説明

カーボンナノチューブ含有組成物および塗膜

【課題】VOCが主溶媒でない組成物を用いて、光透過性、耐久性、導電性のいずれも優れた塗膜を提供する。
【解決手段】導電性高分子、ドーパント、カーボンナノチューブ、水および分散剤を混合し、カーボンナノチューブ含有組成物を調製する。得られたカーボンナノチューブ含有組成物を塗布、乾燥することにより塗膜を作製する。分散剤は水溶性キシランを含むことが好ましく、更にアルコールを含むことがより好ましい。また水溶性キシランの主鎖の数平均重合度は、6以上5000以下であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ含有組成物および塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶ディスプレー、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどの透明電極、ならびに電磁波シールド材などの基材のコーティングに用いられている。最も広く応用されている透明導電膜は、インジウム−スズの複合酸化物(ITO)の蒸着膜である(非特許文献1参照)。
【0003】
また、有機材料の透明導電膜として、低温かつ低コストで成膜可能な導電性高分子を用いたものが提案されている。例えば、水分散性が良好なポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の製造方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
さらに、基材の少なくとも片面に、極細導電繊維を含んだ透明な導電層が形成された電磁波シールド体であって、上記極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触し、上記導電層が105Ω/□以下のシート抵抗を備えていることを特徴とする電磁波シールド体が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
水系媒体中で凝集しないカーボンナノチューブ含有組成物としては、水溶性キシラン、樹脂及びカーボンナノチューブを含む導電性コーティング用水性組成物が開示されている(特許文献3参照)。
【0006】
特許文献4では、導電性高分子に水溶性有機化合物を添加した組成物が開示されている。
【0007】
特許文献5では、カーボンナノチューブと共役系重合体を含む分散液が開示されている。
【0008】
特許文献6では、カーボンナノチューブと導電性高分子を含む複合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開H07−090060号公報(1995年4月4日公開)
【特許文献2】特開2004−253796号公報(2004年9月9日公開)
【特許文献3】特開2008−217684号公報(2008年9月18日公開)
【特許文献4】WO2004/106404公報(2006年7月20日公開)
【特許文献5】特開2005−809738号公報(2005年4月7日公開)
【特許文献6】特開2008−523234号公報(2008年7月3日公開)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】新しい透明導電膜 株式会社東レリサーチセンター p.1(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記ITOの蒸着膜は、金属ターゲットが希少金属のインジウムを含むので、ターゲットのコストが通常の製膜プロセスに比較して高く、しかも、真空バッチ処理で生産を行うので単位時間当たりの生産量が少なく、導電性膜を塗布したフィルムの価格が非常に高い問題があった。また、ITOなどの無機酸化物膜は、塗膜の屈曲性に乏しく、例えば基材の撓みによりクラックが入りやすく、導電性の低下の問題が発生しやすく、屈曲性を必要とする用途への使用は難しいという問題があった。
【0012】
特許文献1の発明の水分散体を含むコーティング用組成物を基材上に付与してなる薄膜は、ITOを用いた場合に生じる問題を解決しているが、無機酸化膜に比べて導電性高分子が透明性および導電性、耐久性については不十分であるという問題がある。
【0013】
更に、特許文献4では、導電性高分子に水溶性有機化合物を添加した組成物を用いることで、特許文献1で問題となっていた導電性を改善しているが、耐久性については不十分であった。
【0014】
これに対し、特許文献2の発明の導電層を形成するための塗液は、特許文献1で問題となっていた塗布後の膜の透明性、導電性については充分であるが、極細導電繊維が水には分散しにくい問題から、バインダーを揮発性有機溶剤に溶解した溶液に極細導電繊維を分散させて調製されるため、環境安全性の観点から揮発性有機化合物(以下、本明細書中、「VOC」という)を多く含む点が問題となっている。
【0015】
一方、特許文献3の発明の導電性コーティング用水性組成物は、水溶性キシランを用いることで、水分散性を向上させて、特許文献2で問題であった有機溶剤の使用に伴うVOCの問題は解決しているが、この組成物を用いて作製された塗膜は、導電性及び光の透過率が低いという問題点があった。
【0016】
また、特許文献5の分散液は、カーボンナノチューブの分散安定性が悪いという問題点があった。
【0017】
特許文献6の複合材料は、材料を作成するために用いる溶液のカーボンナノチューブの分散性が悪いため、複合材料の安定性や光の透過率が悪いという問題があった。
【0018】
すなわち、ITOの課題を解決する有機材料において、VOCが主溶媒でない組成物を用いて、導電性及び耐久性の両方が優れた透明導電膜は知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、導電性高分子、ドーパント、カーボンナノチューブ、水および分散剤を含有するカーボンナノチューブ含有組成物を用いることで、上記問題点を解決することを見出し、これに基づいて発明を完成させた。
【0020】
すなわち、本発明は導電性高分子、ドーパント、カーボンナノチューブ、水および分散剤を含有するカーボンナノチューブ含有組成物である。
【0021】
さらに、分散剤が少なくとも水溶性キシランを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ含有組成物である。
【0022】
さらに、分散剤が水溶性キシランに加え、さらにアルコールを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ含有組成物である。
【0023】
さらに、水溶性キシランの主鎖の数平均重合度が6以上5000以下である、カーボンナノチューブ含有組成物である。
【0024】
さらに、水溶性キシランが、キシロース残基またはアセチル化キシロース残基と、アラビノース残基と4−O−メチルグルクロン酸残基とからなる、カーボンナノチューブ含有組成物である。
