カーボン・ナノチューブが浸出したガラス繊維材料及びその製造プロセス
組成物には、巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料と、それに結合されるカーボン・ナノチューブ(CNTs)と、を含むカーボン・ナノチューブ(CNT)浸出ガラス繊維材料が含まれる。CNTsは、長さ及び分布が均一である。CNT連続浸出処理には、(a)巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料の表面にCNT形成触媒を配置すること、及び(b)ガラス繊維材料にカーボン・ナノチューブを合成し、それにより、カーボン・ナノチューブ浸出ガラス繊維材料を形成すること、が含まれる。CNT連続浸出処理には、溶融ガラスからガラス繊維材料を押し出すこと、又は既製のガラス繊維材料からサイジング材料を除去すること、が任意に含まれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料に関し、より詳しくは、カーボン・ナノチューブで改質されたガラス繊維材料に関する。
【0002】
(関連出願の参照)
本願は、2007年1月3日出願の米国特許出願第11/619,327号の一部継続出願である、2009年11月2日出願の米国特許出願第12/611,070号に続くものである。本願は、米国仮出願のうち、2009年4月10日出願の第61/168,516号、2009年4月14日出願の第61/169,055号、2009年2月27日出願の第61/155,935号、2009年3月3日出願の第61/157,096号、及び2009年5月29日出願の第61/182,153号に基づき、米国特許法第119条(35 U.S.C.§119)に従って優先権の利益を主張するものであり、これらの全ては、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
(連邦政府の資金提供による研究開発の記載)
適用なし。
【背景技術】
【0004】
繊維材料は、例えば、商業航空、レクリエーション、工業及び運輸業など、多種多様な産業において様々な用途に用いられる。これらの又は他の用途に用いられる共通の繊維材料には、例えば、ガラス繊維、セルロース系繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維及びアラミド繊維が含まれる。
【0005】
ガラス繊維材料は、特に、重量に対する表面積の比率が高いため有用であるが、この表面積の増大は、化学的な攻撃の影響をより受けやすくする。また、湿気は、吸収された水分が微小亀裂及び表面欠陥を拡大させるため、ガラス繊維材料の引張強度にも影響を及ぼす。したがって、市販の巻き取られた(spooled)ガラス繊維は、ガラス繊維材料の改質が求められた場合に、あるいは、新たなサイジング剤を使用すべきときに除去が必要となる繊維サイジング剤を用いて製造される。これは、水分、摩擦などにさらされることにより、ガラス繊維及びフィラメント(filament)にダメージを与える可能性が増す処理工程を加えることになる。
【0006】
ガラス繊維材料は、多くの複合材料中に存在する。複合材料中におけるガラス繊維の特性を有効に発揮するためには、繊維及びマトリックス材間の良好な接合が必要になる。ガラス繊維に用いられるサイジング剤は、繊維及び樹脂マトリックス材間の物理化学的な結合をもたらし、こうして複合材料の機械的及び化学的特性に影響を及ぼす。サイジング剤は、親水性のガラス繊維と異種材料(例えば、疎水性材料など)との接合もたらす点で有効である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、最も標準的なサイジング剤は塗布される(applied)ガラス繊維よりも界面強度が低い。したがって、サイジング剤の界面強度及びその界面応力に耐える能力は、複合材料全体の界面強度を決定する。このため、標準的なサイジング剤を使用する場合、得られる複合材料は、一般的に、ガラス繊維よりも低い強度となってしまう。
【0008】
サイジング剤、及びガラス繊維材料上のサイジング剤を被覆する処理を開発することは、上述した問題のいくつかに対処することに加え、ガラス繊維に対して望ましい特徴を与えるために有効となる。本発明は、この必要性を満たすとともに関連する利点をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、カーボン・ナノチューブ(CNT)が浸出したガラス繊維材料を含む組成物に関する。CNTが浸出したガラス繊維材料には、巻き取り可能な寸法のガラス繊維と、ガラス繊維材料と結合するカーボン・ナノチューブ(CNTs)と、が含まれる。CNTsは長さ及び分布が均一である。
【0010】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、CNTの連続浸出処理に関し、この処理には、(a)巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料の表面にカーボン・ナノチューブを形成する触媒を配置すること、及び(b)ガラス繊維材料上にカーボン・ナノチューブを合成して、これにより、カーボン・ナノチューブが浸出したガラス繊維材料を形成すること、が含まれる。CNT連続浸出処理は、CNT成長チャンバー内における約5〜300秒の材料滞留時間を特徴とする。
【0011】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、CNTの連続浸出処理に関し、この処理には、(a)溶融ガラスからガラス繊維材料を押し出すこと、(b)ガラス繊維材料の表面上にカーボン・ナノチューブ形成触媒を配置すること、及び(c)ガラス繊維材料上にカーボン・ナノチューブを合成して、これにより、カーボン・ナノチューブが浸出したガラス繊維材料を形成すること、が含まれる。
【0012】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料に対するCNTの連続的な浸出のための処理に関し、この処理には、(a)ガラス繊維材料からサイジング剤を除去すること、(b)サイジング剤の除去後、ガラス繊維材料にカーボン・ナノチューブ触媒を塗布すること、(c)ガラス繊維材料を少なくとも500℃まで加熱すること、及び(d)ガラス繊維材料上にカーボン・ナノチューブを合成すること、が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Eガラス繊維材料上において成長した多層カーボン・ナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す図である。
【図2】Eガラス繊維のロービング(roving)上における、10%以内の均一な密度のCNT成長を明示する走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【図3】Eガラス繊維上における、半径方向に配向された長さ10ミクロンの均一なCNT成長を明示するSEM画像を示す図である。
【図4】Sガラス繊維のロービング上における、10%以内の均一な密度のCNT成長を明示するSEM画像を示す図である。
【図5】Sガラス繊維上における、半径方向に配向された長さ25ミクロンの均一なCNT成長を明示するSEM画像を示す図である。
【図6】Sガラス繊維上における、半径方向に配向された長さ5ミクロンの短い均一・高密度なCNT成長を明示するSEM画像を示す図である。
【図7】本発明の例示の実施形態によるCNT浸出ガラス繊維材料を製造するための処理を示す図である。
【図8】せん断応力の向上を必要とする用途のために、連続処理においてCNTsをガラス繊維材料に浸出させる方法を示す図である。
【図9】電気的伝導性及び/又は熱的伝導性の向上を必要とする用途のために、連続処理において発生しようとしているガラス繊維材料にCNTsを浸出させる方法を示す図である。
【図10】引張強度の向上を必要とする用途のための連続処理(この場合、システムはそれに続く樹脂取り込み処理及びワインディング処理と連動する)におけるCNT浸出ガラス繊維材料を示す図である。
【図11】S2ガラス繊維のせん断応力についてのCNT浸出の効果を示す図である。基準材料は、サイジング剤が塗布されたS2ガラス繊維であるが、CNT浸出ガラス繊維材料は、S2ガラス繊維表面に浸出した長さ25ミクロンのCNTsを含むサイジング剤未塗布のS2ガラス繊維である。
【図12】引張強度に関して、S2ガラス繊維のロービング上におけるCNT浸出の効果を示す図である。基準材料は、サイジング剤が塗布されたS2ガラス繊維であるが、CNT浸出ガラス繊維材料は、S2ガラス繊維表面に浸出した長さ10ミクロンのCNTsを含むサイジング剤未塗布のS2ガラス繊維である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、1つには、カーボン・ナノチューブが浸出した(「CNT浸出の」)ガラス繊維材料に対してなされる。ガラス繊維材料へのCNTsの浸出は、数多くの機能(例えば、水分及び摩擦によるダメージから保護するサイジング剤としてなど)に役立てることができる。CNTに基づくサイジング剤は、複合材料中における親水性ガラスと疎水性マトリックス材間の接点としても役立つ。CNTsは、ガラス繊維材料を被覆するサイジング剤の1つとしての機能も果たす。
【0015】
また、ガラス繊維材料に浸出したCNTsは、ガラス繊維材料の様々な性質(例えば、熱的伝導性及び/又は電気的伝導性、及び/又は引張強度など)を変化させることが可能である。CNT浸出ガラス繊維材料を作るために用いられる処理は、略均一な長さ及び分布のCNTsをもたらして、改質しようとするガラス繊維材料一面に均一に有用な性質を与える。さらに、本明細書に開示された処理は、巻き取り可能な寸法のCNT浸出ガラス繊維材料の生成に適している。
【0016】
本開示は、1つには、CNT浸出ガラス繊維材料を作るための処理に対してもなされる。本明細書に開示された処理は、ガラス繊維材料に対して標準的なサイジング溶液を塗布する前に、又はその代わりに、新たに生成される発生期のガラス繊維材料に適用される。あるいは、本明細書に開示された処理は、工業用のガラス繊維材料、例えば、既に表面にサイジング剤が塗布されたガラス・ロービングを利用することができる。このような実施形態において、サイジング剤は、ガラス繊維材料及び合成されたCNTs間を直接接触させるために除去される。追加のサイジング剤は、CNTの合成後、所望によりガラス繊維材料に塗布される。
【0017】
本明細書に開示された処理は、トウ(tow)、ロービング、テープ、織物(fabric)などの巻き取り可能な長さに沿って、長さ及び分布が均一なカーボン・ナノチューブの連続的な生産を可能にする。マット(mat)、織物及び不織布などは、本発明の処理により機能が付与される一方、元となるロービング、トウ、ヤーン(yarn)に機能を付与した後に、これら母材から当該高規則構造を生成することも可能である。例えば、CNTが浸出したチョップド・ストランド・マット(chopped strand mat)は、CNT浸出ガラス繊維のロービングから生成可能である。
【0018】
本明細書に記載された処理において、長さ6フィートで成長温度が750℃である例示的なCNT成長チャンバーで、CNT浸出処理は、毎分約1フィートから毎分約72フィートの間のラインスピードで行われる。実施形態の中には、CNT成長チャンバーの全長を延ばすことにより、より早いラインスピードが達成されるものもある。
【0019】
本明細書では、用語「ガラス繊維材料」とは、基本的な構成成分としてガラス繊維を有するいかなる材料も指す。その用語には、繊維、フィラメント、紡績糸、トウ、ロービング、テープ、織物及び不織布、プライ(ply)、マットなどが包含される。
【0020】
本明細書では、用語「巻き取り可能な寸法」とは、ガラス繊維材料をスプール(spool)又はマンドレル(mandrel)に巻き取っておくことが可能な、長さの限定されない、ガラス繊維材料の有する少なくとも1つの寸法をいう。「巻き取り可能な寸法」のガラス繊維材料は、本明細書に記載されるように、CNT浸出のための1回分の処理又は連続処理のいずれかの利用に必要な少なくとも1つの寸法を有する。市販の巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料の1つの例としては、675テックス(1テックス=1g/1,000m)又は735ヤード/ポンドの寸法を有するS2ガラスのロービング(AGY,Aiken,South Carolina)が挙げられる。特に、工業用のガラス繊維材料のロービングは、例えば、5、10、20、50及び100ポンドのスプールで入手される。本発明の処理は、5〜20ポンドのスプールで容易に行われるが、より大きなスプールの使用も可能である。さらに、例えば、100ポンドまたはそれよりも大きい極めて長大な巻き取り長を、操作が容易な寸法、例えば、2つの50ポンドのスプールなどに分割する前処理工程を組み込むこともできる。
【0021】
本明細書では、用語「カーボン・ナノチューブ」(単数ではCNT、複数ではCNTs)とは、単層カーボン・ナノチューブ(SWNTs)、二層カーボン・ナノチューブ(DWNTs)、多層カーボン・ナノチューブ(MWNTs)を含むフラーレン群からなる多数の円筒形状の炭素同素体のうちのすべてをいう。CNTsは、フラーレンのような構造により閉塞されるか、又は両端が開口していてもよい。CNTsには、他の物質を封入するものが含まれる。
【0022】
本明細書で、「長さが均一」という場合、反応器において成長するCNTsの長さについて言及するものである。「均一な長さ」は、約1ミクロンから約500ミクロンの様々なCNT長さに関して、CNTsが、CNTの全長の±約20%またはそれ未満の許容誤差を伴う長さを有することを意味する。極めて短い長さ、例えば、1〜4ミクロンなどでは、この誤差は、CNTの全長の±約20%から±約1ミクロンまでの範囲、すなわち、CNTの全長の約20%よりも若干大きくなる。CNTの長さの均一性は、あらゆる長さの巻き取り可能なガラス繊維材料全体にわたって得られるが、本発明の処理により、巻き取り可能なガラス繊維材料のどの部分においても、個々の部位でCNTの長さを変化させることも可能となる。このため、例えば、巻き取り可能な長さのガラス繊維材料はCNTの長さが各部位内で均一であり、部位毎に所望のCNT長さとすることができる。このようなCNTの長さが異なる部位は、いかなる順序でも現れ、CNTsの欠けた部位を選択的に含めることも可能である。このようなCNT長さの制御は、本処理のラインスピード、キャリアガス及び炭素原料ガスの流量、反応温度、及び材料滞留時間を変化させることで可能となる。これらの処理における変数は全て、コンピューター制御により自動で操作され管理され得る。
【0023】
本明細書で、「分布が均一」とは、ガラス繊維材料におけるCNTの密度が不変であることをいう。「均一な分布」は、ガラス繊維材料におけるCNTsの密度が、CNTsにより被覆される繊維の表面積の割合として定義される被覆率において±約10%の許容誤差となることを意味する。これは、直径8nmの5層CNTでは、1平方マイクロメートル当たり±1500のCNTsに相当する。この形状ではCNTsの内部空間を充填可能と仮定している。
【0024】
本明細書では、用語「浸出する」とは結合されることを意味し、用語「浸出」とは結合処理を意味する。このような結合には、直接共有結合、イオン結合、π−π相互作用、及び/又はファンデルワールス力の介在による物理吸着などが含まれ得る。ガラス繊維材料に対するCNTの直接浸出は、CNTのナノ粒子触媒がCNT成長の最前線の先端に存在する成長機構によるものでもよい。すなわち、最終的な構造において、ナノ粒子触媒がガラス繊維材料に対して遠位にある。また、結合は間接的であってもよく、これにより、CNTsは、CNTs及びガラス繊維材料間にはさまれて配置された遷移金属ナノ粒子を介してガラス繊維材料に浸出する。本明細書に開示されたCNT浸出ガラス繊維材料において、カーボン・ナノチューブは、前述のように、直接的かつ間接的にガラス繊維材料に「浸出」し得る。CNTをガラス繊維材料に浸出させる方法は、「結合モチーフ」と呼ばれる。
【0025】
本明細書では、用語「遷移金属」とは、周期表のdブロックにおけるあらゆる元素又はその合金をいう。また、用語「遷移金属」には、卑遷移金属元素の塩形態(例えば、酸化物、炭化物、窒化物など)も含まれる。
【0026】
本明細書では、用語「ナノ粒子」若しくはNP(複数ではNPs)、又はその文法的な同等物とは、NPsは球形である必要はないが、球の等価直径が約0.1から約100μmの間のサイズの粒子をいう。遷移金属NPsは、特に、ガラス繊維材料上におけるCNTを一層成長させる触媒として機能する。
【0027】
本明細書では、用語「サイジング剤(sizing agent 若しくは、単にsizing)」、又は「繊維サイジング剤(fiber sizing agent)」とは、ガラス繊維の製造においてガラス繊維を完全な状態で保護するための、複合材料におけるガラス繊維及びマトリックス材間の界面相互作用を向上させるための、及び/又は、ガラス繊維の特定の物理的性質を変更及び/又は高めるための被覆として用いられる材料をいう。実施形態の中には、ガラス繊維材料に浸出するCNTsが、サイジング剤として作用するものもある。
【0028】
本明細書では、用語「マトリックス材」とは、サイジング剤を塗布したCNT浸出ガラス繊維材料をランダム配列などの特定の配列で構成する機能を果たすバルク材をいう。CNT浸出ガラス繊維材料の有する物理的及び/又は化学的性質のある部分が付与されることにより、マトリックス材はCNT浸出ガラス繊維材料の存在から利益を得ることが可能となる。
【0029】
本明細書では、用語「材料滞留時間」とは、巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料に沿った個々の位置で、本明細書に記載されるCNT浸出処理の間、CNTの成長が見られる時間をいう。この定義には、多層CNTの成長チャンバーを用いる場合の材料残留時間が含まれる。
【0030】
本明細書では、用語「ラインスピード」とは、本明細書に記載されるCNT浸出処理により、巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料を送り込むことができるスピードをいい、この場合、ラインスピードは、CNTの(1つの又は複数の)チャンバー長を材料残留時間で除して算出される速度である。
【0031】
ある実施形態において、本発明は、カーボン・ナノチューブ(CNT)が浸出したガラス繊維材料を含む組成物を提供する。CNT浸出ガラス繊維材料には、巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料と、ガラス繊維材料に結合されるカーボン・ナノチューブ(CNTs)と、が含まれる。ガラス繊維材料への結合には、例えば、CNTsのガラス繊維材料に対する直接結合(例えば、CNT合成の最前線に従うCNT触媒を伴った先端成長によく見られる)、CNTs及びガラス繊維材料間に配置された遷移金属ナノ粒子を介した間接的な結合、及びこれらの組み合わせなどの結合モチーフが含まれ得る。
【0032】
理論に拘束されるものではないが、CNT形成触媒として機能する遷移金属ナノ粒子は、CNT成長の核を形成することにより、CNT成長に触媒作用を及ぼす。CNT形成触媒は、CNT合成がCNT成長の最前線に沿って進展する間、「浮揚して(float)」することができ、これによりCNT形成触媒は、CNT合成が終了したときに、CNT形成触媒はガラス繊維材料から遠位のCNT終端に残留する。このような場合において、CNTの構造はガラス繊維材料に直接浸出する。同様に、CNT形成触媒は「浮揚して」いるが、CNTの完成構造の中間に出現する場合もあり、これは、触媒による成長速度を上回る、触媒によらない無核の成長速度によるものである。しかし、その結果生じるCNT浸出はガラス繊維材料に直接生じる。最後に、CNT形成触媒は、ガラス繊維材料の基部にとどまって浸出したままの場合もある。このような場合、遷移金属ナノ粒子触媒により最初に形成された核は、触媒の「浮揚(floating)」がなくても、触媒によらないCNT成長を継続する上で十分である。当業者であれば、CNT形成触媒が「浮揚」するか否かの制御が可能なCNT成長処理の重要性を認識するであろう。例えば、触媒が略完全に「浮揚して」いる場合、CNT形成遷移金属触媒は、CNTの合成後、ガラス繊維材料へのCNTsの浸出に影響を及ぼすことなく任意に除去可能である。カーボン・ナノチューブ及びガラス繊維材料間に形成される実際の結合の種類にかかわらず、浸出したCNTの直接的又は間接的な結合は強固であり、この結合により、CNT浸出ガラス繊維材料がカーボン・ナノチューブの特性及び/又は特徴を示すことができるようになる。
【0033】
CNT浸出ガラス繊維材料を有する組成物はCNTsが略均一な長さでもたらされる。本明細書に記載された連続処理において、CNT成長チャンバーにおけるガラス繊維材料の残留時間は調節されて、CNTの成長、及び最終的にはCNTの長さを制御する。これにより、成長するCNTsの特定の性質を制御する手段が提供される。また、CNTの長さは、炭素原料ガス及びキャリアガスの流量の調節を介しても制御される。CNTの性質は、例えば、CNTsを作るために用いられる触媒のサイズを制御することにより、更なる制御が可能となる。例えば、1nmの遷移金属ナノ粒子触媒は、特にSWNTsを提供するために用いられる。より大きな触媒は、主にMWNTsを作るために用いられる。
【0034】
さらに、用いられるCNT成長処理は、前もって形成されたCNTsを溶媒溶液中に懸濁又は拡散してガラス繊維材料に手作業で塗布する処理において発生し得るCNTsの束化及び/又は凝集を回避しつつ、ガラス繊維材料に均一に分布したCNT浸出ガラス繊維材料を提供する上で有効である。このように懸濁されたCNTsは、ともかくもガラス繊維材料に弱く結合する傾向にあり、CNT特有の性質はかすかにしか現れない。実施形態の中には、被覆率、すなわち被覆される繊維の表面積の百分率として表される最大分布密度が、直径約8nmの5層CNTsと仮定すると、約55%の大きさとなるものがある。この被覆率は、CNTsの内部空間を「充填可能な(fillable)」空間とみなして算出される。分布/密度の値は、表面における触媒の拡散を変化させるとともにガス組成及び処理速度を制御することにより、様々な値とすることができる。一定のパラメータに関しては、概して、全繊維表面で約10%以内の被覆率が達成される。密度が高くなりCNTsが短くなると、機械的性質の向上に有効となるのに対し、密度の増大が好ましいことに変わりはないが、密度が低くなりCNTsが長くなると、熱的性質及び電気的性質の向上に有効となる。密度が低くなるのは、CNTsが長く成長したときであるが、これは、粒子収量を低下させる高温かつ急速な成長によるものである。
【0035】
CNT浸出ガラス繊維材料を有する本発明の組成物には、例えば、ガラス・フィラメント、ガラス・ストランド(トウ)、ガラス・ヤーン、ガラス・ロービング、ガラス・テープ、ガラス繊維ブレード(glass fiber braid)、一方向織物及びテープ、光ファイバー、ガラス・ロービング織物、不織ガラス繊維マット、並びにガラス繊維プライ(glass fiber ply)が含まれる。ガラス繊維は、繊維製品の加工に概して適した直径を有するシリカ基剤型(silica based formulation)から細いストランドを押し出すことにより形成される。ガラス・フィラメントには、約1ミクロンから約50ミクロンまでの直径を有する高アスペクト比のガラス繊維が含まれる。ガラス・ストランド又はトウは、一般的にフィラメントを密に結合した束であり、通常は撚り合わされてヤーンとなる。
【0036】
ヤーンには、撚り合わされたフィラメント又はストランドを密に結合した束が含まれる。ヤーンにおける各フィラメントの直径は、比較的均一である。ヤーンは、1000リニアメーターのグラム重量として示される「テックス(tex)」、又は10,000ヤードのポンド重量として示されるデニール(denier)により、通常は、約5gから約400gまでの標準的なテックス範囲で表される様々な重量を有する。
【0037】
ロービングには、撚り合わされていないフィラメント又はストランドを緩く結合した束が含まれる。ヤーンと同様に、ロービングにおけるフィラメントの直径は、一般的に均一である。また、ロービングも様々な重量を有し、テックス範囲は、通常、約300gから約4800gの間となる。溶融処理後直ちにフィラメントが集束される場合、得られる束はダイレクト・ロービングと呼ばれる。また、ガラス・ストランドの製造後、数本のガラス・ストランドが別々にまとめられて、合糸ロービング(assembled roving)を提供する。合糸ロービングは、通常、ダイレクト・ロービングよりも小径のフィラメントを有する。これにより、優れたウェットアウト(wet-out)及び機械的性質を備えたロービングを提供することが可能となる。
【0038】
ガラス・テープ(又はより広いシート)は、溶融ガラスから直接引き出されるか、又は織物組織として組まれる材料である。ガラス・テープは、さまざまな幅をもち、通常リボンに類似する両面構造である。本発明の処理では、テープの一面又は両面におけるCNTの浸出が両立可能である。CNT浸出テープは、平らな基材表面上の「カーペット(carpet)」あるいは「樹木林(forest)」に似ている。さらに、本発明の処理は、テープの巻き取りを機能させるために、連続的なモードで実施できる。
【0039】
ガラス繊維ブレードは、ガラス繊維が高密度に詰め込まれたロープ状構造を示す。このような構造は、例えば、ガラス・ヤーンから組まれる。編み上げ構造は中空部分を含んでもよく、あるいは、別のコア材料の周囲に組まれてもよい。
【0040】
光ファイバーは、その長さ方向に光を伝達するためのものである。光は、光ファイバーを導波路として作用させる全反射により、光ファイバーのコア内に閉じ込められる。ある実施形態では、光ファイバーは、多数の伝播経路又は横モードのサポートが可能なマルチモード・ファイバー(MMF)である。他の実施形態では、光ファイバーは、シングルモード・ファイバー(SMF)である。マルチモード・ファイバーは、一般的に、コアの直径が大きめであり、近距離通信回線及び高出力送信用途に用いられる。シングルモード・ファイバーは、約550m又は約1800フィートよりも長い殆どの通信回線に用いられる。
【0041】
実施形態の中には、多数の一次ガラス繊維材料の構造体が、織物又はシート状構造物に組織化されるものもある。これらには、例えば、ガラス・ロービング織物、不織ガラス繊維マット及びガラス繊維プライに加えて、前述のテープが含まれる。このような高い規則構造は、元となるトウ、ヤーン、ロービング、フィラメントなどから、その母繊維にCNTsを既に浸出させた状態で組まれる。あるいは、このような構造体は、本明細書に記載されたCNT浸出処理のための基材として機能する。
【0042】
ガラス繊維材料に用いられるガラスの種類は、例えば、Eガラス、Aガラス、E−CRガラス、Cガラス、Dガラス、Rガラス、及びSガラスなどの、いかなる種類であってもよい。Eガラスは、1重量%未満のアルカリ酸化物を有するアルミノホウケイ酸塩ガラスを含有し、主としてガラス強化プラスチックに用いられる。Aガラスは、酸化ボロンが殆どないか、又は皆無の、アルカリ石灰ガラスを含有する。E−CRガラスは、1重量%未満のアルカリ酸化物を有する石灰アルミノケイ酸塩(alumino-lime silicate)を含有し、高い耐酸性を有する。Cガラスは、高含有量の酸化ボロンを有するアルカリ石灰ガラスを含有し、例えば、ガラス・ステープル・ファイバー(glass staple fiber)に用いられる。Dガラスは、ホウケイ酸塩ガラスを含有し、高い絶縁定数を有する。Rガラスは、MgO及びCaoを含まないアルミノケイ酸塩ガラスを含有し、高い機械的強度を有する。Sガラスは、Caoは含まないがMgOの含有量が高いアルミノケイ酸塩ガラスを含有し、高い引張強度を有する。これら1以上の種類のガラスが処理されて前述のガラス繊維材料にされる。特定の実施形態において、ガラスはEガラスである。他の実施形態において、ガラスはSガラスである。
