説明

カーボンナノチューブ集合体、その製造方法及びカーボンナノチューブ撚糸

【課題】電気特性及び力学特性に優れたカーボンナノチューブ撚糸を製造することができるカーボンナノチューブ集合体を提供すること。
【解決手段】基板上に化学気相成長させたカーボンナノチューブの集合体であって、その高さの80%以上が10°以下の直線性を有し、かつ表面平滑さが0.3μm以下で、嵩密度が30mg/cm以上であるカーボンナノチューブ集合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ集合体、その製造方法及びカーボンナノチューブ撚糸に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、電気特性、力学特性等に優れており、電界放出型ディスプレイ、導電性フィラー等をはじめ、様々な産業への利用および応用が期待されている。この中でも特に、カーボンナノチューブの繊維を紡績したカーボンナノチューブ撚糸については、カーボンナノチューブの導電性を活用し、導電線等への展開が期待されている。
【0003】
そこで、近年、カーボンナノチューブをロープ状に引き出したものを紡糸してカーボンナノチューブ撚糸を製造する技術が報告されており、例えば特許文献1及び2には、紡糸及び撚糸が可能なカーボンナノチューブの集合体が開示されている。
【0004】
特許文献1には、熱CVD法により基板上に配向合成されたカーボンナノチューブのマトリックスから、複数の炭素ナノチューブ束を含む炭素ナノチューブ束を引き出して炭素ナノチューブロープを形成することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、流動気相法により合成された平均外径3〜200nmである不連続カーボンナノファイバーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−107196号公報
【特許文献2】特開2001−115348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1又は2に記載されたカーボンナノチューブ集合体を紡糸して製造されたカーボンナノチューブ撚糸は、電気特性(導電性)及び力学特性(強度及び伸び)が不十分であり、実用には適さなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、電気特性及び力学特性に優れたカーボンナノチューブ撚糸を製造することができるカーボンナノチューブ集合体を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、基板上に気相化学成長させたカーボンナノチューブの集合体が、特定の直線性、表面平滑さ、及び嵩密度を有する場合、その集合体を用いて撚糸の電気特性及び力学特性が向上することを見いだした。本発明者らは、かかる知見に基づき更に研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下のカーボンナノチューブ集合体、その製造方法、及びカーボンナノチューブ撚糸を提供する。
1.基板上に化学気相成長させたカーボンナノチューブの集合体であって、その高さの80%以上が10°以下の直線性を有し、かつ表面平滑さが0.3μm以下で、嵩密度が30mg/cm以上であるカーボンナノチューブ集合体。
2.上記項1に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法であって、基板に対して、カーボンナノチューブを形成するための原料ガスを供給し、680〜760℃で化学気相成長させることによりカーボンナノチューブ集合体を製造する方法。
3.前記基板が、シリコン基板に二酸化ケイ素膜を形成し、該二酸化ケイ素膜上に、触媒層を積層した基板である、上記項2に記載の製造方法。
4.前記原料ガスと、該原料ガスを搬送するためのキャリアガスとを供給し、全気体流量に対する原料ガス流料の割合が、3〜7vol%である、上記項2又は3に記載の製造方法。
5.上記項1に記載のカーボンナノチューブ集合体を用いて製造されたカーボンナノチューブ撚糸。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電気特性及び力学特性に優れたカーボンナノチューブ撚糸を製造することができるカーボンナノチューブ集合体を提供することができる。
【0012】
また、本発明によれば、このようなカーボンナノチューブ集合体を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のカーボンナノチューブ集合体を用いてカーボンナノチューブ撚糸を製造することができる装置を示す概略構成図である。
