説明

ガスタービンの部品腐食推定方法、部品寿命推定方法、ガスタービンの設計方法及びガスタービン

【課題】油燃料等の腐食成分を含む燃料を用いるガスタービンの部品腐食推定方法、部品寿命推定方法、防食設計方法を確立する。
【解決手段】ガスタービンに導入される吸込み空気、燃料、燃焼器噴霧水又は水蒸気等の導入物質に含まれる不純物を分析し、該分析結果に基づいて前記導入物質を燃焼して得られる燃焼ガスを温度と圧力の関数として熱力学計算し、前記燃焼により生成される腐食成分が液相で存在する温度−圧力領域3を予測する一方、前記ガスタービンの各部材の使用温度−圧力分布を計算し、これらを照合してガスタービン各部材の腐食の度合いを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンの部品腐食推定方法、部品寿命推定方法、ガスタービンの設計方法及びガスタービンに係り、特に、腐食成分を含む多様な燃料で運用されるガスタービンの部品寿命推定方法、ガスタービンの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンは、元々、重油等の腐食成分を多く含む燃料でも運用されてきたが、当初は燃焼温度及び圧力が低かったため、腐食に起因する様々な課題は、大きな問題とはならなかった。
【0003】
一方、近年、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクル発電の効率の高さが注目されるようになり、燃焼温度及び圧力の高い、高効率のガスタービンがベースロード用として用いられるようになってきた。このようなコンバインドサイクルに用いるガスタービンの大部分は、信頼性確保のため、腐食成分をほとんど含まないガス燃料で運用されている。
【0004】
ところで、(1)化石燃料の有効利用の観点から、ガス、油、石炭のバランスのとれた利用が要請され、油燃料による高効率発電の要求がある。また、(2)燃料の高騰により、従来よりも品位の低い、つまり腐食性分を多く含む燃料による運用需要が高い。さらに、(3)バイオ燃料や、製油所の副次油、ガス等の、従来使用されておらず、かつ現在のガス燃料より腐食成分を多く含む燃料での運用需要が高まっている。
【0005】
しかし、従来のガスタービンの多くは、ガス燃料での使用を前提に設計されており、重油等の腐食成分を多く含む燃料で運用される場合は、ガス燃料用に設定された部品寿命より著しく短い部品寿命で運用することになる。その結果、部品の交換サイクルが短いことにより、交換部品の費用がガス燃料で運用されているガスタービンより増大するだけでなく、部品交換のための定期点検停止の頻度が多くなるので、プラントとしての収益性もガス燃料で運用されるガスタービンよりも低くなる。この種のガスタービンの寿命管理に関連する技術としては、特許文献1などに提案されている。
【0006】
【特許文献1】WO01/023725
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来は、燃料中の腐食成分と部品の寿命に相関する腐食との関係について解明されていないため、合理的に部品交換の時期を決めることが難しいことから、部品を計画交換寿命よりも早めに交換する傾向になるという問題がある。その結果、例えば、油燃料で運用されるガスタービンは、ガス燃料で運用されるガスタービンと比べ信頼性が劣る傾向にある。
【0008】
したがって、腐食成分を多く含む燃料を用いても、合理的に部品交換の時期を決めることができ、高効率で信頼性の高いガスタービンを実現することが要望されている。
本発明の解決しようとする課題は、油燃料等の腐食成分を含む多様な燃料で運用されるガスタービンの部品腐食推定方法を確立し、これに基づいてガスタービンの部品寿命推定方法、ガスタービンの防食設計方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のガスタービンの部品腐食推定方法は、ガスタービンに導入される吸込み空気、燃料、燃焼器噴霧水又は水蒸気等の導入物質に含まれる不純物を分析し、該分析結果に基づいて前記導入物質を燃焼して得られる燃焼ガスを温度と圧力の関数として熱力学計算し、前記燃焼により生成される腐食成分が液相で存在する温度−圧力領域を予測する一方、前記ガスタービンの各部材の使用温度−圧力分布を計算し、これらを照合してガスタービン各部材の腐食の度合いを推定することを特徴とする。
