説明

ガスケット

【課題】コーティング層を有するガスケットにおいて、コーティング層の一部を識別標
識に利用することにより、識別標識形成用の打ち抜き工程やプレス工程を不要にするガス
ケットを提供する。
【解決手段】金属基板10にコーティング層50を積層したガスケット1で、該コーテ
ィング層50の一部で識別標識51を形成する。更には、ガスケット1が異なる種類の複
数のコーティング層50,60を積層するガスケット1の場合に、識別標識51を、内部
側のコーティング層50の一部で形成すると共に、この識別標識51部分に対しては表面
側のコーティング層60を積層しないように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、V型エンジン用の左右バンクの識別を必要とするシリンダヘッドガスケット
等の識別標識を備えたガスケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンのシリンダヘッドとシリンダブロック(シリンダボディ)の接合面を
シールする場合に、金属製のシリンダヘッドガスケットを間に挟持して燃焼ガスや冷却水
や潤滑オイル等をシールしている。
【0003】
このようなシリンダヘッドガスケットで、V型エンジンに用いる場合には、左右バンク
のシリンダヘッドガスケットは、ごく一部が異なっているだけで外形は略同じであるため
、組み付けを間違えないように、特に、自動組み付けラインにおけるセッテイングを間違
えないように、「R」「L」等の識別記号を設け、どちらのバンクに用いるシリンダヘッ
ドガスケットであるかを表示している。この識別記号は、プレート(金属基板)を打ち抜
く方法やプレスする方法等で設けている。
【0004】
また、「R」「L」の識別記号では無いが、厚さを表す識別記号を識別孔で形成したも
のとして、複数の基板を、少なくとも一つの角部を切除した切除部を有する略矩形形状に
形成すると共に、複数の基板のうち少なくとも一枚の基板に対し、切除部の外形に沿って
突出部を形成すると共に、突出部に切除部の外形に沿って一列に識別孔からなる識別標識
を設けた積層ガスケットが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、このような打ち抜き方法で識別記号を設ける場合には、打ち抜き工程や
プレス工程を設ける必要がある上に、打ち抜きの場合には、「R」「L」等の識別記号の
抜きカスが発生し、この廃材処理が必要となるという問題がある。
【0006】
一方、ガスケットでは、金属基板に塗布するコーティング層の役割が大きくなってきて
いる。その一つに、金属基板の上にプライマを塗布し、その上にトップコートを塗布する
ガスケットがある。このプライマ塗布層はトップコート塗布層を金属基板に貼り付けるた
めの接着剤の役割を果たし、また、トップコート塗布層は適当な硬度と弾力性を有して適
切なシール面圧を発生するという役割を果たす。
【0007】
このガスケットでは、万一、プライマ層が塗布されずにトップコート層のみが塗布され
た場合には、トップコート層が金属基板への接着が不十分で剥がれやすくなっているため
、実際にガスケットを使用した時に、エンジンの不凍液や潤滑油に浸って力が作用すると
、適切なシール効果を奏することができない。そのため、このプライマ層の有無の確認は
重要な事柄になっている。
【0008】
しかしながら、このプライマ層の有無の差は、外観や硬度では区別がつかず、製造工程
で、プライマ層を塗布しない不良品が出たとしても、トップコート層が一旦塗布されてし
まうと、その後の検査ではプライマ層の有無の確認が簡単にはできないという問題がある

【0009】
この問題に対応するために、シリコンゴム、弗素ゴム等の軟質材をコーティングする際
に、各コーティング層に対して、重ね塗りをせずに該当するコーティング層のみを塗布す
る部分、表示用コーティング層をそれぞれ離隔した状態で金属基板に設けて、この部分に
塗布層があるか否かを目視や反射型のフォトセンサ等によって確認できるようにしたガス
ケット表面のコーティング方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0010】
この表示用コーティング層は単なる各コーティング層の塗布の有無の確認用であるため
、ガスケットの種類などを示す識別記号の役割を持たせていない。
【特許文献1】特開平6−337070号公報
【特許文献2】特開平8−178074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、コーティ
ング層を有するガスケットにおいて、コーティング層の一部を識別標識に利用することに
より、識別標識形成用の打ち抜き工程やプレス工程を不要にするガスケットを提供するこ
とにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明に係るガスケットは、金属基板にコーティング層を
