説明

ガス微流動検出方法、ガス漏れ検査方法、ガス漏れ検査装置及び超音波流量計

【課題】構造の大型化及び製品価格の上昇を抑えつつ微少なガス流動を検出することが可能なガス微流動検出方法、ガス漏れ検査方法、ガス漏れ検査装置及び超音波流量計の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の超音波流量計10は、ガス管90の途中にフローセル20が接続され、その内部空間である計測管路22に第1のガスを滞留させると共に、計測管路22の外部から第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスを注入しかつ滞留させた状態にして、超音波の伝搬速度を所定のモニター期間に亘って計測する。次いで、第2のガスを滞留させてからの時間経過に伴った伝搬速度の推移(実測推移データ)と、第1のガスの流量を0にして第2のガスを自然拡散させた場合の伝搬速度の推移(基準推移データ)とを比較してガス漏れの有無を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路管又は容器におけるガスの流れの有無又は流量又はガス漏れを検出するためのガス微流動検出方法、ガス漏れ検査方法、ガス漏れ検査装置及び超音波流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のガス流動検出装置として、並列接続された複数の計測管をガス管の途中に接続して、それら各計測管にそれぞれ1対の超音波送受波器を設け、流量の大小に応じてガスを流す計測管の数を増減させることで、通常のガス使用によるガス流動から、ガス漏れのような微少なガス流動まで検出可能としたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−287676号公報(段落[0028]〜[0030]、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した従来のガス流動検出装置は、複数の計測管と複数対の超音波送受波器とが必要になるため、構造の大型化及び製品価格の上昇を招くという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、構造の大型化及び製品価格の上昇を抑えつつ微少なガス流動を検出することが可能なガス微流動検出方法、ガス漏れ検査方法、ガス漏れ検査装置及び超音波流量計の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係るガス微流動検出方法は、第1のガスが滞留した流路管又は容器における内部空間の一部を、1対の超音波送受波器の間で超音波を伝搬させるための超音波伝搬経路とし、第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスを流路管又は容器の外部から超音波伝搬経路に注入しかつ滞留させた状態にして、その超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度を計測し、その伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った推移と、実測又は演算にて求められる第1のガスの流量を0にした場合の第2のガスの自然拡散による伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った基準推移との比較に基づいて、第1のガスの流れの有無、流量、或いは、第1のガスの漏れを検出するところに特徴を有する。
【0007】
ここで、請求項1における「伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った推移と、実測又は演算にて求められる第1のガスの流量を0にした場合の第2のガスの自然拡散による伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った基準推移との比較」とは、以下の意味を含んでいる。即ち、「第2のガスを滞留させてから所定期間に亘って連続して計測された伝搬時間又は伝搬速度の経過時間に伴う変化を、基準推移の対応する同一所定期間における伝搬時間又は伝搬速度の経過時間に伴う変化と比較すること」や、「第2のガスを滞留させてから所定時間が経過した或る時点で計測された伝搬時間又は伝搬速度を、基準推移の対応する同一時点における伝搬時間又は伝搬速度と比較すること」を含む意味である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のガス微流動検出方法において、実測又は演算にて、第1のガス及び第2のガスが一定の温度の下、伝搬時間又は伝搬速度の基準推移を求めておき、第1のガスの流れの有無又は流量又は漏れの検出時の第1のガス及び第2のガスの温度に基づいて、基準推移を補正するところに特徴を有する。
【0009】
請求項3の発明に係るガス漏れ検査方法は、燃料である第1のガスを供給するためのガス管の途中に超音波流量計を接続し、超音波流量計のうち1対の超音波送受波器の間で超音波を伝搬させるための超音波伝搬経路を第1のガスが流動可能な状態にして、その超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度に基づいて第1のガスの流量を計測可能とすると共に、その超音波流量計を用いてガス管からのガス漏れの有無を検査するガス漏れ検査方法において、ガス管のうち超音波流量計を含んだ所定区間の上流側と下流側とを遮断することでガス管内に第1のガスを滞留させた状態にして、第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスをガス管の外部から超音波伝搬経路に注入しかつ滞留させた状態にして、その超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度を計測し、その伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った推移と、実測又は演算にて求められる第1のガスの流量を0にした場合の第2のガスの自然拡散による伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った基準推移との比較に基づいて、ガス管からの第1のガスの漏れの有無を検査するところに特徴を有する。
【0010】
