説明

ガス化溶融装置において液状銑鉄又は液状鉄鋼原材料製品の製造方法及び溶融方法

本発明は、ガス化溶融装置において、酸素ノズルを介して酸素含有ガスを固定床に導入しながら、液状銑鉄又は液状鉄鋼半製品を製造かつ溶融するための方法及び装置に関する。本発明によれば、少なくとも一つの酸素ノズルにおいて、少なくとも二つのガス流が導入される。それによって固定床の流動化の危険が減少し、レースウェイの数が増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス化溶融装置において液状銑鉄又は液状鉄鋼半製品の製造方法及び溶融方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の方法では、酸化鉄又は予備還元された鉄又はこれらの混合物が、鉄を含む装入材料としてガス化溶融装置に装入され、ガス化溶融装置において固体の炭素担体としての炭素含有材料と酸素含有ガスとを供給しつつ、固体の炭素担体から形成される固定床において溶融される。このとき炭素担体がガス化されるとともに、一酸化炭素及び水素を含む還元ガスが作り出される。固定床に対する酸素含有ガスの供給は、ガス化溶融装置の外周の全体にわたって、ガス化溶融装置の炉床の領域に配分された酸素ノズル帯と呼ばれる多数の酸素ノズルを介して行われる。酸素ノズルはガス化溶融装置の金属ケーシングを貫通しており、これら酸素ノズルにはガス化溶融装置の外部から酸素含有ガスが供給される。酸素含有ガスは酸素又は酸素含有ガス混合物であり得る。酸素含有ガス及び酸素という概念は以下において同義なものとして用いられる。
【0003】
液状銑鉄又は液状鉄鋼原材料製品を製造するためのガス化溶融装置の容量、若しくは当該ガス化溶融装置の溶融能力は、ガス化溶融装置の容積とともに増大する。直径が増大する、すなわちガス化溶融装置の断面積が増大すると、高さが一定の場合、容積が増大する。断面積の増大によってガス化溶融装置の容量が増大するとき、酸素ノズル帯の作用領域はガス化溶融装置の断面積に対して次第に小さくなる。ガス化溶融装置の炉床の外周は、ガス化溶融装置の炉床の直径とともに直線的に増加するのみであるが、断面積はガス化溶融装置の炉床の直径の二乗の関係で増大するためである。酸素ノズル帯における酸素ノズル同士の距離は、ガス化溶融装置の金属ケーシングの剛性の理由から、任意に小さく設計され得ないため、取り付け可能な酸素ノズルの数は、外周と同様にガス化溶融装置の炉床の直径とともに直線的に増加するのみであるが、溶融能力は少なくともガス化溶融装置の炉床の直径の二乗の関係で増大する。
【0004】
その結果、使用される酸素ノズルがガス化溶融装置に導入すべき酸素含有ガスの量は増大する一方となる。
【0005】
ガス化溶融装置において、酸素噴流が固定床のコークス床又はチャー床に侵入する深さ、いわゆるレースウェイは、ガス量が増大してもさほど長くならないので、局部的なガス量が著しく大きいという欠点が生じる。以下の式に示すような、2500℃を上回る温度において進行する強力な発熱ガス化反応を介して生じるガス噴流の拡大によって、熱いガス噴流はレースウェイ内及び当該レースウェイ上方の広い領域において、流動床形成状態、若しくは流動化を生じさせる。
【0006】
【数1】

【0007】
前記の流体力学的な流況においては、固体粒子が集中的に運動させられ、それによってこれら固体粒子は液体と同じような挙動を示す。こうした理由から、シャフト炉において通常であるとともにエネルギー交換及び物質移動にとって有利な対向流は、ガス化溶融装置において経過する還元プロセス及び溶融プロセスに対して不利な直交流になってしまう。さらなる欠点として付け加えられることは、これらの領域ではもはや、理想的な気固対向流にとって必要である明瞭な固定床が形成されないということである。これによって、還元率や温度などの特性が異なる鉄鉱石や海綿鉄などの材料は、同様に異なる状態にあるスラグ、凝集体及び脱気された石炭(チャー)と混合される。このため、制御されたエネルギー交換及び物質移動は極めて不完全にしか行われ得ない。
【0008】
特許文献1には、二つのノズル平面を配設することによって、酸素ノズルの前にある材料の流動化を防止する方法が記載されている。当該方法では下方のノズル平面には比較的少ない量の酸素含有ガスが供給され、それによって前述のようにエネルギー交換及び物質移動にとって有利な、対向流運転のプロセス工学上の効果を可能にする固定床が形成される。しかしながらこの方法では限られた量の酸素含有ガスしか導入することができない。上方の酸素ノズル帯を介して導入される酸素は流動床を生じさせる。