【0025】
さらに、水溶性キシランにおいて、アラビノース残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が7〜100の割合である、カーボンナノチューブ含有組成物である。
【0026】
さらに、水溶性キシランが、キシロース残基またはアセチル化キシロース残基と、4−O−メチルグルクロン酸残基とからなる、カーボンナノチューブ含有組成物である。
【0027】
さらに、水溶性キシランにおいて、4−O−メチルグルクロン酸残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が1〜100の割合である、カーボンナノチューブ含有組成物である。
【0028】
さらに、前記水溶性キシランの数平均分子量が1,500以上100万以下である、カーボンナノチューブ含有組成物である。
【0029】
さらに、水溶性キシランが、木本性植物由来のキシランである、カーボンナノチューブ含有組成物である。
【0030】
さらに、水溶性キシランが、広葉樹由来のキシランである、カーボンナノチューブ含有組成物である。
【0031】
さらに、導電性高分子が少なくともポリチオフェンを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ含有組成物である。
【0032】
さらに、ポリチオフェンが少なくともポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ含有組成物である。
【0033】
さらに、カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とするカーボンナノチューブ含有組成物である。
【0034】
さらに、ドーパントがルイス酸であることを特徴とするカーボンナノチューブ組成物である。
【0035】
さらに、ルイス酸がスルホン酸化合物であることを特徴とするカーボンナノチューブ組成物である。
【0036】
さらに、カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して、導電性高分子0.01〜5重量部、ドーパント0.1〜10重量部、カーボンナノチューブ0.001〜5重量部、分散剤0.15〜40重量部を含有することを特徴とするカーボンナノチューブ含有組成物である。
【0037】
また、前記カーボンナノチューブ含有組成物を塗布、乾燥することにより形成される塗膜である。
【0038】
さらに、塗膜を高分子フィルムまたはガラス表面に塗布、乾燥することにより形成される透明導電膜である。
【発明の効果】
【0039】
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物はVOCが主溶媒ではないため、環境安全性に優れる。また、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物を用いて作製された塗膜は、良好な透明性、導電性及び耐久性を有する塗膜となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】シート抵抗測定のためのサンプル
【発明を実施するための形態】
【0041】
本願発明のカーボンナノチューブ含有組成物は、導電性高分子、ドーパント、カーボンナノチューブ、水および分散剤を含有するカーボンナノチューブ含有組成物である。
【0042】
本願発明における「耐久性に優れる」とは、塗膜を作製してシート抵抗を測定し、その後、気温20℃、湿度50%の環境雰囲気中で4日放置した後にシート抵抗を測定したとき、放置前後のシート抵抗の変化が少ないことを指す。具体的には、PETフィルム(東レ ポリエステルフィルム ルミラー #100−U34)の表面に試料溶液を塗布してバーコーターを用いて一定厚みに引き延ばし、120℃で60分加熱乾燥することで得られる、550nmの透過率が85±5%となるように膜厚を調整した塗膜を用い、塗膜調製直後のシート抵抗をa(Ω/□)、4日放置した後のシート抵抗をb(Ω/□)とした場合に、b/aの計算式により算出した値(以下、抵抗値保持率とする)が小さいものを指す。抵抗値保持率が1.5以下であることが塗膜を長期安定的に使用する上で好ましい。
【0043】
本願発明における導電性高分子とは、少なくとも共役系構造が伸びた構造を含むものである。
【0044】
導電性高分子としては例えば、ポリチオフェン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリアニリン系重合体、ポリアセチレン系重合体、ポリ−p−フェニレン系重合体、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体などが用いられる。上記重合体は単一のモノマーユニットからなるホモ重合体、異なるモノマーユニットをブロック共重合体、ランダム共重合体、更には、グラフト重合体の構造を有する重合体を用いることができる。上記重合体の中でも本発明においては、ポリチオフェン系重合体を用いることが、カーボンナノチューブ含有組成物を用いて形成される塗膜の耐久性が優れるため、好ましく使用される。
【0045】
本願発明におけるポリチオフェン系重合体とは、ポリ−チオフェン構造骨格を有する構造体である。例えば、ポリチオフェン、ポリ−3−メチルチオフェン、ポリ−3−ブチルチオフェン、ポリ−3−ヘキシルチオフェン、ポリ−3−オクチルチオフェン、ポリ−3−ドデシルチオフェンなどのポリ−3−アルキルチオフェン類、ポリ−3−メトキシチオフェン、ポリ−3−エトキシチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)などのポリ−3−アルコキシチオフェン類、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)などのポリ−3,4−ジアルコキシチオフェン類、ポリ−3−メトキシ−4−メチルチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシ−4−メチルチオフェンなどのポリ−3−アルコキシ−4−アルキルチオフェン類、ポリ−3−チオヘキシルチオフェンやポリ−3−チオドデシルチオフェンなどのポリ−3−チオアルキルチオフェン類が挙げられる。中でも、溶媒への分散性が優れているという点でポリ−3−アルキルチオフェン類、ポリ−3−アルコキシチオフェン類、ポリ−3,4−ジアルコキシチオフェン類を用いることが好ましい。特にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を用いることが好ましい。
【0046】
なお、ポリチオフェン系重合体としては、重量平均分子量が500〜100000であることがカーボンナノチューブ含有組成物を用いて形成される塗膜の導電性や、溶媒への分散性に優れるという点で好ましい。
【0047】