ここで、請求項3における「伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った推移と、実測又は演算にて求められる第1のガスの流量を0にした場合の第2のガスの自然拡散による伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った基準推移との比較」とは、以下の意味を含んでいる。即ち、「第2のガスを滞留させてから所定期間に亘って連続して計測された伝搬時間又は伝搬速度の経過時間に伴う変化を、基準推移の対応する同一所定期間における伝搬時間又は伝搬速度の経過時間に伴う変化と比較すること」や、「第2のガスを滞留させてから所定時間が経過した或る時点で計測された伝搬時間又は伝搬速度を、基準推移の対応する同一時点における伝搬時間又は伝搬速度と比較すること」を含む意味である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3に記載のガス漏れ検査方法において、第1のガスは、メタンを主成分とした都市ガスであり、第2のガスは、都市ガスに含まれるブタン又はプロパンであるところに特徴を有する。
【0012】
請求項5の発明は請求項3に記載のガス漏れ検査方法において、第1のガスは、プロパンガスであり、第2のガスは、メタンであるところに特徴を有する。本発明における「プロパンガス」は、プロパンを主成分とする液化石油ガス(LPガス)を含む意味である。
【0013】
請求項6の発明は、請求項3乃至5の何れか1の請求項に記載のガス漏れ検査方法において、実測又は演算にて、第1のガス及び第2のガスが一定の温度の下、伝搬時間又は伝搬速度の基準推移を求めておき、第1のガスの漏れ検査時の第1のガス及び第2のガスの温度に基づいて、基準推移を補正するところに特徴を有する。
【0014】
請求項7の発明に係るガス漏れ検査装置は、第1のガスが滞留した流路管又は容器の内部に連通し、第1のガスで満たされ得る計測管路と、計測管路内を貫通する超音波伝搬経路に沿って超音波を送受波可能な1対の超音波送受波器と、第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスを流路管又は容器の外部から計測管路内に注入して滞留させるためのガス注入手段と、超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度を、計測管路内に第2のガスを滞留させてからの経過時間に対応させて計測する実測データ取得手段と、第1のガスの流量を0にした状態で超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度を基準伝搬時間又は基準伝搬速度として、計測管路内に第2のガスを滞留させてからの経過時間に対応させて記憶した基準データ記憶手段と、経過時間が同じ条件で、実測データ取得手段にて計測された伝搬時間又は伝搬速度と、基準伝搬時間又は基準伝搬速度との差分に基づいて流路管又は容器からの第1のガスの漏れを有無を判別するためのデータ比較手段とを備えたところに特徴を有する。
【0015】
請求項8の発明は、請求項7に記載のガス漏れ検査装置において、第1のガス及び第2のガスの温度を検出するための温度検出手段と、第1のガスの漏れ検査時の第1のガス及び第2のガスの温度に基づいて、基準伝搬時間又は基準伝搬速度を補正するデータ補正手段とを備えたところに特徴を有する。
【0016】
請求項9の発明に係る超音波流量計は、可燃燃料である第1のガスを供給するためのガス管の途中に接続されると共に、ガス管の内部に連通した計測管路を有し、通常は、超音波流量計のうち1対の超音波送受波器の間で超音波を伝搬させるための超音波伝搬経路を第1のガスが流動可能な状態で、その超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度に基づいて第1のガスの流量を計測すると共に、超音波伝搬経路に第1のガスを滞留させた状態にしてガス管からのガス漏れの有無を検出可能な超音波流量計において、第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスをガス管の外部から計測管路内に注入して滞留させるためのガス注入手段と、超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度を、計測管路内に第2のガスを滞留させてからの経過時間に対応させて計測する実測データ取得手段と、第1のガスの流量を0にした状態で超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度を基準伝搬時間又は基準伝搬速度として、計測管路内に第2のガスを滞留させてからの経過時間に対応させて記憶した基準データ記憶手段と、経過時間が同じ条件で、実測データ取得手段にて計測された伝搬時間又は伝搬速度と、基準伝搬時間又は基準伝搬速度との差分に基づいて流路管又は容器からの第1のガスの漏れを有無を判別するためのデータ比較手段とを備えたところに特徴を有する。
【0017】
請求項10の発明は、請求項9に記載の超音波流量計において、第1のガス及び第2のガスの温度を検出するための温度検出手段と、第1のガスの漏れ検査時の第1のガス及び第2のガスの温度に基づいて、基準伝搬時間又は基準伝搬速度を補正するデータ補正手段とを備えたところに特徴を有する。
【0018】
請求項11の発明は、請求項9又は10に記載の超音波流量計において、データ比較手段は、第2のガスを滞留させてからの経過時間が同じ条件で、実測データ取得手段にて計測された伝搬時間又は伝搬速度と、基準伝搬時間又は基準伝搬速度との差分が予め定められた許容差より大きくなった場合には、ガス漏れ有りと判定するように構成したところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0019】
[請求項1の発明]
請求項1のガス微流動検出方法によれば、第1のガスが滞留した流路管又は容器における超音波伝搬経路に、流路管又は容器の外部から第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスを注入しかつ滞留させた状態にして、超音波の伝搬時間又は伝搬速度を計測する。そして、伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った推移を、第1のガスの流量を0にした場合の第2のガスの自然拡散による伝搬時間又は伝搬速度の基準推移と比較することで、第1のガスの流れの有無又は流量又は流路管又は容器からの第1のガスの漏れを検出することができる。
【0020】
例えば、第1のガスが流動していない状態では、流路管又は容器内の気流が穏やかで第2のガスの拡散は比較的ゆっくりと進行するので、第2のガスを滞留させてからの経過時間に伴う超音波の伝搬時間又は伝搬速度の推移と、第1のガスの流量を0にした場合の基準推移との差異が比較的小さくなる。
【0021】
これに対し、第1のガスが流動している状態では、流路管又は容器内の気流によって第2のガスが比較的速く拡散するので、第2のガスを滞留させてからの経過時間に伴なう超音波の伝搬時間又は伝搬速度の推移と、基準推移との差異が比較的大きくなる。従って、経過時間に伴う超音波の伝搬時間又は伝搬速度の推移と基準推移との差異の大小に基づいて、第1のガスの流れの有無等を検出することができる。
