説明

ガスセンサ温度制御システム

【課題】出力のリッチシフトを抑制することができるガスセンサ温度制御システムを提供すること。
【解決手段】内燃機関の排気系に配設され、被測定ガス中の特定ガス濃度を測定するガスセンサの温度を制御するガスセンサ温度制御システム。ガスセンサは、酸素イオン伝導性の固体電解質体2と、固体電解質体2における一方の面と他方の面とにそれぞれ設けた被測定ガス側電極31及び基準ガス側電極32と、被測定ガス側電極31を覆うと共に被測定ガスを透過させる多孔質拡散抵抗層4とを有するガスセンサ素子1を内蔵している。内燃機関の停止時において、ガスセンサ素子1を430℃以上の温度にて加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エンジン等の内燃機関の燃焼制御等に用いることができるガスセンサの温度を制御するガスセンサ温度制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用エンジンの排気系にA/Fセンサのようなガスセンサを設け、排気ガス中の酸素濃度などから空燃比を検出し、これを利用してエンジンの燃焼制御を行うことがある(排気ガス制御フィードバックシステム)。特に、三元触媒を用いて効率よく排気ガスを浄化するためには車両用エンジンの燃焼室において空燃比が特定の値となるように制御することが重要である。
【0003】
上記ガスセンサには、排気ガス中の酸素濃度を検出するガスセンサ素子が内蔵されている。該ガスセンサ素子は、例えば、酸素イオン導電性の固体電解質体と、該固体電解質体の一方の面と他方の面とにそれぞれ設けた被測定ガス側電極及び基準ガス側電極とを有すると共に、上記被測定ガス側電極に面するチャンバ空間を有する。該チャンバ空間は、多孔質拡散抵抗層及び緻密な遮蔽層により被覆されている。そして、該多孔質拡散抵抗層を介して、被測定ガスがチャンバ空間に導入されるよう構成されている(特許文献1参照)。
他にも、上記排気ガスフィードバックシステムなどで使用するガスセンサとしてはA/Fセンサの他に、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサや排気ガス中の大気汚染物質であるNOxの濃度を直接検出するNOxセンサなどが知られている。
【0004】
上記の排気ガスフィードバックシステムに用いるガスセンサにおいて、早期活性、高検出精度等の性能が要求される。特に早期活性においては、エンジン始動後早期に活性・制御開始によって、エンジン冷始動時に大量に排出されるハイドロカーボン(HC)等の未燃ガス成分の低減に効果が得られる。
【0005】
ところで、発明者らは車両の排気管内にて長時間放置されたガスセンサ内蔵のA/Fセンサ素子が、内燃機関の始動後10数秒程度の間に、出力のリッチシフトをおこすという現象を見いだした。このリッチシフトとは、ガスセンサ素子の検出値に基づいて得た内燃機関における空燃比が、実際の空燃比よりもリッチ側を示す現象をいう。
【0006】
この現象は、いつでも発生するというわけではなく、例えば、ごく短時間のエンジン停止の間に車両用内燃機関を再始動した場合には発生しない。また、シフト量は放置時間に依存して増加するものの、1〜2日程度の放置でほぼ飽和する。
このリッチシフトは車両用内燃機関の燃焼を著しく不安定にする。
即ち、リッチ信号を受けたシステムは車両用内燃機関の空燃比をリーン側に制御する方向に働くものの、実際の排気ガスの状態は空燃比センサの指示値よりリーンであるため、最悪の場合、失火(エンジン停止)に至るおそれもある。また、制御点が大きくずれることから、排気ガスにおいてNOx等の大気汚染ガスの濃度が高くなるおそれもある。
【0007】
このリッチシフト現象に関して詳細な調査を行ったところ、ガスセンサ素子に付着し、リッチシフト現象を引き起こしている物質がH2O、すなわち水蒸気(水)であること、また付着水分は殆どが多孔質拡散抵抗層に付着していることが判明した。勿論、高湿雰囲気に放置したガスセンサ素子においてリッチシフト現象の再現も確認されている(実験例3参照)。
