説明

ガス分析装置

【課題】試料ガス中における測定対象成分の分子数密度をその分子数密度に関して広いダイナミックレンジで測定することができるようにする。
【解決手段】波長可変レーザ装置6への駆動電流を変調周波数faで変調させる変調部16を備えている。試料セル2内を通過させたレーザ光を検出する受光部8からの信号を処理する信号処理部として、周波数2×faの信号を抽出する第1信号処理部18と周波数がfa未満の信号を抽出する第2信号処理部20を備えている。演算部22はこれらの信号処理部18,20からの信号に基づき、測定対象成分の分子数密度が高調波同期検出法を適用することができる低い分子数密度であるときは第1信号処理部18からの信号に基づいて高調波同期検出法を用いた演算を行ない、測定対象成分の分子数密度が高調波同期検出法を適用することができない高い分子数密度であるときは直接吸収スペクトル法を用いた演算を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レ−ザ光に対する吸収を利用して試料ガス中の測定対象成分の分子数密度を測定するガス分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、気体中の特定ガスの分子数密度を測定する方法として、レ−ザ光に対する吸収を利用したレ−ザ吸収分光法が提案されている(例えば特許文献1参照。)。この方法は、試料ガスが導入された試料セルに所定周波数のレ−ザ光を照射して透過したレ−ザ光を解析し、試料ガス中の測定対象成分の吸収の程度からその測定対象成分分子数密度を導出するものである。この装置は、試料ガスにセンサである受光部が接触しない非接触型であるため、試料の場を乱すことなく測定することができるという利点や、応答時間がきわめて短いという利点がある。試料ガス中の測定対象成分に対する測定周波数を選択するためにレ−ザ光の光源としては、波長可変レ−ザ装置が使用される。
【0003】
ここで、レ−ザ光を用いた赤外吸収分光法の一般的な理論について説明する。なお、ここでは窒素ガス中の微量の水蒸気分子数密度を測定する場合を例に挙げる。
【0004】
検出されるレ−ザ光受光強度と水蒸気分子数密度の関係は次のランバート−ベール(Lambert−Beer)の法則から式(1)で示される。I0(ν)は周波数νにおいて水分子の吸収を受けなかった場合の光強度、I(ν)は周波数νにおける透過光強度である。また、cは水分子の分子数密度、lは測定対象成分を通過する光路の長さ、Sは所定の周波数νでの吸収線強度、K(ν)は吸収特性関数である。

【0005】
試料ガスが大気圧である場合、吸収特性関数K(ν)はロ−レンツプロファイルにより式(2)で表わされる。γLは吸収スペクトルの半値幅であり、試料ガスの種類、温度及び圧力により決まる。ν0は吸収スペクトルの中心周波数である。

【0006】
上記式(1)及び式(2)から次の式(3)が成り立つ。

【0007】
発振周波数幅が吸収スペクトルの線幅よりも極めて狭い波長可変レ−ザ装置、例えばDFB(Distributed Feedback)型半導体レーザを用いれば、分光器を別途用いることなく、それぞれの周波数νにおける測定をすることが可能である。
【0008】
中心周波数ν0での吸収強度I(ν0)は、式(3)においてν=ν0として(4)式で表わすことができる。

【0009】
一方、きわめて低い全圧領域(測定対象成分の全圧が1[Torr]よりも低圧の高真空領域)の下での水分子による赤外吸収においては、吸収スペクトル幅は上述したロ−レンツプロファイルの拡がりに比べて数分の1から数十分の1程度に狭くなる。この全圧領域において、吸収特性幅は主にドップラ効果により決まる。この場合の吸収特性関数K(ν)は下記(5)式(ガウス関数)で表わされる。(5)式において、γEDはドップラ幅と呼ばれるものであり、吸収スペクトルの中心周波数、分子量及び温度に依存するものである。

【0010】
この場合は、(1)式と(5)式から下記(6)式が成り立ち、(6)式においてν=ν0とすることにより、中心周波数ν0での吸収強度I(ν0)は下記(7)式で表わすことができる。


【0011】
レ−ザ光を用いた一般的な赤外吸収分光法では、上記の(4)式又は(7)式から吸収線中心における吸光強度I00)やI(ν0)を測定し、試料ガス中における測定対象成分量を算出する。
【0012】
また、レ−ザ光を用いたガス分析方法としては、吸収スペクトル波形の2次高調波成分等を検出する高調波検出(Harmonic Detection)による吸光分光法(以下、高調波同期検出法という)という検出方法がある(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。高調波同期検出法は赤外吸収分光法の中でも特に高感度の検出手法として知られており、測定対象成分の光吸収量が微小な場合に有効な検出方法である。
【0013】
高調波同期検出法について非特許文献1に基づいて説明する。高調波検出を行なう必要がある場合のように、測定対象成分の光吸収量が微小な場合、Lambert−Beerの法則である(1)式は次の(8)式で近似することができる。

【0014】
高調波検出を行なうためには、測定対象成分へ照射する光の周波数を変調させる必要がある。周波数変調のための正弦波信号の変調振幅をa、周波数をωとすると、時間tにおける光の周波数は次の(9)式で規定される。

【0015】
2次高調波検出(Second Harmonic Detection)では、受光部からの検出信号のうち2倍の周波数2ωに対応した信号成分を同期検波により抽出する。周波数νにおける2次高調波検出信号強度Signal(ν)は光吸収量が微小な場合、次の(10)式のような関係となる。したがって,(8)式から,次の(11)式の関係が得られる。(11)式においてconstは比例定数であり、検出器及び同期検出回路の感度によって変化する。この比例定数constの決定方法は、上述の(1)式に基づく測定で分子数密度が算出されたガスなど、あらかじめ既知の分子数密度のガスを測定することで決定する。
Signal(ν)∝(I0(ν)−I(ν)) (10)

【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平5−099845号公報
