説明

ガス分離複合膜、それを用いたガス分離モジュール、ガス分離装置およびガス分離方法

【課題】優れたガス透過性を有しながら高いガス分離選択性をも実現し、さらに高い製膜適性および経時安定性を達成するガス分離複合膜、それを用いたモジュール、ガス分離装置およびガス分離方法を提供する。
【解決手段】架橋ポリイミド樹脂を含有してなるガス分離層をガス透過性の支持層上側に有するガス分離複合膜であって、前記架橋ポリイミド樹脂はポリイミド化合物が架橋されて連結された構造を有し、該ポリイミド化合物は、イミド基含有モノマー成分と、特定の極性基を有するモノマー成分とを少なくとも有する共重合体であるガス分離複合膜、それを用いたモジュール、ガス分離装置およびガス分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離複合膜、それを用いたガス分離モジュール、ガス分離装置およびガス分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物からなる素材には、その素材ごとに特有の気体透過性がある。その性質に基づき、特定の高分子素材から構成された膜によって、所望の気体成分を分離できることが知られている。この気体分離膜の産業上の利用態様として、近年の地球環境温暖化における問題と関連し、火力発電所やセメントプラント、製鉄所高炉等の大規模な二酸化炭素発生源から、二酸化炭素を省エネルギーで分離回収することが検討され、環境問題の解決手段として着目されている。一方、天然ガスやバイオガス(生物の排泄物、有機質肥料、生分解性物質、汚水、ゴミ、エネルギー作物などの発酵、嫌気性消化により発生するガス)は主としてメタンと二酸化炭素の混合ガスであり、その二酸化炭素等の不純物を除去する手段として膜分離方法が従来検討されてきた(特許文献1、特許文献2)。特に天然ガスの精製では素材としてセルロースやポリイミドが検討されてきたが、実際のプラントにおける高圧条件および高二酸化炭素濃度では膜が可塑化し、これによる分離選択性の低下が問題となっていた(非特許文献1、2、3)。また、天然ガスには微量の水、硫化水素、長鎖炭化水素、ベンゼン、キシレンといった芳香族化合物などの不純物が含まれている。したがって、使用を継続するにつれて分離膜モジュール内にこれらの不純物が滞留してしまい、膜素材にダメージを与えることがある。この点からも化学的安定性の改良が求められていた(特許文献4)。
この膜の可塑化を抑制するためには、膜を構成する高分子化合物に架橋構造を導入することが有効であることが知られており、ポリイミドやセルロース膜において改良のための研究が続けられている(前記非特許文献1、特許文献4)。その他、ガス分離膜にポリイミドの架橋構造の膜を利用したものとして、特許文献3、非特許文献4、5、6などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−297605号公報
【特許文献2】特開2006−297335号公報
【特許文献3】米国特許第7,247,191号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2010/0270234号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yuri Yampolskii,Benny Freeman,Membrane Gas Separation,2010,Johns Wiley & Sons Ltd.
【非特許文献2】Industrial & Engineering Chemistry Research,2008,47,2109
【非特許文献3】Industrial & Engineering Chemistry Research,2002,41,1393
【非特許文献4】Journal of Membrane Science,1999,155,145
【非特許文献5】Journal of Membrane Science,2000,175,181
【非特許文献6】European Polymer Journal,1997,33,1717
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実用的なガス分離膜とするためには、薄層にすることで高ガス透過性を付与しなければならない。従来は単一素材を非対称膜にすることで、分離に寄与する部分をスキン層と呼ばれる薄層にして、高ガス透過性と分離選択性、さらには機械強度を満足させることが試みられていた。しかし、これらを単一素材で兼ね備えたものとすることは難しい。そのため、分離機能と機械強度を付与するための機能を別々の素材とする複合膜が性能とコストの観点から望ましく、水処理用の逆浸透膜では複合膜が主流となりつつある。
一方、ガス分離膜において分離層にポリイミドの架橋構造膜を利用した例は少ない(上記特許文献3、非特許文献4、5、6)。これらの方法では架橋に対して100℃以上の高温が必要であったり、架橋に対して非常に長い時間を要したりする。そのために、高いガス透過性と分離選択性を維持しつつ、製膜適性、さらには機械強度が高く、耐久性に優れた実用的なガス分離膜を提供するにはまだ不十分であった。
【0006】
また、実際の天然ガスでは微量な水、硫化水素、長鎖炭化水素、ベンゼン、キシレンといった芳香族化合物などの不純物が含まれている。この影響を受け、使用時間が経過するに従って分離膜モジュール内にこれらの不純物が滞留してしまい膜素材にダメージを与えることがある(上記特許文献4)。水や有機化合物への耐性を高め、膜の化学的安定性を改良することが求められる。
【0007】
上記の点を考慮し、本発明は、優れたガス透過性を有しながら高いガス分離選択性をも実現し、さらに高い製膜適性および経時安定性を達成するガス分離複合膜、それを用いたモジュール、ガス分離装置およびガス分離方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の技術課題に鑑み、本発明者らが検討した結果、ガス分離膜において高ガス透過性と分離選択性を維持しつつ製膜適性を付与するためには、支持層を利用した複合膜とし、その上で分離層を構成するポリマーについて、特定の架橋性の官能基を導入した一次構造と、穏和な条件での架橋による硬化を可能とした。さらに特定の極性基を選択することで経時安定性に優れ、前記問題点を解決することを見出した。本発明はこの知見に基づき完成されたものである。
上記の課題は以下の手段により達成された。
(1)架橋ポリイミド樹脂を含有してなるガス分離層をガス透過性の支持層上側に有するガス分離複合膜であって、
前記架橋ポリイミド樹脂はポリイミド化合物が架橋されて連結された構造を有し、
該ポリイミド化合物は、イミド基含有モノマー成分と、下記極性基群から選択される基を有するモノマー成分とを少なくとも有する共重合体であるガス分離複合膜。
[極性基群:
−COO(R−、−SO(R−、−PO(R−、−N(X)(R−、−PR−、−NRC(=O)−、アルキレンアミノ、アリーレンアミノ、2価の含窒素ヘテロ環基、−S−、−SO−、−S(X)(R)−、スルホニルアミノ、スルホニルアミノカルボニル、もしくはウレイレンからなる連結基を有する基、または−N(X)(R、ハロゲン原子もしくは1価の含窒素ヘテロ環基を有する基。
ここで、R、R、R、R、RおよびRは各々独立に、水素原子または置換基を表す。複数存在するR、R、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。Xはハロゲンイオン、N(CN)イオンまたはN(SOイオンを表す。RおよびRは各々独立にアルキル基を表す。]
(2)前記架橋されて連結された構造をなす架橋鎖が、前記極性基群から選ばれる少なくとも1つの連結基を有する(1)に記載のガス分離複合膜。
(3)前記極性基含有モノマー成分が、下記一般式(V)で表される(1)または(2)に記載のガス分離複合膜。
【0009】
【化1】

【0010】
(一般式(V)中、Aは前記極性基群から選ばれる基を表す。R16は水素原子または置換基を表す。rは0以上の正の整数を表す。sは1以上の正の整数を表す。ただし、r+sは4以下である。rおよびsが2以上の場合、複数存在するR16および/またはAは互いに結合して環を形成してもよい。)
(4)前記ポリイミド化合物が、下記一般式(I)で表される繰り返し単位と、下記一般式(II−a)もしくは(II−b)で表される繰り返し単位の少なくとも一種と、下記一般式(III−a)もしくは(III−b)で表される繰り返し単位の少なくとも一種とをそれぞれ含む(1)〜(3)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
【0011】
【化2】

【0012】
(一般式(I)中、Rは下記一般式(I−a)〜(I−g)からなる群から選択される原子群を表す。)
【0013】
【化3】

【0014】
(一般式(I−a)〜(I−g)中、Xは単結合または2価の連結基を表す。Yはメチレン基またはビニレン基を表す。RおよびRは各々独立に水素原子または置換基を表し、RとRが互いに結合して環を形成してもよい。*は一般式(I)におけるイミドのカルボニル基との結合部位を表す。)
【0015】
【化4】

【0016】
(一般式(II−a)、(II−b)中、Rは置換基を表し、l1は0〜4の整数を表す。RおよびRは各々独立に置換基を表し、RとRが互いに結合して環を形成してもよい。m1およびn1は各々独立に0〜4の整数を表す。Xは単結合または2価の連結基を表す。)
【0017】
【化5】

