説明

ガス供給部材、プラズマ処理装置およびイットリア含有膜の形成方法

【課題】プラズマ耐性の高いイットリアを含む材料でコーティング膜を形成した場合でも、イットリア粒子の脱粒やクラックなどによるコーティング膜の劣化を抑えることができる保護膜を提供する。
【解決手段】本発明の一つの実施形態によれば、ガス供給部材41は、第1の径を有し、ガス流方向に延伸するガス流路421と、ガス流路421の一方の端部に接続され、ガス供給部材41のガス流の下流側の面41Aに設けられる吐出口422と、を有するガス供給路42を備える。吐出口422を構成する面の少なくとも一部の面は曲面によって構成される。また、吐出口422を構成する面上と、ガス供給部材41の下流側の面41A上とにイットリア含有膜50を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ガス供給部材、プラズマ処理装置およびイットリア含有膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置や液晶表示装置などの製造における微細加工プロセスでは、RIE(Reactive Ion Etching)装置が用いられる。RIE装置では、チャンバ内を低圧状態にし、フッ素系ガスや塩素系ガスをチャンバ内に導入してプラズマ化し、エッチングを行っている。このようなRIE装置の内壁や内部構成部材は、プラズマに曝されることで腐食され易い問題があるため、保護膜としてイットリア、アルミナなどのプラズマ耐性の高い材料がコーティングされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/044555号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、RIE装置の内壁や内部構成部材にイットリアなどの保護膜をコーティングした場合でも、粒子の脱粒やクラック等により、保護膜が劣化してしまう問題点があった。
【0005】
本発明の一つの実施形態は、プラズマ耐性の高いイットリアを含む材料で保護膜を形成した場合でも、イットリア粒子の脱粒やクラック等による劣化を抑えることができるガス供給部材、プラズマ処理装置およびイットリア含有膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの実施形態によれば、ガス供給部材は、第1の径を有し、ガス流方向に延伸するガス流路と、前記ガス流路の一方の端部に接続され、前記ガス供給部材のガス流の下流側の面に設けられる吐出口と、を有するガス供給路を備える。前記吐出口を構成する面の少なくとも一部の面は曲面によって構成される。また、前記吐出口を構成する面上と、前記ガス供給部材の前記下流側の面上とにイットリア含有膜を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、第1の実施形態によるプラズマ処理装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、第1の実施形態によるシャワーヘッドの吐出口付近の様子を模式的に示す一部断面図である。
【図3】図3は、保護膜の一例を模式的に示す断面図である。
【図4】図4は、第1の実施形態による保護膜の形成方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。
【図5】図5は、一般的なシャワーヘッドの吐出口付近の様子を模式的に示す断面図である。
【図6】図6は、第2の実施形態によるシャワーヘッドの吐出口付近の様子を模式的に示す断面図である。
【図7】図7は、第3の実施形態によるシャワーヘッドの吐出口付近の様子を模式的に示す断面図である。
【図8】図8は、第4の実施形態によるシャワーヘッドの吐出口付近の様子を模式的に示す断面図である。
【図9】図9は、第4の実施形態によるシャワーヘッドへの保護膜の第1の形成方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。
【図10】図10は、第4の実施形態によるシャワーヘッドへの保護膜の第2の形成方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかるガス供給部材、プラズマ処理装置およびイットリア含有膜の形成方法を詳細に説明する。なお、これらの実施形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の実施形態で用いられる膜の断面図は模式的なものであり、層の厚みと幅との関係や各層の厚みの比率などは現実のものとは異なる。
