説明

ガス検出装置

【課題】吸着燃焼式ガスセンサの感応素子及び補償素子における温度上昇特性の差異によって生じる誤差電位差を小さくして、検出対象ガスの検出感度を向上できるガス検出装置を提供する。
【解決手段】ガス検出装置1は、感応素子及び補償素子からなる吸着燃焼式ガスセンサを含むブリッジ回路2を有している。このブリッジ回路2には、一対の中点間に生じる電位差を補正する補正回路部50が設けられている。そして、ガス検出装置1には、電圧供給源5によってブリッジ回路2に高温駆動電圧が供給されたあとの感応素子及び補償素子の温度が上昇する過渡期間において、予め設定された補正情報に基づき、感応素子と補償素子との温度上昇特性の差異によって一対の中点間に生じる誤差電位差が無くなるように、補正回路部50を制御する補正回路部制御手段61aが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着燃焼式ガスセンサを用いたガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来知られている接触燃焼式ガスセンサは、感応素子と補償素子を有し、検出対象となるガスを感応素子の触媒作用により燃焼させ、この燃焼熱を白金コイルの抵抗値変化として捉えるように構成されている。検出対象となるガスのうちトルエンや酢酸、エタノール等のように、極性が大きく吸着力の大きなガスは、低温駆動時に、ガス分子が感応素子の触媒表面に吸着し、高温駆動時に、吸着したガスが瞬時に燃焼すると共に接触燃焼反応も同時に起こるので、センサ出力は、短時間でピークに達しその後徐々に減少するピーク波形を生じる。一方、メタンや水素、一酸化炭素等の無極性または極性の小さいガスは、吸着力も小さいので上記のような現象は起こらず、センサ出力は、定常値で安定するまで徐々に増加していく。
【0003】
このように、トルエン等の特定種類のガスにおいて固有のピーク波形を呈することを利用して、接触燃焼式ガスセンサを用いてガス濃度の検出やガス種の分別などを行うことができる。このような特定種類のガスの吸着現象を利用する接触燃焼式ガスセンサは、吸着燃焼式ガスセンサとも呼ばれている。上述したような吸着燃焼式ガスセンサは、ガス濃度検出装置やガス種別検出装置などの種々のガス検出装置において用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
吸着燃焼式ガスセンサを備えた従来のガス検出装置の構成例を図8に示す。図8に示されるガス検出装置801は、検出対象ガスと感応する感応素子811及び該感応素子811と直列に接続された固定抵抗器814からなるセンサ回路部810、並びに、センサ回路部810と並列接続されるとともに、検出対象ガスと感応しない補償素子812及び該補償素子812と直列接続された固定抵抗器813からなるレファレンス回路部820、で構成されたブリッジ回路802と、感応素子811の温度が検出対象ガスを吸着する低温となる低温駆動電圧、及び、感応素子811の温度が感応素子811に吸着した検出対象ガスを燃焼させる高温となる高温駆動電圧、をブリッジ回路802に順次供給する電圧供給源805と、感応素子811及び固定抵抗器814間に生じる第1電圧V1と補償素子812及び固定抵抗器813間に生じる第2電圧V2とが入力されるように、センサ回路部810の中点とレファレンス回路部820の中点とに接続されて、これら第1電圧V1と第2電圧V2との電位差(以下、「中点電位差Vc」という)を所定の増幅率で増幅する計装アンプ806と、計装アンプ806で増幅された中点電位差Vcをアナログ値からデジタル値に変換するA/Dコンバータ807と、A/Dコンバータ807によってデジタル値に変換された中点電位差Vcに基づいて、検出対象ガスの濃度を検出する周知のマイクロコンピュータ(MPU)860と、を備えている。ブリッジ回路802は、検出対象ガスを含まない雰囲気中において高温駆動電圧を供給されたときに、各素子の温度変化が収束した定常状態で平衡(即ち、中点電位差Vcが0)となるように、固定抵抗器813、814の抵抗値が定められている。
【0005】
この中点電位差Vcは、感応素子811の抵抗値をRs、補償素子812の抵抗値をRr、固定抵抗器814の抵抗値をR2、固定抵抗器813の抵抗値をR1、ブリッジ回路2への供給電圧をVbrgとすると、次の式(1)で示される。
【0006】
【数1】

【0007】
上記式(1)から明らかなように、中点電位差Vcは、値が固定される抵抗値R1、抵抗値R2及び供給電圧Vbrgの影響は受けず、つまり、中点電位差Vcは、温度変化に応じて値が変化する感応素子811の抵抗値Rs及び補償素子812の抵抗値Rrによって決定される。
【0008】
そして、センサ回路部810の感応素子811及びレファレンス回路部820の補償素子812は、供給電圧Vbrgが低温駆動電圧から高温駆動電圧に切り替わると温度上昇を開始するが、これら感応素子811と補償素子812とは、それぞれの熱容量や熱伝導特性、放熱特性などが異なるので、各素子の温度が安定した定常状態に至るまでの過渡状態の期間(過渡期間)における温度上昇カーブ、即ち、温度上昇特性が異なり、そのため、温度上昇に伴う抵抗値の変化に差異が生じて、過渡期間において、温度上昇特性の差異による中点電位差Vc、即ち、誤差電位差Veが生じてしまう(図9のグラフに示す)。このような各素子の温度上昇特性の差異によって生じる誤差電位差Veを防ぐために、各素子の製造方法の精度向上や選別等を行うことが考えられるが、完全に温度上昇特性を一致させることは不可能である。そして、このような吸着燃焼式ガスセンサは、高温駆動時の中点電位差Vcの変化(即ち、応答波形)に基づいてガス検出を行うので、上述したような、温度上昇特性の差異によって生じる誤差電位差Veが影響して、ガス検出の精度が低下してしまう。