【0009】
特許文献2に記載の構成体は一つしか酸素ノズル平面を有しておらず、この酸素ノズル平面は粗粒装入材料から成る固定床に出口を有する。しかしながらこの方法は炉の直径がおよそ7mまでの場合にしか効を奏さない。直径が比較的大きい場合には、導入すべき酸素含有ガスの量が大きすぎて、安定した固定床が得られないため、冒頭で説明した流動化効果が生じるからである。さらなる限定的な判断基準となるのは、未処理の石炭を投入した場合に、これら未処理の石炭が熱分解の際に比較的小さな粒子に分解されることである。これら比較的小さな粒子も流動化を容易にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第0114040号明細書
【特許文献2】オーストリア特許第382390号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、直径と容積の大きなガス化溶融装置においても、ガス化溶融装置の鋼製のケーシングの剛性を弱化させることなく、かつ、固定床の流動化を回避するか、低減させながら、十分な酸素供給を保証することが可能な方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、ガス化溶融装置の固定床において銑鉄及び鉄鋼原材料製品の製造方法及び溶融方法であって、酸化鉄又は予備還元された鉄又はこれらの混合物と、炭素含有材料とを供給するとともに、酸素ノズルを介して導入される酸素含有ガスを用いて炭素含有材料をガス化させる方法によって解決され、この方法は、酸素含有ガスが少なくとも一つの酸素ノズルにおいて、少なくとも二つのガス流で前記ガス化溶融装置又は石炭ガス化装置の固定床に導入されることを特徴とする。
【0013】
本願の対象となる発明は、前述の欠点を以下のようにして回避する。すなわち、少なくとも一つの酸素ノズルにおいて、酸素含有ガスは少なくとも二つのガス流で固定床に導入されるのである。このような手段によって、酸素ノズルに対する通路の数が等しい場合、ガス化溶融装置の鋼製ケーシングにおいて、固定床により多く侵入するガス流を生じさせることができる。全ての酸素ノズルからそれぞれ少なくとも二つのガス流が導入されると、酸素ノズルごとに一つのガス流を有する従来の方法に比べて、倍の数のガス流が作り出される。これによって個々のレースウェイに対して導入されるガスの体積流量が低下させられ、それによって広範囲の流動化が回避されるか、低減され得る。酸素ノズルごとに同じ強さの二つのガス流が導入される場合、一つのガス流によって導入する場合に比べて、導入されるガスの体積流量は例えば半分に減少される。一つ以上の、あるいは全ての酸素ノズルから、酸素ノズルごとに二つより多くのガス流が導入された場合、導入されるガスの体積流量は相応に大きく減少する。少なくとも二つのガス流による導入は、一つ以上の、あるいは全ての酸素ノズルにおいて行うことができる。酸素ノズルごとに2個、3個、4個、5個、6個、7個のガス流を固定床に導入することができるが、2個から4個のガス流が導入されるのが好ましい。その理由は、このような数の場合、レースウェイが固定床に侵入する深さが良好であり、個々のレースウェイが重ならないことである。ガス流が7個より多い場合、侵入の深さが小さくなるとともに個々のレースウェイが重なる恐れがある。
【0014】
ガス化溶融装置の外部から酸素ノズルに酸素含有ガスを供給すると、酸素含有ガスは供給ガス流として酸素ノズルを貫流し、その後、固定床に導入される。この方法の実施の形態によれば、固定床に導入される少なくとも二つのガス流は、酸素含有ガスのための唯一の供給ガス流から発生する。このようにして酸素ノズルから導入される全てのガス流は同時に供給ガス流の調整を介して調節される。当該方法の別の実施の形態によれば、固定床に導入される少なくとも二つのガス流は、それぞれ独自の供給ガス流から発生する。これによって対応する供給ガス流の調整を介して、導入されるガス流のそれぞれを個々に、酸素ノズルから導入されるさらなるガス流から独立して調節することができる。
【0015】
この方法の実施の形態によれば、酸素ノズル開口部から異なる流れ方向を有するガス流が排出される。これによって、酸素ノズル開口部から一つの流れ方向を有して行われる従来のガス流の導入に比べて、酸素含有ガスはより広い領域にわたって固定床に導入され、一つの流れ方向を有する個々のガス流に対してそれぞれ、局部的なガス量が比較的少ない独自のレースウェイが形成され、それによってレースウェイの数が増大するとともに流動化の危険が低下する。
