説明

ガス栓及びガス栓の製造方法

【課題】ガス栓本体(1)のせん収容部(10)内にまわり対偶状態にせん(2)を収容し、せん(2)の外周面のせん摺動面(21)がせん収容部(10)の内周面の本体摺動面(11)に圧接しながらせん(2)が回動するガス栓に関し、本体摺動面(11)及びせん摺動面(21)に、防錆効果があり、両者間の気密性、潤滑性のある表面処理被膜を安価で且つ容易に形成すること。
【解決手段】ガス栓本体(1)及びせん(2)は鋳鉄製とし、ガス栓本体(1)は、機械加工により全体が仕上げられた後に、めっき処理と化成被膜処理によって形成されためっき被膜(51)と化成被膜(52)とからなる表面処理被膜(50)の上から、ローラバニッシング加工が施されてなり、せん(2)は、機械加工により仕上げられた後のせん摺動面(21)に、本体摺動面の表面処理被膜とは異なる硬度の被膜(55)を形成したこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はガス栓、特に、鋳鉄鋳物製のガス栓本体及びせんの摺動面に表面処理が施されてなるガス栓及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガス栓は、図4に示すように、ガス流路(1a)に連通するせん収容部(10)が形成されているガス栓本体(1)と、前記ガス流路(1a)に挿通するガス通過孔(20)が形成され且つ前記せん収容部(10)内に、まわり対偶状態に収容されるせん(2)と、せん(2)を回動操作する操作ハンドル(3)とから構成されている。
尚、せん収容部(10)は、図面における上方開放端に向かって拡径する形状に形成されており、せん(2)は、せん収容部(10)にちょうど嵌まり合う逆円錐台形状に形成されており、せん収容部(10)の内周面及びせん(2)の外周面は、それぞれ、操作ハンドル(3)の操作によってせん(2)が回動する際に、相互に擦れ合う本体摺動面(11)及びせん摺動面(21)を構成している。
【0003】
ガス栓本体(1)、せん(2)及び操作ハンドル(3)が鋳鉄製であるガス栓の場合、これらガス栓本体(1)、せん(2)、操作ハンドル(3)には、防錆のため、各々の表面にはめっき処理が施されて、めっき被膜が形成されている。
【0004】
従来のガス栓の本体摺動面(11)は、ガス栓本体(1)の全体にめっき被膜を施した後、所定の精度を得るために機械加工によって仕上げていたため、本体摺動面(11)に形成されためっき被膜は機械加工時に削り取られ、素地が露出していた。
【0005】
ガスメータ用のガス栓のように屋外に設置されるガス栓では、雨や雪、場所によっては潮風によって塩分を含んだ水が、操作ハンドル(3)とガス栓本体(1)の上端開放部との隙間から、ガス栓本体(1)内に浸入することがあり、素地が露出している本体摺動面(11)に錆びを生じさせてしまい、せん(2)がせん収容部(10)内に固着し、ガス栓の開閉操作ができなくなるといった問題がある。
【0006】
そこで、実公昭60−529号公報(特許文献1)や特開平4−341667号公報(特許文献2)には、本体摺動面(11)にも、防錆及び潤滑性を得るためのめっき処理を行うことが提案されている。
【0007】
めっき処理としては、溶融亜鉛のなかに浸漬させる溶融亜鉛めっきや、金属電気めっき等があるが、実公昭60−529号公報に開示のものでは、金属の電気めっき処理で形成されためっき被膜では、被めっき部の形状の変化により、被めっき面における通電量が変化するから膜厚が不均一になり、このため、摺動面に透間が生じ、気密性が大幅に低下したり、ガス栓本体(1)とせん(2)との嵌め合わせが得られないといった不都合が生じることを問題とし、これを解決する手段として、本体摺動面(11)とせん摺動面(21)の一方又は両方に、粒状減摩材とニッケルとの複合めっき被膜を無電解めっきによって形成することが開示されている。
又、特開平4−341667号公報にも、本体摺動面(11)とせん摺動面(21)に複合めっきによる被膜を形成することが開示されている。
【特許文献1】実公昭60−529号公報
【特許文献2】特開平4−341667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、鉄鋳物の表面に複合めっきを行うには、複合めっき被膜の膜厚を厚くする必要があるので、上述した特許文献2に開示されているように、下地めっき被膜を形成したり、複合めっき被膜自体をかなり厚く形成したりしなければならない。よって、複合めっきは、電気めっきに比べてコストが高くつくという問題がある。
