ガス分析装置及びガス分析方法
【課題】質量分析方式を用いて空気中の有害成分等を検知あるいは定量するガス分析装置において、湿度変化による測定対象物質の信号強度の変化に対し、湿度計や内部標準物質を用いることなく簡便に校正する方法を提供する。
【解決手段】大気中に通常含まれる成分ガスのイオンのうち、湿度に対して正の相関を有するイオンと負の相関を有するイオンの湿度依存性をそれぞれデータベースとして保有し、これを利用して測定対象物質の信号強度を校正する。
【解決手段】大気中に通常含まれる成分ガスのイオンのうち、湿度に対して正の相関を有するイオンと負の相関を有するイオンの湿度依存性をそれぞれデータベースとして保有し、これを利用して測定対象物質の信号強度を校正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析技術に関し、特に質量分析計を用いて大気中の成分ガス濃度を測定する方法及び装置に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
空気中の有害成分等を検知あるいは定量するためのガス分析装置が必要とされている。質量分析技術を用いるガス分析装置は感度と選択性に優れ、微量の有害成分等を特異的に検知できる。質量分析方式のうちでも大気圧化学イオン化質量分析方式は、そのイオン化効率の高さにより高感度である。その反面、イオン化効率が共存成分の影響を受けやすく、定量精度は良好でない。特に、ガスクロマトグラフ等の前段分離手段を用いず、空気試料を直接質量分析計に導入して測定する方式は、即時あるいはリアルタイムに分析を実施できる特長がある反面、共存物質の影響が大きく正確な濃度測定が困難である。
【0003】
大気圧化学イオン化法における主要な正イオン化反応は次式と考えられている。すなわち、空気中の水分からプロトンが生成し(式1)、成分ガスへ付加する反応(式2)である。このプロトン付加反応は共存物質との競合反応であるため、共存物質の存在により測定対象物質のイオン化が抑制される。その抑制効果の大きさは、共存物質のプロトン親和性と濃度に依存すると考えられている。
【0004】
【化1】
【0005】
ここで、Mは空気試料中の含有成分であり、測定対象物質あるいは共存成分である。上付きの記号「・」は活性種であることを示す。空気中の水分は、(式1)におけるようにプロトン発生源であると同時に、(式2)におけるMともなりうる。従って、水分濃度が高すぎると測定対象物質のイオン化が阻害される。
【0006】
一方、負イオンの主要な生成反応の一つは次式と考えられている。すなわち、空気中に多量に存在する酸素分子が電子を獲得してO2−へとイオン化し(式3)、O2−から他の物質へ電子が移動する反応(式4)である。この電荷移動反応は競合反応であるため、共存物質の存在により測定対象物質のイオン化が抑制される。その抑制効果の大きさは、共存物質の電子親和性と濃度に依存すると考えられている。
【0007】
【化2】
【0008】
発明者らの知見では、水分子の(式4)によるイオン化効率は極めて小さい。しかしながら、水分子は酸素分子イオンとのクラスター((H2O)nO2−)を形成するため、(式4)の反応と競合し、測定対象物質のイオン化を抑制する可能性が考えられる。
【0009】
別の主要な負イオン生成反応としては次式の反応が知られている。すなわち、酸素分子イオンによるプロトン引き抜きにより(M−H)−が生成する反応(式5)である。本反応の効率には水分は影響しないと推測される。
(式5) M + O2− → (M−H)− + HO2
【0010】
大気中の水分濃度は、季節や気象条件によって大きく変動し、測定対象物質の信号強度に大きく影響する。そこで、予め測定対象物質の信号強度の湿度依存性をデータベースとして保有し、湿度実測値をデータベースに当てはめて信号強度を校正する方法が広く用いられている。
【0011】
特許文献1には、空気試料に乾燥空気を混合して希釈することにより、湿度影響を低減する方法が開示されている。
【0012】
特許文献2及び特許文献3には、測定対象ガスに水分を添加して一定の水分濃度に維持することにより、湿度変化に対する信号強度の校正を不要化する方法が開示されている。
【0013】
特許文献4には、内部標準物質を用いて測定対象物質の信号強度を校正する方法が開示されている。内部標準物質としてそのイオン化効率が測定対象物質と類似する物質を選択して用いることにより、データベースを用いることなくあらゆるイオン化妨害成分に対して校正がかかる。
【0014】
特許文献5には、半導体用高純度ガス中の主成分ガスと微量不純物である水分子とのクラスターイオンの信号強度から水分濃度を測定する方法が開示されている。これによれば、1000ppb以下の水分濃度範囲において、主成分ガスである酸素分子の正イオン(O2+)と水分子とのクラスターイオン((H2O)O2+)の信号強度が水分濃度に対し、直線性の良好な正の相関関係を有することが記載されている。同様に、30〜1000ppbの水分濃度範囲において、水分子クラスターイオン((H2O)2H+)の信号強度が水分濃度に対して直線性の良好な正の相関関係を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005−98705号公報
【特許文献2】特開2005−300288号公報
【特許文献3】特開2006−322899号公報
【特許文献4】特開2001−147216号公報
【特許文献5】WO98/09162
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ガスクロマトグラフなどの前段分離手段を用いず空気試料を大気圧化学イオン化質量分析計に直接導入して成分分析するガス分析装置は、即時あるいはリアルタイムで微量の有害成分を特異的に検知できる特長を有するが、共存成分によるイオン化阻害効果の影響を受けやすい。大気中に通常存在する共存成分のうち、水分は高濃度でかつ濃度変動が激しいため、測定対象物質の信号強度に大きく影響する。
【0017】
測定対象物質の信号強度と湿度との関係をデータベースとして保有し、空気試料の湿度を実測してデータベースに当てはめて測定対象物質の信号強度を校正する方法は、ガス分析装置の原理によらず広く採用されている。しかしながら、湿度計を備える必要があり、装置が複雑で、保守が煩雑である。
【0018】
特許文献1に開示された方法によれば、空気試料に乾燥空気を混合して希釈することにより、水分濃度を低減すると同時に水分濃度の変動範囲を縮小することができる。また湿度以外の共存成分も希釈される利点がある。しかしながら、測定対象物質も同様に希釈されるため、湿度低減による信号強度の増大効果と概ね相殺され、信号強度は殆ど変化しない。また、希釈により水分濃度の変動範囲は縮小されるが、変動率は変化しない。例えば、空気試料の湿度が1%から5%へと5倍に変化した場合、乾燥空気による10倍希釈後の湿度は0.1%から0.5%へと、やはり5倍に変化することになる。発明者らの知見によれば、湿度変化による信号強度の変化率は、湿度変化前後の湿度差ではなく、概ね湿度比に依存する。従って、この方法による測定精度の向上は限定的である。
【0019】
特許文献2及び特許文献3に開示された方法によれば、測定対象ガスに水分を添加して水分濃度を一定に維持することにより、湿度変化に対する信号強度の校正を不要とすることができる。しかしながら、一定湿度に維持するために水分添加機構と湿度計を用いる湿度調節装置が必要であり、装置が複雑化し、保守が煩雑となる。また、水分を加えて比較的高湿度で測定を実施するので、水分によるイオン化抑制効果により信号強度が減衰し検出感度が損なわれる場合がある。
【0020】
特許文献4に開示された方法では、内部標準物質としてそのイオン化効率が測定対象物質と類似する物質を用いて濃度校正を行なう。イオン化効率が類似であれば共存物質によるイオン化抑制効果も類似と考えてよいので、データベースを用いることなく、水分を含むあらゆる共存物質に対して適切な校正がかかると期待できる。
【0021】
しかしながら、水分の影響はイオン化抑制効果のみではない。例えば、ある種の物質に対する加水分解効果やガス導入配管などの装置各部への吸着を抑制する効果が認められる。吸着抑制効果があると、イオン化抑制効果とは逆に、湿度上昇に伴い信号強度が増加することになる。また加水分解効果が大きい物質に対しては、加水分解物を測定対象とする場合がある。この場合にも湿度上昇により信号強度が増加することになる。このような場合には、特許文献4の方法では校正の正確さが損なわれるばかりか、却って逆効果となり得る。内部標準物質として加水分解効果や吸着抑制効果の類似する物質を選定する手段も考えられるが、易分解性あるいは高吸着性の物質は扱いづらく、内部標準物質には適さない。
