説明

ガス化触媒の製造方法およびガス化処理システム

【課題】高価な貴金属系の触媒を使用することなく、炉内を1000℃以下の低温で操業しても、耐硫黄性、耐コーキング性を発揮し、Niが固溶し難く、それでいて高活性を発揮するガス化触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】タングステン塩、コバルト塩、モリブデン塩の1種又は2種以上と硫酸ニッケルと酸化マグネシウムを混合して複合化反応を生起し、この複合化物を脱水して洗浄し、これにカルシウム原料を混合して、その後乾燥し、焼成するガス化触媒の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス化触媒の製造方法およびガス化処理システムに関し、詳しくは、有機系被ガス化物をガス化して利用するに際して、1000℃以下でガス化処理してもタール分を効果的に抑制可能なガス化触媒の製造方法およびガス化処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオマス(量的生物資源)や下水汚泥など有機系被ガス化物を燃料として利用する技術が盛んであり、ガス化して処理する方法が進展している。バイオマスや下水汚泥をガス化するプロセスでは、通常、ガス化炉の炉内温度を1000℃以上にしているが、それはこの温度未満にすると、燃料の一部がタールやチャーに変換されて、ガス変換効率が低下すると共に、これらタールやチャーが炉内に蓄積されて操業に支障をきたすからである。
【0003】
そこで、炉内を1000℃以上の高温に保つため、燃料を多量に燃焼させたり、PSA(酸素製造装置)を用いてガス化剤である酸素濃度を高めたりする等、エネルギー消費を多くせざるを得ず、しかも高温に保持するために炉材も耐熱性に優れた高価なものを使用せざるを得ないのが現状であり、これが操業コストを高いものとしていた。
【0004】
そこで、炉内温度を800℃程度にしてガス化する方法が提案されている。例えば、流動床式ガス化炉の場合は、流動媒体に水蒸気改質触媒などのNi系触媒を用いて、タール分の発生を抑制したり、あるいは後段のタール分解設備に触媒を用いて発生したタール分を改質したりする等が試みられている。しかし、触媒中のNiが硫黄被毒して不活性となり易いという問題、あるいは炭素析出(コーキング)の問題があり、実操業上十分ではなく、特にナフタレン等の多環芳香族系のタール分に対しては効果的でない。
【0005】
以前から知られている触媒として、Ni/Al23もしくはNi/Al23・CaOなどのようなAl23 をベースとするものは、コーキングの発生が問題となる。MgOをベースとする触媒は、コーキングの発生は抑制されるが、活性成分のNiとMgOが固溶化し易く、固溶化したNiは還元が困難となり、不活性となるという問題がある。
【0006】
そこで、より活性なRhやRu系の触媒を用いて低温域でのタールやチャーを効果的に生じ難くする方法が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−246990号公報
【特許文献1】特開平10−526号39公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術は、貴金属系の触媒を使用するため高価であり、工業生産規模として使用するにはランニングコストの高騰は避けられず、採用することはできない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点に鑑みて、高価な貴金属系の触媒を使用することなく、炉内を1000℃以下の低温で操業しても、耐硫黄性、耐コーキング性を発揮し、Niが固溶し難く、それでいて高活性を発揮するガス化触媒の製造方法およびガス化処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、各請求項記載の発明により達成される。すなわち、本発明に係るガス化触媒の特徴構成は、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケルから選ばれた1種又は2種以上と、マグネシウム原料およびカルシウム原料との複合体を有するガス化触媒であって、前記複合体が、タングステン塩、コバルト塩、モリブデン塩の1種又は2種以上を含むと共にニッケル5〜30wt%を含み、前記複合体表面に、タングステン、コバルト、モリブデン成分の内1種また2種以上とニッケル成分とが高分散されていることにある。
【0011】
