説明

ガスバリア性積層フィルム

【課題】水蒸気バリア性および耐久性に優れた、透明なガスバリア性積層フィルムを提供する。
【解決手段】プラスチックフィルムからなる基材層1の少なくとも片面に、アンカー層2と、SiOxCy(xは1.5以上、2.0以下、yは0.05以上、0.5以下)で表される酸化珪素からなるガスバリア層3とが順次形成されたガスバリア性積層フィルムにおいて、基材層の熱膨張係数αs、アンカー層の熱膨張係数αa、ガスバリア層の熱膨張係数αbが、αs>αa>αbの関係にあり、また、基材層の引張弾性率Es、アンカー層の引張弾性率Ea、ガスバリア層の引張弾性率Ebの関係が、Es<Ea<Ebであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、日用品、医薬品などの包装分野、および電子機器関連部材などの分野において、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に、好適に用いられる透明なガスバリア性積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品、日用品、医薬品などの包装に用いられる包装材料や電子機器関連部材などに用いられる包装材料は、収容物の変質を抑制して、その機能や性質を包装中においても保持できるようにするため、包装材料を透過する酸素、水蒸気など、収容物を変質させる気体による影響を防止する必要があり、これらの気体を遮断するガスバリア性を備えていることが求められている。
【0003】
通常のガスバリア性を有する包装材料としては、比較的ガスバリア性に優れている塩化ビニリデン樹脂フィルムまたは塩化ビニリデン樹脂をコーティングしたフィルムなどがよく用いられてきたが、これらの包装材料は、高度なガスバリア性が要求される包装に用いることはできない。従って高度なガスバリア性が要求される場合には、アルミニウムなどの金属箔をガスバリア層として積層した包装材料を用いざるを得なかった。
【0004】
アルミニウムなどの金属箔を積層した包装材料は、温度や湿度の影響が殆どなく、高度なガスバリア性を有している。しかし、こうした包装材料では、それを透視して収容物を確認することができない、使用後に不燃物として廃棄処理しなければならない、収容物の検査に金属探知器が使用できない、などの多くの欠点を有していた。
【0005】
これらの欠点を克服した包装材料として、特許文献1には、透明なプラスチックフィルムからなる基材層に、透明な酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの無機酸化物の蒸着薄膜層をガスバリア層とし、その上に適宜のガスバリア性被膜層とを積層してなる積層フィルムが開示されている。
【0006】
近年、地球温暖化問題に対する関心が高まるなか、太陽電池市場が急速に拡大している。太陽電池の構造としては、太陽電池素子単体をそのままの状態で使用することはなく、一般的に数枚から数十枚の素子を直列、並列に配線し、素子を長期間保護するためにパッケージが行なわれ、ユニット化されている。
【0007】
このパッケージに組み込まれたユニットを太陽電池モジュールと呼び、一般的に太陽光が当たる面をガラスで覆い、熱可塑性プラスチックからなる充填材で隙間を埋め、裏面を耐熱、耐候性プラスチック材料などからなるシートで保護された構成になっている。
【0008】
また、この太陽電池モジュールをフレキシブル化させるべく開発も行なわれており、これを達成するためには太陽光が当たる表面のガラス基板もプラスチック材料などからなるシートに置き換える必要がある。太陽電池モジュールは屋外で利用されるため、太陽電池表面保護シートには透明性の他、十分な耐久性や耐候性が要求される。
【0009】
表面保護シートの耐久性を評価する手法として、加速試験が挙げられる。加速試験とは、太陽電池モジュールが屋外で高温・高湿度に長期間曝されたときの、表面保護シートの性質の変化を短時間で評価するための手法で、プレッシャークッカー試験(PCT)などが知られている。
【0010】
また近年、次世代のFPD(フラットパネル・ディスプレイ)として期待される電子ペーパー、有機ELなどの開発が進むなかで、これらFPDのフレキシブル化を達成するため、ガラス基板をプラスチックフィルムに置き換えたいという要求が高まっている。
【0011】
ガラス基板は環境由来の酸素や水蒸気による内部素子の劣化を抑制するため必要とされるガスバリア性が備わっている。しかし、上述した包装材料用のガスバリアフィルムはそのバリアレベルには達しておらず、プラスチックフィルムが適用され得る電子ペーパー、有機ELなどでは、食品包材用バリアフィルムの100倍から1万倍のガスバリア性が必要とも言われている。
【0012】
