説明

カーボンナノチューブ含有組成物、その製造方法、並びにそれから得られる塗膜、硬化膜、複合体、樹脂成形体、及びマスターバッチ

【課題】 カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、溶剤及び/または重合性単量体に分散化あるいは可溶化することが可能であり、長期保存においてもカーボンナノチューブが分離、凝集せず、導電性、製膜性、成形性、透明性、強度、熱伝導性に優れているカーボンナノチューブ含有組成物、及び該組成物から製造される塗膜、硬化膜、複合体、樹脂成形体、マスターバッチ及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 カーボンナノチューブ(a)、3連子表示(%rr)で65%rr以上のシンジオタクティシティーを有するシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)、溶剤(c)、及び/または重合性単量体(d)を含有するカーボンナノチューブ含有組成物とその製法。該組成物を使用して調製した塗膜、硬化膜、複合体、樹脂成形体、マスターバッチ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ含有組成物、その製造方法、並びにそれから得られる塗膜、硬化膜、複合体、樹脂成形体、及びマスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年さまざまな産業分野において、ナノメートルサイズを有するいわゆるナノ物質を取り扱うナノテクノロジーが注目されている。ナノ物質を他の複数の材料とナノメートルレベルで複合化させることによって、従来にない新しい優れた機能を持った材料の開発が行われている。高度に分散させたナノ物質は、バルク状態とは異なる性質を示すため、複合体中に高度に分散させる技術は不可欠である。しかしながら、一般にナノ物質はその表面状態が不安定であるため、複合化の際に凝集し、ナノ物質特有の機能を発揮できないという問題がある。
【0003】
ナノ物質の中でもカーボンナノチューブは、1991年に発見されて以来、その物性評価、機能解明が行われており、その応用に関する研究開発も盛んに実施されているが、樹脂や溶液と複合化する場合には、絡まった状態で製造されているカーボンナノチューブはさらに凝集し、本来の特性を発揮できないという問題がある。この為、カーボンナノチューブを物理的に処理したり、化学的に修飾したりして、溶媒や樹脂に均一に分散又は溶解する試みがなされている。例えば、単層カーボンナノチューブを強酸中で超音波処理することにより単層カーボンナノチューブを短く切断して分散する方法が提案されている(非特許文献1)。しかしながら、強酸中で処理を実施するため、操作が煩雑となり、工業的には適した方法ではなく、その分散化の効果も十分とはいえない。
【0004】
このように切断された単層カーボンナノチューブは、その両末端が開いており、カルボン酸基等の含酸素官能基で終端されていることに着目し、カルボン酸基を酸塩化物にした後、アミン化合物と反応させ長鎖アルキル基を導入し、溶媒に可溶化することが提案されている(非特許文献2)。しかしながら、本方法では単層カーボンナノチューブに共有結合によって長鎖アルキル基を導入しているため、カーボンナノチューブのグラフェンシート構造の損傷やカーボンナノチューブ自体の特性に影響を与えるなどの問題点が残されている。
【0005】
他の試みとしては、高分子や界面活性剤、ポリマー系分散剤のカーボンナノチューブへのポリマーラッピング効果によって、カーボンナノチューブの特性を損なうことなく、カーボンナノチューブを水や有機溶剤等の各種溶剤、ポリマーマトリックス中に分散化あるいは可溶化して分散液を得る方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)該分散液は溶液状態ではカーボンナノチューブが安定に分散しているとの記載があるが、該分散液から形成される塗膜や複合体、成形体中でのカーボンナノチューブの分散状態や導電性材料等への応用に関しては記載されていない。
【0006】
また、二重らせんDNA及びオリゴヌクレオチドの何れかとカーボンナノチューブを純水中または少量の塩を含む液中で分散化、遠心分離し、水溶性カーボンナノチューブを得る方法が提案されている(特許文献3)。しかし、本方法は水以外の溶剤に適応することは困難であり、また、水溶性カーボンナノチューブから形成される塗膜や複合体、成形体中でのカーボンナノチューブの分散状態や導電性材料等への応用に関しては記載されていない。
【0007】
更に、ナノチューブ抽出材料として、コイル状構造を有する有機化合物を使用した、ナノチューブの精製方法、組成物が提案されている(特許文献4)。例挙されているコイル状構造を有する有機化合物は導電性高分子やDNAであり、導電性高分子は一般に溶解性が低く使用できる溶剤に制限があり、また、着色等の問題もある。
【特許文献1】WO2002/016257号
【特許文献2】特開2005−35810
【特許文献3】特開2005−28560
【特許文献4】特開2000−44216
【非特許文献1】R.E.Smalley等,Science,280,1253(1998)
【非特許文献2】J.Chen等,Science,282,95(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、溶剤及び/または重合性単量体に分散化あるいは可溶化することが可能であり、長期保存においてもカーボンナノチューブが分離、凝集せず、導電性、製膜性、成形性、透明性、強度、熱伝導性に優れているカーボンナノチューブ含有組成物、該組成物を用いた塗膜、硬化膜、複合体、樹脂組成物、マスターバッチ及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み、鋭意研究をした結果、3連子表示(%rr)で65%rr以上のシンジオタクティシティーを有するシンジオタクティックポリメタクリル酸エステル溶液がカーボンナノチューブを分散、可溶化できることを見出し本発明に至った。すなわち本発明は、 (1)カーボンナノチューブ(a)、及び3連子表示(%rr)で65%rr以上のシンジオタクティシティーを有するシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)を含有するカーボンナノチューブ含有組成物。 (2)更に溶剤(c)を含有する(1)記載のカーボンナノチューブ含有組成物。 (3)更に重合性単量体(d)を含有する(1)または(2)記載のカーボンナノチューブ含有組成物。 (4)(1)から(3)の何れか一項記載のカーボンナノチューブ含有組成物を製造する際に、含有する各成分の混合物に超音波を印加する工程を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ含有組成物の製造方法。 (5)(1)から(4)の何れか一項記載のカーボンナノチューブ含有組成物から得られた塗膜、硬化膜、樹脂複合体、樹脂成形体、またはマスターバッチ。