【0009】
(第1の実施形態)
第1の実施形態では、プラズマの暴露に対して耐性を有する膜をプラズマ処理装置の内壁に適用した場合を例に挙げて説明する。図1は、第1の実施形態によるプラズマ処理装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。ここでは、プラズマ処理装置10として、RIE装置を例示している。プラズマ処理装置10は、気密に構成されたたとえばアルミニウム製のチャンバ11を有している。このチャンバ11は接地されている。
【0010】
チャンバ11内には、処理対象としてのウェハ100を水平に支持するとともに、下部電極として機能する支持テーブル21が設けられている。支持テーブル21の表面上には、図示しないがウェハ100を静電吸着する静電チャック機構など保持機構が設けられている。支持テーブル21の側面および底面の周縁部を覆うように絶縁リング22が設けられており、絶縁リング22で覆われた支持テーブル21の上方の外周には、フォーカスリング23が設けられている。このフォーカスリング23は、ウェハ100のエッチング時に、電界がウェハ100の周縁部で鉛直方向(ウェハ面に垂直な方向)に対して偏向しないように電界を調整するために設けられる部材である。
【0011】
また、支持テーブル21は、チャンバ11内の中央付近に位置するように、チャンバ11の中央付近の底壁から鉛直上方に筒状に突出する支持部12上に、絶縁リング22を介して支持されている。絶縁リング22とチャンバ11の側壁との間には、バッフル板24が設けられている。バッフル板24は、板の厚さ方向を貫通する複数のガス排出孔25を有する。また、支持テーブル21には、高周波電力を供給する給電線31が接続されており、この給電線31にブロッキングコンデンサ32、整合器33および高周波電源34が接続されている。高周波電源34からは所定の周波数の高周波電力が支持テーブル21に供給される。
【0012】
下部電極として機能する支持テーブル21に対向するように、支持テーブル21の上部に上部電極として機能するシャワーヘッド41が設けられている。シャワーヘッド41は支持テーブル21と平行に対向するように、支持テーブル21から所定の距離を隔てたチャンバ11の上部付近の側壁に固定される。このような構造によって、シャワーヘッド41と支持テーブル21とは、一対の平行平板電極を構成している。また、シャワーヘッド41には、板の厚さ方向を貫通する複数のガス供給路42が設けられている。
【0013】
チャンバ11の上部付近には、プラズマ処理時に使用される処理ガスが供給されるガス供給口13が設けられており、ガス供給口13には配管を通じて図示しないガス供給装置が接続されている。
【0014】
支持テーブル21とバッフル板24よりも下部のチャンバ11にはガス排気口14が設けられており、ガス排気口14には配管を通じて図示しない真空ポンプが接続されている。
【0015】
このように、チャンバ11内の支持テーブル21およびバッフル板24と、シャワーヘッド41とで仕切られた領域は、プラズマ処理室61となり、シャワーヘッド41で仕切られたチャンバ11内の上部の領域は、ガス供給室62となり、支持テーブル21およびバッフル板24で仕切られたチャンバ11内の下部の領域はガス排気室63となる。
【0016】
このような構成のプラズマ処理装置10のプラズマ生成領域に接する側の構成部材の面、すなわちプラズマ処理室61の構成部材の表面に保護膜50が形成される。具体的には、プラズマ処理室61を構成するチャンバ11の内壁側面、シャワーヘッド41のプラズマ処理室61側の表面、バッフル板24のプラズマ処理室61側の表面、フォーカスリング23の表面、支持テーブル21のウェハ100を載置する側の表面に、イットリアを含有する膜(以下、イットリア膜という)を有する保護膜50が形成される。
【0017】
このように構成されたプラズマ処理装置10での処理の概要について説明する。まず、支持テーブル21上に処理対象であるウェハ100が載置され、たとえば静電チャック機構によって固定される。ついで、ガス排気口14に接続される図示しない真空ポンプでチャンバ11内が真空引きされる。このとき、ガス排気室63とプラズマ処理室61との間は、バッフル板24に設けられたガス排出孔25によって接続されており、プラズマ処理室61とガス供給室62との間は、シャワーヘッド41のガス供給路42によって接続されているので、ガス排気口14に繋がる真空ポンプによってチャンバ11内全体が真空引きされる。
【0018】
