説明

ガス分離装置

【課題】ピンホールの発生原因を除去することにより、ピンホールの発生を効果的に防止できるガス分離装置を提供すること。
【解決手段】水素分離筒1においては、水素分離膜9と支持体11(詳しくはバリア層7)との間に、水素分離膜材料と支持体材料とを含む混合層13、詳しくは、水素分離膜材料と支持体材料との混合比率が混合層13の厚み方向において傾斜しておらず且つばらついていない混合層13を備えている。この様な混合層13が水素分離膜9と支持体11との間にある場合には、水素分離膜9にピンホールが生じにくいという効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水素分離装置等のガス分離装置、特に、原料ガスから所望のガスを選択して分離することにより純度の高い所望のガスを分離することができるガス分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば燃料電池に供給する水素を製造する装置として、例えば下記特許文献1に記載の様に、支持体の表面に水素透過膜(水素分離膜)が形成された水素分離筒を用いた水素分離装置が開発されている。
なお、支持体としては、例えば筒状の多孔質からなる1層構造(同質な構造)の支持体や、多孔質からなる基体(多孔質基体)の表面にバリア層を設けた2層構造の支持体がある。この2層構造の支持体とは、多孔質基体の表面に、多孔質基体と水素透過膜材料の反応を抑制する機能層を設けたものである。
【0003】
ところが、この種の水素透過膜は非常に薄膜であるので、図11に模式的に示す様に、多孔質基体P1の表面に窪みや突起や微小クラック等があると、多孔質基体P1の表面をバリア層P2で覆った場合でも、水素透過膜P3に欠陥(ピンホール)P4が発生するという問題があった。
【0004】
この対策として、例えば下記特許文献2に記載の様に、支持体の表面に、パラジウム又はパラジウムを主体とした合金からなる薄膜(水素透過膜)を形成した後に、薄膜のピンホールを探査し、探査したピンホールにパラジウムを主体とする合金又はパラジウムと合金化する金属を被着し、この被着した金属と合金化する温度で加熱処理してピンホールを塞いで、パラジウム系水素分離膜を形成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−277472号公報
【特許文献2】特開2002−119834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献2の技術では、探査したピンホールを閉塞することはできるが、ピンホールを閉塞する際の加熱処理によって、閉塞した箇所以外の場所に別のピンホールが発生する可能性があるという問題があった。
【0007】
また、上述の様にピンホールを閉塞した場合でも、多孔質基体やバリア層の表面の状態は改善されていないので、水素分離装置の使用初期に際してピンホールが存在しなくても連続使用した際には、新たにピンホールが発生する恐れがあるという問題があった。なお、同様な問題は、バリア層を備えていない支持体の場合でも、同じ様に発生する。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、ピンホールの発生原因を除去することにより、ピンホールの発生を効果的に防止できるガス分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、第1態様として、原料ガスから所望のガスを選択して分離するガス分離膜と、該ガス分離膜の厚み方向の一方側に配置されて該ガス分離膜を支持する支持体とを備えたガス分離装置において、前記ガス分離膜と前記支持体との間に、前記ガス分離膜の構成材料と前記支持体の構成材料とを含む混合層を備えるとともに、前記混合層における前記ガス分離膜の構成材料と前記支持体の構成材料との混合比率が、該混合層の厚み方向において傾斜していないことを特徴とする。
【0010】
本発明の第1態様では、ガス分離膜と支持体との間に、ガス分離膜の構成材料(ガス分離膜材料)と支持体の構成材料(支持体材料)とを含む混合層、詳しくは、ガス分離膜材料と支持体材料との混合比率が混合層の厚み方向において傾斜していない混合層を備えている。
【0011】
この様な混合層がガス分離膜と支持体との間にある場合には、ガス分離膜にピンホールが生じにくいという効果がある。
つまり、混合層には、ガス分離膜と同じ成分(ガス分離材料)が含まれているので、混合層とガス分離膜とが接する箇所では、混合層中のガス分離材料とガス分離膜の成分とが強固に結合する。よって、支持体の表面に窪みや突起や微小クラック等の表面欠陥がある場合でも、その部分が混合層で覆われていることによって、支持体の表面欠陥の影響がガス分離膜に影響し難いので、ガス分離膜にピンホールが生じにくいという顕著な効果を奏する。
【0012】
また、混合層には、支持体と同じ成分(支持体材料)が含まれているので、混合層と支持体が強固に接合している。つまり、ガス分離膜は混合層を介して支持体に強固に一体化したものであるので、この点からもピンホールが生じ難いという利点がある。
【0013】
特に、上述した従来技術では、加熱処理によってピンホールを閉塞しているが、本発明の第1態様では、混合層を設けることにより、支持体の表面欠陥を補修して、ピンホールの発生する要因を事前に取り除くことができるので、ピンホールの発生自体を防止することができる。そのため、従来の加熱処理が不要であるので、加熱処理によって新たにピンホールが発生することがない。
【0014】
更に、ガス分離装置を連続使用した場合には、使用環境によっては、新たにピンホールが発生し易いが、本発明の第1態様では、混合層によって支持体の表面欠陥が除去されているので、この混合層で覆った箇所では、ピンホールが発生し難いという効果がある。
【0015】
特に、混合層の組成を「傾斜しない」とすることにより、混合層をより強固に支持体及びガス分離膜に接合することができ、ピンホールの発生をより確実に抑制することができる。
