説明

カーボンナノチューブの製造方法

【課題】高品質なカーボンナノチューブを、気相成長法により工業的規模で製造すること。
【解決手段】基板に処理を施すための処理室を有するチューブ状のチャンバと、前記基板に処理を施すためのガスを処理室に導入するための気体導入手段と、前記処理室内の気体を排気する排気手段と、前記処理室に複数の基板をチャージした治具を搬入および搬出するための基板搬入出手段と、前記チャンバの周囲に設けられ、処理室内の基板の温度を調整するヒータと、を有する化学気相成長装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造方法、より具体的には基板上にカーボンナノチューブを気相成長させてカーボンナノチューブを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブの製造法は、アーク放電法、レーザ蒸発法、および化学気相成長法の3つに大別されうる。これらのうち、化学気相成長法によるカーボンナノチューブの製造は、遷移金属触媒の存在下で、原料である炭素原子を含むガスを反応させて、カーボンナノチューブを生成させる。遷移金属触媒は、基板などに配置されていてもよい。
【0003】
例えばアルコールガスを原料とする、化学気相成長法によるカーボンナノチューブの製造方法が知られている(非特許文献1〜3参照)。いずれの文献においても、金属触媒(鉄系)を配置した基板を石英チューブ内にいれて;石英チューブ内を減圧し、約600℃〜900℃に加熱し;石英チューブ内にアルコールを導入することにより、基板上にカーボンナノチューブを生成させる。
【0004】
一方、カーボンナノチューブをウェハ上に気相成長させて、カーボンナノチューブアレイを作製する技術が報告されている(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2007−161576号公報
【非特許文献1】Chemical Physics Letters 360 (2002) 229-334
【非特許文献2】J. Phys. Chem. B 2004, 108, 16451-16456
【非特許文献3】表面科学 Vol.25,No6,pp318〜325(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化学気相成長法は、原料がガスであるため、一般的に大量生産に向いていると考えられる。常温で液体である物質のガスを原料とすると、さらに工業生産に適用しやすい。しかしながら、従来の化学気相成長法によるカーボンナノチューブの製造は、いわば研究室レベルの規模での製造であり、工業規模への適用は困難であった。そこで、本発明は高品質なカーボンナノチューブを工業的規模で製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
半導体製造プロセスでは、低圧化学気相成長(低圧CVD)装置が汎用される。低圧CVD装置には、バッチ式装置や枚葉式装置などがある。本発明者は低圧CVD装置を、気相成長法によるカーボンナノチューブの製造に適用することを検討し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の第一は、以下に示すバッチ式の低圧CVD装置を用いたカーボンナノチューブの製造方法に関する。
[1] 基板に処理を施すための処理室を有するチューブ状のチャンバと、前記基板に処理を施すためのガスを処理室に導入するための気体導入手段と、前記処理室内の気体を排気する排気手段と、前記処理室に複数の基板をチャージした治具を搬入および搬出するための基板搬入出手段と、前記チャンバの周囲に設けられ、処理室内の基板の温度を調整するヒータと、を有する化学気相成長装置を用いて、前記複数の基板上にカーボンナノチューブを製造する方法であって、
1)平面を有する基板の前記平面上に、カーボンナノチューブ気相成長のための触媒が配置された基板の複数を準備するステップ、2)前記複数の基板を互いに離間させて治具にチャージして、前記治具を処理室に搬入するステップ、3)前記処理室内の気体を、前記排気手段を通して排気して、前記処理室内を大気圧よりも低い気圧にするステップ、4)前記処理室内に、還元性ガスおよび不活性ガスを導入して、前記ヒータで前記基板の温度を、カーボンナノチューブ生成温度に上昇させるステップ、5)前記処理室に、カーボンナノチューブ生成のための原料ガスを導入して、前記基板の平面上にカーボンナノチューブを生成するステップ、6)前記カーボンナノチューブの生成後、前記基板の温度を前記カーボンナノチューブが空気中の酸素で酸化されない温度に下降させるステップ、7)前記処理室内の圧力を大気圧にするステップ、および8)前記処理室から、前記複数の基板をチャージした治具を搬出するステップ、を含む、カーボンナノチューブの製造方法。
