説明

カーボンナノチューブ成長用基板、トランジスタ及びカーボンナノチューブ成長用基板の製造方法

【課題】 触媒粒子の凝集や移動を防いだカーボンナノチューブ成長用基板及びその製造方法、並びにこれを用いたトランジスタを提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ成長用基板1は、カーボンナノチューブ成長用触媒粒子11をそれぞれ散在した状態で含有する固定層12を基板S上に備え、前記固定層は、カーボンナノチューブ成長用触媒以外の材料から構成され、かつ、前記カーボンナノチューブ成長用触媒粒子のうちの少なくとも1つの上部が前記固定層の上面に露出している。このカーボンナノチューブ成長用基板を用いてトランジスタを得る。また、このカーボンナノチューブ成長用基板を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ成長用基板、トランジスタ及びカーボンナノチューブ成長用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板表面に触媒を形成し、次いでCVD法(Chemical Vapor Deposition法:化学気相成長法)により前記触媒からカーボンナノチューブを成長させる方法が知られている。例えば、特許文献1には、基板上に金属イオンを注入し、続いて当該金属イオンを触媒としてCVD法によりカーボンナノチューブを成長させることが記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−165713号公報(請求項1、図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記方法においては触媒である金属イオンがCVD法実施時において加熱により凝集してしまい、カーボンナノチューブが成長しにくい場合があるという問題がある。また、金属イオンの粒径が小さいために、CVD法実施時において成長ガスを導入する際にガスの流れにより触媒粒子が移動してしまうことがある。カーボンナノチューブを配線とするトランジスタ素子の場合、触媒粒子が移動してしまうと所望の位置にカーボンナノチューブを成長させることができず、所望の特性を得られないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、触媒粒子の凝集や移動を防いだカーボンナノチューブ成長用基板及びその製造方法を提供しようとするものである。また、このカーボンナノチューブ成長用基板を用いて所望の特性を得ることができるトランジスタを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のカーボンナノチューブ成長用基板は、カーボンナノチューブ成長用触媒粒子をそれぞれ散在した状態で含有する固定層を基板上に備え、前記固定層は、カーボンナノチューブ成長用触媒以外の材料から構成され、かつ、前記カーボンナノチューブ成長用触媒粒子のうちの少なくとも1つの上部が前記固定層の上面に露出していることを特徴とする。
【0007】
カーボンナノチューブ成長用触媒以外の材料から構成されている固定層中にカーボンナノチューブ成長用触媒粒子を含有させていることで、CVD法を実施する場合であってもカーボンナノチューブ成長用触媒粒子が凝集・移動することを防ぐことが可能である。この場合に、前記カーボンナノチューブ成長用触媒粒子が前記固定層の上面に露出していることで、カーボンナノチューブはカーボンナノチューブ成長用触媒粒子から成長することが可能である。
【0008】
前記固定層にカーボンナノチューブの成長方向をガイドするガイド溝が設けられており、このガイド溝の一端が、前記固定層の上面に露出したカーボンナノチューブ成長用触媒粒子に接続していることが好ましい。ガイド溝を設けることで、カーボンナノチューブの成長方向を制御できる。即ち、カーボンナノチューブ成長用触媒粒子から成長するカーボンナノチューブはガイド溝に沿って成長するので、例えば2つのカーボンナノチューブ成長用触媒間をカーボンナノチューブで接続することが可能である。
【0009】
本発明の好ましい実施形態としては、前記カーボンナノチューブ成長用触媒粒子が、Fe、Co、Niから選ばれた少なくとも1種からなる金属であり、かつ、固定層が、TiN、AlN、SiO、TiO、アルミナ、ゼオライト、クロム、タンタル、チタン、モリブデン及びTaNから選ばれた少なくとも1種からなることである。