例えば、筒状の支持体に改質触媒機能を付与した場合(即ち、金属触媒をセラミックスに含有させて支持体を構成した場合)、金属触媒によって改質反応が発生する。改質反応によって生成した改質ガスの中、水素のほかに一酸化炭素や二酸化炭素、未反応の原料ガスなどが存在するため、水素の分圧が低くなっている。一方、有効に水素を取り出すには、導入する原料ガスの圧力を上げる必要がある。これにより、ガス分離膜と支持体との固着性がより高く要求される。
本発明のように、混合層の構成材料の配合を傾斜していないように構成することによって、支持体とガス分離膜とがより強固に密着することができ、膜剥離や膜破裂によるガスリークが発生しにくいという効果が顕著に現れる。
(2)本発明は、第2態様として、前記混合層を厚み方向に破断した断面において、前記ガス分離膜側に近い所定の測定領域(a)におけるガス分離膜材料の混合比率(A)と、前記測定領域(a)よりも前記支持体側に近い所定の測定領域(c)におけるガス分離膜材料の混合比率(C)とを比較した場合、「A≦2C」の場合を「傾斜していない」とすることを特徴とする。
【0016】
この第2態様では、「傾斜していない」好適な場合を例示している。
(3)本発明は、第3態様として、原料ガスから所望のガスを選択して分離するガス分離膜と、該ガス分離膜の厚み方向の一方側に配置されて該ガス分離膜を支持する支持体とを備えたガス分離装置において、前記ガス分離膜と前記支持体との間に、前記ガス分離膜の構成材料と前記支持体の構成材料とを含む混合層を備えるとともに、前記混合層における前記ガス分離膜の構成材料と前記支持体の構成材料との混合比率が、該混合層の厚み方向においてばらつきのないことを特徴とする。
【0017】
本発明の第3態様では、ガス分離膜と支持体との間に、ガス分離膜の構成材料(ガス分離膜材料)と支持体の構成材料(支持体材料)とを含む混合層、詳しくは、ガス分離膜材料と支持体材料との混合比率が混合層の厚み方向においてばらつきのない混合層を備えている。
【0018】
この様な混合層がガス分離膜と支持体との間にある場合には、ガス分離膜にピンホールが生じにくいという効果がある。
つまり、混合層には、ガス分離膜と同じ成分(ガス分離材料)が含まれているので、混合層とガス分離膜とが接する箇所では、混合層中のガス分離材料とガス分離膜の成分とが強固に結合する。よって、支持体の表面に窪みや突起や微小クラック等の表面欠陥がある場合でも、その部分が混合層で覆われていることによって、支持体の表面欠陥の影響がガス分離膜に影響し難いので、ガス分離膜にピンホールが生じにくいという顕著な効果を奏する。
【0019】
また、混合層には、支持体と同じ成分(支持体材料)が含まれているので、混合層と支持体が強固に接合している。つまり、ガス分離膜は混合層を介して支持体に強固に一体化したものであるので、この点からもピンホールが生じ難いという利点がある。
【0020】
特に、上述した従来技術では、加熱処理によってピンホールを閉塞しているが、本発明の第3態様では、厚み方向においてばらつきのない混合層を設けることにより、支持体の表面欠陥を補修して、ピンホールの発生する要因を事前に取り除くことができるので、ピンホールの発生自体を防止することができる。そのため、従来の加熱処理が不要であるので、加熱処理によって新たにピンホールが発生することがない。
【0021】
更に、ガス分離装置を連続使用した場合には、使用環境によっては、新たにピンホールが発生し易いが、本発明の第1態様では、混合層によって支持体の表面欠陥が除去されているので、この混合層で覆った箇所では、ピンホールが発生し難いという効果がある。
特に、混合層の組成を「ばらつきのない」ものとすることにより、混合層をより強固に支持体及びガス分離膜に接合することができ、ピンホールの発生をより確実に抑制することができる。
例えば、筒状の支持体に改質触媒機能を付与した場合(即ち、金属触媒をセラミックスに含有させて支持体を構成した場合)、金属触媒によって改質反応が発生する。改質反応によって生成した改質ガスの中、水素のほかに一酸化炭素や二酸化炭素、未反応の原料ガスなどが存在するため、水素の分圧が低くなっている。一方、有効に水素を取り出すには、導入する原料ガスの圧力を上げる必要がある。これにより、ガス分離膜と支持体との固着性がより高く要求される。
本発明のように、混合層の構成材料の配合をばらつきのないように構成することによって、支持体とガス分離膜とがより強固に密着することができ、膜剥離や膜破裂によるガスリークが発生しにくいという効果が顕著に現れる。
【0022】
(4)本発明では、第4態様として、前記混合層を厚み方向に破断した断面において、前記ガス分離膜側に近い所定の測定領域(a)におけるガス分離膜材料の混合比率(A)と、前記測定領域(a)よりも前記支持体側に近い所定の測定領域(c)におけるガス分離膜材料の混合比率(C)と、前記測定領域(a)と前記測定領域(c)との中間の所定の測定領域(b)におけるガス分離膜材料の混合比率(B)とを比較した場合、「A≦2B又は2C」、「B≦2C又は2A」、「C≦2A又は2B」の全てを満たしている場合を「ばらつきのない」とすることを特徴とする。
【0023】
この第4態様では、「ばらつきのない」好適な場合を例示している。
(5)本発明では、第5態様として、前記混合層は、前記支持体の表面において、分散して配置されていることを特徴とする。
【0024】
混合層が支持体全面を覆っていると、ガス分離性能に影響を及ぼすので、できるだけ少ない方(例えば全表面積の50%以下)が望ましい。具体的には、ピンホールが発生する若しくは発生しやすい箇所のみを覆っていることが望ましい。
【0025】
(6)本発明は、第6態様として、前記混合層は、前記支持体の表面の所定以上の大きさの凹部及び/又は凸部からなる表面欠陥を覆うように配置されていることを特徴とする。
【0026】
ピンホールが発生し易い箇所は、支持体表面に窪みや突起や微小クラック等の表面欠陥がある場合である。従って、この様な表面欠陥に対応する所定以上の大きさの凹部や凸部を混合層で覆うことにより、効果的にピンホールの発生を防止できるとともに、ガス分離性能に与える影響を小さくすることができる。
【0027】
なお、どの程度の大きさの凹部や凸部を覆うかについては、表面を撮影した画像を解析して、凹部や凸部と認められる画像について、例えば所定の面積(例えば1μm2)以上とするなど、実験により求めたピンホールが発生し易い凹部や凸部の大きさに対応して、適宜設定することができる。
