説明

ガスフロー測定用キャピラリー

【課題】キャピラリーを回転させながらガスフロー測定が可能なキャピラリー及びガス供給装置の提供。
【解決手段】透過法のX線回折測定等に好適なキャピラリー2である。このキャピラリー2は、試料22を配置するための管状部4と、この管状部4の一端側に設けられたガス導入部6とを備えている。管状部4の両端は開放されている。ガス導入部6の内部から管状部4の内部にまで至るガス通路16が形成されている。ガス導入部6は、その外面から上記ガス通路に至るガス導入孔18を有している。ガス導入部の外面は円周面部を有している。この円周面部は、少なくとも、上記ガス導入孔18よりも軸方向一方側の位置及び上記ガス導入孔18よりも軸方向他方側の位置に設けられている。上記円周面部の中心軸線Z1と、管状部4の中心軸線Z2とが、実質的に一致している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折測定等に用いられるキャピラリーに関する。詳細には、ガスをフローさせながら測定が可能とされたキャピラリー及びガス供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの化合物において、結晶多形が見られる。結晶多形とは、同一の化合物でありながら結晶構造が異なることである。例えば低分子有機化合物では、その8割が結晶多形を示すと言われている。
【0003】
多くの分野において、結晶構造の解析がなされる。医薬品の分野においても同様である。同一の化合物であっても、結晶構造が異なれば、医薬品の効能、品質等が変化しうる。医薬品の分野においては、結晶構造の解析は極めて重要である。
【0004】
近年、結晶多形を精密に検討する目的で、透過法による粉末X線回折測定が重要視されている。透過法以外に、集中法(反射法)によるX線回折測定が知られている。しかし、集中法は近似を含む方法であり、分解能が低い。これに対して透過法は、分解能が高く、結晶構造をより詳細に解析することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
結晶構造は、雰囲気ガスにより変化することがある。例えば、空気中に存在する水分子により、結晶構造が変化することがある。雰囲気空気の湿度が高い場合、結晶が水和物へと転移することがある。逆に、雰囲気空気の湿度が低い場合、脱水が起こり無水物へと転移することがある。このように、雰囲気ガス中の水分子は、結晶構造の転移を引き起こしうる。結晶構造が変わることにより、化合物の構造が変わってしまうことになる。
【0006】
雰囲気ガスによる結晶構造の変化は、医薬品の分野においても重要である。例えば、保存中の医薬品の結晶構造が、保存環境の雰囲気空気に含まれる水分子により転移することがある。水和物は無水物に比べて溶解性が低く、大きな品質低下の原因につながることがよく知られている。また前述したように、結晶構造に水が出入りすることにより化合物の構造が変化するが、この構造の変化は、医薬品化合物の規格において問題となる。医薬品の効能や品質を保証する目的等のために、雰囲気ガスによる結晶構造の変化を把握することが重要である。この結晶構造の変化プロセスを解析したり、結晶安定性を予測したりする観点から、雰囲気ガスによる結晶変化の速度論的な追跡調査が求められており、更には、雰囲気ガスによる結晶変化のメカニズムを詳細に把握することが求められている。
【0007】
雰囲気ガスによる影響を詳しく解析するためには、ガスを流しながら結晶構造解析がなされることが好ましい。例えば、雰囲気ガスに含まれる水分子の影響を詳しく解析するためには、湿度が調整されたガスを流しながら結晶構造解析がなされることが好ましい。集中法によるX線回折測定であれば、雰囲気ガスを流しながら測定を行うことは可能である。しかし、キャピラリーの回転を伴う透過法のX線回折測定においては、雰囲気ガスを流しながら測定を行うことは困難であった。
【0008】
