説明

ガス容器の製造方法

【課題】溶着性を向上することができるガス容器の製造方法を課題とする。
【解決手段】少なくとも一部が中空状のライナ構成部材21,22を、複数個接合して構成される樹脂ライナ11を有するガス容器1の製造方法であって、不活性ガスの雰囲気下のライナ構成部材21,22間の接合部分80に対し、レーザを照射することによりライナ構成部材21,22間を接合する照射工程を有し、照射工程では、接合部分80の近傍における不活性ガスの温度が調整されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素などのガスを貯留するガス容器に関し、特に、樹脂ライナが複数のライナ構成部材を接合して構成されるガス容器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軽量化等の観点から、配管などを構成するパイプ形状品や、ガス容器の内殻(ライナ)を樹脂化して樹脂成形品にすることが行われる。この種の樹脂成形品は、予め分割して成形された分割成形品を互いに接合することで構成されることが多く、その場合の接合方法としてレーザ溶着方法が利用されている。
【0003】
樹脂部材間のレーザ溶着方法として、レーザ溶着中の接合部分に不活性ガスを吹き付けるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この技術によれば、低酸素雰囲気下でレーザ溶着されるため、酸化による焦げ付きや、これに伴うレーザの透過不良を抑制することができる。
【特許文献1】特開2005−246692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レーザ透過性が低い樹脂部材や比較的薄肉の樹脂部材の場合、不活性ガスの吹き付けにより、接合部分の温度が低下し、その影響により接合部分の溶着不良が生じるおそれがあった。特に、薄肉としつつも気密性が求められるガス容器の樹脂ライナでは、溶着不良の抑制が望まれる。
【0005】
本発明は、溶着性を向上することができるガス容器の製造方法を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明のガス容器の製造方法は、少なくとも一部が中空状のライナ構成部材を、複数個接合して構成される樹脂ライナを有するガス容器の製造方法であって、不活性ガスの雰囲気下のライナ構成部材間の接合部分に対し、レーザを照射することによりライナ構成部材間を接合する照射工程を有し、照射工程では、接合部分の近傍における不活性ガスの温度が調整されるものである。
【0007】
このような構成によれば、接合部分の近傍は温度調整された不活性ガスの雰囲気下となるので、接合部分をレーザ溶着に適した温度にしておくことができる。これにより、レーザを照射した際に、接合部分の表面焼けや溶着の過不足等の溶着不良を抑制することができ、ライナ構成部材間の溶着性を高めることができる。
【0008】
ここで、「少なくとも一部が中空状のライナ構成部材」には、ライナ構成部材が全体として円筒状、環状、お碗状、ドーム状等の形状を有することが含まれる。例えば、一対の(半割りの)ライナ構成部材により樹脂ライナが構成される場合には、各ライナ構成部材は、全体としてお碗状に形成される。また、三以上のライナ構成部材により樹脂ライナが構成される場合には、樹脂ライナの両端のライナ構成部材はそれぞれ全体としてお碗状に形成され、この間に位置するライナ構成部材は全体として円筒状または環状に形成される。
【0009】
本発明のガス容器の製造方法では、不活性ガスの温度調整は、不活性ガスを加熱することにより行われることが、好ましい。
【0010】
こうすることで、不活性ガスによる接合部分の温度低下を好適に抑制することができる。
【0011】
本発明の一態様によれば、不活性ガスは接合部分に吹き付けられることが、好ましい。
【0012】
こうすることで、効率良く接合部分を不活性ガスの雰囲気下にすることができる。また、接合部分に付着し得る異物を不活性ガスの吹付けにより除去することも可能である。さらに、樹脂ライナ全体を不活性ガスの雰囲気下としなくて済むので、製造設備を簡素化できる。
【0013】
好ましくは、不活性ガスは、不活性ガス供給系の途中で温度調整されてから接合部分に吹き付けられる。
【0014】
これにより、吹き付けられた後の不活性ガスを温度調整する場合に比べて、不活性ガスを簡単に温度調整できる。
【0015】
より好ましくは、不活性ガスは、ライナ構成部材の周面の略接線方向に沿うように、接合部分に吹き付けられる。
【0016】
このようにして、不活性ガスの流れを方向付けることで、接合部分における不活性ガスの流れを安定化させることができる。
