説明

ガスセンサ

【課題】高感度・高安定で高選択性を有し、さらに低消費電力なガスセンサを提供する。
【解決手段】雰囲気ガスを検出するガスセンサは、ヘテロ構造層20と、2次元電子ガス層30と、センサ部40と、検出部50とからなる。2次元電子ガス層30は、ヘテロ構造層20の界面に設けられる。センサ部40は、ヘテロ構造層20上に形成されるものであり、半導体ナノワイヤを有するものである。検出部50は、2次元電子ガス層30の抵抗値を用いて雰囲気ガスを検出するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスセンサに関し、特に、ガスに感応して変化する抵抗値を利用したガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガスセンサとして種々のタイプのものが存在する。その中で、半導体ガスセンサと言われるものがある。このタイプのガスセンサは、活性表面に用いられる酸化第二錫(SnO)等の金属酸化物半導体の抵抗値が、対象ガスに感応して変化することを利用したものである(例えば特許文献1,2)。半導体ガスセンサは、略すべてのガスに対して適用できるという適用範囲が広い特徴を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−048745号公報
【特許文献2】特開2008−286549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の半導体ガスセンサは、活性表面の大きさに感度が依存していたため、感度を高めるためには、活性領域を大きくする必要があった。また、異なるガスを別々に検出できる選択性も高くなかった。さらに、時間変化が大きく、安定性にも欠けるものであった。さらにまた、非常に大きな電流をセンサ部に流す必要があるため、消費電力も高いものであった。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、高感度・高安定で高選択性を有し、さらに低消費電力なガスセンサを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明によるガスセンサは、ヘテロ構造層と、ヘテロ構造層の界面の2次元電子ガス層と、ヘテロ構造層上に形成される半導体ナノワイヤを有するセンサ部と、2次元電子ガス層の抵抗値を用いて雰囲気ガスを検出する検出部と、を具備するものである。
【0007】
ここで、センサ部の半導体ナノワイヤは、ZnO,ZnInO,Ge,Siの群から選択されれば良い。
【0008】
さらに、センサ部の温度管理が可能な熱源を具備し、検出部は、熱源による温度も考慮して雰囲気ガスを検出しても良い。
【0009】
また、センサ部はアレイ状に複数配置されても良い。
【0010】
ここで、熱源は複数のセンサ部毎に温度管理が可能であっても良い。
【0011】
さらに、ヘテロ構造層を用いてトランジスタを構成し、センサ部をトランジスタのゲートとし、ヘテロ構造層にソース・ドレインが形成されても良い。
【0012】
また、ヘテロ構造層は、AlGaN/GaN系、AlGaAs/GaAs系、InAs/GaAs系、InAs/GaSb/AlSb系、SiGe/Si系、SiC/Si系、CdTe/HgTe/CdTe系、InGaAs/InAlAs/InP系の群から選択されれば良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガスセンサには、高感度・高安定で高選択性を有し、さらに低消費電力であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明のガスセンサを説明するための概略断面図である。
【図2】図2は、本発明のガスセンサのヘテロ構造層上に成長した半導体ナノワイヤの走査型電子顕微鏡による画像を示す。
【図3】図3は、本発明のガスセンサの、ガス濃度に対する抵抗値の変化特性を表わすグラフである。
【図4】図4は、本発明のガスセンサを種々のガスに晒した場合の抵抗値の変化特性を表わすグラフである。
【図5】図5は、本発明のガスセンサの、温度に対する抵抗値の変化特性を表わすグラフである。
【図6】図6は、本発明のガスセンサのセンサ部をアレイ状に複数配置した例を説明するための概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明のガスセンサを説明するための概略断面図である。ガスセンサは、センサの雰囲気ガスを検出するためのものである。図示の通り、本発明のガスセンサは、基板10上に設けられたヘテロ構造層20と、2次元電子ガス層30と、センサ部40と、検出部50とから主に構成されている。
【0016】
ヘテロ構造層20は、図示例ではAlGaN層21及びGaN層22により構成されている。GaNは、物理的、化学的に安定しており、過酷な環境下での使用に耐え得る材料である。このGaNを用いたAlGaN/GaN系のヘテロ構造層20を用いることで、低温から高温、例えば絶対零度付近から600℃程度までといった過酷な環境下でも使用可能なガスセンサも実現可能となる。
【0017】
そして、ヘテロ構造層20の界面には、2次元電子ガス層30が形成される。具体的には、まず基板10上にGaN層22が結晶成長等により堆積され、ついでその上にAlGaN、例えばn型のAlGaN層21が結晶成長等により堆積される。これにより、AlGaNとGaNの界面に、AlGaN層21のドナーから発生する電子が分布する2次元電子ガス層30が形成される。なお、2次元電子ガス層30は、特定の製造方法に限定されるものではなく、従来の又は今後開発されるあらゆる方法を用いて形成されれば良い。
