説明

ガス検出装置

【課題】熱容量が小さな装置であっても簡単にガスの種類の判別を行うことができるガス検出装置を提供する。
【解決手段】接触燃焼式ガスセンサが、検知対象ガスと接触燃焼して温度が変化すると抵抗値が変化する。ノコギリ波駆動回路が、供給開始から所定時間t2かけて徐々に供給電圧が増加した後に一定値になるようなノコギリ状のパルス電圧を接触燃焼式ガスセンサに供給する。微分解析部が、パルス電圧供給中のセンサ出力を微分して微分波形を取得する。ガス検出部が、微分波形のピーク位置に基づいてガス種類を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出装置に係り、特に、検知対象ガスと接触燃焼して温度が変化すると抵抗値が変化する接触燃焼式のセンサ素子と、該センサ素子を間欠的に前記検知対象ガスとの接触燃焼が可能な高温に制御するパルス電圧を前記センサ素子に供給する加熱手段と、前記パルス電圧の供給開始から前記センサ素子の抵抗値に応じた出力が一定になるまでの立ち上がり時間に基づいて検知対象ガスの種類の判別を行うガス検出手段とを備えたガス検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上述したガス検出装置としては、接触燃焼式のセンサ素子を用いたものが提案されている。このセンサ素子は、高温に制御するとイソブタン(以下i−B)、メタン(以下CH4)、水素(以下H2)、一酸化炭素(以下CO)などの無極性又は低有極性のガスと接触燃焼して温度が上昇し抵抗値が変化する。従って、センサ素子の抵抗値に応じた出力がガス濃度に応じた値となる。
【0003】
上述した無極性又は低有極性のガスの種類を判別するガス検出装置として、例えば特許文献1に示されたものが知られている。特許文献1のガス検出装置は、矩形状のパルス電圧が供給されるセンサ素子の抵抗値に応じたセンサ出力を微分して、その微分波形のピーク位置に基づいてガス種類の判別を検出している。検知対象ガスの種類によって燃焼開始温度が異なるため、矩形状のパルス電圧の供給を開始してからセンサ出力が立ち上がるまでの立ち上がり時間が異なる。このため、この立ち上がり時間に応じた微分波形のピーク位置は、混合ガスの種類に応じた値となる。
【0004】
しかしながら、混合ガス中でセンサ素子に矩形状のパルス電圧を供給して瞬間的に高温に制御すると、図13に示すように、ガス種が違ってもほぼ同じ位置にピークが出現してしまう。同図に示すように、H2単ガスのピーク位置とH2及びi−Bの混合ガスのピーク位置とは、20ms程度の差しかない。ピーク位置が重なると、ガスの種類の判別(定性)又は判別したガス種の濃度の検出(定量)を行うことができない。
【0005】
また、シリコン基板上に薄膜ダイアフラムを形成し、この薄膜ダイアフラム上にセンサ素子を設けて熱容量を小さくして省電力化を図ったガス検出装置が知られている。特に、このようなガス検出装置の場合、矩形状のパルス電圧を供給するとより短時間で高温までセンサ温度が上昇してしまい、ガスの種類を判別することは不可能であった。
【特許文献1】特許2805048号公報
【特許文献2】特開2005−83949号公報
【特許文献3】特開2002−243682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記のような問題点に着目し、熱容量が小さな装置であっても簡単にガスの種類の判別を行うことができるガス検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の発明は、検知対象ガスと接触燃焼して温度が変化すると抵抗値が変化する接触燃焼式のセンサ素子と、該センサ素子を間欠的に前記検知対象ガスとの接触燃焼が可能な高温に制御するパルス電圧を前記センサ素子に供給する加熱手段と、前記パルス電圧の供給を開始してから前記センサ素子の抵抗値に応じたセンサ出力が立ち上がるまでの立ち上がり時間に基づいて前記検知対象ガスの種類の判別を行うガス検出手段とを備えたガス検出装置において、前記加熱手段が、供給開始から所定時間かけて徐々に供給電圧が増加した後に一定値になるようなノコギリ状の前記パルス電圧を供給するものであることを特徴とするガス検出装置に存する。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記センサ出力を微分して微分波形を取得する微分手段を備え、そして、前記ガス検出手段が、前記立ち上がり時間に応じた前記微分波形のピーク位置に基づいて前記検知対象ガスの種類の判別を行うものであることを特徴とする請求項1記載のガス検出装置に存する。