[2] 基板に処理を施すための処理室を有するチューブ状のチャンバと、前記基板に処理を施すためのガスを処理室に導入するための気体導入手段と、前記処理室内の気体を排気する排気手段と、前記処理室に複数の基板をチャージした治具を搬入および搬出するための基板搬入出手段と、前記チャンバの周囲に設けられ、処理室内の基板の温度を調整するヒータと、を有する化学気相成長装置を用いて、前記複数の基板上にカーボンナノチューブを製造する方法であって、
1)オリエンテーションフラットまたはノッチを有する略円形の基板であって、その平面上に格子状に区画された複数の領域を有し、前記複数の領域のそれぞれにはカーボンナノチューブの気相成長のための触媒が配置された基板の複数を準備するステップ、2)前記複数の基板を互いに離間させて、かつ前記平面を互いに平行にして治具にチャージして、前記治具を処理室に搬入するステップ、3)前記処理室内の気体を、前記排気手段を通して排気して、前記処理室内を大気圧よりも低い気圧にするステップ、4)前記処理室内に、還元性ガスおよび不活性ガスを導入して、前記ヒータで前記基板の温度をカーボンナノチューブ生成温度に上昇させるステップ、5)前記処理室に、カーボンナノチューブ生成のための原料ガスを導入して、前記基板の平面上にカーボンナノチューブを生成するステップ、6)前記カーボンナノチューブの生成後、前記基板の温度を前記カーボンナノチューブが空気中の酸素で酸化されない温度に下降させるステップ、7)前記処理室内の圧力を大気圧にするステップ、および8)前記処理室から、前記複数の基板をチャージした治具を搬出するステップ、を含む、カーボンナノチューブの製造方法。
【0008】
本発明の第二は、以下に示す枚葉式の低圧CVD装置を用いたカーボンナノチューブの製造方法に関する。
[3] 基板に処理を施すための処理室を有するチャンバと、前記基板に処理を施すためのガスを処理室に導入するための気体導入手段と、前記処理室内の気体を排気する排気手段と、治具にチャージされた複数の基板を前記処理室に1枚ずつ搬入および排出する基板搬入出手段と、前記基板の温度を調整する、処理室内に配置されたヒータと、を有する化学気相成長装置を用いて、前記基板上にカーボンナノチューブを製造する方法であって、
1)オリエンテーションフラットまたはノッチを有する略円形の基板であって、その平面上に格子状に区画された複数の領域を有し、前記複数の領域のそれぞれにはカーボンナノチューブの気相成長のための触媒が配置された基板の複数を準備するステップ、2)前記処理室内の気体を、前記排気手段を通して排気して、前記処理室内を大気圧よりも低い気圧にするステップ、3)前記基板の1枚を処理室に搬入するステップ、4)前記処理室に搬入された基板の温度を、カーボンナノチューブ生成温度に上昇させるステップ、5)前記処理室に、カーボンナノチューブ生成のための原料ガスを導入して、前記基板の平面上にカーボンナノチューブを生成するステップ、6)前記カーボンナノチューブの生成後、前記基板の温度を前記カーボンナノチューブが空気中の酸素で酸化されない温度に下降させるステップ、および7)前記処理室から、前記基板を搬出するステップ、を含む、カーボンナノチューブの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、半導体量産ラインを流用して、カーボンナノチューブを大量生産することができる。また、本発明により製造されるカーボンナノチューブは、半導体的性質を有するシングルウォールカーボンナノチューブであるので、カーボンナノチューブをチャネルとする電界効果型トランジスタ(CNT−FET)の量産化が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、その平面に触媒が配置された基板上に、低圧CVD装置を用いてカーボンナノチューブを気相成長させることを特徴とする。つまり、本発明のカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブを気相成長させるための触媒を配置された基板上に形成される。基板は特に限定されないが、半導体製造プロセスで使用される低圧CVD装置を適用する場合には、半導体ウェハであることが好ましい。半導体ウェハとは、半導体物質を直径が約120mmから200mm程度の円柱状に結晶成長させて得たインゴットを、約0.5mm〜1.5mmにスライスして作製した略円形の円盤である。半導体物質の例にはシリコンなどが含まれる。