【0022】
特許文献5によれば、半導体用高純度ガス中の主成分ガスである酸素分子の正イオンと微量不純物である水分子とのクラスターイオン((H2O)O2+)の信号強度と水分濃度(0〜1000ppb)との間に直線関係があることを利用することにより、水分濃度を精度良く測定できる。また、水分子クラスターイオン((H2O)nH+)(n=1又は2)の信号強度と水分濃度(30〜1000ppb)との間にも直線関係があることが記載されている。しかしながら、4〜6桁程も高い通常の大気の湿度条件におけるこれらのイオンと湿度との関係は予測し難い。
【0023】
特許文献2には、水分子クラスターイオン((H2O)nH+)のうちn=2〜5のいずれかのイオンの強度が最大となるように、測定対象ガスに水分を添加してその水分濃度を1%以上に上げると、測定対象物質のイオン強度が最大になることが記載されている。しかしながら、水分子クラスターイオンの強度と湿度との関係については言及されていない。
【0024】
本発明では、大気圧化学イオン化質量分析法を用いるガス分析装置において、通常の空気試料の湿度範囲において、湿度計や内部標準物質を用いることなく、湿度変化に対して測定対象物質の信号強度を校正できる、簡便な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
発明者らは、通常の大気の湿度範囲において水分子クラスターイオン((H2O)nH+(n≧1))の信号強度と湿度との関係を調べ、その湿度依存性がnにより相違し、湿度に対して正の相関関係を有するもの、湿度に対して負の相関関係を有するもの、極大値を有するものなどが存在することを見出した。また、同じnであってもイオン化部の設定温度等の装置条件を調整することによりその湿度依存性を制御できることを見出した。また、負イオン測定においては、酸素分子イオンの水分子クラスターイオン((H2O)nO2−(n≧0))の湿度依存性がnに依存し、かつイオン化部の設定温度等の装置条件を調整することにより制御できることを見出した。この知見を利用して本発明では、水分子クラスターイオンのうち、信号強度が湿度に対して正又は負の相関関係を有する少なくとも1種類のイオンと湿度との関係を利用して、湿度変化による測定対象物質の信号強度の変動を校正することにより、上記課題を解決する。
【0026】
本発明の一態様によるガス分析装置は、試料ガスを導入するガス導入部と、ガス導入部から導入された試料ガスの成分をイオン化して質量分析する質量分析計と、水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン(H2O)nO2−,n=0〜3)のうち少なくとも一つを校正用イオンとして、校正用イオンの信号強度と湿度との関係、及び測定対象物質のイオンの信号強度と湿度との関係を保持するデータベースと、演算部とを備え、演算部は、データベースを参照して、質量分析計で測定した前記校正用イオンの信号強度から湿度を求め、その湿度をもとに質量分析計で測定した測定対象物のイオンの信号強度を校正する。
【0027】
また、本発明の他の態様によるガス分析装置は、試料ガスを導入するガス導入部と、ガス導入部から導入された試料ガスの成分をイオン化して質量分析する質量分析計と、水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜3)のうち少なくとも一つを校正用イオンとして、校正用イオンの信号強度と測定対象物質のイオンの信号強度に対する補正係数との間の関係を保持するデータベースと、演算部とを備え、演算部は、データベースを参照して、質量分析計で測定した校正用イオンの信号強度から求めた補正係数によって質量分析計で測定した測定対象物のイオンの信号強度を校正する。
【0028】
校正用イオンとしては、信号強度が湿度に対して負の相関を有するイオンを用いてもよい。
【0029】
また、信号強度が湿度に対して正の相関を有する測定対象物質に対しては、校正用イオンとして信号強度が湿度に対して正の相関を有する校正用イオンを用いるのが好ましく、信号強度が湿度に対して負の相関を有する測定対象物質に対しては、校正用イオンとして信号強度が湿度に対して負の相関を有する校正用イオンを用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、測定対象ガスに通常含まれる成分で構成されるイオンの信号強度の湿度依存性を利用して、測定対象物質の信号強度を校正することができる。従って、校正用の標準物質や湿度計を用いる必要がない。そのため、簡易な装置構成により、湿度変化による測定対象物質の信号強度を校正して正確な濃度を表示できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のガス分析装置の構成例を示す図。
【図2】空気の負イオン質量スペクトルを示す図。
【図3】酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜2)の湿度依存性を示す図。
【図4】空気の正イオン質量スペクトルを示す図。
【図5】水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)の湿度依存性を示す図。
【図6】マスタードガスの信号強度の湿度依存性を示す図。
【図7】水分子クラスターイオンを用いる校正法の手順を示す図。
【図8】水分子クラスターイオンを用いる校正法の別の手順を示す図。
【図9】マスタードガスの信号強度の校正結果を示す図。
【図10】ジフェニルクロロアルシンの信号強度の湿度依存性を示す図。
【図11】酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜3))の湿度依存性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0033】
[実施例1]
図1に、本発明の大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計を用いるガス分析装置の構成例を示す。測定対象ガスは大気圧化学イオン化質量分析計(APCI−MS)1に内蔵された吸引ポンプ11により吸引され、試料吸引配管21を通って、放電針13と対向電極14を備えるコロナ放電部に導入される。放電針13と対向電極14との間にはコロナ放電を生じさせるために高電圧が印加されている。コロナ放電部及びその近傍において測定対象ガスの構成成分は大気圧化学イオン化の原理によってイオン化される。生成されたイオンは、放電針13、対向電極14、第一細孔電極15、第二細孔電極16、第三細孔電極17により形成される電界に沿って進行し、静電レンズ18による収束作用を受けてイオントラップ19内部に導入される。イオントラップ19の内部にイオンは捕捉され、イオントラップ型質量分析計の原理により質量分析される。
【0034】
図には明示していないが、制御部2により、試料吸引配管21、コロナ放電部、第一細孔電極15、第二細孔電極16、第三細孔電極17の各部はそれぞれ所定の温度に制御されている。また制御部2は、演算部3及びデータベース4を有し、測定対象物質の信号強度及びその信号強度を校正するための校正用イオンの信号強度を測定し、それらの信号強度とデータベースを用いて演算することにより、湿度変化に対する測定対象物質の信号強度の変動を校正し、正確な濃度表示を行なうことができる。
【0035】
図2に、湿度64g/m3(7.9%)における空気の負イオン質量スペクトルを示す。試料空気は、高純度空気に水分を加えて調製したものである。酸素分子イオン(O2−)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)O2−及び(H2O)2O2−)が観測される。
【0036】
図3に、湿度2〜64g/m3の範囲における、これらのイオンの信号強度と湿度との関係を示す。この湿度範囲は露点温度に換算すると−12℃〜45℃であり、通常の大気の湿度変動範囲をほぼカバーしている。この湿度範囲において、O2−イオンの信号強度は湿度上昇に伴って単調減少し、(H2O)2O2−イオンの信号強度は単調増加する。すなわち、これら2種類のイオンの信号強度と湿度とは一対一に対応する。本装置ではこれら2種類のイオンの信号強度と湿度との関係をデータベースとして保有し、それらのイオンの信号強度を実測してデータベースに当てはめることにより湿度を求めることができる。一方、(H2O)O2−イオンの信号強度は湿度13g/m3(露点15℃)付近で極大となるため、このイオンの信号強度から通常の大気の湿度範囲において湿度を決定することはできない。