【0008】
上記リッチシフトは次の様なプロセスにより発生〜消滅に至ると考えられる。
すなわち、リッチシフトは、ガスセンサを車両用内燃機関の排気管等といった高湿雰囲気に放置した後に発生し、高湿雰囲気にガスセンサを放置した場合、ガスセンサ内部に設置したガスセンサ素子に気化水分(水蒸気)が侵入し、主としてガスセンサ素子の多孔質拡散抵抗層に対し水分が吸着する。
【0009】
この水分はガスセンサ素子を加熱することで多孔質拡散抵抗層から脱離、気化する。
気化した水分、つまり水蒸気は体積膨張しつつ多孔質拡散抵抗層を通じて外部に排出されようとするが、多孔質拡散抵抗層は大なり小なり拡散抵抗を有するため、水蒸気が多孔質拡散抵抗層を通過するにはそれなりの時間を要する。
【0010】
従って、ガスセンサ素子の内部(特に被測定ガス側電極近傍)で水蒸気圧が上昇し、相対的に酸素分圧が低下する。これによってガスセンサの出力にリッチシフトが発生する。
そして水蒸気は多孔質拡散抵抗層を通じて少しずつ外部に抜け、同時に素子周辺の排気ガスがA/Fセンサ素子内部に取り込まれ始める。これによって、時間の経過と共にリッチシフトが収まり、通常の出力を得る。
【0011】
このように、水分の脱離〜気化による水蒸気の急激な体積膨張が、空燃比誤差(ΔA/F)=1〜2程度の大きなリッチシフトを引き起こすと考えられる。
勿論放置される雰囲気が乾燥していればこのような問題は発生しないが、駐車車両の排気管内は排気ガスに燃焼生成物として含まれる水分によって高湿雰囲気となっており、リッチシフトの発生しやすい環境と考えられる。
【0012】
なお、上記のメカニズムによるリッチシフトは、A/Fセンサ素子のような、限界電流式の酸素センサ素子を応用した素子において発生するが、酸素濃淡起電力式の酸素センサ素子を応用した素子においても、同様のメカニズムによるリッチシフト現象が確認されている。酸素濃淡起電力式の酸素センサ素子であっても被測定ガス側電極を多孔質体で覆って構成することが多く、また多孔質体は気孔が粗くともそれなりの拡散抵抗を有するため、素子内部から水蒸気が抜けるのにそれなりの時間が必要となるためである。
【0013】
上述のリッチシフト現象の抑制には、エンジン停止時におけるガスセンサ素子への水蒸気の付着防止が効果的であり、特に制御システムにおいて、エンジン停止時のガスセンサ素子の温度を水分付着抑制条件にて維持するという方法が考えられる。
【0014】
【特許文献1】特開2000−65782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、出力のリッチシフトを抑制することができるガスセンサ温度制御システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、内燃機関の排気系に配設され、被測定ガス中の特定ガス濃度を測定するガスセンサの温度を制御するガスセンサ温度制御システムであって、
上記ガスセンサは、酸素イオン伝導性の固体電解質体と、該固体電解質体における一方の面と他方の面とにそれぞれ設けた被測定ガス側電極及び基準ガス側電極と、上記被測定ガス側電極を覆うと共に上記被測定ガスを透過させる多孔質拡散抵抗層とを有するガスセンサ素子を内蔵しており、
上記内燃機関の停止時において、上記ガスセンサ素子を430℃以上の温度にて加熱することを特徴とするガスセンサ温度制御システムにある(請求項1)。
【0017】
次に、本発明の作用効果につき説明する。
上述したごとく、ガスセンサ出力のリッチシフトの主たる原因は、内燃機関停止時に、ガスセンサ素子、特に多孔質拡散抵抗層に付着した水分にあると考えられる。
上記ガスセンサ温度制御システムにおいては、内燃機関の停止時において、ガスセンサ素子を430℃以上の温度にて加熱する。
【0018】
そのため、内燃機関の停止時において、ガスセンサ素子への水分の付着を抑制することができる。