本発明の目的は、キャピラリーを回転させながらガスフロー測定が可能なキャピラリー及びガス供給装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るガスフロー測定用キャピラリーは、試料を配置するための管状部と、この管状部の一端側に設けられたガス導入部とを備える。上記管状部の両端が開放されている。上記ガス導入部の内部から上記管状部の内部にまで至るガス通路が形成されている。上記ガス導入部は、その外面から上記ガス通路に至るガス導入孔を有している。上記ガス導入部の外面は円周面部を有している。この円周面部は、少なくとも、上記ガス導入孔よりも軸方向一方側の位置及び上記ガス導入孔よりも軸方向他方側の位置に設けられている。上記円周面部の中心軸線と、上記管状部の中心軸線とが、実質的に一致している。
【0010】
好ましくは、上記ガスフロー測定用キャピラリーにおいて、上記管状部の他端側を塞ぐ通気性部材が設けられている。
【0011】
本発明に係るキャピラリー用のガス供給装置は、キャピラリー挿通孔を有するカバー部と、上記カバー部の外面から上記キャピラリー挿通孔の内部に至るガス孔と、上記キャピラリー挿通孔の一端側及び他端側にそれぞれ設けられ、上記カバー部に挿通されたキャピラリーの外面と接触しうる接触部とを備えている。これらの接触部の間に上記ガス孔が配置されている。上記接触部の最小内径は、調整可能とされている。
【0012】
好ましくは、上記キャピラリー挿通孔が、その両端部に形成された雌ねじ部と、この雌ねじ部の奥側に設けられた斜面とを有し、上記接触部が雄ねじ部を有し、この雄ねじ部と上記雌ねじ部とが螺合している。上記接触部は、その中心軸線に沿って形成された貫通孔を有している。上記斜面は、上記雌ねじ部のねじ込み方向にいくにつれて縮径するように傾斜している。上記接触部を奥側にねじ込むことにより、上記接触部の先端部が上記斜面に当接して弾性変形し、この弾性変形により、上記先端部の内径が調整されうる。
【発明の効果】
【0013】
キャピラリーを回転させながらキャピラリー内にガスを流すことができるので、雰囲気ガスに起因する結晶構造の変化を詳細に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るガスフロー測定用キャピラリー2の斜視図であり、図2はキャピラリー2の側面図であり、図3はキャピラリー2の断面図であり、図4もキャピラリー2の断面図である。図4は、図3のIV−IV線に沿った断面図である。図3及び図4は、共にキャピラリー2の中心軸線を含む平面による断面図である。図3の断面に沿った平面と、図4の断面に沿った平面とは、互いに直交する関係にある。なお、図面の理解を容易とする観点から、図1を除く各図においては、管状部の内径、肉厚及び外径が大きく誇張されて描かれている。
【0016】
キャピラリー2は、管状部4と、ガス導入部6とを備える。管状部4は、試料を配置するために設けられている。管状部4の内部に試料が配置された状態で、測定がなされる。ガス導入部6は、管状部4の一端側に設けられている。
【0017】
管状部4の両端は、開放されている。管状部4は、ガラス管である。管状部4は、内周面8と外周面10とを有する。管状部4の中心軸線は、略直線である。
【0018】
図4において、管状部4の内径D1及び肉厚T1が両矢印で示されている。管状部4の内径D1及び肉厚T1は、従来のキャピラリーのそれと同等とされる。内径D1及び肉厚T1は、測定される試料の種類や測定目的等により適宜設定されうる。試料充填を容易とする観点から、内径D1は、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。試料の必要量を抑制する観点から、内径D1は、3.0mm以下が好ましく、より好ましくは1.5mm以下とされる。バックグラウンドや管状部によるX線吸収を抑制する観点から、肉厚T1は、0.1mm以下、更には0.05mm以下、更には0.01mm以下とされるのがよい。管状部4の強度を高める観点から、肉厚T1は0.005mm以上、更には0.01mm以上、更には0.05mm以上が好ましい。
【0019】