【0017】
別の好ましい一態様によれば、不活性ガスは、ライナ構成部材の周面の略接線方向であって且つライナ構成部材の略周方向に沿うように、接合部分に吹き付けられるとよい。
【0018】
上記同様に、接合部分における不活性ガスの流れを安定化させることができる。特に、ライナ構成部材の周方向に沿うようにも不活性ガスが吹き付けられるため、接合部分の溶着ラインに沿って不活性ガスを吹き付けることも可能となる。
【0019】
好ましくは、照射工程は、ライナ構成部材をその軸線回りに相対的に回転させながら行われ、不活性ガスは、ライナ構成部材の相対的な回転方向と同方向に沿うように、接合部分に吹き付けられる。
【0020】
このように、レーザの照射の際にライナ構成部材を相対回転させることで、接合部分を周方向に亘ってレーザ溶着することができる。また、ライナ構成部材の回転方向の上流側から下流側に向けて不活性ガスを吹き付けることができ、接合部分における不活性ガスの流れの乱れを抑制できる。なお、レーザを照射する装置を回転させることもできるが、ライナ構成部材を回転させた方が、製造設備を簡素化できる。
【0021】
好ましくは、不活性ガスは、ガス吹付け口から噴出後に拡散を抑制されながら、接合部分に吹き付けられる。
【0022】
こうすることで、不活性ガスの使用量を抑制でき、全体の効率を向上できる。
【0023】
好ましくは、不活性ガスは、ライナ構成部材の外側から接合部分に吹き付けられる。
【0024】
こうすることで、不活性ガス供給系をライナ構成部材の内側に設けてなくて済み、製造設備を簡素化できる。
【0025】
本発明の好ましい一態様によれば、不活性ガス供給系は不活性ガスの温度調整及び圧力調整の両方を行うとよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のガス容器の製造方法によれば、接合部分の溶着不良を抑制でき、ライナ構成部材間の溶着性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係るガス容器の製造方法ついて説明する。ガス容器の構造について説明した上で、ガス容器の製造方法について説明する。
【0028】
<第1実施形態>
図1に示すように、ガス容器1は、全体として密閉円筒状の容器本体2と、容器本体2の長手方向の両端部に設けられた口金3,3と、を具備している。容器本体2の内部は、各種のガスを貯留する貯留空間5となっている。ガス容器1は、常圧のガスを充填することもできるし、常圧に比して圧力が高められたガスを充填することもできる。すなわち、本発明のガス容器1は、高圧ガス容器として機能することができる。
【0029】
例えば、燃料電池システムでは、高圧の状態で用意された可燃性の燃料ガスを減圧して、燃料電池の発電に供している。本発明のガス容器1は、高圧の燃料ガスを貯留するのに適用することができ、可燃性の燃料ガスとしての水素や、圧縮天然ガス(CNGガス)などを貯留することができる。ガス容器1に充填される水素の圧力としては、例えば35MPaあるいは70MPaであり、CNGガスの圧力としては、例えば20MPaである。以下は、高圧水素ガス容器1を例に説明する。
【0030】
容器本体2は、ガスバリア性を有する内側の樹脂ライナ11(内殻)と、樹脂ライナ11の外周に配置された補強層12(外殻)と、の二層構造を有している。補強層12は、例えば炭素繊維とエポキシ樹脂を含むFRPからなり、樹脂ライナ11の外表面を被覆するようにこれを巻きつけている。
【0031】
口金3は、例えばステンレスなどの金属で形成されている。口金3の開口部は、配管やバルブアッセンブリ14などの部品をねじ込み接続できるように構成されている。バルブアッセンブリ14は、バルブや継手等の配管要素を一体的に組み込んだものであり、貯留空間5と図示省略した外部のガス流路との間を接続する。なお、図1では、口金3,3の一方にのみバルブアッセンブリ14を設けた例を二点鎖線で示した。また、ガス容器1の両端部に口金3,3を設けたが、もちろん片方の端部にのみ口金3を設けてもよい。
【0032】
樹脂ライナ11は、長手方向の中央で二分割された一対の略同形状からなるライナ構成部材21,22(割体)を、レーザ溶着により接合して構成されている。すなわち、半割り中空体のライナ構成部材21,22同士をレーザ溶着により接合することで、中空内部の樹脂ライナ11が構成されている。
【0033】
ライナ構成部材21,22は、樹脂ライナ11の軸方向に所定の長さ延在する胴部31,41をそれぞれ有している。各胴部31,41の軸方向の両端側は、開口している。
【0034】
