説明

ガスバリア性積層体およびその製造方法

【課題】包装袋としての酸素バリア性に優れ、金属探知機の使用が可能であり、紙として廃棄可能なガスバリア積層体を得ることを可能とする。
【解決手段】紙支持体上に水溶性高分子と無機層状化合物を含むガスバリア層を少なくとも1層設けたガスバリア性積層体であって、前記ガスバリア層中にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを含有させたガスバリア性積層体である。また、前記水溶性高分子の溶解時に前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを昇温前および/または昇温中に添加するガスバリア性積層体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品類を包装する包装用素材であり、特に酸素と反応して酸化や劣化を引き起こす可能性のある内容物を包装するための包装材料であり、なおかつ金属探知機が使用でき、使用後に紙として分別処理可能な包装材料を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品は酸素と接触すると、食品に含まれる油のような成分が酸素と反応(酸化)して、食品の味が変わったり、変色を引き起こす。そのため、多くの食品はガスバリア性(特に酸素バリア性)を有する包装材料で包装されている。従来、このような包装材料として、OPP(二軸延伸ポリプロピレン)にポリ塩化ビニリデン(以後、PVDCと略す)やPVA層を設けたガスバリアフィルムやPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムやナイロンフィルム上にシリカやアルミナの無機酸化物層あるいはアルミニウムの金属層を設けたガスバリアフィルム、紙基材とアルミ箔あるいは紙基材と前記ガスバリアフィルムを貼合したガスバリア性積層体がある。紙を基材として使用したガスバリア積層体は、優れた印刷適性、適度な剛度、高級感などといった特徴があり、包装材料として幅広く使用されている。
【0003】
しかし、アルミ箔やアルミ蒸着層を有するフィルムと紙基材を貼合すると、金属を含むため、食品包装後の異物検査のための金属探知機が使用できないといった問題がある。また、金属を含むため紙として焼却処理できず、古紙としても再利用できない。一方で、PVAやPVDC、あるいは無機酸化物などのガスバリア層を有するフィルムを使用するとコストが高くなるばかりか、フィルムと紙の積層体は包装適性や加工適性に劣る場合が多い。紙基材のガスバリア積層体のほとんどはアルミ箔と紙基材の積層体が使用されているのが現状である。一方、紙基材表面にポリビニルアルコール樹脂を用いたガスバリア層を形成する技術が従来から提案されている。特許文献1にはポリビニルアルコールと無機層状化合物を紙基材上に設ける方法が提案されている。特許文献2には、特許文献1と同様に、紙状物層と、前記紙状物層上に無機層状化合物を有する樹脂組成物層とを備えている包装用積層紙が提案されている。特許文献3には、紙の少なくとも一面に、水溶性高分子化合物100重量部に対し、層状無機化合物を0.01〜200重量部含有する樹脂組成物の層を有する紙複合体が提案されている。特許文献4には、エチレン含有量1〜15モル%のエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物(A)、エチレン含有量15〜70モル%のエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物(B)および無機層状化合物(C)からなる樹脂組成物が提案されている。特許文献5には、被覆層1、バリア層2および紙基材3からなる積層体において、バリア層2が紙または二軸延伸フィルムの基材Bおよびエチレン含有率0〜15モル%のビニルアルコール系重合体の層Aからなる積層体が提案されている。特許文献6には、紙支持体上に水溶性高分子および無機層状化合物を含む第1ガスバリア層と第2ガスバリア層とを、この順で設けたガスバリア性積層体において、第1ガスバリア層中の水溶性高分子と無機層状化合物との質量比が75/25〜50/50であり、かつ、第2ガスバリア層中の水溶性高分子と無機層状化合物との質量比が95/5〜75/25であるガスバリア性積層体が提案されている。特許文献7には、紙支持体上に水溶性高分子と無機層状化合物と合成樹脂とを含むガスバリア層を設けたガスバリア性積層体において、水溶性高分子100質量部に対して、無機層状化合物が10〜150質量部、合成樹脂が5〜100質量部であるガスバリア性積層体が提案されている。特許文献8には、紙支持体上にエチレン変性ポリビニルアルコール樹脂と無機層状化合物を含む第1のガスバリア層と、エチレン変性ポリビニルアルコールからなる第2のガスバリア層を順次設けるガスバリア性積層体が提案されている。しかし、このようなポリビニルアルコール系樹脂からなるガスバリア積層体は、塗工時に塗工欠陥が生じるとガスバリア性が低下してしまう問題がある。
【0004】
一般にポリビニルアルコール等の水溶性高分子は、溶解時の加熱工程中に泡立ちやすく、また発生した泡が消え難く、タンク液面が上昇し、溶解液が溢れるおそれがあるため、溢れを防ぐために溶解量を減らす対応が必要となり、作業効率が低下してしまう。さらに、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を主成分とする塗料は泡立ちやすく、泡が塗工面にのることにより塗工欠陥を生じたり、泡立ちが酷い場合は、塗りムラを生じさせることによりガスバリア性を低下させてしまうことがある。
【0005】
塗料の起泡を改善する目的で消泡剤を添加することは各種塗工紙用塗料で提案されている。例えば、インクジェット記録紙用塗料では、ポリビニルアルコール系塗料に脂肪酸エステル系、エーテル系、金属石鹸系、シリコーン系消泡剤を添加する方法(特許文献9)、ポリビニルアルコール系塗料に疎水性シリカ系消泡剤を添加する方法(特許文献10)等が挙げられる。
これら消泡剤を添加することにより塗料の泡立ちは抑制されるものの、消泡剤自体が塗工面上で疎水性部分を形成し、ガスバリア積層体塗料の非塗工部分(所謂ハジキ)を発生させて、ガスバリア性を損ねてしまうおそれがあるため、これら消泡剤をガスバリア積層体塗料に応用しても満足なガスバリア性が得られないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−129381号公報