【0037】
図4に、湿度64g/m3(7.9%)における空気の正イオン質量スペクトルを示す。図示するように、水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)が観測される。
【0038】
図5に、湿度0〜64g/m3の範囲における、これらのイオンの信号強度と湿度との関係を示す。湿度上昇に伴ってn=3及び4の水分子クラスターイオンは単調増加し、n=1の水分子クラスターイオンは単調減少する。すなわち、これら3種類のイオンの信号強度と湿度とは一対一に対応する。本装置ではこれら3種類のイオンの信号強度と湿度との関係をデータベースとして保有し、それらのイオンの信号強度を実測してデータベースに当てはめることにより湿度を求めることができる。一方、n=2の水分子クラスターイオンについても湿度3〜64g/m3の範囲で単調減少するので、校正用イオンとして使用することができるが、湿度3〜10g/m3の範囲での減少率は非常に弱いので、他のイオンに比べて校正精度は劣る。
【0039】
図6に、毒ガスの一種であるマスタードガスのイオン強度と湿度との関係を示す。このイオンはマスタードガス分子にプロトンが付加した正イオンであり、湿度上昇によりイオン化が阻害されて信号強度が減衰するものと考えられる。発明者らの知見によれば、多くの物質は大気圧化学イオン化においてプロトン付加反応によりイオン化し、湿度1〜2g/m3(0.12〜0.25%)より高湿度においては湿度の上昇により信号強度が単調減少する。
【0040】
図7に、水分子クラスターイオンの湿度依存性のデータベースを基にして測定対象物質の信号強度を校正するための演算手順を示す。まず、水分子クラスターイオンの信号強度をその湿度依存性データベースに当てはめて湿度H’を算出する。これを測定対象物質の湿度依存性データベース(I=I(H))に当てはめて補正係数k(=I(H0)/I(H’))を算出する。ここで、I(H)は湿度Hでの測定対象物質の信号強度、H0は基準湿度である。次に、測定対象物質の信号強度の実測値Aに補正係数kを乗じて校正し、基準湿度H0における測定対象物質の検量線に当てはめることにより、測定対象物質の濃度を算出する。測定対象物質が負イオンの場合には、図7において(H2O)nH+を(H2O)nO2−に置き換えた手順を用いる。
【0041】
図8に、水分子クラスターイオンの湿度依存性データベースを基にして測定対象物質の信号強度を校正するための別の演算手順を示す。水分子クラスターイオンの信号強度の実測値(B)を演算式(k=f(B,B0))に代入して補正係数kを算出する。次に、測定対象物質の信号強度(A)に補正係数を乗じて補正信号強度(kA)を算出する。最後に、補正信号強度を測定対象物質の検量線に当てはめて測定対象物質の濃度を算出する。測定対象物質が負イオンの場合には、図8において(H2O)nH+を(H2O)nO2−に置き換えた手順を用いる。なお、水分子クラスターイオンの信号強度の実測値(B)に対応する補正係数kを演算式ではなくテーブルの形でデータベースに保持し、そのテーブルを参照して補正係数を求めるようにしてもよい。測定対象物質が複数ある場合には、補正係数を算出するための演算式あるいはテーブルは、測定対象物質毎にそれぞれ用意する。
【0042】
図8の補正方法の一例として、図4に示した(H2O)H+イオンの信号強度の湿度依存性を用いて図6のマスタードガスの信号強度を補正した結果を図9に示す。ここでは、演算式(k=f(B,B0))として、k=(B/B0)4を用いた。ここで、B0はデータベースとして保有する数値であり、基準湿度H0における(H2O)H+イオンの信号強度である。ここでは、H0=3g/m3とした。校正後の信号強度は、基準湿度での信号強度にほぼ揃っており、校正が適切に実施されることが示されている。
【0043】
この例では、湿度に対して負の相関を有するマスタードガスの信号に対して、その信号強度が湿度に対して同じく負の相関を有する(H2O)H+イオンを用いて校正を実施した。これに対し、湿度に対して正の相関を有する(H2O)4H+イオンを用いても、同様の手順によってマスタードガスの信号強度を校正することができる。しかし、水分以外の共存成分によりイオン化が抑制された場合、(H2O)4H+イオン、マスタードガスイオン共に信号強度が低下する。このとき、本校正法では(H2O)4H+イオンの信号強度の低下を湿度の低下と誤解し、マスタードガスの信号強度を高湿度方向に補正することになる。すなわちマスタードガスの信号は校正によりさらに低下することになり、逆効果となる。従って、測定対象物質とその校正用イオンとは、それらの信号強度の湿度依存性がいずれも正又はいずれも負の相関を有することが好ましい。
【0044】
図10に、毒ガスの一種であるジフェニルクロロアルシンのイオン強度と湿度との関係を示す。このイオンは、ジフェニルクロロアルシン分子から塩素イオン(Cl−)が脱離した構造の正イオンである。このイオンは、湿度0から3g/m3までの範囲ではイオン強度が急増し、その後は湿度上昇に伴い緩やかに増加する。このように信号強度が湿度に対して正の相関を有する場合には、(H2O)4H+イオンのように信号強度が湿度に対して正の相関を有するイオンを用いて校正を実施するのが好ましい。
【0045】
以上の説明は負イオンの場合にも同様にあてはまる。従って、負イオンにおいても、測定対象物質とその校正用イオンとは、それらの信号強度が湿度に対していずれも正又はいずれも負の相関を有することが好ましい。従って、測定対象物質の信号強度が湿度に対して正の相関を有する場合には(H2O)2O2−イオンを、測定対象物質の信号強度が湿度に対して負の相関を有する場合にはO2−イオンを用いて校正するのが好ましい。
【0046】
本装置は、水分以外の共存成分によるイオン化抑制効果の影響を低減する別の手段を備える。この手段においては、流路切替バルブ23を閉じて、流路切替バルブ24を開くことにより、フィルター22を通して試料空気をコロナ放電部に導入する。フィルター22は水分及び酸素などの透過率が高く、有機化合物などの透過率が低い性質を有する。このフィルター22を通すことによって試料空気中の水分以外の共存成分を減少させることができる。そのため、校正用イオンの信号強度に対する共存成分の影響が低減し、結果的に湿度を正確に求めることができる。そのため、校正用イオンの選定にあたって、その信号強度と湿度との相関関係の正負を考慮する必要がないため、制約が少ないという利点がある。測定対象物質の測定は、フィルター22を通さずに試料空気をコロナ放電部に導入して行なう。そのため、測定対象物質に対する共存成分の影響は低減されない。そのため、測定対象物質のイオン化効率が高く、従って共存成分の影響を受けにくい場合に特に有効である。
【0047】
なお、図1の装置例では、試料空気をコロナ放電部に導く流路を、フィルター22を配置した流路と配置しない流路の2つに分岐し、流路選択によってフィルター22を使用するか否かを選択できるようにした。しかし、フィルターの設置方法はそれに限られず、1つの流路にフィルターを着脱自在に設け、フィルターを流路に挿入したり流路から退避したりすることによって、試料空気をフィルターに通すか通さないかを選択できるようにしてもよい。
【0048】
水分子クラスターイオンの湿度依存性は、装置各部の温度や電圧などの装置条件に依存する。そのため、装置条件によりこれらのイオンの湿度依存性を調節して最適化することができる。あるいは、装置条件が何らかの理由により制約を受ける場合、例えば測定対象物質が熱分解しやすい物質であって装置各部の設定温度に制約がある場合などには、その装置条件において校正用イオンを適切に選定すればよい。また、水分子クラスターイオンの湿度依存性は、測定に使用する装置自体によっても変化する。従って、分析に使用しているガス分析装置に起因する条件をも考慮して校正用イオンを選定する必要がある。
【0049】
図11に、装置条件の一つである装置温度を変更したときの酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−(n=0〜3))の湿度依存性を示す。ここで装置温度とは、コロナ放電部と第一細孔電極の温度を指し、本例では両者を同一温度にして100℃に設定した。第三細孔電極の温度は120℃、試料吸引配管の温度は100℃に設定した。第二細孔電極の温度は制御しておらず、第一細孔電極と第三細孔電極の中間的温度となっている。この装置条件のもとでは、図11に示すように、(H2O)O2−イオン及び(H2O)3O2−イオンの信号強度は湿度0〜40g/m3程度の広い湿度領域で単調増加するため、校正用イオンとして使用できる。
【0050】