一方のライナ構成部材21は、胴部31の一端側の縮径された端部に形成された返し部32と、返し部32の中央部に開口した連通部33と、胴部31の他端側の略円筒状の端部に形成された接合部34と、を有している。同様に、他方のライナ構成部材22は、胴部41の一端側の縮径された端部に形成された返し部42と、返し部42の中央部に開口した連通部43と、胴部41の他端側の略円筒状の端部に形成された接合部44と、を有している。
【0035】
各返し部32,42は、各ライナ構成部材21,22の強度を確保するのに機能する。各返し部32,42の外周面と補強層12の端部との間に口金3,3が位置しており、各口金3,3は、各連通部33,43に嵌合している。なお、口金3が片方の端部にのみ設けられる場合には、ライナ構成部材21及び22の一方については、返し部32,42及び連通部33,43が形成されず、胴部31及び41の一方については一端側が閉塞端で形成される。
【0036】
ここで、本明細書では、ライナ構成部材21,22とは、分割構造の樹脂ライナ11を構成する部材をいい、上述のように、少なくとも一端側(一部)が中空状の形状を有するものをいう。したがって、ライナ構成部材21,22の形状には、その全体の形状が円筒状、環状、お碗状、ドーム状等であることが含まれる。
【0037】
図2は、接合部34,44まわりを拡大して示す断面図である。なお、図2では補強層12は省略されている。
一方の接合部34は、所定の角度傾斜した接合端面51を有している。接合端面51は、ライナ構成部材21の端部が内側に向かって面取りされるように(逆テーパ状となるように)、ライナ構成部材21の端部に周方向に亘って形成されている。
【0038】
同様に、他方の接合部44は、所定の角度傾斜した接合端面61を有している。接合端面61は、ライナ構成部材の端部が外側に向かって面取りされるように(テーパ状となるように)、ライナ構成部材22の端部に周方向に亘って形成されている。
【0039】
ライナ構成部材21,22同士を突き合わせた状態では、両者の接合端面51,61同士が周方向に亘って整合し且つ接触する。接合端面51,61同士を樹脂ライナ11の軸方向に対して直交させるのではなく傾斜させたことで、接合端面51,61同士の接触面積を大きくすることができる。なお、接合端面51,61の角度は、任意であるが、レーザトーチ100(レーザ照射装置)からのレーザを透過または受光可能な角度であればよい。
【0040】
本実施形態では、ライナ構成部材21は、レーザ透過性の熱可塑性樹脂で形成されている。一方、ライナ構成部材22は、レーザ吸収性の熱可塑性樹脂で形成されている。
【0041】
レーザ透過性の熱可塑性樹脂は、レーザ溶着に必要なエネルギーをレーザ吸収性側の接合端面61に到達させる程度に、レーザに対する透過性を有していればよい。したがって、レーザ透過性の熱可塑性樹脂であっても、レーザ吸収性の特性を僅かに有していてもよい。
レーザ透過性の熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン66などを挙げることができるが、これらにガラス繊維などの補強繊維や着色剤を添加したものであってもよい。例えば、レーザ透過性のライナ構成部材21は、白色、半透明または透明に形成される。
【0042】
レーザ吸収性の熱可塑性樹脂は、レーザに対する吸収性を有していればよく、吸収したレーザにより発熱して溶融するものであればよい。レーザ吸収性の熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン66などを挙げることができるが、これらにガラス繊維などの補強繊維や着色剤を添加したものであってもよい。
例えば、レーザ吸収性の熱可塑性樹脂は、レーザ透過性の熱可塑性樹脂と同一の樹脂で形成した場合には、レーザ透過性の熱可塑性樹脂よりもカーボンを多く添加することで形成される。したがって、レーザ吸収性のライナ構成部材22は、例えば黒色に形成される。
【0043】
ライナ構成部材21,22間の接合部分80は、接合端面51,61同士がレーザ溶着により接合されてなる。レーザ溶着は、接合部34の外側からレーザトーチ100によりレーザを照射し、レーザ吸収性の接合端面61の樹脂を加熱溶融すると共に、この接合端面61からの熱伝達によりレーザ透過性の接合端面51の樹脂を加熱溶融することで行われる。したがって、接合部分80には、接合端面61及び51の両方が溶融したレーザ溶着部70が形成されている。なお、レーザ溶着部70は、レーザ吸収性及びレーザ透過性の両方の樹脂が入り絡まった状態となっている。
【0044】