【0018】
(一般式(III−a)、(III−b)中、R、RおよびRは各々独立に置換基を表す。RとRは互いに結合して環を形成してもよい。JおよびJ、Wは各々独立に単結合または2価の連結基を表す。l2、m2、n2は各々独立に0〜3の整数を表す。Lは2価の連結基を表し、Lは官能基を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の場合、複数存在するL、Jは同一でも異なっていてもよい。Xは単結合または2価の連結基を表す。)
(5)前記官能基が、−NHC(=O)CR=CH(Rは水素原子または置換基を表す)、−CH=CH、−OH、−SH、−SOH、アルキルアミノ基、アリールアミノ基およびハロゲン原子からなる群から選ばれる少なくとも一種である(1)〜(4)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
(6)前記支持層がガス分離層側の多孔質層とその逆側の不織布層とからなる(1)〜(5)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
(7)前記多孔質層の分画分子量が100,000以下である(6)に記載のガス分離複合膜。
(8)供給されるガスが二酸化炭素とメタンとの混合ガスであり、40℃、8気圧における二酸化炭素の透過速度が20GPU超であり、二酸化炭素とメタンとの透過速度比(TRCO2/TRCH4)が20以上である(1)〜(7)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
(9)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜を具備するガス分離モジュール。
(10)前記(9)に記載のガス分離モジュールを備えたガス分離装置。
(11)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のガス分離複合膜を用いて、二酸化炭素およびメタンを含むガスから二酸化炭素を選択的に透過させるガス分離方法。
【0019】
本明細書において、特定の符号で表示された置換基や連結基等(以下、置換基等という)が複数あるとき、あるいは複数の置換基等を同時もしくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよい。このことは、置換基等の数の規定についても同様である。また、特に断らなくても、複数の置換基等が近接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい。
また、本明細書において「互いに結合して環を形成してもよい」というときには、単結合、二重結合等により結合して環状構造を形成するものであっても、縮合して縮環構造を形成するものであってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のガス分離複合膜は、優れたガス透過性を有しながら高いガス分離選択性をも実現し、さらに高い製膜適性および経時安定性(分離ガス中に含まれる水等に対する経時での耐劣化性)に優れる。また、このガス分離複合膜を用いることで高性能なガス分離モジュール、ガス分離装置およびガス分離方法の提供を可能とする。さらに、本発明は上記高い性能を発揮するガス分離複合膜を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のガス分離複合膜の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のガス分離複合膜の別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のガス分離複合膜は、架橋ポリイミド樹脂を含有してなるガス分離層をガス透過性の支持層上側に有する。そして、前記架橋ポリイミド樹脂は、ポリイミド化合物がその架橋性の官能基で架橋されてなり、そのイミド基と架橋サイトとの比[η](イミド基の数/架橋サイトの数)(以下、架橋サイト比という)が特定の範囲とされている。このように、架橋官能基で架橋され、かつ、特定の架橋サイト比とされたことにより、ガス分離に優れた効果を発揮する。この理由(作用機構)については未解明の点も含むが、以下のように推定される。
【0023】
まず、膜によるガス分離の機構についてみると、気体分子が薄膜を透過する際、クヌーセン機構またはハーゲン・ポアズイユ機構(多孔質膜)、表面拡散機構(多孔質膜)、分子ふるい機構(多孔質膜)、溶解・拡散機構(非多孔質膜)等の関与が考慮される(日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編「新訂 最新ポリイミド 〜基礎と応用〜」,365−376頁参照)。ここで、COとCHの分離についていうと両者はいずれも低分子量の化合物であり、しかも分離対象となる分子の大きさが近似している。このような場合には、上記の溶解・拡散機構の制御が重要となる(永井一清監修 シーエムシー出版,「気体分離膜・透過膜・バリア膜の最新技術」,52−59頁参照)。それゆえに、二酸化炭素の透過性(透過係数)を分離対象ガスに対して選択的に向上させるためには、二酸化炭素の高分子膜に対する溶解度係数(溶解性)および/または拡散係数(拡散性)を選択的に向上させればよいことになる。二酸化炭素は分子内で分極した四重極子構造であり、極性を有する化学構造と親和性を有し、例えば、ポリエチレングリコールは二酸化炭素との溶解性が高いことが報告されている(Journal of Physical Chemistry,1990,94,2124−2128参照)。このような観点を活かし、ポリエチレンオキシ(PEO)組成を含む分離膜が検討されている(Journal of Membrane Science,1999,160,87−99、特開平7−60079号公報、国際公開第08/143514号パンフレット、国際公開第08/143515号パンフレット、国際公開第08/143516号パンフレット参照)。これは二酸化炭素がポリエチレンオキシ組成との相互作用が強いことに起因する。このポリエチレンオキシ膜はガラス転移温度の低い柔軟なゴム状のポリマー膜であるため、ガス種による拡散係数の差は小さく、分離選択性は溶解度の差の効果によるものが主である。
【0024】
これに対し、本発明によれば、ガラス転移温度の高い架橋ポリイミドにおいて特定の極性基が導入されたため、分子が透過する間隙は確保された一方、良好な溶解・拡散性と相俟って、特有の拡散選択性を発揮したと考えられる(高ガス透過性・高ガス選択性)。また、極性基を有するポリイミド化合物の架橋構造により、良好な曲げ性を有し、薄い支持層にも適合して優れた製造適性および経時安定性を発揮するものと考えられる。
さらに、以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
[複合膜]
本発明の複合膜はガス透過性の支持層の上側に、架橋ポリイミド樹脂を含有してなるガス分離層が形成されている。この複合膜は、多孔質性の支持体の少なくとも表面に、上記のガス分離層をなす塗布液(ドープ)を塗布(本明細書において塗布とは浸漬により表面に付着される態様を含む意味である。)、活性放射線を照射することにより形成することが好ましい。図1は、本発明の好ましい実施形態であるガス分離複合膜10を模式的に示す断面図である。1はガス分離層、2は多孔質層からなる支持層である。図2は、本発明の好ましい実施形態であるガス分離複合膜20を模式的に示す断面図である。この実施形態では、ガス分離層1および多孔質層2に加え、支持層として不織布層3が追加されている。
【0026】
支持層上側とは、支持層とガス分離層との間に他の層が介在してもよい意味である。なお、上下の表現については、特に断らない限り、分離対象となるガスが供給される方向を「上」とし、分離されたガスが出される方向を「下」とする。ただし、この説明および添付の図面により本発明が限定して解釈されるものではない。
【0027】
本発明のガス分離複合膜は、多孔質性の支持体(支持層)の表面もしくは内面にガス分離層を形成・配置してもよく、少なくとも表面に形成して簡便に複合膜にすることができる。多孔質性の支持体の少なくとも表面に、ガス分離層を形成することで、高分離選択性と高ガス透過性、更には機械的強度を兼ね備えるという利点を有する複合膜にすることができる。分離層の膜厚としては機械的強度、分離選択性を維持しつつ高ガス透過性を付与する条件において可能な限り薄膜であることが好ましい。
【0028】
本発明のガス分離複合膜のガス分離層の厚さは特に限定されないが、0.01〜5.0μmが好ましく、0.1〜2.0μmがより好ましい。なお、本明細書において「から」は「〜」と同じ意味で用い、その前後で規定される数値ないし番号を含む意味である。
【0029】
支持層に好ましく適用される多孔質支持体(多孔質層)は、機械的強度および高気体透過性の付与に合致する目的のものであれば、特に限定されるものではなく有機、無機どちらの素材であっても構わないが、好ましくは有機高分子の多孔質膜であり、その厚さは1〜3000μm、好ましくは5〜500μmであり、より好ましくは5〜150μmである。この多孔質膜の細孔構造は、通常平均細孔直径が10μm以下、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.2μm以下であり、空孔率は好ましくは20〜90%であり、より好ましくは30〜80%である。また、その気体透過率は二酸化炭素透過速度で3×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg(30GPU)以上であることが好ましい。
なお、1GPUは1×10−6cm(STP)/cm・sec・cmHgである。
【0030】
多孔質膜の素材としては、従来公知の高分子、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等、ポリスチレン、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド等の各種樹脂を挙げることができる。なかでも、前記ポリイミド化合物を塗布して架橋するときの製造適正に優れ、高いガス透過性と分離選択性とを同時に達成する観点から、支持層が、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシドからなるものであることが好ましく、ポリアクリロニトリルからなるものであることがより好ましい。多孔質膜の形状は、平板状、スパイラル状、管状、中空糸状などいずれの形状でも構わない。
【0031】
本発明においては、ガス分離層を形成する支持層を適用することを必須の要件とする。この支持層は上述したように薄く、多孔質な素材であることが、十分なガス透過性を確保でき好ましい。また、後述するガス分離層の優れたガス分離選択性を最大限に引き出すためにも、薄膜多孔質の形態が好ましい。一方、ガス分離膜の成形に高温・長時間等のシビアな反応条件が課される場合には、上述した薄く多孔質の支持層を損傷し、複合膜として十分な性能を発揮できない場合がある。かかる観点から、本発明が採用する架橋性のポリイミド化合物を利用したガス分離複合膜は穏和な条件で製膜することができ、優れた効果を発揮し、製造適性と、製品質との両面で高い性能を発揮しうる。
【0032】
本発明においては、ガス分離層を形成する支持層である多孔質層の下部(ガス分離層とは反対側)にさらに機械的強度を付与するために支持体が形成されていることが望ましい。このような支持体としては、織布、不織布、ネット等が挙げられるが、製膜性およびコスト面から不織布が好適に用いられる。不織布としてはポリエステル、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリアミド等からなる繊維を単独あるいは複数を組み合わせて用いてもよい。不織布は、例えば、水に均一に分散した主体繊維とバインダー繊維を円網や長網等で抄造し、ドライヤーで乾燥することにより製造できる。また、毛羽を除去したり機械的性質を向上させたり等の目的で、不織布を2本のロール挟んで圧熱加工を施すことも好ましい。
多孔質層の分画分子量は、本発明においては、100,000以下が好ましい。
【0033】
とりわけ、供給されるガスが二酸化炭素とメタンとの混合ガスであり、40℃、8気圧における二酸化炭素の透過速度が20GPU超であることが好ましく、20〜300GPUであることがより好ましい。二酸化炭素とメタンとの透過速度比(TRCO2/TRCH4)は20以上であることが好ましく、20〜50であることがより好ましい。
【0034】
上記選択的なガス透過には膜への溶解・拡散機構が関与すると考えられることは前述のとおりであるが、このような観点を活かし、ポリエチレンオキシ(PEO)組成を含む分離膜が検討されている(Journal of Membrane Science,1999,160,87−99参照)。これは二酸化炭素がポリエチレンオキシ組成との相互作用が強いことに起因する。このポリエチレンオキシ膜はガラス転移温度の低い柔軟なゴム状のポリマー膜であるため、ガス種による拡散係数の差は小さく、分離選択性は溶解度の差の効果によるものが主である。これに対し、本発明では、ガス分離に使用されるポリイミド化合物のガラス転移温度が高く、上記溶解・拡散作用を発揮させながら、膜の熱的な耐久性も大幅に改善できる。
【0035】
[ポリイミド化合物]
本発明に用いられる架橋ポリイミド樹脂はポリイミド化合物が架橋されて連結された構造を有し、該ポリイミド化合物は、イミド基含有モノマー成分と、特定の極性基を有するモノマー成分とを少なくとも有する共重合体である。
なお、本明細書において「化合物」という語を末尾に付して呼ぶときには、当該化合物そのものに加え、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、所定の置換基を伴ったあるいは所定の形態で修飾された誘導体を含む意味である。また、本明細書において置換・無置換を示していない置換基(連結基を含む)に関しては、その基に任意の置換基群Zを有していてもよい意味である。
【0036】
〔極性基〕
極性基とは、一般に、炭素原子と異なった電気陰性度をもつ酸素原子、窒素原子、硫黄原子等の原子を含む基をいう。極性基としては、例えば、アミド基、カルボキシ基、エステル基、水酸基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、ヘテロ環基、ハロゲン原子等が挙げられる。本発明において、前記ポリイミド化合物に導入される極性基は、下記極性基群から選ばれるものを指す。
【0037】
−COO(R−、−SO(R−、−PO(R−、−N(X)(R−、−PR−、−NRC(=O)−、アルキレンアミノ、アリーレンアミノ、2価の含窒素ヘテロ環基、−S−、−SO−、−S(X)(R)−、スルホニルアミノ、スルホニルアミノカルボニル、もしくはウレイレンからなる連結基を有する基、または−N(X)(R、ハロゲン原子もしくは1価の含窒素ヘテロ環基を有する基。
ここで、R、R、R、R、RおよびRは各々独立に、水素原子または置換基を表す。複数存在するR、R、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。Xはハロゲンイオン、N(CN)イオンまたはN(SOイオンを表す。RおよびRは各々独立にアルキル基を表す。
【0038】
上記R、R、R、R、Rの置換基、R、Rのアルキル基は、後述の置換基群Zで規定した置換基、該置換基群Z中のアルキル基と、それぞれ同義であり、好ましい範囲も同じである。
のハロゲンイオンとしては、フッ素イオン、塩素イオンおよび臭素イオンが好ましい。なお、アミノ基は−NR−を意味し、Rは水素原子または置換基(好ましくはアルキル基)を表す。該置換基は、後述の置換基群Zで規定したものと同義であり、好ましい範囲も同じである。
複数のR、複数のR、複数のR、複数のRの各々は互いに結合して環を形成してもよい。また、R、R、R、R、R、R、Rは分子内の他の部位と結合して環を形成していてもよい。このことは、アルキレンアミノ、アリーレンアミノ、スルホニルアミノ、スルホニルアミノカルボニルまたはウレイレンウレイレンのアミノ基についても同様である。
【0039】
上記置換基群で規定される基が上記の特定の連結基を有する基であるとき、その末端基(2価の基の一方の結合手に結合する置換基)は特に限定されない。末端基としては、水素原子もしくは後記置換基群Zが挙げられる。また、末端基、すなわち、結合手と、R、R、R、R、RおよびRが互いに結合して環(好ましくは5または6員環)を形成してもよく、形成された環に芳香環、脂環、ヘテロ環が縮環してもよい。
例えば、−N(X)(R−の場合、2価の機の一方の結合手に水素原子または置換基が結合して1価の基になったものは、上記の極性基で、−N(X)(Rに相当するものであり、上記極性基に置いて、明示的に代表して極性基の中に組み込んだ。
また、2価または1価の含窒素ヘテロ環基や、−N(X)(Rの複数のRが互いに結合して得られるヘテロ環は、芳香族ヘテロ環であっても非芳香族のヘテロ環でもあってもよい。含窒素ヘテロ環は5または6員の含窒素ヘテロ環が好ましく、該環はヘテロ環や芳香環、脂環が縮環していてもよい。また、含窒素ヘテロ環を構成するヘテロ原子は、窒素原子のみでも、酸素原子、硫黄原子を含んでいてもよい。
含窒素ヘテロ環としては、例えば、イミダゾール環、ピリジン環、キノリン環、ピペリジン環、モルホリン環、オキサゾール環、チアゾール環、テトラゾール環、チオモルホリン環、1,1−ジオキソチオモルホリン環、カルバゾール環、キヌクリジン環、ベンズオキサゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾチアゾール環などが挙げられ、好ましい。
含窒素ヘテロ環は、上記極性基中に窒素原子を有するもの、例えば、−NRC(=O)−においても、Rと一方の結合手が互いに結合して環を形成した場合も同様であり、形成された環は、5または7員環が好ましく、この形成された環に、芳香環、脂環、ヘテロ環が縮環していてもよい。
【0040】
本発明のポリイミド化合物もしくは架橋ポリイミド樹脂に上記極性基がどのような形で導入されていてもよいが、極性基は、特定のモノマー成分に置換基として導入されていても、架橋樹脂の架橋鎖に組み込まれる形で導入されていてもよい。
置換基として導入されている場合、イミド基のカルボニル基が結合する基(テトラカルボン酸側)に導入されていても、イミド基の窒素原子が結合する基(ジアミン側)に導入されていてもよいが、本発明においては、イミド基の窒素原子が結合する基に導入するのが好ましい。ここで、ジアミン化合物から得られる単位のジアミン化合物は、脂肪族のジアミン化合物、芳香族ジアミン化合物、ヘテロ環ジアミン化合物のいずれであってもよいが、本発明においては、芳香族ジアミン化合物が好ましい。
ここで、テトラカルボン酸から得られる繰り返し単位を得るためのテトラカルボン酸もしくはその誘導体(2酸無水物を含む)は、芳香族であっても脂肪族であってもヘテロ環を有する化合物であっても構わないが、芳香族である場合が好ましい。
【0041】
置換基として導入される場合、好ましくは、下記式(V)で表される部分構造(繰り返し単位)が挙げられる。一方、極性基を有する官能基ないし架橋鎖としては、後記一般式(III−a)もしくは(III−b)における連結基J、Jの例が挙げられる。本発明においては、なかでも、特定の極性基が架橋鎖に組み込まれる形で導入されていることが好ましい。
【0042】
さらに、極性官能基を有するモノマー成分は下記一般式(V)で表される部分構造であることがより好ましい。
【0043】
【化6】

