説明

カーボンナノ構造物の製造方法及びカーボンナノ構造物製造用ガス

【課題】カーボンナノ構造物の連続的成長メカニズムを最適化でき、高品質のカーボンナノ構造物を製造することのできるカーボンナノ構造物の製造方法、及びカーボンナノ構造物の製造に用いるカーボンナノ構造物製造用ガスを提供する。
【解決手段】本発明に係る、連続的に長さを制御可能なカーボンナノ構造物の製造方法においては、キャリアガスと原料ガスを反応室4に供給して触媒体6によりカーボンナノ構造物2を製造するとき、キャリアガスや原料ガス中に、上記原料ガスに対して還元性を有する水素などの還元性ガスを含有させ、さらには酸化性を有する水などの酸化性ガスを含有させ、その濃度を適度に制御することにより、良質のカーボンナノ構造物を高効率に製造することができる。これにより、例えば全長7mmというこれまでに例の無いカーボンナノチューブの製造を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブやカーボンナノコイル等のカーボンナノ構造物を製造する方法、及びカーボンナノ構造物製造用ガスに関する。殊に、原料ガス及びキャリアガスを反応室に供給して、反応室に配置された触媒によりカーボンナノ構造物を成長させる場合に、さらに還元性ガスおよび酸化性ガスを上記反応室に供給することにより、連続的に成長するカーボンナノ構造物を高効率に合成する製造方法、それに用いる製造用ガスに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノ構造物を製造する方法として、炭化水素などの原料ガスを分解して目的物質を成長させる化学的気相成長法(CVD法、Chemical Vapor Deposition)、また上記CVD法の一形態である、触媒を利用して目的物質を成長させる触媒化学的気相成長法(CCVD法、Catalyst Chemical Vapor Deposition)が知られている。
【0003】
従来、CVD法でカーボンナノ構造物を製造するには、反応室に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを導入し、触媒により原料ガスを分解して触媒表面にカーボンナノ構造物を成長させる製造方法が採用されている。
【0004】
この種の製造方法を用いた製造装置の一つに原料吹き付け式カーボンナノ構造物合成装置がある。このカーボンナノ構造物合成装置は、例えば、特許文献1に示されているように、触媒体を内部に配置した反応室にキャリアガスとともに、原料ガスを供給して、触媒体の表面にカーボンナノ構造物を成長させるように構成されている。反応室の中に原料ガスを導入する原料ガスノズルのノズル先端が触媒体表面の近傍に配設され、予熱されたカーボン原料ガスを瞬時に大量に触媒表面に集中的に吹き付け、または吹き込むことによって、原料ガスと触媒表面との接触確率を飛躍的に高めることにより、高効率にカーボンナノ構造物を製造することができる。
【0005】
非特許文献1では、原料ガス流量の初期揺らぎなく、瞬時に必要量の原料ガスを供給することで、高効率でカーボンナノ構造物の成長を実現した。更に、カーボンナノ構造物の成長機構を、カーボンナノ構造物が初期に急速に成長する第1段階、比較的緩やかに連続的に成長する第2段階があることが記載されている。
【特許文献1】特開2004−182573号公報(2004年7月2日公開)
【非特許文献1】末金 皇, 長坂岳志, 野坂俊紀, 中山喜萬, 応用物理13,第73巻,(2004), 第5号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、上記第1段階におけるカーボンナノ構造物の急速な成長が鈍化すると、成長が緩やかな上記第2段階に移行する。しかし、上記第2段階では、カーボンナノ構造物の成長速度が遅いため、触媒表面に、過剰に生成された原料ガス由来の炭素が堆積し、原料ガスと触媒表面との接触を妨げる現象が起こる。
【0007】
例えば、上記特許文献1や上記非特許文献1に係るカーボンナノ構造物の製造方法など、従来のカーボンナノ構造物の製造方法は、上記第2段階は触媒表面の炭素の拡散律速となり、遂にはカーボンナノ構造の成長が止まるという問題点があった。さらに、非特許文献1に係る方法では、カーボンナノ構造物の成長時間が極めて短時間の合成の部分(上記第1段階における成長)に決定的な悪影響を与えることは本発明者等の研究により既に明らかになっている。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、カーボンナノ構造物の成長を持続させ、高品質のカーボンナノ構造物を製造することのできるカーボンナノ構造物の製造方法及び、それに用いるカーボンナノ構造物製造用ガスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法は、上記課題を解決するために、少なくともカーボンナノ構造物の原料となる炭素を含む原料ガス、及び、上記原料ガスを搬送するキャリアガスを、少なくとも鉄元素を含む触媒が配置された反応室に供給することにより、カーボンナノ構造物を製造する方法において、さらに、上記反応室内に、水素を供給する還元性ガス及び、炭素に対して酸化性を有する酸化性ガスを上記反応室に供給することを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、上記還元性ガスに由来する水素によって、上記原料ガスの分解反応の平衡が、ル=シャトリエの原理により、分解が進む方向とは逆向きに移動する。つまり、カーボンナノ構造物の製造工程においては、上記原料ガスが分解され、炭素と水素とを生成する分解反応が起こるが、上記還元性ガスに由来する水素によって、この分解反応の平衡が、分解が進む方向とは逆向きに移動する。そのため、分解の速度が緩やかになる。つまり、当該炭素の生成速度が緩やかになる。よって、上記原料ガスに由来する過剰な炭素の生成を防ぐことができ、上記過剰な炭素が上記触媒の表面に堆積することによる、上記触媒の失活を防ぐことができる。
【0011】
従って、カーボンナノ構造物の成長、特に上記第2段階におけるカーボンナノ構造物の成長を持続させることができ、高品質のカーボンナノ構造物を製造することが可能となる。さらに、エチレンなどの可燃性ガスである原料ガスの添加量を削減することができるため、カーボンナノ構造物を低コストで製造することができ、安全性も向上する。