【特許文献2】特開平11−309817号公報
【特許文献3】特開平13−214396号公報
【特許文献4】特開平14−069255号公報
【特許文献5】特開平15−094574号公報
【特許文献6】特開2007−216592号公報
【特許文献7】特開2007−216593号公報
【特許文献8】特開2009−184138号公報
【特許文献9】特開平11−277877号公報
【特許文献10】特開2009−84404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂の溶解時の起泡を抑えて操業性低下を防止し、またガスバリア性塗料の塗工時に、塗料の起泡による操業性低下を防止し、表面欠陥の発生を抑えることによって優れたガスバリア性を有するガスバリア性積層体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ガスバリア塗工層塗料中に特定の構造のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを添加することにより、水溶性高分子溶解時の起泡による操業性低下を抑え、また塗工時の塗料の起泡による操業性低下を防止し、表面欠陥の発生を抑えることによって優れたガスバリア性が発現することを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下の各発明を包含する。
【0009】
(1)紙支持体上に水溶性高分子と無機層状化合物を含むガスバリア層を少なくとも1層設けたガスバリア性積層体であって、前記ガスバリア層中にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを含有させたガスバリア性積層体。
【0010】
(2)紙支持体上に水溶性高分子と無機層状化合物を含む第1のガスバリア層と、水溶性高分子を主成分とする第2のガスバリア層を順次設け、前記第1のガスバリア層および/または第2のガスバリア層にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを含有させたガスバリア性積層体。
【0011】
(3)前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーがポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーである(1)または(2)に記載のガスバリア性積層体。
【0012】
(4)前記水溶性高分子がポリビニルアルコール系樹脂である(1)〜(3)のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【0013】
(5)前記水溶性高分子100質量部に対してポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを0.01〜1.0質量部含有させた(1)〜(4)のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【0014】
(6)前記ポリビニルアルコール系樹脂がエチレン変性ポリビニルアルコールである(4)に記載のガスバリア性積層体。
【0015】
(7)前記水溶性高分子と無機層状化合物の質量比が99:1〜50:50である(1)〜(6)のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【0016】
(8)前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーがポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマーである(3)に記載のガスバリア性積層体。
【0017】
(9)前記水溶性高分子の溶解時において、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを昇温前および/または昇温中に添加するガスバリア性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、水溶性高分子の溶解作業を高効率化し、またガスバリア層塗料の塗工時に、塗料の起泡による操業性低下を防止し、表面塗工欠陥の発生を抑えることによって、優れたガスバリア性積層体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明において少なくとも1層のガスバリア層中にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを含有させることを特徴とする。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーについては各種のブロックポリマーが知られているが、本発明ではポリビニルアルコール樹脂等の水溶性高分子に対する抑泡性の点から該ブロックポリマーとしてポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーを使用することが好ましい。なかでも、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマーがポリビニルアルコール樹脂等の水溶性高分子の溶解時の起泡やガスバリア層塗料の塗工時の起泡を効果的に抑制するので特に好ましい。具体的には、例えば東邦化学社製「ペポールB」シリーズ、第一工業製薬社製「エパン」シリーズ等が挙げられる。
【0020】
本発明においてガスバリア層に添加されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーの添加量としては水溶性高分子100質量部に対して0.01〜1.0質量部添加することが好ましく、より好ましくは、0.05〜0.5質量部である。
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーの添加量が0.01質量部未満の場合、満足な消泡効果が得られないおそれがある。また、1.0質量部を超える場合は、塗工面にハジキを発生させてガスバリア性が低下するおそれがある。
【0021】
