水溶液のpH調整を予め行っておく手段、反応液にpH調整剤を添加する手段等が挙げられる。
【0047】
<モノマー供給時間>
モノマー供給時間は、反応による発熱制御の観点から0.5時間以上とすることが好ましく、1時間以上とすることがより好ましい。また生産性の観点から50時間以下とすることが好ましく、30時間以下とすることがより好ましい。
【0048】
<反応温度>
反応温度は、重合体の分子鎖の分岐や色相劣化を抑制すると共に付加物の生成を抑制する観点から50℃以下とすることが好ましく、45℃以下とすることがより好ましい。一方、得られる反応生成物を重合体水溶液として取扱う観点から20℃以上とすることが好ましく、25℃以上とすることがより好ましい。これらの観点から、反応温度は20〜50℃とすることが好ましく、25〜45℃とすることがより好ましい。
【0049】
<原料供給方法>
モノマー及び/又はレドックス開始剤の反応原料は、反応液へ一定の供給速度で供給してもよく、また、半回分式操作では反応後期に反応液が増粘してガス中の酸素の反応液への溶解速度が低下し、反応液中のモノマー濃度が増加する場合があるため、途中で供給速度を変更してもよい。反応原料の供給速度を途中で変更する場合は、反応初期から段階的に供給速度を低下させることが好ましい。
【0050】
<重合体>
得られる重合体の重合率は98%以上であることが好ましい。
【0051】
また、かかる高い重合度の重合体が得られるという観点から、モノマー及びレドックス開始剤の供給を停止した後、反応液を熟成させて未反応モノマーの低減を図ることが好ましい。熟成時間は例えば1〜10時間である。
【0052】
未反応モノマーの含有量は、重合体の品質及び収率を高める観点から、重合体固形分に対して1.5 質量%以下であることが好ましく、1.0 質量%以下であることがより好ましい。また、付加物の含有量は、重合体の品質及び収率を高める観点から、重合体固形分に対して4.0質量%以下であることが好ましい。なお、未反応モノマーの含有量及び付加物の含有量は、重合体水溶液についてHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による測定を行い、既知濃度の未反応モノマー及び付加物の検量線に基づいて求められる濃度から算出することができる。
【0053】
重合体の重量平均分子量(Mw)は、分散性及び吸着性を高める観点から、通常、1000〜100000であることが好ましく、重合体を洗剤用ビルダー、分散剤、スケール防止剤等に用いる場合には2000〜30000 であることが好ましい。また、分子量分布の指標となる下記式(2)で表される分散指数は7以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。
【0054】
【数2】

【0055】
(その他の実施形態)
本実施形態では、亜硫酸塩と酸素を含むガスとからなるレドックス開始剤を用いた半回分操作の場合を示したが、特にこれに限定されるものではなく、回分操作で重合する場合、連続操作で重合する場合であってもよい。
【実施例】
【0056】
以下の実施例1〜5及び比較例1の重合体の製造を行った。それぞれの結果については表1にも示す。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例1)
撹拌機、温度計、冷却機、空気導入管、pH計、及び滴下ノズルを具備した容量1Lのフラスコを準備し、それに水306gを仕込んで25℃の水浴中に保持した。また、容量100mlのビーカーを準備し、それに98%アクリル酸27.8g(0.378mol)と水34.1gとを仕込んで混合液とし、さらに、氷冷下で50%水酸化ナトリウム29.4gを加えることによりpHを6.4としたモノマー水溶液を調製した。
【0059】
そして、フラスコ内の水に空気導入管より空気を1L/minの割合で吹き込みながら、モノマー水溶液を定量ポンプにより45分で滴下した。また、それと同時に、10%亜硫酸水素ナトリウム水溶液14.9gを別の定量ポンプにより45分で滴下した。
【0060】
モノマー水溶液及び亜硫酸水素ナトリウム水溶液の滴下終了後、空気導入管より空気を1L/minの割合で吹き込みながら反応液の入ったフラスコを水浴中に30分間保持して熟成を行った。
【0061】
滴下終了時までに反応液に導入されたモノマーの濃度は0.92mol/Lである。
【0062】
反応液に導入された亜硫酸水素ナトリウムの濃度は、滴下開始から15分後が0.014mol/L、滴下開始から30分後が0.025mol/L、及び滴下開始から45分後の滴下終了時が0.035mol/Lである。
【0063】
反応液のpHは、モノマー水溶液及び亜硫酸水素ナトリウム水溶液の滴下前が8.8、滴下開始から15分後が6.7、滴下開始から30分後が6.8、滴下開始から45分後の滴下終了時が6.9、及び30分の熟成終了時が7.2であった。
【0064】
滴下中、滴下終了時、及び熟成終了時のそれぞれの水溶液について、HPLCによる測定を行い、既知濃度の未反応モノマーの検量線に基づいて求めた水溶液中の未反応モノマーの濃度からその含有量を算出し、上記式(1)に基づいて重合体の重合率を求めた(他の実施例等も同様)。