【0012】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法では、上記課題を解決するために、上記原料ガス、上記キャリアガス及び上記還元性ガスの内、少なくとも2つのガスを、上記反応室に供給する前に予め混合することが好ましい。
【0013】
カーボンナノ構造物の製造においては、上記原料ガス、上記キャリアガス及び上記還元性ガスの供給量の比が、得られるカーボンナノ構造物の品質に影響を及ぼす。そして、上記の構成によれば、上記反応室に供給する前に、上記原料ガス、上記キャリアガス及び上記還元性ガスの内、少なくとも2つのガスを、予め混合することにより、混合するガスにおいては、供給量の比の調整が容易となる。
【0014】
従って、上記還元性ガスによるカーボンナノ構造物の成長の持続性向上に加え、供給するガスにおける供給量の比の調整が容易となることによって、さらに、高品質なカーボンナノ構造物の製造が可能となる。
【0015】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法では、上記課題を解決するために、上記原料ガスの供給速度(g/min)を、上記還元性ガスの供給速度(g/min)で除した値が、0.05〜0.6であることが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、上記分解反応の平衡が、分解が進む方向とは逆に移動するため、上記触媒の表面に上記原料ガスに由来する炭素が堆積することを防ぐことができる。一方で、分解が進む方向に移動しすぎないため、上記原料ガス由来の炭素が、好適な速度で上記触媒に供給され、カーボンナノ構造物の合成に供される。
【0017】
従って、特に上記第2段階におけるカーボンナノ構造物の成長を持続させることができ、さらに効率的に行うことが可能となり、高品質のカーボンナノ構造物を効率的に製造することが可能となる。
【0018】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法では、上記課題を解決するために、さらに、上記反応室に、炭素に対して酸化性を有する酸化性ガスを供給することが好ましい。
【0019】
上記の構成によれば、上述した触媒表面に堆積する炭素を酸化、つまり燃焼、除去することが可能となる。よって、触媒表面の活性が維持される。
【0020】
従って、カーボンナノ構造物の成長、特に上記第2段階におけるカーボンナノ構造物の成長を持続させることができ、高品質のカーボンナノ構造物を製造することが可能となる。
【0021】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法では、上記課題を解決するために、上記酸化性ガスの供給量は、上記反応室に供給されるガスの総量の内、150ppm〜500ppmであることが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、上述した触媒表面に堆積した炭素が除去される。一方で、カーボンナノ構造物の製造に必要な炭素を除去することが無い。よって、上記原料ガス由来の炭素が、好適な速度で上記触媒に供給され、カーボンナノ構造物の合成に供される。
【0023】
従って、高品質なカーボンナノ構造物を、効率的に製造することが可能となる。
【0024】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法では、上記課題を解決するために、上記原料ガスの供給速度を、上記触媒の量で除した値が、100〜100000(1/min)であることが好ましい。
【0025】
上記の構成によれば、上記分解反応の平衡が、分解が進む方向とは逆に移動するため、上記触媒の表面に上記原料ガスに由来する炭素が堆積することを防ぐことができる。一方で、分解が進む方向に移動しすぎないため、上記原料ガス由来の炭素が、好適な速度で上記触媒に供給され、カーボンナノ構造物の合成に供される。
【0026】
従って、特に上記第2段階におけるカーボンナノ構造物の成長を持続させることができ、さらに効率的に行うことが可能となり、高品質のカーボンナノ構造物を効率的に製造することが可能となる。
【0027】
本発明に係るカーボンナノ構造物製造用ガスでは、上記課題を解決するために、少なくともカーボンナノ構造物の原料となる炭素を含む原料ガス、又は、上記原料ガスを搬送するキャリアガスと、上記反応室内に水素を供給する還元性ガスとの混合物を含むことを特徴としている。
【0028】
上記の構成によれば、上記カーボンナノ構造物製造用ガスを用いて、カーボンナノ構造物を製造することで、上記還元性ガスに由来する水素によって、上記原料ガスの分解反応の平衡が、ル=シャトリエの原理により、分解が進む方向とは逆向きに移動する。そのため、分解の速度が緩やかになる。よって、上記原料ガスに由来する過剰な炭素の生成を防ぐことができ、上記過剰な炭素が上記触媒の表面に堆積することによる、上記触媒の失活を防ぐことができる。
【0029】
従って、特に上記第2段階におけるカーボンナノ構造物の成長を持続させることができ、高品質のカーボンナノ構造物を製造することが可能となる。
【0030】
本発明に係るカーボンナノ構造物製造用ガスでは、上記課題を解決するために、上記原料ガスと上記還元性ガスとを、重量比0.05:1〜0.6:1で、混合した混合物を含むことが好ましい。
【0031】
上記の構成によれば、上記カーボンナノ構造物製造用ガスを用いて、カーボンナノ構造物を製造することで、上記分解反応の平衡が、分解が進む方向とは逆に移動するため、上記触媒の表面に上記原料ガスに由来する炭素が堆積することを防ぐことができる。一方で、分解が進む方向に移動しすぎないため、上記原料ガス由来の炭素が、好適な速度で上記触媒に供給され、カーボンナノ構造物の合成に供される。
【0032】
従って、特に上記第2段階におけるカーボンナノ構造物の成長を持続させることができ、さらに効率的に行うことが可能となり、高品質のカーボンナノ構造物を効率的に製造することが可能となる。
【0033】
本発明に係るカーボンナノ構造物製造用ガスでは、上記課題を解決するために、上記混合物が、さらに、酸化性ガスを含むことが好ましい。
【0034】
上記の構成によれば、上記カーボンナノ構造物製造用ガスを用いて、カーボンナノ構造物を製造することで、上述した触媒表面に堆積する炭素を酸化、つまり燃焼、除去することが可能となる。よって、触媒表面の活性が維持される。
【0035】
従って、カーボンナノ構造物の成長、特に上記第2段階におけるカーボンナノ構造物の成長を持続させることができ、高品質のカーボンナノ構造物を製造することが可能となる。
【0036】
