説明

ガスセンサ

【課題】複数ガスの高速検出が可能なガスセンサを提供する。
【解決手段】半導体レーザ22と、半導体レーザ22を外部共振モードで発振させるための回折格子23、MEMSスキャナ30を含み、半導体レーザ22の端面22bに直交する方向に出射される光Wの波長を、MEMSスキャナ30の駆動により検出対象ガス固有の吸収スペクトル波長を含む波長範囲で掃引し、その波長掃引された光Wを検出対象ガス雰囲気に入射する外部共振型の波長掃引光源21と、検出対象ガス雰囲気を透過した光W′を受けてその光強度を検出する受光素子70とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスの吸収スペクトルを利用してガス検出を行うガスセンサに関し、特に広帯域光源と高速の可変波長光フィルタとを組み合わせることによって、複数ガスの高速検出を可能としたガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境、エネルギー問題を背景として、燃焼機器の効率向上、環境汚染物質削減等を目的とした研究・開発が行われている。燃焼機器における複雑な燃焼現象を解明して高性能化を図るためには、高速に変動する燃焼現象をリアルタイムに把握する必要がある。
【0003】
その一手法として燃焼過程におけるCO、OHラジカル、NOx等のガスの発生・遷移・消滅等を観測することが試みられる。燃焼機器がエンジンの場合、1サイクル毎の点火、燃焼によりガスの発生・遷移・消滅等が起こり、その1サイクルの中で複数のガスについてこのような現象を観測することが必要となる。その場合、このような現象を検出するための観測装置の応答性が問題となる。
【0004】
例えば、回転数が6,000rpmの場合、1サイクルは100Hzの周期となり、観測装置としては、その10倍の1KHz程度の応答性を必要とされる。本発明のガスセンサは、このような高速性を要求されるガスの発生・遷移・消滅等の観測装置として利用できる。
【0005】
ガスには特定波長の光を吸収する吸収スペクトルがあることが知られており、この原理を応用した光センシング技術が工業計測、公害監視等で広く用いられている。従来、この技術を利用して、同一ガスセル内に封入されている3種類の対象ガスの濃度を種類毎に検出することができるガスセンサがあった(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平7−159315号公報
【0007】
すなわち、3種類の対象ガスのそれぞれの吸収スペクトルに対応した波長で発振する3つの光源(半導体レーザ)を順次スイッチで切り換えて、それぞれの半導体レーザから出射されるレーザ光をガスセル(3つの測定対象ガスが封入されている)に入射する。そして、対象ガスの吸収スペクトルの影響を受けて減衰したレーザ光を順次受光器で受けて、それぞれの対象ガスの濃度を検出するものである。なお、ガスの吸収スペクトルを検出する場合、吸収スペクトルのピーク値以外にそのスペクトル幅も重要なファクタであるために、半導体レーザは注入電流や温度を変化させて、波長を狭い範囲(吸収スペクトルの裾を含むように)掃引している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のガスセンサは、対象ガス毎に光源を用意し、各光源の波長を吸収スペクトルの裾まで含むように掃引し、さらに光源を順次スイッチングしなければならないために、装置構成が複雑になると共に規模が大きくなるという欠点があった。また、光源をスイッチングする方式のために、掃引速度に限界があって、リアルタイムの検出が困難であった。さらに、検出の精度を上げるには、光源の安定性(掃引時の出射光の強度の制御性)が必要であるが、これを実現するには制御機構が複雑になるという欠点があった。
【0009】
本発明は、これらの課題を解決し、エンジン内のガスの発生・遷移・消滅等の観測にも利用でき、複数ガスの高速検出が可能なガスセンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1のガスセンサは、
光源(22、22′)、回折格子(23)およびMEMSスキャナ(30)を含み、特定方向に出射される光の波長を、前記MEMSスキャナの駆動により検出対象ガス固有の吸収スペクトル波長を含む波長範囲で掃引し、該波長掃引された光を検出対象ガス雰囲気に入射する波長掃引光源(21)と、
