説明

ガスケット

【課題】 スラスト方向への微動に伴う皺や変形の発生を効果的に防止可能なガスケットを提供する。
【解決手段】 ガスケットGは、薄肉金属板からなる基板2に、燃焼室孔3、複数の冷却水孔6、ボルト孔4及びオイル孔5などが形成されている。燃焼室孔3を囲むように内周側シールラインSL1が設定され、これに沿って内周側ビードが形成される。冷却水孔6は、燃焼室孔3の外周側に周方向に複数配置されており、この外周側に冷却水孔6を囲むようにして外周側シールラインSL2が設定され、これに沿って外周側ビードが形成されている。そして、隣接する冷却水孔6,6の間に、内周側ビード及び外周側ビードを連結する補強ビード12を形成する。これにより、特に冷却水孔6周辺の基板2部分での皺や変形の発生を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を構成するシリンダブロックの接合面とシリンダヘッドの接合面との間に介装され且つボルト締結されることで、燃焼ガス、水圧、及びオイル圧等をシールする機能を有するシリンダヘッドガスケットとして有用なガスケットに関するもので、特にシールライン間の基板の構造に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のガスケットとしては特許文献1に示すようなものが知られている。すなわち、薄肉金属板からなる基板に燃焼室孔が形成されると共に、この燃焼室孔の外周側に冷却水孔及びオイル孔などの液孔やボルト孔が形成される。これら燃焼室孔や液孔などのシールが必要な孔の周囲にはシールラインが設定され、シールラインに沿って、板厚方向に弾性変形するビードが形成される。また、燃焼室孔の周囲であって、燃焼室孔をシールするシールラインの内周側に、他の部分よりも板厚が厚い増厚部が燃焼室孔を囲うようにして形成される。ビードは、高さが増厚部より高く設定されており、ガスケットがシリンダヘッドとシリンダブロックとの接合面にボルトで締結される際に、ボルトの締付け荷重により略増厚部の高さまで圧縮され、弾性変形することでシール圧を発生する。増厚部は、上記のようにして過度な締付けにならないようボルトの締付け荷重を受け、シールラインに適度な面圧を発生させると共に、増厚部に生じる高い面圧によりシール作用も発揮する。
【0003】
上述のようにガスケットがボルトで締結された状態においては、シールラインの面圧は燃焼室孔周囲に設けられた増厚部の面圧よりも低い。また、隣接するシールライン間や増厚部から離れた基板の平坦部では、増厚部の板厚と基板平坦部の板厚の差分だけ板厚方向に隙間が発生している。
この状態でエンジンが始動すると、始動の当初は燃焼室孔近傍から外周側に向かって温度傾斜が生じるため、温度が均等になるまでの間、上記基板が熱変形して、上記燃焼室孔周囲の増厚部よりも面圧の低い外周側が板厚方向に傾斜することがあった。基板板厚が厚い場合は影響が少ないが、板厚が薄い場合は、熱変形時に、エンジンの稼動に伴ってガスケットがスラスト方向に微動すると、燃焼室孔の近傍と燃焼室孔から離れた部分とでスラスト方向への移動量に差が生じ、これにより板厚方向の隙間がある液孔周辺の基板平坦部に皺や変形が生じるおそれがあった。
【0004】
この問題に対し、特許文献1には冷却水孔の内周側から外周側に架橋する補強ビードを設けることで、上記皺の発生を防止する方法が開示されている。
【特許文献1】特願平8−119263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に示す方法では、補強ビードが、冷却水孔を通過する冷却水の水流を受けるため、特に応力の集中しやすい補強ビードの付け根部分の剛性を高める必要があった。
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、スラスト方向への微動に伴う皺や変形の発生を効果的に防止可能なガスケットを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1によるガスケットは、内燃機関を構成するシリンダブロックとシリンダヘッドとの対向する接合面間に介装され、少なくとも前記接合面に開口するボア孔に対応する燃焼室孔及びその燃焼室孔の外周側に位置する複数の液孔とを薄肉金属板の基板に形成したガスケットにおいて、燃焼室孔の周方向で隣接する前記液孔の間の基板部分に、燃焼室孔側から外周側に向かって延びる補強部を設けたことを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項2によるガスケットは、内燃機関を構成するシリンダブロックとシリンダヘッドとの対向する接合面間に介装され、少なくとも前記接合面に開口するボア孔に対応する燃焼室孔及びその燃焼室孔の外周側に位置する複数の液孔とを薄肉金属板の基板に形成し、前記基板に、燃焼室孔と複数の液孔との間で前記燃焼室孔を囲むように内周側シールラインを設定すると共に、前記内周側シールラインの外周側で前記燃焼室孔及び前記複数の液孔の少なくとも一部を囲むようにして外周側シールラインを設定し、前記内周側シールライン及び前記外周側シールラインに沿って、内周側ビード及び外周側ビードを夫々形成したガスケットにおいて、隣接する前記液孔の間の基板部分に、前記内周側ビードと前記外周側ビードとを連結する補強ビードを形成し、前記補強ビードの高さを、前記内周側ビード及び外周側ビードの板厚方向の高さと同等以下としたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3によるガスケットは、請求項2において、前記補強ビードは、前記基板部分を板厚方向に屈曲して凸状に成型してなる金属ビードであることを特徴とする。
さらに、本発明の請求項4によるガスケットは、請求項2において、前記補強ビードを、前記基板部分を板厚方向に屈曲して凸状に成型してなる金属ビードと、その金属ビードの凸部側表面及び凸部裏側の凹部に固着して前記金属ビードと共に板厚方向に弾性変形する弾性シール材からなるゴムビードと、の合成から構成したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項5によるガスケットは、請求項2において、前記補強ビードは、前記基板部分に固着され、板厚方向に弾性変形する弾性シール材からなるゴムビードであることを特徴とする。
また、本発明の請求項6によるガスケットは、請求項4又は5において、少なくとも前記内周側シールライン及び前記外周側シールラインに挟まれた前記基板の平坦部の両面に、薄膜を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガスケットによれば、皺や変形の発生を効果的に防止でき、耐久性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態に係わるガスケットGを示す平面図である。先ず、その構成について説明する。
基板2は、ステンレス鋼板や軟鋼板などの薄肉金属板により構成される。
上記基板2の略中央部には、図1に示すように、長手方向に並ぶ複数の燃焼室孔3が開口している。その燃焼室孔3の端縁全周には、その端部を上側又は下側に折り返したり、別の金属板を基板2の上面又は下面に固着させたりしてなる硬質の第1増厚部7が形成されている。図1に示す第1増厚部7は端部を下側に折り返して形成した場合を例示している。
【0012】
その各燃焼室孔3及び第1増厚部7の外周を無端環状に囲むようにして内周側シールラインSL1が配置される。
さらに、基板2における内周側シールラインSL1よりも外周側に、冷却水孔6、ボルト孔4及びオイル孔5が開口している。複数の冷却水孔6は、上記燃焼室孔3の周方向に沿って略等間隔で設けられている。その冷却水孔6の外周側に沿って当該複数の冷却水孔6を囲むようにして外周側シールラインSL2が配置されると共に、基板外縁に沿って第3シールラインSL3が配置されている。これによって、冷却水孔6、ボルト孔4及びオイル孔5は、外周側及び第3シールラインSL2,SL3にシールされることとなる。なお、外周側及び第3シールラインSL2,SL3の一部のラインは共有化されている。なお、本実施形態で示すシールラインの配置は一例である。
【0013】
そして、本実施形態では、周方向で隣り合う冷却水孔6,6の間の基板2部分にこれら内周側及び外周側シールラインSL1,SL2を連結する補強ビード12が形成され、複数の補強ビード12が燃焼室孔3の中心から放射状に配置される。これについては後に詳述する。
また、基板2の外端部の一部に第2増厚部8が形成されると共に、上記各ボルト孔4の外周を囲むようにして第3増厚部9が配置されている。
【0014】
次に、内周側シールラインSL1に沿って形成される内周側ビード、外周側シールラインSL2に沿って形成される外周側ビード、及び、これら内周側及び外周側ビードを連結する補強ビード12について説明する。