このような高いガスバリア性を有するプラスチックフィルムを実現するために、電子ビーム蒸着や誘導加熱蒸着を用いた反応性蒸着法、スパッタリング法、プラズマ化学蒸着(CVD)法などのドライコーティング法により成膜された無機酸化物薄膜は、高いガスバリア性の発現が期待できるものとして検討されている。
【0013】
しかしながら、上記ドライコーティング法を用いたとしても、高いガスバリア性を目指すために緻密な膜を得ようとすると、高温プロセスが必要であったり、緻密であるために膜中の応力が大きくなる傾向がある。そのため、プラスチックフィルムの使用可能な温度範囲では緻密な膜を得ることが困難であったり、プラスチックフィルムと無機酸化物薄膜との熱膨張係数の差が大きいため密着不良やクラックが発生したりする問題が生じ、高いガスバリア性の発現は容易ではない。
【0014】
その中で、有機シラン化合物を用いたプラズマCVD法による酸化珪素薄膜は、高いガスバリア性を発現するバリア層として検討されており、食品包装分野では実用化されている。特許文献2には炭素濃度および、酸化珪素薄膜の組成を制御することで、密着性と透明性が改善するとの報告があるが、水蒸気バリア性は若干劣ると記載されており、高いガスバリア性を必要とする電子ペーパーやLCD(液晶ディスプレイ)、有機ELなどのFPD向けとしては、ガスバリア性が不十分である。
公知文献を以下に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平7−164591号公報
【特許文献2】特開平11−322981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1に記載された積層フィルムは、印刷、ラミネート、製袋などの、包装材料としての通常の加工を施したときに、水蒸気透過度などのガスバリア性が劣化してしまうという欠点を有していた。そのため、本発明の目的は、食品、日用品、医薬品などの包装分野や電子機器関連部材などの分野において、包装材料としての通常の加工を施してもガスバリア性が劣化しない、且つ、高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いることができる透明なガスバリア性積層フィルムを提供することにある。
【0017】
特に、上述した太陽電池モジュールの表面保護シート、電子ペーパーやLCD、有機ELなどのFPD向けとして、耐久性およびガスバリア性が不十分である問題を解決するものであり、水蒸気バリア性および耐久性に優れた、透明なガスバリア性積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の請求項1に係る発明は、プラスチックフィルムからなる基材層の少なくとも片面に、アンカー層と、SiOxCy(xは1.5以上、2.0以下、yは0.05以上、0.5以下)で表される酸化珪素からなるガスバリア層とが順次形成されたガスバリア性積層フィルムにおいて、前記基材層の熱膨張係数αs、前記アンカー層の熱膨張係数αa、前記ガスバリア層の熱膨張係数αbが、αs>αa>αbの関係にあり、また、前記基材層の引張弾性率Es、前記アンカー層の引張弾性率Ea、前記ガスバリア層の引張弾性率Ebの関係が、Es<Ea<Ebであることを特徴とするガスバリア性積層フィルムである。
【0019】
本発明の請求項2に係る発明は、前記ガスバリア性積層フィルムにおいて、前記アンカー層の熱膨張係数αaが20ppm/℃≦αa≦100ppm/℃であり、前記ガスバリア層の熱膨張係数αbが1ppm/℃≦αbであることを特徴とする、請求項1に記載のガスバリア性積層フィルムである。
【0020】
本発明の請求項3に係る発明は、前記ガスバリア性積層フィルムにおいて、前記アンカー層の引張弾性率Eaが0.5GPa≦Ea≦7GPaであり、前記ガスバリア層の引張弾性率EbがEb≦10GPaであることを特徴とする、請求項1または2に記載のガスバリア性積層フィルムである。
【0021】
本発明の請求項4に係る発明は、前記ガスバリア性積層フィルムにおいて、前記アンカー層の厚みが10nm以上、500nm以下であり、前記アンカー層が少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムである。
【0022】
本発明の請求項5に係る発明は、前記ガスバリア性積層フィルムにおいて、前記ガスバリア層の厚みが10nm以上1000nm以下であり、プラズマ化学蒸着(CVD)法により形成されたことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムである。
【0023】