【0016】
この方法の別の実施の形態によれば、個々のガス流は独自の酸素ノズル開口部から排出される。個々の酸素ノズル開口部の前に独自のレースウェイが形成されるために、レースウェイの数が増大し、それによってレースウェイあたりの体積流量を減少させることができる。それに応じて固定床の流動化の危険も減少する。隣接した状態で酸素ノズルから排出されるガス流は同一の流れ方向又は異なる流れ方向を有し得る。個々のガス流から作り出されるレースウェイに対して、互いに十分な距離を保証するために、好適な実施の形態においてはガス流に対する流れ方向は、互いに45°までの角度、好ましくは5°から15°の角度を形成する。それよって酸素ノズルの前の溶融領域及び反応領域は均一に完全にガス化される。角度が大きくなるにつれて、同一の酸素ノズルの前にある個々のレースウェイは互いに良好に分離されている。しかしながら、角度が大きくなるほど隣接する酸素ノズルの前にあるレースウェイが重なり合う危険が増大する。したがって、この角度は45°よりも大きくてはいけない。どのような角度が最適であるかは、隣接する酸素ノズル同士の近さに依存する。ガス化溶融装置に設けられている酸素ノズルの数が通常であって、相応の距離を成している場合、5°から15°が特に好適である。この角度はこの場合、水平面に対する流れ方向の投影同士が成す角度である。
【0017】
本発明による方法の実施に際し、酸素ノズルごとに一つのガス流を有する既知の方法に比べて、レースウェイあたりの体積流量が少なくなることによって、レースウェイの円環状の溶融領域内部では局部的なガス流が減少する。例えば一つのガス流の代わりに、同じ大きさの二つのガス流によって同じ容積の酸素含有ガスを導入すると、局部的なガス流は半分に減少する。二つより多いガス流による導入を行う場合、局部的なガス流はそれに応じてより大きく減少する。局部的なガス流の減少により、レースウェイの直ぐ上方の領域においてもそれに応じてガス速度が減少し、それによって装入材料の不適切な混合物の形成が最小限に抑えられ、好適な気固対向流が保証され得る。
【0018】
固定床に導入されるガス流は同じ直径又は異なる直径を有し得る。二つより多いガス流を用いる場合、ガス流は異なる直径を有するのが好ましい。例えば三つの隣接するガス流の場合には、中央のガス流の側方には、中央のガス流の直径より小さく、かつ同一の直径を有する二つのガス流が設けられる。その場合、中央のガス流は固定床により多く侵入し、この中央のガス流のレースウェイが、隣接するより小さなガス流のレースウェイと重なることは比較的生じにくい。好ましくは、酸素含有ガスのための個々の供給ガス流は、圧力、及び流速を介した量に対して制御可能である。このことによって、固定床に導入される、供給ガス流によって酸素含有ガスを供給するガス流は、圧力、及び流速を介した量に対して制御可能となっている。
【0019】
本発明に係る方法の実施の形態によれば、酸素ノズルを介して粉炭も固定床内に噴射される。これによって固定床にはさらなる炭素含有材料が供給される。
【0020】
本発明に係る方法のさらなる実施の形態によれば、酸素ノズルの作動は検査装置によって監視される。これによって酸素ノズルの状態が監視され、例えば酸素ノズル開口部のずれなどの不具合が生じた場合、適時に対抗手段が取られるか、又は酸素ノズルが停止される。
【0021】
本発明のさらなる対象は、酸素含有ガスをガス化溶融装置又は石炭ガス化装置の固定床に供給するための酸素ノズルである。この酸素ノズルは、少なくとも一つの酸素供給管路と、排出開口部を有する少なくとも二つの酸素流排出管路とを有しており、酸素流排出管路はそれぞれ少なくとも一つの酸素供給管路と連通していることを特徴とする。酸素ノズルは、3個、4個、5個、6個又は7個の酸素流排出管路を有し得、酸素ノズルは2個〜4個の酸素流排出管路を有することが好ましい。その理由は、このような数の場合、酸素流排出管路の前に形成されるレースウェイが固定床に侵入する深さが良好であり、個々のレースウェイが重ならないことである。酸素流排出管路が7個より多い場合、侵入の深さが小さくなるとともに個々のレースウェイが重なる恐れがある。
【0022】