また、ガスセンサ素子に付着した水分を充分に除去することができる。即ち、後述するごとく、ガスセンサ素子に付着する水分としては、物理的に付着する水分と、化学変化により形を変えて付着する水分とがある。この物理的に付着した水分は、約100℃に加熱すれば脱離させることができるが、化学的に付着した水分は、約400℃以上に加熱しなければ脱離させることができない。それ故、本発明のように、ガスセンサ素子を430℃以上の温度にて加熱することにより、化学的に付着した水分をも脱離することができる。
【0019】
そして、後述するごとく、ガスセンサ素子の温度を430℃以上とすることにより、リッチシフト量を急激に低減することができる。
従って、内燃機関の停止時において、ガスセンサ素子を430℃以上の温度にて加熱することにより、内燃機関始動時のリッチシフトの発生を抑制することができる。
【0020】
以上のごとく、本発明によれば、出力のリッチシフトを抑制することができるガスセンサ温度制御システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明(請求項1)において、上記ガスセンサとしては、例えば、自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置して、排気ガスフィードバックシステムに使用する空燃比センサ(A/Fセンサ)、排気ガス中の酸素濃度を測定する酸素センサ、また排気管に設置する三元触媒の劣化検知等に利用するNOx等の大気汚染物質濃度を調べるNOxセンサ等がある。
また、上記ガスセンサ素子としては、固体電解質体を有底筒状のコップ型に形成したコップ型のガスセンサ素子や、平板状の固体電解質体を用いた積層型のガスセンサ素子等がある。
【0022】
また、上記ガスセンサ素子の加熱は、500℃以下の温度にて行うことが好ましい(請求項2)。
この場合には、加熱に要する消費電力を低減することができる。
上記加熱温度が500℃を超える場合には、加熱温度を高くしてもリッチシフト抑制の効果は特に向上せず、消費電力の浪費となるおそれがある。
【0023】
また、上記ガスセンサ素子の加熱は、間欠的に行うことが好ましい(請求項3)。
この場合にも、加熱に要する消費電力を抑制することができる。即ち、水分は比較的長い時間を経てガスセンサ素子に付着するため、間欠的に素子を加熱するこで、充分に水分の吸着を防止できる。
【0024】
また、上記ガスセンサ素子の加熱は、該ガスセンサ素子の温度が430℃未満の状態が所定時間継続したとき行うことが好ましい(請求項4)。
この場合には、ガスセンサ素子への水分の付着を効率的に防ぎ、リッチシフトを効率的に抑制することができる。
即ち、ガスセンサ素子の温度が430℃未満の状態が長時間継続したときに、水分の付着のおそれが生ずる。そこで、この水分の付着を充分に防ぐことができる範囲内に、ガスセンサ素子の温度が430℃未満となる時間を短くするよう制御することにより、加熱にかかる電力消費を抑制しつつ、水分の付着を防止することができる。その結果、効率的に、リッチシフトの抑制を行うことができる。
【0025】
また、上記ガスセンサ素子の加熱は、所定の時間間隔をおいて間欠的に行い、上記時間間隔は、被測定ガス雰囲気の温度及び湿度に基づいて決定することが好ましい(請求項5)。
この場合にも、効率的に、リッチシフトの抑制を行うことができる。
即ち、ガスセンサ素子への単位時間あたりの水分付着量は、被測定ガス雰囲気の温度、湿度に基づいて詳細に予想することができる。例えば、上記温度及び湿度を基に、単位時間あたりのガスセンサ素子に衝突する水分子(H2O)の個数を導き出して、衝突時の付着確率を一定と見なした場合の単位時間当たりの水分子付着量を予測することができる。
そこで、被測定ガス雰囲気の温度及び湿度を測定することによって水分付着量を見積もり、付着量が所定の値に達したときに素子加熱を行うことで、よりきめ細かい制御が可能となる。その結果、より電力消費を抑えながらのリッチシフトの抑制が可能となる。