本発明において用いられる水溶性高分子としては、例えばデンプンおよびその誘導体、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ウレタン系樹脂、ポリアクリル酸およびその塩、カゼイン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール系樹脂、変性ポリビニルアルコール系樹脂等が例示することができる。
なかでも、未変性の完全ケン化ポリビニルアルコール系樹脂、部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂や変性ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。変性ポリビニルアルコールとしては、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、珪素変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、ジアセトン基変性ポリビニルアルコール等が挙げられるが、エチレン変性ポリビニルアルコール(例えば、商品名:「エクセバール」シリーズ、(株)クラレ製)はガスバリア性が優れるため、特に好ましい。
【0022】
本発明ではポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーは水溶性高分子の溶解時において、昇温前および/または昇温中に添加することにより、水溶性高分子溶解時の起泡を抑制でき、また加温により消泡効果が損なわれることはないため好ましい。もちろん溶解後の高分子水溶液やガスバリア層塗料へ直接添加し、塗工時の抑泡効果を得ることもできる。
【0023】
ポリビニルアルコール系樹脂のような水溶性高分子とモンモリロナイトのような膨潤性無機層状化合物を混合した水性塗料を紙支持体上に塗工してバリア層を形成すると、無機層状化合物の曲路効果により、バリア性が大幅に向上する。しかし、高いバリア性を発揮するためには、無機層状化合物の配合量を増やさなければならないが、無機層状化合物がある一定量以上になると、バリア層の密着強度や塗膜強度が大幅に低下することを本発明者は見出した。ここでいうバリア層の密着強度とは、バリア層とシーラント層を積層した時のバリア層とシーラント層の密着強度をいう。密着強度が弱いと、包装後のヒートシール強度が弱くなるばかりでなく、シーラント層とバリア層の界面に空隙ができ、その部分を空気が透過して、包装袋としての酸素バリア性が大幅に低下することが判明した。
【0024】
そこで、本発明では紙基材表面にポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性高分子と無機層状化合物を含むガスバリア層を少なくとも1層設けることや、ポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性高分子と無機層状化合物を含む第1のガスバリア層と、ポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性高分子からなる第2のガスバリア層を順次設けることで、バリア層とシーラント層との密着強度を改善させている。
【0025】
第1のガスバリア層には、ポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性高分子に加えてスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスやアクリル酸アルキルエステル−スチレン共重合体エマルジョンなどの合成樹脂が含まれてもかまわない。
【0026】
第2のガスバリア層は、ポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性高分子を主体として構成されるが、その効果を妨げない範囲で、必要に応じて各種合成樹脂等を添加することが可能である。添加して使用可能な合成樹脂としては、前記の第1のガスバリア層で使用可能なものが同様に使用できる。なお、本発明において、無機層状化合物は、ポリオレフィン系基材との密着を妨げるので、第2のガスバリア層には添加しない。
【0027】
本発明において、塗膜強度を改良する目的で、ガスバリア層に水素結合性基用架橋剤を添加することができる。
【0028】
本発明で使用可能な水素結合性基用架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、チタン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、メラミン系カップリング剤、エポキシ系カップリング剤、イソシアネート系カップリング剤、銅化合物、ジルコニウム化合物、ホウ素化合物、コロイダルシリカなどが挙げられ、この中でも、ジルコニウム化合物、ホウ素化合物がより好適に用いられる。ジルコニウム化合物の具体例としては、例えば、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム(IV)、臭化ジルコニウム等のハロゲン化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムなどの鉱酸のジルコニウム塩、蟻酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、カプリル酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウムなどの有機酸のジルコニウム塩、炭酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、酢酸ジルコニウムアンモニウム、蓚酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウムなどのジルコニウム錯塩などが挙げられる。
【0029】
なお、前記ガスバリア層には、濡れ剤、染料、色合い調整剤、増粘剤などが必要に応じて含まれてもかまわない。
【0030】
本発明において水溶性高分子と無機層状化合物を含むガスバリア層の塗工量は0.5〜5.0g/mであることが好ましい。塗工量が0.5g/m未満であると、酸素バリア性が低下したり、塗膜強度が低下するおそれがある。5g/mを超えると密着強度や塗膜強度が低下するおそれがあり、好ましくない。
