説明

ガス充填方法

【課題】無針注射器のガス供給源に適用できる程度まで、充填圧力の信頼性を高めることができるガス充填方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るガス充填方法では、まず、固有の識別子が付与された容器の充填前質量を該識別子に関連させて記録しておく。次に、圧力と温度を一定に保ったガスを、該容器に、所定時間充填する。続いて、該ガスが充填された該容器の充填後質量から、該容器の該識別子に関連させて記録されている該充填前質量を差し引いて該ガスの充填量を算出する。そして、該充填量が既定の規格範囲から外れた場合は該ガスが充填された容器を規格外と判定する。また、該充填量が既定の管理範囲から外れた場合は該所定時間を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスカートリッジ等の高圧ガス容器に、規定された圧力のガスを高い精度で充填するためのガス充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガス圧力を利用した無針注射器が普及しつつあるが、この無針注射器を使用して、必要な薬液を人体の皮下の決められた位置に正確に注入するためには、所定圧力のガスを極めて高い精度で供給する必要がある。そのため、この無針注射器のガス供給源としてガスカートリッジを採用する場合、そのガスカートリッジには極めて高い精度で所定の圧力のガスを充填する必要があり、そこに求められる信頼性は、99.999%以上となる。
【0003】
ところが、ガスカートリッジへのガス充填量は、通常、充填後の容器重量を所定値とすることで調整され、その容器重量も、ガスを充填する前の空の状態のものをある重量範囲の群に分けて管理されている。そのため、この群の範囲が充填公差となり、その充填圧力の信頼性は99.9%程度であった。そして、このような方法で充填されたガスカートリッジでは、無針注射器のガス供給源には適用できなかった。
【0004】
その一方で、ガス充填量の精度を高めるための様々な方法も提案されている。例えば、特開平6−213399号公報には、予め容積の分かっている基準タンクの圧力及び温度と、ガスを充填する容器の圧力及び温度とから、充填したガスの容積を測定する旨が開示されている。
【特許文献1】実開平6−213399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記測定法のように圧力や温度を利用してガス充填量を計測し、或いは上記文献に記載されているように流量計を利用してガス充填量を計測することにより、充填量を調整するガス充填方法では、ガスカートリッジの充填圧力の信頼性を無針注射器のガス供給源に求められる程度にまで向上させることはできなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、無針注射器のガス供給源に適用できる程度まで、充填圧力の信頼性を高めることができるガス充填方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガス充填方法では、まず、固有の識別子が付与された容器の充填前質量を該識別子に関連させて記録しておく。次に、圧力と温度を一定に保ったガスを、該容器に、所定時間充填する。続いて、該ガスが充填された該容器の充填後質量から、該容器の該識別子に関連させて記録されている該充填前質量を差し引いて該ガスの充填量を算出する。そして、該充填量が既定の規格範囲から外れた場合は該ガスが充填された容器を規格外と判定する。また、該充填量が既定の管理範囲から外れた場合は該所定時間を調整する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るガス充填方法によれば、圧力と温度を一定に保った状態で充填する時間を調整することにより、充填量を精密に制御できる。また、その充填時間は、充填作業が終了した容器に実際に充填された量に基づいて調整されるため、常に、設定された量のガスが充填されることになる。しかも、ガスが充填された容器は、固有の識別子を用いて充填量が検査され、所定量のガスが充填されていない場合は規格外と判定されるため、充填圧力が既定の規格範囲から外れる容器が出荷製品に含まれることはほとんど無い。従って、このガス充填方法によれば、無針注射器のガス供給源に適用できる程度まで、充填圧力の信頼性を高めることができる。
【0009】
更に、ガスが充填された容器には、固有の識別子が付与されているため、その識別子を利用した製造、出荷、販売その他の履歴調査を含めた製品管理を行うことが可能となる。そのため、製品として出荷された後も、識別子を利用した製品管理を通して、充填圧力の信頼性を高い状態で維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1、図2及び図3を参照しながら、本発明に係るガス充填方法の具体例を説明する。図1、図2及び図3は、容器にガスを充填して箱詰めするまでのガスカートリッジ製造工程を分割して示し、図1は容器にガスが充填されるまでの工程を、図2はガス充填終了後の耐熱及びリークに関する検査工程を、図3は外形に関する検査から最後の箱詰めまでの工程を、それぞれ示すフローチャート図である。