管状部4の材質は限定されない。測定に対する影響が少ない材質が好ましい。例えば、X線回折測定の場合、X線への影響(吸収、反射、散乱、回折等)の少ない材質が好ましい。管状部4の材質として、ガラス及び樹脂が例示される。このガラスとして、従来のキャピラリーに用いられるガラスが好ましい。管状部4に用いられうるガラスの材質として、石英ガラス、リンデマンガラス、ボロシリケートガラス、ソーダガラス等が例示される。バックグラウンドが低い観点からは、リンデマンガラス及びボロシリケートガラスが好適である。管状部4に用いられうる樹脂として、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール(POM)、ポリイミド(カプトン)等が例示される。ポリエチレンテレフタレート(PET)の具体例として、帝人デュポンフィルム株式会社製のPETフィルム「マイラー」(登録商標)が例示される。ガラスと比較してX線への影響が大きい材質であっても、肉厚T1が薄くされることにより、X線への影響が少なくなる。よって、ガラスと比較してX線への影響が大きい材質であっても、X線回折測定への利用が可能となる場合がある。
【0020】
ガス導入部6は、全体として管状の部材である。ガス導入部6の外径は、あらゆる軸方向位置において一定である。ガス導入部6の外面12は、円周面である。ガス導入部6の内径は、あらゆる軸方向位置において一定である。ガス導入部6の内面14は、円周面である。ガス導入部6の外面12は円周面であるから、中心軸線Z1を有する。ガス導入部6の外面12の中心軸線Z1と、上記管状部4の中心軸線Z2とは、実質的に一致している。
【0021】
ガス導入部6は、管状部4の一端側に設けられている。ガス導入部6は、管状部4の一端側に固定されている。管状部4の一端部がガス導入部6に挿入されている。管状部4と、この管状部4の半径方向外側に位置するガス導入部6との間には、実質的に隙間は存在しない。
【0022】
本実施形態では、管状部4とガス導入部6とは別部材であるが、管状部4とガス導入部6とが一体成形されていてもよい。
【0023】
キャピラリー2には、ガス通路16が形成されている。ガス通路16は、管状部4とガス導入部6とにより形成されている。ガス通路16は、ガス導入部6の内部から管状部4の内部にまで至っている。
【0024】
ガス導入部6は、その外面から上記ガス通路16に至るガス導入孔18を有している。ガス導入孔18は、ガス導入部6の外面からガス導入部6の内面にまで至っている。ガス導入孔18の数は、1個である。ガス導入孔18が複数であってもよい。
【0025】
図3及び図4が示すように、管状部4の他端側には、通気性部材20が設けられている。通気性部材20は、管状部4の他端側を塞いでいる。通気性部材20は、ガスを透過させうる。通気性部材20は、試料22を通過させない。
【0026】
管状部4からの試料の脱落を抑制しうる限り、通気性部材20の形状や配置は限定されない。通気性部材20は、図3及び図4に記載されているように管状部4の内部に配置されていてもよいし、管状部4の端面24を覆うように配置されていてもよい。
【0027】
試料22は、管状部4の内部に配置される。試料22は、粉末である。粉末の試料22が、管状部4に充填されている。
【0028】
ガス導入部6の一端側は、栓26で塞がれている。少なくとも、この栓26の通気性は、通気性部材20よりも少ない。好ましくは、栓26は、実質的に通気性を有さない。
【0029】
図5は、キャピラリー2に孔部材28が取り付けられた状態を示す断面図である。孔部材28は、全体として円筒状の部材である。孔部材28の外面30は円周面である。孔部材28は、ガス導入部6を挿入しうる挿入孔32を有する。挿入孔32の内径は、ガス導入部6の外径と略同一である。挿入孔32に挿入されることにより、ガス導入部6は孔部材28に固定されうる。
【0030】
孔部材28は、挿入孔32と連続して設けられた連設孔34を有する。連設孔34の開口36の最大径D3は、挿入孔32の内径よりも大きい。キャピラリー2に試料22を充填する際に、孔部材28が利用されうる。キャピラリー2を挿入孔32に取り付けた状態で、開口36から試料22を入れることができる。開口36の最大径D3がガス導入部6の内径D2よりも大きいので、孔部材28を用いない場合と比較して、試料22が入れやすい。なお、試料22を充填する際には、栓26を設けないことは当然である。
【0031】
試料22を管状部4の他端側へ効率よく移動させる手段として、ガス流を用いる方法が採用されうる。ガス通路16の一端側から他端側へと向かうガス流を生じさせることにより、試料22の充填が効率よくなされうる。このガス流を生じさせる方法として、管状部4の他端側を通気性部材20で塞ぎつつガス導入部6の端部からガスを注入する方法が採用されうる。