【0009】
又、従来のガス栓本体(1)では、上述したように、全体にめっき処理を施した後に、本体摺動面(11)は機械加工により仕上げられるから、本体摺動面(11)に形成されためっき被膜は削り取られて、本体摺動面に鋳物の素地が露出してしまうと、本体摺動面が多孔質面となり、潤滑用及び気密用に塗布されるグリスのオイル成分が鋳物素材の内部に吸収されてしまう不都合がある。このような場合、本体摺動面(11)のグリスはオイル成分が抜けた状態となるため、潤滑性が失われ、せんの回動操作力が大きくなり、又、気密性が劣化するという問題がある。そのため、本体摺動面(11)のみにめっき処理を行おうとすると、本体摺動面(11)以外の部分にマスキングをしなければならず、マスキング部材の取り付けや取り外しに加えて、マスキング境界部分の処理等が必要となり、本体摺動面(11)へのめっき処理の作業性が悪く、コストが高いという問題がある。
【0010】
さらに、ガス栓本体(1)とせん(2)とに、同じ材質によるめっき被膜を形成した場合、本体摺動面(11)とせん摺動面(21)が同じ材質、同じ硬度となるため、両者間にカジリツキが発生し、せん(2)が円滑に回転しにくくなるといった不都合がある。
【0011】
本発明は、『ガス流路に連通するせん収容部を具備するガス栓本体と、前記せん収容部内にまわり対偶状態に収容されるせんとからなり、前記ガス流路の開閉は、前記せんの外周面であるせん摺動面を、前記せん収容部の内周面である本体摺動面に圧接させながら前記せんを回動させることにより行われるガス栓』において、前記本体摺動面及び前記せん摺動面の各々に、防錆効果があり、両者間の気密性、潤滑性を確保することのできる表面処理被膜を、安価で且つ容易に形成できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)請求項1に係る発明のガス栓は、『前記ガス栓本体及び前記せんは共に鋳鉄製とし、
前記ガス栓本体は、機械加工により、所定の形状、寸法及び精度に全体が仕上げられた後に施されるめっき処理と化成被膜処理によって全体にめっき被膜と化成被膜とからなる表面処理被膜が形成されると共に、前記表面処理被膜が形成された前記本体摺動面にローラバニッシング加工が施されてなるものとし、
前記せんは、機械加工により所定の形状、寸法及び精度に仕上げられた後の前記せん摺動面に、前記本体摺動面に形成された表面処理被膜とは異なる材質及び硬度の樹脂、金属、又は、その複合材料による被膜が形成されていること』を特徴とするものである。
鋳鉄を鋳造することによりガス栓本体及びせんを製造する。これら鋳鉄製のガス栓本体及びせんの各摺動面を含む内外表面全体を、機械加工により所定の形状・寸法・精度に仕上げる。尚、本体摺動面及びせん摺動面への機械加工は、切削加工の他、ローラバニッシング加工を加えても良い。
【0013】
そして、前記機械加工後の前記ガス栓本体の内外表面全体にめっき処理を施してめっき被膜を形成すると共に、その上から、化成被膜処理を施して化成被膜を形成する。これにより、本体摺動面を含むガス栓本体全体に、めっき被膜と化成被膜とからなる表面処理被膜が形成される。そして、前記表面処理被膜が形成された本体摺動面にローラバニッシング加工が施されてガス栓本体が完成する。本体摺動面にローラバニッシング加工を施すことによって、切削加工や表面処理被膜の膜厚の差による表面の凹凸が押しつぶされて平滑な摺動面を得ることができる。
【0014】
せんは、鋳造された後、ガス栓本体と同様に、機械加工によって所定の形状、寸法及び精度に仕上げられ、せん摺動面に、前記本体摺動面に形成された表面処理被膜とは硬度の異なる樹脂、金属、又は、その複合材料による被膜が形成される。これにより、せん収容部にせんを収容した状態にては、本体摺動面には異なる表面硬度のせん摺動面が圧接する状態となり、本体摺動面及びせん摺動面に同じ材質の被膜が形成されて同じ表面硬度に構成された場合に比べて、摩擦力が小さくなる。
【0015】