変形例として、ライナ構成部材21,22がレーザ透過性やレーザ吸収性の特性を部分的に有していてもよい。例えば、接合部34,44のみをレーザ透過性やレーザ吸収性の樹脂で構成してもよい。あるいは、一対のライナ構成部材21,22を両方ともレーザ透過性の樹脂で形成しておき、そのうちの一方のライナ構成部材21の接合端面51に、レーザ吸収性を有する吸収剤を塗布したり、この種の吸収剤を練入したシートを貼付したりしてもよい。
【0045】
ガス容器1の製造方法の概略について説明する。
先ず、ライナ構成部材21,22を射出成形により形成し、これらに口金3,3を取り付ける。なお、ライナ構成部材21(22)及び口金3を一体成形(インサート成形)してもよい。次いで、ライナ構成部材21,22同士を突き合わせ、接合端面51,61同士を周方向に亘って接触させる。これにより、ライナ構成部材21,22同士が仮接合(暫定接合)した状態の樹脂ライナ11となる。次いで、仮接合状態の樹脂ライナ11は、後述するレーザ照射工程を経て本接合状態となる。その後、フィラメントワインディング法等により樹脂ライナ11の外表面に補強層12が形成され、ガス容器1が製造される。
【0046】
ここで、図3及び図4を参照して、樹脂ライナ11を本接合するレーザ照射工程について説明する。
先ず、レーザ照射工程を実行する製造設備について説明する。この製造設備は、レーザトーチ100、不活性ガス供給系160、及び図示省略したライナ回転装置を備えている。ライナ回転装置は、横向き姿勢の樹脂ライナ11をその軸線回りに回転可能に構成されている。
【0047】
レーザトーチ100は、樹脂ライナ11の外側に配設され、ライナ構成部材21,22間の接合部分80にレーザを照射可能に構成されている。特に、レーザトーチ100は、レーザ透過性の接合部34の外側から、接触状態の接合端面51,61同士にレーザを照射する。このレーザは、半導体レーザなどを用いることができるが、レーザの種類は、レーザ透過性のライナ構成部材21の肉厚を含む性状などを考慮して適宜選択することができる。レーザの出力は、ライナ構成部材21,22の樹脂材料等によって所定に設定されている。
【0048】
不活性ガス供給系160は、不活性ガスを貯留するガスボンベ161と、ガスボンベ161内の不活性ガスを接合部分80に供給する供給路162と、供給路162の途中に設けられた加熱装置163と、供給路162の下流端に設けられたガス吹付け装置164と、を有している。不活性ガス供給系160は、接合部分80の近傍を不活性ガスの雰囲気下にし、レーザ照射時における接合部分80の酸化を抑制する。不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウムなどが挙げられるが、ここでは二酸化炭素が用いられている。
【0049】
ガスボンベ161の下流側には、不活性ガスの圧力を調整する圧力調整器(例えば調圧弁)165が設けられている。圧力調整器165は、レーザの出力や、ライナ回転装置による樹脂ライナ11の回転速度などを加味して、接合部分80に供給される不活性ガスの圧力を調整する。電磁式遮断弁166は、加熱装置162の下流側に設けられ、レーザトーチ100の駆動に同期して供給路162を開閉する。
【0050】
加熱装置163は、不活性ガスを加熱することで、不活性ガスの温度を調整する。加熱装置163により調整される不活性ガスの温度は、レーザトーチ100によるレーザの出力や、ライナ構成部材21,22の樹脂材料を加味して、設定される。具体的には、接合部分80がレーザを照射されて発熱している際に、吹き付けられる不活性ガスによって接合部分80の温度が低下しないように、加熱装置163は不活性ガスを加熱する。加熱装置163は、例えば供給路162内の不活性ガスを加熱するヒータで構成することができる。別の態様では、加熱装置163は、ヒータを備えたポンプで構成されてもよい。ポンプの場合には、不活性ガスを供給路162の下流側へと圧送することができる。
【0051】
ガス吹付け装置164は、供給路162の下流端に連通するガス吹付け口171と、ガス吹付け口171が形成された拡散抑制部材172と、を有している。ガス吹付け口171は、加温された不活性ガスを接合部分80に向かって噴射するように吹き付ける。拡散抑制部材172は、例えば断面コ字状に形成されており、噴射された不活性ガスの拡散を上下の部位により抑制する。これにより、不活性ガスは、ほぼ水平方向に流れるようにして接合部分80に吹き付けられる。
【0052】
ここで、不活性ガスの流れをライナ構成部材21,22との関係で詳述すると、不活性ガスは、ライナ構成部材21,22の外周面のほぼ接線方向に沿うように、接合部分80に吹き付けられる。また、不活性ガスは、上記接線方向であって且つライナ構成部材21,22のほぼ周方向に沿うように、接合部分80に吹き付けられる。このように不活性ガスの流れを接合部分80との関係で方向付けることで、接合部分80における不活性ガスの流れを安定化させることができ、溶着ラインに沿った不活性ガスの吹き付けが可能となる。