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の目的は、カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、溶剤及び/または重合性単量体に分散化あるいは可溶化することが可能であり、長期保存においてもカーボンナノチューブが分離、凝集せず、導電性、製膜性、成形性、透明性、強度、熱伝導性に優れているカーボンナノチューブ含有組成物及びそれらの製造方法を提供することにある。
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物は、カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、カーボンナノチューブを溶剤及び/または重合性単量体に分散化あるいは可溶化することが可能であり、長期保存においても分離、凝集しない。また、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物は、導電性が高く、製膜性、成形性に優れ、高い透明性、強度、熱伝導性を有する塗膜、硬化膜、複合体、樹脂成形体、またはマスターバッチを形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
<カーボンナノチューブ(a)>
カーボンナノチューブ(a)は、例えば、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒、または前記円筒が複数個入れ子構造になったものであり、外径がnmオーダーの極めて微小な物質である。
カーボンナノチューブ(a)としては、通常のカーボンナノチューブ、すなわち、単層カーボンナノチューブ、何層かが同心円状に重なった多層カーボンナノチューブ、これらがコイル状になったコイル状カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブの片側が閉じた形をしたカーボンナノホーン、底の空いたコップを積み重ねたような形状であるカップスタック型カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブの類縁体であるフラーレン、カーボンナノファイバー等が挙げられる。
【0012】
本発明で使用されるカーボンナノチューブ(a)は公知の製造方法で製造したものを使用することができる。例えば、二酸化炭素の接触水素還元、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD法)、気相成長法、一酸化炭素を高温高圧化で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法等が挙げられる。各種機能を十分に発現させるために、これら製造方法によって得られたカーボンナノチューブ(a)として、好ましくは単層カーボンナノチューブであり、更に洗浄法、遠心分離法、ろ過法、酸化法、クロマトグラフ法等の種々の精製法によって、より高純度化することが好ましい。
カーボンナノチューブ(a)は、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等のボール型混練装置等を用いて粉砕されていてもよく、化学的、物理的処理によって短く切断されていてもよい。
カーボンナノチューブ(a)はそれぞれ単独で用いても良いし、任意の割合で混合して用いても良い。
【0013】
<シンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)>
シンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)は、3連子表示(%rr)で65%rr以上のシンジオタクティシティーを有するシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)連鎖単位を含む。シンジオタクティシティーは3連子表示(%rr)で75%rr以上であることが好ましく、85%rr以上であることがより好ましい。その連鎖単位部の重量平均分子量は特に限定されないが、1000以上であることが好ましい。連鎖単位部を含む重合体の組成はメタクリル酸エステル単位単独でもよく、メタクリル酸エステル単位の他に、アクリル酸エステル等の共重合可能な単量体単位を含んでいてもよい。重合体中のメタクリル酸エステル単位の含有量は、20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、100質量%、即ち重合体がポリ(メタクリル酸エステル)ホモポリマーであることが最も好ましい。
【0014】
重合体中のシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)連鎖単位部は、公知の方法、例えば特公平6−89054号公報、特開平3−263412公報に開示されているようなアニオン重合法、配位アニオン重合法あるいは低温ラジカル重合法によって製造することができる。アニオン重合法および配位アニオン重合法の場合、通常−100〜100℃の間で重合されるが、重合温度は50℃以下が好ましく、0℃以下がより好ましい。
【0015】
本発明で使用されるシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)のメタクリル酸エステル部分は例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロエチル、メタクリル酸ペンタフルオロエチル等を例挙することができ、好ましくは、メタクリル酸メチルである。また、上記メタクリル酸エステルは単独で用いても良いし、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