【0010】
本発明のトランジスタは、上述したカーボンナノチューブ成長用基板を用いたものであり、金属層と、絶縁層と、カーボンナノチューブ成長用触媒粒子をそれぞれ散在した状態で含有する固定層と、前記固定層上面に露出した2つの前記カーボンナノチューブ成長用触媒粒子にそれぞれ接触して設けられた電極層とをこの順で積層して備え、前記固定層上面には、前記2つのカーボンナノチューブ成長用触媒粒子間にガイド溝が設けられると共に、このガイド溝内には前記2つのカーボンナノチューブ成長用触媒粒子間を接続するカーボンナノチューブが設けられており、前記カーボンナノチューブ成長用触媒粒子が、Fe、Co、Niから選ばれた少なくとも1種からなる金属であり、かつ、固定層が、TiN、AlN、SiO、TiO、アルミナ、ゼオライト、クロム、タンタル、チタン、モリブデン及びTaNから選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする。
【0011】
本発明のカーボンナノチューブ成長用基板の製造方法は、基板上に、カーボンナノチューブ成長用触媒以外の材料からなり、カーボンナノチューブ成長用触媒粒子を含有する固定層を、前記カーボンナノチューブ成長用触媒粒子が固定層中に散在するように形成し、次いでこの固定層をカーボンナノチューブ成長用触媒粒子が露出するまで除去することを特徴とする。本発明のカーボンナノチューブ成長用基板の製造方法は、固定層を形成するので、後工程であるCVD法実施工程においてカーボンナノチューブ成長用触媒粒子が凝集・移動することを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカーボンナノチューブ成長用基板及びカーボンナノチューブ成長用基板の製造方法によれば、カーボンナノチューブ成長用触媒粒子が凝集・移動することを防ぐことができ、カーボンナノチューブが成長しやすいという優れた効果を奏し得る。本発明のトランジスタ素子は、カーボンナノチューブが所望の位置で成長することができるので、所望の特性を得ることができるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のカーボンナノチューブ成長用基板について図1を用いて説明する。図1(1)(2)はカーボンナノチューブ成長用基板の模式的断面図である。
【0014】
図1(1)に示すように、基板S上には、触媒粒子11を含有する固定層12が形成されている。基板Sは、ガラス、シリコン、石英、GaN、サファイア等からなるものであればよい。ただし、シリコン基板等のカーボンナノチューブ成長用触媒と反応する物質からなる基板を用いる場合には、基板Sの固定層12の形成面に例えば熱酸化膜(SiO膜)を形成することが好ましい。
【0015】
触媒粒子11は、図中には例として固定層12内に2つ含有されており、それぞれ散在した状態、即ちそれぞれが所定の間隔をあけて孤立した状態である。なお、この触媒粒子11は、カーボンナノチューブの成長用触媒として用いることができるものであり、具体的にはFe、Co及びNiのうちのいずれか又はこれらのうち少なくとも1種を含む合金からなる。
【0016】
触媒粒子11は、後工程で触媒粒子11から簡易にカーボンナノチューブを成長させることができるように、その上部が固定層12の上面に露出している。なお、固定層中には、必ず1以上の触媒粒子11が含まれるように形成され、このうちの少なくとも一つ以上の触媒粒子の上部が固定層12の上面に露出できるように、後述する本カーボンナノチューブ成長用基板1の作製工程においては、除去工程が含まれている。この場合に各触媒粒子11の露出部分の表面積が1〜100nmであることが好ましい。1〜100nmであれば、カーボンナノチューブを触媒粒子11から成長させることができるからである。また、固定層12の上面にこの面積以下で触媒粒子11の上部が露出するように構成されていれば、触媒粒子11の粒径などは特に限定されないが、触媒粒子11の粒径は大きい方が好ましい。これは、触媒粒子11は粒径が大きいほどカーボンナノチューブ成長時にカーボンナノチューブ成長ガス中の炭素を取り込む量が増えてよりカーボンナノチューブを成長させやすくなるからである。
【0017】
