説明

ガスタービン発電設備の起動方法

【課題】圧縮機インペラ(1)とタービンホイール(6)の外径差(タービンホイール外径>圧縮機インペラ外径)を大きくして大容量化を図った場合でも、システム全体の圧力バランスを安定した状態に保ちながら着火・起動できるガスタービン発電設備を提供する。
【解決手段】空気を圧縮する遠心圧縮機と、該遠心圧縮機により圧縮された空気と燃料とを燃焼する燃焼器と、該燃焼器で発生する燃焼ガスによって駆動される半径流タービンとを備えたガスタービン発電設備の起動方法において、システム全体の圧力バランスが不安定となる回転数より低い回転数でのモータリング運転時に着火し、タービン本来の動作ができるようになる所定温度までタービン入口温度を上昇させ、システム全体の圧力バランスを安定した状態に保ちながら昇速させることを特徴としたガスタービン発電設備の起動方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機と半径流タービンの組み合わせにより構成されたガスタービン発電設備及びその起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、数十から数百kWのガスタービンを用いて発電機を運転するガスタービン発電設備の市場投入や新規開発が進んでいるが、発電出力が100kW以下の設備では、発電機を駆動するガスタービン部分に遠心圧縮機と半径流タービンを組み合わせた構造を採用している場合が多い。
【0003】
このような構造から成るガスタービン発電設備を起動する場合、エヌ・ティー・エス、マイクロガスタービンの開発動向と将来展望、(2001年)、第161頁から第162頁において記載されているように、まず発電機をモータとして使用して、システム全体の圧力バランスを安定状態に保ちながら燃焼器で安定して着火できる着火回転数(定格回転数の25%)まで昇速した後、そのまま着火回転数に保持して着火する。着火を確認した後、さらにシステム全体の圧力バランスを安定状態に保ちながら定格回転数まで昇速する起動方法が一般的である。
【0004】
また、このような構造から成るガスタービン発電設備において発電出力を大容量化するためには、半径流タービンの出力を増大する必要があり、必然的にタービンホイールの外径を大きくすることとなる。これに対して、圧縮機は、圧縮機を駆動するための消費動力を低減する必要があり、圧縮機インペラの外径は必要な圧力比を満足する範囲でできるだけ小さくすることが求められる。結果として、発電出力を大容量化すると、圧縮機インペラとタービンホイールの外径差(タービンホイール外径>圧縮機インペラ外径)が大きくなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】エヌ・ティー・エス、マイクロガスタービンの開発動向と将来展望、(2001年)、第161頁〜第162頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術のように、発電出力の大容量化に伴い圧縮機インペラとタービンホイールの外径差がある程度より大きくなると、タービン入口温度がほぼ常温で、かつ定格流量に対して少ない空気流量でのモータリング運転となる起動時において、昇速するのに従い遠心圧縮機が、半径流タービンのポンプ動作に打ち勝って空気をタービン側へ送り込むことが困難となり、システム全体の圧力バランスを安定状態に保てなくなる現象が起こる。その結果、回転数の増加に見合った空気流量の増加が得られなくなり、従来技術に記載した着火回転数である定格回転数の25%まで昇速できなくなる問題点があった。
【0007】
本発明の目的は、圧縮機インペラとタービンホイールの外径差(タービンホイール外径>圧縮機インペラ外径)を大きくして大容量化を図った場合でも、システム全体の圧力バランスを安定した状態に保ちながら着火・起動できるガスタービン発電設備およびその起動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための、遠心圧縮機と半径流タービンを組み合わせた構造を適用した、本発明のガスタービン発電設備の起動方法は、システム全体の圧力バランスが不安定となる回転数より低い回転数でのモータリング運転時に着火し、タービン本来の動作ができるようになる所定温度までタービン入口温度を上昇させ、システム全体の圧力バランスを安定した状態に保ちながら昇速させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧縮機インペラとタービンホイールの外径差(タービンホイール外径>圧縮機インペラ外径)を大きくして大容量化を図った場合でも、システム全体の圧力バランスを安定した状態に保ちながら着火・起動できるガスタービン発電設備およびその起動方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のガスタービン構造の一実施例(第1の実施例)に関わるガスタービン発電設備の断面図。
【図2】着火しないモータリング運転により昇速したときのタービンと圧縮機それぞれの回転数に対する圧力変化を示した概念図。
【図3】圧力P1および空気流量と、着火回転数およびタービンホイール外径と圧縮機インペラ外径の径比の関係を示した概念図。
【図4】本発明のガスタービン起動方法の一実施例(第1の実施例)に関わる燃焼器縦断面図。
【図5】本発明のガスタービン起動方法の別の実施例(第2の実施例)に関わる燃焼器縦断面図。
【図6】第1あるいは第2の実施例を実施した場合と従来技術によりガスタービン発電設備を起動した場合で着火回転数までの消費電力を比較した概念図。
【図7】本発明のガスタービン起動方法の別の実施例(第3の実施例)に関わるガスタービン発電設備の断面図。
【図8】本発明のガスタービン起動方法の別の実施例(第4の実施例)に関わるガスタービン発電設備の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
本発明に関わるガスタービン発電設備の一実施例(第1の実施例)について図1を用いて詳細に説明する。図1は本発明に関わるガスタービン発電設備における発電機を駆動するガスタービン部分の断面図である。
【0013】
本実施例におけるガスタービン発電設備は、100kWを超える発電出力を有し、特に発電機を駆動するガスタービン部分に単段の遠心圧縮機と単段の半径流タービンを組み合わせた構造を適用した場合の実施例である。本実施例におけるガスタービン発電設備において、特に発電機を駆動するガスタービン部分に着目し、空気の流れに従い、機器構成およびその動作について説明する。
【0014】
大気中より流入した空気21は、ガスタービン回転軸と一体に組み立てられた遠心圧縮機の動翼である圧縮機インペラ1により昇圧され、遠心圧縮機の静翼であるディフューザ2に流入する。ここで、ディフューザ2は圧縮機ケーシング3あるいは圧縮機背板4のどちらかと一体構造を成すものとする。空気21は、ディフューザ2を周方向外向きに通過する際に、さらに減速されて静圧回復した後、約4〜5気圧、約200℃の高圧空気22となる。高圧空気22は、図示しないスクロールへ導かれてさらに静圧回復した後、図示しない燃焼器に流入する。ここで、スクロールを出た高圧空気22を、場合によっては図示しない再生熱交換器に導き、タービンの排気ガスとの熱交換により余熱した後に、図示しない燃焼器へ流入させても良い。
【0015】
高圧空気22は、図示しない燃焼器において、燃焼ガスと混合・燃焼により、約4〜5気圧、約1000℃の高温ガス23となる。
【0016】
高温ガス23は、半径流タービンの静翼であるノズル5に流入し、流路断面積の縮小に伴い加速される。ここで、ノズル5はタービン背板7あるいはタービンシェル8のどちらかと一体構造を成すものとする。加速された高温ガス23は、ガスタービン回転軸と一体に組み立てられた半径流タービンの動翼であるタービンホイール6に流入し、膨張してタービンホイール6に回転エネルギーを与えて高温低圧ガス24となり、図示しない排気ディフューザに導かれてさらに静圧回復した後に大気中へ排気される。ここで、排気ディフューザを出た高温低圧ガス24を、場合によっては図示しない再生熱交換器に導き、圧縮機の吐出空気である高圧空気22との熱交換をして温度を下げた後に、大気中へ排気しても良い。
【0017】
本実施例のように、発電出力が100kWを超える大容量化に対応してタービン出力を増大するには、半径流タービンの場合、ノズルにより加速された流体がタービンホイールへ衝突することで発生する回転トルクを大きくするため、タービンホイールの外径を大きくすることが一般的である。
【0018】
これに対し、発電出力が100kWを超える大容量化に対応して遠心圧縮機の消費動力を低減するには、回転に費やす消費動力を低減するため、圧縮機インペラの外径は必要な圧力比を満足する範囲でできるだけ小さくすることが求められる。結果として、発電出力を大容量化すると、必然的にタービンホイール外径16と圧縮機インペラ外径15の外径差が大きくなる。本実施例では、タービンホイール外径16と圧縮機インペラ外径15の径比が1.15以上となっている。
【0019】
上記のガスタービン発電設備を従来技術で起動する場合は、系統からの外部電力やバッテリー電力を使用してガスタービン回転軸をモータリング運転し、定格回転数の約25%相当の着火回転数まで昇速することが必要になるが、本実施例のようにタービンホイール外径16と圧縮機インペラ外径15の径比が1.15以上になると、システム全体の圧力バランスが不安定となる現象が生じ起動できなくなる。
【0020】
このシステム全体の圧力バランスが不安定となる現象について図2を用いて説明する。図2は発電機を駆動するガスタービン部分に単段の遠心圧縮機と単段の半径流タービンを組み合わせた構造を適用したガスタービン発電設備を、着火しないモータリング運転により昇速したときのタービンと圧縮機それぞれの回転数に対する圧力変化を示したものである。ここで、タービンの圧力はノズル入口で定義した圧力であり、圧縮機の圧力は圧縮機スクロール出口で定義した圧力とする。
【0021】
モータリングによる起動時は、タービン入口温度がほぼ常温で、かつ定格流量に対して少ない空気流量での運転となるため、タービンは本来の動作と異なるポンプ動作となる。昇速するに従いタービンのポンプ動作はその強さを増し、タービン入口圧力と圧縮機吐出圧力が均衡してシステム全体の圧力バランスを安定状態に保てなくなるため、遠心圧縮機がタービン側へ空気を送り込むことが困難となる。結果として回転数の増加に見合った空気流量の増加が得られなくなり、ある回転数以上に昇速させることができなくなってしまう。
【0022】
すなわち、図2に示すように、起動直後におけるタービン入口圧力と圧縮機吐出圧力の関係は「タービン入口圧力<圧縮機吐出圧力」の状態にあるが、ある回転数NSに達すると、「タービン入口圧力=圧縮機吐出圧力」(このときの圧力をP1とする)となる。そして、それ以上昇速すると「タービン入口圧力>圧縮機吐出圧力」と相互の圧力の大小関係が逆転して、空気流量が減少する状態になってしまい、それ以上昇速できなくなる。
【0023】
次に、タービンホイール外径と圧縮機インペラ外径の径比と、圧力P1、空気流量及び着火回転数の関係について、図3を用いて説明する。
【0024】
図3においてタービンホイール外径16と圧縮機インペラ外径15の径比が増加するに従い、圧力P1は2次曲線的に低下し、その圧力P1における空気流量(すなわち、回転数Nsにおける空気流量)も減少する。ただし、タービンホイール外径16と圧縮機インペラ外径15の径比が1.15付近より小さくなると、圧力P1における空気流量に関しては、圧力P1の減少幅が小さくなるのに伴い、流量の減少幅も小さくなる。これに対し、着火回転数における空気流量は、図3に示すように燃焼器の着火できる流量範囲で制限されるため、「圧力P1における空気流量≧着火回転数における空気流量」でなければ着火できないことになる。本実施例のガスタービン発電設備は、タービンホイール外径16と圧縮機インペラ外径15の径比が1.15以上であり、「圧力P1における空気流量>着火回転数における空気流量」の条件をクリアするためには、定格回転数の10%の運転点まで引き下げて定格空気流量の5%の空気流量Gsで着火する必要がある。
【0025】
なお、タービンホイール外径16と圧縮機インペラ外径15の径比が1.2以上になると、後述するように、圧縮機がタービンのポンプ動作に打ち勝って空気をタービン側へ送り込むことができるように、外部から噴霧水やアシスト空気を圧縮機入口へ送り込むことで圧力P1における空気流量を増加し、着火回転数における空気流量を上回る手段が必要となる。
【0026】
定格空気流量の5%が得られる定格回転数の10%の運転点で安定して着火することができるガスタービン燃焼器の一例としては、例えば国際公開公報WO2005/059442A1が挙げられる。図4にその縦断面図を示す。
【0027】
図4に示した燃焼器は、大きく分けてパイロットバーナ31,燃焼器ライナー32,燃焼器エンドカバー33,燃焼器外筒34によって構成されている。
【0028】
パイロットバーナ31は、ガスタービン発電設備の起動に関わる着火を担うバーナであり、第1次燃料ノズル43の周囲に、旋回羽41を有する旋回通路46を設けている。また、この旋回通路46には、その内部に燃焼用空気を導入する第1次空気導入孔42が形成されている。この第1次空気導入孔42は円周方向8箇所に持っている。
【0029】
燃焼器ライナー32は燃焼室を構成する部品であり、燃焼器出口ガス温度分布を平滑化するための円周方向6箇所に設けた希釈孔52および円周方向3箇所に設けた第2次空気導入孔53を持ち、図示しないタービンとの連絡部品であるトランジッションピースに対してスプリングシール51で取り合っている。
【0030】
図示しない圧縮機から導かれた燃焼用空気は、燃焼器ライナー32と燃焼器外筒34の間の空間を流れ、その一部の燃焼用空気は円周方向6箇所に設けた希釈孔52、円周方向3箇所に設けた第2次空気導入孔53から燃焼室内に流入する。また、残りの燃料用空気は、円周方向8箇所に設けた第1次空気導入孔42から旋回通路46に流入し、旋回羽41により所定の旋回を与えられた後、燃焼器ライナー32の内側を流れる。そして、燃焼室内部で発生した燃焼ガスは、図示しないタービンとの連絡部品であるトランジッションピースへ流出する。
【0031】
燃料は図面下側中央に位置する第1次燃料ノズル43および図面中央の第2次燃料ノズル61にそれぞれ独立して供給され、第1次燃料噴孔44および第2次燃料噴孔62から燃焼室内に噴出する。全ての燃料は直接燃焼室に向けて噴射されており、燃焼室外で燃料と空気が混在する予混合器のような部品がないため、原理的に自発火あるいは逆火といった事故は生じない。
【0032】
パイロットバーナ31は通常の拡散燃焼方式を採用している。ガスタービン発電設備において、着火時を除いて空気流量が十分に確保できる場合には、第1次空気導入孔42から旋回通路46に流入し旋回羽41により所定の旋回を与えられた第1次燃焼用空気71は旋回通路46出口から燃焼室に入って急拡大するため、燃焼器頭部の第1次燃料ノズル43下流に循環流領域を形成する。この循環流領域に対して第1次燃料ノズル43端面に開口した第1次燃料噴孔44から燃料を噴射し、拡散燃焼を行わせる。
【0033】
一方、第2次空気導入孔53から燃焼室内に噴出する第2次空気72には、第2次空気導入孔53と同じ位置に設置した第2次燃料ノズル61から放射状に燃料が噴射される。但し、第2次燃料噴射直後は第2次空気72が燃焼室に突入する流速が大きく、また周囲の燃焼ガスとの剪断が強いために、燃焼反応が始まってもすぐに火炎が吹き消えてしまい、第2次燃料ノズル61近傍では火炎保持しないので第2次燃料ノズル61や燃焼器ライナー32壁面近傍には局所的な高温領域が現れず、信頼性確保の観点からも有利である。
【0034】
このガスタービン燃焼器を定格空気流量の5%が得られる定格回転数の10%の運転点で着火する場合、第1次燃焼用空気71は、第1次空気導入孔42から旋回通路46に流入し旋回羽41により所定の旋回を与えられ、旋回通路46出口から燃焼室に入って急拡大するが、流速が遅いため燃焼器頭部の第1次燃料ノズル43下流に循環流領域を形成するには至らず、燃焼器ライナー32内を下流側へ向かう。
【0035】
この下流側へ向かう第1次燃焼用空気71は、周方向3箇所の第2次空気導入孔53から燃焼器ライナー32内に噴出した第2次空気72と、燃焼器ライナー32中心軸近傍で互いに衝突して内向き流れの循環流91となり、淀み領域を形成する。この淀み領域内では流速は低下し充分に伝播火炎が維持できる条件となるため、第1次燃焼用空気71中に投入された第1次燃料81は、上記の内向き流れの循環流91内で燃焼反応を開始し、着火に至る。
【0036】
また、本実施例において、燃料は第1次燃料ノズル43にのみ供給し、第1次燃料噴孔44から燃焼器ライナー32内へ噴出するが、第1次燃焼用空気71と混合した段階では、空気流量が少ないため燃料過多の着火性が悪い状態である。
【0037】
しかし、燃焼器ライナー32内下流で周方向3箇所の第2次空気導入孔53から燃焼器ライナー32内に噴出した第2次空気72と、燃焼器ライナー32中心軸近傍で互いに衝突して淀み領域を形成する段階では、第2次空気72により希釈され着火性が良好な状態に至る。
【0038】
定格空気流量の5%が得られる定格回転数の10%の運転点で着火するためには、第2次空気42の噴流が燃焼器ライナー32の中心軸近傍までパイロットバーナ31の燃焼ガス流を横切って貫通し、第2次空気72の噴流が相互に衝突して淀み領域を形成し、循環流領域を形成することが安定して着火する観点から重要である。
【0039】
第2次空気72の噴出流速を確保し、かつ第2次空気72の噴流が燃焼器ライナー32の中心軸近傍まで貫通することを確保するためには、燃焼器ライナー2断面で定義する平均空気流速に対する第2次空気42の噴流の流速の比を約3倍以上に設計することが適当であり、燃焼器ライナー32の表面積に対する開口部面積の比率を20〜30%、燃焼器の全圧損失係数を40〜50の間で設計することが望ましい。
【0040】
なお、着火時における燃焼温度は、タービン入口温度が上がるとタービン本来の動作がポンプ動作を上回り、圧縮機がタービン側へ送り込む空気流量が増加する現象に着目し、システム全体の圧力バランスが不安定な状態での空気流量から、着火回転数に見合った本来の空気流量まで回復する温度以上かつ機器に昇温によるダメージを与えない温度以下とする。
【実施例2】
【0041】
本発明に関わるガスタービン発電設備の起動方法の別の実施例(第2の実施例)について図5を用いて詳細に説明する。本実施例におけるガスタービン発電設備の構造および起動方法は第2の実施例と同様であるため重複する説明は割愛する。本実施例が第1の実施例と異なる点は、定格空気流量の5%が得られる定格回転数の10%の運転点で着火する際の、燃焼器の着火方法である。図5は、国際公開公報WO2005/059442A1に記載の従来技術に関わるガスタービン用燃焼器の縦断面図であり、機器構成およびその動作は図4と全く同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0042】
このガスタービン燃焼器を定格空気流量の5%が得られる定格回転数の10%の運転点で安定して着火する運用方法の別の実施例を以下に説明する。なお、前に述べた実施例と重複する説明は割愛する。
【0043】
このガスタービン燃焼器を定格空気流量の5%が得られる定格回転数の10%の運転点で着火する場合、第1次燃焼用空気71は、流速が遅いため燃焼器頭部の第1次燃料ノズル43下流に循環流領域を形成するには至らず、燃焼器ライナー32内を下流側へ向かう。この下流側へ向かう第1次燃焼用空気71は、周方向3箇所の第2次空気導入孔53から燃焼器ライナー2内に噴出した第2次空気42と、燃焼器ライナー2中心軸近傍で互いに衝突して外向き流れの循環流92となり、淀み領域を形成する。この淀み領域に向けて第2次空気導入孔53と同じ位置に設置した第2次燃料ノズル61から放射状に第2次燃料82を噴射すると、これらの淀み領域における外向き流れの循環流92内では、流速が低下し充分に伝播火炎が維持できる条件となるため、第2次燃料82は第1次燃焼用空気71および第2次空気72と混合し、上記の循環流内で燃焼反応を開始し、着火に至る。
【0044】
また、本実施例において、燃料は第2次燃料ノズル61にのみ供給し、第2次燃料噴孔62から燃焼器ライナー32内へ噴出するが、周方向3箇所の第2次空気導入孔53から燃焼器ライナー32内に噴出した第2次空気72のみと混合した段階では、空気流量が少ないため燃料過多の着火性が悪い状態である。
【0045】
しかし、燃焼器ライナー32内上流から流出して来る第1次燃焼用空気71と、燃焼器ライナー32中心軸近傍で互いに衝突して淀み領域を形成する段階では、第1次燃焼用空気71により希釈され着火性が良好な状態に至る。なお、着火時における燃焼温度は、第1の実施例で述べたのと同様に設定するものとする。
【0046】
本発明に関わるガスタービン発電設備において第1あるいは第2の実施例に述べた起動方法を実施した場合と、比較対象として従来技術に関わる起動方法で本発明に関わるガスタービン設備を起動できたと仮定した場合の着火回転数に至るまでの消費電力を比較した概念図を図6に示す。ここでの本発明に関わるガスタービン発電設備の起動方法を実施した場合の着火回転数は、定格回転数の10%を想定した。これに対し、従来技術に関わる起動方法でガスタービン設備を起動した場合は、エヌ・ティー・エス、マイクロガスタービンの開発動向と将来展望、(2001年)、第161頁から第162頁において論じられた起動方法に基づき、着火回転数を定格の25%と想定した。なお、着火時のタービン入口温度はエヌ・ティー・エス、マイクロガスタービンの開発動向と将来展望、(2001年)、第161頁から第162頁において論じられた起動方法に基づき、従来技術および本発明に関わる技術とも同一条件で比較するため400℃を想定した。
【0047】
図6からわかるように、従来技術に関わる起動方法でガスタービン設備を起動した場合の消費電力は、ガスタービンの空気との回転摩擦損失により回転数の3乗に比例して増加し、着火回転数において図6中(2)の値となる。これに対し、本実施例に関わるガスタービン用燃焼器の運用方法を実施してガスタービン設備を着火した場合の消費電力は、従来技術に関わる着火回転数においても図6中(1)の値へ減少する。これは、本発明に関わる着火回転数から従来技術に関わる着火回転数までの領域は、タービン入口温度が400℃と高温であるためタービン本来の動作となることと、高温により空気の密度が減少した分だけタービンの回転摩擦損失も小さくなることにより、消費電力が従来技術より図6中(A)の分だけ削減できるためである。
【実施例3】
【0048】
本発明に関わるガスタービン発電設備の起動方法の別の実施例(第3の実施例)について図7を用いて詳細に説明する。本実施例におけるガスタービン発電設備は、数十から数百kWの発電出力を有し、特に発電機を駆動するガスタービン部分に単段の遠心圧縮機と単段の半径流タービンを組み合わせた構造を適用した場合の実施例である。本実施例におけるガスタービン発電設備のガスタービン部分は、その機器構成が図1に示した断面図と同様であり、重複する説明は割愛する。本実施例のガスタービン発電設備は、少流量で着火できる燃焼器や再生熱交換器を備え付ける必要は必ずしも無い。
【0049】
図7において、タービンホイール6は、圧縮機インペラ1だけでなく、ガスタービン回転軸と一体に組み立てられた永久磁石9を有する発電機ロータも駆動する。駆動された発電機ロータは発電機ステータ10と電磁場を形成し発電する。ただし、駆動エネルギーの全てが発電力にはならず、数%はロスとなり発電機ステータ10が加熱する。本実施例では、発電機ステータ10が過度に加熱しないよう、外部より発電機冷却空気25を発電機ケーシング11と発電機ステータ10の間に導入するようになっている。発電機冷却空気25は発電機ステータ10を冷却しながら、発電機ケーシング11と発電機ステータ10の間に設けられた冷却流路を通過し、発電機冷却後空気26として大気中より流入する空気21と合流して(空気21の流量>発電機冷却空気25の流量=発電機冷却後空気26の流量)圧縮機インペラ1へ流入する。
【0050】
本実施例のガスタービン発電設備を着火回転数までモータリング運転で昇速して起動する場合、タービンホイール外径16と圧縮機インペラ外径15の径比が1.15以上の組み合わせでもタービンのポンプ動作に打ち勝って圧縮機からタービン側へ空気を送り込み易くするため、最終的に圧縮機インペラ1へ空気21と供に流入する発電機冷却空気25を圧縮機のアシスト空気として使用し、圧縮機からタービン側へ送り込む空気量を増加する。その際、発電機冷却空気25は、システム全体の圧力バランスが安定な状態での着火回転数に見合った空気流量まで流量が回復するよう、通常より加圧して流量を増加して送り込む。着火後は通常の発電機ステータ10の冷却に必要な流量まで減少しても良いが、着火回転数までシステム全体の圧力バランス不安定により不足する流量分を把握しておき、その不足流量分をアシスト空気として最初から発電機冷却空気25に追加しておけば、着火回転数までは加圧して冷却空気流量を増加するといった冷却空気送付圧力の切替動作が発生しないで済む。
【0051】
なお、本実施例において、アシスト空気として発電機冷却空気25を使用しなくても、外部より圧縮機インペラ1へ直接導入するよう別系統としても良い。
【実施例4】
【0052】
本発明に関わるガスタービン発電設備の起動方法の別の実施例(第4の実施例)について図8を用いて詳細に説明する。本実施例におけるガスタービン発電設備は、数十から数百kWの発電出力を有し、特に発電機を駆動するガスタービン部分に単段の遠心圧縮機と単段の半径流タービンを組み合わせた構造を適用した場合の実施例である。本実施例におけるガスタービン発電設備のガスタービン部分は、その機器構成が図1に示した断面図と同様であり、重複する説明は割愛する。本実施例のガスタービン発電設備は、少流量で着火できる燃焼器や再生熱交換器を備え付ける必要は必ずしも無い。
【0053】
図8に示すように、本実施例のガスタービン発電設備の圧縮機は、圧縮機インペラ入口に直接水噴霧する水噴霧装置12を設置している。本実施例のガスタービン発電設備を着火回転数までモータリング運転で昇速して起動する場合、タービンホイール外径16と圧縮機インペラ外径15の径比が1.15以上の組み合わせでもタービンのポンプ動作に打ち勝って圧縮機からタービン側へ空気を送り込み易くするため、圧縮機インペラ入口へ水噴霧することにより圧縮機効率を改善し、圧縮機の吐出圧力を昇圧する。その際、噴霧する水の量はシステム全体の圧力バランスが安定な状態での着火回転数に見合った空気流量まで流量が回復するまで増加していく。ここで、噴霧する水の量を増加してもシステム全体の圧力バランスが安定化して空気流量が増加する効果が得られなくなった場合は、第3の実施例に述べたようにアシスト空気を圧縮機入口へ導入するなどの手段を補助的に追加して、圧力バランスの安定化を図る。または、第1および第2の実施例に述べたように少流量で着火できる燃焼器を備えておき、着火回転数を定格回転数の25%相当より下げる手段を追加することで着火・起動することもできるが、水噴霧することにより、水噴霧しない場合よりも着火回転数を下げる幅が小さくて済む。
【0054】
ここまで、本発明に関わるガスタービン発電設備のようにタービンホイール外径と圧縮機インペラ外径の径比が1.15以上になると、従来技術の起動方法では起動できないといった内容の説明を述べてきたが、この構造には定格運転時のスラストを小さくできるというメリットも有している。
【0055】
遠心圧縮機と半径流タービンの遠心ターボ機械の組み合わせにより構成するガスタービン発電設備において、タービン入口温度を上げて発電出力を定格に向けて増加していくと、タービンノズルでの高温ガスの加速が促進され、タービンホイール入口の静圧は低下していく。これに対し、圧縮機はタービン入口温度が上がるに連れて設計点に近づくので圧力比が大きくなり、圧縮機インペラ出口の静圧も上昇する。結果として、定格運転時には、タービンホイールから圧縮機インペラ側へ押す方向のスラストが発生することになる。この定格運転時のスラストを小さくするには、タービンホイール外径を大きくすることでタービンホイールの受圧面積を広くすれば良いので、すなわちタービンホイール外径と圧縮機インペラ外径の径比が1.15以上と大きくすることが有効ということになる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、圧縮機インペラとタービンホイールの外径差(タービンホイール外径>圧縮機インペラ外径)を大きくして大容量化を図った場合でも、システム全体の圧力バランスを安定した状態に保ちながら着火・起動できるガスタービン発電設備およびその起動方法を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
1 圧縮機インペラ
2 ディフューザ
3 圧縮機ケーシング
4 圧縮機背板
5 ノズル
6 タービンホイール
7 タービン背板
8 タービンシェル
15 圧縮機インペラ外径
16 タービンホイール外径
31 パイロットバーナ
32 燃焼器ライナー
33 燃焼器エンドカバー
34 燃焼器外筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を圧縮する遠心圧縮機と、該遠心圧縮機により圧縮された空気と燃料とを燃焼する燃焼器と、該燃焼器で発生する燃焼ガスによって駆動される半径流タービンとを備えたガスタービン発電設備の起動方法において、
システム全体の圧力バランスが不安定となる回転数より低い回転数でのモータリング運転時に着火し、タービン本来の動作ができるようになる所定温度までタービン入口温度を上昇させ、システム全体の圧力バランスを安定した状態に保ちながら昇速させることを特徴としたガスタービン発電設備の起動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−2232(P2012−2232A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218843(P2011−218843)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【分割の表示】特願2009−510688(P2009−510688)の分割
【原出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】