説明

ガスセンサ

【課題】結露防止用のヒータの温度を検出する温度センサを不要とするガスセンサを提供する。
【解決手段】水素が取り込まれる検出室13aを有する素子ハウジング13と、検出室13aに配置され、水素を検出する検出素子31と、通電により発熱することで検出室13aを加熱し、その温度に対応してその抵抗値が変化するヒータ21と、ヒータ21を制御するマイコン51及びヒータ駆動回路52と、を備える水素センサ1であって、マイコン51は、ヒータ21の抵抗値に基づいてヒータ21への通電を制御することで、検出室13aの温度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池車等の電源として着目されている燃料電池は、そのアノードから発電で消費されなかった水素(被検出ガス)を排出する。この水素は、燃料電池のカソードからのカソードオフガス(希釈用ガス)で希釈された後、車外(外部)に排出される。そして、このように車外に排出されるガス(希釈後ガス)中の水素濃度は、水素センサ(ガスセンサ)によって検出される。
【0003】
燃料電池は発電に伴ってそのカソードで水分(水蒸気)を生成し、カソードオフガスや、水素センサに向かう希釈後ガスは多湿となる。ここで、希釈後ガスに含まれる水蒸気が結露して結露水を生成し、この結露水が水素センサの検出素子に付着してしまうと、水素の検出感度が低下してしまう。
【0004】
そこで、前記した結露水の生成を防止し、検出素子への結露水の付着を防止するためのヒータ(発熱体)を備える水素センサが提案されている(特許文献1参照)。なお、このヒータの近傍に温度センサを設け、この温度センサの検出するヒータの温度に基づいて、結露水の生成・付着が防止されるように、ヒータの出力を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−294675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記したように、ヒータの温度を検出する温度センサを備える構成とすると、水素センサの部品点数が増え、小型化し難いという不都合がある。
【0007】
そこで、本発明は、結露防止用のヒータの温度を検出する温度センサを不要とするガスセンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、被検出ガスが取り込まれる検出室を有する素子ハウジングと、前記検出室に配置され、被検出ガスを検出する検出素子と、通電により発熱することで前記検出室を加熱し、その温度に対応してその抵抗値が変化するヒータと、前記ヒータを制御する制御手段と、を備えるガスセンサであって、前記制御手段は、前記ヒータの抵抗値に基づいて前記ヒータへの通電を制御することで、前記検出室の温度を制御することを特徴とするガスセンサである。
【0009】
このような構成によれば、ヒータの温度に対応してヒータの抵抗値が変化するので、ヒータの抵抗値に基づいて、ヒータの温度を、そして、検出室の温度を推定できる。したがって、制御手段は、ヒータの抵抗値に基づいて検出室の温度を推定しつつ、ヒータへの通電を制御することにより、結露水が生成等しないように検出室の温度を制御できる。
このようにして、ヒータの温度を検出する温度センサが不要となるので、ガスセンサの部品点数は少なくなり、小型化され、低コストで構成される。
【0010】
また、前記ガスセンサにおいて、前記ヒータと第A抵抗と第B抵抗と第C抵抗とを含んで構成されるブリッジ回路を備え、前記制御手段は、前記ブリッジ回路の出力する電位差をフィードバックして、前記ヒータへの電流を制御するヒータ駆動回路を備えることが好ましい。
【0011】
このような構成によれば、制御手段のヒータ駆動回路が、ブリッジ回路の出力する電位差をフィードバックして、ヒータへの電流を制御することにより、検出室の温度を制御する。これにより、制御手段における制御プログラム等に従ったヒータの制御処理(後記する実施形態では、図8のヒータ制御処理)が不要となる。
【0012】
また、前記ガスセンサにおいて、前記制御手段は、前記検出室における結露が防止されるように、前記検出室の温度を結露防止温度以上とすることが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、制御手段が検出室の温度を結露防止温度以上とするので、検出室における結露が防止される。
【0014】
また、前記ガスセンサにおいて、前記検出素子は、接触燃焼式の素子であって、前記制御手段は、前記ヒータの抵抗値に基づいて、前記検出素子の出力値を補正することが好ましい。
【0015】
