説明

ガスケット

【課題】ガスケット1を挟み込む相手部材210,220の表面に鋳巣や面粗さなどによる微細凹部210a,220aが存在する場合であっても、優れた密封性を確保する。
【解決手段】ガスケット基板2の両面に第一及び第二の弾性層3,4が積層一体化され、ガスケット基板2に複数のビード21,22が屈曲形成され、第一の弾性層3が、ビード21,22の山折面を覆うように形成されて一方の相手部材210に密接可能な薄膜部31,32と、ビード21,22の間の相対的な凹部を埋めるように形成されて一方の相手部材210に密接可能な充填部33を備え、第二の弾性層4が、ビード21,22の裾部23,24,25を第一の弾性層3と反対側から覆うように形成されて他方の相手部材220に密接可能な薄膜部41,42,43と、ビード21,22の谷折面による凹部を埋めるように形成されて他方の相手部材220に密接可能な充填部44,45を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の内燃機関やその他の機器に使用され、金属からなるガスケット基板に弾性層を積層した構造のガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両の内燃機関におけるシリンダブロックとシリンダヘッドの結合部などに介在されるガスケットとして、金属板にゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)の層を積層一体化したものが知られており、図3及び図4は、その一例を示すものである。
【0003】
このうち図3に示されるガスケット(ビード付きゴム焼付ガスケット)100は、鋼板などの金属からなるガスケット基板101の両面にゴム状弾性材料からなる弾性層102,103が積層一体化され、この弾性層102,103にそれぞれ複数のビード102a,103aが形成されたものである。
【0004】
また、図4に示されるガスケット(ビード付きソフトメタルガスケット)200は、塑性加工(プレス加工)によってステップ状のビード201a及びフランジ部201b,201cが形成された鋼板などの金属板からなるガスケット基板201の両面に、ゴム状弾性材料からなる薄い弾性層202,203が積層一体化されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−261755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図3に示されるガスケット100によれば、ビード102a,103aが圧縮されることによる反力でシール面圧を得ているため、シール面圧が低く、しかも所要の面圧を得るために高圧縮としてビード102a,103aに対するつぶし代を大きくすると、応力緩和が起こりやすくなるといった問題が指摘される。
【0007】
また、図4に示されるガスケット200によれば、図5に示されるように相手部材210,220の間で挟圧されることによって、金属板からなるガスケット基板201に形成されたビード201a及びフランジ部201b,201cがその角部を支点とするような変形を受けるので、シール面圧が局部的に高まると共に、前記変形によって相手部材210,220との密接部であるシールラインSLが複数箇所に形成されるので、シール性の向上に有効である。
【0008】
しかしながら、図4に示されるガスケット200を図5に示されるように変形させるには高圧縮することが必要であり、相手部材210,220が低剛性である場合は相手部材210,220に変形を来たすおそれがあった。
【0009】
しかも、相手部材210又は220がダイキャスト製品からなるものである場合、その表面には多数の鋳巣(鋳造時の気泡による微細な凹部)210a,220aが存在しており、このような鋳巣210a,220aが、シールラインSLを跨ぐ位置に形成されていると、鋳巣210a,220aを介して漏れを生じてしまうことになる。シールラインSLにおける密接幅Wによって埋めることのできる鋳巣210a,220aの穴径φは、現行の仕様ではせいぜい0.8mm程度であり、したがって、相手部材210,220の表面に穴径φ0.8mmを超えるような鋳巣が存在する場合は、優れたシール性を確保することができなかった。