【0018】
なお、図示例では、ヘテロ構造層20として、具体的にAlGaN/GaN系のヘテロ構造を示したが、本発明はこれに限定されない。ヘテロ構造層の例としては、例えばAlGaN/GaN系、AlGaAs/GaAs系、InAs/GaAs系、InAs/GaSb/AlSb系、SiGe/Si系、SiC/Si系、CdTe/HgTe/CdTe系、InGaAs/InAlAs/InP系、さらにはナノ結晶シリコンを用いたヘテロ構造等が挙げられる。但し、本発明のガスセンサのヘテロ構造層は、これらの材料には限定されず、バンドギャップの異なる異種の半導体材料を接合することでその界面に2次元電子ガスを形成可能なものであれば、如何なる材料であっても良い。
【0019】
そして、本発明のガスセンサの最も特徴的な部分であるセンサ部40が、ヘテロ構造層20上に形成されている。センサ部40は、半導体ナノワイヤからなる。半導体ナノワイヤは、図示例ではZnOからなるものを示した。ZnOからなる半導体ナノワイヤは、例えば以下のように形成されれば良い。まず、ヘテロ構造層20上に、Zn薄膜をArパッタリング等により堆積させる。Zn薄膜は、例えば、10nm程度の膜厚に堆積される。その後、Zn薄膜を熱酸化炉にて酸化させることで、ZnOからなる半導体ナノワイヤに成長する。例えば、熱酸化炉を用いて、大気中で420℃で4時間酸化させると、Zn薄膜は、例えば50nm径のZnOナノワイヤとなる。
【0020】
図2に、AlGaN/GaN系のヘテロ構造層上に成長したZnOからなる半導体ナノワイヤの走査型電子顕微鏡による画像を示す。図示のように、ZnOからなる半導体ナノワイヤが、ヘテロ構造層上で上側に向かって成長していることが分かる。
【0021】
なお、上述の説明では、本発明のガスセンサの半導体ナノワイヤはZnOからなるものを挙げたが、本発明はこれに限定されず、センサ部の半導体ナノワイヤは、ZnInO,Ge,Si等の種々の半導体物質から選択されれば良い。
【0022】
また、半導体ナノワイヤの形成方法についても、Zn薄膜を熱酸化炉にて酸化させる方法には限定されず、従来の又は今後開発されるあらゆる方法を用いて形成されれば良い。
【0023】
図1を再度参照すると、検出部50は、2次元電子ガス層30の抵抗値を用いて雰囲気ガスを検出するものである。本発明のガスセンサでは、検出部50がこの2次元電子ガス層の抵抗値を測定することで雰囲気ガスを検出している。センサ部40が雰囲気ガスに晒されると、2次元電子ガス層30の抵抗値が変化するため、検出部50は、この抵抗値の変化量や大きさを測定することで、雰囲気ガスの有無や濃度が検出可能となる。検出部50は、センサ部40の両脇にオーミックコンタクト等により接続され、例えば電流を流したときの電圧を測定することで抵抗値が測定される。印加する電流は抵抗を測定できる程度の微弱なもので構わないため、本発明のガスセンサは非常に低消費電力である。
【0024】
ここで、2次元電子ガス層の抵抗値は、本願の発明者による国際公開公報WO2007/086238等にも開示されるように、温度依存性を有するものである。したがって、本発明のガスセンサは、温度を任意に設定できるように温度管理が可能な熱源を用いて、2次元電子ガス層の温度を管理し、検出部では熱源による温度も考慮して雰囲気ガスを検出するようにしても良い。
【0025】
図3に、本発明のガスセンサの、ガス濃度に対する抵抗値の変化特性を表わすグラフを示す。同図は、大気中にエタノールガスを2ppm噴射した場合と150ppm噴射した場合の抵抗値の時間変化特性である。なお、縦軸は抵抗値の変化率である。また、測定は250℃の環境で行った。
【0026】
図示の通り、エタノールガスが150ppmの場合、即ちガス濃度が高い場合に、より抵抗値の変化率が大きいことが分かる。したがって、本発明のガスセンサは、特定のガスの濃度を高感度に検出可能であることが分かる。例えば、既知の濃度のガスを用いて検量線を作成すれば、これを用いて未知のガス濃度を検出することも可能となる。
【0027】
また、図4に、本発明のガスセンサを種々のガスに晒した場合の抵抗値の変化特性を表わすグラフを示す。同図は、大気中にエタノールガス、メタノールガス及びアセトンガスをそれぞれ10ppm噴射した場合の抵抗値の時間変化特性である。なお、縦軸は抵抗値の変化率である。また、測定は250℃の環境で行った。
【0028】
図示の通り、エタノールガスとメタノールガスとアセトンガスでは、それぞれ抵抗値の変化量に差があることが分かる。したがって、本発明のガスセンサは、ガスに対して高選択性を有していることが分かる。
【0029】
ここで、本発明のガスセンサでは、雰囲気ガスに対する抵抗値の変化率が、温度依存性を有しており、温度によって変化する。図5は、本発明のガスセンサの、温度に対する抵抗値の変化特性を表わすグラフを示す。同図は、温度を変えて真空状態と大気状態を繰り返したときの、抵抗値の時間変化特性である。なお、縦軸は抵抗値である。温度環境としては、100℃と200℃と300℃の場合についてそれぞれ測定を行った。
【0030】
