説明

ガスワイピング装置

【課題】上,下リップを鋼板板幅方向に移動可能に支持することで上,下リップのみの交換を可能にしてワイピングノズルの交換時間の短縮により生産性の向上が図れるガスワイピング装置を提供する。
【解決手段】溶融めっき浴10から出て上方に向けて走行するストリップSの表,裏面にワイピングノズル12からガスを吹き付けてめっき付着量を制御するガスワイピング装置11において、ワイピングノズル12は上リップ16と下リップ17とに分割形成されると共に、それぞれ独立して鋼板板幅方向に移動可能に支持されて交換可能になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄プロセスライン、特に、亜鉛等の溶融金属めっきラインにおける溶融金属めっき設備に用いられるガスワイピング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種溶融金属めっきラインにおいては、一般に、焼鈍等の前処理を連続的に施し高温に保持したストリップ(被めっき鋼板)を、溶融金属ポット(溶融めっき浴)中のシンクロールに通板して上方へ走行させ、その走行下でめっき付着量(溶融金属厚さ,膜厚)を制御した後、所定の冷却パターンで常温まで冷却する方法が行われている。
【0003】
そして、前記走行下では、ストリップの表面に付着した溶融亜鉛の余剰分が、例えば溶融めっき浴上方に対向設置した一対のワイピングノズル(ガスワイピング装置)から吹き付けられるガスによってワイピングされることによって、所要のめっき付着量に制御されるようになっている。
【0004】
例えば、従来のガスワイピング装置は、図3及び図4に示すように、ノズルヘッダー100の内部からガス供給流路101を通ってワイピングノズル102に供給されたガスは、当該ワイピングノズル102の上リップ103と下リップ104との対向面間で画成されるノズルスリット105より図示しないストリップの板幅方向に一様に吹き出すようになっている。
【0005】
そして、上リップ103と下リップ104とが複数本の鉛直方向固定ボルト106で両者間が一体化される(図4の(a)参照)と共に、複数本の水平方向固定ボルト107で両者がノズルヘッダー100側に一体化される(図4の(b)参照)構造となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−217661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したようなガスワイピング装置では、ストリップとの接触によるワイピングノズル102の傷や、スプラッシュによる溶融金属のワイピングノズル102への付着(汚れ)があると、めっき後のストリップ表面の品質欠陥(めっきムラ,筋模様等)が発生するため、ワイピングノズル102の交換が必要となる。
【0008】
しかしながら、従来のガスワイピング装置にあっては、交換の際に、上リップ103と下リップ104とをそれぞれボルト106,107を外して分解しなければならないので、ラインを停止してワイピングノズル全体を交換するため、ワイピングノズルの交換作業に多大の時間を要し、生産性が低下するという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上,下リップを鋼板板幅方向に移動可能に支持することで上,下リップのみの交換を可能にしてワイピングノズルの交換時間の短縮により生産性の向上が図れるガスワイピング装置を提供することを目的とする。
【0010】
尚、特許文献1には、下ノズル本体(下リップに相当する)にノズル孔調整片を着脱可能に装着し、操業を停止することなくノズル孔調整片を交換してノズル孔形状を最適形状に変更するめっき厚調整用ガス噴射ノズル装置が開示されている。
【0011】
ところが、特許文献1では、ノズル孔調整片の交換の際には楔片の挿脱を必要とし、ノズル孔調整片を鋼板板幅方向に移動することで交換可能にしたものではないと共に、上ノズル本体(上リップに相当する)は下ノズル本体とボルトで結合されているので、上述した従来技術と同様の問題点を有している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するための本発明に係るガスワイピング装置は、
溶融めっき浴から出て上方に向けて走行する鋼板の表,裏面にワイピングノズルからガスを吹き付けてめっき付着量を制御するガスワイピング装置において、
前記ワイピングノズルは上リップと下リップとに分割形成されると共に、それぞれ独立して鋼板板幅方向に移動可能に支持されて交換可能になっていることを特徴とする。
【0013】
また、
前記上リップと下リップとは、ワイピングガスのガス供給流路を有したガス供給ベースを上下から挟むようにして支持される一方、前記ガス供給ベースの上,下両部に設けたリップ押えにより鋼板板幅方向の任意の位置に固定可能になっていることを特徴とする。
【0014】
また、
前記リップ押えは、外部の加圧流体供給源から加圧流体が供給される静圧パッドであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
前記構成の本発明に係るガスワイピング装置によれば、上,下リップを鋼板板幅方向に移動することで、リップ毎、簡単に交換することができ、ワイピングノズルの交換時間の短縮により生産性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1を示す亜鉛等の溶融金属めっきラインにおける溶融金属めっき設備に用いられるガスワイピング装置の概略構成側面図である。
【図2】ワイピングノズルの作用状態を示す正面図である。
【図3】従来のガスワイピング装置の要部正面図である。
【図4】同じくガスワイピング装置の断面図であり、同図(a)は図3のD−D矢視断面図で同図(b)は図3のE−E矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るガスワイピング装置を実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1は本発明の一実施例を示す亜鉛等の溶融金属めっきラインにおける溶融金属めっき設備に用いられるガスワイピング装置の概略構成側面図、図2はワイピングノズルの作用状態を示す正面図である。
【0019】
図1に示すように、溶融金属ポット(溶融めっき浴)10から出て上方に向けて走行するストリップ(被めっき鋼板)Sの表,裏面に対向して一対のガスワイピング装置11が設けられ、これらのガスワイピング装置11のワイピングノズル12からストリップSの表面にガスを吹き付けて(図1中矢印参照)めっき付着量(溶融金属厚さ,膜厚)を制御し得るようになっている。尚、図1中にはストリップSの表,裏面の一方側のガスワイピング装置11を示し、他方側のガスワイピング装置11はストリップSを中心に対称に配置される一方側のガスワイピング装置11と同じ構成のものであるので図示は省略する。