【特許文献2】特開2002−184767号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】ウエブスター(C.R.Webster),「インフラレッド・レーザ・アブソープション:セオリー・アンド・アプリケーションズ・イン・レーザ・リモート・ケミカル・アナリシス(Infrared Laser Absorption : Theory and Applications in Laser Remote Chemical Analysis)」,ウィレイ(Wiley),New York(ニュー・ヨーク),1988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
高調波同期検出法は高感度である反面、上記(8)式の近似が成り立つ条件でしか正確な測定ができない。したがって、測定対象成分が低い分子数密度のときは正確な検出結果が得られるものの、測定対象成分が高い分子数密度になると正確な結果を得られなくなる。
【0019】
レーザ吸収分光法でも,I00)とI(ν0)とを直接測定し(4)式や(7)式から測定対象成分の分子数密度を得る方法(以下、直接吸収スペクトル法)は、例えば大気環境中の水分分子数密度のような比較的高い分子数密度の水分を含む試料の測定に使用されるのに対し、高調波同期検出法は半導体製造ラインで使用される特殊ガス中の極微量の水分分子数密度測定というような分野で使用されている。また、両測定法は検出回路の構成も異なることから、それぞれが別々の測定装置として構成されており、両測定方法に兼用できる測定装置は存在しない。
【0020】
したがって、直接吸収スペクトル法を用いた装置で測定しているときに測定対象成分の分子数密度が急に低下した場合や、逆に高調波同期検出法の測定装置での測定中に測定対象成分の分子数密度が急に高くなったような場合には、いずれも正確な測定結果を得ることができない。
【0021】
そこで本発明は、試料ガス中における測定対象成分の分子数密度を、広いダイナミックレンジで測定することができるようにするとともに、分子数密度が急に変化した場合でも測定方式の切替えのために測定を中断することなく、連続して測定することのできるガス分析装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明にかかるガス分析装置は、試料ガスを流通させる試料セルと、前記試料セルに対して試料ガス中の測定対象成分が吸収をもつ特定の光周波数のレーザ光を照射するレーザ照射部と、前記レーザ光を照射するための駆動電流を前記レーザ照射部に印加する光源駆動部と、前記光源駆動部から前記レーザ照射部に印加する前記駆動電流を第1の周波数faの変調周波数で変調する変調部と、前記試料セル内部を通過した前記レーザ光を受光する受光部と、前記受光部の光検出信号を前記変調周波数の整数倍の周波数で同期検波して高調波同期検出法により高調波信号強度Signal(ν)を検出する第1信号処理部と、前記受光部の光検出信号を前記第1信号処理部を経ずに取り込み、周波数フィルタによって前記第1の周波数fa以上の周波数成分を遮断し、前記特定の光周波数での光強度信号I(ν)を検出する第2信号処理部と、前記第1信号処理部で検出された高調波信号強度Signal(ν)及び前記第2信号処理部で検出された光強度信号I(ν)を取り込み、試料ガス中の前記測定対象成分の分子数密度cを算出する演算部とを備えている。
【0023】
そして、前記演算部は、前記レーザ光が前記特定の光周波数において前記測定対象成分による吸収を受けなかったときの参照光強度信号をI0(ν)として、前記高調波信号強度Signal(ν)と参照光強度信号I0(ν)とから試料ガス中における測定対象成分分子数密度cを算出する第1演算手段と、前記光強度信号I(ν)と参照光強度信号I0(ν)とから直接吸収スペクトル測定法により試料ガス中における測定対象成分分子数密度cを算出する第2演算手段を備えている。
【0024】
本発明では、演算部は第1信号処理部で抽出された信号と第2信号処理部で抽出された信号を常に取り込み、測定対象成分の分子数密度、具体的には測定対象成分の吸収線の特定の光周波数、好ましくは中心周波数、における信号強度に応じて、高調波同期検出法(第1演算手段)により求められた測定対象成分の分子数密度又は直接吸収スペクトル法(第2演算手段)により求められた測定対象成分の分子数密度のいずれか一方を選択する。既述のように、高調波同期検出法は高感度である反面、分子数密度が高い場合に直線性の不一致が生じる。一方、直接吸収スペクトル法は、感度は高調波同期検出法に比べて低いものの高い分子数密度であっても測定可能である。本発明に係るガス分析装置は、上記2つの測定方法を同じレ−ザ制御系を用い、一回の受光信号から高調波同期検出法に用いるための信号と直接吸収スペクトル法に用いるための信号を並列的に抽出し、それらの信号に基づいて測定対象成分の分子数密度に対して適当な測定手段による測定対象成分の分子数密度を採用する。これにより、両検出法の欠点を補い、広い分子数密度範囲で測定できるとともに連続的な測定が可能になる。
【0025】
演算部は、両演算手段で得られた測定結果を同時に出力してもよく、切替え手段を備えて試料中の測定対象成分の分子数密度に応じて精度の高い方を自動的に選択して出力するようにしてもよい。そのような切替え手段は、光強度信号I(ν)と参照光強度信号I0(ν)とから試料中の測定対象成分の分子数密度が高調波同期検出法による測定に適した低い分子数密度であるか又はそれより高い分子数密度で直接吸収スペクトル測定法による測定に適した分子数密度であるかを判定し、高調波同期検出法による測定に適した分子数密度であるとの判定結果を得たときは第1演算手段による算出分子数密度cを出力し、直接吸収スペクトル測定法による測定に適した分子数密度であるとの判定結果を得たときは第2演算手段による算出分子数密度cを出力するように出力を切り替えるものである。
【0026】