図2に補強ビードの一例を示す。同図(a)は補強ビード12を含まないB−B線断面図であり、(b)は補強ビード12を含むA−A線断面図である。
【0015】
内周側ビードは、基板2を下側に向けて凸状になるように板厚方向に屈曲してなるフルビード状の金属ビード10と、その金属ビード10の上下両面にモールド成型で形成された弾性シール材21a,21bと、から構成される。金属ビード10のビード高さは、第1増厚部7よりも若干高く設定される。上記金属ビード10上面側の弾性シール材21aは、金属ビード10の凸部裏側の凹部に、基板2の上面と略面一となるように充填されている。また、金属ビード10下面側の弾性シール材21bは、金属ビード10の凸部表面側に、当該金属ビード10の高さと同等又は若干高い高さに形成されている。この凸部側の弾性シール材21bの高さは、金属ビードの高さの0.9〜1.1倍の範囲の高さが好ましい。もっとも、第1増厚部7で規制されるゴムビードの最大圧縮変形量が圧縮破壊を起こす量(例えば40%以上)よりも小さく且つ目的とするバネ力が発揮可能であれば、上記範囲に限定されない。弾性シール材は、例えば、フッ素ゴム、NBR、シリコーンゴム等の弾性を有するゴム材料や樹脂材料を用いる。また、本実施形態では、後述するように同じ材料で基板2表面の薄膜も形成することから、流動性を有すると共に耐熱性、耐油性、耐水性を有するものを使用することが好ましい。
【0016】
外周側ビードは、内周側ビードと同様に下側に向けて凸状となるように基板2を板厚方向に屈曲してなるフルビード状の金属ビード11と、その金属ビード11の上下両面にモールド成型で形成された弾性シール材23a,23bからなるゴムビードと、の合成から構成される。金属ビード11及び弾性シール材23a,23bの形成状態や形成高さは、上記内周側ビードと同様であるので詳細を省略する。
【0017】
上記板厚方向下側に向かって凸状となる内周側ビードと外周側ビードとに挟まれた基板2の平坦部は、図2(a)に示すように、上下面共に薄膜25a,25bで覆われている。本実施形態では、薄膜25a,25bは上記内周側及び外周側ビードを構成するゴムビードの弾性シール材23a,23bと同じ材料から形成される。同図中、符号13は、この弾性シール材23a,23b、薄膜25a,25b及び後述する補強ビードの弾性シール材を基板2の上下両面に形成させるための小孔である。
【0018】
そして、上記基板2の平坦部のうち周方向で隣り合う冷却水孔6,6の間には、金属ビード12a及び弾性シール材12bからなる補強ビード12が形成されている(図2(b)参照)。金属ビード12aは、上記内周側及び外周側ビードを構成する金属ビード10,11と同様に、下側に向けて凸状となるように基板2を板厚方向に屈曲してなるフルビード状に形成される。この金属ビード12aは、金属ビード10,11の凸部同士を連結するように、燃焼室孔3の径方向に沿って延設される。金属ビード12aの高さは、内周側及び外周側ビードの高さと同等又は若干低く、かつ、第1増厚部7よりも若干高い高さである。また、弾性シール材12bは、モールド成型により形成され、基板2の上面側にできる金属ビード12aの凹部に基板2の上面と略面一となるように充填されると共に、基板2下面側の凸部表面にも薄膜状に形成されている。
【0019】
次に、補強ビード12を形成したガスケットGの作用及び効果について説明する。
上記ガスケットGは、ボルト孔4に挿通させたボルトでシリンダヘッド及びシリンダブロック(図示せず)の接合面に締結される。ボルトの締付け荷重により、シールラインに沿って形成されたビードや補強ビード12が板厚方向に圧縮され、そのビード高さが増厚部の高さと略同等になるまで弾性変形する。この状態において、内周側及び外周側シールラインSL1,SL2に挟まれた基板2の平坦部と、接合面との間には、第1増厚部7の板厚との差分δだけ隙間が生じている(図2(a)参照)。しかしながら、本実施形態では、この平坦部に複数の補強ビード12が、基板2の燃焼室孔3側から外周側に向かって延設されており、この補強ビード12と接合面との間に隙間はなく、むしろ接合面から圧縮力を受けている。このため、エンジンの始動時に、燃焼室孔3近傍から外周側に向かって温度傾斜が生じても、当該温度傾斜の方向に沿って延びる補強ビード12が、接合面に押されて板厚方向に移動できないため、熱変形が抑えられる。従って、エンジンの稼動に伴いシリンダブロック及びシリンダヘッドがスラスト方向に振動しても、ガスケットGの皺や変形の発生を防止できる。このような補強ビード12であれば、基板2自体にビードを形成しているので、シールラインに沿うビードと同様にして成型することができ、また水流を受けるための剛性確保に必要な措置を施す必要もなく、加工が容易である。