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記所定時間が、供給開始と同時に供給電圧が前記一定値になるような矩形状のパルス電圧を前記センサ素子に供給したとき、前記センサ素子が当該矩形状のパルス電圧の供給開始から前記一定値に応じた温度に達するまでの時間よりも長い時間に予め設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載のガス検出装置に存する。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記加熱手段が、前記所定時間かけて前記供給電力を一定の割合で増加させることを特徴とする請求項1〜3何れか1項記載のガス検出装置に存する。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように請求項1記載の発明によれば、センサ素子は低温から所定時間をかけてゆっくり接触燃焼可能な高温になり、ガス種類に応じた立ち上がり時間が重なることがないので、熱容量が小さな装置であっても簡単にガスの種類の判別を行うことができる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、微分するだけで簡単に立ち上がり時間に応じた値を得ることができるので、簡単な構成でガスの種類の判別を行うことができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、確実にセンサ素子の温度がノコギリ状のパルス電圧に追従して、低温から所定時間をかけてゆっくり接触燃焼可能な高温になるので、確実に熱容量が小さな装置であっても簡単にガスの種類の判別を行うことができる。
【0014】
請求項4記載の発明によれば、より確実にガス種類に応じた立ち上がり時間が重なることがないので、より正確にガスの種類の判別を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係るガス検出装置の一実施の形態を示すブロック図である。図2は、図1のガス検出装置を構成する接触燃焼式ガスセンサに供給するパルス電圧の波形例を示すタイミングチャートである。図3は、図1のガス検出装置を構成する接触燃焼式ガスセンサの構成例を示し、(A)は平面図、(B)は底面図および(C)は平面図におけるA−A線断面図である。
【0016】
ガス検知装置1は、コントローラ10と、駆動電源20と、出力部30と、検出用のブリッジ回路を含む接触燃焼式ガスセンサ40と、加熱手段としてのノコギリ波駆動回路50とから構成される。コントローラ10には、駆動電源20、出力部30、接触燃焼式ガスセンサ40及びノコギリ波駆動回路50が接続されている。
【0017】
コントローラ10は、記憶部11、センサ出力検出部12、サンプリング制御部13、微分手段としての微分解析部14及びガス検出手段としてのガス検出部15を含んで構成される。図示しないが、コントローラ10は、タイマ部等も有している。このコントローラ10は、たとえば、マイクロコンピュータにて具現化可能である。
【0018】
ガス検知装置1では、図2の実線で示すようなノコギリ波状のパルス電圧が供給されて通電制御され、この接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力に基づいて、コントローラ10にて所望のガス種が検知され出力される。
【0019】
接触燃焼式ガスセンサ40は、後述するノコギリ波駆動回路50にて図2の実線で示すようなノコギリ波状のパルス電圧が供給されて間欠的に検知対象ガスと接触燃焼する高温に制御される。この接触燃焼式ガスセンサ40は、図3に示すように、センサ素子としての感応素子部Rsおよび補償素子部Rrから構成されている。感応素子部Rsは、白金(Pt)ヒータ42および白金族、たとえばパラジウム(Pd)を担持したアルミナ(Al23)からなるPd/Al23触媒層43を含み、補償素子部Rrは、白金(Pt)ヒータ44およびアルミナ(Al23)層45を含む。
【0020】
詳しくは、図3(A)および(B)に示すように、この接触燃焼式ガスセンサ40は、シリコン(Si)ウエハ41の上に、酸化シリコン(SiO2)膜48c、窒化シリコン(SiN)膜48bおよび酸化ハフニウム(HfO2)膜48aからなる絶縁薄膜が成膜され、その上に、感応素子部Rsとして白金(Pt)ヒータ42およびPd/Al23触媒層43、補償素子部Rrとして白金(Pt)ヒータ44およびアルミナ(Al23)層45が形成されている。また、図3(C)に示すように、異方性エッチングして凹部46及び47を形成して、それぞれ薄膜ダイアフラムDs及びDrを形成することにより熱容量を小さくしている。
【0021】
