説明

ガス分離複合膜、その製造方法、それを用いたガス分離モジュール、及びガス分離装置、並びにガス分離方法

【課題】優れたガス透過性を有しながら、高いガス分離選択性をも実現し、さらに高い製膜適性を達成するガス分離複合膜、その製造方法、それを用いたモジュール、及び分離装置を提供する。
【解決手段】架橋ポリイミド樹脂を含有してなるガス分離層をガス透過性の支持層上側に有するガス分離複合膜であって、前記架橋ポリイミド樹脂は、ポリイミド化合物がその分子もしくは別分子由来のカチオン架橋性官能基で架橋された構造を有するガス分離複合膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離複合膜、その製造方法、それを用いたガス分離モジュール、及びガス分離装置、並びにガス分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物からなる素材には、その素材ごとに特有の気体透過性がある。その性質に基づき、特定の高分子素材から構成された膜によって、所望の気体成分を分離できることが知られている。この気体分離膜の産業上の利用態様として、近年の地球環境温暖化における問題と関連し、火力発電所やセメントプラント、製鉄所高炉等の大規模な二酸化炭素発生源から、二酸化炭素を省エネルギーで分離回収することが検討され、環境問題の解決手段として着目されている。一方、天然ガスやバイオガス(生物の排泄物、有機質肥料、生分解性物質、汚水、ゴミ、エネルギー作物などの発酵、嫌気性消化により発生するガス)は主としてメタンと二酸化炭素の混合ガスであり、その二酸化炭素等の不純物を除去する手段として膜分離方法が従来検討されてきた(特許文献1、特許文献2)。特に天然ガスの精製では素材としてセルロースやポリイミドが検討されてきたが、実際のプラントにおける高圧条件および高二酸化炭素濃度では膜が可塑化し、これによる分離選択性の低下が問題となっていた(非特許文献1、313−322頁および非特許文献2、3)。この膜の可塑化を抑制するためには、膜を構成する高分子化合物に架橋構造を導入することが有効であることが知られており、ポリイミドで研究が続けられている(非特許文献1、3−27頁)。ガス分離膜に架橋構造の膜を利用したものとして、特許文献3、非特
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−297605号公報
【特許文献2】特開2006−297335号公報
【特許文献3】米国特許第7247191号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yuri Yampolskii,Benny Freeman,Membrane Gas Separation
【非特許文献2】Industrial.Engineering.Chemistry. Research.2008,47,2109.
【非特許文献3】Industrial.Engineering.Chemistry. Research.2002,41,1393.
【非特許文献4】Journal of Membrane Science. 1999,155,145.
【非特許文献5】Journal of Membrane Science. 2000,175,181.
【非特許文献6】European Polymer Journal, 1997,33,1717.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実用的なガス分離膜とするためには、薄層にすることで高ガス透過性としなければならない。従来は単一素材を非対称膜とすることで、分離に寄与する部分をスキン層と呼ばれる薄層にして、高ガス透過性と分離選択性、さらには機械強度を満足させるようにしていた。しかし、これらを単一素材で兼ね備えたものとすることは難しい。そのため、分離機能と機械強度を付与するための機能を別々の素材とする複合膜が性能とコストの観点から望ましく、水処理用の逆浸透膜では複合膜が主流となりつつある。
一方、ガス分離膜において分離層に架橋構造膜を利用した例は少ない(上記特許文献3、非特許文献4、5、6)。そして、これらの方法では架橋に対して100℃以上の高温が必要であったり、架橋に対して非常に長い時間を要したりする。そのために、高いガス透過性と分離選択性を維持しつつ、製膜適性、さらには機械強度が高く、耐久性に優れた実用的なガス分離膜を提供するにはまだ不十分であった。
【0006】
上記の点を考慮し、本発明は、優れたガス透過性を有しながら、高いガス分離選択性をも実現し、さらに高い製膜適性を達成するガス分離複合膜、その製造方法、それを用いたモジュール、及び分離装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は以下の手段により達成された。
【0008】
(1)架橋ポリイミド樹脂を含有してなるガス分離層をガス透過性の支持層上側に有するガス分離複合膜であって、
前記架橋ポリイミド樹脂は、ポリイミド化合物がその分子もしくは別分子由来のカチオン架橋性官能基で架橋された構造を有するガス分離複合膜。
(2)前記カチオン架橋性官能基で架橋された構造がエーテル構造を有する(1)に記載のガス分離複合膜。
(3)前記カチオン架橋性官能基が環状構造の原子群を含む(1)又は(2)に記載のガス分離複合膜。
(4)前記カチオン架橋性官能基がオキセタン環又はオキシラン環を含む(1)〜(3)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
(5)前記ポリイミド化合物が、一般式(I)で表される繰り返し単位と、一般式(II−a)又は(II−b)で表される繰り返し単位の少なくとも一種と、一般式(III−a)又は(III−b)で表される繰り返し単位の少なくとも一種とを含む(1)〜(4)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
【0009】
【化1】

(一般式(I)において、Rは式(I−a)、式(I−b)、式(I−c)、式(I−d)、式(I−e)、式(I−f)、及び式(I−g)からなる群から選択される原子群である。一般式(I−a)中、Xは単結合又は二価の連結基を表す。式(I−f)中、RおよびRは各々独立して水素原子又は置換基を表し、両者が置換基を表すとき互いに結合し環を形成してもよい。*はカルボニル基との結合部位を表す。)
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
(一般式(II−a)中、Rは置換基を表し、l1は0〜4の整数である。一般式(II−b)中、RおよびRは各々独立して置換基を表し、両者がアルキル基を表すとき互いに結合し環を形成してもよい。m1およびn1、0〜4の整数である。Xは単結合又は二価の連結基を表す。)
【0013】
【化4】

