説明

カーボンナノチューブの製造方法および燃料電池用電極の製造方法

【課題】この発明は、LB法を用いた、カーボンナノチューブの本数密度を所望値に制御することのできるカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】金属微粒子24の表面にステアリン酸が表面修飾されたものを、LB膜物質22として準備する。金属微粒子24は、直径5nm程度の鉄(Fe)ナノコロイドを用いる。トラフ12の水面上にLB膜物質22を滴下し、図2に示すように、基板30のよう面にLB膜物質22を転写する。LB法を用いた成膜の工程を行った後、基板30をCVD装置50内に配置する。電気炉52により焼成を行い、ステアリン酸を除去する。連続してカーボンナノチューブの原料ガスをCVD装置50内に流し、カーボンナノチューブを成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーボンナノチューブの製造方法および燃料電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特表2007−516923号公報に開示されているように、カーボンナノチューブを成長させるための製造技術が知られている。当該公報は、カーボンナノチューブを成長させる基材となるカーボンナノチューブ成長用マットを開示している。当該公報には、MGI法、ラングミュア−ブロジェット法(Langmuir−Blodgett法:LB法)などの各種の方法で均一な表面上に金属微粒子を堆積することによって、カーボンナノチューブ成長用マットが作製される旨の記載がある。得られたカーボンナノチューブ成長用マットは、原料ガス雰囲気かつ加温状態に置かれる。これにより、金属微粒子を触媒粒子(成長触媒)として、カーボンナノチューブ成長用マット表面に、カーボンナノチューブを成長させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−516923号公報
【特許文献2】特許第2603318号公報
【特許文献3】国際公開第WO2005/118473号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yoshiaki Imaizumi et al., ”TEM Observation of the Giant Carbon Nanotube Construction Using Langmuir-Blodgett Films”, IEEJ Trans 2009;4:102-106.
【非特許文献2】T.Hatanaka,et.al., ECS transaction, vol.3 2006, 277-284
【非特許文献3】Kenji Hata et.al, Science, vol.306 2004, 1362-1364
【非特許文献4】D.Futaba et.al., Nature Materials, vol.5 2006, 987-994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板等に複数のカーボンナノチューブを成長させるにあたり、単位面積あたりのカーボンナノチューブの本数(以下、「本数密度」とも称す)を制御することは、高品質なカーボンナノチューブを作製する上で重要な事項の1つである。例えば、本数密度がある程度高くないと、カーボンナノチューブが垂直に配向し難い。また、カーボンナノチューブの用途によっては、本数密度を単純に最高充填密度まで上げればよいわけではない。具体的には、例えば燃料電池の電極材料としてカーボンナノチューブを用いる場合がある。燃料電池の電極層には、層内での燃料の透過性(具体的には例えば燃料ガスの透過性)が求められるという特有の事情がある。こういった事情から、本数密度を所望値に精度良く制御したいという要求がある。
【0006】
LB法は、単分子膜や多層膜を分子レベルで精巧に作製可能であるという優れた特徴を有している。金属微粒子の間隔制御を行う観点から、LB法は有用な手法である。この点に関し上記の特表2007−516923号公報には、カーボンナノチューブの触媒用金属微粒子の担持方法の一例としてLB法への言及がある。しかしながら、特表2007−516923号公報では、例えば段落0016に“金属酸化物のナノ粒子は、MGI法、ラングミュア・ブロジェット法をはじめとする各種の方法で均一な表面上に堆積し”という程度の言及があるに留まり、本数密度制御という課題を解決できる程度に具体的な技術内容は何ら開示されていなかった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、LB法を用いた、カーボンナノチューブの本数密度を所望値に制御することのできるカーボンナノチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、この発明は、燃料電池用の電極として好適な仕様でカーボンナノチューブを作成することが可能な燃料電池用電極の製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、カーボンナノチューブの製造方法であって、