水分子クラスターイオン((H2O)nH+)あるいは酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−)のnが大きくなるに従い、共存成分である有機化合物のイオンや種々のクラスターイオンのピークが混在し、それらのイオンとの区別が困難となる。質量分析計としてタンデム質量分析計を用いれば、(式6)あるいは(式7)のように、水分子クラスターイオンあるいは酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオンを解離してフラグメントイオンの信号強度を測定することができる。これにより、校正用イオンの測定精度を向上し、校正結果をより正確なものとすることができる。
(式6) (H2O)nH+ → (H2O)n-1H+ (n≧2)
(式7) (H2O)nO2− → (H2O)n-1O2− (n≧1)
【0051】
本装置は内部標準物質の添加機構を備える。内部標準物質は開口部を有する保持容器31に収容され、試料吸引配管21に接続される内部標準物質注入配管32の経路中に配置される。保持容器31内で揮発した内部標準物質は開口部より外部へ拡散し、高純度空気の流れによってコロナ放電部に導入される。その導入量は、流量調節器33により高純度空気の流量を調節することにより制御される。内部標準物質を添加する場合には、流路切替バルブ34を開き、流路切替バルブ35を閉じる。添加しない場合には流路切替バルブ34を閉じて流路切替バルブ35を開く。
【0052】
複数の測定対象物質のうち、適切な内部標準物質が入手可能である場合には、その測定対象物質に対して内部標準物質による校正を実施することにより、一部の測定対象物質に関して良好な校正が可能となる。また、その他の測定対象物質の数が減少するので、装置条件による(H2O)nH+イオンあるいは(H2O)nO2−イオンの湿度依存性の最適化が容易となり、結果的にその他の測定対象物質の校正精度をも向上することができる。
【0053】
同様に、その信号強度が湿度に対して正の相関を有し、したがって適切な内部標準物質が入手しがたい測定対象物質に対しては(H2O)nH+イオンあるいは(H2O)nO2−イオンによる校正を実施し、その信号強度が湿度に対して負の相関を有する多くの物質あるいはその一部の物質に対しては内部標準物質による校正を実施しても良い。そうすることにより、装置条件による(H2O)nH+イオンあるいは(H2O)nO2−イオンの湿度依存性の最適化が容易となり、結果的にその他の測定対象物質の校正精度をも向上することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…大気圧化学イオン化質量分析計
2…制御部
3…演算部
4…データベース
11…吸引ポンプ
13…放電針
14…対向電極
15…イオン導入第一細孔
16…イオン導入第二細孔
17…イオン導入第三細孔
18…静電レンズ
19…イオントラップ
21…試料吸引配管
22…フィルター
23,24,34,35…流路切替バルブ
31…保持容器
32…内部標準物質注入配管
33…流量調節器
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析技術に関し、特に質量分析計を用いて大気中の成分ガス濃度を測定する方法及び装置に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
空気中の有害成分等を検知あるいは定量するためのガス分析装置が必要とされている。質量分析技術を用いるガス分析装置は感度と選択性に優れ、微量の有害成分等を特異的に検知できる。質量分析方式のうちでも大気圧化学イオン化質量分析方式は、そのイオン化効率の高さにより高感度である。その反面、イオン化効率が共存成分の影響を受けやすく、定量精度は良好でない。特に、ガスクロマトグラフ等の前段分離手段を用いず、空気試料を直接質量分析計に導入して測定する方式は、即時あるいはリアルタイムに分析を実施できる特長がある反面、共存物質の影響が大きく正確な濃度測定が困難である。
【0003】
大気圧化学イオン化法における主要な正イオン化反応は次式と考えられている。すなわち、空気中の水分からプロトンが生成し(式1)、成分ガスへ付加する反応(式2)である。このプロトン付加反応は共存物質との競合反応であるため、共存物質の存在により測定対象物質のイオン化が抑制される。その抑制効果の大きさは、共存物質のプロトン親和性と濃度に依存すると考えられている。
【0004】
【化1】
【0005】
ここで、Mは空気試料中の含有成分であり、測定対象物質あるいは共存成分である。上付きの記号「・」は活性種であることを示す。空気中の水分は、(式1)におけるようにプロトン発生源であると同時に、(式2)におけるMともなりうる。従って、水分濃度が高すぎると測定対象物質のイオン化が阻害される。
【0006】
一方、負イオンの主要な生成反応の一つは次式と考えられている。すなわち、空気中に多量に存在する酸素分子が電子を獲得してO2−へとイオン化し(式3)、O2−から他の物質へ電子が移動する反応(式4)である。この電荷移動反応は競合反応であるため、共存物質の存在により測定対象物質のイオン化が抑制される。その抑制効果の大きさは、共存物質の電子親和性と濃度に依存すると考えられている。
【0007】
【化2】
【0008】
発明者らの知見では、水分子の(式4)によるイオン化効率は極めて小さい。しかしながら、水分子は酸素分子イオンとのクラスター((H2O)nO2−)を形成するため、(式4)の反応と競合し、測定対象物質のイオン化を抑制する可能性が考えられる。
【0009】
別の主要な負イオン生成反応としては次式の反応が知られている。すなわち、酸素分子イオンによるプロトン引き抜きにより(M−H)−が生成する反応(式5)である。本反応の効率には水分は影響しないと推測される。
(式5) M + O2− → (M−H)− + HO2
【0010】
大気中の水分濃度は、季節や気象条件によって大きく変動し、測定対象物質の信号強度に大きく影響する。そこで、予め測定対象物質の信号強度の湿度依存性をデータベースとして保有し、湿度実測値をデータベースに当てはめて信号強度を校正する方法が広く用いられている。
【0011】
特許文献1には、空気試料に乾燥空気を混合して希釈することにより、湿度影響を低減する方法が開示されている。
【0012】
特許文献2及び特許文献3には、測定対象ガスに水分を添加して一定の水分濃度に維持することにより、湿度変化に対する信号強度の校正を不要化する方法が開示されている。
【0013】
特許文献4には、内部標準物質を用いて測定対象物質の信号強度を校正する方法が開示されている。内部標準物質としてそのイオン化効率が測定対象物質と類似する物質を選択して用いることにより、データベースを用いることなくあらゆるイオン化妨害成分に対して校正がかかる。
【0014】
特許文献5には、半導体用高純度ガス中の主成分ガスと微量不純物である水分子とのクラスターイオンの信号強度から水分濃度を測定する方法が開示されている。これによれば、1000ppb以下の水分濃度範囲において、主成分ガスである酸素分子の正イオン(O2+)と水分子とのクラスターイオン((H2O)O2+)の信号強度が水分濃度に対し、直線性の良好な正の相関関係を有することが記載されている。同様に、30〜1000ppbの水分濃度範囲において、水分子クラスターイオン((H2O)2H+)の信号強度が水分濃度に対して直線性の良好な正の相関関係を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005−98705号公報
【特許文献2】特開2005−300288号公報
【特許文献3】特開2006−322899号公報
【特許文献4】特開2001−147216号公報
【特許文献5】WO98/09162
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ガスクロマトグラフなどの前段分離手段を用いず空気試料を大気圧化学イオン化質量分析計に直接導入して成分分析するガス分析装置は、即時あるいはリアルタイムで微量の有害成分を特異的に検知できる特長を有するが、共存成分によるイオン化阻害効果の影響を受けやすい。大気中に通常存在する共存成分のうち、水分は高濃度でかつ濃度変動が激しいため、測定対象物質の信号強度に大きく影響する。
【0017】
測定対象物質の信号強度と湿度との関係をデータベースとして保有し、空気試料の湿度を実測してデータベースに当てはめて測定対象物質の信号強度を校正する方法は、ガス分析装置の原理によらず広く採用されている。しかしながら、湿度計を備える必要があり、装置が複雑で、保守が煩雑である。
【0018】