【0011】
基板の平面には、炭素原子を含む原料ガスからカーボンナノチューブが気相成長するための触媒が配置される。配置される触媒は特に限定されないが、鉄、コバルト、ニッケルまたはそれらの合金の粒子であればよい。触媒は、スパッタリングにより基板上にパターニングして配置すればよい。
【0012】
また基板の平面は、格子状に区画されて、複数の領域に分けられていてもよい。そして、複数の領域のそれぞれに触媒を設けることにより、1つの基板から複数のカーボンナノチューブデバイス(カーボンナノチューブFETなど)のチップを得ることができる。
【0013】
本発明の基板には、一般的な半導体ウェハと同様に、オリエンテーションフラットまたはノッチを有していることが好ましい。オリエンテーションフラットまたはノッチにより、半導体結晶の方位がわかる。
【0014】
カーボンナノチューブを気相成長させるための原料ガスは、炭素原子を含むガスであればよく、メタン、エタン、プロパンなどの飽和炭化水素ガスのほか、エチレンやアセチレンなどの不飽和炭化水素ガスでもよい。ただし、好ましくは常温(約25℃)で液体であり、0.1Torr〜0.6Torrでは気体である物質であることが好ましい。常温で液体であれば、純度の高い原料を容易に入手することができる。また、安全性も高い。好ましい原料ガスの例には、エタノールが含まれる。
【0015】
後述の通り、触媒が形成された基板が配置された処理室に、カーボンナノチューブの原料ガスを導入する前に、還元性ガスを導入する。還元性ガスは、基板の平面に形成された触媒を活性化させることができる。還元性ガスの例には、水素ガスが含まれる。また、還元性ガスとともに、不活性ガスを導入してもよい。還元性ガスを希釈するためである。不活性ガスの例には、窒素ガスやアルゴンガスなどが含まれる。
【0016】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、半導体製造プロセスで汎用される低圧CVD装置を用いて行うことができる。低圧CVD装置は、バッチ式(図1および図2参照)と枚葉式(図3参照)とに大別されうる。バッチ式は、チャンバの配置態様によって、横型(図1参照)および縦型(図2参照)に分類されうる。
【0017】
バッチ式の低圧CVD装置はチャンバを有する。チャンバは、一般的に石英からなるチューブ状の部材である。チャンバの内部には、基板を処理する(基板上にカーボンナノチューブを形成することを含む)ための処理室が配置される。バッチ式の低圧CVD装置のチャンバは、横置き(チューブの軸方向が水平方向)であっても、縦置き(チューブの軸方向が鉛直方向)であってもよい。
【0018】
バッチ式の低圧CVD装置は、チャンバの処理室にガスを導入するための気体導入手段を有する。処理室に導入されるガスは、カーボンナノチューブの原料ガスのほか、還元性ガスや不活性ガスなどである。原料ガスはエタノールなどである。
【0019】
さらにバッチ式の低圧CVD装置は、チャンバの処理室内の気体を排出するための排気手段を有する。気体を排出することにより処理室を減圧することができ、例えば0.1Torr〜0.6Torrとすることができる。0.1Torr〜0.6Torrにまで減圧することで、チャンバ内の大気(酸素やその他大気中の不純物)をより確実に排出し、外気の要因を排除して、より高清浄な状態でCNTを精製できる。
一方、減圧が十分でない(例えば5〜10Torr)と、気相成長時における原料ガス(エタノールなど)の揮発量が高くなり、これによりCNTの架橋率が上昇しすぎることがある。すると、メタリック性のCNTを含む複数本のCNTが架橋して、目的とする1本のSW−CNTの架橋によるFETの歩留まりが低下する可能性が高いと考えられる。
【0020】
バッチ式の低圧CVD装置のチャンバの周囲には、ヒータが設けられていることが好ましい。ヒータにより、処理室に配置された基板の温度を調整することができる。カーボンナノチューブの原料ガスが導入されるときの、処理室内の基板温度は700℃以上900℃以下であることが好ましい。カーボンナノチューブを効率よく形成するためである。また、基板が搬入された処理室は、大気圧よりも低い圧力に減圧される。
【0021】
バッチ式の低圧CVD装置を用いた場合には、複数の基板をチャージする治具が、処理室に搬入される。治具に配置された複数の基板は互いに離間しており、かつ触媒が配置された基板表面が互いに平行に配置されていることが好ましい。さらに具体的には、基板同士は約6mmの間隔があることが好ましい。
【0022】