その後、チャンバ11内が所定の圧力に達すると、図示しないガス供給装置からガス供給室62に処理ガスが供給され、シャワーヘッド41のガス供給路42を介してプラズマ処理室61に供給される。プラズマ処理室61内の圧力が所定の圧力に達すると、シャワーヘッド41(上部電極)を接地した状態で、支持テーブル21(下部電極)に高周波電圧を印加して、プラズマ処理室61内にプラズマを生成させる。ここで、下部電極には高周波電圧が印加されているので、プラズマとウェハとの間に電位勾配が生じ、プラズマガス中のイオンが支持テーブル21へと加速されることになり、エッチング処理が行われる。
【0019】
図2は、第1の実施形態によるシャワーヘッドの吐出口付近の様子を模式的に示す一部断面図である。ガス供給部材であるシャワーヘッド41には、ガス供給路42が設けられている。ガス供給路42は、たとえば図1に示されるように、シャワーヘッド41の上面から下面(ガス流の下流側の面)に向かって、シャワーヘッド41を構成する部材を貫通するように設けられる。ガス供給路42は、第1の径を有するガス流路421と、ガス流路421の一方の端部から、第1の径よりも大きい第2の径となるように傾斜的に開口径が増大する吐出口422と、を有する。一例では、シャワーヘッド41は、ガス供給路42の吐出口422付近でその開口径が大きくなるようにテーパ形状に加工される。シャワーヘッド41の構成部材としては、たとえばアルミニウムなどを例示することができる。
【0020】
このようなシャワーヘッド41において、保護膜50は、少なくとも屈曲部43の一部が露出されるように、吐出口422の形成面とシャワーヘッド41の一方の主面である下流側の面の屈曲部43近傍に設けられる。ここで、屈曲部43とは、被膜形成対象が互いに平行でない複数の面(平面または曲面)で構成されるときに、1つの面を基準にして、他の面が90度よりも大きな角度で前記1つの面と接合し、突状部を形成している部分のことをいう。また、この例では、ガス流路421と吐出口422との境界の屈曲部43付近に形成された保護膜50の側面が、ガス流路421の内面と略面一(つらいち)となるように形成される。すなわち、吐出口422の上部屈曲部43付近の保護膜50によって形成されるリング構造は、第1の径と略同一の径を有する。保護膜50としては、50〜100μmの厚さのイットリア膜であればよい。
【0021】
図3は、保護膜の一例を模式的に示す断面図である。保護膜50として、図3(a)に示されるように、被膜形成対象である構成部材55上に形成された通常のイットリア膜51でもよいし、図3(b)に示されるように、図3(a)のイットリア膜51を表面からイットリア膜51の厚さの範囲で溶融させた溶融固化膜53を有するものでもよい。この場合、すべての厚さのイットリア膜を溶融固化膜53としてもよいし、表面から所定の厚さ範囲が溶融された溶融固化膜53と、溶融されていない非溶融固化膜52との積層構造としてもよい。溶融固化膜53は非溶融固化膜52に比して粒子間の空隙が抑制され、緻密であり、表面が平坦化された状態を有し、非溶融固化膜52に比して密度が高い。非溶融固化膜52の密度範囲は、2.0〜4.0g/cm3であることが望ましく、溶融固化膜53の密度範囲としては、4.0〜5.0g/cm3であることが望ましい。
【0022】
なお、上記した説明では、アルミニウムを構成部材とするシャワーヘッド41にイットリア膜を含む保護膜50を形成する場合について説明した。しかし、アルミニウム上にアルミナ膜を形成し、さらにこのアルミナ膜上に上記した保護膜50を形成するようにしてもよい。
【0023】
つぎに、このような保護膜50のシャワーヘッド41への形成方法について説明する。図4は、第1の実施形態による保護膜の形成方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。まず、図4(a)に示されるように、たとえばアルミニウムで構成され、ガス供給路42が形成されたシャワーヘッド41の下流側の面(吐出口422側の面)上と、吐出口422からガス流路421の一部にかけた内面上に、イットリア膜からなる保護膜50を50〜100μmの厚さで形成する。つまり、ここではガス供給路42の径が変化する屈曲部43上を覆うように、保護膜50が形成される。保護膜50を構成するイットリア膜の形成方法としては、溶射法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、エアロゾルデポジション(Aerosol Deposition)法、コールドスプレー法、ガスデポジション法、静電微粒子衝撃コーティング法、衝撃焼結法などを用いることができる。