表面に両親媒性分子が備えられかつ所定粒径を有する金属微粒子を、複数個準備する準備工程と、
前記両親媒性分子を利用したLB法(Langmuir−Blodgett法)によって複数の前記金属微粒子を基板上にLB膜として成膜することにより、前記基板上に金属微粒子層を作製するLB工程と、
前記金属微粒子層上に、前記金属微粒子を成長触媒として、カーボンナノチューブを成長させる成長工程と、
を有することを特徴とする。
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記成長工程で前記カーボンナノチューブの成長触媒とならない物質を準備する、ダミー物質準備工程を有し、
前記LB工程が、前記LB法において前記金属微粒子とともに前記物質を基板上に成膜し、前記基板上に、前記物質を含む金属微粒子層を作製する工程を含むことを特徴とする。
【0011】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記成長工程は、前記両親媒性分子の融点よりも高い温度で前記金属微粒子層を加熱し、かつ、該金属微粒子層をカーボンナノチューブの原料ガス雰囲気に曝す工程を含み、
前記物質が、カーボンナノチューブの成長温度よりも低い融点を有する有機分子で構成された有機物フィラー分子、および、カーボンナノチューブの成長温度よりも高い融点を有しかつカーボンナノチューブの触媒機能を有さない無機物フィラー分子のうち、少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0012】
また、第4の発明は、第2または第3の発明において、
前記成長工程で前記カーボンナノチューブの成長触媒とならない前記物質が、LB膜化が可能であるという機能と、前記金属微粒子の移動を制限する機能と、前記金属微粒子の触媒活性を失わせない機能とを有する物質を含むことを特徴とする。
【0013】
また、第5の発明は、第1乃至第4の発明のいずれか1つにおいて、
前記準備工程で準備する前記金属微粒子は、前記両親媒性分子の層と該金属微粒子の表面との間に、前記両親媒性分子とは異なる材料で形成された所定の厚さの被覆層を備え、
前記LB工程の後であってかつ前記成長行程の前に、前記LB工程で得られた前記基板上の前記金属微粒子層に対し、前記被覆層を除去するようにエッチングを行うエッチング工程を、さらに備えることを特徴とする。
【0014】
また、第6の発明は、燃料電池用電極の製造方法であって、
上記第1乃至第5の発明の何れか1つの発明にかかるカーボンナノチューブの製造方法によって製造したカーボンナノチューブを用いて、燃料電池の電極層を作製する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、出発材料である金属微粒子の粒径を適宜に選定しておくことにより、カーボンナノチューブの本数密度を所望値に調節することができる。
【0016】
第2の発明によれば、カーボンナノチューブの成長触媒ではない物質(便宜上、「ダミー物質」とも称す)を金属微粒子とともにLB膜化することによって、金属微粒子の分散の程度を調節することができる。その結果、カーボンナノチューブの本数密度を制御することができる。
【0017】
第3の発明によれば、成長工程においてフィラー分子がカーボンナノチューブの成長を妨げない。よって、有機物フィラー分子や無機物フィラー分子の濃度を適宜に調節することにより、カーボンナノチューブの成長を妨げることなく、カーボンナノチューブの本数密度を制御することができる。
【0018】
第4の発明によれば、カーボンナノチューブ成長用触媒の分散具合を調節する上で要求される機能を満たす好適な物質を、ダミー物質として用いることができる。
【0019】
第5の発明によれば、被覆層の厚さを大きくするほど、金属微粒子の間隔を大きくすることができる。その結果、被覆層の厚さを調節することで、カーボンナノチューブの本数密度を所望値に制御することができる。
【0020】
第6の発明によれば、カーボンナノチューブの本数密度を所望値に制御できるため、燃料電池用の電極として好適な仕様でカーボンナノチューブを作成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1にかかるカーボンナノチューブの製造方法に用いられるLB膜作製装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかるカーボンナノチューブの製造方法におけるLB膜の転写の様子を模式的に示す図である。