【0014】
(一般式(III−a)および一般式(III−b)中、R、RおよびRは各々独立して置換基を表す。JおよびJ、Wは単結合又は2価の連結基を表す。l2、m2、n2は0〜3の整数である。Lは二価の連結基を表し、Lは反応性基を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の場合、複数存在するL、Jは同一でも異なっていてもよい。Xは単結合又は2価の連結基である。)
(6)前記架橋性官能基が、オキシラン基、オキセタン基、ビニルエーテル基、アルケニルエーテル基、アレーンエーテル基、及びケテンアセタール基からなる群から選ばれる少なくとも一種である(1)〜(5)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
(7)前記支持層がガス分離層側の多孔質層とその逆側の不織布層とからなる(1)〜(6)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
(8)前記多孔質層の分画分子量が100,000以下である(7)に記載のガス分離複合膜。
(9)供給されるガスが二酸化炭素とメタンとの混合ガスであり、40℃、8気圧における二酸化炭素の透過速度が20GPU超であり、二酸化炭素とメタンとの透過速度比(RCO2/RCH4)が20以上である(1)〜(8)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
(10)架橋ポリイミド樹脂を含有してなるガス分離層をガス透過性の支持層上側に有するガス分離複合膜の製造方法であって、
カチオン架橋性の架橋性官能基を有するポリイミド化合物と架橋剤とを含む塗布液を前記支持層上側に塗布し、該塗布液に活性放射線を照射する、あるいは熱を付与することにより前記架橋性官能基を反応させ前記ポリイミド化合物を架橋するガス分離複合膜の製造方法。
(11)(1)〜(9)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜を具備するガス分離モジュール。
(12)(11)に記載のガス分離モジュールを備えたガス分離装置。
(13)(1)〜(9)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜を用いて、二酸化炭素及びメタンを含むガスから二酸化炭素を選択的に透過させるガス分離方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガス分離複合膜は、優れたガス透過性を有しながら、高いガス分離選択性をも実現し、さらに高い製膜適性を有する。また、それを用いた高性能ガス分離モジュール及び分離装置の提供を可能とする。さらに、本発明のガス分離複合膜の製造方法によれば上記高い性能を発揮するガス分離複合膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のガス分離複合膜の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のガス分離複合膜の別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のガス分離複合膜は、架橋ポリイミド樹脂を含有してなるガス分離層をガス透過性の支持層上側に有する。そして、前記架橋ポリイミド樹脂は、ポリイミド化合物がその内もしくは別分子由来のカチオン架橋性の官能基で架橋されてなる。この特有の架橋構造を持つポリイミド樹脂は、二酸化炭素を始めとしたガスの分離に優れた効果を発揮する。この理由(作用機構)については未解明の点も含むが、以下のように推定される。
【0018】
気体分子が薄膜を透過する際、クヌーセン機構又はハーゲン・ポアズイユ機構(多孔質膜)、表面拡散機構(多孔質膜)、分子ふるい機構(多孔質膜)、溶解・拡散機構(非多孔質膜)等の関与が考慮される(日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編「新訂 最新ポリイミド 〜基礎と応用〜」365−376頁参照)。ここで、COとCHの分離についていうと両者はいずれも低分子量の化合物であり、しかも分離対象となる分子の大きさが近似している。このような場合には、上記の溶解・拡散機構の制御が重要となる(永井一清監修 シーエムシー出版、「気体分離膜・透過膜・バリア膜の最新技術」、52−59頁参照)。それゆえに、二酸化炭素の透過性(透過係数)を分離対象ガスに対して選択的に向上させるためには、二酸化炭素の高分子膜に対する溶解度係数(溶解性)及び/又は拡散係数(拡散性)を選択的に向上させればよいことになる。二酸化炭素は分子内で分極した四重極子構造であり、極性を有する化学構造と親和性を有し、例えば、ポリエチレングリコールは二酸化炭素との溶解性が高いことが報告されている(Journal of Physical Chemistry1990, 94, 2124−2128参照)。このような観点を活かし、ポリエチレンオキシ(PEO)組成を含む分離膜が検討されている(Journal of Membrane Science 1999, 160, 87−99、特開平7−60079号公報、国際公開特許 WO08/143514号パンフレット、国際公開特許 WO08/143515号パンフレット、国際公開特許 WO08/143516号パンフレット参照)。これは二酸化炭素がポリエチレンオキシ組成との相互作用が強いことに起因する。このポリエチレンオキシ膜はガラス転移温度の低い柔軟なゴム状のポリマー膜であるため、ガス種による拡散係数の差は小さく、分離選択性は溶解度の差の効果によるものが主である。
【0019】
これに対し、本発明によれば、特定のカチオン架橋官能基でポリイミドの高分子鎖が連結されたため、その架橋形態が好適化され、ポリイミド化合物が有する溶解・拡散性と相俟って、特有の拡散選択性を発揮したと考えられる(高ガス選択性)。また、カチオン架橋されることにより膜内で均質かつ劣化のない架橋形態が実現され、良好な曲げ性を有し、薄い支持層にも適合して優れた製造適性を発揮するものと考えられる。以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
[複合膜]
本発明の複合膜はガス透過性の支持層の上側に、架橋ポリイミド樹脂を含有してなるガス分離層が形成されている。この複合膜は、多孔質性の支持体の少なくとも表面に、上記のガス分離層をなす塗布液(ドープ)を塗布(本明細書において塗布とは浸漬により表面に付着される態様を含む意味である。)、活性放射線を照射することにより形成することが好ましい。図1は、本発明の好ましい実施形態であるガス分離複合膜10を模式的に示す断面図である。1はガス分離層、2は多孔質層からなる支持層である。図2は、本発明の好ましい実施形態であるガス分離複合膜20を模式的に示す断面図である。この実施形態では、ガス分離層1及び多孔質層2に加え、支持層として不織布層3が追加されている。
【0021】
支持層上側とは、支持層とガス分離層との間に他の層が介在してもよい意味である。なお、上下の表現については、特に断らない限り、分離対象となるガスが供給される方向を「上」とし、分離されたガスが出される方向を「下」とする。ただし、この説明及び添付の図面によって本発明が限定して解釈されるものではない。
【0022】
本発明のガス分離複合膜は、多孔質性の支持体の表面ないし内面にガス分離層を形成・配置するようにしてもよく、表面に塗布形成して複合膜としてもよい。多孔質性の支持体の少なくとも表面に、ガス分離層を形成することで、高分離選択性と高ガス透過性、更には機械的強度を兼ね備えるという利点を有する複合膜とすることができる。分離層の膜厚としては機械的強度、分離選択性を維持しつつ高ガス透過性を付与する条件において可能な限り薄膜であることが好ましい。
【0023】
本発明のガス分離複合膜において、ガス分離層の厚さは特に限定されないが、0.01〜5.0μmであることが好ましく、0.1〜2.0μmであることがより好ましい。なお、本明細書において「から」は「〜」と同じ意味で用い、その前後で規定される数値ないし番号を含む意味である。
【0024】
支持層に好ましく適用される多孔質支持体は、機械的強度及び高気体透過性の付与に合致する目的のものであれば、特に限定されるものではなく有機、無機どちらの素材であっても構わないが、好ましくは有機高分子の多孔質膜であり、その厚さは1〜3000μm、好ましくは5〜500μmであり、より好ましくは5〜150μmである。この多孔質膜の細孔構造は、通常平均細孔直径が10μm以下、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.2μm以下であり、空孔率は好ましくは20〜90%であり、より好ましくは30〜80%である。また、その気体透過率は二酸化炭素透過速度で3×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以上であることが好ましい。多孔質膜の素材としては、従来公知の高分子、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等、ポリスチレン、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド等の各種樹脂を挙げることができる。なかでも、前記ポリイミド化合物を塗布して架橋するときの製造適正に優れ、高いガス透過性と分離選択性とを同時に達成する観点から、支持層が、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシドからなるものであることが好ましく、ポリアクリロニトリルからなるものであることがより好ましい。多孔質膜の形状としては、平板状、スパイラル状、管状、中空糸状などいずれの形状をとることができる。
【0025】
本発明においては、ガス分離層を形成する支持層を適用することを必須の要件とする。この支持層は上述したように薄く、多孔質な素材であることが、十分なガス透過性を確保することができ好ましい。また、後述するガス分離層の優れたガス分離選択性を最大限に引き出すためにも、薄膜多孔質の形態が好ましい。一方、ガス分離膜の成形に高温・長時間等のシビアな反応条件が課される場合には、上述した薄く多孔質の支持層を損傷し、複合膜として十分な性能を発揮できない場合がある。かかる観点から、本発明が採用するラジカル架橋性のポリイミド化合物を利用したガス分離複合膜は穏和な条件で製膜することができ、優れた効果を発揮し、製造適正と、製品質との両面で高い性能を発揮しうるものである。
【0026】
本発明においては、ガス分離層を形成する支持層の下部にさらに機械的強度を付与するために支持体が形成されていることが望ましい。その支持体としては、織布、不織布、ネット等が挙げられるが、製膜性およびコスト面から不織布が好適に用いられる。不織布としてはポリエステル、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリアミド等からなる繊維を単独あるいは複数を組み合わせて用いてもよい。不織布は、例えば、水に均一に分散した主体繊維とバインダー繊維を円網や長網等で抄造し、ドライヤーで乾燥することにより製造できる。また、毛羽を除去したり機械的性質を向上させたり等の目的で、不織布を2本のロール挟んで圧熱加工を施すことも好ましい。
【0027】
とりわけ、供給されるガスが二酸化炭素とメタンとの混合ガスであり、40℃、8気圧における二酸化炭素の透過速度が20GPU超であることが好ましく、20〜300GPUであることがより好ましい。二酸化炭素とメタンとの透過速度比(RCO2/RCH4)は20以上であることが好ましく、20〜50であることがより好ましい。
【0028】
上記選択的なガス透過には膜への溶解・拡散機構が関与すると考えられることは前述のとおりであるが、このような観点を活かし、ポリエチレンオキシ(PEO)組成を含む分離膜が検討されている(Journal of Membrane Science 1999, 160, 87−99参照)。これは二酸化炭素がポリエチレンオキシ組成との相互作用が強いことに起因する。このポリエチレンオキシ膜はガラス転移温度の低い柔軟なゴム状のポリマー膜であるため、ガス種による拡散係数の差は小さく、分離選択性は溶解度の差の効果によるものが主である。これに対し、本発明によれば、そこに適用されるポリイミド化合物のガラス転移温度が高く、上記溶解・拡散作用を発揮させながら、膜の熱的な耐久性という観点でも大幅に改善することができる。
【0029】
[ポリイミド化合物]
(カチオン架橋性官能基)
本発明においてガス分離層に適用される、架橋ポリイミド樹脂をなすポリイミド化合物は特に限定されないが、カチオン架橋により形成されるものである。ポリイミド化合物に直接カチオン架橋性官能基が置換されている場合、その官能基としては、カチオン架橋し得るものであれば特に限定されるものではないが、具体的にはエポキシ(オキシラン)基、オキセタン基、ビニルエーテル基、アルケニルエーテル基、アレーンエーテル基、及びケテンアセタール基などであることが好ましい。あるいはポリイミド化合物にカチオン架橋し得る官能基を有していない場合においても、前記の好ましいカチオン架橋性の官能基を有する化合物と共存させ、適切な熱あるいは光エネルギーを付与することで所望の架橋ポリイミド膜を得ることができる。その場合、ポリイミド化合物はカチオン架橋性の官能基を有する化合物とさらに架橋反応することができるような置換基を有していることが望ましく、その置換基としては、アミノ基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜10のアミノ基であり、例えばアミノ、メチルアミノなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、スルホ基、カルボキシル基、オキソ基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基などが挙げられる。
なお、本明細書において「化合物」という語を末尾に付して呼ぶときには、当該化合物そのものに加え、その塩、錯体、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、所定の置換基を伴ったあるいは所定の形態で修飾された誘導体を含む意味である。また、本明細書において置換基に関して「基」という語を末尾に付して呼ぶときには、その基に任意の置換基を有していてもよい意味である。
【0030】
カチオン架橋によるポリイミド膜の生成の形態としては、ポリイミド由来の架橋性官能基による場合とそれ以外の別分子の架橋性官能基に由来する場合とを考慮し、典型的には、下記に大別される。
(i)ポリマーがカチオン架橋性の官能基を有している場合であって単独で架橋膜を形成する形態。
(ii)カチオン架橋性の化合物と、水酸基やカルボキシル基のようなプロトン源となり得る官能基を有しているポリマーとを組み合わせて架橋膜を形成する形態。
(iii)ポリマーも添加剤もともにカチオン架橋性の官能基を有しており(例えば、オキセタン環を有するポリマーとエポキシ化合物の組み合わせ、など)両者により架橋膜を形成する形態。
【0031】
前記ポリイミド化合物は、下記一般式(I)で表される繰り返し単位と、下記一般式(II−a)又は(II−b)で表される繰り返し単位の少なくとも一種と、下記一般式(III−a)又は(III−b)で表される繰り返し単位の少なくとも一種とを含むものであることが好ましい。
【0032】
【化5】