特許文献1に開示された方法によれば、空気試料に乾燥空気を混合して希釈することにより、水分濃度を低減すると同時に水分濃度の変動範囲を縮小することができる。また湿度以外の共存成分も希釈される利点がある。しかしながら、測定対象物質も同様に希釈されるため、湿度低減による信号強度の増大効果と概ね相殺され、信号強度は殆ど変化しない。また、希釈により水分濃度の変動範囲は縮小されるが、変動率は変化しない。例えば、空気試料の湿度が1%から5%へと5倍に変化した場合、乾燥空気による10倍希釈後の湿度は0.1%から0.5%へと、やはり5倍に変化することになる。発明者らの知見によれば、湿度変化による信号強度の変化率は、湿度変化前後の湿度差ではなく、概ね湿度比に依存する。従って、この方法による測定精度の向上は限定的である。
【0019】
特許文献2及び特許文献3に開示された方法によれば、測定対象ガスに水分を添加して水分濃度を一定に維持することにより、湿度変化に対する信号強度の校正を不要とすることができる。しかしながら、一定湿度に維持するために水分添加機構と湿度計を用いる湿度調節装置が必要であり、装置が複雑化し、保守が煩雑となる。また、水分を加えて比較的高湿度で測定を実施するので、水分によるイオン化抑制効果により信号強度が減衰し検出感度が損なわれる場合がある。
【0020】
特許文献4に開示された方法では、内部標準物質としてそのイオン化効率が測定対象物質と類似する物質を用いて濃度校正を行なう。イオン化効率が類似であれば共存物質によるイオン化抑制効果も類似と考えてよいので、データベースを用いることなく、水分を含むあらゆる共存物質に対して適切な校正がかかると期待できる。
【0021】
しかしながら、水分の影響はイオン化抑制効果のみではない。例えば、ある種の物質に対する加水分解効果やガス導入配管などの装置各部への吸着を抑制する効果が認められる。吸着抑制効果があると、イオン化抑制効果とは逆に、湿度上昇に伴い信号強度が増加することになる。また加水分解効果が大きい物質に対しては、加水分解物を測定対象とする場合がある。この場合にも湿度上昇により信号強度が増加することになる。このような場合には、特許文献4の方法では校正の正確さが損なわれるばかりか、却って逆効果となり得る。内部標準物質として加水分解効果や吸着抑制効果の類似する物質を選定する手段も考えられるが、易分解性あるいは高吸着性の物質は扱いづらく、内部標準物質には適さない。
【0022】
特許文献5によれば、半導体用高純度ガス中の主成分ガスである酸素分子の正イオンと微量不純物である水分子とのクラスターイオン((H2O)O2+)の信号強度と水分濃度(0〜1000ppb)との間に直線関係があることを利用することにより、水分濃度を精度良く測定できる。また、水分子クラスターイオン((H2O)nH+)(n=1又は2)の信号強度と水分濃度(30〜1000ppb)との間にも直線関係があることが記載されている。しかしながら、4〜6桁程も高い通常の大気の湿度条件におけるこれらのイオンと湿度との関係は予測し難い。
【0023】
特許文献2には、水分子クラスターイオン((H2O)nH+)のうちn=2〜5のいずれかのイオンの強度が最大となるように、測定対象ガスに水分を添加してその水分濃度を1%以上に上げると、測定対象物質のイオン強度が最大になることが記載されている。しかしながら、水分子クラスターイオンの強度と湿度との関係については言及されていない。
【0024】
本発明では、大気圧化学イオン化質量分析法を用いるガス分析装置において、通常の空気試料の湿度範囲において、湿度計や内部標準物質を用いることなく、湿度変化に対して測定対象物質の信号強度を校正できる、簡便な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
発明者らは、通常の大気の湿度範囲において水分子クラスターイオン((H2O)nH+(n≧1))の信号強度と湿度との関係を調べ、その湿度依存性がnにより相違し、湿度に対して正の相関関係を有するもの、湿度に対して負の相関関係を有するもの、極大値を有するものなどが存在することを見出した。また、同じnであってもイオン化部の設定温度等の装置条件を調整することによりその湿度依存性を制御できることを見出した。また、負イオン測定においては、酸素分子イオンの水分子クラスターイオン((H2O)nO2−(n≧0))の湿度依存性がnに依存し、かつイオン化部の設定温度等の装置条件を調整することにより制御できることを見出した。この知見を利用して本発明では、水分子クラスターイオンのうち、信号強度が湿度に対して正又は負の相関関係を有する少なくとも1種類のイオンと湿度との関係を利用して、湿度変化による測定対象物質の信号強度の変動を校正することにより、上記課題を解決する。
【0026】
本発明の一態様によるガス分析装置は、試料ガスを導入するガス導入部と、ガス導入部から導入された試料ガスの成分をイオン化して質量分析する質量分析計と、水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン(H2O)nO2−,n=0〜3)のうち少なくとも一つを校正用イオンとして、校正用イオンの信号強度と湿度との関係、及び測定対象物質のイオンの信号強度と湿度との関係を保持するデータベースと、演算部とを備え、演算部は、データベースを参照して、質量分析計で測定した前記校正用イオンの信号強度から湿度を求め、その湿度をもとに質量分析計で測定した測定対象物のイオンの信号強度を校正する。
【0027】
また、本発明の他の態様によるガス分析装置は、試料ガスを導入するガス導入部と、ガス導入部から導入された試料ガスの成分をイオン化して質量分析する質量分析計と、水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜3)のうち少なくとも一つを校正用イオンとして、校正用イオンの信号強度と測定対象物質のイオンの信号強度に対する補正係数との間の関係を保持するデータベースと、演算部とを備え、演算部は、データベースを参照して、質量分析計で測定した校正用イオンの信号強度から求めた補正係数によって質量分析計で測定した測定対象物のイオンの信号強度を校正する。
【0028】
校正用イオンとしては、信号強度が湿度に対して負の相関を有するイオンを用いてもよい。
【0029】
また、信号強度が湿度に対して正の相関を有する測定対象物質に対しては、校正用イオンとして信号強度が湿度に対して正の相関を有する校正用イオンを用いるのが好ましく、信号強度が湿度に対して負の相関を有する測定対象物質に対しては、校正用イオンとして信号強度が湿度に対して負の相関を有する校正用イオンを用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、測定対象ガスに通常含まれる成分で構成されるイオンの信号強度の湿度依存性を利用して、測定対象物質の信号強度を校正することができる。従って、校正用の標準物質や湿度計を用いる必要がない。そのため、簡易な装置構成により、湿度変化による測定対象物質の信号強度を校正して正確な濃度を表示できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のガス分析装置の構成例を示す図。
【図2】空気の負イオン質量スペクトルを示す図。
【図3】酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜2)の湿度依存性を示す図。
【図4】空気の正イオン質量スペクトルを示す図。
【図5】水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)の湿度依存性を示す図。
【図6】マスタードガスの信号強度の湿度依存性を示す図。
【図7】水分子クラスターイオンを用いる校正法の手順を示す図。
【図8】水分子クラスターイオンを用いる校正法の別の手順を示す図。
【図9】マスタードガスの信号強度の校正結果を示す図。
【図10】ジフェニルクロロアルシンの信号強度の湿度依存性を示す図。
【図11】酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜3))の湿度依存性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0033】
[実施例1]