【0010】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、ガスケットを挟み込む相手部材の表面に鋳巣や面粗さなどによる微細凹部が存在する場合であっても、優れた密封性を確保することができるガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るガスケットは、互いに対向する相手部材間に挟み込まれるガスケットであって、金属板からなるガスケット基板の両面に第一及び第二の弾性層が積層一体化され、前記ガスケット基板にその厚さ方向一側を向いた複数のビードが屈曲形成され、前記第一の弾性層が、前記ビードの山折面を覆うように形成されて一方の相手部材に密接可能な薄膜部と、前記ビードの間の相対的な凹部を埋めるように形成されて前記一方の相手部材に密接可能な充填部を備え、前記第二の弾性層が、前記ビードの裾部を前記第一の弾性層と反対側から覆うように形成されて他方の相手部材に密接可能な薄膜部と、前記ビードの谷折面による凹部を埋めるように形成されて前記他方の相手部材に密接可能な充填部を有するものである。
【0012】
上述の構成を備えるガスケットは、互いに対向する相手部材間に挟み込まれることによって、ガスケット基板のビードの山折面を覆うように形成された第一の弾性層の薄膜部が、前記ビードの圧縮応力によって一方の相手部材に所要の面圧で密接すると共に、複数のビードの間の相対的な凹部を埋めるように形成された充填部が、前記一方の相手部材に前記薄膜部より低い面圧で密接し、前記ビードの裾部を前記第一の弾性層と反対側から覆うように形成された第二の弾性層の薄膜部が、前記ビードの圧縮応力によって他方の相手部材に所要の面圧で密接すると共に、前記各ビードの谷折面による凹部を埋めるように形成された第二の弾性層の充填部が、前記他方の相手部材に前記薄膜部より低い面圧で密接する。このため双方の相手部材に対して広い幅で密接されることになり、相手部材の表面に鋳巣などの微細凹部が存在する場合であっても、これらの微細凹部を前記薄膜部及び充填部で閉塞して、漏れを有効に防止する。
【0013】
また、請求項2の発明に係るガスケットは、請求項1に記載された構成において、第一及び第二の弾性層における充填部が第一及び第二の弾性層における頂部及び底部薄膜部よりも低く形成されたものである。
【0014】
このように構成されたガスケットは、互いに対向する相手部材の間に挟み込んだときに、相手部材からの挟圧力によるガスケット基板のビードの圧縮変形及び第一及び第二の弾性層における薄膜部の圧縮変形が、充填部によって阻害されないので、この充填部において相対的に面圧が低く、薄膜部において相対的に面圧が高くなるといった面圧分布が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るガスケットによれば、相手部材に対する密接幅が増大するため、ガスケットを挟み込む相手部材の表面に鋳巣などの微細凹部が存在する場合であっても、優れた密封性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るガスケットの好ましい実施の形態を示す未装着状態の断面図である。
【図2】本発明に係るガスケットの好ましい実施の形態を示す装着状態の断面図である。
【図3】従来技術によるガスケットの一例を示す未装着状態の断面図である。
【図4】従来技術によるガスケットの他の例を示す未装着状態の断面図である。
【図5】図4のガスケットの装着状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るガスケットについて、図面を参照しながら詳細に説明する。まず図1は本発明に係るガスケットの好ましい実施の形態を示す未装着状態の断面図、図2は装着状態の断面図である。
【0018】
すなわち図1に示されるガスケット1は、金属板、典型的には鋼板からなるガスケット基板2と、このガスケット基板2の両面に加硫接着によって積層一体化されたゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる第一及び第二の弾性層3,4とを備える。
【0019】
ガスケット基板2には、その厚さ方向一側を向いたビード21,22と、このビード21,22の間の平坦な中間部23と、外周側のビード21の外周側の平坦な外周フランジ部24と、内周側のビード22の内周側の平坦な内周フランジ部25が、塑性加工(プレス加工)によって形成されている。
【0020】
詳しくは、外周側のビード21及び内周側のビード22は、それぞれ頂部が曲面をなすように屈曲された断面略V字形に形成されている。また、中間部23はビード21,22の間の裾部ということができ、フランジ部24,25は、ビード21,22の裾部ということができ、中間部23及びフランジ部24,25におけるビード21,22の突出方向と反対側の面23a,24a,25aは、互いに同一平面をなしている。
【0021】