この構成によれば、タングステン、コバルト、モリブデン成分の内1種また2種以上とニッケル成分とを前記複合体の内部だけではなく、表面に高濃度に分散して存在させることができるので、有機系被ガス化物のガス化にあたり、炉内温度を500〜900℃程度としてもチャーやタール分の生成を効果的に抑えることができ、生成したとしても効果的に分解できる。特に、タングステン、コバルト、モリブデン成分は、ニッケルに吸着し易い硫黄分を取り込み、本発明に係る触媒をガス化炉に投入した際、ガス中に離脱する作用をするので、ニッケルの触媒活性が高く維持され、触媒の硫黄被毒を確実かつ効果的に抑制する。しかも、従来技術では、タール分の生成を抑えることが困難とされていた、難分解性のナフタレンやフェナントレン等の多環芳香族系のタール分に対しても、効果的に分解を促進することができる。また、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケルでは、硝酸ニッケルに比べて酸化マグネシウムのシンタリング(結晶化)による、焼成時の比表面積の低下を効果的に抑制できて触媒活性を高めることができる。
【0012】
このように、バイオマス等の有機系被ガス化物をガス化してもチャーやタール分の生成が抑制されるので、炭素変換効率が高くなり、生成したガスを発電設備に利用する場合には発電効率が高まり、生成したガスをメタノールやジメチルエーテルに利用する場合には、燃料変換効率が高まることになる。のみならず、H2 O/C比が1〜3のような低い場合でもガス化が促進されるので、ガス化炉を操業する際に、水蒸気量を低減できると共に、水蒸気投入による顕熱分の熱的ロスを低減できることになる。また、含有するニッケルが5wt%未満では、触媒効果を十分に発揮することが難しく、逆に30wt%を越えて加えても、量の割に効果の増加が少なく好ましくない。なお、カルシウム原料としては、ドロマイト、軽焼ドロマイト(ドロマイトを約950℃以上で焼成したもの)、および重焼ドロマイト(ドロマイトを約1300℃以上で焼成したもの)、消石灰などを挙げることができる。なお、本明細書において、高分散とは、複合体表面の全部または大部分を微粒のニッケル成分やタングステン、コバルト、モリブデン成分が覆う状態をいう。これらニッケル成分などが大きく粗に分散していると、その近傍に炭素が析出し、タール分解反応を阻害すると共に、析出した炭素がニッケル成分などを触媒表面から剥離させ、触媒性能を劣化させる要因となる。
【0013】
その結果、高価な貴金属系の触媒を使用することなく、炉内を1000℃以下の低温で操業しても、耐硫黄性、耐コーキング性を発揮し、Niが固溶し難く、それでいて高活性を発揮するガス化触媒を提供することができた。
【0014】
前記タングステン塩がタングステン酸アンモニウムであり、コバルト塩が硝酸コバルト又は硫酸コバルト又は酢酸コバルトであり、モリブデン塩がモリブデン酸アンモニウムであることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、一層耐硫黄性が高くて活性度の高い触媒作用を維持できる。タングステン酸アンモニウム、硝酸コバルト又は硫酸コバルト又は酢酸コバルト、モリブデン酸アンモニウムは、触媒製品に対し各金属成分(タングステン、コバルト、モリブデン)として5〜30wt%含むことが好ましく、5〜15wt%含むことがより好ましく、10〜15wt%含むことが一層好ましい。5wt%未満であると、耐硫黄効果が十分でなく、30wt%を超えて添加しても、添加量の割に効果の増加は少ない。
【0016】
更に、酸化アルミニウムを含んでいてもよい。この構成によれば、コーキング性を損なうことなく、触媒の熱安定性を高めることができる。酸化アルミニウムの添加量は、アルミニウム5〜15wt%になるようにする。アルミニウム5wt%未満では効果に乏しく、15wt%を超えて添加しても効果の増加が少ない。
【0017】
また、本発明に係るガス化触媒の製造方法の特徴構成は、タングステン塩、コバルト塩、モリブデン塩の1種又は2種以上と硫酸ニッケルと酸化マグネシウムを混合して複合化反応を生起し、この複合化物を脱水して洗浄し、これにカルシウム原料を混合して、その後乾燥し、焼成することにある。
【0018】
この構成によれば、高価な貴金属系の触媒を使用することなく、炉内を1000℃以下の低温で操業しても、耐硫黄性、耐コーキング性を発揮し、Niが固溶し難く、それでいて高活性を発揮するガス化触媒の製造方法を提供することができる。しかも、硫酸ニッケル以外のニッケル原料(硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩など)を用いる場合に比べて、洗浄時に発生する廃液処理コストが少なくて済む。
【0019】