積層したガスケットであって、該コーティング層の一部で識別標識を形成して構成する。
【0013】
この識別標識としては、ガスケットの種類又は用途を識別するための標識、例えば、V
型エンジンの左右バンクを示す「R」「L」の標識や、ガスケットの厚みを表示する「1
」「2」「3」「4」「5」等の標識等がある。
【0014】
この構成によれば、プライマ層等のコーティング層の一部で識別標識を形成するので、
コーティング工程でコーティング層の形成と同時に識別標識を形成できる。そのため、改
めて、打ち抜き工程などの識別標識形成用の工程を設ける必要がなくなる。また、抜きカ
ス等の廃材処理が不要となる。
【0015】
このプライマ層は、エポキシ、フェノール、フェノキシ等の材料で、厚みが5μ〜10
μ程度になるように積層される層であり、表面ゴム層と金属間の接着的な機能を果たす層
である。
【0016】
また、異なる種類の複数のコーティング層を積層するガスケットにおいては、前記識別
標識を、内部側のコーティング層の一部で形成すると共に、該識別標識部分に対しては表
面側のコーティング層を積層しないように構成する。
【0017】
この異なる種類のコーティング層とは、材質の違いなどにより、色彩や明度や艶等によ
り、視覚的(あるいは光学的に)に差異を認識できたり、触覚的に差異を認識できたりす
ることができるコーティング層のことを言い、隣接するコーティングの間で異なっていれ
ば良く、同じコーティング層が別種類のコーティング層を挟んで積層されていてもよい。
【0018】
この識別標識は、内部側のコーティング部で形成され、表面側のコーティング層に覆わ
れていない部分となる。つまり、内部側のコーティング層の一部が露出している部分とな
る。そのため、この構成によれば、識別標識の有無により、内部側のコーティングが行わ
れているか否かを、確実且つ容易に視覚又は触感等で確認できる。即ち、識別標識があれ
ば、内部側のコーティング層が塗布されており、識別標識が無ければ、内部側のコーティ
ング層が塗布されていないことを示す。従って、2層塗りの場合に内部側のコーティング
がされていない不良品を容易に選別できる。
【0019】
また、この識別標識は、表面側のコーティング層が無くても、ガスケットのシール効果
等に影響を及ぼさない部分に配置することが好ましい。また、内部側のコーティング層を
露出させるのが好ましくない場合には、表面側のコーティング層とは異なった透明又は半
透明のコーティング剤で、内部層確認用非コーティング部を覆い、内部側のコーティング
層の露出を回避する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のガスケットによれば、コーティング工程を経て製造されるガスケットにおいて
、コーティング層の一部を識別標識に形成することにより、従来技術のプレート打ち抜き
加工のような識別標識形成用の工程を改めて設ける必要がなくなると共に、金属基板の打
ち抜きで生じる抜きカスが発生せず、廃材処理が不要となる。
【0021】
更には、複数のコーティング層を塗布する場合には、識別標識を、内部側のコーティン
グ層の一部で形成すると共に、この識別標識部分に対しては表面側のコーティング層を積
層しないように構成すると、識別標識の有無により、内部側のコーティングが行われてい
るか否かを容易に確認できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、図面を参照して本発明に係るガスケットの実施の形態について、V型エンジンの
左右バンク用のシリンダガスケットを例にして説明する。
【0023】
図1及び図2に示す本発明に係る実施の形態のシリンダヘッドガスケット1は、エンジ
ンのシリンダヘッドとシリンダブロック(シリンダボディ)との間に挟持されるメタルガ
スケットであって、シリンダボアの高温・高圧の燃焼ガス、及び、冷却水通路や冷却オイ
ル通路等の冷却水やオイル等の液体をシールする。
【0024】
なお、図1及び図2は、模式的な説明図であり、金属積層型ガスケット1の断面におけ
る縦横比等を実際のものとは異ならせて、より理解し易いように表示している。
【0025】
先ず、シリンダヘッドガスケットについて説明する。図1に示すように、この実施の形
態のシリンダヘッドガスケット1は、複数枚の金属基板10,20,30で構成される。
この金属基板10,20,30は、ステンレス焼鈍材(アニール材)や軟鋼板等で形成さ
れ、シリンダブロック等のエンジン部材の形状に合わせて製造される。図2に示すように
、金属基板30は、金属基板(上板)10と金属基板(下板)20の内側に配置されてい
る。
【0026】
この金属基板10,20,30には、シリンダボア用穴2、冷却水用の水穴3、エンジ
ンオイルの循環のためのオイル穴4、締結ボルト用の締結ボルト穴5等が形成される。