図1に、本発明の大気圧化学イオン化イオントラップ質量分析計を用いるガス分析装置の構成例を示す。測定対象ガスは大気圧化学イオン化質量分析計(APCI−MS)1に内蔵された吸引ポンプ11により吸引され、試料吸引配管21を通って、放電針13と対向電極14を備えるコロナ放電部に導入される。放電針13と対向電極14との間にはコロナ放電を生じさせるために高電圧が印加されている。コロナ放電部及びその近傍において測定対象ガスの構成成分は大気圧化学イオン化の原理によってイオン化される。生成されたイオンは、放電針13、対向電極14、第一細孔電極15、第二細孔電極16、第三細孔電極17により形成される電界に沿って進行し、静電レンズ18による収束作用を受けてイオントラップ19内部に導入される。イオントラップ19の内部にイオンは捕捉され、イオントラップ型質量分析計の原理により質量分析される。
【0034】
図には明示していないが、制御部2により、試料吸引配管21、コロナ放電部、第一細孔電極15、第二細孔電極16、第三細孔電極17の各部はそれぞれ所定の温度に制御されている。また制御部2は、演算部3及びデータベース4を有し、測定対象物質の信号強度及びその信号強度を校正するための校正用イオンの信号強度を測定し、それらの信号強度とデータベースを用いて演算することにより、湿度変化に対する測定対象物質の信号強度の変動を校正し、正確な濃度表示を行なうことができる。
【0035】
図2に、湿度64g/m3(7.9%)における空気の負イオン質量スペクトルを示す。試料空気は、高純度空気に水分を加えて調製したものである。酸素分子イオン(O2−)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)O2−及び(H2O)2O2−)が観測される。
【0036】
図3に、湿度2〜64g/m3の範囲における、これらのイオンの信号強度と湿度との関係を示す。この湿度範囲は露点温度に換算すると−12℃〜45℃であり、通常の大気の湿度変動範囲をほぼカバーしている。この湿度範囲において、O2−イオンの信号強度は湿度上昇に伴って単調減少し、(H2O)2O2−イオンの信号強度は単調増加する。すなわち、これら2種類のイオンの信号強度と湿度とは一対一に対応する。本装置ではこれら2種類のイオンの信号強度と湿度との関係をデータベースとして保有し、それらのイオンの信号強度を実測してデータベースに当てはめることにより湿度を求めることができる。一方、(H2O)O2−イオンの信号強度は湿度13g/m3(露点15℃)付近で極大となるため、このイオンの信号強度から通常の大気の湿度範囲において湿度を決定することはできない。
【0037】
図4に、湿度64g/m3(7.9%)における空気の正イオン質量スペクトルを示す。図示するように、水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)が観測される。
【0038】
図5に、湿度0〜64g/m3の範囲における、これらのイオンの信号強度と湿度との関係を示す。湿度上昇に伴ってn=3及び4の水分子クラスターイオンは単調増加し、n=1の水分子クラスターイオンは単調減少する。すなわち、これら3種類のイオンの信号強度と湿度とは一対一に対応する。本装置ではこれら3種類のイオンの信号強度と湿度との関係をデータベースとして保有し、それらのイオンの信号強度を実測してデータベースに当てはめることにより湿度を求めることができる。一方、n=2の水分子クラスターイオンについても湿度3〜64g/m3の範囲で単調減少するので、校正用イオンとして使用することができるが、湿度3〜10g/m3の範囲での減少率は非常に弱いので、他のイオンに比べて校正精度は劣る。
【0039】
図6に、毒ガスの一種であるマスタードガスのイオン強度と湿度との関係を示す。このイオンはマスタードガス分子にプロトンが付加した正イオンであり、湿度上昇によりイオン化が阻害されて信号強度が減衰するものと考えられる。発明者らの知見によれば、多くの物質は大気圧化学イオン化においてプロトン付加反応によりイオン化し、湿度1〜2g/m3(0.12〜0.25%)より高湿度においては湿度の上昇により信号強度が単調減少する。
【0040】
図7に、水分子クラスターイオンの湿度依存性のデータベースを基にして測定対象物質の信号強度を校正するための演算手順を示す。まず、水分子クラスターイオンの信号強度をその湿度依存性データベースに当てはめて湿度H’を算出する。これを測定対象物質の湿度依存性データベース(I=I(H))に当てはめて補正係数k(=I(H0)/I(H’))を算出する。ここで、I(H)は湿度Hでの測定対象物質の信号強度、H0は基準湿度である。次に、測定対象物質の信号強度の実測値Aに補正係数kを乗じて校正し、基準湿度H0における測定対象物質の検量線に当てはめることにより、測定対象物質の濃度を算出する。測定対象物質が負イオンの場合には、図7において(H2O)nH+を(H2O)nO2−に置き換えた手順を用いる。
【0041】
図8に、水分子クラスターイオンの湿度依存性データベースを基にして測定対象物質の信号強度を校正するための別の演算手順を示す。水分子クラスターイオンの信号強度の実測値(B)を演算式(k=f(B,B0))に代入して補正係数kを算出する。次に、測定対象物質の信号強度(A)に補正係数を乗じて補正信号強度(kA)を算出する。最後に、補正信号強度を測定対象物質の検量線に当てはめて測定対象物質の濃度を算出する。測定対象物質が負イオンの場合には、図8において(H2O)nH+を(H2O)nO2−に置き換えた手順を用いる。なお、水分子クラスターイオンの信号強度の実測値(B)に対応する補正係数kを演算式ではなくテーブルの形でデータベースに保持し、そのテーブルを参照して補正係数を求めるようにしてもよい。測定対象物質が複数ある場合には、補正係数を算出するための演算式あるいはテーブルは、測定対象物質毎にそれぞれ用意する。
【0042】
図8の補正方法の一例として、図4に示した(H2O)H+イオンの信号強度の湿度依存性を用いて図6のマスタードガスの信号強度を補正した結果を図9に示す。ここでは、演算式(k=f(B,B0))として、k=(B/B0)4を用いた。ここで、B0はデータベースとして保有する数値であり、基準湿度H0における(H2O)H+イオンの信号強度である。ここでは、H0=3g/m3とした。校正後の信号強度は、基準湿度での信号強度にほぼ揃っており、校正が適切に実施されることが示されている。
【0043】
この例では、湿度に対して負の相関を有するマスタードガスの信号に対して、その信号強度が湿度に対して同じく負の相関を有する(H2O)H+イオンを用いて校正を実施した。これに対し、湿度に対して正の相関を有する(H2O)4H+イオンを用いても、同様の手順によってマスタードガスの信号強度を校正することができる。しかし、水分以外の共存成分によりイオン化が抑制された場合、(H2O)4H+イオン、マスタードガスイオン共に信号強度が低下する。このとき、本校正法では(H2O)4H+イオンの信号強度の低下を湿度の低下と誤解し、マスタードガスの信号強度を高湿度方向に補正することになる。すなわちマスタードガスの信号は校正によりさらに低下することになり、逆効果となる。従って、測定対象物質とその校正用イオンとは、それらの信号強度の湿度依存性がいずれも正又はいずれも負の相関を有することが好ましい。
【0044】
図10に、毒ガスの一種であるジフェニルクロロアルシンのイオン強度と湿度との関係を示す。このイオンは、ジフェニルクロロアルシン分子から塩素イオン(Cl−)が脱離した構造の正イオンである。このイオンは、湿度0から3g/m3までの範囲ではイオン強度が急増し、その後は湿度上昇に伴い緩やかに増加する。このように信号強度が湿度に対して正の相関を有する場合には、(H2O)4H+イオンのように信号強度が湿度に対して正の相関を有するイオンを用いて校正を実施するのが好ましい。
【0045】
以上の説明は負イオンの場合にも同様にあてはまる。従って、負イオンにおいても、測定対象物質とその校正用イオンとは、それらの信号強度が湿度に対していずれも正又はいずれも負の相関を有することが好ましい。従って、測定対象物質の信号強度が湿度に対して正の相関を有する場合には(H2O)2O2−イオンを、測定対象物質の信号強度が湿度に対して負の相関を有する場合にはO2−イオンを用いて校正するのが好ましい。
【0046】
本装置は、水分以外の共存成分によるイオン化抑制効果の影響を低減する別の手段を備える。この手段においては、流路切替バルブ23を閉じて、流路切替バルブ24を開くことにより、フィルター22を通して試料空気をコロナ放電部に導入する。フィルター22は水分及び酸素などの透過率が高く、有機化合物などの透過率が低い性質を有する。このフィルター22を通すことによって試料空気中の水分以外の共存成分を減少させることができる。そのため、校正用イオンの信号強度に対する共存成分の影響が低減し、結果的に湿度を正確に求めることができる。そのため、校正用イオンの選定にあたって、その信号強度と湿度との相関関係の正負を考慮する必要がないため、制約が少ないという利点がある。測定対象物質の測定は、フィルター22を通さずに試料空気をコロナ放電部に導入して行なう。そのため、測定対象物質に対する共存成分の影響は低減されない。そのため、測定対象物質のイオン化効率が高く、従って共存成分の影響を受けにくい場合に特に有効である。