前記検出対象ガス雰囲気を透過した光を受けてその光強度を検出する受光素子(70)とを備えている。
【0011】
また、本発明の請求項2のガスセンサは、請求項1記載のガスセンサにおいて、
前記波長掃引光源の光源はレーザダイオード(22)により構成され、前記回折格子と前記MEMSスキャナは前記レーザダイオードとの間で外部共振器を形成し、前記MEMSスキャナの駆動により外部共振波長を可変して、前記特定方向に出射する光の波長を掃引することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3のガスセンサは、請求項1記載のガスセンサにおいて、
前記波長掃引光源の光源は、検出対象ガス固有の吸収スペクトル波長を含む広帯域光を出射する広帯域光源(22′)により構成され、前記回折格子と前記MEMSスキャナは、前記広帯域光から所望の波長成分を抽出するフィルタを形成し、前記MEMSスキャナの駆動により抽出波長を可変して、前記特定方向に出射する光の波長を掃引することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項4のガスセンサは、請求項1〜3のいずれかに記載のガスセンサにおいて、
前記MEMSスキャナは、
前記回折格子からの回折光を受けて該回折格子に反射する反射体(40)と、該反射体の反射面の角度を変化させる反射体駆動手段(60)とを含んでいることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項5のガスセンサは、請求項4記載のガスセンサにおいて、
前記MEMSスキャナの反射体は、
固定基板(41、42)と、
前記固定基板の縁部から所定幅で所定長さ延設され、その長さ方向に沿って捩じれ変形可能な軸部(43、44)と、
前記軸部の先端に自身の縁部で連結されて形成され、一面側に前記回折格子からの回折光を反射するための前記反射面が設けられた反射板(45)とを有しており、
かつ前記MEMSスキャナの反射体駆動手段は、
前記反射体の軸部と反射板とからなる部分の固有振動数に対応した周波数の電気信号によって前記反射板に力を与えて、該反射板を前記固有振動数又はそれに近い振動数で往復回転させるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガスセンサでは、光源、回折格子およびMEMSスキャナを含む波長掃引光源を用いて、検出対象ガスの吸収スペクトルを検出するようにしたので、複数のガスを検出する場合にも光源が1つで済み、装置構成が非常に単純になり装置の小型化ができる。また、MEMSスキャナの駆動により波長掃引しているので、高速な検出が可能となる。
【0016】
波長掃引光源としては、回折格子とMEMSスキャナを光源の外部共振器として用いる方式と、回折格子とMEMSスキャナを可変波長フィルタとして用いる方式とが可能であり、いずれの方式でもMEMSスキャナにより広い波長範囲を高速に掃引できる。
【0017】
また、回折格子からの回折光を反射させるためのMEMSスキャナの反射体を、固定基板と、その縁部から所定幅で所定長さ延設され、その長さ方向に沿って捩じれ変形可能な軸部と、軸部の先端に自身の縁部で連結されて形成され、一面側に反射面が設けられた反射板とによって構成すると共に、反射体の軸部と反射板とからなる部分の固有振動数に対応した周波数の電気信号によって反射板に力を与えて、反射板を固有振動数又はそれに近い振動数で往復回転させるようにしている。
【0018】
このため、反射板を高速に往復回転させることができ、しかも、その回転中心が反射板内にあるため、その角度変化に対して反射板の反射面へ入射される回折光の反射角の変化量を大きくすることができる。それにより、掃引長範囲が広帯域になり、しかもその波長範囲を高速に可変することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明のガスセンサ20の概略構成を示している。ここで、被測定物15(例えばエンジン)の内部で燃焼等によって2種類の対象ガスm1、m2(例えばCO及びOHラジカル)が発生し、その吸収スペクトルの波長はそれぞれλ1、λ2であるとする。
【0020】