【0022】
そして、本発明によれば、従来のように複数の計測管や複数対の超音波送受波器を必要としないので、構造の大型化及び製品価格の上昇を抑えつつ微少なガス流動を検出することが可能になる。
【0023】
[請求項2の発明]
請求項2の発明によれば、ガスの流れの有無等の検出を行ったときの第1のガス及び第2のガスの温度(流路管又は容器の内部温度)に基づいて、経過時間に伴う伝搬時間又は伝搬速度の基準推移を補正するから、第1のガスの流量を0にして実測又は演算により伝搬時間又は伝搬速度の基準推移を求めたときの温度と、実際にガスの流れの有無等の検出を行ったときの温度との相違による誤差分を排除することができる。これにより、ガスの流れの有無等をより正確に検出することが可能になる。
【0024】
[請求項3の発明]
請求項3のガス漏れ検査方法によれば、ガス管の途中に接続された超音波流量計の超音波伝搬経路に第1のガスを滞留させると共に、ガス管の外部から第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスを超音波伝搬経路に注入しかつ滞留させた状態にして、超音波の伝搬時間又は伝搬速度を計測する。そして、第2のガスを滞留させてからの時間経過に伴った伝搬時間又は伝搬速度の推移を、第1のガスの流量を0にした場合の第2のガスの自然拡散による伝搬時間又は伝搬速度の基準推移と比較することで、ガス管からのガス漏れ(微少なガス流動)の有無を判別することができる。
【0025】
例えば、ガス管にガス漏れが無い状態では、ガス管内の気流が穏やかで第2のガスの拡散が比較的ゆっくりと進行するので、経過時間に伴う超音波の伝搬時間又は伝搬速度の推移と、第1のガスの流量を0にした場合の基準推移との差異が比較的小さくなる。
【0026】
これに対し、ガス管にガス漏れがある状態では、ガス管内にガス漏れ箇所へと向かう気流が発生して第2のガスが比較的速く拡散するので、経過時間に伴う超音波の伝搬時間又は伝搬速度の推移と基準推移との間の差異が比較的大きくなる。従って、経過時間に伴う超音波の伝搬時間又は伝搬速度の推移と基準推移との間の差異の大小に基づいて、第1のガスの漏れの有無を判別することができる。
【0027】
そして、本発明によれば、従来のように複数の計測管や複数対の超音波送受波器を必要としないので、構造の大型化及び製品価格の上昇を抑えつつ第1のガスの漏れ(微少なガス流動)の有無を検出することが可能になる。
【0028】
[請求項4の発明]
請求項4の発明によれば、第1のガスが、メタンが主成分の都市ガスである場合に、その都市ガスに含まれるブタン又はプロパンを第2のガスとすれば、ガス漏れ検査のために第2のガスを注入した後でも、そのまま燃料として使用することが可能である。
【0029】
[請求項5の発明]
請求項5の発明によれば、第1のガスがプロパンガスである場合に、メタンを第2のガスとすれば、ガス漏れ検査のために第2のガスを注入した後でも、そのまま燃料として使用することが可能である。
【0030】
[請求項6の発明]
請求項6の発明によれば、ガス漏れ検査を行ったときの第1のガス及び第2のガスの温度(ガス管の内部温度)に基づいて、経過時間に伴う伝搬時間又は伝搬速度の基準推移を補正するから、第1のガスの流量を0にして実測又は演算により伝搬時間又は伝搬速度の基準推移を求めたときの温度と、実際のガス漏れ検査時の温度との相違による誤差分を排除することができ、ガス漏れの有無をより正確に判別することが可能になる。
【0031】
[請求項7の発明]
請求項7のガス漏れ検査装置によれば、第1のガスが滞留した流路管又は容器における超音波伝搬経路に、流路管又は容器の外部から第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスを注入しかつ滞留させた状態にして、超音波の伝搬時間又は伝搬速度を計測する。そして、時間経過が同じである条件で、ガス漏れ検査時に実測された伝搬時間又は伝搬速度と、第1のガスの流量を0にした状態の基準伝搬時間又は基準伝搬速度との差分に基づいて、流路管又は容器からの第1のガスの漏れ(微少なガス流動)の有無を検出することができる。
【0032】
例えば、流路管又は容器にガス漏れが無い状態では、流路管又は容器内の気流が穏やかで第2のガスの拡散が比較的ゆっくりと進行するので、時間経過が同じという条件で比較すると、ガス漏れ検査時に実測された超音波の伝搬時間又は伝搬速度と、基準伝搬時間又は基準伝搬速度との差分が比較的小さくなる。
【0033】
これに対し、流路管又は容器にガス漏れがある状態では、流路管又は容器内にガス漏れ箇所へと向かう気流が発生して第2のガスが比較的速く拡散するので、ガス漏れ検査時に実測された超音波の伝搬時間又は伝搬速度と、基準伝搬時間又は基準伝搬速度との差分が比較的大きくなる。従って、経過時間が同じという条件の下で、ガス漏れ検査時に実測された超音波の伝搬時間又は伝搬速度と、基準伝搬時間又は基準伝搬速度との差分の大小に基づいて、第1のガスの漏れ(微少なガス流動)の有無を判別することができる。
【0034】
そして、本発明によれば、従来のように複数の計測管や複数対の超音波送受波器を必要としないので、構造の大型化及び製品価格の上昇を抑えつつ微少なガス流動(ガス漏れの有無)を検出することが可能になる。
【0035】
[請求項8の発明]
請求項8の発明によれば、ガス漏れ検査時の第1のガス及び第2のガスの実測温度(流路管又は容器の内部温度)に基づいて、基準伝搬時間又は基準伝搬速度を補正するから、第1のガスの流量を0にして基準伝搬時間又は基準伝搬速度を求めたときの温度と、ガス漏れ検査時の実測温度との相違による誤差分を排除することができる。これにより、流路管又は容器からのガス漏れの有無をより正確に判別することが可能になる。
【0036】
[請求項9及び11の発明]
請求項9の超音波流量計によれば、ガス管の途中に接続された計測管路の超音波伝搬経路に第1のガスを滞留させると共に、計測管路の外部から第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスを超音波伝搬経路に注入しかつ滞留させた状態にして、超音波の伝搬時間又は伝搬速度を計測する。そして、時間経過が同じである条件で、ガス漏れ検査時に実測された伝搬時間又は伝搬速度と、第1のガスの流量を0にした状態の基準伝搬時間又は基準伝搬速度との差分に基づいて、ガス管からの第1のガスの漏れ(微少なガス流動)の有無を判別することができる。
【0037】
例えば、ガス管にガス漏れが無い状態では、ガス管内の気流が穏やかで第2のガスの拡散が比較的ゆっくりと進行するので、時間経過が同じという条件で比較すると、ガス漏れ検査時に実測された超音波の伝搬時間又は伝搬速度と、基準伝搬時間又は基準伝搬速度との差分が比較的小さくなる。
【0038】