本願発明における導電性高分子の含有率は、カーボンナノチューブ含有組成物を100重量部とした場合に、0.01〜5重量部であることが水へ分散させた場合の導電性高分子の凝集しにくくなり安定した分散状態を発現できるので好ましい。特に0.1〜3重量部であることが、導電性高分子の水中での安定性だけではなく、カーボンナノチューブ含有組成物が長期間安定に分散した状態を維持することができるので好ましい。
【0048】
本願発明におけるドーパントとは、カーボンナノチューブ含有組成物を乾燥して塗布膜等に成形した場合に、その塗布膜の電気抵抗値が上記導電性高分子だけを含む塗布膜に比較して電気抵抗値を低下させることができる物質であれば特に制限されるものではない。そのような物質としては、導電性高分子の導電性が向上するので、ルイス酸化合物を好適に用いることができる。本願発明におけるルイス酸化合物とは、例えばスルホン酸化合物、ホウ酸化合物、リン酸化合物、塩素酸化合物等が好適に用いられる。導電性高分子の導電性が優れるのでスルホン酸化合物を使うことが好ましい。
【0049】
前記スルホン酸化合物としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ショウ脳スルホン酸、ポリビニルナフタレンスルホン酸などが挙げられる。
【0050】
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、カーボンナノチューブ含有組成物を用いて形成される塗膜の導電性が向上し、導電性高分子が水に分散しやすくなるという点でポリスチレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸を用いることが好ましい。
【0051】
前記ドーパントの前記有機導電性高分子組成物中の含有量を制御することにより、該有機導電性高分子組成物を用いて形成した塗膜のシート抵抗を所望の程度に制御することができる。
【0052】
本願発明におけるドーパントの含有率は、カーボンナノチューブ含有組成物を100重量部とした場合に、0.1〜10重量部であることが、カーボンナノチューブ含有組成物を用いて形成される塗膜のシート抵抗を10,000Ω/□以下に制御することができるので好ましい。特に0.5〜7重量部であることがカーボンナノチューブ含有組成物を用いて形成される塗膜のシート抵抗を2,000Ω/□以下に制御する上で好ましい。
【0053】
カーボンナノチューブとは、炭素の同素体であり、複数の炭素原子が結合して筒状に並んだものをいう。カーボンナノチューブとしては、任意のカーボンナノチューブを用いることができる。カーボンナノチューブの例としては、単層カーボンナノチューブおよび多層カーボンナノチューブ、およびこれらがコイル状になったものが挙げられる。単層カーボンナノチューブは、グラファイト状炭素原子が一重で並んでいるものであり、多層カーボンナノチューブは、グラファイト状炭素原子が2層以上同心円状に重なったものである。本発明で用いられるカーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブでも単層カーボンナノチューブでもよいが、より好ましくは、導電性がよりすぐれていることから、単層カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブの片側が閉じた形をしたカーボンナノホーン、その頭部に穴があいたコップ型のナノカーボン物質、両側に穴があいたカーボンナノチューブなども用いることができる。
【0054】
カーボンナノチューブは、洗浄、遠心分離、ろ過、酸化、クロマトグラフィーなどによって精製されたものであっても、未精製のものであってもよい。精製したカーボンナノチューブを用いることで、カーボンナノチューブ含有組成物を用いて形成された塗膜の導電性や耐久性が向上する。そのため、本願発明においては、精製されたカーボンナノチューブを用いることが好ましい。なお、用いられるカーボンナノチューブの、直径、長さ、及び構造(単層か多層か)については特に限定されるものではなく、どのようなカーボンナノチューブでも用いることが可能である。
【0055】
また、カーボンナノチューブ含有組成物中でカーボンナノチューブは1本ずつ分離した状態で分散していてもよいし、または複数本が束になった状態で分散していてもよい。特に、導電性を高くするためには、1本ずつ分離した状態で分散していることが好ましい。
【0056】
本願発明におけるカーボンナノチューブの含有率は、カーボンナノチューブ含有組成物を100重量部とした場合に、0.001〜5重量部であることがカーボンナノチューブの溶液中での分散性を良好に維持できるので好ましく、特に0.005〜3重量部であることが溶液中での分散性を最も良好に維持することができ、更に、組成物を塗布・乾燥して得られる塗膜の導電性及び光透過率が優れているので好ましい。
【0057】
カーボンナノチューブを加えることで、塗膜の導電性の向上するだけではなく、耐久性も向上するという、予想外の効果が明らかになった。具体的には、カーボンナノチューブを加えた組成部を用いて作製した塗膜は、カーボンナノチューブを含まずそれ以外の組成が同じ組成物を用いて作製した塗膜と比べて、気温20℃、湿度50%の環境雰囲気中で4日放置した時、放置前後のシート抵抗の変化が1/4以下になることが明らかになった。
【0058】
本願発明における分散剤とは、カーボンナノチューブを水溶液中に分散させた場合に、沈降量が少なく長期安定的に分散状態を維持することができる分散助剤のことである。特に、本願発明においては、分散剤としては水溶性キシラン、アルコール、界面活性剤、両性イオンなどを用いることができる。上記分散剤は、1種単独で用いることも可能であるが、2種以上を併用することも可能である。
【0059】
本願発明における水溶性キシランとは、β−1,4結合によって連結された6以上のキシロース残基を含む分子であって、20℃の水に6mg/mL以上溶解する分子をいう。水溶性キシランは、純粋なキシロースポリマーではなく、キシロースポリマー中の少なくとも一部の水酸基が他の置換基(例えば、アセチル基、グルクロン酸残基、アラビノース残基など)に置き換わっている分子である。キシロース残基のみからなるキシランの水酸基が他の置換基に置き換わることにより、キシロース残基のみからなるキシランよりも水溶性が高くなることがある。キシロース残基のみからなるキシランの水酸基が他の置換基に置き換わっている分子は、キシロースポリマーに置換基が結合した分子、または修飾されたキシロースポリマーということもできる。なお、本明細書中で用語「修飾された」とは、高分子を構成する基準分子と比較して修飾されている分子をいい、人為的操作によって製造された分子だけでなく、天然に存在する分子をも包含する。キシロースポリマーに4−O−メチルグルクロン酸残基およびアセチル基が結合したものは、一般に、グルクロノキシランと呼ばれる。キシロースポリマーにアラビノース残基および4−O−メチルグルクロン酸残基が結合したものは、一般に、アラビノグルクロノキシランと呼ばれる。
【0060】