【0053】
また、不活性ガスの流れは、仮接合状態の樹脂ライナ11の回転方向との関係でも規定されている。具体的には、不活性ガスは、樹脂ライナ11の回転に逆らった流れとならないように、すなわち樹脂ライナ11の回転方向と同方向に沿うように、接合部分80に吹き付けられる。これにより、樹脂ライナ11の回転方向の上流側から下流側に向けて不活性ガスが吹き付けられるようになるため、接合部分80において不活性ガスの流れが乱れることを抑制できる。また、不活性ガスは、レーザ溶着時に発生する接合部分80からの煙を好適に除去できる。なお、接合部分80が位置するライナ外表面に接するように不活性ガスを流すことが好ましい。
【0054】
以上説明した製造設備を用いたレーザ照射工程では、仮接合状態の樹脂ライナ11をライナ回転装置により回転させながら、接合部分80にレーザを照射すると共に不活性ガスを吹き付ける。不活性ガスは、遮断弁166がレーザ照射時のタイミングで開弁することで、所定の流れ方向で接合部分80に吹き付けられる。この不活性ガスの吹き付け状態で、接合端面51,61の樹脂がレーザの照射によって加熱溶融されていく。樹脂ライナ11が少なくとも一回転することで、接合端面51,61同士をその周方向に亘って一体的に接合したレーザ溶着部70が形成される。
【0055】
以上のように、本実施形態のガス容器1の製造方法によれば、レーザ溶着の際に、加熱された不活性ガスを接合部分80に吹き付ける。このため、接合部分80の直上部を含む接合部分80の近傍において、不活性ガスによる温度低下を抑制でき、適した温度環境下で接合部分80をレーザ溶着できる。これにより、接合部分80における局所的な酸化、表面焼け及びレーザの透過不良を抑制でき、ライナ構成部材21,22間の溶着性を高めることができる。したがって、強度及び気密性を確保した樹脂ライナ11を良好に製造でき、ガス容器1の生産性を向上することができる。
【0056】
なお、変形例として、本実施形態は以下の態様を採用することができる。
例えば、接合部分80の近傍に温度センサを配置し、温度センサによって、その雰囲気中の不活性ガスの温度を検出してもよい。そして、温度センサの検出結果を加熱装置163にフィードバックし、レーザの照射中に、加熱装置163が不活性ガスの温度を適宜調整するようにしてもよい。その際、不活性ガスの温度を下げるように、不活性ガスの温度を調整してもよい。
【0057】
また、レーザを照射する前に、加熱された不活性ガスを接合部分80に吹きつけ、この接合部分80を予熱するようにしてもよい。こうすることで、レーザ照射工程を効率よく行えるようになる。
【0058】
また、樹脂ライナ11などをチャンバ内にいれ、チャンバ内に不活性ガスを充填し、さらにチャンバ内の不活性ガスを全体的に又は接合部分80近傍の不活性ガスを局所的に加熱することもできる。この局所的な加熱の場合には、供給路162外のヒータを用いることもできる。ただし、上記した本実施形態の構成のほうが、製造設備を簡素化できる。
【0059】
<第2実施形態>
次に、図5を参照して、第2実施形態に係るガス容器1について相違点を中心に説明する。第1実施形態との相違点は、樹脂ライナ11を三つのライナ構成部材201,202,203により構成したことである。なお、図5では、補強層12については省略している。
【0060】
樹脂ライナ11は、長手方向において三分割された三つのライナ構成部材201,202,203を、レーザ溶着により接合して構成されている。両端に位置する二つのライナ構成部材201,202は、全体の形状がお碗状に形成されている。中央に位置するライナ構成部材203は、全体の形状が円筒状又は環状に形成されている。ライナ構成部材201,202の各々は、返し部211,221及び連通部212,222のほか、各口金3,3と反対側に接合部213,223を有している。一方、ライナ構成部材203は、軸方向の開口した両端側にそれぞれ接合部231,232を有している。
【0061】
これらの接合部213,223,231,232は、レーザ透過性又はレーザ吸収性の特性を有している。例えば、二つのライナ構成部材201,202は、レーザ透過性の熱可塑性樹脂で形成され、ライナ構成部材203は、レーザ吸収性の熱可塑性樹脂で形成される。
【0062】