【0026】
また、上記ガスセンサ素子は、該ガスセンサ素子を加熱するセラミックヒータを一体的に配設してなることが好ましい(請求項6)。
この場合には、内燃機関の始動からより早期に、正確なセンサ出力を得ることができる。
即ち、上記セラミックヒータをガスセンサ素子に一体化することにより、ガスセンサ素子の早期活性化を図ると共にリッチシフトをより抑制することができる。セラミックヒータを一体化したガスセンサ素子は加熱効果が高いことから活性温度への到達が早い。仮に活性温度に到達した時点で水分の脱離が充分なされていないとすると、結局正確なセンサ出力が得られない。これに対し、本発明においては、内燃機関の始動前に予め水分の付着が抑えられるため、上記ガスセンサの高い加熱効果を存分に発揮することができる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
本発明のガスセンサ温度制御システムにつき、図1〜図3を用いて説明する。
本例のガスセンサ温度制御システムは、内燃機関の排気系に配設され、被測定ガス中の特定ガス濃度を測定するガスセンサの温度を制御するシステムである。
上記ガスセンサは、図1、図2に示すごとく、酸素イオン伝導性の固体電解質体2と、該固体電解質体2における一方の面と他方の面とにそれぞれ設けた被測定ガス側電極31及び基準ガス側電極32と、上記被測定ガス側電極を覆うと共に上記被測定ガスを透過させる多孔質拡散抵抗層4とを有するガスセンサ素子1を内蔵している。
【0028】
そして、上記ガスセンサ温度制御システムは、内燃機関の停止時において、上記ガスセンサ素子1を430℃〜500℃の温度にて間欠的に加熱する。例えば、90分毎に1〜2分間程度の加熱を行い、ガスセンサ素子1の温度を430〜500℃とする。この間欠的な加熱の間、即ち加熱を行っていない間には、ガスセンサ素子1の温度が430℃未満となることもある。
【0029】
上記ガスセンサ素子1は、図1、図2に示すごとく、該ガスセンサ素子1を加熱するセラミックヒータ5を一体的に配設してなる。即ち、上記固体電解質体2における基準ガス側電極32が配設された面に、セラミックヒータ5が積層されている。該セラミックヒータ5は、ヒータ基板51と該ヒータ基板51の内部に形成された発熱体52とからなる。ヒータ基板51は、凹部が形成され固体電解質体2側に配される内側ヒータ基板512と、平板状の外側ヒータ基板511とからなる。そして、ヒータ基板51の上記凹部と固体電解質体2との間に、基準ガスを導入する基準ガス室162が形成されている。該基準ガス室162に基準ガス側電極32が形成されている。
【0030】
固体電解質体2の先端部における被測定ガス側電極31が配設された面には、開口部を有するスペーサ11と、多孔質拡散抵抗層4と、遮蔽層12とが、順次積層されている。
上記スペーサ11は、固体電解質体2と多孔質拡散抵抗層4との間に、被測定ガスを導入する被測定ガス室161を形成している。該被測定ガス室161に被測定ガス側電極31が配設されている。
【0031】
上記多孔質拡散抵抗層4は、その端面41から侵入する被測定ガスを透過させて、上記被測定ガス室161に導入することができる。このとき、被測定ガスは、所定の拡散抵抗を受けつつ透過する。
また、上記遮蔽層12及びスペーサ11は、被測定ガスを透過させない程度に緻密に形成されている。
なお、上記スペーサ11、多孔質拡散抵抗層4、遮蔽層12、及びヒータ基板51は、それぞれアルミナセラミックにより形成されている。
【0032】
また、内燃機関の停止時におけるガスセンサ素子の温度制御は、上記セラミックヒータ5により行う。即ち、ガスセンサに接続されたECU(エンジンコントロールユニット)からの制御信号により、セラミックヒータ5のON、OFF制御を行う。なお、内燃機関の稼動時においては、従来と同様に、ガスセンサ素子1の温度制御を行う。