【0010】
すなわち、腐食成分は凝縮した液相状態において腐食の危険性が高く、気相又は固相においては腐食の危険性が低いことに鑑み、燃焼ガスを温度と圧力の関数として熱力学計算し、燃焼により生成される腐食成分が液相で存在する温度−圧力領域を予測する。一方、ガスタービンの各部材の使用温度−圧力分布を計算することにより、腐食成分の液相の領域に位置する使用温度と圧力のガスタービンの部材の腐食の危険性、例えば度合いが高いと推定できる。
【0011】
特に、本発明のガスタービンの部品腐食推定方法では、燃料のみならず、ガスタービンに導入される吸込空気、燃料、燃焼器噴霧水又は蒸気等の全ての導入物質に含まれる不純物を分析し、その分析結果に基づいて導入物質を燃焼して得られる燃焼ガスを、温度と圧力の関数として熱力学計算することが重要である。これは、ガスタービン及びその後流側の腐食は、燃料のみならず、吸込空気、燃焼器噴霧水又は蒸気等に含まれる全ての不純物が燃焼ガスの高温、高圧環境中で反応して生成する腐食成分により引き起こされるからである。
【0012】
また、本発明のガスタービンの部品寿命推定方法は、上記の部品腐食推定方法により求めた腐食成分が液相で存在する温度−圧力領域と、ガスタービンの各部材の使用温度−圧力分布に基づいて、これらを照合して腐食成分が液相で存在する領域に接触するガスタービン部材を判定するとともに、液相の腐食成分の単位時間当たりの生成量を熱力学計算で予測し、液相の腐食成分の単位時間当たりの生成量とガスタービン部材の材料又は該部材を被覆してなるコーティング材の腐食寿命の関係を予め求めてなる腐食寿命特性曲線とを照合してガスタービン部材の腐食の度合いを推定することを特徴とする。
【0013】
これによれば、材料又はコーティングの腐食寿命を、より定量的に評価することが可能となる。また、腐食寿命特性曲線(マスターカーブ)に、腐食成分の単位時間当たり単位断面積当たりの生成量と腐食寿命の関係を表すマスターカーブを用いることができる。これにより、圧力、燃料流量、空気流量等の運転条件、機器条件の異なる様々な機種(実験室装置も含む)のデータを統一的に表すことが可能となる。
【0014】
本発明の部品寿命推定方法によれば、腐食成分を多く含む燃料を用いたガスタービンにおいても、高温部品の適切な寿命設定が可能となり、効率的、かつ計画的なプラント運用が可能となる。
【0015】
さらに、本発明のガスタービンの設計方法は、上記の部品寿命推定方法による推定結果に基づいて、ガスタービンの各部材の材質及び該各部材を被覆するコーティング材の仕様を決定することを特徴とする。これによれば、信頼性の高い燃料多様化ガスタービンを提供することが可能となる。
【0016】
また、本発明のガスタービンの設計手法によれば、燃料中の腐食成分量が著しく多く、かつ定格運転時の排気温度が500℃以上のガスタービンにおいては、ガスタービンのタービン部の全ての翼材にコーティングを施すことで、信頼性の高い燃料多様化ガスタービンを提供することが可能となる。特に、全てのタービン翼材に酸化物等の金属以外のトップコートを施工することで、信頼性をさらに向上させることが可能となる。
【0017】