【図2】基板からカーボンナノチューブを引き出すための引出具を説明するための模式図である。
【図3】カーボンナノチューブ集合体高さの測定方法を説明するSEM写真である。
【図4(a)】カーボンナノチューブ集合体の直線性の評価方法を説明するSEM写真である。
【図4(b)】カーボンナノチューブ集合体の直線性の評価方法を説明するSEM写真である。
【図5】カーボンナノチューブ集合体の表面平滑さの測定方法を説明するSEM写真である。
【図6】カーボンナノチューブ集合体のバンドル幅の測定方法を説明するSEM写真である。
【図7】カーボンナノチューブ撚糸の撚り角度を説明するSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明のカーボンナノチューブ集合体は、基板上に化学気相成長させたカーボンナノチューブの集合体であって、その高さの80%以上が10°以下の直線性を有し、かつ表面平滑さが0.3μm以下で、嵩密度が30mg/cm以上であるものである。
【0016】
このカーボンナノチューブ集合体を用いれば、電気特性及び力学特性に優れたカーボンナノチューブ撚糸を製造することができる。
【0017】
基板は、限定的でなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、プラスチック基板、ガラス基板、シリコン基板、鉄、銅等の金属又はこれらの合金を含む金属基板等を用いることができる。これらの基板の表面には、二酸化ケイ素膜が積層されていてもよい。また、基板の表面には、触媒層が積層されていてもよい。触媒としては、鉄、ニッケル、コバルト等の金属を用いることができる。触媒層は、好ましくは、鉄等の金属を蒸着又はスパッタリングすること等により形成され得る。本発明では、特に、シリコン基板に、熱酸化又は蒸着による二酸化ケイ素膜を形成し、該二酸化ケイ素膜上に、触媒層を積層した基板を用いることが好ましい。これにより、高密度かつ高配向で形成されたカーボンナノチューブ集合体を製造できる。
【0018】
基板上に化学気相成長させるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、又は多層のカーボンナノチューブのいずれでもよく、これらの混合物であってもよい。
【0019】
また、これらカーボンナノチューブの形態は特に限定されるものではないが、容易にカーボンナノチューブ撚糸を形成しやすいため、好ましくは、基板上に高密度かつ高配向で形成された集合体であることが望ましい。
【0020】
高密度とは、基板上のカーボンナノチューブの嵩密度が30mg/cm程度以上、好ましくは50mg/cm程度以上であることを示す。この範囲より嵩密度が小さいと、隣接するカーボンナノチューブの分子間の相互作用が弱くなり、引き出し特性が悪くなるおそれがある。ここで、カーボンナノチューブ集合体の嵩密度とは、合成の前後で基板重量を電子天秤にて測定し、その重量差からカーボンナノチューブ集合体の重量を算出し、この重量と、後述する集合体高さから算出した値である。
【0021】
高配向とは、カーボンナノチューブ同士が隣接しながら基板平面に対して垂直に林立(垂直配向)していることを意味する。
【0022】
このように化学気相成長によって高密度で垂直配向させたカーボンナノチューブの集合体は、カーボンナノチューブフォレスト(carbon nanotube forest)、或いは、カーボンナノチューブの垂直配向構造体等と呼ばれる。
【0023】
化学気相成長によって形成されるカーボンナノチューブの高さ(長さ)は、平均で150μm以上であればよい。カーボンナノチューブ集合体の高さとは、カーボンナノチューブ集合体の断面を300倍で撮影したSEM写真において、基板表面から集合体表面までの高さを測定した値である(図3参照)。
【0024】
直線性は、基板からの集合体高さの80%以上が10°以下、好ましくは5°以下である。直線性とは、カーボンナノチューブ集合体を構成するバンドルの屈曲部と屈曲部との接線とがなす角度(X)を意味している(図4(a)参照)。直線性は、集合体を高さ方向に例えば上部、中央部、下部に三分割し(図3参照)、各領域でそれぞれ30点以上測定して平均値を求め、各領域の平均値を比較して、同じ直線性の傾向を示していると思われる(平均値が近似している)領域における値の平均値として求められる。また、「基板からの集合体高さの80%以上」とは、上述した同じ直線性の傾向を示していると思われる領域の高さの合計の、集合体全体の高さに対する割合が80%以上であることを意味している(図4(b)参照)。
【0025】
