説明

カーボンナノチューブの製造装置及び製造方法

【課題】高効率にてカーボンナノチューブを製造することができるカーボンナノチューブの製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】配管14から容器13内に高圧ガスを供給し、粉末15を高圧ガスと共にノズル11から筒状体1の周面に吹き付けて、筒状体1の周面に厚さ5μmのSiC膜を形成した(SiC膜生成工程)。筒状体1を回転させて、レーザー装置21からレーザーCをSiC膜に照射させ、Siを分解除去して、筒状体1の表面にカーボンナノチューブを生成させた(生成工程)。筒状体1を回転させ、該筒状体1の表面に形成されたカーボンナノチューブを除去手段30によって除去した(除去工程)。これらSiC膜生成工程、生成工程及び除去工程を1サイクルとして、当該サイクルを繰り返し行った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブの製造装置及びその製造装置を用いたカーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブを製造する方法として、種々のものが知られている。
【0003】
I. 例えば、特開2002−80211号の従来の技術の欄には、触媒金属としてCo−Ni合金を混入したカーボンターゲットを用い、電気炉に差し込んだ石英管内に該カーボンターゲットを配置し、レーザーアブレーションを行うことにより、ロープ状単層チューブを生成することが記載されている。
【0004】
II. また、特開2006−342011号には、金属が担持された3次元連続状の炭素繊維上に、熱CVD法又はプラズマCVD法でカーボンナノチューブを生成させることが記載されている。
【0005】
同号公報によると、熱CVD法でカーボンナノチューブを生成させる場合、金属が担持された3次元連続状の炭素繊維を反応器に仕込み、所望の温度下で、炭素源となる炭化水素ガスとキャリアガスとの混合ガスを反応器に流通させる。ここで、炭化水素ガスとしては、メタンガス、アセチレンガス等が挙げられ、キャリアガスとしては、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等が挙げられる。また、反応器の温度は、500〜1000℃程度が好ましい。このようにして、カーボンナノチューブが生成される。
【0006】
III. 特開平6−157016号には、アーク法によってカーボンナノチューブを製造する方法が記載されている。
【0007】
同号公報によると、反応チャンバー内に向かい合った炭素棒3,5を設け、容器内にHeガスを入れて圧力を500トールとし、直流電圧18Vを炭素棒間に加え、電流100Aを流してアーク放電させる。アーク放電時における反応容器の温度を温度制御装置によって1000〜4000℃に加熱することが好ましい。これにより、ナノチューブを含んだ固体が陰極炭素棒に堆積する。
【特許文献1】特開2002−80211号公報
【特許文献2】特開2006−342011号公報
【特許文献3】特開平6−157016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3ではバッチ操作によってカーボンナノチューブを製造しているため、生産効率が低い。
【0009】
本発明は、高効率にてカーボンナノチューブを製造することができるカーボンナノチューブの製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)のカーボンナノチューブの製造装置は、軸心を軸として回転可能な筒状体と、該筒状体の周面よりも外側に配置された、該周面にカーボンナノチューブを生成させるカーボンナノチューブの生成手段と、該筒状体の周面よりも外側かつ該生成手段よりも該筒状体の回転方向の下流側に配置された、該カーボンナノチューブの除去手段とを有することを特徴とする。
【0011】
請求項2のカーボンナノチューブの製造装置は、請求項1において、前記生成手段は、前記周面に向けてSiC粉末を吹き付け、該周面にSiC膜を形成させるSiC粉末噴射部と、該SiC粉末噴射部よりも回転方向の下流側に配置されており、該SiC膜にレーザーを照射させ、該SiC膜中のSiを分解除去してカーボンナノチューブを生成させるレーザー照射部とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明(請求項3)のカーボンナノチューブの製造方法は、請求項1のカーボンナノチューブ製造装置を用いてカーボンナノチューブを製造する方法であって、該生成手段によって、該筒状体の周面にカーボンナノチューブを生成させる生成工程と、該筒状体を回転させて該カーボンナノチューブを該除去手段まで搬送し、該除去手段によって該カーボンナノチューブを該周面から除去する除去工程とを有することを特徴とする。
【0013】
請求項4のカーボンナノチューブの製造方法は、請求項3において、前記生成工程において、レーザーアブレーション法、CVD法又はアーク法によってカーボンナノチューブを生成させることを特徴とする。
【0014】
本発明(請求項5)のカーボンナノチューブの製造方法は、請求項2のカーボンナノチューブ製造装置を用いてカーボンナノチューブを製造する方法であって、前記SiC噴射部によって前記周面にSiC膜を形成させるSiC膜生成工程と、該筒状体を回転させて該SiC膜を前記レーザー照射部まで搬送し、該レーザー照射部において、該SiC膜にレーザーを照射させ、該SiC膜中のSiを分解除去してカーボンナノチューブを生成させる生成工程と、該筒状体を回転させて該カーボンナノチューブを該除去手段まで搬送し、該除去手段によって該カーボンナノチューブを該周面から除去する除去工程と