【0028】
なお、あまり小さな表面欠陥まで覆う場合には、ピンホールの発生を十分に抑制できるものの、混合層の表面積が増加しその補修のための手間がかかる。逆に、大きな表面欠陥しか覆わない場合には、ピンホールの発生を十分に抑制できない可能性がある。よって、効果と手間(コスト)の関係を考えて、どの程度の表面欠陥まで覆うかを、適宜設定すればよい。なお、通常100μm2以上とする場合に上記効果と手間のバランスがよいと考えられ、より好ましく採用できる。
【0029】
(7)本発明は、第7態様として、前記混合層は、前記ガス分離膜の構成材料及び前記支持体の構成材料のみからなることを特徴とする。
混合層は、ガス分離膜の構成材料及び支持体の構成材料のみで構成されると好適である。混合層は、ガス分離膜の構成材料及び支持体の構成材料のみで構成される場合には、構成材料間の親和性が高くなり、ガス分離膜及び支持体の両方をより強固に接続することができる。例えば、ガス分離膜の構成材料はPdとAgで構成され、支持体の構成材料はイットリア安定化ジルコニアで構成された場合には、混合層を、Pd、Agとイットリア安定化ジルコニアで構成することが望ましい。
なお、混合層は、ガス分離膜の構成材料及び支持体の構成材料以外に、他のセラミック材料を含んでいてもよい。この他のセラミック材料としては、例えば、安定化ジルコニア、アルミナ、マグネシア、セリア、ドープドセリアが挙げられる。
【0030】
(8)本発明は、第8態様として、前記支持体は、改質触媒として機能する金属触媒とセラミックからなる多孔質基体と、前記多孔質基体の表面に形成され、前記多孔質基体の構成材料と前記ガス分離膜の構成材料が反応しないように分離するバリア層と、を有し、前記混合層は、前記バリア層の表面に形成されて、且つ、前記バリア層の構成材料と前記ガス分離膜の構成材料を含むことを特徴とする。
【0031】
本発明の第8態様によれば、支持体とガス分離膜の間にバリア層を設けることにより、支持体の構成材料とガス分離膜の構成材料が反応しなくなり、ガス分離膜の機能低下を抑制することができる。
【0032】
(9)本発明は、第9態様として、前記金属触媒は、Ni、Fe、Co、Ti、Mn、V、Cr、Pd、Pt、Ru、Rh、の少なくとも一種の金属を含むことを特徴とする。
ここでは、好適な金属触媒を例示している。
【0033】
a)ここで、上述した発明の各構成について、詳しく説明する。
前記混合層におけるガス分離膜の構成材料と支持体の構成材料との割合は、ガス分離膜の構成材料が30〜70体積%、支持体の構成材料が30〜70体積%の範囲が好適である。つまり、ガス分離膜の構成材料が30体積%以上であると、ガス分離膜との接合性が向上し、支持体の構成材料が30体積%以上であると、支持体との接合性が向上する。
【0034】
なお、混合層に含まれるガス分離膜の構成材料及び支持体の構成材料は、混合層全体の30体積%以上であると、上述した効果が十分に得られるので好適である。
前記した様に、前記支持体としては、多孔質の支持基体(多孔質基体)と、その多孔質基体の表面を覆う多孔質のバリア層(保護層)が挙げられるが、バリア層を省略することも可能である。つまり、多孔質基体からなる支持体としてもよい。
【0035】
前記多孔質基体を構成する材料としては、多孔質セラミックが挙げられる。この多孔質セラミックとしては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、安定化ジルコニア、アルミナ、マグネシア、セリア、ドープドセリアおよびこれらの混合物が挙げられる。また、前記セラミックに金属触媒を担持させたセラミック、金属触媒とセラミックとのサーメットなどが挙げられる。
水素分離膜を形成した多孔質基体は、前記多孔質基体の多孔質セラミックに金属触媒を担持させることで「メンブレンリフォーマー」として機能することができる。具体的には、セラミックと改質金属触媒(Ni)とのサーメットに水素分離膜を形成することによって、改質される原料ガス(炭化水素ガス)と水蒸気を導入した際に、改質金属触媒によって改質されたガスを、水素分離膜により選択的に透過分離する場合、原料ガスのガス圧力を高くしたり、透過側の圧力を負圧にしたりする必要がある。その際に、混合層が傾斜していない、もしくはばらつきのないように構成されている為、支持体及び水素分離膜と強固に接合され、水素分離膜の剥離及び破裂によるガスリークが発生しにくい。
【0036】
前記バリア層は、多孔質基体の金属成分とガス分離膜の成分とが互いに拡散することにより、ガス分離性能が劣化することを防止するためのものであり、このバリア層の材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、安定化ジルコニア、アルミナ、マグネシア、セリア、ドープドセリアが挙げられる。
【0037】
前記ガス分離膜が、原料ガスから水素を分離する水素分離膜である場合には、その水素分離膜の材料としては、Pd、Pd合金、V合金、Nb合金等が挙げられる。
前記ガス分離膜が、原料ガスから酸素を分離する酸素分離膜である場合には、その酸素分離膜の材料としては、希土類とアルカリ土類と遷移金属とのペロブスカイト酸化物、ランタンガレート系ペロブスカイト酸化物、ドープトセリアとジルコニアの固溶体等、またはこれらの混合物等が挙げられる。
【0038】
前記ガス分離膜が、セラミック分子篩膜である場合には、そのセラミック分子篩膜にて、目的とするガス(水素、酸素、二酸化炭素等)のみを透過させて(原料ガスから)分離することができる。なお、セラミック分子篩膜としては、アモルファスシリカ、ゼオライト、窒化珪素多孔体等が挙げられる。
【0039】
b)また、本発明では、各用語の意味を下記の様に定義している(以下同様)
なお、以下の説明では、a、b、cは、各測定領域を示し、A、B、Cは、各測定領域a、b、cにおける混合比率を示している。
【0040】