本発明に係る酸素ノズルの実施の形態によれば、少なくとも二つの酸素流排出管路は同一の酸素供給管路と連通している。すなわち、酸素供給管路は少なくとも二つの酸素流排出管路に分岐する。別の実施の形態によれば、酸素流排出管路はそれぞれ独自の酸素供給管路と連通している。
【0023】
本発明に係る酸素ノズルの実施の形態によれば、酸素流排出管路の排出開口部は一つの酸素ノズル開口部内に設けられている。別の実施の形態によれば、酸素流排出管路の排出開口部はそれぞれ独自の酸素ノズル開口部を形成している。
【0024】
一つの実施形態によれば、二つより多い酸素流排出管路を有する酸素ノズルの場合、個々の排出開口部の直径は異なっており、それによって個々のレースウェイのガス量及び侵入深さを、ガス化溶融装置におけるエネルギーに関する要求及び幾何学的要求に適合させることができる。
【0025】
酸素流排出管路の排出開口部がそれぞれ独自の酸素ノズル開口部を形成している場合、隣接する排出開口部の外周同士の距離は、排出開口部のうちの一つの排出開口部直径の3倍までの大きさであるのが好ましい。排出開口部直径の大きさが異なる場合、比較的小さい方の排出開口部直径がこれに当たる。3個の排出開口部を有するとともに、中央の排出開口部の側方に、当該中央の排出開口部の直径より小さく、かつ同一の直径を有する二つの排出開口部が設けられている例においては、例えば小さい方の直径がこれに当たる。このとき距離をより大きくしようとすると、酸素ノズルにおいてさらに冷却管路を収容するための十分な壁厚を確保するという問題が生じるであろう。
【0026】
本発明に係る酸素ノズルの実施の形態によれば、排出開口部によって終端する酸素流排出管路部分の中心軸は互いに45°までの角度、好ましくは5°から15°の角度を形成する。この角度が大きくなるにつれて、同一の酸素ノズルの前にある個々のレースウェイは互いに、より良好に分離されている。しかしながら角度が大きくなるほど、隣接する酸素ノズルの前にあるレースウェイが重なり合う危険が増大する。したがってこの角度は45°よりも大きくてはいけない。どのような角度が最適であるかは、隣接する酸素ノズル同士の近さに依存する。ガス化溶融装置に設けられている酸素ノズルの数が通常であって、相応の距離を成している場合には、5°から15°が特に好適である。前記の角度はこの場合、水平面に対する中心軸の投影同士が成す角度である。
【0027】
個々の酸素供給管路には好適に、供給された酸素含有ガスの圧力と、流速を介した量と、を制御するための制御装置が設けられている。
【0028】
好適に酸素ノズルは酸素流排出管路と当該酸素流排出管路の排出開口部とを監視するための検査装置を含んでいる。
【0029】
さらなる実施の形態によれば酸素ノズルは粉炭を噴射するための装置を含んでいる。
【0030】
以下、実施形態を例示的に表す概略的な図に基づいて本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ガス化溶融装置の部分断面図であって、ガス化溶融装置の炉の領域を示す図である。
【図2】酸素ノズルを示す断面図である。
【図3a】2つの酸素流排出管路を有する酸素ノズルの実施の形態を概略的に示す正面図である。
【図3b】図3aに示す酸素ノズルを示す長手方向断面図である。
【図4a】酸素ノズルを示す正面図である。
【図4b】図4aによる酸素ノズルを線A−A’に沿って示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
例として示されている酸素ノズル1a,1b,1cは、シャフト炉における羽口と同様に、一定の距離dを有して、炉の上方のガス化溶融装置の外周Uに円環状に配置されており、外部から図に示されていない供給管を介して酸素含有ガスが供給される。図を見やすくするために3個の酸素ノズル1a,1b,1cのみが示されている。ガス化溶融装置は半径Rを有している。通常100m/sを超える速いガス速度によって、酸素ノズルの前にはすでに述べたレースウェイが形成される。これらレースウェイにおいて炭素含有材料との著しく発熱する反応が生じ、装入材料の溶融に利用される。ノズルは2000℃を上回るに至る非常に高い温度に耐え得る必要があり、そのために液体によって冷却されるか、或いは好適な耐熱材料から製造されなければならない。酸素含有ガスは個々の酸素ノズル1a,1b,1cにおいて二つのガス流で固定床に導入され、それによって個々の酸素ノズル1a,1b,1cの前に二つのレースウェイ2a,2bが形成される。隣接して排出されるガス流の流れ方向及びガス流の流れ方向に対応するレースウェイは、水平面、本図の場合は例えば紙面に対する投影において互いに角度を成している。酸素流排出管路の排出開口部はそれぞれ独自の酸素ノズル開口部を形成している。