したがって、本発明によれば、ガス燃料以外の油燃料等の腐食成分を含む多様な燃料を用いたガスタービンであっても、ガス燃料で運用されるガスタービンと同等の部品寿命、メンテナンスコスト、信頼性を保証することができるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、油燃料等の腐食成分を含む多様な燃料で運用されるガスタービンの部品腐食推定方法を確立でき、これに基づいてガスタービンの部品寿命推定方法、ガスタービンの防食設計方法を確立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のガスタービンの部品腐食推定方法、部品寿命推定方法、ガスタービンの設計方法を実施例に基づいて説明する。以下に述べるように、本発明によれば、燃料中にアルカリ金属や硫黄、バナジウム等の、ガスタービン部材を著しく損傷させる腐食成分を含む燃料でも運用可能なガスタービンの部品腐食推定方法、部品寿命推定方法、その設計方法を確立することができる。
【実施例1】
【0020】
本発明のガスタービンの部品腐食推定方法及びこれに基づくガスタービンの設計方法を、油燃料を使用し、燃焼器に蒸気を噴霧してNOxを低減させるタイプのガスタービンに適用した実施例1について説明する。
【0021】
本実施例のガスタービンに導入される吸込み空気、燃料、噴霧蒸気からなる導入物質中の不純物を全て分析した結果、燃焼ガス中の腐食成分は、ナトリウムNa、カリウムK、バナジウムV、硫黄Sであり、それぞれの量は、表1に示すものであった。
【0022】
【表1】

この分析結果を基に燃焼ガスの熱力学計算をしたところ、腐食成分としてアルカリ硫酸塩(NaSO及びKSO)の溶融塩が生成することが解った。この不純物量(腐食成分量)におけるアルカリ硫酸塩の露点温度の圧力依存性、及び固相線温度の圧力依存性を計算した結果を図1に示す。図1は、横軸が圧力(Pa)を表し、縦軸が温度(℃)を表している。図1の横軸は、燃焼ガスの全圧(Pa)を示す。アルカリ硫酸塩の分圧は、 全圧と、そのアルカリ硫酸塩の燃焼ガス中のモル濃度の積である。したがって、アルカリ硫酸塩の露点温度は、アルカリ硫酸塩の分圧を介して、全圧に対する依存性を示す。
【0023】
アルカリ硫酸塩をNaSOとすれば、NaSOの露点温度とNaSOの分圧の間には,以下の関係が成り立つ。
【0024】
log10(PNaSO)=10.558−1.55×104/T
ここで、PNaSOは、NaSOの分圧(Pa)
この場合は飽和蒸気圧に相当T:温度(K) (K)この場合は露点温度に相当
系が単純な場合、露点温度と分圧の関係はこのような式を用いて計算できるが、ガスタービンの燃焼ガスのような多成分系においては、熱力学データベースに基づく、熱力学平衡計算ソフトを用いて計算することが有効である。本実施例では,ドイツ,GTT Technologies GmbH 社から販売されている市販の熱力学平衡計算ソフト FactSageを用いた。
【0025】
図1に示すように、アルカリ硫酸塩の露点1は、圧力が増大するにつれて直線的に上昇する。一方、固相線2の温度は、圧力の増大にかかわらずほぼ一定である。したがって、露点1と固相線2に囲まれた領域が、アルカリ硫酸塩が液相、つまり腐食性の高い溶融塩として存在する液相領域3である。また、ガスタービンのガス温度4と圧力の関係もあわせて示している。
【0026】
さらに、ガスタービンの運転条件から代表的な高温部材の表面温度‐圧力の分布を計算して、その結果を図1にあわせて示した。本実施例のガスタービンは、図示のように、第1段静翼11、第1段動翼12、第2段静翼13、第2段動翼14、第3段静翼15、第3段動翼16を有する3段構成であり、各翼が晒される表面温度と圧力に対応する領域を表している。
【0027】
図1から、第1段動翼12及び第2段静翼13の表面温度-圧力が液相領域3と重なっており、溶融塩腐食の危険性が高いことがわかる。また、燃焼ガス温度と液相領域3の関係から、燃焼ガス中のアルカリ硫酸塩が液相となり得る領域は、破線で示す境界線5の圧力以上の領域である。したがって、破線5よりも圧力が高い領域にある翼であって、冷却されている冷却翼は、表面温度が固相線以下であっても、常に溶融塩を生成する条件の燃焼ガスと接していることになる。そのため、表面近傍では、一時的に溶融塩が生成して表面に付着し、その後固体となる現象が繰り返されていることが予測される。
【0028】