本発明の請求項6に係る発明は、前記ガスバリア性積層フィルムにおいて、400nm〜1000nmにおける分光透過率が85%以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明のガスバリア性積層フィルムは、水蒸気バリア性および耐久性に優れていて、食品、日用品、医薬品などの包装分野や、電子機器関連部材などの分野において、包装材料としての通常の加工を施してもガスバリア性が劣化せず、また包装材料を透視して収容物を確認することができ、また、太陽電池やFPD向けとして特に高いガスバリア性が必要とされる場合にも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のガスバリア性積層フィルムの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のガスバリア性積層フィルムを実施するための形態を、図面に沿って説明する。
図1は、本発明のガスバリア性積層フィルムの一例を示す概略断面図である。基材層1上に、アンカー層2と、ガスバリア層3が順次積層されている。ガスバリア層3は、組成式SiOxCy(x、yは、Siの原子の数を1としたときのそれぞれの原子の数の比で、xは1.5以上2.0以下、yは0.05以上0.5以下)で表される酸化珪素からなっ
ている。
【0027】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材層1は透明なプラスチックフィルムからなっている。透明なプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリエーテルスルフォン、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ乳酸などの生分解性プラスチックフィルム、などが用いられる。
【0028】
これらの透明なプラスチックフィルムは、延伸、未延伸のどちらでもよいが、機械的強度や寸法安定性などが優れたものが好ましい。特に、耐熱性や寸法安定性などの面から、包装材料には二軸方向に延伸したポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられており、さらに高度な耐熱性や寸法安定性が求められるLCDや有機ELなどのFPD向けにはポリエチレンナフタレートやポリエーテルスルフォン、ポリカーボネートなどが好ましく用いられている。
【0029】
また、透明なプラスチックフィルムは、帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤等などの添加剤を含有してもよい。さらに、透明なプラスチックフィルムにおいて、他の層を積層する側の表面には、密着性をよくするために、コロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理、溶剤処理などを施してもよい。
【0030】
これらの透明なプラスチックフィルムからなる基材層1の厚さは、特に制限を受けるものではないが、包装材料としての適性や他の層を積層する場合の加工適性などを考慮すると、実用的には3μm以上200μm以下の範囲、特に6μm以上30μm以下の範囲であることが好ましく、太陽電池、電子ペーパーや有機ELなどのFPD向けとしては、加工適正などを考慮すると、実用的には25μm以上200μm以下の範囲であることが好ましい。
【0031】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおけるアンカー層2は、基材層1上に形成されるものであり、プラスチックフィルムからなる基材1と、後述する酸化珪素からなるガスバリア層3との密着を高め、さらにガスバリア性を向上する機能を発現する。
【0032】
プラスチックフィルムからなる基材層1と、後述する酸化珪素からなるガスバリア層3は熱膨張係数の差が大きく、ガスバリア性積層フィルムに包装材料として熱加工を施した場合、また太陽電池用部材として高温環境下で使用された場合など、ガスバリア層や層界面にクラックが発生しガスバリア性や密着が低下する恐れがある。そこでアンカー層2の熱膨張係数αaを、基材層1の熱膨張係数αsより小さく、ガスバリア層3の熱膨張係数αbより大きくすることで、膨張係数が緩やかに変化しクラックの発生を抑制することが可能となる。またこのとき、アンカー層2の熱膨張係数および湿度膨張係数は、基材層1のそれらおよびガスバリア層3のそれらの値の中間程度であることが好ましい。
【0033】
アンカー層2の熱膨張係数を上記の範囲に調整するため、フィラーなどの添加物を用いたり、後述するポリオール類とイソシアネート化合物の配合比を調整したりしてもよい。上述の熱膨張係数は、熱機械分析装置(TMA)を用いて測定することができる。
【0034】