表面平滑さは、0.3μm以下である。表面平滑さとは、カーボンナノチューブ集合体の断面を3000倍で撮影したSEM写真において、集合体表面付近に設けた基準線からの集合体高さ(Y)を30点以上測定し、得られた集合体高さの標準偏差σを意味している(図5参照)。
【0026】
バンドル幅は、通常10〜20nm程度である。バンドル幅は、カーボンナノチューブ集合体の断面を50000倍で撮影したSEM写真において、カーボンナノチューブバンドルの幅(Z)を30点以上測定して求めた平均値を意味している(図6参照)。
【0027】
カーボンナノチューブの層数は、1層以上であればよく、好ましくは1〜40層である。
【0028】
本発明のカーボンナノチューブ集合体は、例えば、原料ガスを用いて化学気相成長法を行うことにより基板上に高密度かつ高配向の状態で製造することができる。
【0029】
具体的には、基板に対して、カーボンナノチューブを形成するための原料ガスを供給し、化学気相成長させることによりカーボンナノチューブ集合体を製造する。
【0030】
基板には、カーボンナノチューブ集合体において記載した基板と同様のものを使用する。基板として、例えば、プラスチック基板、ガラス基板、シリコン基板、鉄、銅等の金属又はこれらの合金を含む金属基板等を用いることができるが、シリコン基板が好ましい。これらの基板の表面には、二酸化ケイ素膜が積層されていることが好ましい。二酸化ケイ素膜は、熱酸化又は蒸着により形成することができる。基板の表面には、触媒層が積層されているものが好ましい。触媒としては、鉄、ニッケル、コバルト等の金属を用いることができる。触媒層は、好ましくは、鉄等の金属を蒸着又はスパッタリング等すること等により形成され得る。本発明では、シリコン基板に二酸化ケイ素膜を形成し、該二酸化ケイ素膜上に、触媒層を積層した基板を用いることが好ましい。これにより、高密度かつ高配向で形成されたカーボンナノチューブ集合体を製造できる。
【0031】
原料ガスは、炭素を含んでいればよく、通常はアセチレン等の炭化水素を使用すればよい。原料ガスとしては、アセチレンが好ましい。原料ガスを搬送するためのキャリアガスとして、ヘリウム等の希ガス又は不活性ガスを用いてもよい。キャリアガスを用いる場合、全気体流量に対する原料ガス流料の割合は、3〜7vol%程度、好ましくは4.5〜6vol%程度である。
【0032】
化学気相成長時の温度は、通常680〜760℃程度、好ましくは700〜760℃程度で行われる。温度が上記範囲を外れると、高さの80%以上が10°以下の直線性を有し、かつ表面平滑さが0.3μm以下で、嵩密度が30mg/cm以上であるカーボンナノチューブ集合体を得ることができない。
また、気相成長時の圧力は限定的でないが、通常、大気圧で行えばよい。
【0033】
反応時間は、製造条件により応じて適宜設定できるが、例えば、2〜5分間程度とすればよい。
【0034】
上記の条件で化学気相成長反応を行うことより、高さの80%以上が10°以下の直線性を有し、かつ表面平滑さが0.3μm以下で、嵩密度が30mg/cm以上であるカーボンナノチューブ集合体を得ることができる。
【0035】
本発明のカーボンナノチューブの集合体を用いて、公知のカーボンナノチューブ撚糸方法で撚糸することにより、カーボンナノチューブ撚糸が得られる。得られたカーボンナノチューブ撚糸は、電気特性(導電性)及び力学特性(強度及び伸び)が優れている。
【0036】
カーボンナノチューブ撚糸方法として、例えば、基板上のカーボンナノチューブ集合体からカーボンナノチューブシートを引き出し、霧状液体を噴霧して集束させた後に撚りを掛けて巻き取る方法を挙げることができる。以下、この方法について説明する。
【0037】
カーボンナノチューブシートは、互いに干渉せずに同時に引き出すことができれば、何枚用いてもよい。1枚でも撚糸を製造することは可能であるが、カーボンナノチューブバンドルのムラが平均化され、得られる撚糸が均質化するため、2枚以上使用することが好ましい。
【0038】
カーボンナノチューブシートに噴霧される霧状液体は、速乾性に富むという観点から揮発性の高い液体(易揮発性液体)が好ましい。易揮発性液体として、炭素数が1〜5の低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール)、アセトン、ジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。又は、水溶液であってもよい。霧状液体として、炭素数が1〜5の低級アルコールが好ましく、その中でもエタノールがより好ましい。
【0039】
霧状液体の噴霧したあと、撚りを掛けて巻き取ることにより、カーボンナノチューブ撚糸が形成される。得られたカーボンナノチューブ撚糸は、長さ1m以上、糸径が0.1〜1,000μm程度、撚り角度が5〜50°程度、撚り数が1,000〜200,000T/m程度である。このカーボンナノチューブ撚糸は、後述の実施例で示すように、力学特性(強度及び伸び)及び電気特性(導電性)に優れている。