(2)請求項2に係る発明のガス栓は、請求項1に記載のガス栓において、『前記めっき処理は電気亜鉛めっき処理とすると共に、前記化成被膜処理は三価クロムによるクロメート被膜処理とし、前記せん摺動面に設ける被膜は、リン酸マンガン系被膜と、さらにその表面に形成されるスズ被膜とからなる』もので、電気亜鉛めっき処理によって鋳鉄の素地に亜鉛めっき被膜が形成されることとなり、さらにその上から、クロメート被膜処理により三価クロムによる化成被膜が形成されることとなる。クロメート被膜処理は亜鉛めっきの後処理として一般的であり、表面処理被膜の耐食性を向上させることができる。鋳鉄に亜鉛めっき被膜を設けることにより、本体摺動面の硬度は、鋳鉄鋳物自体の硬度よりも柔らかくなる。
他方、せんの表面に形成する被膜は、リン酸マンガン系被膜とスズ被膜からなり、これにより、せんの表面には、本体摺動面に形成される表面処理被膜よりもさらに柔らかい被膜が形成されることとなる。尚、これには公知の表面処理法が適用可能である。
【0016】
(3)請求項3のものは、『ガス流路に連通するせん収容部を具備するガス栓本体と、前記せん収容部内にまわり対偶状態に収容されるせんとからなり、前記ガス流路の開閉は、前記せんの外周面であるせん摺動面を、前記せん収容部の内周面である本体摺動面に圧接させながら前記せんを回動させることにより行われるガス栓の製造方法』に関するもので、前述した課題と同様な課題を解決するために講じた本発明の解決手段は、
『前記ガス栓本体は、
鋳鉄の鋳造により製造される鋳造工程と、
前記鋳造工程で製造された前記ガス栓本体全体を機械加工により、所定の形状、寸法及び精度に全体を仕上げる本体加工工程と、
前記本体加工工程の後に、前記ガス栓本体全体にめっき処理を行って前記ガス栓本体の内外表面全体にめっき被膜を形成するめっき処理工程と、
前記めっき処理工程で形成されためっき被膜全体に化成被膜処理を行って化成被膜を形成する化成処理工程と、
前記めっき被膜と前記化成被膜とからなる表面処理被膜が形成された前記本体摺動面に、ローラバニッシング加工を行うバニッシング加工工程により製造され、
前記せんは、
鋳鉄の鋳造により製造される鋳造工程と、
前記鋳造工程で製造された前記せんを機械加工により所定の形状、寸法及び精度に仕上げるせん加工工程と、
前記せん加工工程後の前記せん摺動面に、前記ガス栓本体に形成されている前記表面処理被膜とは異なる材質及び硬度の樹脂、金属、又は、その複合材料による被膜を形成するせん被膜形成工程により製造されること』を特徴とするもので、上記1項で記載した鋳鉄製のガス栓の場合と同じ作用が生じる。
【0017】
尚、請求項3に記載のガス栓の製造方法において、請求項4に記載のもののように、『前記めっき処理工程で行われる前記めっき処理は電気亜鉛めっき処理とすると共に、前記化成処理工程で行われる化成被膜処理は三価クロムによるクロメート被膜処理とし、前記せん被膜形成工程でせん摺動面に形成される被膜は、リン酸マンガン被膜と、その表面に形成されるスズ被膜からなる』ものが採用可能である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、請求項1に係る発明によれば、ガス栓本体は、めっき処理及び化成被膜処理によって表面処理被膜が形成される前に、機械加工によって、本体摺動面を含むガス栓本体全体が、所定の形状、寸法、精度になるように仕上げられているので、製造工程を簡素化することができる。言い換えれば、表面処理被膜が形成された後には、本体摺動面に切削加工を行わないから、本体摺動面には表面処理被膜が確実に形成されることとなる。よって、潤滑用、気密用のグリスが性能を維持したままで前記本体摺動面とせん摺動面との間に介在させることができ、せんの操作力や気密性が長期に渡って安定すると共に、確実な防錆効果も期待できる。
【0019】
さらに、例えば、金属の電気めっき処理で形成されためっき被膜の膜厚は、コーナ部やエッジ部及びその近傍で厚くなるので、ガス栓本体においては、本体摺動面の上端部やガス流路への連通口近傍部分における膜厚が、他の部分に比べて厚くなるが、これら部分は、錆びの発生し易い部分であるから、防錆効果が高くなる。
尚、本体摺動面には、めっき処理及び化成被膜処理が施されて表面処理被膜が形成された後に、ローラバニッシング加工が施されるから、本体摺動面における表面処理被膜の膜厚の差による凹凸は、素地の切削加工による微小凹凸と共に押し潰されて、精密性又はシール性が要求される本体摺動面を平滑な表面に形成することができる。
【0020】