水溶性キシランは、その主鎖にキシロース残基またはその修飾物のみを含むことが好ましく、その主鎖にキシロース残基またはアセチル化キシロース残基のみを含むことがより好ましい。本明細書中では、用語「主鎖」とは、β−1,4結合によって連結された最も長い鎖をいう。水溶性キシロースが直鎖状である場合、その分子自体が主鎖であり、水溶性キシロースが分枝状である場合、β−1,4結合によって連結された最も長い鎖が主鎖である。本発明で用いられる水溶性キシランの主鎖の数平均重合度は、好ましくは6以上5000以下であり、より好ましくは7以上1000以下であり、さらに好ましくは8以上500以下であり、特に好ましく9以上100以下であり、最も好ましくは10以上50以下である。水溶性キシランの主鎖の数平均重合度を上記範囲に制御することで水溶性キシランの水への溶解性が向上するので好ましい。
【0061】
親水基は、キシロース残基の1位、2位、3位または4位のいずれの位置においても結合し得る。1つのキシロース残基に対する親水基の結合箇所は、4箇所の全てであり得るが、3箇所以下が好ましく、2箇所以下がより好ましく、1箇所であることが最も好ましい。親水基は、キシロースポリマーの全てのキシロース残基に結合していてもよいが、好ましくは一部のキシロース残基にのみ結合している。親水基の結合の割合は、好ましくはキシロース残基10個あたり1個以上であり、より好ましくはキシロース残基10個あたり2個以上であり、さらに好ましくはキシロース残基10個あたり3個以上であり、特に好ましくはキシロース残基10個あたり4個以上であり、最も好ましくはキシロース残基10個あたり5個以上である。親水基の例としては、アセチル基、4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基、L−アラビノフラノース残基およびα−D−グルクロン酸残基が挙げられる。
【0062】
本発明の特定の実施形態では、キシロース残基の2位に、他の糖残基が結合している水溶性キシランが好ましい。この水溶性キシランにおいて、キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計と他の糖残基との割合は、他の糖残基1モルに対し、キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が20モル以下であることが好ましく、10モル以下であることがより好ましく、6モル以下であることがさらに好ましい。キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計と他の糖残基との割合は、他の糖残基1モルに対し、キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が1モル以上であることが好ましく、2モル以上であることがより好ましく、5モル以上であることがさらに好ましい。
【0063】
本発明の特定の実施形態では、キシロース残基の2位に4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基がα−1,2−結合している水溶性キシランが好ましい。この水溶性キシランにおいて、キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計と4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基との割合は、4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基1モルに対し、キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が100モル以下であることが好ましく、50モル以下であることがより好ましく、20モル以下であることがさらに好ましい。キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計と4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基との割合は、4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基1モルに対し、キシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が1モル以上であることが好ましく、5モル以上であることがより好ましく、9モル以上であることがより好ましく、10モル以上であることがより好ましく、14モル以上であることがさらに好ましい。
【0064】
水溶性キシランの数平均分子量は、好ましくは1500〜100万であり、より好ましくは2000〜50万であり、さらにより好ましくは4000〜10万であり、特に好ましくは5000〜5万であり、最も好ましくは6000〜2万である。
【0065】
本発明で用いられる好適な水溶性キシランは、好ましくは木本性植物由来である。水溶性キシランは、植物の細胞壁部分に多く含まれる。木材は特に、水溶性キシランを多く含む。水溶性キシランの構造は、由来する植物の種類に依存して様々である。広葉樹の木材に含まれるヘミセルロースの主成分はグルクロノキシランであることが公知である。広葉樹に含まれるグルクロノキシランは、キシロース残基10:4−O−メチルグルクロン酸1:アセチル基6の割合で構成されることが多い。針葉樹の木材に含まれるヘミセルロースの主成分はグルコマンナンであり、針葉樹の木材はまたグルクロノキシランおよびアラビノグルクロノキシランも含むことが公知である。なお、グルコマンナンは主鎖がマンノース残基とグルコース残基とから構成されており、その比は一般に、マンノース残基3〜4:グルコース残基1である。本発明で用いられる水溶性キシランはより好ましくは広葉樹由来であり、より好ましくはブナ、カバ、アスペン、ニレ、ビーチまたはオーク由来であり、より好ましくはグルクロノキシランである。広葉樹のヘミセルロース成分は、本発明で用いられる水溶性キシランを多く含む。広葉樹由来の水溶性キシランは、アラビノース残基をほとんど含まないため特に好適である。当然のことながら、天然由来の水溶性キシランは、異なる分子量を有する種々の分子の混合物である。天然由来の水溶性キシランは、その効果を発揮し得る限り、夾雑物を含んだ状態で使用されてもよく、広い分子量分布を有する集団として使用されてもよく、より狭い分子量分布を有する集団になるように、より高純度に精製されてから使用されてもよい。
【0066】
少量ではあるが、針葉樹、トウモロコシ、イネ、麦などのイネ科の草本植物などにも水溶性キシランは含まれる。これら由来の水溶性キシランは、4−O−メチル−α−D−グルクロン酸残基以外に、α−L−アラビノース残基がキシロース残基に共有結合している。α−L−アラビノース残基の含量が高すぎると分散剤としての効果が得られない場合があるので、α−L−アラビノース残基の含量が高いキシランは本発明の目的に好適ではない。穀類(麦、米)、熊笹などから抽出されるヘミセルロースは、キシロース、4−O−メチルグルクロン酸およびアラビノースから主になるアラビノグルクロノキシランであり、本発明の水溶性キシランと異なり、アラビノースの含量が高い。草本性植物由来の水溶性キシランであっても、L−アラビノース残基を少なくとも一部除去することにより、本発明で利用され得る。L−アラビノース残基は、化学的方法または酵素的方法などの公知の方法によって除去され得る。