【0040】
以下、上述したカーボンナノチューブ撚糸の製造方法について、添付図面を参照して説明する。ここでは、基板を2枚用いている。
【0041】
図1は、本発明に係るカーボンナノチューブ撚糸製造方法に用いることができるカーボンナノチューブ撚糸製造装置の基本構成の一例を示す概略構成図である。
【0042】
カーボンナノチューブ撚糸製造装置1は、基板上に化学気相成長させたカーボンナノチューブの集合体からカーボンナノチューブの撚糸を製造する装置であって、図1に示すような、基板固定手段2、集束手段3、撚掛手段4、及び巻取り手段5を備えている。
【0043】
基板固定手段2は、化学気相成長させたカーボンナノチューブの集合体c1が形成された基板Z1、及び化学気相成長させたカーボンナノチューブの集合体c2が形成された基板Z2を固定する固定台(21及び22)であり、例えば、基板Z1及びZ2を市販の適当な両面テープで接着することにより当該基板を固定している。基板Z1及びZ2に形成されたカーボンナノチューブ集合体c1及びc2は、先に説明した化学気相成長方法によって、カーボンナノチューブが高密度かつ高配向に成長した集合体である。カーボンナノチューブ集合体の嵩密度は30mg/cm以上であり、高さは150μm以上であり、表面平滑さは0.3μm以下であり、直線性は、その高さの80%以上が10°以下であり、バンドル幅は10〜20nm程度である。
【0044】
この基板上に高密度・高配向で成長したカーボンナノチューブの一部を把持してカーボンナノチューブの集合体から引き離すことにより、カーボンナノチューブは基板上から連続的に引き出される。
【0045】
引き出しは、基板からカーボンナノチューブをカーボンナノチューブシートの状態で引き出すための装置(引出具)を用いて行われ、例えば、図2に示すような極細軸状部61を有する引出具6を用いることができる。ここで、カーボンナノチューブシートとは、基板に形成されたカーボンナノチューブの集合体から引き出されたカーボンナノチューブが一方向に配列して連続的につながり、例えば、幅1μm〜1m、厚さ10nm〜1cmのシート状態を形成しているものをいう。
【0046】
集束手段3は、基板Z1及びZ2から引き出されたカーボンナノチューブシートを集束させるための装置であり、本実施形態では、カーボンナノチューブシートに霧状液体を噴霧してカーボンナノチューブ凝集体Y3を形成させる噴霧装置31を用いる。この例として、例えば、噴霧器、アトマイザー、加湿器、ネブライザー等を挙げることができる。本実施形態では、超音波により霧状液体を生成するネブライザーを採用している。噴霧装置31により霧状に散布される液体は、速乾性に富むという観点から揮発性の高い液体(易揮発性液体)であることが好ましい。本実施形態においては、易揮発性液体として、エタノールを採用している。なお、霧状に散布される液体は、炭素数が1〜5の低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール)、アセトン、ジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、テトラヒドロフランおよびそれら混合液、あるいは水溶液であってもよい。
【0047】
撚掛手段4として、基板Z1及びZ2から引き出されるカーボンナノチューブシートの引き出し方向(図中において、矢印Aで示す方向をいい、以下、「A方向」という)に沿う回転軸を有するリング状の回転体41と、基板Z1及びZ2から引き出されたカーボンナノチューブシートを挟持可能な把持装置42と、回転体41を回転軸周りに回転駆動させるモーター(図示せず)とを備えている。把持装置42は、リング状の回転体41の中央部に配設されており、基板Z1及びZ2から引き出されたカーボンナノチューブシートを挟持する一対の回転可能なローラー421,421によって構成されている。各ローラー421の回転軸は、基板Z1及びZ2から引き出されるカーボンナノチューブシートの引き出し方向に直交する軸線と平行となるように設定されている。このような構成により、基板Z1及びZ2から引き出されたカーボンナノチューブ糸Y3に撚りを掛けながら撚糸Wを製造しつつ、製造された撚糸を後方側(巻取り手段5側)に導くことができる。
【0048】