【0065】
重合体の重合率は、滴下開始から30分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.025mol/L、pH6.8)が46.2%、滴下開始から45分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.035mol/L、pH6.9)の滴下終了時が59.1%、及び30分の熟成終了時(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.035mol/L、pH7.2)が88.0%であった。
【0066】
なお、HPLCの測定条件は以下の通りとした。
・カラム:東ソー社製 商品名:TSK-GEL ODS-80TS
・移動相:0.02mol/Lリン二水素カリウムにリン酸を加えてpHを2.5に調整した水溶液
・検出器:紫外線検出器(波長:210nm)
・カラム温度:30℃
・流速:1.0mL/min
・試料:固形分0.8gを含む重合体水溶液にイオン交換水を添加し、総液量が200mLとなるように調製し、この調製液から10μLを分取してカラムに注入した。
【0067】
(実施例2)
モノマー水溶液として、98%アクリル酸27.0g(0.367mol)と水34.1gとの混合液に、氷冷下で50%水酸化ナトリウム29.3gを加えることによりpHを8.1としたものを用い、また、10%亜硫酸水素ナトリウム水溶液の滴下量を15.3gとしたことを除いて実施例1と同様にして重合体を製造した。
【0068】
滴下終了時までに反応液に導入されたモノマーの濃度は0.89mol/Lである。
【0069】
反応液に導入された亜硫酸水素ナトリウムの濃度は、滴下開始から15分後が0.014mol/L、滴下開始から30分後が0.026mol/L、及び滴下開始から45分後の滴下終了時が0.036mol/Lである。
【0070】
反応液のpHは、モノマー水溶液及び亜硫酸水素ナトリウム水溶液の滴下前が8.9、滴下開始から15分後が7.2、滴下開始から30分後が7.6、滴下開始から45分後の滴下終了時が7.7、及び30分の熟成終了時が8.1であった。
【0071】
重合体の重合率は、滴下開始から30分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.26mol/L、pH7.6)が61.2%、滴下開始から45分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.036mol/L、pH7.7)の滴下終了時が76.5%、及び30分の熟成終了時(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.036mol/L、pH8.1)が97.4%であった。
【0072】
(実施例3)
撹拌機、温度計、冷却機、空気導入管、pH計、及び滴下ノズルを具備した容量1Lのフラスコを準備し、それに水643gを仕込んで25℃の水浴中に保持した。また、容量200mlのビーカーを準備し、それに80%アクリル酸32.5g(0.361mol)と水11.1gとを仕込んで混合液とし、さらに、氷冷下で32%水酸化ナトリウム43.4gを加えることによりpHを6.5としたモノマー水溶液を調製した。また同様に、80%アクリル酸61.0g(0.677mol)と水20.9gとを仕込んで混合液とし、さらに、氷冷下で32%水酸化ナトリウム20.8gを加えることによりpHを4.0としたモノマー水溶液を調製した。
【0073】
フラスコ内の水に空気導入管より空気を1L/minの割合で吹き込みながら、pH6.5に調整したモノマー水溶液を定量ポンプにより20分で滴下した後に、pH4.0に調整したモノマー水溶液を定量ポンプにより25分で滴下した。また、それと同時に、20%亜硫酸水素ナトリウム水溶液16.4gを別の定量ポンプにより45分で滴下した。
【0074】
モノマー水溶液及び亜硫酸水素ナトリウム水溶液の滴下終了後、空気導入管より空気を1L/minの割合で吹き込みながら反応液の入ったフラスコを水浴中に30分間保持して熟成を行った。
【0075】
滴下終了時までに反応液に導入されたモノマーの濃度は1.22mol/Lである。
【0076】
反応液に導入された亜硫酸水素ナトリウムの濃度は、滴下開始から10分後が0.008mol/L、滴下開始から20分後が0.016mol/L、滴下開始から30分後が0.025mol/L、及び滴下開始から45分後の滴下終了時が0.037mol/Lである。
【0077】
反応液のpHは、モノマー水溶液及び亜硫酸水素ナトリウム水溶液の滴下前が5.0、滴下開始から10分後が5.8、滴下開始から20分後が6.3、滴下開始から30分後が4.6、滴下開始から45分後の滴下終了時が4.2、及び30分の熟成終了時が4.2であった。
【0078】