【図3】ステアリン酸とオレイン酸の分子構造を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1にかかるカーボンナノチューブの製造方法において用いられるCVD装置の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかるカーボンナノチューブの製造方法により作製されたカーボンナノチューブを模式的に示す図である。
【図6】本発明の実施の形態2にかかるカーボンナノチューブの製造方法の特徴的工程を模式図に示す図である。
【図7】本発明の実施の形態3にかかるカーボンナノチューブの製造方法における特徴的工程を説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態3にかかるカーボンナノチューブの製造方法における特徴的工程を説明するための図である。
【図9】本発明の実施の形態3にかかるカーボンナノチューブの製造方法における特徴的工程を説明するための図である。
【図10】本発明にかかるカーボンナノチューブの製造方法の実施例および実験結果について説明するための図である。
【図11】本発明にかかるカーボンナノチューブの製造方法の実施例および実験結果について説明するための図である。
【図12】比較例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかるカーボンナノチューブ(carbon nanotube、CNTとも略称される)の製造方法に用いられるLB膜作製装置10の構成を示す図である。LB膜作製装置10は、LB法(Langmuir−Blodgett法)を用いて、単分子膜や多層膜を分子レベルで作製可能な装置である。LB膜作製装置10は、トラフ12、フロート14、電子天秤16、白金板18を備えている。フロート14はモータにより紙面左右方向に移動可能とされる。トラフ12内には水20が張られており、LB膜物質22が水20上に滴下されて水面上に広がる。ガラス基板30がトラフ12の中央付近に配置されており、モータで上下方向に制御される。LB膜作製装置のより詳細な構成は既に公知であるため、これ以上の説明は省略する。
【0023】
実施の形態1では、金属微粒子24の表面にステアリン酸が備えられたもの(「表面修飾」ともいう)を、LB膜物質22として準備する。実施の形態1では、金属微粒子24は、直径5nm程度の鉄(Fe)ナノコロイドを用いる。ステアリン酸は、親水基と疎水基を有する両親媒性の有機分子である。このステアリン酸は、活性の高い金属微粒子を保護する有機保護剤としても機能する。なお、実施の形態1では、金属微粒子24の具体例として、(株)新光化学工業所の品名Fe-Col-1.0 chloroを10gほど用いた。
【0024】
図2は、本発明の実施の形態1にかかるカーボンナノチューブの製造方法におけるLB膜の転写の様子を模式的に示す図である。トラフ12の水面上にLB膜物質22を滴下し、図2に示すように、ガラス基板30の表面にLB膜物質22を転写する。その結果、鉄ナノコロイドによって構成された金属微粒子層が、ガラス基板30上に形成される。
【0025】
図3は、ステアリン酸とオレイン酸の分子構造を示す。ステアリン酸のほかにも、例えばオレイン酸を用いて、鉄ナノコロイドの表面を修飾しても良い。
なお、LB法と従来法と間で、一例として下記の比較データが得られた。この比較データからも、LB法がカーボンナノチューブを高い本数密度で作製できることがわかる。
目付け(mg/cm) LB法では1.0、従来法では0.2
カーボンナノチューブ高さ(μm) LB法では30、従来法では60
カーボンナノチューブ直径(nm) LB法では20、従来法では20
カーボンナノチューブ本数密度(本/cm) LB法では3×1010、従来法では2×10
ここでの従来法とは、キャスト法である。LB法で使用した鉄ナノ粒子溶液をそのままSi基板上にピペットを用いて滴下し、カーボンナノチューブを成長させたものである。LB法と従来法との間で触媒やCVD条件(ガス種、ガス流量、成長時間)は全く同一であり、触媒の担持状態の違いによって(つまりLV化の有り無しによって)本数密度の相違が生じたものであると考えられる。
【0026】
図4は、本発明の実施の形態1にかかるカーボンナノチューブの製造方法において用いられるCVD装置50の構成を示す。LB法を用いた成膜の工程を行った後、基板30をCVD装置50内に配置する。CVD装置50は、電気炉52を有している。電気炉52により焼成を行い、ステアリン酸を除去する。次いで、連続してカーボンナノチューブの原料ガスをCVD装置50内に流し、カーボンナノチューブを成長させる。原料ガスとしては、例えば、アセチレン、メタンなど炭化水素系ガスをはじめ、各種の公知の原料ガスを用いることができる。原料ガスを流すことによって、図4に示すように、金属微粒子24を成長触媒として、カーボンナノチューブ26が成長する。
【0027】
図5は、実施の形態1にかかるカーボンナノチューブの製造方法により作製されたカーボンナノチューブ26を模式的に示す。最終的に、図5に示すように、ガラス基板30上に、金属微粒子24の位置に応じて多数のカーボンナノチューブ26が形成される。