【0024】
ついで、図4(b)に示されるように、ガス流路421の内面に形成された保護膜50を、例えば研磨などの方法により除去する。これによって、シャワーヘッド41の屈曲部43を構成する一方の面(下方の面)のみが被覆され、吐出口422の内面の屈曲部43付近に形成された保護膜50の側面は、ガス流路421の内面と略面一となる。以上で、図2に示される構造のシャワーヘッド41が得られる。
【0025】
なお、図4(a)の保護膜50の形成では、イットリア膜を溶射法、CVD法、エアロゾルデポジション法、コールドスプレー法、ガスデポジション法、静電微粒子衝撃コーティング法、衝撃焼結法などを用いて形成した後、イットリア膜に表面処理を施し、イットリア膜の表面から形成した膜厚の範囲内で溶融させた後固化させるようにしてもよい。表面処理として、たとえばレーザアニール処理やプラズマジェット処理などの選択的に表面を熱溶融できる方法を用いることができる。
【0026】
ここで、比較例と比較したときの第1の実施形態の効果について説明する。図5は、一般的なシャワーヘッドの吐出口付近の様子を模式的に示す断面図である。ガス供給部材であるシャワーヘッド41には、たとえばシャワーヘッド41の上面から下流側の面に向かって、シャワーヘッド41を構成する部材を貫通するようにガス供給路42が設けられる。ガス供給路42は、第1の径を有するガス流路421と、ガス流路421の一方の端部から、第1の径よりも大きい第2の径となるように傾斜的に開口径が増大する吐出口422と、を有する。この図5の例では、保護膜50は、シャワーヘッド41の下流側の面と、吐出口422の内面と、ガス流路421の吐出口422側付近とに設けられている。つまり、ガス供給路42の屈曲部43を覆うように、保護膜50が設けられる構造となる。
【0027】
一般的に、アルミニウムの線膨張係数は、24×10-6/℃程度であり、イットリアの線膨張係数は、7×10-6/℃程度であり、両者の線膨張係数の差が大きい。そのため、プラズマ処理70中の加熱で熱膨張が生じる際に、保護膜50にクラック56が発生しやすくなる。特に、屈曲部43では、加熱時(プラズマ処理70時)に熱膨張差によってクラック56などが発生しやすくなる。
【0028】
一方、第1の実施形態では、図2に示されるように、シャワーヘッド41の屈曲部43をまたがるように保護膜50を形成していない。具体的な構造の例として、吐出口422の屈曲部43付近に形成された保護膜50によって形成されるガス供給路42の一部としての内面が、ガス流路421の内面と略面一が一致するようにした。これによって、プラズマ処理中の加熱でシャワーヘッド41と保護膜50との間に熱膨張差が生じても、屈曲部43付近の保護膜50にはクラックが入りにくい構造となる。
【0029】
(第2の実施形態)
図6は、第2の実施形態によるシャワーヘッドの吐出口付近の様子を模式的に示す断面図である。ここでは、母材であるシャワーヘッド41のガス流路421の吐出口422が角度の異なる複数の面で構成されている点が第1の実施形態の場合と異なる。第2の実施形態でも、保護膜50は、ガス供給部材であるシャワーヘッド41の吐出口422付近と下流側の面に形成される。このような構造の保護膜50では、角部44に集中する応力が緩和される。第2の実施形態では、保護膜50で被覆されている領域に存在する角部44での膜厚d2をそれ以外での膜厚d1よりも厚くした場合、更に応力が緩和されるためクラックが入りづらい構造となる。ここで、膜厚d1,d2は、シャワーヘッド41上の各位置における法線方向の保護膜50の厚さである。具体的には、角部44でない部分での膜厚d1は10〜100μm程度の厚さであり、角部44付近での膜厚d2は、d1より1〜2倍程厚い10〜200μm程度の厚さであるのが望ましい。
【0030】
なお、この図に示されるように、シャワーヘッド41の吐出口422に形成される角部44の交差角度が、図2の場合に比して大きくなるようにしてもよい。また、このようなシャワーヘッド41への保護膜50の形成方法は、第1の実施形態と同様の方法で行うことができる。
【0031】
(第3の実施形態)