本発明に係るカーボンナノ構造物製造用ガスでは、上記課題を解決するために、上記原料ガスと上記還元性ガスとを、重量比0.05:1〜0.6:1で混合し、さらに上記酸化性ガスを、上記還元性ガスに375ppm〜1250ppmの濃度で混合した混合物を含むことが好ましい。
【0037】
上記の構成によれば、上記カーボンナノ構造物製造用ガスを用いて、カーボンナノ構造物を製造することで、上述した触媒表面に堆積した炭素が除去される。一方で、カーボンナノ構造物の製造に必要な炭素を除去することが無い。よって、上記原料ガス由来の炭素が、好適な速度で上記触媒に供給され、カーボンナノ構造物の合成に供される。
【0038】
従って、高品質なカーボンナノ構造物を、効率的に製造することが可能となる。
【0039】
本発明に係るカーボンナノ構造物製造用ガスでは、上記課題を解決するために、上記原料ガスが、アセチレン、エチレンおよびメタンからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスであることが好ましい。
【0040】
上記の構成によれば、上記原料ガスは、カーボンナノ構造物の構成元素となる炭素、水素以外の余分な物質を生成しない。また、安価で容易に手に入り、さらに、上記触媒との反応性が高い。
【0041】
従って、さらに、高品質のカーボンナノ構造物を製造することが可能となる。
【0042】
本発明に係るカーボンナノ構造物製造用ガスでは、上記課題を解決するために、上記還元性ガスが、水素、アンモニア及び硫化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種のガスであることが好ましい。
【0043】
上記の構成によれば、上記還元性ガスは、上記分解反応の平衡を、当該分解が進まない方向へ移動するために必要な水素以外の成分として、上記カーボンナノ構造物の製造を阻害する余分な物質を生成しない。
【0044】
従って、さらに高品質のカーボンナノ構造物を製造することが可能となる。
【0045】
本発明に係るカーボンナノ構造物製造用ガスでは、上記課題を解決するために、上記酸化性ガスが、水、酸素、アセトン、アルコール、ジメチルホルムアミド、CO、CO、O及びHからなる群から選ばれる少なくとも1種のガスであることが好ましい。
【0046】
上記の構成によれば、上記カーボンナノ構造物製造用ガスを用いて、カーボンナノ構造物を製造することで、上述した触媒表面に堆積した炭素を効率的に除去することができる。
【0047】
従って、さらに高品質のカーボンナノ構造物を、効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法は、以上のように、上記原料ガス、上記キャリアガスに加えて、さらに上記還元性ガスを、カーボンナノ構造物を製造する反応室に供給するので、上記還元性ガスに由来する水素によって、上記カーボンナノ構造物の製造工程において、上記原料ガスの分解反応を緩やかにする。よって、上記原料ガスに由来する上記炭素が上記触媒の表面に堆積することによる、上記触媒の失活を防ぐことができる。さらに、本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法は、上記反応室に、炭素に対して酸化性を有する酸化性ガスを供給してもよい。この場合、触媒表面に堆積した炭素を酸化することにより、除去することができる。
【0049】
従って、カーボンナノ構造物の成長、特に上記第2段階におけるカーボンナノ構造物の成長を持続させることができ、高品質のカーボンナノ構造物を製造することが可能となるという効果を奏する。
【0050】
また、本発明に係るカーボンナノ構造物製造用ガスは、以上のように、上記原料ガス、又は、上記キャリアガスと、上記還元性ガスとの混合物を含むことを特徴としている。
【0051】
上記の構成によれば、上記カーボンナノ構造物製造用ガスを用いて、カーボンナノ構造物を製造することで、上記還元性ガスに由来する水素によって、上記原料ガスの分解反応を緩やかにする。よって、上記原料ガスに由来する上記炭素が上記触媒の表面に堆積することによる、上記触媒の失活を防ぐことができる。さらに、本発明に係るカーボンナノ構造物製造用ガスは、炭素に対して酸化性を有する酸化性ガスを含んでもよい。この場合、当該カーボンナノ構造物製造用ガスを用いることで、触媒表面に堆積した炭素を、酸化することにより除去することができる。
【0052】
従って、カーボンナノ構造物の成長、特に上記第2段階におけるカーボンナノ構造物の成長を持続させることができ、高品質のカーボンナノ構造物を製造することが可能となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
本発明の一実施形態について図1ないし図2に基づいて説明すると以下の通りである。
【0054】
本実施の形態は、以下に例示するカーボンナノ構造物の製造装置を用いて、後述する原料ガス、キャリアガス及び還元性ガスをカーボンナノ構造物の成長が行なわれる反応室に供給することで、カーボンナノ構造物の製造を行うものである。しかし、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0055】
図1は本発明の実施形態に係るカーボンナノ構造物の製造装置の概略構成図である。上記製造装置は、CVD法の一形態であるCCVD法を使用してカーボンナノ構造物を製造するカーボンナノ構造物の製造装置である。上記製造装置は、カーボンナノ構造物の成長反応が行なわれる反応室4、及び、上記反応室4を昇温させるための反応ヒータ1を備えている。上記反応室4には、カーボンナノ構造物の成長反応を触媒する触媒体6が配置される。この触媒体6の表面にカーボンナノ構造物2がCCVD法により成長する。つまり、この実施形態では、本発明に係るカーボンナノ構造物が、カーボンナノ構造物2として図示されている。
【0056】
ここで、本明細書において、「カーボンナノ構造物」とは炭素原子から構成されるナノサイズの物質であり、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブにビーズが形成されたビーズ付カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブが多数林立したカーボンナノブラシ、カーボンナノチューブが捩れを有したカーボンナノツイスト、コイル状のカーボンナノコイルなどである。本明細書では、これら物質を「カーボンナノ構造物」と総称する。
【0057】