巻取り手段5は、撚糸Wが巻回されるボビン51と、このボビン51を回転駆動する駆動モーター(図示せず)とを備えている。ボビン51の回転軸は、基板Z1及びZ2から引き出されるカーボンナノチューブの引き出し方向(A方向)と直交する軸線と平行となるように設定されている。なお、長尺のカーボンナノチューブの撚糸Wを巻き取る為にボビン51をトラバース駆動させることが好ましい。巻き取り時の滑りを防止するために、ボビン51の表面に滑り防止加工が施されてもよい。滑り防止加工の方法は限定されるものではなく、例えば、ゴムライニングや樹脂コーティング、梨地、エンボスを施す方法等が挙げられる。
【0049】
上記のような構成を有する製造装置1の基板固定手段2、集束手段3、撚掛手段4、巻取り手段5は、図1に示すように、A方向に沿って、上流側(図1の左側)から基板固定手段2、集束手段3、撚掛手段4、巻取り手段5の順に配置されている。基板固定手段2に固定された基板Z1及びZ2から引き出されたカーボンナノチューブは、集束手段3が配置される領域を通過した後、撚掛手段4を移動し、巻取り手段5で巻き取られる。
【0050】
このように構成されたカーボンナノチューブ撚糸製造装置1を用いてカーボンナノチューブの撚糸を製造する方法について、以下説明する。
【0051】
最初に、基板Zに形成されるカーボンナノチューブを引き出して、当該カーボンナノチューブを製造装置1にセッティングする方法について説明する。
【0052】
まず、化学気相成長させたカーボンナノチューブの集合体が形成された基板Z1及びZ2を基板固定手段2に固定する。
【0053】
次に、例えば、図2に示す引出具6を用いて、基板Z1及びZ2上に形成されるカーボンナノチューブの集合体の側面から別々にカーボンナノチューブを引き出す。この引出具6は、極細軸状部61を有しており、その素材は、鉄、アルミニウム、ステンレス、プラスチック、木材、ガラス等であり、特に制限されるものではない。引出具7はカーボンナノチューブに対して適度な摩擦抵抗を有していれば良く、引出具7に摩擦を生じさせるために、引出具6の表面に、溝の形成および/または、エンボス加工により微細な突起を形成することが望ましい。引出具6の極細軸状部61の直径は基板Z1又はZ2上に成長させられたカーボンナノチューブの平均高さに依存して決まる。カーボンナノチューブの平均高さの約1/3以下の直径であることが好ましい。カーボンナノチューブの約1/3以下の直径であれば、基板Z1又はZ2上のカーボンナノチューブの集合体の中で引出具6が1回転した時に極細軸状部61の周りにほぼ1周以上捲きついてくる。高確率でカーボンナノチューブを引き出すには1周以上捲きついていることが大事である。刃径0.03mm以上のマイクロドリルが市販されており、これを引出具6に用いることもできる。
【0054】
このような構造を有する引出具6を用いて、基板Z1上に形成されるカーボンナノチューブの集合体c1の側面からカーボンナノチューブを引き出すには、まず、引出具6の極細軸状部61を基板Z1上に成長しているカーボンナノチューブc1の側面に突き刺して進入させる。この進入深さは0.01mm以上であることが望ましい。引出具6の極細軸状部61を突き刺す高さ位置は基板Z1上に成長しているカーボンナノチューブc1の平均高さの1/2以下の高さが好ましい。この進入時に引出具7は回転していても、回転が停止していてもよい。引出具6の極細軸状部61が0.01mm以上進入したところで進入を停止させる。この場所に引出具6が留まった状態で引出具6を1秒間〜5分間、1〜1,000rpmで回転させて、カーボンナノチューブを把持した後、回転を止め、引出具6を後退させて集束手段3が配置される領域を介して、撚掛手段4の把持装置42を構成するローラー421、421間を通過させる。その後、巻取り手段5である巻取り装置のボビン51上まで移動させ、カーボンナノチューブ撚糸をボビン51に固定する。基板Z2についても基板Z1と同様に引き出し、巻取り手段5である巻取り装置のボビン51上まで移動させ、基板Z1から引き出したカーボンナノチューブシートを重ね合わせて固定する。
【0055】
次いで、集束手段3(噴霧装置31)、撚掛手段4及び巻取り手段5を駆動させることにより、カーボンナノチューブ撚糸の紡糸を開始する。引き出されたカーボンナノチューブには、撚りが形成されておらずシート状の形態を有している。このシート状のカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブシート)には、集束手段3(噴霧装置31)によって霧状液体が散布されるが、この霧状液体の噴霧により、カーボンナノチューブシートを構成する各カーボンナノチューブの表面に付着した液体が、速やかに蒸発することにより互いに凝集し、各カーボンナノチューブ間の間隔が小さくなって、集束する。霧状液体の噴霧量は、0.01〜10ml/分である。本実施形態では、噴霧装置31としてネブライザーを用い、霧状液体としてエタノールを用いる。
【0056】