【0033】
(一般式(I)において、Rは式(I−a)、式(I−b)、式(I−c)、式(I−d)、式(I−e)、式(I−f)、及び式(I−g)からなる群から選択される原子群である。一般式(I−a)中、Xは単結合又は二価の連結基を表す。式(I−a)中、Xは二価の連結基である。式(I−f)中、RおよびRは各々独立して水素原子又は置換基を表し、両者が置換基を表すとき互いに結合し環を形成してもよい。*はカルボニル基との結合部位を表す。)
【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
(一般式(II−a)中、Rは置換基を表し、l1は0〜4の整数である。一般式(II−b)中、RおよびRは置換基を表し、両者がアルキル基を表すとき互いに結合し環を形成してもよい。m1およびn1は0〜4の整数である。Xは単結合又は二価の連結基を表す。)
【0037】
【化8】

【0038】
(一般式(III−a)および一般式(III−b)中、R、RおよびRは各々独立して置換基を表す。JおよびJ、Wは単結合又は2価の連結基を表す。l2、m2、n2は0〜3の整数である。Lは二価の連結基を表し、Lは反応性基を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の場合、複数存在するL、Jは同一でも異なっていてもよい。Xは単結合又は2価の連結基である。)
【0039】
一般式(I)におけるRを母核と呼ぶことがあるが、この母核(R)は一般式(I−a)、(I−a)、(I−b)、(I−c)であることが好ましく、(I−a)、(I−c)であることがより好ましく、(I−a)であることが特に好ましい。
【0040】
・X、X、X
、X、Xは式(I−a)、(II−b)、(III−b)に含まれ、それぞれ独立に、単結合又は二価の連結基を表す。具体的には、単結合、*−(CR)C−*(Rは水素原子又は置換基を表す。Rが置換基の場合、互いに結合して環を形成してもよい。)、*−O−*、*−SO−*、*−CO−*、*−S−*であることが好ましく、*−(CR)C−*、*−O−*、*−SO−*、*−CO−*であることがより好ましい。*はフェニレン基との結合部位を表す。なお、本明細書において「互いに結合して環を形成してもよい」というときには、単結合、二重結合等により結合して環状構造を形成するものであっても、縮合して縮環構造を形成するものであってもよい。
・R、R
、Rは各々独立して水素原子又は置換基を表す。その置換基としては、それぞれ独立に下記に示される置換基群Zより選ばれるいずれか1つを用いることができる。
【0041】
、Rは水素原子又はアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
【0042】
・R、R、R
、R、Rは各々独立に置換基を表し、アルキル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基又はハロゲン原子を表す。その好ましいものは、置換基群Zで規定したものと同義である。上記置換基の数を示す。l1、m1、n1は0〜4の整数であるが、1〜4が好ましく、3〜4がより好ましい。
【0043】
・R、R、R
、R、Rは各々独立して置換基を表し、アルキル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基又はハロゲン原子を表す。その好ましいものは、置換基群Zで規定したものと同義である。その置換基の数を示す。l2、m2、n2は0〜3の整数であるが、1〜3が好ましく、2〜3がより好ましい。
【0044】
・J、J
、Jは単結合又は二価の連結基を表し、*−O−**、*−S−**、*−CO−**、*−C(=O)O−**、*−CONR−**、*−OC(=O)−**、*−COO1011−**、*−SO1213−**、メチレン基、フェニレン基、又は*−CCO−**基を表す。*はJのときL側、Jのときフェニレン基側の結合手、**はその逆の結合手を表す。R、R10、R11、R12およびR13は水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基である。中でも、*−CO−**、*−COO−**、*−CONR9−**、*−OCO−**、メチレン基、フェニレン基、又は*−CCO−**基を表すことが好ましい。R〜R13の好ましい範囲は置換基群Zで説明したアルキル基、アリール基の好ましい範囲と同義である。これらのうち、J、Jとしては*−CO−**、*−COO−**又は*−OCO−**が好ましく、*−COO−**が特に好ましい。
【0045】
・W
は単結合又は二価の連結基を表す。二価の連結基としては、例えば、直鎖、分岐もしくは環状のアルキレン基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12、更に好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基であり、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、オクチレン、デシレンなどが挙げられる。)、アルキレンオキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12、更に好ましくは炭素数1〜4のアルキレンオキシ基であり、例えばメチレンオキシ、エチレンオキシ、プロピレンオキシ、ブチレンオキシ、ペンチレンオキシ、へキシレンオキシ、オクチレンオキシ、デシレンオキシなどが挙げられる。)、アラルキレン基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜13のアラルキレン基であり、例えばベンジリデン、シンナミリデンなどが挙げられる。)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜15のアリーレン基であり、例えば、フェニレン、クメニレン、メシチレン、トリレン、キシリレンなどが挙げられる。)などが挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。
【0046】
・L
は二価の連結基を表し、その具体的な例としては下記の(L−1)〜(L−35)で表される構造単位又はこれらを組み合わせて構成される連結基を挙げることができる。なお、下記連結基の*がW側の結合手であり、**がJ側の結合手である。
【0047】
【化9】