また、本明細書において「CVD法」とは、反応容器内で原料ガスを分解して目的物質を成長させる方法を総称しており、その分解手段には熱、電子ビーム、レーザービーム、イオンビームなど各種の分解手段を、その意味に包含する。
【0058】
上記反応室4の一端にはガス排出管路3が連通されており、ガス排出管路3に連結する流路には開閉バルブ5、7を介してキャリアガス容器(図示せず)に接続されている。
【0059】
キャリアガスとしては、後述する原料ガスを搬送することができ、当該原料ガスや後述する還元性ガスなどと無反応である限り限定されるものではない。例えば、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン、N、CO、クリプトン、キセノンなどの不活性ガスまたはその混合ガスが利用される。中でもヘリウムとアルゴンとの混合ガスが好ましい。原料ガスが反応により消耗されるのに対し、キャリアガスは全く無反応で消耗しない特徴がある。
【0060】
本実施の形態に係る原料ガスとしては、カーボンナノ構造物の原料となる炭素を含む限り、限定されるものではなく、炭化水素、硫黄含有有機ガス、リン含有有機ガスなどの有機ガスを用いればよい。有機ガスの中でも余分な物質を生成しない炭化水素が好適である。特に、エチレン(C)は安価で容易に手に入り、カーボンナノ構造物を製造する場合に利用する触媒との反応性が高いことから、上記原料ガスとして好適に利用できる。
【0061】
炭化水素としては、メタン、エタンなどのアルカン化合物、エチレン、ブタジエンなどのアルケン化合物、アセチレンなどのアルキン化合物、ベンゼン、トルエン、スチレンなどのアリール炭化水素化合物、インデン、ナフタリン、フェナントレンなどの縮合環を有する芳香族炭化水素、シクロプロパン、シクロヘキサンなどのシクロパラフィン化合物、シクロペンテンなどのシクロオレフィン化合物、ステロイドなどの縮合環を有する脂環式炭化水素化合物などが利用できる。
【0062】
また、上記炭化水素を2種以上混合した混合炭化水素ガスを使用することも可能である。特に、好ましくは炭化水素の中でも低分子、例えば、アセチレン、アリレン、エチレン、ベンゼン、トルエン、メタンなどの内、2以上のガスを混合した混合炭化水素ガスが好適である。
【0063】
原料ガスは、原料ガス容器(図示せず)から、上記反応室4の他端に設けた原料ガス流入路9を通じて、上記反応室4に供給される。上記原料ガス容器では、上記原料ガスがレギュレータ(図示せず)により所定圧力まで低圧化される。低圧化された上記原料ガスはマスフローコントローラ(MFC)からなる原料ガス流量制御器8により所定流量に調節される。上記原料ガス流量制御器8は上記原料ガス流入路9に連通する流入路に設けられており、電磁三方弁10、12及び開閉バルブ11を介して原料ガスが供給される。キャリアガスは前記キャリアガス容器から供給され、ガス流量制御器22、23が設けられた2系統の流路を通じて、後述のように、原料ガス流入路9に合流するようにキャリアガスが供給される。
【0064】
本実施の形態では、還元性ガスを上記反応室4に供給する。上記還元性ガスにより、上記触媒の失活を防ぎ、後述するカーボンナノ構造物の緩慢な成長工程を連続的、かつ持続的に行うことができる。つまり、上記緩慢な成長工程を、長時間にわたって持続させることができるため、長いサイズのカーボンナノ構造物を製造することができる。例えば、5〜7mmのカーボンナノ構造物を製造することができる。
【0065】
上記還元性ガスとしては、上記反応室4内に水素を供給することが可能なガスである限り、限定されるものではないが、水素、アンモニア、硫化水素が好ましい。これらは単体で用いてもよく、適宜2種類以上を混合して用いてもよい。また、さらに好ましい還元性ガスは水素である。水素は、上記分解反応の平衡を、当該分解が進まない方向へ移動するために必要な水素以外の余分な物質を生成しない。つまり、上記反応室4に直接、水素を供給することが最も好ましい。また、上記反応室4内で、上記原料ガスとの反応、又は、上記反応室4内の温度・圧力条件等により、アンモニアや硫化水素から生成される水素が供給されてもよい。
【0066】
上記原料ガスの供給速度(g/min)と、上記還元性ガスの供給速度(g/min)との比は、目的とするカーボンナノ構造物のサイズ、生成速度等に応じて適宜設定すればよいが、重量比で、0.05:1〜0.6:1であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1:1〜0.3:1である。さらに、上記原料ガスの供給速度(g/min)を、上記触媒量(g)で除した値が、100〜100000(1/min)であることが好ましい。このとき、後述するカーボンナノ構造物の緩慢な成長工程を、より連続的、かつ持続的に行うことができる。
【0067】
また、予め、上記還元性ガスと上記原料ガスとを重量比で、0.05:1〜0.6:1で混合したガス(カーボンナノ構造物製造用ガス)を用いてもよく、さらに、上記重量比が0.1:1〜0.3:1であるカーボンナノ構造物製造用ガスを用いることが好ましい。
【0068】
上記還元性ガスの供給手段は、反応室4に供給される限り限定するものではない。つまり、他のガスとは別に、還元性ガスのみを別途反応室4に供給してもよく、予め、上記原料ガスや、上記キャリアガス等の、他のガスに混合して供給してもよい。ただじ、O等、上記還元性ガスと反応することで爆発等を起こす恐れのあるガスに混合するときは、爆発等の恐れが無いよう取り扱いに注意が必要であることは当然である。好ましくは、上記還元性ガスを、上記キャリアガス、上記原料ガスの少なくとも一方に混合したガス(カーボンナノ構造物製造用ガス)を、反応室4に供給することが好ましい。つまり、上記反応室4に供給される前に、上記カーボンナノ構造物製造用ガスが製造されることが好ましい。
【0069】
なお、カーボンナノ構造物製造用ガスは、上記製造装置におけるいずれかの工程において製造されることに限られず、予めキャリアガス又は原料ガスに混合したもの充填した容器を、上述したキャリアガス容器や原料ガス容器として用いてもよい。このように上記還元性ガスは、最終的に上記反応室4に供給される限り、手段は問わないため、図1には示していない。
【0070】
本実施形態では、酸化性ガスを用いてもよい。酸化性ガスとしては、炭素に対して酸化性を有するガスである限り限定されるものではないが、水、酸素、アセトン、アルコール、ジメチルホルムアミド、CO、CO、O及びHが好ましく、さらに好ましくは水、酸素である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。酸化性ガスを用いることにより、後述する触媒表面に堆積する炭素(アモルファスカーボン)を酸化、つまり燃焼、除去することが可能となる。よって、カーボンナノ構造物を、より連続的に生成することができる。