<溶剤(c)>
溶剤(c)は、前記シンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)が溶解し、カーボンナノチューブ(a)が分散または可溶化するもの、また、重合性単量体(d)と併用する場合は、更に重合性単量体(d)と相溶するものであれば特に限定されないが、溶解性パラメーターが12〜30MPa1/2 で、且つ25℃におけるモル体積が60〜250cm3 /molであるものが好ましい。この範囲の溶剤(c)を用いた時、シンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)はランダムコイルからへリックス構造へと転移し、カーボンナノチューブ(a)とより効率よく相互作用することが可能となり、分散性が向上する。溶剤(c)としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素化合物、アセトン、ジエチルケトン、クロロアセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのカルボニル化合物等が挙げられる。これらは2種類以上を併用することもできる。溶解性パラメーターが15〜25MPa1/2 で、且つ25℃におけるモル体積が80〜150cm3 /molである溶剤(c)がより好ましく、さらにランダムコイル構造からへリックス構造への構造転移を考慮すると、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素化合物が最も好ましい。
【0017】
<重合性単量体(d)>
重合性単量体(d)は、前記シンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)が溶解し、カーボンナノチューブ(a)が分散または可溶化するもの、更に溶剤(c)と併用する場合は、溶剤(c)と相溶するものであれば特に限定されないが、溶解性パラメーターが12〜30MPa1/2 で、且つ25℃におけるモル体積が60〜250cm3 /molである重合性単量体(d)が好ましい。この範囲の重合性単量体(d)を用いた時、シンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)はランダムコイルからへリックス構造へと転移し、カーボンナノチューブ(a)とより効率よく相互作用することが可能となり、分散性が向上する。重合性単量体(d)としては例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロエチル、メタクリル酸ペンタフルオロエチル等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、無水マレイン酸等が挙げられる。さらに、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン等脂環式オレフィン誘導体、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状カーボネート類、カプロラクトン、バレロラクトンなどの環状ラクトン類;(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アリル、ジビニルベンゼン等分子内に重合可能な官能基を2個以上有する単量体等も挙げられる。これらの重合性単量体(d)は単独で用いても良いし、2種類以上を併用することもできる。カーボンナノチューブ含有組成物の粘度制御の点から、溶解性パラメーターが15〜25MPa1/2 で、且つ25℃におけるモル体積が80〜150cm3 /molである単量体がより好ましく、さらに重合性を考慮すると、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、スチレン類などのビニル基を有する単量体がより好ましい。メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、スチレン、α−メチルスチレンが最も好ましい。
【0018】
<重合開始剤(e)>
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物は重合性単量体(d)を使用する場合、公知の重合開始剤(e)を用いて重合することが出来る。重合開始剤(e)としては、ラジカル重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルへキサノエート等の有機過酸化物類、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)等のアゾ化合物類、さらには公知の光ラジカル重合用開始剤、レドックス系開始剤、等が挙げられる。光ラジカル重合用開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等が挙げられる。重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
<高分子化合物(f)>
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物において、高分子化合物(f)を用いることにより該カーボンナノチューブ含有組成物により製造される塗膜、硬化膜、複合体、樹脂成形体、マスターバッチの各種性能を更に向上させることができる。本発明において使用できる高分子化合物(f)としては、本発明に用いる溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)に溶解または分散(エマルション形成)可能な、シンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)以外の高分子化合物であれば特に限定されるものではない。具体的にはポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルコール類;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレートなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩などのポリ(メタ)アクリル酸類、ポリアクリルアマイド、ポリ(N−t−ブチルアクリルアマイド)などのポリアクリルアマイド類;ポリビニルピロリドン類、ポリスチレンスルホン酸及びそのソーダ塩類、セルロース、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、スチレン樹脂、アクリル/スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン/マレイン酸共重合樹脂、フッ素樹脂及びこれらの共重合体などが用いられる。また、これらの高分子化合物(f)は二種以上を任意の割合で混合したものであってもよい。