図示の通り、雰囲気ガスが大気の場合には、300℃のときが最も抵抗値の変化率が大きいことが分かる。したがって、本発明のガスセンサは、熱源によりセンサ部の温度管理を行い、この温度も考慮して雰囲気ガスを検出することで、より高感度に雰囲気ガスを検出可能であることが分かる。即ち、雰囲気ガスの種類によって抵抗値の変化率が大きくなる温度が異なるため、センサ部を所定の温度にすることで、特定の雰囲気ガスに反応が大きいガスセンサとすることも可能となる。また、同図から、雰囲気ガスの変化に対して抵抗値の変化の反応が良いことも分かる。
【0031】
本発明のガスセンサは、上述のように雰囲気ガスの変化に高感度に反応するものであるため、例えば真空装置の真空度を測定する場合にも利用可能である。本発明のガスセンサは、化学的にも物理的にも高安定なものであるため、このような過酷な環境化での使用にも十分耐え得るものであり、扱いも容易である。また、本発明のガスセンサは、半導体基板上にワンチップで構成可能であるため、非常にコンパクトに提供可能である。
【0032】
ここで、例えば、本発明のガスセンサにおいて、ヘテロ構造層を用いてトランジスタを構成し、センサ部をトランジスタのゲートとし、ヘテロ構造層にソース・ドレインが形成されるように構成してHEMTとしても良い。即ち、検出部をトランジスタのソース・ドレインに接続するようにし、センサ部をスイッチとして機能させる。これにより、ソース・ドレイン電流を測定することで、雰囲気ガスの有無を検出できるようになる。
【0033】
次に、本発明のガスセンサで、同時に複数のガスの検出が可能な構成の一例について説明する。図6は、本発明のガスセンサのセンサ部をアレイ状に複数配置した例を説明するための概略斜視図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は概ね同一物を表わしているため、詳説は省略する。
【0034】
図示例では、センサ部40をヘテロ構造層20上でアレイ状に複数配置している。個々のセンサ部40において、それぞれ2次元電子ガス層30の抵抗値の変化を測定することが可能であるため、例えば広いエリアにおける雰囲気ガスの種類や濃度について同時に測定することも可能となる。
【0035】
さらに、図示のように、熱源60を個々のセンサ部40に対応して配置することで、複数のセンサ部40毎に温度管理が可能なように構成しても良い。例えば複数のセンサ部40毎に温度を変えることで、それぞれ特定の雰囲気ガスに反応が大きくなるように構成することができる。これにより、所定の雰囲気ガスのうちのどのガスが含まれているか等を解析することも可能となる。
【0036】
なお、本発明のガスセンサは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。また、図示した変化特性については、製造するガスセンサのドープ量等に応じて種々変化するため、図示例のものに必ずしも限定されるものではない。
【符号の説明】
【0037】
10 基板
20 ヘテロ構造層
21 AlGaN層
22 GaN層
30 2次元電子ガス層
40 センサ部
50 検出部
60 熱源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雰囲気ガスを検出するガスセンサであって、該ガスセンサは、
ヘテロ構造層と、
前記ヘテロ構造層の界面の2次元電子ガス層と、
前記ヘテロ構造層上に形成される半導体ナノワイヤを有するセンサ部と、
2次元電子ガス層の抵抗値を用いて雰囲気ガスを検出する検出部と、
を具備することを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサにおいて、前記センサ部の半導体ナノワイヤは、ZnO,ZnInO,Ge,Siの群から選択されることを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガスセンサであって、さらに、前記センサ部の温度管理が可能な熱源を具備し、前記検出部は、熱源による温度も考慮して雰囲気ガスを検出することを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のガスセンサにおいて、前記センサ部はアレイ状に複数配置されることを特徴とするガスセンサ。
【請求項5】
請求項4に記載のガスセンサにおいて、前記熱源は複数のセンサ部毎に温度管理が可能であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載のガスセンサであって、さらに、前記ヘテロ構造層を用いてトランジスタを構成し、前記センサ部をトランジスタのゲートとし、ヘテロ構造層にソース・ドレインが形成されることを特徴とするガスセンサ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載のガスセンサにおいて、前記ヘテロ構造層は、AlGaN/GaN系、AlGaAs/GaAs系、InAs/GaAs系、InAs/GaSb/AlSb系、SiGe/Si系、SiC/Si系、CdTe/HgTe/CdTe系、InGaAs/InAlAs/InP系の群から選択されることを特徴とするガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−94969(P2011−94969A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245989(P2009−245989)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】