混合層:混合層を厚み方向に破断した断面を電子顕微鏡にて観察する(SEM写真を撮影する)際に、電子顕微鏡の視野の全範囲(図7参照)において、混合層(断面)が観察視野全範囲の20%以上を占めるように調整し、かつ、ガス分離膜断面及び混合層断面が全体と、支持体の断面の一部とが視野に入るように調整して観察する(SEM写真を撮影する)。なお、SEM写真撮影の際は、画像上辺(若しくは下辺)とガス分離膜の外側表面(混合層と反対側の表面)が平行になるように調整して撮影する。また、ガス分離膜の外側表面に対して平行な線を引き、支持体材料の少なくとも1種類とガス分離膜材料とを含む領域を区画する二つの平行線の間の領域を混合層として定義し、平行線間の距離を混合層の厚みとする。
【0041】
なお、混合層においては、その厚み方向の両側の部分に、混合層に隣接する部材(支持体及びガス分離膜)の成分が多い境界部分が存在するが、この境界部分には、「支持体材料の少なくとも1種とガス分離膜材料と」を含むので、この境界部分も含めて混合層とする。なお、混合層の厚みは1μm以上であることが好ましい。
【0042】
混合比率:混合比率は上記の層(混合層)断面の観察方法にて、電子顕微鏡による断面SEM画像を撮影し計測を実施する。図1に示す様に、支持体及び混合層及びガス分離膜を厚み方向に破断した断面について、混合層の厚みに対して厚み方向に1/3〜1/5の厚み(例えば1/4の厚み:例えば8μm)を有し、且つ、画像(視野)の左端(上端)から右端(下端)までの幅が視野幅の80%以上100%未満を有する長方形の測定領域(a,b、c)を、任意に選択する。なお、この3箇所の測定領域は、互いに重なることなく設定する。そして、この3箇所の測定領域に対して、2値化解析により、支持体材料とガス分離膜材料との面積をそれぞれ算出し、2値化された両面積の合計を100%として各面積の割合を求め、この割合から混合比率を求める。
【0043】
傾斜が無い(傾斜していない):前記図1に例示する様に、混合層の断面について、上述の様に選択された測定領域のうち、ガス分離膜側に近い前記測定領域(a)におけるガス分離膜材料の混合比率(A)と、支持体側に近い前記測定領域(c)におけるガス分離膜材料の混合比率(C)を比較した場合、混合比率(A)が混合比率(C)の2倍を上回る場合、即ち「A>2C」の場合には、混合比率の差が明確となり、傾斜があるとする。一方、前記第2態様に示す様に、「A≦2C」の場合を、傾斜が無いとする。
【0044】
なお、ここでは、ガス分離膜材料の混合比率の傾斜について述べたが、YSZの混合率(傾斜)についても同様なことが言える。つまり、支持体に近い測定領域から順に支持体材料の混合比率をA、B、Cとすると、ガス分離膜材料と同様に傾斜の状態が分かる。なお、下記のばらつきについても同様である。
【0045】
ばらつきが無い(ばらつきのない):前記図1に例示する様に、混合層の断面について、上述の様に選択された測定領域のうち、ガス分離膜側に近い前記測定領域(a)におけるガス分離膜材料の混合比率(A)と、(a)、(c)の中間の前記測定領域(b)におけるガス分離膜材料の混合比率(B)と、支持体側に近い前記測定領域(c)におけるガス分離膜材料の混合比率(C)を比較した場合、最も少ない混合比率に対して最も多い混合比率が2倍を上回る場合には、ばらつきが大きい。すなわち、前記第4態様に示す様に、「A≦2B又は2C」、「B≦2C又は2A」、「C≦2A又は2B」の全てを満たす場合を、ばらつきが無いとする。一方、「A>2B又は2C」、「B>2C又は2A」、「C>2A又は2B」のいずれかの場合には、ばらつきが大きいとする。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の用語の定義を説明するために説明図である。
【図2】第1、2実施形態の水素分離装置の水素分離筒を軸方向に沿って破断して示す断面図である。
【図3】第1実施形態の水素分離筒の一部を破断して拡大して示す説明図である。
【図4】第1実施形態の水素分離筒の支持体の表面欠陥の状態を示すために、水素分離筒を軸方向に垂直に破断して拡大して示す説明図である。
【図5】第1、2実施形態の水素分離モジュールを軸方向に沿って破断して示す断面図である。
【図6】第1実施形態の水素分離筒を中心軸に垂直な断面で破断した表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】第1実施形態における混合層の傾斜を調べるための方法を、走査型電子顕微鏡写真を挙げて示す説明図である。
【図8】第2実施形態の水素分離筒の一部を破断して拡大して示す説明図である。
【図9】第2実施形態の水素分離筒の支持体の表面欠陥の状態を示すために、水素分離筒を軸方向に垂直に破断して拡大して示す説明図である。
【図10】比較例における混合層の傾斜を調べるための方法を、走査型電子顕微鏡写真を挙げて示す説明図である。
【図11】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
ここでは、ガス分離装置として、バリア層を備えた水素分離筒を用いて、燃料電池に燃料ガス(水素ガス)を供給する水素分離装置について説明する。
【0048】
a)まず、本実施形態の水素分離装置の要部である水素分離筒について、図2〜図4に基づいて説明する。
本実施形態の水素分離装置は、図2に示す様に、原料ガスから水素を分離する部材として、一端が閉塞された試験管状の水素分離筒1を備えている。
【0049】
この水素分離筒1は、その軸中心の中心孔3に導入された原料ガス(例えばメタンなどの炭化水素ガスと水蒸気の混合ガス)から、水素を選択的に分離して、選択的に分離された水素を水素分離筒1の外周側に供給する部材である。
【0050】
詳しくは、水素分離筒1は、図3に先端側を拡大して示す様に、一端が閉塞された試験管状の(改質触媒兼支持体である)多孔質の支持基体(多孔質基体)5と、多孔質基体5の外側表面を覆う多孔質のバリア層7と、バリア層7の外側表面を覆う水素分離膜(水素透過膜)9とから構成されている。なお、多孔質基体5及びバリア層7によって、水素分離膜9を支持する支持体11が構成されている。
【0051】
このうち、多孔質基体5は、改質触媒としての役割と水素分離膜9を支持する役割とを有する通気性を有する試験管状の部材、具体的にはNiを含むYSZ(イットリア安定化ジルコニア)からなる多孔質セラミック製の部材であり、この多孔質基体5では、原料ガスを水蒸気改質して改質ガスを生成する。なお、本実施形態では、多孔質基体5に改質触媒(金属触媒)を含む形態を示したが、多孔質基体5に金属触媒を含まない場合も同様である。