【0033】
図2は酸素ノズル1の断面を示す。酸素ノズル1は酸素ノズルの先端部と本体とを冷却するための冷却管路3を有している。冷却を行うために、これらの冷却管路3には冷却媒体が貫流する。ガス化溶融装置の外部から酸素ノズルに酸素含有ガスが供給された後、酸素含有ガスは供給ガス流として酸素ノズルの酸素供給管路4を貫流し、その後、当該酸素供給管路4から分岐している酸素流排出管路5a,5bと、これら酸素流排出管路の排出開口部6a,6bとを介して固定床に導入される。検査装置としての検査ガラス7を介して酸素流排出管路と、当該酸素流排出管路の排出開口部とが監視される。ノズル機能を監視するためのこのような検査装置は、直線的な酸素流排出管路を介して可能である。任意的に設けられている、酸素ノズルの本体を貫通し、排出開口部のレースウェイ側のすぐ近くで終結する粉炭を噴射するための装置は図に示されていない。
【0034】
図3aは、2つの酸素流排出管路を有する酸素ノズルの実施の形態を概略的に示す正面図である。酸素流排出管路の排出開口部8及び9はそれぞれ独自の酸素ノズル開口部を形成している。2つの酸素流排出管路は、それぞれ独自の酸素供給管路と連通している。対を成す酸素流排出管路と酸素供給管路とは同じ方向を有している。水平面に対して投影すると、酸素流排出管路の二つの方向は交差する。本図に示す実施の形態の有利点は、ガス流を排出開口部8及び9のそれぞれを介して単独制御可能であることである。図3bは図3aに示す酸素ノズルの長手方向断面を示し、酸素ノズルの本体と先端部とを冷却するための冷却管路10を有している。
【0035】
図4aは酸素ノズルの正面図を示しており、当該正面図において酸素流排出管路の排出開口部11,12,13,14は酸素ノズル開口部15内に設けられている。酸素ノズル開口部はスリット状かつ水平に設けられている。図4bは図4aに示す酸素ノズルの線A−A’に沿った断面図である。3つのガイド板16,17,18を介して4つの酸素流排出管路19,20,21,22が画定されている。当該酸素流排出管路から排出されるガス流は異なる流れ方向を有している。
【0036】
異なる溶融能力のガス化溶融装置に対する特性値を以下に比較する。この比較において用いられる概念の意味は以下の通りである。
−絶対的溶融能力(トン/日)
この値は通常運転において一日に製造される銑鉄の量を表す。
−特定的炉処理量(トン/m,日)
これはガス化溶融装置の炉面1平方メートルについての銑鉄の絶対的溶融能力である。この値は溶融還元設備のエネルギー強度を特徴づける。
−レースウェイの単独溶融能力(トン/日)
この値は個々のレースウェイの銑鉄の溶融能力を特徴づける。
【0037】
レースウェイの単独溶融能力を示す数値と、特定的炉処理量を示す数値とがほぼ等しい場合、有利な条件が提供される。
【0038】
[1個の酸素ノズルについて、酸素含有ガスの一つのガス流が固定床に導入される、従来の酸素ノズルを有するガス化溶融装置の例]
例1:1日あたり銑鉄1000トンの絶対的溶融能力を有するガス化溶融装置は以下のパ ラメータによって特徴づけられる。
レースウェイの全個数 20
酸素ノズルの全個数 20
絶対的溶融能力 1000t/日
炉の直径 5.5m
レースウェイの単独溶融能力 50t/日
特定的炉処理量 45t/m,日
【0039】
例2:1日あたり銑鉄2500トンの絶対的溶融能力を有するガス化溶融装置は以下のパ ラメータによって特徴づけられる。
レースウェイの全個数 28
酸素ノズルの全個数 28
絶対的溶融能力 2500t/日
炉の直径 7.5m
レースウェイの単独溶融能力 89t/日
特定的炉処理量 57t/m,日
【0040】
例3:1日あたり銑鉄4000トンの絶対的溶融能力を有するガス化溶融装置は以下のパ ラメータによって特徴づけられる。
レースウェイの全個数 30
酸素ノズルの全個数 30
絶対的溶融能力 4000t/日
炉の直径 8.9m
レースウェイの単独溶融能力 133t/日
特定的炉処理量 65t/m,日
【0041】
例4:1日あたり銑鉄5800トンの絶対的溶融能力を有するガス化溶融装置は以下のパラメータによって特徴づけられる。
レースウェイの全個数 34
酸素ノズルの全個数 34
絶対的溶融能力 5800t/日
炉の直径 10.2m