重合体の重合率は、滴下開始から10分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.008mol/L、pH5.8)が0%、滴下開始から20分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.016mol/L、pH6.3)が12.5%、滴下開始から30分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.025mol/L、pH4.6)が18.3%、滴下開始から45分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.037mol/L、pH4.2)の滴下終了時が14.5%、及び30分の熟成終了時(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.037mol/L、pH4.2)が15.0%であった。
【0079】
(実施例4)
80%アクリル酸38.9g(0.432mol)と水13.3gとを仕込んで混合液とし、さらに、氷冷下で32%水酸化ナトリウム33.9gを加えることによりpHを5.0としたモノマー水溶液を20分で滴下した後に、80%アクリル酸39.3g(0.436mol)と水13.3gとを仕込んで混合液とし、さらに、氷冷下で32%水酸化ナトリウム53.3gを加えることによりpHを7.0としたモノマー水溶液を25分で滴下し、また、20%亜硫酸水素ナトリウム水溶液の滴下量を15.3gとしたことを除いて実施例2と同様にして重合体を製造した。
【0080】
滴下終了時までに反応液に導入されたモノマーの濃度は1.02mol/Lである。
【0081】
反応液に導入された亜硫酸水素ナトリウムの濃度は、滴下開始から10分後が0.008mol/L、滴下開始から20分後が0.016mol/L、滴下開始から30分後が0.023mol/L、及び滴下開始から45分後の滴下終了時が0.035mol/Lである。
【0082】
反応液のpHは、モノマー水溶液及び亜硫酸水素ナトリウム水溶液の滴下前が5.0、滴下開始から10分後が4.3、滴下開始から20分後が4.3、滴下開始から30分後が4.6、滴下開始から45分後の滴下終了時が5.0、及び30分の熟成終了時が5.6であった。
【0083】
重合体の重合率は、滴下開始から10分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.008mol/L、pH4.3)が0%、滴下開始から20分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.016mol/L、pH4.3)が0%、滴下開始から30分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.023mol/L、pH4.6)が0%、滴下開始から45分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.035mol/L、pH5.0)の滴下終了時が11.8%、及び30分の熟成終了時(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.035mol/L、pH5.6)が66.1%であった。
【0084】
(実施例5)
図1と同様の構成の外部循環ライン12を付帯した300Lの反応槽11を備えた循環型反応装置10を用いた。外部循環ライン12には、液の流れ方向に順に、循環ポンプ13、流通式混合器16としての静止型混合器(株式会社フジキン社製、商品名:分散君15D型、流路孔の縮流部流路内径3mm、2ユニット)、熱交換器17、及びコントロールバルブ18が付帯していた。外部循環ライン12の循環ポンプ13と流通式混合器16との間には、酸素含有ガス供給管15及び亜硫酸塩供給管14が接続されていた。反応槽11には、傾斜パドル撹拌翼が付帯し、また、モノマー供給管19が接続されていた。
【0085】
反応槽11にイオン交換水68.6kgを仕込んだ後に、反応槽11の傾斜パドル撹拌翼の撹拌回転数を135rpmに、また循環する反応液流量Qを400L/hにそれぞれ設定し、槽内の液温を35℃に調整した。
【0086】
反応槽11に、モノマー供給管19から濃度98質量%のアクリル酸を3.7kg/hで、また濃度50質量%の苛性ソーダを3.9kg/hでそれぞれ一定速度で供給した。同時に外部循環ライン12に、亜硫酸塩供給管14から35質量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を0.68kg/hで、また酸素含有ガス供給管15から酸素含有ガスとして空気を2,200NL/hでそれぞれ一定速度で供給し、モノマー供給時間Tを14時間として重合反応を行った。外部循環ライン12に導入される反応流体における単位時間当たりの反応液流量に対する標準状態での酸素含有ガス流量の体積比は5.5であった。循環ライン戻り部圧力による気液混合流体への加圧は行わなかった。この間、槽内の液温は35℃に制御した。
【0087】