【0044】
一般式(V)において、Aは前記極性基群から選ばれる基を表す。R16は水素原子または置換基を表す。rは0以上の正の整数を表す。sは1以上の正の整数を表す。ただし、r+sは4以下である。rおよびsが2以上の場合、複数存在するR16および/またはAは互いに結合し環を形成してもよい。
【0045】
16は後述する一般式(III−a)におけるRと、rは同じくl2と同義であり、好ましい範囲も同じである。また、Aは後述する一般式(III−a)における−J−W−(L−J)p−Lが好ましい。sは1または2が好ましく、1が特に好ましい。
【0046】
[一般式(I)〜(III)]
前記ポリイミド化合物は、下記一般式(I)で表される繰り返し単位と、下記一般式(II−a)もしくは(II−b)で表される繰り返し単位の少なくとも一種と、下記一般式(III−a)もしくは(III−b)で表される繰り返し単位の少なくとも一種とをそれぞれ含むものが好ましい。
【0047】
【化7】

【0048】
一般式(I)において、Rは下記一般式(I−a)〜(I−g)からなる群から選択される原子群を表す。
【0049】
【化8】

【0050】
一般式(I−a)〜(I−g)において、Xは単結合または2価の連結基を表す。Yはメチレン基またはビニレン基を表す。RおよびRは各々独立に水素原子または置換基を表し、RとRが互いに結合し環を形成してもよい。*は一般式(I)におけるイミドのカルボニル基との結合部位を表す。
【0051】
【化9】

【0052】
一般式(II−a)、(II−b)において、Rは置換基を表し、l1は0〜4の整数を表す。RおよびRは各々独立して置換基を表し、RとRが互いに結合して環を形成してもよい。m1およびn1は各々独立に0〜4の整数を表す。Xは単結合または2価の連結基を表す。
本発明においては、一般式(II−a)で表される繰り返し単位を少なくとも含むものが好ましい。
【0053】
【化10】

【0054】
一般式(III−a)、(III−b)において、R、RおよびRは各々独立に置換基を表す。RとRは互いに結合して環を形成してもよい。JおよびJ、Wは各々独立に単結合または2価の連結基を表す。l2、m2、n2は各々独立に0〜3の整数を表す。Lは2価の連結基を表し、Lは官能基を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の場合、複数存在するL、Jは同一でも異なっていてもよい。Xは単結合または2価の連結基を表す。
【0055】
一般式(III−a)、(III−b)のうち、本発明においては、一般式(III−a)で表される繰り返し単位が好ましい。
一般式(III−a)で表される繰り返し単位のうち、下記一般式(III−a1)で表される繰り返し単位がより好ましい。
【0056】
【化11】

【0057】
一般式(III−a1)において、R、l、J、W、L、J、L、pは対応する一般式(III−a)のものと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0058】
一般式(I)におけるRを母核と呼ぶことがあるが、この母核(R)は一般式(I−a)、(I−b)、(I−c)であることが好ましく、一般式(I−a)、(I−c)であることがより好ましく、一般式(I−a)であることが特に好ましい。
【0059】
・X、X、X
、X、Xは一般式(1−a)、(II−b)、(III−b)に含まれ、各々独立に、単結合または2価の連結基を表す。具体的には、単結合、−C(Ra)−(Raは水素原子または置換基を表す。Raが置換基の場合、互いに結合して環を形成してもよい)、−O−、−SO−、−C(=O)−、−S−であることが好ましく、−C(Ra)−、−O−、−SO−、−C(=O)−であることがより好ましく、−C(Ra)−がさらに好ましい。ここでRaは水素原子またはアルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましく、CFが特に好ましい。
【0060】
・R、R
、Rは各々独立に水素原子または置換基を表す。該置換基は、下記置換基群Zで規定したものと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0061】
<置換基群Z>
アルキル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3〜30、より好ましくは炭素数3〜20、特に好ましくは炭素数3〜10のシクロアルキル基であり、例えばシクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアルキニル基であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントラニルなどが挙げられる。)、アミノ基(アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロ環アミノ基を含み、好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜10のアミノ基であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルコキシ基であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環オキシ基であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシなどが挙げられる。)、
【0062】
アシル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアシル基であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニル基であり、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアシルオキシ基であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、
【0063】
アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜12のスルファモイル基であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、
【0064】
カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のカルバモイル基であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアルキルチオ基であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールチオ基であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環チオ基であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、
【0065】
スルホニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のスルホニル基であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のスルフィニル基であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のウレイド基であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のリン酸アミド基であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、より好ましくはフッ素原子が挙げられる)、
【0066】
シアノ基、スルホ基、カルボキシ基、オキソ基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは3〜7員環のヘテロ環基で、芳香族ヘテロ環でも芳香族でないヘテロ環であってもよく、ヘテロ環を構成するヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子が挙げられる。炭素数は0〜30が好ましく、より好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環基であり、具体的には例えばイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、チエニル、ピペリジル、モルホリノ、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、カルバゾリル、アゼピニルなどが挙げられる。)、シリル基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24のシリル基であり、例えばトリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる。)、シリルオキシ基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24のシリルオキシ基であり、例えばトリメチルシリルオキシ、トリフェニルシリルオキシなどが挙げられる。)などが挙げられる。これらの置換基は、更に上記置換基群Zより選択されるいずれか1つ以上の置換基により置換されてもよい。
なお、1つの構造部位に複数の置換基があるときには、それらの置換基は互いに連結して環を形成していたり、上記構造部位の一部または全部と縮環して芳香族環もしくは不飽和複素環を形成していたりしてもよい。
【0067】
、Rは水素原子またはアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基またはエチル基がより好ましく、水素原子が更に好ましい。
【0068】
・R、R、R
、R、Rは各々独立に置換基を表し、アルキル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基またはハロゲン原子が好ましい。該置換基は、前述の置換基群Zで規定したものと同義であり、好ましい範囲も同じである。l1、m1、n1は1〜4の整数であるが、1〜4が好ましく、3〜4がより好ましい。
特にRの場合、アルキル基またはハロゲン原子が好ましく、アルキル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。l1は4が最も好ましい。
ここで、R、R、Rが各々で複数存在する場合は、これらは互いに結合して環を形成してもよい。また、RとRが互いに結合して環を形成してもよい。
本発明においては、RとRが互いに結合して環を形成したものも好ましく、RとRが連結した基としては、−SO−、−CH−、−O−、−S−などが挙げられる。
【0069】
・R、R、R
、R、Rは各々独立して置換基を表し、アルキル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基またはハロゲン原子が好ましい。該置換基は、前述の置換基群Zで規定したものと同義であり、好ましい範囲も同じである。l2、m2、n2は0〜3の整数であるが、0〜2が好ましく、0または1がより好ましく、0が特に好ましい。
ここで、R、R、Rが各々で複数存在する場合は、これらは互いに結合して環を形成してもよい。また、RとRが互いに結合して環を形成してもよい。
本発明においては、RとRが互いに結合して環を形成したものも好ましく、RとRが連結した基としては、−SO−、−CH−、−O−、−S−などが挙げられる。
【0070】
・J、J
、Jは単結合または2価の連結基を表す。連結基としては極性基群で挙げた連結基の例が挙げられ、好ましい範囲も同様である。なお、結合の方向としては、表記の左側はJのときL側、Jのときフェニレン基側であることが好ましい。
【0071】
・W
は単結合または2価の連結基を表す。2価の連結基としては、例えば、直鎖、分岐もしくは環状のアルキレン基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12、更に好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基であり、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、オクチレン、デシレンなどが挙げられる。)、アルキレンオキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12、更に好ましくは炭素数1〜4のアルキレンオキシ基であり、例えばメチレンオキシ、エチレンオキシ、プロピレンオキシ、ブチレンオキシ、ペンチレンオキシ、へキシレンオキシ、オクチレンオキシ、デシレンオキシなどが挙げられる。)、アラルキレン基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜13のアラルキレン基であり、例えばベンジリデン、シンナミリデンなどが挙げられる。)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜15のアリーレン基であり、例えば、フェニレン、クメニレン、メシチレン、トリレン、キシリレンなどが挙げられる。)などが挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。
【0072】
・L
は2価の連結基を表し、例えば、下記式(L−1)〜(L−35)で表される構造単位、またはこれらを組み合わせて構成される連結基を挙げることができる。なお、下記連結基の*がW側の結合手であり、**がJ側の結合手である。
【0073】
【化12】