ここで、接触燃焼式の検出素子はこれに接触する被検出ガスを燃焼させるように構成され、この燃焼熱によって検出素子の温度が上昇する。また、検出素子は、その温度に対応して、その抵抗値が変化する材料(白金等)から形成され、検出素子の温度が上昇すると、検出素子の抵抗値が変化する。そして、検出素子の抵抗値の変化を利用して、被検出ガスの濃度を検出している。
【0016】
ところが、検出素子の温度及び抵抗値は、被検出ガスの濃度が0(燃焼熱が0)であっても、検出素子の配置された検出室の温度(環境温度)に対応しても変化するので、これを考慮して、被検出ガスの濃度を算出する必要ある。
そこで、検出素子の近傍に、被検出ガスに対して不活性であるが、検出室の温度に対応して、その温度及び抵抗値が変化する温度補償素子を設け、検出素子と温度補償素子とを含んでブリッジ回路を構成し、このブリッジ回路が、検出素子の抵抗値から温度補償素子の抵抗値を相殺し、検出素子の被検出ガスの燃焼熱のみによる抵抗値に基づいて出力するように構成し、被検出ガスの濃度を検出する技術が知られている。
しかしながら、このような技術では、検出素子の近傍に温度補償素子を配置しなければならず、ガスセンサを小型化し難くなる。
【0017】
そこで、本発明に係るガスセンサによれば、制御手段が、ヒータの抵抗値に基づいて、検出素子の出力値を補正するので、温度補償素子を省略でき、ガスセンサを小型化し易くなる。
すなわち、制御手段が、ヒータの抵抗値に基づいて検出室の温度を推定し、検出室の温度に基づいて、検出室の温度変化(環境温度の変化)に起因する検出素子の抵抗値の変化量を推定する。そして、制御手段が、検出室の温度変化に起因する検出素子の抵抗値の変化量を、例えば、相殺・減ずるように、検出素子の出力値を補正することで、被検出ガスの濃度を検出できる。
【0018】
また、前記ガスセンサにおいて、前記検出素子は、接触燃焼式の素子であって、前記制御手段は、前記ヒータを駆動させるエネルギに基づいて、前記検出素子の出力値を補正することが好ましい。
【0019】
このような構成によれば、制御手段が、ヒータを駆動させるエネルギに基づいて、検出素子の出力値を補正するので、温度補償素子を省略でき、ガスセンサを小型化し易くなる。
すなわち、制御手段が、ヒータを駆動させるエネルギ(電流値、電圧値、電力等)に基づいて、ヒータの抵抗値を推定し、ヒータの抵抗値に基づいて検出室の温度を推定し、検出室の温度に基づいて、検出室の温度変化(環境温度の変化)に起因する検出素子の抵抗値の変化量を推定する。そして、制御手段が、検出室の温度変化に起因する検出素子の抵抗値の変化量を、例えば、相殺・減ずるように、検出素子の出力値を補正することで、被検出ガスの濃度を検出できる。
【0020】
また、前記ガスセンサにおいて、前記検出素子は、燃料電池のカソードから排出されたカソードオフガス中の水素を検出し、前記制御手段は、カソードオフガスの温度に基づいて、前記検出素子の出力値を補正することが好ましい。
【0021】
このような構成によれば、接触燃焼式の検出素子の抵抗値は、カソードオフガスの温度に対応して変化する。例えば、カソードオフガスの温度が高くなるにつれて、検出素子の抵抗値が大きくなる。
そこで、制御手段が、カソードオフガスの温度に基づいて、検出素子の出力値を補正することにより、ガスセンサは高精度となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、結露防止用のヒータの温度を検出する温度センサを不要とするガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る水素センサの側断面図である。
【図3】第1実施形態に係るヒータの抵抗値と温度との関係を示すマップである。
【図4】第1実施形態に係る水素センサの回路図である。
【図5】第1実施形態に係るヒータの抵抗値と検出室の温度との関係を示すマップである。
【図6】第1実施形態に係る水素センサにおいて、検出室の温度と、ブリッジ回路(水素センサ)の出力を補正するための補正係数αと関係を示すマップである。
【図7】第1実施形態に係る水素センサにおいて、カソードオフガスの温度と、ブリッジ回路(水素センサ)の出力を補正するための補正係数βと関係を示すマップである。
【図8】第1実施形態に係る水素センサにおけるヒータ制御処理を示すフローチャートである。
【図9】第1実施形態に係るブリッジ回路(水素センサ)の出力の補正処理を示すフローチャートである。
【図10】第2実施形態に係る水素センサの回路図である。
【図11】第2実施形態に係るヒータ駆動回路の回路図である。
【図12】第2実施形態に係るヒータへの電力と検出室の温度との関係を示すマップである。
【図13】第2実施形態に係るブリッジ回路(水素センサ)の出力の補正処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
≪第1実施形態≫