【0067】
本発明の特定の実施形態では、水溶性キシランが、キシロース残基またはアセチル化キシロース残基と、アラビノース残基と4−O−メチルグルクロン酸残基とからなることが好ましい。この実施形態において、水溶性キシラン中のL−アラビノース残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計は、好ましくは7以上であり、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは20以上である。この実施形態において、水溶性キシラン中のL−アラビノース残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計は、好ましくは100以下であり、より好ましくは60以下であり、さらに好ましくは40以下である。
【0068】
水溶性キシランは、例えば木材から、公知の方法に従って精製される。水溶性キシランの精製方法としては、例えば、脱リグニン処理した木材を原料として、10%程度の水酸化カリウム溶液で抽出する方法などが挙げられる。水溶性キシランはまた、木材から製造された粉末セルロースを水に分散し、この溶液を濾紙、0.45μmフィルター、0.2μmフィルターで順次濾過して得られる濾液を乾燥することによっても得られる。
【0069】
本発明で用いられる水溶性キシランにおいて、キシロース残基とL−アラビノース残基との割合は、L−アラビノース残基1モルに対し、キシロース残基が7モル以上であることが好ましく、10モル以上であることがより好ましく、20モル以上であることがさらに好ましい。L−アラビノース残基1モルに対するキシロース残基の比に上限はなく、L−アラビノース残基1モルに対して、キシロース残基は例えば、100残基以下、60残基以下、40残基以下などである。
【0070】
本発明の特に好ましい実施形態では、水溶性キシランは好ましくはL−アラビノース残基を含まない。水溶性キシランは、キシロース残基またはアセチル化キシロース残基と4−O−メチルグルクロン酸残基とからなる。この実施形態において、水溶性キシラン中の4−O−メチルグルクロン酸残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計は、好ましくは1以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは9以上であり、さらに好ましくは10以上であり、さらにより好ましくは14以上である。この実施形態において、水溶性キシラン中の4−O−メチルグルクロン酸残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計は、好ましくは100以下であり、より好ましくは50以下であり、さらに好ましくは20以下である。
【0071】
本願発明におけるアルコールとは、水酸基含有化合物を示し、例えば炭素数1〜20の、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコールを挙げることができる。
【0072】
水酸基含有化合物中の水酸基の数は1つでもよく、2つ以上でもよい。化合物中に2つ以上の水酸基を持つものが、カーボンナノチューブ含有組成物中でカーボンナノチューブの分散性が優れるため、好ましい。化合物中に2つ以上の水酸基を持つものとして、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリンなどが挙げられ、これらの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコールが、特にカーボンナノチューブの分散性が向上するため好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0073】
長期安定的にカーボンナノチューブを分散させるので、分散剤として水溶性キシランを用いることが好ましい。さらに、分散剤として水溶性キシランに加え、アルコールを含むことで、カーボンナノチューブ組成物中のより多くのカーボンナノチューブを安定的に分散させることができるので、より好ましい。カーボンナノチューブをより多くカーボンナノチューブ含有組成物中に分散させることで、組成物を用いて作成された塗膜の導電性、耐久性がより向上する。
【0074】
本願発明における分散剤の含有率は、カーボンナノチューブ含有組成物を100重量部とした場合に、0.15〜40重量部であることがカーボンナノチューブ含有組成物におけるカーボンナノチューブの分散性が向上するので好ましく、特に0.2〜3重量部であることが、特にカーボンナノチューブ含有組成物におけるカーボンナノチューブの分散性が良好になるので好ましい。
【0075】
本願発明におけるカーボンナノチューブ組成物は、カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して、導電性高分子0.01〜5重量部、ドーパント0.1〜10重量部、カーボンナノチューブ0.001〜5重量部、分散剤0.15〜40重量部を含有することを特徴とするカーボンナノチューブ組成物が好ましい。この含有量にすることで、カーボンナノチューブ含有組成物が、組成物中でカーボンナノチューブが分散し、カーボンナノチューブ含有組成物を塗布、乾燥することで得られる塗膜は透明性、導電性と耐久性に優れる。カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して、導電性高分子0.1〜3重量部、ドーパント0.5〜7重量部、カーボンナノチューブ0.005〜3重量部、分散剤0.2〜3重量部を含有することを特徴とするカーボンナノチューブ組成物が特に好ましい。この含有量にすることで、カーボンナノチューブ含有組成物中のカーボンナノチューブが長期間安定的に分散させることができる。
【0076】
また、カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して、導電性高分子とドーパントの含有重量部の和をa、カーボンナノチューブの含有重量部をbとしたとき、a/bが1より大きいあることが、カーボンナノチューブの分散性が良好になるので好ましく、a/bが2以上であることが、組成物を用いて作製された塗膜の光の透過率が優れるので、より好ましい。
【0077】