【0074】
は、式(L−1)〜(L−35)、アルキレン基、アリーレン基またはアルキレンオキシ基が好ましい。
【0075】
・L
は架橋性の官能基を表す。その官能基としては、−NHC(=O)CR=CH、−OH、−SH、−SOH、−NH、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ハロゲン原子および−CH=CHからなる群から選ばれることが好ましく、より好ましくは、―NHC(=O)CR=CHである。Rは水素原子またはアルキル基を表し、水素原子であることが好ましい。Rの置換基は、前記置換基群Zが挙げられ、好ましい範囲も置換基群Zと同じである。
【0076】
・p
pは0以上の整数を表し、0〜10が好ましく、0〜5がより好ましい。pを上記下限値以上にすることで架橋反応することができ、上記上限値以下にすることで透過性の低下を抑制することができる。
【0077】
ポリイミド化合物としてさらに好ましい具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限るものではない。本発明の架橋膜を得るに際しては、これらのポリマーを単独で用いても、または後述する架橋剤と組み合わせて用いてもよい。
【0078】
【化13】

【0079】
【化14】

【0080】
【化15】

【0081】
【化16】

【0082】
【化17】

【0083】
【化18】

【0084】
【化19】

【0085】
【表1】

【0086】
上記化学式のモル比〔式中の特定ユニット100に対するX/Y/Zの比率〕である。
また、分子量は質量平均分子量である。
【0087】
本発明のポリマーは、他のモノマーとの共重合体であってもよい。他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーも挙げられる。このようなモノマー類を共重合させることで、製膜性、膜強度、親水性、疎水性、溶解性、反応性、安定性等の諸物性を改善することができる。モノマーの合成方法としては、例えば、丸善株式会社発行の日本化学会編,「第5版 実験化学講座16 有機化合物の合成(II−1)」におけるエステル合成の項目や「第5版 実験化学講座26 高分子化学」におけるモノマーの取り扱い、精製の項目などを参考にすることができる。
【0088】
ポリイミドは酸無水物とジアミンとの縮合重合により合成することができる。合成方法は一般的な書籍(例えば、株式会社エヌ・ティー・エス発行,今井淑夫、横田力男編著,最新ポリイミド〜基礎と応用〜,3〜49頁など)に記載の方法を適宜選択することができる。本発明で使用し得る一般的な酸無水物の具体例としては例えば以下のようなものが挙げられる。なお、P−19は、市販品を用いてもよいが、特開2006−219397号公報を参照し合成することが可能である。
【0089】
【化20】

【0090】
【化21】

【0091】
さらに一般的なジアミン化合物の具体例としては以下のようなものが挙げられる。
【0092】
【化22】

【0093】
【化23】

【0094】
本発明の架橋ポリイミド膜は架橋性基の極性基を含むポリマーを単独で用いても、または別の反応試剤(好ましくは架橋剤)と組み合わせることで、前記の極性基を形成してもよい。
架橋剤として好ましい具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限るものではない。
【0095】
【化24】

