説明

ガス成分調整用活性炭

【課題】天然ガス中の重質成分濃度を調整することが可能な活性炭の提供。
【解決手段】本発明は、窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布において、細孔径2.0nmの細孔容積が単位容積当たり0.5ml/ml以上であり、且つ窒素吸着等温線からBJH法により求めた積分細孔分布において、細孔径3.0nmにおける単位容積当たりの細孔容積から、細孔径2.0nmにおける単位容積当たりの細孔容積を減算した値が0.075ml/ml以上である、天然ガス成分調整用活性炭、を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガス等のエネルギー容量が大きいガス成分、特にブタンを調整するための活性炭に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題などから燃料資源として天然ガスの需要が高まっている。天然ガスは、産地等により異なるが、一般的にメタンを主成分とし、他にエタン、プロパン、ブタン等を含む燃料ガスである。天然ガスは石油の約二倍の埋蔵量が見込まれており、発熱量に対する二酸化炭素の発生量も少ないことからクリーンなエネルギーとして注目されている。
【0003】
特に、常温・大気圧下で気体であり、且つエネルギー効率に優れているなどの点から、ブタンガス(主としてカセットコンロやガスライター用)の需要が拡大している。
【0004】
ここで、天然ガスは、一般に極低温(−162℃)に冷却して液化(液化天然ガス(LNG))するか、あるいは常温又は高圧下で圧縮(圧縮天然ガス(CNG))することで貯蔵したものが輸入されている。
【0005】
しかしながら、いずれの方法も設備費や効率の観点から問題があるため、天然ガスを吸着材に高密度で貯蔵させる方法が開発されている(特開昭49−104213号公報、特開平6−55067号公報等)。高い吸着ポテンシャルを有する吸着材を用いることで、圧力だけでは液化しない天然ガス成分が液化状態に近い密度で当該吸着材に物理吸着される。
【0006】
一般に、天然ガスを活性炭等の吸着材の細孔内に安定的に吸着貯蔵を行わせるためには細孔径を小さく、且つ細孔容積を大きくすることが有効であると考えられており、そのため、従来の天然ガス吸着貯蔵装置には、出来る限り細孔径が小さく細孔容積の大きい活性炭が使用されていた(特開2005−273717号公報)。
【0007】
【特許文献1】特開昭49−104213号公報
【特許文献2】特開平6−55067号公報
【特許文献3】特開2005−273717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
天然ガスは濃度や成分比が安定しておらず、天然ガス成分の濃度を調節して天然ガスを安定供給する場合には、天然ガス成分の濃度が高すぎる時には当該成分を吸着し、そして低すぎる時には脱離することが必要となる。特に、高カロリー成分であるブタンは、その濃度によって天然ガス全体のカロリー量に大きな影響を及ぼすため、その濃度調整が課題となっている。また、ブタンガスは沸点がそれぞれ0℃付近と低く、常温近くでは温度によって濃度が変化しやすい。このような濃度変化は、安定したエネルギー供給の点で問題となることがある。
【0009】
従来の天然ガス吸着貯蔵用活性炭は、細孔径が小さく、吸着する能力が大きいため、天然ガス成分の吸着が主目的として使用される。このような活性炭においては、吸着破過により天然ガス成分の一部が漏れ出すことはあっても、天然ガス成分を脱離させてガス濃度を一定に調整することは困難である。事実、従来の吸着特性に優れた活性炭は、一旦吸着・保持したガス成分を再び脱離・放出するには加熱・加圧などの処理が必要とされ、ガス成分の調整用に用いることはできない。ましてや、活性炭に供給される天然ガスの濃度が経時的に大きく変化する場合、特定の成分の濃度を調整することは更に困難なものとなる。
【0010】
一例として、最初に低濃度、後に高濃度というように一定時間毎に濃度が変化して供給される天然ガスについて検討する。天然ガスが低濃度の時には、対象のガス成分は吸着破過になるまで活性炭に吸着される。この場合、当該ガス成分は吸着破過前は活性炭からほとんど排出されない。その後、破過状態になった活性炭に対し高濃度の天然ガスが供給されると、活性炭は対象のガス成分を吸着することができず、そのまま当該ガス成分は活性炭を通過することとなり、対象のガス成分は高濃度で排出されてしまう。その結果、ガス成分を一定濃度で供給することはできない。