【0032】
孔部材28は、いわゆるゴニオヘッドに直接取り付けられうるように構成されている。換言すれば、孔部材28は、ゴニオヘッドに取り付けるためのピンの役割をも果たしうる。このピンは、ホルダーピン又はゴニオピンとも称される。以下において、このピンをゴニオピンと称する。なお、ゴニオヘッド及びゴニオピンは、透過法によるX線回折測定において一般的に用いられている。孔部材28の外形は、ゴニオピンと同じである。一般的なゴニオピンの外形は、円柱状である。孔部材28の外形は、ゴニオピンと同様に円柱状である。孔部材28の外径は、一般的なゴニオピンの外径に等しくされている。一般的なゴニオピンの外径は、3.15mmである。よって、孔部材28の外径は、3.14mm〜3.16mmであるのが好ましく、3.15mmであるのがより好ましい。一般的なゴニオピンの長手方向長さは、12.8mmである。よって、孔部材28の長手方向長さは、12.8mm以上であるのが好ましい。開口36から試料を入れやすくする観点から、開口36の最大径D3は、1mm以上が好ましく、2.5mm以上がより好ましい。なお、開口36が円形の場合、この径D3は、開口36の直径を意味する。
【0033】
上記実施形態では、キャピラリー2と孔部材28とが互いに別部材とされている。キャピラリー2と孔部材28とが一体成形されていてもよい。また、ガス導入部6が、ゴニオヘッドに直接取り付けられるように構成されていてもよい。換言すれば、ガス導入部6の外形が、ゴニオピンと同様とされてもよい。
【0034】
図6は、本発明に係るガス供給装置38がキャピラリー2に取り付けられた状態を示す図であり、図7は図6の断面図である。図8は図6のVIII−VIII線に沿った断面図であり、図9は図6のIX−IX線に沿った断面図である。このガス供給装置とキャピラリーとにより、ガスフロー測定装置が構成される。
【0035】
ガス供給装置38は、回転するキャピラリー2にガスを供給することができる装置である。このガス供給装置38は、カバー部40、ガス孔42及び接触部44を有する。カバー部40は、キャピラリー挿通孔46を有する。キャピラリー挿通孔46は、カバー部40を貫通している。キャピラリー挿通孔46の内径は、ガス導入部6の外径よりも大きい。よって、キャピラリー挿通孔46とガス導入部6との間には隙間S1が存在する(図9参照)。
【0036】
ガス孔42は、カバー部40の外面からカバー部40の内部に至っている。ガス孔42には、ガス供給管48が接続されている。ガス供給管48は、例えばゴム管である。ガス供給管48の他の端部は、図示されないガス供給源と接続している。ガス供給管48により、ガス供給源からのガスがキャピラリー挿通孔46の内部に供給される。
【0037】
接触部44は、カバー部40に挿通されつつ回転するキャピラリー2の外面と接触しうるように構成されている。この接触の詳細については後述される。接触部44は、2箇所に設けられている。
【0038】
接触部44は、雄ねじ部50と貫通孔52とを有している。雄ねじ部50は、接触部44の外周面に設けられている。雄ねじ部50は、接触部44の後端部に設けられている。貫通孔52は、接触部44の中心軸線に沿って形成されている。貫通孔52の内径は、ガス導入部6の外径よりも大きい。よって、貫通孔52とガス導入部6との間には隙間S2が存在する(図7の一部拡大図参照)。
【0039】
キャピラリー挿通孔46の両端部には、雌ねじ部54が形成されている。図7の一部拡大図が示すように、キャピラリー挿通孔46において、雌ねじ部54の奥側には、斜面56が設けられている。この斜面56は、円錐凹面である。接触部44の先端部には、この斜面56に対応した形状のテーパー部58が設けられている。斜面56は、雌ねじ部54のねじ込み方向にいくにつれて縮径するように傾斜している。ねじ込み方向とは、接触部44をねじ込むことにより接触部44が進行する方向である。本実施形態においてねじ込み方向とは、カバー部40の奥側へと向かう方向である。
【0040】
接触部44の雄ねじ部50と、キャピラリー挿通孔46と雌ねじ部54とが螺合(ねじ結合)している。この螺合された状態において、接触部44の貫通孔52とキャピラリー挿通孔46とは連続孔を形成している。この螺合された状態において、貫通孔52の中心軸線とキャピラリー挿通孔46の中心軸線とは実質的に一致している。