【0096】
本発明のガス分離複合膜は、熱や光などのエネルギーを付与することで硬化させることにより架橋膜を形成することができる。
【0097】
前記一般式(I)、(II−a)、(II−b)で表される部分構造に対応するモノマーとしては、オリゴマー、プレポリマーとしたものを用いてもよい。本発明の重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体などのいずれの形態の共重合体でもよいが、特にブロック共重合体やグラフト共重合体が、粘度、相溶性の観点で好ましい。
【0098】
前記一般式(I)、(II−a)、(II−b)で表される部分構造の比率は、特に規定されるものではないが、架橋構造を複数有する部分構造の組成比が増加するに従い、分子構造の影響は多大にあるものの概して膜の強度、分離選択性は向上するが気体の透過性は低下する傾向があるため、それぞれ組成比として1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%の範囲を目安として用いることが好ましいが、この範囲に限定されることなく、ガス分離の目的(回収率、純度など)に応じて組成比を変えることによりガス透過性と分離選択性を調整されるものである。
【0099】
本発明において、一般式(I)の構成単位の共重合比(R)、一般式(II−a)および(II−b)の構成単位の共重合比(RII)、一般式(III−a)および(III−b)の構成単位の共重合比(RIII)は特に限定されないが下記であることが好ましい。
【0100】
好ましい より好ましい 特に好ましい
II 0.01〜90mol% 0.1〜90mol% 1〜90mol%
III 0.01〜17mol% 0.1〜10mol% 1〜10mol%
IV 0.01〜90mol% 0.1〜90mol% 1〜90mol%
【0101】
*RIVはその他の構成単位の共重合比である。ただし、R、RII、RIIIおよびRIVの各好ましい範位において、R=RII+RIII+RIVを満たす。
【0102】
前記ポリイミド化合物の分子量は、好ましくは質量平均分子量として1,000〜1,000,000であり、より好ましくは5,000〜500,000であり、さらに好ましくは5,000〜100,000である。
【0103】
分子量および分散度は特に断らない限りGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)法を用いて測定した値とし、分子量はポリスチレン換算の質量平均分子量である。GPC法に用いるカラムに充填されているゲルは芳香族化合物を繰り返し単位に持つゲルが好ましく、例えばスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなるゲルが挙げられる。カラムは2〜6本連結させて用いることが好ましい。用いる溶媒は、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N−メチルピロリジノン等のアミド系溶媒が挙げられる。測定は、溶媒の流速が0.1〜2mL/minの範囲で行うことが好ましく、0.5〜1.5mL/minの範囲で行うことが最も好ましい。この範囲内で測定を行うことで、装置に負荷がかからず、さらに効率的に測定ができる。測定温度は10〜50℃で行うことが好ましく、20〜40℃で行うことが最も好ましい。なお、使用するカラムおよびキャリアは測定対象となる高分子化合物の物性に応じて適宜選定することができる。
【0104】
(架橋構造)
本発明においては、架橋ポリイミド樹脂の架橋鎖が、前記極性基群から選ばれる少なくとも1つの連結基を有することが好ましい。その好ましい範囲も極性基群の項で述べたものと同様である。
【0105】
[架橋ポリイミド樹脂]
(架橋サイト比[η])
本発明においては、前記架橋ポリイミド樹脂における、前記ポリイミド化合物のイミド基と架橋サイトとの比[η](架橋サイトの数/イミド基の数)が0.0001〜0.45であり、0.01〜0.3であることが好ましく、0.01〜0.2であることがより好ましく、0.01〜0.1であることがさらに好ましい。さらに、低架橋サイト比の設定にする場合には、0.05以下が好ましく、0.04以下がより好ましく、0.02以下が特に好ましい。
本明細書において「架橋サイト比[η]」は、架橋された架橋性官能基の数に基づくものであり、ポリイミド化合物に導入されていても、架橋されなかった架橋性官能基の数は除かれた算定値(比率)である。この値を上記下限値以上とすることで、高CO濃度条件あるいは天然ガス中に含まれるベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物あるいはヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素不純物の影響による膜の可塑化にともなう分離選択性の低下を最小限に抑制することができ、上記上限値以下とすることで、架橋密度向上に伴うガス透過率の低下を最小限に抑制することができ、さらには折り曲げ時のクラック、脆性といった機械強度も改善することができる。
この架橋サイト比を所望の範囲とするには、ポリイミド化合物の合成時に適宜架橋性官能基の存在割合(例えば、後述する架橋性官能基密度[γ])を調整したり、架橋反応条件を変化させたりして架橋転化率(例えば、架橋性官能基の総数に対する架橋された官能基の数の比率(架橋転化率)[α])を調整することにより行うことができ、計算上は[η]=[γ]×[α]/200となる。具体的には、所定の範囲内で架橋サイトをもつモノマーの組成比を増やす、反応性を高める、多官能化する、あるいは別の架橋性置換基を有する素材を併用することで、架橋サイト比[η]を高めることができる。
【0106】
(架橋性官能基密度[γ])
一般式(I)で表される繰り返し単位に対する、一般式(III−a)および(III−b)の官能基Lの数の比率を架橋性官能基密度[γ]という。このγ(官能基Lの数/一般式(I)で表される繰り返し単位の数)の好ましい範囲は、0.003〜0.68であり、さらに好ましくは0.003〜0.56である。
【0107】
この架橋性官能基密度は、ポリイミド化合物を合成するときの基質(モノマー)の仕込み量で調節することができる。
【0108】
(架橋転化率[α])
本発明の架橋転化率[α]は、膜の反射型赤外分光法測定において、二重結合部位のピーク(1640、810cm−1)およびH−NMRにより、二重結合ピークの架橋前後における減少により算出することができる。架橋転化率は20%以上100%以下が好ましく、50%以上94%以下がより好ましく、30%以上89%以下がさらに好ましい。
【0109】
この架橋転化率は、ポリイミド化合物の架橋条件により調節を行うことができ、例えば、ラジカル重合開始剤の種類、架橋反応における温度、基質濃度、熱量、活性放射線の光量および照射時間を各種調整することで、架橋転化率を調節することができる。具体的には例えば、ラジカル重合での架橋反応において反応率を高めるために、熱あるいは光エネルギーの総エネルギーを増やすか、材料であれば重合開始剤である光開始剤(ケトン系化合物など)あるいは熱開始剤(アゾ系化合物などであれば分解温度の低い化合物など)の活性を上げることが挙げられる。
【0110】
[ガス分離複合膜の製造方法]
本発明のガス分離複合膜の製造方法は、好ましくは、上記ポリイミド化合物を含有する塗布液を支持体に塗布し、その塗布膜を、活性放射線を照射することにより形成する製造方法である。塗布膜を構成するための塗布液(ドープ)の成分組成は特に限定されないが、上記ポリイミド化合物と重合開始剤とを有機溶剤中に含むものであることが好ましい。ポリイミド化合物の含有量は特に限定されないが、塗布液中に、0.1〜30質量%含まれることが好ましく、1〜10質量%含まれることがより好ましい。上記下限値以上とすることで、濃度が薄い場合には、多孔質支持体上に製膜した際に、容易に下層に浸透してしまうがために分離に寄与する表層に欠陥が生じる可能性が高くなり、上記上限値以下とすることで濃度が高い場合における多孔質支持体上に製膜した際に孔内に高濃度に充填されてしまうことに起因する薄層化あるいは透過性が低くなる現象を最低限に抑制することができる。本発明のガス分離複合膜は、分離層のポリマーの分子量、構造、組成さらには溶液粘度を調整することで適切に製造することができる。
【0111】
〔有機溶剤〕
有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素系有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等の脂肪族ケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルもしくはモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルもしくはモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルシクロペンチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系有機溶剤、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0112】
これらの有機溶剤は支持体を浸蝕するなどの悪影響を及ぼさない範囲で適切に選択されるものであるが、好ましくは、エステル系(好ましくは酢酸ブチル)、アルコール系(好ましくはメタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール)、脂肪族ケトン(好ましくは、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン、シクロヘキサノン)、エーテル系(エチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル)が好ましく、さらに好ましくは脂肪族ケトン系、アルコール系、エーテル系である。またこれらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0113】
本発明のガス分離複合膜は、好ましくは後述する重合開始剤を含有し、活性放射線の照射により硬化することにより形成されるガス分離膜である。ここで活性放射線とは、その照射により膜組成物中において開始種を発生させうるエネルギーを付与することができるものであれば、特に制限はなく、広くα線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線などを包含するものである。なかでも、硬化感度および装置の入手容易性の観点から紫外線および電子線が好ましく、特に紫外線が好ましい。
【0114】
本発明において、紫外線を使用する場合には、後述の光重合開始剤を添加することが必要となる。電子線硬化の場合は、重合開始剤が不要であり、透過深さも深いので好ましい。電子線加速器としてはスキャニング方式、ダブルスキャニング方式またはカーテンビーム方式が採用できるが、好ましいのは比較的安価で大出力が得られるカーテンビーム方式である。電子線特性としては、加速電圧が30〜1000kV、好ましくは50〜300kVである。吸収線量として好ましくは5〜200kGy(0.5〜20Mrad)、より好ましくは20〜100kGy(2〜10Mrad)である。加速電圧および吸収線量が上記範囲内であると、十分な量のエネルギーが透過し、エネルギー効率がよい。電子線を照射する雰囲気は窒素雰囲気により酸素濃度を200ppm以下にすることが好ましく、この範囲内では表面近傍の架橋、硬化反応が良好に進む。
【0115】
紫外線光源としては、水銀灯が用いられる。水銀灯は20〜240W/cmのランプを用い、速度0.3〜20m/分で使用される。膜と水銀灯との距離は一般に1〜30cmであることが好ましい。卓上型紫外線硬化装置を用いる場合は、1秒〜10分程度、素材、環境により光量、光源の配置を適宜調整したうえで硬化させるのが望ましい。
【0116】
放射線硬化装置、条件などについては、「UV・EB硬化技術」((株)総合技術センター発行)や「低エネルギー電子線照射の応用技術」(2000年,(株)シーエムシー発行)などに記載されている公知のものを用いることができる。硬化時に加熱工程加えてもよい。
【0117】
〔重合開始剤〕
本発明のガス分離複合膜を形成する工程において、ラジカルまたはカチオン重合開始剤を添加することが好ましく、光重合開始剤を添加することが特に好ましい。
光重合開始剤は光の作用、または増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、化学変化を生じ、ラジカル、酸および塩基のうちの少なくともいずれか1種を生成する化合物であり、光反応によりラジカルあるいは酸を発生する重合開始剤がより好ましい。
光重合開始剤は、照射される活性光線、例えば、400〜200nmの紫外線、遠紫外線、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線またはイオンビームなどに感度を有するものを適宜選択して使用することができる。
【0118】
具体的な光重合開始剤は当業者間で公知のものを制限なく使用でき、具体的には、例えば、Bruce M. Monroeら著、Chemical Revue,93,435(1993)や、R.S.Davidson著,Journal of Photochemistry and biology A :Chemistry,73,81(1993)や、J.P.Faussier’Photoinitiated Polymerization−Theory and Applications’:Rapra Review vol.9,Report,Rapra Technology(1998)や、M.Tsunooka et al.,Prog.Polym.Sci.,21,1(1996)に多く記載されている。また、(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年),187〜192ページ参照)に化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物が多く記載されている。更には、F.D.Saeva,Topics in Current Chemistry,156,59(1990)、G.G.Maslak,Topics in Current Chemistry,168,1(1993)、H.B.Shuster et al,J.Am.Chem.Soc.,112,6329(1990)、I.D.F.Eaton et al.,J.Am.Chem.Soc.,102,3298(1980)等に記載されているような、増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、酸化的もしくは還元的に結合解裂を生じる化合物群も知られる。
【0119】
好ましい光重合開始剤としては(a)芳香族ケトン類、(b)芳香族オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(e)ケトオキシムエステル化合物、(f)ボレート化合物、(g)アジニウム化合物、(h)メタロセン化合物、(i)活性エステル化合物、(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物等が挙げられる。
【0120】
(a)芳香族ケトン類の好ましい例としては、J.P.FOUASSIER J.F.RABEK,「RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY」,p77〜117(1993)に記載のベンゾフェノン骨格或いはチオキサントン骨格を有する化合物等が挙げられる。より好ましい(a)芳香族ケトン類の例としては、特公昭47−6416号公報に記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号公報に記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326号公報に記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664号公報に記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報に記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報に記載のジアルコキシベンゾフェノン、特公昭60−26403号公報、特開昭62−81345号公報に記載のベンゾインエーテル類、特公平1−34242号公報、米国特許第4,318,791号、欧州特許第0284561A1号明細書に記載のα−アミノベンゾフェノン類、特開平2−211452号公報に記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報に記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報に記載のアシルホスフィン、特公昭63−61950号公報に記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報に記載のクマリン類等が挙げられる。
【0121】
(b)芳香族オニウム塩は、周期律表の第V、VIおよびVII族の元素、具体的にはN、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、TeまたはIの芳香族オニウム塩が含まれる。例えば、欧州特許第104143号明細書、米国特許第4,837,124号明細書、特開平2−150848号公報、特開平2−96514号公報に記載のヨードニウム塩類、欧州特許第370693号明細書、同第233567号明細書、同第297443号明細書、同第297442号明細書、同第279210号明細書および同第422570号各明細書、米国特許第3,902,144号明細書、同第4,933,377号明細書、同第4,760,013号明細書、同第4,734,444号明細書および同第2,833,827号明細書の各明細書に記載されているスルホニウム塩類、ジアゾニウム塩類(置換基を有してもよいベンゼンジアゾニウム等)、ジアゾニウム塩樹脂類(ジアゾジフェニルアミンのホルムアルデヒド樹脂等)、N−アルコキシピリジニウム塩類等(例えば、米国特許第4,743,528号明細書、特開昭63−138345号公報、特開昭63−142345号公報、特開昭63−142346号公報および特公昭46−42363号公報の各公報等に記載されるもので、具体的には1−メトキシ−4−フェニルピリジニウム テトラフルオロボレート等)、更には特公昭52−147277号公報、同52−14278号公報および同52−14279号公報の各公報に記載の化合物が好適に使用される。これらは活性種としてラジカルや酸を生成する。
【0122】
(c)「有機過酸化物」としては分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物のほとんど全てが含まれるが、例えば、3,3’,4,4’−テトラ−(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(t−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(t−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレートなどの過酸化エステル系が好ましい。
【0123】
(d)ヘキサアリールビイミダゾールとしては、特公昭45−37377号公報、特公昭44−86516号公報に記載のロフィンダイマー類、例えば2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2’−ビス(o,o’−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−メチルフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−トリフルオロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0124】
(e)ケトオキシムエステルとしては3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0125】
(f)ボレート塩は、例えば米国特許第3,567,453号明細書、同第4,343,891号明細書、欧州特許第109772号明細書、同第109773号明細書に記載されている化合物が挙げられる。
(g)アジニウム塩化合物は、例えば特開昭63−138345号公報、特開昭63−142345号公報、特開昭63−142346号公報、特開昭63−143537号公報および特公昭46−42363号公報に記載のN−O結合を有する化合物群が挙げられる。
【0126】
(h)メタロセン化合物は、例えば特開昭59−152396号公報、特開昭61−151197号公報、特開昭63−41484号公報、特開平2−249号公報、特開平2−4705号公報に記載のチタノセン化合物および特開平1−304453号公報、特開平1−152109号公報に記載の鉄−アレーン錯体が挙げられる。
【0127】
上記チタノセン化合物の具体例としては、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ジ−クロライド、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジフルオロフェニ−1−イル、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(ピリ−1−イル)フェニル)チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)ビス〔2,6−ジフルオロ−3−(メチルスルホンアミド)フェニル〕チタン、ビス(シクロペンタジエニル)ビス〔2,6−ジフルオロ−3−(N−ブチルビアロイル−アミノ)フェニル〕チタン等を挙げることができる。
【0128】
(i)活性エステル化合物は、例えば欧州特許第0290750号明細書、同第046083号明細書、同第156153号明細書、同第271851号明細書および同第0388343号明細書の各明細書、米国特許第3,901,710号明細書および同第4,181,531号各明細書、特開昭60−198538号公報および特開昭53−133022号公報の各公報に記載のニトロベンズルエステル化合物、欧州特許第0199672号明細書、同第84515号明細書、同第199672号明細書、同044115号明細書および同0101122号明細書の各明細書、米国特許第4,618,564号明細書、同第4,371,605号明細書および同第4,431,774号明細書の各明細書、特開昭64−18143号公報、特開平2−245756号公報および特開平4−365048号公報の各公報に記載のイミノスルホネート化合物、特公昭62−6223号公報、特公昭63−14340号公報および特開昭59−174831号公報の各公報に記載されている化合物等が挙げられる。
【0129】
(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物は、例えば、若林ら著、Bull.Chem.Soc.Japan,42、2924(1969)に記載の化合物、英国特許第1388492号明細書記載の化合物、特開昭53−133428号公報に記載の化合物、独国特許第3337024号明細書に記載の化合物等が挙げられる。
【0130】
また、F.C.Schaefer等によるJ.Org.Chem.,29,1527(1964)に記載の化合物、特開昭62−58241号公報に記載の化合物、特開平5−281728号公報に記載の化合物等が挙げられる。ドイツ特許第2641100号明細書に記載されているような化合物、ドイツ特許第3333450号明細書に記載されている化合物、ドイツ特許第3021590号明細書に記載の化合物群またはドイツ特許第3021599号明細書に記載の化合物群等が挙げられる。
【0131】
重合開始剤の使用量は好ましくは、重合性化合物1質量部に対して、0.01質量部〜10質量部であり、より好ましくは0.1質量部〜5質量部である。
【0132】
〔共増感剤〕
更に本発明のガス分離複合膜の作製プロセスにおいて、感度を一層向上させる、または酸素による重合阻害を抑制する等の作用を有する公知の化合物を共増感剤として、更に、加えてもよい。
このような共増感剤の例としては、アミン類、例えばM. R. Sanderら著「Journal of Polymer Society」,第10巻,3173頁(1972)、特公昭44−20189号公報、特開昭51−82102号公報、特開昭52−134692号公報、特開昭59−138205号公報、特開昭60−84305号公報、特開昭62−18537号公報、特開昭64−33104号公報、Research Disclosure,33825号に記載の化合物等が挙げられ、具体的には、トリエタノールアミン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ホルミルジメチルアニリン、p−メチルチオジメチルアニリン等が挙げられる。
【0133】
別の例としてはチオールおよびスルフィド類、例えば、特開昭53−702号公報、特公昭55−500806号公報、特開平5−142772号公報に記載のチオール化合物、特開昭56−75643号公報のジスルフィド化合物等が挙げられ、具体的には、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−4(3H)−キナゾリン、β−メルカプトナフタレン等が挙げられる。
また、さらに別の例としては、アミノ酸化合物(例えば、N−フェニルグリシン等)、特公昭48−42965号公報に記載の有機金属化合物(例えば、トリブチル錫アセテート等)、特公昭55−34414号公報に記載の水素供与体、特開平6−308727号公報に記載のイオウ化合物(例えば、トリチアン等)、特開平6−250387号公報に記載のリン化合物(例えば、ジエチルホスファイト等)、特開平8−65779号公報に記載のSi−H、Ge−H化合物等が挙げられる。
【0134】
〔その他の成分等〕
本発明のガス分離複合膜には、膜物性を調整するため、各種高分子化合物を添加することもできる。高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。
また、液物性調整のためにノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤や、有機フルオロ化合物などを添加することもできる
【0135】
界面活性剤の具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤、また、この他にもアルキルベタインやアミドベタインなどの両性界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などを含めて、従来公知である界面活性剤およびその誘導体から適宜選ぶことができる。
【0136】
高分子分散剤として、具体的にはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド等が挙げられ、中でもポリビニルピロリドンを用いることも好ましい。
【0137】
本発明のガス分離複合膜を形成する条件に特に制限はないが、温度は−30〜100℃が好ましく、−10〜80℃がより好ましく、5〜50℃が特に好ましい。
【0138】
本発明においては、膜を形成時に空気や酸素などの気体を共存させてもよいが、不活性ガス雰囲気下であることが望ましい。
【0139】
また、本発明のガス分離複合膜を作製する際に、媒体として有機溶剤を添加することができる。具体的に使用できる有機溶剤としては特に限定されるものではないが、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素系有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等の脂肪族ケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルもしくはモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルもしくはモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルもしくはモノエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のガス分離複合膜の膜厚は0.01〜100μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。
【0140】
[ガス混合物の分離方法]
本発明のガス混合物の分離方法は、少なくとも一種の酸性ガスを含むガス混合物から酸性ガスを気体分離膜によって分離する方法において、本発明のガス分離複合膜を用いることができる酸性ガスが二酸化炭素または硫化水素であることが好ましい。
【0141】
本発明のガス分離複合膜を用いる気体の分離方法において、原料の気体混合物の成分は特に規定されるものではないが、ガス混合物の主成分が二酸化炭素およびメタンまたは二酸化炭素および水素であることが好ましい。ガス混合物が二酸化炭素や硫化水素のような酸性ガス共存下で特に優れた性能を発揮し、好ましくは二酸化炭素とメタン等の炭化水素、二酸化炭素と窒素、二酸化炭素と水素の分離に優れた性能を発揮する。
【0142】
[ガス分離膜モジュール・気体分離装置]
本発明のガス分離膜は多孔質支持体と組み合わせた複合膜であり、更にはこれを用いたガス分離膜モジュールとすることが好ましい。また、本発明のガス分離複合膜またはガス分離膜モジュールを用いて、ガスを分離回収または分離精製させるための手段を有する気体分離装置とすることができる。
本発明のガス分離複合膜はモジュール化して好適に用いることができる。モジュールの例としては、スパイラル型、中空糸型、プリーツ型、管状型、プレート&フレーム型などが挙げられる。また本発明のガス分離複合膜は、例えば、特開2007−297605号公報に記載のような吸収液と併用した膜・吸収ハイブリッド法としての気体分離回収装置に適用してもよい。
【0143】
上記の優れた特性を有する本発明のガス分離複合膜は、ガス分離回収法、ガス分離精製法として好適に用いることができる。例えば、水素、ヘリウム、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素、酸素、窒素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、メタン、エタンなどの炭化水素、プロピレンなどの不飽和炭化水素、テトラフルオロエタンなどのパーフルオロ化合物などのガスを含有する気体混合物から特定の気体を効率よく分離し得るガス分離複合膜、特に二酸化炭素/炭化水素(メタン)を含む気体混合物から二酸化炭素を選択分離するガス分離膜に使用することが好ましく、この分離膜を用いて優れた性能の各種モジュールやガス分離装置を作製することができる。また、本発明のガス分離膜はピンホールの発生が少ないことから、優れた性能のガス分離複合膜の製造も容易となる。
【実施例】
【0144】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、単に「部」や「%」のみの表記は、特に示さない限り質量基準とする。
【0145】
〔合成例〕
<モノマー(M−1)〜(M−4)の合成>
下記反応スキームで、モノマー(M−1)〜(M−4)を合成した。
【0146】
【化25】