固定層12は、触媒粒子11がCVD法実施時に凝集、移動するのを防止するために設けてあるものである。即ち、従来、触媒粒子を基板上に配置するだけではカーボンナノチューブ成長のCVD法実施時に触媒粒子が加熱により凝集したり、成長ガス導入時にガスの流れより移動したりする場合があり、この結果触媒粒子から所望のカーボンナノチューブが成長できないことがあった。そこで、本発明においては、固定層12中に触媒粒子11を含有させて触媒粒子11をそれぞれ散在した状態で固定し、凝集、移動を防止している。
【0018】
固定層12は、触媒粒子11を構成する金属(又は合金)以外の材料から構成されている。特に、カーボンナノチューブの成長条件で変質しない物質であることが好ましい。このような固定層12を構成する材料としては、窒化物系(TiN、AlN、TaN等)、酸化物系(SiO、TiO、アルミナ、ゼオライト等)、金属系(クロム、モリブデン、タンタル、チタン等)等が挙げられるが、膜の形成方法及び加工方法において柔軟性が高いという点を考慮してSiOが好ましい。
【0019】
また、固定層12には、溝13が触媒粒子11間に設けてある。この溝13は、カーボンナノチューブの水平方向での成長方向を制御するために設けているものである。即ち、触媒粒子11からカーボンナノチューブを所定の方向に成長させるガイドとして機能するものである。図1(2)に示すように、カーボンナノチューブ成長用基板1においてカーボンナノチューブ14を触媒粒子11からCVD法により成長させた場合に、カーボンナノチューブ14は各触媒粒子11から溝13によりガイドされて成長し、カーボンナノチューブ14は、触媒粒子11間を接続する。本実施形態では溝13は触媒粒子11間に設けているが、その一端が触媒粒子11に接続していれば、どのような形態であってもよい。また、溝13の幅、深さは、幅:1〜100nm、深さ:1〜20nmが好ましい。この範囲であれば、カーボンナノチューブ14を所望の方向に成長させることが可能である。
【0020】
また、固定層12と基板Sとの間に下地層を設けても良い。下地層を設けることで、触媒粒子の凝集をより効果的に防ぎ、触媒粒子を分散した状態でその位置で固定することが可能である。下地層材料としては、TiN、AlN、SiO、TiO、アルミナ、ゼオライト、クロム、タンタル、チタン、モリブデン及びTaNから選ばれた少なくとも1種を用いることが可能である。この場合に、固定層12と下地層とでは同一の材料を用いてもよく、また、異なる材料を用いてもよい。
【0021】
本発明のカーボンナノチューブの形成方法について、図2を用いて説明する。図2は、カーボンナノチューブの形成方法における各工程を説明するための模式的断面図である。
【0022】
初めに、図2(1)に示すように、触媒粒子11を散在、即ちそれぞれが孤立した状態で基板S上に形成する。これらの触媒粒子11は、例えばアークプラズマガン法、液相法、また、微粒子堆積法により形成することができる。
【0023】
アークプラズマガン法について説明する。アークプラズマガン法では、同軸型真空アーク蒸着装置を用いて触媒粒子11を形成する。この同軸型真空アーク蒸着装置は、円筒状のトリガ電極と触媒粒子11の材料(例えばコバルト。以下、触媒材料という)で先端部が構成された円筒状のカソード電極とが、円板状の絶縁碍子を挟んで隣接して配置されてなると共に、前記カソード電極とトリガ電極との周りに同軸状に円筒状のアノード電極が配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えている。そして、トリガ電極とアノード電極との間に電圧を印加してトリガ放電をパルス的に発生させ、また、カソード電極とアノード電極との間のアーク電源から電圧を印加してアーク放電を断続的に誘起させることにより、触媒材料表面を融解させて生成された電子を電子流として放出させる。この電子流に前記触媒材料から生成されたイオンがクーロン引力によって引き寄せられて放出され、基板S上に到達して付着する。これが触媒粒子11となる。このアークプラズマガン法によれば、触媒粒子はアーク放電の発生回数によりその粒子数を制御できると共に、アーク電源に接続されたコンデンサユニットの容量を変化させることで粒子径を制御することも可能である。従って、後述するトランジスタ素子を形成する場合に好ましい。
【0024】