【0052】
バリア層7は、例えばYSZからなり、多孔質基体5の金属成分(例えばNi)と水素分離膜9の成分(例えばPd)とが互いに交じり合う(拡散する)ことにより、水素分離膜9の水素透過性能が劣化することを防止するための多孔質層(相互拡散防止層)である。
【0053】
水素分離膜9は、例えばPd−Ag合金からなり、多孔質基体5内で改質された改質ガスから水素を選択的に透過して精製する薄膜である。
特に本実施形態では、図4に拡大して模式的に示す様に、バリア層7の表面に分散して存在する表面欠陥、詳しくは、ピンホールが発生する原因となる凹部や凸部の様な表面欠陥を覆うように、混合層13が形成されており、この混合層13を含むバリア層7の全表面を覆うように水素分離膜9が形成されている。
【0054】
この混合層13は、バリア層7の材料であるYSZと水素分離膜9の材料の1種であるPdとを、例えば1:1の体積比で含む混合材料からなるものである。また、混合層13は、バリア層7(従って実質的に水素分離筒1)の表面全体(面積)の50%以下となるように形成されている。
【0055】
b)次に、前記水素分離筒1を備えた水素分離モジュールについて、図5に基づいて説明する。
図5に示す様に、水素分離モジュール15は、前記水素分離筒1と、水素分離筒1の開放端側が挿入された筒状の取付金具17と、水素分離筒1の外周面と取付金具17の内周面との間に配置された円筒形のシール部材19と、水素分離筒1に外嵌されてシール部材19の先端側を押圧する円筒形の押圧金具21と、押圧金具21に外嵌されて取付金具17に螺合する筒状の固定金具23とを備えている。
【0056】
具体的には、前記取付金具17は、その先端側より、外周にねじ部25を有する先端側筒状部27と、外周側に環状に張り出す鍔部29と、基端側筒状部31とを備えている。この取付金具17の軸中心には、原料ガスの流路となる貫通孔(中空部)33が形成され、中空部33には、水素分離筒1の基端側の端部が収容されている。
【0057】
前記固定金具23は、押圧金具21を基端側に押圧する環状の押圧板37と、押圧板37の外周端から軸方向に沿って基端側に伸び、内周面にねじ部39を有する筒状部41とを備えている。
【0058】
前記押圧金具21は、固定金具23の内側の筒状の空間内にて、シール部材19と隣接して配置されている。
前記シール部材19は、膨張黒鉛からなる円筒状の気密部材であり、先端側筒状部27の内側の筒状の空間内にて、押圧金具21と隣接して配置されている。
【0059】
また、水素分離モジュール15の内部(詳しくは水素分離筒1の中心孔3)には、原料ガスを水素分離筒1の基端側から先端側に供給する内挿管45が配置されている。
この水素分離モジュール15は、取付金具17にて水素ガスを収容する容器47に固定されており、これにより水素分離装置49が構成されている。つまり、水素分離装置49では、水素分離筒1の先端側が容器47内に突出するように配置されるとともに、取付金具17の基端側筒状部31が容器47外に突出するように配置されている。
【0060】
よって、容器47外から内挿管45を介して水素分離筒1内に供給された原料ガスは、多孔質基体5にて改質され、水素分離膜9にて水素が分離され、その水素は、水素分離筒1の外周側(従って容器47内)に排出される。一方、反応後のオフガス(CO、CO2、H2、メタン、水蒸気)は、内挿管45の外周に沿って水素分離筒1の基端側から外部に排出される。
【0061】
c)次に、前記水素分離筒1等の製造方法について、前記図4等に基づいて説明する。
まず、酸化ニッケル(NiO)とイットリア安定化ジルコニア(YSZ)との各粉末と、造孔材(有機ビーズ)と、有機バインダーとを混合して混合材料を作製し、この混合材料を(水素分離筒1の形状に対応した)所定の型枠に入れて、プレス成形法により、円筒有底管形状の成形体を作製した。
【0062】
なお、各材料の割合としては、NiOとYSZとを重量比で2:8の割合で用いるとともに、有機ビーズを(全混合材料に対して)50体積%添加した混合材料を用いることができる。
【0063】
次に、この成形体を、1400℃で焼結することにより、外径10mm×内径6mm×長さ300mmの多孔質基体5を作製した。
次に、イットリア安定化ジルコニア粉末を有機溶媒中に分散させたスラリーを作製し、このスラリーを用いてディップコーティング法によって多孔質基体5の表面を覆い、1300℃で焼き付けて、前記図4に模式的に示す様に、多孔質基体5上に多孔質のバリア層7を形成した。
【0064】
次に、バリア層7の表面にピンホールの発生を防止するために混合層13を形成した。
具体的には、まず、バリア層7の表面検査を(倍率5から100の)拡大鏡によって行い、窪み、突起、微小クラック、(多孔質でない)緻密部を、表面欠陥(欠陥部分)として識別した。詳しくは、バリア層7の表面全面を検査し、1個あたりの欠陥サイズとして面積100〜250000μm2程度の表面欠陥を、補修すべき表面欠陥とした。
【0065】
そして、(バリア層7の成分である)YSZと(水素分離膜9の成分である)Pdとを体積比で1:1とするとともに、有機バインダーを加えて補修用の混合材料を作製し、この混合材料を前記バリア層7の表面の欠陥部分に塗布し、1250℃、1時間の条件で、焼付処理を行った。
【0066】
この焼付処理によって、バリア層7の欠陥部分を覆うように、YSZとPdとからなる混合層13が形成された。
その後、この混合層13の表面を含むバリア層7の表面に、Pdの核付け処理を行った後に、例えば無電解メッキ法(或いは真空蒸着法やスパッタリング法等)により、Pd膜及びAg膜を順次形成した。
【0067】
次に、不活性雰囲気下にて、750℃で合金化加熱を行うことにより、Pd−Ag合金化を行い、その後、雰囲気を水素に切り換え還元処理を施した。これにより、バリア層7上にPd−Ag合金からなる水素分離膜9を形成するとともに、多孔質基体5内の酸化ニッケルの還元を行った。
【0068】
これらの工程によって、水素分離筒1が完成した。
その後、水素分離筒1を用いて水素分離モジュール15を完成した。
