説明

ガイドワイヤ式係留設備

【解決手段】浮桟橋Aの岸側を岸壁Bの斜面に沿って配置したガイド部材によって移動自在に案内し、前記浮桟橋Aを水位に追従させ得るようにした係留設備である。前記ガイド部材をワイヤとし、このガイドワイヤCの下端にウエイト5を取り付ける。
【効果】浮桟橋Aに風、水流、波等の荷重が作用しない場合(通常時)には、ウエイトによりガイドワイヤが下方に引っ張られ、その途中が弛むことがないので、岸壁Bの斜面に干渉するのを抑制できる。また、ウエイト5により常時一定の張力をガイドワイヤCに作用させることができるので、通常時において浮桟橋Aの変動を極力小さくできる。逆に、浮桟橋Aに風、水流、波等の荷重が作用した場合には、ウエイト5の重量に逆らってガイドワイヤCが上方に引っ張られ、ガイドワイヤCの全長が伸びるので、弛みが大きくなって細いガイドワイヤでも十分耐え得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮桟橋その他の被係留物の岸側を岸壁斜面に沿って配置したガイド部材によって移動自在に案内し、前記被係留物を水位に追従させ得るようにした係留設備の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、浮桟橋の岸側を岸壁斜面に沿って配置したガイド部材によって移動自在に案内し、前記浮桟橋を水位に追従させ得るようにした係留設備が存在する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−232207号公報
【0004】
この場合のガイド部材は鋼管などからなるレールであり、このガイドレールが岸壁斜面に沿って配置されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このレール式のガイド部材を用いた場合には、水位が変動する範囲内に配置されている長尺状のガイド部材の中間部分を、所定の間隔を置いて多数配置した支持金具で支持しなければならず、中間部分での支持金具の多くの取付施工が必要であるため、高価になっているようである。そこで、より安価な係留設備とするために、ガイド部材をワイヤ式にすることが考えられる。ところが、ガイド部材をワイヤ式にすると、被係留物に風、水流、波等の荷重が作用しない場合にもワイヤの自重によってワイヤの途中が弛み、岸壁斜面に触れるなど斜面に干渉するという事態が起こり得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような欠点を解消するために案出されたものである。すなわち、本発明は、浮桟橋その他の被係留物の岸側を岸壁斜面に沿って配置したガイド部材によって移動自在に案内し、前記被係留物を水位に追従させ得るようにした係留設備において、前記ガイド部材をワイヤとし、このガイドワイヤの下端をウエイトと関連させたことを特徴とするものである。
【0007】
被係留物に風、水流、波等の荷重が作用しない場合には、ウエイトによりガイドワイヤが下方に引っ張られ、その途中が弛むことがないので、岸壁斜面に触れるなど斜面に干渉するという事態は生じない。また、ウエイトにより常時一定の張力をガイドワイヤに作用させることができるので、被係留物に風、水流、波等の荷重が作用しない通常時において、浮桟橋の変動を極力小さくできる。
逆に、被係留物に風、水流、波等の荷重が作用した場合には、ウエイトの重量に逆らってガイドワイヤが上方に引っ張られ、ガイドワイヤの全長が伸びるので、弛みが大きくなって細いガイドワイヤでも十分耐え得る。
【0008】
ガイドワイヤの上端を岸側に設けた上部取付金具に連結固定し、ガイドワイヤの下端付近を岸から遠い方に設けた下部取付金具のワイヤシーブで支持しておくことが好ましい。
このような保持形態とした場合には、長いガイドワイヤの上下両端を上部取付金具と下部取付金具とで支持するだけで十分であり、その中間部分での支持金具の取付施工が不要になる。
【0009】