【0048】
は、(L−1)〜(L−35)、アルキレン基、アルキレンオキシ基又はアリーレン基が好ましい。
【0049】
・L
はカチオン架橋性の官能基を表す。中でも、エポキシ基、オキセタン基、ビニルエーテル基、アルケニルエーテル基、アレーンエーテル基、及びケテンアセタール基であることが好ましく、エポキシ基、オキセタン基、ビニルエーテル基、ケテンアセタール基がより好ましく、エポキシ基あるいはオキセタン基が特に好ましい。エポキシ基を含有する化合物とオキセタン基を含有する化合物を併用することも好ましく用いられる。
【0050】
・P
Pは0以上の整数を表し、0〜10が好ましく、0〜5がより好ましい。Pを上記大限値以上とすることで架橋反応をすることができ、上記上限大値以下とすることで透過性の低下を抑制することができる。
【0051】
置換基群Z:
アルキル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、Iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数3〜10のシクロアルキル基であり、例えばシクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアルキニル基であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントラニルなどが挙げられる。)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜10のアミノ基であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルコキシ基であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環オキシ基であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシなどが挙げられる。)、
【0052】
アシル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアシル基であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニル基であり、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアシルオキシ基であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、
【0053】
アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜12のスルファモイル基であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、
【0054】
カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のカルバモイル基であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアルキルチオ基であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールチオ基であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環チオ基であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、
【0055】
スルホニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のスルホニル基であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のスルフィニル基であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のウレイド基であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のリン酸アミド基であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、より好ましくはフッ素原子が挙げられる)、
【0056】
シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、オキソ基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環基であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、チエニル、ピペリジル、モルホリノ、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、カルバゾリル基、アゼピニル基などが挙げられる。)、シリル基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24のシリル基であり、例えばトリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる。)、シリルオキシ基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24のシリルオキシ基であり、例えばトリメチルシリルオキシ、トリフェニルシリルオキシなどが挙げられる。)などが挙げられる。これらの置換基は、更に上記置換基群Zより選択されるいずれか1つ以上の置換基により置換されてもよい。
なお、1つの構造部位に複数の置換基があるときには、それらの置換基は互いに連結して環を形成していたり、上記構造部位の一部又は全部と縮環して芳香族環もしくは不飽和複素環を形成していたりしてもよい。
【0057】
ポリイミドは酸無水物とジアミンとの縮合重合により合成することができる。その方法としては一般的な書籍(例えば、株式会社エヌ・ティー・エス発行、今井淑夫、横田力男編著、最新ポリイミド〜基礎と応用〜、3〜49頁など)で記載の手法を適宜選択することができる。本発明で使用し得る一般的な酸無水物の具体例としては例えば以下のようなものが挙げられる。
【0058】
【化10】

【0059】
【化11】

【0060】
さらに一般的なジアミンの具体例としては以下のようなものが挙げられる。
【0061】
【化12】

【0062】
【化13】

【0063】
ポリイミド化合物として好ましい具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限るものではない。本発明の架橋膜を得るに際しては、これらのポリマーを単独で用いても、あるいは後述する架橋剤と組み合わせて用いても良い。
【0064】
【化14】

【0065】
【化15】

【0066】
【化16】

【0067】
〔x/y/zの比〕

【0068】
本発明にかかるポリマーは、他のモノマーとの共重合体であってもよい。用いられる他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーも挙げられる。このようなモノマー類を共重合させることで、製膜性、膜強度、親水性、疎水性、溶解性、反応性、安定性等の諸物性を改善することができる。モノマーの合成法としては、例えば丸善株式会社 日本化学会編の「第5版 実験科学講座16 有機化合物の合成(II−1)」におけるエステル合成の項目や「第5版 実験科学講座26 高分子化学」におけるモノマーの取り扱い、精製の項目などを参考とすることができる。
【0069】
本発明において一般式(1)の構成単位の共重合比(RI)、一般式(II−a)及び(II−b)の構成単位の共重合比(RII)、一般式(III−a)及び(III−b)の構成単位の共重合比(RIII)は特に限定されないが下記であることが好ましい。
好ましい より好ましい 特に好ましい
II 0.01〜90mol% 0.1〜90mol% 1〜90mol%
III 0.01〜17mol% 0.1〜10mol% 1〜10mol%
IV* 0.01〜90mol% 0.1〜90mol% 1〜90mol%
*RIVはその他の構成単位の共重合比。ただし、R、RIIおよびRIVの各好ましい範位において、R=RII+RIII+RIVを満たすものとする。
【0070】
つぎに本発明のポリマーと組み合わせて用いることのできるカチオン架橋剤として好ましい具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限るものではない。
【0071】
【化17】

【0072】
【化18】

R−4のnは、10〜1000
【0073】
本発明のガス分離複合膜は、カチオン架橋性官能基の機能により、何らかのエネルギーを付与することで硬化することにより形成することができる。
【0074】
前記一般式(I)、(II−a)、(II−b)で表される部分構造に対応するモノマーとしては、オリゴマー、プレポリマーとしたものを用いてもよい。高分子化合物を得る上での重合体については、ブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体などのいずれの形態を有する共重合体でも良いが、特にブロック共重合体やグラフト共重合体を用いる場合には、粘度、相溶性の観点で好ましい。
【0075】
前記一般式(I)、(II−a)、(II−b)で表される部分構造の比率は、特に規定されるものではないが、架橋構造を複数有する部分構造の組成比が増加するに従い、分子構造の影響は多大にあるものの概して膜の強度、分離選択性は向上するが気体の透過性は低下する傾向があるため、それぞれ組成比として1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%の範囲を目安として用いることが好ましいが、この範囲に限定されることなく、ガス分離の目的(回収率、純度など)に応じて組成比を変えることによりガス透過性と分離選択性を調整されるものである。
【0076】
前記ポリイミド化合物の分子量は、架橋膜であるため特に限定されるものではない。各部分構造に対応するとしては、好ましくは数平均分子量として1000〜1000,000であり、より好ましくは5,000〜500,000であり、さらに好ましくは5,000〜100,000である。
【0077】
分子量及び分散度は特に断らない限りGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)法を用いて測定した値とし、分子量はポリスチレン換算の重量平均分子量とする。GPC法に用いるカラムに充填されているゲルは芳香族化合物を繰り返し単位に持つゲルが好ましく、例えばスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなるゲルが挙げられる。カラムは2〜6本連結させて用いることが好ましい。用いる溶媒は、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N−メチルピロリジノン等のアミド系溶媒が挙げられる。測定は、溶媒の流速が0.1〜2mL/minの範囲で行うことが好ましく、0.5〜1.5mL/minの範囲で行うことが最も好ましい。この範囲内で測定を行うことで、装置に負荷がかからず、さらに効率的に測定ができる。測定温度は10〜50℃で行うことが好ましく、20〜40℃で行うことが最も好ましい。なお、使用するカラム及びキャリアは測定対称となる高分子化合物の物性に応じて適宜選定することができる。
【0078】
[架橋ポリイミド樹脂]
(架橋サイト比[η])
本発明においては、前記架橋ポリイミド樹脂における、前記ポリイミド化合物のイミド基と架橋サイトとの比[η](架橋サイトの数/イミド基の数)が0.0001〜0.45であり、0.01〜0.3であることが好ましく、0.01〜0.2であることがより好ましく、0.01〜0.1であることがさらに好ましい。さらに、低架橋サイト比の設定にする場合には、0.05以下が好ましく、0.04以下がより好ましく、0.02以下が特に好ましい。
本明細書において「架橋サイト比[η]」は、架橋された架橋性官能基の数に基づくものであり、ポリイミド化合物に導入されていても、架橋されなかった架橋性官能基の数は除かれた算定値(比率)である。この値を上記下限値以上とすることで、高CO濃度条件あるいは天然ガス中に含まれるベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物あるいはヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素不純物の影響による膜の可塑化にともなう分離選択性の低下を最小限に抑制することができ、上記上限値以下とすることで、架橋密度向上に伴うガス透過率の低下を最小限に抑制することができ、さらには折り曲げ時のクラック、脆性といった機械強度も改善することができる。
この架橋サイト比を所望の範囲とするには、ポリイミド化合物の合成時に適宜官能性架橋基の存在割合(例えば、後述する架橋性官能基密度[γ])を調整したり、架橋反応条件を変化させたりして架橋転化率(例えば、架橋性官能基の総数に対する架橋された官能基の数の比率(架橋転化率)[α])を調整することにより行うことができ、計算上は[η]=[γ]x[α]/200となる。具体的には、所定の範囲内で架橋サイトをもつモノマーの組成比を増やす、反応性を高める、多官能化する、あるいは別の架橋性置換基を有する素材を併用することで、架橋サイト比[η]を高めることができる。
【0079】
(架橋構造)
本発明においては、架橋ポリイミド樹脂が、その架橋構造部位にエーテル構造(−R−O−R−)、−OCRCHO−、−OCHCHRCHO−、−OCHCHRO−という連結基を有することが好ましい。Rはアルキル基を意味し、その好ましいものは置換基群Zと同義である。下記に架橋反応の例を反応スキームで示すが、本発明がこれに限定して解釈されるのもではない。例えば、−O−CO−R末端基は、−O−Rであったりしてもよい。
【0080】
【化19】