具体的には、水素取付金具17の中空部33に、シール材19、押圧金具21の順で内嵌した。次に、水素分離筒1の開放端側を、押圧金具21の貫通孔、シール材19の貫通孔を通す様に挿入し、水素分離筒1の端部を取付金具17の凹部35に嵌めた。次に、水素分離筒1の先端側より固定金具23を外嵌し、固定金具23のねじ部39と取付金具17のねじ部25を螺合し、固定金具23により押圧金具21を基端側に締め付けて、水素分離モジュール15を完成した。
【0069】
そして、上述の様にして製造された水素分離筒1を調べたところ、混合層13は、水素分離筒1(詳しくは支持体11)の外側の全表面に分散して存在しており、水素分離筒1の全表面の5%を占めていた。
【0070】
また、水素分離筒1を中心軸に対して垂直に破断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:1000)により調べたところ、図6に示す様に、混合層13が存在している箇所においては、バリア層7の表面に平均で約20μmの厚さで混合層13が形成されており、更に、混合層13を覆う様に、平均で約20μmの厚さの水素分離膜9が形成されていた。
【0071】
d)上述のようにして製造された本実施形態の水素分離筒1においては、水素分離膜9と支持体11(詳しくはバリア層7)との間に、水素分離膜材料と支持体材料とを含む混合層13、詳しくは、水素分離膜材料と支持体材料との混合比率が混合層13の厚み方向において傾斜しておらず且つばらついていない混合層13を備えている。
【0072】
この様な混合層13が水素分離膜9と支持体11との間にある場合には、水素分離膜9にピンホールが生じにくいという効果がある。
つまり、混合層13には、水素分離膜9と同じ成分が含まれているので、混合層13と水素分離膜9とが接する箇所では、混合層13中の水素分離材料と水素分離膜9の成分とが強固に結合する。よって、支持体11の表面に窪みや突起や微小クラック等の表面欠陥がある場合でも、その部分が混合層13で覆われていることによって、支持体11の表面欠陥の影響が水素分離膜9に影響し難いので、水素分離膜9にピンホールが生じにくいという顕著な効果を奏する。
【0073】
また、混合層13には、支持体11と同じ成分が含まれているので、混合層13と支持体11が強固に接合している。つまり、水素分離膜9は混合層13を介して支持体11に強固に一体化したものであるので、この点からもピンホールが生じ難いという利点がある。
【0074】
特に、従来技術では、加熱処理によってピンホールを閉塞しているが、本実施形態では、混合層13を設けることにより、支持体11の表面欠陥を補修して、ピンホールの発生する要因を事前に取り除くことができるので、ピンホールの発生自体を防止することができる。そのため、従来の加熱処理が不要であるので、加熱処理によって新たにピンホールが発生することがない。
【0075】
更に、水素分離装置49を連続使用した場合には、使用環境によっては、新たにピンホールが発生し易いが、本実施形態では、混合層13によって支持体11の表面欠陥が除去されているので、この混合層13で覆った箇所では、ピンホールが発生し難いという効果がある。
【0076】
また、本実施形態では、混合層13は、支持体11表面において、分散して配置されて、支持体の表面50%以下(例えば5%)を覆っているだけであるので、水素分離性能に影響を及ぼし難いという利点がある。
【0077】
なお、支持体11の表面の局所的な緻密部も混合層13で覆うことにより、支持体11及びガス分離膜9との密着性が向上し、膜剥離や膜破裂によるガスリークに対しても効果がある。
<水素分離装置のピンホール検査について>
次に、前記第1実施形態の水素分離装置のピンホールの検査について説明する。
【0078】
前記第1実施形態における水素分離モジュールを用い、水素分離筒の外側を水につけ、水素分離筒の内部に内圧1.0MPaにてHeを供給して、Heのリークが無いかどうかを、気泡の発生の有無によって調べた。
【0079】
この実験の結果、気泡の発生は見られなかったので、ピンホールが無いことが確認された。
<水素分離装置の断面分析について>
次に、本発明の水素分離装置の断面解析について説明する。
【0080】
前記第1実施形態における水素分離筒を中心軸に対して垂直に破断し、その研磨断面をSEM(倍率:1000)により撮影した。詳しくは、混合層を含む研磨断面を撮影した。そのSEM写真を図7(左図)に示す。ガス分離膜の外側表面に平行な線を引き、支持体材料の少なくとも1種類とガス分離膜材料とを含む領域を混合層とした。混合層の厚みは22μmであった。
【0081】
次に、この画像をパソコンに読み取って2値化して、2値化画像を作成した(図7右図参照)。
次に、この2値化画像に対して、前記図1に示す様に、測定領域a、b、cの3箇所を切り取った。なお、測定領域aの範囲は縦6μm×横137μm、測定領域bの範囲は縦7μm×横140μm、測定領域cの範囲は縦5μm×横137μmの範囲である。
【0082】
そして、各測定領域におけるYSZ(濃い灰色部分)とPd(薄い灰色部分)とのそれぞれの画素(ピクセル)数を求め、そのピクセル数の割合から混合比率を求めた。その結果を、下記表1に記す。
【0083】
【表1】

【0084】
この表1から明らかな様に、第1実施形態においては、各測定領域におけるPdの混合比率は、「A<2C」となっていた。この結果、混合層の混合比率は「傾斜していないこと」が明らかである。
【0085】
また、表1から、「A<2B又は2C」、「B<2C又は2A」、「C<2A又は2B」の全てを満たすので、「ばらつきがないこと」も明らかである。
なお、ここでは、Pdの混合比率の傾斜を調べたが、YSZの傾斜について調べてもよい。この場合は、支持体に近い測定領域から順にYSZの混合比率をA、B、Cとすると、Pdと同様に「傾斜していない」若しくは「ばらついていない」ことが分かる。
[第2実施形態]
本実施形態は、第1実施形態にあるバリア層を有しない点以外は、基本的に第1実施形態と同様である。以下、第1実施形態と異なる部分について、説明する。
【0086】
まず、図8及び図9に基づいて、本実施形態の水素分離装置の要部である水素分離筒51について説明する。