【0020】
<界面活性剤(g)>
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物は、界面活性剤(g)を加えると更に可溶化あるいは分散化が促進するとともに、該カーボンナノチューブ含有組成物により製造される塗膜、硬化膜、複合体、樹脂成形体、マスターバッチの各種性能を更に向上させることができる。本発明で使用できる界面活性剤(g)は特に限定されないが、具体例としては、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルカルボン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、ジアルキルスルホコハク酸、α−スルホン化脂肪酸、N−メチル−N−オレイルタウリン、石油スルホン酸、アルキル硫酸、硫酸化油脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸、アルキルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびこれらの塩などのアニオン系界面活性剤;第一〜第三脂肪アミン、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、2−アルキル−1−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウム塩、N,N−ジアルキルモルホリニウム塩、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドおよびその塩、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物およびその塩、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物の第四級アンモニウム塩などのカチオン系界面活性剤;N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N,N−トリアルキル−N−スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、2−アルキル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなどのベタイン類、N,N−ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩などのアミノカルボン酸類などの両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸部分エステル、トリアルキルアミンオキサイドなどの非イオン系界面活性剤;およびフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールなどのフッ素系界面活性剤が用いられる。ここで、アルキル基は炭素数1〜24が好ましく、炭素数3〜18がより好ましい。なお、界面活性剤は二種以上用いても何らさしつかえない。
【0021】
<カーボンナノチューブ含有組成物>
本発明のカーボンナノチューブ組成物は、カーボンナノチューブ(a)と3連子表示(%rr)で65%rr以上のシンジオタクティシティーを有するシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)を必須構成成分とし、更に必要に応じて溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)を構成成分とし、また重合開始剤(e)、高分子化合物(f)、及び/または界面活性剤(g)を添加することもできる。
【0022】
カーボンナノチューブ(a)の量は、溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)の合計100質量部に対して、カーボンナノチューブ(a)が0.0001〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.001〜10質量部である。これらの組成範囲内で導電性、溶解性あるいは分散性が特に良好であり、また、これ以上増大しても性能に更に大きな向上はない。
【0023】
3連子表示(%rr)で65%rr以上のシンジオタクティシティーを有するシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)の量は、溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)100質量部に対して0.001〜70質量%が好ましく、0.01〜50質量%がより好ましい。これらの範囲内で溶解性あるいは分散性が特に良好であり、また、これ以上増大しても性能に更に大きな向上はない。
【0024】
溶剤(c)と重合性単量体(d)を併用する場合、溶剤(c)と重合性単量体(d)の量比は、溶剤(c)/重合性単量体(d)は任意の比率で混合することが出来るが好ましくは90/10〜0.01/99.99である。
【0025】
重合開始剤(e)は、重合性単量体(d)を使用する場合に用いられ、重合性単量体(d)100質量部に対して0.001〜10質量部程度が好ましい。この範囲においてカーボンナノチューブ含有組成物は充分に硬化し、着色もなく、透明性の高い塗膜、硬化膜、複合体、樹脂成形体、マスターバッチが得られる。
【0026】