さらに、治具にチャージされた複数の基板は、その平面と、チャンバのチューブの軸方向とが直行するように、処理室に配置されることが好ましい。つまり、バッチ式横型低圧CVD装置のバッチのチューブの軸は水平であるので、基板平面は鉛直方向に配置されていることが好ましい。一方、バッチ式縦型低圧CVD装置のバッチのチューブの軸は鉛直であるので、基板平面は水平方向に配置されていることが好ましい。
【0023】
一方、枚葉式の低圧CVD装置のチャンバは、バッチ式と同様にチューブ状であってもよいが、その形状は特に限定されない。チャンバの内部には、基板に処理を施すための処理室があるが、当該処理室に1枚ずつ基板が搬入される。処理室において基板が配置される箇所には基板の温度を調整するためのヒータが設けられていることが好ましい。
【0024】
枚葉式の低圧CVD装置のチャンバは、バッチ式の低圧CVD装置と同様に、処理室にガスを導入するための気体導入手段、処理室内の気体を排気する排気手段を有する。
【0025】
枚葉式の低圧CVD装置のチャンバは、複数の基板がチャージされた治具を有する。治具に配置された複数の基板を1枚ずつ、チャンバ内の処理室に搬入する。治具とチャンバの間には、予備室が設けられていてもよい。予備室と処理室とは開閉可能な仕切りを介して隣接している。予備室がある場合には、まず予備室に基板が1枚ずつ搬入され、さらにその基板が処理室に搬入される。予備室に基板が搬入されると、予備室を大気圧よりも低い気圧にして、その後、減圧されている処理室に予備室の基板を搬入する。
【0026】
以下において、図面を参照して本発明のカーボンナノチューブの製造方法を説明する。
【0027】
1.バッチ式横型低圧CVD装置を用いた気相成長法によるCNTの製造
図1には、バッチ式低圧CVD装置であって、チャンバ1を構成する石英チューブ1−1が、横置きされた装置が示される(チャンバの石英チューブ1−1の軸が水平にされている)。石英チューブ1−1の内部の処理室1−2に複数の基板6が配置される。チャンバ1の周りには、ヒータ2が配置されている。
【0028】
チャンバ1には、処理室1−2にガスを導入する気体導入手段3が接続されている。気体導入手段3は、チャンバ1との接続口である気体導入口3−1、および気体導入口3−1に連通する、1)原料ガス(図ではエタノール)供給源3−2、2)還元性ガス(図では水素ガス)供給源3−3、および3)不活性ガス(図では窒素ガス)供給源3−4、4)キャリアガス供給源3−5を有する。キャリアガスとは、原料ガスとともに処理室1−2に導入されるガスである。気体導入手段3のガス流路には、適宜、マスフローコントローラーMFC1〜3、フィルターF、ガスフローメーターMFM、減圧弁R、ガスセンサーGなどが設けられている。
【0029】
チャンバ1には、処理室1−2の気体を排気する排気手段4が接続されている。排気手段4は、チャンバ1との接続口である排気口4−1、メインバルブM、Auto Pressure Contoroller(APC)、ターボ分子ポンプTMP、拡散ポンプDPを有する。
【0030】
チャンバ1には、処理室1−2に基板6を搬入したり、処理室1−2内の基板6を搬出したりする基板搬入出手段5が設けられている。基板搬入出手段5は、チャンバ1への出入口である基板搬入口5−1、複数の基板6をチャージするボート(治具)5−2、ボート5−2を処理室1−2に搬入したり処理室1−2から搬出したりするフォーク5−3を有する。つまり、処理室1−2には基板6がチャージされたボート5−2だけが配置され、基板6の処理(CNTの形成など)が行われる。
【0031】
図4は、図1に示される低圧CVD装置を用いたカーボンナノチューブの製造プロセスと、基板の温度との関係を示すグラフである。まず、基板6をチャージするボート5−2を処理室1−2に搬入し、基板6が搬入された処理室1−2の内部の気圧を下げる(工程1)。工程1において、基板の温度は触媒が酸化されてにくい温度以下(約500℃以下)にされていればよく、必ずしも室温である必要はない。減圧後の処理室内の気圧は、0.1Torr〜0.6Torrの範囲とすることが好ましい。
【0032】
処理室1−2の内部の気圧が所定値にまで下がったら、チャンバ1の周囲に配置されたヒータ2を加熱して、基板6の温度をカーボンナノチューブ生成温度にまで上昇させる(工程2)。カーボンナノチューブ生成温度とは、例えば700℃〜900℃である。工程2において、基板6を加熱しながら処理室1−2に還元性ガス(水素ガスなど)および不活性ガス(窒素ガスなど)を導入する。
【0033】
