説明

カーボンナノチューブの形成装置

【課題】基板Wを載置するステージ3を内蔵する反応室2を備え、反応室内に炭素を含有する原料ガスを導入して、ステージに載置した基板上に熱CVD法によりカーボンナノチューブを形成するカーボンナノチューブの形成装置であって、反応室を真空ポンプ61により排気する排気系6に、真空ポンプの上流側に位置する圧力調整器62が設けられるものにおいて、原料ガスの熱分解で発生する副生成物を圧力調整器の上流側で捕捉して、圧力調整器のメンテナンスサイクルを引き延ばすことができるようにする。
【解決手段】排気系6に、圧力調整器62より上流側に位置させて、鉛直方向下方にU字状に湾曲する少なくとも1つのU字管部64を有するトラップ63を着脱自在に介設する。また、トラップ63を冷却する冷却手段66を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱CVD法でカーボンナノチューブを形成するカーボンナノチューブの形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブの形成装置として、基板を載置するステージを内蔵する反応室を備え、反応室内に炭素を含有する原料ガスを導入して、ステージに載置した基板上に熱CVD法でカーボンナノチューブを形成するものは知られている(例えば、特許文献1参照)。このものでは、反応室を真空ポンプにより排気する排気系に、真空ポンプの上流側に位置する圧力調整器を設けている。そして、真空ポンプにより反応室を真空排気した後、反応室を所定温度に加熱すると共に、窒素等の希釈ガスを反応室に導入し、反応室の圧力が所定圧に上昇したところで希釈ガスの導入を停止し、その後、圧力調整器により反応室の圧力を所定圧に維持しつつ反応室に原料ガスを導入するようにしている。これにより、基板に原料ガスが接触して熱分解し、基板上にカーボンナノチューブが形成される。
【0003】
ところで、反応室からの排気ガス中には、原料ガスの熱分解で生ずる副生成物が含まれる。副生成物の中には、冷却されるとタール状(粘性の高い液体状)になるものがある。そして、排気ガスが圧力調整器に流入して冷却されることで、タール状の副生成物が圧力調整器の内蔵部品に付着してしまい、圧力調整器が正常に作動しなくなる。そのため、圧力調整器を頻繁に分解掃除することが必要になり、生産性の向上を図る上で問題になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−182640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、副生成物を圧力調整器の上流側で捕捉して、圧力調整器のメンテナンスサイクル(圧力調整器の分解掃除を行ってから次の分解掃除が必要になるまでの期間)を引き延ばすことができるようにしたカーボンナノチューブの形成装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、基板を載置するステージを内蔵する反応室を備え、前記反応室内に炭素を含有する原料ガスを導入して、前記ステージに載置した基板上に熱CVD法によりカーボンナノチューブを形成するカーボンナノチューブの形成装置であって、前記反応室を真空ポンプにより排気する排気系に、前記真空ポンプの上流側に位置する圧力調整器が設けられるものにおいて、前記排気系に、前記圧力調整器より上流側に位置させて、鉛直方向下方にU字状に湾曲する少なくとも1つのU字管部を有するトラップが介設されることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、反応室からの排気ガスに含まれる副生成物がトラップのU字管部で捕捉される。そのため、トラップより下流側の圧力調整器に流入する副生成物の割合が減少し、圧力調整器の内蔵部品へのタール状の副生成物の付着が抑制される。従って、圧力調整器のメンテナンスサイクルを引き延ばすことができ、生産性が向上する。
【0008】
ところで、或る程度使用すると、トラップのU字管部にタール状の副生成物が溜まり、目詰まりする。この場合、トラップが着脱自在に設けられていれば、トラップを交換することで、目詰まりに対処できる。尚、U字管部の最下部に液溜り部を設けておけば、液溜り部にその容量分の副生成物が溜まるまで、U字管部の流路面積は減少せず、トラップの交換頻度を低減できる。
【0009】
また、U字管部の最下部に、開閉自在な開口が形成されていれば、開口からタール状の副生成物を排出することで、目詰まりに対処できる。尚、U字管部の最下部に液溜り部を設ける場合は、この液溜り部の底部に、開閉自在な開口を形成すればよい。
【0010】
また、本発明においては、トラップを冷却する冷却手段を備えることが望ましい。これによれば、冷却でタール状になる副生成物をトラップで効率良く捕捉でき、圧力調整器のメンテナンスサイクルを一層引き延ばすことができる。
【0011】
尚、反応室内にも副生成物が溜まる可能性がある。そして、反応室を加熱したときに、副生成物が気化して、カーボンナノチューブの成長に悪影響が及ぶ。そのため、本発明において、反応室の排気口は、反応室の端面の最下部又は底面に開設されることが望ましい。これによれば、反応室内でタール状に液化した副生成物が排気口から排気系に排出され、反応室内に副生成物が溜まることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態のカーボンナノチューブの形成装置の構成を示す説明図。
【図2】第2実施形態のU字管部の下部の断面図。