【0041】
ガス孔42は、2つの接触部44の間に配置されている。ガス孔42から供給されたガスは、2つの接触部44の間に流入する。
【0042】
ガス供給装置38の使用方法について説明する。先ず、図5が示すように、試料22及び通気性部材20が配置されたキャピラリー2に孔部材28が取り付けられる。孔部材28の代わりに汎用されているゴニオピンが用いられてもよい。次に、孔部材28をゴニオヘッドに取り付ける。次に、ゴニオヘッドから突出するキャピラリー2に、ガス供給装置38が装着される。具体的には、ガス供給装置38をキャピラリー2の先端側から後端側(孔部材28側)へと移動させて、キャピラリー2をガス供給装置38に挿通する。キャピラリー2にガス供給装置38が装着された状態が、図7で示される。ガス供給装置38は、キャピラリー2のガス導入孔18が2つの接触部44の間に位置するように配置される。
【0043】
次に、接触部44を回転させて、接触部44をカバー部40の奥側にねじ込む。このねじ込みにより軸力が生じる。この軸力より、接触部44の先端部(テーパー部58)が斜面56に押しつけられ、斜面56からの抗力が接触部44の先端部に作用する。この抗力により、接触部44の先端部は変形する。カバー部40の剛性は、接触部44の剛性よりも高い。よって、カバー部40は実質的に変形せず、接触部44が変形する。ねじ込みにより、接触部44はカバー部40の奥側に移動する。この移動に伴い、接触部44の先端部が、ガス導入部6側に突き出る(図10参照)。この結果、接触部44は、その先端がガス導入部6に近づくように変形する。この変形は、接触部44の先端部の全周に亘って起こる。この変形により、接触部44の最小内径が小さくなる。更に接触部44をねじ込むと、接触部44の先端部の変形がより一層大きくなり、接触部44の先端がガス導入部6の外面に当接する。この当接は、ガス導入部6の外面の全周に亘っている。この当接した状態が、図10で示されている。この当接の接触面積及び接触圧は、接触部44のねじ込み量により調節されうる。
【0044】
次に、ゴニオヘッドを回転させて、キャピラリー2を中心軸線Z2まわりに回転させる。次に、キャピラリー2を回転させながら、試料22にX線等を入射させて、測定がなされる。測定中において、ガス供給装置38は、キャピラリー2のガス導入部6に支持された状態である。ガス供給装置38は、キャピラリー2のガス導入部6のみによって支持されている。ガス供給管48は、ガス供給装置38から鉛直方向略下方に垂れ下がっている。測定中において、ガス供給装置38は回転しない。キャピラリー2が回転することにより、キャピラリー2とガス供給装置38の接触部44とは擦れ合う。
【0045】
接触部44がガス導入部6の外面と接触することにより、ガス導入孔18の両側において、貫通孔52とガス導入部6との間の隙間S2の気密性が高まる。よって、ガス孔42から上記隙間S1に流入したガスが、効率よくガス導入孔18に流入する。ガス導入孔18から流入したガスは、キャピラリー2の一端側から他端側(通気性部材20側)へと流れる。ガス導入孔18から流入したガスは、ガス通路16を通過し、試料22を透過し、更には通気性部材20を透過して、キャピラリー2の外部へと排出される。
【0046】
接触部44と接触しているガス導入部6の外面は、円周面である。また、この円周面の中心軸線Z1と、キャピラリー2の回転軸線とは、実質的に一致している。更に、ガス導入部6と接触する接触部44の先端は、接触部44の外面の全周に亘って略均等に当接している。よって、接触部44が回転することなくキャピラリー2が回転した状態において、接触部44とキャピラリー2との当接状態は維持される。したがって、キャピラリー2の内部にガスを流しながらキャピラリー2を回転させることができる。
【0047】