切替え手段の第1の形態は、(8)式中にある近似が成立するかどうかの判断ができる手段であり、そのような判断ができる手段であればいかなる手段でもよい。具体的には、ln(I0(ν)/I(ν))又は(I0(ν)−I(ν))/I0(ν)の何れかの値を常に測定しておき、それらの値が予め設定した閾値以下のときには高調波同期検出法による測定に適した低い分子数密度であるとの判定結果を得、前記差がその設定割合よりも大きいときに直接吸収スペクトル測定法による測定に適した分子数密度であるとの判定結果を得るものである。
【0027】
切替え手段の第2の形態は、参照光強度信号I0(ν)と光強度信号I(ν)との差I0(ν)−I(ν)を用いる手段である。具体的には、その差I0(ν)−I(ν)が予め設定した閾値よりも小さいときに高調波同期検出法による測定に適した分子数密度であるとの判定結果を得、前記差がその設定値よりも大きいときに直接吸収スペクトル測定法による測定に適した分子数密度であるとの判定結果を得るものである。判定のための設定値をいくらにするかは測定装置に応じて決める。
【0028】
光源駆動部の第1の形態として、レーザ照射部から照射されるレーザ光の光周波数が測定対象成分の吸収域にある特定の光周波数となるようにレーザ照射部に印加する駆動電流を設定してレーザ光の光周波数を固定するものを挙げることができる。この場合はレーザ光が特定の光周波数において測定対象成分による吸収を受けなかったときの参照光強度信号I0(ν)を別途測定しておく必要があるので、演算部は参照光強度信号I0(ν)を保持する参照光強度信号I0(ν)保持部を備えている。そして、第1演算手段と第2演算手段は参照光強度信号I0(ν)として参照光強度信号I0(ν)保持部に保持されている参照光強度信号I0(ν)値を使用する。
【0029】
レーザ光の光周波数が測定対象成分の吸収域にある特定の光周波数として最も好ましいのは測定対象成分の吸収線の中心周波数(ν0)である。その場合には吸収が最も大きくなるので、S/N(信号対ノイズ)比の最もよい測定を行うことができる。レーザ光の光周波数を測定対象成分の吸収線の中心周波数(ν0)に設定するためには、光源駆動部はレーザ照射部を駆動するための駆動電流を厳密に制御する必要があるので、性能のよい光源駆動部が必要となる。レーザ光の光周波数を測定対象成分の吸収線の中心周波数(ν0)に厳密に設定するのが難しい場合であっても、S/N比の低下を許容できる範囲であれば本発明の所期の目的を達成することができる。そのため、光源駆動部の第1の形態を備えた本発明では、レーザ光の光周波数を測定対象成分の吸収線の中心周波数(ν0)に設定する場合だけでなく、吸収域内で中心周波数(ν0)から外れた光周波数に設定する場合も含んでいる。
【0030】
光源駆動部の第2の形態は、レーザ光の光周波数を測定対象成分の吸収線の特定の光周波数に固定しないものである。この場合、レーザ照射部が測定対象成分による吸収を受けない光周波数のレーザ光まで発振するようにレーザ照射部に印加するレーザ駆動電流を変化させるレーザ波長走査用電流生成部を備える。そして、第2信号処理部は、レーザ波長走査用電流生成部によってレーザ照射部が測定対象成分による吸収を受けない光周波数のレーザ光を発振したときのその吸収を受けない光周波数における透過光強度も測定し、その結果から近似的に測定対象成分による光吸収がない場合に相当する特定の光周波数での参照光強度信号I0(ν)を算出する部分を備える。この場合は、レーザ光の光周波数を測定対象成分の吸収線の中心周波数(ν0)に厳密に設定する必要がないので、光源駆動部の性能に対する要請が緩和される。さらに、第2信号処理部において参照光強度信号I0(ν)も求めることができるので、参照光強度信号I0(ν)を予め測定する必要もなくなる。
【0031】
レーザ波長走査用電流生成部の好ましい一例は、第1の周波数faよりも低い第2の周波数fb周期の鋸波を発生させるものである。
【0032】
レーザ照射部から照射されるレーザ光の光周波数を固定する第1の形態の光源駆動部を備えた場合においても、参照光強度信号I0(ν)も同時に検出することができるようにするための形態として、試料セルとレーザ照射部との間にビームスプリッタを配置し、そのビームスプリッタによりレーザ照射部から出射されたレーザ光を、試料セル内に入射するレーザ光と試料セルに入射しないレーザ光に分岐させる。そして、ビームスプリッタにより分岐されて試料セルに入射しない側のレーザ光を受光する参照用受光部をさらに備える。その場合、第2信号処理部は、参照用受光部による検出信号を周波数フィルタによって第1の周波数fa成分以上を遮断し、その処理後に現れた特定の光周波数での光強度を検出して、それを測定対象成分による光吸収がない場合に相当する特定の光周波数での参照光強度信号I0(ν)とする部分を備えている。
【発明の効果】
【0033】
高調波同期検出法は高感度である反面、分子数密度が高い場合に直線性の不一致が生じる。一方、直接吸収スペクトル法は、感度は相対的に低いものの、高い分子数密度であっても測定可能である。本発明に係るガス分析装置はこれらの2つの測定手段を同じレーザ制御系を用いて一回の受光信号から並列的に測定するので、両検出法の欠点を補い、測定分子数密度範囲を拡大し、かつ測定の連続性を保つことを可能にしている。
【0034】
なお,本発明において測定対象である特定ガスの種類は特に問わないが、分子数密度変化が大きいものに有効であることから、例えば測定対象ガス中の水分の分子数密度測定などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1実施例を示す概略構成図である。
【図2A】第1実施例における信号処理系統の構成の一例を示すブロック図である。
【図2B】第1実施例における演算部を示すブロック図である。
【図2C】図2A中の信号を示す波形図である。
【図3】第1実施例における信号処理動作及び演算処理動作を示すフローチャートである。
【図4A】第2実施例を示すブロック図である。
【図4B】第2実施例における演算部を示すブロック図である。
【図4C】〜
【図4F】図4A中の信号を示す波形図である。
【図5】第2実施例における第1信号処理部により抽出される光検出信号の一例を示すグラフである。
【図6】第2実施例における第2信号処理部により抽出される光検出信号の一例を示すグラフである。
【図7】第2実施例における信号処理動作及び演算処理動作を示すフローチャートである。
【図8A】第3実施例を示すブロック図である。