【0020】
さらに、上記補強ビード12は、隣り合う冷却水孔6,6間に、内周側及び外周側シールラインSL1,SL2を繋ぐように設置されることから、各冷却水孔6を通過する冷却水が、基板2板厚方向の隙間を通じて短絡することによる冷却効果の低下を防止できるので、設計通りの冷却効果を得ることができる。
【0021】
また、上記ガスケットGの成型時には、基板2に内周側ビード、外周側ビードや補強ビード12などを構成する金属ビードを成型後、型内に基板2を配置し、当該型との間にできる基板2の上面側及び下面側の間隙の双方又は一方に、弾性シール材及び薄膜の形成材料を充填する。これにより、形成材料が基板2に設けられた小孔13を通して上下両面を行き来することで上下両面に効率よく供給される。さらに、基板2の上下に充填された弾性シール材が基板2から剥離しないよう繋ぎとめる役目も併備する。本実施形態では、内周側及び外周側ビードを構成する金属ビード10,11の凹部が、補強ビード12の凹部で連結されるので、形成材料が、補強ビード12の凹部を介してビード間を行き来し、各ビードに効率よく供給される。従来は、効率よく充填するために、シールラインに沿う金属ビードのR面に小孔を設けていたが、この小孔の設置数があまりに多いと、製造コストが高くなり、またガスケットの耐久性が劣化するおそれがある。その点、補強ビード12を設ければ、充填時の効率の向上を図れるので、R面の小孔の設置数を低減することができる。
【0022】
また、上記のように、内周側及び外周側シールラインSL1,SL2に挟まれた基板2の平坦部に薄膜を形成することで、冷却水の接触による基板2の酸化腐蝕を防止し、耐久性の向上を図ることができる。また、近年は軽量化のためにアルミ製シリンダブロックの採用が増加しているが、基板2表面に薄膜を形成することで、鋼板等アルミ以外の材料を用いた基板2とアルミ製シリンダブロックとの接触による電位差腐蝕を防止できる。同様に、補強ビード12の凸部表面にも弾性シール材12bを形成することで、酸化腐蝕や電位差腐食を防止することができる。
【0023】
なお、本発明の適用は上記実施形態に限定されない。
例えば、内周側及び外周側ビードの形状に応じて、補強ビード12を図3及び図4に示すように形成することもできる。なお、弾性シール材を形成する材料等は上記実施形態と同様であるので詳細な説明は省略する。
図3のガスケットGは、図1に示すガスケットにおいて、内周側シールラインSL1に沿う内周側ビードを形成する金属ビード10が、板厚方向下側に凸状となるフルビードであり、外周側シールラインSL2に沿う外周側ビードの金属ビード11が、基板2を板厚方向にステップ状に屈曲してなるハーフビードである。ハーフビード状の金属ビード11は、冷却水孔6形成部分よりも外周側で板厚方向下側に向けて斜めに立ち上がり、そのビード高さはフルビード状の金属ビード10と略同一である。また、金属ビード11の弾性シール材23bは、基板2の下面側に当該金属ビード11の高さと同等又は若干高い高さに形成され、上面側には当該基板2上面と略面一にとなるように形成されている。
【0024】
上記図3のガスケットGにおいて、内周側及び外周側ビードに挟まれた基板2の平坦部は、上下両面が図2と同様に薄膜25a,25bで覆われている。そして、この平坦部のうち周方向で隣り合う冷却水孔6,6の間(図1のA−A線断面)には、金属ビード12aと弾性シール材12bとからなる補強ビード12が形成されている。補強ビード12の金属ビード12aは、内周側及び外周側ビードと同様に下側に向けて凸状となるように基板2を板厚方向に屈曲してなるフルビード状に形成される。そして、これが内周側ビードを構成する金属ビード10の凸部のR面から、外周側ビードを構成するハーフビード状の金属ビード11の凸部の傾斜面までを連結するように延設される。この金属ビード12aの高さは、内周側及び外周側ビードの高さと同等又は若干低い高さである。また、弾性シール材12bは、基板2の上面側にできる金属ビード12aの凹部に、基板2の上面と略面一となるように充填されている。