【0011】
従って、本発明の目的は、天然ガス中のエネルギー容量が大きい成分の濃度を調整することが可能な活性炭を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が鋭意検討した結果、特定の細孔特性を有する活性炭を用いることで、濃度が変動し難い低温時にはガス成分、特にエネルギー容量が大きいブタンガスを優先的に吸着・保持し、一方、温度が高まり、ガス成分濃度が低下した時には、一旦吸着・保持したガス成分を再び周囲に放出することで、温度変動によるガス成分の濃度変動を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1]窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布において、細孔径2.0nmの細孔容積が単位容積当たり0.5ml/ml以上であり、且つ窒素吸着等温線からBJH法により求めた積分細孔分布において、細孔径3.0nmにおける単位容積当たりの細孔容積から、細孔径2.0nmにおける単位容積当たりの細孔容積を減算した値が0.075ml/ml以上である、天然ガス成分調整用活性炭。
[2]窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布において、細孔径ピークが1.8〜2.5nmである、[1]に記載の天然ガス成分調整用活性炭。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、細孔容積等を上述のような一定の範囲内に調節することで、BWC(ブタンワーキングキャパシティー)(ASTM D5228-92)が著しく向上する。従って、天然ガスに含まれるエネルギー容量の大きい成分、特にブタンに対する活性炭の吸着特性を十分保持したまま脱離特性を向上させることが可能となる。
【0015】
更に、現在天然ガスは都市ガス原料の約80%を占めており、その都市ガスの種類には種々のものが存在しているが、総カロリー量が高い12A、13Aガスが現在主流となっている。ブタンは発熱量が8,400kcal/Lと、他の天然ガス成分のものと比較して高カロリーであることから(メタン:2,000kcal/L;エタン:6,110kcal/L)、ブタンの濃度が安定していないと天然ガスの総カロリー量を大きく変動させることがあり得る。従って、天然ガスのように濃度が一定でなく、安定した品質のものを供給することが困難な場合であっても、本発明の活性炭は、一定濃度のブタン、すなわち一定カロリーのエネルギーを提供することができる。更に、本発明の活性炭は、それ自体を破過させなくても所望の成分を脱離するため、継続して使用することができる。
【0016】
尚、本願発明は、従来の活性炭がエネルギー容量の少ないメタンガスやエタンガスなども含めた天然ガス全体を吸着・保持させることを目的としていたのに対し、ブタンガスの濃度調整を目的としている点で異なる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の活性炭の細孔分布は、BJH(Barrett, Joyner and Halenda)法に従い窒素吸着等温線から測定することができる。本明細書に記載の細孔容積の値は、窒素吸着等温線からBJH法により求めた細孔分布に基づいて算出した値を指す。ここで、吸着等温線とは、一定温度における平衡濃度と平衡吸着量の関係を表したものである。本発明においては、市販のN細孔分布分析装置(ユアサアイオニクス社製NOVA3200)を用いて細孔分布及び細孔容積の測定を行った。本発明のマイクロ孔の容積については、NOVA3200の解析ソフトに従い、吸着等温線の横軸の相対圧をその相対圧での多層吸着層の厚み(Å)に換算して算出した(t−プロット解析)。本発明の活性炭の積分細孔分布及び微分細孔分布をそれぞれ図1及び図2に示す。図1における縦軸は、積分細孔容積(ml/ml)を表し、図2における縦軸は、微分細孔容積(Dv[log d])(ml/ml)を表す。
【0018】
図1及び図2に示す通り、本発明の活性炭は、BWCを向上させる観点から、窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布において、細孔径2.0nmの細孔容積が単位容積当たり0.5ml/ml以上であり、且つ窒素吸着等温線からBJH法により求めた積分細孔分布において、細孔径3.0nmにおける単位容積当たりの細孔容積から、細孔径2.0nmにおける単位容積当たりの細孔容積を減算した値が0.075ml/ml以上である。