また、第1のガスバリア層の塗工量は0.1〜3.0g/mが好ましく、0.5〜2.5g/mがさらに好ましい。第1のガスバリア層の塗工量が3.0g/mより超えると塗膜強度が大幅に低下するおそれがあり、0.1g/m未満であると酸素バリア性が不十分となるおそれがある。また、第2のガスバリア層の塗工量は0.1〜3.0g/mが好ましく、0.5〜2.5g/mがさらに好ましい。第2のガスバリア層の塗工量が3.0g/mを超えると塗膜強度が低下するおそれがあり、0.1g/m未満であるとシーラント層との密着強度が不十分となり、酸素バリア性も低下するおそれがある。また、第1のガスバリア層と第2のガスバリア層の塗工量の合計は、0.2〜6g/mが好ましく、より好ましくは0.5〜5g/mの範囲である。塗工量の合計が0.2g/m未満であると、酸素バリア性が低下したり、塗膜強度が低下するおそれがある。また、6g/mを超えると密着強度や塗膜強度が低下するおそれがあり好ましくない。
【0031】
本発明で使用できる無機層状化合物の具体例としては、グラファイト、リン酸塩系誘導体型化合物(リン酸ジルコニウム系化合物等)、カルコゲン化物、ハイドロタルサイト類化合物、リチウムアルミニウム複合水酸化物、粘土系鉱物、合成マイカ、合成スメクタイト等を挙げることができる。グラファイト、リン酸塩系誘導体型化合物(リン酸ジルコニウム系化合物等)、カルコゲン化物、ハイドロタルサイト類化合物、リチウムアルミニウム複合水酸化物は、単位結晶層が互いに積み重なって層状構造を有する化合物ないし物質であり、ここで層状構造とは、原子が共有結合等によって強く結合して密に配列した面が、ファン・デル・ワールス力等の弱い結合力によって略平行に積み重なった構造をいう。
【0032】
「カルコゲン化物」とは、IV族(Ti,Zr,Hf)、V族(V,Nb,Ta)及び/又はVI族(Mo,W)元素のジカルコゲン化物であって、式MX(Mは上記元素、Xはカルコゲン(S,Se,Te)を示す。)で表されるものをいう。粘土系鉱物は、一般に、シリカの四面体層の上部に、アルミニウムやマグネシウム等を中心金属にした八面体層を有する2層構造を有するタイプと、シリカの四面体層が、アルミニウムやマグネシウム等を中心金属にした八面体層を両側から挟んでなる3層構造を有するタイプに分類される。前者の2層構造タイプとしては、カオリナイト族、アンチゴライト族等を挙げることができ、後者の3層構造タイプとしては、層間カチオンの数によってスメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族等を挙げることができる。これらの粘土系鉱物としては、スメクタイト族、バーミキュライト族などの粘土鉱物を挙げることができる。より具体的には、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、マーガライト、タルク、バーミキュライト、ザンソフィライト、緑泥石等を挙げることができる。また、白水晴雄著『粘土鉱物学』(朝倉書店、1988年)などの文献を参照することができる。特にスメクタイトが好ましく、スメクタイトにはモンモリロナイト、ハイデライト、ノントロナイト、サポナイト、鉄サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイトなどを挙げることができる。
【0033】
粘土性鉱物(天然品)以外にも、合成品、加工処理品(例えばシランカップリング剤の表面処理品)のいずれであってもよく、合成スメクタイトとしては、式Na0.1〜1.0Mg2.4〜2.9Li0.0〜0.6Si3.5〜4.09.0〜10.6(OH及び/又はF)1.5〜2.5で示されるものが挙げられる。合成スメクタイトや合成マイカの製造方法には、水熱反応法(特開平6−345419号公報)、固相反応法、熔融法(特開平5−270815号公報参照)の3つの合成方法がある。水熱反応法は、珪酸塩、マグネシウム塩、アルカリ金属イオン、アルカリ金属塩、フッ素イオンなど各種原料を含んだ水溶液あるいは水性スラリーをオートクレーブやパイプリアクターの中で100〜400℃の高温、高圧下で反応させ合成する方法である。水熱反応法では、結晶の成長が遅いため大きな粒子のものが得られないため、一般に粒子径が10〜100nmのものがほとんどである。もちろん、水熱反応においても、低濃度、低温、長時間の条件で合成すれば粒子径が1μm以上の大きな粒子を製造することは可能であるが、製造コストが極端に高くなるといった問題がある。
【0034】
固相反応法はタルクと珪フッ化アルカリと他の原料とともに400〜1000℃の範囲で数時間反応させ、合成マイカを製造する方法である。固相反応は原料のタルクの構造を残したまま元素移動を起こしマイカが生成する(トポタキシー)ため、得られる合成マイカの品質が原料のタルク物性やその不純物に依存したり、元素移動を完全にコントロールできないため、合成マイカの純度や結晶化度が低いといった問題がある。熔融法は、無水珪酸、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、珪フッ化カリウム、炭酸カリウム、その他の原料をマイカの熔融点(例えば1500℃)以上で熔融後、徐冷結晶化し、合成マイカや合成スメクタイトを製造する方法である。また、加熱方法の違いにより、外熱式熔融法と内熱式熔融法がある。外熱式熔融法は原料を入れたるつぼを熔融点以上の温度の室に入れて昇温後、熔融点以下の温度の室に移動させて製造する方法であるが、るつぼの費用が高いといった問題点がある。内熱式熔融法は黒鉛(炭素)電極や金属電極を備えていた容器中で通電により原料を加熱熔融させた後、冷却させる方法であり、熔融合成法においては内熱式熔融法が一般的である。熔融合成法は冷却結晶化した塊を粉砕、分級することにより粒子径をコントロールした合成品を製造することができる。熔融合成法は原料として純度が高い原料を使用することができ、熔融化するため原料が均一に混合できるため、結晶化度が高く、粒子径が大きく、純度の高い合成マイカや合成スメクタイトを製造することができるといった利点がある。
【0035】