【図8B】第3実施例における演算部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[実施例1]
本発明の第1実施例を図1及び図2A、2Bを用いて説明する。この実施例のガス分析装置は、測定対象成分中の水分の分子数密度を測定する水分測定装置である。
【0037】
この実施例のガス分析装置は、図1に示されるように、試料ガスを上から下向きに流通させるガス流路上に略水平方向に配置された試料セル2を備えている。試料セル2の左右の開口端に互いに対向する2枚の反射鏡10a,10bが設けられている。一方の反射鏡10aの一部には光のみが通過可能なように例えば石英ガラスからなる透明窓10cが設けられ、その透明窓10cを挟んで試料セル2の外側に、略密閉構造で略大気圧雰囲気である光学チャンバ4が設置されている。光学チャンバ4内にはレーザ照射部としての波長可変レーザ装置6が収納され、さらに受光部8も収納されている。光学チャンバ4内では妨害成分である水分が除湿剤やパ−ジガスなどにより除去され、その分子数密度が無視できる程度に小さくされ、その状態が維持できるように密閉され、外気が侵入しないように光学チャンバ4内が外気と同じ大気圧状態になっている。「略密閉構造で略大気圧雰囲気」とは、光学チャンバ6内の水分除去状態が維持できる状態を指している。
【0038】
なお、図1の例では、試料セル2へのレーザ光の入射用と出射用とで透明窓10cが兼用されているが、入射用と出射用とで別々に透明窓を設ける構成としてもよい。
【0039】
波長可変レーザ装置6は例えばDFB型レ−ザであり、近赤外領域から中赤外領域にわたる光周波数のレーザ光を発生させることができる。波長可変レーザ装置6としてはDFB型レーザ以外のものも使用することができる。波長可変レーザ装置6は光源駆動部12からの駆動電流により駆動される。光源駆動部12は、波長可変レーザ装置6から測定対象成分の吸収線の中心周波数ν0と同じ周波数のレーザ光を発生させるように波長可変レーザ装置6に駆動電流を与えるものである。光源駆動部12は制御部14により制御される。光源駆動部12から波長可変レーザ装置6に与えられる駆動電流は変調部16によって変調周波数faで変調される。変調部16については後述する。
【0040】
波長可変レーザ装置6からのレーザ光は試料セル2内に照射され、反射鏡10a,10bで複数回反射を繰り返した後、反射鏡10aの透明窓10cから再び光学チャンバ4に戻り、受光部8に入射するように構成されている。レーザ光は、ガス流路を通過する際に測定対象成分中の各種成分による吸収を受ける。受光部8は受光素子としてフォトダイオードを備え、フォトダイオードに入射した各周波数の光量を電気信号として出力する。受光部8から出力された信号は第1信号処理部18と第2信号処理部20で所定の処理が施され、演算部22に取り込まれる。
【0041】
第1信号処理部18では、受光部8からの検出信号が変調部16から与えられる周波数2faのクロック信号を参照信号として同期検波され、周波数2faの信号が抽出される。もちろん、周波数2faとはfaの2倍の周波数を意味する。第1信号処理部18で抽出された信号の強度がSignal(ν0)である。他方、第2信号処理部20では周波数がfa未満の信号が抽出される。第2信号処理部20で抽出された信号の強度がI(ν0)である。第1信号処理部18で抽出される信号強度Signal(ν0)は高調波同期検出法による測定を行なうための信号であり、第2信号処理部20で抽出される信号I(ν0)は直接吸収スペクトル法による測定を行なうための信号である。
【0042】
演算部22は、第1信号処理部18により抽出された信号に基づいて高調波同期検出法を用いた測定対象成分の分子数密度の演算を行なう第1演算手段23−1と、第2信号処理部20により抽出された信号に基づいて直接吸収スペクトル法を用いた測定対象成分の分子数密度の演算を行なう第2演算手段23−2と、測定対象成分による光の吸収がない場合の信号強度(参照光強度信号)I0(ν0)を保持するメモリからなる参照光強度信号I0(ν0)保持部23−3と、測定対象成分の分子数密度に応じていずれの演算手段23−1又は23−2の出力を採用するかを決定する切替え手段25を備えて測定対象成分の分子数密度の演算を行なう。
【0043】
同実施例の信号処理系統の一例の詳細を図2A、2B、2Cを用いてさらに説明する。この例では、図1における光源駆動部12は、発振するレーザ光の光周波数を測定対象成分の吸収線の中心周波数ν0に合わせるためのオフセット直流電圧発生部24、加算器26及び電圧/電流変換器28で構成される。オフセット直流電圧発生部24は測定対象成分の吸収線の中心周波数のレーザ光が波長可変レーザ装置6から発せられるような電圧信号24Sを発生するものであり、加算器26を介して電圧/電流変換器28に接続されている。加算器26はオフセット直流電圧発生部24からの電圧信号24Sに変調部16からの周波数faの変調波を加算するものであり、加算器26を経て周波数faで変調された電圧信号24Sが電圧/電流変換器28で駆動電流に変換されて波長可変レーザ装置6に供給される。
【0044】
変調部16は、周波数2faのクロック信号を生成する2faクロック生成部30、変調振幅制御用直流電圧を発生させる直流電圧発生部32、周波数2faのクロック信号を周波数faのクロックに変換する分周器34、乗算器36及び周波数fa付近の信号を抽出するための周波数fa±数百Hzの透過域をもつバンドパスフィルタ(BPF1)38で構成されている。変調振幅制御用直流電圧は任意の電圧でよいが、あまり大きすぎると後述の第2信号処理部20で検出する信号強度I(ν0)の中に他の光周波数の成分の影響が強く現れてしまい、正確な測定が出来なくなる。変調部16では、2faクロック生成部30で生成された周波数2faのクロック信号が分周器34で周波数faのクロック信号に変換され、そのクロック信号は乗算器36にて変調振幅制御用直流電圧と掛け合わされた後、バンドパスフィルタ38で正弦波に変換される。バンドパスフィルタ38は移相器39を介して加算器26に接続されており、バンドパスフィルタ38からの信号電圧は移相器39で位相調整された後でオフセット直流電圧発生部24からの電圧に加算される。
【0045】