波長掃引光源21は外部共振型のものであり、この実施形態の光源としてのレーザダイオード22、回折格子23およびMEMSスキャナ30により構成されている。ここで、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)スキャナとは、マイクロ電気機械式構造体(電気信号の制御を受けて機械的に動作する構造体)によって形成されたスキャナを意味している。
【0021】
レーザダイオード22の一方の端面22aは低反射率に形成され、他方の端面22bは高反射率に形成されており、単体で電源が供給されると、端面22a、22bの間隔で決まる波長(内部共振波長)の光を主に低反射率の端面22a側から出射するが、共振器損失が大きいため、低出力でスペクトラムはブロードとなる。
【0022】
また、低反射率の端面22a側に高反射率の反射体を設けた場合には、その反射体と端面22bとの距離で決まる波長(外部共振波長)の光を出射する。この場合には、共振器損失が少ないので、比較的強度が大きい狭帯域光が出射される。
【0023】
レーザダイオード22の端面22a側には、回折格子23が配置されている。回折格子23は、レーザダイオード22の端面22aにから出射された光を回折面23aで受けて、その光に含まれる各波長成分を波長に応じた方向に出射する。
【0024】
回折格子23の回折光はMEMSスキャナ30に入射される。MEMSスキャナ30は反射体40及び反射体駆動手段60で構成され、回折格子23の回折面23aに対向する反射体40の反射面の角度を反射体駆動手段60により可変できる構造を有している。
【0025】
回折格子23の回折光のうち、反射体40の反射面に直交する向きに出射されたある波長λxの光は同一光軸に沿って回折格子23に反射され、レーザダイオード22の端面22aに入射される。
【0026】
ここで、レーザダイオード22から回折格子23を経由してMEMSスキャナ30の反射体40に至る光路長を選ぶことにより、レーザダイオード22は外部共振モードとなり波長λxの光を出射し、回折格子23に対する反射体40の角度を変えることにより、共振波長λxを変化させることができる。
【0027】
そして、反射体40の角度を、所定位置を中心にして一定周期で往復変化させることで、例えば図2の(a)のように、出射光の波長をλa〜λbの範囲で連続的に且つ周期的に掃引することができる。
【0028】
なお、ここでは波長掃引範囲λa〜λbが、検出対象ガスm1、m2の吸収線スペクトラムλ1、λ2を含むように予め設定されているものとする。また、波長掃引中における時間と波長との関係は予め既知であるものとする。
【0029】
この波長掃引光の一部は、測定光Wとしてレーザダイオード22の端面22b側から、その端面22bに直交する方向(特定方向)に出射され、被測定物15に入射される。ここでは、レーザダイオード22の反射率の高い端面22bを通過する成分を測定光Wとして用いているが、図1の点線で示しているように、波長掃引光のうち回折格子23で全反射して特定方向Aに出射される光を測定光として用いることもできる。
【0030】
測定光Wの掃引波長が、対象ガスm1、m2の吸収スペクトルの波長λ1、λ2に一致していないときには、被測定物15を透過する透過光W′は大きな損失を受けることなく受光素子70に入射する。
【0031】
また、測定光Wの掃引波長が対象ガスm1、m2の吸収スペクトルの波長λ1、λ2に一致したときには、その波長の光が対象ガスm1、m2に吸収されて、受光素子70に入射される透過光W′の強度が小さくなる。
【0032】
即ち、波長掃引光源21から出射される測定光Wの強度が一定であるとすれば、図2の(a)のように掃引された測定光Wに対して、受光素子70に入射される透過光W′の強度は、図2の(b)のように、掃引波長が波長m1、m2に一致するタイミングに大きく減衰することになる。
【0033】
この受光素子70の出力信号から、検出対象ガスm1、m2の有無、量等を把握することができる。受光素子70の出力信号に対する処理は任意であるが、例えば時間軸を波長掃引に同期させたオシロスコープに受光素子70の出力信号を入力すれば、図2の(b)の波形が直視できる。
【0034】
また、受光素子70の出力信号を、図示しない信号処理部において、反射板45の角度に対応した波長毎にサンプリングし、波長毎の光の強度を示すデータ(スペクトルデータ)としてメモリに記憶し、その記憶したデータに基づいて、対象ガスm1、m2の存在、濃度等を検出してもよい。
【0035】
図3は、波長掃引光源21に用いるMEMSスキャナ30の基本構造例を示している。