下部取付金具にウエイトストッパーを形成しておくと良い。このようにしておくと、被係留物に風、水流、波等の荷重が作用してガイドワイヤが上に引っ張られたとき、ウエイトストッパーによりウエイトがそれ以上動かないから、ガイドワイヤの伸び量を一定ならしめることができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、被係留物に風、水流、波等の荷重が作用しない場合には、岸壁斜面に触れるなど斜面に干渉するのを抑制することができる。また、ウエイトにより常時一定の張力をガイドワイヤに作用させることができるので、被係留物に風、水流、波等の荷重が作用しない通常時において、浮桟橋の変動を極力小さくできるという効果がある。逆に、被係留物に風、水流、波等の荷重が作用した場合には、ウエイトの重量に逆らってガイドワイヤが上方に引っ張られ、ガイドワイヤの全長が伸びるので、弛みが大きくなって細いガイドワイヤでも十分耐え得るという効果がある。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、被係留物に風、水流、波等の荷重が作用した場合においても、ガイドワイヤが破断することを防止できる効果がある。特に、長いガイドワイヤの中間部分での支持金具の取付施工が不要になるという効果がある。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、被係留物に風、水流、波等の荷重が作用してガイドワイヤが上に引っ張られたとき、ガイドワイヤの伸び量を一定ならしめ得る効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の好ましい実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。ここには、被係留物を浮桟橋Aとし、その岸側を岸壁Bの斜面に沿って配置したガイド部材であるガイドワイヤCによって移動自在に案内し、前記浮桟橋Aを図2に示すように水位に追従させ得るようにした係留設備を例示する。なお、図2におけるH.W.Lは高水位を、L.W.Lは低水位を、W.Lは本係留設備の対応下限水位を表わしている。
【0014】
ガイドワイヤCは、図1に示すように、左右2本配置されている。ガイドワイヤCは例えばステンレス鋼製とすることができる。そして、浮桟橋Aの左右に張り出させた左右2つのスライダーフレーム1,1にスライダー2,2を取り付け、図3(a)及び図4(a)に示すように両スライダー2,2に左右2本のガイドワイヤC,Cを1本ずつ通している。各スライダー2,2には、図4(b)、(c)に示すように、いずれも上下一対のスライドローラ2a,2aと左右一対のスライドローラ2b,2bが前後にそれぞれ配置され、各ガイドワイヤC,Cの周囲を各スライドローラ2a,2a、2b,2b、2b,2bで支持している。なお、ローラ2a,2bは例えばMCナイロン(モノマーキャストナイロン)製とすることができる。
【0015】
一方、左右2つのスライダーフレーム1,1の下端には,前後で一対のローラ1a,1aがそれぞれ取り付けられている。そして、左右にある前後で一対のローラ1a,1aは岸壁Bの左右2本の走路b,bに接して着底状態にある。なお、ローラ1aは例えば合成樹脂製とすることができる。
左右にある前後で一対のローラ1a,1aは左右2本の走路b,b上に接してその上を回転するから、水位の変動に応じて浮桟橋Aを左右2本のガイドワイヤC,Cに沿って移動させることができる。
かくして、左右2本のガイドワイヤC,Cによって浮桟橋Aが移動自在に案内され、浮桟橋Aを水位に追従させることができる。
【0016】
左右2本のガイドワイヤC,Cの上端は、図5に示すように、岸側に設けた上部取付金具3にターンバックル3aを介して連結固定し、ガイドワイヤC,Cの下端付近は岸から遠い方に設けた下部取付金具4のワイヤシーブ4aで支持されている。
このような保持形態とした場合には、長いガイドワイヤCの上下両端を上部取付金具3と下部取付金具4とで支持するだけで十分であり、その中間部分での支持金具の取付施工が不要になる。
従来の場合には、水位が変動する範囲内に配置されている長尺状のレール式ガイド部材の中間部分を、所定の間隔を置いて多数配置した支持金具で支持しなければならなかったが、本発明のようにガイド部材をワイヤとし、このガイドワイヤCを上記のような保持形態とした場合には、ガイドワイヤCの中間部分での支持金具の取付施工が不要になる。
【0017】
左右2本のガイドワイヤC,Cの下端は、浮桟橋Aの幅方向に長いウエイト5と関連させてある。
浮桟橋Aに風、水流、波等の荷重が作用しない場合には、このウエイト5によりガイドワイヤCが下方に引っ張られ、その途中が弛むことがないので、岸壁Bの斜面に触れるなど斜面に干渉するという事態は生じない。また、このウエイト5により常時一定の張力をガイドワイヤCに作用させることができるので、浮桟橋Aに風、水流、波等の荷重が作用しない通常時において、浮桟橋Aの変動を極力小さくできる。