図7は、第3の実施形態を模式的に示す断面図である。図6に示した第2の実施形態では、母材であるシャワーヘッド41の吐出口422を形成する面とガス流の下流側の面(下面)がそれぞれ曲面ではなく、それぞれの面が所定の角度で接続されて角部44を有しているが、図7に示した第3の実施形態では、母材であるシャワーヘッド41のガス流路421を形成する面とシャワーヘッド41の下流側の面41Aとが滑らかな曲面によって接続される場合を示している。ここで、ガス流路421との接続部から離れるにしたがって吐出口422の開口径が増大し、シャワーヘッド41の下流側の面41Aでの開口径が第1の径よりも大きい第2の径となるテーパ形状を有するように、吐出口422を構成する曲面が構成される。図7の例では、吐出口422を構成する面のすべてが曲面によって構成される場合が示されているが、これに限定されるものではなく、少なくとも吐出口422を形成する面とシャワーヘッド41の下流側の面41Aとの接続部付近(図6の角部44に対応する領域)で曲面を有していればよい。なお、シャワーヘッド41の下流側の面41Aは、吐出口422から吐出されるガスがプラズマ化される際に、プラズマが生成される領域に面するシャワーヘッド41を構成する面である。また、図7におけるシャワーヘッド41の吐出口422を形成する曲面における曲率半径は、100〜500μm程度であることが望ましい。
【0032】
シャワーヘッド41の吐出口422を形成する面上に形成される保護膜50の膜厚は略一定となっている。また、保護膜50は、吐出口422を形成する面上と、ガス流路421を形成する面の吐出口422側付近にも形成されている。そして、保護膜50は、下地であるシャワーヘッド41の吐出口422の形成面が曲面であるので、それに対応して曲面形状を有するように構成される。
【0033】
なお、その他については、第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。たとえば、使用される保護膜50については、第1の実施形態で使用される保護膜50と同様である。また、保護膜50は、アルミニウムを構成部材とするシャワーヘッド41に直接に形成してもよいし、アルミニウム上にアルミナ膜を形成し、このアルミナ膜上に保護膜50を形成してもよい。さらに、保護膜50を構成するイットリア膜の形成方法も第1の実施形態に示した方法を用いることができる。
【0034】
第3の実施形態によれば、下地であるシャワーヘッド41の吐出口422の形成面が曲面で形成され、その上に保護膜50を形成したので、第2の実施形態よりも更に角部44に集中する応力が緩和されるため、第2の実施形態よりもクラックが入りづらい構造となる。
【0035】
(第4の実施形態)
図8は、第4の実施形態によるシャワーヘッドの吐出口付近の様子を模式的に示す断面図である。第4の実施形態は、第3の実施形態と略同様の構造を有するが、第3の実施形態では、吐出口422上の保護膜50の膜厚が一定であるのに対し、第4の実施形態では、吐出口422の中央付近に向かうにつれて、保護膜50の膜厚が徐々に薄くなり、ガス流路421の側面にイットリア膜が形成されない点が第3の実施形態と異なる。このような構造の保護膜50では、第2の実施形態よりも更に角部43に集中する応力が緩和されるため、第2の実施形態よりもクラックが入りづらい構造となる。曲面部分の膜厚は10〜100μm程度に連続的に変化するのが望ましい。図8におけるシャワーヘッド41の曲面における曲率半径は、図7と同様に100〜500μm程度であることが望ましい。
【0036】
なお、第3の実施形態と同様に、ガス流路421との接続部から離れるにしたがって吐出口422の開口径が増大し、シャワーヘッド41の下流側の面41Aでの開口径が第1の径よりも大きい第2の径となるテーパ形状を有するように、吐出口422を構成する曲面が構成される。図8の例では、吐出口422を構成する面のすべてが曲面によって構成される場合が示されているが、これに限定されるものではなく、少なくとも吐出口422を形成する面とシャワーヘッド41の下流側の面41Aとの接続部付近(図6の角部44に対応する領域)で曲面を有していればよい。なお、シャワーヘッド41の下流側の面41Aは、吐出口422から吐出されるガスがプラズマ化される際に、プラズマが生成される領域に面するシャワーヘッド41を構成する面である。
【0037】
つぎに、第4の実施形態によるシャワーヘッドへの保護膜50の形成方法について説明する。図9(a)〜(f)は、図8に示される第4の実施形態によるシャワーヘッドの吐出口付近の第1の形成方法を模式的に示した一連の断面図である。第4の実施形態では、第1の径を有するガス流路421と、ガス流路421の下端から滑らかな曲面で口径が拡がり平面である下流側の面で第2の径となる吐出口422とにより、シャワーヘッド41が形成される。保護膜50は、吐出口422形成面上のガス流路421と吐出口422との境界の屈曲部43からシャワーヘッド41の下流側の面に向かって徐々に膜厚が増大するように形成されている。また、シャワーヘッド41の下流側の面上では、略均一の厚さを有する。この構造でも、保護膜50はガス流路421には形成されておらず、ガス流路421と吐出口422との境界の屈曲部43付近に形成された保護膜50の側面が、ガス流路421の内面と略面一となる。