【0025】
また、図4のガスケットGは、図1に示すガスケットにおいて、内周側及び外周側シールラインSL1,SL2に沿う内周側及び外周側ビードの金属ビード10,11が、共に、基板2を板厚方向にステップ状に屈曲してなるハーフビードである。具体的には、冷却水孔6の形成部分両側から冷却孔6の形成部分にかけて金属ビード10,11が板厚方向下側に向けて斜めに立ち上がるように形成されている。これら2つの金属ビード10,11のビード高さは略同一であり、第1増厚部7よりも若干高い。また、これら金属ビード10,11の上下両面には、弾性シール材21a,21bが基板2上面と略面一にとなるように形成されている。
【0026】
上記図4のガスケットGにおいて、内周側及び外周側ビードに挟まれた基板2の平坦部は、上下両面が弾性シール材21a,21bと同じ材料の薄膜25a,25bで覆われている。そして、当該基板2の平坦部のうち周方向で隣り合う冷却水孔6,6の間(図1のA−A線断面)には、金属ビード12aと弾性シール材12b,12cとからなる補強ビード12が形成されている。補強ビード12の金属ビード12aは、内周側及び外周側ビードとは反対の板厚方向上側に向けて凸状となるように基板2を板厚方向に屈曲してなるフルビード状に形成される。そして、これが、内周側ビードを構成する金属ビード10の凹部のビード面(R面)から、外周側ビードを構成するハーフビード状の金属ビード11の凹部の傾斜面までを連結するように延設される。この金属ビード12aの高さは、内周側及び外周側ビードの高さと同等又は若干低い高さである。また、弾性シール材12bは、基板2の下面側にできる金属ビード12aの凹部に充填され、両側の弾性シール材21b,23bと繋がっており、基板2の上面と略面一となっている。図4では、基板2上面側の金属ビード12aの凸部側表面には、弾性シール材12cが両側の弾性シール材21a,23aと繋がっており、高さも弾性シール材21a,23aと同一である。
【0027】
上記したハーフビードは主にスペースが限られているときに用いられるが、内周側及び外周側ビードがハーフビードで形成されても、補強ビード12を形成することの効果は同様である。
また、図5〜図7に示すように基板を複数積層してガスケットを構成する場合にも本発明を適用することができる。
【0028】
図5のガスケットGは、薄肉金属板からなる2枚の基板2,2が上下に積層され、基板2よりもやや肉厚の金属板からなる副板300が基板2,2の間に介装されてなる。これらの基板2,2及び副板300には、図1に示すように複数の燃焼室孔3、冷却水孔6、ボルト孔4及びオイル孔5が開口している。また、基板2,2は、燃焼室孔3及び冷却水孔6端部周縁に増厚部を形成していないほかは内周側及び外周側ビードや補強ビード12に関して図2に示したものと略同じ基板であり、金属ビード10,11の凹部が互いに反対方向を向くように積層されている。副板300は、基板2に代わり、燃焼室孔3の端縁全周に端部を折り返してなる第1増厚部307を形成すると共に、外端部には第2増厚部308を形成し、各ボルト孔4の外周を囲むようにして第3増厚部(図示せず)を形成している。内周側ビード、外周側ビード及び補強ビード12の高さは、副板300を挟んで基板2,2を上下に積層したときに、第1及び第2増厚部307,308と基板2,2との間に板厚方向の隙間が若干できる高さ(副板300の板厚の2分の1を超える高さ)とされている。このため、ボルト締結時には、内周側ビード、外周側ビード及び補強ビード12は圧縮変形し、必要なシール面圧を生じる。この第1及び第2増厚部307,308には面圧が集中し、高い面圧が生じており、これによりシールがなされる。なお、副板300の材質によって、折り曲げることが困難である場合などには、図7に示すようにシム板309を溶着させることにより増厚部を形成させてもよい。
【0029】
図6のガスケットGは、やはり副板300を挟んで2枚の基板2,2が積層されたものである。基板2,2は、内周側及び外周側ビードや補強ビード12に関して図3と略同じ基板であり、金属ビードの凹部を副板300に対向させるようにして上下に積層されている。また、第1及び第2の増厚部7,8は基板2側に形成されており、副板300は、燃焼室孔3や冷却水孔6の対応位置に貫通孔が設けられたものとなっている。なお、この基板2の内周側及び外周側ビードは、双方ともハーフビード、又は双方ともフルビードであってもよい。