【0071】
上記酸化性ガスの混合量は、目的とするカーボンナノ構造物のサイズ、生成速度等に応じて適宜設定すればよいが、上記反応室に供給されるガスの総量の内、150ppm〜500ppmであることが好ましく、さらに好ましくは300〜400ppmである。なお、水と酸素とを混入する場合は、上記の範囲に限らず、水を0.05ppm〜3%の範囲で、酸素を0.01ppb〜1%で混入することが好ましい。また、予め、上述した上記還元性ガスと上記原料ガスとを混合したガスに、さらに上記酸化性ガスを混合したガス(カーボンナノ構造物製造用ガス)を用いてもよい。このとき混合される上記酸化性ガスの量は、用いる上記原料ガスの量に応じて適宜設定されればよい。例えば、上記還元性ガスが、用いるガスの総量の内、40%であるときは、上記還元性ガスの375ppm〜1250ppmとなるように混合するとよく、さらに好ましくは、750〜1000ppmである。
【0072】
本実施形態では、上記酸化性ガスは、重量法によって所定の濃度に充填された酸素ボンベ(図示せず)から酸素はMFCからなる酸素流量制御器13により所定流量に調節される。酸素流量制御器13は原料ガス流入路9に連通する流入路に設けられており、電磁三方弁14及び開閉バルブ11を介して反応室4に酸素が供給される。なお、開閉バルブ11手前のキャリアガスの導入路には酸素分析装置21が設けられており、この酸素分析装置21には酸素ボンベからの酸素も導入され、反応室4に適正濃度の酸素が供給されるように監視している。
【0073】
水分添加装置15は加熱ヒータを備えた水容器からなる。精製されたキャリアガスを、上記ガス流量制御器16を介して上記水分添加装置15の加温水中に導入して、流量混合法により水分を添加した水分とキャリアガスの混合ガスとが電磁三方弁18及び開閉バルブ11を介して反応室4に供給される。キャリアガスは水分添加装置15の出口側でもガス流量制御器20を介して合流し混合される。水分とキャリアガスの混合ガス導入路に設けられた監視用バイパス路19に、水分分析装置17が設けられており、水分分析装置17により反応室4に適正濃度の水分が供給されるように監視している。
【0074】
触媒体6は、カーボンナノ構造物の成長反応の触媒を、成膜等により表面に形成した基体であり、その基体の形状は基板、多層基板、筒体、多面体、ペレット、粉体など種々の形態がある(以下、本実施の形態において、上記触媒が表面に形成された基体を「触媒基板」と表記する。)。
【0075】
また、使用する上記触媒は鉄元素を含む限り、限定されるものではないが、酸化鉄が好ましく、さらに好ましくは四酸化三鉄であり、特に上記四酸化三鉄を主成分とするマグネタイトが好ましい。また、鉄元素からなる触媒、即ち純鉄を用いて、カーボンナノ構造物装置に酸化性ガスを供給して、上記純鉄を酸化する手段を具備させて、上記純鉄をマグネタイトに転化させてもよい。いずれの触媒を用いる場合においても、後述する昇温工程における上記触媒の微粒子化が良好に進む触媒であることが好ましい。
【0076】
つまり、本実施形態に係るカーボンナノ構造物製造装置は、反応室4に予め鉄元素を含む触媒体6が配置され、原料ガスを供給して反応室4に流通させながら、原料ガスを供給して反応室4に流通させる前に、キャリアガスとともに酸化性ガスを反応室4に供給して、触媒体6をマグネタイトに転化させる機構を設けてもよい。また、触媒体6によるカーボンナノ構造物の成長過程においても、原料ガス及び酸化性ガスを反応室4に流通させるようにしてもよい。
【0077】
なお、上記触媒基板上に鉄触媒を成膜する方法は、Arスパッタ、電子ビーム蒸着法、ディップコーティング法、スピンコート法など成膜する手段は問わないが、均一にナノメートルオーダーの厚みの触媒膜が形成できることが重要である。粉体においては、液体中に分散された状態でナノメートルオーダーであって均一に液相に分散しており、昇温過程で現に酸化鉄の状態で数nm〜数十nmオーダーの触媒微粒子を形成すれば特に制限はない。
【0078】
上記触媒基板に用いる基体は、カーボンナノ構造物を合成する反応温度において、触媒である鉄と、化合物を形成しない材質であることが好ましい。例えば、反応温度による安定性、表面の平滑性、価格並びに再利用の観点から、シリコン基板又は、特に、図2の(2A)に示すように、シリコン基板S1表面を十分に酸化させたシリコン酸化層S2を備えたシリコン基板を利用することが好ましい。上記触媒が上記触媒基板との間で化合物を生成したり、上記触媒基板との間に強い親和力を持ったりする場合、後述する昇温工程における上記触媒の酸化や粒子化が、良好に起こらず、カーボンナノ構造物の生成確率が落ちる恐れがある。
【0079】
次に、ガス流路切換機構について説明する。電磁三方弁10は自動バルブ制御器(図示せず)の作用により遮断状態と供給状態に制御される。即ち、原料ガスの遮断状態では、原料ガスは排気側に排気され、原料ガスの供給状態では、原料ガスは注入側に供給され、開閉バルブ11に至る合流部にて原料ガスはキャリアガスと混合される。
【0080】
電磁三方弁10を使用すると、既に原料ガスは所定流量に制御されていることから、注入側に切換えられても原料ガスの初期揺らぎは存在しない。しかも電磁作用により切換えられるため、その切換えは圧力変動無く瞬時に行われ、原料ガスの緩慢な立ち上がりは無く、一気に所定流量の原料ガスが供給される。また、原料ガスを供給状態から遮断状態に切換える場合でも、自動バルブ制御器による電磁作用で瞬時に圧力変動なく原料ガスの流量をゼロに切換えることができ、原料ガスの緩慢な立下りは無い。
【0081】
このように、電磁三方弁10を用いれば、原料ガスの反応室4への供給と遮断を瞬時に行うことができ、しかもその変化過程において流量の揺らぎは全く存在しない。従って、合計流量が一定であると、反応室4の内部のガス圧力が一定になる。この全圧力(ガス圧力)が一定の中で原料ガスが分解されるため、反応室4の内部に圧力揺らぎが発生せず、触媒体8のガス条件を一定にでき、カーボンナノ構造物8の成長を促進する作用がある。
【0082】
キャリアガスと原料ガスは前記合流部で混合された後、混合流として原料ガス流入路9先端に設けたガス供給ノズル(図示せず)から反応室4に供給される。反応室4はカーボンナノ構造物を最も生成しやすい温度域に加熱されており、原料ガスは触媒体6の近傍で熱分解され、触媒体6の表面で分解物からカーボンナノ構造物2が成長する。