白金(Pt)ヒータ42および44は、固定抵抗R1およびR2と可変抵抗Rvと共にブリッジ回路を構成している。そして、このブリッジ回路において、白金(Pt)ヒータ42および固定抵抗R1の接続点、並びに白金(Pt)ヒータ44および固定抵抗R2の接続点には、コントローラ10のノコギリ波駆動回路50からのパルス電圧が所定のインターバルで間欠的に供給される。また、白金(Pt)ヒータ42および白金(Pt)ヒータ44の接続点と、可変抵抗Rvの可動端子は、コントローラ10のセンサ出力検出部12に接続され、それにより、接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力としての電圧値がセンサ出力検出部12に供給される。
【0022】
このような接触燃焼式ガスセンサ40を使用するに際しては、まず、検出動作開始前に、センサ出力検出部12に供給されるセンサ出力が中間電位になるように可変抵抗Rvを調整する。この状態において、検出対象ガスが感応素子部Rsに触れると触媒作用により、この素子で接触燃焼する。この接触燃焼により発生する熱により、白金(Pt)ヒータ42の抵抗値が上昇し、この抵抗値の上昇によりブリッジ回路の平衡が崩れ、コントローラ10にセンサ出力が供給される。この場合、白金(Pt)ヒータ44は、周囲温度の変動による白金(Pt)ヒータ42の抵抗値の変動を相殺し、反応熱に起因する白金(Pt)ヒータ42の抵抗値の変動成分のみを取り出せるように温度補償する。
【0023】
また、上述した記憶部11には、複数のガス種類に対応したセンサ出力の微分波形のピーク位置を含む微分波形データベース、濃度とピーク高さとの関係が予め格納されている。また、記憶部11には、図5に示す処理時に一時的に発生するデータも格納される。
【0024】
センサ出力検出部12は、サンプリング制御部13の制御に応じてノコギリ波状のパルス電圧が供給されている間のセンサ出力を時系列的に検出する。検出されたセンサ出力は、対応する処理が終了するまで記憶部11に一時的に保存される。
【0025】
微分解析部14は、センサ出力検出部12が検出したセンサ出力を微分演算して微分波形データを取得する。微分解析部14は、取得した微分波形データにおける微分値上昇方向から下降方向に変わるピークの出現時間をピーク位置として算出する。微分解析部14は、上記ピークの高さを算出する。
【0026】
ガス検出部15は、微分解析部14にて求められたピーク位置およびピーク高さに基づいて、検知対象ガスのガス種の判別及び判別したガス種の濃度を検出する定量、定性を行う。
【0027】
駆動電源20は、既成の電池等が用いられる。また、出力部30は、ガス検出部15で判別されたガス種とその濃度とを出力する。この出力部30は、たとえば、ガス種検出結果の出力例として、検知対象ガスの種類を直接文字表示すると共にその濃度を数字表示するLCD(液晶ディスプレイ)およびその駆動回路であってもよいし、検知対象ガスの種類を色分表示したり点滅するLED及びその駆動回路等であってもよい。また、ブザー等の可聴信号にてガス検出結果を出力するようにしてもよい。
【0028】
上述したノコギリ波駆動回路50は、サンプリング制御部13の制御に応じて図2の実線で示すようなノコギリ波状のパルス電圧を所定時間t3毎に供給している。パルス電圧は、供給開始から所定時間t2かけて徐々に供給電圧が増加した後に一定値になり、所定時間t1経過した時点で供給停止するようなノコギリ波状のパルス電圧である。
【0029】
上述した接触燃焼式ガスセンサ40は、上述したように熱容量が小さい。このため、上述したようなノコギリ波状のパルス電圧を供給すると、図2の一点鎖線で示すようにパルス電圧の供給電圧の上昇にほとんど遅れることなく追従して温度が上昇する。即ち、パルス電圧の供給開始から所定時間t2かけて徐々に温度が上昇した後に一定温度Tcとなる。
【0030】
ここで、所定時間t1は所定時間t2よりも長ければよい。所定時間t3は、所定時間t1より長ければ何秒でもよい。厚生労働省より出されたシックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討中間報告書の室内空気中化学物の測定マニュアルによると、採取時間を30minと明記している。そこで、所定時間t3の最大値は、30minが望ましいと考えられる。
【0031】
また、所定時間t2は、供給開始と同時に供給電圧が一定値になるような矩形状のパルス電圧を接触燃焼式ガスセンサ40に供給したとき、接触燃焼式ガスセンサ40が当該矩形状のパルス電圧の供給開始から一定値に応じた温度に達するまでの飽和時間よりも長い時間に予め設定されている。
【0032】