更に、本発明に係るガス化触媒の製造方法の特徴構成として、タングステン塩、コバルト塩、モリブデン塩の1種又は2種以上と酢酸ニッケル又は炭酸ニッケルと酸化マグネシウムを混合して複合化反応を生起し、これにカルシウム原料を混合して、その後乾燥し、焼成する構成としてもよい。
【0020】
この構成によっても、高価な貴金属系の触媒を使用することなく、炉内を1000℃以下の低温で操業しても、耐硫黄性、耐コーキング性を発揮し、Niが固溶し難く、それでいて高活性を発揮するガス化触媒の製造方法を提供することができる。しかも、酢酸ニッケル又は炭酸ニッケルを用いているので、硫酸ニッケルを用いた場合のように、カルシウム原料を添加する前に脱水処理する必要はなく、工程を簡略化できる。
【0021】
前記タングステン塩がタングステン酸アンモニウムであり、コバルト塩が硝酸コバルト又は硫酸コバルト又は酢酸コバルトであり、モリブデン塩がモリブデン酸アンモニウムであることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、一層耐硫黄性が高くて活性度の高い触媒作用を維持できる。
【0023】
前記複合化反応を45〜90℃で行うと共に、前記焼成を500〜900℃に加熱して行うことが好ましい。
【0024】
この構成によれば、複合化反応を効率よく生起させることができる。複合化反応が45℃未満では、複合化反応の進行が遅く、90℃を超えると、均一な複合化反応が生起し難くなり易い。
【0025】
更に又、本発明に係るガス化処理システムの特徴構成は、有機系被ガス化物を加熱・燃焼してガス化するガス化炉に、上記の製造方法で得られたガス化触媒が導入されるようになっていることにある。
【0026】
この構成によれば、高価な貴金属系の触媒を使用することなく、炉内を1000℃以下の低温で操業しても、耐硫黄性、耐コーキング性を発揮し、Niが固溶し難く、それでいて高活性を発揮するガス化触媒を有するガス化処理システムを提供することができる。しかも、炉内温度を低くできるので、炉構成材料として高価な材料を用いる必要がなく、システム全体の製造コストを低減できる。
【0027】
前記ガス化炉の下流側に、導入された前記触媒を回収する触媒回収装置を有すると共に、更に下流側に前記触媒を充填するタール分解設備を有することが好ましい。
【0028】
この構成によれば、タール分解設備により、ガス化後に残存する可能性のある少量のタール分を確実に分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係るガス化処理システムの概略構成図
【図2】本発明に係る第1実施形態の触媒の製造方法を示すフロー図
【図3】第2実施形態の触媒の製造方法を示す図2と同様なフロー図
【図4】各実施例、比較例のタール代替物質分解率と反応温度の関係を示す図
【図5】各実施例、比較例のタール代替物質分解率とH2 S濃度との関係を示す図
【図6】各実施例、比較例の代替物質分解率とH2 S濃度との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るガス化処理システムの概略構成を示す。
【0031】
このガス化処理システムは、バイオマス等の有機系被ガス化物からなる燃料および空気、必要に応じて酸素、水蒸気が送給されるガス化炉1と、このガス化炉1内に、後述するタール成分の生成を抑制する触媒を投入する手段と、投入された触媒を回収する回収装置2と、必要に応じて発生したガス中の塵芥を除去する集塵機3と、タール分解設備4などとから構成されている。タール分解設備4から排出されるガスは、さらに下流側のガスタービンやガスエンジン等からなる発電設備や各種燃料変換設備(図示略)などに送給され、燃料として利用される。
【0032】
ガス化炉1には、上記したように、バイオマスと燃焼用空気の他、炉内を1000℃以下の低温で操業してもタール成分の生成を効果的に抑制可能な触媒が供給されるようになっていると共に、ガス化炉1の下流側には、触媒回収装置であるサイクロン2が接続されている。もっとも、触媒回収装置としては、サイクロンに限定されるものではなく、セラミックフィルタ等を用いてもよい。
【0033】
ガス化炉1として、流動床タイプの炉を用いる場合には、触媒を流動媒体に混入させることができ、その他の固定床タイプのガス化炉を用いる場合には、触媒を炉内に噴霧して用いることができる。このようにすると、ガス化が著しく促進されるため、1000℃以下の炉内温度で操業しても、タール分の生成を大幅に抑えることができる。実際に操業される炉内温度は、500〜900℃程度でよく、より好ましくは700〜850℃で操業することである。ガス化炉1に供給される触媒の製造方法については、後述する。
【0034】