以上の結果から、翼の表面温度-圧力が液相領域3と重なっている領域は、定常運転中、常に溶融塩と接していることから、溶融塩腐食の危険性の最も高い領域である。次に、固相領域であっても、冷却翼で、かつ破線圧力より高い部分にある領域が、溶融塩腐食の危険性の次に高い領域と判定することができる。
【0029】
本実施例に基づいて、ガスタービンの設計では、溶融塩腐食の危険性の最も高い領域に相当する第1段動翼12のガスパス面及び第2段静翼13の翼部前縁にセラミックス系のコーティングを施すことにより、それらの翼の耐食性が向上され、寿命を延ばすことができる。
【0030】
また、溶融塩腐食の危険性の次に高い領域に相当する第1段静翼11、第2段動翼14のガスパス面、及び第2段静翼13のセラミックス系のコーティングを施工した部分以外のガスパス面に、金属系のコーティングを施すことにより、それらの翼の耐食性が向上され、寿命を延ばすことができる。
【0031】
言い換えれば、腐食性の高い燃料を用いた場合においても、プラントの信頼性を確保し、かつ、部品の交換サイクルを延長することで、メンテナンスコストの低減を図ることができる。
【実施例2】
【0032】
本発明のガスタービンの部品腐食推定方法及びこれに基づくガスタービンの設計方法を、実施例1と同じタイプのガスタービンに適用した実施例2について説明する。
【0033】
本実施例のガスタービンに導入される吸込み空気、燃料、噴霧蒸気からなる導入物質中の不純物を全て分析した結果、燃焼ガス中の腐食成分は、ナトリウムNa、カリウムK、バナジウムV、硫黄Sであり、それぞれの量は、表2に示すものであった。
【0034】
【表2】

この分析結果を基に燃焼ガスの熱力学計算をしたところ、腐食成分としてアルカリ硫酸塩(NaSO及びKSO)の溶融塩が生成することが解った。この不純物量(腐食成分量)におけるアルカリ硫酸塩の露点温度の圧力依存性、及び固相線温度の圧力依存性を計算した結果を図2に示す。図2は、横軸が圧力(Pa)を表し、縦軸が温度(℃)を表している。
【0035】
図2に示すように、アルカリ硫酸塩の露点21は、実施例1と傾向は同じであるが、全体的に露点が高くなっている。一方、固相線22の温度は、実施例1とほぼ同様である。本実施例の場合も、露点21と固相線22に囲まれた領域が、アルカリ硫酸塩が液相、つまり腐食性の高い溶融塩として存在する液相領域23である。ガスタービンのガス温度4と圧力の関係は、実施例1と同じである。
【0036】
図2から、本実施例では、燃焼ガス中の不純物量が実施例1に示す例より増加した結果、ある圧力におけるアルカリ硫酸塩の露点21が上昇していることから、第2段静翼13において、溶融塩腐食の危険性の最も高い領域に含まれる部分が増加している。
【0037】
また、ある圧力における溶融塩の生成量は、露点21と固相線22の温度差に比例することから、溶融塩の生成量も実施例1に示す実施例と比べて上昇していることがわかる。
【0038】
本実施例に基づいて、ガスタービンの設計では、第2段静翼13のセラミックス系のコーティングの施工範囲を、実施例1に比べて拡大することにより、第2段静翼13の耐食性を向上して、寿命を延ばすことができる。他の部品は、実施例1と同じとする。
【0039】
したがって、本実施例によれば、実施例1と同様に、腐食性の高い燃料を用いた場合においても、プラントの信頼性を確保し、かつ、部品の交換サイクルを延長することで、メンテナンスコストの低減を図ることができる。
【実施例3】
【0040】
本発明のガスタービンの部品腐食推定方法及びこれに基づくガスタービンの設計方法を、実施例1と同じタイプのガスタービンに適用した実施例3について説明する。本実施例が、実施例1、2と異なる点は、燃料中のV量が著しく増加した例である。
【0041】
本実施例のガスタービンに導入される吸込み空気、燃料、噴霧蒸気からなる導入物質中の不純物を全て分析した結果、燃焼ガス中の腐食成分は、ナトリウムNa、カリウムK、バナジウムV、硫黄Sであり、それぞれの量は、表3に示すものであった。
【0042】