上記実施形態では、ガス導入部6の外面12は、その全体が円周面とされている。このように外面12の全体が円周面とされていなくてもよい。ガス導入部6の外面の少なくとも一部が円周面とされていればよい。即ち、ガス導入部6の外面12が円周面部を有していればよい。更に、このガス導入部6の円周面部は、少なくとも、ガス導入孔18よりも軸方向一方側の位置P1と、ガス導入孔18よりも軸方向他方側の位置P2とに設けられる(図10参照)。この軸方向とは、円周面部の中心軸線の方向であり、上記実施形態では、ガス導入部6の外面12における中心軸線Z1の方向である。測定状態において、円周面部の中心軸線と、キャピラリー2の回転軸線とは実質的に一致している。更に接触部44は、上記円周面部の全周に亘って接触している。よって、接触部44に対してキャピラリー2が相対的に回転したとしても、接触部44とキャピラリー2との当接が維持されうる。そして、位置P1と位置P2とに接触部44が当接されることにより、ガス導入孔18の両側において隙間S1の気密性が高まり、ガスが効率よくキャピラリー2の内部に供給されうる。
【0048】
接触部44は、弾性変形しうる材質により形成されている。弾性変形の容易性の観点から、好ましい接触部44の材質として樹脂が好ましい。前述したように、接触部44は、回転するキャピラリー2と擦れ合う。この観点から、接触部44の材質は耐摩耗性及び耐熱性に優れるものが好ましい。また接触部44とキャピラリー2との間の摩擦力は、キャピラリー2の回転に対する抵抗となる。この摩擦力を低減する観点から、接触部44の材質は滑り性に優れるものが好ましい。また、本発明に用いるガスとして、反応性ガスや吸着性ガスも考えられる。反応性ガスや吸着性ガスが用いられた場合、耐腐食性及び耐薬品性が問題となりうる。耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性、耐薬品性及び滑り性の観点から、接触部44の好ましい材質として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド等が挙げられ、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が好ましい。
【0049】
ガス導入部6の材質は限定されない。耐摩耗性、耐熱性及び滑り性の観点から、ガス導入部6の材質は、金属又は樹脂が好ましい。材質が金属又は樹脂である場合、ガス導入孔18の穴開け加工が行いやすい利点もある。ガス導入部6を構成する金属として、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、真鍮、ステンレス鋼等が例示される。ガス導入部6を構成する樹脂としては、例えば上記接触部44に用いられ樹脂と同じものが挙げられる。
【0050】
図4において両矢印D2で示されているのは、ガス導入部6の内径である。図4において両矢印T2で示されているのは、ガス導入部6の肉厚である。内径D2及び肉厚T2は限定されない。本実施形態のように管状部4がガス導入部6に挿入固定されている場合、内径D2は、管状部4の外径に略等しくされるのが好ましい。ガス導入部6は、接触部44の接触圧に耐えることが要求される。また前述したように、ガス導入部6は、ガス供給装置38を支持する。よって、ガス供給装置38は、ガス供給装置38の質量によって実質的に変形しない程度の剛性を有しているのが好ましい。これらの観点から、ガス導入部6の肉厚T2は、管状部4の肉厚T1よりも大きいのが好ましい。具体的には、肉厚T2は、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。ガス導入部6の過度な大型化や重量増加を避ける観点から、肉厚T2は1.0mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましい。
【0051】
前述したように、ガス導入部6に対する接触部44の接触面積及び接触圧は、接触部44のねじ込み量により調節されうる。ねじ込み量が大きくなるほど、接触部分の気密性は向上する反面、キャピラリー2の回転に対する抵抗力は大きくなる。接触部44のねじ込み量は、接触部分の気密性と、回転に対する抵抗力とのバランスを考慮して調整される。
【0052】
キャピラリー挿通孔46とガス導入部6との間に存在する隙間S1の隙間距離W1(図9参照)は限定されない。ガス供給装置38の小型化及び軽量化の観点から、隙間距離W1は2.0mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましい。キャピラリー挿通孔46に対するキャピラリー2の挿通を容易とする観点から、隙間距離W1は0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。