高分子化合物(f)の量は、溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)の合計100質量部に対して、高分子化合物(f)が0.1〜400質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜300質量部である。高分子化合物(f)が0.1質量部以上であれば成膜性、成形性、強度がより向上し、一方、400質量部以下の時、カーボンナノチューブ(a)の溶解性の低下が少なく、カーボンナノチューブ(a)に分散性、それに伴う成形体、複合体の導電性、強度が特に良好に維持される。
【0027】
界面活性剤(g)の量は、溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)の合計100質量部に対して、界面活性剤(g)が0.0001〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.01〜5質量部であるこれらの範囲内でカーボンナノチューブ(a)の溶解性あるいは分散性、長期保存安定性が特に良好であり、また、これ以上増大しても性能に更に大きな向上はない。
【0028】
更に本発明のカーボンナノチューブ含有組成物には、必要に応じて、公知の添加剤、例えば連鎖移動剤、離型剤、染料、顔料、可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤等を添加して用いることができる。また、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物には、その導電性を更に向上させるために導電性物質を含有させることができる。導電性物質としては、炭素繊維、導電性カーボンブラック、黒鉛等の炭素系物質、酸化錫、酸化亜鉛等の金属酸化物、銀、ニッケル、銅等の金属、フェニレンビニレン、ビニレン、チエニレン、ピロリレン、フェニレン、イミノフェニレン、イソチアナフテン、フリレン、またはカルバゾリレン等の繰り返し単位を含むπ共役系高分子、対称型または非対称型のインドール誘導体三量体などが挙げられる。これらの導電性物質の中でもπ共役系高分子、インドール誘導体三量体またはこれらのド−ピング物がより好ましく、更にスルホン酸基及び/またはカルボン酸基を有する水溶性のπ共役系高分子、インドール誘導体三量体またはこれらのドーピング物が特に好ましい。
【0029】
<カーボンナノチューブ含有組成物の調製方法>
カーボンナノチューブ含有組成物の所定の構成成分を混合する際、超音波、ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリットミキサーなどの撹拌又は混練装置が用いられる。特に、カーボンナノチューブ(a)を、シンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)を溶解させた溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)中に分散、可溶化する際には、これに超音波を印加することが好ましく、この際、超音波印加とホモジナイザーを併用(超音波ホモジナイザー)して処理をすることが特に好ましい。超音波印加処理の条件は、特に限定されるものではないが、カーボンナノチューブ(a)をシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)を溶解させた溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)中に均一に分散あるいは溶解させるだけの十分な超音波の強度と処理時間があればよい。例えば、超音波発振機における定格出力は、超音波発振機の単位底面積当たり0.1〜2.0ワット/cm2 が好ましく、より好ましくは0.3〜1.5ワット/cm2 の範囲であり、発振周波数は、10〜200KHzが好ましく、より好ましくは20〜100KHzの範囲である。また、超音波印加処理の時間は、1分〜48時間が好ましく、より好ましくは5分から48時間である。この後、更にボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミルなどのボール型混練装置を用いて分散あるいは溶解を徹底化しても良い。
【0030】
また、超音波印加処理を行う際のカーボンナノチューブ含有組成物の温度は、分散性向上の点から、60℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。重合性単量体(d)を使用してカーボンナノチューブ含有組成物を調製する際には、重合防止の観点からも40℃以下がより好ましい。
【0031】
カーボンナノチューブ含有組成物の所定の構成成分を混合する際には、シンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)を溶解させた溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)にカーボンナノチューブ(a)を添加して分散、可溶化しても良いし、あらかじめ溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)にカーボンナノチューブ(a)を予備分散させた後に加温しながらシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)を添加溶解させ、溶液中でシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)の無秩序ランダムコイルを形成させた後、冷却させることでへリックス転移を起こさせ、カーボンナノチューブ(a)との相互作用を促進させて、分散、可溶化しても良い。加温する温度は特に限定されないが、50℃以上100℃以下が好ましく、特に好ましくは70℃以上100℃以下である。また、高濃度のシンジオタクティック(ポリメタクリル酸エステル)(b)と溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)へカーボンナノチューブ(a)を分散したマスターバッチを製造後、溶剤(c)、重合性単量体(d)、高分子化合物(f)等で所定の濃度に希釈して用いても良い。
【0032】
<塗膜、硬化膜、複合体、樹脂成形体、マスターバッチ>