以下、本発明の第1実施形態について、図1〜図9を参照して説明する。
【0025】
まず、水素センサ1(ガスセンサ)が組み込まれた燃料電池システム100を説明する。燃料電池システム100は、燃料電池車(移動体)に搭載されており、燃料電池スタック110(燃料電池)と、希釈器120と、温度センサ113と、水素センサ1と、ECU130(Electronic Control Unit、電子制御装置)と、を備えている。
【0026】
<燃料電池スタック>
燃料電池スタック110は、固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)であり、MEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)をセパレータ(図示しない)で挟持してなる単セルが複数積層されて構成されている。MEAは、電解質膜(固体高分子膜)と、これを挟持するカソード及びアノードとを備えている。各セパレータには、溝や貫通孔からなるアノード流路111及びカソード流路112が形成されている。
【0027】
そして、水素が、水素タンク(図示しない)から、アノード流路111を介してアノードに供給され、酸素を含む空気が、外気を吸気するコンプレッサ(図示しない)から、カソード流路112を介してカソードに供給されると、アノード及びカソードに含まれる触媒(Pt等)上で電極反応が起こり、燃料電池スタック110が発電可能な状態となる。このように発電可能な状態の燃料電池スタック110と外部負荷(例えば走行用のモータ)とが電気的に接続され、電流が取り出されると、燃料電池スタック110が発電するようになっている。
【0028】
また、アノード流路111から排出された未消費の水素を含むアノードオフガスは、配管111aを通って希釈器120に向かうようになっている。一方、カソード流路112から排出されたカソードオフガス(希釈用ガス)は、配管112aを通って希釈器120に向かうようになっている。
【0029】
<温度センサ>
温度センサ113は、配管112aに取り付けられており、カソード流路112から排出され水素センサ1に向かうカソードオフガスの温度を検出し、水素センサ1の後記する補正回路53(図4参照)に出力するようになっている。
【0030】
<希釈器>
希釈器120は、アノードオフガス中の水素を、カソードオフガス等で希釈する容器であり、その内部に希釈空間を有している。そして、水素を含む希釈後のガスは、配管120aを通って車外(外部)に排出されるようになっている。
【0031】
<ECU>
ECU130は、CPU、ROM、RAM、各種インタフェイス、電子回路などを含んで構成されている。そして、ECU130は、IG131のON信号を検知した場合、水素センサ1の後記するマイコン51、補正回路53及び基準電圧発生回路54(図4参照)に起動指令を出力するようになっている。なお、IG131は、燃料電池システム100(燃料電池車)の起動スイッチであり、運転席周りに配置されている。
【0032】
≪水素センサの構成≫
水素センサ1は、図2に示すように、その検出素子31で水素を燃焼させることによって、配管120aを通流するガス中の水素濃度を検出する接触燃焼式のセンサである。
水素センサ1は、所定の回路が形成された基板11と、基板11を収容する薄箱状のケース12と、ケース12の底壁部から鉛直下向きに延びる有底円筒状の素子ハウジング13と、素子ハウジング13の外側に取り付けられた円筒状のヒータ21と、を備えている。
ただし、ヒータ21の形状・位置・数はこれに限定されず、例えば、素子ハウジング13内の検出室13aに、板状のヒータを複数備える構成としてもよい。
【0033】
ケース12は、ポリフェニレンサルファイド等の樹脂製である。そして、ケース12は、配管120aの天壁部120bにボルトによって取り付けられている。
【0034】
<素子ハウジング>
素子ハウジング13は、その内部に水素を検出するために水素を含むガスを取り込む検出室13aを有しており、この検出室13aに、後記する検出素子31が配置されている。つまり、素子ハウジング13は、検出素子31を収容している。
【0035】
このような素子ハウジング13は、ヒータ21の熱が検出室13aに伝達するように、熱伝導度の高い材料(SUS等の金属や、熱伝導度の高い樹脂)から形成されている。また、素子ハウジング13は、継ぎ目の少ない構造、例えば、押し出し成形による一体成形品で構成し、素子ハウジング13の熱抵抗を小さくすることが好ましい。さらに、素子ハウジング13に対して、素子ハウジング13の固定されるケース12の底壁部の熱伝導度を低くし、熱抵抗を大きくする構成とすることで、水素センサ1の起動時等におけるヒータ21による昇温時において、ヒータ21と検出室13a(素子周辺部)との温度差を小さくし、水素センサ1の出力の誤差を小さくすることが可能となる。