本発明者らは、図3に示す本実施形態の接触燃焼式ガスセンサ40に矩形状のパルス電圧を印加して、接触燃焼式ガスセンサ40の温度上昇率を計測した。結果を図4に示す。同図に示すように、接触燃焼式ガスセンサ40は、矩形状のパルス電圧の供給開始から60msに温度上昇率が100%となっている。即ち、接触燃焼式ガスセンサ40は、矩形状のパルス電圧の供給開始から60ms後に一定値に応じた温度(例えば300°C、400°C、450°C)に達している。このことから、本実施形態の接触燃焼式ガスセンサ40の上記飽和時間は60msであることが分かった。従って、本実施形態では、所定時間t2は、60msより長い時間に予め設定されている。
【0033】
一定温度Tcの上限は、接触燃焼式ガスセンサ40が断線する温度(例えば1200°C)以下で、かつ検知対象ガスの接触燃焼開始温度以上であれば何°Cでもよい。本実施形態では、例えば上記所定時間t1を400ms、所定時間t2を250ms、所定時間t3を10secとしている。また、一定温度Tcを450°Cとした。
【0034】
上述したノコギリ波駆動回路50としては、例えば、矩形状パルスを発生する矩形状パルス発生回路と、ゲインの調整可能な増幅器とから構成され、サンプリング制御部13によって供給開始から所定時間t2かけて徐々に増幅器のゲインを増加された後に一定に制御されるものが考えられる。
【0035】
また、ノコギリ波駆動回路50としては、例えばD/A変換器から構成され、サンプリング制御部13から出力される図2に示すようなノコギリ状のパルス電圧のデジタルデータをD/A変換して、ノコギリ状のパルス電圧を出力するものであってもよい。また、ノコギリ波駆動回路50としては、上記構成に限ったものではなく、供給開始から所定時間t2かけて徐々に供給電圧が増加した後に一定値になるようなノコギリ状のパルス電圧が供給できるものであればよい。
【0036】
次に、上述した構成のガス検出装置の動作について図5を参照して以下説明する。図4は、ガス検出装置1を構成するコントローラ10の処理手順を示すフローチャートである。まず、コントローラ10は、駆動電源のオンに応じてガス検出処理を開始する。ガス検出処理の開始に応じてサンプリング制御部13は、ノコギリ波駆動回路50を制御して、図2の実線で示すノコギリ波状のパルス電圧を接触燃焼式ガスセンサ40に供給する(ステップS1)。
【0037】
次に、サンプリング制御部13は、センサ出力検出部12を制御して、ノコギリ波状のパルス電圧の供給期間にわたって接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力をサンプリングさせる(ステップS2)。センサ出力検出部12は、サンプリングした複数のセンサ出力を記憶部11に一時的に記憶させる。
【0038】
次に、微分解析部14が、サンプリングした複数のセンサ出力に基づいて検知対象ガスが存在しているか否かを判断する(ステップS3)。検知対象ガスが存在していないと判断すると(ステップS3でN)、微分解析部14は微分演算を行うことなくステップS1に戻る。これに対して、検知対象ガスが存在していれば(ステップS3でY)、微分解析部14がサンプリングした複数のセンサ出力を微分して微分波形データを得る(ステップS4)。
【0039】
次いで、微分解析部14は、微分波形データから微分値上昇方向から下降方向へ変化するピークの出現時間であるピーク位置tpと、ピーク高さHとを算出する(ステップS5)。算出されたピーク位置tpおよびピーク高さHのデータは、ガス検出部15に供給される。
【0040】
次いで、ガス検出部15は、供給されたピーク位置tpのデータと記憶部11に格納されている微分波形データベースとを比較し、微分波形データベース中に一致するピーク位置tpを有するガス種があれば、検知対象ガスは、そのガス種であると判別される(ステップS6)。
【0041】
次いで、ガス検出部15において、ピーク高さHと記憶部11に格納されている濃度とピーク高さHの関係に基づいて、判別されたガス種の濃度が検出する(ステップS7)。その後、ガス検出部15は、判別されたガス種を示す検出出力及び判別されたガス種の濃度を示す検出出力を出力部30に供給した後(ステップS8)、ガス検出処理を終了する。
【0042】
出力部30は、ガス検出部15から供給されたガス種を示す検出出力と、ガス濃度を示す検出出力を文字および数字表示等により出力する。たとえば、LCDの画面にガス種を文字表示すると共に、ガス濃度を数字や数字とバーの組み合わせ等により表示することができる。
【0043】
上述したガス検出装置によれば、ノコギリ波駆動回路50が、供給開始から所定時間t2かけて徐々に供給電力を増加した後に一定値になるようなノコギリ状のパルス電圧の供給を行うものである。これにより、接触燃焼式ガスセンサ40は低温から所定時間t2をかけてゆっくり接触燃焼可能な高温になり、ガス種類に応じた微分波形のピーク位置が重なることがなく、熱容量が小さな装置であっても簡単にガスの種類の判別及び判別したガスの濃度の検出を行うことができる。