このMEMSスキャナの反射体40は、横長矩形で互いに平行に配置された一対の固定基板41、42と、この一対の固定基板41、42の長辺側縁部の中央からこの固定基板41、42と直交する方向に所定幅、所定長さで延設され、その長さ方向に沿って捩じれ変形可能な一対の軸部43、44と、横長矩形で一方の長辺側縁部の中央部で軸部43の先端に連結され、他方の長辺側縁部の中央部で軸部44の先端に連結された反射板45とを有している。
【0036】
反射板45は、捩じれ変形可能な軸部43、44に中心部が支持されているので、この軸部43、44を結ぶ線を中心軸として固定基板41、42に対して回転することができる。また、軸部43、44と反射板45とからなる部分の固有振動数f0は、反射板45自体の形状や質量及び軸部43、44のバネ定数によって決まる。
【0037】
また、反射板45の一面側45aには、光を反射するための反射面46が形成されている。この反射面46は、反射板45自体を鏡面仕上げして形成したり、反射率の高い膜(図示しない)を蒸着あるいは接着して形成したものであってもよい。なお、この反射体40は、導電性が高い基板から切り出されていて導電性を有している。
【0038】
支持基板50は絶縁性を有する材料からなり、その一面側の上部と下部には、前方へ突出する支持台50a、50bが形成されており、反射体40の固定基板41、42は、この上下の支持台50a、50bに接した状態で固定されている。
【0039】
また、支持基板50の一面側中央部の両端には、反射体40の反射板45の両端にそれぞれ対向する電極板51、52がパターン形成されている。この電極板51、52は、後述する駆動信号発生器55と共に前記反射体駆動手段60(図1参照)を構成するものであり、反射板45の両端部に静電的な力を交互にかつ周期的に印加して、反射板45を往復回転運動させる。
【0040】
このように構成された反射体40は、回折格子23からの回折光を反射板45の反射面46で受けて、その反射光を回折格子23へ再入射させ、レーザダイオード22の端面22aに戻して、レーザダイオード22を外部共振モードで発光させ、その光の一部を前記測定光Wとしてレーザダイオード22の端面22b側から出射させる。
【0041】
駆動信号発生器55は、例えば図4の(a)、(b)に示すように、反射体40の電位を基準として電極板51、52に対して、固有振動数f0に対応した周波数(あるいは固有振動数f0の近傍の振動数に対応した周波数)を有し、位相が180°ずれた電気信号Va、Vbを印加して、電極板51と反射板45の一端側との間及び電極板52と反射板45の他端側との間に、交互にかつ周期的に静電力(引力)を与え、反射板45を固有振動数f0あるいはその近傍の振動数で所定角度範囲を往復回転させて、前記図2の(a)に示したように測定光Wの波長を掃引させる。
【0042】
なお、図4では、2つの電気信号Va、Vbがデューティ比50%の矩形波の場合を示しているが、両信号のデューティ比は50%以下であってもよく、また、波形も矩形波に限らず、正弦波、三角波等であってもよい。
【0043】
上記構成のMEMSスキャナ30では、反射体40を、一対の固定基板41、42と、その縁部から所定幅で所定長さ延設され、その長さ方向に沿って捩じれ変形可能な軸部43、44と、軸部43、44の先端に自身の縁部で連結され、軸部43、44に対して対称な形状に形成され、一面側45aに反射面46が形成された反射板45とによって構成すると共に、反射体40の軸部43、44と反射板45とからなる部分の固有振動数f0に対応した周波数の電気信号によって反射板45に力を与えて、反射板45を固有振動数f0又はその近傍の振動数で往復回転させている。
【0044】
このため、僅かな電気エネルギーで反射板45を高速に往復回転させることができ、しかも、その回転中心が反射板45の内部(この場合、中央部)にあるので、その角度変化に対して、反射板45の反射面46への入射光の反射角の変化量が最も大きくなり、波長掃引範囲を格段に広くすることができる。軸部43、44のバネ定数は、軸部43、44の長さ、幅、厚み、材質によって決まり、このバネ定数と、反射板45の形状、厚み、材質等で固有振動数f0が決定され、これらのパラメータを選ぶことにより、固有振動数f0を数100Hz〜数10KHzの範囲内で設定することができる。
【0045】