【0020】
具体的には、前記ガスワイピング装置11において、ノズルヘッダー13の内部からマニホールド14のガス供給流路15を通ってワイピングノズル12に供給されたガスは、当該ワイピングノズル12の上リップ16と下リップ17との対向面16a,17a間で形成されるノズルスリット18よりストリップSの板幅方向に一様に吹き出すようになっている。
【0021】
また、前記ワイピングノズル12は、マニホールド14の接合フランジ部19にT字状のスライドベース(ガス供給ベース)20が横向きにボルト結合され、そのガス供給流路21が接合フランジ部19のガス供給流路22を介して前記マニホールド14のガス供給流路15に連通している。尚、スライドベース20のガス供給流路21は集合流路部21aと多孔流路部21bとからなる。
【0022】
そして、前記スライドベース20の水平な凸状部20aに、該凸状部20aを上下方向から挟むようにして上述した上リップ16と下リップ17が装着されている。
【0023】
具体的には、上リップ16と下リップ17の根元部が上,下摺動ライナ23A,23Bを介して前記凸状部20aの上,下面にそれぞれ凹凸状態で係合され、スライドベース20の上部及び下部に嵌着された上,下静圧パッド(リップ押え)24A,24Bのエアー圧により、上リップ16と下リップ17は凸状部20aの上,下面におけるストリップ板幅方向の任意の位置にそれぞれ押付け固定されている。
【0024】
そして、これらの上,下静圧パッド24A,24Bのエアー圧解放(又は減圧)下で、上リップ16と下リップ17は凸状部20aの上,下面上をそれぞれ前記上,下摺動ライナ23A,23Bを介してストリップSの板幅方向にスライド可能になっている。
【0025】
前記上,下摺動ライナ23A,23Bは上リップ16及び下リップ17の内面にボルト26A,26Bでそれぞれ結合される。尚、図中20b,20cは上,下静圧パッド24A,24Bへそれぞれエアー圧を供給するエアー通路で、24a,24bは上,下静圧パッド24A,24B自体のエアー通路であり、さらには、25A,25Bは上,下静圧パッド24A,24Bのエアー圧を封じ込めるシール部材である。
【0026】
また、上,下摺動ライナ23A,23Bにはオイルレスのものを用いるが、LMガイド化を図っても良い。また、上,下静圧パッド24A,24Bには、前記上リップ16と下リップ17の固定時に、当該上,下静圧パッド24A,24B及びスライドベース20のエアー通路24a,24b,20b,20cと図示しない外部配管を介してコンプレッサー等の加圧エアー供給源からのエアー圧が供給されるようになっているが、エアー圧に代えて他の流体圧が供給されても良いし、上,下静圧パッド24A,24Bに代えて機械的な固定手段を用いても良い。
【0027】
このように構成されるため、ワイピングノズル12が図2に示す状態での稼働下で、例えばストリップSとの衝突で上リップ16に傷が付いたり、スプラッシュによる溶融金属が上リップ16へ付着したりすると、めっき後のストリップ表面の品質欠陥(めっきムラ,筋模様等)が発生する虞があるため、上リップ16の交換が必要となる。
【0028】
この場合、本実施例では、上静圧パッド24Aのエアー圧解放(又は減圧)下で、上リップ16をスライドベース20における凸状部20aの上面上を上摺動ライナ23Aを介してストリップSの板幅方向にスライドさせることで、上リップ16のみを簡単に取り外すことができ、新しい上リップ16との交換が行える。この新しい上リップ16の取付けは上述した取外しの動作の逆の動作を行えば良いことは自明である。勿論、必要に応じて下リップ17の交換も同様に行える。
【0029】
このようにして本実施例によれば、上,下リップ16,17をストリップ板幅方向にスライドさせることで、リップ毎、簡単に交換することができ、ワイピングノズル12の交換時間の短縮により生産性の向上が図れる。
【0030】
また、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、上,下リップやスライドベース及びその凸状部の形状変更等各種変更が可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係るガスワイピング装置は、製鉄プロセスラインに適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 溶融金属ポット(溶融めっき浴)
11 ガスワイピング装置
12 ワイピングノズル
13 ノズルヘッダー
14 マニホールド
15 ガス供給流路
16 上リップ
16a 対向面
17 下リップ
17a 対向面
18 ノズルスリット
19 接合フランジ部
20 スライドベース(ガス供給ベース)
20a 凸状部
21 ガス供給流路
21b 多孔流路部
22 ガス供給流路
23A 上摺動ライナ
23B 下摺動ライナ
24A 上静圧パッド(リップ押え)
24B 下静圧パッド(リップ押え)
S ストリップ(被めっき鋼板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融めっき浴から出て上方に向けて走行する鋼板の表,裏面にワイピングノズルからガスを吹き付けてめっき付着量を制御するガスワイピング装置において、
前記ワイピングノズルは上リップと下リップとに分割形成されると共に、それぞれ独立して鋼板板幅方向に移動可能に支持されて交換可能になっていることを特徴とするガスワイピング装置。
【請求項2】
前記上リップと下リップとは、ワイピングガスのガス供給流路を有したガス供給ベースを上下から挟むようにして支持される一方、前記ガス供給ベースの上,下両部に設けたリップ押えにより鋼板板幅方向の任意の位置に固定可能になっていることを特徴とする請求項1に記載のガスワイピング装置。
【請求項3】
前記リップ押えは、外部の加圧流体供給源から加圧流体が供給される静圧パッドであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスワイピング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−285668(P2010−285668A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141769(P2009−141769)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(502251784)三菱日立製鉄機械株式会社 (130)
【Fターム(参考)】