【0030】
また、補強ビード12は、金属ビードと弾性シール材との合成から構成されるものに限定されない。例えば、補強ビードを弾性シール材のみで構成してもよい(図8参照)。図8では、周方向で隣接する冷却水孔の間の基板2の平坦部に、内周側及び外周側ビードと同じ板厚方向下側に向けて凸状となる弾性シール材が、内周側及び外周側ビードを連結するように延設されている。同様に、図示しないが、金属ビードのみで補強ビードを形成してもよい。このほか、図示しないが、金属ビードや弾性シール材の代わりに、内周側及び外周側ビードが凸状となる側の面に、当該ビード同士を連結するようにシム板を溶着することなどによっても、板厚方向の剛性を高めることができるので、燃焼室孔側から外周側にかけての変形を防止できる。
【0031】
また、内周側及び外周側ビードについても、金属ビードと弾性シール材との合成から構成されるものに限定されず、金属ビードのみ(図9参照)、弾性シール材のみ(図10参照)から構成してもよい。図9では、内周側ビード、外周側ビード及び補強ビードを、すべて金属ビード10,11,12aのみで形成している。また、図10では、内周側ビード、外周側ビード及び補強ビードを、すべて弾性シール材100,101,122のみで形成している。図2のように内周側及び外周側ビードについても、金属ビードと弾性シール材との合成から構成した場合には、弾性シール材の硬度と成形幅でシール面圧を調整できるため、基板2の硬度を低くすることが可能であり、この結果基板の疲労破壊を防止して長寿命にすることができる。さらに、この方式は面シールとなるので低面圧で良好にシールすることができ、またガスケット係数が低くなるので、限られた締付け荷重を有効に使用でき、全体の締付け荷重を減少させることができるなどの効果も得られる。
【0032】
さらに、補強ビード12は、周方向に隣接する液孔の間で燃焼室孔側から外周側に向かって延びるものであれば、内周側及び外周側ビードを連結するものに限定されず、一方のビードのみに繋がるもの、あるいは、どちらのビードにも繋がらないものであってもよい。一方のビードのみに繋がるものとしては、例えば、外周側ビードをガスケット平面視で略円状に形成するのではなく、冷却水孔6,6間の部分で内周側に向かって延びるようなくびれを設け、補強ビード(くびれ部分)が一体成型された外周側ビードを形成してもよい。但し、上記実施形態のように、内周側及び外周側ビードを連結し、冷却水孔をビードで取り囲むように補強ビードを形成すると、内周側及び外周側ビード間全体を強化できるので好ましい。
【0033】
また、図2などでは補強ビード12の高さを増厚部よりも若干高くしているが、本発明の皺や変形の防止効果を得るには、必ずしも増厚部より高くする必要はない。但し、増厚部よりも高くすれば、上記のように各冷却水孔6がシールされるので、設計通りの冷却効果を得ることができる。但し、あまりに補強ビードを高くしすぎると、シールラインの面圧よりも高くなってしまうのでシール作用に支障をきたし、またビードの変形量が大きくなると疲労破壊のおそれがあるので、内周側及び外周側ビードの高さ以下とする。同様に、本発明は補強ビードの成型幅やこれに用いる弾性シール材の硬度を特に限定するものではないが、過度に締付け荷重や面圧を増大させない範囲であることが好ましい。例えば、図2では、補強ビード12の凸部表面には薄膜状の弾性シール材12bを形成しているが、全ビード幅で高さが同じになるように弾性シール材12bを形成してもよい。
【0034】
また、図示していないが、補強ビード12のR面に、基板2の小孔13のような小孔を設けてもよい。これにより、上記のように弾性シール材の充填効率が向上し、また内周側及び外周側ビードに形成する小孔数を低減して耐久性の劣化を防止できる。
また、上記内周側及び外周側ビードの間のみでなく、燃焼室孔3の周方向で隣接する液孔の間であれば、例えば図1に示す第3シールラインSL3を繋ぐ補強ビードを設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態に係るガスケットの平面図である。
【図2】(a)は図1に示すB−B線断面図であり、(b)は図1に示すA−A線断面図である。
【図3】(a)は本発明の変形例に係るガスケットの図1に示すB−B線断面図であり、(b)は図1に示すA−A線断面図である。
【図4】(a)は本発明の変形例に係るガスケットの図1に示すB−B線断面図であり、(b)は図1に示すA−A線断面図である。