このMEMSスキャナ30により、波長掃引光源21の掃引波長範囲が広帯域となり、しかもその掃引波長範囲を高速に可変(掃引)することができ、エンジンの燃焼現象をリアルタイムに観測する装置(1KHz程度の応答性が要求される)としても利用できる。
【0046】
なお、上記したMEMSスキャナ30の構造は一例であり、各部の形状は種々変更できる。また、駆動方式としても前記例では電圧印加により静電的な力を発生させて反射板40を回動させていたが、コイルや磁石を用いた磁界の吸引力、反発力、あるいは超音波振動体による振動印加で反射板40を回動させてもよい。
【0047】
また、上記MEMSスキャナ30では、駆動に用いる電気信号Va、Vbの位相により時間帯波長の特性が決まるので予め電気信号Va、Vbの位相と波長との関係を求めておくことで、受光素子70に入射される光の波長を把握できる。ただし、周囲環境の変化により電気信号Va、Vbの位相と波長との関係が変動する場合がある。
【0048】
このような場合には、例えば図5に示すように、測定光Wの波長をモニタするための波長モニタ65を設け、この波長モニタ65の出力に基づいて測定光Wの実際の波長を校正すればよい。なお、図5では、波長掃引光のうち回折格子23で全反射される光を波長モニタ65に入射しているが、測定光Wの一部を任意の位置で分岐して波長モニタ65に入射してもよい。
【0049】
また、波長モニタ65としては、測定光Wを受けて複数の既知波長の光のみを通過(あるいは減衰)させる固定波長フィルタとその固定波長フィルタの出力光の強度を検出する受光素子とで構成することができ、既知波長の光の受光強度がピーク(またはボトム)になるタイミングで測定光Wの波長を校正することができ、その波長間を補間すれば他の波長も校正できる。固定波長フィルタとしてはエタロン(登録商標)やガス吸収セルが使用できる。
【0050】
前記実施形態のガスセンサ20の波長掃引光源21は、光源としてのレーザダイオード22を外部共振モードで発光させていたが、波長掃引光源21としては、広帯域光からフィルタにより所望波長の光を抽出する構造で、その抽出波長を掃引する方式のものも使用できる。
【0051】
図6は、このフィルタ方式の波長掃引光源21′を用いたガスセンサ20′の構成を示している。
【0052】
広帯域光源22′は、対象ガスm1、m2の吸収スペクトルの波長λ1、λ2を含む広帯域なスペクトル特性を持ったインコヒーレント光を出射するものであり、例えば、ASE光源(発振波長0.3〜1.6μm)、SLD(0.78〜1.65μm)、LED(0.37〜1.6μm)、ハロゲンランプ(0.4〜3μm)、重水素ランプ(紫外)、太陽光等を用いることができる。
【0053】
さらに具体的に説明すると、例えば二酸化炭素(CO)、アセチレン(C)、メタン(CH)の3種類のガスを検出するときには、それぞれの吸収スペクトルの波長は、λCO=1.439μm,λC=1.53μm、λCH=1.65μmであるので、これらの波長を発振帯域に含んでいるSLD(0.78〜1.65μm)を用いる。
【0054】
広帯域光源22′から出射された広帯域光は回折格子23に入力されて回折されるが、その回折光のうち、反射体40の反射面に所定角度で入射するある波長λxの光は、その入射光軸と異なる光軸に沿って反射され回折格子23に入射され、回折格子23への入射角と波長λxによって決まる方向へ回折される。
【0055】
反射体40が固定されていると仮定すると、波長λxと僅かに異なる波長λx′の光は、反射体40への入射角、回折格子23への入射角が僅かにずれるため、波長λxと僅かに異なる方向に回折される。つまり、回折格子23が固定されている仮定すると、広帯域光に含まれている各波長成分は、ある特定方向を中心とする角度範囲に広がって回折されることになる。
【0056】
よって、回折格子23に対する反射体40の角度を可変すると、特定方向(被測定物15の方向)に出射される光の波長が前記図2の(a)に示したように掃引されることになる。
【0057】
この波長掃引光源21′では、回折格子23の回折特性、回折格子23に対する広帯域光の入射角、回折格子23に対する反射体40の位置を適宜設定することで、特定方向へ出射される光の波長がλa〜λbの範囲を連続的に掃引するようにしている。
【0058】
上記構成の波長掃引光源21′から特定方向に出射された光は、前記同様に測定光Wとして被測定物15に入射され、その透過光W′が受光素子70で受光される。そして、この受光信号と掃引波長との関係から、検出対象ガスの有無や濃度を把握できる。