【0147】
化合物(2)の合成
1000mlの三口フラスコに3−アミノキヌクリジン二塩酸塩23.1g(和光純薬工業製、製品番号:327−38592、0.116mol)、トルエン230mlを加えて窒素気流下、氷冷下で攪拌しているところに、水酸化ナトリウム18.6g/臭化テトラブチルアンモニウム0.3g/水186ml水溶液を加えた。さらに氷冷却下で攪拌しているところに3,5−ジニトロベンゾイルクロリド(1)26.8g(0.116mol)のトルエン100ml溶液を滴下した。滴下終了後、氷冷却下で1時間攪拌し、さらに室温に昇温させて4時間攪拌した。反応混合物に水を加えて、生じた結晶を濾過したのち、集めた粗結晶を水で洗浄して化合物(2)を13.1g得た。(収率:35%)
【0148】
H−NMR(300MHz, in CDCl
δ=9.08(d,2H,J=2.1Hz),8.97−9.01(br.s,1H),8.97(br.d,1H,J=2.1Hz),4.0−4.1(m,1H),3.16−3.3(m,1H),2.88−3.0(m,1H),2.68−2.86(m,4H),1.91−1.99(m,1H),1.77−1.90(m,1H),1.59−1.69(m,2H),1.32−1.45(m,1H).
【0149】
モノマー(M−1)の合成
1000mLの三口フラスコに還元鉄(和光純薬工業株式会社製、製品番号:096−00785)30.0g(0.537mol)、塩化アンモニウム(和光純薬工業株式会社製、製品番号:018−20985)3.0g(0.056mol)、2−プロパノール300ml、水50mlを加えて加熱還流下で攪拌した。加熱還流を確認したところで、氷酢酸3.0mlを加えてさらに加熱還流下で5分間攪拌した後、化合物(2)30.0g(0.093mol)を注意深く加え、さらに2時間加熱還流下で攪拌した。反応液を室温付近まで冷却したのち、メタノール0.5Lを添加し、セライト濾過することで鉄残渣を取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮物にメタノールを加えてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで化合物(M−1)を14.2g得た。(収率:58%)
【0150】
H−NMR(300MHz,in CDCl
δ=8.26(d,1H,J=6.3Hz),6.22(2H,J=1.8Hz),5.96(t,1H,J=1.8Hz),4.89(br.s,4H),4.18−4.28(1H,m),4.08−4.16(m,1H),3.56(br.s,1H,m),3.06−3.27(m,2H),1.95−2.16(m,2H),1.80−1.93(m,2H),1.61−1.76(m,1H).
【0151】
化合物(3)の合成
1000mLの三口フラスコにメタンスルホンアミド20.2g(0.21mol)、アセトニトリル200mlを加えて氷冷却下で攪拌しているところに、3,5−ジニトロベンゾイルクロリド48.9g(0.21mol)/アセトニトリル200ml溶液を滴下し、さらにトリエチルアミン32.6ml(0.23mol)を滴下した。氷冷却下で1時間攪拌した後、さらに室温で2時間攪拌した。反応混合物に水、濃塩酸20mlを加えて、得られた粗結晶を濾別し、化合物(3)を35.0g得た。(収率:57%)この化合物(3)はこれ以上精製することなく速やかに次の反応に用いた。
【0152】
モノマー(M−2)の合成
1000mLの三口フラスコに還元鉄(和光純薬工業株式会社製、製品番号:096−00785)35.0g(0.627mol)、塩化アンモニウム(和光純薬工業株式会社製、製品番号:018−20985)3.5g(0.065mol)、2−プロパノール400ml、水80mlを加えて加熱還流下で攪拌した。加熱還流を確認したところで、氷酢酸3.5mlを加えてさらに加熱還流下で5分間攪拌した後、化合物(3)32.0g(0.110mol)を注意深く加え、さらに2時間加熱還流下で攪拌した。反応液を室温付近まで冷却した後、メタノール0.5Lを添加し、セライト濾過することで鉄残渣を取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで化合物(M−2)を10.3g得た。(収率:41%)
H−NMR(300MHz,in CDCl
δ=6.23−6.30(m,2H),5.93−6.04(m,1H)、5.3(br,4H)、3.27(s、3H).
【0153】
化合物(4)の合成
1000mLの三口フラスコにモルホリン17.4g(0.2mol)、アセトニトリル315mlを加えて氷冷却下で攪拌しているところに、3,5−ジニトロベンゾイルクロリド46.1g(0.2mol)/アセトニトリル200ml溶液を滴下し、さらにトリエチルアミン29.3ml(0.21mol)を滴下した。氷冷却下で1時間攪拌した後、さらに室温で2時間攪拌した。反応混合物に水を加えて、水層を酢酸エチルで抽出した。無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた粗結晶をヘキサン−酢酸エチル(2:1)混合溶液で洗浄し、化合物(4)を32.6g得た。(収率:58%)この化合物(4)はこれ以上精製することなく速やかに次の反応に用いた。
【0154】
モノマー(M−3)の合成
1000mLの三口フラスコに還元鉄(和光純薬工業株式会社製、製品番号:096−00785)35.0g(0.627mol)、塩化アンモニウム(和光純薬工業株式会社製、製品番号:018−20985)3.5g(0.065mol)、2−プロパノール400ml、水80mlを加えて加熱還流下で攪拌した。加熱還流を確認したところで、氷酢酸を3.5ml加えてさらに加熱還流下で5分間攪拌した後、化合物(4)32.0g(0.114mol)を注意深く加え、さらに2時間加熱還流下で攪拌した。反応液を室温付近まで冷却した後、メタノール0.5Lを添加し、セライト濾過することで鉄残渣を取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで化合物(M−4)を10.3g得た。(収率:41%)
H−NMR(300MHz,in CDCl
δ=5.84(br.t,1H,J=1.8Hz),5.75(br.d,2H,J=1.8Hz)、4.91(br.s,4H)、3.3−3.6(m,8H).
【0155】
モノマー(M−4)の合成
1000mLの三口フラスコに還元鉄(和光純薬工業株式会社製、製品番号:096−00785)25.0g(0.448mol)、塩化アンモニウム(和光純薬工業株式会社製、製品番号:018−20985)2.5g(0.047mol)、2−プロパノール250ml、水50mlを加えて加熱還流下で攪拌した。加熱還流を確認したところで、氷酢酸2.5mlを加えてさらに加熱還流下で5分間攪拌した後、2、4−ジニトロブロモベンゼン(5)25.0g(東京化成工業製、製品番号:D2701、0.101mol)を注意深く加え、さらに2時間加熱還流下で攪拌した。反応液を室温付近まで冷却した後、酢酸エチル0.5Lを添加し、セライト濾過することで鉄残渣を取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、得られた結晶をヘキサン−酢酸エチルで再結晶することで化合物(M−4)を17.1g得た。(収率:79%)
H−NMR(300MHz,in CDCl
δ=6.90(d,1H,J=8.4Hz),6.02(d,1H,J=2.7Hz)、5.79(dd,1H,J=2.7,8.4Hz)、4.90(br.2,2H)、4.87(br.s,2H).
【0156】
〔合成例〕
<ポリマー(P−1)、(P−2)の合成>
下記反応スキームでポリマー(P−1)、(P−2)を合成した。
【0157】
【化26】