【0083】
本実施形態では、CVD法において、原料ガスを分解するのに熱分解法を利用したが、例えばレーザービーム分解法、電子ビーム分解法、イオンビーム分解法、プラズマ分解法、その他の分解法が利用できる。いずれにしても、これらの分解物から触媒体6の表面にカーボンナノ構造物2が形成されることになる。触媒体6の表面では原料ガスの一部がカーボンナノ構造物に変換され、反応に寄与しなかった未反応の原料ガスはキャリアガスとともにガス排出管路3から排出される。
【0084】
<昇温工程>
昇温工程では、カーボンナノ構造物の成長反応を開始させる前に、上記反応室4内の温度を反応温度まで昇温させる。この反応温度は、目的とするカーボンナノ構造物のサイズや、用いる原料ガス、キャリアガス、還元性ガスなどにより適宜設定すればよいが、600℃〜1200℃が好ましく、さらに好ましくは、700℃〜900℃である。
【0085】
上記昇温工程では、図2の(2A)に示すように、上記触媒を成膜した基板のシリコン酸化層S2上の触媒層S3において、昇温時に触媒の酸化と微粒子化が同時に起こる。なお、図2は触媒基板上の触媒の酸化と微粒子化を模式的に示す図である。
【0086】
そして、適度な酸化を受けた触媒は図2の(2A)に示したように、成膜工程にて1nm以下のオーダーの微細な多結晶の粒子Aは合体し、数nm〜数十nmオーダーの大きな粒子B、Cを形成する。これがいわゆる、微粒子化過程である。更に、微粒子化過程おいて表面近傍において酸化物を形成していることが好ましい。
【0087】
<原料供給開始後の急速な成長工程>
原料ガスであるエチレンガスを供給開始すると、カーボンナノ構造物の合成反応は、初期の「急速な成長」と、アモルファスカーボンを生成しながら成長する「緩慢な成長」との2段階の反応による成長があることが判明している。
【0088】
以下では、原料ガスがエチレンの場合について説明するが、他の原料ガスについても同様のメカニズムになる。
【0089】
初期の上記「急速な成長」は、触媒表面での下記式(1)及び式(2)を主体とする反応自体を律速とする反応である。
2Fe+2C→4FeC+4HO+O ・・・(1)
2Fe+2C→2FeO+4FeC+4HO+O ・・・(2)
この初期の急速な成長は、上記触媒における、上記触媒と上記触媒基板との適度な親和力、昇温工程における適度な酸化・微粒子化、触媒量に対する十分な量の原料ガス、原料ガス導入時の揺らぎ抑制の条件をみたせば長さ50μmから100μm程度のカーボンナノ構造物の生成は達成できる。しかし、従来の技術では、上記「急速な成長」は、上記触媒の保持する酸素量が反応によって消費されることで停止した後、後述するように、原料ガスから供給される過剰なアモルファスカーボンにより上記触媒の表面が覆われることで、上記触媒と原料ガスとの接触が困難となり、最終的に反応停止に至る。
【0090】
上記触媒の保持する酸素が同程度の場合、カーボンナノ構造物の長さが、ほぼ同じ長さになることこから、再現性があると同時に、初期触媒の酸素の保持量によってカーボンナノ構造物の長さが決まるものと理解できる。
【0091】
<カーボンナノ構造物の緩慢な成長工程>
次に、カーボンナノ構造物を製造するのに不可欠な、アモルファスカーボンを生成しながら進む、第2段階目の成長、つまり「緩慢な成長」について説明する。
【0092】
図2の(2B)は、カーボンナノ構造物が成長する様子を模式化した図である。図2(2B)中の、Dは上記鉄元素を含む触媒の粒子(触媒粒子)、Fは成長するカーボンナノ構造物の多層レイヤを示している。Eは、上記触媒粒子D上における、上記触媒粒子Dと上記原料ガスとの接する領域である。
【0093】
図2の(2B)に示すように、エチレンに接触した触媒粒子Dには、当該エチレン由来の炭素により炭化された上記触媒粒子Dの炭化物(FeC)表面に、カーボンナノ構造物の壁を構成する多層レイヤFが形成される。そして、上記触媒粒子Dと上記原料ガスとが反応して生成したアモルファスカーボンが多層レイヤFを押し出すことによりカーボンナノ構造物が形成される。なお、図2(2B)に示す矢印はカーボンの拡散方向を示す。
【0094】
なお、上記触媒粒子Dと上記触媒基板との親和力が強い場合、上記触媒粒子Dは球状とならず両サイドの多層レイヤFは均等な速度で押し出されず、垂直に配向しない原因となる。また、上記触媒基板と上記触媒粒子Dとの親和力が全くないと多層レイヤFは基板に向かって移動していき、触媒粒子Dはカーボンナノ構造物の先端に存在してカーボンナノ構造物の成長が起こる。適度な親和力の場合、ある程度多層レイヤFが垂直に伸び、親和力がカーボンの拡散により押し出される力に反して触媒が浮きあがり、カーボンナノ構造物の長さ方向の中間点に存在する場合もありうる。
【0095】
ここで、緩慢な成長については、下記式(3)
2FeO+C→2FeC+2HO ・・・(3)
及び式(4)
Fe+C→FeC+C+2H ・・・(4)
を主体とする、炭素の表面拡散を律速とする反応であると理解できる。
【0096】
さらに、上記式(3)及び式(4)におけるCは、下記式(5)
→2C+2H ・・・(5)
で示される熱分解が生じていると考えられる。つまり、カーボンナノ構造物の製造工程において、原料ガスは分解され、ラジカル炭素(C)及び水素を生成すると考えられる。
【0097】
そして、上記触媒粒子Dと、上記原料ガスとの接する反応点(領域E)において、上記式(5)におけるラジカル炭素(C)が、上記アモルファスカーボンによる多層レイヤFを押出す拡散速度を上回る速度で供給された場合、過剰に生成したアモルファスカーボンが、上記触媒表面に堆積することにより、上記触媒と上記原料ガスとの接触が妨げられ、上記「緩慢な成長」における連続的な成長が停止する。
【0098】
しかし、本実施の形態においては、上記還元性ガスが、上記反応室4に供給される。そして、上記還元性ガスに由来するHが多量に存在することにより、上記式(5)におけるHが増加することになり、ル=シャトリエの原理により、上記式(5)におけるエチレンの熱分解の速度が緩やかになる。その結果、上記アモルファスカーボンの過剰な生成を防ぐことができる。つまり、上記還元性ガスは、上記アモルファスカーボンの抑制成分として機能する。そのため、極めて効率的に、上記アモルファスカーボンによる上記触媒表面への堆積を防ぐことができ、上記触媒の失活を防ぐことができる。この結果、連続的なカーボンナノ構造物の成長を達成することができるのである。つまり、本明細書における「還元性ガス」とは、上記原料ガスの熱分解の平衡を、分解を抑える方向に移動させるガスであると言うことができる。また、上記原料ガスが熱分解することにより生じるラジカル炭素に水素を与える性質を持つものと言うこともできる。