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法及び製造装置によると、カーボンナノチューブの生成手段によって筒状体の周面にカーボンナノチューブを生成させた後、該筒状体を回転させて該カーボンナノチューブを除去手段まで搬送し、該除去手段によって該カーボンナノチューブを該周面から除去する。このため、該筒状体を1回転させて該周面に再度カーボンナノチューブを生成させることにより、カーボンナノチューブを連続して製造することができる。
【0016】
本発明において、レーザーアブレーション法、CVD法又はアーク法のいずれによってカーボンナノチューブを生成させてもよい。
【0017】
また、本発明において、筒状体の周面に向けてSiC粉末を吹き付けてSiC膜を形成させ、該SiC膜にレーザーを照射させてSiを分解除去してカーボンナノチューブを生成させるようにしてもよい。この場合、簡易且つ高効率にてカーボンナノチューブを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明のカーボンナノチューブ製造装置の一例を示す模式図である。
【0020】
容器2内に筒状体1が配置されている。この筒状体1は、図示しない駆動手段により、軸心Bを軸として矢印A方向に回転可能となっている。
【0021】
この筒状体1の材質としては、SiC、Al、Yなどのセラミックス、更にはチタン、タングステンなどの各種高硬度金属等が用いられるが、SiCであることが好ましい。
【0022】
この容器2の図1における上部側に粉末噴射部10が設けられている。この粉末噴射部10は、該容器2の上面に設けられたノズル11と、SiCの粉末15を収容する容器13と、該容器13とノズル11とを接続するホース12と、該容器13に不活性ガスを供給するガス配管14とを有している。
【0023】
このSiCの粉末15の平均粒径(篩い分け法による長さ平均径)は3〜30μm、特に5〜10μmであることが好ましい。
【0024】
不活性ガスとしては、Ar、He、Xe、Kr、Rnなどのガスを用いることができる。
【0025】
この容器2の図1における左側に、レーザー照射部20が設けられている。このレーザー照射部20は、容器2の左側面に設けられたノズル2a内に配置された集光レンズ23と、該ノズル2aの先端を閉止する石英窓22と、該石英窓22及び集光レンズ23を介して筒状体1の周面にレーザーCを照射するためのレーザー装置21とを有している。
【0026】
このレーザー装置21としては、波長が11nm〜250μmの範囲内のレーザーが好適に用いられ、例えば、Nd−YAG、CO、エキシマレーザー等が好適に用いられる。このレーザー装置21から照射されるレーザーCのエネルギー密度は、例えば100〜2000mmJ/cm程度である。レーザー照射は連続照射でもパルス照射でもよいが、パルス照射が好ましい。
【0027】
この容器2の下部には、除去手段30が設けられている。この除去手段30としては、回転除去や超音波による除去等が用いられる。
【0028】
この容器2の右側面には、容器2内のガスを真空ポンプで排気するための排気配管2bが接続されている。この容器2内には、ヒータ3が設置されている。
【0029】
次に、このように構成されたカーボンナノチューブ製造装置を用いてカーボンナノチューブを製造する方法の一例を説明する。
【0030】
配管14から容器13内に高圧ガスを供給する。これにより、該容器13内の粉末15は、ホース12を介してノズル11まで供給され、該粉末15は高圧ガスと共に該ノズル11から筒状体1の周面に吹き付けられる。該周面に吹き付けられた粉末15は、衝突エネルギーによって該周面に固着する。高圧ガスは、ノズル2bを介して系外に排出される。このようにして、筒状体1の周面にSiC膜が形成される(SiC膜生成工程)。
【0031】
なお、このSiC膜生成工程において、筒状体1を一定速度で回転させてもよく、回転させなくてもよい。
【0032】
SiC膜生成工程を行った後、筒状体1を回転させて、該SiC膜をノズル2aと対面する位置まで搬送する。また、排気配管2bの下流側の真空ポンプを作動させると共に、ヒータ3を作動させる。
【0033】
このとき、カーボンナノチューブの収率を高くするためには、容器2内の圧力を100〜2500Torr特に200〜600Torr程度にすることが好ましく、また、雰囲気温度を600〜1500℃特に1000〜1300℃程度にすることが好ましい。
【0034】
次いで、レーザー装置21からレーザーCを発生させる。レーザーCは石英窓22及び集光レンズ23を介してSiC膜に照射される。このようにしてSiC膜にレーザーが照射されると、SiC膜中のSiが分解されて除去され、筒状体1の表面にカーボンナノチューブが生成される(生成工程)。
【0035】
生成工程の後、筒状体1を回転させて該カーボンナノチューブを除去手段30と対面する位置まで搬送し、該カーボンナノチューブをこの除去手段30によって除去する(除去工程)。
【0036】
これらSiC膜生成工程、生成工程及び除去工程を1サイクルとして、当該サイクルを繰り返し行う。
【0037】
本実施の形態のカーボンナノチューブの製造方法及び製造装置によると、カーボンナノチューブを連続して製造することができる。
【0038】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0039】
例えば、図1の粉末噴射部10を省略し、レーザー噴射部20に代えてCVD装置を設け、CVD法によって筒状体1にカーボンナノチューブを生成するようにしてもよい。
【0040】