これに対し、ガス管にガス漏れがある状態では、ガス管内にガス漏れ箇所へと向かう気流が発生して第2のガスが比較的速く拡散するので、ガス漏れ検査時に実測された超音波の伝搬時間又は伝搬速度と、基準伝搬時間又は基準伝搬速度との差分が比較的大きくなる。従って、経過時間が同じという条件の下で、ガス漏れ検査時に実測された超音波の伝搬時間又は伝搬速度と、基準伝搬時間又は基準伝搬速度との差分の大小に基づいて、ガス管からの第1のガスの漏れ(微少なガス流動)の有無を判別することができる。
【0039】
そして、本発明によれば、従来のように複数の計測管や複数対の超音波送受波器を必要としないので、構造の大型化及び製品価格の上昇を抑えつつ微少なガス流動(ガス漏れの有無)を検出することが可能になる。
【0040】
ここで、ガス漏れの有無の判別は、データ比較手段による比較結果に基づいて検査員が行うようにしてもよいし、請求項11の発明のように、データ比較手段がガス漏れの有無の判別まで行うようにしてもよい。
【0041】
[請求項10の発明]
請求項10の発明によれば、ガス漏れ検査時の第1のガス及び第2のガスの実測温度(ガス管の内部温度)に基づいて、基準伝搬時間又は基準伝搬速度を補正するから、第1のガスの流量を0にして基準伝搬時間又は基準伝搬速度を求めたときの温度と、ガス漏れ検査時の温度との相違による誤差分を排除することができる。これにより、ガス管からのガス漏れの有無をより正確に判別することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波流量計の側断面図
【図2】制御処理部のブロック図
【図3】ガス漏れ検査処理のフローチャート
【図4】経過時間に伴う超音波の伝搬速度の推移を示すグラフ
【図5】変形例に係る超音波流量計の側断面図
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の一実施形態を、図1〜図4に基づいて説明する。図1における符号90は、第1のガス(例えば、都市ガス、LPガス等の可燃性ガス)を供給するためのガス管(本発明の「流路管」に相当する)である。第1のガスは、所定の供給圧力で供給されており、ガス管90内は外気に対して略一定の加圧状態になっている。このガス管90の途中に、本発明の「ガス漏れ検査装置」及び「超音波流量計」に相当するガス漏れ検査機能付き超音波流量計10(以下、単に「超音波流量計10」という)が設けられている。
【0044】
図2に示すように、超音波流量計10は、検出器11と変換器12とから構成されており、検出器11は、ガス管90の途中に接続されるフローセル20を有している。図1に示すように、フローセル20は両端閉塞の筒形構造をなしており、その内部空間が第1のガスの流路を構成する計測管路22となっている。また、フローセル20の両端寄り上面からは、計測管路22と連通した2つの管接続部21,21が長手方向に並んで起立している。これら管接続部21,21が、ガス管90に対して着脱可能となっている。
【0045】
フローセル20のうち、長手方向の両端部壁23,23の内面には、1対の超音波送受波器30,30が取り付けられている。
【0046】
超音波送受波器30,30は略円柱構造をなしており、その一方の端面に超音波の送受波面31が設けられ、他方の端面に接続端子(図示せず)が備えられている。接続端子は、フローセル20の両端部壁23,23を気密状態に貫通して外部に露出しており、この接続端子と変換器12(図2参照)とが電気接続されている。なお、変換器12は、フローセル20の外面に一体に設けてもよいし、フローセル20から離して設けてもよい。
【0047】
フローセル20の内部には、計測管路22を長手方向(図1の左右方向)の中央部で二部屋に隔絶した内部隔壁24が備えられている。即ち、計測管路22は上流側の流入部屋22Aと下流側の流出部屋22Bとに仕切られており、1対の各超音波送受波器30,30が、流入部屋22Aと流出部屋22Bとに分けて配置されている。
【0048】
計測管路22の長手方向の中間領域には、円筒パイプ状のインナー管25が配置されている。そのインナー管25が内部隔壁24を貫いて計測管路22(フローセル20)と平行に延びており、インナー管25の両端部の開口が流入部屋22Aと流出部屋22Bとに配置されている。このインナー管25を軸方向から挟むようにして1対の超音波送受波器30,30が対向配置され、インナー管25の内部を貫通する超音波伝搬経路R1に沿って超音波を相互に送受信することが可能となっている。以下、1対の超音波送受波器30,30を区別する場合は、「上流側の超音波送受波器30A」、「下流側の超音波送受波器30B」という。
【0049】
両管接続部21,21にガス管90が接続されると、図1の太矢印に示すように、上流側の管接続部21からフローセル20の流入部屋22Aに第1のガスが流れ込み、インナー管25を通過し、流出部屋22Bを経て下流側の管接続部21からフローセル20の外部に排出される。
【0050】
以下、図2を参照しつつ、流量計測時の動作について説明する。変換器12の制御処理部40は、送受切替スイッチ45,46を制御して、まずは図2に示すように、上流側の超音波送受波器30Aを送波回路42に接続しかつ、下流側の超音波送受波器30Bを受波回路43に接続した状態にしてから、送波回路42及びクロックカウンタ44に送波指令信号Xを出力する。すると、送波回路42が上流側の超音波送受波器30Aを駆動し、超音波が上流側の超音波送受波器30Aから下流側の超音波送受波器30Bに向けて発信されると同時に、クロックカウンタ44がクロックパルスに基づいて時間計測を開始する。
【0051】
上流側の超音波送受波器30Aから発信された超音波は、計測管路22内(超音波伝搬経路R1上)に存在する第1のガスを媒体として伝搬し、下流側の超音波送受波器30Bにて受信される。受信波は下流側の超音波送受波器30Bに接続された受波回路43にて検知され、受波回路43は、受信波を検知すると受信波検知信号Yをクロックカウンタ44に出力する。受信波検知信号Yの入力によってクロックカウンタ44はカウントを停止して、そのカウント値(即ち、超音波の伝搬時間)を制御処理部40に出力し、0リセットされる。
【0052】
制御処理部40にカウント値が入力すると、送波回路42は、上流側の超音波送受波器30を駆動停止し、次に制御処理部40から出力される送波指令信号Xの待ち状態になる。また、この間に制御処理部40が送受切替スイッチ45,46を駆動し、送波回路42を下流側の超音波送受波器30Bに接続し、受波回路43を上流側の超音波送受波器30Aに接続する。
【0053】
次いで、制御処理部40は、送波回路42に送波指令信号Xを出力する。これにより、今度は、超音波の送信方向を逆向きにして上記した場合と同様の処理が行われる。そして、制御処理部40は、第1のガスの流れに対する順方向と逆方向の両方向で計測された伝搬時間の逆数差を演算し、これに基づいてインナー管25を流れる第1のガスの流速を演算する。また、この流速ち、既知であるインナー管25の管路25Aの断面積とから第1のガスの流量を演算する。