合成無機層状化合物としては、フッ素金雲母(KMgAlSi10F、熔融法又は固相反応法)、カリウム四珪素雲母(KMg2.5Si10、熔融法)、ナトリウム四珪素雲母(NaMg2.5Si10、熔融法)、ナトリウムテニオライト(NaMgLiSi10、熔融法)、リチウムテニオライト(LiMgLiSi10、熔融法)などの合成マイカ、ナトリウムヘクトライト(Na0.33Mg2.67Li0.33Si4.010(OH又はF)、水熱反応法又は熔融法)、リチウムヘクトライト(Na0.33Mg2.67Li0.33Si4.010(OH又はF)、水熱反応法又は熔融法)、サポナイト(Na0.33Mg2.67AlSi4.010(OH)、水熱反応法)などの合成スメクタイトが挙げられる。粘土鉱物の市販品としては、一般にナトリウムベンナイトと呼ばれる天然のベントナイトやクニピア(天然モンモリロナイト、クニミネ工業社製)、スメクトン(水熱反応法合成スメクタイト、クニミネ工業社製)、ビーガム(商標:バンダービルト社製)、ラポナイト(商標:ラポルテ社製)、DMクリーンA、DMA−350、Na−Ts、NTO−5(熔融法、ナトリウム四珪素雲母、商標:トピー工業社製)、ベンゲル(商標:豊順洋行社製)、ソマシフME−100(固相反応法合成マイカ、商標:コープケミカル社製)等を挙げることができ、これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いることもできる。
【0036】
本発明においてより好ましく用いられる無機層状化合物としては、水中で容易に膨潤、壁開及び分散する膨潤性無機層状化合物である。膨潤性無機層状化合物の溶媒への「膨潤・へき開」性の程度は、以下の「膨潤・へき開」試験により評価することができる。該膨潤性無機層状化合物の膨潤性は、下記膨潤性試験において約5mL以上の程度であることが好ましく、より好ましくは約20mL以上の範囲である。膨潤性の具体的なものとしては、上記クニピア(膨潤力:65mL/2g以上)、スメクトン(膨潤力:60mL/2g以上)、DMクリーンA、DMA−350、Na−Ts(膨潤力:30mL/2g以上)、ME−100(商標:コープケミカル社製、膨潤力:20mL/2g以上)及びベンゲル(膨潤力:38mL/2g以上)等である。一方、該膨潤性無機層状化合物のへき開性は、下記へき開性試験において約5mL以上の程度であることが好ましく、より好ましくは約20mL以上の範囲である。これらの場合、溶媒としては、膨潤性無機層状化合物の密度より小さい密度を有する溶媒を用いる。このような溶媒としては、水を用いることが好ましい。
【0037】
膨潤性試験を詳述する。膨潤性無機層状化合物2gを溶媒100mLにゆっくり加える(100mLメスシリンダーを容器とする)。静置後、23℃、24hr後の膨潤性無機層状化合物分散層と上澄みとの界面の目盛から前者(膨潤性無機層状化合物分散層)の体積を読む。この数値が大きい程、膨潤性が高い。
へき開性試験を詳述する。膨潤性無機層状化合物30gを溶媒1500mLにゆっくり加え、分散機(浅田鉄工(株)製、デスパーMH−L、羽根径52mm、回転数3100rpm、容器容量3L、底面−羽根間の距離28mm)にて周速8.5m/secで90分間分散した後(23℃)、分散液100mLをとりメスシリンダーに入れ60分静置後、上澄みとの界面から、膨潤性無機層状化合物分散層の体積を読む。
【0038】
また、本発明で使用するのに好ましい膨潤性無機層状化合物としては、陽イオン交換容量が100g当り30〜300meq、より好ましくは50〜250meq、特に好ましくは60〜200meqである。陽イオン交換容量が30meq/100g未満であると含窒素化合物との効果が小さくなり防湿性に優れない。また、300meq/100gを越えて大きいと塗料が凝集しやすくなり好ましくない。一般に、天然及び合成スクメタイトは85〜130meq/100gの陽イオン交換容量を有するものが本発明において特に好ましいものである。陽イオン交換容量の測定は一般にアルコール洗浄法(Schollenberger法あるいはその改良法、和田光史「粘土の陰・陽イオン交換容量測定」粘土科学21巻4号160〜163頁(1981)参照)と呼ばれる測定方法で行う。膨潤性無機層状化合物の粉末0.2〜1.0gあるいは約1〜3%水分散液約10〜30mlを100ml容量の遠心分離管に採取する。1Nの酢酸アンモニウム(CHCOONH)液(pH7)を加えて約80mlとして、十分に振とうした後、遠心沈降させ上澄みを捨てる(遠沈洗浄)。遠沈洗浄を4回繰り返した後、遠心分離管に残っている余剰の塩を取り除くため80%エタノール水溶液(pH7)で遠沈洗浄を3回行う。次に10%のNaCl水溶液を用いて遠沈洗浄を4回繰り返し、遠心管の上澄み液をすべて集めて抽出液とする。抽出液のNHを蒸留法で定量し、試料の乾燥質量(100g)当りのミリグラム当量数(meq)を陽イオン交換容量(cation exchange capacity,CEC)の値とする。なお測定は23℃の環境下で行う。また、測定は7点行い、最大値と最小値を除いた5点の平均を測定値とした。
【0039】
膨潤性無機層状化合物としては、そのアスペクト比が50〜5000のものが好ましい。アスペクト比(Z)とはZ=L/aなる関係で示されるものであり、Lは膨潤性無機層状化合物の水中での平均粒子径(レーザー回折法で測定。堀場製作所LA−910、屈折率1.3、体積分布50%のメジアン径)であり、aは膨潤性無機層状化合物の厚みである。厚みは、防湿層の断面をSEMやTEMによる写真観察によって求めた値である。平均粒子径は0.1μm〜100μmが好ましく、とりわけ0.5μm〜50μmが好ましい。平均粒子径が0.1μm未満になるとアスペクト比が小さくなる上、防湿層中で防湿面に対して平行に並びにくくなり、防湿効果が不十分になる。平均粒子径が100μmを越えて大きくなると防湿層から膨潤性無機層状化合物が突き出てしまい好ましくない。
【0040】
これら膨潤性無機層状化合物の中でも、ナトリウム四珪素雲母、ナトリウムテニオライト、リチウムテニオライト、ナトリウムヘクトライト、リチウムヘクトライト、サポナイト、天然スメクタイト(モンモリロナイト)が好ましい。これらの中でも、平均粒子径、アスペクト比、結晶性の面から熔融合成法で製造されたナトリウム四珪素雲母(トピー工業社製、「DMA350」)やタルクにフッ化ケイ素をインターカレートし、約800℃で焼成して得られる膨潤性フッ素マイカが特に好ましい。また、本発明で使用する無機層状化合物は水あるいは溶剤中で分散された状態での平均粒子径が20nm〜100μmの間にあるものが好適であり、好ましくは0.1μm〜50μm、より好ましくは1μm〜30μmである。平均粒子径が20nm未満であると、アスペクト比が小さくなり防湿性向上効果が小さい。一方、100μmを越えると塗工層表面から顔料が突き出し、外観不良や防湿性低下を招き、好ましくない。