【0019】
ここで、細孔径2.0nmの細孔容積が単位容積当たり0.5ml/ml細未満である場合、ブタンの脱離能力が低下するため、低濃度のガス濃度の調節に使用する場合には好ましくない。従って、ブタンの脱離能力の観点からは、細孔径2.0nm以上の細孔容積は単位容積当たり0.5ml/ml以上、特に0.6ml/ml以上であることが好ましい。また、細孔径3.0nmにおける単位容積当たりの細孔容積から、細孔径2.0nmにおける単位容積当たりの細孔容積を減算した値が0.075ml/ml以上、特に0.1ml/ml以上であることが好ましい。
【0020】
また、図2に記載の通り、細孔容積を微分細孔容積Dv[log d]で表した場合、本発明の活性炭は細孔径ピークが1.8〜2.5nmとなる。ブタン吸脱着能力を向上させる観点からは、該細孔径ピークは2.0〜2.5nmが好ましい。
【0021】
また、本発明の活性炭は、平均細孔直径がミクロ孔に属する従来の天然ガス吸着貯蔵用活性炭と異なり、平均細孔直径が2.4〜2.9nmのメソ孔に属するものである。理論に拘束されることを意図するものではないが、このような比較的大きい平均細孔直径を持ち、且つ特定の範囲の細孔直径の孔が従来のものより大きな細孔容積を有することで、ブタン吸脱着能力が向上するものと考えられる。
【0022】
本発明の活性炭は、限定しないが、鉱物系、例えば石炭系又は石油ピッチ等、あるいは植物系、例えば木材又はヤシ等を原料とすることができる。更に、本発明の活性炭は、細孔径をコントロールする観点からは石炭を原料としたものであることが好ましい。
【0023】
本発明の活性炭の形状は、限定しないが、ペレット形状、球状又は粉砕形状等の造粒形状である。一定容積に入れた場合の充填性を考慮すると、当該活性炭はペレット形状、例えば円柱、又は球状であることが好ましく、その直径は、例えば0.5〜12.0nmである。また、JIS 1474での硬さ試験において、本発明の活性炭は、石炭を原料とした場合、細孔容積が高いにも関わらず、90%以上の硬度を維持する。
【0024】
上述のような細孔特性を有する活性炭は、例えばフェノール樹脂を炭化、賦活して賦活度をコントロールした後、平均細孔直径がおよそ2.4〜2.9nmとなるように篩い分けすることで得られる。
【0025】
以下の実施例を用いて、本発明を更に具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
石炭粉を原料としてコールタール成型し、700℃にて炭化後、HOを5.5g/分投入して、水蒸気雰囲気下950℃で8時間賦活し、平均細孔直径が2.9nmになるようJIS篩網にて篩い分けすることで本発明の天然ガス成分調整用活性炭を調製した。
【0027】
(実施例2)
6時間賦活した点を除き実施例1と同様の手法を用い、平均細孔直径が2.4nmである本発明の天然ガス成分調整用活性炭を調製した。
【0028】
(比較例1)
4時間賦活した点を除き実施例1と同様の手法を用い、上述の活性炭と比較してより小さな細孔径を有する活性炭、具体的には平均細孔直径が2.0nmである天然ガス成分調整用活性炭を調製した。
【0029】
(比較例2)
10時間賦活した点を除き実施例1と同様の手法を用い、上述の活性炭と比較してより大きな細孔径を有する活性炭、具体的には平均細孔直径が3.8nmである天然ガス成分調整用活性炭を調製した。
【0030】
(窒素細孔分布測定方法)
上記活性炭サンプルを約20mg準備し、このサンプルをガラスホルダーに入れ、N2細孔分布分析装置(ユアサアイオニクス社製NOVA3200)において窒素吸脱着を行うことで細孔分布及び細孔容積を測定した(図1及び図2並びに表1を参照のこと)。表1中、「2nmの微分細孔容積」とは、図2に記載の微分細孔分布における微分細孔容積を指し、そして「2nm以上の積分細孔容積」及び「2〜3nm範囲の積分細孔容積」とは、それぞれ、図1に記載の積分細孔分布中の細孔径2.0nm以上の細孔容積の積分値及び細孔径3.0nmにおける単位容積当たりの積分細孔容積から、細孔径2.0nmにおける単位容積当たりの積分細孔容積を減算した値を表す。
【0031】
(硬度測定)
上記実施例及び比較例の活性炭サンプルをそれぞれ100ml正確に量り取った。鋼球を入れた硬さ試験用の皿に当該サンプルを入れて振とうさせた後、ふるいで篩い分け、ふるいの上に残ったサンプルの重量と試験前の重量とを比較した。これらの比率を硬度として算出した(JIS K 1474)。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果からは、比較例2の活性炭は硬度が低く、本発明の活性炭と比較して実用性の点で劣ることがわかる。