【実施例1】
【0099】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法及び製造ガスを用いてカーボンナノチューブを製造した実施例を以下に示す。
【0100】
本実施例では、原料ガスの供給量を変化させることにより、後述するキャリアガス、原料ガス、還元性ガス及び酸化性ガスの供給量の比を変化させて、カーボンナノ構造物を製造した結果を比較した。
【0101】
製造装置は、上記実施の形態で説明した図1に係るカーボンナノ構造物製造装置を用いた。キャリアガスにはHe(純度99.9999%)を用いた。Heには微量成分として酸素が50ppb含まれていた。
【0102】
酸化性ガスとしてはHOを用い、当該HOを、上記反応室に供給されるガスの全量に対して350ppm含まれるように混合した
さらに上記キャリアガスには、還元性ガスとしてH(純度99.9999%)を混合した。
【0103】
また、上記原料ガスにはエチレンを用いた。
【0104】
上記カーボンナノ構造物製造装置の反応室に供給するガスの総量は、1気圧で200(cm3/min)とした。
【0105】
なお、本実施例及び以下の実施例において示す気体の供給量(単位:cm3/min)に係る数値は、全て1気圧、25℃における値である。
【0106】
上記反応室は、本実施例及び以下の全ての実施例において、750℃まで加熱した(以下、「昇温工程」と表記する。)。
【0107】
上記反応室が750℃に加熱されるまでは、He(キャリアガス)を120(cm3/min)、及びH(還元性ガス)を80(cm3/min)で供給し、750℃に加熱された後、供給するHeの一部をエチレンガスに置換した。つまり、本実施例では、ガスの総供給量を、1気圧で200(cm3/min)とした上で、加熱後、Heの一部をエチレンに置換することで、各ガスの供給量の比を変化させた。なお、エチレンの供給量、即ち、昇温工程後に置換したHeの量は、供給するガスの総量である200(cm3/min)の5%〜25%の範囲である。
【0108】
なお、図1に示されるように、キャリアガスの供給経路は2通りある。
【0109】
触媒には、Feを用いた。Fe触媒は1cm×1cmの正方形で、厚さが1nmの薄膜状のものを、表面を酸化させて酸化シリコンとしたシリコン基板上に、10nmの薄膜Alを介して設置した。
【0110】
原料ガス(エチレン)の供給量に対する還元性ガス(H)の供給量の比を検討した結果を図3に示す。横軸は、供給したエチレンの量を、Hの量で除した値である。縦軸は、昇温工程後30分間保持することにより、得られたカーボンナノチューブの高さである。
【0111】
図3に示されるように、エチレンの供給量が、上記200(cm3/min)の内、7.5%のとき、すなわち供給したエチレンの量と、Hの量との重量比が0.1875:1のとき、得られたカーボンナノチューブの高さが、最も大きな値となった。
【実施例2】
【0112】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法及び製造ガスを用いてカーボンナノチューブを製造した実施例を以下に示す。
【0113】
本実施例では、酸化性ガスの供給量を変化させることにより、キャリアガス、原料ガス、還元性ガス及び酸化性ガスの供給量の比を変化させて、カーボンナノ構造物を製造した結果を比較した。
【0114】
キャリアガス、原料ガス、還元性ガス、酸化性ガス及び触媒は実施例1と同じものを用いた。
【0115】
昇温工程も実施例1と同様に行い、上記反応室が750℃に加熱された後、ガスの総供給量を200(cm3/min)とした上で、加熱後、Heの7.5%(15(cm3/min))をエチレンに置換した。
【0116】
酸化性ガスは、HOを用い、上記反応室に供給されるガスの全量に対する濃度を、150ppm〜500ppmの範囲において、50ppm単位で変化させた。
【0117】
原料ガス(エチレン)の供給量に対する酸化性ガス(HO)の供給量の比を検討した結果を図4に示す。横軸は、供給したエチレンの量を、HOの量で除した値である。縦軸は、昇温工程後30分間保持することにより、得られたカーボンナノチューブの高さである。
【0118】
図4に示されるように、HOの供給量が、350ppmのとき、得られたカーボンナノチューブの高さが、最も大きな値となった。
【実施例3】
【0119】
次に、昇温工程後の保持時間と得られるカーボンナノチューブの高さとの関係を検討した。
【0120】
本実施例では、原料ガス(エチレン)の供給量を、供給するガスの総量である200(cm3/min)に対して7.5%(15(cm3/min))とした以外は、実施例1と同様にした。
【0121】
上記保持時間は10分から12時間の間で変化させた。なお、ガスの供給量の比及び保持時間以外は実施例1と同様にした。結果を図5に示す。
【0122】
図5に示されるように、昇温後12時間を経過しても、なお、カーボンナノチューブの高さが増加することが確認された。つまり、12時間経過後も、上記触媒の活性が保たれていることが示された。また、本実施例において、昇温工程後12時間後に得られたカーボンナノチューブは7mm(以下、説明の簡単のため「7mmカーボンナノチューブ」と表記する)の長さを有していた。これは、これまでに報告の無い長さである。
【0123】
上記7mmカーボンナノチューブの外観を観察した結果を図6に示す。
【0124】
図6(a)は、7mmのカーボンナノチューブ群の外観を示す図である。図6(a)により、上記カーボンナノチューブが7mmの高さを有していることが分かる。
【0125】
図6(b)〜(f)は、上記7mmカーボンナノチューブの外観をSEMで観察した結果を示す図である。図6(b)は、図6(a)に示すカーボンナノチューブ群を上から(カーボンナノチューブの長さ方向に対して垂直な面から)SEMで観察した図である。これにより、カーボンナノチューブ群の長さ方向に対する垂直な面の表面が滑らかで平らであることが分かる。これは、個々の上記7mmカーボンナノチューブが等しい長さで成長したことを示している。
【0126】
図6(c)及び図6(e)は、それぞれ、上記7mmカーボンナノチューブの上部(先端側)、下部をSEMで観察した図である。これにより、上記7mmカーボンナノチューブが密集し、鉛直に整列していることが分かる。