【0038】
図9(a)〜(f)は、第4の実施形態によるシャワーヘッドへの保護膜の第1の形成方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。ここでは、シャワーヘッド41のガス供給路42の一部のみを図示して説明を行う。まず、図9(a)に示されるように、たとえばアルミニウムで構成される母材にガス供給路42を形成する。上記したように、ガス供給路42は、第1の径を有するガス流路421と、ガス流路421の下端から滑らかな曲面で口径が拡がり平面である下流側の面で第2の径となる吐出口422と、により、シャワーヘッド41が形成される。
【0039】
ついで、図9(b)に示されるように、シャワーヘッド41の吐出口422側からネガ型フォトレジスト101を塗布する。ついで、図9(c)に示されるように、シャワーヘッド41の上面(ガス流路421形成側の面)から紫外光等で露光すると、ネガ型フォトレジスト101は露光された部分のみ硬化して、栓部材である犠牲層101aとなる。このとき、露光されるのはシャワーヘッド41のガス流路421の部分のみとなり、たとえばシャワーヘッド41の下流側の面のガス流路421ではない領域に形成されたネガ型フォトレジスト101は、シャワーヘッド41の部材で光が遮られるので硬化しない。その後、図9(d)に示されるように、現像を行って、硬化していないネガ型フォトレジスト101を除去する。これによって、ガス供給路421内に犠牲層101aが残存した形となる。なお、犠牲層101aの下端部は、ガス流路421と吐出口422の境界部よりもシャワーヘッド41の下流側の面側に突出している。
【0040】
ついで、図9(e)に示されるように、犠牲膜101aが形成されたシャワーヘッド41の吐出口422の形成面側(下流側の面側)上にイットリア膜からなる保護膜50を形成する。保護膜50を構成するイットリア膜の形成方法としては、溶射法、CVD法、エアロゾルデポジション法、コールドスプレー法、ガスデポジション法、静電微粒子衝撃コーティング法、衝撃焼結法などを用いることができる。ここでは、シャワーヘッド41の下流側の面には50〜100μmの厚さで保護膜50が形成されるが、吐出口422の中央付近105に向かうにつれて、イットリア粒子が届き難くなるため膜厚が徐々に薄くなる。また、犠牲膜101aの上面付近にも保護膜50が形成される。
【0041】
その後、図9(f)に示されるように、アッシングなどの方法によって犠牲膜101aを除去する。以上によって、シャワーヘッド41の吐出口422を構成する面上と、シャワーヘッド41の下流側の面上に保護膜50が形成される。
【0042】
ここに示した第1の形成方法は、第1〜第3の実施形態を形成する場合にも用いることができる。
【0043】
また、図8に示されるようなシャワーヘッド41への保護膜50の形成方法として、第1の形成方法以外の方法も用いることができる。ここでは、第1の形成方法とは異なる方法で、図8に示した第4の実施形態によるシャワーヘッド41の吐出口422付近の加工方法について説明する。
【0044】
図10(a)〜(d)は、図8に示した第4の実施形態によるシャワーヘッドへの保護膜の第2の形成方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。ここでは、シャワーヘッド41のガス供給路42の一部のみを図示して説明を行う。まず、図10(a)に示されるように、たとえばアルミニウムで構成される母材にガス供給路42を形成する。ガス供給路42は、上記したように、第1の径を有するガス流路421と、ガス流路421の下端から滑らかな曲面で口径が拡がり平面である下流側の面で第2の径となる吐出口422とにより、シャワーヘッド41が形成される。
【0045】
ついで、図10(b)に示されるように、栓部材である治具111をガス流路421に挿入する。この治具111は、ガス流路421の第1の径と略同じ径を有する。治具111は、シャワーヘッド41の下流側の面側(吐出口422が形成される側)から吐出口422側に少し突出するように挿入される。このとき、シャワーヘッド41のガス流路421は冶具111によって塞がれ、治具111の下端部はガス流路421と吐出口422との境界よりも下流側の面側(吐出口422の開口径が大きくなる側)に少し突出するように固定される。