【表3】

この分析結果を基に燃焼ガスの熱力学計算をしたところ、腐食成分としてアルカリ硫酸塩(NaSO及びKSO)の溶融塩に加え、バナジウム酸化物の溶融塩(V)が生成することが解った。この不純物量(腐食成分量)における溶融塩の露点温度の圧力依存性、及び固相線温度の圧力依存性を計算した結果を図3に示す。図3は、横軸が圧力(Pa)を表し、縦軸が温度(℃)を表している。
【0043】
本実施例では、V量の増加により、図3に示すように、溶融塩の露点31が大幅に上昇し、しかも、固相線22の温度が大きく低下することがわかる。その結果、溶融塩腐食の危険性の最も高い領域である液相領域33に含まれる部分が大幅に増加し、第1段静翼11から第3段動翼16までの全ての翼が溶融塩腐食の危険性の最も高い領域に含まれる部分が存在することとなった。
【0044】
本実施例に基づいて、ガスタービンの設計では、第1段静翼11から第3段動翼16までの全ての翼のガスパス部にセラミックス系のコーティングを施すことにより、第1段静翼11から第3段動翼16までの全ての翼の耐食性を向上して、寿命を延ばすことができる。
【0045】
本実施例によれば、実施例1と同様に、腐食性の高い燃料を用いた場合においても、プラントの信頼性を確保し、かつ、部品の交換サイクルを延長することで、メンテナンスコストの低減を図ることができる。
【実施例4】
【0046】
ここで、本発明のガスタービンの部品寿命推定方法の実施例を説明する。
【0047】
ガスタービン翼材の高温腐食は、高温、高圧下で起こる事象であるため、その環境を実験室的に模擬することは、非常に難しい。また、ガスタービン同士でも、機種による温度、圧力、燃料流量、空気流量等の違いにより、例え燃料が同一であっても、その腐食速度は大きく異なる場合が有る。
【0048】
そこで、ガスタービンあるいは試験装置に導入される吸込空気、燃料、燃焼器噴霧水又は蒸気等、導入される全ての導入物質が燃焼して得られる燃焼ガスを、温度と圧力の関数として熱力学計算することで、腐食成分の生成量を算出し、それを単位時間、単位断面積当たりの生成量として表すことで、これらの相関性を表すことができる。つまり、液相の腐食成分の単位時間、単位断面積当たりの生成量とガスタービン部材の材料又はその部材を被覆してなるコーティング材の腐食寿命の関係を腐食寿命特性曲線(腐食減肉速度マスターカーブ)として予め求める。ここで、単位断面積とは,ガスタービンにおいては,タービンの燃焼ガス流路の断面積、試験装置においても,燃焼ガスの流路の断面積である。
【0049】
この腐食減肉速度マスターカーブの一例を、図4に示す。図4において、横軸は単位時間、単位面積当たりの溶融塩生成量(g/mm/s)であり、縦軸は腐食減肉速度(mm/h)である。なお、両軸は、対数目盛で表している。
【0050】
このような腐食減肉速度マスターカーブを作成し、使用予定の燃料及びガスタービンの性能が予めわかれば、実施例1〜3の腐食推定データを取得することにより、各材料の腐食寿命を予測することが可能であり、例えば油焚きガスタービンの信頼性を大幅に向上することが可能となる。
【0051】
なお、吸込み空気中の不純物は、燃焼用空気の圧縮機の腐食生成部位予測に重要である。また、排気側の煙突や、ガスタービンの排熱で蒸気を発生させ、蒸気タービンを駆動するコンバインドサイクル発電の場合の排熱回収ボイラも、ガス温度が低いとは言え、酸露点腐食という問題が有る。これも、ガス組成を温度と圧力の関数として熱力学計算することで腐食成分の生成部位を予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1の腐食成分の露点温度及び固相線温度の圧力依存性と、ガスタービンの代表的な高温部材の表面温度‐圧力の分布を示す線図である。
【図2】実施例2の腐食成分の露点温度及び固相線温度の圧力依存性と、ガスタービンの代表的な高温部材の表面温度‐圧力の分布を示す線図である。
【図3】実施例3の腐食成分の露点温度及び固相線温度の圧力依存性と、ガスタービンの代表的な高温部材の表面温度‐圧力の分布を示す線図である。