【0009】
そこで、ガス検出装置801では、感応素子811及び補償素子812における温度上昇特性の差異によって生じる中点電位差Vc、即ち、誤差電位差Veの影響を回避するため、以下のようにして検出対象ガスの濃度を検出していた。
【0010】
まず、検出対象ガスを含まない雰囲気中において、ブリッジ回路802に低温駆動電圧を供給したのちに高温駆動電圧を供給したときの中点電位差Vc(即ち、誤差電位差Ve)を所定のサンプリング周期で計測し、この計測した複数の中点電位差Vcを積算して誤差電位差積分値を算出する。次に、検出対象ガスの濃度を検出する雰囲気中において、ブリッジ回路802に低温駆動電圧を供給したのちに高温駆動電圧を供給したときの中点電位差Vcを同様に所定のサンプリング周期で計測し、この計測した複数の中点電位差Vcを積算して濃度電位差積分値を算出する。そして、濃度電位差積分値から誤差電位差積分値を差し引いた値に基づいて、検出対象ガスの濃度を検出する。このようにして、温度上昇特性の差異によって生じる誤差電位差Veの影響を回避して、検出対象ガスの濃度検出の精度低下を防いでいた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−83950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した中点電位差Vcは微小電圧であるので、計装アンプ806において所定の増幅率で増幅されたあとに、後段のA/Dコンバータ807に入力される。一般的に、計装アンプはその最大出力電圧(通常は電源電圧と同じ又は若干低い電圧)が定められており、そのため、計装アンプ806が出力する電圧がこの最大出力電圧以下になるように、その増幅率が定められる。また同様に、A/Dコンバータについても、最大入力電圧が定められており、そのため、A/Dコンバータ807に入力される電圧がこの最大入力電圧以下になるように、計装アンプ806の増幅率が定められる。そして、計装アンプ806の増幅率が高いほど、微小電圧を大きな電圧に変換できるので、検出感度を向上できる。しかしながら、中点電位差Vcに上述した誤差電位差Veが含まれていると、低い増幅率でも上記最大入力電圧または上記最大出力電圧に達してしまうので、計装アンプ806の増幅率を高めることが出来ず、検出対象ガスの検出感度の向上が望めなかった。
【0013】
本発明は、上記課題に係る問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、吸着燃焼式ガスセンサの感応素子及び補償素子における温度上昇特性の差異によって生じる誤差電位差を小さくして、検出対象ガスの検出感度を向上できるガス検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、図1の基本構成図に示すように、(a)検出対象ガスと感応する感応素子及び前記検出対象ガスと感応しない補償素子からなる吸着燃焼式ガスセンサを含むブリッジ回路2と、(b)前記感応素子の温度が前記検出対象ガスを吸着する低温となる低温駆動電圧、及び、前記感応素子の温度が前記感応素子に吸着した前記検出対象ガスを燃焼させる高温となる高温駆動電圧、を前記ブリッジ回路に順次供給する電圧供給源5と、(c)前記ブリッジ回路における一対の中点と接続されて、これら一対の中点間に生じる電位差を所定の増幅率で増幅する、増幅器6と、を有するガス検出装置1において、前記ブリッジ回路2には、前記一対の中点間に生じる電位差を補正する補正回路部50が設けられ、そして、前記電圧供給源5によって前記ブリッジ回路2に前記高温駆動電圧が供給されたあとの前記感応素子及び前記補償素子の温度が上昇する過渡期間において、予め設定された補正情報に基づき、前記感応素子と前記補償素子との温度上昇特性の差異によって前記一対の中点間に生じる誤差電位差が無くなるように、前記補正回路部50を制御する補正回路部制御手段61aが設けられていることを特徴とするガス検出装置1である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載された発明によれば、ブリッジ回路には、その一対の中点間に生じる電位差を補正する補正回路部が設けられ、そして、電圧供給源によってブリッジ回路に高温駆動電圧が供給されたあとの感応素子及び補償素子の温度が上昇する過渡期間において、予め設定された補正情報に基づき、感応素子と補償素子との温度上昇特性の差異によって一対の中点間に生じる誤差電位差が無くなるように、補正回路部を制御するので、上記過渡期間において、ブリッジ回路の一対の中点間に生じる電位差に含まれる上記誤差電位差を取り除くことができ、そのため、増幅器における増幅率をより高めることができ、検出感度を向上できる。また、ブリッジ回路に補正回路部を設けた簡易な回路で構成されるとともに、補正回路部に対する制御も簡易であるので、検出感度を向上できるガス検出装置を低コストで提供できる。さらに、吸着燃焼式ガスセンサの感応素子と補償素子との温度上昇特性を高精度で一致させる必要がないので、現状の素子が利用でき、さらに、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のガス検出装置の基本構成を示す図である。