詳しくは、水素分離筒51は、図8に先端側を拡大して示す様に、一端が閉塞された試験管状の多孔質の支持体53と、支持体53の外側表面を覆う水素分離膜(水素透過膜)55とから構成されている。
【0087】
特に本実施形態では、図9に拡大して模式的に示す様に、支持体53の表面に分散して存在する表面欠陥、詳しくは、ピンホールが発生する原因となる凹部や凸部の様な表面欠陥を覆うように、混合層57が形成されており、この混合層57を含む支持体53の全表面を覆うように水素分離膜55が形成されている。
【0088】
この混合層57は、支持体53の構成材料であるYSZと水素分離膜55の構成材料の1種であるPdとを、例えば1:1の体積比で含む混合材料からなるものである。また、混合層57は、支持体53(従って実質的に水素分離筒51)の表面全体(面積)の50%以下となるように形成されている。
次に、前記水素分離筒51等の製造方法について、前記図9等に基づいて説明する。
【0089】
まず、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)の粉末と、造孔材(有機ビーズ)と、有機バインダーとを混合し、(水素分離筒51の形状に対応した)所定の型枠に入れて、プレス成形法により、円筒有底管形状の成形体を作製した。
【0090】
次に、この成形体を、1400℃で焼結することにより、外径10mm×内径6mm×長さ300mmの多孔質の支持体53を作製した。
次に、支持体53の表面にピンホールの発生を防止するために混合層57を形成した。
<水素分離装置のピンホール検査について>
次に、前記第2実施形態の水素分離装置のピンホールの検査について説明する。
前記第2実施形態における水素分離モジュールを用い、水素分離筒の外側を水につけ、水素分離筒の内部に内圧1.0MPaにてHeを供給して、Heのリークが無いかどうかを、気泡の発生の有無によって調べた。
【0091】
この実験の結果、気泡の発生は見られなかったので、ピンホールが無いことが確認された。
<水素分離装置の断面分析について>
前記第1実施形態と同様に、第2実施形態における水素分離筒を中心軸に対して垂直に破断し、その研磨断面をSEM(倍率:1000)により撮影し、混合層の厚みを計測したところ、20μmであった。
【0092】
次に、この画像をパソコンに読み取って2値化して、2値化画像を作製した。
次に、この2値化画像に対して、前記図1に示す様に、測定領域a、b、cの3箇所を切り取った。なお、測定領域aの範囲は縦6μm×横135μm、測定領域bの範囲は縦6μm×横130μm、測定領域cの範囲は縦7μm×横138μmである。
【0093】
そして、各測定領域におけるYSZ(濃い灰色部分)とPd(薄い灰色部分)とのそれぞれの画素(ピクセル)数を求め、そのピクセル数の割合から混合比率を求めた。その結果を、下記表2に記す。
【0094】
【表2】

【0095】
この表2から明らかな様に、第2実施形態においては、各測定領域におけるPdの混合比率は、「A<2C」となっていた。この結果、混合層の混合比率は「傾斜していないこと」が明らかである。
【0096】
また、表2から、「A<2B又は2C」、「B<2C又は2A」、「C<2A又は2B」の全てを満たすので、「ばらつきがないこと」も明らかである。
なお、ここでは、Pdの混合比率の傾斜を調べたが、YSZの傾斜について調べてもよい。この場合は、支持体に近い測定領域から順にYSZの混合比率をA、B、Cとすると、Pdと同様に「傾斜していない」もしくは「ばらついていない」ことが分かる。
[比較例]
次に、本発明の範囲外の比較例について説明する。
【0097】
この比較例とは、特開平6−277472号公報に記載の方法で、多孔質支持体の表面にガス分離膜を備えたガス分離体を製造し、このガス分離体に対して、前記第1実施形態と同様な実験を行ったものである。
【0098】
YSZと有機バインダーを混合した後、プレス成形法により、円筒有底管形状に成形した。
この成形体を1400℃で焼結することにより、外径10mm×内径6mm×長さ300mmの多孔質支持体を作製した。
【0099】
その後、Pd核付け処理を行った後、めっき法により、Pd膜、Ag膜の形成を行い、更に合金化熱処理を行うことにより、水素分離筒を得た。
そして、この水素分離筒を金具に取り付けて水素分離装置を作製した。
【0100】
<比較例の水素分離装置のピンホール検査について>
この水素分離筒の内側にHeを内圧1.0MPaで負荷した状態で、水中にてリーク発生の有無を確認したところ、10箇所で気泡の発生が確認された。
【0101】
気泡が確認された箇所をSEMにより観察を行うと、支持体表面の窪みや突起の上に水素分離膜が形成されており、水素分離膜で被覆することができず、ピンホールが形成されていることが確認された。
【0102】
<比較例の水素分離装置の断面分析について>
なお、この実験では、比較例の多孔質支持体の表面近傍においてガス分離膜の成分が侵入した部分(中間層と記す)を前記第1実施形態における混合層とみなして、実験を行った。
【0103】
具体的には、前記ガス分離体を中心軸に対して垂直に破断し、その破断面をSEM(倍率:3000)により撮影した(図10の左図参照)。この部分における中間層の厚みは、3.5μmであることが分かった。
【0104】
次に、この画像をパソコンに読み取って2値化して、2値化画像を作製した(図10の右図参照)。
次に、この2値化画像に対して、前記図1に示す様に、測定領域a、b、cを切り取った。なお、測定領域aの範囲は縦0.9μm×横40μm、測定領域bの範囲は縦0.9μm×横39μm、測定領域cの範囲は縦0.9μm×横39μmの範囲である。
【0105】
そして、各測定領域におけるYSZとPdとのピクセル数を求め、そのピクセル数の割合から混合比率を求めた。その結果を、下記表3に記す。
【0106】
【表3】

【0107】
この表3から明らかな様に、比較例1においては、各測定領域におけるPdの混合比率は、A>2Cとなっていた。この結果、混合層の混合比率は「傾斜していること」及び「ばらついていること」が明らかである。
【0108】