このように各カーボンナノチューブ間の間隔が小さくなり、集束してカーボンナノチューブの密度が高められたカーボンナノチューブシート(カーボンナノチューブ凝集体)は、撚掛手段4を通過することにより、撚りが掛けられる。
【0057】
撚掛手段4の回転数は、例えば、100〜10,000rpmの間で調整できる。回転数が小さすぎると、カーボンナノチューブ撚糸に付与できる撚り数が少なすぎることによって、カーボンナノチューブ撚糸の糸強度が不足してしまうため好ましくない。一方回転速度が速すぎると、カーボンナノチューブ糸に付与する撚り数が多すぎることによって糸強度が低下するため、好ましくない。
【0058】
撚掛手段4によって、撚りを掛けられたカーボンナノチューブ撚糸Wは、巻取り手段のボイン51により巻き取られる。巻取り手段5の回転速度は、例えば、0.005〜30m/分の間で調整することができる。巻取り速度が小さ過ぎては生産性が乏しく、実用的でない。一方、巻取り速度が大き過ぎると途中で糸切れを起こす可能性があるため好ましくない。
【0059】
この方法により、直径が0.1〜1,000μm程度、撚り角度が5〜50°程度の連続したカーボンナノチューブ撚糸Wを作製することができる。
【0060】
なお、カーボンナノチューブ撚糸の製造方法は、上記の方法に限定されるものではなく、公知のカーボンナノチューブ撚糸の製造方法であれば、いずれの方法を使用してもかまわない。
【0061】
得られたカーボンナノチューブ撚糸は、嵩密度が30mg/cm以上であり、高さが150μm以上であり、表面平滑さが0.3μm以下であり、直線性は、その高さの80%以上が10°以下であり、バンドル幅が10〜20nm程度のカーボンナノチューブ集合体を使用しているので、電気特性及び力学特性が優れている。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0063】
なお、実施例及び比較例中の物性値は、以下の方法により測定した。
【0064】
カーボンナノチューブ集合体の高さは、カーボンナノチューブ集合体の断面を300倍で撮影したSEM写真において、基板表面から集合体表面までの高さを測定した(図3参照)。
【0065】
カーボンナノチューブ集合体の嵩密度は、合成の前後で基板重量を電子天秤にて測定し、その重量差からカーボンナノチューブ集合体の重量を算出し、この重量と、上記方法で測定した集合体高さから嵩密度を算出した。
【0066】
直線性は、図4(a)に示すように、カーボンナノチューブ集合体を構成するバンドルの屈曲部と屈曲部との接線とがなす角度(X)とし、図3に示すように、測定領域として、集合体を高さ方向に例えば上部(h1)、中央部(h2)、下部(h3)に三分割し、各領域でそれぞれ30点以上測定して平均値を求めた(図4(b)参照)。各領域の平均値を比較して、同じ直線性の傾向を示していると思われる(平均値が近似している)領域における値の平均値を直線性とした。また、上述した同じ直線性の傾向を示していると思われる領域の高さを合計し、集合体全体の高さ(H)に対する割合を求めた。
【0067】
表面平滑さは、カーボンナノチューブ集合体の断面を3000倍で撮影したSEM写真において、集合体表面付近に設けた基準線からの集合体高さ(Y)を30点以上測定し、それらの標準偏差σを表面平滑さとした(図5参照)。
【0068】
バンドル幅は、カーボンナノチューブ集合体の断面を50000倍で撮影したSEM写真において、カーボンナノチューブバンドルの幅(Z)を30点以上測定し、その平均値を求めた(図6参照)。
【0069】
噴霧装置31(オムロン製超音波式ネブライザーNE−U07)から噴霧する、霧状液体の粒子径は1μm〜5μmである。ここで、霧状液体の粒子径は、イギリス・マルバーン社製のレーザ回折式粒度分布測定装置「マスターサイザー2000」を用いて計測することができる。この装置における粒子径の測定原理は、Mie理論に基づくレーザ回折・散乱法に基づいている。液滴の体積基準の累積粒度分布を作成し、50%径(メディアン径)をもって霧状液体の粒子径としている。
【0070】
撚糸の直径は、日本電子社製の走査電子顕微鏡「JSM−7401F」を用いて、SEM写真を撮影して糸径を測定した。
【0071】
撚り角度は、日本電子社製の走査電子顕微鏡「JSM−7401F」を用いて、SEM写真を撮影し、例えば、図14に示すように、巻き付いたカーボンナノチューブの配向方向と撚糸の中心軸がなす角度を撚り角度として測定した。
【0072】
引張り強度は、日本計測システム(株)製の自動荷重試験機「MAX−1KN−S」を用いて、糸長10mm、引張り速度1mm/分で引張り試験を行い、カーボンナノチューブ撚糸が破断したときの荷重及び糸の断面積を測定し、下式:
引張り強度(Pa)=破断荷重(N)÷糸断面積(m