【図2】本発明のガス検出装置の一実施形態であるガス濃度検出装置を示す構成図である。
【図3】(A)、(B)及び(C)は、それぞれ、図2のガス濃度検出装置が備えるブリッジ回路のガスセンサユニットの平面図、背面図、及び、平面図におけるA−A線に沿う断面図である。
【図4】図2のガス濃度検出装置が備えるCPUが行う補正情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】図2のガス濃度検出装置が備えるCPUが行うガス濃度検出処理の一例を示すフローチャートである。
【図6】図2のガス濃度検出装置及び従来の構成のガス濃度検出装置のそれぞれにおける誤差電位差(増幅率1倍)を示すグラフである。
【図7】本発明のガス検出装置の他の実施形態であるガス濃度検出装置を示す構成図である。
【図8】従来のガス濃度検出装置の構成図である。
【図9】従来のガス濃度検出装置における誤差電位差のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るガス検出装置の一実施形態としてのガス濃度検出装置を、図2〜図8を参照して説明する。
【0018】
ガス濃度検出装置1は、図2に示すように、ブリッジ回路2と、電圧供給源5と、増幅器としての計装アンプ6と、A/Dコンバータ7と、マイクロコンピュータ60と、図示しない気体収容室と、図示しない表示装置と、を備えている。
【0019】
ブリッジ回路2は、第1固定抵抗器13と、第2固定抵抗器14と、吸着燃焼式ガスセンサとしてのガスセンサユニット15と、補正回路部50と、を備えている。このガスセンサユニット15は、感応素子11と補償素子12とを備えている。そして、第2固定抵抗器14と感応素子11とを互いに直列接続することでセンサ回路部10を構成し、第1固定抵抗器13と補償素子12とを互いに直列接続することでレファレンス回路部20を構成している。また、センサ回路部10とレファレンス回路部20とを互いに並列接続することでブリッジ回路2を構成している。ブリッジ回路2における第1固定抵抗器13と第2固定抵抗器14とを接続する信号線は、電圧供給源5に接続されている。ブリッジ回路2における感応素子11と補償素子12とを接続する信号線は接地点(GND)に接続されている。
【0020】
ガスセンサユニット15は、図3(A)〜(C)に示すように、所定厚さ(例えば、400μm程度)のシリコン(Si)ウェハ41上に、所定厚さ(例えば、600nm程度)の酸化シリコン(SiO2)膜48c、所定厚さ(例えば、250nm程度)の窒化シリコン(SiN)膜48b、および所定厚さ(例えば、30nm程度)の酸化ハフニウム(HfO2)膜48aの絶縁薄膜が順次成膜され、多層絶縁膜が形成されている。
【0021】
この多層絶縁膜上に、感応素子11として、所定厚さ(例えば、250nm程度)の第1のヒータとしての白金(Pt)ヒータ42が形成されていると共に、この白金ヒータ42と熱的に接触するとともに、触媒物質として、例えば、検出対象ガスを吸着及び燃焼させるパラジウム(Pd)などの白金族を担持した酸化アルミニウム(Al23)からなる触媒層43が所定厚さ(例えば、1〜40μm程度)で形成されている。
【0022】
また、多層絶縁膜上には、補償素子12として、所定厚さ(例えば、250nm程度)の第2のヒータとしての白金(Pt)ヒータ44と、この白金ヒータ44と熱的に接触する酸化アルミニウム(Al23)のみからなる非触媒層45が所定厚さ(例えば、1〜40μm程度)で形成されている。
【0023】
また、図3(C)に示すように、シリコンウェハ41を異方性エッチングして、感応素子11及び補償素子12に対応する位置に凹部46、47を形成し、それにより、上述の各絶縁薄膜による薄膜ダイヤフラムDsおよびDrが形成されている。
【0024】
感応素子11及び補償素子12は、検出対象ガスを含まない雰囲気中において、後述する電圧供給源5によって低温駆動電圧及び高温駆動電圧が供給されたのちにそれらの温度変化が収束した定常状態では、感応素子11の白金ヒータ42と補償素子12の白金ヒータ44とが同一の抵抗値となるように形成されている。
【0025】
また、感応素子11は触媒層43を備えているとともに、補償素子12は非触媒層45を備えている(即ち、触媒を備えていない)ので、電圧供給源5によってブリッジ回路2(センサ回路部10及びレファレンス回路部20)に所定の低温駆動電圧が供給されると、感応素子11では検出対象ガスが触媒層43に吸着され、その一方で、補償素子12では検出対象ガスが非触媒層45に吸着されず、そして、電圧供給源5によってブリッジ回路2に所定の高温駆動電圧が供給されると、感応素子11では触媒により検出対象ガスが燃焼し、その一方で、補償素子12では検出対象ガスが燃焼しない。即ち、感応素子11は検出対象ガスと感応し、補償素子12は検出対象ガスと感応しない。
【0026】