なお、バリア層を支持体である多孔質基体表面に形成して比較した結果、上記バリア層が形成されていない比較例と同様な結果が得られた。即ち、比較例1のように、「傾斜している」及び「ばらついている」ことでガス分離膜にピンホールが生じ易いことが証明された。
【0109】
尚、本発明は前記実施形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えば、前記実施形態では、支持体の表面側に水素透過膜を形成したが、それ以外に、例えば支持体の少なくとも一部に水素透過性金属(例えばPd−Ag合金)を含有させたセラミック膜(例えばYSZ)を設けてもよい。
【0110】
(2)また、前記実施形態では、支持体の表面側に水素透過膜を形成したが、それ以外に、例えば支持体の表面等に水素を分離するセラミック分子篩膜(例えばアモルファスシリカ)を設けてもよい。
【0111】
(3)更に、前記実施形態では、水素分離装置について述べたが、それ以外に、他のガス分離装置に応用できる。
例えば、ガス分離膜として、原料ガスから酸素を分離する酸素分離膜が挙げられる。また、ガス分離膜が、セラミック分子篩膜である場合には、そのセラミック分子篩膜にて、目的とするガス(水素、酸素、二酸化炭素等)のみを透過させて(原料ガスから)分離することができる。
【0112】
これらの場合においても、支持体の表面欠陥を覆う様に、即ち、各ガス分離膜の形成時にピンホールを生じさせる様な表面欠陥(凹凸)を覆う様に、同様な混合層(支持体の成分とガス分離膜の成分とを有する混合層)を形成し、その後、混合層を含む支持体表面にガス分離膜を形成すればよい。
【符号の説明】
【0113】
1、51…水素分離筒
5…支持基体(多孔質基体)
7…バリア層
9、55…水素分離膜(水素透過膜)
11、53…支持体
13、57…混合層
15…水素分離モジュール
49…水素分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスから所望のガスを選択して分離するガス分離膜と、該ガス分離膜の厚み方向の一方側に配置されて該ガス分離膜を支持する支持体とを備えたガス分離装置において、
前記ガス分離膜と前記支持体との間に、前記ガス分離膜の構成材料と前記支持体の構成材料とを含む混合層を備えるとともに、
前記混合層における前記ガス分離膜の構成材料と前記支持体の構成材料との混合比率が、該混合層の厚み方向において傾斜していないことを特徴とするガス分離装置。
【請求項2】
前記混合層を厚み方向に破断した断面において、前記ガス分離膜側に近い所定の測定領域(a)におけるガス分離膜材料の混合比率(A)と、前記測定領域(a)よりも前記支持体側に近い所定の測定領域(c)におけるガス分離膜材料の混合比率(C)とを比較した場合、「A≦2C」の場合を「傾斜していない」とすることを特徴とする請求項1に記載のガス分離装置。
【請求項3】
原料ガスから所望のガスを選択して分離するガス分離膜と、該ガス分離膜の厚み方向の一方側に配置されて該ガス分離膜を支持する支持体とを備えたガス分離装置において、
前記ガス分離膜と前記支持体との間に、前記ガス分離膜の構成材料と前記支持体の構成材料とを含む混合層を備えるとともに、
前記混合層における前記ガス分離膜の構成材料と前記支持体の構成材料との混合比率が、該混合層の厚み方向においてばらつきのないことを特徴とするガス分離装置。
【請求項4】
前記混合層を厚み方向に破断した断面において、前記ガス分離膜側に近い所定の測定領域(a)におけるガス分離膜材料の混合比率(A)と、前記測定領域(a)よりも前記支持体側に近い所定の測定領域(c)におけるガス分離膜材料の混合比率(C)と、前記測定領域(a)と前記測定領域(c)との中間の所定の測定領域(b)におけるガス分離膜材料の混合比率(B)とを比較した場合、「A≦2B又は2C」、「B≦2C又は2A」、「C≦2A又は2B」の全てを満たしている場合を「ばらつきのない」とすることを特徴とする請求項3に記載のガス分離装置。
【請求項5】
前記混合層は、前記支持体の表面において、分散して配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス分離装置。
【請求項6】
前記混合層は、前記支持体の表面の所定以上の大きさの凹部及び/又は凸部からなる表面欠陥を覆うように配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス分離装置。
【請求項7】
前記混合層は、前記ガス分離膜の構成材料及び前記支持体の構成材料のみからなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス分離装置。
【請求項8】
前記支持体は、
改質触媒として機能する金属触媒とセラミックからなる多孔質基体と、
前記多孔質基体の表面に形成され、前記多孔質基体の構成材料と前記ガス分離膜の構成材料が反応しないように分離するバリア層と、を有し、
前記混合層は、前記バリア層の表面に形成されて、且つ、前記バリア層の構成材料と前記ガス分離膜の構成材料を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のガス分離装置。
【請求項9】
前記金属触媒は、
Ni、Fe、Co、Ti、Mn、V、Cr、Pd、Pt、Ru、Rh、の少なくとも一種の金属を含むことを特徴とする請求項8に記載のガス分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−228640(P2012−228640A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97515(P2011−97515)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成23年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構” 水素製造・輸送・貯蔵システム等技術開発 水素製造機器要素技術に関する研究開発 水素分離型リフォーマーの高耐久化・低コスト化研究開発”における委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】