【0054】
以上が、流量計測時の動作説明である。ところで、超音波流量計10による流量計測では、想定されるガス流量の変動範囲に応じて測定レンジの上下限値が設定される。一般的な超音波流量計のレンジアビリティは、1:200程度であり、例えば、測定レンジの上限値を10000[L/時]に設定した場合、測定レンジの下限値は、50[L/時]となり、これを下回る微少な流れは0と見なして流量計測が行われる。ガス機器の通常使用中にこのような微少な流れが生じることはないので、ガス使用量を計測する上では、これでも問題は無い。しかしながら、このような測定レンジに設定した場合には、流量の計測結果(表示値)が「0」であっても、実際には、ガス漏れによって測定レンジの下限値を下回る微少なガス流動が生じている可能性が有る。これに対し、本実施形態の超音波流量計10は、流量計測の測定レンジの下限値を下回る微少なガス流動(ガス漏れ)を検出するためのガス漏れ検査機能を有している。以下、ガス漏れ検査機能に関する構成について説明する。
【0055】
図1に示すように、フローセル20には、第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスをフローセル20の外部から計測管路22内に注入するためのガス注入部50が設けられている。ガス注入部50は、例えば、流入部屋22Aと連通しており、開閉弁51を介して第2のガスを封入したガスボンベ52が接続可能となっている。ガスボンベ52の内圧は、ガス管90(フローセル20)の内圧より高くなっており、開閉弁51が開放すると圧力差によって第2のガスが計測管路22内に注入されるようになっている。また、第2のガスの注入量の調節は、内圧差やガス注入部50の口径等に応じて開閉弁51の開放時間を調節することで行う。ガスボンベ52は、市販のガスボンベを流用してもよいし、本実施形態の超音波流量計10のために設計された専用のガスボンベでもよい。ガス注入部50及び開閉弁51が本発明の「ガス注入手段」に相当する。
【0056】
超音波流量計10は、通常は、上述の如く第1のガスの流量計測を行っており、定期的に流量計測を中断して以下に説明するガス漏れ検査を行う。ガス漏れ検査時の動作を図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0057】
ガス漏れ検査時には、第1のガスが通常の流動中(ガス管90に接続されたガス機器が使用中)ではないことを確認するため、超音波の伝搬時間に基づいて計測された流量の計測結果が「0」か否かを判定する(S10)。流量の計測結果が「0」ではない(S10でNo)場合には、ガス機器が使用中であることが推定されるから、ガス漏れ検査を中止する。一方、流量の計測結果が「0」である場合(S10でYes)には、全てのガス機器が使用されていないことが推定されるから、ガス漏れ検査を続行する。即ち、開閉弁51を開放して、ガス注入部50からフローセル20内に一定量の第2のガスを注入する(S11)。これにより、フローセル20内には、互いに超音波の伝搬速度が異なる第1と第2のガスが滞留した状態になる。第2のガスの注入量は、第1のガスの種類や、フローセル20の容積等に応じて適宜設定すればよい。
【0058】
次に、第2のガスを計測管路22内に滞留させてから予め定めた待機時間(例えば、数秒程度)が経過したか否かを判定する(S12)。この待機時間は、第2のガスの注入時に計測管路22内に発生した気流が落ち着くのを待つために設けられている。待機時間が経過したら(S12でYes)、流量計測時と同様に、1対の超音波送受波器30,30間で超音波の送受信を行って、その伝搬時間及び伝搬速度を計測する(S13)。即ち、一方の超音波送受波器30から他方の超音波送受波器30へと超音波を送信してその伝搬時間を計測する。次に送信方向を逆向きにして(他方の超音波送受波器30から一方の超音波送受波器30へと)超音波を送信してその伝搬時間を計測する。
【0059】
この超音波の伝搬速度は、正逆両方向で送音波を送受信したときの伝搬時間の和又は逆数和により演算することができる。即ち、第2のガスを滞留させてから或る時間が経過した時点(第1と第2のガスが或る体積比になった時点)の超音波の伝搬速度をCとし、計測管路22内を流動するガスの流速をvとし、正逆両方向で送音波を送受信したときの伝搬時間をそれぞれt,tとし、超音波送受波器30,30間の距離をLとした場合に、
=L/(C+v)
=L/(C−v)
+t≒2L/C
(1/t)+(1/t)=2C/L
上記関係式が成立する。この関係式にt,t及びLの値を代入することで、第2のガスを滞留させてから或る時間が経過した時点(第1と第2のガスが或る体積比になった時点)での超音波の伝搬速度Cを演算することができる。
【0060】
そして、予め定めたモニター期間(例えば、5分間)に亘って、上記した正逆両方向で超音波の送受信を繰り返し行い、伝搬速度Cと、フローセル20内に第2のガスを滞留させてからの経過時間とを対応させた実測推移データを、制御処理部40の実測データ記憶部47に一時記憶する。なお、この処理が本発明の「実測データ取得手段」に相当する。
【0061】
ここで、計測管路22内の第2のガスは、第2のガスを滞留させてからの経過時間に伴って計測管路22の外部(ガス管90)へと徐々に拡散するので、計測管路22内の第1と第2のガスの体積比(濃度比)は、経過時間に伴って徐々に変化する。換言すれば、計測管路22内の第2のガスは、第1のガスによって時間経過と共に徐々に希釈される。そして、図4に示すグラフのように、計測管路22内の第1と第2のガスの体積比(濃度比)の変化、即ち、経過時間に伴って超音波の伝搬速度が徐々に変化する。
【0062】
モニター期間が終了したら(S14でYes)、超音波の送受信を停止する。そして、制御処理部40の基準データ記憶部48(本発明の「基準データ記憶手段」に相当する)から、予め求めておいた基準推移データ(図4の破線で示したグラフ)を読み出して、これら基準推移データと実測推移データとをデータ比較部49(本発明の「データ比較手段」に相当する)にて比較する(S15)。
【0063】
基準推移データは、例えば、第1のガスと第2のガスを一定の温度にして実測により求められたものであって、第1のガスの流量を0(真値)にして計測管路22内に第2のガスを自然拡散させた場合の超音波の伝搬速度(基準伝搬速度)と、第2のガスを計測管路22内に滞留させてからの経過時間とを対応させて記憶したデータである(例えば、図4の破線グラフ)。なお、基準推移データは、第1のガスと第2のガスを一定の温度にして演算により求めてもよい。
【0064】