【0059】
この構成のガスセンサ20′の場合も、MEMSスキャナ30により広い波長範囲の高速掃引が可能であるため、対象ガスの有無や濃度を高速に検出することができる。
【0060】
なお、上記のようなフィルタ方式の波長掃引光源21′において、波長をモニタする場合には、例えば、反射体40に対して基準光を入射し、その反射光を位置センサで受けて、反射体40の角度の変化を把握し、その角度と波長との関係から掃引波長を求めるようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態の全体構成図
【図2】実施形態の動作説明図
【図3】実施形態の要部の構造図
【図4】実施形態の要部の駆動信号図
【図5】波長モニタを設けた実施形態の構成図
【図6】他の実施形態の全体構成図
【符号の説明】
【0062】
15……被測定物、20、20′……ガスセンサ、21、21′……波長掃引光源、22……レーザダイオード、22′……広帯域光源、23……回折格子、30……MEMSスキャナ、40……反射板、41、42……固定基板、43、44……軸部、45……反射板、50……支持基板、51、52……電極板、55……駆動信号発生器、60……反射体駆動手段、65……波長モニタ、70……受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源(22、22′)、回折格子(23)およびMEMSスキャナ(30)を含み、特定方向に出射される光の波長を、前記MEMSスキャナの駆動により検出対象ガス固有の吸収スペクトル波長を含む波長範囲で掃引し、該波長掃引された光を検出対象ガス雰囲気に入射する波長掃引光源(21)と、
前記検出対象ガス雰囲気を透過した光を受けてその光強度を検出する受光素子(70)とを備えたガスセンサ。
【請求項2】
前記波長掃引光源の光源はレーザダイオード(22)により構成され、前記回折格子と前記MEMSスキャナは前記レーザダイオードとの間で外部共振器を形成し、前記MEMSスキャナの駆動により外部共振波長を可変して、前記特定方向に出射する光の波長を掃引することを特徴とする請求項1記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記波長掃引光源の光源は、検出対象ガス固有の吸収スペクトル波長を含む広帯域光を出射する広帯域光源(22′)により構成され、前記回折格子と前記MEMSスキャナは、前記広帯域光から所望の波長成分を抽出するフィルタを形成し、前記MEMSスキャナの駆動により抽出波長を可変して、前記特定方向に出射する光の波長を掃引することを特徴とする請求項1記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記MEMSスキャナは、
前記回折格子からの回折光を受けて該回折格子に反射する反射体(40)と、該反射体の反射面の角度を変化させる反射体駆動手段(60)とを含んでいることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記MEMSスキャナの反射体は、
固定基板(41、42)と、
前記固定基板の縁部から所定幅で所定長さ延設され、その長さ方向に沿って捩じれ変形可能な軸部(43、44)と、
前記軸部の先端に自身の縁部で連結されて形成され、一面側に前記回折格子からの回折光を反射するための前記反射面が設けられた反射板(45)とを有しており、
かつ前記MEMSスキャナの反射体駆動手段は、
前記反射体の軸部と反射板とからなる部分の固有振動数に対応した周波数の電気信号によって前記反射板に力を与えて、該反射板を前記固有振動数又はそれに近い振動数で往復回転させるように構成されていることを特徴とする請求項4記載のガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−249735(P2008−249735A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186050(P2008−186050)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【分割の表示】特願2005−83158(P2005−83158)の分割
【原出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】