さらに、本願発明におけるカーボンナノチューブ含有組成物は上記成分に加えて、その他の成分として、例えば、水以外の溶媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、表面改質剤、脱泡剤、可塑剤、抗菌剤などを加えることができる。これらは、添加しなくてもよく、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
本願発明における主溶媒とは、カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して、50重量部以上含まれている液体成分を指す。主溶媒が水であることが、環境安全上好ましい。
【0079】
本願発明における塗膜とは、上記カーボンナノチューブ含有組成物を塗布、乾燥することにより形成される塗膜である。より具体的には、カーボンナノチューブ含有組成物を基材表面に塗布・乾燥することにより得られる。
【0080】
本願発明における、基材とは、塗膜を形成ための支持部材を示す。例えばガラスや高分子フィルムがあげられる。高分子フィルムとしては、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドイミド、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルブチラール、セルロース、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリ乳酸、これらのブレンド、これらの高分子を構成するモノマーを含有する共重合体、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂などの樹脂でなる基板(プラスチックフィルム、プラスチックシートなど)が挙げられる。
【0081】
本願発明においては、上記カーボンナノチューブ含有組成物を塗布する方法としては、特に制限はなく公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、塗布法、印刷法が好適に挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、併用してもよい。
【0082】
前記塗布法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、グラビアコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スプレーコート法、ドクターコート法などが挙げられる。
【0083】
前記印刷法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、スクリーン印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法などが挙げられる。
【0084】
本願発明においては、上記塗布法で塗布した溶液を乾燥させて塗膜を形成することが好ましい。本願発明における乾燥方法としては、大気雰囲気中で乾燥させる方法や、不活性ガス雰囲気中で乾燥させる方法、更には、減圧下で乾燥させる方法等が好適に用いられる。
【0085】
大気中で乾燥させる方法としては、一般的な熱風による乾燥炉や、遠赤外線による乾燥炉、マイクロ波を使用する乾燥炉等の種々の方法を用いることができる。不活性ガス雰囲気中で乾燥させる方法としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気、炭酸ガス雰囲気等の不活性ガスを充満した乾燥装置内で乾燥させることが好ましく、内部の加熱方法としては、熱風、遠赤外線、マイクロ波等の種々の方法を使用することができる。
【0086】
更に、減圧下での乾燥方法としては、一般的な減圧乾燥装置を用いることができる。
【0087】
上記乾燥方法は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0088】
このようにして形成される塗膜の膜厚は、特に限定されないが、導電性や光の透過率が優れているという点で、0.001〜50μmが好ましく、さらに好ましくは0.01〜10μmの範囲である。
【0089】
本願発明における透明導電膜とは、高分子フィルムまたはガラス表面にカーボンナノチューブ含有組成物を塗布、乾燥することにより形成される塗膜であり、107Ω/□以下のシート抵抗を有し、可視光が完全には遮断されない塗膜を示す。本願発明においては少なくとも、分光光度計で透過光強度を測定した場合に550nmにおいて、透過率が50%以上であるものを透明導電膜と定義する。透過率が50%以上であることで、液晶ディスプレーの表面タッチパネル用途に使用した場合に視認性が優れるので好ましい。透過率が80%以上であることで、液晶ディスプレーの表面タッチパネル用途に使用した場合に視認性に優れ、バックライトの消費電力を低減できるのでより好ましい。
前記本発明の透明導電膜におけるシート抵抗としては、使用する際の印加電圧を低減できることから、シート抵抗として、10,000Ω/□以下であることが好ましく、5000Ω/□以下がより好ましく、2500Ω/□以下が特に好ましい。
【0090】
この塗膜は、液晶ディスプレー、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネル多層積層構造光ディスク、調光材などの透明電極、静電気除去材、電磁波シールド材、発熱体、熱線吸収膜、光電素子、撮像素子などに用いることができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0092】
溶液100重量部に対して、前記導電性高分子としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)に前記ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を添加した混合物1.4重量部を含む溶液(SIGMA−Aldrich製、Poly(3,4−ethylenedioxythiophene)−poly(styrenesulfonate)1.3−1.7% in H2O (high−conductivity grade))をPEDOT−PSS原液と表す。
【0093】
(分散安定性の評価方法)
攪拌終了後、底面が直径2cmの円、高さ5cmの円柱型のガラス製サンプル瓶に組成物を入れ、1時間静置する。その後サンプル瓶を静かに持ち上げ、目視で底面に固形物が堆積しているかどうかを確認する。さらに、サンプル瓶を45°傾けて、同様に目視で底面に固形物が堆積しているかどうかを確認する。2回の確認で、いずれも堆積物が確認されなかった状態を○、それ以外の状態を×とした。
【0094】
(塗膜の形成方法および透過率の測定方法)
PETフィルム(東レ ポリエステルフィルム ルミラー #100−U34)の表面に試料溶液を塗布してバーコーターNO.9を用いて一定厚みに引き延ばし、120℃で60分加熱乾燥し、塗膜を形成したのち、分光光度計(日本分光株式会社製、V−560)を用いて測定した。550nmの波長の光の透過率を以下「透過率」とする。なお、本願発明においては、塗膜の膜厚は透過率が85±5%となるように調整した。