又、せんの表面に形成する被膜を、ガス栓本体の内外表面全体に形成した表面処理被膜とは異なる硬度の材質からなるものにしたから、本体摺動面及びせん摺動面が、同じ材質の被膜が形成されて同じ表面硬度に構成された場合に比べて、せんの回動時の摩擦力が小さくなり、相互間のカジリツキが発生することがない。よって、せん収容部内でせんを円滑に回動させることができる。
【0021】
請求項2に係る発明によれば、本体摺動面に形成するめっき被膜を亜鉛めっき被膜とすることによって、鋳鉄の素地が露出していた従来のものに比べて本体摺動面の硬度を柔らかくすることができる。せん摺動面に形成する被膜を、亜鉛めっき被膜よりもさらに柔らかい金属材料により形成したから、本体摺動面とせん摺動面とのなじみ合わせがよくなり、ガス栓の気密性が向上すると共に、カジリツキもないため、せんの円滑な回動操作が可能となる。又、本体摺動面が鉄素地である場合に比べて、せん摺動面の被膜の磨耗が減少するから、ガス栓の耐久性も向上する。
【0022】
請求項3に係る発明によれば、請求項1に係る発明のガス栓を製造することができ、請求項4に係る発明によれば、請求項2に係る発明のガス栓を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。
本願発明の実施の形態におけるガス栓としては、図4に示したような、鋳鉄品としてのガス栓本体(1)とせん(2)と操作ハンドル(3)とを具備する、主に、ガスメータのメータ本体の上流側のガス配管に接続されるガス栓とした。
【0024】
まず、図1に基づいて、ガス栓本体(1)及びせん(2)の構成の概略について簡単に説明する。
従来の背景技術において説明したように、ガス栓本体(1)は、上方に開放すると共に逆円錐台形状のせん(2)が略密嵌状態に収容されるせん収容部(10)と、その上方開放端に連続する筒状部(12)とを備えた構成となっており、せん収容部(10)の両側方には、ネジ筒部からなるガス流路(1a)が同軸上に並ぶように連通している。
【0025】
筒状部(12)の上端部の内周面には、後述する操作ハンドル(3)を抜止め状態に連結させる為の円弧状のフランジ部(13)が内方に部分的に内方に向かって突設されている。
せん(2)は、せん収容部(10)内に丁度収容される大きさの上方に向かって拡径する逆円錐台形状体であり、ガス流路(1a)の連通口に対応する位置には両者を連通させるためのガス通過孔(20)が貫通している。
【0026】
又、せん(2)の上面には、操作ハンドル(3)に相対回動阻止状態に連結させるために先端が略直方体状に形成された係合凸部(22)が設けられており、その高さは、せん(2)をせん収容部(10)に収容した状態で、先端が筒状部(12)の上端開放部に達する程度に設定されている。又、係合凸部(22)の基端部を囲むように、コイルバネ(4)(図4参照)を受けるための環状凹部(23)が形成されている。
【0027】
このせん(2)を、操作ハンドル(3)の操作によって、せん収容部(10)内で90度回動させることにより、ガス流路(1a)は開閉することとなる。
尚、操作ハンドル(3)は、図4に示すように、筒状部(12)に外嵌してその上方開放部を閉塞し且つせん(2)の係合凸部(22)に相対回動阻止状態に係合する連結部(30)と、前記連結部の側方に延長形成されているハンドル部(31)とから構成されている。
【0028】
ハンドル部(31)を持って所定の方向に回動させると、固定状態にあるガス栓本体(1)に対して、せん(2)は、操作ハンドル(3)の回動に伴って、せん収容部(10)内を、まわり対偶状態に回動する。
このとき、せん(2)の外周面は、せん収容部(10)の内周面に擦れ合うこととなり、せん(2)の外周面はせん摺動面(21)として、せん収容部(10)の内周面は本体摺動面(11)として機能する。
【0029】
次に、図2及び図3に基づいて、ガス栓本体(1)及びせん(2)の製造について説明する。
ガス栓本体(1)は、鋳造工程で、鋳鉄(5)により鋳造し、その後の本体加工工程で、切削加工によって、小さな凹凸が残る鋳肌面を削り取ると共に、ネジ筒部(12)の内周面や、ガス流路(1a)のネジ筒部や、さらには、せん収容部(10)等を、所定の形状、寸法、及び精度に仕上げた。この時点での、せん収容部(10)の内周面である本体摺動面(11)の表面粗さは、Ra0.45μm、ガス栓本体(1)を構成している鉄鋳物の硬度は約200ビッカースであった。
【0030】
本体加工工程によって仕上がり状態に機械加工されたガス栓本体(1)全体に、めっき処理工程で電気亜鉛めっき処理を施し、ガス栓本体(1)の内外表面全体に亜鉛めっき被膜(51)を形成した。