第一の弾性層3は、ガスケット基板2のビード21,22における山折面21a,22aを覆うように形成された頂部薄膜部31,32と、この頂部薄膜部31,32の間にあってビード21,22の間の相対的な凹部を埋めるように形成された充填部33と、頂部薄膜部31,32からフランジ部24,25の表面を覆うように延在された裾部薄膜部34,35を備えている。
【0022】
第二の弾性層4は、ガスケット基板2の中間部23におけるビード21,22の突出方向と反対側の底面23a及びその両側の山折面23b,23cを覆うように形成された底部薄膜部41と、フランジ部24,25におけるビード21,22の突出方向と反対側の底面24a,25a及び山折面24b,25bを覆うように形成された底部薄膜部42,43と、底部薄膜部41,42の間にあってビード21の谷折面21bによる凹部を埋めるように形成された充填部44と、底部薄膜部41,43の間にあってビード22の谷折面22bによる凹部を埋めるように形成された充填部45を備えている。
【0023】
第一の弾性層3における頂部薄膜部31,32及び裾部薄膜部34,35と、第二の弾性層4における底部薄膜部41,42,43は、請求項1に記載された薄膜部に相当するものであって、互いに同じ肉厚に形成されている。また、第一の弾性層3における充填部33の表面は、その両側にあってガスケット基板2のビード21,22の山折面21a,22aを覆っている頂部薄膜部31,32の頂面よりも低い平面状に形成されており、第二の弾性層4における充填部44,45の表面は、ガスケット基板2の中間部23及びフランジ部24,25を覆っている底部薄膜部41,42,43の表面より低く形成されている。
【0024】
また、第一の弾性層3における充填部33は、図2に示されるように、当該ガスケット1を相手部材210,220の間に介在させて挟圧(圧縮)した状態において、一方の相手部材210の表面に密接可能な高さとなっており、好ましくは、第一の弾性層3における裾部薄膜部34,35に対する充填部33の高さhが、裾部薄膜部34,35に対する頂部薄膜部31,32の頂面の高さhに対して40〜60%となっている。同様に、第二の弾性層4における充填部44,45は、図2に示されるように、当該ガスケット1を相手部材210,220の間に介在させて挟圧(圧縮)した状態において、他方の相手部材220の表面に密接可能な高さとなっており、好ましくは、底部薄膜部41,42,43に対して40〜60%となっている。
【0025】
また好ましくは、第一の弾性層3における裾部薄膜部34,35と充填部33の高低差Δh(=h−h)は、第二の弾性層4における充填部44,45と底部薄膜部41,42,43の高低差と互いに等しいものとする。
【0026】
以上のように構成されたガスケット1は、図2のように相手部材210,220の間に介在され、この相手部材210,220を結合する不図示のボルトの締め付け力によって挟圧される。なお、相手部材210,220は、例えば車両の内燃機関のシリンダブロックとシリンダヘッド、あるいはハイブリッド車用インバータケースのケース本体とカバーなどのように、ダイキャスト製品からなるものである。
【0027】
図2に示される装着状態では、ガスケット1は、相手部材210,220の間で挟圧されることによって、ガスケット基板2のビード21,22に被着された第一の弾性層3の頂部薄膜部31,32や、ガスケット基板2の中間部23及びフランジ部24,25に被着された第二の弾性層4の底部薄膜部41,42,43が圧縮されると共に、ビード21,22自体も圧縮変形を受ける。
【0028】
ここで、例えば図1に示される未加圧(未装着)状態において、第一の弾性層3の充填部33が頂部薄膜部31,32と同一高さであると共に、第二の弾性層4の充填部44,45が底部薄膜部41,42,43と同一高さである場合は、相手部材210,220の間でガスケット1を挟圧するときに、頂部薄膜部31,32や底部薄膜部41,42,43が相手部材210,220と接触するのと同時に充填部33,44,45も相手部材210,220と接触するので、充填部33,44,45の圧縮反力によって頂部薄膜部31,32及び底部薄膜部41,42,43やビード21,22の圧縮変形が阻害されることになる。これに対して図示の形態によれば、第一の弾性層3における充填部33は頂部薄膜部31,32よりΔhだけ低く、第二の弾性層4における充填部44,45は底部薄膜部41,42,43よりΔhだけ低いため、頂部薄膜部31,32、底部薄膜部41,42,43及びビード21,22の圧縮変形が、充填部33,44,45によって阻害されることはない。
【0029】