【0028】
実施の形態1では、金属微粒子24として直径5nmの鉄ナノコロイドを用いたが、これよりも大きい或いは小さい直径の金属微粒子でもよい。これにより、カーボンナノチューブの本数密度を所望値に調節することができる。また、鉄以外にも、例えばコバルト(Co)やニッケル(Ni)の微粒子を用いることもできる。また、直径の異なる金属微粒子を混在させてもよく、材料の異なる金属微粒子を混在させても良い。これにより、直径の異なるカーボンナノチューブを同一基板上に同時に作製することが可能となる。また、金属微粒子24の表面を修飾する有機分子の種類に応じて、LB膜内における微粒子の間隔を調節することもできる。
【0029】
以上説明したように、実施の形態1にかかるカーボンナノチューブの製造方法によれば、出発材料である金属微粒子24の粒径を適宜に選定しておくことにより、カーボンナノチューブの本数密度を所望値に調節することができる。
【0030】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2にかかるカーボンナノチューブの製造方法の特徴的工程を模式図に示す図である。実施の形態2にかかるカーボンナノチューブの製造方法は、カーボンナノチューブの成長触媒とならない物質を混入させてLB膜を成膜することにより、カーボンナノチューブの本数密度を制御することができる。以下の説明では、主に実施の形態1と異なる点を説明し、実施の形態1と共通する事項については適宜に説明を省略する。
【0031】
実施の形態2では、LB膜物質22とともに、カーボンナノチューブの成長触媒とならない(触媒活性を持たない)物質122を準備する。以下、この物質122を、フィラー分子122とも称す。フィラー分子122は、好ましくは、LB膜化が可能であるという機能と、金属微粒子24が動き回らないように固定可能な機能と、金属微粒子24の触媒活性を失わせない機能という3つの機能を全て有する物質から選定する。これらの要求機能を満たせば、有機物、無機物の何れでも良い。具体的には、フィラー分子122を、カーボンナノチューブの成長温度よりも低い融点を有する有機分子としてもよい。具体的には、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなどを用いることができる。また、フィラー分子122を、カーボンナノチューブの成長温度よりも高い融点を有しかつカーボンナノチューブの触媒機能を有さない無機物としてもよい。具体的には、シリカ、アルミナなどの無機物ビーズを用いることができる。
【0032】
実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、LB膜作製装置10を用いたLB膜を作製する工程を行う。但し、その際に、LB膜物質22とともにフィラー分子122も水面上に展開され、ガラス基板30に転写される。その結果、図6(a)に示すように、ガラス基板30に、金属微粒子24(LB膜物質22)とフィラー分子122とが混在した層が形成される。
【0033】
実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、CVD装置50を用いたカーボンナノチューブを成長させる工程が行われる。その結果、図6(b)に示すように、カーボンナノチューブ26を成長させることができる。
【0034】
LB法において金属微粒子とともにダミー物質を混在させることによって、金属微粒子の分散の程度を調節することができる。その結果、カーボンナノチューブの本数密度を制御することができる。フィラー分子122を有機物とした場合には、フィラー分子122はカーボンナノチューブの成長工程における加熱時に蒸発する。また、フィラー分子122を無機物とした場合には、フィラー分子122は高温で蒸発しなくとも触媒機能を持たない。このため、実施の形態2によれば、成長工程においてフィラー分子がカーボンナノチューブの成長を妨げない。したがって、フィラー分子122の濃度を適宜に調節することにより、カーボンナノチューブの成長を妨げることなく、カーボンナノチューブ26の本数密度を制御することができる。
【0035】
また、例えば燃料電池の電極材料としてカーボンナノチューブを用いる場合がある。燃料電池の電極層には、層内での燃料の透過性(具体的には例えば燃料ガスの透過性)が求められるという特有の事情がある。このため、カーボンナノチューブの本数密度をカーボンナノチューブ直径から見積もられた理論上の最高充填密度まで単純に上げればよいわけではなく、適切なガス透過性を発揮する程度の本数密度を実現することが要求される。この点、実施の形態2にかかるカーボンナノチューブの製造方法は、フィラー分子122の濃度を調節することによって、カーボンナノチューブ26の本数密度を自在に制御できる。
【0036】
実施の形態3.