【0158】
ポリマー(P−1)の合成
300mLの三口フラスコにN−メチルピロリドン86g、6FDA(東京化成株式会社製、製品番号:H0711)9.137g(0.0206mol)を加えて40℃で溶解させ、窒素気流下で攪拌しているところに、2,3,5,6−テトラメチルフェニレンジアミン(東京化成株式会社製、製品番号:T1457)2.028g(0.012mol)、モノマーM−1 142g(0.00823mol)のN−メチルピロリドン20g溶液を30分かけて系内を40℃に保ちつつ滴下した。反応液を40℃で2.5時間攪拌した後、内温180℃まで昇温させて3時間攪拌した。反応終了後、室温付近まで冷却し、反応液にアセトン200mLを加え、希釈した。5Lステンレス容器にメタノール1Lを加えて攪拌しているところに、反応液のアセトン希釈液を滴下した。得られたポリマー結晶を吸引ろ過し、60℃で送風乾燥させて11.1gのポリマー(P−1)を得た。
【0159】
ポリマー(P−2)の合成
300mLの三口フラスコにポリマーP−1 3.2g、テトラヒドロフラン200mlを加えて室温下で攪拌しているところに、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東京化成工業株式会社製、製品番号:A0926)0.13g(1.44mmol)を加えてさらに2時間攪拌した。3Lステンレス容器に酢酸エチル1Lを加えて攪拌しているところに、反応液のテトラヒドロフラン溶液を滴下した。得られたポリマー結晶を吸引ろ過し、60℃で送風乾燥させて2.5gのポリマー(P−2)を得た。
【0160】
同様にしてポリマー(P−6)、(P−9)、(P−11)、(P−12)、(P−13)、(P−14)を合成した。
【0161】
〔実施例1〕
30ml褐色バイアル瓶に、ポリマー(P−1)を1.4g、架橋剤(M−5:東京化成工業株式会社製、製品番号:A0926)0.038g、テトラヒドロフラン8.6gを混合して30分攪拌した後、更に1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Aldrich社製、製品番号:40,561−2)を1.4mg加えて、更に30分攪拌した。10cm四方の清浄なガラス板上に、ポリアクリロニトリル多孔質膜(GMT社製)を静置し、速やかにセン特殊光源株式会社製光硬化装置(TCT1000B−28HE)を用いて、10mWで60秒間露光させ、硬化膜試料101を得た。ポリマー(P−1)層の厚さは約1.1μmであり、ポリアクリロニトリル多孔質膜の厚さは不織布を含めて約180μmであった。
【0162】
30ml褐色バイアル瓶に、ポリマー(P−2)を1.4g、テトラヒドロフラン8.6gを混合して30分攪拌した後、更に1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Aldrich社製、製品番号:40,561−2)を1.4mg加えて、更に30分攪拌した。10cm四方の清浄なガラス板上に、ポリアクリロニトリル多孔質膜(GMT社製)を静置し、前記ポリマー液を、アプリケータを用いて多孔質支持膜表面にキャストさせ、速やかにセン特殊光源株式会社製光硬化装置(TCT1000B−28HE)を用いて、10mWにて60秒間露光させ、硬化膜試料102を得た。ポリマー(P−2)層の厚さは約1.2μmであり、ポリアクリロニトリル多孔質膜の厚さは不織布を含めて約180μmであった。
【0163】
30ml褐色バイアル瓶に、ポリマー(P−2)を1.4g、テトラヒドロフラン8.6gを混合して30分攪拌した後、更にV−65(和光純薬工業株式会社製、製品番号:011−11082)を1.4mg加えて、更に30分攪拌した。10cm四方の清浄なガラス板上に、ポリアクリロニトリル多孔質膜(GMT社製)を静置し、前記ポリマー液を、アプリケータを用いて多孔質支持膜表面にキャストさせた。得られた膜を室温で1時間静置した後、70℃にて2時間過熱させて硬化膜103を得た。ポリマー(P−2)層の厚さは約0.9μmであり、ポリアクリロニトリル多孔質膜の厚さは不織布を含めて約180μmであった。
【0164】
前記硬化膜102におけるポリアクリロニトリル多孔質膜をポリスルホン、ポリフェニレンオキシドに変更した以外は同様にして硬化膜試料104、105を作製した。さらにポリマー、架橋剤、添加剤を下記表2のように変更し、ポリアクリロニトリル多孔質膜上に塗布することで硬化膜を作製した(試料No.106〜118)。
なお、これらのポリアクリロニトリル多孔質膜、ポリスルホン多孔質膜、ポリフェニレンオキシド多孔質膜の分画分子量はいずれも100,000以下のものを使用した。
【0165】
30ml褐色バイアル瓶に、ポリマー(P−1)を1.4g、テトラヒドロフラン8.6gを混合して30分攪拌した後、10cm四方の清浄なガラス板上に、ポリアクリロニトリル多孔質膜(GMT社製)を静置し、前記ポリマー液を、アプリケータを用いて多孔質支持膜表面にキャストさせ、室温で1時間乾燥させた。更にM−11(東京化成工業株式会社製、製品番号:D0180)の10%メタノール溶液に室温で5分間浸漬させた後、溶液から複合膜を取り出して室温で1時間、70℃で1時間乾燥させて硬化膜試料119を得た。架橋ポリマー(P−1)層の厚さは約1.3μmであり、ポリアクリロニトリル多孔質膜の厚さは不織布を含めて約180μmであった。
【0166】
前記硬化119におけるポリマーP−1をポリマーP−11に、架橋剤M−11をM−14に変更した以外は同様にして硬化膜試料120を作製した。
【0167】
米国特許第7,247,191B2号明細書に記載のポリマー
1Lの三口フラスコにN−メチルピロリドン100ml、6FDA(東京化成株式会社製、製品番号:H0711)12.0g(0.027mol)を加えて40℃で溶解させ、窒素気流下で攪拌しているところに、2,4−ジアミノメシチレン(東京化成株式会社製、製品番号:T1275)3.25g(0.0216mol)、3,5−ジアミノ安息香酸(東京化成株式会社製、製品番号:D0294)0.82g(0.0054mol)のN−メチルピロリドン65ml溶液を30分かけて系内を40℃に保ちつつ滴下した。反応液を40℃で2.5時間攪拌した後、ピリジン0.64g(0.0081mol)、無水酢酸6.89g(0.068mol)をそれぞれ加えて、さらに80℃で3時間攪拌した。その後、反応液にアセトン150mLを加え、希釈した。5Lステンレス容器にメタノール1.5Lを加えて攪拌しているところに、反応液のアセトン希釈液を滴下した。得られたポリマー結晶を吸引ろ過し、60℃で送風乾燥させて8.3gのポリマー(A)を得た。このポリマー(A)にプロピレングリコールを3,5−ジアミノ安息香酸の等量分加えて、米国特許第7,247,191B2号明細書に記載の方法と同様の方法で、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(Psf)およびポリフェニレンオキシド(PPO)の各多孔質支持膜上に硬化膜試料101と同様にアプリケータを用いて膜試料c11、c12、c13を調製した。
【0168】
【化27】

【0169】
〔比較試料c14〕
European Polymer Journal,vol33,No.10−12,1717−1721(1997)を参照し、光硬化架橋ポリイミド−ポリフェニレンオキシド(PPO)複合膜試料c14を作製した。
【0170】
【化28】