ガス管90にガス漏れ箇所が有る場合と無い場合とでは、第2のガスを滞留させてからの経過時間に伴う超音波の伝搬速度Cの推移に、以下のような違いが生じる。即ち、ガス管90にガス漏れが無い場合、計測管路22内の気流は比較的穏やかなので、第2のガスは比較的ゆっくりと計測管路22の外部(ガス管90)へと自然拡散する。従って、計測管路22内における第2のガスの濃度変化(濃度低下)が比較的緩慢で、第2のガスを滞留させてからの経過時間に伴う伝搬速度Cの推移(単位時間当たりの変化量)が比較的緩やかになる(例えば、図4の破線で示したグラフを参照)。
【0065】
これに対し、ガス管90にガス漏れがある場合には、計測管路22内にガス漏れ箇所へと向かうガスの流れが生じるので、第2のガスが比較的速やかに計測管路22の外部(ガス管90)へと拡散する。従って、計測管路22内における第2のガスの濃度変化(濃度低下)が比較的速く、第2のガスを滞留させてからの経過時間に伴う伝搬速度Cの推移(単位時間当たりの変化量)が比較的大きくなる(例えば、図4の実線で示したグラフを参照)。
【0066】
そして、データ比較部49は、第2のガスを滞留させてから(第2のガス注入後から)の経過時間が同じ条件で基準推移データと実測推移データとを比較し、その差分(図4における「ΔC1」)が予め定められた許容差より大きくなった場合、或いは、単位時間当たりの伝搬速度の変化量(図4における「ΔC2/Δt」)が、予め定められた許容変化量より大きくなった場合には、ガス漏れ有りと判定する。ガス漏れ有りと判定した場合には、超音波流量計10又は超音波流量計10とは別に設けた警告器13を作動させたり、緊急遮断弁14を閉じて第1のガスの供給を遮断する等の対処動作を行うようにしてもよい。
【0067】
ここで、ガス漏れ検査時の計測管路22内に滞留した第1及び第2のガスの温度を図示しない温度センサ(本発明の「温度検出手段」に相当する)にて計測し、そのガス漏れ検査時の実測温度に基づいて、基準推移データを補正するようにしてもよい。これにより、ガス漏れ検査時の計測管路22内(第1と第2のガス)の温度と、第1のガスの流量を0(真値)にして実測又は演算により基準推移データを求めたときの設定温度との相違による誤差分を排除することができ、ガス漏れの有無をより正確に判別することができる。なお、このような構成とした場合、制御処理部40は本発明の「データ補正手段」に相当する。
【0068】
第1のガスがメタンを主成分とする都市ガスである場合には、第2のガスとして都市ガスに含まれているブタン又はプロパン(又はLPガス)を用いることが好ましい。その理由は、ガス漏れ検査のためにガス管90内に第2のガスを注入した場合でも、そのまま燃料として使用することが可能であるからである。また、第2のガスをブタンとする場合には、ガスボンベ52として、市販の家庭用カセットボンベを流用することが可能になる。なお、第2のガスは、超音波の伝搬速度が第1のガスとは異なるものであればよく、第1のガスが都市ガスの場合に、第2のガスとして、例えば、空気、窒素、酸素、不活性ガスを使用しても、同様にガス漏れ検査を行うことができる。
【0069】
計測管路22内の第1のガスと第2のガスの濃度比と、超音波の伝搬速度Cとの関係を具体例を挙げて説明する。例えば、第1のガスとしての「メタン」が滞留している容積500[ml]の計測管路22内に、第2のガスとしての「ブタン」を100[ml]注入したと仮定すると、注入直後の計測管路22内のメタン濃度は80%、ブタン濃度は20%になる。ガス中の超音波の伝搬速度Cは、ガスを理想気体と仮定すると公知な下記関係式から演算することができる。メタン濃度80%、ブタン濃度20%、摂氏23度(296[K])とした場合の超音波の伝搬速度Cは、下記関係式から356.448m/sとなる。これを、1対の超音波送受波器30,30間の距離を0.1[m]と仮定して伝搬時間に換算すると280546[ns]となる。
【0070】
C[m/s]={(γ・R・T/M)・101/2
γ:比熱比(メタン1.3、ブタン1.11)
R:気体定数(=8.314472)
T:絶対温度
M:平均分子量
【0071】
ガス管90にガス漏れが無いと仮定すると、メタンより比重が重く拡散し難いブタンは、気流の穏やかな計測管路22内でゆっくりと自然拡散することになるので、計測管路22内におけるブタンの濃度低下は非常に緩慢である。
【0072】
これに対し、ガス管90にガス漏れ箇所が有ったとすると、計測管路22内にガス漏れ箇所へと向かう気流が発生して、その気流の影響でブタンの拡散が促進されるので、計測管路22内のブタン濃度は、ガス漏れ箇所が無い場合に比べて速く減少する。例えば、ガス管90に0.08[L/分](約5[L/時])のガス漏れ箇所が有ったとすると、計測管路22内に滞留したメタンとブタンの混合ガスが、0.08[L/分]の割合でフローセル20から流出するのに対し、メタンが0.08[L/分]の割合で計測管路22に流入することになり、時間経過に伴ってメタン濃度が上昇し、ブタン濃度が低下する。より具体的には、当初20%であったブタン濃度は、注入後、1分経過すると約16.8%、2分経過すると約14.1%、3分経過すると約11.9%、4分経過すると約9.96%になる。そして、上記関係式からも明らかなように、計測管路22内のブタン濃度の低下及びメタン濃度の上昇に伴い、平均分子量Mが小さくなるので、超音波の伝搬速度Cが速くなり、例えば、注入から約4分経過後(ブタン濃度が10%まで低下した状態)では394.673[m/s]になる。これを、超音波送受波器30,30間の距離を0.1[m]と仮定して伝搬時間に換算すると、253374[ns]になる。つまり、ブタン濃度が10%(100000ppm)低下することで、伝搬速度に換算して約38[m/s]の差が生じると共に、伝搬時間に換算して約27000[ns]の差異が生じる。
【0073】
このように、本実施形態の超音波流量計10は、ガス管90の途中に超音波流量計10のフローセル20が接続され、その内部空間である計測管路22に第1のガスを滞留させると共に、計測管路22の外部から第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスを注入しかつ滞留させた状態にして、第2のガスを滞留させてからの時間経過に対応させて超音波の伝搬速度を計測する。次いで、時間経過に伴った伝搬速度の推移(実測推移データ)と、第1のガスの流量を0にして第2のガスを自然拡散させた場合の伝搬速度の推移(基準推移データ)とを比較する。そして、経過時間が同じであるという条件で、基準推移データと実測推移データとの差分「ΔC1」が予め定められた許容差より大きくなった場合、或いは、単位時間当たりの伝搬速度の変化量「ΔC2/Δt」が、予め定められた許容変化量より大きくなった場合に、ガス管90からの第1のガスの漏れ有りと判定する。本実施形態によれば、従来のように複数の計測管や複数対の超音波送受波器を必要としないので、構造の大型化及び製品価格の上昇を抑えつつ、流量の測定レンジを下回る微少なガス流動(ガス漏れ)の有無を検出することが可能になる。
【0074】