またプラスチックフィルムからなる基材層1と、後述する酸化珪素からなるガスバリア層3は引張弾性率の差が大きく、ガスバリア積層フィルムに包装材料として機械加工を施した場合に層界面からクラックが発生し密着が低下したり、基材層1の変形に追随できずバリア層3にクラックが発生するなどの恐れがある。
【0035】
そこでアンカー層2の引張弾性率Eaを、基材層1の引張弾性率Esより大きく、ガスバリア層3の引張弾性率Ebより小さくすることで、引張弾性率が緩やかに変化し、また基材1の変形から受ける応力を吸収し、クラックの発生を抑制することが可能となる。
【0036】
またこのとき、アンカー層2の引張弾性率は、基材層1およびガスバリア層3の引張弾性率の値の中間程度であることが好ましい。アンカー層の引張弾性率を上記の範囲に調整するため、フィラーなどの添加物を用いたり、後述するポリオール類とイソシアネート化合物の配合比を調整したりしてもよい。
【0037】
上述の引張弾性率は、引張り試験によりプラスチック基材およびアンカー層が形成されたプラスチック基材の荷重−ひずみを測定し、プラスチック基材の影響を取り除くことで求めることができる(JIS−K7115)。
【0038】
アンカー層2の膜厚は10nm以上500nm以下であることが好ましい。膜厚が10nm未満であると均一な膜形成が困難であり、ガスバリア性や密着性が低下する恐れがある。また500nmを超えるとガスバリア性積層体の光学特性を制御することが困難となる。基材1の変形から受ける応力を吸収し、ガスバリア層3のクラック発生を抑制するために、アンカー層の膜厚は50nm以上200nm以下であることがより好ましい。
【0039】
アンカー層は、少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を含む組成物を塗布し、反応させて形成することができる。
【0040】
ポリオール類とは、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリビニルアセタールなど、末端にヒドロキシル基を複数持つ高分子化合物であり、後述するイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しウレタン結合が生成するものである。イソシアネート化合物との反応を考慮すると、ポリオール類のヒドロキシル価は5〜200KOHmg/gの間であることが好ましい。
【0041】
イソシアネート化合物は、末端にイソシアネート基を2個以上有し、前記ポリオール類と反応してできるウレタン結合により、基材層1やガスバリア層2との密着性を高めるために添加されるものである。一般にTDI(トリレンジイソシアネート)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、XDI(キシリレンジイソシアネート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)などやそれらのアダクト体、ヌレート体を用いることができ、さらに末端イソシアネート基のウレタンポリマーのようなものでもよい。イソシアネート化合物は、イソシアネート化合物由来のイソシアネート基とポリオール類由来のヒドロキシル基が当量となるように添加することが好ましく、添加方法は周知の方法が使用可能で特に限定されるものではない。
【0042】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、アンカー層2は、ポリオール類とイソシアネート化合物を任意の配合比で混合した混合液を調製し、混合液を基材層1にコーティングして形成する。混合液は溶媒を加え、任意の濃度に希釈してもよい。
【0043】
アンカー層2は、周知のコーティング方法、例えばディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、エアナイフコート法、コンマコート法などを用いて基材層1の片面もしくは両面にコーティングし、その後溶媒などを除去し、コーティング膜を乾燥・硬化させることで得ることができる。
【0044】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、ガスバリア層3はSiOxCy(xは1.5以上2.0以下、yは0.05以上0.5以下)で表される酸化珪素からなり、その熱膨張係数αbは1ppm/℃≦αbであり、引張弾性率EbはEb≦10GPaであることが好ましい。
【0045】
熱膨張係数が小さいほど温度変化に対する変形が抑えられるが、アンカー層2との熱膨張係数差が大きくなると、ガスバリア性積層フィルムに包装材料として熱加工を施した場合、また太陽電池用部材として高温環境下で使用された場合など、ガスバリア層や層界面にクラックが発生しガスバリア性や密着が低下する恐れがある。また引張弾性率が高いほど変形しがたい膜となるが、柔軟性に欠けるためガスバリア層自体の内部応力によってクラックが発生しガスバリア性が低下したり、アンカー層2との密着低下が起きたりするという問題がある。