【0011】
この製造工程では、まず、最初の工程S1で、ガスを充填する容器の検査を行い、問題の無いことが確認されたら、工程S2で、容器固有の識別子、例えば、シリアル番号を刻印する。なお、この方法では、別の施設で製造された容器を使用するため、工程S1では受入れた容器を検査することとなっているが、自ら製造し既に検査が済んでいるものであれば、この工程を省略してもよい。また、工程S2では、容器への識別子の付与にレーザー刻印による方式を採用しているが、識別子と容器との関連性が維持される範囲で、その他の方式を採用してもよい。
【0012】
次に、識別子が刻印された容器の充填前質量を、第一計測工程S3で計測し識別子に関連させて記録する。この際、ガス充填後にその容器を封止する封板の質量も併せて計測しておく。なお、充填前質量の記録は、図示しない演算処理装置(コンピューター)で行われている。
【0013】
充填前質量の計測が終了したら、工程S4で目的のガスを容器に充填する。この際、ガスは、圧力と温度を一定に保ったまま、充填する時間を変えることにより、その充填量を制御する。また、ガスが充填された容器は、先の工程S3でその容器と共にその質量が計測された封板を使用して、注入口を封止する。なお、ガスを充填する方式や、注入口を封止する方式は、公知技術を採用すればよいので、その説明は省略する。
【0014】
次に、ガスが充填され封止された容器について、まず工程S5において、先の工程S2で付与された識別子を読み取り、次の第二計量工程S6において、その充填後質量の計測を行う。計測された充填後質量は、読み取られた識別子に関連させて記録しておく。
【0015】
第二計量工程S6が終了したら、そこで計測された充填後質量から、容器の識別子に関連させて記録されている充填前質量を差し引いてガスの充填量を算出する。この算出は、工程S7で行われるが、その結果、充填量が、予め設定されている規格に適合していないと判断された場合、例えば、ガス質量の規格値が100±5(95〜105)でガス質量が95未満若しくは105より大きい場合、工程S8で、ガスが充填された容器を規格外と判定する。また、工程S7においてガス量が規格値に適合していると判断されたものについては、更に工程S9において、既定の管理範囲に収まっているかどうかの判定がなされる。例えば、求められる信頼性を維持するための管理範囲が100±2(98〜102)であれば、ガス質量が96のものは、規格には適合するものの管理範囲から外れているものと判定される。そして、工程S10において、ガスを充填する時間の調整がなされる。なお、この工程S10で調整された充填時間は、先の工程S4の充填作業に反映され、その結果、後続の容器に正しい質量のガスが充填されることとなる。
【0016】
このS10までが本発明に係るガス充填方法に相当する部分であり、図2及び図3に示す工程は従来のガス充填方法と同様であるため、その詳述は省略し、以下、概略のみ説明する。
【0017】
正しい量のガスが充填されたと判定された容器については、まず、温度試験を行い、加熱に対する所定の耐久性を備えているかどうかを検査する。次に、充填ガスにわずかに含めたHeを利用し、リークの有無を検査する。そして、最後に傷の有無、外形寸法等、容器の外形に関する検査を行い、これらの検査に全て合格したものが箱詰めされ、正しい状態で箱詰めされたことが確認されれば、すべて終了となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】容器にガスを充填して箱詰めするまでのガスカートリッジ製造工程における、容器にガスが充填されるまでの工程を示すフローチャート図である。
【図2】容器にガスを充填して箱詰めするまでのガスカートリッジ製造工程における、ガス充填終了後の耐熱及びリークに関する検査工程を示すフローチャート図である。
【図3】容器にガスを充填して箱詰めするまでのガスカートリッジ製造工程における、外形に関する検査から最後の箱詰めまでの工程を示すフローチャート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有の識別子が付与された容器の充填前質量を該識別子に関連させて記録し、
圧力と温度を一定に保ったガスを、該容器に、所定時間充填し、
該ガスが充填された該容器の充填後質量から、該容器の該識別子に関連させて記録されている該充填前質量を差し引いて該ガスの充填量を算出し、
該充填量が既定の規格範囲から外れた場合は該ガスが充填された容器を規格外と判定し、
該充填量が既定の管理範囲から外れた場合は該所定時間を調整することを特徴とするガス充填方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−261406(P2008−261406A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103995(P2007−103995)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(390009818)日本炭酸瓦斯株式会社 (11)
【Fターム(参考)】