【図5】(a)は本発明の変形例に係るガスケットの図1に示すB−B線断面図であり、(b)は図1に示すA−A線断面図である。
【図6】(a)は本発明の変形例に係るガスケットの図1に示すB−B線断面図であり、(b)は図1に示すA−A線断面図である。
【図7】本発明の変形例に係るガスケットの図1に示すA−A線断面図である。
【図8】本発明の変形例に係るガスケットの図1に示すA−A線断面図である。
【図9】(a)は本発明の変形例に係るガスケットの図1に示すB−B線断面図であり、(b)は図1に示すA−A線断面図であり、(c)は(b)のガスケットの第1及び第2増厚部をシム板を付着して構成した例を示す図である。
【図10】(a)は本発明の変形例に係るガスケットの図1に示すB−B線断面図であり、(b)は図1に示すA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0036】
2 基板、3 燃焼室孔、4 ボルト孔、5 オイル孔、6 冷却水孔、7,7′ 第1増厚部、8,8′ 第2増厚部、9 第3増厚部、10,11 金属ビード、12 補強ビード、12a 金属ビード、12b 弾性シール材、13 小孔、21a,21b 弾性シール材、23a,23b 弾性シール材、25a,25b 薄膜、100,101,122 弾性シール材、300 副板、307 第1増厚部、308 第2増厚部、309 シム板、G ガスケット、SL1 上記内周側シールライン、SL1 内周側シールライン、SL2 外周側シールライン、SL3 第3シールライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を構成するシリンダブロックとシリンダヘッドとの対向する接合面間に介装され、少なくとも前記接合面に開口するボア孔に対応する燃焼室孔及びその燃焼室孔の外周側に位置する複数の液孔とを薄肉金属板の基板に形成したガスケットにおいて、
燃焼室孔の周方向で隣接する前記液孔の間の基板部分に、燃焼室孔側から外周側に向かって延びる補強部を設けたことを特徴とするガスケット。
【請求項2】
内燃機関を構成するシリンダブロックとシリンダヘッドとの対向する接合面間に介装され、少なくとも前記接合面に開口するボア孔に対応する燃焼室孔及びその燃焼室孔の外周側に位置する複数の液孔とを薄肉金属板の基板に形成し、
前記基板に、燃焼室孔と複数の液孔との間で前記燃焼室孔を囲むように内周側シールラインを設定すると共に、前記内周側シールラインの外周側で前記燃焼室孔及び前記複数の液孔の少なくとも一部を囲むようにして外周側シールラインを設定し、
前記内周側シールライン及び前記外周側シールラインに沿って、内周側ビード及び外周側ビードを夫々形成したガスケットにおいて、
隣接する前記液孔の間の基板部分に、前記内周側ビードと前記外周側ビードとを連結する補強ビードを形成し、
前記補強ビードの高さを、前記内周側ビード及び外周側ビードの板厚方向の高さと同等以下としたことを特徴とするガスケット。
【請求項3】
前記補強ビードは、前記基板部分を板厚方向に屈曲して凸状に成形してなる金属ビードであることを特徴とする請求項2に記載のガスケット。
【請求項4】
前記補強ビードを、前記基板部分を板厚方向に屈曲して凸状に成形してなる金属ビードと、その金属ビードの凸部側表面及び凸部裏側の凹部に固着して前記金属ビードと共に板厚方向に弾性変形する弾性シール材からなるゴムビードと、の合成から構成したことを特徴とする請求項2に記載のガスケット。
【請求項5】
前記補強ビードは、前記基板部分に固着され、板厚方向に弾性変形する弾性シール材からなるゴムビードであることを特徴とする請求項2に記載のガスケット。
【請求項6】
少なくとも前記内周側シールライン及び前記外周側シールラインに挟まれた前記基板の平坦部の両面に、薄膜を形成したことを特徴とする請求項4又は5に記載のガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−57063(P2007−57063A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245750(P2005−245750)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000230261)日本メタルガスケット株式会社 (27)
【Fターム(参考)】