【0044】
また、上述したガス検出装置によれば、所定時間t2が、供給開始と同時に供給電圧が一定値になるような矩形状のパルス電圧を接触燃焼式ガスセンサ40に供給したとき、接触燃焼式ガスセンサ40がその矩形状のパルス電圧の供給開始から一定値に応じた温度に達するまでの時間よりも長い時間に予め設定されている。これにより、確実に接触燃焼式ガスセンサ40、即ち感応素子部Rsの温度がノコギリ状のパルス電圧に追従して、低温から所定時間t2をかけてゆっくり接触燃焼可能な高温になり、確実にガスの種類の判別及び判別したガスの濃度の検出を行うことができる。
【0045】
また、上述したガス検出装置によれば、立ち上がり時間に応じた微分波形のピーク位置に基づいて検知対象ガスの種類の判別を行うので、微分するだけで簡単に立ち上がり時間に応じた値を得ることができる。
【0046】
また、上述したガス検出装置によれば、ノコギリ波駆動回路50が、所定時間t2かけて供給電力を一定の割合で増加させるので、より確実にガス種類に応じた微分波形のピーク位置が重なることがないので、より正確にガスの種類の判別及び判別したガスの濃度の検出を行うことができる。
【0047】
また、本発明者らは、上述した構成のガス検出装置を製造し、i−BとH2の混合ガスのi−B濃度を変化させたときの接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力及び該センサ出力の微分波形を測定して、本発明の効果を確認した。結果を、図6及び図7に示す。このとき、所定時間t1が400ms、所定時間t2が250ms、所定時間t3が10secのノコギリ波状のパルス電圧を供給している。また、一定温度Tcを450°Cとしている。
【0048】
図7に示すように、H2のピーク位置は、200msであることが分かった。また、H2及びi−Bの混合ガスのピーク位置は、250msであることが分かった。従って、H2のピーク位置とH2及びi−Bの混合ガスのピーク位置との差を、50msにすることができた。図13に示す従来例のピーク位置の差20msよりも大きくすることができた。また、図7からi−Bの濃度により微分後のピークの高さが変化していることが分かった。
【0049】
次に、本発明者らは、所定時間t2を2secにしたノコギリ波のパルス電圧で駆動して、i−BとH2の混合ガスのi−B濃度を変化させたときの接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力の微分波形を測定して、本発明の効果を確認した。結果を、図8に示す。図8に示すように、H2のピーク位置は900msであることが分かった。また、H2及びi−Bの混合ガスのピーク位置は、1700msであることが分かった。
【0050】
従って、H2のピーク位置とH2及びi−Bの混合ガスのピーク位置との差を、800msにすることができた。図7に示す場合より大きくすることができた。以上のことから明らかなように、所定時間t2を長くする程、ガス種によるピーク位置の差が大きくなり、ガス種の判別が行いやすい。
【0051】
次に、本発明者らは、H2ガスの濃度を変化させたときの接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力を測定した。結果を、図10に示す。また、本発明者らは、CH4ガスの濃度を変化させたときの接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力を測定した。結果を、図11に示す。また、本発明者らは、i−Bガスの濃度を変化させたときの接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力を測定した。結果を、図12に示す。また、本発明者らは、COガスの濃度を変化させたときの接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力を測定した。結果を、図13に示す。
【0052】
同図に示すように、ガス種によってセンサ出力の立ち上がり時間が大きく異なることが分かった。これは、ガス種によってガスの燃焼開始温度が異なることを示している。つまり、所定時間t2かけて供給電圧を一定の上昇率で増加させることにより、接触燃焼式ガスセンサ40の温度も徐々に上昇して、ガス種による立ち上がり時間に大きな差を出せることができた。従って、この立ち上がり時間、即ちセンサ出力の微分波形のピークからガスの種類の判別が可能となる。
【0053】
なお、上述した実施形態では、センサ出力を微分してそのピーク位置に基づいて検知対象ガスの種類の判別を行っていたが、本発明はこれに限ったものではない。例えば、センサ出力の立ち上がり時間を直接求めて、求めた立ち上がり時間から検知対象ガスの種類の判別を行うようにしてもよい。