【0171】
(ガス透過率の測定)
得られた各膜試料のガス分離膜はガス透過率測定装置(GTRテック社製GTR−10XF)を使用し、二酸化炭素(CO)、メタン(CH)の混合ガス(1:1)を用いて、40℃、ガス供給側の圧力を8気圧としてCO、CHの各ガス透過率を測定した。膜のガス透過性は、ガス透過率(Permeance)としてガス透過速度を算出することにより比較した。ガス透過率(ガス透過速度)の単位はGPU(ジーピーユー)単位〔1GPU=1×10−6cm(STP)/cm・sec・cmHg〕で表した。
また、得られた二酸化炭素の透過速度(TRCO2)とメタンの透過速度(TRCH4)からの透過速度比(TRCO2/TRCH4)を求めた。
【0172】
(折り曲げ試験[製膜適性試験])
本発明のガス分離複合膜はモジュールまたはエレメントと呼ばれる膜が充填されたパッケージとして使用することが望ましい。ガス分離膜をモジュールとして使用する場合は膜表面積を大きくするために高密度に充填されているため、平膜ではスパイラル状に折り曲げて充填するため、十分な折曲げ強度が付与されていなければならない。本性能を確認するために得られた各複合膜を180°折り曲げては戻す操作を50回実施した後、再度ガス透過率が測定できたか否かを確認した。
A:問題なく透過率の測定ができた
B:透過率の測定ができなかった
【0173】
二酸化炭素のガス透過率(透過速度)、二酸化炭素とメタンの透過速度比(下記表2中ではCO/CH 選択性と表示)、比折り曲げ試験の結果を下記表2に示す。
なお、架橋サイト比[η]は、本発明の試料はいずれも約0.0001〜0.45であり、比較試料c11〜c13はいずれも約0.2であり、比較試料c14は約0.5であった。架橋性官能基密度[γ]は、本発明の試料はいずれも0.1以下であり、比較膜試料c11〜c13はいずれも0.6〜0.7であり、比較試料c14は0.9以上であった。架橋率[α]は、本発明の試料はいずれも60〜100、比較試料はいずれも90以上であった。
ここで、試料No.1**で表されるものが本発明例であり、c**で表されるものが比較例である。
また、表中には、本発明の極性基の代表的なものを示した。
【0174】
【表2】

【0175】
上記表2中の略号は下記の通りである。
PAN: ポリアクリロニトリル
PSf: ポリスルホン
PPO: ポリフェニレンオキシド
室温:約25℃
Radical:ラジカル架橋
Ester:エステル交換反応
【0176】
<極性基群>
A:−COO(R
B:−SO(R
C:−PO(R
D:−N(X)(R−または−N(X)(R
E:−PR
F:カルボニルアミノ
G:アルキレンアミノ
H:アリーレンアミノ
I:含窒素ヘテロ環
J:チオエーテル
K:スルホニル
L:スルホニルアミノ
M:スルホニルアミノカルボニル
N:ウレイレン
O:ハロゲン
cA:−C(=O)O−La−OC(=O)−(La:アルキレン基)
【0177】
ここで、R、R、RおよびRは水素原子または置換基を表し、Xはハロゲンイオン、N(CN)イオン、N(SOイオンを表し、RおよびRはアルキル基を表す。
【0178】
本発明のガス分離複合膜は二酸化炭素透過性と分離選択性にともに優れ、さらに折り曲げ強度が付与されていることがわかる。
【0179】
その他、上記例示したポリイミド化合物P−1〜P−30の全てについて性能を確認したところ、上記表2で示したものと同様に良好な結果が得られることを確認した。
【0180】
[実施例2]
実施例1で作製した各試料のガス分離膜を用いて、サンプルエラー率を評価した。
(サンプルエラー率)
前記試料のガス分離膜を各々50サンプル作製し、その折の水素の透過率を測定し、水素ガス透過率値が1,000,000GPU(1×10cm/cm・sec・cmHg)を越えたサンプルをピンホール有りの膜として判断し、下記式によりサンプルエラー率を求めた。
【0181】
サンプルエラー率=(ピンホール有りの膜数/50)×100
【0182】
得られた結果を下記表3に示す。
【0183】
[表3]
――――――――――――――――――――――
試料No. サンプルエラー率[%]
――――――――――――――――――――――
101 6
102 4
103 12
104 6
105 8
106 6
107 8
108 4
109 4
110 4
111 6
112 6
113 6
114 6
115 6
116 4
117 6
118 8
119 4
120 12
c11 −
c12 −
c13 46
c14 66
――――――――――――――――――――――
【0184】
上記の結果より、本発明のガス分離複合膜は、いずれもピンホールが少ない。このように本発明により、ピンホールの少ない良好なガス分離層の膜を作製することができることがわかる。
【0185】
[実施例3]
実施例1で作製した各ガス分離複合膜を80℃、90%湿度条件下(いすゞ製作所低温恒温恒湿器、水晶)で48時間保存した後、実施例1と同様にガス透過率試験を行い、保存後のCO/CH分離選択性〔透過速度比(TRCO2/TRCH4)〕を調べた。
この結果を下記表4に示す。
【0186】
[表4]
―――――――――――――――――――――――――――――――
試料No. 分離選択性 分離選択性
(湿熱試験後)
―――――――――――――――――――――――――――――――
101 35 30
102 36 30
103 35 29
104 35 30
105 36 31
106 35 30
107 36 31
108 35 30
109 36 32
110 31 26
111 32 25
112 28 22
113 27 23
114 33 26
115 28 21
116 32 25
117 33 26
118 28 21
119 35 30
120 36 31
c13 18 3.4
c14 21 1.6
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0187】
上記表4から明らかなように、高湿下に保存しても、本発明のガス分離複合膜は、いずれも透過速度比(TRCO2/TRCH4)が20以上であり、分離選択性に優れていることがわかる。
このように、本発明のガス分離複合膜は、特定の極性構造を有していることにより、化学的安定性、特に湿熱経時での安定性に優れ、分離選択性の低下が抑制されていることがわかる。実際の天然ガス精製工程における微量ながら水分が不純物として混入するケースにおいても高い分離性能を維持することが期待される。
【0188】
本発明のガス分離複合膜は、架橋サイト比が高すぎることがなく実用的なガス透過性を有し、さらには機械強度にも優れる。さらには低温、短時間で多孔質支持膜との複合膜を得ることができるため、多孔質支持体のガラス転移温度によらず、実用的なガス分離複合膜を得ることができる。
【0189】
上記の結果より、本発明のガス分離複合膜は、優れたガス透過性とガス分離選択性、特に二酸化炭素の透過性に優れ、二酸化炭素/メタンの分離膜として優れることがわかる。さらには低温、短時間で複合膜を作製することができるために、製造適性に優れる。そして、本発明のガス分離複合膜により、優れた気体分離方法、ガス分離膜モジュール、ガス分離膜モジュールによるガス分離方法、ガス分離装置を提供することができることがわかる。
【符号の説明】
【0190】
1 ガス分離層
2 多孔質層
3 不織布層
10、20 ガス分離複合膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリイミド樹脂を含有してなるガス分離層をガス透過性の支持層上側に有するガス分離複合膜であって、
前記架橋ポリイミド樹脂はポリイミド化合物が架橋されて連結された構造を有し、
該ポリイミド化合物は、イミド基含有モノマー成分と、下記極性基群から選択される基を有するモノマー成分とを少なくとも有する共重合体であるガス分離複合膜。
[極性基群:
−COO(R−、−SO(R−、−PO(R−、−N(X)(R−、−PR−、−NRC(=O)−、アルキレンアミノ、アリーレンアミノ、2価の含窒素ヘテロ環基、−S−、−SO−、−S(X)(R)−、スルホニルアミノ、スルホニルアミノカルボニル、もしくはウレイレンからなる連結基を有する基、または−N(X)(R、ハロゲン原子もしくは1価の含窒素ヘテロ環基を有する基。
ここで、R、R、R、R、RおよびRは各々独立に、水素原子または置換基を表す。複数存在するR、R、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。Xはハロゲンイオン、N(CN)イオンまたはN(SOイオンを表す。RおよびRは各々独立にアルキル基を表す。]
【請求項2】
前記架橋されて連結された構造をなす架橋鎖が、前記極性基群から選ばれる少なくとも1つの連結基を有する請求項1に記載のガス分離複合膜。
【請求項3】
前記極性基含有モノマー成分が、下記一般式(V)で表される請求項1または2に記載のガス分離複合膜。
【化1】

(一般式(V)中、Aは前記極性基群から選ばれる基を表す。R16は水素原子または置換基を表す。rは0以上の正の整数を表す。sは1以上の正の整数を表す。ただし、r+sは4以下である。rおよびsが2以上の場合、複数存在するR16および/またはAは互いに結合して環を形成してもよい。)
【請求項4】
前記ポリイミド化合物が、下記一般式(I)で表される繰り返し単位と、下記一般式(II−a)もしくは(II−b)で表される繰り返し単位の少なくとも一種と、下記一般式(III−a)もしくは(III−b)で表される繰り返し単位の少なくとも一種とをそれぞれ含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
【化2】

(一般式(I)中、Rは下記一般式(I−a)〜(I−g)からなる群から選択される原子群を表す。)
【化3】

(一般式(I−a)〜(I−g)中、Xは単結合または2価の連結基を表す。Yはメチレン基またはビニレン基を表す。RおよびRは各々独立に水素原子または置換基を表し、RとRが互いに結合して環を形成してもよい。*は一般式(I)におけるイミドのカルボニル基との結合部位を表す。)
【化4】

(一般式(II−a)、(II−b)中、Rは置換基を表し、l1は0〜4の整数を表す。RおよびRは各々独立に置換基を表し、RとRが互いに結合して環を形成してもよい。m1およびn1は各々独立に0〜4の整数を表す。Xは単結合または2価の連結基を表す。)
【化5】

(一般式(III−a)、(III−b)中、R、RおよびRは各々独立に置換基を表す。RとRは互いに結合して環を形成してもよい。JおよびJ、Wは各々独立に単結合または2価の連結基を表す。l2、m2、n2は各々独立に0〜3の整数を表す。Lは2価の連結基を表し、Lは官能基を表す。pは0以上の整数を表す。pが2以上の場合、複数存在するL、Jは同一でも異なっていてもよい。Xは単結合または2価の連結基を表す。)
【請求項5】
前記官能基が、−NHC(=O)CR=CH(Rは水素原子または置換基を表す)、−CH=CH、−OH、−SH、−SOH、アルキルアミノ基、アリールアミノ基およびハロゲン原子からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
【請求項6】
前記支持層がガス分離層側の多孔質層とその逆側の不織布層とからなる請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
【請求項7】
前記多孔質層の分画分子量が100,000以下である請求項6に記載のガス分離複合膜。
【請求項8】
供給されるガスが二酸化炭素とメタンとの混合ガスであり、40℃、8気圧における二酸化炭素の透過速度が20GPU超であり、二酸化炭素とメタンとの透過速度比(TRCO2/TRCH4)が20以上である請求項1〜7のいずれか1項に記載のガス分離複合膜。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のガス分離複合膜を具備するガス分離モジュール。
【請求項10】
請求項9に記載のガス分離モジュールを備えたガス分離装置。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のガス分離複合膜を用いて、二酸化炭素およびメタンを含むガスから二酸化炭素を選択的に透過させるガス分離方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−46903(P2013−46903A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−164023(P2012−164023)
【出願日】平成24年7月24日(2012.7.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】