すなわち、ガスケット1を相手部材210,220の間で挟圧して行くと、ガスケット基板2のビード21,22の圧縮変形を伴いながら、第一の弾性層3の頂部薄膜部31,32及び第二の弾性層4の底部薄膜部41,42,43が相手部材210,220に圧接され、その後さらに挟圧されることによって、相手部材210,220に対する頂部薄膜部31,32及び底部薄膜部41,42,43の密接面圧がある程度高くなった時点で第一の弾性層3における充填部33が相手部材210に圧接されると共に、第二の弾性層4における充填部44,45が相手部材220に圧接される。
【0030】
このためガスケット1は、第一の弾性層3の頂部薄膜部31,32や第二の弾性層4の底部薄膜部41,42,43の圧縮変形及びガスケット基板2のビード21,22自体の圧縮変形によって、第一の弾性層3における頂部薄膜部31から頂部薄膜部32にかけての領域が、連続した面をなして一方の相手部材210に密接され、第二の弾性層4における底部薄膜部42から底部薄膜部43にかけての領域が、連続した面をなして他方の相手部材220に密接される。
【0031】
その結果、相手部材210に対する第一の弾性層3の密接幅W及び相手部材220に対する第二の弾性層4の密接幅Wが広いものとなる。しかも図2に多数の矢印で示すように、相手部材210に対する第一の弾性層3の密接面圧Pは、ガスケット基板2のビード21,22の頂部と対応する部分(頂部薄膜部31,32)で最も高くなるように分布する。また、相手部材220に対する第二の弾性層4の密接面圧Pは、ガスケット基板2の中間部23及びフランジ部24,25に被着された第二の弾性層4の底部薄膜部41,42,43で高く、とくに前記フランジ部24,25の山折面24b,25bの近傍で最も高くなるように分布する。したがって、相手部材210と第一の弾性層3の密接面間及び相手部材220と第二の弾性層4の密接面間を通過しようとする流体を、広い密接幅W,W及び局部的な密接面圧の増大によって有効に遮断することができる。
【0032】
また、相手部材210,220が例えばダイキャスト製品からなるものであってその表面に鋳巣などの微細凹部210a,220aが多数存在する場合であっても、その穴径よりも密接幅W,Wを十分に広いものとすることができるので、微細凹部を第一の弾性層3及び第二の弾性層4で閉塞して、微細凹部210a,220aを介しての漏れを有効に遮断することができる。
【0033】
さらに、先に説明した図5に示される従来のガスケット200のように高圧縮する必要がないので、相手部材210,220が低剛性であっても変形や損傷の発生を有効に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のガスケットは、互いに対向する一対の相手部材間に挟み込まれることによって密封機能を奏するものであって、とくに、前記相手部材が例えば内燃機関のシリンダブロックとシリンダヘッド、あるいはハイブリッド車用インバータケースのケース本体とカバーなどのようにダイキャスト製品からなるものである場合にも、好適に適用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 ガスケット
2 ガスケット基板
21,22 ビード
23 中間部(裾部)
24,25 フランジ部(裾部)
3 第一の弾性層
4 第二の弾性層
31,32 頂部薄膜部(薄膜部)
34,35 裾部薄膜部(薄膜部)
41,42,43 底部薄膜部(薄膜部)
33,44,45 充填部
210,220 相手部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する相手部材間に挟み込まれるガスケットであって、金属板からなるガスケット基板の両面に第一及び第二の弾性層が積層一体化され、前記ガスケット基板にその厚さ方向一側を向いた複数のビードが屈曲形成され、前記第一の弾性層が、前記ビードの山折面を覆うように形成されて一方の相手部材に密接可能な薄膜部と、前記ビードの間の相対的な凹部を埋めるように形成されて前記一方の相手部材に密接可能な充填部を備え、前記第二の弾性層が、前記ビードの裾部を前記第一の弾性層と反対側から覆うように形成されて他方の相手部材に密接可能な薄膜部と、前記ビードの谷折面による凹部を埋めるように形成されて前記他方の相手部材に密接可能な充填部を有することを特徴とするガスケット。
【請求項2】
第一及び第二の弾性層における充填部が第一及び第二の弾性層における頂部及び底部薄膜部よりも低く形成されたことを特徴とする請求項1に記載のガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−77880(P2012−77880A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225612(P2010−225612)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】