【図3】第3実施形態のU字管部の下部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態のカーボンナノチューブの形成装置について説明する。この装置は、図1に示す如く、透明な材料(例えば、石英ガラス)により形成される筒状ケース1で囲われる反応室2を備えている。反応室2は、ステージ3を内蔵しており、このステージ3に基板Wが載置される。
【0014】
ケース1の一端には開閉自在な扉1aが設けられており、この扉1aを開放した状態でステージ3への基板Wの搬入、搬出が行われる。尚、基板Wとしては、表面にFe、Co、Ni等の遷移金属から成る触媒膜をスパッタ等によって成膜したシリコン基板を用いることができる。
【0015】
ケース1の外側には、赤外線ランプ4が複数配置されており、赤外線ランプ4により反応室2、特に、ステージ3及び基板Wが加熱される。尚、図示しないが、赤外線ランプ4の配置部の外側は金属製の外ケースで囲われている。そして、外ケースの内面で反射した赤外線がステージ3及び基板Wに集光照射されるようにしている。
【0016】
また、反応室2の一端には、反応室2内に炭素を含有する原料ガスと原料ガスを希釈する希釈ガスとを導入するガス導入系5が接続されている。ガス導入系5は、原料ガス導入系51と希釈ガス導入系52とで構成されている。原料ガス導入系51及び希釈ガス導入系52は、夫々、バルブ511,521、マスフローコントローラ512,522及びバルブ513,523を備えている。原料ガス導入系51及び希釈ガス導入系52の上流端は、夫々、原料ガスタンク514と希釈ガスタンク524に接続される。
【0017】
尚、原料ガスとしては、アセチレン、メタン等の炭化水素ガス、気化させたアルコール、一酸化炭素等が用いられる。また、希釈ガスとしては、窒素、水素、ヘリウム、アルゴン等のガス又はこれらの混合ガスが用いられる。
【0018】
反応室2の他端面に開設した排気口2aには、反応室2を油回転ポンプ等から成る真空ポンプ61により排気する排気系6が接続されている。排気系6には、真空ポンプ61の上流側に位置する圧力調整器62が設けられている。圧力調整器62は、反応室2からの排気量を調整することで反応室2の圧力を制御するものであり、例えば、コンダクタンスバルブやリーク弁で構成される。また、反応室2には、反応室2の圧力を計測する圧力計7が接続されている。
【0019】
カーボンナノチューブの形成に際しては、先ず、真空ポンプ61により反応室2を所定の真空度(例えば、2×10−3Torr)まで排気した後、赤外線ランプ4を点灯すると共に、希釈ガスを所定流量(例えば、1000sccm)で反応室2に導入する。この際、圧力調整器62により排気量を調整し、反応室2の圧力が所定圧(例えば、1気圧)に昇圧したところで、希釈ガスの導入を停止する。そして、原料ガスが熱分解する所定温度(例えば、750℃)に基板Wの温度が昇温して安定した後、圧力調整器62により反応室2の圧力を上記所定圧に維持しつつ、原料ガスを所定流量(例えば、200sccm)で所定時間(例えば、1分間)反応室2に導入する。これにより、基板Wに原料ガスが接触して熱分解し、基板W上にカーボンナノチューブが形成される。
【0020】
ここで、反応室2からの排気ガス中には、原料ガスの熱分解で生ずる副生成物が含まれる。副生成物の中には、冷却されるとタール状になるものがある。そして、後述するトラップ63が無い場合、タール状の副生成物が短期間のうちに圧力調整器62の内蔵部品に付着して、圧力調整器62が正常に作動しなくなってしまう。
【0021】
そこで、本実施形態では、排気系6に、圧力調整器62の上流側に位置させて、トラップ63を介設している。トラップ63には、鉛直方向下方にU字状に湾曲するU字管部64が直列に3個設けられている。また、トラップ63は、反応室2側の配管部材と圧力調整器62側の配管部材との間にジョイント65を介して着脱自在に設けられている。更に、本実施形態では、トラップ63に向けて空気を送風する冷却手段たる空冷ファン66を設けている。
【0022】
これによれば、排気ガス中の副生成物がトラップ63を流れる間に冷却され、冷却によりタール状になる副生成物がトラップ63に捕捉される。そのため、トラップ63よりも下流側の圧力調整器62に流入する副生成物の割合が減少し、圧力調整器62の内蔵部品へのタール状の副生成物の付着が抑制される。
【0023】
このことを確かめるため、希釈ガスとして窒素ガス、原料ガスとしてアセチレンガスを用い、本実施形態の装置とトラップ63を省略した比較装置とで上記の如くカーボンナノチューブを形成する試験を行った。比較装置では、カーボンナノチューブの形成を50回行うと、圧力調整器62の内蔵部品にタール状の副生成物が付着し始めたが、本実施形態の装置では、カーボンナノチューブの形成を100回行っても、圧力調整器62の内蔵部品へのタール状の副生成物の付着は認められなかった。尚、トラップ63のU字管部64は、内径が11.7mmで、高低差が15.0cmのものとした。
【0024】
このように、トラップ63を設けることで圧力調整器62の内蔵部品へのタール状の副生成物の付着が抑制されるため、圧力調整器62のメンテナンスサイクルを引き延ばすことができる。従って、手間のかかる圧力調整器62の分解掃除の頻度が減少し、生産性が向上する。
【0025】
ところで、或る程度使用すると、トラップ63のU字管部64にタール状の副生成物が溜まり、目詰まりする。本実施形態では、トラップ63が着脱自在に設けられているため、トラップ63を交換することで、目詰まりに対処できる。尚、トラップ63は、空気中で焼くことにより、捕捉した副生成物を燃焼或いは蒸発させ、再生することができる。