【0036】
また、素子ハウジング13の底壁部には、平面視で円形のガス出入口13bが形成されている。そして、ガス出入口13bを介して、水素を含むガスが、検出室13aと配管120aとの間で、出入するようになっている。
【0037】
なお、ガス出入口13bに蓋をするように、防爆フィルタ及び撥水フィルタ(いずれも図示しない)が設けられている。防爆フィルタは、防爆性を確保するためのフィルタであり、例えば、金属製のメッシュや多孔質体から構成される。撥水フィルタは、ガス(水素)の通過を許容するが、液体(水滴)の通過を許容しないフィルタであり、例えば、テトラフルオロエチレン膜から構成される。
【0038】
<ヒータ>
ヒータ21は、抵抗器であって電気ヒータであり、通電により発熱する発熱体である。ヒータ21は、温度抵抗係数が大きく、その抵抗値とその温度とが線形関係となる材料で形成されている(図3参照)。温度抵抗係数は、抵抗温度係数とも称され、ヒータの温度変化に対する抵抗値変化の割合であり、その単位は「ppm/℃」で表される事が多い。
【0039】
このような特性を有する材料としては、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、銅(Cu)等の金属や、ニクロム、SUS等の合金から選択された少なくとも一種を使用できる。なお、図3のマップは、事前試験等によって求められる。
これにより、ヒータ21の抵抗値と、図3のマップとに基づいて、ヒータ21の温度が推定(算出)されるようになっている。なお、ヒータ21の抵抗値は、例えば、ヒータ21を通流している電流の電流値と、ヒータ21に印加している電圧の電圧値とに基づいて算出される。
【0040】
<電流電圧検出器>
水素センサ1は、図4に示すように、電流電圧検出器22を備えている。電流電圧検出器22は、ヒータ21を通流している電流の電流値と、ヒータ21に印加している電圧の電圧値とを検出する機器であり、電流センサと電圧センサとを備えている。そして、電流電圧検出器22は、検出した電流値及び電圧値を、後記するマイコン51に出力するようになっている。
【0041】
<ブリッジ回路>
水素センサ1は、図4に示すように、水素濃度を検出するためのブリッジ回路B1を備えている。ブリッジ回路B1は、第1直列辺30と第2直列辺40とを備えている。
【0042】
<ブリッジ回路−第1直列辺>
第1直列辺30は、検出素子31(抵抗値R31)と第1抵抗32(抵抗値R32)とを備え、検出素子31と第1抵抗32とが直列に接続されることで構成されている。
【0043】
検出素子31は、基板11から鉛直下向きに延びると共に第1直列辺30の一部を構成する金属製のステー31d、31dに固定されており、検出室13aに配置されている(図2参照)。
一方、第1抵抗32は、基板11上に取り付けられており、その抵抗値R32は固定値である。
【0044】
検出素子31は、水素に対して活性である公知の素子であって、触媒抵抗体とも称されるものであり、コイル31aと、コイル31aを被覆し酸化触媒31cが担持された担体31bと、を備えている。
コイル31aは、前記したヒータ21と同様に、白金(Pt)等の温度抵抗係数の大きい材料で形成されている。担体31bは、アルミナ等から形成された多孔質体である。酸化触媒31cは、水素に対して活性が高く、水素を酸化(燃焼)させる貴金属(白金等)から形成されている。
【0045】
したがって、検出素子31の抵抗値R31は、(1)検出室13aの温度(環境温度、雰囲気温度)と、(2)水素が酸化触媒31cに接触し、燃焼(酸化)したことによる燃焼熱と、に基づいて変化することになる。
【0046】
<ブリッジ回路−第2直列辺>
第2直列辺40は、第2抵抗41(抵抗値R41)と、第3抵抗42(抵抗値R42)とを備え、第2抵抗41と第3抵抗42とが直列に接続されることで構成されている。第2抵抗41及び第3抵抗42は、基板11上に取り付けられている。第2抵抗41の抵抗値R41、第3抵抗42の抵抗値R42は、固定値である。
【0047】
<第1直列辺、第2直列辺の接続状態>
第1直列辺30の両端と、第2直列辺40の両端とは、それぞれ接続されて入力端子T1、入力端子T2を構成している。入力端子T1、入力端子T2は、基準電圧発生回路54に接続されており、基準電圧発生回路54で発生した電圧VINが入力端子T1、T2に印加し、ブリッジ回路B1に通電するようになっている。
【0048】
第1直列辺30において、検出素子31と第1抵抗32との間の中間点は、出力端子T3を構成し、第2直列辺40において、第2抵抗41と第3抵抗42との間の中間点は出力端子T4を構成している。そして、出力端子T3、出力端子T4は、補正回路53に接続されており、ブリッジ回路B1の電圧VOUT(出力)が、補正回路53に出力されるようになっている。