尚、本体摺動面(11)の全体に、亜鉛めっき被膜(51)を確実に形成するために、ガス栓本体(1)の形状を考慮し、ガス栓本体(1)の外表面に15μmの亜鉛めっき被膜(51)を形成した。
【0031】
その後、化成処理工程にて、亜鉛めっき被膜(51)の上から、化成被膜処理として、三価クロムによる、膜厚約2μm程のクロメート被膜(52)を形成した。
これにより、ガス栓本体(1)の内外表面全体に、亜鉛めっき被膜(51)とクロメート被膜(52)からなる表面処理被膜(50)が形成され、この状態での、本体摺動面(11)の表面粗さは、Ra0.45μm、硬度は、66ビッカースであった。
【0032】
その後、バニッシング加工工程において、ガス栓本体(1)の精密性及びシール性が要求される本体摺動面(11)に、ローラバニッシング加工を施した。これにより、本体摺動面(11)の表面粗さは、Ra0.4μmとなり、硬度は、85ビッカースになった。
これにて、ガス栓本体(1)が完成し、本体摺動面(11)の硬度は、鋳鉄の素地が露出したままの場合に比べて、かなり柔らかくすることができた。
【0033】
せん(2)も、鋳造工程にて鋳鉄(5)で所定の形状に鋳造し、次のせん加工工程における切削加工にて、ガス通過孔(20)や、係合凸部(22)や、環状凹部(23)、さらには、せん摺動面(21)を、所定の形状、寸法、及び精度に仕上げた。この時点での、せん摺動面(21)の表面粗さは、Ra0.8μmであった。さらに、全体にローラバニッシング加工を施すことにより、せん摺動面(21)の表面粗さはRa0.6μmとなった。
【0034】
その後、せん被膜形成工程にて、せん(2)全体に、リン酸マンガン系被膜(53)を形成すると共に、さらに、その上に、スズ被膜(54)を形成し、膜厚が約7μmの表面処理被膜(55)を形成した。これにより、せん(2)が完成し、せん摺動面(21)の硬度は、50ビッカースとなった。尚、せん(2)の表面に、リン酸マンガン系被膜(53)とスズ被膜(54)を形成することは、実公平4−7405号公報に開示されている。
【0035】
上記した製造方法により完成したせん(2)のせん摺動面(21)に、潤滑・気密用のグリスを塗布して、せん(2)を、ガス栓本体(1)のせん収容部(10)内に、筒状部(12)の上方開放部から挿入する。その後、せん(2)の環状凹部(23)にコイルバネ(4)を装着し、その上から操作ハンドル(3)を、ガス栓本体(1)のフランジ部(13)に取り付ける。
尚、詳述しないが、操作ハンドル(3)も鋳鉄により鍛造され、切削加工された後に、防錆用に、所定のめっき処理が施されている。
【0036】
従来のガス栓本体(1)は、鍛造の後、機械加工を施し、その機械加工面に電気めっき処理を施し、電気めっき処理後の本体摺動面(11)にさらに仕上加工を施していたから、仕上加工が施された前記本体摺動面(11)は前記電気めっき被膜が削られて鋳鉄の素地が露出する態様となっていた。このため、本体摺動面(11)の硬度は鉄鋳物の硬度(200)に相当し、それに対し、表面処理されたせん(2)のせん摺動面(21)は、かなり柔らかく仕上げられていた。そのため、硬い本体摺動面(11)に摺擦されるせん摺動面(21)の表面処理被膜が磨耗し易く、気密性に問題があった。
【0037】
それに比べて、本願発明のガス栓では、ガス栓本体(1)に亜鉛めっき被膜を形成することにより、本体摺動面(11)の硬度が鉄鋳物の硬度に比べてかなり柔らかくなり、これに擦り合わせるせん摺動面(21)の硬度はそれ以上に柔らかく仕上げてあるから、両者のなじみ合わせが良くなり、気密性が向上する。
【0038】
尚、両者にはそれぞれ異なる硬度の表面処理被膜(51)(55)を形成したから、相互間のカジリツキが発生しない上に、本体摺動面(11)に鉄素地が露出することがないので、グリスの性能を十分発揮させることができ、長期にわたってせん(2)の円滑な操作が可能になる上に、防錆効果も確実となる。
尚、上述した実施の形態では、ガス栓本体(1)の本体加工工程において、切削加工のみを施して仕上げたが、切削加工に加えてローラバニッシング加工も施しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態のガス栓に採用されるガス栓本体及びせんの断面図。
【図2】本発明の実施の形態のガス栓のガス栓本体及びせんの製造工程を示す説明図。