図7〜図9は、本発明の実施の形態3にかかるカーボンナノチューブの製造方法における特徴的工程を説明するための図である。実施の形態3にかかるカーボンナノチューブの製造方法は、被覆層の厚さ制御により金属微粒子の配置間隔を制御することができる。以下の説明では、主に実施の形態1と異なる点を説明し、実施の形態1と共通する事項については適宜に説明を省略する。
【0037】
実施の形態3では、図7に示すように金属微粒子24の表面を被覆層223で覆ったものを、LB膜物質22として準備する。この点で、実施の形態3は、実施の形態1におけるLB膜物質22の準備工程と相違している。被覆層223は、例えばシリカ(SiO)やアルミナのコーティング層とすることができる。図7に示すように、被覆層223が厚い場合には、それぞれの金属微粒子24の中心の間隔はDである。一方、被覆層223が薄い場合には、それぞれの金属微粒子24の中心の間隔はd(d<D)である。このように、被覆層223の厚さを調節することによって、金属微粒子24の間隔を制御することができる。なお、図7に示すように、2つの金属微粒子24の距離は被覆層223の膜厚の2倍に相当する。
【0038】
実施の形態3にかかる製造方法では、図7に示した被覆層223で覆われた金属微粒子24からなるLB膜物質22が、実施の形態1と同様にLB膜作製装置10によってLB膜化される。これにより、図7に示したように、被覆層223の厚さに応じた間隔で、金属微粒子24を分散させることができる。
【0039】
その後、実施の形態3では、図8に示すように、エッチングを行うことにより被覆層223を除去して、個々の金属微粒子24の表面を露出させる。その結果、カーボンナノチューブの成長触媒となる部位が、被覆層223の厚さに応じた間隔で分散させられる。
【0040】
エッチングによる金属微粒子24の表面露出が完了したら、その後、実施の形態1と同様にCVD装置50を用いてカーボンナノチューブを成長させる。最終的に、図9に示すように、カーボンナノチューブ26を成長させることができる。
【0041】
以上説明したように、実施の形態3によれば、被覆層223の厚さを調節することにより、金属微粒子24の間隔(分散の度合い)を制御することができる。つまり、被覆層223を厚くするほど、金属微粒子24の間隔を大きくすることができる。その結果、カーボンナノチューブ26の本数密度を所望値に制御することができる。なお、実施の形態3は、実施の形態2と組み合わせて用いても良い。
【0042】
なお、本発明では、成長触媒である金属微粒子をLB法により成膜することとしている。これに従って、実施の形態3でも、被覆層223で被覆された金属微粒子24を、実施の形態1と同様にLB法を用いて成膜している。一方、実施の形態3にかかる被覆層223で被覆された金属微粒子24は、LB法以外の方法で成膜することもできる。つまり、実施の形態3には、「カーボンナノチューブの成長触媒たる金属微粒子24を被覆層223で被覆することにより、被覆層223の厚さに応じて金属微粒子24の分散の度合いを調節する」という思想も含まれている。この思想を、本発明にかかるLB法による成膜方法とは別に、単独で用いてもよい。その場合には、先ず被覆層223で被覆された金属微粒子24を準備し、各種の成膜方法にて基板等にその被覆層223で被覆された金属微粒子24を並べた後、実施の形態3と同様にエッチング、CVD等によるカーボンナノチューブ成長工程を順次行えばよい。
【0043】
実施例および比較例.