【0054】
また、センサ出力の微分波形のピーク高さが高く、濃度が高かった場合、ノコギリ波状パルス電圧の所定時間t3を短くし、ピーク高さが低く、濃度が低かった場合、ノコギリ波状パルス電圧の所定時間t3を長くするようにしてもよい。
【0055】
また、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係るガス検出装置の一実施の形態を示すブロック図である。
【図2】図1のガス検出装置を構成する接触燃焼式ガスセンサに供給するパルス電圧の波形例を示すタイミングチャートである。
【図3】図1のガス検出装置を構成する接触燃焼式ガスセンサの構成例を示し、(A)は平面図、(B)は底面図および(C)は平面図におけるA−A線断面図である。
【図4】矩形状のパルス電圧を供給したときの接触燃焼式ガスセンサの温度上昇率と時間との関係を示すグラフである。
【図5】ガス検出装置を構成するコントローラの処理手順を示すフローチャートである。
【図6】H2ガスとi−Bガスの混合ガス中のi−Bガスの濃度を変化させ、ノコギリ波状のパルス電圧で駆動したときのセンサ出力と時間との関係を示すグラフである。
【図7】H2ガスとi−Bガスの混合ガス中のi−Bガスの濃度を変化させ、ノコギリ波状のパルス電圧で駆動したときのセンサ出力の微分値と時間との関係を示すグラフである。
【図8】H2ガスとi−Bガスの混合ガス中のi−Bガスの濃度を変化させ、所定時間t2が2secのノコギリ波状のパルス電圧で駆動したときのセンサ出力の微分値と時間との関係を示すグラフである。
【図9】H2ガスの濃度を変化させ、ノコギリ波状のパルス電圧で駆動したときのセンサ出力と時間との関係を示すグラフである。
【図10】CH4ガスの濃度を変化させ、ノコギリ波状のパルス電圧で駆動したときのセンサ出力と時間との関係を示すグラフである。
【図11】i−Bガスの濃度を変化させ、ノコギリ波状のパルス電圧で駆動したときのセンサ出力と時間との関係を示すグラフである。
【図12】COガスの濃度を変化させ、ノコギリ波状のパルス電圧で駆動したときのセンサ出力と時間との関係を示すグラフである。
【図13】H2ガスとi−Bガスの混合ガス中のi−Bガスの濃度を変化させ、矩形状のパルス電圧で駆動したときのセンサ出力の微分値と時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
Rs 感温素子部
14 微分解析部(微分手段)
15 ガス検出部(ガス検出手段)
50 ノコギリ波駆動回路(加熱手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象ガスと接触燃焼して温度が変化すると抵抗値が変化する接触燃焼式のセンサ素子と、該センサ素子を間欠的に前記検知対象ガスとの接触燃焼が可能な高温に制御するパルス電圧を前記センサ素子に供給する加熱手段と、前記パルス電圧の供給を開始してから前記センサ素子の抵抗値に応じたセンサ出力が立ち上がるまでの立ち上がり時間に基づいて前記検知対象ガスの種類の判別を行うガス検出手段とを備えたガス検出装置において、
前記加熱手段が、供給開始から所定時間かけて徐々に供給電圧が増加した後に一定値になるようなノコギリ状の前記パルス電圧を供給するものであることを特徴とするガス検出装置。
【請求項2】
前記センサ出力を微分して微分波形を取得する微分手段を備え、そして、
前記ガス検出手段が、前記立ち上がり時間に応じた前記微分波形のピーク位置に基づいて前記検知対象ガスの種類の判別を行うものであることを特徴とする請求項1記載のガス検出装置。
【請求項3】
前記所定時間が、供給開始と同時に供給電圧が前記一定値になるような矩形状のパルス電圧を前記センサ素子に供給したとき、前記センサ素子が当該矩形状のパルス電圧の供給開始から前記一定値に応じた温度に達するまでの時間よりも長い時間に予め設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載のガス検出装置。
【請求項4】
前記加熱手段が、前記所定時間かけて一定の割合で供給電圧が増加した後に一定値になるような前記パルス電圧を供給するものであることを特徴とする請求項1〜3何れか1項記載のガス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−64491(P2008−64491A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240108(P2006−240108)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】