この実施例では、移相器39を変調部16の直後に配置したが、例えば第1信号処理部18の前などで位相調整を行なうなど、同期検波することが可能であれば移相器39をどこに配置してもよい。
【0046】
受光部8は、フォトダイオード(PD)40と電流/電圧変換器42で構成されている。フォトダイオード40は試料セル2内で複数回反射して再び光学チャンバ4内へ戻されたレーザ光を受光し、入射強度を電気信号として出力する。電流/電圧変換器42はフォトダイオード40からの信号電流を電圧に変換し、第1信号処理部18及び第2信号処理部20へ出力する。
【0047】
第1信号処理部18は乗算器からなる同期検波部44、ローパスフィルタ(LPF1)46及びA/Dコンバータ(ADC1)48で構成されている。図2Cに信号波形が示されているように、受光部8からの検出信号42Sは周波数faの信号のほかに周波数2faその他の高調波成分も含んでいる。同期検波部44では変調部16の2faクロック生成部30からの周波数2faのクロック信号が乗算されて、周波数2fa成分の波形の半分が反転し、周波数2fa以外の周波数成分が除去されて信号44Sとなる。この信号44Sがローパスフィルタ46を通ることにより、周波数2faの高調波成分のピーク信号強度Signal(ν0)46が抽出される。A/Dコンバータ48で信号強度Signal(ν0)がデジタル信号に変換された後、演算部22に取り込まれる。
【0048】
第2信号処理部20はローパスフィルタ(LPF)50及びA/Dコンバータ52で構成されている。ローパスフィルタ50には受光部8からの信号42Sが取り込まれ、吸収ピークの変動成分のみが信号50Sとして通過する。その信号50Sが信号強度I(ν0)である。ローパスフィルタ50としては、例えば応答速度が1秒であれば0.1秒程度の時定数をもつものが適当である。その信号強度I(ν0)はA/Dコンバータ52でデジタル信号に変換された後、演算部22に取り込まれる。
【0049】
既述のように、演算部22は、第1信号処理部18からの信号強度Signal(ν0)に基づき既述の(11)式を用いて高調波同期検出法により測定対象成分の分子数密度cを算出する第1演算手段23−1と、第2信号処理部20からの信号強度I(ν0)に基づき既述の(7)式を用いて直接吸収スペクトル法により測定対象成分の分子数密度cを算出する第2演算手段23−1を備えている。測定対象成分による光の吸収がない場合の参照光強度信号I0(ν0)は、この実施例では予め測定して演算部22の参照光強度信号I0(ν0)保持部23−3に保持しておく。


【0050】
このガス分析装置の信号処理と演算処理の一例について、以下に図3のフローチャートを用いて説明する。試料セル2内を通過した光を受光した受光部8からの信号が第1信号処理部18及び第2信号処理部20に入力されて所定の処理が施される(ステップS1)。第1信号処理部18では高調波同期検出法のための周波数2×faの信号強度Signal(ν0)が抽出され、第2信号処理部20では直接吸収スペクトル法のための周波数fa未満の信号強度I(ν0)が抽出される。これらの信号処理部18,20で抽出された信号強度は演算部22に取り込まれる(ステップS2)。
【0051】
演算部22では、切替え手段25が参照光強度信号I0(ν0)保持部23−3から参照光強度信号I0(ν0)を取り込み、第1信号処理部18から取り込んだ信号強度Signal(ν0)と第2信号処理部20から取り込んだI(ν0)を用いて、ln(I00)/I(ν0))又は(I00)−I(ν0))/I00)を計算する(ステップS3)。切替え手段25は、その計算結果から第1演算手段23−1により(10)式を用いて高調波同期検出法により測定対象成分の分子数密度cを算出した結果を出力するか、第2演算手段23−2により(7)式を用いて直接吸収スペクトル法により測定対象成分の分子数密度cを算出した結果を出力するかを決定する(ステップS4)。
【0052】
切替え手段25による判定の一例として、ln(I00)/I(ν0))又は(I00)−I(ν0))/I00)が予め設定した閾値未満のときは、測定対象成分の分子数密度が高調波同期検出法で測定できる低い分子数密度であるとして、第1演算手段23−1により(11)式を用いて高調波同期検出法により測定対象成分の分子数密度cを算出した結果を出力する(ステップS5)。逆に、ln(I00)/I(ν0))又は(I00)−I(ν0))/I00)が予め設定した閾値以上のときは高調波同期検出法を適用することができる分子数密度よりも高い分子数密度であるとして、第2演算手段23−2により直接吸収スペクトル法により測定対象成分の分子数密度cを算出した結果を出力する(ステップS6)。
【0053】
なお、高調波同期検出法を用いるか直接吸収スペクトル法を用いるかについての判定方法は、上記の判定方法のほかに、(I0(ν0)−I(ν0))を予め設定した閾値と比較し,閾値未満である場合は高調波同期検出法を用い、閾値以上である場合は直接吸収スペクトル法を用いるというような判定方法であってもよい。
【0054】
この実施例では第1演算手段23−1と第2演算手段23−2はともに演算を実行しており、切替え手段25により選択された方の演算結果を出力するようにしているが、切替え手段25により選択された方の演算手段のみが分子数密度を算出する演算処理を実行して出力をし、選択されなかった演算手段は演算処理を実行しないようにしてもよい。その場合には演算部22の負荷が少なくてすむ利点がある。
【0055】
[実施例2]
次に、第2実施例について図4A〜4Fを用いて説明する。この実施例のガス分析装置の装置全体の構成は図1と同様であるが、この実施例ではレーザ光の光周波数が走査されることから、信号処理系統は一部異なる。以下に第1実施例との相違部分を中心に説明する。
【0056】
この実施例は、周波数faよりも低い周波数fbで、例えば鋸波などで波長可変レーザ装置6の駆動電流を変化させることによりレ−ザ光の発振周波数を走査するものである。レーザ光の発振周波数を走査するため、実施例1のように測定対象成分の吸収線の中心周波数にレ−ザ光の発振周波数を高精度に合わせる必要がなく、また何度も連続して走査することが可能であるため信号の平均値を取ることでS/N比を向上することも可能になる。また、レーザ光の光周波数を走査するため、レーザ光の光周波数が測定対象成分の吸収を受けない周波数であるときの受光部8の信号強度を測定できるので、それらの信号強度に基づいてレーザ光の周波数が測定対象成分の吸収線の中心周波数であるときの信号強度を測定対象成分がない状態での参照光強度信号I0(ν0)の予測値として算出することができ、実施例1のように参照光強度信号I0(ν0)を予め測定しておく必要がない。