図10および図11は、本発明にかかるカーボンナノチューブの製造方法の実施例および実験結果について説明するための図である。図10は、フィラー分子ありのサンプル(1種類)とフィラー分子無しのサンプル(3種類)とについてそれぞれ条件および結果(カーボンナノチューブ本数密度)をまとめた表を示す。図10の表では、フィラー分子ありのサンプル(サンプル1)とフィラー分子無しのサンプル(サンプル2、3、4)とについて、鉄ナノ粒子(FeNP)の重量と、フィラー分子である3HT(3−ヘキシルチオフェン(3-Hexylthiophene))の重量と、3HTとFeNPの比と、およびカーボンナノチューブ(CNT)の本数密度とを列挙している。
【0044】
サンプル作成にあたっては、3HTのクロロフォルム溶液と、CNT成長触媒であるFeNPクロロフォルム溶液との混合溶液を作成した。溶媒は何れもクロロフォルムを使用した。それぞれの濃度はFeNP(1.39mg/ml)、3HT(8.4mg/ml)であり、使用量を変化させて混合濃度比の異なる溶液を作成し、LB膜を得た。
【0045】
図11は、フィラー分子の添加量比と、カーボンナノチューブ成長本数密度の関係を示す。全てのサンプルで同一の20〜30nmの直径を有しており、成長本数密度については図11のようにフィラー分子添加量が増大するとCNT本数密度が低下している。
【0046】
ここで、いくつかの比較例について説明する。国際公開第WO2005/118473号に記載されている方法(「従来法A」とも称す)では、CNT本数密度を2×1010から7×1011本/cmまでの範囲で変更できるとあるが、CNT直径との関係について記述がない。例えば、同じCNT直径でCNT本数密度を変えることが可能といったCNT直径とCNT本数密度を独立に制御する方法は記載されていない。
【0047】
特開2009−140764号公報中で引用する非特許文献1(T.Hatanaka,et.al., ECS transaction, vol.3 2006, 277-284)にかかる方法(「従来法B」とも称す)では、直径20nmで長さ40μmで密度0.18g/cmから算出した本数密度があるが、2×1010本/cm程度と低い値である。
【0048】
Kenji Hata et.al, Science, vol.306 2004, 1362-1364(「参考文献1」とも称す)にかかる方法(「従来法C」とも称す)では、直径1〜3nm、密度は4×1011本/cm程度であるが、D.Futaba et.al., Nature Materials, vol.5 2006, 987-994(「参考文献2」とも称す)にあるように溶液の含浸と乾燥により凝集と倒れが起こってしまう。参考文献1のFig.1(A)、(B)、(C)、(D)、(E)を参照するとCNT直径は1〜3nmと極めて細くまたCNTの直進性は高い。参考文献2のFig.1を参照するとCNT本数密度は極めて高いがCNT直径は極めて細く、直進性が良好すぎるために溶液の含浸と乾燥により凝集が起こってしまう。
【0049】
以上のように、従来法Aについては、CNT本数密度を2×1010から7×1011本/cmとあるが、CNT直径との関係が示されていない。従来法Bについては、CNT本数密度2×1010本/cm、直径20〜30nm程度、従来法CについてはCNT本数密度は4×1011本/cm程度、直径1〜3nmのカーボンナノチューブが得られていると考えられるが、いずれも、高い本数密度の場合に小さな直径のカーボンナノチューブが成長していることが読み取れる。
【0050】
従来法A,B,Cともいずれもスパッタ法でありスパッタの条件を変えることで直径を変えることは可能だが、同時に触媒配置密度も変わってしまい、これらを独立に制御することができない。その理由は、スパッタでの膜厚制御による微粒子作製法では、粒径と膜厚、粒子配置関係を個別に制御することが困難であるからである。
図12は、比較例について説明するための図であり、具体的には、スパッタ膜の膜厚制御による微粒子作成法での問題点を説明するための図である。スパッタによって触媒材料の薄膜を作成し、加熱、凝集、微粒子化の後、原料ガス雰囲気でのカーボンナノチューブ成長が行われる。このとき、スパッタ膜の膜厚が、凝集後の粒子配置間隔(図12のd)と粒径の両方に影響する。例えばスパッタの際に膜厚を大きくすると、凝集後の粒子の径は大きくなるものの、凝集後の粒子配置間隔dも変化してしまう。粒子配置間隔をdから所望値(例えばd´)へと変化させたくとも、膜厚制御によっては粒径と粒子配置間隔をそれぞれ所望の値にすることが困難である。なお、膜厚制御以外に、薄膜を加熱して凝集、微粒子化する工程の加熱温度を制御する方法もあるが、膜厚制御同様に、粒径と粒子配置間隔をそれぞれ所望の値にすることは困難である。