【0043】
ガラス繊維材料への浸出に有効なCNTsには、単層CNTs、2層CNTs、多層CNTs、及びそれらの組み合わせが含まれる。使用すべきCNTsは、正確には、CNT浸出ガラス繊維の用途による。CNTsは、熱的な及び/又は電気的な伝導用途に、又は絶縁体として用いられる。実施形態の中には、浸出したカーボン・ナノチューブが単層ナノチューブのもの、多層ナノチューブのもの、及び単層ナノチューブと多層ナノチューブの組み合わせのものがある。単層ナノチューブと多層ナノチューブ特有の性質には異なるものもあり、CNT浸出ガラス繊維の最終用途により、どちらの種類のナノチューブを合成するかが決定される。例えば、単層ナノチューブは、半導体的又は金属的となり得るのに対し、多層ナノチューブは金属的である。
【0044】
CNTsは、例えば、機械的強度、低〜中程度の電気抵抗率、高熱伝導性などの特有の性質を、CNT浸出ガラス繊維材料に与える。例えば、ある実施形態では、カーボン・ナノチューブ浸出ガラス繊維材料の電気抵抗率は、母材のガラス繊維材料の電気抵抗率よりも低い。得られるCNT浸出繊維がこれらの特徴を示す程度は、カーボン・ナノチューブによるガラス繊維被覆の範囲及び密度の関数となる。直径8nmの5層MWNTと仮定すると、ガラス繊維のうち0〜55%の繊維表面積が被覆される(この場合も、この計算はCNTsの内部空間を充填可能とみなしている)。この数字は、CNTsの直径が小さくなると低くなり、CNTsの直径が大きくなると高くなる。55%の表面積被覆率は、1μm2当たり約15,000のCNTsに相当する。さらに、CNTの性質は、前述のように、CNTの長さに依存する形でガラス繊維に付与される。浸出したCNTsの長さは、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲(1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、5ミクロン、6ミクロン、7ミクロン、8ミクロン、9ミクロン、10ミクロン、15ミクロン、20ミクロン、30ミクロン、35ミクロン、40ミクロン、45ミクロン、50ミクロン、60ミクロン、70ミクロン、80ミクロン、90ミクロン、100ミクロン、150ミクロン200ミクロン、250ミクロン、300ミクロン、350ミクロン、400ミクロン、450ミクロン、500ミクロン、及びこれらの間の全ての値など)において様々である。また、CNTsは、例えば、約0.5ミクロンなど、長さを約1ミクロンよりも短くすることもできる。また、CNTsは、例えば、510ミクロン、520ミクロン、550ミクロン、600ミクロン、700ミクロン及びこれらの中間の全ての値など、500ミクロンよりも長くすることもできる。
【0045】
本発明の組成物は、約1ミクロンから約10ミクロンまでの長さを有するCNTsを組み込むことができる。このようなCNTの長さは引張強度を向上する用途に有効である。また、CNTsは、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有してもよい。このようなCNTsの長さは電気的/熱的及び機械的特性を向上するのに有効である。また、本発明に用いられる処理は、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsを提供できるが、電気的性質及び熱的特性の向上にも有益である。このようなCNT長の制御は、様々なラインスピードと相まって、炭素原料ガス及び不活性ガスの流量を変化させることで容易に達成される。
【0046】
ある実施形態において、巻き取り可能な長さのCNT浸出ガラス繊維材料を含有する組成物には、CNTsの長さが異なる様々な均一領域がある。例えば、引張強度特性を高めるためには、CNT浸出ガラス繊維材料のうち均一に短いCNT長を備えた第1の領域を、そして、電気的性質又は熱的特性を高めるためには、同じ巻き取り可能な材料のうち均一に長いCNT長を備えた第2の領域を有することが好ましい。
【0047】
ガラス繊維材料にCNTを浸出させるための本発明の処理により、CNTの長さを均一に、かつ、巻き取り可能なガラス繊維材料に対するCNTsを用いた高速機能付与が可能な連続処理で制御することが可能となる。CNT成長チャンバーにおける5秒から300秒の材料滞留時間に関して、長さ3フィートのCNT成長チャンバーの場合の連続処理におけるラインスピードを、毎分約0.5フィートから毎分約36フィート以上のあらゆる範囲とすることが可能である。選択されるラインスピードは、以下でさらに説明されるように、様々なパラメータにより決まる。
【0048】
実施形態の中には、約5秒から約30秒の材料残留時間により、約1ミクロンから約10ミクロンの長さを有するCNTsを製造するものがある。また、実施形態の中には、約30秒から約180秒の材料残留時間により、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有するCNTsを製造するものもある。さらに、実施形態の中には、約180秒から約300秒の材料残留時間により、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsを製造するものもある。当業者であれば、これらの範囲がおおよそのものであり、また、CNTの長さが、反応温度、並びに、キャリア及び炭素原料の濃度及び流量により変更可能であることを認識できる。
【0049】
本明細書に開示された浸出CNTsは従来のガラス繊維の「サイジング剤(sizing)」の代替品として有効に機能する。浸出CNTsは、従来のサイジング剤よりも一層強固であり、複合材料中の繊維−マトリックス間界面を改善し、より一般的には、繊維−繊維間界面を改善することができる。実際には、CNT浸出ガラス繊維材料の特性が、ガラス繊維材料の特性に加えて浸出CNTsの特性を組み合わせたものであるという点で、本明細書に開示されるCNT浸出ガラス繊維材料は、それ自体が複合材料である。したがって、本発明の実施形態は、ガラス繊維材料に所望の特性を与える手段を提供するが、その手段によらなければ、ガラス繊維材料には、このような特性が欠如するか、又は不十分である。ガラス繊維材料は、特定用途の必要性を満たすために調整又は設計される。サイジング剤として働くCNTsは、疎水性のCNT構造により水分の吸収からガラス繊維材料を保護する。さらに、疎水性のマトリックス材は、以下でさらに例示されるように、疎水性のCNTsと良好に相互作用して繊維−マトリックス間の相互作用を向上させる。
【0050】
前述の浸出CNTsを有するガラス繊維材料に付与される有益な特性にもかかわらず、本発明の組成物は「従来の」サイジング剤をさらに含むことができる。このようなサイジング剤には、多様な種類及び機能があり、例えば、界面活性剤、静電気防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、でんぷん、及びこれらの組み合わせが含まれる。このようなサイジング剤は、CNTs自体を保護するために、又は浸出CNTsの存在からはガラス繊維へ与えられない更なる特性を付与するために、補助的に用いることができる。
【0051】
本発明の組成物には、CNT浸出ガラス繊維材料で複合材料を形成するためのマトリックス材が含まれる。このようなマトリックス材には、例えば、エポキシ、ポリエステル、ビニルエステル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリフタルアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フェノールホルムアルデヒド、及びビスマレイミドが含まれる。本発明に有用なマトリックス材には、既知のマトリックス材のいかなるものも含まれる(Mel M.Schwartz, Composite Materials Handbook (2d ed. 1992)参照)。さらに一般的には、マトリックス材には、樹脂(ポリマー)、熱硬化性及び熱可塑性の両プラスチック、金属、セラミック、並びにセメントが含まれる。
【0052】
マトリックス材として有用な熱硬化性樹脂には、フタル酸/マレイン酸型のポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール類、シアン酸塩、ビスマレイミド、及びナディック・エンド・キャップド・ポリイミド(nadic end-capped polyimides)(例えば、PMR−15)が含まれる。熱可塑性樹脂には、ポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレン酸化物、ポリ硫化物、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、及び液晶ポリエステルが含まれる。
【0053】
マトリックス材として有用な金属には、例えば、アルミニウム6061、アルミニウム2024、及び713アルミニウム・ブレーズ(aluminium braze)などのアルミニウム合金が含まれる。マトリックス材として有用なセラミックには、ガラス・セラミック(例えば、リチウムアルミノケイ酸塩など)、酸化物(例えば、アルミナやムライトなど)、窒化物(例えば、窒化ケイ素など)、及び炭化物(例えば、炭化ケイ素)が含まれる。マトリックス材として有用なセメントには、炭化物ベースのセメント(炭化タングステン、炭化クロム及び炭化チタン)、耐火セメント(タングステントリア(tungsten-thoria)及び炭酸バリウム−ニッケル(barium-carbonate-nickel))、クロム−アルミニウム、ニッケル−マグネシア、及び鉄−炭化ジルコニウムが含まれる。前述のマトリックス材のいかなるものも、単独で、又は組み合わせて用いることができる。
【0054】
図1〜6は、本明細書に記載される処理により作られたガラス繊維材料のTEM及びSEM画像を示す。これらの材料を作るための手順は、以下及び実施例I〜IIIにおいて詳述される。図1は、Eガラス繊維材料上で成長した多層カーボン・ナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。図2は、Eガラス繊維上における約10%以内の均一な密度のCNT成長を明示する走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図3は、Eガラス繊維上における半径方向に配向された長さ約10ミクロンの均一なCNT成長を明示するSEM画像を示す。図4は、Sガラス繊維上における約10%以内の均一な密度のCNT成長を明示するSEM画像を示す。図5は、Sガラス繊維上における半径方向に配向された長さ約25ミクロンの均一なCNT成長を明示するSEM画像を示す。図6は、Sガラス繊維上における半径方向に配向された長さ約5ミクロンの均一な短CNT成長を明示するSEM画像を示す。
【0055】
CNT浸出ガラス繊維材料は無数の用途に用いられる。非伝導性型の単層カーボン・ナノチューブがガラス繊維上で成長する場合、得られるCNT浸出ガラス繊維材料は絶縁用途に用いられる。CNT浸出ガラス繊維は、例えば、自動車産業や掘削産業において使用される圧力ホースを強化するために用いられる。
【0056】
CNT浸出ガラス繊維材料は耐摩耗性が要求される用途に用いられる。このような耐摩耗性が要求される用途には、例えば、ゴム製Oリングやガスケットシール剤が含まれる。
【0057】
CNTsの有効表面積が大きいことで、CNT浸出ガラス繊維材料は水をろ過する用途や他の抽出処理(例えば、水からの有機油の分離など)に有効となる。CNT浸出ガラス繊維材料は、地下水面、水貯蔵施設、又は家庭やオフィスユースのためのインライン(in-line)フィルタから有機毒を除去するために用いられる。
【0058】
油田技術において、CNT浸出ガラス繊維は、掘削装置、例えば、パイプベアリング、配管補強材、及びゴム製Oリングなどの製品に有用である。さらに、前述されたように、CNT浸出ガラス繊維を抽出処理に用いることもできる。貴重な石油鉱床を含む地層において、このような抽出特性を適用することにより、それを適用しないと扱い難い地層からCNT浸出ガラス繊維材料を用いて石油を抽出することが可能となる。例えば、CNT浸出ガラス繊維材料を用いて、相当量の水及び/又は砂が存在する地層から石油を抽出することができる。また、CNT浸出ガラス繊維材料は、これを用いなければ、高沸点のため抽出が困難となる重油の抽出にも有用である。有孔配管システムと併せて、例えば、有孔配管に上塗りされたCNT浸出ガラス繊維材料による前記重油のウィッキング(wicking)を真空系などと動作可能に結び付けて、重油層又はオイルシェール層から高沸点留分を連続的に除去することが可能となる。さらに、当業者に知られているように、このような処理を、従来の熱的又は触媒作用的なクラッキング法とともに、又はその代わりに用いることもできる。
【0059】
CNT浸出ガラス繊維材料は航空宇宙及び弾道学アプリケーションにおいて構造要素を強化する。構造物(例えば、ミサイルのノーズコーン、翼端)、主要構造部品(例えば、フラップ及びエアロフォイル(aerofoil)、プロペラ及びエアブレーキ、小型飛行機の胴体、ヘリコプターのシェル(shell)及びローターブレード)、補助的な構造部品(例えば、フロア、ドア、シート、空調装置)、並びに、補助タンク及び航空機のモーター部品にとって、CNT浸出ガラス繊維によりもたらされる構造の強化は有益である。その他の多くの用途においても構造強化がなされるが、これには、例えば、掃海艇の船体、ヘルメット、レードーム(radome)、ロケット・ノズル、担架、及びエンジン構成部品が含まれる。建造物及び建築物において、屋外機能の構造的な強化には、柱、ペディメント(pediments)、ドーム、コーニス(cornices)、及び型枠が含まれる。同様に、建造物の内部構造において、例えば、ブラインド、衛生陶器、窓枠などにとっても、全てCNT浸出ガラス繊維材料の使用は有益である。
【0060】
海洋産業において、強化される構造には、ボートの船体、ストリンガー(stringer)及び甲板が含まれる。また、CNT浸出ガラス繊維材料は、大規模運輸業において、例えば、トレーラー壁面の大型パネル、鉄道車両の床板、トラックの運転室、車体外部鋳造品(exterior body molding)、バスの車体、及び貨物コンテナにも用いられる。自動車用途において、CNT浸出ガラス繊維材料は、トリミング(trimming)、シート、及び計器盤などの内部部品に用いられる。車体パネル、開口部、車体底面部、並びに、フロント及びリアモジュールなどの外部構造は、全て、CNT浸出ガラス繊維材料の使用から利益を得る。アクスル及びサスペンション、燃料及び排気システム、並びに、電気及び電子部品などの自動車のエンジンルーム及び燃料機械エリアの部品でも、全て、CNT浸出ガラス繊維材料が利用可能である。
【0061】
CNT浸出ガラス繊維材料の他のアプリケーションには、橋梁構造物、強化コンクリート製品(例えば、ダウエルバー、鉄筋、ポストテンション(post-tensioning)及びプレストレス(pre-stressing)テンドン、定置の骨組み(stay-in-place framework))、電力送電及び配電構造物(例えば、電柱、送電塔及び腕金)、幹線道路の安全装置及び沿道機能(例えば、標識支柱、ガードレール、標柱及び支柱、遮音塀)、並びに、地方自治体における導管や貯蔵タンクなどが含まれる。
【0062】
また、CNT浸出ガラス繊維材料は、様々なレジャー用具、例えば、水上及び雪上スキー、カヤック、カヌー及びパドル、スノーボード、ゴルフクラブのシャフト、ゴルフ用手押しカート、釣竿、並びにスイミングプールにも用いられる。他の消費財及び事務機器には、歯車、鍋、住宅、ガス耐圧瓶、家庭用電化製品(例えば、洗濯機、皿洗い機ドラム、ドライヤー、ごみ処理機、空調装置、及び加湿器)の構成要素が含まれる。
【0063】
また、CNT浸出ガラス繊維の電気的性質は様々なエネルギー及び電気的アプリケーションに影響を与える。例えば、CNT浸出ガラス繊維材料は、風力タービンブレード、太陽光利用システム、電子回路の筐体(例えば、ノート型パソコン、携帯電話、コンピューター・キャビネットなどであり、このようなCNT浸出材料は、例えば、EMI遮蔽に利用される)に用いられる。他のアプリケーションには、電力線、冷却機、照明用ポール、回路基板、配電盤、ラダーレール(ladder rail)、光ファイバー、建造物に組み込まれた機能(例えば、データ回線、コンピューター端子箱など)、事務機器(例えば、コピー機、キャッシュレジスター、郵便機器など)が含まれる。
【0064】
ある実施形態において、本発明はCNT浸出の連続処理を提供するが、この処理には、(a)巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料の表面にカーボン・ナノチューブを形成する触媒を配置すること、及び(b)ガラス繊維材料上にカーボン・ナノチューブを直接合成して、これにより、カーボン・ナノチューブが浸出したガラス繊維材料を形成すること、が含まれる。CNT連続浸出処理は、CNT成長チャンバー内における約5秒〜約300秒の材料滞留時間を有する。
【0065】
ある実施形態において、約5秒から約30秒の材料残留時間により、約1ミクロンから約10ミクロンの長さのCNTsが製造される。ある実施形態において、約30秒から約180秒の材料残留時間により、約10ミクロンから約100ミクロンの長さのCNTsが製造される。またさらなる実施形態において、約180秒から約300秒の材料残留時間により、約100ミクロンから約500ミクロンの長さのCNTsが製造される。
【0066】
このように、材料残留時間が約5秒から約300秒の範囲では、長さ9フィートのCNT成長チャンバーにおいて、処理のラインスピードは毎分約1.5フィートから毎分約108フィートの範囲となる。本明細書に記載される処理により達成されるラインスピードは、商業的に適量のCNT浸出ガラス繊維材料を短い製造時間で形成可能にする。例えば、5つの別のロービング(1ロービング当たり20ポンド)を同時に処理するように設計されたシステムにおいて、毎分36フィートのラインスピードでは、CNT浸出ガラス繊維(繊維上に5重量%超のCNTsが浸出する)の量は、1日の製造量は100ポンド以上に及ぶ。このシステムは、成長ゾーンを繰り返すことにより、一度に、又はより高速に大量のロービングを製造するように構成されている。さらに、CNTsの製造工程には、当業者に周知のように、連続運転モードを阻む極低速なものがある。例えば、周知の標準的な処理において、CNT形成触媒の低減工程を行うのに1〜12時間かかる。本明細書に記載された処理は、このような速度を制限する工程を克服する。
【0067】
本発明のCNT浸出ガラス繊維材料の形成処理は、前もって形成されたカーボン・ナノチューブの懸濁液をガラス繊維材料に塗布しようとする場合に生じるCNTの絡み合いを回避できる。すなわち、前もって形成されたCNTsはガラス繊維材料に結合しないため、CNTsは束になって絡みやすくなる。その結果、CNTsが均一に分布し難くなり、ガラス繊維材料に弱く結合してしまう。しかし、本発明の処理は、必要に応じて、成長密度を低減することにより、ガラス繊維材料の表面で高均一に絡み合ったCNTマットを提供できる。低密度で成長したCNTsは、最初にガラス繊維材料に浸出する。このような実施形態において、CNT浸出ガラス繊維は、垂直配列を生じさせるほどには高密度に成長しない。その結果、ガラス繊維材料表面で絡み合ったマットとなる。これとは対照的に、前もって形成されたCNTsを手作業で塗布する場合、ガラス繊維材料上のCNTマットの分布及び密度を確実に均一にすることはできない。
【0068】
図7は、本発明の例示の実施形態に従ってCNT浸出ガラス繊維材料を製造するための処理700のフローチャートを示す。
【0069】
処理700には、少なくとも、
【0070】
702:CNT形成触媒をガラス繊維材料に塗布する工程と、
【0071】
704:ガラス繊維材料を、カーボン・ナノチューブを合成するのに十分な温度まで加熱する工程と、
【0072】
706:触媒を含んだガラス繊維上にCVDを介してCNT成長を促進する工程と、が含まれる。
【0073】
カーボン・ナノチューブをガラス繊維材料に浸出させるために、カーボン・ナノチューブはガラス繊維材料上に直接合成される。例示の実施形態において、これは、工程702のように、ガラス繊維上にナノチューブ形成触媒を最初に配置することにより可能となる。
【0074】
触媒配置の前に、ガラス繊維材料をプラズマで任意に処理して、触媒を受け入れる表面を下処理できる。例えば、プラズマで処理されたガラス繊維材料により、CNT形成触媒が配置される粗面化されたガラス繊維表面がもたらされる。ある実施形態において、プラズマは、ガラス繊維表面を「浄化」する機能を果たす。このようにガラス繊維材料の表面を「粗面化(roughing)」するためのプラズマ処理は、触媒の配置を容易にする。粗度は、通常、ナノメートル程度である。プラズマ処理工程において、深さ及び直径がナノメートル単位のクレーター(crater)又はくぼみが形成される。このような表面改質は、限定するわけではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、窒素及び水素など、種々異なる1以上のガスをプラズマに用いて可能となる。
【0075】
CNT形成触媒の配置の前に、又はこれと並行した別の任意の工程は、ガラス繊維材料に対するバリア・コーティング(barrier coating)の塗布である。このようなコーティングには、例えば、アルコキシシラン、アルモキサン、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス、ガラスナノ粒子が含まれる。当該CNT形成触媒は、一実施形態において、未硬化のバリア・コーティング材に加えられて、その後、共にガラス繊維材料に塗布される。他の実施形態において、バリア・コーティング材は、CNT形成触媒の配置前にガラス繊維材料に加えられる。このような実施形態において、バリア・コーティングは触媒配置の前に部分的に硬化される。バリア・コーティング材は、この後のCVD成長のために、炭素原料にCNT形成触媒をさらせる程度に十分薄い厚さである必要がある。ある実施形態では、その厚さは、CNT形成触媒の有効径よりも小さいか、それとほぼ等しい。CNT形成触媒及びバリア・コーティングが適切に配置されれば、バリア・コーティングは十分に硬化される。
【0076】
理論に拘束されるものではないが、バリア・コーティングは、ガラス繊維材料とCNTsの中間層としての機能を果たすことができ、CNTsをガラス繊維材料に機械的に浸出させる働きをする。このような機械的な浸出は、ガラス繊維材料がCNTsを組織化するための基盤としてなお機能する強固な機構を変わらず提供し、そして、バリア・コーティングを伴う機械的な浸出には本明細書で前述した間接的なタイプの結合に類似するという利点がある。さらに、バリア・コーティングを含むことの利点は、水分にさらされることによる化学的ダメージ、及び/又はCNT成長を促進するために用いられる温度でガラス繊維材料を加熱することによるあらゆる熱的ダメージから、ガラス繊維材料を直接保護するという点にある。
【0077】
さらに後述されるように、また図7を併用して、触媒は、遷移金属ナノ粒子を含んで構成されるCNT形成触媒を含有する溶液として調整される。合成されたナノチューブの直径は、前述のように、遷移金属ナノ粒子のサイズに関連する。
【0078】
図7の例示の実施形態に関して、カーボン・ナノチューブの合成は、化学蒸着(CVD)処理に基づいて示されており、高温で生じる。具体的な温度は触媒の選択に応じて変化するが、通常は、約500℃〜約1000℃の範囲である。したがって、工程704には、カーボン・ナノチューブの合成をサポートする前記範囲における温度までガラス繊維材料を加熱することが含まれる。
【0079】
次に、工程706において、触媒を含んだガラス繊維材料上でCVDにより促進されるナノチューブ成長が実施される。CVD処理は、例えば、炭素含有原料ガス(例えば、アセチレン、エチレン、及び/又はエタノール)により促進される。CNT合成処理では、主要なキャリアガスとして、通常、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)が用いられる。炭素原料は、混合物全体の約0%から約15%の範囲で供給される。CVD成長のための略不活性環境が、成長チャンバーから水分及び酸素を除去して準備される。
【0080】
CNTの合成処理において、CNTsは、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の部位で成長する。強プラズマ励起電界を任意に用いてナノチューブの成長に影響を与えることができる。すなわち、成長は、電界方向に従う傾向がある。プラズマ・スプレーの配置及び電界を適切に調節することにより、垂直配向の(すなわち、ガラス繊維材料に対して垂直な)CNTsが合成され得る。一定の条件下では、プラズマがない場合であっても、密集したナノチューブは、成長方向を垂直に維持して、カーペット又は樹木林に似た高密度配列のCNTsになる。
【0081】
ガラス繊維材料上に触媒を配置する工程は、溶液のスプレー、若しくは溶液の浸漬被覆により、又は、例えば、プラズマ処理を用いた気相蒸着により可能である。このように、実施形態の中には、触媒を溶媒に含んだ溶液を形成した後、ガラス繊維材料にその溶液をスプレー若しくは浸漬被覆することにより、又はスプレー及び浸漬被覆の組み合わせにより、触媒が塗布されるものがある。単独で、又は組み合わせて用いられるいずれかの方法は、1回、2回、3回、4回、あるいは何回でも使用され、CNT形成触媒で十分均一に被覆されたガラス繊維材料を提供する。浸漬被覆が使用される場合、例えば、ガラス繊維材料は、第1の浸漬槽において、第1の滞留時間、第1の浸漬槽内に置かれる。第2の浸漬槽を使用する場合、ガラス繊維材料は、第2の滞留時間、第2の浸漬槽内に置かれる。例えば、ガラス繊維材料は、浸漬構造及びラインスピードに応じて約3秒から約90秒の間、CNT形成触媒の溶液にさらされる。スプレー又は浸漬被覆を使用する場合、ガラス繊維材料の触媒表面密度は、約5%未満から約80%までの表面被覆率で、CNT形成触媒ナノ粒子は略単分子層となる。ある実施形態において、ガラス繊維材料上のCNT形成触媒の被覆処理では、単分子層以外のものを生成すべきではない。例えば、大量のCNT形成触媒上におけるCNT成長は、CNTのガラス繊維材料への浸出度を損なうことがある。他の実施形態では、蒸発技術、電解析出技術、及び当業者に周知な他の処理(例えば、有機金属、金属塩又は気相輸送を促進する他の組成物としてのプラズマ原料ガスへ遷移金属触媒を添加することなど)を用いて、遷移金属触媒をガラス繊維材料上に配置する。
【0082】
本発明の処理は連続処理となるように設計されるため、巻き取り可能なガラス繊維材料は、一連の槽で浸漬被覆が可能である(この場合、浸漬被覆槽は空間的に分離されている)。発生期のガラス繊維が新たに生成される連続処理において、CNT形成触媒の浸漬又はスプレーは、新たに形成されたガラス繊維材料を十分に冷却した後の第1段階である。このように、サイジング剤の塗布に代えてCNT形成触媒の塗布が行われる。他の実施形態では、CNT形成触媒は、他のサイジング剤のもとで、新たに形成されたガラス繊維に塗布される。このようなCNT形成触媒及び他のサイジング剤の同時塗布であっても、CNT形成触媒をガラス繊維材料との表面接触により供給してCNTの浸出を確実にすることができる。またさらなる実施形態において、ガラス繊維材料が、例えば、焼きなまし温度近傍又はそれ未満の温度でまだ十分に軟化されている間、CNT形成触媒がスプレー又は浸漬被覆により発生期のガラス繊維に塗布され、これにより、CNT形成触媒がガラス繊維材料の表面に若干埋め込まれる。このような高温のガラス繊維材料上にCNT形成触媒を配置する場合、ナノ粒子が溶融してCNTの特徴(例えば、CNTの直径など)を制御できなくなるCNT形成触媒の融点を超えないように配慮する必要がある。