に従って、カーボンナノチューブ撚糸が破断したときの荷重を糸の断面積で除して求めた。測定は、複数回(2〜8回)行い、その平均値を引張り強度とした。
【0073】
伸び率は、引張り強度と同様の条件で引張試験を行い、カーボンナノチューブ撚糸が破断したときに伸びた長さを測定し、下式:
伸び率(%)=100×伸びた長さ(mm)÷初期糸長(10mm)
に従って、カーボンナノチューブ撚糸が破断したときに伸びた長さを初期糸長(10mm)で除して求めた。測定は、複数回(2〜8回)行い、その平均値を伸び率とした。
【0074】
体積抵抗率は、カーボンナノチューブ撚糸の両端を導電ペースト(藤倉化成(株)のドータイトD−550)で固定後、デジタルマルチメーター(CUSTOM製CDM−2000D)を用いて2端子法で抵抗値を測定し、糸の長さと断面積で規格化して求めた。
【0075】
実施例1
熱CVD法を用いて、以下のようにカーボンナノチューブ集合体を合成した。まず、カーボンナノチューブ合成装置のガス配管及び反応容器内を不活性ガス(ヘリウム)で充填し、その後真空にするパージ作業を繰り返し行うことにより、反応容器内のガス置換を行った。次いで、カーボンナノチューブ合成用鉄触媒を厚み20nm以下に塗布した酸化膜付シリコンウエハ基板を反応装置内に設置し、再度反応容器内をパージした。次いで、不活性ガス(ヘリウム)を一定流量で流しながら、触媒層を750℃まで加熱し、この温度で一定時間保持した。その後、アセチレンガスとヘリウムガスの混合ガス(アセチレンガス3〜7vol%)を反応容器フランジ部に設置したガス導入孔より導入して、触媒と2〜5分間反応させることにより、基板上にカーボンナノチューブ集合体を形成した。その後、カーボンナノチューブ集合体が形成された基板を反応管より取り出し、室温に冷却した。基板上に成長させたカーボンナノチューブ集合体の高さは168μm、バンドル幅は15nm、嵩密度は49mg/cmであり、表面平滑さは0.3μmであり、集合体高さの84%の直線性が5°以下であり、高密度かつ高配向で形成されていた。
【0076】
上記のようにして得られたカーボンナノチューブ集合体にマイクロナイフ(フェザー安全剃刀製マイクロサージカルブレードK−715、先端角15°)を用いて、上記のようにして得られたカーボンナノチューブ集合体の一部に幅2mmの直線状の部分を形成、画定することで、一定幅で直線状のカーボンナノチューブ集合体を2つ(カーボンナノチューブ基板Z1およびZ2)作製し、これらを図1に示す基板固定手段2に保持させた。
【0077】
図1の基板固定手段2に保持されたカーボンナノチューブ基板Z1およびZ2のうち、先ず片方のカーボンナノチューブ基板Z1について、カーボンナノチューブ基板Z1を構成するカーボンナノチューブ集合体の側面から、図2に示すように引出具6(マイクロツールINC製マイクロドリル1−254 先端直径30μm)の極細軸状部61を深さ0.1mm突き刺し、次に1,000rpmで1秒間回転させてカーボンナノチューブを絡め付け、さらに引出具7を回転させることなくカーボンナノチューブ基板Z1から離反させることで、カーボンナノチューブ基板Z1からカーボンナノチューブを連鎖的に連続して引き出し、カーボンナノチューブシートY1を形成した。
【0078】
引出具6を後退させることで、カーボンナノチューブシートY1を、噴霧装置31が配置される領域を介して、撚掛手段4の把持装置42を構成するローラー421,421間を通過させた。さらに引出具6を後退させることで、引出具6を巻取り手段5のボビン51上まで移動させ、カーボンナノチューブ撚糸Wをボビン51に固定した。
【0079】
次に、図1の基板固定手段2に保持されたカーボンナノチューブ基板Z2からも、上記と同様に引出具6を用いてカーボンナノチューブシートY2を形成し、引出具6を後退させることで、カーボンナノチューブシートY2をボビン51上に固定したカーボンナノチューブシートY1と重ね合わせた。
【0080】
図1の基板固定手段2と巻取り手段5の間に配置した噴霧装置31(オムロン製超音波式ネブライザーNE−U07)から、エタノールの霧を0.1ml/分の噴霧量でカーボンナノチューブシートY1およびカーボンナノチューブシートY2に吹き付け、エタノールを瞬時に気化させることで、カーボンナノチューブシートY1およびカーボンナノチューブシートY2を合一させ、かつ、凝集せしめた。同時に、撚掛手段4の把持装置42を構成するローラー421,421を周速10cm/分で回転させ、かつ、把持装置42のローラー421,421自体をリング41が形成する平面と垂直方向の回転軸回りに2000rpmで回転させることで、カーボンナノチューブシートY1およびカーボンナノチューブシートY2を合一、凝集せしめたものに撚りを掛けた。さらに同時に、巻取り手段5のボビン51をトラバースさせながら回転させることで、カーボンナノチューブ撚糸Wを10cm/分の巻取り速度で巻き取った。