また、タール分解設備4は、ガス化後に残存する可能性のある少量のタール分を分解するためのもので、ガス化炉1の後段側で、集塵処理した後に設けられることが好ましく、ここでも上記触媒を投入してタール分の分解を確実にする。タール分解設備4の触媒部4aは、固定床タイプでも流動床タイプでもよく、500〜900℃、より好ましくは750〜850℃に加熱して触媒を充填あるいは噴霧あるいは流動媒体として投入してタール分を分解する。
【0035】
つぎに、ガス化炉1に使用する触媒の製造方法について、図2、3を参照して説明する。
【0036】
<第1実施形態>
図2に示すように、まず、ニッケル塩の1種である硫酸ニッケルの水溶液を所定量作成し、これとタングステン、コバルト、モリブデンの酸化物から選ばれた1種又は2種以上の水溶液もしくは懸濁液もしくは粉末を十分に混合した(#1)後、更に酸化マグネシウム粉末もしくは懸濁液を添加して十分に混合し、複合化反応を生起させる(#2)。この場合、混合溶液を45〜90℃、好ましくは60〜90℃にして複合化反応させる。45℃未満では、複合化反応の進行が遅く、90℃を超えると、均一な複合化反応が生起せず、好ましくない。硫酸ニッケルは、触媒中のニッケル5〜30wt%となるように配合する。ニッケルが5wt%未満では、触媒効果を十分に発揮することが難しく、逆に30wt%を越えて加えても、表面に積層され、量の割に分散効果の増加が少ないため好ましくない。好ましくは、触媒中のニッケルは15〜25wt%である。
【0037】
この複合化スラリーをろ過して脱水・洗浄し、生成した硫酸イオンを除去する(#3)。硫酸成分を除去することにより、次工程でカルシウム原料を添加した際、触媒活性を阻害する硫酸カルシウムの生成を阻止できる。
【0038】
脱水・洗浄した後、これに水を加えて加水すると共に、カルシウム原料である軽焼ドロマイト等のドロマイト類あるいは消石灰などを添加して十分に混合し、複合化反応を生起させる(#4)。カルシウム原料が酸化マグネシウム中に分散することにより、ニッケルと酸化マグネシウムの固溶化を阻止する。カルシウム原料は、酸化カルシウムとして5〜20wt%程度添加することが好ましく、7〜12wt%前後がより好ましい。カルシウム原料が20wt%を超えると、ニッケルの均一分散性が低くなる。この場合も、混合溶液を45〜90℃、好ましくは60〜90℃にて複合化反応させる。
【0039】
その後、乾燥炉などを用いて水分を蒸発すべく乾燥し焼成させる(#5)。乾燥温度は、80〜120℃程度で行うことが好ましい。もっとも、スプレードライ方法などにより加熱雰囲気中に噴霧して急速乾燥させるようにしてもよく、特に乾燥方法に限定されるものではない。かかる処理により、高活性触媒が生成できることになる(#6)。焼成は、500〜900℃、好ましくは約700℃程度で加熱する。このようにして製造した触媒は、最終的に、ガス化炉に投入し易いような適度な大きさに粉砕され、粒度調整される。もしくは成形(押出、転動、だ錠など)され、充填できる形状(ペレット、リング、ハニカム、ボール等)にする。ニッケルと酸化マグネシウムと酸化カルシウム原料との複合体を焼成したとき、ニッケルが酸化マグネシウムの内部に過剰に固溶することを防止して、酸化マグネシウムの表面にニッケルを高分散させることができ、触媒活性を高めることができる。
【0040】
加水処理後、カルシウム原料を添加する際、アルミニウム5〜15wt%になるように酸化アルミニウムを添加してもよい。このようにすると、耐コーキング性を損なうことなく、更に熱安定性を高めることができる。
【0041】
<第2実施形態>
第1実施形態で用いた硫酸ニッケルに代えて、酢酸ニッケル又は炭酸ニッケルを用いる。すなわち、図3に示すように、ニッケル塩の1種である酢酸ニッケル又は炭酸ニッケルの水溶液を所定量作成し、これとタングステン、コバルト、モリブデンの酸化物から選ばれた1種又は2種以上の水溶液もしくは懸濁液もしくは粉末を十分に混合した(#1)後、更に酸化マグネシウム粉末もしくは懸濁液を添加して十分に混合し、複合化反応を生起させる(#2)。この場合も、酢酸ニッケル又は炭酸ニッケルは、触媒中のニッケル5〜30wt%となるように配合する。
【0042】
そして、脱水・洗浄することなく、カルシウム原料である軽焼ドロマイト等のドロマイト類あるいは消石灰などを添加して十分に混合し、複合化反応を生起させる(#3)。この場合も、混合溶液を45〜90℃、好ましくは60〜90℃にして複合化反応させる。カルシウム原料がニッケル・マグネシア等の化合物中に分散し、カルシウム原料は、酸化カルシウムとして5〜20wt%程度添加することが好ましい点は、第1実施形態と同様である。
【0043】