【0081】
(架橋性官能基密度[γ])
一般式(I)で表される繰り返し単位に対する、一般式(III−a)ないし一般式(III−b)の官能基Lの数の比率を架橋性官能基密度[γ]という。このγ(官能基Lの数/一般式(I)で表される繰り返し単位の数)の好ましい範囲は、0.003〜0.68であり、さらに好ましくは0.003〜0.56である。
【0082】
この架橋性官能基密度は、ポリイミド化合物を合成するときの基質(モノマー)の仕込み量で調節することができる。
【0083】
(架橋転化率[α])
本発明の架橋転化率[α]は、膜の反射型赤外分光法測定において、二重結合部位のピーク(1640、810cm-1)および1H-NMRにおける二重結合ピークの架橋前後における減少により算出することができる。架橋転化率は20%以上100%以下が好ましく、50%以上94%以下がより好ましく、30%以上89%以下がさらに好ましい。
【0084】
この架橋転化率は、ポリイミド化合物の架橋条件により調節を行うことができ、ラジカル重合開始剤の種類、架橋反応における温度、基質濃度、熱量、活性放射線の光量および照射時間を各種調整することで、架橋転化率を調節することができる。具体的には例えば、ラジカル重合での架橋反応において反応率を高めるために、熱あるいは光エネルギーの総エネルギーを増やすか、材料であれば重合開始剤である光開始剤(ケトン系化合物など)あるいは熱開始剤(アゾ系化合物などであれば分解温度の低い化合物など)の活性を上げることが挙げられる。
【0085】
この架橋転化率は、ポリイミド化合物の架橋条件により調節を行うことができ、カチオン架橋反応開始剤の種類、架橋反応における温度、基質濃度、熱量、活性放射線の光量および照射時間を各種調整することで、架橋転化率を高めることができる。
【0086】
[ガス分離膜の製造方法]
本発明のガス分離膜の製造方法は、好ましくは、上記ポリイミド化合物を含有する塗布液を支持体に塗布し、その塗布膜を、活性放射線を照射することにより形成する製造方法である。塗布膜を構成するための塗布液(ドープ)の成分組成は特に限定されないが、上記ポリイミド化合物と重合開始剤とを有機溶剤中に含むものであることが好ましい。ポリイミド化合物の含有量は特に限定されないが、塗布液中に、0.1〜30質量%含まれることが好ましく、1〜10質量%含まれることがより好ましい。上記下限値以上とすることで、濃度が薄い場合には、多孔質支持体上に製膜した際に、容易に下層に浸透してしまうがために分離に寄与する表層に欠陥が生じる可能性が高くなり、ができ、上記上限値以下とすることで濃度が高い場合における多孔質支持体上に製膜した際にの孔内に高濃度に充填されてしまうことに起因する薄層化あるいは透過性が低くなる現象を最低限に抑制することができる。本発明のガス分離膜は、分離層のポリマーの分子量、構造、組成さらには溶液粘度を調整することで適切に製造することができる。
【0087】
〔有機溶剤〕
有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素系有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等の脂肪族ケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチル又はモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチル又はモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチル又はモノエチルエーテル、ジブチルブチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルシクロペンチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系有機溶剤、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶剤は支持体を浸蝕するなどの悪影響を及ぼさない範囲で適切に選択されるものであるが、好ましくは、エステル系(好ましくは酢酸ブチル)、アルコール系(好ましくはメタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール)、脂肪族ケトン(好ましくは、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン、シクロヘキサノン)、エーテル系(エチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル)が好ましく、さらに好ましくは脂肪族ケトン系、アルコール系、エーテル系である。またこれらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0088】
好ましくは後述する重合開始剤を含有し、活性放射線の照射により硬化することにより形成されるガス分離膜である。ここで活性放射線とは、その照射により膜組成物中において開始種を発生させうるエネルギーを付与することができるものであれば、特に制限はなく、広くα線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線などを包含するものである。なかでも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点から紫外線及び電子線が好ましく、特に紫外線が好ましい。
【0089】
本発明において、紫外線を使用する場合には、後述の光重合開始剤を添加することが必要となる。電子線硬化の場合は、重合開始剤が不要であり、透過深さも深いので好ましい。電子線加速器としてはスキャニング方式、ダブルスキャニング方式又はカーテンビーム方式が採用できるが、好ましいのは比較的安価で大出力が得られるカーテンビーム方式である。電子線特性としては、加速電圧が30〜1000kV、好ましくは50〜300kVである。吸収線量として好ましくは5〜200kGy(0.5〜20Mrad)、より好ましくは20〜100kGy(2〜10Mrad)である。加速電圧及び吸収線量が上記範囲内であると、十分な量のエネルギーが透過し、エネルギー効率がよい。電子線を照射する雰囲気は窒素雰囲気により酸素濃度を200ppm以下にすることが好ましく、この範囲内では表面近傍の架橋、硬化反応が良好に進む。
【0090】
紫外線光源としては、水銀灯が用いられる。水銀灯は20〜240W/cmのランプを用い、速度0.3〜20m/分で使用される。膜と水銀灯との距離は一般に1〜30cmであることが好ましい。卓上型紫外線硬化装置を用いる場合は、1秒〜10分程度、素材、環境により光量、光源の配置を適宜調整したうえで硬化させるのが望ましい。
【0091】
放射線硬化装置、条件などについては、「UV・EB硬化技術」((株)総合技術センター発行)や「低エネルギー電子線照射の応用技術」(2000年、(株)シーエムシー発行)などに記載されている公知のものを用いることができる。硬化時に加熱工程を併用してもよい。
【0092】
〔重合開始剤〕
本発明のガス分離膜を形成する工程において、カチオン重合開始剤を添加することが好ましく、光重合開始剤を添加することが特に好ましい。
本発明における光重合開始剤は光の作用、又は、増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、化学変化を生じ、ラジカル、酸及び塩基のうちの少なくともいずれか1種を生成する化合物であり、光反応により酸を発生する重合開始剤がより好ましい。
光重合開始剤は、照射される活性光線、例えば、400〜200nmの紫外線、遠紫外線、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線又はイオンビームなどに感度を有するものを適宜選択して使用することができる。
【0093】
具体的な光重合開始剤は当業者間で公知のものを制限なく使用でき、具体的には、例えば、Bruce M. Monroeら著、Chemical Revue,93,435(1993).や、R.S.Davidson著、Journal of Photochemistry and biology A :Chemistry,73.81(1993).や、J.P.Faussier’Photoinitiated Polymerization−Theory and Applications’:Rapra Review vol.9,Report,Rapra Technology(1998).や、M.Tsunooka et al.,Prog.Polym.Sci.,21,1(1996).に多く、記載されている。また、(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ参照)に化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物が多く、記載されている。更には、F.D.Saeva,Topics in Current Chemistry,156,59(1990).、G.G.Maslak,Topics in Current Chemistry,168,1(1993).、H.B.Shuster et al,JACS,112,6329(1990).、I.D.F.Eaton et al,JACS,102,3298(1980).等に記載されているような、増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、酸化的もしくは還元的に結合解裂を生じる化合物群も知られる。
【0094】
好ましい光重合開始剤としては(a)芳香族ケトン類、(b)芳香族オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(e)ケトオキシムエステル化合物、(f)ボレート化合物、(g)アジニウム化合物、(h)メタロセン化合物、(i)活性エステル化合物、(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物等が挙げられる。
【0095】
(a)芳香族ケトン類の好ましい例としては、「RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY」J.P.FOUASSIER J.F.RABEK (1993)、p77〜117記載のベンゾフェノン骨格或いはチオキサントン骨格を有する化合物等が挙げられる。より好ましい(a)芳香族ケトン類の例としては、特公昭47−6416記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報記載のジアルコキシベンゾフェノン、特公昭60−26403号公報、特開昭62−81345号公報記載のベンゾインエーテル類、特公平1−34242号公報、米国特許第4,318,791号、ヨーロッパ特許0284561A1号記載のα−アミノベンゾフェノン類、特開平2−211452号公報記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報記載のアシルホスフィン、特公昭63−61950号公報記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報記載のクマリン類等を挙げることができる。
【0096】
(b)芳香族オニウム塩としては、周期律表の第V、VI及びVII族の元素、具体的にはN、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、Te、又はIの芳香族オニウム塩が含まれる。例えば、欧州特許104143号明細書、米国特許4837124号明細書、特開平2−150848号公報、特開平2−96514号公報に記載されるヨードニウム塩類、欧州特許370693号明細書、同233567号明細書、同297443号明細書、同297442号明細書、同279210号明細書、及び同422570号各明細書、米国特許3902144号明細書、同4933377号明細書、同4760013号明細書、同4734444号明細書、及び同2833827号明細書各明細書に記載されるスルホニウム塩類、ジアゾニウム塩類(置換基を有してもよいベンゼンジアゾニウム等)、ジアゾニウム塩樹脂類(ジアゾジフェニルアミンのホルムアルデヒド樹脂等)、N−アルコキシピリジニウム塩類等(例えば、米国特許4,743,528号明細書、特開昭63−138345号公報、特開昭63−142345号公報、特開昭63−142346号公報、及び特公昭46−42363号公報の各公報等に記載されるもので、具体的には1−メトキシ−4−フェニルピリジニウム テトラフルオロボレート等)、更には特公昭52−147277号公報、同52−14278号公報、及び同52−14279号公報の各公報記載の化合物が好適に使用される。これらは活性種としてラジカルや酸を生成する。
【0097】
(c)「有機過酸化物」としては分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物のほとんど全てが含まれるが、その例としては、3,3′4,4′−テトラ−(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′4,4′−テトラ−(t−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′4,4′−テトラ−(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′4,4′−テトラ−(t−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′4,4′−テトラ−(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′4,4′−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレートなどの過酸化エステル系が好ましい。
【0098】
(d)ヘキサアリールビイミダゾールとしては、特公昭45−37377号公報、特公昭44−86516号公報記載のロフィンダイマー類、例えば2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0099】
(e)ケトオキシムエステルとしては3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0100】
本発明に用いることができる光重合開始剤の他の例である(f)ボレート塩の例としては米国特許3,567,453号明細書、同4,343,891号明細書、ヨーロッパ特許109,772号明細書、同109,773号明細書に記載されている化合物が挙げられる。
光重合開始剤の他の例である(g)アジニウム塩化合物の例としては、特開昭63−138345号公報、特開昭63−142345号公報、特開昭63−142346号公報、特開昭63−143537号公報ならびに特公昭46−42363号公報に記載のN−O結合を有する化合物群を挙げることができる。
【0101】
光重合開始剤の他の例である(h)メタロセン化合物の例としては、特開昭59−152396号公報、特開昭61−151197号公報、特開昭63−41484号公報、特開平2−249号公報、特開平2−4705号公報に記載のチタノセン化合物ならびに、特開平1−304453号公報、特開平1−152109号公報に記載の鉄−アレーン錯体を挙げることができる。
上記チタノセン化合物の具体例としては、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ジ−クロライド、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジフルオロフェニ−1−イル、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(ピリ−1−イル)フェニル)チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)ビス〔2,6−ジフルオロ−3−(メチルスルホンアミド)フェニル〕チタン、ビス(シクロペンタジエニル)ビス〔2,6−ジフルオロ−3−(N−ブチルビアロイル−アミノ)フェニル〕チタン等を挙げることができる。
【0102】
(i)活性エステル化合物の例としては、欧州特許0290750号明細書、同046083号明細書、同156153号明細書、同271851号明細書、及び同0388343号明細書の各明細書、米国特許3901710号明細書、及び同4181531号各明細書、特開昭60−198538号公報、及び特開昭53−133022号公報の各公報に記載されるニトロベンズルエステル化合物、欧州特許0199672号明細書、同84515号明細書、同199672号明細書、同044115号明細書、及び同0101122号明細書の各明細書、米国特許4618564号明細書、同4371605号明細書、及び同4431774号明細書の各明細書、特開昭64−18143号公報、特開平2−245756号公報、及び特開平4−365048号公報の各公報記載のイミノスルホネート化合物、特公昭62−6223号公報、特公昭63−14340号公報、及び特開昭59−174831号公報の各公報に記載される化合物等が挙げられる。
【0103】
(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物の好ましい例としては、たとえば、若林ら著、Bull.Chem.Soc.Japan,42、2924(1969)記載の化合物、英国特許1388492号明細書記載の化合物、特開昭53−133428号公報記載の化合物、独国特許3337024号明細書記載の化合物等を挙げることができる。
【0104】
また、F.C.Schaefer等によるJ.Org.Chem.29、1527(1964)記載の化合物、特開昭62−58241号公報記載の化合物、特開平5−281728号公報記載の化合物等を挙げることができる。ドイツ特許第2641100号明細書に記載されているような化合物、ドイツ特許第3333450号明細書に記載されている化合物、ドイツ特許第3021590号明細書に記載の化合物群、又はドイツ特許第3021599号明細書に記載の化合物群、等を挙げることができる。
【0105】
重合開始剤の使用量は好ましくは、重合性化合物1質量部に対して、0.01質量部〜10質量部であり、より好ましくは0.1質量部〜5質量部である。
【0106】
〔共増感剤〕
更に本発明のガス分離膜の作製プロセスにおいて、感度を一層向上させる、又は酸素による重合阻害を抑制する等の作用を有する公知の化合物を共増感剤として、更に、加えてもよい。
このような共増感剤の例としては、アミン類、例えばM. R. Sanderら著「Journal of Polymer Society」第10巻3173頁(1972)、特公昭44−20189号公報、特開昭51−82102号公報、特開昭52−134692号公報、特開昭59−138205号公報、特開昭60−84305号公報、特開昭62−18537号公報、特開昭64−33104号公報、Research Disclosure 33825号に記載の化合物等が挙げられ、具体的には、トリエタノールアミン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ホルミルジメチルアニリン、p−メチルチオジメチルアニリン等が挙げられる。
【0107】
別の例としてはチオール及びスルフィド類、例えば、特開昭53−702号公報、特公昭55−500806号公報、特開平5−142772号公報記載のチオール化合物、特開昭56−75643号公報のジスルフィド化合物等が挙げられ、具体的には、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−4(3H)−キナゾリン、β−メルカプトナフタレン等が挙げられる。
また別の例としては、アミノ酸化合物(例、N−フェニルグリシン等)、特公昭48−42965号公報に記載の有機金属化合物(例、トリブチル錫アセテート等)、特公昭55−34414号公報に記載の水素供与体、特開平6−308727号公報に記載のイオウ化合物(例、トリチアン等)、特開平6−250387号公報に記載のリン化合物(ジエチルホスファイト等)、特願平6−191605号明細書記載のSi−H、Ge−H化合物等が挙げられる。
【0108】
〔その他の成分等〕
本発明のガス分離膜には、膜物性を調整するため、各種高分子化合物を添加することもできる。高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。
また、液物性調整のためにノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤や、有機フルオロ化合物などを添加することもできる
【0109】
界面活性剤の具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤、また、この他にもアルキルベタインやアミドベタインなどの両性界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッソ系界面活性剤などを含めて、従来公知である界面活性剤及びその誘導体から適宜選ぶことができる。
【0110】
高分子分散剤として、具体的にはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド等が挙げられ、中でもポリビニルピロリドンを用いることも好ましい。
【0111】
本発明のガス分離膜を形成する条件に特に制限はないが、温度は−30〜100℃が好ましく、−10〜80℃がより好ましく、5〜50℃が特に好ましい。
【0112】
本発明においては、膜を形成時に空気や酸素などの気体を共存させてもよいが、不活性ガス雰囲気下であることが望ましい。
【0113】
また、本発明のガス分離膜を作製する際に、媒体として有機溶剤を添加することができる。具体的に使用できる有機溶剤としては特に限定されるものではないが、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素系有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等の脂肪族ケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチル又はモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチル又はモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチル又はモノエチルエーテル、ジブチルブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のガス分離膜の膜厚は0.01〜100μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。
【0114】
[ガス混合物の分離方法]
本発明のガス混合物の分離方法は、少なくとも一種の酸性ガスを含むガス混合物から酸性ガスを気体分離膜によって分離する方法において、本発明のガス分離膜又は前記複合膜を用いることができる酸性ガスが二酸化炭素又は硫化水素であることが好ましい。
【0115】
本発明のガス分離膜を用いる気体の分離方法において、原料の気体混合物の成分は特に規定されるものではないが、ガス混合物の主成分が二酸化炭素及びメタン又は二酸化炭素及び水素であることが好ましい。ガス混合物が二酸化炭素や硫化水素のような酸性ガス共存下で特に優れた性能を発揮し、好ましくは二酸化炭素とメタン等の炭化水素、二酸化炭素と窒素、二酸化炭素と水素の分離において優れた性能を発揮する。
【0116】
[ガス分離膜モジュール・気体分離装置]
本発明のガス分離膜は多孔質支持体と組み合わせた複合膜とすることが好ましく、更にはこれを用いたガス分離膜モジュールとすることが好ましい。また、本発明のガス分離膜、複合膜又はガス分離膜モジュールを用いて、ガスを分離回収又は分離精製させるための手段を有する気体分離装置とすることができる。
本発明のガス分離膜はモジュール化して好適に用いることができる。モジュールの例としては、スパイラル型、中空糸型、プリーツ型、管状型、プレート&フレーム型などが挙げられる。また本発明の高分子膜は、例えば、特開2007−297605号に記載のような吸収液と併用した膜・吸収ハイブリッド法としての気体分離回収装置に適用してもよい。
【0117】
上記の優れた特性を有する本発明のガス分離複合膜は、ガス分離回収法、ガス分離精製法として好適に用いることができる。例えば、水素、ヘリウム、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素、酸素、窒素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、メタン、エタンなどの炭化水素、プロピレンなどの不飽和炭化水素、テトラフルオロエタンなどのパーフルオロ化合物などのガスを含有する気体混合物から特定の気体を効率よく分離し得るガス分離膜とすることができる。特に二酸化炭素/炭化水素(メタン)を含む気体混合物から二酸化炭素を選択分離するガス分離膜及びこの製造方法、これを用いたモジュール、分離装置とすることが好ましい。
【実施例】
【0118】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは特に示さない限り質量基準とする。
【0119】
〔合成例〕
<ポリマー(P−1)の合成>
【0120】
【化20】