処理室1−2内の基板6の温度がカーボンナノチューブ生成温度にまで上昇したら、処理室1−2に原料ガス(エタノールなど)を導入する(工程3)。基板6の温度は700℃〜900℃に維持することが好ましく、処理室1−2の内部の気圧は0.1〜0.6Torrに維持することが好ましい。工程3の時間は、基板上にカーボンナノチューブが成長するのに必要な時間以上であればよいが、通常は〜約1時間である。
【0034】
基板6にカーボンナノチューブが成長したら、基板6の温度を下降させる(工程4)。基板6の下降後の温度は、形成されたカーボンナノチューブが空気中の酸素で酸化されない温度以下であればよい。当該降下後の温度は約600℃以下であればよく、必ずしも室温程度にまで下降させる必要はない。また、カーボンナノチューブが形成された基板を搬出した後に、別の基板を搬入して繰り返しカーボンナノチューブを製造する場合に、室温程度にまで基板の温度低下させてしまうと、別の基板の温度をカーボンナノチューブ生成温度にまで上昇させるのに多くの熱量が必要となり、かつ時間がかかる。よって、当該降下後の基板の温度は、約600℃以下であり、かつ室温以上であることが好ましい。
【0035】
基板の温度を下降させた後に、処理室1−2の内部に不活性ガスを導入して、気圧を大気圧と同じにする。その後、カーボンナノチューブが形成された基板6をチャージするボート5−2を、処理室1−2から搬出する(工程5)。
【0036】
2.バッチ式縦型低圧CVD装置を用いた気相成長法によるCNTの製造
図2には、バッチ式低圧CVD装置であって、チャンバ1を構成する石英チューブ1−1が、縦置きされた装置が示される(チャンバの石英チューブ1−1の軸が鉛直にされている)。図1に示されたバッチ式低圧CVD装置と同様の、ヒータ2、気体導入手段3、排気手段4、基板搬入出手段5’を有する。
【0037】
図2で示されたように、基板6はその平面を水平にして処理室1−2に搬入されるが、それ以外は図1で示される装置を用いた方法と同様にして、カーボンナノチューブを製造することができる。
【0038】
3.枚葉式低圧CVD装置を用いた気相成長法によるCNTの製造
図3には、枚葉式の低圧CVD装置が示される。枚葉式の低圧CVD装置は、バッチ式低圧CVD(図1または図2)と同様に、基板6に処理を施すための処理室1−2を有するチャンバ1を有するが、チャンバ1に隣接する予備室7をさらに有する。また、処理室1−2の内部の気体を排気する排気手段4、および予備室7の内部の気体を排気する排気手段4’を有する。処理室1−2の内部と予備室7の内部とは、開閉可能な仕切り8で隔てられており、それぞれの内部の気圧を独立に制御することができる。また、基板6を加熱するためのヒータ2が処理室1−2の内部に配置される。
【0039】
枚葉式の低圧CVD装置のチャンバ1には、処理室1−2にガスを供給するための気体導入手段3が連結される。気体導入手段3の構成は、前述のバッチ式低圧CVDの気体導入手段3と同じにすればよい。
【0040】
枚葉式の低圧CVD装置は、基板搬入出手段5を有し、基板搬入出手段5は、複数の基板6をチャージする治具5−1と、基板6を1枚ずつ予備室に搬入する手段と、予備室に搬入された基板を処理室に移動させる手段と、処理室に搬入された基板を搬出する手段(各手段は不図示)とを有する。
【0041】
まず、治具5−1に固定された基板6の一枚を予備室7に搬入し、予備室7の内部の気圧を排気手段(ポンプ)4’で低下させる。一方、チャンバ1の処理室1−2の内部の気圧も、排気手段(ポンプ)4で低下させる。
【0042】
処理室1−2の内部と予備室7の内部との仕切り8を開いて、予備室7の基板6を処理室1−2に移動させる。処理室1−2に移動させた基板6の温度をヒータ2で、カーボンナノチューブ生成温度(約700〜900℃)に上昇させる。このとき、気体導入手段3で還元性ガスおよび不活性ガスを処理室1−2に導入する。処理室1−2内の基板6の温度を上昇させた後、気体導入手段3でカーボンナノチューブの原料ガスを処理室1−2に導入して、基板6にカーボンナノチューブを成長させる。カーボンナノチューブの成長後、基板6の温度を、カーボンナノチューブが空気中の酸素で酸化しない温度に降下させる。温度が降下した基板6は、処理室1−2から搬出される。
【0043】
一方、一の基板が処理室1−2で処理をされている間に、予備室7には別の1枚の基板6が搬入されて、予備室7の内部の気圧が低下される。処理室1−2の基板6が搬出されると、続いて予備室7に搬入されていた基板6が処理室1−2に移動して、同様のプロセスが繰り返される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、高品質なシングルウォールカーボンナノチューブの大量生産が可能になる。それにより、カーボンナノチューブデバイス、例えばカーボンナノチューブFETの工業生産が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の製造方法を実施する、バッチ式の横型低圧CVD装置の模式図である。