次いで、ろ過して脱水・洗浄し(#4)、その後、乾燥炉などを用いて水分を蒸発すべく乾燥し焼成させ(#5)、その場合の乾燥温度は、80〜120℃程度で行うことが好ましい点は、第1実施形態と同様である。もっとも、カルシウム原料を添加後、脱水・洗浄することなく、乾燥・焼成工程で酢酸塩を酸化除去してもよい。このようにすると、酢酸イオンを含む廃液処理を行う必要がなく、全体の設備コスト、設備スペースを効果的に低減できる。
【0044】
かかる処理により、高活性触媒が生成できることになる(#6)。焼成は、500〜900℃、好ましくは約700℃程度で加熱する点についても第1実施形態と同様である。又、カルシウム原料を添加する際、アルミニウム成分が5〜15wt%となるように酸化アルミニウムを添加してもよい。上記したと同様な効果を発揮し得る。
【実施例】
【0045】
以下に、図2,3に示す製造工程により製造した実施例触媒につき、比較例触媒と共に性能試験を行った結果を説明する。
【0046】
まず、図2に示す製造工程により製造された触媒(実施例1)と市販の触媒(比較例1〜6)とを、下記性能評価方法により比較試験を行った。
【0047】
[性能評価方法]
得られた触媒の性能評価方法は、タールの代替物質として、ナフタレンのトルエン溶液を表1の条件に従い、表1に示す組成のガス成分とし、ボンベガスにて調整したものを用い、これを触媒10gに曝すことにより分解率を測定して行った。その際、H2 S濃度0〜500vol−ppmについて、反応温度800℃でのタール代替物質分解率を測定した。上記各例についての測定結果を図4、5に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
(実施例1(A))
図2に示す工程に従い、硫酸ニッケル(ニッケル20wt%)と、タングステン塩(1例として、タングステン酸アンモニウムを使用。金属成分として10wt%)と、酸化マグネシウム懸濁液とを添加して混合し複合化反応を生起させ、脱水・洗浄して後、軽焼ドロマイトとの重量比7:3の割合としたものとを混合し、水溶液温度を約60℃として複合化反応を起こさせた。この混合液を120℃で乾燥し、乾燥したものを約500℃で焼成した。
【0050】
(比較例1〜6)
市販の水蒸気改質触媒である、酸化アルミニウムにニッケルを担持したNi/Al23系(製造社:日揮化学社。商品名:N139。比較例1(a))、酸化アルミニウムにニッケルを担持したNi/Al23系(製造社:ズードケミー触媒社。商品名:FCR−4。比較例2(b))、酸化アルミニウム・酸化マグネシウムにニッケルを担持したNi/Al23・MgO・CaO系(製造社:九州耐火煉瓦社。商品名:DAN−N。比較例3(c))、酸化珪素にニッケルを担持したNi/SiO2系(製造社:日揮化学社。商品名:N112。比較例4(d))、酸化アルミニウムにルテニウムを担持したRu/Al23系(製造社:日揮化学社。商品名:E9R。比較例5(e))、酸化アルミニウムにルテニウムを担持したRu/Al23系(製造社:ズードケミー触媒社。商品名:RUA。比較例6(f))を用いた。
【0051】
図4、5に示す結果より、実施例1の触媒は、各比較例の触媒に比べて、低温活性に優れ、H2 Sの存在下でも高い活性を維持しており、耐コーキング性に優れることが判る。なお、図4中Cはコーキングが見られた点を表す。
【0052】
更に、実施例1と比較例5の各触媒について、触媒として使用(触媒温度:800℃×10時間)後の炭素分と硫黄分を測定した結果を表2に示す。炭素分の測定は、JIS M8819に準じて分析し、硫黄分の測定は、触媒を硝酸中で煮沸し、硫黄分を溶出させた後、ろ液をJIS K0102III (硫酸バリウムによる比濁法)にて分析した。
【0053】
【表2】

【0054】
表2の結果より、実施例1の触媒は、比較例に比べて炭素分、硫黄分共に少なく、耐コーキング性、耐硫黄性を示すことが判る。
【0055】
次に、図2、3に示す製造工程により製造された触媒(実施例1〜3)と他のニッケル塩を用いた触媒(比較例7、8)とを、触媒温度800℃におけるH2S中での活性度を比較すべく、タール代替物質分解率を図6に示すと共に、下記物性評価方法により物性評価を行った。
【0056】
[物性評価方法]
得られた触媒の物性評価方法として、BET比表面積および金属(ニッケル)比表面積を比較した。BET比表面積は、窒素ガスの吸着等温線より算出し、金属比表面積は、比表面積測定装置(日本ベル社製BELSORP−minII)を用いて、900℃の水素ガスにて還元処理後、298Kにおける水素ガス吸着等温線を測定し、ニッケルの分散度、比表面積を算出した。
【0057】
(実施例2(B))
硫酸ニッケルに代えて、酢酸ニッケル(ニッケル20wt%)を用いた点、図3に示す工程により行った点を除き、実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0058】