【0046】
その後、図10(c)に示されるように、治具111が挿入されたシャワーヘッド41の吐出口422の形成面側(下流側の面側)上にイットリア膜からなる保護膜50を形成する。保護膜50を構成するイットリア膜の形成方法としては、溶射法、CVD法、エアロゾルデポジション法、コールドスプレー法、ガスデポジション法、静電微粒子衝撃コーティング法、衝撃焼結法などを用いることができる。ここでは、シャワーヘッド41の下流側の面には50〜100μmの厚さで保護膜50が形成されるが、吐出口422の中央付近に向かうにつれて、イットリア粒子が届き難くなるため膜厚が徐々に薄くなる。また、ガス流路421には治具111により塞がれているため、ガス流路421内には保護膜50は形成されず、治具111の上面付近に保護膜50が形成される。
【0047】
その後、図10(d)に示されるように、治具111を除去する。ここでは、保護膜50が損傷しないように、シャワーヘッド41の下流側の面側から治具111を除去する。以上によって、シャワーヘッド41の吐出口422を構成する面上と、シャワーヘッド41の下流側の面上に保護膜50が形成される。
【0048】
第2の形成方法では、ガス流路421を治具111で塞いだ後、シャワーヘッド41の下流側の面上と吐出口422の形成面上に保護膜50を形成し、保護膜50を形成後に治具111をガス流路421から抜き出すようにしたので、第1の形成方法に比して、保護膜50の形成を容易に行うことができるという効果を有する。また、治具111は、複数回繰り返し使用することができるので、第1の形成方法のようにレジストを用いる場合に比して低コストで保護膜50を形成することができるという効果も有する。
【0049】
なお、第1および第2の形成方法では、ガス流路421と吐出口422との境界の屈曲部43付近の保護膜50によって形成されたガス供給路42の一部としての側面と、シャワーヘッド41で構成されるガス流路421の内面とが面一となるように形成される場合を図示して説明したが、これに限定されるものではない。上記したように、少なくとも屈曲部43の一部が露出されるように、保護膜50が形成されればよい。
【0050】
第4の実施形態では、プラズマ処理時に、シャワーヘッド41と保護膜50との間の線膨張係数の違いによって応力が集中しやすい屈曲部43および角部44付近で応力集中が緩和され、クラックなどの欠陥の発生が抑制される。その結果、保護膜50からイットリアを含むダストの発生を防止することができるという効果を有する。また、第1の実施形態で示した研磨などの追加工を必要としないため、コストが安く、研磨の際に発生する可能性がある保護膜50のクラックや研磨の際に発生する発塵も問題ない構造となる。
【0051】
また、第1〜第4の実施形態では、RIE装置のシャワーヘッド41に形成される保護膜50を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、シャワーヘッド41以外の部材、たとえばチャンバ11の内壁、バッフル板24、フォーカスリング23、プラズマ処理対象を保持する支持テーブル21などに第1〜第4の実施形態による保護膜50を形成することができる。
【0052】
さらに、上記した説明では、プラズマ処理装置10としてRIE装置を例に挙げて説明したが、アッシング装置、CDE(Chemical Dry Etching)装置、CVD装置などの処理装置全般や半導体製造装置全般に、上記した実施形態を適用することができる。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
10…プラズマ処理装置、11…チャンバ、12…支持部、13…ガス供給口、14…ガス排気口、21…支持テーブル、22…絶縁リング、23…フォーカスリング、24…バッフル板、25…ガス排出孔、31…給電線、32…ブロッキングコンデンサ、33…整合器、34…高周波電源、41…シャワーヘッド、42…ガス供給路、43…屈曲部、44…角部、50…保護膜、51…イットリア膜、52…非溶融固化膜、53…溶融固化膜、55…構成部材、56…クラック、57…ダスト、61…プラズマ処理室、62…ガス供給室、63…ガス排気室、100…ウェハ、101…ネガ型フォトレジスト、101a…犠牲層、111…治具、421…ガス流路、422…吐出口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の径を有し、ガス流方向に延伸するガス流路と、前記ガス流路の一方の端部に接続され、ガス供給部材のガス流の下流側の面に設けられる吐出口と、を有するガス供給路を備え、