このため、感応素子11及び補償素子12は、検出対象ガスを含む雰囲気中において、電圧供給源5によって低温駆動電圧が供給されたのちに高温駆動電圧が供給されると、感応素子11に吸着した検出対象ガスが爆発的に燃焼する。すると、この燃焼エネルギーにより感応素子11の温度が補償素子12の温度より高くなり、感応素子11と補償素子12とのそれぞれに検出対象ガスの濃度に応じた温度差が生じて、この温度差によって感応素子11の白金ヒータ42と補償素子12の白金ヒータ44との抵抗値に差が生じる。そして、この抵抗値の差が、第2固定抵抗器14及び感応素子11間(即ち、センサ回路部10の中点)と第1固定抵抗器13及び補償素子12間(即ち、レファレンス回路部20の中点)との間、つまり、ブリッジ回路2における一対の中点間に、電位差として現れる。この一対の中点間の電位差を「中点電位差Vc」といい、この中点電位差Vcに基づいてガス濃度が検出される。
【0027】
ガスセンサユニット15は、図示しない気体収容室内に設置されている。この気体収容室には、検出対象ガスを含まない雰囲気(エアベース)、及び、検出対象ガスの濃度を検出する雰囲気(被検ガス)が、後述するマイクロコンピュータ60の制御によって充填される。
【0028】
第1固定抵抗器13及び第2固定抵抗器14は、予め定められた固定値の電気抵抗を生じる周知の電子部品である。第1固定抵抗器13及び第2固定抵抗器14は、複数の固定抵抗器を直列、並列、または、直列及び並列に組み合わせて構成してもよく、或いは、ガス濃度測定時に抵抗値を固定して用いるものであれば、例えば、平衡調整のためなどに抵抗値を変更できる、可変抵抗器であってもよい。第1固定抵抗器13及び第2固定抵抗器14は、検出対象ガスを含まない雰囲気中において、これら第1固定抵抗器13、第2固定抵抗器14及びガスセンサユニット15のみで(即ち、補正回路部50を含めずに)構成されたブリッジ回路2に電圧供給源5によって高温駆動電圧が供給されたときに、感応素子11の温度及び補償素子12の温度の変化が収束した定常状態で平衡となるように、即ち、一対の中点間に生じる中点電位差Vcが0となるように、それぞれの抵抗値が定められている。本実施形態においては、第1固定抵抗器13の抵抗値が200Ω、第2固定抵抗器14の抵抗値が200Ωに設定されている。
【0029】
補正回路部50は、デジタルポテンショメータ51と、第3固定抵抗器52と、第4固定抵抗器53と、を備えている。
【0030】
デジタルポテンショメータ51は、所定の抵抗値調整信号を与えることにより可変抵抗のデジタル制御を行う方式の周知の可変抵抗器である。デジタルポテンショメータ51は、端子A、端子B、及び、ワイパ端子W、を備えている。デジタルポテンショメータ51は、MPU60に接続されており、MPU60から受信する抵抗値調整信号に基づいて、ワイパ端子Wが位置を移動することにより、端子A及びワイパ端子W間の抵抗値Rp1、及び、端子B及びワイパ端子W間の抵抗値Rp2、を所定の値幅で(即ち、連続した値の変化ではなくデジタル的に)変化させる。また、抵抗値Rp1及び抵抗値Rp2は、それぞれの抵抗値が変化した場合においても、これら抵抗値の和は常に一定である(Rp1+Rp2=K(定数))。
【0031】
第3固定抵抗器52及び第4固定抵抗器53は、予め定められた固定値の電気抵抗を生じる周知の電子部品である。第3固定抵抗器52及び第4固定抵抗器53は、複数の固定抵抗器を直列、並列、または、直列及び並列に組み合わせて構成してもよい。第3固定抵抗器52の抵抗値及び第4固定抵抗器53の抵抗値は同一に設定されている。本実施形態においては、第3固定抵抗器52の抵抗値が10kΩ、第4固定抵抗器53の抵抗値が10kΩに設定されている。
【0032】
第3固定抵抗器52の一端子は、デジタルポテンショメータ51の端子Aに接続され、且つ、他端子は、レファレンス回路部20の中点に接続されている。第4固定抵抗器53の一端子は、デジタルポテンショメータ51の端子Bに接続され、且つ、他端子は、センサ回路部10の中点に接続されている。デジタルポテンショメータ51のワイパ端子Wは、ブリッジ回路2における電圧供給源5に接続される点(即ち、第1固定抵抗器13と第2固定抵抗器14とを接続する信号線)に接続されている。
【0033】
感応素子11の抵抗値をRs、補償素子12の抵抗値をRr、第1固定抵抗器13の抵抗値をR1、第2固定抵抗器14の抵抗値をR2、第3固定抵抗器52の抵抗値をR3、第4固定抵抗器53の抵抗値をR4、デジタルポテンショメータ51の端子A及びワイパ端子W間の抵抗値をRp1、デジタルポテンショメータ51の端子B及びワイパ端子W間の抵抗値をRp2、ブリッジ回路2への供給電圧をVbrg、とすると、上記中点電位差Vcは、以下の式(2)で表される。
【0034】
【数2】

【0035】
電圧供給源5は、ブリッジ回路2に所定の電圧を供給する電圧供給回路である。電圧供給源5は、後述するMPU60に接続されるとともに、該MPU60からの電圧制御信号に応じて、感応素子11の温度が検出対象ガスを吸着する低温(例えば、200度)となる低温駆動電圧、及び、感応素子11の温度が感応素子11に吸着した検出対象ガスを燃焼させる高温(例えば、400度)となる高温駆動電圧、などのパルス状の供給電圧Vbrgをブリッジ回路2に供給する。
【0036】