熱CVD法によってカーボンナノチューブを製造する場合には、筒状体1として、例えば本体の表面に触媒薄膜が形成されたものが用いられる。本体としては、アルミナ、シリカ、チタニア、SiCなどのセラミックスや耐熱ガラスなどが用いられる。触媒薄膜としては、鉄、ニッケル、コバルトなどの金属をスパッタ、メッキ、金属有機化合物の焼結などによって該本体の周面に形成させたものなどが用いられる。
【0041】
先ず、ヒータ3によって容器2内を700〜950℃程度に加熱し、CVD装置からキャリアガスと原料ガスの混合ガスを容器2内に供給して、触媒薄膜の上にカーボンナノチューブを生成させる。
【0042】
ここで、キャリアガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素などの不活性ガスなどが用いられる。原料ガスとしては、アセチレン、エチレン、プロピレン、ベンゼンなどの炭化水素の1種又は2種以上の混合ガスが用いられる。
【0043】
次いで、筒状体1を回転させ、該筒状体1の表面に形成されたカーボンナノチューブを除去手段30によって除去する。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0045】
実施例1
図1の装置を用いてカーボンナノチューブを製造した。
【0046】
なお、粉末15としては、平均粒径(篩い分け法による長さ平均径)5μmのSiC粉末を用い、該粉末15を噴射させるためのガスとしては、Arを用いた。また、レーザー装置21としては、YAGレーザーを用いた。
【0047】
配管14から容器13内に高圧ガスを供給し、粉末15を高圧ガスと共にノズル11から筒状体1の周面に吹き付けて、筒状体1の周面に厚さ5μmのSiC膜を形成した(SiC膜生成工程)。
【0048】
SiC膜生成工程を行った後、筒状体1を回転させて、該SiC膜をノズル2aと対面する位置まで搬送し、容器2内の圧力を500Torr、雰囲気温度を1200℃とした。レーザー装置21からレーザーC(波長532nm、エネルギー密度300mmJ/cm、10Hz)をスポットサイズ6mmφでSiC膜に照射させ、Siを分解除去して、筒状体1の表面にカーボンナノチューブを生成させた(生成工程)。
【0049】
その後、筒状体1を回転させ、該筒状体1の表面に形成されたカーボンナノチューブを除去手段30によって除去した(除去工程)。
【0050】
これらSiC膜生成工程、生成工程及び除去工程を1サイクルとして、当該サイクルを繰り返し行った。
【0051】
その結果、筒状体1の周面にカーボンナノチューブを連続的に製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施の形態に係るカーボンナノチューブの製造装置及び製造方法を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 筒状体
2 容器
3 ヒータ
10 粉末噴射部
11 ノズル
13 容器
15 粉末
20 レーザー照射部
21 レーザー装置
30 除去手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心を軸として回転可能な筒状体と、
該筒状体の周面よりも外側に配置された、該周面にカーボンナノチューブを生成させるカーボンナノチューブの生成手段と、
該筒状体の周面よりも外側かつ該生成手段よりも該筒状体の回転方向の下流側に配置された、該カーボンナノチューブの除去手段と
を有することを特徴とするカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項2】
請求項1において、前記生成手段は、
前記周面に向けてSiC粉末を吹き付け、該周面にSiC膜を形成させるSiC粉末噴射部と、
該SiC粉末噴射部よりも回転方向の下流側に配置されており、該SiC膜にレーザーを照射させ、該SiC膜中のSiを分解除去してカーボンナノチューブを生成させるレーザー照射部とを有することを特徴とするカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項3】
請求項1のカーボンナノチューブ製造装置を用いてカーボンナノチューブを製造する方法であって、
該生成手段によって、該筒状体の周面にカーボンナノチューブを生成させる生成工程と、
該筒状体を回転させて該カーボンナノチューブを該除去手段まで搬送し、該除去手段によって該カーボンナノチューブを該周面から除去する除去工程と
を有することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記生成工程において、レーザーアブレーション法、CVD法又はアーク法によってカーボンナノチューブを生成させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
請求項2のカーボンナノチューブ製造装置を用いてカーボンナノチューブを製造する方法であって、
前記SiC噴射部によって前記周面にSiC膜を形成させるSiC膜生成工程と、
該筒状体を回転させて該SiC膜を前記レーザー照射部まで搬送し、該レーザー照射部において、該SiC膜にレーザーを照射させ、該SiC膜中のSiを分解除去してカーボンナノチューブを生成させる生成工程と、
該筒状体を回転させて該カーボンナノチューブを該除去手段まで搬送し、該除去手段によって該カーボンナノチューブを該周面から除去する除去工程と
を有することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−161399(P2009−161399A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−621(P2008−621)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】