続いて同じ35℃の温度で2時間の熟成反応を行ない重合反応を終了した。反応液の全液量V(モノマー供給時間中の平均値)は127Lであったことから、単位時間あたりの平均循環回数Nは3.1回/hであり、従って、モノマー供給時間における反応液の平均循環回数は44回であった。
【0088】
反応液に導入された亜硫酸水素ナトリウムの濃度は、滴下開始1時間後が0.030mol/L、滴下開始2時間後が0.054mol/L、滴下開始から14時間後の滴下終了時が0.17mol/Lである。また反応液に導入されたモノマー濃度は、滴下開始1時間後が0.65mol/L、滴下開始2時間後が1.18mol/L、滴下終了時が3.82mol/Lである。
【0089】
反応液のpHは、モノマー水溶液及び亜硫酸水素ナトリウム水溶液の滴下前が8.2、滴下開始から1時間後が7.9、滴下開始から2時間後が7.2、滴下開始から14時間後の滴下終了時が6.5、及び2時間の熟成終了時が6.6であった。
【0090】
重合体の重合率は、滴下開始2時間後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.054mol/L、pH7.2)が91.4%、滴下終了時(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.17mol/L、pH6.5)が99.1%、熟成終了時(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.17mol/L、pH6.6)が99.9%であった。
【0091】
(比較例1)
モノマー水溶液として、98%アクリル酸30.0g(0.408mol)と水36.9gとの混合液に、氷冷下で50%水酸化ナトリウム24.2gを加えることによりpHを5.2としたものを用い、また、10%亜硫酸水素ナトリウム水溶液の滴下量を16.1gとしたことを除いて実施例1と同様にして重合体を製造した。
【0092】
滴下終了時までに反応液に導入されたモノマーの濃度は0.99mol/Lである。
【0093】
反応液に導入された亜硫酸水素ナトリウムの濃度は、滴下開始から15分後が0.016mol/L、滴下開始から30分後が0.028mol/L、及び滴下開始から45分後の滴下終了時が0.037mol/Lである。
【0094】
反応液のpHは、モノマー水溶液及び亜硫酸水素ナトリウム水溶液の滴下前が8.9、滴下開始から15分後が5.0、滴下開始から30分後が4.8、滴下開始から45分後の滴下終了時が4.6、及び30分の熟成終了時が4.7であった。
【0095】
重合体の重合率は、滴下開始から30分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.028mol/L、pH4.8)が0%、滴下開始から45分後(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.037mol/L、pH4.6)の滴下終了時が0%、及び30分の熟成終了時(亜硫酸水素ナトリウムの濃度0.037mol/L、pH4.7)が1.4%であった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明はカルボン酸系重合体の製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0097】
10 循環型反応装置
11 反応槽
12 外部循環ライン
13 循環ポンプ
14 亜硫酸塩供給管
15 酸素含有ガス供給管
16 流通式混合器
17 熱交換器
18 コントロールバルブ
19 モノマー供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−不飽和カルボン酸及び/又はその塩を含有するモノマーの水溶液、亜硫酸塩を含有する水溶液、並びに酸素を含有するガスを用いてモノマーを重合させるカルボン酸系重合体の製造方法であって、
反応液に導入された亜硫酸塩の濃度が0.001〜0.05mol/L、該反応液のpHが5.0〜10.0、及び重合率が10%以上の状態を反応履歴に有するカルボン酸系重合体の製造方法。
【請求項2】
反応液に導入された亜硫酸塩の濃度が0.001〜0.05mol/Lであるとき、該反応液のpHを5.0〜10.0に制御する請求項1に記載されたカルボン酸系重合体の製造方法。
【請求項3】
重合反応時の反応液の温度を20〜50℃に制御する請求項1又は2に記載されたカルボン酸系重合体の製造方法。
【請求項4】
亜硫酸塩が亜硫酸水素ナトリウムである請求項1乃至3のいずれかに記載されたカルボン酸系重合体の製造方法。
【請求項5】
カルボン酸系重合体の製造を半回分操作で行う請求項1乃至4のいずれかに記載されたカルボン酸系重合体の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−127107(P2011−127107A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257837(P2010−257837)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】