【0081】
この方法により、直径が20μm、撚り角度が26°の連続したカーボンナノチューブ撚糸Wを作製した。
【0082】
以上の工程を経て作製したカーボンナノチューブ撚糸Wについて引張り試験を実施したところ、引張り強度は0.2GPa、伸び率は12%であった。また、その体積抵抗率は7×10−4Ω・mであった。
【0083】
実施例2
カーボンナノチューブ集合体の一部に形成、画定させた直線状の部分の幅が0.1mmであり、図6において、撚掛手段4のリング41を8000rpmで回転させたこと以外は、参考例1と同じ製糸方法で糸径の細いカーボンナノチューブ撚糸を作製した。
【0084】
得られたカーボンナノチューブ撚糸Wは、直径が1.6μm、撚り角度が23°であった。カーボンナノチューブ撚糸Wについて引張り試験を実施したところ、引張り強度は1.0GPa、伸び率は2%であった。また、その体積抵抗率は8×10−5Ω・mであった。
【0085】
比較例1
カーボンナノチューブ集合体の製造条件を、温度を770℃にした以外は、参考例1と同じ製糸方法で作製した。ここで、基板上に成長させたカーボンナノチューブ集合体の高さは177μm、バンドル幅は13nm、嵩密度は22mg/cmであり、表面平滑さは0.4μmであり、集合体高さの86%の直線性が20°以下であった。
【0086】
得られたカーボンナノチューブ撚糸Wは、撚り角度が24°であった。カーボンナノチューブ撚糸Wについて引張り試験を実施したところ、引張り強度は0.1GPa、伸び率は10%であった。また、その体積抵抗率は1×10−3Ω・mであった。
【0087】
比較例2
カーボンナノチューブ集合体の製造温度を770℃にし、カーボンナノチューブ集合体の一部に形成、画定させた直線状の部分の幅を0.1mmにし、図1において、撚掛手段4のリング41を8,000rpmで回転させたこと以外は、実施例1と同じ製糸方法で、糸径の細いカーボンナノチューブ撚糸を作製した。
【0088】
得られたカーボンナノチューブ撚糸Wは、撚り角度が25°であった。カーボンナノチューブ撚糸Wについて引張り試験を実施したところ、引張り強度は0.8GPa、伸び率は1%であった。また、その体積抵抗率は1×10−4Ω・mであった。
【0089】
これらの結果から、本発明のカーボンナノチューブ集合体を用いて製造した実施例1のカーボンナノチューブ撚糸は、比較例1のカーボンナノチューブ撚糸に比べて、引張り強度及び伸び率が大きく、体積抵抗率が小さいことがわかる。同様に、実施例2の糸径の細いカーボンナノチューブ撚糸も、比較例2のカーボンナノチューブに比べて、引張り強度及び伸び率が大きく、体積抵抗率が小さいことがわかる。
【符号の説明】
【0090】
1 カーボンナノチューブ撚糸製造装置
2 基板固定手段
3 集束手段
31 噴霧装置
4 撚掛手段
5 巻取り手段
6 引出具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に化学気相成長させたカーボンナノチューブの集合体であって、その高さの80%以上が10°以下の直線性を有し、かつ表面平滑さが0.3μm以下で、嵩密度が30mg/cm以上であるカーボンナノチューブ集合体。
【請求項2】
請求項1に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法であって、基板に対して、カーボンナノチューブを形成するための原料ガスを供給し、680〜760℃で化学気相成長させることによりカーボンナノチューブ集合体を製造する方法。
【請求項3】
前記基板が、シリコン基板に二酸化ケイ素膜を形成し、該二酸化ケイ素膜上に、触媒層を積層した基板である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料ガスと、該原料ガスを搬送するためのキャリアガスとを供給し、全気体流量に対する原料ガス流料の割合が、3〜7vol%である、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のカーボンナノチューブ集合体を用いて製造されたカーボンナノチューブ撚糸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−207646(P2011−207646A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75773(P2010−75773)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】