【0083】
使用される触媒溶液は、遷移金属ナノ粒子であるが、これは、前述したように、dブロックのいかなる遷移金属であってもよい。加えて、ナノ粒子には、dブロック金属の入った元素形態又は塩形態の、合金や非合金の混合物、及びそれらの混合物が含まれる。このような塩形態には、限定するものではないが、酸化物、炭化物及び窒化物が含まれる。限定されない例示的な遷移金属NPsには、Ni、Fe、Co、Mo、Cu、Pt、Au及びAg、並びにそれらの塩及び混合物が含まれる。実施形態の中には、CNT形成触媒をガラス繊維材料に直接塗布するか、又は直接浸出させることにより、このようなCNT形成触媒がガラス繊維上に配置されるものがある。この遷移金属触媒の多くは、例えば、Ferrotec Corporation(Beford, NH)などの様々なサプライヤーから市販されており容易に入手できる。
【0084】
ガラス繊維材料にCNT形成触媒を塗布するために用いられる触媒溶液は、CNT形成触媒を全体にわたって均一に分散させるいかなる共通溶媒でもよい。このような溶媒には、限定するものではないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン、又はCNT形成触媒ナノ粒子の適切な分散系を生成するために極性が制御された他のいかなる溶媒、が含まれる。CNT形成触媒の濃度は、触媒対溶媒で、およそ1:1から1:10000の範囲内である。
【0085】
ある実施形態において、ガラス繊維材料にCNT形成触媒を塗布した後、ガラス繊維材料は、軟化温度まで加熱される。これは、ガラス繊維材料の表面にCNT形成触媒を埋め込むのに役立ち、また触媒が「浮揚」せずに有核成長を促す。実施形態の中には、ガラス繊維材料上に触媒を配置した後、ガラス繊維材料が約500℃から1000℃までの温度で加熱されるものがある。CNTの成長に用いるこのような温度への加熱は、ガラス繊維上の既存のサイジング剤を除去する働きをするため、既存のサイジング剤を事前に除去することなくCNT形成触媒を配置することができる。このような実施形態において、CNT形成触媒は、加熱前に、サイジング剤の被覆の表面上にあってもよいが、サイジング剤の除去後は、ガラス繊維材料と表面接触する。これらの温度での加熱は、CNT成長のための炭素原料の導入前に、又はそれと略同時に行われる。
【0086】
ある実施形態において、本発明により提供される処理が含むのは、ガラス繊維材料からサイジング剤を除去し、サイジング剤除去後にCNT形成触媒をガラス繊維材料へ塗布し、ガラス繊維材料を少なくとも500℃まで加熱し、そして、ガラス繊維材料上にカーボン・ナノチューブを合成することである。ある実施形態において、CNT浸出処理の工程には、ガラス繊維材料からのサイジング剤の除去、ガラス繊維へのCNT形成触媒の塗布、CNT合成温度に向けたガラス繊維の加熱、及び触媒を含むガラス繊維材料上への炭素プラズマのスプレーが含まれる。このように、工業用のガラス繊維材料が使用される場合、CNT浸出ガラス繊維を構成するための処理には、ガラス繊維材料上に触媒を配置する前に、ガラス繊維材料からサイジング剤を除去する個別の工程が含まれる。工業用サイジング剤の存否にもよるが、サイジング剤が除去されない場合には、CNT形成触媒はガラス繊維材料と表面接触せず、これにより、CNTの溶融を抑制できる。ある実施形態において、CNTの合成条件下でサイジング剤を確実に除去する場合には、サイジング剤の除去は、触媒配置後であって炭素原料の供給直前に行われる。
【0087】
カーボン・ナノチューブの合成工程には、同時係属の米国特許出願第2004/0245088号に開示され、参照により本明細書に組み込まれるものなど、カーボン・ナノチューブを形成するための多数の技術が含まれる。本発明のガラス繊維上におけるCNTs成長は、限定するものではないが、微小共振器(micro-cavity)、熱又はプラズマ助長CVD技術、レーザー・アブレーション、アーク放電、高圧一酸化炭素(HiPCO)などの、当業者に周知の技術により可能である。CVDでは、特に、CNT形成触媒が配置されサイジング剤が塗布されたガラス繊維材料が直接用いられる。ある実施形態において、従来のいかなるサイジング剤もCNT合成中に除去可能である。他の実施形態では、他のサイジング剤は除去されないが、サイジング剤を介した炭素源の拡散のため、ガラス繊維材料へのCNT合成及び浸出を妨害することはない。実施形態の中には、アセチレンガスがイオン化されて、CNT合成のための低温炭素プラズマジェットを生じるものがある。プラズマは触媒を有するガラス繊維材料に向けられる。このように、ある実施形態においては、ガラス繊維材料上におけるCNTsの合成には、(a)炭素プラズマを形成すること、及び(b)ガラス繊維材料上に配置された触媒に炭素プラズマを向けること、が含まれる。成長するCNTsの直径は、前述のように、CNT形成触媒のサイズにより決定される。ある実施形態において、サイジング剤が塗布された繊維基材は約550℃〜約800℃まで加熱され、CNT合成を容易にする。CNTsの成長を開始するために、プロセスガス(例えば、アルゴン、ヘリウム又は窒素)及び炭素含有ガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノール又はメタン)の2つのガスが反応器(reactor)に流される。CNTsは、CNT形成触媒の部位で成長する。
【0088】
ある実施形態において、CVD成長はプラズマで助長される。プラズマは、成長処理中に電界を与えることにより生成される。この条件下におけるCNTsの成長は電界の方向に従う。したがって、反応器の配置を調節することにより、垂直配向のカーボン・ナノチューブが、円筒状の繊維に関して半径方向に成長する。実施形態の中には、ガラス繊維に関する半径方向の成長にプラズマを必要としないものもある。明確な面を有するガラス繊維材料(例えば、テープ、マット、織物、パイル(piles)など)に関して、触媒は一面又は両面に配置され、それに対応して、CNTsも一面又は両面で成長する。
【0089】
前述のように、CNT合成は、巻き取り可能なガラス繊維に機能を付与する連続処理を行うのに十分な速度で行われる。以下に例示されるような連続的な合成は、多くの装置構成により容易になる。
【0090】
ある実施形態において、CNT浸出ガラス繊維材料は、「オール・プラズマ(all plasma)」処理の中で構成される。このような実施形態において、ガラス繊維材料は、多数のプラズマ介在工程を経て最終的なCNT浸出製品を形成する。最初のプラズマ工程には、繊維表面の改質工程が含まれる。これは、前述のように、ガラス繊維材料の表面を「粗面化」して触媒の配置を容易にするためのプラズマ処理である。前述のように、表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、水素、及び窒素などの種々異なる1以上のガスからなるプラズマを用いて実現できる。
【0091】
表面改質後、ガラス繊維材料は触媒の塗布へと進む。これは、ガラス繊維上にCNT形成触媒を配置するためのプラズマ処理である。CNT形成触媒は、前述のように、通常、遷移金属である。遷移金属触媒は、磁性流体、有機金属、金属塩、又は気相輸送を促進する他の組成物の形態で、前駆体としてプラズマ原料ガスに添加される。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周囲環境内の室温で塗布可能である。実施形態の中には、ガラス繊維材料が触媒の塗布前に冷却されるものがある。
【0092】
引き続きオール・プラズマ処理において、カーボン・ナノチューブの合成はCNT成長チャンバーで生じる。これは、プラズマ助長化学蒸着を用いることで実現されるが、ここでは、炭素プラズマが、触媒を含む繊維上にスプレーされる。カーボン・ナノチューブの成長は高温(触媒にもよるが、通常は約500℃から1000℃の範囲)で発生するので、触媒を含む繊維は炭素プラズマにさらされる前に加熱される。浸出処理に関して、ガラス繊維材料は、それが軟化するまで任意に加熱されてもよい。加熱後、ガラス繊維材料は炭素プラズマを受ける状態になっている。炭素プラズマは、例えば、炭素を含むガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノールなど)を、ガスのイオン化が可能な電界中に通すことにより発生する。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルを介して、ガラス繊維材料に向けられる。ガラス繊維材料は、プラズマを受けるために、例えば、スプレーノズルから約1センチメートル以内など、スプレーノズルにごく近接している。ある実施形態においては、加熱器は、ガラス繊維材料の上側のプラズマ・スプレーに配設され、ガラス繊維材料を高温に維持する。
【0093】
連続的なカーボン・ナノチューブ合成の別の構成には、カーボン・ナノチューブをガラス繊維上で直接合成し成長させるための専用の矩形反応器が含まれる。その反応器は、カーボン・ナノチューブを備えた繊維を製造するための連続的なインライン処理用に設計される。ある実施形態において、CNTsは、化学蒸着(「CVD」)処理を介して大気圧かつ約550℃から約800℃の範囲の高温で、マルチゾーン反応器(multi-zone reactor)内で成長する。合成が大気圧で生じるということは、繊維上にCNTを合成するための連続処理ラインに反応器を組み込むことを容易にする一因である。このようなゾーン反応器を用いた連続的なインライン処理には、CNTの成長が秒単位で発生するという別の利点があり、当該技術分野で標準的な他の手段及び装置構成における分単位(又はもっと長い)とは対照的である。
【0094】
様々な実施形態によるCNT合成反応器には、以下の特徴が含まれる。
【0095】
(矩形に構成された合成反応器)
当該技術分野で周知の標準的なCNT合成反応器は断面が円形である。これには、例えば、歴史的理由(研究所では円筒状の反応器がよく用いられる)及び利便性(流体力学は円筒状の反応器にモデル化すると容易であり、加熱システムは円管チューブ(石英など)に容易に対応する)、並びに製造の容易性などの多くの理由がある。本発明は、従来の円筒形状から離れて、矩形断面を有するCNT合成反応器を提供する。その理由は以下の通りである。1.反応器により処理される多数のガラス繊維材料は、例えば、形状が薄いテープやシート状など相対的に平面的であるので、円形断面では反応器の容積を十分に使用していない。この非効率性は、円筒状のCNT合成反応器にとって、例えば、以下のa)ないしc)など、いくつかの欠点となる。a)十分なシステムパージの維持;反応器の容積が増大すれば、同レベルのガスパージを維持するためにガス流量の増大が必要になる。これは、開放環境におけるCNTsの大量生産には非効率なシステムとなる。b)炭素原料ガス流の増大;前述のa)のように、不活性ガス流を相対的に増大させると、炭素原料ガス流を増大させる必要がある。12Kのガラス繊維ロービングは、矩形断面を有する反応器の全容積よりも2000分の1の容積であることを考慮されたい。同等の成長をさせる円筒状の反応器(すなわち、矩形断面の反応器と同様に平坦化されたガラス繊維材料を収容するための幅を有する円筒状の反応器)では、ガラス繊維材料は、チャンバー容積の17,500分の1の容積である。CVDなどのガス蒸着処理(gas deposition processes)は、通常、圧力及び温度だけで制御されるが、容積は蒸着の効率に顕著な影響を与える。矩形反応器の場合、それでもなお過剰な容積が存在する。この過剰容積は無用の反応を促進してしまうが、円筒状反応器は、その容積が約8倍もある。このように競合する反応が発生する機会が増加することにより、所望の反応が有効に生じるには、円筒状反応器チャンバーでは遅くなってしまう。このようなCNT成長の減速は連続処理の開発には問題となる。反応器を矩形に構成する一利点は、反応器の容積を、矩形チャンバーの高さを低くすることにより低減し、これにより容積比を改善して反応をより効率的にできることである。本発明のある実施形態において、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中のガラス繊維材料の全容積に対して約3000倍の量にすぎない。またある実施形態では、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中のガラス繊維材料の全容積に対して約4000倍の量にすぎない。またさらに、ある実施形態では、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中のガラス繊維材料の全容積に対して約10,000倍の量にすぎない。加えて、円筒状反応器を使用した場合、矩形断面を有する反応器と比較すると、同じ流量比をもたらすためには、より大量の炭素原料が必要である点に注目されたい。当然のことながら、実施形態の中には、合成反応器が、矩形ではないが比較的矩形に類似する多角形状で表される断面を有し、円形断面を有する反応器に対して反応器の容積を同様に低減するものがある。c)問題のある温度分布;相対的に小径の反応器が用いられた場合、チャンバー中心からその壁面までの温度勾配はごく僅かである。しかし、例えば、工業規模の生産に用いられるなど、サイズが増大した場合、温度勾配は増加する。このような温度勾配により、ガラス繊維材料基材の全域で製品品質がばらつくことになる(すなわち、製品品質が半径位置の関数として変化する)。この問題は、矩形断面を有する反応器を用いた場合に殆ど回避される。具体的には、平面状の基材が用いられた場合、基材サイズが上方向に拡大したときに反応器の高さを一定に維持する。反応器の頂部及び底部間の温度勾配は基本的にごく僅かであるため、生じる熱的な問題や製品品質のばらつきは回避される。2.ガス導入:当該技術分野では、通常、管状炉が使用されるが、一般的なCNT合成反応器は、ガスを一端に導入し、それを反応器に通して他端から引き出す。本明細書に開示された実施形態の中には、ガスが、反応器の中心、又は対象とする成長ゾーン内において、反応器の両側面か、反応器の天板及び底板か、いずれかを介して対称的に導入されるものがある。これにより、流入する原料ガスがシステムの最も高温の部分(CNT成長が最も活発な場所)に連続的に補充されるので、全体のCNT成長速度が向上する。このような一定のガス補充は、矩形のCNT反応器により示される成長速度の向上にとって重要な側面である。
【0096】
(ゾーン分け)
比較的低温のパージゾーンを備えるチャンバーが矩形合成反応器の両端に従属する。出願人は、高温ガスが外部環境(すなわち、反応器の外部)で混合すると、ガラス繊維材料の分解が増加することを見出した。低温パージゾーンは、内部システム及び外部環境間の緩衝となる。当該技術分野で周知の標準的なCNT合成反応器の構成では、基材を慎重に(かつ緩やかに)冷却することが必要とされる。本矩形CNT成長反応器の出口における低温パージゾーンは、連続的なインライン処理で必要とされるような短時間の冷却を実現する。
【0097】
(非接触、ホットウォール型、金属製反応器)
ある実施形態において、金属製、特にステンレス鋼製のホットウォール型反応器が使用される。このことは、金属、特にステンレス鋼は炭素が析出(すなわち、すす及び副生成物の形成)しやすいため、常識に反するように考えられる。従って、大部分のCNT反応器の構造には、炭素が殆ど析出せず、また、石英が洗浄しやすく試料の観察が容易であることから、石英反応器が使用されている。しかしながら、出願人は、ステンレス鋼上のすすの増加及び炭素の析出は、より着実で高速に、より効率的に、かつ、より安定的にCNTを成長させることに気付いた。理論に拘束されるものではないが、大気の影響と連動して、反応器内で生じるCVD処理では拡散が制限されることを示している。すなわち、触媒に「過度に供給される(overfed)」、つまり、過量の炭素が(反応器が不完全真空下で作動している場合よりも)その相対的に高い分圧により反応器システム内で得られる。結果として、開放型システム(特に清浄なもの)では、過量の炭素が触媒粒子に付着してCNTsの合成能力を低下させる。ある実施形態では、反応器が「汚染されて(dirty)」いる、すなわち金属製の反応器ウォールにすすが析出した状態である場合に、矩形反応器を意図的に作動する。炭素が反応器のウォール上の単分子層に一度析出すると、炭素は、それ自体の表面に容易に析出するようになる。利用可能な炭素には、この機構により「回収され(withdrawn)」るものがあるので、残りの炭素原料(ラジカル型)が、触媒を被毒させない速度で触媒と反応する。既存のシステムが「清浄に」作動しても、連続処理のために開放状態であれば、成長速度が低下してCNTsの生産量はかなり小さくなる。
【0098】
CNT合成を、前述のように「汚染されて」いる状態で実施するのは概して有益であるが、それでも、装置のある部分(例えば、ガスマニフォールド及びガス入口)は、すすが閉塞状態を引き起こした場合、CNTの成長に悪影響を与える。この問題に対処するために、CNT成長反応チャンバーの当該領域を、例えば、シリカ、アルミナ又はMgOなどのすす抑制コーティングで保護してもよい。実際には、装置のこれらの領域を浸漬被覆によりすす抑制コーティングにする。INVAR(商標名)は、高温におけるコーティングの接着性を確実にする同様のCTE(熱膨張係数)を有し、重要なゾーンにおけるすすの著しい堆積を抑制するので、例えば、INVARなどの金属がこれらのコーティングに用いられる。
【0099】
(触媒低減及びCNT合成の組み合わせ)
本明細書に開示されたCNT合成反応器において、触媒低減及びCNT成長のいずれもが反応器内で生じる。低減工程が個別の工程として実施されると、連続処理において十分タイムリーに行われなくなるため、これは重要である。当該技術分野において周知の標準的な処理において、低減工程は通常1〜12時間かかる。本発明によれば、両工程は1つの反応器内で生じるが、これは、少なくともある程度は、円筒状反応器を用いる当該技術分野で標準的となっている反応器の端部に炭素原料ガスが導入されるのではなくて、中心部に導入されるためである。低減処理は、ガラス繊維が加熱ゾーンに入ったときに行われる;この時点までに、ガスには、触媒と反応して(水素ラジカルの相互作用を介して)酸化還元を引き起こす前にウォールと反応して冷える時間がある。低減が生じるのは、この移行領域である。システム内で最も高温の等温ゾーンでCNTの成長は起こり、反応器の中心近傍におけるガス入口の近位で最速の成長速度が生じる。
【0100】
ある実施形態において、緩く関連するガラス繊維材料(例えば、ガラス・ロービング)が使用される場合、連続処理には、ロービングのストランド及び/又はフィラメントを広げる工程が含まれる。ロービングは、巻き取られていないときに、例えば、真空ベースの開繊システム(vacuum-based fiber spreading system)を用いて広げられる。比較的堅い、サイジング剤が塗布されたガラス繊維を使用する場合、ロービングを「軟化」して繊維を広げやすくするために、更に加熱することができる。個々のフィラメントを含んで構成される開繊維(spread fiber)は、バラバラに広げられてフィラメントの全表面積を十分にさらすようにしてもよく、これにより、ロービングが、次の処理工程でより効率的に反応できる。例えば、広げられたガラス・ロービングは、前述のようにプラズマシステムで構成される表面処理工程を経る。粗面化された開繊維は、その後、CNT形成触媒に浸漬される。その結果、繊維表面で半径方向に分布した触媒粒子を有するガラス・ロービングの繊維となる。ロービングの触媒を含んだ繊維は、その後、前述のように、例えば、矩形チャンバーなどの適切なCNT成長チャンバーに入るが、ここでは、大気圧CVD又はPE−CVD処理を介した流れが、毎秒数ミクロンの速度でCNTsを合成するために用いられる。ロービングの繊維は、こうして半径方向に配列されたCNTsを備えて、CNT成長反応器を出る。
【0101】
ある実施形態において、CNT浸出ガラス繊維材料は、さらにもう1つの処理工程を経ることもできるが、それは、ある実施形態において、CNTsに機能を付与するために用いられるプラズマ処理である。CNTsの追加的な機能付与は、特定の樹脂への接着力を促進するために用いられる。このように、実施形態の中には、本発明が、機能化されたCNTsを有するCNT浸出ガラス繊維材料を提供するものがある。
【0102】
巻き取り可能なガラス繊維材料の連続処理の一部として、最終製品にとって利点となる追加的なサイジング剤を塗布するために、CNT浸出ガラス繊維材料がサイジング剤に浸漬されてもよい。最終的にウェットワインディング(wet winding)が必要であれば、CNT浸出ガラス繊維材料は、樹脂浴を経てマンドレル又はスプールに巻かれる。その結果得られたガラス繊維材料/樹脂の結合は、CNTsをガラス繊維上に固着し、これにより、取り扱い及び複合製造がよりたやすくなる。ある実施形態において、CNT浸出は、フィラメント・ワインディング(firament winding)を向上させるために用いられる。このように、例えば、ガラス・ロービングなどのガラス繊維上に形成されるCNTsは、樹脂浴を経て、樹脂含浸処理されたCNT浸出ガラス・ロービングを生成する。樹脂含浸後、ガラス・ロービングは、デリバリー・ヘッド(delivery head)により、回転するマンドレルの表面上に置かれる。その後、ロービングは、周知の方法による正確な幾何学的パターンでマンドレルに巻かれる。
【0103】
前述のワインディング処理により、パイプ、チューブ、又は雄型を介して特徴的に製造される他の構造体がもたらされる。しかし、本明細書に開示されるワインディング処理から作られる構造体は、従来のフィラメント・ワインディング処理から作られるものとは異なる。具体的には、本明細書に開示される処理において、その構造体は、CNT浸出ロービングを含む複合材料から作られる。このような構造体は、CNT浸出ロービングによりもたらされる強度の向上などに利点がある。
【0104】
ある実施形態において、巻き取り可能なガラス繊維材料上におけるCNTs浸出の連続処理により、毎分約0.5フィートから毎分約18フィートのラインスピードが可能となる。実施形態の中には、システムが長さ3フィートで、750℃の成長温度で稼動している場合、例えば、長さが約1ミクロンから約10ミクロンのCNTsを製造するために、毎分約6フィートから毎分約36フィートのラインスピードで処理が行われるものもある。また、例えば、長さが約10ミクロンから約100ミクロンのCNTsを製造するために、毎分約1フィートから毎分約6フィートのラインスピードで処理が行われ、長さが約100ミクロンから約200ミクロンのCNTsを製造するためには、毎分約0.5フィートから毎分約1フィートのラインスピードで処理が行われる。CNTの長さに関しては、ラインスピード及び成長温度が関係するだけでなく、炭素原料ガス及び不活性ガスの双方の流量もまたCNTの長さに影響を与える。例えば、不活性ガス中において1%未満の炭素原料からなる流量により、高速のラインスピード(毎分6フィートから毎分36フィート)で、長さが1ミクロンから約5ミクロンのCNTsがもたらされる。不活性ガス中において約1%を上回る炭素原料からなる流量の場合には、高速のラインスピード(毎分6フィートから毎分約36フィート)で、5ミクロンから約10ミクロンの長さを有するCNTsをもたらす。
【0105】
ある実施形態において、複数のガラス繊維材料は同時に処理される。例えば、複数のテープロービング、フィラメント、ストランドなどが並行して処理される。こうして、既製のガラス繊維のスプールはいくつでも並行に処理されて、処理が終わると再度巻き取られる。並行して処理され巻き取られるガラス繊維材料の数には、1、2、3、4、5、6、最大でCNT成長反応チャンバーの幅に合ったいかなる数も含まれる。さらに、複数のガラス繊維材料が処理される場合、回収スプール数は、処理開始時のスプール数よりも少なくなり得る。このような実施形態において、ガラス・ストランド、ロービングなどは、より高い規則構造のガラス繊維(例えば、織物など)に当該ガラス繊維を結合する処理をさらに経て送り出される。また、連続処理には、例えば、CNT浸出短繊維マットの形成を容易にするチョッパー後処理(post processing chopper)を組み込みこむことができる。
【0106】
ある実施形態において、本発明はCNT連続浸出処理を提供し、この処理には、(a)溶融ガラスからガラス繊維材料を押し出すこと、(b)ガラス繊維材料の表面上にカーボン・ナノチューブ形成触媒を配置すること、及び(c)ガラス繊維材料上にカーボン・ナノチューブを合成して、これにより、カーボン・ナノチューブが浸出したガラス繊維材料を形成すること、が含まれる。このような処理により、製造中のガラス繊維材料に対してカーボン・ナノチューブを直接塗布することが可能となる。カーボン・ナノチューブは従来のサイジング剤を保護するので、必要とされない限りは、さらなるサイジング剤の添加は不要である。さらに、カーボン・ナノチューブは、従来のサイジング剤と異なり、新たに形成されたガラス繊維材料に有益な引張強度及び他の特性を与える。本処理は、様々な押し出しガラス繊維材料(例えば、ガラス・フィラメント、ガラス・ストランド、ガラス・ロービング又はガラス・テープなど)に対応可能である。
【0107】
ガラス材料のインライン押し出し工程を組み込んだCNT連続浸出処理は、目的とする浸出CNTの形態及びシステムの長さに応じて、毎分約100フィートから毎分約1800フィートの間のラインスピードとなる。当業者であれば、ラインスピードが、押し出されるガラス繊維材料の種類により変化することを認識し得る。ある実施形態において、インライン・ガラス押し出し成形を組み込んだ処理のラインスピードは、毎分約25フィートから毎分約100フィート以上の範囲にあり、この場合、CNT成長チャンバーは、特定のCNT成長長さ及び密度のための適切な材料滞留時間をもたらすように、適宜サイズが決められる。
【0108】
ガラス繊維材料上にCNT形成触媒を配置する工程は、押し出し工程からインラインで実行され、触媒は、前述のようにガラス繊維材料をスプレー又は浸漬被覆することにより塗布される。ある実施形態において、CNT形成触媒は、ガラス繊維材料がまだ軟らかい間に塗布されて、ガラス構造内にCNT形成触媒を僅かに埋め込むことによりガラス繊維材料に固着可能にされる。実施形態の中には、ガラス繊維材料の押し出し工程及びカーボン・ナノチューブ形成触媒の配置工程が、溶融ガラスに触媒を組み込み、その後、ガラス繊維材料の全体にわたって配置されるCNT形成触媒(ガラス繊維材料の表面にさらされたCNT形成触媒など)を備えた溶融ガラスを押し出して成形することにより、一体化されるものがある。
【0109】
カーボン・ナノチューブの合成工程は、炭素プラズマを形成し、それをガラス繊維上に配置されたCNT形成触媒に向ける操作工程を含んで、前述のように実行される。CNT浸出(fused)ガラス繊維材料の形成後、追加的なサイジング剤が塗布される。これも連続処理の一部としてインラインで行われる。サイジング剤の塗布に代えて、又はサイジング剤の塗布に加えて、マトリックス材もカーボン・ナノチューブ浸出ガラス繊維材料に塗布される。最終的に、マトリックスの塗布後、マンドレルへのカーボン・ナノチューブ浸出ガラス繊維材料の巻き付けが任意に処理に含まれる。
【0110】