計装アンプ6は、差動入力・シングルエンド出力の平衡入力アンプであり、同相信号除去比(CMRR)を大きくとれるという特徴を有する周知の増幅器である。計装アンプ6は、それぞれ高インピーダンスの一対の差動入力端子に入力された信号の電位差を、所定の増幅率で増幅して出力する。計装アンプ6の差動入力端子の一方(V+)には、センサ回路部10の第2固定抵抗器14及び感応素子11間(中点)の信号線が接続されており、他方(V−)には、レファレンス回路部20の第1固定抵抗器13及び補償素子12間(中点)の信号線が接続されている。つまり、計装アンプ6は、センサ回路部10の中点の電位(以下、「第1電圧V1」という)と、レファレンス回路部20の中点の電位(以下、「第2電圧V2」という)と、が入力されて、これら第1電圧V1と第2電圧V2の電位差(即ち、中点電位差Vc)を、所定の増幅率で増幅して出力端子から出力する。計装アンプ6には出力可能な最大電圧(最大出力電圧)が定められており、計装アンプ6の増幅率は、中点電位差Vcを増幅したときに、この最大出力電圧を超えないように定められている。
【0037】
A/Dコンバータ7は、入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する周知のアナログ−デジタル変換器である。A/Dコンバータ7の入力部には、計装アンプ6において増幅された中点電位差Vcが入力される。また、A/Dコンバータ7の出力部は、MPU60に接続されており、デジタル信号に変換された中点電位差VcがMPU60に向けて出力される。また、A/Dコンバータ7には、入力可能な最大電圧(最大入力電圧)が定められており、この最大入力電圧を超えないように、計装アンプ6の増幅率が定められている。
【0038】
マイクロコンピュータ(MPU)60は、周知のように、予め定めたプログラムに従って各種の処理や制御などを行う中央演算処理装置(CPU)61、CPU61のためのプログラムや各種パラメータ(例えば、低温駆動電圧値、高温駆動電圧値、サンプリング上限数など)を格納した読み出し専用のメモリであるROM62、各種データを格納するとともにCPU61の処理作業に必要なエリア(例えば、ループ変数、誤差電位差積分値1、濃度電位差積分値など)を有する読み出し書き込み自在のメモリであるRAM63、及び、電力供給が断たれた場合でも、格納された各種データの保持が可能であり、CPU61の処理作業に必要な各種格納エリア(例えば、補正情報格納領域、誤差電位差積分値など)を有するEEPROM64等を備えている。CPU61は、ROM62に格納された各種プログラムを実行することにより、補正回路部制御手段として機能する。
【0039】
MPU60は、図示しない入出力ポートや各種インタフェース機能を備えた外部接続部をさらに備えている。MPU60は、この外部接続部を介して、A/Dコンバータ7、電圧供給源5及び補正回路部50のデジタルポテンショメータ51と接続されている。MPU60は、A/Dコンバータ7からデジタル信号に変換された中間電位差Vcを受信して、この中間電位差Vcに基づいてガス濃度を検出する。MPU60は、処理に応じて、例えば、低温駆動電圧を所定のガス吸着期間供給した後、高温駆動電圧を所定のガス燃焼期間供給するように、電圧供給源5に向けて電圧制御信号を送信する。MPU60は、処理に応じて、デジタルポテンショメータ51のワイパ端子Wの位置を移動して所望の抵抗値に変更するために、デジタルポテンショメータ51に向けて抵抗値調整信号を送信する。また、MPU60は、この外部接続部を介して、図示しない表示装置に接続されており、例えば、検出した検出対象ガスの濃度に関する情報を含む表示制御信号を、該表示装置に向けて送信する。そして、表示装置は、この表示制御信号に応じた情報、即ち、検出対象ガスの濃度などを表示する。また、MPU60は、この外部接続部を介して、ポンプなどを備えた気体収容室に接続されており、処理に応じて各種気体を該気体収容室に充填する。
【0040】
次に、上述したCPU61が実行する本発明に係る処理(補正情報取得処理)の一例を、図4に示すフローチャートを参照して、以下に説明する。
【0041】
ガス濃度検出装置1に電源が投入されると、CPU61は、気体収容室内に検出対象ガスを含まない雰囲気を充填した後、その処理をステップS110に進める。
【0042】
ステップS110では、本フローチャートの処理に用いられる、RAM63上に設けられたループ変数を初期化する(サンプリングループ回数n=1)。そして、ステップS120に進む。
【0043】
ステップS120では、電圧供給源5に対して、ブリッジ回路2に低温駆動電圧を供給するための電圧制御信号を送信する。そして、ステップS130に進む。
【0044】
ステップS130では、感応素子11の温度及び補償素子12の温度が安定するまで(温度安定期間、例えば、60秒)待つ。そして、ステップS140に進む。
【0045】
ステップS140では、デジタルポテンショメータ51に対して、ワイパ端子Wの位置を中間点に移動させる(即ち、端子A及びワイパ端子W間の抵抗値Rp1と、端子B及びワイパ端子W間の抵抗値Rp2と、を同一にする)ための抵抗値調整信号を送信する。そして、ステップS150に進む。
【0046】
ステップS150では、電圧供給源5に対して、ブリッジ回路2に、高温駆動電圧を供給するための電圧制御信号を送信する。そして、ステップS160に進む。
【0047】