【0049】
すなわち、第1抵抗32の抵抗値R32、第2抵抗41の抵抗値R41及び第3抵抗42の抵抗値R42は固定値であることに対して、検出素子31の抵抗値R31が、(1)検出室13aの温度と、(2)水素の燃焼熱とに基づいて変化し、出力端子T3、T4の電位差(VOUT)が、ブリッジ回路B1の出力として、補正回路53に出力される。
【0050】
このように、検出室13aの温度と水素の燃焼熱とに基づいて変化するブリッジ回路B1の出力(VOUT)が、補正回路53に入力されることになるが、後記するように、補正回路53が、検出室13aの温度が大きくなるにつれて小さくなる補正係数αを、ブリッジ回路B1の出力(VOUT)に乗算することにより、(1)検出室13aの温度に基づくブリッジ回路B1の出力が相殺、つまり、減じられ、水素の燃焼熱(水素濃度)に基づくブリッジ回路B1の出力に補正(変換)されるようになっている。
【0051】
なお、例えば、検出室13aの温度が常温(25℃)であり、水素濃度が0である場合、ブリッジ回路B1の出力が0となるように、検出素子31の抵抗値R31、第1抵抗32の抵抗値R32、第2抵抗41の抵抗値R41及び第3抵抗42の抵抗値R42は、設定されている。また、検出室13aの温度が常温(25℃)である場合、補正係数αは1であり、検出室13aの温度が高くなるにつれて、小さくなる関係となっている(図6参照)。
【0052】
<マイコン、ヒータ駆動回路>
水素センサ1は、マイコン51(演算処理装置、制御手段)と、ヒータ駆動回路52(制御手段)と、を備えている。
【0053】
マイコン51は、CPU、ROM、RAM、各種インタフェイス、電子回路などを含んで構成されており、その内部に記憶されたプログラムに従って、各種機能を発揮する。
また、マイコン51は、電流電圧検出器22から入力されたヒータ21の電流値及び電圧値に基づいて、ヒータ21の抵抗値を算出する機能を備えている。そして、マイコン51は、ヒータ21の抵抗値と、図3のマップとに基づいて、ヒータ21の現在の温度を推定(算出)する機能を備えている。また、マイコン51は、ヒータ21の抵抗値を、後記する補正回路53に出力する機能を備えている。
【0054】
さらに、マイコン51は、ヒータ21の現在の温度と、ヒータ21の目標温度とに基づいて、ヒータ駆動回路52を制御(PWM制御、ON/OFF制御等)する機能を備えている。ヒータ21の目標温度は、検出室13aでオフガスの水蒸気が結露しない結露防止温度以上に設定される。
【0055】
ヒータ駆動回路52は、DC−DCコンバータ等を備えて構成され、外部電源61(12Vバッテリ等)と接続されている。そして、ヒータ駆動回路52は、マイコン51の指令に従って、外部電源61からの電力を、その電流値を可変しつつ、ヒータ21に供給する機能を備えている。
【0056】
<補正回路、基準電圧発生回路>
水素センサ1は、補正回路53(制御手段)と、基準電圧発生回路54と、を備えている。補正回路53、基準電圧発生回路54は、各種電子部品によって構成されている。
【0057】
補正回路53は、マイコン51から入力されるヒータ21の抵抗値と、図5のマップとに基づいて、検出室13aの温度を推定(算出)する機能を備えている。図5のマップは、事前試験等によって求められ、補正回路53に予め記憶されている。図5に示すように、ヒータ21の抵抗値が大きくなるにつれて、検出室13aの温度が高くなる関係となっている。
【0058】
また、補正回路53は、前記検出室13aの温度と、図6のマップとに基づいて、ブリッジ回路B1の出力(水素センサ1の出力)を補正するための補正係数αを算出する機能を備えている。図6のマップは、事前試験等によって求められ、補正回路53に予め記憶されている。図6に示すように、検出室13aの温度が高くなるにつれて、補正係数αが小さくなる関係となっている。
【0059】
また、補正回路53は、温度センサ113(図1参照)を介して検出されるカソードオフガスの温度と、図7のマップとに基づいて、ブリッジ回路B1の出力(水素センサ1の出力)を補正するための補正係数βを算出する機能を備えている。図7のマップは、事前試験等によって求められ、補正回路53に予め記憶されている。図7に示すように、カソードオフガスの温度が高くなるにつれて、補正係数βが小さくなる関係となっている。
【0060】
そして、補正回路53は、ブリッジ回路B1の出力(VOUT)と、補正係数αと、補正係数βとを乗算し、ブリッジ回路B1の出力を補正し、補正後の出力をECU130に出力する機能を備えている。
【0061】
基準電圧発生回路54は、DC−DCコンバータ等を備えて構成され、外部電源62(例えば12Vバッテリ)と接続されている。そして、基準電圧発生回路54は、ブリッジ回路B1に所定電圧を印加するようになっている。