【図3】本発明の実施の形態のガス栓のガス栓本体及びせんの断面図。
【図4】従来のガス栓の説明図。
【符号の説明】
【0040】
(1) ・・・・・・・・ガス栓本体
(10)・・・・・・・・せん収容部
(11)・・・・・・・・本体摺動面
(1a)・・・・・・・・ガス流路
(2) ・・・・・・・・せん
(21)・・・・・・・・せん摺動面
(50)(55)・・・・・・表面処理被膜
(51)・・・・・・・・めっき被膜(亜鉛めっき被膜)
(52)・・・・・・・・化成被膜(クロメート被膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流路に連通するせん収容部を具備するガス栓本体と、前記せん収容部内にまわり対偶状態に収容されるせんとからなり、前記ガス流路の開閉は、前記せんの外周面であるせん摺動面を、前記せん収容部の内周面である本体摺動面に圧接させながら前記せんを回動させることにより行われるガス栓において、
前記ガス栓本体及び前記せんは共に鋳鉄製とし、
前記ガス栓本体は、機械加工により、所定の形状、寸法及び精度に全体が仕上げられた後に施されるめっき処理と化成被膜処理によって全体にめっき被膜と化成被膜とからなる表面処理被膜が形成されると共に、前記表面処理被膜が形成された前記本体摺動面にローラバニッシング加工が施されてなるものとし、
前記せんは、機械加工により所定の形状、寸法及び精度に仕上げられた後の前記せん摺動面に、前記本体摺動面に形成された表面処理被膜とは異なる材質及び硬度の樹脂、金属、又は、その複合材料による被膜が形成されていることを特徴とするガス栓。
【請求項2】
請求項1に記載のガス栓において、前記めっき処理は電気亜鉛めっき処理とすると共に、前記化成被膜処理は三価クロムによるクロメート被膜処理とし、
前記せん摺動面に設ける被膜は、リン酸マンガン系被膜と、さらにその表面に形成されるスズ被膜とからなることを特徴とするガス栓。
【請求項3】
ガス流路に連通するせん収容部を具備するガス栓本体と、前記せん収容部内にまわり対偶状態に収容されるせんとからなり、前記ガス流路の開閉は、前記せんの外周面であるせん摺動面を、前記せん収容部の内周面である本体摺動面に圧接させながら前記せんを回動させることにより行われるガス栓の製造方法において、
前記ガス栓本体は、
鋳鉄の鋳造により製造される鋳造工程と、
前記鋳造工程で製造された前記ガス栓本体全体を機械加工により、所定の形状、寸法及び精度に全体を仕上げる本体加工工程と、
前記本体加工工程の後に、前記ガス栓本体全体にめっき処理を行って前記ガス栓本体の内外表面全体にめっき被膜を形成するめっき処理工程と、
前記めっき処理工程で形成されためっき被膜全体に化成被膜処理を行って化成被膜を形成する化成処理工程と、
前記めっき被膜と前記化成被膜とからなる表面処理被膜が形成された前記本体摺動面に、ローラバニッシング加工を行うバニッシング加工工程により製造され、
前記せんは、
鋳鉄の鋳造により製造される鋳造工程と、
前記鋳造工程で製造された前記せんを機械加工により所定の形状、寸法及び精度に仕上げるせん加工工程と、
前記せん加工工程後の前記せん摺動面に、前記ガス栓本体に形成されている前記表面処理被膜とは異なる材質及び硬度の樹脂、金属、又は、その複合材料による被膜を形成するせん被膜形成工程により製造されることを特徴とするガス栓の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のガス栓の製造方法において、前記めっき処理工程で行われる前記めっき処理は電気亜鉛めっき処理とすると共に、前記化成処理工程で行われる化成被膜処理は三価クロムによるクロメート被膜処理とし、
前記せん被膜形成工程でせん摺動面に形成される被膜は、リン酸マンガン被膜と、その表面に形成されるスズ被膜からなることを特徴とするガス栓の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−14410(P2008−14410A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186673(P2006−186673)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000151977)株式会社藤井合金製作所 (66)
【Fターム(参考)】