【0057】
この実施例では、光源駆動部12には、オフセット直流電圧発生部24の他にレーザ波長走査用電流を生成するための周波数fb周期の鋸波の走査用電圧を発生するレーザ波長走査用電圧生成部25がさらに設けられ、加算器27でオフセット直流電圧発生部24からの電圧信号に鋸波の走査用電圧が加えられるように構成されている。オフセット直流電圧発生部24から発生する信号24S、レーザ波長走査用電圧生成部25から発生する信号25S及びそれらの信号が加算されて形成される信号27Sは図4cに示された波形の信号である。
【0058】
第2信号処理部20aには、ローパスフィルタ(LPF)50とA/Dコンバータ(ADC2)52に加えて、周波数fb付近の信号を抽出するための透過域をもつバンドパスフィルタ(BPF3)54とA/Dコンバータ56(ADC3)が追加されている。ローパスフィルタ(LPF)50とA/Dコンバータ(ADC2)52は第1実施例と同じく、直流成分信号である吸収ピークの信号強度I(ν0)を抽出するものである。バンドパスフィルタ(BPF3)54は周波数fb周期で現れる吸収スペクトルを測定するのに適したものであり、バンドパスフィルタ(BPF3)54で抽出された信号がA/Dコンバータ56によってデジタル信号に変換されて演算部22aに取り込まれる。
【0059】
第1信号処理部18aでは、ローパスフィルタ(LPF2)46aは第1実施例のローパスフィルタ(LPF1)46とは異なり、周波数fb付近の信号を抽出する必要があることから、数kHz程度のカットオフ周波数をもつものとなる。
【0060】
演算部22aにおける第1演算手段23−1aは第1信号処理部18aからの走査された信号に基づいて信号強度Signal(ν0)を抽出し、さらにその抽出した信号強度Signal(ν0)と第2演算手段23−2aが抽出したI0(ν0)に基づき既述の(11)式を用いて高調波同期検出法により測定対象成分の分子数密度cを算出する。第2演算手段23−2aは第2信号処理部20aからの走査された2つの信号から信号強度I(ν0)とI0(ν0)を抽出し、抽出した信号強度I(ν0)とI0(ν0)に基づき既述の(7)式を用いて直接吸収スペクトル法により測定対象成分の分子数密度cを算出する。第1演算手段23−1aと第2演算手段23−2aは常に演算を行なっており、切替え手段25は第2演算手段23−1aからの信号強度I(ν0)とI0(ν0)に基づいて演算手段23−1a又は23−2aのいずれの演算結果の算出分子数密度cを出力するかを決定する。
【0061】
この実施例の動作について説明する。
加算器26では加算器27からの周波数fbの鋸波信号27Sに変調周波数faの信号39Sが加算されて、図4Dに示されるような駆動信号26Sとなって電圧/電流変換器28に印加される。この駆動信号によりレーザ発振が制御されることにより、発生するレーザ光は周波数fbの鋸波で波長が発振周波数ν0を中心として走査され、周波数faで変調されたものとなる。走査周波数fbは変調周波数faよりもかなり低く、数Hz〜数百Hzが好ましい。変調周波数faは一般的に数kHz〜数MHz程度である。このように、周波数faで変調させた正弦波を加えたレ−ザ光が試料ガスに照射される。ここで、周波数faの正弦波の振幅の大きさは周波数fbの鋸波の振幅よりも充分に小さい方が望ましい。これは実施例1と同様に、あまり大きすぎると第2信号処理部20aで検出する信号強度I(ν0)中に他の光周波数の成分影響が強く現れてしまい、正確な測定が出来な
【0062】
試料セルで測定対象成分に吸収されたレ−ザ光は受光部8のフォトダイオード40で検出され、第1信号処理部18aと第2信号処理部20aにおいて信号処理される。
【0063】
第2信号処理部20aでローパスフィルタ50及びバンドパスフィルタ54で抽出された信号は、それぞれ図4Dに信号50S,54Sとして示された信号になる。信号50Sは信号強度I(ν0)に相当し、これは第1実施例の場合と同じである。信号54Sは周波数fbで繰り返し現れる信号である。これらの信号はそれぞれのA/Dコンバ−タ52,56でデジタル変換され、演算部22aに取り込まれて加算された後は図4Dに信号(50S+54S)として示された信号になる。
【0064】
第1信号処理部18aでは、受光部8からの検出信号42Sに同期検波部44で変調部16の2faクロック生成部30からの周波数2faのクロック信号が乗算されて、周波数2fa成分の波形の半分が反転し、周波数2fa以外の周波数成分が除去されて信号44Sとなる。この信号44Sがローパスフィルタ46aを通ることにより、周波数2faの高調波成分のピーク信号強度Signal(ν0)を含む信号46aSが抽出される。それらの信号42s,44s,46asは図4Eに示されるような波形をもつ。第1実施例と同様に周波数2faで同期検波されるが、本実施例ではレーザ光の波数νが走査されているので、ローパスフィルタ46aを通過した信号は、周波数fb周期の波形となって現れる。その信号46aSはA/Dコンバータ48でデジタル信号に変換された後、演算部22aに取り込まれる。
【0065】
図5は第1信号処理部18aにより抽出される信号の波形の一例であり、図6は第2信号処理部20aにより抽出される信号の波形の一例である。図5及び図6において、横軸はレーザ光の光周波数νと測定対象成分の吸収線の中心周波数ν0との差(ν−ν0)を波数として表したもの、縦軸は検出信号強度である。レーザ波長を走査するための信号26sとの関係を示すと、図4Fに示されるように、これらの信号は鋸波の周波数fbの周期で繰り返し得られる。このように、図5及び図6に示されるような波形の信号を周波数fbの周期で繰り返し得ることができるので、平均化処理によりS/N比を高めることができる。
【0066】
演算部22aにおける第1演算手段23−1aは、図5に示されているように、信号処理部1により抽出される信号の波形における下側のピークから上側のピークまでの高さとして信号強度Signal(ν0)を抽出する。