ある実施形態において、本発明の処理により、ガラス繊維材料上に第1の量の第1種カーボン・ナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第1種カーボン・ナノチューブは、ガラス繊維材料の少なくとも1つの性質(第1性質)を変化させるために選択される。次に、本発明の処理により、ガラス繊維上において、第2の量の第2種カーボン・ナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第2種カーボン・ナノチューブは、ガラス繊維材料の少なくとも1つの性質(第2性質)を変化させるために選択される。
【0111】
ある実施形態において、CNTsの第1の量及び第2の量は異なる。この場合、CNTの種類の変化を伴うこともあり、伴わないこともある。このように、CNTの種類がたとえ変化しないままであっても、CNTsの密度を変化させて用いることにより、元のガラス繊維材料の性質を変化させることができる。CNTの種類には、例えば、CNTの長さ及び層数が含まれる。ある実施形態において、第1の量及び第2の量は同一である。この場合に、異なる性質が求められれば、異なる2本の巻き取り可能な材料に沿って、例えば、CNTの長さなどのCNTの種類を変化させることができる。例えば、より長いCNTsは電気的/熱的な用途に有効である一方、より短いCNTsは機械的強化の用途に有効である。
【0112】
カーボンファイバー材料の性質の変化に関する前述の考察を踏まえると、第1種カーボン・ナノチューブ及び第2種カーボン・ナノチューブが、ある実施形態においては同一であるのに対し、第1種カーボン・ナノチューブ及び第2種カーボン・ナノチューブは、他の実施形態においては異なるということもあり得る。同様に、第1性質及び第2性質が、ある実施形態では同一となり得る。例えば、EMI遮蔽特性は、第1の量の第1種CNTs、及び第2の量の第2種CNTsにより対処される興味ある性質であるが、この性質の変化の割合は、異なる量、及び/又は異なる種類のCNTsが使用されたことを反映して異なることもあり得る。最後に、ある実施形態において、第1性質及び第2性質が異なることもある。これもCNTの種類に変化を示す。例えば、第1性質が、短いCNTsによりもたらされる機械的強度である一方、第2性質が、長いCNTsによりもたらされる電気的/熱的性質である。当業者であれば、異なるCNT密度、異なるCNT長さ、及び異なるCNTsの層数(例えば、単層、2層及び多層など)を利用することで、ガラス繊維材料の性質を調整できることを認識し得る。
【0113】
ある実施形態において、本発明の処理により、ガラス繊維材料上に第1の量のカーボン・ナノチューブが合成され、これにより、この第1の量が、ガラス繊維材料自体により示される第1群の性質とは異なる第2群の性質をカーボンチューブ浸出ガラス繊維材料に示すことが可能となる。すなわち、ガラス繊維材料の1以上の性質(例えば、引張強度など)を変化させることができる量を選択することである。第1群の性質及び第2群の性質には、例えば、ガラス繊維材料の既存の性質の強化を示す少なくとも1つの同じ性質が含まれる。ある実施形態において、CNTの浸出により、ガラス繊維材料自体により示される第1群の性質の中に含まれない第2群の性質がカーボン・ナノチューブ浸出ガラス繊維に与えられる。
【0114】
ある実施形態において、カーボン・ナノチューブの第1の量は、カーボン・ナノチューブ浸出ガラス繊維の、引張強度、ヤング率、密度、電気伝導度、及び熱伝導度からなる群の中から選択された少なくとも1つの性質の値が、ガラス繊維自体の同じ性質の値と異なるように選択される。
【0115】
引張強度には、1)機械的ひずみが弾性変形から塑性変形(材料の不可逆的な変形)に変化する応力を評価する降伏強度、2)引張荷重、圧縮荷重又はせん断荷重を受けたとき、材料が耐え得る最大応力を評価する終局強度、及び3)破断点における応力−ひずみ線図上での応力の座標を評価する破壊強度、の3つの異なる測定値が含まれる。複合材料のせん断強度は、繊維方向に対して垂直に荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。複合材料の圧縮強度は、圧縮荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。以下の表1は、本発明の個々の組成物(CNTs並びに例示的なガラス繊維種のEガラス及びSガラス)に関する終局強度の測定値を示す。
【表1】
【0116】
ガラス繊維材料と比べてカーボン・ナノチューブの強度が大幅に高くなっていることに留意されたい。多層カーボン・ナノチューブは、特に、63GPaの引張強度を達成し、今までに測定された材料の中で最も高い引張強度を有する。さらに、理論計算によれば、CNTsには約300GPaの引張強度も可能であることが示されている。したがって、CNT浸出ガラス繊維材料は、母材となるガラス繊維材料と比較して大幅に上回る終局強度を有することが見込まれる。前述のように、引張強度の向上は、用いられるCNTsの正確な性質に加え、ガラス繊維材料上のCNTsの密度及び分布によって決まる。CNT浸出ガラス繊維材料では、例えば、引張特性において倍増することが示されている。例示的なCMT浸出ガラス繊維材料は、機能付与されていない母材のガラス繊維材料に対して3倍のせん断強度と、2.5倍の圧縮強度を有することが可能である。
【0117】
ヤング率は等方性弾性材料の剛性の1つの尺度である。それは、フックの法則が有効な応力範囲において、1軸ひずみに関する1軸応力の比率として定義される。これは、経験的に、材料サンプルについて行われる引張試験中に作成される応力−ひずみ線図の傾きから決定される。
【0118】
電気伝導度又は特定の伝導性は、電流を伝導する材料の性能についての1つの尺度である。CNTのキラリティに関する、例えば、撚度(degree of twist)などの特定の構造的なパラメータを有するCNTsは、伝導性が高く、したがって金属性を示す。CNTのキラリティに関して、広く認められている命名方式(M.S.Dresselhaus, et al.Science of Fullerences and Carbon Nanotubes, Academic Press, San Diego, CA pp.750-760, (1996))が、当業者により正式に定められ承認されている。それにより、例えば、CNTsは、相互に2つのインデックス(n,m)で識別される(ここで、nとmは、六方晶のグラファイトが円筒の表面上で巻かれて端部同士を接合した場合にチューブとなるように、六方晶のグラファイトの切断及び巻き方を表す整数である)。2つのインデックスが同じである場合、得られるチューブは、「アームチェア」(又はn−n)型であるといわれているが、これは、チューブがCNT軸に対して垂直に接断されたときに、六角形の辺のみが露出し、そのチューブ端部の周辺に沿ったパターンが、n回繰り返されるアームチェアのアームと座部に似ているからである。アームチェアCNTs、特にSWNTsは、金属的であり、非常に高い電気的及び熱的伝導性を有している。さらに、このようなSWNTsは非常に高い引張強度を有している。
【0119】
撚度に加えて、CNTの直径もまた電気的伝導性に影響を与える。前述のように、CNTの直径は、サイズ制御されたCNT形成触媒ナノ粒子の使用により制御可能である。また、CNTsは、半導体材料としても形成される。多層CNTs(MWNTs)における伝導性はより複雑である。MWNTs内の層間反応は、個々のチューブ一面に、電流を不均一に再分布させる。対照的に、金属的な単層ナノチューブ(SWNTs)の様々な部位にわたって電流に変化はない。また、カーボン・ナノチューブは、ダイヤモンド結晶及び面内の(in-plane)グラファイトシートと比較して、非常に高い熱伝導性を有する。
【0120】
表1において前述の通り、CNTsは例示的なガラス(例えば、Eガラス及びSガラスなど)よりも密度が低い。したがって、CNT浸出ガラス繊維材料には、CNTsの存在により前述の性質だけでなく、本処理においてより軽量な材料も提供できるという性質にも利点がある。このように低密度かつ高強度の材料は、換言すれば、強度重量比がより高いということができる。本発明の様々な実施形態の働きに実質的に影響を与えない変更も、本明細書で提供された本発明の定義の範囲に含まれることを理解されたい。したがって、以下の実施例は、本発明を例示するものであって限定するものではない。
【実施例1】
【0121】
この実施例は、せん断強度の向上が必要なアプリケーションのために、連続処理におけるガラス繊維材料に対するCNTsの浸出方法を示している。この場合は、短いCNTsを高密度に配列することが望ましい。
【0122】
図8は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出ガラス繊維を製造するためのシステム800を表している。システム800には、ガラス繊維材料の繰り出し及び張力調整システム802、CNT浸出システム812、及び繊維巻き取り機824が、図に示すように、相互に関連して含まれる。
【0123】
繰り出し及び張力調整システム802には、繰り出しボビン804及びテンショナー806が含まれる。繰り出しボビンは、繊維スプールを保持し、ガラス繊維材料801を毎分9フィートのラインスピードで処理に渡す。繊維張力は、テンショナー806を介して1〜5ポンド以内に維持される。繰り出し及び張力調整ステーション(station)802は繊維産業においてごく普通に用いられており、当業者であれば、その構造や利用法を熟知している。
【0124】
張力をかけた繊維805はCNT浸出システム812に送られる。ステーション812には、触媒塗布システム814及びCNT浸出ステーション825に基づく微小共振器CVDが含まれる。
【0125】
この例示的な実施例において、触媒溶液は、例えば、張力をかけた繊維805を浸漬槽835に通すことにより、浸漬処理を介して塗布される。この実施例において、体積比で1の磁性流体であるナノ粒子溶液と100のヘキサンからなる触媒溶液が用いられる。ILSS向上を対象とするCNT浸出繊維のためのラインスピードで、繊維は浸漬槽に10秒間滞留する。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周囲環境内の室温で塗布可能である。
【0126】
その後、触媒を含んだガラス繊維807は、成長前の低温不活性ガスパージゾーン、CNT成長ゾーン、及び成長後のガスパージゾーンから成るCNT浸出ステーション825へ進められる。室温の窒素ガスが、前述のCNT成長ゾーンから流出するガスを冷却するために、成長前のパージゾーンに導入される。流出するガスは、繊維の酸化を防止するために、急速な窒素パージにより250℃未満まで冷却される。繊維はCNT成長ゾーンに入り、そこでは、97.7%の不活性ガス(窒素)質量流と2.3%の炭素含有原料ガス(アセチレン)質量流の混合物が、ガスマニホールドを介して中心に導かれ、高温で加熱される。この実施例において、システムの長さは3フィートであり、CNT成長ゾーンにおける温度は750℃である。触媒を含んだ繊維は、この実施例において、CNT成長環境に20秒間さらされ、ガラス繊維材料表面に浸出した5ミクロン長で4vol%のCNTとなる。最終的に、CNT浸出ガラス繊維は、繊維表面及びCNTsの酸化を防止するために、繊維とともに流出ガスを250℃に冷却する成長後パージゾーンを通過する。
【0127】
CNT浸出繊維809は繊維巻き取り機824に集められ、そして、複合材料の強化材料として使用するなど、せん断強度の向上が必要な様々な用途に使用可能な状態となる。図11は、せん断強度に関するCNTsの存在についての効果を示している。サイジング剤が塗布されていないCNT浸出S2ガラス繊維は、サイジング剤が塗布されたS2ガラス繊維を基準として、せん断強度で65%以上の向上を明示している。
【実施例2】
【0128】
この実施例は、電気的及び/又は熱的伝導性の向上が必要な用途のための、連続処理における発生期のガラス繊維材料に対するCNTsの浸出方法を示している。この場合は、長いCNTsを最大限付加することが目的となる。
【0129】
図9は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を生成するためのシステム900を表している。システム900には、ガラス繊維製造システム902、CNT浸出システム912、及び繊維巻き取り機924が、図に示すように相互に関連して含まれる。
【0130】
ガラス繊維製造システムには、溶融ガラス容器905、及び発生期のガラス材料901を直径15ミクロンにして引き出すために用いられる押し出し金型910が含まれる。この実施例において、Eガラス繊維は毎分1フィートの速度で押し出される。
【0131】
発生期の繊維915は、CNT浸出ステーション912に送られる。CNT浸出システム912には、触媒塗布システム920及びCNT浸出工程925に基づく微小共振器CVDが含まれる。
【0132】
この例示の実施例において、触媒溶液はスプレー処理935により塗布されるが、この場合、噴霧器が用いられて発生期の繊維930に霧化された触媒のスプレーを塗布する。この実施例において、触媒溶液は、イソプロピルアルコール中に50ミリモルの硝酸鉄溶液を含んで成る。電気的及び/又は熱的伝導性の向上を目的としたCNT浸出ガラス繊維の処理ラインスピードで、繊維は、一連の噴霧器により作られる触媒クラウド(catalyst cloud)に30秒間滞留する。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周辺環境内に室温で塗布可能である。
【0133】
その後、触媒を含む発生期のガラス繊維907は、成長前の低温不活性ガスパージゾーン、CNT成長ゾーン、及び成長後のガスパージゾーンから成るCNT浸出ステーション912へ進められる。室温の窒素ガスが、前述のように、CNT成長ゾーンから流出するガスを冷却するために、成長前のパージゾーンに導入される。流出するガスは、繊維の酸化を防止するために、急速な窒素パージにより250℃未満まで冷却される。繊維はCNT成長ゾーンに入り、そこでは、95%の不活性ガス(窒素)質量流と5%の炭素含有原料ガス(アセチレン)質量流の混合物が、ガスマニホールドを介して中心に導かれ、高温により加熱される。この実施例において、システムの長さは3フィートであり、CNT成長ゾーンにおける温度は750℃である。触媒を含んだ繊維は、この実施例において、CNT成長環境に180秒間さらされ、ガラス繊維材料表面に浸出した100ミクロン長で2vol%のCNTとなる。最終的に、CNT浸出ガラス繊維は、繊維表面及びCNTsの酸化を防止するために、繊維とともに流出ガスを250℃に冷却する成長後パージゾーンを通過する。
【0134】
CNT浸出繊維909は、最後に、繊維巻き取り機924により、保管のために繊維巻き取りスプールに巻き付けられる。そして、CNT浸出繊維909は、例えば、EMI遮蔽の強化材料、又は熱散逸用途としての使用など、熱的及び/又は電気的伝導性の向上が必要な様々な用途に使用可能な状態となる。前述のような繊維は100S/mよりも高い電気伝導度を示す。
【実施例3】
【0135】
この実施例は、引張強度の向上が必要な用途のために、連続処理におけるガラス繊維のCNT浸出を明示するが、この場合、そのシステムは、それに続く樹脂取り込み処理及びワインディング処理と連動している。
【0136】
図10は、本発明の例示的実施形態を示したものであるが、この場合、CNT浸出繊維は、フィラメント・ワインディング・システム1000により行われるフィラメント・ワインディング処理の副作用として生成される。
【0137】
システム1000は、ガラス繊維材料クリール(creel)1002、カーボン・ナノチューブ浸出システム1012、CNT調整システム1005、樹脂槽1028、及びフィラメント・ワインディング・マンドレル1032、が図示のように相互に関連しつつ、これらを含んで構成される。システム1000の様々な要素は、カーボン・ナノチューブ浸出システム1026及びCNT調整システム1005を除いて、従来のフィラメント・ワインディング処理に存在するものである。図10に示される処理及びシステムの主な要素は、(任意的な)サイジング剤除去ステーション1010、及びCNT浸出ステーション1012を含むカーボン・ナノチューブ浸出セクション(section)1026である。
【0138】
繊維クリール1002には、スプール毎に1のロービング1001A〜1001Hを含んで構成されるS2ガラス繊維の多数のスプール1004が含まれる。ガラス繊維ロービング1001A〜1001Hの撚り合わされていない群を「ロービング1003」と総称する。
【0139】
クリール1002は、水平方向にスプール1004を保持する。各スプールからのガラス繊維ロービング1006は、クリール1002から出て1〜5ポンドの張力でカーボン・ナノチューブ浸出システム1012へ移動するときに、繊維を平坦化して繊維の方向を並行配置に揃える適切に配置された小型のローラー及びテンショナー1015を介して移動する。この実施例の場合、繊維は毎分5フィートのラインスピードでクリールから引き寄せられる。
【0140】
別の実施形態には、システム1000で用いられる巻き取り可能なガラス繊維材料が、既にCNTを浸出した(すなわち、システム800を介して製造された)ガラス繊維材料であるものがあることを理解されたい。このような実施形態においては、システム1000は、ナノチューブ浸出システム1012なしで運転される。
【0141】
カーボン・ナノチューブ浸出システム1012では、ロービング1003のサイジング剤が除去され、ナノチューブ形成触媒が塗布され、そして、ロービングがCVD成長システムを介してCNT成長状態にさらされる。
【0142】
サイジング剤除去ステーション1030はロービング1003を不活性(窒素)雰囲気中で高温にさらす。この実施例において、ロービング1003は、30秒の滞留時間で550℃の温度にさらされる。
【0143】
この例示的な実施例において、触媒溶液は浸漬処理を介して、例えば、ロービング1003を浸漬槽1035に通すことにより塗布される。この実施例において、体積比で1の磁性流体であるナノ粒子溶液と200のヘキサンからなる触媒溶液が用いられる。引張強度向上を目的とするCNT浸出繊維のための処理ラインスピードで、繊維は浸漬槽に25秒間滞留する。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周囲環境内の室温で塗布可能である。
【0144】
その後、触媒を含んだロービング1003は、成長前の低温不活性ガスパージゾーン、CNT成長ゾーン、及び成長後のガスパージゾーンから成るCNT浸出ステーション1026へ進められる。室温の窒素ガスが、前述のように、CNT成長ゾーンから流出するガスを冷却するために、成長前のパージゾーンに導入される。流出するガスは、繊維の酸化を防止するために、急速な窒素パージにより250℃未満まで冷却される。繊維はCNT成長ゾーンに入り、そこでは、99%の不活性ガス(窒素)質量流と1%の炭素含有原料ガス(アセチレン)質量流の混合物が、ガスマニホールドを介して中心に導かれ、高温で加熱される。この実施例において、システムの長さは5フィートであり、CNT成長ゾーンにおける温度は650℃である。触媒を含んだ繊維は、この実施例において、CNT成長環境に60秒間さらされ、この結果、長さ15ミクロンで4vol%のCNTが、ガラス繊維材料表面に浸出する。最終的に、CNT浸出ガラス繊維は、繊維表面及びCNTsの酸化を防止するために、繊維及び流出ガスを250℃に冷却する成長後パージゾーンを通過する。
【0145】
その後、CNT浸出ロービング1003は、CNT調整システム1005を通り、ここで、一連の金型が、ロービング1003のうち各ロービング1001A〜Hの方向にCNTの軸を機械的に調整するために用いられる。直径0.125インチの開口部で終わる先細の金型が、CNTsの調整を補助するために用いられる。
【0146】
CNT調整システム1005を通過した後、調整されたCNT浸出ロービング1040は、樹脂槽1028に供給される。樹脂槽は、CNT浸出繊維と樹脂とを含んで構成される複合材料を製造するための樹脂を含む。この樹脂には、例えば、ポリエステル(例えば、オルトフタル酸ポリエステルなど)、改質ポリエステル(例えば、イソフタル酸ポリエステルなど)、エポキシ、及びビニルエステルなどの市販の樹脂マトリックスが含まれる。
【0147】
樹脂槽1028は様々な方法で実現されるが、以下にそのうちの2つを記載する。第1に、樹脂槽1028は、ドクター・ブレード(doctor blade)のローラー槽(roller bath)として実現されるが、ここでは、研磨された回転シリンダ(例えば、シリンダ1050)が槽内に配設され、回転するときに樹脂を引き上げる。ドクター・バー(図10には図示せず)はシリンダを押し付けてシリンダ1050上に正確な樹脂フィルム厚を得るとともに、余剰の樹脂を槽内に押し戻す。ガラス繊維ロービング1003はシリンダ1050の頂部を通って引き寄せられると、樹脂フィルムと接触して濡れる。もう1つの方法として、樹脂槽1028は浸漬槽として用いられ、そこでは、ガラス繊維ロービング1003が樹脂内に沈められ、その後、余剰の樹脂を除去する1組のワイパー又はローラーを通って引き上げられる。
【0148】
樹脂槽1028を出た後、樹脂で濡れているカーボン・ナノチューブ・ロービング1009は、デリバリーヘッド(図示せず)の後方に配置される、様々なリング、小穴(eye-lets)、そして、通常はマルチ・ピン(multi-pin)「くし状部(comb)」(図示せず)を通過する。くし状部は、ガラス繊維ロービング1009を分離した状態にするが、その後、それらは、回転マンドレル1032上で単一の結合した束にまとめられる。マンドレルは、引張強度を向上させた複合材料が必要とする構造の型としての役割を果たす。図12は、機能付与されていないS2ガラス繊維と比較した、CNT浸出S2ガラス繊維の引張強度を示す。サイジング剤が塗布されていないCNT浸出S2ガラス繊維は、その引張強度において、サイジング剤が塗布されたS2ガラス繊維の基準値を25%以上も超えた向上を明示している。
【0149】
当然のことながら、前述の実施形態は単に本発明の具体例にすぎず、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、前述の実施形態の多くの変形例を考え出すことができる。例えば、本明細書において、数々の具体的詳細が、本発明の例示の実施形態の説明及び理解を完全にするためになされている。しかしながら、当業者であれば、本発明の1以上の詳細がなくても、又は他の処理、材料、構成要素などで本発明を実施でき得ることが分かるであろう。
【0150】
また、場合によっては、周知の構造、材料、又は工程の図示、又は詳細な説明を行わないことにより、例示の実施形態の態様を曖昧にすることを避けている。当然のことながら、図面に図示された様々な実施形態は例示であり、必ずしも一定の縮尺で描かれたものではない。本明細書全体にわたって「一実施形態」又は「1つの実施形態」又は「ある実施形態(実施形態の中には)」で言及しているのは、特定の機能、構造、材料、又は(複数の)実施形態と関連して記載した特徴が、本発明の少なくとも1つの実施形態には含まれるが、必ずしも全ての実施形態に含まれるものではない、ことを意味する。したがって、本明細書の全体にわたって様々な箇所で見られる表現「1つの実施形態において」、「一実施形態において」又は「ある実施形態において(実施形態の中には)」は、必ずしも全て同じ実施形態について言及しているものものとは限らない。さらに、特定の機能、構造、材料、又は特徴を、1以上の実施形態で適切な方法により組み合わせることができる。このため、このように変形したものは、以下の特許請求の範囲及びその同等物の範囲内に含まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料に関し、より詳しくは、カーボン・ナノチューブで改質されたガラス繊維材料に関する。
【0002】
(関連出願の参照)
本願は、2007年1月3日出願の米国特許出願第11/619,327号の一部継続出願である、2009年11月2日出願の米国特許出願第12/611,070号に続くものである。本願は、米国仮出願のうち、2009年4月10日出願の第61/168,516号、2009年4月14日出願の第61/169,055号、2009年2月27日出願の第61/155,935号、2009年3月3日出願の第61/157,096号、及び2009年5月29日出願の第61/182,153号に基づき、米国特許法第119条(35 U.S.C.§119)に従って優先権の利益を主張するものであり、これらの全ては、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
(連邦政府の資金提供による研究開発の記載)
適用なし。
【背景技術】
【0004】
繊維材料は、例えば、商業航空、レクリエーション、工業及び運輸業など、多種多様な産業において様々な用途に用いられる。これらの又は他の用途に用いられる共通の繊維材料には、例えば、ガラス繊維、セルロース系繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維及びアラミド繊維が含まれる。
【0005】
ガラス繊維材料は、特に、重量に対する表面積の比率が高いため有用であるが、この表面積の増大は、化学的な攻撃の影響をより受けやすくする。また、湿気は、吸収された水分が微小亀裂及び表面欠陥を拡大させるため、ガラス繊維材料の引張強度にも影響を及ぼす。したがって、市販の巻き取られた(spooled)ガラス繊維は、ガラス繊維材料の改質が求められた場合に、あるいは、新たなサイジング剤を使用すべきときに除去が必要となる繊維サイジング剤を用いて製造される。これは、水分、摩擦などにさらされることにより、ガラス繊維及びフィラメント(filament)にダメージを与える可能性が増す処理工程を加えることになる。
【0006】
ガラス繊維材料は、多くの複合材料中に存在する。複合材料中におけるガラス繊維の特性を有効に発揮するためには、繊維及びマトリックス材間の良好な接合が必要になる。ガラス繊維に用いられるサイジング剤は、繊維及び樹脂マトリックス材間の物理化学的な結合をもたらし、こうして複合材料の機械的及び化学的特性に影響を及ぼす。サイジング剤は、親水性のガラス繊維と異種材料(例えば、疎水性材料など)との接合もたらす点で有効である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、最も標準的なサイジング剤は塗布される(applied)ガラス繊維よりも界面強度が低い。したがって、サイジング剤の界面強度及びその界面応力に耐える能力は、複合材料全体の界面強度を決定する。このため、標準的なサイジング剤を使用する場合、得られる複合材料は、一般的に、ガラス繊維よりも低い強度となってしまう。
【0008】
サイジング剤、及びガラス繊維材料上のサイジング剤を被覆する処理を開発することは、上述した問題のいくつかに対処することに加え、ガラス繊維に対して望ましい特徴を与えるために有効となる。本発明は、この必要性を満たすとともに関連する利点をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、カーボン・ナノチューブ(CNT)が浸出したガラス繊維材料を含む組成物に関する。CNTが浸出したガラス繊維材料には、巻き取り可能な寸法のガラス繊維と、ガラス繊維材料と結合するカーボン・ナノチューブ(CNTs)と、が含まれる。CNTsは長さ及び分布が均一である。
【0010】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、CNTの連続浸出処理に関し、この処理には、(a)巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料の表面にカーボン・ナノチューブを形成する触媒を配置すること、及び(b)ガラス繊維材料上にカーボン・ナノチューブを合成して、これにより、カーボン・ナノチューブが浸出したガラス繊維材料を形成すること、が含まれる。CNT連続浸出処理は、CNT成長チャンバー内における約5〜300秒の材料滞留時間を特徴とする。