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物は、カーボンナノチューブ(a)をその特性を損なうことなく、溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)に分散化あるいは可溶化することが可能である。従って、該組成物を用いて塗膜、硬化膜、複合体、樹脂成形体、マスターバッチ等を容易に製造することが出来る。
【0033】
<塗膜、硬化膜及び複合体>
例えば、基材の表面に、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物の塗膜または硬化膜を形成し、複合体を製造する際には、一般の塗工に用いられる方法によって形成することができる。例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗布方法、エアスプレー、エアレススプレー等のスプレーコーティング等の噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等が用いられる。
【0034】
基材としては、合成樹脂のフィルム、シート、発泡体、多孔質膜、エラストマー、各種成形体;木材、紙材、セラミックス、繊維、不織布、炭素繊維、炭素繊維紙、ガラス板、ステンレス板等が挙げられる。
【0035】
合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタンが挙げられる。これらの合成樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0036】
該カーボンナノチューブ含有組成物の塗膜または硬化膜の厚さは、その用途により好ましい厚さが異なるため、特に限定されないが、例えば充分な導電性を実現するためには、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。また、硬化膜の厚さは、充分な透明性を実現し、かつ硬化膜にクラックが発生したり、積層体の切断時に硬化膜が欠けたりする等の不具合を抑制するため、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
本発明の塗膜または硬化膜においては、必要に応じて塗膜または硬化膜の上に反射防止膜を設けてもよい。また、基材の一方の面に本発明の硬化性樹脂組成物の硬化膜を設け、他方の面に反射防止膜、拡散層、接着層等の他の機能性薄膜を設けてもよい。
【0037】
溶剤(c)を用いて調製したカーボンナノチューブ含有組成物を基材の表面に塗工した後は、常温で放置して塗膜を形成することもできるが、塗膜を加熱処理すると残留する溶剤(c)の量をより低下することができ、導電性がさらに向上するため好ましい。加熱処理温度は、20℃以上、200℃以下が好ましく、特に40℃〜150℃の加熱が好ましい。200℃より高いとシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)自体が分解する恐れがあり透明性、外観が悪化することがある。
【0038】
重合性単量体(d)を用いて調製したカーボンナノチューブ含有組成物で複合体を製造する方法としては、(i)基材にカーボンナノチューブ含有組成物を塗布し、硬化させる方法;(ii)型の内面に、カーボンナノチューブ含有組成物を塗布し、硬化させて硬化膜を形成した後、型内に重合性原料または溶融樹脂を流し込み、固化させて基材を形成し、基材とともに硬化膜を型から剥離する方法;(iii)型と基材との間にカーボンナノチューブ含有組成物を流し込んで硬化させて硬化膜を形成した後、基材とともに硬化膜を型から剥離する方法等が挙げられる。
【0039】
これらの方法のうち、(ii)の方法が、埃等の影響で外観が低下することもなく、表面状態の良好な硬化膜を得ることができるため、好ましい。
(ii)の方法で用いられる型としては、注型重合用の鋳型、成形用型等が挙げられる。鋳型が2枚の表面平滑な板状物からなる場合、表面平滑な板状積層体を得ることができる。この際、硬化膜を鋳型の片面に形成してもよく、鋳型の両面に形成してもよい。
【0040】
基材の形成方法としては、重合性原料を注型重合用の鋳型に注入して重合させる、いわゆるキャスト重合法が好ましい。
キャスト重合法としては、例えば、重合性単量体(d)、重合開始剤(e)を用いて調製したカーボンナノチューブ含有組成物をガラス板からなる注型重合用のガラス型の内面に塗布し、光または熱硬化させた後、ガラス型内に重合性原料を流し込んで重合させる方法が挙げられる。ガラス型は、例えば、2枚のガラス板の間に、軟質ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体等からなるガスケットを挟み込み、これらをクランプ等で固定することにより、組み立てられる。
【0041】
キャスト重合法としては、例えば、特公昭46−41602号公報に記載されている装置を用い、2枚のスチールベルトの間でメタクリル酸メチル等を重合する連続的キャスト重合法が挙げられる。この連続的キャスト重合法においては、例えば、スチールベルト表面に重合性単量体(d)及び重合開始剤(e)を用いて調製したカーボンナノチューブ含有組成物を塗布し、硬化させて硬化膜を形成する。また、スチールベルト表面にあらかじめ凹凸等の意匠を付与しておけば、表面に意匠性を有する複合体を製造できる。また、表面に凹凸を有し、かつカーボンナノチューブ含有組成物に溶解または膨潤しないフィルム等をスチールベルトに貼り付け、その凹凸面に重合性単量体(d)及び重合開始剤(e)を用いて調製したカーボンナノチューブ含有組成物を塗布し、硬化させてもよい。
【0042】
前記(ii)の方法で用いる重合性原料としては、硬化性樹脂組成物の硬化膜を有する積層体の透明性の観点から、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物、この単量体混合物の一部が重合した重合体と単量体混合物との混合物が好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリルジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0043】
単量体混合物は、スチレン、メチルスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルピロリドン等の他の重合性単量体を含有していてもよい。他の重合性単量体は、1種を用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