【0027】
各シリンダボア用穴2の周りのシール手段として、金属基板10の折り返し部の内部に
フルビードで形成されるビード41を有する円環状のビード板40が配置される。このビ
ード41は各シリンダボア用穴2をそれぞれ一周して設けられる。更に、この周囲におい
て金属基板20のハーフビード21が設けられ、このハーフビード21は、円周の一部が
連続して全シリンダボア用孔2を囲むように形成される。また、水孔3の周囲には、金属
基板30のビード31が設けられ、水孔3のシールを行う。
【0028】
そして、シリンダヘッドガスケット1の金属基板10に第1コーティング層50が塗布
され、更に、その表面側に第2コーティング層60が塗布される。つまり、金属基板10
に異なる種類の複数のコーティング層50,60を積層する。
【0029】
この第1コーティング層50は、プライマ塗布層とも呼ばれ、エポキシ、フェノール、
フェノキシ等の材料で、厚みが5μ〜10μ程度になるように積層され、表面ゴム層と金
属間の接着的な機能を果たす。
【0030】
また、第2コーティング層60は、トップコート塗布層とも呼ばれ、フッ素、NBR、
シリコン等の材料で、厚みが10μ〜20μ程度になるように積層され、エンジンツール
マークにフィットしてガスケットのシール性能を高めるという機能を果たす。
【0031】
この第1コーティング層50と第2コーティング層60は、色彩、明度、艶、手触りな
どが異なるため、視覚的(光学的)に、また、触感でも区別がつくものである。
【0032】
そして、金属基板10の刻印12を打つ部分の近傍に、右バンク用である「R」の識別
標識51、又は、左バンク用である「L」の識別標識51の形状で、第1コーティング層
50を塗布する。つまり、内部側の第1コーティング層50を塗布するときに、この「R
」や「L」の識別標識51も同時に塗布する。これにより、識別標識51を内部側の第1
コーティング層50の一部で形成する。
【0033】
この第1コーティング層50の表面に第2コーティング層60を塗布するが、この塗布
の際に、この識別標識51の部分には塗布しない。つまり、識別標識51を形成する内部
側の第1コーティング層50の一部分を覆わずに露出させたままとする。
【0034】
上記の構成のガスケット1によれば、コーティング層50の一部を識別標識51に形成
することにより、従来技術のプレート打ち抜き加工のような識別標識形成用の工程を改め
て設ける必要がなくなり、金属基板の打ち抜きで生じる抜きカスが発生せず、廃材処理が
不要となる。
【0035】
更には、複数のコーティング層50,60を塗布する場合に、識別標識51を、内部側
のコーティング層50の一部で形成すると共に、この識別標識51部分に対しては表面側
のコーティング層60を積層しないように構成しているので、識別標識51の有無により
、内部側のコーティング層50が設けられているか否かを容易に確認できる。
【0036】
なお、上記の実施の形態の説明では、複数枚の金属基板で形成される積層型金属製シリ
ンダヘッドガスケットを例にして説明したが、本発明は一枚の金属基板で構成される金属
製シリンダヘッドガスケット等にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る実施の形態のシリンダヘッドガスケットの一部分を示す平面図である。
【図2】図1のA−A部分の断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 シリンダヘッドガスケット
2 シリンダボア用穴
3 水穴
4 オイル穴
5 締結ボルト穴
10 金属基板
20 金属基板
21 ハーフビード
30 金属基板
31 ビード
40 ビード板
41 ビード
50 第1コーティング層
51 識別標識
60 第2コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板にコーティング層を積層したガスケットであって、該コーティング層の一部で
識別標識を形成したことを特徴とするガスケット。
【請求項2】
前記ガスケットが異なる種類の複数のコーティング層を積層するガスケットであって、
前記識別標識を、内部側のコーティング層の一部で形成すると共に、該識別標識部分に対
しては表面側のコーティング層を積層しないことを特徴とする請求項1記載のガスケット


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−92775(P2007−92775A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279431(P2005−279431)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000198237)石川ガスケット株式会社 (57)
【Fターム(参考)】