【0011】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、CNTの連続浸出処理に関し、この処理には、(a)溶融ガラスからガラス繊維材料を押し出すこと、(b)ガラス繊維材料の表面上にカーボン・ナノチューブ形成触媒を配置すること、及び(c)ガラス繊維材料上にカーボン・ナノチューブを合成して、これにより、カーボン・ナノチューブが浸出したガラス繊維材料を形成すること、が含まれる。
【0012】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料に対するCNTの連続的な浸出のための処理に関し、この処理には、(a)ガラス繊維材料からサイジング剤を除去すること、(b)サイジング剤の除去後、ガラス繊維材料にカーボン・ナノチューブ触媒を塗布すること、(c)ガラス繊維材料を少なくとも500℃まで加熱すること、及び(d)ガラス繊維材料上にカーボン・ナノチューブを合成すること、が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Eガラス繊維材料上において成長した多層カーボン・ナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す図である。
【図2】Eガラス繊維のロービング(roving)上における、10%以内の均一な密度のCNT成長を明示する走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【図3】Eガラス繊維上における、半径方向に配向された長さ10ミクロンの均一なCNT成長を明示するSEM画像を示す図である。
【図4】Sガラス繊維のロービング上における、10%以内の均一な密度のCNT成長を明示するSEM画像を示す図である。
【図5】Sガラス繊維上における、半径方向に配向された長さ25ミクロンの均一なCNT成長を明示するSEM画像を示す図である。
【図6】Sガラス繊維上における、半径方向に配向された長さ5ミクロンの短い均一・高密度なCNT成長を明示するSEM画像を示す図である。
【図7】本発明の例示の実施形態によるCNT浸出ガラス繊維材料を製造するための処理を示す図である。
【図8】せん断応力の向上を必要とする用途のために、連続処理においてCNTsをガラス繊維材料に浸出させる方法を示す図である。
【図9】電気的伝導性及び/又は熱的伝導性の向上を必要とする用途のために、連続処理において発生しようとしているガラス繊維材料にCNTsを浸出させる方法を示す図である。
【図10】引張強度の向上を必要とする用途のための連続処理(この場合、システムはそれに続く樹脂取り込み処理及びワインディング処理と連動する)におけるCNT浸出ガラス繊維材料を示す図である。
【図11】S2ガラス繊維のせん断応力についてのCNT浸出の効果を示す図である。基準材料は、サイジング剤が塗布されたS2ガラス繊維であるが、CNT浸出ガラス繊維材料は、S2ガラス繊維表面に浸出した長さ25ミクロンのCNTsを含むサイジング剤未塗布のS2ガラス繊維である。
【図12】引張強度に関して、S2ガラス繊維のロービング上におけるCNT浸出の効果を示す図である。基準材料は、サイジング剤が塗布されたS2ガラス繊維であるが、CNT浸出ガラス繊維材料は、S2ガラス繊維表面に浸出した長さ10ミクロンのCNTsを含むサイジング剤未塗布のS2ガラス繊維である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、1つには、カーボン・ナノチューブが浸出した(「CNT浸出の」)ガラス繊維材料に対してなされる。ガラス繊維材料へのCNTsの浸出は、数多くの機能(例えば、水分及び摩擦によるダメージから保護するサイジング剤としてなど)に役立てることができる。CNTに基づくサイジング剤は、複合材料中における親水性ガラスと疎水性マトリックス材間の接点としても役立つ。CNTsは、ガラス繊維材料を被覆するサイジング剤の1つとしての機能も果たす。
【0015】
また、ガラス繊維材料に浸出したCNTsは、ガラス繊維材料の様々な性質(例えば、熱的伝導性及び/又は電気的伝導性、及び/又は引張強度など)を変化させることが可能である。CNT浸出ガラス繊維材料を作るために用いられる処理は、略均一な長さ及び分布のCNTsをもたらして、改質しようとするガラス繊維材料一面に均一に有用な性質を与える。さらに、本明細書に開示された処理は、巻き取り可能な寸法のCNT浸出ガラス繊維材料の生成に適している。
【0016】
本開示は、1つには、CNT浸出ガラス繊維材料を作るための処理に対してもなされる。本明細書に開示された処理は、ガラス繊維材料に対して標準的なサイジング溶液を塗布する前に、又はその代わりに、新たに生成される発生期のガラス繊維材料に適用される。あるいは、本明細書に開示された処理は、工業用のガラス繊維材料、例えば、既に表面にサイジング剤が塗布されたガラス・ロービングを利用することができる。このような実施形態において、サイジング剤は、ガラス繊維材料及び合成されたCNTs間を直接接触させるために除去される。追加のサイジング剤は、CNTの合成後、所望によりガラス繊維材料に塗布される。
【0017】
本明細書に開示された処理は、トウ(tow)、ロービング、テープ、織物(fabric)などの巻き取り可能な長さに沿って、長さ及び分布が均一なカーボン・ナノチューブの連続的な生産を可能にする。マット(mat)、織物及び不織布などは、本発明の処理により機能が付与される一方、元となるロービング、トウ、ヤーン(yarn)に機能を付与した後に、これら母材から当該高規則構造を生成することも可能である。例えば、CNTが浸出したチョップド・ストランド・マット(chopped strand mat)は、CNT浸出ガラス繊維のロービングから生成可能である。
【0018】
本明細書に記載された処理において、長さ6フィートで成長温度が750℃である例示的なCNT成長チャンバーで、CNT浸出処理は、毎分約1フィートから毎分約72フィートの間のラインスピードで行われる。実施形態の中には、CNT成長チャンバーの全長を延ばすことにより、より早いラインスピードが達成されるものもある。
【0019】
本明細書では、用語「ガラス繊維材料」とは、基本的な構成成分としてガラス繊維を有するいかなる材料も指す。その用語には、繊維、フィラメント、紡績糸、トウ、ロービング、テープ、織物及び不織布、プライ(ply)、マットなどが包含される。
【0020】
本明細書では、用語「巻き取り可能な寸法」とは、ガラス繊維材料をスプール(spool)又はマンドレル(mandrel)に巻き取っておくことが可能な、長さの限定されない、ガラス繊維材料の有する少なくとも1つの寸法をいう。「巻き取り可能な寸法」のガラス繊維材料は、本明細書に記載されるように、CNT浸出のための1回分の処理又は連続処理のいずれかの利用に必要な少なくとも1つの寸法を有する。市販の巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料の1つの例としては、675テックス(1テックス=1g/1,000m)又は735ヤード/ポンドの寸法を有するS2ガラスのロービング(AGY,Aiken,South Carolina)が挙げられる。特に、工業用のガラス繊維材料のロービングは、例えば、5、10、20、50及び100ポンドのスプールで入手される。本発明の処理は、5〜20ポンドのスプールで容易に行われるが、より大きなスプールの使用も可能である。さらに、例えば、100ポンドまたはそれよりも大きい極めて長大な巻き取り長を、操作が容易な寸法、例えば、2つの50ポンドのスプールなどに分割する前処理工程を組み込むこともできる。
【0021】
本明細書では、用語「カーボン・ナノチューブ」(単数ではCNT、複数ではCNTs)とは、単層カーボン・ナノチューブ(SWNTs)、二層カーボン・ナノチューブ(DWNTs)、多層カーボン・ナノチューブ(MWNTs)を含むフラーレン群からなる多数の円筒形状の炭素同素体のうちのすべてをいう。CNTsは、フラーレンのような構造により閉塞されるか、又は両端が開口していてもよい。CNTsには、他の物質を封入するものが含まれる。
【0022】
本明細書で、「長さが均一」という場合、反応器において成長するCNTsの長さについて言及するものである。「均一な長さ」は、約1ミクロンから約500ミクロンの様々なCNT長さに関して、CNTsが、CNTの全長の±約20%またはそれ未満の許容誤差を伴う長さを有することを意味する。極めて短い長さ、例えば、1〜4ミクロンなどでは、この誤差は、CNTの全長の±約20%から±約1ミクロンまでの範囲、すなわち、CNTの全長の約20%よりも若干大きくなる。CNTの長さの均一性は、あらゆる長さの巻き取り可能なガラス繊維材料全体にわたって得られるが、本発明の処理により、巻き取り可能なガラス繊維材料のどの部分においても、個々の部位でCNTの長さを変化させることも可能となる。このため、例えば、巻き取り可能な長さのガラス繊維材料はCNTの長さが各部位内で均一であり、部位毎に所望のCNT長さとすることができる。このようなCNTの長さが異なる部位は、いかなる順序でも現れ、CNTsの欠けた部位を選択的に含めることも可能である。このようなCNT長さの制御は、本処理のラインスピード、キャリアガス及び炭素原料ガスの流量、反応温度、及び材料滞留時間を変化させることで可能となる。これらの処理における変数は全て、コンピューター制御により自動で操作され管理され得る。
【0023】
本明細書で、「分布が均一」とは、ガラス繊維材料におけるCNTの密度が不変であることをいう。「均一な分布」は、ガラス繊維材料におけるCNTsの密度が、CNTsにより被覆される繊維の表面積の割合として定義される被覆率において±約10%の許容誤差となることを意味する。これは、直径8nmの5層CNTでは、1平方マイクロメートル当たり±1500のCNTsに相当する。この形状ではCNTsの内部空間を充填可能と仮定している。
【0024】
本明細書では、用語「浸出する」とは結合されることを意味し、用語「浸出」とは結合処理を意味する。このような結合には、直接共有結合、イオン結合、π−π相互作用、及び/又はファンデルワールス力の介在による物理吸着などが含まれ得る。ガラス繊維材料に対するCNTの直接浸出は、CNTのナノ粒子触媒がCNT成長の最前線の先端に存在する成長機構によるものでもよい。すなわち、最終的な構造において、ナノ粒子触媒がガラス繊維材料に対して遠位にある。また、結合は間接的であってもよく、これにより、CNTsは、CNTs及びガラス繊維材料間にはさまれて配置された遷移金属ナノ粒子を介してガラス繊維材料に浸出する。本明細書に開示されたCNT浸出ガラス繊維材料において、カーボン・ナノチューブは、前述のように、直接的かつ間接的にガラス繊維材料に「浸出」し得る。CNTをガラス繊維材料に浸出させる方法は、「結合モチーフ」と呼ばれる。
【0025】
本明細書では、用語「遷移金属」とは、周期表のdブロックにおけるあらゆる元素又はその合金をいう。また、用語「遷移金属」には、卑遷移金属元素の塩形態(例えば、酸化物、炭化物、窒化物など)も含まれる。
【0026】
本明細書では、用語「ナノ粒子」若しくはNP(複数ではNPs)、又はその文法的な同等物とは、NPsは球形である必要はないが、球の等価直径が約0.1から約100μmの間のサイズの粒子をいう。遷移金属NPsは、特に、ガラス繊維材料上におけるCNTを一層成長させる触媒として機能する。
【0027】
本明細書では、用語「サイジング剤(sizing agent 若しくは、単にsizing)」、又は「繊維サイジング剤(fiber sizing agent)」とは、ガラス繊維の製造においてガラス繊維を完全な状態で保護するための、複合材料におけるガラス繊維及びマトリックス材間の界面相互作用を向上させるための、及び/又は、ガラス繊維の特定の物理的性質を変更及び/又は高めるための被覆として用いられる材料をいう。実施形態の中には、ガラス繊維材料に浸出するCNTsが、サイジング剤として作用するものもある。
【0028】
本明細書では、用語「マトリックス材」とは、サイジング剤を塗布したCNT浸出ガラス繊維材料をランダム配列などの特定の配列で構成する機能を果たすバルク材をいう。CNT浸出ガラス繊維材料の有する物理的及び/又は化学的性質のある部分が付与されることにより、マトリックス材はCNT浸出ガラス繊維材料の存在から利益を得ることが可能となる。
【0029】
本明細書では、用語「材料滞留時間」とは、巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料に沿った個々の位置で、本明細書に記載されるCNT浸出処理の間、CNTの成長が見られる時間をいう。この定義には、多層CNTの成長チャンバーを用いる場合の材料残留時間が含まれる。
【0030】
本明細書では、用語「ラインスピード」とは、本明細書に記載されるCNT浸出処理により、巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料を送り込むことができるスピードをいい、この場合、ラインスピードは、CNTの(1つの又は複数の)チャンバー長を材料残留時間で除して算出される速度である。
【0031】
ある実施形態において、本発明は、カーボン・ナノチューブ(CNT)が浸出したガラス繊維材料を含む組成物を提供する。CNT浸出ガラス繊維材料には、巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料と、ガラス繊維材料に結合されるカーボン・ナノチューブ(CNTs)と、が含まれる。ガラス繊維材料への結合には、例えば、CNTsのガラス繊維材料に対する直接結合(例えば、CNT合成の最前線に従うCNT触媒を伴った先端成長によく見られる)、CNTs及びガラス繊維材料間に配置された遷移金属ナノ粒子を介した間接的な結合、及びこれらの組み合わせなどの結合モチーフが含まれ得る。
【0032】
理論に拘束されるものではないが、CNT形成触媒として機能する遷移金属ナノ粒子は、CNT成長の核を形成することにより、CNT成長に触媒作用を及ぼす。CNT形成触媒は、CNT合成がCNT成長の最前線に沿って進展する間、「浮揚して(float)」することができ、これによりCNT形成触媒は、CNT合成が終了したときに、CNT形成触媒はガラス繊維材料から遠位のCNT終端に残留する。このような場合において、CNTの構造はガラス繊維材料に直接浸出する。同様に、CNT形成触媒は「浮揚して」いるが、CNTの完成構造の中間に出現する場合もあり、これは、触媒による成長速度を上回る、触媒によらない無核の成長速度によるものである。しかし、その結果生じるCNT浸出はガラス繊維材料に直接生じる。最後に、CNT形成触媒は、ガラス繊維材料の基部にとどまって浸出したままの場合もある。このような場合、遷移金属ナノ粒子触媒により最初に形成された核は、触媒の「浮揚(floating)」がなくても、触媒によらないCNT成長を継続する上で十分である。当業者であれば、CNT形成触媒が「浮揚」するか否かの制御が可能なCNT成長処理の重要性を認識するであろう。例えば、触媒が略完全に「浮揚して」いる場合、CNT形成遷移金属触媒は、CNTの合成後、ガラス繊維材料へのCNTsの浸出に影響を及ぼすことなく任意に除去可能である。カーボン・ナノチューブ及びガラス繊維材料間に形成される実際の結合の種類にかかわらず、浸出したCNTの直接的又は間接的な結合は強固であり、この結合により、CNT浸出ガラス繊維材料がカーボン・ナノチューブの特性及び/又は特徴を示すことができるようになる。
【0033】
CNT浸出ガラス繊維材料を有する組成物はCNTsが略均一な長さでもたらされる。本明細書に記載された連続処理において、CNT成長チャンバーにおけるガラス繊維材料の残留時間は調節されて、CNTの成長、及び最終的にはCNTの長さを制御する。これにより、成長するCNTsの特定の性質を制御する手段が提供される。また、CNTの長さは、炭素原料ガス及びキャリアガスの流量の調節を介しても制御される。CNTの性質は、例えば、CNTsを作るために用いられる触媒のサイズを制御することにより、更なる制御が可能となる。例えば、1nmの遷移金属ナノ粒子触媒は、特にSWNTsを提供するために用いられる。より大きな触媒は、主にMWNTsを作るために用いられる。
【0034】
さらに、用いられるCNT成長処理は、前もって形成されたCNTsを溶媒溶液中に懸濁又は拡散してガラス繊維材料に手作業で塗布する処理において発生し得るCNTsの束化及び/又は凝集を回避しつつ、ガラス繊維材料に均一に分布したCNT浸出ガラス繊維材料を提供する上で有効である。このように懸濁されたCNTsは、ともかくもガラス繊維材料に弱く結合する傾向にあり、CNT特有の性質はかすかにしか現れない。実施形態の中には、被覆率、すなわち被覆される繊維の表面積の百分率として表される最大分布密度が、直径約8nmの5層CNTsと仮定すると、約55%の大きさとなるものがある。この被覆率は、CNTsの内部空間を「充填可能な(fillable)」空間とみなして算出される。分布/密度の値は、表面における触媒の拡散を変化させるとともにガス組成及び処理速度を制御することにより、様々な値とすることができる。一定のパラメータに関しては、概して、全繊維表面で約10%以内の被覆率が達成される。密度が高くなりCNTsが短くなると、機械的性質の向上に有効となるのに対し、密度の増大が好ましいことに変わりはないが、密度が低くなりCNTsが長くなると、熱的性質及び電気的性質の向上に有効となる。密度が低くなるのは、CNTsが長く成長したときであるが、これは、粒子収量を低下させる高温かつ急速な成長によるものである。
【0035】
CNT浸出ガラス繊維材料を有する本発明の組成物には、例えば、ガラス・フィラメント、ガラス・ストランド(トウ)、ガラス・ヤーン、ガラス・ロービング、ガラス・テープ、ガラス繊維ブレード(glass fiber braid)、一方向織物及びテープ、光ファイバー、ガラス・ロービング織物、不織ガラス繊維マット、並びにガラス繊維プライ(glass fiber ply)が含まれる。ガラス繊維は、繊維製品の加工に概して適した直径を有するシリカ基剤型(silica based formulation)から細いストランドを押し出すことにより形成される。ガラス・フィラメントには、約1ミクロンから約50ミクロンまでの直径を有する高アスペクト比のガラス繊維が含まれる。ガラス・ストランド又はトウは、一般的にフィラメントを密に結合した束であり、通常は撚り合わされてヤーンとなる。
【0036】
ヤーンには、撚り合わされたフィラメント又はストランドを密に結合した束が含まれる。ヤーンにおける各フィラメントの直径は、比較的均一である。ヤーンは、1000リニアメーターのグラム重量として示される「テックス(tex)」、又は10,000ヤードのポンド重量として示されるデニール(denier)により、通常は、約5gから約400gまでの標準的なテックス範囲で表される様々な重量を有する。
【0037】
ロービングには、撚り合わされていないフィラメント又はストランドを緩く結合した束が含まれる。ヤーンと同様に、ロービングにおけるフィラメントの直径は、一般的に均一である。また、ロービングも様々な重量を有し、テックス範囲は、通常、約300gから約4800gの間となる。溶融処理後直ちにフィラメントが集束される場合、得られる束はダイレクト・ロービングと呼ばれる。また、ガラス・ストランドの製造後、数本のガラス・ストランドが別々にまとめられて、合糸ロービング(assembled roving)を提供する。合糸ロービングは、通常、ダイレクト・ロービングよりも小径のフィラメントを有する。これにより、優れたウェットアウト(wet-out)及び機械的性質を備えたロービングを提供することが可能となる。
【0038】
ガラス・テープ(又はより広いシート)は、溶融ガラスから直接引き出されるか、又は織物組織として組まれる材料である。ガラス・テープは、さまざまな幅をもち、通常リボンに類似する両面構造である。本発明の処理では、テープの一面又は両面におけるCNTの浸出が両立可能である。CNT浸出テープは、平らな基材表面上の「カーペット(carpet)」あるいは「樹木林(forest)」に似ている。さらに、本発明の処理は、テープの巻き取りを機能させるために、連続的なモードで実施できる。
【0039】
ガラス繊維ブレードは、ガラス繊維が高密度に詰め込まれたロープ状構造を示す。このような構造は、例えば、ガラス・ヤーンから組まれる。編み上げ構造は中空部分を含んでもよく、あるいは、別のコア材料の周囲に組まれてもよい。
【0040】
光ファイバーは、その長さ方向に光を伝達するためのものである。光は、光ファイバーを導波路として作用させる全反射により、光ファイバーのコア内に閉じ込められる。ある実施形態では、光ファイバーは、多数の伝播経路又は横モードのサポートが可能なマルチモード・ファイバー(MMF)である。他の実施形態では、光ファイバーは、シングルモード・ファイバー(SMF)である。マルチモード・ファイバーは、一般的に、コアの直径が大きめであり、近距離通信回線及び高出力送信用途に用いられる。シングルモード・ファイバーは、約550m又は約1800フィートよりも長い殆どの通信回線に用いられる。
【0041】
実施形態の中には、多数の一次ガラス繊維材料の構造体が、織物又はシート状構造物に組織化されるものもある。これらには、例えば、ガラス・ロービング織物、不織ガラス繊維マット及びガラス繊維プライに加えて、前述のテープが含まれる。このような高い規則構造は、元となるトウ、ヤーン、ロービング、フィラメントなどから、その母繊維にCNTsを既に浸出させた状態で組まれる。あるいは、このような構造体は、本明細書に記載されたCNT浸出処理のための基材として機能する。
【0042】
ガラス繊維材料に用いられるガラスの種類は、例えば、Eガラス、Aガラス、E−CRガラス、Cガラス、Dガラス、Rガラス、及びSガラスなどの、いかなる種類であってもよい。Eガラスは、1重量%未満のアルカリ酸化物を有するアルミノホウケイ酸塩ガラスを含有し、主としてガラス強化プラスチックに用いられる。Aガラスは、酸化ボロンが殆どないか、又は皆無の、アルカリ石灰ガラスを含有する。E−CRガラスは、1重量%未満のアルカリ酸化物を有する石灰アルミノケイ酸塩(alumino-lime silicate)を含有し、高い耐酸性を有する。Cガラスは、高含有量の酸化ボロンを有するアルカリ石灰ガラスを含有し、例えば、ガラス・ステープル・ファイバー(glass staple fiber)に用いられる。Dガラスは、ホウケイ酸塩ガラスを含有し、高い絶縁定数を有する。Rガラスは、MgO及びCaoを含まないアルミノケイ酸塩ガラスを含有し、高い機械的強度を有する。Sガラスは、Caoは含まないがMgOの含有量が高いアルミノケイ酸塩ガラスを含有し、高い引張強度を有する。これら1以上の種類のガラスが処理されて前述のガラス繊維材料にされる。特定の実施形態において、ガラスはEガラスである。他の実施形態において、ガラスはSガラスである。
【0043】
ガラス繊維材料への浸出に有効なCNTsには、単層CNTs、2層CNTs、多層CNTs、及びそれらの組み合わせが含まれる。使用すべきCNTsは、正確には、CNT浸出ガラス繊維の用途による。CNTsは、熱的な及び/又は電気的な伝導用途に、又は絶縁体として用いられる。実施形態の中には、浸出したカーボン・ナノチューブが単層ナノチューブのもの、多層ナノチューブのもの、及び単層ナノチューブと多層ナノチューブの組み合わせのものがある。単層ナノチューブと多層ナノチューブ特有の性質には異なるものもあり、CNT浸出ガラス繊維の最終用途により、どちらの種類のナノチューブを合成するかが決定される。例えば、単層ナノチューブは、半導体的又は金属的となり得るのに対し、多層ナノチューブは金属的である。
【0044】
CNTsは、例えば、機械的強度、低〜中程度の電気抵抗率、高熱伝導性などの特有の性質を、CNT浸出ガラス繊維材料に与える。例えば、ある実施形態では、カーボン・ナノチューブ浸出ガラス繊維材料の電気抵抗率は、母材のガラス繊維材料の電気抵抗率よりも低い。得られるCNT浸出繊維がこれらの特徴を示す程度は、カーボン・ナノチューブによるガラス繊維被覆の範囲及び密度の関数となる。直径8nmの5層MWNTと仮定すると、ガラス繊維のうち0〜55%の繊維表面積が被覆される(この場合も、この計算はCNTsの内部空間を充填可能とみなしている)。この数字は、CNTsの直径が小さくなると低くなり、CNTsの直径が大きくなると高くなる。55%の表面積被覆率は、1μm2当たり約15,000のCNTsに相当する。さらに、CNTの性質は、前述のように、CNTの長さに依存する形でガラス繊維に付与される。浸出したCNTsの長さは、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲(1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、5ミクロン、6ミクロン、7ミクロン、8ミクロン、9ミクロン、10ミクロン、15ミクロン、20ミクロン、30ミクロン、35ミクロン、40ミクロン、45ミクロン、50ミクロン、60ミクロン、70ミクロン、80ミクロン、90ミクロン、100ミクロン、150ミクロン200ミクロン、250ミクロン、300ミクロン、350ミクロン、400ミクロン、450ミクロン、500ミクロン、及びこれらの間の全ての値など)において様々である。また、CNTsは、例えば、約0.5ミクロンなど、長さを約1ミクロンよりも短くすることもできる。また、CNTsは、例えば、510ミクロン、520ミクロン、550ミクロン、600ミクロン、700ミクロン及びこれらの中間の全ての値など、500ミクロンよりも長くすることもできる。
【0045】
本発明の組成物は、約1ミクロンから約10ミクロンまでの長さを有するCNTsを組み込むことができる。このようなCNTの長さは引張強度を向上する用途に有効である。また、CNTsは、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有してもよい。このようなCNTsの長さは電気的/熱的及び機械的特性を向上するのに有効である。また、本発明に用いられる処理は、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsを提供できるが、電気的性質及び熱的特性の向上にも有益である。このようなCNT長の制御は、様々なラインスピードと相まって、炭素原料ガス及び不活性ガスの流量を変化させることで容易に達成される。
【0046】
ある実施形態において、巻き取り可能な長さのCNT浸出ガラス繊維材料を含有する組成物には、CNTsの長さが異なる様々な均一領域がある。例えば、引張強度特性を高めるためには、CNT浸出ガラス繊維材料のうち均一に短いCNT長を備えた第1の領域を、そして、電気的性質又は熱的特性を高めるためには、同じ巻き取り可能な材料のうち均一に長いCNT長を備えた第2の領域を有することが好ましい。
【0047】
ガラス繊維材料にCNTを浸出させるための本発明の処理により、CNTの長さを均一に、かつ、巻き取り可能なガラス繊維材料に対するCNTsを用いた高速機能付与が可能な連続処理で制御することが可能となる。CNT成長チャンバーにおける5秒から300秒の材料滞留時間に関して、長さ3フィートのCNT成長チャンバーの場合の連続処理におけるラインスピードを、毎分約0.5フィートから毎分約36フィート以上のあらゆる範囲とすることが可能である。選択されるラインスピードは、以下でさらに説明されるように、様々なパラメータにより決まる。
【0048】