この場合、アークプラズマガン法の実施条件としては、例えば、トリガ電極−カソード電極間の印加電圧:2〜4kV、カソード電極−アノード電極間のアーク電源の印加電圧:60〜200V、アーク電源に接続されたコンデンサユニットの容量:760〜8800μFが挙げられる。
【0025】
液相法では、触媒粒子11の材料を含んだ溶液を基板上に例えばスピンコーティングにより塗布して膜を形成する。例えば触媒粒子11として鉄の微粒子を用いる場合には、鉄硝酸塩を溶媒(例えば水)に添加してこれを基板上に塗布することが挙げられる。
【0026】
微粒子堆積法としては、例えば、触媒粒子11をレーザアブレーションや蒸発凝縮法等で生成し、生成された触媒粒子11を、例えば放射線照射により荷電させる。そして、荷電された触媒粒子11を、キャリアガス(ヘリウム等)によって堆積チャンバに導入して、基板上に堆積させる。このようにして触媒粒子11を基板上に散在した状態で堆積させることができる。
【0027】
次いで、図2(2)に示すように基板S上に固定層12を形成するための膜15を形成する。この膜15は、固定層12の材料からなるものであり、例えば、液相法やスパッタリング法により形成することができる。例えば、液相法としては、SiO膜形成用塗布液(例えばシアノール系塗布液等)を塗布する方法が挙げられる。また、スパッタリング法の条件としては、例えばスパッタリング電源:300W、成膜圧力:0.5Paである。この膜15の厚さは適宜設定することができる。
【0028】
その後、図2(3)に示すように触媒粒子11が上面に露出するように膜15の上部を除去して固定層12を作製する。この場合、例えば、イオンビーム加工法(FIB)、エッチング法やダイヤモンドペースト等によるミリング法により膜15を除去することが可能である。エッチング法を用いる場合、ウェットエッチング法でもドライエッチング法でもよい。例えば、固定層12がSiOからなる場合には、バッファードフッ酸を用いて膜15を除去すればよい。なお、膜15の上部を除去して固定層12を形成する場合に、同時に触媒粒子11の上部の一部が除去されてしまっても触媒粒子11が固定層12の上面に露出さえしていればよい。イオンビーム加工法の場合には、固定層12の材料と反応して蒸気圧の高い化合物を形成するイオン、例えばGaイオンを用いることができる。
【0029】
次に、図2(4)に示すように所望の位置に溝13を形成する。溝13は、例えばエッチング法により形成する。この場合に溝13が大きすぎるとカーボンナノチューブの成長方向を制御できないので、ドライエッチング法などの微細な加工に適した除去方法が好ましい。
【0030】
以上の工程により図1(1)に示したカーボンナノチューブ成長用基板1を作製することができる。このカーボンナノチューブ成長用基板1に対してCVD法によりカーボンナノチューブ14を成長させる。CVD法としては、プラズマCVD法、熱プラズマ法を用いることができる。CVD法の実施条件は、例えば熱CVD法の場合、炭素含有ガス:Nによりエタノールをバブリングさせてなるエタノール蒸気をN:1000〜2000sccmでCVD装置内に導入したエタノールガス、圧力:大気圧、温度:800〜1000℃である。これにより、カーボンナノチューブ14は露出された触媒粒子11から成長し、基板Sと水平方向に成長する。この場合に、固定層12の表面の触媒粒子11間にはカーボンナノチューブ14の成長方向のガイドとして機能する溝13が設けられているので、カーボンナノチューブは触媒粒子11から溝13に沿って成長する。なお、炭素含有ガスとしては、例えばCOガスなどを用いてもよい。
【0031】
なお、例えば、液相法、二元スパッタリング法等により、膜15と触媒粒子11を同時に基板上に形成してもよい。二元スパッタリング法では、触媒金属からなる第1スパッタリングターゲット及び固定層の材料からなる第2スパッタリングターゲットを真空チャンバ内に設置して同時にスパッタリングすることによって触媒粒子11を含有する固定層12を形成する。また、液相法としては、膜15の材料と触媒粒子11の材料とを含む塗布液を塗布して固定層12を形成してもよい。これらの場合であっても触媒粒子11が表面に露出することができるように膜15の上部をエッチング法などにより除去することが好ましい。なお、液相法を用いる場合には、触媒粒子11の外周に分散剤としての分子が付着したもの、例えば鉄含有フェリチン等を用いてもよい。このようなものを用いれば触媒粒子11が散在した状態を保持することができる。また、上述したような下地層を設けてもよい。