ステップS160では、計装アンプ6で増幅されるとともにA/Dコンバータ7でデジタル信号に変換された中点電位差Vcを、誤差電位差Veとして取得する。そして、上述した式(1)を用いて、この誤差電位差Veが0又は0に最も近い正数となる上記抵抗値Rp1及び抵抗値Rp2の値(Rp1z及びRp2z)を算出して、デジタルポテンショメータ51の抵抗値Rp1及び抵抗値Rp2をこれら算出した値(Rp1z及びRp2z)にするためのワイパ端子位置を、補正情報としてEEPROM64上に設けられた補正情報格納領域[n]に格納する(即ち、補正情報の取得)。この補正情報格納領域[n]は一次元配列データ構造を有しており、サンプリングループ回数nをインデックスとして、上記補正情報の格納位置が指定される。例えば、サンプリングループ回数n=3のときは、補正情報は補正情報格納領域[3]に格納される。その後、サンプリングループ回数nを1増加する。そして、ステップS170に進む。
【0048】
ステップS170では、所定のサンプリング間隔時間が経過するまで待つ。このサンプリング間隔時間とは、一例を挙げると、サンプリングが行われる期間(過渡期間、例えば、400ms)をROM62に格納された所定のサンプリング上限数(例えば、400回)で除した値(例えば、1ms)などが用いられる。サンプリング間隔時間は、概ね、数百μs〜数msの範囲で設定される。そして、ステップS180に進む。
【0049】
ステップS180では、サンプリングループ回数nがサンプリング上限数を超えたか否かを判定し、サンプリング上限数を超えていたときは、補正情報の取得が終了したものとして、ステップS190に進み(S180でY)、サンプリング上限数以下のときは、補正情報の取得を継続するものとして、ステップS160に戻る(S180でN)。
【0050】
ステップS190では、ループ変数等を初期化する(サンプリングループ回数n=1、誤差電位差積分値1=0)。そして、ステップS200に進む。
【0051】
ステップS200では、電圧供給源5に対して、ブリッジ回路2に低温駆動電圧を供給するための電圧制御信号を送信する。そして、ステップS210に進む。
【0052】
ステップS210では、感応素子11の温度及び補償素子12の温度が安定するまで(温度安定期間、例えば、60秒)待つ。そして、ステップS220に進む。
【0053】
ステップS220では、電圧供給源5に対して、ブリッジ回路2に、高温駆動電圧を供給するための電圧制御信号を送信する。そして、ステップS230に進む。
【0054】
ステップS230では、当該サンプリングタイミング(即ち、サンプリングループ回数n)に対応する補正情報切換情報[n]に格納された、デジタルポテンショメータ51のワイパ端子位置(即ち、補正情報)を読み出す。そして、ステップS240に進む。
【0055】
ステップS240では、デジタルポテンショメータ51に対して、ワイパ端子WをステップS230で読み出したワイパ端子位置に移動させるための抵抗値調整信号を送信する。これにより、デジタルポテンショメータ51は、ワイパ端子Wを、抵抗値調整信号に含まれるワイパ端子位置に移動させる。そして、ステップS250に進む。
【0056】
ステップS250では、計装アンプ6で増幅されるとともにA/Dコンバータ7でデジタル信号に変換された中点電位差Vcを、誤差電位差として取得して、RAM63上に設けた誤差電位差積分値1に積算する。その後、サンプリングループ回数nを1増加する。そして、S260に進む。
【0057】
ステップS260では、上述した所定のサンプリング間隔時間が経過するまで待つ。そして、ステップS270に進む。
【0058】
ステップS270では、サンプリングループ回数nがサンプリング上限数を超えたか否かを判定し、サンプリング上限数を超えていたときは、誤差電位差積分値の算出が終了したものとして、ステップS280に進み(S270でY)、サンプリング上限数以下のときは、誤差電位差積分値の算出途中として、ステップS230に戻る(S270でN)。
【0059】
ステップS280では、ステップS250で積算した誤差電位差積分値1を、EEPROM64上に設けられた誤差電位差積分値に格納する。そして、本フローチャートの処理を終了する。
【0060】
次に、上述したCPU61が実行する本発明に係る処理(ガス濃度検出処理)の一例を、図5に示すフローチャートを参照して、以下に説明する。
【0061】
上述した、補正情報取得処理が終了した後、CPU61は、気体収容室内に検出対象ガスの濃度を検出する雰囲気(被検ガス)を充填した後、その処理をステップT110に進める。
【0062】
ステップT110では、本フローチャートの処理に用いられる、RAM63上に設けられたループ変数等を初期化する(サンプリングループ回数n=1、濃度電位差積分値=0)。そして、ステップT120に進む。
【0063】
ステップT120では、電圧供給源5に対して、ブリッジ回路2に低温駆動電圧を供給するための電圧制御信号を送信する。そして、ステップT130に進む。
【0064】
ステップT130では、感応素子11の温度及び補償素子12の温度が安定するとともに、感応素子11に検出対象ガスを吸着させるための所定のガス吸着期間が経過するまで(例えば、60秒)待つ。そして、ステップT140に進む。
【0065】
ステップT140では、電圧供給源5に対して、ブリッジ回路2に、高温駆動電圧を供給するための電圧制御信号を送信する。そして、ステップT150に進む。