レースウェイの単独溶融能力 171t/日
特定的炉処理量 71t/m,日
【0042】
例から分かる通り、レースウェイの単独溶融能力は特定的炉処理量に対して不均衡に増大する。溶融能力が高くなればなるほど、導入されるエネルギー必要量が増大し、このエネルギーは、炭素の酸素との高い反応によって生成される。酸素の供給量の増大に比例して、生じる一酸化炭素の気化ガス量は増大する。ガス量の増大につれてレースウェイの上方の流動化された領域の形成も進み、これによってガス化溶融装置における物質移動及びエネルギー交換の安定性に対して不利な作用が及ぼされる。比較的大きなユニットに対しても例1及び2に示されているような有利な条件を達成可能とするためには、現在の設備において安定性の理由から可能となっているよりも多くの酸素ノズルを備えるべきであろう。
【0043】
本発明によれば、唯一のガス流が排出される酸素ノズルの代わりに、少なくとも二つのガス流が固定床に導入される酸素ノズルが取り付けられる。それによって酸素含有ガスと炭素含有材料との反応を介して放出される、導入されるガス流あたりのエネルギーが低下する。同時にエネルギーの取り込みはガス化溶融装置の外周にわたって、より均一に配分される。
【0044】
[本発明による酸素ノズルを有する例]
例5:1日あたり銑鉄2500トンの絶対的溶融能力を有するガス化溶融装置
装入原料の配分が良好である場合、固定床において良好な条件を実現するためには、本発明に係る酸素ノズルは必ずしも必要ではないが、適切でない原材料の場合には、導入されるガス流を28から42へと50%増大させると有利である。これは従来の酸素ノズルと本発明に係る酸素ノズルを交互に配設することによって実現され得る。
酸素ノズルの全個数 28
レースウェイの全個数 42
【0045】
これによって以下の特性値が得られる。
レースウェイの単独溶融能力 59t/日
特定的炉処理量 57t/m,日
当該手段によって二つの数値は再び適合される。
【0046】
例6:1日あたり銑鉄4000トンの絶対的溶融能力を有するガス化溶融装置
この場合、従来の酸素ノズルを使用すると、レースウェイの単独溶融能力に対する数値と、特定的炉処理量に対する数値との差が非常に大きい。すなわち133対65である。この場合、レースウェイの数を倍にすることが望ましい。これは、二つのガス流が個々に固定床に導入される、本発明に係る酸素ノズルのみを使用することによって実現可能である。
酸素ノズルの全個数 30
レースウェイの全個数 60
【0047】
これによって以下の特性値が得られる。
個々のノズルの特定的溶融能力 67t/日
特定的炉処理量 65t/m,日
当該手段によって二つの数値は再び適合される。
【0048】
本発明に係る酸素ノズルのさらなる有利点は、酸素ノズルを既存のガス化溶融装置設備に、ガス化溶融装置を変更することなく、後から取り付けらることができることである。
【符号の説明】
【0049】
1,1a,1b,1c 酸素ノズル
2a,2b レースウェイ
3 冷却管路
4 酸素供給管路
5a,5b 酸素流排出管路
6 排出開口部
7 検査ガラス
8 排出開口部
9 排出開口部
10 冷却管路
11 排出開口部
12 排出開口部
13 排出開口部
14 排出開口部
15 酸素ノズル開口部
16 ガイド板
17 ガイド板
18 ガイド板
19 酸素流排出管路
20 酸素流排出管路
21 酸素流排出管路
22 酸素流排出管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄又は予備還元された鉄又はこれらの混合物と、炭素含有材料とを供給しつつ、ガス化溶融装置の固定床において銑鉄又は鉄鋼原材料製品を製造かつ溶融する方法であって、
酸素ノズルを介して導入される酸素含有ガスを用いて前記炭素含有材料をガス化させる方法において、
少なくとも一つの酸素ノズルの場合に、前記酸素含有ガスが少なくとも二つのガス流で前記ガス化溶融装置又は石炭ガス化装置の前記固定床に導入されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも二つのガス流は、酸素含有ガスのための唯一の供給ガス流から発生することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも二つのガス流はそれぞれ、酸素含有ガスのための独自の供給ガス流から発生することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