【0033】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上述したごとく、ガスセンサ出力のリッチシフトの主たる原因は、内燃機関停止時に、ガスセンサ素子1、特に多孔質拡散抵抗層4に付着した水分にあると考えられる。
上記ガスセンサ温度制御システムにおいては、内燃機関の停止時において、ガスセンサ素子1を430℃以上の温度にて加熱する。
【0034】
そのため、内燃機関の停止時において、ガスセンサ素子1への水分の付着を抑制することができる。
また、ガスセンサ素子1に付着した水分を充分に除去することができる。即ち、ガスセンサ素子1に付着する水分としては、物理的な凝集により付着する水分の他に、化学変化により形を変えて付着する水分がある。即ち、排気管内における水蒸気が、アルミナを主成分とする多孔質拡散抵抗層4に侵入したとき、アルミナ(Al23)と水(H2O)とが以下の化学反応を経て、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)となって、化学的に付着する。
2Al23+3H2O→2Al(OH)3
【0035】
物理的に付着した水分は、約100℃に加熱すれば脱離させることができるが、化学的に付着した水分は、約400℃以上に加熱しなければ脱離させることができない。
それ故、本発明のように、ガスセンサ素子1を430℃以上の温度にて加熱することにより、化学的に付着した水分をも脱離することができる。
【0036】
そして、実験例2に示すごとく、ガスセンサ素子1の温度を430℃以上とすることにより、リッチシフト量を急激に低減することができる。
従って、内燃機関の停止時において、ガスセンサ素子1を430℃以上の温度にて加熱することにより、内燃機関始動時のリッチシフトの発生を抑制することができる。
【0037】
また、上記ガスセンサ素子1の加熱は、500℃以下の温度にて行うため、加熱に要する消費電力を低減することができる。即ち、後述する実験例2(図5)に示すごとく、500℃を超えて加熱温度を高くしても、リッチシフト抑制の効果は特に向上しないためである。
また、上記ガスセンサ素子1の加熱は、間欠的に行うため、加熱に要する消費電力を抑制することができる。即ち、水分は比較的長い時間を経てガスセンサ素子1に付着するため、間欠的に素子を加熱することで、充分に水分の吸着を防止できる。このことは、ごく短時間(例えば90分未満)のエンジン停止の後にエンジンを再始動した場合には、リッチシフトが発生しないことから、水分の付着には比較的長い時間を要するものと考えられるからである。
【0038】
以上のごとく、本例によれば、出力のリッチシフトを抑制することができるガスセンサ温度制御システムを提供することができる。
【0039】
(実験例1)
本例は、図4に示すごとく、ガスセンサ素子1に付着した水分の脱離温度を調べた例である。
まず、ガスセンサ素子1に水分を吸着させた。この水分吸着は、95%の高湿雰囲気にガスセンサ素子1を15時間放置することにより行った。
【0040】
次いで、このガスセンサ素子1をヘリウム(He)雰囲気において徐々に加熱し、温度を徐々に上昇させた。
そして、各温度域において、ガスセンサ素子1から離脱した水分の量を、質量分析器を用いて検出した。
その結果を、図4に示す。
【0041】
同図に示すごとく、100℃および400℃近傍の2つの温度領域で水分が脱離していることが確認された。
100℃近傍において脱離した水分は、上述の物理的に付着した水分であると考えられ、400℃近傍において脱離した水分は、上述の化学的に付着した水分であると考えられる。
【0042】
(実験例2)
本例は、実験例1の結果を受けて、図5に示すごとく、ガスセンサ素子1の加熱温度とリッチシフト量との関係につき調査した例である。
一旦高湿雰囲気(湿度95%)に15時間放置して水分を付着させたガスセンサ素子1を、室温から600℃までの間の種々の一定温度雰囲気に5分間程度放置して加熱した。その後、室温で冷却した後にリッチシフト量の測定を行った。