【図2】本発明の製造方法を実施する、バッチ式の縦型低圧CVD装置の模式図である。
【図3】本発明の製造方法を実施する、枚葉式の低圧CVD装置の模式図である。
【図4】本発明の製造方法のプロセスと、基板温度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に処理を施すための処理室を有するチューブ状のチャンバと、前記基板に処理を施すためのガスを処理室に導入するための気体導入手段と、前記処理室内の気体を排気する排気手段と、前記処理室に複数の基板をチャージした治具を搬入および搬出するための基板搬入出手段と、前記チャンバの周囲に設けられ、処理室内の基板の温度を調整するヒータと、を有する化学気相成長装置を用いて、
前記複数の基板上にカーボンナノチューブを製造する方法であって、
1)平面を有する基板の前記平面上に、カーボンナノチューブ気相成長のための触媒が配置された基板の複数を準備するステップ、
2)前記複数の基板を互いに離間させて治具にチャージして、前記治具を処理室に搬入するステップ、
3)前記処理室内の気体を、前記排気手段を通して排気して、前記処理室内を大気圧よりも低い気圧にするステップ、
4)前記処理室内に、還元性ガスおよび不活性ガスを導入して、前記ヒータで前記基板の温度を、カーボンナノチューブ生成温度に上昇させるステップ、
5)前記処理室に、カーボンナノチューブ生成のための原料ガスを導入して、前記基板の平面上にカーボンナノチューブを生成するステップ、
6)前記カーボンナノチューブの生成後、前記基板の温度を前記カーボンナノチューブが空気中の酸素で酸化されない温度に下降させるステップ、
7)前記処理室内の圧力を大気圧にするステップ、および
8)前記処理室から、前記複数の基板をチャージした治具を搬出するステップ、
を含む、カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記基板は、オリエンテーションフラットまたはノッチを有する、略円形の半導体基板である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ生成温度は、700℃以上900℃以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブが空気中の酸素で酸化されない温度は、600℃以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記3)のステップにおける大気圧よりも低い気圧は、0.1Torr〜0.6Torrの間である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料ガスは、常温で液体である物質の気化物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料ガスは、エタノールである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
基板に処理を施すための処理室を有するチューブ状のチャンバと、前記基板に処理を施すためのガスを処理室に導入するための気体導入手段と、前記処理室内の気体を排気する排気手段と、前記処理室に複数の基板をチャージした治具を搬入および搬出するための基板搬入出手段と、前記チャンバの周囲に設けられ、処理室内の基板の温度を調整するヒータと、を有する化学気相成長装置を用いて、
前記複数の基板上にカーボンナノチューブを製造する方法であって、
1)オリエンテーションフラットまたはノッチを有する略円形の基板であって、その平面上に格子状に区画された複数の領域を有し、前記複数の領域のそれぞれにはカーボンナノチューブの気相成長のための触媒が配置された基板の複数を準備するステップ、
2)前記複数の基板を互いに離間させて、かつ前記平面を互いに平行にして治具にチャージして、前記治具を処理室に搬入するステップ、
3)前記処理室内の気体を、前記排気手段を通して排気して、前記処理室内を大気圧よりも低い気圧にするステップ、
4)前記処理室内に、還元性ガスおよび不活性ガスを導入して、前記ヒータで前記基板の温度をカーボンナノチューブ生成温度に上昇させるステップ、
5)前記処理室に、カーボンナノチューブ生成のための原料ガスを導入して、前記基板の平面上にカーボンナノチューブを生成するステップ、