【0095】
(シート抵抗の測定方法)
上記塗膜の形成方法を用いて作製した透明導電膜から、短辺が2cm、長辺が4cmの塗膜を切り出した。続いて、図1の中央部位が2cm×2cmの範囲で透明導電膜表面にマスクしたのち、斜線で示した長方形の2カ所に金が蒸着されるように、イオンスパッター(エイコーエンジニアリング製、IB−3型イオンコーター)を用いて、厚さ50nmの金を蒸着させた。図1のAとBの間の抵抗値をテスター(カイセ株式会社製 KT−2010)により測定する。得られた抵抗値(Ω)をシート抵抗(Ω/□)とした。塗膜作製直後の塗膜のシート抵抗が2,500Ω/□以下のことが印可電圧を小さくすることができるので好ましい。
【0096】
(抵抗値保持率の測定方法)
本願発明における抵抗値保持率とは、塗膜を作製してシート抵抗を測定し、その後、気温20℃、湿度50%の環境雰囲気中で4日放置した後にシート抵抗を測定する。塗膜調製直後のシート抵抗をa(Ω/□)、4日放置した後のシート抵抗をb(Ω/□)とした場合に、b/aの計算式により算出した値を抵抗値保持率とする。
【0097】
(実施例1)
100重量部の水に、分散剤として水溶性キシラン粉末(江崎グリコ社製)0.4重量部を加えて攪拌し、溶液を得た。この溶液に0.1重量部のカーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブ;KH Chemical Co.製)を加えて混合液を得た。この混合液に超音波分散機(As−One株式会社製)により、冷却水温度25℃で60分間、連続的に超音波を投射した。この混合物を遠心分離器により、2000rpsで遠心分離を行った。遠心分離後の混合物の上澄みを分離、採取し、カーボンナノチューブ含有溶液を得た。以下、この液を溶液Aと表す。
【0098】
PEDOT−PSS原液と溶液Aを、同質量ずつ混合し、混合液に超音波分散機(As−One株式会社製)により、冷却水温度25℃で30分間、連続的に超音波を投射した。超音波照射後の混合物を観察したところ、分散安定性は○だった。以下、この液を組成物Bと表す。
【0099】
この組成物を1ヶ月20℃で保管したが、沈殿の生成は確認されなかった。
【0100】
調製直後の組成物BをバーコーターNo.9を用い、PETフィルム(株式会社東レ製;厚さ125μm)に塗布した後、120℃で60分加熱乾燥し、透明導電膜を得た。シート抵抗は800Ω/□、透過率は85%だった。
【0101】
得られた透明導電膜を、気温20℃、湿度50%の環境雰囲気中で4日間静置した。シート抵抗は、960Ω/□であった。抵抗保持率は1.2だった。各成分の添加量、組成物評価結果および透明導電膜評価結果を、表1にまとめた。
【0102】
(実施例2)
実施例1において、水溶性キシラン粉末0.4重量部を水溶性キシラン粉末0.6重量部に変えた以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、透明導電膜を作製した。
【0103】
組成物の分散安定性は○だった。この組成物を1ヶ月20℃で保管したが、沈殿の生成は確認されなかった。
【0104】
透明導電膜のシート抵抗は900Ω/□、透過率は85%だった。
【0105】
得られた透明導電膜を、気温20℃、湿度50%の環境雰囲気中で4日間静置した。シート抵抗は、1080Ω/□であった。抵抗保持率は1.2だった。各成分の添加量、組成物評価結果および透明導電膜評価結果を、表1にまとめた。
【0106】
(実施例3)
実施例1において、カーボンナノチューブ0.1重量部をカーボンナノチューブ0.02重量部に変えた以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、透明導電膜を作製した。
【0107】
組成物の分散安定性は○だった。この組成物を1ヶ月20℃で保管したが、沈殿の生成は確認されなかった。
【0108】
透明導電膜のシート抵抗は950Ω/□、透過率は86%だった。
【0109】
得られた透明導電膜を、気温20℃、湿度50%の環境雰囲気中で4日間静置した。シート抵抗は、1330Ω/□であった。抵抗保持率は1.4だった。各成分の添加量、組成物評価結果および透明導電膜評価結果を、表1にまとめた。
【0110】
(実施例4)
実施例1において、水溶性キシラン粉末0.4重量部を水溶性キシラン粉末0.2重量部に、PEDOT−PSS原液を、PEDOT−PSS原液95重量部に分散剤としてエチレングリコール(沸点=197.2℃ 、和光純薬社製)を5重量部添加したものに変えた以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、透明導電膜を作製した。
【0111】
組成物の分散安定性は○だった。この組成物を1ヶ月20℃で保管したが、沈殿の生成は確認されなかった。
【0112】
透明導電膜のシート抵抗は400Ω/□、透過率は85%だった。
【0113】
得られた透明導電膜を、気温20℃、湿度50%の環境雰囲気中で4日間静置した。シート抵抗は、440Ω/□であった。抵抗保持率は1.1だった。各成分の添加量、組成物評価結果および透明導電膜評価結果を、表1にまとめた。
【0114】
(実施例5)
実施例4において、エチレングリコール5重量部をエチレングリコール10重量部に変えた以外は、実施例4と同様にして組成物を調製、透明導電膜を作製した。
【0115】
組成物の分散安定性は○だった。この組成物を1ヶ月20℃で保管したが、沈殿の生成は確認されなかった。
【0116】
透明導電膜のシート抵抗は350Ω/□、透過率は85%だった。
【0117】
得られた透明導電膜を、気温20℃、湿度50%の環境雰囲気中で4日間静置した。シート抵抗は、380Ω/□であった。抵抗保持率は1.1だった。各成分の添加量、組成物評価結果および透明導電膜評価結果を、表1にまとめた。
【0118】
(比較例1)
100重量部の水に、0.1重量部のカーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブ;KH Chemical Co.製)を加えて混合液を得た。この混合液に超音波分散機(As−One株式会社製)により、冷却水温度25℃で60分間、連続的に超音波を投射し、カーボンナノチューブ含有溶液を得た。以下、この液を混合物Cと表す。
【0119】
実施例1において、溶液Aを混合物Cに変えた以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0120】
この混合物は沈殿が生じ、超音波照射時間を長くしても、沈殿はなくならなかった。各成分の添加量、組成物評価結果および透明導電膜評価結果を、表1にまとめた。
【0121】
(比較例2)
実施例1において、カーボンナノチューブを除く以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、透明導電膜を作製した。
【0122】