また、既存の超音波流量計の設置スペースに、ガス注入手段(ガス注入部50及び開閉弁51)及びガスボンベ52の配置スペースが有れば、ガス管90を変更することなく、本実施形態の超音波流量計10に交換することができる。
【0075】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0076】
(1)上記実施形態では、ガス漏れの検査対象物としてガス管90(流路管)を例示したが、検査対象物は、気密性を要する「容器」でもよい。
【0077】
(2)上記実施形態では、第2のガスを滞留させてからの経過時間に伴う超音波の伝搬速度の推移に基づいて、「ガス漏れの有無」を判別する構成であったが、流路管や容器内における「ガスの流れの有無」を判別したり、「流量」を検出する構成にしてもよい。
【0078】
(3)上記実施形態では、第2のガスを滞留させてからの経過時間に伴う超音波の「伝搬速度」の推移に基づいてガス漏れの有無を判別していたが、「伝搬時間」の推移に基づいてガス漏れの有無やガスの流れの有無を判別したり、流量を検出するようにしてもよい。
【0079】
(4)上記実施形態では、第2のガスを計測管路22のうちインナー管25の外側に注入していたが、超音波伝搬経路R1が貫通したインナー管25の内側に直接注入するようにしてもよい。
【0080】
(5)上記実施形態では、1対の超音波送受波器30,30を利用して流量計測とガス漏れ検査とを行っていたが、ガス漏れ検査だけを行うようにしてもよい。
【0081】
(6)上記実施形態では、1対の超音波送受波器30,30を計測管路22の軸方向で対向配置していたが、ガスの流れ方向(計測管路22の軸方向)に対して斜めに交差する方向で対向配置してもよい。また、超音波が流路管や容器の内面で1回又は複数回反射して送受信されるように1対の超音波送受波器を配置してもよい。
【0082】
(7)上記実施形態では、1対の超音波送受波器30,30が、フローセル20の内側(計測管路22内)に配置されていたが、フローセル20の外側に配置してもよい。
【0083】
(8)上記実施形態では、計測管路22を内部隔壁24で二部屋に仕切ってそれらの間をインナー管25で連通していたが、内部隔壁24及びインナー管25を設ける替わりに、計測管路22の中間部の断面積を絞ってもよい。
【0084】
(9)上記実施形態では、第2のガスが流入部屋22Aから注入される構成となっていたが、流出部屋22Bから注入される構成としてもよい。また、流入部屋22Aと流出部屋22Bの両方から注入可能な構成としてもよい。
【0085】
(10)上記実施形態では、超音波流量計10のデータ比較部49が、基準推移データと実測推移データとの比較結果に基づいてガス漏れの有無を判定するように構成されていたが、データ比較部49では、基準推移データと実測推移データとを比較するだけにしておき、ガス漏れの有無の判定は、データ比較部49による比較結果に基づいて検査員が行ってもよい。
【0086】
(11)上記実施形態では、ガス漏れ検査時のフローセル20内(第1及び第2のガス)の温度に基づいて基準推移データを補正していたが、ガス漏れ検査時の実測推移データを、実測又は演算により基準推移データを求めたときの温度に基づいて補正してもよい。
【0087】
(12)上記実施形態において、需要家のガス使用パターンに基づいてガスが使用される可能性が低い時間帯を割り出しておき、その時間帯にガス漏れ検査を実行するように構成することが好ましい。また、検査の実行周期は、半日、1日、1週間、1ヶ月その他、適宜設定すればよい。
【0088】
(13)上記実施形態において、第2のガスを滞留させてからの経過時間が同じ条件で、基準推移データと実測推移データとの差分が、予め定められた許容差に比べて極端に大きくなった場合或いは、単位時間当たりの伝搬速度の変化量が、予め定められた許容変化量に比べて極端に大きくなった場合には、通常のガス使用が開始されたことが推定されるから、ガス漏れ検査を中止して流量計測を再開するようにしてもよい。
【0089】
(14)上記実施形態では、第1のガスとして都市ガス、第2のガスとしてブタン及びプロパンを例示したが、超音波の伝搬速度が互いに異なる組み合わせであれば、これ以外でもよい。例えば、第1のガスがプロパンガス(LPガスを含む)である場合に、第2のガスとしてメタンを用いてもよい。
【0090】
(15)上記実施形態では、第2のガスを滞留させてから所定のモニター期間に亘って連続して超音波の伝搬時間及び伝搬速度を計測する構成であったが、第2のガスを滞留させてから所定時間が経過した或る一時点だけで伝搬時間又は伝搬速度を計測し、その「或る一時点で計測された伝搬時間又は伝搬速度」を、基準推移データのうちで対応する同一時点における伝搬時間又は伝搬速度と比較して、ガスの微流動(ガス漏れ)の有無を検出するようにしてもよい。或いは、第2のガスを滞留させた後の不連続な複数の時点で伝搬時間又は伝搬速度を計測し、その「不連続な複数の時点で計測された伝搬時間又は伝搬速度」を、基準推移データのうちで対応する同一複数の時点における伝搬時間又は伝搬速度とそれぞれ比較して、ガスの微流動(ガス漏れ)の有無を検出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0091】
10 超音波流量計
20 フローセル
22 計測管路
30 超音波送受波器
40 制御処理部
47 実測データ記憶部
48 基準データ記憶部(基準データ記憶手段)
49 データ比較部(データ比較手段)
50 ガス注入部(ガス注入手段)
51 開閉弁(ガス注入手段)
52 ガスボンベ
90 ガス管(流路管)
R1 超音波伝搬経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガスが滞留した流路管又は容器における内部空間の一部を、1対の超音波送受波器の間で超音波を伝搬させるための超音波伝搬経路とし、
前記第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスを前記流路管又は前記容器の外部から前記超音波伝搬経路に注入しかつ滞留させた状態にして、その超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度を計測し、
その伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った推移と、実測又は演算にて求められる前記第1のガスの流量を0にした場合の前記第2のガスの自然拡散による前記伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った基準推移との比較に基づいて、前記第1のガスの流れの有無、流量、或いは、前記第1のガスの漏れを検出することを特徴とするガス微流動検出方法。
【請求項2】
実測又は演算にて、前記第1のガス及び前記第2のガスが一定の温度の下、前記伝搬時間又は伝搬速度の前記基準推移を求めておき、
前記第1のガスの流れの有無又は流量又は漏れの検出時の前記第1のガス及び前記第2のガスの温度に基づいて、前記基準推移を補正することを特徴とする請求項1に記載のガス微流動検出方法。
【請求項3】
燃料である第1のガスを供給するためのガス管の途中に超音波流量計を接続し、前記超音波流量計のうち1対の超音波送受波器の間で超音波を伝搬させるための超音波伝搬経路を前記第1のガスが流動可能な状態にして、その超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度に基づいて前記第1のガスの流量を計測可能とすると共に、その超音波流量計を用いて前記ガス管からのガス漏れの有無を検査するガス漏れ検査方法において、
前記ガス管のうち前記超音波流量計を含んだ所定区間の上流側と下流側とを遮断することで前記ガス管内に前記第1のガスを滞留させた状態にして、前記第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスを前記ガス管の外部から前記超音波伝搬経路に注入しかつ滞留させた状態にして、その超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度を計測し、
その伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った推移と、実測又は演算にて求められる前記第1のガスの流量を0にした場合の前記第2のガスの自然拡散による前記伝搬時間又は伝搬速度の時間経過に伴った基準推移との比較に基づいて、前記ガス管からの前記第1のガスの漏れの有無を検査することを特徴とするガス漏れ検査方法。
【請求項4】
前記第1のガスは、メタンを主成分とした都市ガスであり、
前記第2のガスは、前記都市ガスに含まれるブタン又はプロパンであることを特徴とする請求項3に記載のガス漏れ検査方法。
【請求項5】
前記第1のガスは、プロパンガスであり、
前記第2のガスは、メタンであることを特徴とする請求項3に記載のガス漏れ検査方法。
【請求項6】
実測又は演算にて、前記第1のガス及び前記第2のガスが一定の温度の下、前記伝搬時間又は伝搬速度の前記基準推移を求めておき、
前記第1のガスの漏れ検査時の前記第1のガス及び前記第2のガスの温度に基づいて、前記基準推移を補正することを特徴とする請求項3乃至5の何れか1の請求項に記載のガス漏れ検査方法。
【請求項7】
第1のガスが滞留した流路管又は容器の内部に連通し、前記第1のガスで満たされ得る計測管路と、
前記計測管路内を貫通する超音波伝搬経路に沿って超音波を送受波可能な1対の超音波送受波器と、
前記第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスを前記流路管又は前記容器の外部から前記計測管路内に注入して滞留させるためのガス注入手段と、
前記超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度を、前記計測管路内に前記第2のガスを滞留させてからの経過時間に対応させて計測する実測データ取得手段と、
前記第1のガスの流量を0にした状態で前記超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度を基準伝搬時間又は基準伝搬速度として、前記計測管路内に前記第2のガスを滞留させてからの経過時間に対応させて記憶した基準データ記憶手段と、
前記経過時間が同じ条件で、前記実測データ取得手段にて計測された前記伝搬時間又は前記伝搬速度と、前記基準伝搬時間又は前記基準伝搬速度との差分に基づいて前記流路管又は前記容器からの前記第1のガスの漏れを有無を判別するためのデータ比較手段とを備えたことを特徴とするガス漏れ検査装置。
【請求項8】
前記第1のガス及び前記第2のガスの温度を検出するための温度検出手段と、
前記第1のガスの漏れ検査時の前記第1のガス及び前記第2のガスの温度に基づいて、前記基準伝搬時間又は前記基準伝搬速度を補正するデータ補正手段とを備えたことを特徴とする請求項7に記載のガス漏れ検査装置。
【請求項9】
可燃燃料である第1のガスを供給するためのガス管の途中に接続されると共に、前記ガス管の内部に連通した計測管路を有し、通常は、前記超音波流量計のうち1対の超音波送受波器の間で超音波を伝搬させるための超音波伝搬経路を前記第1のガスが流動可能な状態で、その超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度に基づいて前記第1のガスの流量を計測すると共に、前記超音波伝搬経路に前記第1のガスを滞留させた状態にして前記ガス管からのガス漏れの有無を検出可能な超音波流量計において、
前記第1のガスとは超音波の伝搬速度が異なる第2のガスを前記ガス管の外部から前記計測管路内に注入して滞留させるためのガス注入手段と、
前記超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度を、前記計測管路内に前記第2のガスを滞留させてからの経過時間に対応させて計測する実測データ取得手段と、
前記第1のガスの流量を0にした状態で前記超音波伝搬経路を伝搬する超音波の伝搬時間又は伝搬速度を基準伝搬時間又は基準伝搬速度として、前記計測管路内に前記第2のガスを滞留させてからの経過時間に対応させて記憶した基準データ記憶手段と、
前記経過時間が同じ条件で、前記実測データ取得手段にて計測された前記伝搬時間又は前記伝搬速度と、前記基準伝搬時間又は前記基準伝搬速度との差分に基づいて前記流路管又は前記容器からの前記第1のガスの漏れを有無を判別するためのデータ比較手段とを備えたことを特徴とする超音波流量計。
【請求項10】
前記第1のガス及び前記第2のガスの温度を検出するための温度検出手段と、
前記第1のガスの漏れ検査時の前記第1のガス及び前記第2のガスの温度に基づいて、前記基準伝搬時間又は前記基準伝搬速度を補正するデータ補正手段とを備えたことを特徴とする請求項9に記載の超音波流量計。
【請求項11】
前記データ比較手段は、前記第2のガスを滞留させてからの経過時間が同じ条件で、実測データ取得手段にて計測された前記伝搬時間又は前記伝搬速度と、前記基準伝搬時間又は前記基準伝搬速度との差分が予め定められた許容差より大きくなった場合には、ガス漏れ有りと判定するように構成したことを特徴とする請求項9又は10に記載の超音波流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−107966(P2012−107966A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256479(P2010−256479)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000116633)愛知時計電機株式会社 (126)
【Fターム(参考)】