(実施例3(C))
実施例2において、複合化反応後、脱水・洗浄することなく、乾燥・焼成した点を除き、実施例2と同様にして触媒を製造した。
【0059】
(実施例4(D))
酢酸ニッケルに代えて、炭酸ニッケル(ニッケル20wt%)を用いると共に、ニッケル溶解用に炭酸アンモニウムを添加した点を除き、実施例3と同様にして触媒を製造した。
【0060】
(比較例7(h))
酢酸ニッケルに代えて、硝酸ニッケル(ニッケル20wt%)を用いた点を除き、実施例3と同様にして触媒を製造した。
【0061】
以上の各例についての性能評価試験結果を図6に、物性評価試験結果を表3に示す。
【0062】
図6より、触媒温度800℃において、比較例7の触媒に比べて、実施例1〜4はいずれも高濃度のH2 Sの存在によっても、活性を維持しており、良好なタール分解率を示すことが分かる。
【0063】
表3の結果からも、実施例1〜4の触媒は、比較例7の触媒に比べて、大きい比表面積を示しており、ニッケル成分が高い分散性を示していることがわかる。
【0064】
【表3】

【0065】
以上の結果、燃料中に硫黄分を含む場合、触媒被毒が生じて触媒機能の低下をもたらし易いところ、タングステン塩などを含有させることにより、これらがニッケルに吸着した硫黄分を取り込み、ガス中に脱離させる作用を発揮して、ニッケル触媒の活性を維持し、触媒被毒を効果的に抑制するものとなる。従って、本実施例の触媒によれば、750〜850℃といった低温域でタール分などを効果的に分解除去することができる。その結果、炭素変換率が向上し、発電効率(ガス化ガスを発電に用いる場合の効率)や燃料変換効率(ガス化ガスをメタノールやジメチルエーテルの燃料に変換する場合の効率)が向上する。
【0066】
〔別実施の形態〕
(1)ガス化炉としては、流動床式、固定床式、キルン炉、回転炉など種々のタイプの炉を使用することができ、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0067】
1 ガス化炉
2 触媒回収装置
4 タール分解設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン塩、コバルト塩、モリブデン塩の1種又は2種以上と硫酸ニッケルと酸化マグネシウムを混合して複合化反応を生起し、この複合化物を脱水して洗浄し、これにカルシウム原料を混合して、その後乾燥し、焼成するガス化触媒の製造方法。
【請求項2】
タングステン塩、コバルト塩、モリブデン塩の1種又は2種以上と酢酸ニッケル又は炭酸ニッケルと酸化マグネシウムを混合して複合化反応を生起し、これにカルシウム原料を混合して、その後乾燥し、焼成するガス化触媒の製造方法。
【請求項3】
前記タングステン塩がタングステン酸アンモニウムであり、コバルト塩が硝酸コバルト又は硫酸コバルト又は酢酸コバルトであり、モリブデン塩がモリブデン酸アンモニウムである請求項1又は2のガス化触媒の製造方法。
【請求項4】
前記複合化反応を45〜90℃で行うと共に、前記焼成を500〜900℃に加熱して行う請求項3のガス化触媒の製造方法。
【請求項5】
有機系被ガス化物を加熱・燃焼してガス化するガス化炉に、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス化触媒の製造方法で得られたガス化触媒が導入されるようになっているガス化処理システム。
【請求項6】
前記ガス化炉の下流側に、導入された前記触媒を回収する触媒回収装置を有すると共に、更に下流側に請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス化触媒の製造方法で得られたガス化触媒を充填したタール分解設備を有する請求項5のガス化処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−255375(P2011−255375A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160158(P2011−160158)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【分割の表示】特願2006−113407(P2006−113407)の分割
【原出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月10日 株式会社タクマ発行の「タクマ技報 第13巻第2号(通巻第25号)」に発表
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】