【0034】
(性能評価)
ASTM(米国材料試験協会;American Society for Testing and Materials)5228に従い、以下の方法を用いて上記活性炭(各15ml)の吸着脱離試験を実施した。
【0035】
・吸着試験
1. 上記活性炭を測定カラムに入れた後、3L/分で天然ガス(メタン:88.6%、エタン:7.0%、プロパン:3.2%、n−ブタン:0.69%、i−ブタン:0.50%、ペンタン:0.05%)を前記測定カラムに流して5℃又は40℃で平衡吸着させる。
2. 上記ガスの入りガスと出ガスの濃度差及び活性炭の重量変動が5%以内になった時点で吸着飽和とみなし平衡吸着工程を終了する。
【0036】
・脱離試験
1. 1L/分で窒素パージを行い、出ガスを20Lのテドラーバッグに保存する。
2. この間の天然ガス濃度の経時変化を測定し、天然ガスの出口濃度が0となるまで繰り返す。
3. 個々のバッグ内に含まれている天然ガス成分濃度を分析する。
4. 各ガス成分の濃度から、以下のように脱離量を算出する:
脱離量(重量%)=(20L×濃度(%)÷100÷24.45(25℃の1モル当たりのガス容量(L)×ガス成分の分子量)÷活性炭重量(g)×100
【0037】
5℃及び40℃での各ガス成分の吸着脱離量の比較をそれぞれ図3及び4に示す。尚、当該温度は本発明の活性炭の実用上の温度の上限及び下限を想定したものであるが、実際の上限及び下限はかかる温度に限定されない。これらの図からは、実施例1及び2の活性炭は、いずれの温度でもブタン、特にi−ブタンの吸着量と脱離量の差が大きく、濃度変化における調整能力が高いことがわかる。両ブタン成分の吸着脱離量の合計について要約した結果を5〜40℃範囲での平均吸着脱離量と共に表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2の結果から明らかなように、所定の細孔容積を有する実施例1及び2の活性炭は、40℃未満の温度、すなわち一般的な大気温度で、比較例1及び2の活性炭と比較して脱離効率が有意に高い。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、細孔容積及び細孔径を一定の範囲に調節することで、従来の活性炭と比較して脱離特性が向上し、且つ濃度変動におけるガス調整が可能な天然ガス調整用活性炭の提供が可能となる。本発明の天然ガス調整用活性炭は、かかる特性より、天然ガスプラントのガス供給側に配置してガスのカロリー変動の調整のために使用することが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、実施例1,2及び比較例1,2の活性炭の積分形細孔径分布を比較した図であり、ここで、横軸は細孔径(nm)、縦軸は積分細孔容積(ml/ml)を表す。
【図2】図2は、実施例1,2及び比較例1,2の活性炭の微分形細孔径分布を比較した図であり、ここで、横軸は細孔径(nm)、縦軸は微分細孔容積Dv[log d](ml/ml)を表す。
【図3】図3は、実施例1,2及び比較例1,2の活性炭に対する、13Aガスに含まれる成分の5℃での吸着脱離量(wt%)を表すグラフである。
【図4】図4は、実施例1,2及び比較例1,2の活性炭に対する、13Aガスに含まれる成分の40℃での吸着脱離量(wt%)を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布において、細孔径2.0nmの細孔容積が単位容積当たり0.5ml/ml以上であり、且つ窒素吸着等温線からBJH法により求めた積分細孔分布において、細孔径3.0nmにおける単位容積当たりの細孔容積から、細孔径2.0nmにおける単位容積当たりの細孔容積を減算した値が0.075ml/ml以上である、天然ガス成分調整用活性炭。
【請求項2】
窒素吸着等温線からBJH法により求めた微分細孔分布において、細孔径ピークが1.8〜2.5nmである、請求項1に記載の天然ガス成分調整用活性炭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−298668(P2009−298668A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157088(P2008−157088)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【Fターム(参考)】