X=60、Y=30、Z=10
【0121】
ポリマー(P−1)の合成
1Lの三口フラスコにN−メチルピロリドン123ml、6FDA(東京化成工業株式会社製、製品番号:H0771)54.97g(0.124mol)を加えて40℃で溶解させ、窒素気流下で攪拌しているところに、2,3,5,6−テトラメチルフェニレンジアミンTeMPD(東京化成工業株式会社製、製品番号:T1457)8.13g(0.049mol)、m−フェニレンジアミン(和光純薬株式会社製、製品番号:164−01515)6.69g(0.062mol)、3,5-ジアミノ安息香酸DABA(東京化成工業株式会社製、製品番号:D0294)1.971g(0.012mol)のN−メチルピロリドン84.0ml溶液を30分かけて系内を40℃に保ちつつ滴下した。反応液を40℃で2.5時間攪拌した後、ピリジン(和光純薬株式会社製、製品番号:166-22575)2.94g(0.037mol)、無水酢酸(和光純薬株式会社製、製品番号:018-00286)31.58g(0.31mol)をそれぞれ加えて、さらに80℃で3時間攪拌した。その後、反応液にアセトン676.6mLを加え、希釈した。5Lステンレス容器にメタノール1.15L、アセトン230mLを加えて攪拌しているところに、反応液のアセトン希釈液を滴下した。得られたポリマー結晶を吸引ろ過し、60℃で送風乾燥させて60.1gのポリマー(P−1)を得た。
【0122】
<ポリマー(P−2)の合成>
1Lの三口フラスコにN−メチルピロリドン167g、6FDA(東京化成工業株式会社製、製品番号:H0771)54.97g(0.124mol)を加えて40℃で溶解させ、窒素気流下で攪拌しているところに、2,3,5,6−テトラメチルフェニレンジアミン(東京化成工業株式会社製、製品番号:T1457)8.13g(0.049mol)、m−フェニレンジアミン(和光純薬株式会社製、製品番号:164−01515)6.69g(0.062mol)、2,4-ジアミノフェノール二塩酸塩(東京化成工業株式会社製、製品番号:D0080)1.971g(0.012mol)および炭酸リチウム(和光純薬株式会社製、製品番号:126−01135)1.773g(0.024mol)を少しずつ添加した。反応液を40℃で2.5時間攪拌した後、トルエンを167ml加えて、さらに180℃で3時間攪拌した。共沸された水−トルエン混合物をディーンスターク水分離機で除去した。反応終了後、室温付近まで冷却下のち、反応液にアセトン600mLを加え、希釈した。5Lステンレス容器にメタノール1.2Lを加えて攪拌しているところに、反応液のアセトン希釈液を滴下した。得られたポリマー結晶を吸引ろ過し、60℃で送風乾燥させて55.4gのポリマー(P−2)を得た。
【0123】
同様にしてポリマー(P−3)、(P−4)、(P−5)、(P−8)、(P−10)、(P−16)を合成した。
【0124】
〔実施例1・比較例1〕
〔試料101〕
30ml褐色バイアル瓶に、ポリマー(P−1)を1.4g、架橋剤(R−1:東京化成工業株式会社製、製品番号:B−1796)0.20gをメチルエチルケトン8.6gを混合して30分攪拌したのち、更にテトラフェニルホスホニウムブロミド(東京化成工業株式会社製、製品番号:T1069、以下PhPBr)を1.4mg加えて、更に30分攪拌した。10cm四方の清浄なガラス板上に、ポリアクリロニトリル多孔質膜(GMT社製)を静置し、前記ポリマー液をアプリケータを用いて多孔質支持膜表面にキャストさせ、室温で5分ほど静置したのち、さらに70℃で15分乾燥させ、硬化膜101を得た。ポリマー(P−1)層の厚さは約1.5μmであり、ポリアクリロニトリル多孔質膜の厚さは不織布を含めて約180μmであった。
【0125】
〔試料102〕
30ml褐色バイアル瓶に、ポリマー(P−1)を1.4g、架橋剤(R−1:東京化成工業株式会社製、製品番号:B−1796)0.20g、架橋剤(R−1:東京化成工業株式会社製、製品番号:B−1796)0.20gをメチルエチルケトン8.6gを混合して30分攪拌したのち、更にトリ-p-トリルスルホニウムヘキサフルオロホスファート(東京化成工業社製、製品番号:T2041、以下Tol3SPF)を2mg加えて、更に30分攪拌した。10cm四方の清浄なガラス板上に、ポリアクリロニトリル多孔質膜(GMT社製)を静置し、前記ポリマー液をアプリケータを用いて多孔質支持膜表面にキャストさせ、速やかにセン特殊光源株式会社製光硬化装置(TCT1000B−28HE)を用いて、10mWにて60秒間露光させ、硬化膜102を得た。ポリマー(P−1)層の厚さは約1μmであり、ポリアクリロニトリル多孔質膜の厚さは不織布を含めて約180μmであった。
【0126】
〔試料103〜118〕
前記実施例1あるいは実施例2におけるポリマー、架橋剤、添加剤を以下の表に従って変更し、ポリアクリロニトリル多孔質膜上に塗布することで複合膜を作製した。
【0127】
【表1】