【0032】
また、基板上に先に膜15を形成し、その後、触媒粒子11を膜15中に配置することも可能である。例えば、膜15として液相法によりSiO膜形成用塗布液を塗布した後にアークプラズマガン法により触媒粒子11を基板上に配置することで触媒粒子11を含有する固定層12を形成することができる。
【0033】
このようなカーボンナノチューブ14が成長するカーボンナノチューブ成長用基板1は、例えばトランジスタ素子に用いることができる。この点について図3を用いて説明する。図3は、カーボンナノチューブ成長用基板を用いたトランジスタ素子の模式的断面図である。
【0034】
トランジスタ素子(トランジスタ)3は、基板S上に固定層12が形成されており、固定層12には二つの触媒粒子11がそれぞれその上面に露出するように形成されている。また、基板Sの固定層の形成面とは逆の面にバックゲート電極31が形成されている。そして、この触媒粒子11をそれぞれを覆って、即ち触媒粒子11に接触するようにソース電極32及びドレイン電極33が形成されている。触媒粒子11間では、触媒粒子11から成長したカーボンナノチューブ14がそれぞれ溝13に従って成長し接合して、電極間を架橋する配線となっている。
【0035】
ここで、基板Sとしては固定層12の形成面側に絶縁膜としての熱酸化膜が形成されたシリコン基板を用いている。触媒粒子11としては、Fe、Co、Niから選ばれた少なくとも1種からなる金属を用い、かつ、固定層12の材料としては、TiN、AlN、SiO、TiO、アルミナ、ゼオライト、クロム、タンタル、チタン、モリブデン及びTaNから選ばれた少なくとも1種を用いる。これによりソース電極32及びドレイン電極33から固定層12内の触媒粒子11を介してカーボンナノチューブ14に電圧を印加することが可能である。なお、本実施形態では触媒粒子11はそれぞれ散在した状態であるので、リークは発生しにくい。このトランジスタ素子3は、固定層12中に触媒粒子11が含有されていることで、触媒粒子が凝集・移動することが防止されているので、所望の特性を得ることができる。溝13を設けていることでカーボンナノチューブの成長方向を制御できるので、作製が容易である。
【実施例1】
【0036】
以下、実施例を用いて本発明のカーボンナノチューブ成長用基板を作製した。基板Sとしては、熱酸化膜が予め形成されているシリコン基板を用いた。この基板S上に、アークプラズマガン法によりCoの触媒粒子11(平均粒径:25nm)を配置した。アークプラズマガン法の実施条件は、カソード電極−アノード電極間のアーク電源の印加電圧:200V、アーク電源に接続されたコンデンサユニットの容量:8800μFであった。図4に、この時点での基板表面のSEM写真を示す。図4に示すように、各触媒粒子11(SEM写真中白色)はそれぞれ孤立した状態で配置されていた。
【0037】
次いで、SiO塗布液(株式会社アルバック製、商品名ULKS)を塗布し、膜15として形成した。その後、バッファードフッ酸によりエッチングして触媒粒子11が表面に露出した固定層12を形成した。固定層12の厚さは20nmであり、触媒粒子11の上部は固定層12の表面に露出した。固定層12を形成した後に、触媒粒子11を選択しその周囲にイオンビーム加工法(条件、イオン:Gaイオン、出力電圧:10kV)を用いて溝13を設けた。その後、熱CVD法により触媒粒子11からカーボンナノチューブを成長させた。熱CVD法の実施条件は、圧力:大気圧、成長ガス:N(2000sccm)、成長温度:850℃、成長時間:20分によるエタノールバブリングによるガス導入、であった。基板の表面SEM写真を図5に示す。図5に示すように、触媒粒子11からはカーボンナノチューブが溝13に沿ってまっすぐに成長した。
【0038】
このように、本発明によれば、触媒粒子11は基板上に固定層によって固定されているので、カーボンナノチューブ成長時においても凝集したり移動したりすることがない。従って、カーボンナノチューブが成長しやすい。そして、この場合に触媒粒子11から成長したカーボンナノチューブは、固定層12表面に形成されている溝13に従って成長していくので、成長方向を制御することができる。このため、本発明のカーボンナノチューブ成長用基板は例えば上述したようにトランジスタ素子に適している。