【0062】
≪水素センサの動作≫
次に、水素センサ1の動作について、図8〜図9を参照して説明する。
【0063】
<ヒータ制御処理>
図8を参照して、ヒータ21の制御処理を説明する。なお、燃料電池システム100(燃料電池車)のIG131(起動スイッチ)がONされると、図8の一連の処理が開始する。また、IG131のONに連動して、基準電圧発生回路54は、ブリッジ回路B1に基準電圧を印加する。
【0064】
ステップS101において、マイコン51は、初期ヒータ電流通電指令をヒータ駆動回路52に出力する。そうすると、ヒータ駆動回路52は、外部電源61の電力を、初期ヒータ電流値としたうえでヒータ21に供給し、ヒータ21への通電を開始する。
【0065】
ステップS102において、マイコン51は、電流電圧検出器22を介して検出されるヒータ21についての電流値及び電圧値に基づいて、ヒータ21の抵抗値を算出する。
【0066】
ステップS103において、マイコン51は、ステップS102で算出したヒータ21の抵抗値と、図3のマップとに基づいて、ヒータ21の温度を算出する。
【0067】
ステップS104において、マイコン51は、ステップS103で算出したヒータ温度が前記した目標温度よりも高いか否か判定する。
ヒータ温度は目標温度よりも高いと判定した場合(S104・Yes)、マイコン51の処理はステップS106に進む。一方、ヒータ温度は目標温度よりも高くないと判定した場合(S104・No)、マイコン51の処理はステップS105に進む。
【0068】
ステップS105において、マイコン51は、ステップS103で算出したヒータ温度が前記した目標温度よりも低いか否か判定する。
ヒータ温度は目標温度よりも低いと判定した場合(S105・Yes)、マイコン51の処理はステップS107に進む。
一方、ヒータ温度は目標温度よりも低くないと判定した場合(S105・No)、マイコン51の処理は、ステップS102に進む。なお、このようにステップS102に進む場合、ヒータ温度は目標温度と等しく、ヒータ21を通流する電流値は維持されることになる。
【0069】
ステップS106において、マイコン51は、ヒータ電流値を所定幅にて小さくする指令をヒータ駆動回路52に出力する。なお、ヒータ電流値を0、つまり、ヒータ21への通電をOFFする指令としてもよい。また、前記所定幅は、事前試験等により適宜に設定されている。
そして、ヒータ駆動回路52は、マイコン51からの指令に従って、ヒータ21への電流値を小さくする。そうすると、ヒータ21の発熱量が下がり、ヒータ21の温度も低下し始めることになる。このように制御をすることでヒータ21の温度が目標温度より上がりすぎることを防ぎ、目標温度に制御する事ができる。
その後、マイコン51の処理はステップS102に進む。
【0070】
ステップS107において、マイコン51は、ヒータ電流値を所定幅にて大きくする指令をヒータ駆動回路52に出力する。なお、ヒータ電流値が0である場合、初期ヒータ電流値の指令を、ヒータ駆動回路52に出力し、ヒータ21への通電を再開する構成としてもよい。
そして、ヒータ駆動回路52は、マイコン51からの指令に従って、ヒータ21への電流値を大きくする。そうすると、ヒータ21の発熱量が上がり、ヒータ21の温度も上昇し始めることになる。このように制御をすることでヒータ21の温度が目標温度より下がりすぎることを防ぎ、目標温度に制御する事ができる。
その後、マイコン51の処理はステップS102に進む。
【0071】
<出力補正処理>
次に、図9を参照して、ブリッジ回路B1の出力補正処理を説明する。
ステップS201において、補正回路53は、マイコン51から入力されたヒータ21の抵抗値と、図5のマップとに基づいて、検出室13aの温度を算出(推定)する。
【0072】
ステップS202において、補正回路53は、ステップS201で算出した検出室13aの温度と、図6のマップとに基づいて、補正係数αを算出する。
【0073】
ステップS203において、補正回路53は、温度センサ113を介して検出されるカソードオフガス温度と、図7のマップとに基づいて、補正係数βを算出する。
【0074】
ステップS204において、補正回路53は、ブリッジ回路B1の出力と、ステップS202で算出した補正係数αと、ステップS203で算出した補正係数βとを乗算して、水素センサ1の出力を補正し、外部(燃料電池車のECU等)に出力する。
【0075】
その後、補正回路53の処理は、リターンを通ってスタートに戻る。
【0076】
≪水素センサの効果≫
このような水素センサ1によれば次の効果を得る。