Tol:トリル基
Ph:フェニル基
連結構造 (何れもエーテル結合を含む架橋構造をとる。)
(A)ビニルエーテル由来、 (B)オキシラン由来、 (C)オキセタン由来
【0128】
〔試料c11〜c13〕
US7247191B2に記載のポリマー
1Lの三口フラスコにN−メチルピロリドン100ml、6FDA(東京化成株式会社製、製品番号:)12.0g(0.027mol)を加えて40℃で溶解させ、窒素気流下で攪拌しているところに、メシチレンジアミン(東京化成株式会社製、製品番号:)3.25g(0.0216mol)、3,5−ジアミノ安息香酸(東京化成株式会社製、製品番号:)0.82g(0.0054mol)のN−メチルピロリドン65ml溶液を30分かけて系内を40℃に保ちつつ滴下した。反応液を40℃で2.5時間攪拌した後、ピリジン(和光純薬株式会社製、製品番号:)0.64g(0.0081mol)、無水酢酸(和光純薬株式会社製、製品番号:)6.89g(0.068mol)をそれぞれ加えて、さらに80℃で3時間攪拌した。その後、反応液にアセトン150mLを加え、希釈した。5Lステンレス容器にメタノール1.5Lを加えて攪拌しているところに、反応液のアセトン希釈液を滴下した。得られたポリマー結晶を吸引ろ過し、60℃で送風乾燥させて8.3gのポリマー(A)を得た。このポリマー(A)にエチレングリコールを3,5−ジアミノ安息香酸の等量分加えて、US7247191B2記載の方法と同様の手法を用いて、ポリアクリロニトリル(比較例1)、ポリスルホン(比較例2)およびポリフェニレンオキシド(比較例3)の各多孔質支持膜上に実施例1と同様にアプリケータを用いて架橋複合膜c11、c12、c13を調製した。
【0129】
【化21】