【0039】
(比較例1)
実施例1とは膜15の除去工程において除去する膜厚を変更した以外は同一条件で実施した。得られた固定層12の膜厚は、10nmであり、触媒粒子11の露出面の面積は、100nmよりも大きかった。この場合には、触媒粒子11からはカーボンナノチューブが成長できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のカーボンナノチューブ成長用基板及びその作製方法はカーボンナノチューブ製造分野において用いることができる。また、トランジスタは半導体装置製造分野において用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】カーボンナノチューブ成長用基板の模式的断面図である。
【図2】カーボンナノチューブ形成方法における各工程を示す基板の模式的断面図である。
【図3】カーボンナノチューブ成長用基板を用いたトランジスタ素子の模式的断面図である。
【図4】触媒粒子配置後の基板表面を示すSEM写真である。
【図5】カーボンナノチューブ成長後の基板表面を示すSEM写真である。
【符号の説明】
【0042】
1 カーボンナノチューブ成長用基板
3 トランジスタ素子
11 触媒粒子
12 固定層
13 溝
14 カーボンナノチューブ
15 膜
31 バックゲート電極
32 ソース電極
33 ドレイン電極
S 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ成長用触媒粒子をそれぞれ散在した状態で含有する固定層を基板上に備え、
前記固定層は、カーボンナノチューブ成長用触媒以外の材料から構成され、かつ、前記カーボンナノチューブ成長用触媒粒子のうちの少なくとも1つの上部が前記固定層の上面に露出していることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項2】
前記固定層にカーボンナノチューブの成長方向をガイドするガイド溝が設けられており、このガイド溝の一端が、前記固定層の上面に露出したカーボンナノチューブ成長用触媒粒子に接続していることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ成長用触媒粒子が、Fe、Co、Niから選ばれた少なくとも1種からなる金属であり、かつ、固定層が、TiN、AlN、SiO、TiO、アルミナ、ゼオライト、クロム、タンタル、チタン、モリブデン及びTaNから選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項4】
金属層と、絶縁層と、カーボンナノチューブ成長用触媒粒子をそれぞれ散在した状態で含有する固定層と、前記固定層上面に露出した2つの前記カーボンナノチューブ成長用触媒粒子にそれぞれ接触して設けられた電極層とをこの順で積層して備え、
前記固定層上面には、前記2つのカーボンナノチューブ成長用触媒粒子間にガイド溝が設けられると共に、このガイド溝内には前記2つのカーボンナノチューブ成長用触媒粒子間を接続するカーボンナノチューブが設けられており、
前記カーボンナノチューブ成長用触媒粒子が、Fe、Co、Niから選ばれた少なくとも1種からなる金属であり、かつ、固定層が、TiN、AlN、SiO、TiO、アルミナ、ゼオライト、クロム、タンタル、チタン、モリブデン及びTaNから選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とするトランジスタ。
【請求項5】
基板上に、カーボンナノチューブ成長用触媒以外の材料からなり、カーボンナノチューブ成長用触媒粒子を含有する固定層を、前記カーボンナノチューブ成長用触媒粒子が固定層中に散在するように形成し、次いでこの固定層をカーボンナノチューブ成長用触媒粒子が露出するまで除去することを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−116303(P2010−116303A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291512(P2008−291512)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】