【0041】
本発明で用いる膨潤性無機層状化合物の水あるいは溶剤に分散された平均粒子径は、平均粒子径が0.1μm以上のものは光散乱理論を応用したレーザー回折による粒度分布測定装置において測定した値である。また、水あるいは溶剤に分散された平均粒子径が0.1μm以下のものについは動的光散乱法を用いて測定した値である。また、本発明で使用する膨潤性無機層状化合物の好ましいアスペクト比は5以上であり、特に好ましくはアスペクト比が10以上である。アスペクト比が5未満のものは曲路効果が小さいために防湿性が低下する。アスペクト比は大きいほど無機層状化合物の塗工層中における層数が大きくなるため高い防湿性能を発揮する。無機層状化合物の厚みは、防湿膜の断面写真より測定する。厚みが0.1μm以上のものは電子顕微鏡写真より画像解析して求める。厚みが0.1μm未満のものは透過型電子顕微鏡写真より画像解析して求める。本発明でいうアスペクト比は、上記水または溶剤に分散された平均粒子径を防湿膜の断面写真より求めた厚さで除したものである。
【0042】
本発明において、ガスバリア層におけるポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性高分子と無機層状化合物の配合量は、質量換算で99:1〜50:50が好ましく、より好ましくは97:3〜60:40、特に好ましくは95:5〜80:20である。無機層状化合物の配合量が1質量%未満になると、防湿性向上効果及び離解性向上効果が小さくなる。無機層状化合物が50質量%を越えて大きくなると、無機層状化合物の間を埋める樹脂が不足して、空隙やピンホールの増大を招き防湿性が悪化する。
【0043】
本発明におけるガスバリア塗料は水性塗料であるが、必要に応じて、エタノールやイソプロピルアルコールのようなアルコール系溶剤やメチルエチルケトンやトルエンなどの溶剤を加えてもかまわない。
【0044】
本発明において、ガスバリア塗料を紙支持体に塗工してガスバリア層を形成する。塗工設備として特に限定はしないが、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スリットダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ゲートロールコーターなどの方式が好ましい。特にガスバリア層形成にはブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スリットダイコーターなどの塗工表面をスクレイプするコーターが無機層状化合物の配向を促すという点で好ましい。
【0045】
本発明に用いられる基材は、植物由来のパルプを主成分とするものであれば特に制限はないが、上質紙、中質紙、微塗工紙、塗工紙、片艶紙、晒または未晒クラフト紙(酸性紙又は中性紙)、又は段ボール用、建材用、白ボ−ル用、チップボ−ル用などに用いられる板紙、白板紙などが好適である。
【0046】
また、基材と防湿層の間に防湿層の塗工適性や塗工量減のために、顔料と樹脂を含む顔料層を設けてもよい。あるいはガスバリア層とは反対側の基材の表面に、印刷適性を向上させるために顔料と樹脂を含む顔料層を設けてもかまわない。顔料としては炭酸カルシウム、カオリン、クレー、焼成クレー、タルク、硫酸バリウムなどが好適に使用される。樹脂としては、スチレン−ブタジエン系共重合体やアクリル−スチレン系共重合体、ポリビニルアルコール、デンプンなどが好適に使用される。顔料と樹脂の配合比率は質量換算で顔料/樹脂=50/50〜99/1が好適である。
【0047】
本発明のガスバリア性積層体の構成は、基材/第1のガスバリア層/第2のガスバリア層、基材/顔料層/第1のガスバリア層/第2のガスバリア層、顔料層/基材/第1のガスバリア層/第2のガスバリア層、顔料層/基材/顔料層/第1のガスバリア層/第2のガスバリア層が挙げられる。
【0048】
また、本発明のガスバリア性積層体の第2のガスバリア層にポリエチレンやポリプロピレンなどのシーラント層を設けて、包装用積層体となる。シーラントは溶融押出ラミ法やドライラミ法、あるいは、塗工などの方法で積層できる。また、ガスバリア層とシーラント層の間に密着性を向上させるために、アンカー層を設けてもよい。アンカー層はウレタン系樹脂やポリエステル系樹脂が好適であり、イソシアネートのような硬化剤が含まれてもよい。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中の「部」及び「%」は特にことわらない限り、「質量部」及び「質量%」を示す。
【0050】
<実施例1>
[ポリビニルアルコール溶液(1)の調製]
水90.5質量部にエチレン変性ポリビニルアルコール(商品名:「エクセバールHR3010」、クラレ社製 含水率約5%)9.5質量部、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−181」、東邦化学工業社製)0.009質量部を添加し、撹拌しながら95℃まで昇温、1時間保持したのち常温まで冷却し、濃度9%のエチレン変性ポリビニルアルコール水溶液を得た。なお、昇温過程、温度保持中とも起泡は全く観察されなかった。
【0051】
[ガスバリア積層体の製造]
坪量84g/mの塗工紙(王子製紙社製:商品名「OKトップコート」、顔料層/基材/顔料層、顔料層の塗工量は片面15g/m)の片面に、上記エチレン変性ポリビニルアルコール溶液(1)の調製で得た、9%のポリビニルアルコール溶液(1)111質量部に、無機層状化合物の水分散液(トピー工業社製、NTO−5、固形分6%、ナトリウム四珪酸雲母)を33.3質量部、水5.7質量部を加え、攪拌して得られた第1のガスバリア性塗料(固形分8%、粘度350mPa・s)を固形分で1.5g/mになるように、エアーナイフコーターで塗工後、乾燥して第1のガスバリア層を形成した。次に、9%のポリビニルアルコール溶液(1)を水で5%まで希釈して、第2のガスバリア性塗料とし、第1のガスバリア層上に固形分で1.5g/mになるように、エアーナイフコーターを用いて塗工、乾燥して第2のガスバリア層を形成して、本発明のガスバリア性積層体を得た。
【0052】
<実施例2>