【0053】
貫通孔52とガス導入部6との間に存在する隙間S2の隙間距離W2(図7参照)は限定されない。隙間S2が小さすぎる場合、貫通孔52の内周面がガス導入部6と面接触し、接触部44とガス導入部6との接触面積が過剰となる恐れがある。この過剰な接触面積により、ガス導入部6と接触部44との間に生ずる摩擦力が過剰となり、キャピラリー2に対する回転抵抗力が増加する。キャピラリー2の回転を円滑とする観点から、隙間距離W2は0.02mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましい。隙間S2が大きすぎる場合、接触部44の先端部がガス導入部6と当接するのに必要な弾性変形量が過剰となる。過剰な弾性変形量が達成されるためには、接触部44の材質が弾性変形しやすい材料に限定されたり、変形に要する力が過大とされたりといった不都合が生じうる。この観点から、隙間距離W2は0.2mm以下が好ましく、0.1mm以下がより好ましい。なお、この隙間距離W2は、接触部44が変形していない状態において測定される。
【0054】
通気性を有する限り、通気性部材20の材質は限定されない。通気性部材20として、紙、布、網等が例示される。布として、織物、編み物、レース、フェルト、不織布等が例示される。布を構成する繊維として、天然繊維、合成繊維、再生繊維等が挙げられる。天然繊維として、綿、絹、麻、モヘヤ、ウール、カシミヤ等が例示される。再生繊維として、アセテート、キュプラ、レーヨン等が例示される。合成繊維として、ナイロン、ポリウレタン、ポリエステル等が例示される。紙として、例えば日本製紙クレシア社製のキムワイプ(登録商標)が挙げられる。試料への繊維の混入を抑制する観点から、繊維の飛散や脱落が起こりにくい通気性部材20が好ましい。その他、通気性部材20の材質として、セラミクスやガラス等よりなる多孔質体が例示される。
【0055】
通気性部材20の通気性の度合いは、キャピラリー2内に流されるガスの流量や試料の粒径等を考慮して適宜設定されうる。通気性の度合いは、通気性部材20の材質、厚さ、密度等により適宜設定されうる。なお、通気性部材20は、管状部4に対して着脱可能とされていてもよいし、管状部4に接着されていてもよい。
【0056】
本発明では、通気性部材20は用いられなくてもよい。例えば、管状部4の他端側の開口径X1が、管状部4の一端側の開口径X2よりも小さくされており、開口径X1は試料粒子を通過させえない径に設定され、開口径X2は試料粒子を通過させうる径に設定されていてもよい。この場合、管状部4の他端側は、試料を通過させずにガスを通過させうる状態となる。
【0057】
本発明に用いられる試料は、管状部に入れることができるものであれば特に限定されない。試料として、粉末、単結晶等が挙げられる。雰囲気ガスの影響が比較的大きい粉末試料において本発明は特に効果的である。
【0058】
本発明に用いられるガスの種類は限定されない。このガスとして、調湿空気等の調湿ガス、反応性ガス及び吸着性ガスが例示される。湿度が調整されたガスを流しながら測定がなされることにより、雰囲気ガスの水分子による結晶構造の変化が詳細に解析されうる。また、種々のガスが用いられることにより、当該ガスによる影響が解析されうる。測定中、ガスは試料を透過しつづける。よって、ガスの湿度等を連続的又は段階的に変化させながら測定することも可能である。
【0059】
本発明のキャピラリーは、X線回折測定において好適に用いられうる。X線の種類は限定されない。平行性及び単色性が高く高輝度であることから、放射光のX線が用いられれば、より高分解能なX線回折図が得られうる。
【0060】
本発明のキャピラリーでは、透過法によるX線回折測定が可能である。透過法では、集中法(反射法)と比較して、高精度、高分解能及び高再現性な解析が可能である。本発明によれば、ガスを流しながら且つキャピラリー2を回転させながら、透過法によるX線回折測定が可能である。よって、雰囲気ガスによる影響がより詳細に解析されうる。
【0061】