【0026】
また、目詰まり対策として、トラップ63の各U字管部64の最下部に、図2に示す第2実施形態の如く、開口64aを形成してもよい。この場合、常時は開口64aをこれに螺入する栓体64bで閉塞しておき、U字管部64にタール状の副生成物が溜まったときに、栓体64bを取り外して開口64aを開く。これにより、タール状の副生成物を開口64aから排出し、目詰まりを解消できる。
【0027】
ところで、U字管部64にタール状の副生成物が付き始めると、U字管部64の流路面積が減少して、排気速度が変わってしまう。そのため、所定の排気速度を確保するには、トラップ63を頻繁に交換し、或いは、副生成物を開口64aから頻繁に排出することが必要になる。
【0028】
そこで、図3に示す第3実施形態では、各U字管部64の最下部に液溜り部64cを設け、この液溜り部64cの底部に、栓体64bを装着した開口64aを形成している。これによれば、液溜り部64cにその容量分の副生成物が溜まるまで、U字管部64の所定の流路面積を確保でき、開口64aからの副生成物の排出頻度を低減できる。尚、開口64aを形成しない場合も、各U字管部64の最下部に液溜り部64cを設けておけば、トラップ63の交換頻度を低減でき有利である。
【0029】
ところで、赤外線ランプ4でステージ3及び基板Wを集中的に加熱するものでは、反応室2の排気口2a部分での排気温度が100℃程度にまで低下し、反応室2内にタール状の副生成物が溜まる可能性がある。そして、高温になる反応室2の部分にまでタール状の副生成物が流動すると、加熱時に副生成物が蒸発して、カーボンナノチューブの形成に悪影響が及ぶ。
【0030】
そこで、本実施形態では、排気口2aを反応室2の端面の最下部に開設している。これによれば、反応室2内でタール状に液化した副生成物が排気口2aから排出され、反応室2内に副生成物が溜まることを防止できる。尚、排気口2aの近傍の排気管の部分に副生成物が溜まると、副生成物が反応室2に逆流する恐れがあるため、トラップ63より上流の排気管は、温度が高くなるように必要に応じて加熱することが望ましい。
【0031】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記実施形態では、排気口2aを反応室2の端面の最下部に開設しているが、反応室2の底面に排気口を開設してもよい。また、上記実施形態では冷却手段として空冷ファン66を用いているが、U字管部64に冷却水を流す水管を巻回し、この水管で冷却手段を構成することも可能である。更に、上記実施形態では、トラップ63に設けるU字管部64の数を3個としているが、U字管部64の数は1個又は2個、或いは4個以上であってもよい。また、上記実施形態では、反応室2を加熱する加熱手段として赤外線ランプ4を用いているが、ケース1の外周に卷回する電熱ヒータで加熱手段を構成してもよい。
【符号の説明】
【0032】
W…基板、2…反応室、2a…排気口、3…ステージ、6…排気系、61…真空ポンプ、62…圧力調整器、63…トラップ、64…U字管部、64a…開口、64c…液溜り部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を載置するステージを内蔵する反応室を備え、前記反応室内に炭素を含有する原料ガスを導入して、前記ステージに載置した基板上に熱CVD法によりカーボンナノチューブを形成するカーボンナノチューブの形成装置であって、前記反応室を真空ポンプにより排気する排気系に、前記真空ポンプの上流側に位置する圧力調整器が設けられるものにおいて、
前記排気系に、前記圧力調整器より上流側に位置させて、鉛直方向下方にU字状に湾曲する少なくとも1つのU字管部を有するトラップが介設されることを特徴とするカーボンナノチューブの形成装置。
【請求項2】
前記トラップが着脱自在に設けられることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブの形成装置。
【請求項3】
前記U字管部の最下部に液溜り部が設けられることを特徴とする請求項2記載のカーボンナノチューブの形成装置。
【請求項4】
前記U字管部の最下部に、開閉自在な開口が形成されることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブの形成装置。
【請求項5】
前記U字管部の最下部に液溜り部が設けられ、この液溜り部の底部に、開閉自在な開口が形成されることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブの形成装置。
【請求項6】
前記トラップを冷却する冷却手段を備えることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載のカーボンナノチューブの形成装置。
【請求項7】
前記反応室の排気口は、前記反応室の端面の最下部又は底面に開設されることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項記載のカーボンナノチューブの形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−222148(P2010−222148A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68043(P2009−68043)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】