実施例1の[エチレン変性ポリビニルアルコール溶液(1)の調製]において、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−181」、東邦化学工業社製)0.009質量部の代わりに、ポリオキシエチレン(10モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−182」、東邦化学工業社製)0.009質量部を添加した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性積層体を得た。
【0053】
<実施例3>
[ポリビニルアルコール溶液(2)の調製]
水90.5質量部に珪素変性ポリビニルアルコール(商品名:「R−1130」、クラレ社製 含水率約5%)9.5質量部、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−181」、東邦化学工業社製)0.009質量部を添加し、撹拌しながら95℃まで昇温、1時間保持したのち常温まで冷却し、濃度9%の珪素変性ポリビニルアルコール水溶液を得た。なお、昇温過程、温度保持中とも起泡は全く観察されなかった。
【0054】
[ガスバリア積層体の製造]
坪量84g/mの塗工紙(王子製紙社製:商品名「OKトップコート」、顔料層/基材/顔料層、顔料層の塗工量は片面15g/m)の片面に、上記珪素変性ポリビニルアルコール溶液(2)の調製で得た、9%のポリビニルアルコール溶液(1)111質量部に、無機層状化合物の水分散液(トピー工業社製、NTO−5、固形分6%、ナトリウム四珪酸雲母)を33.3質量部、水5.7質量部を加え、攪拌して得られた第1のガスバリア性塗料(固形分8%、粘度300mPa・s)を固形分で1.5g/mになるように、エアーナイフコーターで塗工後、乾燥して第1のガスバリア層を形成した。次に、9%のポリビニルアルコール溶液(2)を水で5%まで希釈して、第2のガスバリア性塗料とし、第1のガスバリア層上に固形分で1.5g/mになるように、エアーナイフコーターを用いて塗工、乾燥して第2のガスバリア層を形成して、本発明のガスバリア性積層体を得た。
【0055】
<実施例4>
[ガスバリア積層体の製造]
坪量84g/mの塗工紙(王子製紙社製:商品名「OKトップコート」、顔料層/基材/顔料層、顔料層の塗工量は片面15g/m)の片面に、上記エチレン変性ポリビニルアルコール溶液(1)の調製で得た、9%のエチレン変性ポリビニルアルコール溶液(1)111質量部に、無機層状化合物の水分散液(トピー工業製、NTO−1、固形分2%、ナトリウム四珪酸雲母)を25.0質量部、水39.0質量部を加え、攪拌して得られた第1のガスバリア性塗料(固形分6%、粘度100mPa・s)を固形分で2.0g/mになるように、エアーナイフコーターで塗工後、乾燥して第1のガスバリア層を形成した。次に、9%のエチレン変性ポリビニルアルコール溶液(1)を水で5%まで希釈して、第2のガスバリア性塗料とし、第1のガスバリア層上に固形分で1.0g/mになるように、エアーナイフコーターを用いて塗工、乾燥して第2のガスバリア層を形成してガスバリア性積層体を得た。
【0056】
<実施例5>
実施例1の[エチレン変性ポリビニルアルコール溶液(1)の調製]において、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−181」、東邦化学工業社製)の添加量を0.009質量部から0.0005質量部に減量して溶解を行った結果、消泡効果は十分ではなく、液面上昇が見られた。また、このポリビニルアルコール溶液を用いて、実施例1と同様にして第1、第2のガスバリア層を形成してガスバリア積層体を得た。塗工中に若干の発泡が認められたが、得られたガスバリア性積層体の酸素透過性は実用上問題なかった。
【0057】
<実施例6>
実施例1の[エチレン変性ポリビニルアルコール溶液(1)の調製]において、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−181」、東邦化学工業社製)の添加量を0.009質量部から5.0質量部に増量して溶解を行った。また、このポリビニルアルコール溶液を用いて、実施例1と同様にして第1、第2のガスバリア層を形成してガスバリア積層体を得た。
【0058】
<実施例7>
実施例1の[ガスバリア積層体の製造]において、第1のガスバリアの塗工量を固形分で3.0g/mとなうように、エアーナイフコーターで塗工後、乾燥し、第2のバリア層を形成しなかった以外は実施例1と同様にしてガスバリア積層体を得た。
【0059】
<実施例8>
[酸化デンプン溶液(1)の調製]
水89.7質量部に酸化デンプン(商品名:「王子エースA」、王子スターチ社製 含水率約12%)10.3質量部、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−181」、東邦化学工業社製)0.009質量部を添加し、撹拌しながら95℃まで昇温、1時間保持したのち常温まで冷却し、濃度9%の酸化デンプン水溶液を得た。なお、昇温過程、温度保持中とも起泡は全く観察されなかった。
【0060】
[ガスバリア積層体の製造]
坪量84g/mの塗工紙(王子製紙社製:商品名「OKトップコート」、顔料層/基材/顔料層、顔料層の塗工量は片面15g/m)の片面に、実施例1で得たエチレン変性ポリビニルアルコール水溶液(1)の調製で得た、9%のポリビニルアルコール溶液(1)111質量部に、無機層状化合物の水分散液(トピー工業社製、NTO−5、固形分6%、ナトリウム四珪酸雲母)を33.3質量部、水5.7質量部を加え、攪拌して得られた第1のガスバリア性塗料(固形分8%、粘度350mPa・s)を、固形分で1.5g/mになるように、エアーナイフコーターで塗工後、乾燥して第1のガスバリア層を形成した。次に、上記酸化デンプン溶液(1)の調製で得た9%の酸化デンプン水溶液(1)を水で5%まで希釈して、第2のガスバリア性塗料とし、第1のガスバリア層上に固形分で1.5g/mになるように、エアーナイフコーターを用いて塗工、乾燥して第2のガスバリア層を形成して、本発明のガスバリア性積層体を得た。
【0061】
<比較例1>
実施例1の[エチレン変性ポリビニルアルコール溶液(1)の調製]において、ポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマー(商品名:「ペポールB−181」、東邦化学工業社製)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。なお、ポリビニルアルコール溶解時、昇温中に起泡による液面上昇が起こり、タンクから溢れそうになるため溶解量を制限しなければならなかった。また、第1ガスバリア層、第2ガスバリア層塗工時においても塗料の起泡が激しく、十分なアプリケート量を供給すると、カラーパンから塗料が溢れる状態であった。