測定結果を、図5に示す。
【0043】
同図に示されるように、加熱温度400〜430℃近傍を境として、リッチシフト量が急激に減少する温度領域が見出された。
従って、実施例1に示すごとく、内燃機関の停止時において、ガスセンサ素子1を430℃以上の温度で加熱しておくことにより、リッチシフトを大幅に抑制することができることが分かる。
【0044】
(実験例3)
本例は、図6に示すごとく、ガスセンサ素子1の高湿雰囲気への放置時間とリッチシフト量の調査を行った例である。
上記高湿雰囲気は、湿度95%の雰囲気である。
同図のS0に示すごとく、放置時間が長くなると、リッチシフトが大きく発生することがわかる。また、リッチシフトは、およそ90〜120分経過の後に発生し始めることが確認された。
【0045】
この結果から、90分毎に430℃の温度でガスセンサ素子1を加熱することにより、リッチシフトを充分に抑制することができることが分かる。
なお、仮に、3時間毎に加熱を行った場合には、図6の曲線S1に示すごとく、若干のリッチシフトが生ずるおそれはあるが、温度制御をしない場合(S0)に比べて、大幅にリッチシフトを抑制することができる。
【0046】
(実施例2)
本例は、図7に示すごとく、内燃機関停止時におけるガスセンサ素子1の加熱は、被測定ガス雰囲気の温度及び湿度に基づいて決定した時間間隔をおいて間欠的に行う、ガスセンサ温度制御システムの例である。
即ち、ガスセンサ素子1への単位時間あたりの水分付着量は、被測定ガス雰囲気の温度、湿度に基づいて詳細に予想することができる。例えば、上記温度及び湿度を基に、単位時間あたりのガスセンサ素子に衝突する水分子(H2O)の個数を導き出して、衝突時の付着確率を一定と見なした場合の単位時間当たりの水分子付着量を予測することができる。
そこで、被測定ガス雰囲気の温度及び湿度を測定することによって水分付着量を見積もり、付着量が所定の値に達したときに素子加熱を行う。
【0047】
具体的な水分付着量の見積もり方法につき、以下に説明する。
即ち、ガスセンサ素子1への水分付着量Nは、被測定ガス雰囲気の水蒸気密度と水分子の運動速度との積を時間t〔分〕にて積分した値に比例する。そして、水蒸気密度は飽和水蒸気圧P〔atm〕と湿度W〔%〕との積に比例し、水分子の運動速度は絶対温度T〔K〕の1/2乗に比例する。従って、水分付着量Nに関しては、比例定数kを用いて、以下の式(1)が成り立つ。なお、式(1)において、被測定ガス雰囲気の温度、湿度はそれぞれ時間tの関数であるためT(t)、W(t)と表し、飽和水蒸気圧はそれぞれ温度Tの関数であるためP(T(t))と表す。
【0048】
【数1】

【0049】
そして、被測定ガス雰囲気の湿度100%、温度300Kにて、ガスセンサ素子1を90分間放置した場合の水分付着量を、リッチシフトが発生し始める限界の水分付着量(限界水分付着量)として設定する。この条件は、予め確認しておくことにより得られる条件である。
この限界水分付着量は、上記の式(1)から、6110kとなる。
【0050】
そして、実際の水分付着量Nを、上記式(1)を用いて計算し、この計算値Nが基準値6000kに達したときに、図7の曲線S2に示すごとく、ガスセンサ素子1の加熱を行う。この基準値6000kは、上記限界水分付着量(6110k)よりも若干小さい値として設定した値である。
【0051】
なお、被測定ガス雰囲気の温度(図7の曲線S3)および湿度(曲線S4)の測定、並びに付着水分量の計算処理は、例えば数秒〜1分ごとに逐次行う程度で充分である。
その他は、実施例1と同様である。
【0052】
この場合にも、効率的に、リッチシフトの抑制を行うことができる。即ち、より電力消費を抑えながらのリッチシフトの抑制が可能となる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0053】
(実施例3)
本例は、ガスセンサ素子1の温度が430℃未満の状態が所定時間継続したとき、ガスセンサ素子1の加熱を行う例である。