実施形態の中には、約5秒から約30秒の材料残留時間により、約1ミクロンから約10ミクロンの長さを有するCNTsを製造するものがある。また、実施形態の中には、約30秒から約180秒の材料残留時間により、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有するCNTsを製造するものもある。さらに、実施形態の中には、約180秒から約300秒の材料残留時間により、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsを製造するものもある。当業者であれば、これらの範囲がおおよそのものであり、また、CNTの長さが、反応温度、並びに、キャリア及び炭素原料の濃度及び流量により変更可能であることを認識できる。
【0049】
本明細書に開示された浸出CNTsは従来のガラス繊維の「サイジング剤(sizing)」の代替品として有効に機能する。浸出CNTsは、従来のサイジング剤よりも一層強固であり、複合材料中の繊維−マトリックス間界面を改善し、より一般的には、繊維−繊維間界面を改善することができる。実際には、CNT浸出ガラス繊維材料の特性が、ガラス繊維材料の特性に加えて浸出CNTsの特性を組み合わせたものであるという点で、本明細書に開示されるCNT浸出ガラス繊維材料は、それ自体が複合材料である。したがって、本発明の実施形態は、ガラス繊維材料に所望の特性を与える手段を提供するが、その手段によらなければ、ガラス繊維材料には、このような特性が欠如するか、又は不十分である。ガラス繊維材料は、特定用途の必要性を満たすために調整又は設計される。サイジング剤として働くCNTsは、疎水性のCNT構造により水分の吸収からガラス繊維材料を保護する。さらに、疎水性のマトリックス材は、以下でさらに例示されるように、疎水性のCNTsと良好に相互作用して繊維−マトリックス間の相互作用を向上させる。
【0050】
前述の浸出CNTsを有するガラス繊維材料に付与される有益な特性にもかかわらず、本発明の組成物は「従来の」サイジング剤をさらに含むことができる。このようなサイジング剤には、多様な種類及び機能があり、例えば、界面活性剤、静電気防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、でんぷん、及びこれらの組み合わせが含まれる。このようなサイジング剤は、CNTs自体を保護するために、又は浸出CNTsの存在からはガラス繊維へ与えられない更なる特性を付与するために、補助的に用いることができる。
【0051】
本発明の組成物には、CNT浸出ガラス繊維材料で複合材料を形成するためのマトリックス材が含まれる。このようなマトリックス材には、例えば、エポキシ、ポリエステル、ビニルエステル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリフタルアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フェノールホルムアルデヒド、及びビスマレイミドが含まれる。本発明に有用なマトリックス材には、既知のマトリックス材のいかなるものも含まれる(Mel M.Schwartz, Composite Materials Handbook (2d ed. 1992)参照)。さらに一般的には、マトリックス材には、樹脂(ポリマー)、熱硬化性及び熱可塑性の両プラスチック、金属、セラミック、並びにセメントが含まれる。
【0052】
マトリックス材として有用な熱硬化性樹脂には、フタル酸/マレイン酸型のポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール類、シアン酸塩、ビスマレイミド、及びナディック・エンド・キャップド・ポリイミド(nadic end-capped polyimides)(例えば、PMR−15)が含まれる。熱可塑性樹脂には、ポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレン酸化物、ポリ硫化物、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、及び液晶ポリエステルが含まれる。
【0053】
マトリックス材として有用な金属には、例えば、アルミニウム6061、アルミニウム2024、及び713アルミニウム・ブレーズ(aluminium braze)などのアルミニウム合金が含まれる。マトリックス材として有用なセラミックには、ガラス・セラミック(例えば、リチウムアルミノケイ酸塩など)、酸化物(例えば、アルミナやムライトなど)、窒化物(例えば、窒化ケイ素など)、及び炭化物(例えば、炭化ケイ素)が含まれる。マトリックス材として有用なセメントには、炭化物ベースのセメント(炭化タングステン、炭化クロム及び炭化チタン)、耐火セメント(タングステントリア(tungsten-thoria)及び炭酸バリウム−ニッケル(barium-carbonate-nickel))、クロム−アルミニウム、ニッケル−マグネシア、及び鉄−炭化ジルコニウムが含まれる。前述のマトリックス材のいかなるものも、単独で、又は組み合わせて用いることができる。
【0054】
図1〜6は、本明細書に記載される処理により作られたガラス繊維材料のTEM及びSEM画像を示す。これらの材料を作るための手順は、以下及び実施例I〜IIIにおいて詳述される。図1は、Eガラス繊維材料上で成長した多層カーボン・ナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。図2は、Eガラス繊維上における約10%以内の均一な密度のCNT成長を明示する走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図3は、Eガラス繊維上における半径方向に配向された長さ約10ミクロンの均一なCNT成長を明示するSEM画像を示す。図4は、Sガラス繊維上における約10%以内の均一な密度のCNT成長を明示するSEM画像を示す。図5は、Sガラス繊維上における半径方向に配向された長さ約25ミクロンの均一なCNT成長を明示するSEM画像を示す。図6は、Sガラス繊維上における半径方向に配向された長さ約5ミクロンの均一な短CNT成長を明示するSEM画像を示す。
【0055】
CNT浸出ガラス繊維材料は無数の用途に用いられる。非伝導性型の単層カーボン・ナノチューブがガラス繊維上で成長する場合、得られるCNT浸出ガラス繊維材料は絶縁用途に用いられる。CNT浸出ガラス繊維は、例えば、自動車産業や掘削産業において使用される圧力ホースを強化するために用いられる。
【0056】
CNT浸出ガラス繊維材料は耐摩耗性が要求される用途に用いられる。このような耐摩耗性が要求される用途には、例えば、ゴム製Oリングやガスケットシール剤が含まれる。
【0057】
CNTsの有効表面積が大きいことで、CNT浸出ガラス繊維材料は水をろ過する用途や他の抽出処理(例えば、水からの有機油の分離など)に有効となる。CNT浸出ガラス繊維材料は、地下水面、水貯蔵施設、又は家庭やオフィスユースのためのインライン(in-line)フィルタから有機毒を除去するために用いられる。
【0058】
油田技術において、CNT浸出ガラス繊維は、掘削装置、例えば、パイプベアリング、配管補強材、及びゴム製Oリングなどの製品に有用である。さらに、前述されたように、CNT浸出ガラス繊維を抽出処理に用いることもできる。貴重な石油鉱床を含む地層において、このような抽出特性を適用することにより、それを適用しないと扱い難い地層からCNT浸出ガラス繊維材料を用いて石油を抽出することが可能となる。例えば、CNT浸出ガラス繊維材料を用いて、相当量の水及び/又は砂が存在する地層から石油を抽出することができる。また、CNT浸出ガラス繊維材料は、これを用いなければ、高沸点のため抽出が困難となる重油の抽出にも有用である。有孔配管システムと併せて、例えば、有孔配管に上塗りされたCNT浸出ガラス繊維材料による前記重油のウィッキング(wicking)を真空系などと動作可能に結び付けて、重油層又はオイルシェール層から高沸点留分を連続的に除去することが可能となる。さらに、当業者に知られているように、このような処理を、従来の熱的又は触媒作用的なクラッキング法とともに、又はその代わりに用いることもできる。
【0059】
CNT浸出ガラス繊維材料は航空宇宙及び弾道学アプリケーションにおいて構造要素を強化する。構造物(例えば、ミサイルのノーズコーン、翼端)、主要構造部品(例えば、フラップ及びエアロフォイル(aerofoil)、プロペラ及びエアブレーキ、小型飛行機の胴体、ヘリコプターのシェル(shell)及びローターブレード)、補助的な構造部品(例えば、フロア、ドア、シート、空調装置)、並びに、補助タンク及び航空機のモーター部品にとって、CNT浸出ガラス繊維によりもたらされる構造の強化は有益である。その他の多くの用途においても構造強化がなされるが、これには、例えば、掃海艇の船体、ヘルメット、レードーム(radome)、ロケット・ノズル、担架、及びエンジン構成部品が含まれる。建造物及び建築物において、屋外機能の構造的な強化には、柱、ペディメント(pediments)、ドーム、コーニス(cornices)、及び型枠が含まれる。同様に、建造物の内部構造において、例えば、ブラインド、衛生陶器、窓枠などにとっても、全てCNT浸出ガラス繊維材料の使用は有益である。
【0060】
海洋産業において、強化される構造には、ボートの船体、ストリンガー(stringer)及び甲板が含まれる。また、CNT浸出ガラス繊維材料は、大規模運輸業において、例えば、トレーラー壁面の大型パネル、鉄道車両の床板、トラックの運転室、車体外部鋳造品(exterior body molding)、バスの車体、及び貨物コンテナにも用いられる。自動車用途において、CNT浸出ガラス繊維材料は、トリミング(trimming)、シート、及び計器盤などの内部部品に用いられる。車体パネル、開口部、車体底面部、並びに、フロント及びリアモジュールなどの外部構造は、全て、CNT浸出ガラス繊維材料の使用から利益を得る。アクスル及びサスペンション、燃料及び排気システム、並びに、電気及び電子部品などの自動車のエンジンルーム及び燃料機械エリアの部品でも、全て、CNT浸出ガラス繊維材料が利用可能である。
【0061】
CNT浸出ガラス繊維材料の他のアプリケーションには、橋梁構造物、強化コンクリート製品(例えば、ダウエルバー、鉄筋、ポストテンション(post-tensioning)及びプレストレス(pre-stressing)テンドン、定置の骨組み(stay-in-place framework))、電力送電及び配電構造物(例えば、電柱、送電塔及び腕金)、幹線道路の安全装置及び沿道機能(例えば、標識支柱、ガードレール、標柱及び支柱、遮音塀)、並びに、地方自治体における導管や貯蔵タンクなどが含まれる。
【0062】
また、CNT浸出ガラス繊維材料は、様々なレジャー用具、例えば、水上及び雪上スキー、カヤック、カヌー及びパドル、スノーボード、ゴルフクラブのシャフト、ゴルフ用手押しカート、釣竿、並びにスイミングプールにも用いられる。他の消費財及び事務機器には、歯車、鍋、住宅、ガス耐圧瓶、家庭用電化製品(例えば、洗濯機、皿洗い機ドラム、ドライヤー、ごみ処理機、空調装置、及び加湿器)の構成要素が含まれる。
【0063】
また、CNT浸出ガラス繊維の電気的性質は様々なエネルギー及び電気的アプリケーションに影響を与える。例えば、CNT浸出ガラス繊維材料は、風力タービンブレード、太陽光利用システム、電子回路の筐体(例えば、ノート型パソコン、携帯電話、コンピューター・キャビネットなどであり、このようなCNT浸出材料は、例えば、EMI遮蔽に利用される)に用いられる。他のアプリケーションには、電力線、冷却機、照明用ポール、回路基板、配電盤、ラダーレール(ladder rail)、光ファイバー、建造物に組み込まれた機能(例えば、データ回線、コンピューター端子箱など)、事務機器(例えば、コピー機、キャッシュレジスター、郵便機器など)が含まれる。
【0064】
ある実施形態において、本発明はCNT浸出の連続処理を提供するが、この処理には、(a)巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料の表面にカーボン・ナノチューブを形成する触媒を配置すること、及び(b)ガラス繊維材料上にカーボン・ナノチューブを直接合成して、これにより、カーボン・ナノチューブが浸出したガラス繊維材料を形成すること、が含まれる。CNT連続浸出処理は、CNT成長チャンバー内における約5秒〜約300秒の材料滞留時間を有する。
【0065】
ある実施形態において、約5秒から約30秒の材料残留時間により、約1ミクロンから約10ミクロンの長さのCNTsが製造される。ある実施形態において、約30秒から約180秒の材料残留時間により、約10ミクロンから約100ミクロンの長さのCNTsが製造される。またさらなる実施形態において、約180秒から約300秒の材料残留時間により、約100ミクロンから約500ミクロンの長さのCNTsが製造される。
【0066】
このように、材料残留時間が約5秒から約300秒の範囲では、長さ9フィートのCNT成長チャンバーにおいて、処理のラインスピードは毎分約1.5フィートから毎分約108フィートの範囲となる。本明細書に記載される処理により達成されるラインスピードは、商業的に適量のCNT浸出ガラス繊維材料を短い製造時間で形成可能にする。例えば、5つの別のロービング(1ロービング当たり20ポンド)を同時に処理するように設計されたシステムにおいて、毎分36フィートのラインスピードでは、CNT浸出ガラス繊維(繊維上に5重量%超のCNTsが浸出する)の量は、1日の製造量は100ポンド以上に及ぶ。このシステムは、成長ゾーンを繰り返すことにより、一度に、又はより高速に大量のロービングを製造するように構成されている。さらに、CNTsの製造工程には、当業者に周知のように、連続運転モードを阻む極低速なものがある。例えば、周知の標準的な処理において、CNT形成触媒の低減工程を行うのに1〜12時間かかる。本明細書に記載された処理は、このような速度を制限する工程を克服する。
【0067】
本発明のCNT浸出ガラス繊維材料の形成処理は、前もって形成されたカーボン・ナノチューブの懸濁液をガラス繊維材料に塗布しようとする場合に生じるCNTの絡み合いを回避できる。すなわち、前もって形成されたCNTsはガラス繊維材料に結合しないため、CNTsは束になって絡みやすくなる。その結果、CNTsが均一に分布し難くなり、ガラス繊維材料に弱く結合してしまう。しかし、本発明の処理は、必要に応じて、成長密度を低減することにより、ガラス繊維材料の表面で高均一に絡み合ったCNTマットを提供できる。低密度で成長したCNTsは、最初にガラス繊維材料に浸出する。このような実施形態において、CNT浸出ガラス繊維は、垂直配列を生じさせるほどには高密度に成長しない。その結果、ガラス繊維材料表面で絡み合ったマットとなる。これとは対照的に、前もって形成されたCNTsを手作業で塗布する場合、ガラス繊維材料上のCNTマットの分布及び密度を確実に均一にすることはできない。
【0068】
図7は、本発明の例示の実施形態に従ってCNT浸出ガラス繊維材料を製造するための処理700のフローチャートを示す。
【0069】
処理700には、少なくとも、
【0070】
702:CNT形成触媒をガラス繊維材料に塗布する工程と、
【0071】
704:ガラス繊維材料を、カーボン・ナノチューブを合成するのに十分な温度まで加熱する工程と、
【0072】
706:触媒を含んだガラス繊維上にCVDを介してCNT成長を促進する工程と、が含まれる。
【0073】
カーボン・ナノチューブをガラス繊維材料に浸出させるために、カーボン・ナノチューブはガラス繊維材料上に直接合成される。例示の実施形態において、これは、工程702のように、ガラス繊維上にナノチューブ形成触媒を最初に配置することにより可能となる。
【0074】
触媒配置の前に、ガラス繊維材料をプラズマで任意に処理して、触媒を受け入れる表面を下処理できる。例えば、プラズマで処理されたガラス繊維材料により、CNT形成触媒が配置される粗面化されたガラス繊維表面がもたらされる。ある実施形態において、プラズマは、ガラス繊維表面を「浄化」する機能を果たす。このようにガラス繊維材料の表面を「粗面化(roughing)」するためのプラズマ処理は、触媒の配置を容易にする。粗度は、通常、ナノメートル程度である。プラズマ処理工程において、深さ及び直径がナノメートル単位のクレーター(crater)又はくぼみが形成される。このような表面改質は、限定するわけではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、窒素及び水素など、種々異なる1以上のガスをプラズマに用いて可能となる。
【0075】
CNT形成触媒の配置の前に、又はこれと並行した別の任意の工程は、ガラス繊維材料に対するバリア・コーティング(barrier coating)の塗布である。このようなコーティングには、例えば、アルコキシシラン、アルモキサン、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス、ガラスナノ粒子が含まれる。当該CNT形成触媒は、一実施形態において、未硬化のバリア・コーティング材に加えられて、その後、共にガラス繊維材料に塗布される。他の実施形態において、バリア・コーティング材は、CNT形成触媒の配置前にガラス繊維材料に加えられる。このような実施形態において、バリア・コーティングは触媒配置の前に部分的に硬化される。バリア・コーティング材は、この後のCVD成長のために、炭素原料にCNT形成触媒をさらせる程度に十分薄い厚さである必要がある。ある実施形態では、その厚さは、CNT形成触媒の有効径よりも小さいか、それとほぼ等しい。CNT形成触媒及びバリア・コーティングが適切に配置されれば、バリア・コーティングは十分に硬化される。
【0076】
理論に拘束されるものではないが、バリア・コーティングは、ガラス繊維材料とCNTsの中間層としての機能を果たすことができ、CNTsをガラス繊維材料に機械的に浸出させる働きをする。このような機械的な浸出は、ガラス繊維材料がCNTsを組織化するための基盤としてなお機能する強固な機構を変わらず提供し、そして、バリア・コーティングを伴う機械的な浸出には本明細書で前述した間接的なタイプの結合に類似するという利点がある。さらに、バリア・コーティングを含むことの利点は、水分にさらされることによる化学的ダメージ、及び/又はCNT成長を促進するために用いられる温度でガラス繊維材料を加熱することによるあらゆる熱的ダメージから、ガラス繊維材料を直接保護するという点にある。
【0077】
さらに後述されるように、また図7を併用して、触媒は、遷移金属ナノ粒子を含んで構成されるCNT形成触媒を含有する溶液として調整される。合成されたナノチューブの直径は、前述のように、遷移金属ナノ粒子のサイズに関連する。
【0078】
図7の例示の実施形態に関して、カーボン・ナノチューブの合成は、化学蒸着(CVD)処理に基づいて示されており、高温で生じる。具体的な温度は触媒の選択に応じて変化するが、通常は、約500℃〜約1000℃の範囲である。したがって、工程704には、カーボン・ナノチューブの合成をサポートする前記範囲における温度までガラス繊維材料を加熱することが含まれる。
【0079】
次に、工程706において、触媒を含んだガラス繊維材料上でCVDにより促進されるナノチューブ成長が実施される。CVD処理は、例えば、炭素含有原料ガス(例えば、アセチレン、エチレン、及び/又はエタノール)により促進される。CNT合成処理では、主要なキャリアガスとして、通常、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)が用いられる。炭素原料は、混合物全体の約0%から約15%の範囲で供給される。CVD成長のための略不活性環境が、成長チャンバーから水分及び酸素を除去して準備される。
【0080】
CNTの合成処理において、CNTsは、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の部位で成長する。強プラズマ励起電界を任意に用いてナノチューブの成長に影響を与えることができる。すなわち、成長は、電界方向に従う傾向がある。プラズマ・スプレーの配置及び電界を適切に調節することにより、垂直配向の(すなわち、ガラス繊維材料に対して垂直な)CNTsが合成され得る。一定の条件下では、プラズマがない場合であっても、密集したナノチューブは、成長方向を垂直に維持して、カーペット又は樹木林に似た高密度配列のCNTsになる。
【0081】
ガラス繊維材料上に触媒を配置する工程は、溶液のスプレー、若しくは溶液の浸漬被覆により、又は、例えば、プラズマ処理を用いた気相蒸着により可能である。このように、実施形態の中には、触媒を溶媒に含んだ溶液を形成した後、ガラス繊維材料にその溶液をスプレー若しくは浸漬被覆することにより、又はスプレー及び浸漬被覆の組み合わせにより、触媒が塗布されるものがある。単独で、又は組み合わせて用いられるいずれかの方法は、1回、2回、3回、4回、あるいは何回でも使用され、CNT形成触媒で十分均一に被覆されたガラス繊維材料を提供する。浸漬被覆が使用される場合、例えば、ガラス繊維材料は、第1の浸漬槽において、第1の滞留時間、第1の浸漬槽内に置かれる。第2の浸漬槽を使用する場合、ガラス繊維材料は、第2の滞留時間、第2の浸漬槽内に置かれる。例えば、ガラス繊維材料は、浸漬構造及びラインスピードに応じて約3秒から約90秒の間、CNT形成触媒の溶液にさらされる。スプレー又は浸漬被覆を使用する場合、ガラス繊維材料の触媒表面密度は、約5%未満から約80%までの表面被覆率で、CNT形成触媒ナノ粒子は略単分子層となる。ある実施形態において、ガラス繊維材料上のCNT形成触媒の被覆処理では、単分子層以外のものを生成すべきではない。例えば、大量のCNT形成触媒上におけるCNT成長は、CNTのガラス繊維材料への浸出度を損なうことがある。他の実施形態では、蒸発技術、電解析出技術、及び当業者に周知な他の処理(例えば、有機金属、金属塩又は気相輸送を促進する他の組成物としてのプラズマ原料ガスへ遷移金属触媒を添加することなど)を用いて、遷移金属触媒をガラス繊維材料上に配置する。
【0082】
本発明の処理は連続処理となるように設計されるため、巻き取り可能なガラス繊維材料は、一連の槽で浸漬被覆が可能である(この場合、浸漬被覆槽は空間的に分離されている)。発生期のガラス繊維が新たに生成される連続処理において、CNT形成触媒の浸漬又はスプレーは、新たに形成されたガラス繊維材料を十分に冷却した後の第1段階である。このように、サイジング剤の塗布に代えてCNT形成触媒の塗布が行われる。他の実施形態では、CNT形成触媒は、他のサイジング剤のもとで、新たに形成されたガラス繊維に塗布される。このようなCNT形成触媒及び他のサイジング剤の同時塗布であっても、CNT形成触媒をガラス繊維材料との表面接触により供給してCNTの浸出を確実にすることができる。またさらなる実施形態において、ガラス繊維材料が、例えば、焼きなまし温度近傍又はそれ未満の温度でまだ十分に軟化されている間、CNT形成触媒がスプレー又は浸漬被覆により発生期のガラス繊維に塗布され、これにより、CNT形成触媒がガラス繊維材料の表面に若干埋め込まれる。このような高温のガラス繊維材料上にCNT形成触媒を配置する場合、ナノ粒子が溶融してCNTの特徴(例えば、CNTの直径など)を制御できなくなるCNT形成触媒の融点を超えないように配慮する必要がある。
【0083】
使用される触媒溶液は、遷移金属ナノ粒子であるが、これは、前述したように、dブロックのいかなる遷移金属であってもよい。加えて、ナノ粒子には、dブロック金属の入った元素形態又は塩形態の、合金や非合金の混合物、及びそれらの混合物が含まれる。このような塩形態には、限定するものではないが、酸化物、炭化物及び窒化物が含まれる。限定されない例示的な遷移金属NPsには、Ni、Fe、Co、Mo、Cu、Pt、Au及びAg、並びにそれらの塩及び混合物が含まれる。実施形態の中には、CNT形成触媒をガラス繊維材料に直接塗布するか、又は直接浸出させることにより、このようなCNT形成触媒がガラス繊維上に配置されるものがある。この遷移金属触媒の多くは、例えば、Ferrotec Corporation(Beford, NH)などの様々なサプライヤーから市販されており容易に入手できる。
【0084】
ガラス繊維材料にCNT形成触媒を塗布するために用いられる触媒溶液は、CNT形成触媒を全体にわたって均一に分散させるいかなる共通溶媒でもよい。このような溶媒には、限定するものではないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン、又はCNT形成触媒ナノ粒子の適切な分散系を生成するために極性が制御された他のいかなる溶媒、が含まれる。CNT形成触媒の濃度は、触媒対溶媒で、およそ1:1から1:10000の範囲内である。
【0085】
ある実施形態において、ガラス繊維材料にCNT形成触媒を塗布した後、ガラス繊維材料は、軟化温度まで加熱される。これは、ガラス繊維材料の表面にCNT形成触媒を埋め込むのに役立ち、また触媒が「浮揚」せずに有核成長を促す。実施形態の中には、ガラス繊維材料上に触媒を配置した後、ガラス繊維材料が約500℃から1000℃までの温度で加熱されるものがある。CNTの成長に用いるこのような温度への加熱は、ガラス繊維上の既存のサイジング剤を除去する働きをするため、既存のサイジング剤を事前に除去することなくCNT形成触媒を配置することができる。このような実施形態において、CNT形成触媒は、加熱前に、サイジング剤の被覆の表面上にあってもよいが、サイジング剤の除去後は、ガラス繊維材料と表面接触する。これらの温度での加熱は、CNT成長のための炭素原料の導入前に、又はそれと略同時に行われる。
【0086】
ある実施形態において、本発明により提供される処理が含むのは、ガラス繊維材料からサイジング剤を除去し、サイジング剤除去後にCNT形成触媒をガラス繊維材料へ塗布し、ガラス繊維材料を少なくとも500℃まで加熱し、そして、ガラス繊維材料上にカーボン・ナノチューブを合成することである。ある実施形態において、CNT浸出処理の工程には、ガラス繊維材料からのサイジング剤の除去、ガラス繊維へのCNT形成触媒の塗布、CNT合成温度に向けたガラス繊維の加熱、及び触媒を含むガラス繊維材料上への炭素プラズマのスプレーが含まれる。このように、工業用のガラス繊維材料が使用される場合、CNT浸出ガラス繊維を構成するための処理には、ガラス繊維材料上に触媒を配置する前に、ガラス繊維材料からサイジング剤を除去する個別の工程が含まれる。工業用サイジング剤の存否にもよるが、サイジング剤が除去されない場合には、CNT形成触媒はガラス繊維材料と表面接触せず、これにより、CNTの溶融を抑制できる。ある実施形態において、CNTの合成条件下でサイジング剤を確実に除去する場合には、サイジング剤の除去は、触媒配置後であって炭素原料の供給直前に行われる。
【0087】
カーボン・ナノチューブの合成工程には、同時係属の米国特許出願第2004/0245088号に開示され、参照により本明細書に組み込まれるものなど、カーボン・ナノチューブを形成するための多数の技術が含まれる。本発明のガラス繊維上におけるCNTs成長は、限定するものではないが、微小共振器(micro-cavity)、熱又はプラズマ助長CVD技術、レーザー・アブレーション、アーク放電、高圧一酸化炭素(HiPCO)などの、当業者に周知の技術により可能である。CVDでは、特に、CNT形成触媒が配置されサイジング剤が塗布されたガラス繊維材料が直接用いられる。ある実施形態において、従来のいかなるサイジング剤もCNT合成中に除去可能である。他の実施形態では、他のサイジング剤は除去されないが、サイジング剤を介した炭素源の拡散のため、ガラス繊維材料へのCNT合成及び浸出を妨害することはない。実施形態の中には、アセチレンガスがイオン化されて、CNT合成のための低温炭素プラズマジェットを生じるものがある。プラズマは触媒を有するガラス繊維材料に向けられる。このように、ある実施形態においては、ガラス繊維材料上におけるCNTsの合成には、(a)炭素プラズマを形成すること、及び(b)ガラス繊維材料上に配置された触媒に炭素プラズマを向けること、が含まれる。成長するCNTsの直径は、前述のように、CNT形成触媒のサイズにより決定される。ある実施形態において、サイジング剤が塗布された繊維基材は約550℃〜約800℃まで加熱され、CNT合成を容易にする。CNTsの成長を開始するために、プロセスガス(例えば、アルゴン、ヘリウム又は窒素)及び炭素含有ガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノール又はメタン)の2つのガスが反応器(reactor)に流される。CNTsは、CNT形成触媒の部位で成長する。