逆に、浮桟橋Aに風、水流、波等の荷重が作用した場合には、ウエイト5の重量に逆らってガイドワイヤCが上方に引っ張られ、ガイドワイヤCの全長が伸びるので、弛みが大きくなって細いガイドワイヤでも十分耐え得る。
【0018】
そして、下部取付金具4には、図5(a)、(b)に示すように、ウエイトストッパー4bが形成されている。このウエイトストッパー4bは、浮桟橋Aに風、水流、波等の荷重が作用してガイドワイヤCが図5においてLで示す距離だけ上に引っ張られたとき、同図(b)に示すように、ウエイトウエイトストッパー4bによりウエイト5がそれ以上動かないようにするためのものである。下部取付金具4にウエイトウエイトストッパー4bが形成されているため、ガイドワイヤCの伸び量を一定ならしめることができる。
【0019】
図5では、ウエイト5をガイドワイヤCの下端に直接吊り下げる場合を例示したが、図6に示すように、てこの原理を応用した可変式を適用することもできる。この可変式の場合には、ウエイト5を備えたアーム6にガイドワイヤCの下端が取り付けてあり、アーム6の長さでウエイト5の重量を軽減することができる。
【0020】
なお、図1、図2、図3において、図面符号Dは岸壁Bの斜面に形成した階段で、浮桟橋Aに乗り込むために利用されるものである。また、図1、図3において、図面符号Eは岸壁Bの斜面に形成したインクラインで、その左右2本のレールe,e上を走行する台車Fに乗せた荷物をウインチGにより昇降させることができる。さらに、図2、図3(b)、図4(a)、(b)において、図面符号Hは浮桟橋Aの下面に取り付けたフロートで、このフロートHにより浮桟橋Aに浮力が付与される。
【産業上の利用可能性】
【0021】
ここでは、被係留物を浮桟橋とし、その岸側を岸壁斜面に沿って配置したガイド部材であるガイドワイヤによって移動自在に案内し、前記浮桟橋を水位に追従させ得るようにした係留設備を例示したが、本発明は係船桟橋や浮消波堤など様々な被係留物の係留設備に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明によるガイドワイヤ式係留設備の一例の施工状態を示す概略平面図である。
【図2】図1の概略側面図である。
【図3】本ガイドワイヤ式係留設備の一部の詳細図で、(a)は拡大平面図、(b)は(a)の側面図である。
【図4】本ガイドワイヤ式係留設備の一部の詳細図で、(a)は拡大側面図、(b)はその一部をさらに拡大した側面図、(c)は(b)の一部の平面図である。
【図5】本ガイドワイヤ式係留設備におけるガイドワイヤの保持形態の一例を示す側面図で、(a)は浮桟橋に風、水流、波等の荷重が作用した場合の状態を、(b)は浮桟橋に風、水流、波等の荷重が作用してガイドワイヤが上に引っ張られた場合の状態を示す。
【図6】本ガイドワイヤ式係留設備におけるウエイトの別の保持形態の一例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0023】
1…スライダーフレーム、2…スライダー、3…上部取付金具、4…下部取付金具、4a…ワイヤシーブ、4b…ストッパー、5…ウエイト、A…浮桟橋、B…岸壁、C…ガイドワイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮桟橋その他の被係留物の岸側を岸壁斜面に沿って配置したガイド部材によって移動自在に案内し、前記被係留物を水位に追従させ得るようにした係留設備において、前記ガイド部材をワイヤとし、このガイドワイヤの下端をウエイトと関連させたことを特徴とするガイドワイヤ式係留設備。
【請求項2】
ガイドワイヤの上端を岸側に設けた上部取付金具に連結固定し、ガイドワイヤの下端付近を岸から遠い方に設けた下部取付金具のワイヤシーブで支持したことを特徴とする請求項1記載のガイドワイヤ式係留設備。
【請求項3】
下部取付金具にウエイトストッパーを形成したことを特徴とする請求項2記載のガイドワイヤ式係留設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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