【0067】
一方、演算部22aにおける第2演算手段23−2aは、図6において測定対象成分の吸収線の中心周波数における信号強度としてI(ν0)を抽出し、この波形の周囲の信号強度に基づいて近似線を作成することにより参照光強度信号I00)を抽出する。したがって、レーザ光の周波数を走査して行う1回の測定によりI00)、I(ν0)及びSignal(ν0)のすべてを得ることができる。I00)、I(ν0)及びSignal(ν0)に基づく測定対象成分の分子数密度cの演算処理については第1実施例と同様である。
【0068】
切替え手段25は第2演算手段23−2aから信号I00)とI(ν0)を取り込み、第1実施例と同様の判定によりいずれの演算手段23−1a又は23−2aでの分子数密度演算結果を出力するを決定する。この場合、第1演算手段23−1aによる信号強度Signal(ν0)から分子数密度cの演算と、第2演算手段23−2aによる信号I00)とI(ν0)から分子数密度cの演算は常に実行されており、切替え手段25から選択されると分子数密度演算結果を出力する。
【0069】
この実施例の場合でも、第2信号処理部20aを1つのローパスフィルタ50と1つのA/Dコンバータ52とで構成してもよい。ただし、その場合は、ローパスフィルタ50はレーザ波長走査用の周波数fbをもつ信号を通過させる必要があることから、数kHz程度のカットオフ周波数をもつローパスフィルタとする必要がある。
【0070】
この実施例のガス分析装置の信号処理と演算処理の一例について、以下に図7のフローチャートを用いて説明する。試料セル2内を通過した光を受光した受光部8からの信号が第1信号処理部18a及び第2信号処理部20bに入力されて所定の処理が施され、図5、図6に示される波形を示すデータが演算部22aに入力される(ステップS11)。第1演算手段23−1aでは信号強度Signal(ν0)が抽出され、第2演算手段23−2aでは信号I(ν0)とI0(ν0)が抽出される(ステップS12)。
【0071】
演算部22aでは、切替え手段25が第2演算手段23−2aからの信号I(ν0)とI0(ν0)を用いて、ln(I00)/I(ν0))又は(I00)−I(ν0))/I00)を計算し、その計算結果に基づいて第1実施例と同様にいずれの演算手段23−1a又は23−2aでの分子数密度演算結果を出力するかを決定する(ステップS13)。切替え手段25が第1演算手段23−1aを指定したときは第1演算手段23−1aが(11)式を用いて高調波同期検出法により計算した測定対象成分の分子数密度cを出力し(ステップS14)、切替え手段25が第2演算手段23−2aを指定したときは第2演算手段23−2aが(1)式を用いて直接吸収スペクトル法により計算した測定対象成分の分子数密度cを出力する(ステップS15)。
【0072】
[実施例3]
次に、ガス分析装置の第3実施例を図8A、8Bを用いて説明する。この実施例では、波長可変レーザ装置6から発せられるレ−ザ光の一部をビームスプリッタ7で試料セル2へ照射されるレーザ光から分岐させ、試料セル2を通過させることなく受光部8b側へ導くように構成する。受光部8bは、試料セル2内を通過させたレーザ光を検出するためのフォトダイオード40aとフォトダイオード40aの電流信号を電圧信号に変換する電流/電圧変換器42aに加え、試料セル2内を通過させないレーザ光を検出するためのフォトダイオード40bと電流/電圧変換器42bを備え、試料セル2内を通過させたレーザ光と通過させないレーザ光とを同時に別個の検出器で検出する。フォトダイオード40bでは試料セル2内を通過させないレーザ光を検出するため、この検出信号を測定対象成分による吸収がない場合の検出信号、すなわち参照光強度信号として使用する。
【0073】
第2信号処理部20bは、フォトダイオード40aからの信号を処理するためのローパスフィルタ(LPF1)50及びA/Dコンバータ(ADC2)52に加え、フォトダイオード40bからの信号を処理するためのローパスフィルタ(LPF2)60及びA/Dコンバータ(ADC3)62を備えている。電流/電圧変換器42aはローパスフィルタ(LPF1)50に増幅器58aを介して接続され、電流/電圧変換器42bはローパスフィルタ(LPF2)60に増幅器58bを介して接続されている。増幅器58aと58bは、反射鏡10a,10bでレ−ザ光が反射する際の減衰などの影響をなくしてフォトダイオード40aと40bからの信号を等価な信号として比較できるように調整するためのものである。
【0074】
その他の構成については図2A、2Bに示した第1実施例の構成と同様であるが、参照光強度信号I00)がフォトダイオード40bからの信号として得られるので、演算部22bには参照光強度信号I00)を保持しておくI00)保持部を設ける必要はない。この構成により、第1信号処理部18でSignal(ν0)を、第2信号処理部20bでI(ν0)及びI00)を抽出し、演算部22bにおいて第1実施例と同様に高調波同期検出法による測定対象成分の分子数密度cの算出及び直接吸収スペクトル法による測定対象成分の分子数密度cの算出を行い、切替え手段25により切り替えて出力する。
【0075】
上記の実施例は本発明に係るガス分析装置を測定対象成分中の水分の分子数密度の測定に適用したものであるが、本発明は水分以外の任意のガス分子数密度の測定に適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
2 試料セル
4 光学チャンバ
6 波長可変レーザ装置
8,8b 受光部
10a,10b 反射鏡
12 光源駆動部
14 制御部
16 変調部
18 第1信号処理部
20,20a,20b 第2信号処理部
22,22a,22b 演算部
23−1,23−1a 第1演算手段
23−2,23−2a 第2演算手段
24 オフセット直流電圧発生部
25 切替え手段
26 加算器
28 電圧電流変換器
30 クロック生成部
32 直流電圧発生器
34 分周器
36 乗算器
38,46 バンドパスフィルタ
39 移相器
40,40a,40b フォトダイオード
42,42a,42b 電流/電圧変換器
44 同期検波部
48,52 A/Dコンバータ