単量体混合物の一部が重合した重合体と単量体混合物との混合物における、単量体の重合率は35質量%以下が好ましい。
【0044】
重合性原料に連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤としては、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸、チオフェノール、それらの混合物等のメルカプタン系連鎖移動剤が好ましく、n−オクチルメルカプタンやn−ドデシルメルカプタン等のアルキル鎖の短いメルカプタンが特に好ましい。
【0045】
重合性原料を加熱により重合させる場合、アゾ化合物、有機過酸化物、レドックス系重合開始剤等のラジカル重合開始剤を添加してもよい。アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)等が挙げられる。有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。レドックス系重合開始剤としては、有機過酸化物とアミン類との組み合わせ等が挙げられる。
【0046】
重合性原料を紫外線照射により重合させる場合、フェニルケトン系化合物、ベンゾフェノン系化合物等の光重合開始剤を添加してもよい。市販の光重合開始剤としては、「イルガキュア184」(日本チバガイギー(株)製)、「イルガキュア907」(日本チバガイギー(株)製)、「ダロキュア1173」(メルク・ジャパン(株)製)、「エザキュアKIP100F」(日本シーベルヘグナー(株)製)等が挙げられる。
【0047】
また、重合性原料を紫外線照射により重合させる場合、光増感剤を添加してもよい。光増感剤としては、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロゲキシルフェニルケトン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。また、400nm以下の波長域において増感作用を有する光増感剤を添加してもよい。
【0048】
<樹脂成形体、マスターバッチ>
重合性単量体(d)を用いたカーボンナノチューブ含有組成物に重合開始剤(e)を混合して重合する塊状重合法、前記組成物を水に分散させて重合する懸濁重合法や乳化重合法、または前記組成物を溶剤(c)に溶解させて重合する溶液重合法等を用いて重合体を得た後、その重合体を単離し、樹脂成形体やマスターバッチとして用いることが出来る。
【0049】
この際、得られる重合体はシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)との相互作用により、シンジオタクティシティーが高くなり、従来のメタクリル樹脂よりも、耐熱性が高くなり、従来メタクリル樹脂が使用されてきた用途のみならず、より高い耐熱性が要求されるヘッドランプ、導光板及び光ファイバー等の自動車積載用途にも使用できる。
【0050】
以上説明した本発明のカーボンナノチューブ含有組成物は、カーボンナノチューブ(a)自体の特性を損なうことなく、カーボンナノチューブ(a)をシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)、溶剤(c)、及び/または重合性単量体(d)中に分散または溶解させることができ、長期保存においてもカーボンナノチューブ(a)が分離凝集しない。この理由は明確に解明されていないが、本発明で用いたシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)が溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)中でランダムコイル構造からへリックス構造を転移し、カーボンナノチューブ(a)をらせん状にラッピングすることにより、カーボンナノチューブ(a)がシンジオタクティックポリメタクリル酸エステル(b)とともに溶剤(c)及び/または重合性単量体(d)に安定に分散または溶解していることによるものと推測される。
【0051】
また、本発明の組成物から製造した塗膜、硬化膜、複合体、樹脂成形体、マスターバッチにあっては、カーボンナノチューブ(a)が高度に分散または溶解した状態を保持したまま形成されているため、外部刺激によるカーボンナノチューブ(a)の経時的な脱離等がなく、長期的に優れた導電性、強度、熱伝導性、透明性を維持できるという特徴がある。

【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお、原料のカーボンナノチューブは、単層ナノチューブ(HiPco法:CNI社製)を使用した。(以下、SWNTと略記することもある。)
【0053】
(製造例1:シンジオタクティックポリ(メタクリル酸メチル))
(CMeSmMe(thf)を開始剤として、トルエン中−78℃で重合することによりシンジオタクティックポリ(メタクリル酸メチル)を得た。クロロホルムを溶剤として35℃で測定したゲル・パーミッション・クロマトグラフィー(ウォーターズ社製)により求めた重量平均分子量(Mw)と分子量分布はそれぞれMw:98000、Mw/Mn:1.1であった。また、重クロロホルム溶剤を用いて50℃で測定したプロトン核磁気共鳴スペクトル(測定装置:日本電子(株)製EX−270)より、シンジオタクティシティーは3連子表示(%rr)で90%rrであった。
【0054】
(実施例1)
カーボンナノチューブ含有組成物1:
メタクリル酸メチル(和光純薬製特級)100質量部に対して、製造例1で得たシンジオタクティックポリ(メタクリル酸メチル)5質量部を溶解させ、次いで単層カーボンナノチューブ0.1質量部を室温にて混合した後、氷冷下で、超音波ホモジナイザー処理(SONIC社製 vibra cell 20kHz)を0.5時間実施しカーボンナノチューブ含有組成物1を得た。
【0055】
(実施例2)
カーボンナノチューブ含有組成物2:
実施例1のカーボンナノチューブ含有組成物1に更に、熱重合開始剤として2,2‘−アゾビス2,4−ジメチルバレロニトリル0.1質量部を添加しカーボンナノチューブ含有組成物2を得た。
【0056】
(比較例1)
カーボンナノチューブ含有組成物3:
実施例1のシンジオタクティックポリ(メタクリル酸メチル)(b)に変えて、シンジオタクティシティー53%rr、Mw:100000、Mw/Mn:2.1のポリ(メタクリル酸メチル)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行いカーボンナノチューブ含有組成物3を得た。
【0057】
(比較例2)
カーボンナノチューブ含有組成物4:
実施例1のシンジオタクティックポリ(メタクリル酸メチル)(b)に変えて、シンジオタクティシティー52%rr、Mw:100000、Mw/Mn:2のポリ(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル)(98.5/1.5)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行いカーボンナノチューブ含有組成物4を得た。
【0058】
表1に実施例1〜2、比較例1〜2のカーボンナノチューブ含有組成物の組成を示す。
【表1】

【0059】
(複合体の調製とその評価1−実施例1、比較例1,2で実施)
カーボンナノチューブ含有組成物1,3,4を、ガラス基板上(5cm×5cm×1mm)上に滴下し、バーコーター(No7)にて塗膜を形成後、80℃のホットプレート上で乾燥させ複合体を得た。得られた複合体は外観観察後、全光線透過率と表面抵抗値を測定した。
【0060】
(複合体の調製とその評価2−実施例2で実施)
対向するガラス板の間隔を30μmに調整したセルに十分に、脱気したカーボンナノチューブ含有組成物2を注入し、80℃水浴中で1時間、ついで130℃の空気炉で1時間保持して重合した。冷却後ガラス板から樹脂板を剥離することにより、複合体を得た。得られた複合体は外観観察後、全光線透過率と表面抵抗値を測定した。
【0061】
<評価方法>
(溶液状態の目視観察)
実施例及び比較例で得られたカーボンナノチューブ含有組成物の溶液状態を分散処理直後、及び1日静置後に目視で観察した。
○:溶液状態で目視上均一な組成物。
×:溶液状態で目視上不均一な組成物。
(表面抵抗値) :25℃、50%RHの条件下で表面抵抗値の測定を行った。測定には表面抵抗値が10Ω以上の場合は二探針法(電極間距離:20mm)を用いた。
(全光線透過率) :全光線透過率(%)は日本電色製HAZEMETER NDH2000により測定した。
(複合体の外観観察) : 目視に塗工により得られた複合体の製膜性、表面の均一性、色調を観察した。
(製膜性)
○:容易に均一な塗膜が製膜できた。
×:塗工しても塗膜が形成できなかった。
(均一性)
○:表面に凝集物が観察されない均一な複合体。
×:表面でカーボンナノチューブが凝集し不均一な複合体。
【0062】
表2に実施例、比較例のカーボンナノチューブ物質含有組成物及びそれらから得られた複合体の評価結果を示す。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物は、塗布、スプレー、キャスト、ディップ等の簡便な塗工手法を用いることにより各種帯電防止剤、コンデンサー、電気二重層キャパシタ、電池、燃料電池及びその高分子電解質膜、電極層、触媒層、ガス拡散層、ガス拡散電極層、セパレーターなどの部材、EMIシールド、化学センサー、表示素子、非線形材料、防食剤、接着剤、繊維、紡糸用材料、帯電防止塗料、防食塗料、電着塗料、メッキプライマー、静電塗装用導電性プライマー、電気防食、電池の蓄電能力向上などの用途に適用可能である。また、本発明の複合体、樹脂成形体は、半導体、電器電子部品などの工業用包装材料、半導体製造のクリーンルームなどで使用される透明導電性樹脂板、オーバーヘッドプロジェクタ用フィルム、スライドフィルムなどの電子写真記録材料等の帯電防止フィルム、透明導電性フィルム、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータ用テープ、フロッピィディスクなどの磁気記録用テープの帯電防止、電子デバイスのLSI配線、フィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)の電子銃(源)及び電極、水素貯蔵剤、非線形光学材料、更に透明タッチパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの入力及び表示デバイス表面のディスプレイ保護板、前面板、帯電防止や透明電極、透明電極フィルム、有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する発光材料、バッファ材料、電子輸送材料、正孔輸送材料及び蛍光材料、熱転写シート、転写シート、熱転写受像シート、受像シートとして利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ(a)、及び3連子表示(%rr)で65%rr以上のシンジオタクティシティーを有するシンジオタクティックポリ(メタクリル酸エステル)(b)を含有するカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項2】
更に溶剤(c)を含有する請求項1記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項3】
更に重合性単量体(d)を含有する請求項1または請求項2記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか一項記載のカーボンナノチューブ含有組成物を製造する際に、含有する各成分の混合物に超音波を印加する工程を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ含有組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3の何れか一項記載のカーボンナノチューブ含有組成物から得られた塗膜、硬化膜、複合体、樹脂成形体、またはマスターバッチ。

【公開番号】特開2008−156478(P2008−156478A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347027(P2006−347027)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】