【図4】腐食減肉速度マスターカーブの一例を示す線図である。
【符号の説明】
【0053】
1 露点
2 固相線
3 液相領域
4 ガス温度
5 (燃焼ガス中のアルカリ硫酸塩が液相となる領域の)境界線
11 第1段静翼
12 第1段動翼
13 第2段静翼
14 第2段動翼
15 第3段静翼
16 第3段動翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンに導入される吸込み空気、燃料、燃焼器噴霧水又は水蒸気等の導入物質に含まれる不純物を分析し、該分析結果に基づいて前記導入物質を燃焼して得られる燃焼ガスを温度と圧力の関数として熱力学計算し、前記燃焼により生成される腐食成分が液相で存在する温度−圧力領域を予測する一方、前記ガスタービンの各部材の使用温度−圧力分布を計算し、これらを照合してガスタービン各部材の腐食の度合いを推定するガスタービンの部品腐食推定方法。
【請求項2】
ガスタービンに導入される吸込み空気、燃料、燃焼器噴霧水又は水蒸気等の導入物質に含まれる不純物を分析し、該分析結果に基づいて前記導入物質を燃焼して得られる燃焼ガスを温度と圧力の関数として熱力学計算し、前記燃焼により生成される腐食成分が液相で存在する温度−圧力領域を予測する一方、前記ガスタービンの各部材の使用温度−圧力分布を計算し、これらを照合して腐食成分が液相で存在する領域に接触するガスタービン部材を判定するとともに、液相の腐食成分の単位時間当たりの生成量を熱力学計算で予測し、前記液相の腐食成分の単位時間当たりの生成量とガスタービン部材の材料又は該部材を被覆してなるコーティング材の腐食寿命の関係を予め求めてなる腐食寿命特性曲線とを照合して前記ガスタービン部材の腐食の度合いを推定するガスタービンの部品寿命推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載のガスタービンの部品寿命推定方法において、
前記腐食寿命特性曲線は、前記液相の腐食成分の単位時間当たりの生成量が単位断面積当たりの生成量であることを特徴とするガスタービンの部品寿命推定方法。
【請求項4】
ガスタービンに導入される吸込み空気、燃料、燃焼器噴霧水又は水蒸気等の導入物質に含まれる不純物を分析し、該分析結果に基づいて前記導入物質を燃焼して得られる燃焼ガスを温度と圧力の関数として熱力学計算し、前記燃焼により生成される腐食成分が液相で存在する温度−圧力領域を予測する一方、前記ガスタービンの各部材の使用温度−圧力分布を計算し、これらを照合してガスタービン各部材の腐食の度合いを推定し、該推定結果に基づいて前記ガスタービンの各部材の材質及び該各部材を被覆するコーティング材の仕様を決定するガスタービンの設計方法。
【請求項5】
請求項4に記載のガスタービンの設計方法で設計されてなることを特徴とするガスタービン。
【請求項6】
請求項5に記載のガスタービンにおいて、
定格運転時の排気温度が500℃以上であり、かつタービン部の全ての翼材にコーティングが施されていることを特徴とするガスタービン。
【請求項7】
請求項5に記載のガスタービンにおいて、
定格運転時の排気温度が500℃以上であり、かつ内部に冷却構造を持たないタービン翼に酸化物等の金属以外のトップコートが施されていることを特徴とするガスタービン。
【請求項8】
請求項5に記載のガスタービンにおいて、
定格運転時の排気温度が500℃以上であり、かつ全てのタービン翼材に酸化物等の金属以外のトップコートが施されていることを特徴とするガスタービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−250120(P2009−250120A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99265(P2008−99265)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】