【0046】
ガスバリア層3の熱膨張係数および引張弾性率を上記の範囲に調整するため、酸化珪素に含まれる炭素成分を変化させる方法が有効である。ガスバリア層に柔軟性を与えるため、SiOxCyにおいてyは0.05以上であることを必要とする。0.1以上であることがより好ましい。
【0047】
一方、ガスバリア層3の炭素成分が多いほど柔軟な膜となりクラックは発生し難いが、炭素成分の増加に伴い透明性が低下するため、透明性が求められる電子ペーパーや有機ELなどのFPD向けのプラスチック基材では、上記ガスバリア層3の炭素成分を増やし過ぎないようにする必要があり、yを0.5以下にすることが必要である。より高い透明性が求められる場合にはyを0.3以下にすることが好ましい。
【0048】
また、本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、yはガスバリア層3の層内で異なる値にしても問題なく、例えば、ガスバリア層3の深さ方向において、このyを大きくしたり、また反対に小さくしたりすることもできる。
【0049】
また、SiOxCyで表されるガスバリア層3の酸素成分に関しては、xを2に近づけることで一般的に透明性が向上する傾向があり、また、反対にxを2から小さくしていくことで、ガスバリア性が向上する傾向がある。
【0050】
すなわち、xは2より大きくなり過ぎると透明性およびガスアリア性の両方に悪影響を及ぼすため、2.0以下であることが必要である。より効率的に高い透明性と高いガスバリア性を両立して発現させるためには、1.9以下であることが好ましい。
【0051】
また、xは1.5より小さいと透明性の低下が著しくなり、透明性が求められる電子ペーパーや有機ELなどのFPD向けのプラスチック基材には不向きであるため、xは1.5以上であることが好ましく、より高い透明性が求められる場合にはxを1.6以上にすることが好ましい。
【0052】
従って、酸素成分の組成比を示すxの範囲は1.5以上2.0以下となるが、このようなxの範囲のなかで、高い透明性および高いガスバリア性を両立して発現するためには、xが1.6以上1.9以下であることが望ましい。
【0053】
また、本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、xはガスバリア層3の層内で異なる値にしても問題なく、例えば、ガスバリア層3の深さ方向において、このxを大きくしたり、また反対に小さくしたりすることもできる。
【0054】
またガスバリア層3の膜厚は10nm以上100nm以下であることが好ましい。膜厚が10nm未満であるとガスバリア材としての機能を十分に果たすことができず、また100nmを超えるとガスバリア層3にクラックが生じやすくなる他、ガスバリア性積層体の光学特性を制御することが困難となる。
【0055】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、ガスバリア層3の形成方法は、特に限定されるものではないが、基材層1の表面に、酸化珪素からなるガスバリア層3を真空中において成膜して、高いガスバリア性を発現させるためには、現時点ではプラズマ化学蒸着(CVD)法が好ましく、上記プラスチックフィルムからなる基材層の片面もしくは両面に成膜することができる。
【0056】
また、プラスチック基材の特徴を活かした巻取式による連続蒸着を行うことができ、巻取式の真空蒸着成膜装置を用いることが好ましい。また、プラズマ発生装置としては、直流(DC)プラズマ、低周波プラズマ、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、3極構造プラズマ、マイクロ波プラズマなどの低温プラズマ発生装置が用いられる。
【0057】
プラズマCVD法により積層される酸化珪素からなるガスバリア層3は、分子内に炭素を有するシラン化合物と酸素ガスを原料として成膜することができ、この原料に不活性ガスを加えて成膜することもできる。分子内に炭素を有するシラン化合物としては、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラメチルシラン(TMS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン、メチルトリメトキシシランなどの比較的低分子量のシラン化合物を選択し、これらシラン化合物の1つまたは、複数を選択しても良い。
【0058】