50 ローパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガスを流通させる試料セルと、
前記試料セルに対して試料ガス中の測定対象成分が吸収をもつ特定の光周波数のレーザ光を照射するレーザ照射部と、
前記レーザ光を照射するための駆動電流を前記レーザ照射部に印加する光源駆動部と、
前記光源駆動部から前記レーザ照射部に印加する前記駆動電流を第1の周波数faの変調周波数で変調する変調部と、
前記試料セル内部を通過した前記レーザ光を受光する受光部と、
前記受光部の光検出信号を前記変調周波数の整数倍の周波数で同期検波して高調波同期検出法により高調波信号強度Signal(ν)を検出する第1信号処理部と、
前記受光部の光検出信号を前記第1信号処理部を経ずに取り込み、周波数フィルタによって前記第1の周波数fa以上の周波数成分を遮断し、前記特定の光周波数での光強度信号I(ν)を検出する第2信号処理部と、
前記第1信号処理部で検出された高調波信号強度Signal(ν)及び前記第2信号処理部で検出された光強度信号I(ν)を取り込み、試料ガス中の前記測定対象成分の分子数密度cを算出する演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記レーザ光が前記特定周波数において前記測定対象成分による吸収を受けなかったときの参照光強度信号をI0(ν)として、前記高調波信号強度Signal(ν)と参照光強度信号I0(ν)とから試料ガス中における測定対象成分の分子数密度cを算出する第1演算手段と、
前記光強度信号I(ν)と参照光強度信号I0(ν)とから直接吸収スペクトル測定法により試料ガス中における測定対象成分の分子数密度cを算出する第2演算手段と、
を備えているガス分析装置。
【請求項2】
前記演算部は切替え手段を備え、
該切替え手段は前記光強度信号I(ν)と参照光強度信号I0(ν)とから試料中の前記測定対象成分の分子数密度が高調波同期検出法による測定に適した低い分子数密度であるか又はそれより高い分子数密度で直接吸収スペクトル測定法による測定に適した分子数密度であるかを判定し、高調波同期検出法による測定に適した分子数密度であるとの判定結果を得たときは第1演算手段による算出分子数密度cを出力し、直接吸収スペクトル測定法による測定に適した分子数密度であるとの判定結果を得たときは第2演算手段による算出分子数密度cを出力するように出力を切り替えるものである請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記切替え手段は、ln(I0(ν)/I(ν))もしくは(I0(ν)−I(ν))/I0(ν)が予め定めた値以下のときに高調波同期検出法による測定に適した低い分子数密度であるとの判定結果を得、前記値がその予め定めた値よりも大きいときに直接吸収スペクトル測定法による測定に適した分子数密度であるとの判定結果を得るものである請求項2に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記切替え手段は、前記光強度信号I(ν)と参照光強度信号I0(ν)の差が予め設定した値以下のときに高調波同期検出法による測定に適した分子数密度であるとの判定結果を得、前記差がその設定値よりも大きいときに直接吸収スペクトル測定法による測定に適した分子数密度であるとの判定結果を得るものである請求項2に記載のガス分析装置。
【請求項5】
前記光源駆動部は前記レーザ照射部から照射されるレーザ光の周波数が前記特定周波数となるように前記レーザ照射部に印加する駆動電流を設定しているものであり、
前記演算部は前記レーザ光が前記特定周波数において前記測定対象成分による吸収を受けなかったときの参照光強度信号I0(ν)を保持する参照光強度信号I0(ν)保持部を備えており、
前記第1演算手段と第2演算手段は参照光強度信号I0(ν)として前記参照光強度信号I0(ν)保持部に保持されている参照光強度信号I0(ν)値を使用する請求項1から4のいずれか一項に記載のガス分析装置。
【請求項6】
前記特定周波数が前記測定対象成分の吸収線の中心周波数(ν0)である請求項5に記載のガス分析装置。
【請求項7】
前記レーザ照射部が測定対象成分による吸収を受けない周波数のレーザ光まで発振するように前記レーザ照射部に印加するレーザ駆動電流を変化させるレーザ波長走査用電流生成部を備え、
前記第2信号処理部は、前記レーザ波長走査用電流生成部によって前記レーザ照射部が測定対象成分による吸収を受けない周波数のレーザ光を発振したときのその吸収を受けない周波数における透過光強度も測定し、その結果から近似的に測定対象成分による光吸収がない場合に相当する前記特定周波数での参照光強度信号I0(ν)を算出する部分を備えている請求項1から4のいずれか一項に記載のガス分析装置。
【請求項8】
前記レーザ波長走査用電流生成部は、前記第1の周波数faよりも低い第2の周波数fb周期の鋸波を発生させるものである請求項7に記載のガス分析装置。
【請求項9】
前記試料セルと前記レーザ照射部との間に配置され、前記レーザ照射部から出射されたレーザ光を試料セル内に入射するレーザ光と試料セルに入射しないレーザ光に分岐させるビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタにより分岐されて前記試料セルに入射しない側のレーザ光を受光する参照用受光部とをさらに備え、
前記第2信号処理部は、前記参照用受光部による検出信号を周波数フィルタによって第1の周波数fa成分以上を遮断し,その処理後に現れた前記特定周波数での光強度を検出して、それを測定対象成分による光吸収がない場合に相当する前記特定周波数での参照光強度信号I0(ν)とする部分を備えている請求項1から4のいずれか一項に記載のガス分析装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2011−220758(P2011−220758A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88545(P2010−88545)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】