6)前記カーボンナノチューブの生成後、前記基板の温度を前記カーボンナノチューブが空気中の酸素で酸化されない温度に下降させるステップ、
7)前記処理室内の圧力を大気圧にするステップ、および
8)前記処理室から、前記複数の基板をチャージした治具を搬出するステップ、
を含む、カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項9】
前記基板は、半導体基板である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブ生成温度は、700℃以上900℃以下である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブが空気中の酸素で酸化されない温度は、600℃以下である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
前記3)のステップにおける大気圧よりも低い気圧は、0.1Torr〜0.6Torrの間である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項13】
前記原料ガスは、常温で液体である物質の気化物である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項14】
前記原料ガスは、エタノールである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項15】
基板に処理を施すための処理室を有するチャンバと、前記基板に処理を施すためのガスを処理室に導入するための気体導入手段と、前記処理室内の気体を排気する排気手段と、治具にチャージされた複数の基板を前記処理室に1枚ずつ搬入および排出する基板搬入出手段と、前記基板の温度を調整する、処理室内に配置されたヒータと、を有する化学気相成長装置を用いて、
前記基板上にカーボンナノチューブを製造する方法であって、
1)オリエンテーションフラットまたはノッチを有する略円形の基板であって、その平面上に格子状に区画された複数の領域を有し、前記複数の領域のそれぞれにはカーボンナノチューブの気相成長のための触媒が配置された基板の複数を準備するステップ、
2)前記処理室内の気体を、前記排気手段を通して排気して、前記処理室内を大気圧よりも低い気圧にするステップ、
3)前記基板の1枚を処理室に搬入するステップ、
4)前記処理室に搬入された基板の温度を、カーボンナノチューブ生成温度に上昇させるステップ、
5)前記処理室に、カーボンナノチューブ生成のための原料ガスを導入して、前記基板の平面上にカーボンナノチューブを生成するステップ、
6)前記カーボンナノチューブの生成後、前記基板の温度を前記カーボンナノチューブが空気中の酸素で酸化されない温度に下降させるステップ、および
7)前記処理室から、前記基板を搬出するステップ、
を含む、カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項16】
前記基板は半導体基板である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記化学気相成長装置は、前記治具と前記チャンバとの間に予備室をさらに有し、
前記予備室には前記基板の1枚が搬入され、かつ当該基板が前記処理室に搬入される前に、前記予備室は大気圧よりも低い気圧にされる、請求項15に記載の製造方法。
【請求項18】
前記カーボンナノチューブ生成温度は、700℃以上900℃以下である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項19】
前記3)のステップにおける大気圧よりも低い気圧は、0.1Torr〜0.6Torrの間である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項20】
前記原料ガスは、常温で液体である物質の気化物である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項21】
前記原料ガスは、エタノールである、請求項15に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−249190(P2009−249190A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95271(P2008−95271)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【Fターム(参考)】