プラズマCVD法による成膜では、上記シラン化合物を気化させ酸素ガスと混合したものを電極間に導入し、低温プラズマ発生装置にて電力を印加してプラズマ化し、上記アンカー層2に積層することができる。また、プラズマCVD法では、酸化珪素からなるガスバリア層3の膜質を様々な方法で変えることが可能であり、ガスバリア層3の酸素成分や炭素成分の組成比を増減させることが比較的容易にでき、例えば、シラン化合物やガス種の変更、シラン化合物と酸素ガスの混合比や、印加電力の増減などがその有効な手法となる。
【0059】
本発明のガスバリア積層フィルムを太陽電池モジュールの表面保護シートやFPD向けに用いる場合、高い光透過性が求められるため、ガスバリア性積層フィルムの400nm〜1000nmにおける分光透過率は85%以上であることが好ましく、また90%以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0061】
<実施例1>
基材層1として、厚さ25μm、熱膨張係数が100ppm/℃、引張弾性率が1GPaのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。次に、アクリルポリオールのヒドロキシル基に対しヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のイソシアネート基が1当量となるように混合し、シリカフィラーを0.1wt%の割合で添加したアンカー混合液を作成した。このアンカー混合液をフィルムの片面にグラビアコート法によりコーティングし、乾燥・硬化させ厚さ50nmのアンカー層2を形成した。
【0062】
このとき、アンカー層2の熱膨張係数は60ppm/℃、引張弾性率は4GPaであった。続いてプラズマCVD法を用い、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)/酸素=10sccm/100sccmの流量比の混合ガスを電極間に導入し、電力を0.5kW印加してプラズマ化し、アンカー層2上にSiOxCy(x=1.8,y=0.05)で表される厚さ60nmのガスバリア層3を積層した。
【0063】
このとき、ガスバリア層3の熱膨張係数は20ppm/℃、引張弾性率は7GPaであった。次に、ガスバリア層3の表面に、塗布量(ドライ)が5g/mのポリウレタン系の接着剤を介して、厚さ50μmのPETフィルムをドライラミネート法により積層した。こうして実施例1のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0064】
<実施例2>
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、アンカー層2の厚さを100nmとした以外は、実施例1と同様にして実施例2のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0065】
以下に本発明の比較例について説明する。
【0066】
<比較例1>
実施例1と同じ基材層1上に、アンカー層2は積層しないで、実施例1と同じSiOxCy(x=1.8,y=0.05)で表される酸化珪素からなるガスバリア層3のみを積層し、次に、ガスバリア層3の表面に、塗布量(ドライ)が5g/mのポリウレタン系の接着剤を介して厚さ50μmのPETフィルムをドライラミネート法により積層した。こうして比較例1のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0067】
<比較例2>
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、アクリルポリオールのヒドロキシル基に対しヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のイソシアネート基が0.8当量となるように混合し、シリカフィラーを加えないアンカー混合液を基材層1上にコーティングし、熱膨張係数が100ppm/℃、引張弾性率が2GPaのアンカー層2を形成した。それ以外は実施例1と同様にして比較例2のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0068】
<比較例3>
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、アクリルポリオールのヒドロキシル基に対しヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のイソシアネート基が0.6当量となるように混合し、シリカフィラーを0.05wt%の割合で添加したアンカー混合液を基材層1上にコーティングし、熱膨張係数が80ppm/℃、引張弾性率が1GPaのアンカー層2を形成した。それ以外は実施例1と同様にして比較例3のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0069】