【0088】
ある実施形態において、CVD成長はプラズマで助長される。プラズマは、成長処理中に電界を与えることにより生成される。この条件下におけるCNTsの成長は電界の方向に従う。したがって、反応器の配置を調節することにより、垂直配向のカーボン・ナノチューブが、円筒状の繊維に関して半径方向に成長する。実施形態の中には、ガラス繊維に関する半径方向の成長にプラズマを必要としないものもある。明確な面を有するガラス繊維材料(例えば、テープ、マット、織物、パイル(piles)など)に関して、触媒は一面又は両面に配置され、それに対応して、CNTsも一面又は両面で成長する。
【0089】
前述のように、CNT合成は、巻き取り可能なガラス繊維に機能を付与する連続処理を行うのに十分な速度で行われる。以下に例示されるような連続的な合成は、多くの装置構成により容易になる。
【0090】
ある実施形態において、CNT浸出ガラス繊維材料は、「オール・プラズマ(all plasma)」処理の中で構成される。このような実施形態において、ガラス繊維材料は、多数のプラズマ介在工程を経て最終的なCNT浸出製品を形成する。最初のプラズマ工程には、繊維表面の改質工程が含まれる。これは、前述のように、ガラス繊維材料の表面を「粗面化」して触媒の配置を容易にするためのプラズマ処理である。前述のように、表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、水素、及び窒素などの種々異なる1以上のガスからなるプラズマを用いて実現できる。
【0091】
表面改質後、ガラス繊維材料は触媒の塗布へと進む。これは、ガラス繊維上にCNT形成触媒を配置するためのプラズマ処理である。CNT形成触媒は、前述のように、通常、遷移金属である。遷移金属触媒は、磁性流体、有機金属、金属塩、又は気相輸送を促進する他の組成物の形態で、前駆体としてプラズマ原料ガスに添加される。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周囲環境内の室温で塗布可能である。実施形態の中には、ガラス繊維材料が触媒の塗布前に冷却されるものがある。
【0092】
引き続きオール・プラズマ処理において、カーボン・ナノチューブの合成はCNT成長チャンバーで生じる。これは、プラズマ助長化学蒸着を用いることで実現されるが、ここでは、炭素プラズマが、触媒を含む繊維上にスプレーされる。カーボン・ナノチューブの成長は高温(触媒にもよるが、通常は約500℃から1000℃の範囲)で発生するので、触媒を含む繊維は炭素プラズマにさらされる前に加熱される。浸出処理に関して、ガラス繊維材料は、それが軟化するまで任意に加熱されてもよい。加熱後、ガラス繊維材料は炭素プラズマを受ける状態になっている。炭素プラズマは、例えば、炭素を含むガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノールなど)を、ガスのイオン化が可能な電界中に通すことにより発生する。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルを介して、ガラス繊維材料に向けられる。ガラス繊維材料は、プラズマを受けるために、例えば、スプレーノズルから約1センチメートル以内など、スプレーノズルにごく近接している。ある実施形態においては、加熱器は、ガラス繊維材料の上側のプラズマ・スプレーに配設され、ガラス繊維材料を高温に維持する。
【0093】
連続的なカーボン・ナノチューブ合成の別の構成には、カーボン・ナノチューブをガラス繊維上で直接合成し成長させるための専用の矩形反応器が含まれる。その反応器は、カーボン・ナノチューブを備えた繊維を製造するための連続的なインライン処理用に設計される。ある実施形態において、CNTsは、化学蒸着(「CVD」)処理を介して大気圧かつ約550℃から約800℃の範囲の高温で、マルチゾーン反応器(multi-zone reactor)内で成長する。合成が大気圧で生じるということは、繊維上にCNTを合成するための連続処理ラインに反応器を組み込むことを容易にする一因である。このようなゾーン反応器を用いた連続的なインライン処理には、CNTの成長が秒単位で発生するという別の利点があり、当該技術分野で標準的な他の手段及び装置構成における分単位(又はもっと長い)とは対照的である。
【0094】
様々な実施形態によるCNT合成反応器には、以下の特徴が含まれる。
【0095】
(矩形に構成された合成反応器)
当該技術分野で周知の標準的なCNT合成反応器は断面が円形である。これには、例えば、歴史的理由(研究所では円筒状の反応器がよく用いられる)及び利便性(流体力学は円筒状の反応器にモデル化すると容易であり、加熱システムは円管チューブ(石英など)に容易に対応する)、並びに製造の容易性などの多くの理由がある。本発明は、従来の円筒形状から離れて、矩形断面を有するCNT合成反応器を提供する。その理由は以下の通りである。1.反応器により処理される多数のガラス繊維材料は、例えば、形状が薄いテープやシート状など相対的に平面的であるので、円形断面では反応器の容積を十分に使用していない。この非効率性は、円筒状のCNT合成反応器にとって、例えば、以下のa)ないしc)など、いくつかの欠点となる。a)十分なシステムパージの維持;反応器の容積が増大すれば、同レベルのガスパージを維持するためにガス流量の増大が必要になる。これは、開放環境におけるCNTsの大量生産には非効率なシステムとなる。b)炭素原料ガス流の増大;前述のa)のように、不活性ガス流を相対的に増大させると、炭素原料ガス流を増大させる必要がある。12Kのガラス繊維ロービングは、矩形断面を有する反応器の全容積よりも2000分の1の容積であることを考慮されたい。同等の成長をさせる円筒状の反応器(すなわち、矩形断面の反応器と同様に平坦化されたガラス繊維材料を収容するための幅を有する円筒状の反応器)では、ガラス繊維材料は、チャンバー容積の17,500分の1の容積である。CVDなどのガス蒸着処理(gas deposition processes)は、通常、圧力及び温度だけで制御されるが、容積は蒸着の効率に顕著な影響を与える。矩形反応器の場合、それでもなお過剰な容積が存在する。この過剰容積は無用の反応を促進してしまうが、円筒状反応器は、その容積が約8倍もある。このように競合する反応が発生する機会が増加することにより、所望の反応が有効に生じるには、円筒状反応器チャンバーでは遅くなってしまう。このようなCNT成長の減速は連続処理の開発には問題となる。反応器を矩形に構成する一利点は、反応器の容積を、矩形チャンバーの高さを低くすることにより低減し、これにより容積比を改善して反応をより効率的にできることである。本発明のある実施形態において、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中のガラス繊維材料の全容積に対して約3000倍の量にすぎない。またある実施形態では、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中のガラス繊維材料の全容積に対して約4000倍の量にすぎない。またさらに、ある実施形態では、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中のガラス繊維材料の全容積に対して約10,000倍の量にすぎない。加えて、円筒状反応器を使用した場合、矩形断面を有する反応器と比較すると、同じ流量比をもたらすためには、より大量の炭素原料が必要である点に注目されたい。当然のことながら、実施形態の中には、合成反応器が、矩形ではないが比較的矩形に類似する多角形状で表される断面を有し、円形断面を有する反応器に対して反応器の容積を同様に低減するものがある。c)問題のある温度分布;相対的に小径の反応器が用いられた場合、チャンバー中心からその壁面までの温度勾配はごく僅かである。しかし、例えば、工業規模の生産に用いられるなど、サイズが増大した場合、温度勾配は増加する。このような温度勾配により、ガラス繊維材料基材の全域で製品品質がばらつくことになる(すなわち、製品品質が半径位置の関数として変化する)。この問題は、矩形断面を有する反応器を用いた場合に殆ど回避される。具体的には、平面状の基材が用いられた場合、基材サイズが上方向に拡大したときに反応器の高さを一定に維持する。反応器の頂部及び底部間の温度勾配は基本的にごく僅かであるため、生じる熱的な問題や製品品質のばらつきは回避される。2.ガス導入:当該技術分野では、通常、管状炉が使用されるが、一般的なCNT合成反応器は、ガスを一端に導入し、それを反応器に通して他端から引き出す。本明細書に開示された実施形態の中には、ガスが、反応器の中心、又は対象とする成長ゾーン内において、反応器の両側面か、反応器の天板及び底板か、いずれかを介して対称的に導入されるものがある。これにより、流入する原料ガスがシステムの最も高温の部分(CNT成長が最も活発な場所)に連続的に補充されるので、全体のCNT成長速度が向上する。このような一定のガス補充は、矩形のCNT反応器により示される成長速度の向上にとって重要な側面である。
【0096】
(ゾーン分け)
比較的低温のパージゾーンを備えるチャンバーが矩形合成反応器の両端に従属する。出願人は、高温ガスが外部環境(すなわち、反応器の外部)で混合すると、ガラス繊維材料の分解が増加することを見出した。低温パージゾーンは、内部システム及び外部環境間の緩衝となる。当該技術分野で周知の標準的なCNT合成反応器の構成では、基材を慎重に(かつ緩やかに)冷却することが必要とされる。本矩形CNT成長反応器の出口における低温パージゾーンは、連続的なインライン処理で必要とされるような短時間の冷却を実現する。
【0097】
(非接触、ホットウォール型、金属製反応器)
ある実施形態において、金属製、特にステンレス鋼製のホットウォール型反応器が使用される。このことは、金属、特にステンレス鋼は炭素が析出(すなわち、すす及び副生成物の形成)しやすいため、常識に反するように考えられる。従って、大部分のCNT反応器の構造には、炭素が殆ど析出せず、また、石英が洗浄しやすく試料の観察が容易であることから、石英反応器が使用されている。しかしながら、出願人は、ステンレス鋼上のすすの増加及び炭素の析出は、より着実で高速に、より効率的に、かつ、より安定的にCNTを成長させることに気付いた。理論に拘束されるものではないが、大気の影響と連動して、反応器内で生じるCVD処理では拡散が制限されることを示している。すなわち、触媒に「過度に供給される(overfed)」、つまり、過量の炭素が(反応器が不完全真空下で作動している場合よりも)その相対的に高い分圧により反応器システム内で得られる。結果として、開放型システム(特に清浄なもの)では、過量の炭素が触媒粒子に付着してCNTsの合成能力を低下させる。ある実施形態では、反応器が「汚染されて(dirty)」いる、すなわち金属製の反応器ウォールにすすが析出した状態である場合に、矩形反応器を意図的に作動する。炭素が反応器のウォール上の単分子層に一度析出すると、炭素は、それ自体の表面に容易に析出するようになる。利用可能な炭素には、この機構により「回収され(withdrawn)」るものがあるので、残りの炭素原料(ラジカル型)が、触媒を被毒させない速度で触媒と反応する。既存のシステムが「清浄に」作動しても、連続処理のために開放状態であれば、成長速度が低下してCNTsの生産量はかなり小さくなる。
【0098】
CNT合成を、前述のように「汚染されて」いる状態で実施するのは概して有益であるが、それでも、装置のある部分(例えば、ガスマニフォールド及びガス入口)は、すすが閉塞状態を引き起こした場合、CNTの成長に悪影響を与える。この問題に対処するために、CNT成長反応チャンバーの当該領域を、例えば、シリカ、アルミナ又はMgOなどのすす抑制コーティングで保護してもよい。実際には、装置のこれらの領域を浸漬被覆によりすす抑制コーティングにする。INVAR(商標名)は、高温におけるコーティングの接着性を確実にする同様のCTE(熱膨張係数)を有し、重要なゾーンにおけるすすの著しい堆積を抑制するので、例えば、INVARなどの金属がこれらのコーティングに用いられる。
【0099】
(触媒低減及びCNT合成の組み合わせ)
本明細書に開示されたCNT合成反応器において、触媒低減及びCNT成長のいずれもが反応器内で生じる。低減工程が個別の工程として実施されると、連続処理において十分タイムリーに行われなくなるため、これは重要である。当該技術分野において周知の標準的な処理において、低減工程は通常1〜12時間かかる。本発明によれば、両工程は1つの反応器内で生じるが、これは、少なくともある程度は、円筒状反応器を用いる当該技術分野で標準的となっている反応器の端部に炭素原料ガスが導入されるのではなくて、中心部に導入されるためである。低減処理は、ガラス繊維が加熱ゾーンに入ったときに行われる;この時点までに、ガスには、触媒と反応して(水素ラジカルの相互作用を介して)酸化還元を引き起こす前にウォールと反応して冷える時間がある。低減が生じるのは、この移行領域である。システム内で最も高温の等温ゾーンでCNTの成長は起こり、反応器の中心近傍におけるガス入口の近位で最速の成長速度が生じる。
【0100】
ある実施形態において、緩く関連するガラス繊維材料(例えば、ガラス・ロービング)が使用される場合、連続処理には、ロービングのストランド及び/又はフィラメントを広げる工程が含まれる。ロービングは、巻き取られていないときに、例えば、真空ベースの開繊システム(vacuum-based fiber spreading system)を用いて広げられる。比較的堅い、サイジング剤が塗布されたガラス繊維を使用する場合、ロービングを「軟化」して繊維を広げやすくするために、更に加熱することができる。個々のフィラメントを含んで構成される開繊維(spread fiber)は、バラバラに広げられてフィラメントの全表面積を十分にさらすようにしてもよく、これにより、ロービングが、次の処理工程でより効率的に反応できる。例えば、広げられたガラス・ロービングは、前述のようにプラズマシステムで構成される表面処理工程を経る。粗面化された開繊維は、その後、CNT形成触媒に浸漬される。その結果、繊維表面で半径方向に分布した触媒粒子を有するガラス・ロービングの繊維となる。ロービングの触媒を含んだ繊維は、その後、前述のように、例えば、矩形チャンバーなどの適切なCNT成長チャンバーに入るが、ここでは、大気圧CVD又はPE−CVD処理を介した流れが、毎秒数ミクロンの速度でCNTsを合成するために用いられる。ロービングの繊維は、こうして半径方向に配列されたCNTsを備えて、CNT成長反応器を出る。
【0101】
ある実施形態において、CNT浸出ガラス繊維材料は、さらにもう1つの処理工程を経ることもできるが、それは、ある実施形態において、CNTsに機能を付与するために用いられるプラズマ処理である。CNTsの追加的な機能付与は、特定の樹脂への接着力を促進するために用いられる。このように、実施形態の中には、本発明が、機能化されたCNTsを有するCNT浸出ガラス繊維材料を提供するものがある。
【0102】
巻き取り可能なガラス繊維材料の連続処理の一部として、最終製品にとって利点となる追加的なサイジング剤を塗布するために、CNT浸出ガラス繊維材料がサイジング剤に浸漬されてもよい。最終的にウェットワインディング(wet winding)が必要であれば、CNT浸出ガラス繊維材料は、樹脂浴を経てマンドレル又はスプールに巻かれる。その結果得られたガラス繊維材料/樹脂の結合は、CNTsをガラス繊維上に固着し、これにより、取り扱い及び複合製造がよりたやすくなる。ある実施形態において、CNT浸出は、フィラメント・ワインディング(firament winding)を向上させるために用いられる。このように、例えば、ガラス・ロービングなどのガラス繊維上に形成されるCNTsは、樹脂浴を経て、樹脂含浸処理されたCNT浸出ガラス・ロービングを生成する。樹脂含浸後、ガラス・ロービングは、デリバリー・ヘッド(delivery head)により、回転するマンドレルの表面上に置かれる。その後、ロービングは、周知の方法による正確な幾何学的パターンでマンドレルに巻かれる。
【0103】
前述のワインディング処理により、パイプ、チューブ、又は雄型を介して特徴的に製造される他の構造体がもたらされる。しかし、本明細書に開示されるワインディング処理から作られる構造体は、従来のフィラメント・ワインディング処理から作られるものとは異なる。具体的には、本明細書に開示される処理において、その構造体は、CNT浸出ロービングを含む複合材料から作られる。このような構造体は、CNT浸出ロービングによりもたらされる強度の向上などに利点がある。
【0104】
ある実施形態において、巻き取り可能なガラス繊維材料上におけるCNTs浸出の連続処理により、毎分約0.5フィートから毎分約18フィートのラインスピードが可能となる。実施形態の中には、システムが長さ3フィートで、750℃の成長温度で稼動している場合、例えば、長さが約1ミクロンから約10ミクロンのCNTsを製造するために、毎分約6フィートから毎分約36フィートのラインスピードで処理が行われるものもある。また、例えば、長さが約10ミクロンから約100ミクロンのCNTsを製造するために、毎分約1フィートから毎分約6フィートのラインスピードで処理が行われ、長さが約100ミクロンから約200ミクロンのCNTsを製造するためには、毎分約0.5フィートから毎分約1フィートのラインスピードで処理が行われる。CNTの長さに関しては、ラインスピード及び成長温度が関係するだけでなく、炭素原料ガス及び不活性ガスの双方の流量もまたCNTの長さに影響を与える。例えば、不活性ガス中において1%未満の炭素原料からなる流量により、高速のラインスピード(毎分6フィートから毎分36フィート)で、長さが1ミクロンから約5ミクロンのCNTsがもたらされる。不活性ガス中において約1%を上回る炭素原料からなる流量の場合には、高速のラインスピード(毎分6フィートから毎分約36フィート)で、5ミクロンから約10ミクロンの長さを有するCNTsをもたらす。
【0105】
ある実施形態において、複数のガラス繊維材料は同時に処理される。例えば、複数のテープロービング、フィラメント、ストランドなどが並行して処理される。こうして、既製のガラス繊維のスプールはいくつでも並行に処理されて、処理が終わると再度巻き取られる。並行して処理され巻き取られるガラス繊維材料の数には、1、2、3、4、5、6、最大でCNT成長反応チャンバーの幅に合ったいかなる数も含まれる。さらに、複数のガラス繊維材料が処理される場合、回収スプール数は、処理開始時のスプール数よりも少なくなり得る。このような実施形態において、ガラス・ストランド、ロービングなどは、より高い規則構造のガラス繊維(例えば、織物など)に当該ガラス繊維を結合する処理をさらに経て送り出される。また、連続処理には、例えば、CNT浸出短繊維マットの形成を容易にするチョッパー後処理(post processing chopper)を組み込みこむことができる。
【0106】
ある実施形態において、本発明はCNT連続浸出処理を提供し、この処理には、(a)溶融ガラスからガラス繊維材料を押し出すこと、(b)ガラス繊維材料の表面上にカーボン・ナノチューブ形成触媒を配置すること、及び(c)ガラス繊維材料上にカーボン・ナノチューブを合成して、これにより、カーボン・ナノチューブが浸出したガラス繊維材料を形成すること、が含まれる。このような処理により、製造中のガラス繊維材料に対してカーボン・ナノチューブを直接塗布することが可能となる。カーボン・ナノチューブは従来のサイジング剤を保護するので、必要とされない限りは、さらなるサイジング剤の添加は不要である。さらに、カーボン・ナノチューブは、従来のサイジング剤と異なり、新たに形成されたガラス繊維材料に有益な引張強度及び他の特性を与える。本処理は、様々な押し出しガラス繊維材料(例えば、ガラス・フィラメント、ガラス・ストランド、ガラス・ロービング又はガラス・テープなど)に対応可能である。
【0107】
ガラス材料のインライン押し出し工程を組み込んだCNT連続浸出処理は、目的とする浸出CNTの形態及びシステムの長さに応じて、毎分約100フィートから毎分約1800フィートの間のラインスピードとなる。当業者であれば、ラインスピードが、押し出されるガラス繊維材料の種類により変化することを認識し得る。ある実施形態において、インライン・ガラス押し出し成形を組み込んだ処理のラインスピードは、毎分約25フィートから毎分約100フィート以上の範囲にあり、この場合、CNT成長チャンバーは、特定のCNT成長長さ及び密度のための適切な材料滞留時間をもたらすように、適宜サイズが決められる。
【0108】
ガラス繊維材料上にCNT形成触媒を配置する工程は、押し出し工程からインラインで実行され、触媒は、前述のようにガラス繊維材料をスプレー又は浸漬被覆することにより塗布される。ある実施形態において、CNT形成触媒は、ガラス繊維材料がまだ軟らかい間に塗布されて、ガラス構造内にCNT形成触媒を僅かに埋め込むことによりガラス繊維材料に固着可能にされる。実施形態の中には、ガラス繊維材料の押し出し工程及びカーボン・ナノチューブ形成触媒の配置工程が、溶融ガラスに触媒を組み込み、その後、ガラス繊維材料の全体にわたって配置されるCNT形成触媒(ガラス繊維材料の表面にさらされたCNT形成触媒など)を備えた溶融ガラスを押し出して成形することにより、一体化されるものがある。
【0109】
カーボン・ナノチューブの合成工程は、炭素プラズマを形成し、それをガラス繊維上に配置されたCNT形成触媒に向ける操作工程を含んで、前述のように実行される。CNT浸出(fused)ガラス繊維材料の形成後、追加的なサイジング剤が塗布される。これも連続処理の一部としてインラインで行われる。サイジング剤の塗布に代えて、又はサイジング剤の塗布に加えて、マトリックス材もカーボン・ナノチューブ浸出ガラス繊維材料に塗布される。最終的に、マトリックスの塗布後、マンドレルへのカーボン・ナノチューブ浸出ガラス繊維材料の巻き付けが任意に処理に含まれる。
【0110】
ある実施形態において、本発明の処理により、ガラス繊維材料上に第1の量の第1種カーボン・ナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第1種カーボン・ナノチューブは、ガラス繊維材料の少なくとも1つの性質(第1性質)を変化させるために選択される。次に、本発明の処理により、ガラス繊維上において、第2の量の第2種カーボン・ナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第2種カーボン・ナノチューブは、ガラス繊維材料の少なくとも1つの性質(第2性質)を変化させるために選択される。
【0111】
ある実施形態において、CNTsの第1の量及び第2の量は異なる。この場合、CNTの種類の変化を伴うこともあり、伴わないこともある。このように、CNTの種類がたとえ変化しないままであっても、CNTsの密度を変化させて用いることにより、元のガラス繊維材料の性質を変化させることができる。CNTの種類には、例えば、CNTの長さ及び層数が含まれる。ある実施形態において、第1の量及び第2の量は同一である。この場合に、異なる性質が求められれば、異なる2本の巻き取り可能な材料に沿って、例えば、CNTの長さなどのCNTの種類を変化させることができる。例えば、より長いCNTsは電気的/熱的な用途に有効である一方、より短いCNTsは機械的強化の用途に有効である。
【0112】
カーボンファイバー材料の性質の変化に関する前述の考察を踏まえると、第1種カーボン・ナノチューブ及び第2種カーボン・ナノチューブが、ある実施形態においては同一であるのに対し、第1種カーボン・ナノチューブ及び第2種カーボン・ナノチューブは、他の実施形態においては異なるということもあり得る。同様に、第1性質及び第2性質が、ある実施形態では同一となり得る。例えば、EMI遮蔽特性は、第1の量の第1種CNTs、及び第2の量の第2種CNTsにより対処される興味ある性質であるが、この性質の変化の割合は、異なる量、及び/又は異なる種類のCNTsが使用されたことを反映して異なることもあり得る。最後に、ある実施形態において、第1性質及び第2性質が異なることもある。これもCNTの種類に変化を示す。例えば、第1性質が、短いCNTsによりもたらされる機械的強度である一方、第2性質が、長いCNTsによりもたらされる電気的/熱的性質である。当業者であれば、異なるCNT密度、異なるCNT長さ、及び異なるCNTsの層数(例えば、単層、2層及び多層など)を利用することで、ガラス繊維材料の性質を調整できることを認識し得る。
【0113】
ある実施形態において、本発明の処理により、ガラス繊維材料上に第1の量のカーボン・ナノチューブが合成され、これにより、この第1の量が、ガラス繊維材料自体により示される第1群の性質とは異なる第2群の性質をカーボンチューブ浸出ガラス繊維材料に示すことが可能となる。すなわち、ガラス繊維材料の1以上の性質(例えば、引張強度など)を変化させることができる量を選択することである。第1群の性質及び第2群の性質には、例えば、ガラス繊維材料の既存の性質の強化を示す少なくとも1つの同じ性質が含まれる。ある実施形態において、CNTの浸出により、ガラス繊維材料自体により示される第1群の性質の中に含まれない第2群の性質がカーボン・ナノチューブ浸出ガラス繊維に与えられる。
【0114】
ある実施形態において、カーボン・ナノチューブの第1の量は、カーボン・ナノチューブ浸出ガラス繊維の、引張強度、ヤング率、密度、電気伝導度、及び熱伝導度からなる群の中から選択された少なくとも1つの性質の値が、ガラス繊維自体の同じ性質の値と異なるように選択される。
【0115】
引張強度には、1)機械的ひずみが弾性変形から塑性変形(材料の不可逆的な変形)に変化する応力を評価する降伏強度、2)引張荷重、圧縮荷重又はせん断荷重を受けたとき、材料が耐え得る最大応力を評価する終局強度、及び3)破断点における応力−ひずみ線図上での応力の座標を評価する破壊強度、の3つの異なる測定値が含まれる。複合材料のせん断強度は、繊維方向に対して垂直に荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。複合材料の圧縮強度は、圧縮荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。以下の表1は、本発明の個々の組成物(CNTs並びに例示的なガラス繊維種のEガラス及びSガラス)に関する終局強度の測定値を示す。
【表1】
【0116】
ガラス繊維材料と比べてカーボン・ナノチューブの強度が大幅に高くなっていることに留意されたい。多層カーボン・ナノチューブは、特に、63GPaの引張強度を達成し、今までに測定された材料の中で最も高い引張強度を有する。さらに、理論計算によれば、CNTsには約300GPaの引張強度も可能であることが示されている。したがって、CNT浸出ガラス繊維材料は、母材となるガラス繊維材料と比較して大幅に上回る終局強度を有することが見込まれる。前述のように、引張強度の向上は、用いられるCNTsの正確な性質に加え、ガラス繊維材料上のCNTsの密度及び分布によって決まる。CNT浸出ガラス繊維材料では、例えば、引張特性において倍増することが示されている。例示的なCMT浸出ガラス繊維材料は、機能付与されていない母材のガラス繊維材料に対して3倍のせん断強度と、2.5倍の圧縮強度を有することが可能である。
【0117】
ヤング率は等方性弾性材料の剛性の1つの尺度である。それは、フックの法則が有効な応力範囲において、1軸ひずみに関する1軸応力の比率として定義される。これは、経験的に、材料サンプルについて行われる引張試験中に作成される応力−ひずみ線図の傾きから決定される。