【0047】
なお、図1の装置例では、試料空気をコロナ放電部に導く流路を、フィルター22を配置した流路と配置しない流路の2つに分岐し、流路選択によってフィルター22を使用するか否かを選択できるようにした。しかし、フィルターの設置方法はそれに限られず、1つの流路にフィルターを着脱自在に設け、フィルターを流路に挿入したり流路から退避したりすることによって、試料空気をフィルターに通すか通さないかを選択できるようにしてもよい。
【0048】
水分子クラスターイオンの湿度依存性は、装置各部の温度や電圧などの装置条件に依存する。そのため、装置条件によりこれらのイオンの湿度依存性を調節して最適化することができる。あるいは、装置条件が何らかの理由により制約を受ける場合、例えば測定対象物質が熱分解しやすい物質であって装置各部の設定温度に制約がある場合などには、その装置条件において校正用イオンを適切に選定すればよい。また、水分子クラスターイオンの湿度依存性は、測定に使用する装置自体によっても変化する。従って、分析に使用しているガス分析装置に起因する条件をも考慮して校正用イオンを選定する必要がある。
【0049】
図11に、装置条件の一つである装置温度を変更したときの酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−(n=0〜3))の湿度依存性を示す。ここで装置温度とは、コロナ放電部と第一細孔電極の温度を指し、本例では両者を同一温度にして100℃に設定した。第三細孔電極の温度は120℃、試料吸引配管の温度は100℃に設定した。第二細孔電極の温度は制御しておらず、第一細孔電極と第三細孔電極の中間的温度となっている。この装置条件のもとでは、図11に示すように、(H2O)O2−イオン及び(H2O)3O2−イオンの信号強度は湿度0〜40g/m3程度の広い湿度領域で単調増加するため、校正用イオンとして使用できる。
【0050】
水分子クラスターイオン((H2O)nH+)あるいは酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−)のnが大きくなるに従い、共存成分である有機化合物のイオンや種々のクラスターイオンのピークが混在し、それらのイオンとの区別が困難となる。質量分析計としてタンデム質量分析計を用いれば、(式6)あるいは(式7)のように、水分子クラスターイオンあるいは酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオンを解離してフラグメントイオンの信号強度を測定することができる。これにより、校正用イオンの測定精度を向上し、校正結果をより正確なものとすることができる。
(式6) (H2O)nH+ → (H2O)n-1H+ (n≧2)
(式7) (H2O)nO2− → (H2O)n-1O2− (n≧1)
【0051】
本装置は内部標準物質の添加機構を備える。内部標準物質は開口部を有する保持容器31に収容され、試料吸引配管21に接続される内部標準物質注入配管32の経路中に配置される。保持容器31内で揮発した内部標準物質は開口部より外部へ拡散し、高純度空気の流れによってコロナ放電部に導入される。その導入量は、流量調節器33により高純度空気の流量を調節することにより制御される。内部標準物質を添加する場合には、流路切替バルブ34を開き、流路切替バルブ35を閉じる。添加しない場合には流路切替バルブ34を閉じて流路切替バルブ35を開く。
【0052】
複数の測定対象物質のうち、適切な内部標準物質が入手可能である場合には、その測定対象物質に対して内部標準物質による校正を実施することにより、一部の測定対象物質に関して良好な校正が可能となる。また、その他の測定対象物質の数が減少するので、装置条件による(H2O)nH+イオンあるいは(H2O)nO2−イオンの湿度依存性の最適化が容易となり、結果的にその他の測定対象物質の校正精度をも向上することができる。
【0053】
同様に、その信号強度が湿度に対して正の相関を有し、したがって適切な内部標準物質が入手しがたい測定対象物質に対しては(H2O)nH+イオンあるいは(H2O)nO2−イオンによる校正を実施し、その信号強度が湿度に対して負の相関を有する多くの物質あるいはその一部の物質に対しては内部標準物質による校正を実施しても良い。そうすることにより、装置条件による(H2O)nH+イオンあるいは(H2O)nO2−イオンの湿度依存性の最適化が容易となり、結果的にその他の測定対象物質の校正精度をも向上することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…大気圧化学イオン化質量分析計
2…制御部
3…演算部
4…データベース
11…吸引ポンプ
13…放電針
14…対向電極
15…イオン導入第一細孔
16…イオン導入第二細孔
17…イオン導入第三細孔
18…静電レンズ
19…イオントラップ
21…試料吸引配管
22…フィルター
23,24,34,35…流路切替バルブ
31…保持容器
32…内部標準物質注入配管
33…流量調節器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガスを導入するガス導入部と、
前記ガス導入部から導入された試料ガスの成分をイオン化して質量分析する質量分析計と、
水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜3)のうち少なくとも一つを校正用イオンとして、当該校正用イオンの信号強度と湿度との関係、及び測定対象物質のイオンの信号強度と湿度との関係を保持するデータベースと、
演算部とを備え、
前記演算部は、前記データベースを参照して、前記質量分析計で測定した前記校正用イオンの信号強度から湿度を求め、当該湿度をもとに前記質量分析計で測定した前記測定対象物のイオンの信号強度を校正することを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
試料ガスを導入するガス導入部と、
前記ガス導入部から導入された試料ガスの成分をイオン化して質量分析する質量分析計と、
水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜3)のうち少なくとも一つを校正用イオンとして、当該校正用イオンの信号強度と測定対象物質のイオンの信号強度に対する補正係数との間の関係を保持するデータベースと、
演算部とを備え、
前記演算部は、前記データベースを参照して、前記質量分析計で測定した前記校正用イオンの信号強度から求めた補正係数によって前記質量分析計で測定した前記測定対象物のイオンの信号強度を校正することを特徴とするガス分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のガス分析装置において、前記校正用イオンとして信号強度が湿度に対して負の相関を有するイオンを用いることを特徴とするガス分析装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載のガス分析装置において、前記演算部は、前記信号強度が湿度に対して正の相関を有する測定対象物質に対して、前記校正用イオンとして前記信号強度が湿度に対して正の相関を有する校正用イオンを用いることを特徴とするガス分析装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載のガス分析装置において、前記演算部は、前記信号強度が湿度に対して負の相関を有する測定対象物質に対して、前記校正用イオンとして前記信号強度が湿度に対して負の相関を有する校正用イオンを用いることを特徴とするガス分析装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のガス分析装置において、前記ガス導入部は、水分を透過し有機化合物の透過率が低いフィルターと、試料ガスを前記フィルターに通すか通さないかを選択する手段を備えることを特徴とするガス分析装置。
【請求項7】
試料ガスの成分をイオン化する工程と、
水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜3)のうち少なくとも一つである校正用イオン及び測定対象物のイオンを質量分析計で質量分析する工程と、
前記校正用イオンの信号強度と前記測定対象物質のイオンの信号強度とを測定する工程と、