ヒータ21が、温度抵抗係数の大きい材料で形成され、その抵抗値とその温度とが相関関係を有するので(図3参照)、ヒータ21の抵抗値に基づいて、ヒータ21の温度を算出できる。これにより、ヒータ21の温度の検出専用の温度センサを省略でき、部品点数を少なくでき、また、水素センサ1を低コストとできる。
【0077】
ヒータ21の目標温度を、オフガスの水蒸気が結露しない結露防止温度以上に設定するので、検出素子31への結露水の付着を防止できる。
【0078】
ヒータ21の抵抗値に基づいて、検出室13aの温度、補正係数αを算出し、補正係数αに基づいてブリッジ回路B1の出力を補正するので、つまり、検出室13aの温度に基づく出力を減ずるので、水素に対して不活性であって検出室13aの温度に対応して抵抗値の変化する温度補償素子を省略できる。これにより、素子ハウジング13を小型化できる。
【0079】
カソードオフガスの温度に基づいて、補正係数βを算出し、この補正係数βに基づいてブリッジ回路B1の出力を補正するので、水素濃度の検出精度を高めることができる。
【0080】
≪変形例≫
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、後記する形態の構成と適宜に組み合わせてもよいし、また、次のように変更してもよい。
【0081】
前記した実施形態では、被検出ガスが水素である構成を例示したが、その他のガスでもよい。
前記した実施形態では、水素センサ1が接触燃焼式である構成を例示したが、その他の方式、例えば、半導体式のガスセンサであってもよい。
【0082】
前記した実施形態では、燃料電池システム100が燃料電池車に搭載された場合を例示したが、その他の移動体、例えば、自動二輪車、列車、船舶に搭載された構成でもよい。また、家庭用の据え置き型の燃料電池システムや、給湯システムに組み込まれた燃料電池システムに、本発明を適用してもよい。
【0083】
≪第2実施形態≫
次に、本発明の第2実施形態について、図10〜図13を参照して説明する。なお、第1実施形態と異なる部分を説明する。
【0084】
≪水素センサの構成≫
図10に示すように、ヒータ駆動回路52(図4参照)に代えて、ヒータ駆動回路70を備えている。そして、マイコン51は、ヒータ駆動回路70を制御せず、その制御処理は省略されている。
【0085】
<ヒータ駆動回路>
ヒータ駆動回路70は、図11に示すように、ブリッジ回路B2と、アンプ91と、トランジスタ92(IGBT等)と、を備えている。
【0086】
ブリッジ回路B2は、第1枝部81と第2枝部82とを備え、第1枝部81と第2枝部82とが外部電源に対して並列に接続されることで構成されている。第1枝部81は、ヒータ21と第A抵抗83とが直列に接続されることで構成され、第2枝部82は、第B抵抗84と第C抵抗85とが直列に接続されることで構成されている。
【0087】
第B抵抗84の抵抗値R84と第C抵抗85の抵抗値R85との比率は、目標温度である場合におけるヒータ21の抵抗値R21と第A抵抗83の抵抗値R83との比率と等しくなるように設計されている。
なお、第B抵抗84の抵抗値R84及び第C抵抗85の抵抗値R85は、目標温度である場合におけるヒータ21の抵抗値R21及び第A抵抗83の抵抗値R83よりも大きくし、第2枝部82を電流が通流し難くすることが好ましい。
【0088】
そして、ヒータ21が目標温度でなく、目標抵抗値でない場合、ヒータ21と第A抵抗83との間の出力端子T5の電圧と、第B抵抗84と第C抵抗との間の出力端子T6の電圧との差分信号(電圧差)がアンプ91に入力され、アンプ91において増幅された後、トランジスタ92に入力されるようになっている。
次いで、このように信号が入力されると、トランジスタ92がONとなり、外部電源からヒータ21を含むブリッジ回路B2に電流が通電するようになっている。
【0089】
すなわち、出力端子T5、T6の電圧の差分が、フィードバックし、トランジスタ92における増幅率が可変されることで、ヒータ21の抵抗値R21と第A抵抗83の抵抗値R83との比率(ヒータ21と第A抵抗83との電圧比率)と、第B抵抗84の抵抗値R84と第C抵抗85の抵抗値R84との比率(第B抵抗84と第C抵抗85の電圧比率)が等しくなるまで、ブリッジ回路B2を通流する電流が可変され、ヒータ21が目標温度になるように構成されている。
【0090】
したがって、ヒータ21についての電流値及び電圧値が大きくなるにつれて、つまり、ヒータ21に供給されている電力(エネルギ)が大きくなるにつれて、ヒータ21の現在の抵抗値、温度が小さくなる関係となっている。よって、ヒータ21への電力が大きくなるにつれて、検出室13aの温度が低くなる関係となっている(図12参照)。ゆえに、ヒータ21への電力と、図12のマップとに基づいて、検出室13aの温度を推定(算出)することが可能となる。
【0091】