透明導電膜のシート抵抗は1000Ω/□、透過率は86%だった。
【0123】
得られた透明導電膜を、気温20℃、湿度50%の環境雰囲気中で4日間静置した。シート抵抗は、2000Ω/□であった。抵抗保持率は2だった。各成分の添加量、組成物評価結果および透明導電膜評価結果を、表1にまとめた。
【0124】
(比較例3)
実施例4において、カーボンナノチューブを除く以外は、実施例4と同様にして組成物を調製、透明導電膜を作製した。
【0125】
透明導電膜のシート抵抗は500Ω/□、透過率は86%だった。
【0126】
得られた透明導電膜を、気温20℃、湿度50%の環境雰囲気中で4日間静置した。シート抵抗は、900Ω/□であった。抵抗保持率は1.8だった。各成分の添加量、組成物評価結果および透明導電膜評価結果を、表1にまとめた。
【0127】
(比較例4)
実施例1において、カーボンナノチューブ、水溶性キシランを除く以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、透明導電膜を作製した。
【0128】
透明導電膜のシート抵抗は900Ω/□、透過率は86%だった。
【0129】
得られた透明導電膜を、気温20℃、湿度50%の環境雰囲気中で4日間静置した。シート抵抗は、1800Ω/□であった。抵抗保持率は2だった。各成分の添加量、組成物評価結果および透明導電膜評価結果を、表1にまとめた。
【0130】
(比較例5)
実施例4において、カーボンナノチューブ、水溶性キシランを除く以外は、実施例4と同様にして組成物を調製、透明導電膜を作製した。
【0131】
透明導電膜のシート抵抗は900Ω/□、透過率は86%だった。
【0132】
得られた透明導電膜を、気温20℃、湿度50%の環境雰囲気中で4日間静置した。シート抵抗は、1800Ω/□であった。抵抗保持率は2だった。各成分の添加量、組成物評価結果および透明導電膜評価結果を、表1にまとめた。
【0133】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子、ドーパント、カーボンナノチューブ、水および分散剤を含有するカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項2】
分散剤が少なくとも水溶性キシランを含むことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項3】
分散剤が水溶性キシランに加え、さらにアルコールを含むことを特徴とする請求項2に記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項4】
水溶性キシランの主鎖の数平均重合度が6以上5000以下である、請求項2または3に記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項5】
水溶性キシランが、キシロース残基またはアセチル化キシロース残基と、アラビノース残基と4−O−メチルグルクロン酸残基とからなる、請求項2〜4のいずれかに記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項6】
水溶性キシランにおいて、アラビノース残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が7〜100の割合である、請求項5に記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項7】
水溶性キシランが、キシロース残基またはアセチル化キシロース残基と、4−O−メチルグルクロン酸残基とからなる、請求項2〜4のいずれかに記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項8】
水溶性キシランにおいて、4−O−メチルグルクロン酸残基1に対してキシロース残基およびアセチル化キシロース残基の合計が1〜100の割合である、請求項7に記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項9】
前記水溶性キシランの数平均分子量が1,500以上100万以下である、請求項2〜3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項10】
水溶性キシランが、木本性植物由来のキシランである、請求項2〜3及び9のいずれかに記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項11】
水溶性キシランが、広葉樹由来のキシランである、請求項10に記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項12】
導電性高分子が少なくともポリチオフェンを含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項13】
ポリチオフェンが少なくともポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含むことを特徴とする請求項12に記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項14】
カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項15】
ドーパントがルイス酸であることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項16】
ルイス酸がスルホン酸化合物であることを特徴とする請求項15に記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項17】
カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して、導電性高分子0.01〜5重量部、ドーパント0.1〜10重量部、カーボンナノチューブ0.001〜5重量部、分散剤0.15〜40重量部を含有することを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載のカーボンナノチューブ含有組成物。
【請求項18】
請求項1〜18のいずれかに記載のカーボンナノチューブ含有組成物を塗布、乾燥することにより形成される塗膜。
【請求項19】
請求項18記載の塗膜を高分子フィルムまたはガラス表面に塗布、乾燥することにより形成される透明導電膜。

【図1】
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【公開番号】特開2010−270205(P2010−270205A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122162(P2009−122162)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】