<評価方法>
以下に評価方法について説明する。
【0070】
1.水蒸気透過度
実施例1、2および比較例1、2、3のガスバリア性積層フィルムについて、モダンコントロール社製の水蒸気透過度計(MOCON PERMATRAN−W 3/31)により、40℃90%RH雰囲気下での水蒸気透過度(g/m/24h)を測定した。またゲルボフレックス試験(20回屈曲、温度20℃、湿度65%RH条件下)を行い、試験後のガスバリア性積層フィルムについても同様に水蒸気透過度を測定した。
【0071】
2.ラミネート強度
実施例1、2および比較例1、2、3のガスバリア性積層フィルムから15mm幅にスリットした試験片について、テンシロン型万能試験機により、ラミネート強度(N/15mm)を測定した(JIS−K6854−1:90度はく離)。また積層フィルムのプレッシャークッカー試験(PCT)(105℃100%RH下で96時間保存)を行い、PCT後のガスバリア性積層フィルムについてもラミネート強度を同様に測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

<比較結果>
表1からわかるように、実施例1、2のガスバリア性積層フィルムは低い水蒸気透過度であり、ゲルボフレックス試験後も水蒸気透過度は劣化していなかった。さらにラミネート強度に関しても、PCT後に劣化は見られなかった。
【0073】
一方、アンカー層を積層していない比較例1のガスバリア性積層フィルムは、ゲルボフレックス試験後およびPCT後に水蒸気透過度およびラミネート強度が大幅に劣化していた。
【0074】
またアンカー層の熱膨張係数が基材層と同程度である比較例2のガスバリア性積層フィルムは、PCT後にラミネート強度が劣化し、アンカー層の引張弾性率が基材層と同程度である比較例3のガスバリア性積層フィルムは、ゲルボフレックス試験後に水蒸気透過度が劣化していた。比較例1、2、3のガスバリア性積層フィルムを光学顕微鏡で観察した結果、ガスバリア層にクラックが発生していることが確認された。
【符号の説明】
【0075】
1・・・基材層
2・・・アンカー層
3・・・ガスバリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムからなる基材層の少なくとも片面に、アンカー層と、SiOxCy(xは1.5以上、2.0以下、yは0.05以上、0.5以下)で表される酸化珪素からなるガスバリア層とが順次形成されたガスバリア性積層フィルムにおいて、前記基材層の熱膨張係数αs、前記アンカー層の熱膨張係数αa、前記ガスバリア層の熱膨張係数αbが、αs>αa>αbの関係にあり、また、前記基材層の引張弾性率Es、前記アンカー層の引張弾性率Ea、前記ガスバリア層の引張弾性率Ebの関係が、Es<Ea<Ebであることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項2】
前記ガスバリア性積層フィルムにおいて、前記アンカー層の熱膨張係数αaが20ppm/℃≦αa≦100ppm/℃であり、前記ガスバリア層の熱膨張係数αbが1ppm/℃≦αbであることを特徴とする、請求項1に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項3】
前記ガスバリア性積層フィルムにおいて、前記アンカー層の引張弾性率Eaが0.5GPa≦Ea≦7GPaであり、前記ガスバリア層の引張弾性率EbがEb≦10GPaであることを特徴とする、請求項1または2に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項4】
前記ガスバリア性積層フィルムにおいて、前記アンカー層の厚みが10nm以上、500nm以下であり、前記アンカー層が少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項5】
前記ガスバリア性積層フィルムにおいて、前記ガスバリア層の厚みが10nm以上1000nm以下であり、プラズマ化学蒸着(CVD)法により形成されたことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項6】
前記ガスバリア性積層フィルムにおいて、400nm〜1000nmにおける分光透過率が85%以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−166499(P2012−166499A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30696(P2011−30696)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】