前記校正用イオンの信号強度と湿度との関係を保持するデータベースを参照して、前記測定した校正用イオンの信号強度から湿度を求める工程と、
前記測定対象物質のイオンの信号強度と湿度との関係を保持するデータベースを参照して、前記求めた湿度をもとに前記測定対象物のイオンの信号強度を校正する工程と、
を有することを特徴とするガス分析方法。
【請求項8】
試料ガスの成分をイオン化する工程と、
水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜3)のうち少なくとも一つである校正用イオン及び測定対象物のイオンを質量分析計で質量分析する工程と、
前記校正用イオンの信号強度と前記測定対象物質のイオンの信号強度とを測定する工程と、
前記校正用イオンの信号強度と前記測定対象物質のイオンの信号強度に対する補正係数との間の関係を保持するデータベースを参照して、前記質量分析計で測定した前記校正用イオンの信号強度から補正係数を求める工程と、
前記求めた補正係数を用いて前記測定対象物のイオンの信号強度を校正することを特徴とするガス分析方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載のガス分析方法において、前記校正用イオンとして信号強度が湿度に対して負の相関を有するイオンを用いることを特徴とするガス分析方法。
【請求項10】
請求項7又は8記載のガス分析方法において、信号強度が湿度に対して正の相関を有する測定対象物質に対して、前記校正用イオンとして前記信号強度が湿度に対して正の相関を有する校正用イオンを用いることを特徴とするガス分析方法。
【請求項11】
請求項7又は8記載のガス分析方法において、信号強度が湿度に対して負の相関を有する測定対象物質に対して、前記校正用イオンとして信号強度が湿度に対して負の相関を有する校正用イオンを用いることを特徴とするガス分析方法。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項記載のガス分析方法において、前記校正用イオンの質量分析は、水分を透過し有機化合物の透過率が低いフィルターを通した試料ガスを用いて行うことを特徴とするガス分析方法。
【請求項1】
試料ガスを導入するガス導入部と、
前記ガス導入部から導入された試料ガスの成分をイオン化して質量分析する質量分析計と、
水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜3)のうち少なくとも一つを校正用イオンとして、当該校正用イオンの信号強度と湿度との関係、及び測定対象物質のイオンの信号強度と湿度との関係を保持するデータベースと、
演算部とを備え、
前記演算部は、前記データベースを参照して、前記質量分析計で測定した前記校正用イオンの信号強度から湿度を求め、当該湿度をもとに前記質量分析計で測定した前記測定対象物のイオンの信号強度を校正することを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
試料ガスを導入するガス導入部と、
前記ガス導入部から導入された試料ガスの成分をイオン化して質量分析する質量分析計と、
水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜3)のうち少なくとも一つを校正用イオンとして、当該校正用イオンの信号強度と測定対象物質のイオンの信号強度に対する補正係数との間の関係を保持するデータベースと、
演算部とを備え、
前記演算部は、前記データベースを参照して、前記質量分析計で測定した前記校正用イオンの信号強度から求めた補正係数によって前記質量分析計で測定した前記測定対象物のイオンの信号強度を校正することを特徴とするガス分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のガス分析装置において、前記校正用イオンとして信号強度が湿度に対して負の相関を有するイオンを用いることを特徴とするガス分析装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載のガス分析装置において、前記演算部は、前記信号強度が湿度に対して正の相関を有する測定対象物質に対して、前記校正用イオンとして前記信号強度が湿度に対して正の相関を有する校正用イオンを用いることを特徴とするガス分析装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載のガス分析装置において、前記演算部は、前記信号強度が湿度に対して負の相関を有する測定対象物質に対して、前記校正用イオンとして前記信号強度が湿度に対して負の相関を有する校正用イオンを用いることを特徴とするガス分析装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のガス分析装置において、前記ガス導入部は、水分を透過し有機化合物の透過率が低いフィルターと、試料ガスを前記フィルターに通すか通さないかを選択する手段を備えることを特徴とするガス分析装置。
【請求項7】
試料ガスの成分をイオン化する工程と、
水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜3)のうち少なくとも一つである校正用イオン及び測定対象物のイオンを質量分析計で質量分析する工程と、
前記校正用イオンの信号強度と前記測定対象物質のイオンの信号強度とを測定する工程と、
前記校正用イオンの信号強度と湿度との関係を保持するデータベースを参照して、前記測定した校正用イオンの信号強度から湿度を求める工程と、
前記測定対象物質のイオンの信号強度と湿度との関係を保持するデータベースを参照して、前記求めた湿度をもとに前記測定対象物のイオンの信号強度を校正する工程と、
を有することを特徴とするガス分析方法。
【請求項8】
試料ガスの成分をイオン化する工程と、
水分子クラスターイオン((H2O)nH+,n=1〜4)及び酸素分子イオンと水分子とのクラスターイオン((H2O)nO2−,n=0〜3)のうち少なくとも一つである校正用イオン及び測定対象物のイオンを質量分析計で質量分析する工程と、
前記校正用イオンの信号強度と前記測定対象物質のイオンの信号強度とを測定する工程と、
前記校正用イオンの信号強度と前記測定対象物質のイオンの信号強度に対する補正係数との間の関係を保持するデータベースを参照して、前記質量分析計で測定した前記校正用イオンの信号強度から補正係数を求める工程と、
前記求めた補正係数を用いて前記測定対象物のイオンの信号強度を校正することを特徴とするガス分析方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載のガス分析方法において、前記校正用イオンとして信号強度が湿度に対して負の相関を有するイオンを用いることを特徴とするガス分析方法。
【請求項10】
請求項7又は8記載のガス分析方法において、信号強度が湿度に対して正の相関を有する測定対象物質に対して、前記校正用イオンとして前記信号強度が湿度に対して正の相関を有する校正用イオンを用いることを特徴とするガス分析方法。
【請求項11】
請求項7又は8記載のガス分析方法において、信号強度が湿度に対して負の相関を有する測定対象物質に対して、前記校正用イオンとして信号強度が湿度に対して負の相関を有する校正用イオンを用いることを特徴とするガス分析方法。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項記載のガス分析方法において、前記校正用イオンの質量分析は、水分を透過し有機化合物の透過率が低いフィルターを通した試料ガスを用いて行うことを特徴とするガス分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−203164(P2011−203164A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71851(P2010−71851)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000233549)株式会社日立ハイテクコントロールシステムズ (130)
【出願人】(592083915)警察庁科学警察研究所長 (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000233549)株式会社日立ハイテクコントロールシステムズ (130)
【出願人】(592083915)警察庁科学警察研究所長 (23)
【Fターム(参考)】
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