【0066】
ステップT150では、当該サンプリングタイミング(即ち、サンプリングループ回数n)に対応する補正情報格納領域[n]に格納された、デジタルポテンショメータ51のワイパ端子位置(即ち、補正情報)を読み出す。そして、ステップT160に進む。
【0067】
ステップT160では、デジタルポテンショメータ51に対して、ワイパ端子WをステップT150で読み出したワイパ端子位置に移動させるための抵抗値調整信号を送信する。これにより、デジタルポテンショメータ51は、ワイパ端子Wを、抵抗値調整信号に含まれるワイパ端子位置に移動させる。そして、ステップT170に進む。
【0068】
ステップT170では、計装アンプ6で増幅されるとともにA/Dコンバータ7でデジタル信号に変換された中点電位差Vcを、ガス濃度電位差として取得して、RAM63上に設けた濃度電位差積分値に積算する。その後、サンプリングループ回数nを1増加する。そして、T180に進む。
【0069】
ステップT180では、上述した所定のサンプリング間隔時間が経過するまで待つ。そして、ステップT190に進む。
【0070】
ステップT190では、サンプリングループ回数nがサンプリング上限数を超えたか否かを判定し、サンプリング上限数を超えていたときは、濃度電位差積分値の算出が終了したものとして、ステップT200に進み(T190でY)、サンプリング上限数以下のときは、濃度電位差積分値の算出途中として、ステップT150に戻る(T190でN)。
【0071】
ステップT200では、ステップT170で積算した濃度電位差積分値から、EEPROM64に格納された誤差電位差積分値を差し引いた値を算出し、ROM62上に予め格納された、電位差積分値及びガス濃度の関係についての変換テーブルに基づいて、当該算出した値からガス濃度を求め、このガス濃度についての情報を含む表示情報を生成して、表示装置に対して送信する。そして、再度ガス濃度を測定するため、ステップT110に戻る(フローチャート終了)。
【0072】
なお、上述したステップT150、T160が、請求項中の補正回路制御手段に相当する。また、上記では補正情報取得処理及びガス濃度検出処理を別々に説明するものであったが、これら処理は別々に行われてもよく、又は、補正情報取得処理に連続してガス濃度検出処理を行ってもよい。
【0073】
次に、上述したガス濃度検出装置1における本発明に係る動作(作用)について説明する。
【0074】
ガス濃度検出装置1は、気体収容室内に検出対象ガスを含まない雰囲気を充填したのち、補正情報取得処理のための初期化処理を実行する。(S110)。そして、ブリッジ回路2に対して低温駆動電圧を供給し(S120、S130)、デジタルポテンショメータ51のワイパ端子Wを中間点に移動した後(S140)、ブリッジ回路2に対して高温駆動電圧を供給して(S150)、所定のサンプリングタイミング毎に、中間電位差Vc(即ち、誤差電位差Ve)を取得するとともに、この誤差電位差Veが0又は0に最も近い正数となるデジタルポテンショメータ51のワイパ端子位置を求めて、補正情報としてEEPROM64に格納(記憶)する(S160〜S180)。
【0075】
上述した、デジタルポテンショメータ51の抵抗値Rp1及び抵抗値Rp2はデジタル的に変化するので、上記誤差電位差Veを完全に取り除くことができない場合がある。そこで、次に、誤差電位差Veによって生じる誤差電位差積分値を算出する。CPU61は、上述した処理に引き続き、一部変数の初期化処理を実行し(S190)、ブリッジ回路2に対して低温駆動電圧を供給したあと(S200、S210)、ブリッジ回路2に対して高温駆動電圧をサンプリングが行われる期間(即ち、ガス燃焼期間)供給して(S220)、所定のサンプリングタイミング毎に、EEPROM64から読み出した当該サンプリングタイミングに対応する補正情報に基づいて(S230)、デジタルポテンショメータ51のワイパ端子Wの位置を移動して、デジタルポテンショメータ51の抵抗値Rp1及び抵抗値Rp2に誤差電位Veが0又は0に最も近い正数となる抵抗値を設定する(S240)。そして、中間電位差Vcを誤差電位差として取得するとともに積算(即ち、積分)する(S250)。このようにして、すべてのサンプリングタイミングについて、上記誤差電位差を取得及び積算して、誤差電位差積分値を算出する。そして、算出した誤差電位差積分値を、EEPROM64に格納する(S280)。
【0076】
次に、ガス濃度検出装置1は、気体収容室内に検出対象ガスの濃度を検出する雰囲気を充填したのち、ガス濃度検出処理のための初期化処理を実行する(T110)。そして、ブリッジ回路2に対して低温駆動電圧を所定のガス吸着期間供給して感応素子11に検出対象ガスを吸着させた後(T120、T130)、ブリッジ回路2に対して高温駆動電圧をサンプリングが行われる期間(即ち、ガス燃焼期間)供給して(T140)、所定のサンプリングタイミング毎に、EEPROM64から読み出した当該サンプリングタイミングに対応する補正情報に基づいて(T150)、デジタルポテンショメータ51のワイパ端子Wの位置を移動して、デジタルポテンショメータ51の抵抗値Rp1及び抵抗値Rp2に誤差電位差Veが0又は0に最も近い正数となる抵抗値を設定する(T160)。そして、中間電位差Vcをガス濃度電位差として取得するとともに積算(即ち、積分)する(T170)。このようにして、すべてのサンプリングタイミングについて、上記ガス濃度電位差を取得及び積算して、濃度電位差積分値を算出する。そして、最後に、濃度電位差積分値から誤差電位差積分値を差し引いて誤差電位差を取り除いた値を、変換テーブルと照らし合わせてガス濃度を求め、表示装置に表示する(T200)。