なお、図11において、抵抗93a、93b、93c、93dによって構成された回路は、トランジスタ92を動作させるベース電流を供給するための回路である。
【0092】
≪水素センサの動作≫
次に、第2実施形態に係る水素センサ1の動作を説明する。
ここで、第2実施形態では、マイコン51はヒータ駆動回路70を制御しておらず、ヒータ駆動回路70のトランジスタ92が、ブリッジ回路B2の出力に基づいて、ヒータ21の温度が目標温度となるように、スイッチング制御している。
【0093】
<出力補正処理>
次に、水素センサ1における出力補正処理について、図13を参照して説明する。なお、図9の出力補正処理と異なる部分を説明する。
【0094】
ステップS301において、マイコン51は、電流電圧検出器22を介して検出されるヒータ21についての電流値及び電圧値に基づいて、ヒータ21に現在供給(投入)されている電力を算出する。そして、マイコン51は、この電力と、図12のマップとに基づいて、検出室13aの温度を算出(推定)する。
この他、電力を算出せず、電流値や電圧値に基づいて、検出室13aの温度を算出(推定)する構成としてもよい。
【0095】
その後、マイコン51の処理は、ステップS202に進む。
【0096】
≪水素センサの効果≫
このような水素センサ1によれば、次の効果を得る。
ヒータ駆動回路70自体が、ヒータ21の温度が目標温度となるように制御する構成であるので、マイコン51におけるヒータ21の制御処理を省略できる。
【0097】
ヒータ21への電力に基づいてヒータ21の抵抗値を算出し、ヒータ21の抵抗値に基づいて検出室13aの温度、補正係数αを算出し、補正係数αに基づいてブリッジ回路B2の出力を補正するので、水素に対して不活性であって検出室13aの温度に対応して抵抗値の変化する温度補償素子を省略できる。これにより、素子ハウジング13を小型化できる。
【符号の説明】
【0098】
1 水素センサ(ガスセンサ)
11 基板
12 ケース
13 素子ハウジング
13a 検出室
21 ヒータ
31 検出素子
51 マイコン(制御手段)
52、70 ヒータ駆動回路(制御手段)
53 補正回路(制御手段)
83 第A抵抗
84 第B抵抗
85 第C抵抗
110 燃料電池スタック(燃料電池)
B1、B2 ブリッジ回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出ガスが取り込まれる検出室を有する素子ハウジングと、
前記検出室に配置され、被検出ガスを検出する検出素子と、
通電により発熱することで前記検出室を加熱し、その温度に対応してその抵抗値が変化するヒータと、
前記ヒータを制御する制御手段と、
を備えるガスセンサであって、
前記制御手段は、前記ヒータの抵抗値に基づいて前記ヒータへの通電を制御することで、前記検出室の温度を制御する
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記ヒータと第A抵抗と第B抵抗と第C抵抗とを含んで構成されるブリッジ回路を備え、
前記制御手段は、前記ブリッジ回路の出力する電位差をフィードバックして、前記ヒータへの電流を制御するヒータ駆動回路を備える
ことを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記制御手段は、前記検出室における結露が防止されるように、前記検出室の温度を結露防止温度以上とする
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記検出素子は、接触燃焼式の素子であって、
前記制御手段は、前記ヒータの抵抗値に基づいて、前記検出素子の出力値を補正する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記検出素子は、接触燃焼式の素子であって、
前記制御手段は、前記ヒータを駆動させるエネルギに基づいて、前記検出素子の出力値を補正する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記検出素子は、燃料電池のカソードから排出されたカソードオフガス中の水素を検出し、
前記制御手段は、カソードオフガスの温度に基づいて、前記検出素子の出力値を補正する
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のガスセンサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−237642(P2012−237642A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106666(P2011−106666)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】