【0062】
実施例、比較例で得たガスバリア性積層体を以下の方法で評価し、結果を表1に示す。
[評価方法]
<酸素透過度>
実施例、比較例で製造したガスバリア性積層体のガスバリア層上に、ラミネート用アンカー剤(東洋モートン製、ポリエステル系主剤ポリエステルEL557A/ポリイソシアネート系硬化剤/酢酸エチル=1.6/0.8/12.5部の有姿比で混合して作成)を有姿で4cc/mと塗工量がなるように塗布して、80℃30秒間乾燥させた。
得られたアンカー層上に、ポリエチレン(日本ポリケム製、LC522、低密度ポリエチレン、MFR3.5g/10min)を厚さ20μmになるように溶融押出ラミした。得られたポリエチレンラミネート積層体のサンプルを、JIS−K−7126 B法(等圧法)でポリエチレンラミ側を酸素検出器側(窒素側)にして、酸素側も窒素側も23℃・90%RH条件で測定した(酸素透過度測定装置:OX−TRAN100型、MOCON社製)。
酸素透過度はサンプルをセットした後、24時間後の値を酸素透過度とした。
酸素透過度は30cc/m・24hr以下が好ましく、20cc/m・24hr以下が特に好ましい。
【0063】
<ポリビニルアルコール溶解時の起泡状態の評価>
○ :溶解時、起泡が見られない。
△ :起泡は多少見られ、冷却後も液面に泡が残る。
× :昇温中に激しく起泡し、溶解液がタンクから溢れそうになる。
【0064】
<ガスバリア層塗工時の起泡状態の評価>
○ :塗工中のカラーパンに起泡が見られない。
△ :カラーパン中のガスバリア層塗料が泡で白濁する。流動性もやや悪い。
× :カラーパン中のガスバリア層塗料の起泡が激しく、塗料がカラーパンから溢れる。
【0065】
【表1】

【0066】
表1により明らかなように、ポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性高分子と無機層状化合物を含む第1のガスバリア層とポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性高分子を主成分とする第2のガスバリア層の少なくとも1層にポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーを添加することによって、無機層状化合物の配向を促す塗工方法であるエアーナイフコーティングにおいても泡による塗工欠陥から生じるバリア性低下を来たさず、優れたガスバリア積層体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係るガスバリア層塗料は、起泡しにくく、塗料調製時、または塗工時においても安定操業性と優れたガスバリア性が得られるものである。また、本発明で用いたポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーは安全性の高い化合物であるため、これを用いたガスバリア積層体は実用上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙支持体上に水溶性高分子と無機層状化合物を含むガスバリア層を少なくとも1層設けたガスバリア性積層体であって、前記ガスバリア層中にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを含有させたことを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項2】
紙支持体上に水溶性高分子と無機層状化合物を含む第1のガスバリア層と、水溶性高分子を主成分とする第2のガスバリア層を順次設け、前記第1のガスバリア層および/または第2のガスバリア層にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを含有させたことを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項3】
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーがポリオキシエチレン(3〜10モル付加)ポリオキシプロピレン(25〜35モル付加)ブロックポリマーであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスバリア性積層体。
【請求項4】
前記水溶性高分子がポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項5】
前記水溶性高分子100質量部に対してポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを0.01〜1.0質量部含有させたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール系樹脂がエチレン変性ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項4に記載のガスバリア性積層体。
【請求項7】
前記水溶性高分子と無機層状化合物の質量比が99/1〜50/50であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項8】
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーがポリオキシエチレン(5モル付加)ポリオキシプロピレン(30モル付加)ブロックポリマーであることを特徴とする請求項3に記載のガスバリア性積層体。
【請求項9】
前記水溶性高分子の溶解時において、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを昇温前および/または昇温中に添加することを特徴とするガスバリア性積層体の製造方法。

【公開番号】特開2012−206472(P2012−206472A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75706(P2011−75706)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】