【0127】
図6(d)及び図6(f)は、さらに上記7mmカーボンナノチューブの上部(先端側)、下部をそれぞれ拡大した図である。これにより、上記7mmカーボンナノチューブは、ナノスケールでは、湾曲しており、相互に絡まっていることが分かる。
【0128】
次に上記7mmカーボンナノチューブを、透過型電子顕微鏡で観察した結果を図7に示す。
【0129】
図7(a)及び(b)から、上記7mmカーボンナノチューブには、触媒に由来する金属ナノ粒子が含まれていないことが確認できた。また、ほとんどの上記7mmカーボンナノチューブは、二重壁構造を有することが示された。
【0130】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例4】
【0131】
酸化性ガス(HO)を用いないこと以外は、実施例3と同様にしてカーボンナノ構造物の製造を行った。
【0132】
その結果、2時間後に得られたカーボンナノチューブの長さは、500μmであった。このように、酸化性ガスを用いない場合は、ある程度の効果は得られるものの、実施例1〜3に示したように、酸化性ガス及び還元性ガスを共に供給することにより、さらに優れた効果が発揮されることが示された。
【0133】
(比較例1)
還元性ガス(H)を用いず、キャリアガス(He)の供給量を200(cm3/min)とした以外は実施例3と同様にしてカーボンナノ構造物の製造を行った。
【0134】
その結果、2時間後に得られたカーボンナノチューブの長さは、100μm以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によれば、キャリアガス中の微量成分である水素等の還元性ガスの供給量を触媒量に対して適切に設定することにより、高密度かつ高効率に良質のカーボンナノ構造物を製造することが可能となるカーボンナノ構造物の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本実施の形態における、カーボンナノ構造物の製造装置の概略構成図である。
【図2】本実施の形態における、触媒基板上の触媒の酸化と微粒子化を模式的に示す図である。
【図3】本実施例において、原料ガスの供給量に対する還元性ガスの供給量の比を検討した結果を示す図である。
【図4】本実施例において、原料ガスの供給量に対する酸化性ガスの供給量の比を検討した結果を示す図である。
【図5】本実施例において、昇温工程後の保持時間と得られるカーボンナノチューブの高さとの関係を検討した
【図6】本実施例において得たカーボンナノチューブの外観を観察した結果を示す図である。
【図7】本実施例において得たカーボンナノチューブを透過型顕微鏡で観察した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともカーボンナノ構造物の原料となる炭素を含む原料ガス、及び、上記原料ガスを搬送するキャリアガスを、少なくとも鉄元素を含む触媒が配置された反応室に供給することにより、カーボンナノ構造物を製造する方法において、
さらに、上記反応室内に水素を供給する還元性ガスを、上記反応室に供給することを特徴とするカーボンナノ構造物の製造方法。
【請求項2】
上記原料ガス、上記キャリアガス及び上記還元性ガスの内、少なくとも2つのガスを、上記反応室に供給する前に予め混合することを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノ構造物の製造方法。
【請求項3】
上記原料ガスの供給速度(g/min)を、上記還元性ガスの供給速度(g/min)で除した値が、0.05〜0.6であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノ構造物の製造方法。
【請求項4】
さらに、上記反応室に、炭素に対して酸化性を有する酸化性ガスを供給することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のカーボンナノ構造物の製造方法。
【請求項5】
上記酸化性ガスの供給量は、上記反応室に供給されるガスの総量の内、150ppm〜500ppmであることを特徴とする請求項4に記載のカーボンナノ構造物の製造方法。
【請求項6】
上記原料ガスの供給速度を、上記触媒の量で除した値が、100〜100000(1/min)であることを特徴とする請求項3又は5に記載のカーボンナノ構造物の製造方法。
【請求項7】
少なくともカーボンナノ構造物の原料となる炭素を含む原料ガス、又は、上記原料ガスを搬送するキャリアガスと、上記反応室内に水素を供給する還元性ガスとの混合物を含むことを特徴とするカーボンナノ構造物製造用ガス。
【請求項8】
上記原料ガスと上記還元性ガスとを、重量比0.05:1〜0.6:1で、混合した混合物を含むことを特徴とする請求項7に記載のカーボンナノ構造物製造用ガス。
【請求項9】
上記混合物が、さらに、酸化性ガスを含むことを特徴とする請求項7又は8に記載のカーボンナノ構造物製造用ガス。
【請求項10】
上記原料ガスと上記還元性ガスとを、重量比0.05:1〜0.6:1で混合し、
さらに上記酸化性ガスを、上記還元性ガスに375ppm〜1250ppmの濃度で混合した混合物を含むことを特徴とする請求項9に記載のカーボンナノ構造物製造用ガス。
【請求項11】
上記原料ガスが、アセチレン、エチレン及びメタンからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載のカーボンナノ構造物製造用ガス。
【請求項12】
上記還元性ガスが、水素、アンモニア及び硫化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載のカーボンナノ構造物製造用ガス。
【請求項13】
上記酸化性ガスが、水、酸素、アセトン、アルコール、ジメチルホルムアミド、CO、CO、O及びHからなる群から選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする請求項7〜12のいずれか1項に記載のカーボンナノ構造物製造用ガス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−227470(P2009−227470A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193327(P2006−193327)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】