即ち、内燃機関停止時においてガスセンサ素子1の温度をモニタリングしておき、430℃未満となった時点から、例えば60分経過したとき、セラミックヒータ5に通電して、ガスセンサ素子1の加熱を開始する。そして、ガスセンサ素子1の温度が、例えば500℃に達した時点でセラミックヒータ5への通電を終了する。そのまま放置して再びガスセンサ素子1の温度が430℃を切ってから60分を経過したとき、上記と同様の操作を繰り返す。
この所定時間(430℃未満の状態が継続する時間)は、リッチシフトが生じない程度の時間として、予め調査した上で決定する。
その他は、実施例1と同様である。
【0054】
この場合には、ガスセンサ素子1への水分の付着を効率的に防ぎ、リッチシフトを効率的に抑制することができる。
即ち、ガスセンサ素子1の温度が430℃未満の状態が長時間継続したときに、水分の付着のおそれが生ずる。そこで、この水分の付着を充分に防ぐことができる範囲内に、ガスセンサ素子1の温度が430℃未満となる時間を短くするよう制御することにより、加熱にかかる電力消費を抑制しつつ、水分の付着を防止することができる。その結果、効率的に、リッチシフトの抑制を行うことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1における、ガスセンサ素子の断面図。
【図2】実施例1における、ガスセンサ素子の展開斜視図。
【図3】実施例1における、ガスセンサ加熱制御システムの間欠加熱を示す線図。
【図4】実験例1における、水分脱離量の温度依存性を示す線図。
【図5】実験例2における、ガスセンサ素子の加熱温度とリッチシフト量との関係を示す線図。
【図6】実験例3における、ガスセンサ素子の高湿雰囲気への放置時間とリッチシフト量との関係を示す線図。
【図7】実施例2における、ガスセンサ加熱制御システムが行う温度測定、湿度測定、及びこれらに基づいて行う間欠加熱を示す線図。
【符号の説明】
【0056】
1 ガスセンサ素子
2 固体電解質体
31 被測定ガス側電極
32 基準ガス側電極
4 多孔質拡散抵抗層
5 セラミックヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気系に配設され、被測定ガス中の特定ガス濃度を測定するガスセンサの温度を制御するガスセンサ温度制御システムであって、
上記ガスセンサは、酸素イオン伝導性の固体電解質体と、該固体電解質体における一方の面と他方の面とにそれぞれ設けた被測定ガス側電極及び基準ガス側電極と、上記被測定ガス側電極を覆うと共に上記被測定ガスを透過させる多孔質拡散抵抗層とを有するガスセンサ素子を内蔵しており、
上記内燃機関の停止時において、上記ガスセンサ素子を430℃以上の温度にて加熱することを特徴とするガスセンサ温度制御システム。
【請求項2】
請求項1において、上記ガスセンサ素子の加熱は、500℃以下の温度にて行うことを特徴とするガスセンサ温度制御システム。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記ガスセンサ素子の加熱は、間欠的に行うことを特徴とするガスセンサ温度制御システム。
【請求項4】
請求項3において、上記ガスセンサ素子の加熱は、該ガスセンサ素子の温度が430℃未満の状態が所定時間継続したとき行うことを特徴とするガスセンサ温度制御システム。
【請求項5】
請求項3において、上記ガスセンサ素子の加熱は、所定の時間間隔をおいて間欠的に行い、上記時間間隔は、被測定ガス雰囲気の温度及び湿度に基づいて決定することを特徴とするガスセンサ温度制御システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記ガスセンサ素子は、該ガスセンサ素子を加熱するセラミックヒータを一体的に配設してなることを特徴とするガスセンサ温度制御システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate