説明

ガスバリアフィルム及びその製造方法

【課題】低温で且つ迅速にSiO系セラミックス膜を形成する方法により、効率良くガスバリアフィルムを得て、最終的に得られるセラミックス膜のガスバリア性、耐傷性等の膜特性を向上したガスバリアフィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリ珪素化合物を含有する塗工液をプラスチックフィルム支持体に塗布した後、該塗布されたポリ珪素化合物をVUV光によりセラミックに転化させたガスバリアフィルムであって、該ポリ珪素化合物の下記数式で定義する分散度が、3.00以上20.00以下であることを特徴とするガスバリアフィルム及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリアフィルム及びその製造方法に関し、更に詳しくは、SiO系セラミックス膜を有するガスバリアフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムをはじめとする耐熱性の低い材料にガスバリア性、耐擦傷性等を付与すべく、SiO被覆プラスチックフィルムの開発が進められている。例えばポリシラザンを塗布して実質的にSiOから成るセラミックス膜を低温で且つ迅速に形成することができる技術が開発されている。例えば、プラスチックフィルムの少なくとも片面上にポリシラザンの膜を形成して該膜をセラミックス化する工程を含むことを特徴とするSiO被覆プラスチックフィルムの製造方法が記載されて(例えば、特許文献1参照)いる。ここで用いられているポリシラザンは低温セラミックス化ポリシラザンと呼ばれ、様々なポリシラザン変性物が開示されている。中でも、特に好適な低温セラミックス化ポリシラザンとして金属カルボン酸塩付加ポリシラザンが挙げられ(例えば、特許文献2参照)、さらには該金属がパラジウム(Pd)であるポリシラザン変性物がより好ましいことが記載されている。
【0003】
また、特定のポリシラザン又はその変性物を塗布する前又は塗布した後にこれにアミン化合物及び/又は酸化合物を接触させることを特徴とするプラスチックフィルムにSiO系セラミックスを被覆する方法が記載されて(例えば、特許文献3参照)いる。さらに、このアミン化合物及び/又は酸化合物を接触させる方法として、塗布前にポリシラザン又はその変性物にアミン化合物及び/又は酸化合物を添加する第一の態様と、塗布後にポリシラザン塗膜をアミン化合物及び/又は酸化合物の蒸気に暴露する第二の態様と、そして塗布後にポリシラザン塗膜をアミン化合物及び/又は酸化合物を含む水溶液に浸漬する第三の態様とが記載されている。
【0004】
ポリシラザンの塗膜に紫外線照射を施すことにより、シリカ被膜の形成時における加熱温度を低下し、また加熱時間を短縮できることが記載されて(例えば、特許文献4参照)いる。しかしながら、プラスチックフィルムに適用した場合にガスバリア性が良好なフィルムが得られることは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−112879号公報
【特許文献2】特開平6−299118号公報
【特許文献3】特開平9−18366号公報
【特許文献4】特開平5−105486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低温で且つ迅速にSiO系セラミックス膜を形成する方法により、効率良くガスバリアフィルムを得て、最終的に得られるセラミックス膜のガスバリア性、耐傷性等の膜特性を向上したガスバリアフィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0008】
1.ポリ珪素化合物を含有する塗工液をプラスチックフィルム支持体に塗布した後、該塗布されたポリ珪素化合物をVUV光によりセラミックに転化させたガスバリアフィルムであって、該ポリ珪素化合物の下記数式で定義する分散度が、3.00以上20.00以下であることを特徴とするガスバリアフィルム。
【0009】
分散度=重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn
2.前記ポリ珪素化合物の数平均分子量が300〜2000であることを特徴とする前記1記載のガスバリアフィルム。
【0010】
3.前記ポリ珪素化合物がポリシラザンであることを特徴とする前記1又は2記載のガスバリアフィルム。
【0011】
4.前記ポリ珪素化合物が少なくともポリシラザンとシラン化合物を含むことを特徴とする前記3記載のガスバリアフィルム。
【0012】
5.前記シラン化合物がアミノシラン化合物であることを特徴とする前記4記載のガスバリアフィルム。
【0013】
6.前記シラン化合物が珪素原子に結合するアミノ基を少なくとも2つ含有する多価アミノシラン化合物であることを特徴とする前記5記載のガスバリアフィルム。
【0014】
7.前記1〜6のいずれか1項に記載のガスバリアフィルムが、ポリ珪素化合物を含有する塗工液をプラスチックフィルム支持体に塗布した後、該塗布されたポリ珪素化合物をVUV光によりセラミックに転化させることにより製造されたことを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガスバリア性、耐傷性等の膜特性の向上したガスバリアフィルム及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者は、ガスバリア性を向上させるために、SiO系セラミックス膜を緻密に形成する必要があると考え、分子量の大小により、形成膜の性能が異なることに注目した。その結果、分散度とガスバリア性能に関係があることが分かり本発明を成すに至った。
【0017】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
(ポリ珪素化合物)
本発明に係るポリ珪素化合物とは、珪素を有するポリマーであって、ポリシラン、ポリシラザン、ポリシロキサン等の有機珪素ポリマーを挙げることができる。これらの有機珪素ポリマー中で特に好ましくは、ポリシラザンである。以下、ポリシラザンについて説明する。
【0019】
(ポリシラザン)
本発明に係るポリシラザンは、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0020】
【化1】

【0021】
式中、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはこれらの基以外でケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表すが、R、R及びRの少なくとも1つは水素原子である。
【0022】
本発明に係るポリシラザンは、一般式(1)で表される構造単位からなる主骨格を有する数平均分子量300〜2000のポリシラザンが好ましい。
【0023】
本発明によれば、ポリシラザンを含む塗膜のセラミックス化に紫外線を照射することで膜が緻密になる、耐擦傷性(表面硬度)が高くなる、ガスバリア性が向上する、等、最終的に得られるセラミックス膜の特性が向上する。
【0024】
本発明で用いるポリシラザンは、分子内に少なくともSi−H結合又はN−H結合を有するポリシラザンであればよく、ポリシラザン単独は勿論のこと、ポリシラザンと他のポリマーとの共重合体やポリシラザンと他の化合物との混合物でも利用できる。用いるポリシラザンには、鎖状、環状又は架橋構造を有するもの、あるいは分子内にこれら複数の構造を同時に有するものがあり、これら単独でもあるいは混合物でも利用できる。
【0025】
本発明で用いるポリシラザンの代表例としては下記のようなものがあるが、これらに限定されるものではない。得られる膜の硬度や緻密性の点からはヒドロポリシラザンが好ましく、可撓性の点ではオルガノポリシラザンが好ましい。これらポリシラザンの選択は、当業者であれば用途に合わせて適宜行うことができる。上記一般式(1)でR、R及びRに水素原子を有するものは、ヒドロポリシラザンであり、その製造法は、例えば特公昭63−16325号公報、D.SeyferthらCommunication of Am.Cer.Soc.,C−13,January 1983に報告されている。これらの方法で得られるものは、種々の構造を有するポリマーの混合物であるが、基本的には分子内に鎖状部分と環状部分を含み、下記の化学式で表すことができる。
【0026】
【化2】

【0027】
以下に、ヒドロポリシラザンの構造の一例を示す。
【0028】
【化3】

【0029】
一般式(1)でR及びRに水素原子、Rにメチル基を有するポリシラザンの製造方法は、D.SeyferthらPolym.Prepr.,Am.Chem.Soc.,Div. olym.Chem.,25,10(1984)に報告されている。この方法により得られるポリシラザンは、繰り返し単位が−(SiHNCH)−の鎖状ポリマーと環状ポリマーであり、いずれも架橋構造をもたない。一般式(1)でR及びRに水素原子、Rに有機基を有するポリオルガノ(ヒドロ)シラザンの製造法は、D.SeyferthらPolym.Prepr.,Am.Chem.Soc.,Div.Polym.Chem.,25,10(1984)、特開昭61−89230号公報、同62−156135号公報に報告されている。これらの方法により得られるポリシラザンには、−(RSiHNH)−を繰り返し単位として、主として重合度が3〜5の環状構造を有するものや(RSiHNH)〔(RSiH)1.5N〕1−X(0.4<x<1)の化学式で示される分子内に鎖状構造と環状構造を同時に有するものがある。
【0030】
一般式(1)でRに水素原子、R及びRに有機基を有するポリシラザン、またR及びRに有機基、Rに水素原子を有するものは、−(RSiNR)−を繰り返し単位として、主に重合度が3〜5の環状構造を有している。本発明で用いるポリシラザンは、上記一般式(1)で表される単位からなる主骨格を有するが、一般式(1)で表される単位は、上記にも明らかなように環状化することがあり、その場合にはその環状部分が末端基となる。このような環状化がされない場合には、主骨格の末端はR、R、Rと同様の基又は水素であることができる。
【0031】
ポリオルガノ(ヒドロ)シラザンの中には、D.SeyferthらCommunication of Am.Cer.Soc.,C−132,July 1984.が報告されている様な分子内に架橋構造を有するものもある。一例を下記に示す。
【0032】
【化4】

【0033】
また、特開昭49−69717号公報に報告されている様なRSiX(X:ハロゲン)のアンモニア分解によって得られる架橋構造を有するポリシラザン(RSi(NH)、あるいはRiX及びRSiXの共アンモニア分解によって得られる下記の構造を有するポリシラザンも出発材料として用いることができる。
【0034】
【化5】

【0035】
また、ポリシラザン変性物として、例えば下記の構造(式中、側鎖の金属原子であるMは架橋をなしていてもよい)のように金属原子を含むポリメタロシラザンも出発材料として用いることができる。
【0036】
【化6】

【0037】
その他、特開昭62−195024号公報に報告されているような繰り返し単位が〔(SiH(NH)〕及び〔(SiHO〕(これら式中、n、m、rはそれぞれ1、2又は3である)で表されるポリシロキサザン、特開平2−84437号公報に報告されているようなポリシラザンにボロン化合物を反応させて製造する耐熱性に優れたポリボロシラザン、特開昭63−81122号、同63−191832号、特開平2−77427号公報に報告されているようなポリシラザンとメタルアルコキシドとを反応させて製造するポリメタロシラザン、特開平1−138108号、同1−138107号、同1−203429号、同1−203430号、同4−63833号、同3−320167号公報に報告されているような分子量を増加させたり(上記公報の前4者)、耐加水分解性を向上させた(後2者)、無機シラザン高重合体や改質ポリシラザン、特開平2−175726号、同5−86200号、同5−331293号、同3−31326号公報に報告されているようなポリシラザンに有機成分を導入した厚膜化に有利な共重合ポリシラザンなども同様に使用できる。
【0038】
ポリシラザン含有塗膜の形成前に実施する場合として、ポリシラザン又はその変性物に触媒を添加することにより予め低温化処理を施したポリシラザン(以下、低温セラミックス化ポリシラザン)を使用することができる。このような低温セラミックス化ポリシラザンとして、特開平5−238827号公報に記載されているケイ素アルコキシド付加ポリシラザンが挙げられる。この変性ポリシラザンは、前記一般式(1)で表されるポリシラザンと、下記一般式(2)で表されるケイ素アルコキシドを加熱反応させて得られる。
【0039】
一般式(2) Si(OR
式中、Rは、同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素原子数1〜20個を有するアルキル基またはアリール基を表し、少なくとも1個のRは上記アルキル基またはアリール基である。
【0040】
アルコキシド由来ケイ素/ポリシラザン由来ケイ素原子比が0.001〜3の範囲内かつ数平均分子量が約200〜2000のケイ素アルコキシド付加ポリシラザンが好ましい。上記Rは、炭素原子数1〜10個を有するアルキル基がより好ましく、また炭素原子数1〜4個を有するアルキル基が最も好ましい。また、アルコキシド由来ケイ素/ポリシラザン由来ケイ素原子比は0.05〜2.5の範囲内にあることが好ましい。ケイ素アルコキシド付加ポリシラザンの調製については、上記特開平5−238827号公報を参照されたい。
【0041】
低温セラミックス化ポリシラザンの別の例として、特開平6−122852号公報に記載されているグリシドール付加ポリシラザンが挙げられる。この変性ポリシラザンは、前記一般式(1)で表されるポリシラザンとグリシドールを反応させて得られる、グリシドール/ポリシラザン質量比が0.001〜2の範囲内かつ数平均分子量が約200〜50万のグリシドール付加ポリシラザンである。グリシドール/ポリシラザン質量比は0.01〜1であることが好ましく、さらには0.05〜0.5であることがより好ましい。グリシドール付加ポリシラザンの調製については、(上記特開平6−122852号公報を参照)。
【0042】
低温セラミックス化ポリシラザンの別の例として、特開平6−240208号公報に記載されているアルコール付加ポリシラザンが挙げられる。この変性ポリシラザンは、前記一般式(1)で表されるポリシラザンとアルコールを反応させて得られる、アルコール/ポリシラザン質量比が0.001〜2の範囲内かつ数平均分子量が約100〜50万のアルコール付加ポリシラザンである。上記アルコールは、沸点110℃以上のアルコール、例えばブタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、フルフリルアルコールであることが好ましい。また、アルコール/ポリシラザン質量比は0.01〜1であることが好ましく、さらには0.05〜0.5であることがより好ましい。アルコール付加ポリシラザンの調製については、上記特開平6−240208号公報を参照。
【0043】
低温セラミックス化ポリシラザンのまた別の特に好適な例として、特開平6−299118号公報に記載されている金属カルボン酸塩付加ポリシラザンが挙げられる。この変性ポリシラザンは、前記一般式(1)で表されるポリシラザンと、ニッケル、チタン、白金、ロジウム、コバルト、鉄、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、イリジウム、アルミニウムの群から選択される少なくとも1種の金属を含む金属カルボン酸塩を反応させて得られる、金属カルボン酸塩/ポリシラザン質量比が0.000001〜2の範囲内かつ数平均分子量が約200〜50万の金属カルボン酸塩付加ポリシラザンである。上記金属カルボン酸塩は、式(RCOO)M〔式中、Rは炭素原子数1〜22個の脂肪族基又は脂環式基であり、Mは上記金属群から選択される少なくとも1種の金属を表し、そしてnは金属Mの原子価である〕で表される化合物である。このMがパラジウム(Pd)であることが特に好ましい。上記金属カルボン酸塩は無水物であっても水和物であってもよい。また、金属カルボン酸塩/ポリシラザン質量比は好ましくは0.001〜1、より好ましくは0.01〜0.5である。金属カルボン酸塩付加ポリシラザンの調製については、上記特開平6−299118号公報を参照。
【0044】
低温セラミックス化ポリシラザンのさらに別の例として、特開平6−306329号公報に記載されているアセチルアセトナト錯体付加ポリシラザンが挙げられる。この変性ポリシラザンは、前記一般式(1)で表されるポリシラザンと、金属としてニッケル、白金、パラジウム又はアルミニウムを含むアセチルアセトナト錯体を反応させて得られる、アセチルアセトナト錯体/ポリシラザン質量比が0.000001〜2の範囲内かつ数平均分子量が約200〜50万のアセチルアセトナト錯体付加ポリシラザンである。上記金属を含むアセチルアセトナト錯体は、アセチルアセトン(2,4−ペンタジオン)から酸解離により生じた陰イオンacacが金属原子に配位した錯体であり、一般に式(CHCOCHCOCHM〔式中、Mはn価の金属を表す〕で表される。アセチルアセトナト錯体/ポリシラザン質量比は、好ましくは0.001〜1、より好ましくは0.01〜0.5である。アセチルアセトナト錯体付加ポリシラザンの調製については上記特開平6−306329号公報を参照。
【0045】
他の低温セラミックス化ポリシラザンの例として、特開平7−196986号公報に記載されている金属微粒子添加ポリシラザンが挙げられる。この変性ポリシラザンは、前記一般式(1)で表されるポリシラザンを主成分とするコーティング溶液に、Au、Ag、Pd、Niをはじめとする金属の微粒子を添加して得られる変性ポリシラザンである。好ましい金属はAgである。金属微粒子の粒径は0.5μmより小さいことが好ましく、0.1μm以下がより好ましく、さらには0.05μmより小さいことが好ましい。特に、粒径0.005〜0.01μmの独立分散超微粒子を高沸点アルコールに分散させたものが好ましい。金属微粒子の添加量はポリシラザン100質量部に対して0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部である。金属微粒子添加ポリシラザンの調製については上記特開平7−196986号公報を参照。
【0046】
その他の低温セラミックス化ポリシラザンの例として、特開平9−31333号明細書に記載されているアミン類及び/又は酸類添加ポリシラザンが挙げられる。この変性ポリシラザンは、前記一般式(1)で表されるポリシラザン又はその変性物に、一般式RNで表されるアミン化合物や、ピリジン類、DBU、DBN、等、及び/又は有機酸や無機酸などの酸化合物を添加したものである。アミン化合物の代表例として、下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
【0047】
一般式(3) RN(R)R
式中、R〜Rは、それぞれ水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。アミン化合物の具体例として、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ジヘプチルアミン、トリヘプチルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、フェニルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、等が挙げられる。なお、これらアミン化合物に含まれる炭化水素鎖は、直鎖であっても分枝鎖であってもよい。特に好ましいアミン化合物は、トリエチルアミン、トリペンチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン及びトリオクチルアミンである。
【0048】
アミン化合物のポリシラザンに対する添加量は、ポリシラザン質量に対して1ppm以上であればよく、好ましくは100ppm〜10%である。尚、塩基性度(水溶液中でのpKb値)及び沸点が高いアミン化合物ほど、セラミックス化を促進する傾向がある。また、酸化合物のポリシラザンに対する添加量は、ポリシラザン質量に対して0.1ppm以上であればよく、好ましくは10ppm〜10%である。特に好ましいアミン化合物はトリペンチルアミンであり、また酸化合物はプロピオン酸である。
【0049】
本発明による方法は、ポリシラザンに予め低温化処理を施した上記のような低温セラミックス化ポリシラザンを使用した場合にその効果、即ち膜質の向上が特に顕著となる。とりわけ、本発明では、金属カルボン酸塩付加ポリシラザン又はアミン化合物及び/若しくは酸化合物添加ポリシラザンを使用することが好ましい。
【0050】
(塗布用組成物の調製)
本発明では、上記のようなポリシラザン若しくはその変性物又はその低温セラミックス化ポリシラザンを含む塗布用組成物を調製する。この調製には一般にポリシラザンのための溶剤が用いられる。溶剤としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素の炭化水素溶剤、ハロゲン化メタン、ハロゲン化エタン、ハロゲン化ベンゼン等のハロゲン化炭化水素、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類を使用することができる。好ましい溶剤は、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ブロモホルム、塩化エチレン、塩化エチリデン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、ブチルエーテル、1,2−ジオキシエタン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類、ペンタンヘキサン、イソヘキサン、メチルペンタン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、エチルシクロヘキサン、シクロヘキセン、p−メンタン、リモネン、デカリン、テトラリン、フェニルシクロヘキサン、シクロヘキサン、ノナン、デカン、n−ヘキサン、ペンタン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、等の炭化水素等である。これらの溶剤を使用する場合、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度を調節するために、2種類以上の溶剤を混合してもよい。
【0051】
溶剤の使用量(割合)は採用する塗布方法により作業性がよくなるように選択され、また用いるポリシラザンの平均分子量、分子量分布、その構造によって異なるので、適宜、自由に混合することができる。好ましくは固形分濃度で1〜50質量%の範囲で混合することができる。
【0052】
また、本発明の塗布用組成物において、必要に応じて適当な充填剤及び/又は増量剤を加えることができる。充填剤の例としてはシリカ、アルミナ、ジルコニア、マイカを始めとする酸化物系無機物あるいは炭化珪素、窒化珪素等の非酸化物系無機物の微粉等が挙げられる。また用途によってはアルミニウム、亜鉛、銅等の金属粉末の添加も可能である。これら充填剤は、針状(ウィスカーを含む。)、粒状、鱗片状等種々の形状のものを単独又は2種以上混合して用いることができる。又、これら充填剤の粒子の大きさは1回に適用可能な膜厚よりも小さいことが望ましい。また充填剤の添加量はポリシラザン1質量部に対し、0.05質量部〜10質量部の範囲であり、特に好ましい添加量は0.2質量部〜3質量部の範囲である。塗布用組成物には、必要に応じて紫外線吸収剤、各種顔料、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、pH調整剤、分散剤、表面改質剤、可塑剤、乾燥促進剤、流れ止め剤を加えてもよい。
【0053】
紫外線吸収剤として、紫外線を吸収する物質を添加又は付加することができる。特に、フェニル基やC=C結合を有する物質の添加又は付加が考えられる。具体的には、塗布用組成物にジフェニルビス(t−ブチルペルオキシ)シランなどのフェニル基含有化合物を添加することができる。また、シンナミルアルコール等の反応によりシンナミル基を付加すること、アクリルオキシプロピルジクロロシラン等の反応によりアクリル基を付加すること、或いは、ポリシラザンの主骨格にアクリレートシロキサンを反応させるなどしてアクリル基を付与することが可能である。
【0054】
(シラン化合物)
本発明に係るシラン化合物としては、下記の構造のアルコキシシランが好ましい。
【0055】
Si(OR)
式中、Rは、各々独立に、水素、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはアルキルシリル基を表す。
【0056】
好ましいRは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基及びイソプロペニル基である。中でも特に好ましいアルコキシシランは、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランである。
【0057】
本発明では、下記の構造の有機アルコキシシランを使用してもよい。
【0058】
R′Si(OR)4−n
式中、Rは、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはアルキルシリル基を表し、R′は、各々独立に、上記Rの他、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基またはメルカプト基を表し、そしてnは1〜2の整数である。
【0059】
更に、下記の構造のアルコキシジシランを使用してもよい。
【0060】
R′(RO)3−nSi−R″−Si(OR)3−mR′
式中、Rは、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはアルキルシリル基を表し、R′は、各々独立に、上記Rの他、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基またはメルカプト基を表し、R″は、2価の有機結合基または−O−を表し、nは0〜3、mは0〜3の整数を表すが、但し、n+mは4以下である〕で表されるアルコキシジシランを使用してもよい。このような有機基R′及びR″は、得られる最終のセラミック被膜が所望の膜質(例えば、耐熱性、耐磨耗性、可撓性)を示すように、当業者であれば適宜選択することができる。
【0061】
(アミノシラン化合物)
本発明に係るシラン化合物としては、下記、一般式(4)で表されるモノアミノシラン又は、多価アミノシラン化合物を挙げることができる。
【0062】
(モノアミノシラン化合物)
一般式(4) Si(R)(R)(R)(R
一般式(4)において、R、R、R及びRは、アミノ基、水素原子、炭化水素基、炭化水素オキシ基、アシル基、アシルオキシ基又は炭化水素オキシカルボニル基を示すが、R〜Rのうちの1つのみアミノ基である。
【0063】
モノアミノシラン化合物には、前記一般式(1)において、R〜Rのうちの1つがアミノ基を示す化合物が包含される。
【0064】
(多価アミノシラン化合物)
多価アミノシラン化合物は、分子中に珪素原子(Si)を少なくとも1つ含有し、珪素原子に結合するアミノ基を少なくとも2つ含有するシラン化合物である。本発明で用いる好ましい多価アミノシラン化合物は、上記一般式(4)において、R〜Rのうちの少なくとも2つはアミノ基である。
【0065】
アミノ基は置換又は未置換のアミノ基が包含され、置換基としては、炭化水素基、炭化水素オキシ基、アシル基、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0066】
前記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が包含される。
【0067】
脂肪族炭化水素基には、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基及びシクロアルケニル基が包含される。芳香族炭化水素基には、アリール基及びアリールアルキル基が包含される。これらの脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基は、置換基、例えば、塩素や臭素等のハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、炭化水素オキシ基、アシル基、アシルオキシ基、炭化水素オキシカルボニル基、アミノ基等を含有していてもよい。
【0068】
前記アルキル基には、炭素数1〜50、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜4のアルキル基が包含される。その具体例としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘプチル、ヘキシル、ペンチル、オクチル、デシル、ドデシル、ステアリル、エイコシル、ベヘニル等が挙げられる。
【0069】
前記アルケニル基には、炭素数2〜50、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜4のアルケニル基が包含される。その具体例としては、例えば、ビニル、プロペニイル、ブテニル、ヘキセニル、オクテエニル、ドデセニル等が挙げられる。
【0070】
前記シクロアルキル基には、炭素数3〜50、好ましくは3〜10のシクロアルキル基が包含される。その具体例としては、例えば、シクロヘキシル、シクロオクチル等が挙げられる。
【0071】
前記シクロアルケニル基には、炭素数3〜50、好ましくは3〜10のシクロアルケニル基が包含される。その具体例としては、例えば、シクロヘキセニル、シクロオクテニル等が挙げられる。
【0072】
前記アリール基としては、例えば、フェニル、トリル、ナフチル等が挙げられる。
【0073】
前記アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル、フェネチル、ナフチルメチル等が挙げられる。
【0074】
前記炭化水素オキシ基には、脂肪族炭化水素オキシ基及び芳香族炭化水素オキシ基が包含される。脂肪族炭化水素オキシ基には、鎖状又は環状のアルキルオキシ基が包含され、その炭素数は1〜50、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜4である。脂肪族炭化水素オキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、シクロヘキシルオキシ等が挙げられる。芳香族炭化水素オキシ基には、アリールオキシ基及びアリールアルキルオキシ基が包含される。その具体例としては、例えば、フェニルオキシ、トリルオキシ、ナフチルオキシ等が挙げられる。アリールアルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ、フェネチルオキシ、ナフチルメチルオキシ等が挙げられる。
【0075】
前記アシル基には、脂肪族炭化水素基を有するアシル基及び芳香族炭化水素基を有するアシル基が包含される。脂肪族炭化水素基及び芳香族基としては、前記した各種のものが挙げられる。このようなアシル基の具体例としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ベンゾイル、トルオイル、ナフトイル等が挙げられる。
【0076】
前記アシルオキシ基には、脂肪族炭化水素基を有するアシルオキシ基及び芳香族炭化水素基を有するアシルオキシ基が包含される。脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基としては、前記した各種のものを挙げることができる。アシルオキシ基の具体例としては、例えば、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、トルオイルオキシ基、ナフトイルオキシ基等が挙げられる。
【0077】
前記炭化水素オキシカルボニル基には、脂肪族炭化水素基を有するオキシカルボニル基及び芳香族炭化水素基を有するオキシカルボニル基が包含される。脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基としては、前記した各種のものを挙げることができる。炭化水素オキシカルボニル基の具体例としては、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル、フェニルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル等が挙げられる。
【0078】
本発明において好ましく用いられる多価アミノシラン化合物は、ジアルキルアミノ基を2〜4個含有するシランである。
【0079】
本発明において特に好ましく用いられる多価アミノシラン化合物は、SiH(NMe、SiH(NMe及びSi(NMeである。特に好ましくはSiH(NMeが用いられる。
【0080】
前記珪素原子に結合するアミノ基を少なくとも2つ含有する多価アミノシラン化合物には、アミノ基を1つ含有するモノアミノシラン化合物、例えば、SiHNMeを添加することもできる。本発明で用いる他の珪素化合物は、分子中に少なくとも1つの珪素原子を含有し、珪素原子に結合する水素原子を少なくとも2つ含有する多水素化珪素化合物である。本発明において好ましく用いられる多水素化珪素化合物の一般式を以下に示す。
【0081】
一般式(5) Si(R11)(R12)(R13)(R14
一般式(6) (R17)(R16)(R15)Si−Si(R11)(R12)(R13
式中、R11〜R14及びR15〜R17は、水素原子、炭化水素基、炭化水素オキシ基、アシル基、アシルオキシ基又は炭化水素オキシカルボニル基を示す。一般式(5)において、R11〜R14のうちの少なくとも2つは水素原子を示す。また、一般式(6)において、R11〜R13及びR15〜R17のうちの少なくとも2つは水素原子である。
【0082】
前記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が包含される。
【0083】
脂肪族炭化水素基には、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基及びシクロアルケニル基が包含される。芳香族炭化水素基には、アリール基及びアリールアルキル基が包含される。これらの脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基は、置換基、例えば、塩素や臭素等のハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、炭化水素オキシ基、アシル基、アシルオキシ基、炭化水素オキシカルボニル基、アミノ基等を含有することができる。それらの炭化水素基、炭化水素オキシ基、アシル基、アシルオキシ基及び炭化水素オキシカルボニル基の具体例としては、前記一般式(1)に関して示したものを示すことができる。
【0084】
本発明で好ましく用いられる多水素化珪素化合物を示すと、例えば、SiH、CHSiH、CSiH、n−CSiH、C−−SiH、ClCSiH、HOOC−CSiH、CHO−SiH、HNCHSiH、CH=CHSiH、(CHSiH、(CH)(C)SiH、(CH)(C)SiH、HSi−−SiH、(CH)HSi−SiH、(CH)HSi−SiH−(CH)等が例示される。本発明では、SiH、CHSiH、n−CSiH又はCSiHをより好ましく用いることができる。
【0085】
(分散度)
本発明の分散度とは「数平均分子量Mn」,「重量平均分子量Mw」を用いて以下の式で定義される。
【0086】
分散度=Mw/Mn
数平均分子量は300〜2000程度が好ましく、重量平均分子量としては、250〜100000程度が好ましい。ここで本発明の分散度は3.00以上20.00以下である。分散度が当該範囲であることで緻密なガラス膜が形成できガスバリア性、硬度が向上することを見出した。好ましくは5.00以上15.00以下である。さらに好ましくは8.00以上12.00以下である。
【0087】
ポリ珪素化合物の数平均分子量及び重量平均分子量の測定は、テトラハイドロフラン(THF)をカラム溶剤として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定する。具体的には、測定試料を1mgに対してTHFを1ml加え、室温下にてマグネチックスターラーを用いて撹拌を行い、充分に溶解させる。次いで、ポアサイズ0.45〜0.50μmのメンブランフィルターで処理した後に、GPCへ注入する。GPCの測定条件は、40℃にてカラムを安定化させ、THFを毎分1mlの流速で流し、1mg/mlの濃度の試料を約100μl注入して測定する。カラムとしては、市販のポリスチレンジェルカラムを組合せて使用することが好ましい。又、検出器としては、屈折率検出器(IR検出器)、あるいはUV検出器を用いるとよい。試料の分子量測定では、試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて作成した検量線を用いて算出する。検量線作成用のポリスチレンとしては10点程度用いるとよい。
【0088】
[ガスバリアフィルムの層構成]
本発明のガスバリアフィルムは、少なくともポリ珪素化合物を塗布しVUV光にて硬化させた酸化ケイ素を有する無機層で構成される。
【0089】
本発明のガスバリアフィルムを構成するガスバリア層は、複数層形成してよく、また、複数層形成する場合、ガスバリア層間に有機層を設けても良い。両面に設ける2つのガスバリア層が同一の構成を有するものであっても、異なる構成を有するものであってもよい。
【0090】
本発明の無機層の結晶粒界、ピンホール、ひび割れ(マイクロクラック)等の欠点が少ないアモルファス構造よりガスバリア性能が向上すると推定される。
【0091】
以下において、ガスバリアフィルムを構成するプラスチックフィルムと各層について詳しく説明する。
【0092】
[プラスチックフィルム支持体]
本発明のプラスチックフィルム支持体は平滑層を有するプラスチックフィルム(樹脂フィルムともいう)であることが好ましい。
【0093】
平滑層を有するプラスチックフィルムは、後述のガスバリア性を有するガスバリア層を保持することができる有機材料で形成されたものであれば特に限定されるものではない。
【0094】
例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ナイロン(登録商標)(Ny)、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の各樹脂フィルム、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルム(製品名Sila−DEC、チッソ株式会社製)、更には前記樹脂を2層以上積層して成る樹脂フィルム等を挙げることができる。コストや入手の容易性の点では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などが好ましく用いられ、また、光学的透明性、耐熱性、無機層、ガスバリア層との密着性の点においては、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルムが好ましく用いることができる。支持体の厚みは5〜500μm程度が好ましく、更に好ましくは25〜250μmである。
【0095】
また、本発明のプラスチックフィルム支持体は透明であることが好ましい。支持体が透明であり、支持体上に形成する層も透明であることにより、透明な太陽電池用バックシートとすることが可能となるため、太陽電池素子等の透明基板とすることも可能となるからである。
【0096】
また、上記に挙げた樹脂等を用いたプラスチックフィルム支持体は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。
【0097】
本発明に用いられる支持体は、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の支持体を製造することができる。また、未延伸の支持体を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、支持体の流れ(縦軸)方向、または支持体の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸支持体を製造することができる。この場合の延伸倍率は、支持体の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向および横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
【0098】
また、本発明のプラスチックフィルム支持体においては、ガスバリア膜を形成する前にコロナ処理してもよい。
【0099】
さらに、本発明に係る支持体表面には、ガスバリア膜との密着性の向上を目的としてアンカーコート剤層を形成してもよい。このアンカーコート剤層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等を、1または2種以上併せて使用することができる。これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記のアンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により支持体上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコーティングすることができる。上記のアンカーコート剤の塗布量としては、0.1〜5g/m(乾燥状態)程度が好ましい。
【0100】
(VUV光)
本発明は、ポリ珪素化合物を含む塗膜にVUV光を照射する。このVUV光照射により、基材が加熱され、セラミックス化(シリカ転化)に寄与するOとHOや、紫外線吸収剤、ポリシラザン自身が励起、活性化されるため、ポリシラザンが励起する。その結果、ポリシラザンのセラミックス化が促進され、また得られるセラミックス膜が一層緻密になる。VUV光照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。すなわち、ポリシラザンを含む塗膜形成直後の塗膜乾燥前、塗膜乾燥中、塗膜乾燥後、後述の別の低温化工程前、低温化工程中及び低温化工程後のいずれにおいて実施しても有効である。
【0101】
本発明の方法では、常用されているいずれのVUV光発生装置でも使用することが可能である。本明細書におけるVUV光とは、好ましい態様では150〜400nm、より好ましくは170〜350nmの紫外線が用いられる。
【0102】
紫外線の照射は、照射される塗膜を担持している基材がダメージを受けない範囲で照射強度及び/又は照射時間を設定すべきである。基材としてプラスチックフィルムを用いた場合を例にとると、2kW(80W/cm×25cm)のランプを用い、基材表面の強度が20〜300mW/cm、好ましくは50〜200mW/cmになるように基材−ランプ間距離(例、15cm)を設定し、0.05〜3分間の照射を行うことができる。
【0103】
一般に、紫外線照射処理時の基材温度が150℃以上になると、プラスチックフィルム等の場合には基材が変形したり、その強度が劣化するなど、基材が損なわれる。しかしながら、ポリイミド等の耐熱性の高いフィルムや、シリコンウェハー、ガラス、金属、等の基板の場合にはより高温での処理が可能である。そのような場合でも、本発明によるポリ珪素化合物塗膜のセラミックスに転化する方法は、紫外線照射工程のみでセラミックスへの転化を完了させることができ、またその膜特性を向上させる上で実際に有効である。従って、この紫外線照射時の基材温度に一般的な上限はなく、基材の種類によって当業者が適宜設定することができる。また、紫外線照射雰囲気に特に制限はなく、空気中で実施すればよい。
【0104】
このような紫外線の発生方法としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ(1172nm、222nm、308nmの単一波長、例えば、ウシオ電機(株)製)、UV光レーザー、等が挙げられるが、特に限定されるわけではない。また、発生させた紫外線をポリシラザン塗膜に照射する際には、効率の向上のため均一な照射を達成するためにも、発生源からの紫外線を反射板で反射させてから塗膜に当てることが望ましい。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0106】
実施例1
(プラスチックフィルム支持体)
プラスチックプラスチック支持体として、両面に易接着加工された50μm厚みの、ポリエステルフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、テトロン03)を、170℃で30分アニール加熱処理したものを用いた。
【0107】
(下地層の形成)
続けて上記支持体の片面に、JSR株式会社製 UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR Z7501を塗布、乾燥後の膜厚が4μmになるようにワイヤーバーで塗布した後、乾燥条件;80℃、3分で乾燥後、空気雰囲気下、高圧水銀ランプ使用、硬化条件;1.0J/cm硬化を行い、下地層を形成した。
【0108】
(バリア層の形成)
SAMCO社製UVオゾンクリーナー Model UV−1を用いて照射時の雰囲気を窒素置換しながら、オゾン濃度を300ppmとなるように調整して、80℃5分間の表面処理を行った。
【0109】
前記、下地層表面を表面処理した基板表面に、ポリ珪素化合物含有液として前記一般式(1−1)の化学構造であって、平均分子量は、720、重量平均分子量1200のヒドロポリシラザン10質量%のジブチルエーテル溶液を用い、スピンコート(5000rpm、60秒)にて塗布後、80℃にて10分間乾燥し、ポリ珪素化合物を含有する膜を形成した。その後、MDエキシマ社製のステージ可動型キセノンエキシマ照射装置MODEL:MECL−M−1−200を用いて、照射庫内の雰囲気を窒素と酸素を用いて下記の様に制御しながら、ステージの移動速度を5mm/秒の速さで試料を往復搬送させて、合計5往復照射したのち、試料を取り出しバリア層の膜厚150nmの試料1を得た。
【0110】
本装置は有効照射幅10mmのXeエキシマランプが1本装着されており、ステージ搬送速度10mm/secで搬送した場合、1秒処理/パスに相当する。
【0111】
(条件)
エキシマ光強度:60mW/cm(172nm)
試料と光源の距離:1mm
ステージ加熱温度:100℃
(雰囲気条件)
1〜3往復目:酸素濃度0.05%
4〜5往復目:酸素濃度1.5%
(試料2〜27の作製)
試料1と同様にして、ヒドロポリシラザンを表1に示す分散度のヒドロポリシラザンに変えた以外は、試料1と同様にして、試料2〜27を作製した。
【0112】
(数平均分子量及び重量平均分子量の測定)
数平均分子量及び重量平均分子量は、ポリ珪素化合物溶液をGPC(島津(株)SHIMADZU prominence)を用い測定した。
【0113】
(評価)
加速試験として85℃、90%の環境下50日保存後のサンプルの水蒸気透過率(WVTR)と耐傷性評価としてスチールウール評価を実施した。表1に結果を示した。
【0114】
(水蒸気透過率)
(装置)
蒸着装置:日本電子(株)製真空蒸着装置JEE−400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
(原材料)
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(φ3〜5mm、粒状)
<水蒸気バリア性評価用セルの作製>
真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置 JEE−400)を用い、透明導電膜を付ける前のバリアフィルム試料の蒸着させたい部分(12mm×12mmを9箇所)以外をマスクし、金属カルシウムを蒸着させた。その後、真空状態のままマスクを取り去り、シート片側全面にアルミニウムをもう一つの金属蒸着源から蒸着させた。アルミニウム封止後、真空状態を解除し、速やかに乾燥窒素ガス雰囲気下で、厚さ0.2mmの石英ガラスに封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス製)を介してアルミニウム封止側と対面させ、紫外線を照射することで、評価用セルを作製した。
【0115】
得られた両面を封止した試料を60℃、90%RHの高温高湿下で保存し、特開2005−283561号公報記載の方法に基づき、金属カルシウムの腐食量からセル内に透過した水分量を計算した。セル内に透過した水分量が少ないほど、ガスバリア性に優れていることを示す。
【0116】
5:1×10−5g/m/day未満
4:1×10−5g/m/day以上、1×10−4g/m/day未満
3:1×10−4g/m/day以上、1×10−3g/m/day未満
2:1×10−3g/m/day以上、1×10−2g/m/day未満
1:1×10−2g/m/day以上。
【0117】
(耐擦傷性スチールウールの評価)
#000番、荷重500g、(面積2cm角)100往復の条件で試験し、目視で傷の数を観察し、A〜Eの等級付けをした。
【0118】
評価A:傷なし、
評価B:傷2本以下、
評価C:傷3〜5本、
評価D:傷6〜10本、
評価E:傷11本以上。
【0119】
【表1】

【0120】
表1から、本発明の構成では、水蒸気透過性が少なく、耐傷性が優れていることが分かる。
【0121】
実施例2
前記試料1のヒドロポリシラザンの分散度を表2に示すヒドロポリシラザンに変更した以外は試料1と同様にして試料31〜58を作製し、実施例1と同様の評価を行った。表2に結果を示す。
【0122】
【表2】

【0123】
数平均分子量が300〜2000の水準がより水蒸気透過性が少なく、耐傷性が良いことが分かる。
【0124】
実施例3
前記試料1のヒドロポリシラザンの分散度を表3に示すヒドロポリシラザンに変更し、更に、表3に示すシラン化合物を添加した以外は試料1と同様にして試料61〜80を作製し、実施例1と同様の評価を行った。尚、質量比で、ヒドロポリシラザン1に対して、シラン化合物をそれぞれ0.1添加した。表3に結果を示す。
【0125】
【表3】

【0126】
シラン化合物にて分散度を調整することで水蒸気透過性が少なく、耐傷性が良いことが分かる。特にアミノシラン化合物が良好でさらにアミノ基を少なくとも2つ以上もつ多価アミノシランがもっとも良い結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ珪素化合物を含有する塗工液をプラスチックフィルム支持体に塗布した後、該塗布されたポリ珪素化合物をVUV光によりセラミックに転化させたガスバリアフィルムであって、該ポリ珪素化合物の下記数式で定義する分散度が、3.00以上20.00以下であることを特徴とするガスバリアフィルム。
分散度=重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn
【請求項2】
前記ポリ珪素化合物の数平均分子量が300〜2000であることを特徴とする請求項1記載のガスバリアフィルム。
【請求項3】
前記ポリ珪素化合物がポリシラザンであることを特徴とする請求項1又は2記載のガスバリアフィルム。
【請求項4】
前記ポリ珪素化合物が少なくともポリシラザンとシラン化合物を含むことを特徴とする請求項3記載のガスバリアフィルム。
【請求項5】
前記シラン化合物がアミノシラン化合物であることを特徴とする請求項4記載のガスバリアフィルム。
【請求項6】
前記シラン化合物が珪素原子に結合するアミノ基を少なくとも2つ含有する多価アミノシラン化合物であることを特徴とする請求項5記載のガスバリアフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のガスバリアフィルムが、ポリ珪素化合物を含有する塗工液をプラスチックフィルム支持体に塗布した後、該塗布されたポリ珪素化合物をVUV光によりセラミックに転化させることにより製造されたことを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−106433(P2012−106433A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257661(P2010−257661)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】