異なる流れ方向を有するガス流が、酸素ノズル開口部から排出されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
個々のガス流が独自の酸素ノズル開口部から排出されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
隣接して排出されるガス流の前記流れ方向は、互いに対して45°までの角度、好ましくは5°〜15°の角度を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
二つより多いガス流を用いる場合には、当該ガス流は異なる直径を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
酸素含有ガスのための個々の供給ガス流は、量及び圧力に関して制御可能であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記酸素ノズルを介して粉炭も前記固定床内に噴射されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記酸素ノズルの運転は、検査穴を介して監視されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
酸素含有ガスをガス化溶融装置又は石炭ガス化装置の固定床に供給するための酸素ノズルであって、
前記酸素ノズルは、少なくとも一つの酸素供給管路と、排出開口部を有する少なくとも二つの酸素流排出管路と、を有しており、
前記酸素流排出管路はそれぞれ少なくとも一つの酸素供給管路と連通していることを特徴とする酸素ノズル。
【請求項12】
前記少なくとも二つの酸素流排出管路は、同一の酸素供給管路と連通していることを特徴とする請求項11に記載の酸素ノズル。
【請求項13】
前記酸素流排出管路は、それぞれ独自の酸素供給管路と連通していることを特徴とする請求項11に記載の酸素ノズル。
【請求項14】
前記酸素流排出管路の前記排出開口部は、単独の酸素ノズル開口部内に設けられていることを特徴とする請求項11〜13のいずれか一項に記載の酸素ノズル。
【請求項15】
前記酸素流排出管路の前記排出開口部は、それぞれ独自の酸素ノズル開口部を形成していることを特徴とする請求項11〜13のいずれか一項に記載の酸素ノズル。
【請求項16】
二つより多い酸素流排出管路を用いる際には、個々の前記排出開口部の直径は異なっていることを特徴とする請求項11〜13のいずれか一項に記載の酸素ノズル。
【請求項17】
隣接する前記排出開口部の外周同士の距離は、前記排出開口部のうちの一つの排出開口部の直径の3倍までの大きさであることを特徴とする請求項15又は16に記載の酸素ノズル。
【請求項18】
前記排出開口部によって終端する前記酸素流排出管路部分の中心軸は、互いに45°までの角度、好ましくは5°〜15°の角度を形成することを特徴とする請求項11〜17のいずれか一項に記載の酸素ノズル。
【請求項19】
前記酸素供給管路それぞれには、供給された前記酸素含有ガスの圧力と量とを制御するための制御装置が設けられていることを特徴とする請求項11〜18のいずれか一項に記載の酸素ノズル。
【請求項20】
前記酸素ノズルは、前記酸素流排出管路と該酸素流排出管路の排出開口部とを監視するための検査装置を含んでいることを特徴とする請求項11〜19のいずれか一項に記載の酸素ノズル。
【請求項21】
前記酸素ノズルは、粉炭を噴射するための装置を含んでいることを特徴とする請求項11〜20のいずれか一項に記載の酸素ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【公表番号】特表2011−503508(P2011−503508A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533463(P2010−533463)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009277
【国際公開番号】WO2009/062611
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(301041586)シーメンス・ファオアーイー・メタルズ・テクノロジーズ・ゲーエムベーハー・ウント・コ (41)
【出願人】(502369458)
【Fターム(参考)】