樹脂ライナ11は、接合部213,231同士がレーザ溶着により互いに接合され、且つ接合部223,232同士がレーザ溶着により互いに接合される。そして、接合部213,231同士がレーザ溶着されて、ライナ構成部201,203間の接合部分が構成され、接合部223,232同士がレーザ溶着されて、ライナ構成部202,203間の接合部分が構成される。これらのレーザ溶着の際に、上記した製造設備(レーザトーチ100、不活性ガス供給系160、ライナ回転装置)が用いられる。
【0063】
したがって、本実施形態のように三つのライナ構成部材201,202,203で樹脂ライナ11を構成しても、上記実施形態と同様に、溶着性を向上でき、生産性の高いガス容器1を製造できる。なお、三つのライナ構成部材201,202,203は、レーザ溶着等の処理を別個に行うこともできるが、一括して同時に行うことが好ましい。また、ライナ構成部材が四つ以上の場合も同様である。すなわち、本発明は、軸方向に並ぶ複数のライナ構成部材を接合した樹脂ライナ11に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明した樹脂ライナ11のレーザ溶着については、自動車部品や配管部品などの各種の樹脂成形品に適用することができる。例えば、インテークマニホールドを複数の樹脂成形材で構成して、樹脂成形材同士をレーザ溶着で接合でき、その際に、温度調整された不活性ガスを吹き付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1実施形態に係るガス容器を示す断面図である。
【図2】第1実施形態に係るガス容器の接合部分を拡大して示す断面図である。
【図3】第1実施形態に係るガス容器の製造方法を説明する側面図である。
【図4】図3のIV−IV線で切断した部分断面図である。
【図5】第2実施形態に係るガス容器を示す断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 ガス容器、11 樹脂ライナ、12 補強層、21 ライナ構成部材、22 ライナ構成部材、80 接合部分、100 レーザトーチ、160 不活性ガス供給系、171 ガス吹付け口、201 ライナ構成部材、202 ライナ構成部材、203 ライナ構成部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が中空状のライナ構成部材を、複数個接合して構成される樹脂ライナを有するガス容器の製造方法であって、
不活性ガスの雰囲気下のライナ構成部材間の接合部分に対し、レーザを照射することにより当該ライナ構成部材間を接合する照射工程を有し、
前記照射工程では、前記接合部分の近傍における前記不活性ガスの温度が調整される、ガス容器の製造方法。
【請求項2】
前記不活性ガスの温度調整は、当該不活性ガスを加熱することにより行われる、請求項1に記載のガス容器の製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスは、前記接合部分に吹き付けられる、請求項1又は2に記載のガス容器の製造方法。
【請求項4】
前記不活性ガスは、不活性ガス供給系の途中で温度調整されてから、前記接合部分に吹き付けられる、請求項3に記載のガス容器の製造方法。
【請求項5】
前記不活性ガスは、前記ライナ構成部材の周面の略接線方向に沿うように、前記接合部分に吹き付けられる、請求項3又は4に記載のガス容器の製造方法。
【請求項6】
前記不活性ガスは、前記ライナ構成部材の周面の略接線方向であって且つ当該ライナ構成部材の略周方向に沿うように、前記接合部分に吹き付けられる、請求項3又は4に記載のガス容器の製造方法。
【請求項7】
前記照射工程は、前記ライナ構成部材をその軸線回りに相対的に回転させながら行われ、
前記不活性ガスは、前記ライナ構成部材の相対的な回転方向と同方向に沿うように、前記接合部分に吹き付けられる、請求項3ないし6のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。
【請求項8】
前記不活性ガスは、ガス吹付け口から噴出後に拡散を抑制されながら、前記接合部分に吹き付けられる、請求項3ないし7のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。
【請求項9】
前記不活性ガスは、前記ライナ構成部材の外側から前記接合部分に吹き付けられる、請求項3ないし8のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−223087(P2007−223087A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44751(P2006−44751)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】