【0118】
電気伝導度又は特定の伝導性は、電流を伝導する材料の性能についての1つの尺度である。CNTのキラリティに関する、例えば、撚度(degree of twist)などの特定の構造的なパラメータを有するCNTsは、伝導性が高く、したがって金属性を示す。CNTのキラリティに関して、広く認められている命名方式(M.S.Dresselhaus, et al.Science of Fullerences and Carbon Nanotubes, Academic Press, San Diego, CA pp.750-760, (1996))が、当業者により正式に定められ承認されている。それにより、例えば、CNTsは、相互に2つのインデックス(n,m)で識別される(ここで、nとmは、六方晶のグラファイトが円筒の表面上で巻かれて端部同士を接合した場合にチューブとなるように、六方晶のグラファイトの切断及び巻き方を表す整数である)。2つのインデックスが同じである場合、得られるチューブは、「アームチェア」(又はn−n)型であるといわれているが、これは、チューブがCNT軸に対して垂直に接断されたときに、六角形の辺のみが露出し、そのチューブ端部の周辺に沿ったパターンが、n回繰り返されるアームチェアのアームと座部に似ているからである。アームチェアCNTs、特にSWNTsは、金属的であり、非常に高い電気的及び熱的伝導性を有している。さらに、このようなSWNTsは非常に高い引張強度を有している。
【0119】
撚度に加えて、CNTの直径もまた電気的伝導性に影響を与える。前述のように、CNTの直径は、サイズ制御されたCNT形成触媒ナノ粒子の使用により制御可能である。また、CNTsは、半導体材料としても形成される。多層CNTs(MWNTs)における伝導性はより複雑である。MWNTs内の層間反応は、個々のチューブ一面に、電流を不均一に再分布させる。対照的に、金属的な単層ナノチューブ(SWNTs)の様々な部位にわたって電流に変化はない。また、カーボン・ナノチューブは、ダイヤモンド結晶及び面内の(in-plane)グラファイトシートと比較して、非常に高い熱伝導性を有する。
【0120】
表1において前述の通り、CNTsは例示的なガラス(例えば、Eガラス及びSガラスなど)よりも密度が低い。したがって、CNT浸出ガラス繊維材料には、CNTsの存在により前述の性質だけでなく、本処理においてより軽量な材料も提供できるという性質にも利点がある。このように低密度かつ高強度の材料は、換言すれば、強度重量比がより高いということができる。本発明の様々な実施形態の働きに実質的に影響を与えない変更も、本明細書で提供された本発明の定義の範囲に含まれることを理解されたい。したがって、以下の実施例は、本発明を例示するものであって限定するものではない。
【実施例1】
【0121】
この実施例は、せん断強度の向上が必要なアプリケーションのために、連続処理におけるガラス繊維材料に対するCNTsの浸出方法を示している。この場合は、短いCNTsを高密度に配列することが望ましい。
【0122】
図8は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出ガラス繊維を製造するためのシステム800を表している。システム800には、ガラス繊維材料の繰り出し及び張力調整システム802、CNT浸出システム812、及び繊維巻き取り機824が、図に示すように、相互に関連して含まれる。
【0123】
繰り出し及び張力調整システム802には、繰り出しボビン804及びテンショナー806が含まれる。繰り出しボビンは、繊維スプールを保持し、ガラス繊維材料801を毎分9フィートのラインスピードで処理に渡す。繊維張力は、テンショナー806を介して1〜5ポンド以内に維持される。繰り出し及び張力調整ステーション(station)802は繊維産業においてごく普通に用いられており、当業者であれば、その構造や利用法を熟知している。
【0124】
張力をかけた繊維805はCNT浸出システム812に送られる。ステーション812には、触媒塗布システム814及びCNT浸出ステーション825に基づく微小共振器CVDが含まれる。
【0125】
この例示的な実施例において、触媒溶液は、例えば、張力をかけた繊維805を浸漬槽835に通すことにより、浸漬処理を介して塗布される。この実施例において、体積比で1の磁性流体であるナノ粒子溶液と100のヘキサンからなる触媒溶液が用いられる。ILSS向上を対象とするCNT浸出繊維のためのラインスピードで、繊維は浸漬槽に10秒間滞留する。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周囲環境内の室温で塗布可能である。
【0126】
その後、触媒を含んだガラス繊維807は、成長前の低温不活性ガスパージゾーン、CNT成長ゾーン、及び成長後のガスパージゾーンから成るCNT浸出ステーション825へ進められる。室温の窒素ガスが、前述のCNT成長ゾーンから流出するガスを冷却するために、成長前のパージゾーンに導入される。流出するガスは、繊維の酸化を防止するために、急速な窒素パージにより250℃未満まで冷却される。繊維はCNT成長ゾーンに入り、そこでは、97.7%の不活性ガス(窒素)質量流と2.3%の炭素含有原料ガス(アセチレン)質量流の混合物が、ガスマニホールドを介して中心に導かれ、高温で加熱される。この実施例において、システムの長さは3フィートであり、CNT成長ゾーンにおける温度は750℃である。触媒を含んだ繊維は、この実施例において、CNT成長環境に20秒間さらされ、ガラス繊維材料表面に浸出した5ミクロン長で4vol%のCNTとなる。最終的に、CNT浸出ガラス繊維は、繊維表面及びCNTsの酸化を防止するために、繊維とともに流出ガスを250℃に冷却する成長後パージゾーンを通過する。
【0127】
CNT浸出繊維809は繊維巻き取り機824に集められ、そして、複合材料の強化材料として使用するなど、せん断強度の向上が必要な様々な用途に使用可能な状態となる。図11は、せん断強度に関するCNTsの存在についての効果を示している。サイジング剤が塗布されていないCNT浸出S2ガラス繊維は、サイジング剤が塗布されたS2ガラス繊維を基準として、せん断強度で65%以上の向上を明示している。
【実施例2】
【0128】
この実施例は、電気的及び/又は熱的伝導性の向上が必要な用途のための、連続処理における発生期のガラス繊維材料に対するCNTsの浸出方法を示している。この場合は、長いCNTsを最大限付加することが目的となる。
【0129】
図9は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を生成するためのシステム900を表している。システム900には、ガラス繊維製造システム902、CNT浸出システム912、及び繊維巻き取り機924が、図に示すように相互に関連して含まれる。
【0130】
ガラス繊維製造システムには、溶融ガラス容器905、及び発生期のガラス材料901を直径15ミクロンにして引き出すために用いられる押し出し金型910が含まれる。この実施例において、Eガラス繊維は毎分1フィートの速度で押し出される。
【0131】
発生期の繊維915は、CNT浸出ステーション912に送られる。CNT浸出システム912には、触媒塗布システム920及びCNT浸出工程925に基づく微小共振器CVDが含まれる。
【0132】
この例示の実施例において、触媒溶液はスプレー処理935により塗布されるが、この場合、噴霧器が用いられて発生期の繊維930に霧化された触媒のスプレーを塗布する。この実施例において、触媒溶液は、イソプロピルアルコール中に50ミリモルの硝酸鉄溶液を含んで成る。電気的及び/又は熱的伝導性の向上を目的としたCNT浸出ガラス繊維の処理ラインスピードで、繊維は、一連の噴霧器により作られる触媒クラウド(catalyst cloud)に30秒間滞留する。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周辺環境内に室温で塗布可能である。
【0133】
その後、触媒を含む発生期のガラス繊維907は、成長前の低温不活性ガスパージゾーン、CNT成長ゾーン、及び成長後のガスパージゾーンから成るCNT浸出ステーション912へ進められる。室温の窒素ガスが、前述のように、CNT成長ゾーンから流出するガスを冷却するために、成長前のパージゾーンに導入される。流出するガスは、繊維の酸化を防止するために、急速な窒素パージにより250℃未満まで冷却される。繊維はCNT成長ゾーンに入り、そこでは、95%の不活性ガス(窒素)質量流と5%の炭素含有原料ガス(アセチレン)質量流の混合物が、ガスマニホールドを介して中心に導かれ、高温により加熱される。この実施例において、システムの長さは3フィートであり、CNT成長ゾーンにおける温度は750℃である。触媒を含んだ繊維は、この実施例において、CNT成長環境に180秒間さらされ、ガラス繊維材料表面に浸出した100ミクロン長で2vol%のCNTとなる。最終的に、CNT浸出ガラス繊維は、繊維表面及びCNTsの酸化を防止するために、繊維とともに流出ガスを250℃に冷却する成長後パージゾーンを通過する。
【0134】
CNT浸出繊維909は、最後に、繊維巻き取り機924により、保管のために繊維巻き取りスプールに巻き付けられる。そして、CNT浸出繊維909は、例えば、EMI遮蔽の強化材料、又は熱散逸用途としての使用など、熱的及び/又は電気的伝導性の向上が必要な様々な用途に使用可能な状態となる。前述のような繊維は100S/mよりも高い電気伝導度を示す。
【実施例3】
【0135】
この実施例は、引張強度の向上が必要な用途のために、連続処理におけるガラス繊維のCNT浸出を明示するが、この場合、そのシステムは、それに続く樹脂取り込み処理及びワインディング処理と連動している。
【0136】
図10は、本発明の例示的実施形態を示したものであるが、この場合、CNT浸出繊維は、フィラメント・ワインディング・システム1000により行われるフィラメント・ワインディング処理の副作用として生成される。
【0137】
システム1000は、ガラス繊維材料クリール(creel)1002、カーボン・ナノチューブ浸出システム1012、CNT調整システム1005、樹脂槽1028、及びフィラメント・ワインディング・マンドレル1032、が図示のように相互に関連しつつ、これらを含んで構成される。システム1000の様々な要素は、カーボン・ナノチューブ浸出システム1026及びCNT調整システム1005を除いて、従来のフィラメント・ワインディング処理に存在するものである。図10に示される処理及びシステムの主な要素は、(任意的な)サイジング剤除去ステーション1010、及びCNT浸出ステーション1012を含むカーボン・ナノチューブ浸出セクション(section)1026である。
【0138】
繊維クリール1002には、スプール毎に1のロービング1001A〜1001Hを含んで構成されるS2ガラス繊維の多数のスプール1004が含まれる。ガラス繊維ロービング1001A〜1001Hの撚り合わされていない群を「ロービング1003」と総称する。
【0139】
クリール1002は、水平方向にスプール1004を保持する。各スプールからのガラス繊維ロービング1006は、クリール1002から出て1〜5ポンドの張力でカーボン・ナノチューブ浸出システム1012へ移動するときに、繊維を平坦化して繊維の方向を並行配置に揃える適切に配置された小型のローラー及びテンショナー1015を介して移動する。この実施例の場合、繊維は毎分5フィートのラインスピードでクリールから引き寄せられる。
【0140】
別の実施形態には、システム1000で用いられる巻き取り可能なガラス繊維材料が、既にCNTを浸出した(すなわち、システム800を介して製造された)ガラス繊維材料であるものがあることを理解されたい。このような実施形態においては、システム1000は、ナノチューブ浸出システム1012なしで運転される。
【0141】
カーボン・ナノチューブ浸出システム1012では、ロービング1003のサイジング剤が除去され、ナノチューブ形成触媒が塗布され、そして、ロービングがCVD成長システムを介してCNT成長状態にさらされる。
【0142】
サイジング剤除去ステーション1030はロービング1003を不活性(窒素)雰囲気中で高温にさらす。この実施例において、ロービング1003は、30秒の滞留時間で550℃の温度にさらされる。
【0143】
この例示的な実施例において、触媒溶液は浸漬処理を介して、例えば、ロービング1003を浸漬槽1035に通すことにより塗布される。この実施例において、体積比で1の磁性流体であるナノ粒子溶液と200のヘキサンからなる触媒溶液が用いられる。引張強度向上を目的とするCNT浸出繊維のための処理ラインスピードで、繊維は浸漬槽に25秒間滞留する。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周囲環境内の室温で塗布可能である。
【0144】
その後、触媒を含んだロービング1003は、成長前の低温不活性ガスパージゾーン、CNT成長ゾーン、及び成長後のガスパージゾーンから成るCNT浸出ステーション1026へ進められる。室温の窒素ガスが、前述のように、CNT成長ゾーンから流出するガスを冷却するために、成長前のパージゾーンに導入される。流出するガスは、繊維の酸化を防止するために、急速な窒素パージにより250℃未満まで冷却される。繊維はCNT成長ゾーンに入り、そこでは、99%の不活性ガス(窒素)質量流と1%の炭素含有原料ガス(アセチレン)質量流の混合物が、ガスマニホールドを介して中心に導かれ、高温で加熱される。この実施例において、システムの長さは5フィートであり、CNT成長ゾーンにおける温度は650℃である。触媒を含んだ繊維は、この実施例において、CNT成長環境に60秒間さらされ、この結果、長さ15ミクロンで4vol%のCNTが、ガラス繊維材料表面に浸出する。最終的に、CNT浸出ガラス繊維は、繊維表面及びCNTsの酸化を防止するために、繊維及び流出ガスを250℃に冷却する成長後パージゾーンを通過する。
【0145】
その後、CNT浸出ロービング1003は、CNT調整システム1005を通り、ここで、一連の金型が、ロービング1003のうち各ロービング1001A〜Hの方向にCNTの軸を機械的に調整するために用いられる。直径0.125インチの開口部で終わる先細の金型が、CNTsの調整を補助するために用いられる。
【0146】
CNT調整システム1005を通過した後、調整されたCNT浸出ロービング1040は、樹脂槽1028に供給される。樹脂槽は、CNT浸出繊維と樹脂とを含んで構成される複合材料を製造するための樹脂を含む。この樹脂には、例えば、ポリエステル(例えば、オルトフタル酸ポリエステルなど)、改質ポリエステル(例えば、イソフタル酸ポリエステルなど)、エポキシ、及びビニルエステルなどの市販の樹脂マトリックスが含まれる。
【0147】
樹脂槽1028は様々な方法で実現されるが、以下にそのうちの2つを記載する。第1に、樹脂槽1028は、ドクター・ブレード(doctor blade)のローラー槽(roller bath)として実現されるが、ここでは、研磨された回転シリンダ(例えば、シリンダ1050)が槽内に配設され、回転するときに樹脂を引き上げる。ドクター・バー(図10には図示せず)はシリンダを押し付けてシリンダ1050上に正確な樹脂フィルム厚を得るとともに、余剰の樹脂を槽内に押し戻す。ガラス繊維ロービング1003はシリンダ1050の頂部を通って引き寄せられると、樹脂フィルムと接触して濡れる。もう1つの方法として、樹脂槽1028は浸漬槽として用いられ、そこでは、ガラス繊維ロービング1003が樹脂内に沈められ、その後、余剰の樹脂を除去する1組のワイパー又はローラーを通って引き上げられる。
【0148】
樹脂槽1028を出た後、樹脂で濡れているカーボン・ナノチューブ・ロービング1009は、デリバリーヘッド(図示せず)の後方に配置される、様々なリング、小穴(eye-lets)、そして、通常はマルチ・ピン(multi-pin)「くし状部(comb)」(図示せず)を通過する。くし状部は、ガラス繊維ロービング1009を分離した状態にするが、その後、それらは、回転マンドレル1032上で単一の結合した束にまとめられる。マンドレルは、引張強度を向上させた複合材料が必要とする構造の型としての役割を果たす。図12は、機能付与されていないS2ガラス繊維と比較した、CNT浸出S2ガラス繊維の引張強度を示す。サイジング剤が塗布されていないCNT浸出S2ガラス繊維は、その引張強度において、サイジング剤が塗布されたS2ガラス繊維の基準値を25%以上も超えた向上を明示している。
【0149】
当然のことながら、前述の実施形態は単に本発明の具体例にすぎず、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、前述の実施形態の多くの変形例を考え出すことができる。例えば、本明細書において、数々の具体的詳細が、本発明の例示の実施形態の説明及び理解を完全にするためになされている。しかしながら、当業者であれば、本発明の1以上の詳細がなくても、又は他の処理、材料、構成要素などで本発明を実施でき得ることが分かるであろう。
【0150】
また、場合によっては、周知の構造、材料、又は工程の図示、又は詳細な説明を行わないことにより、例示の実施形態の態様を曖昧にすることを避けている。当然のことながら、図面に図示された様々な実施形態は例示であり、必ずしも一定の縮尺で描かれたものではない。本明細書全体にわたって「一実施形態」又は「1つの実施形態」又は「ある実施形態(実施形態の中には)」で言及しているのは、特定の機能、構造、材料、又は(複数の)実施形態と関連して記載した特徴が、本発明の少なくとも1つの実施形態には含まれるが、必ずしも全ての実施形態に含まれるものではない、ことを意味する。したがって、本明細書の全体にわたって様々な箇所で見られる表現「1つの実施形態において」、「一実施形態において」又は「ある実施形態において(実施形態の中には)」は、必ずしも全て同じ実施形態について言及しているものものとは限らない。さらに、特定の機能、構造、材料、又は特徴を、1以上の実施形態で適切な方法により組み合わせることができる。このため、このように変形したものは、以下の特許請求の範囲及びその同等物の範囲内に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維材料上におけるカーボン・ナノチューブ(以下、「CNT」という)の連続製造のためのシステムであって、
CNT成長触媒ナノ粒子のコロイド溶液を含んで構成された触媒塗布ステーションと、
少なくとも1つのパージゾーンと、成長チャンバーと、を含んで構成され、前記ガラス繊維材料が連続的に送り込まれることによる前記ガラス繊維材料上のCNTの成長に適応されたCNT成長ステーションと、
を含んで構成され、
繰り出しボビン及び巻き取りボビンを備えることにより、前記ガラス繊維材料上においてCNTsが成長したものを連続的に巻き取り、前記ガラス繊維材料が巻き取り可能な形態で提供される、巻き取り可能なシステム。
【請求項2】
前記CNT成長ステーションは、外部環境に開放されているが、不活性ガス流の使用により外部環境から分離されている請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
繰り出し及び張力調整ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
繊維拡散ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記ガラス繊維材料の表面を粗面化するように適応されたプラズマ・ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
CNT形成触媒を有するバリア・コーティングを前記ガラス繊維材料に形状に応じて配置するように適応されたバリア・コーティング・ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記触媒塗布ステーション及び前記バリア・コーティング・ステーションが組み合わされた請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記バリア・コーティング・ステーションが、スピンオンガラス、アルミナ、シラン、アルコキシシラン、及び液体セラミックのうちの少なくとも1つを含んで構成される請求項5に記載のシステム。
【請求項9】
繊維サイジング剤の除去ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記CNT成長ステーションの下流に樹脂塗布ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
毎分約0.5フィートから毎分約36フィートの範囲の運転速度が可能な請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
ラインスピード、不活性ガス流量、炭素原料流量、前記CNT成長チャンバー内の温度、不活性ガス温度、及び炭素原料ガスの温度のうち、少なくとも1つを制御可能なコントローラー・ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記CNT成長チャンバー内の材料滞留時間を約5秒から約30秒とすることにより、長さが約1ミクロンから約10ミクロンのCNTsが生成される請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記CNT成長チャンバー内の材料滞留時間を約30秒から約180秒とすることにより、長さが約10ミクロンから約100ミクロンのCNTsが生成される請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記CNT成長チャンバー内の材料滞留時間を約180秒から約300秒とすることにより、長さが約100ミクロンから約500ミクロンのCNTsが生成される請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
繊維材料上におけるCNTの連続製造のためのシステムであって、
CNT成長触媒ナノ粒子のコロイド溶液を含んで構成された触媒塗布ステーションと、
少なくとも1つのパージゾーンと、成長チャンバーと、を含んで構成され、前記繊維材料が連続的に送り込まれることによる前記繊維材料上のCNTの成長に適応されたCNT成長ステーションと、
を含んで構成され、
繰り出しボビン及び巻き取りボビンを備えることにより、前記繊維材料上においてCNTsが成長したものを連続的に巻き取り、前記繊維材料が巻き取り可能な形態で提供される、巻き取り可能なシステム。
【請求項1】
ガラス繊維材料上におけるカーボン・ナノチューブ(以下、「CNT」という)の連続製造のためのシステムであって、
CNT成長触媒ナノ粒子のコロイド溶液を含んで構成された触媒塗布ステーションと、
少なくとも1つのパージゾーンと、成長チャンバーと、を含んで構成され、前記ガラス繊維材料が連続的に送り込まれることによる前記ガラス繊維材料上のCNTの成長に適応されたCNT成長ステーションと、
を含んで構成され、
繰り出しボビン及び巻き取りボビンを備えることにより、前記ガラス繊維材料上においてCNTsが成長したものを連続的に巻き取り、前記ガラス繊維材料が巻き取り可能な形態で提供される、巻き取り可能なシステム。
【請求項2】
前記CNT成長ステーションは、外部環境に開放されているが、不活性ガス流の使用により外部環境から分離されている請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
繰り出し及び張力調整ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
繊維拡散ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記ガラス繊維材料の表面を粗面化するように適応されたプラズマ・ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
CNT形成触媒を有するバリア・コーティングを前記ガラス繊維材料に形状に応じて配置するように適応されたバリア・コーティング・ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記触媒塗布ステーション及び前記バリア・コーティング・ステーションが組み合わされた請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記バリア・コーティング・ステーションが、スピンオンガラス、アルミナ、シラン、アルコキシシラン、及び液体セラミックのうちの少なくとも1つを含んで構成される請求項5に記載のシステム。
【請求項9】
繊維サイジング剤の除去ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記CNT成長ステーションの下流に樹脂塗布ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
毎分約0.5フィートから毎分約36フィートの範囲の運転速度が可能な請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
ラインスピード、不活性ガス流量、炭素原料流量、前記CNT成長チャンバー内の温度、不活性ガス温度、及び炭素原料ガスの温度のうち、少なくとも1つを制御可能なコントローラー・ステーションを更に含んで構成された請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記CNT成長チャンバー内の材料滞留時間を約5秒から約30秒とすることにより、長さが約1ミクロンから約10ミクロンのCNTsが生成される請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記CNT成長チャンバー内の材料滞留時間を約30秒から約180秒とすることにより、長さが約10ミクロンから約100ミクロンのCNTsが生成される請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記CNT成長チャンバー内の材料滞留時間を約180秒から約300秒とすることにより、長さが約100ミクロンから約500ミクロンのCNTsが生成される請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
繊維材料上におけるCNTの連続製造のためのシステムであって、
CNT成長触媒ナノ粒子のコロイド溶液を含んで構成された触媒塗布ステーションと、
少なくとも1つのパージゾーンと、成長チャンバーと、を含んで構成され、前記繊維材料が連続的に送り込まれることによる前記繊維材料上のCNTの成長に適応されたCNT成長ステーションと、
を含んで構成され、
繰り出しボビン及び巻き取りボビンを備えることにより、前記繊維材料上においてCNTsが成長したものを連続的に巻き取り、前記繊維材料が巻き取り可能な形態で提供される、巻き取り可能なシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2012−519140(P2012−519140A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552202(P2011−552202)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/025658
【国際公開番号】WO2010/099487
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/025658
【国際公開番号】WO2010/099487
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]