X=60、Y=40
【0130】
〔試料c14〕
European Polymer Journal vol33、No.10−12,1717−1721(1997)を参照し、6FDA/M−2光硬化−ポリフェニレンオキシド(PPO)複合膜c14(比較例4)を作製した。
【0131】
【化22】

European Polymer Journal, 1997,33,1717.に記載されたポリマー
【0132】
(ガス透過率の測定)
得られた複合膜はガス透過率測定装置(GTRテック社製GTR−10XF)にて、二酸化炭素(CO)、メタン(CH)の混合ガス(1:1)を用いて、40℃、ガス供給側の圧力を8気圧としてCO、CHのガス透過率を測定した。膜のガス透過性は、ガス透過率(Permeance)を算出することにより比較した。ガス透過率(Permeance)の単位はGPU(ジーピーユー)単位(1GPU=1×10−6cm(STP)/(s・cm・cmHg))で表した。
【0133】
(折り曲げ試験[膜加工適性試験])
本発明のガス分離膜はモジュール又はエレメントと呼ばれる膜が充填されたパッケージとして使用することが望ましい。ガス分離膜をモジュールとして使用する場合は膜表面積を大きくするために高密度に充填されているため、平膜ではスパイラル状に折り曲げて充填するため、十分な折曲げ強度が付与されていなければならない。本性能を確認するために得られた複合膜を180度折り曲げては戻す操作を50回実施した後、再度ガス透過率測定できたか否かを確認した。
A:問題なく透過率測定ができた
B:透過率測定ができなかった
【0134】
ガス透過率、折り曲げ試験の結果を表1に示す。なお、架橋サイト比[η]は、実施例のものが約0.0001〜0.45であり、比較例c11〜c13のものは約0.2であり、c14が約0.5であった。架橋性官能基密度[γ]は、実施例のものが0.1以下であり、比較例c11〜c13のものは0.6−0.7であり、c14が0.9以上であった。架橋率[α]は、実施例のものが60〜100、比較例のものが90以上であった。試験No.1**で表されるものが実施例であり、c**で表されるものが比較例である。
【0135】
【表2】

PAN: ポリアクリロニトリル
PSf: ポリスルホン
PPO: ポリフェニレンオキシド
室温:約25℃
Radial:ラジカル架橋
Ester:エステル交換反応
【0136】
本発明のガス分離膜は高い二酸化炭素透過性と分離選択性、さらには折り曲げ強度が付与されていることがわかる。
【0137】
〔実施例2・比較例2〕
(サンプルエラー率)
前記実施例、比較例に記載のガス分離膜を各々50サンプル作製し、その折の水素の透過率を測定し、ガス透過率値が1×10ml/m2・24h・atmを越えたサンプルをピンホール有りの膜として判断し、作製サンプル数からその数を除した値をサンプルエラー率として算出した。
【0138】
前記の実施例および比較例に記載のガス分離膜のサンプルエラー率の結果を以下の表3に示す。
【0139】
[表3]
――――――――――――――――――――――
試料No. サンプルエラー率[%]
――――――――――――――――――――――
101 3
102 2
103 3
104 3
105 4
106 3
107 4
108 3
110 2
111 2
112 3
113 1
114 2
115 4
116 2
117 2
118 3
c11 −
c12 −
c13 23
c14 33
――――――――――――――――――――――
【0140】
本発明はピンホールの少ない良好なガス分離膜を作製する方法を提供することが可能となっている
【0141】
本発明のガス分離複合膜は、架橋サイト比が高すぎることがなく実用的なガス透過性を有し、さらには機械強度にも優れる。さらには低温、短時間で多孔質支持膜との複合膜を得ることができるため、多孔質支持体のガラス転移温度によらず、実用的なガス分離複合膜を得ることができる。
【0142】
上記の結果より、本発明のガス分離膜は、優れたガス透過性とガス分離選択性、特に二酸化炭素の透過性に優れ、二酸化炭素/メタンの分離膜として優れることが分かる。さらには低温、短時間で複合膜を作製することができるために、製造適性に優れる。そして、本発明のガス分離膜及び複合膜により、優れた気体分離方法、ガス分離膜モジュール、ガス分離膜モジュールを含むガス分離、ガス精製装置を提供することができることが分かる。
【符号の説明】
【0143】
1 ガス分離層
2 多孔質層
3 不織布層
10、20 ガス分離複合膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリイミド樹脂を含有してなるガス分離層をガス透過性の支持層上側に有するガス分離複合膜であって、
前記架橋ポリイミド樹脂は、ポリイミド化合物がその分子もしくは別分子由来のカチオン架橋性官能基で架橋された構造を有するガス分離複合膜。
【請求項2】
前記カチオン架橋性官能基で架橋された構造がエーテル構造を有する請求項1に記載のガス分離複合膜。
【請求項3】
前記カチオン架橋性官能基が環状構造の原子群を含む請求項1又は2に記載のガス分離複合膜。
【請求項4】
前記カチオン架橋性官能基がオキセタン環又はオキシラン環を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
【請求項5】
前記ポリイミド化合物が、一般式(I)で表される繰り返し単位と、一般式(II−a)又は(II−b)で表される繰り返し単位の少なくとも一種と、一般式(III−a)又は(III−b)で表される繰り返し単位の少なくとも一種とを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
【化1】

(一般式(I)において、Rは式(I−a)、式(I−b)、式(I−c)、式(I−d)、式(I−e)、式(I−f)、及び式(I−g)からなる群から選択される原子群である。一般式(I−a)中、Xは単結合又は二価の連結基を表す。式(I−f)中、RおよびRは各々独立して水素原子又は置換基を表し、両者が置換基を表すとき互いに結合し環を形成してもよい。*はカルボニル基との結合部位を表す。)
【化2】

【化3】

(一般式(II−a)中、Rは置換基を表し、l1は0〜4の整数である。一般式(II−b)中、RおよびRは各々独立して置換基を表し、両者がアルキル基を表すとき互いに結合し環を形成してもよい。m1およびn1、0〜4の整数である。Xは単結合又は二価の連結基を表す。)
【化4】

(一般式(III−a)および一般式(III−b)中、R、RおよびRは各々独立して置換基を表す。JおよびJ、Wは単結合又は2価の連結基を表す。l2、m2、n2は0〜3の整数である。Lは二価の連結基を表し、Lは反応性基を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の場合、複数存在するL、Jは同一でも異なっていてもよい。Xは単結合又は2価の連結基である。)
【請求項6】
前記架橋性官能基が、オキシラン基、オキセタン基、ビニルエーテル基、アルケニルエーテル基、アレーンエーテル基、及びケテンアセタール基からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
【請求項7】
前記支持層がガス分離層側の多孔質層とその逆側の不織布層とからなる請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
【請求項8】
前記多孔質層の分画分子量が100,000以下である請求項7に記載のガス分離複合膜。
【請求項9】
供給されるガスが二酸化炭素とメタンとの混合ガスであり、40℃、8気圧における二酸化炭素の透過速度が20GPU超であり、二酸化炭素とメタンとの透過速度比(RCO2/RCH4)が20以上である請求項1〜8のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
【請求項10】
架橋ポリイミド樹脂を含有してなるガス分離層をガス透過性の支持層上側に有するガス分離複合膜の製造方法であって、
カチオン架橋性の架橋性官能基を有するポリイミド化合物と架橋剤とを含む塗布液を前記支持層上側に塗布し、該塗布液に活性放射線を照射する、あるいは熱を付与することにより前記架橋性官能基を反応させ前記ポリイミド化合物を架橋するガス分離複合膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のガス分離複合膜を具備するガス分離モジュール。
【請求項12】
請求項11に記載のガス分離モジュールを備えたガス分離装置。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のガス分離複合膜を用いて、二酸化炭素及びメタンを含むガスから二酸化炭素を選択的に透過させるガス分離方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−27819(P2013−27819A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165377(P2011−165377)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】