本発明に係るキャピラリーは、X線以外の電磁波による測定にも適用されうる。本発明に係るキャピラリーは、電磁波の回折、散乱、吸収又は発光の測定に適用されうる。X線回折法以外の測定として、中性子回折法やラマン分光法が例示される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、試料に電磁波を照射する測定のすべてに適用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るキャピラリーの斜視図である。
【図2】図2は、図1のキャピラリーの側面図である。
【図3】図3は、図1のキャピラリーの断面図である。
【図4】図4は、図3のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】図5は、図1のキャピラリーに孔部材が装着された状態を示す断面図である。
【図6】図6は、キャピラリーにガス供給装置が装着された状態を示す側面図である。
【図7】図7は、図6の断面図である。
【図8】図8は、図6のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【図9】図9は、図6のIX−IX線に沿った断面図である。
【図10】図10は、接触部がキャピラリーに当接した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0064】
2・・・キャピラリー
4・・・管状部
6・・・ガス導入部
12・・・ガス導入部の外面
16・・・ガス通路
18・・・ガス導入孔
20・・・通気性部材
22・・・試料
26・・・栓
28・・・孔部材
32・・・挿入孔
38・・・ガス供給装置
40・・・カバー部
42・・・ガス孔
44・・・接触部
46・・・キャピラリー挿通孔
50・・・雄ねじ部
52・・・貫通孔
54・・・雌ねじ部
Z1・・・ガス導入部の外面の中心軸線
Z2・・・管状部の中心軸線
S1・・・キャピラリー挿通孔とガス導入部との間の隙間
S2・・・接触部の貫通孔とガス導入部との間の隙間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を配置するための管状部と、この管状部の一端側に設けられたガス導入部とを備え、
上記管状部の両端が開放されており、
上記ガス導入部の内部から上記管状部の内部にまで至るガス通路が形成されており、
上記ガス導入部が、その外面から上記ガス通路に至るガス導入孔を有し、
上記ガス導入部の外面が円周面部を有し、
この円周面部が、少なくとも、上記ガス導入孔よりも軸方向一方側の位置及び上記ガス導入孔よりも軸方向他方側の位置に設けられており、
上記円周面部の中心軸線と、上記管状部の中心軸線とが、実質的に一致しているガスフロー測定用キャピラリー。
【請求項2】
上記管状部の他端側を塞ぐ通気性部材が設けられている請求項1に記載のガスフロー測定用キャピラリー。
【請求項3】
キャピラリー挿通孔を有するカバー部と、
上記カバー部の外面から上記キャピラリー挿通孔の内部に至るガス孔と、
上記キャピラリー挿通孔の一端側及び他端側にそれぞれ設けられ、上記カバー部に挿通されたキャピラリーの外面と接触しうる接触部とを備え、
これらの接触部の間に上記ガス孔が配置されており、
上記接触部の最小内径が調整可能とされているキャピラリー用のガス供給装置。
【請求項4】
上記キャピラリー挿通孔が、その両端部に形成された雌ねじ部と、この雌ねじ部の奥側に設けられた斜面とを有し、
上記接触部が雄ねじ部を有し、この雄ねじ部と上記雌ねじ部とが螺合しており、
上記接触部が、その中心軸線に沿って形成された貫通孔を有し、
上記斜面は、上記雌ねじ部のねじ込み方向にいくにつれて縮径するように傾斜しており、
上記接触部を奥側にねじ込むことにより、上記接触部の先端部が上記斜面に当接して弾性変形し、この弾性変形により、上記先端部の内径が調整されうる請求項3に記載のガス供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−19885(P2009−19885A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180568(P2007−180568)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(507180847)SAI株式会社 (2)
【Fターム(参考)】