前記吐出口を構成する面の少なくとも一部の面は曲面によって構成され、
前記吐出口を構成する面上と、前記ガス供給部材の前記下流側の面上とにイットリア含有膜を備えることを特徴とするガス供給部材。
【請求項2】
前記曲面は、前記吐出口を構成する面と前記ガス供給部材の前記下流側の面との接続部付近に形成されることを特徴とする請求項1に記載のガス供給部材。
【請求項3】
前記イットリア含有膜は、前記吐出口を構成する面上で略同じ膜厚であることを特徴とする請求項1または2に記載のガス供給部材。
【請求項4】
前記イットリア含有膜は、前記吐出口付近の前記ガス流路を構成する面にも形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のガス供給部材。
【請求項5】
前記イットリア含有膜の厚さは、前記ガス流路と前記吐出口との境界付近に向かうにつれて薄くなることを特徴とする請求項1に記載のガス供給部材。
【請求項6】
前記イットリア含有膜は、前記ガス流路には形成されないことを特徴とする請求項5に記載のガス供給部材。
【請求項7】
前記吐出口は、前記ガス流路の一方の端部から離れるにしたがって開口径が増大し、前記ガス供給部材の前記下流側の面での開口径が前記第1の径よりも大きい第2の径となるように前記吐出口を構成する曲面が構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のガス供給部材。
【請求項8】
前記ガス供給部材の前記下流側の面は、前記吐出口から吐出されるガスがプラズマ化される際に、前記プラズマが生成される領域に面する前記ガス供給部材を構成する面であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載のガス供給部材。
【請求項9】
チャンバ内に、処理対象を保持する処理対象保持手段と、前記処理対象保持手段に前記吐出口が対向するように配置される請求項1〜8のいずれか1つに記載の前記ガス供給部材と、前記チャンバ内に導入されたガスをプラズマ化するプラズマ生成手段と、を備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項10】
第1の径を有し、ガス流方向に延伸するガス流路と、前記ガス流路の一方の端部に接続され、前記端部から、前記第1の径よりも大きい第2の径となるように開口径が増大し、ガス供給部材のガス流の下流側の面に設けられる吐出口と、を有するガス供給路を備え、前記吐出口を構成する面の少なくとも一部の面は曲面によって構成される前記ガス供給部材にイットリア含有膜を形成するイットリア含有膜の形成方法であって、
前記ガス供給部材の前記下流側の面上と、前記吐出口を構成する面上と、前記ガス流路の前記吐出口側付近の内面上とに前記イットリア含有膜を形成することを特徴とするイットリア含有膜の形成方法。
【請求項11】
第1の径を有し、ガス流方向に延伸するガス流路と、前記ガス流路の一方の端部に接続され、前記端部から、前記第1の径よりも大きい第2の径となるように開口径が増大し、ガス供給部材のガス流の下流側の面に設けられる吐出口と、を有するガス供給路を備え、前記吐出口を構成する面の少なくとも一部の面は曲面によって構成される前記ガス供給部材にイットリア含有膜を形成するイットリア含有膜の形成方法であって、
前記ガス供給部材の前記ガス流路を栓部材で塞いだ後、前記ガス供給部材の前記下流側の面上と、前記吐出口を構成する面上と、前記栓部材上と、にイットリア含有膜を形成し、前記ガス流路の前記栓部材を除去することを特徴とするイットリア含有膜の形成方法。
【請求項12】
前記イットリア含有膜を溶射法、CVD法、エアロゾルデポジション法、コールドスプレー法、ガスデポジション法、静電微粒子衝撃コーティング法、または衝撃焼結法によって形成することを特徴とする請求項10または11に記載のイットリア含有膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−84997(P2013−84997A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−18418(P2013−18418)
【出願日】平成25年2月1日(2013.2.1)
【分割の表示】特願2011−60711(P2011−60711)の分割
【原出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】