【0051】
これに対し、前述した実施形態でも述べた手法すなわちLB法にフィラー分子添加を用いる手法によれば、フィラー分子によって、所定粒径の粒子を、所望の粒子配置間隔にて配置することができる。図11でも示したように、フィラー分子の量を変えることで、CNT直径を同じ径に保ったままでCNT本数密度を制御することができ、連続的な密度制御が可能となった。従来法Cの説明においてはCNT直径が極めて細くなることの問題例を指摘したが、上述したようにフィラー分子を添加する手法によれば、そのようなCNT直径が細くなりすぎるなどの問題を抑制しつつ所望本数密度でカーボンナノチューブを成長させることができる。
【符号の説明】
【0052】
10 LB膜作製装置
12 トラフ
14 フロート
16 電子天秤
18 白金板
20 水
22 LB膜物質
24 金属微粒子
26 カーボンナノチューブ
30 ガラス基板
50 装置
52 電気炉
122 フィラー分子
223 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に両親媒性分子が備えられかつ所定粒径を有する金属微粒子を、複数個準備する準備工程と、
前記両親媒性分子を利用したLB法(Langmuir−Blodgett法)によって複数の前記金属微粒子を基板上にLB膜として成膜することにより、前記基板上に金属微粒子層を作製するLB工程と、
前記金属微粒子層上に、前記金属微粒子を成長触媒として、カーボンナノチューブを成長させる成長工程と、
を有することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記成長工程で前記カーボンナノチューブの成長触媒とならない物質を準備するダミー物質準備工程を有し、
前記LB工程が、前記LB法において前記金属微粒子とともに前記物質を基板上に成膜し、前記基板上に、前記物質を含む金属微粒子層を作製する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記成長工程は、前記両親媒性分子の融点よりも高い温度で前記金属微粒子層を加熱し、かつ、該金属微粒子層をカーボンナノチューブの原料ガス雰囲気に曝す工程を含み、
前記物質が、カーボンナノチューブの成長温度よりも低い融点を有する有機分子で構成された有機物フィラー分子、および、カーボンナノチューブの成長温度よりも高い融点を有しかつカーボンナノチューブの触媒機能を有さない無機物フィラー分子のうち、少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項2記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記成長工程で前記カーボンナノチューブの成長触媒とならない前記物質が、LB膜化が可能であるという機能と、前記金属微粒子の移動を制限する機能と、前記金属微粒子の触媒活性を失わせない機能とを有する物質を含むことを特徴とする請求項2または3に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
前記準備工程で準備する前記金属微粒子は、前記両親媒性分子の層と該金属微粒子の表面との間に、前記両親媒性分子とは異なる材料で形成された所定の厚さの被覆層を備え、
前記LB工程の後であってかつ前記成長行程の前に、前記LB工程で得られた前記基板上の前記金属微粒子層に対し、前記被覆層を除去するようにエッチングを行うエッチング工程を、さらに備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの製造方法によって製造したカーボンナノチューブを用いて、燃料電池の電極層を作製する工程を含むことを特徴とすることを特徴とする燃料電池用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−148673(P2011−148673A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44276(P2010−44276)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月8日、社団法人応用物理学会発行の「2009年(平成21年)秋季 第70回応用物理学会学術講演会講演予稿集」第0分冊及び第2分冊にて発表
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】