【0077】
図6に、本発明に係るガス濃度検出装置1で測定した誤差電位差Ve(増幅率1倍)、及び、図2のガス濃度検出装置1において補正回路部50を備えない従来の構成のガス濃度検出装置(従来構成)で測定した誤差電位差Ve(増幅率1倍)のグラフを示す。
【0078】
図6のグラフから、従来の構成のガス濃度検出装置では、サンプリングが行われる期間(過渡期間、0〜400ms)において誤差電位差Veが山形の波形を示しているのに対して、本発明におけるガス濃度検出装置1は、サンプリングが行われる期間の全体に亘って誤差電位差Veがほぼ0である。つまり、本発明に係るガス濃度検出装置1は、CPU61(補正回路部制御手段)によって補正回路部50を制御することによって、サンプリングが行われる期間における任意の時点で適切な補正量を与えることができ、誤差電位差Veを取り除くことができる。
【0079】
以上より、本発明によれば、ブリッジ回路2には、その一対の中点間に生じる電位差を補正する補正回路部50が設けられ、そして、電圧供給源5によってブリッジ回路2に高温駆動電圧が供給されたあとの感応素子11及び補償素子12の温度が上昇する過渡期間において、予め設定された補正情報に基づき、感応素子11と補償素子12との温度上昇特性の差異によって一対の中点間に生じる誤差電位差Veが無くなる(ほぼ無くなる場合を含む)ように、補正回路部50を制御するので、上記過渡期間において、ブリッジ回路2の一対の中点間に生じる電位差に含まれる上記誤差電位差Veを取り除くことができ、そのため、計装アンプ6における増幅率をより高めることができ、検出感度を向上できる。また、ブリッジ回路2に補正回路部50を設けた簡易な回路で構成されるとともに、補正回路部50に対する制御も簡易であるので、検出感度を向上できるガス濃度検出装置1を低コストで提供できる。さらに、ガスセンサユニット15の感応素子11と補償素子12との温度上昇特性を高精度で一致させる必要がないので、現状の素子が利用でき、さらに、コストを低減することができる。
【0080】
本実施形態では、ブリッジ回路2は、感応素子11及び第1固定抵抗器13からなるセンサ回路部10、並びに、補償素子12及び第2固定抵抗器14からなるレファレンス回路部20、で構成されているものであったが、これに限らず、ブリッジ回路2の構成は、ガス濃度に応じてブリッジ回路2の一対の中点間に電位差が生じるものであれば、本発明の目的に反しない限り任意である。本発明に係るガス検出装置の他の構成例を図7に示す。
【0081】
図7に示すガス濃度検出装置1Aは、上述したガス濃度検出装置1(図2に示す)が備えるブリッジ回路2に代えて、以下に説明するブリッジ回路2Aを備えている。このブリッジ回路2A以外の構成要素については、上述したガス濃度検出装置1と同一であるため、それらには同一の符号を付して説明を省略する。
【0082】
ブリッジ回路2Aは、第1固定抵抗器13と、第2固定抵抗器14と、吸着燃焼式ガスセンサとしてのガスセンサユニット15と、補正回路部50と、を備えている。このガスセンサユニット15は、感応素子11と補償素子12とを備えている。そして、感応素子11と補償素子12とを互いに直列接続することでセンサ回路部10を構成し、第1固定抵抗器13と第2固定抵抗器14とを互いに直列接続することでレファレンス回路部20を構成している。また、センサ回路部10とレファレンス回路部20とを互いに並列接続することでブリッジ回路2Aを構成している。
【0083】
補正回路部50は、デジタルポテンショメータ51と、第3固定抵抗器52と、第4固定抵抗器53と、を備えている。そして、第3固定抵抗器52の一端子は、デジタルポテンショメータ51の端子Aに接続され、且つ、他端子は、ブリッジ回路2における電圧供給源5に接続される点(即ち、補償素子12と第1固定抵抗器13とを接続する信号線)に接続されている。第4固定抵抗器53の一端子は、デジタルポテンショメータ51の端子Bに接続され、且つ、他端子は、ブリッジ回路における接地点(GND、即ち、感応素子11と第2固定抵抗器14とを接続する信号線)に接続されている。デジタルポテンショメータ51のワイパ端子Wは、センサ回路部10の中点(即ち、感応素子11と補償素子12との間の信号線)に接続されている。
【0084】
そして、感応素子11の抵抗値をRs、補償素子12の抵抗値をRr、第1固定抵抗器13の抵抗値をR1、第2固定抵抗器14の抵抗値をR2、第3固定抵抗器52の抵抗値をR3、第4固定抵抗器53の抵抗値をR4、デジタルポテンショメータ51の端子A及びワイパ端子W間の抵抗値をRp1、デジタルポテンショメータ51の端子B及びワイパ端子W間の抵抗値をRp2、ブリッジ回路2への供給電圧をVbrg、とすると、このブリッジ回路2Aにおける中点電位差Vcは、以下の式(3)で表される。
【0085】
【数3】

【0086】
そして、上述したガス濃度検出装置1で行う処理を、式(2)に代えて式(3)を用いてこのガス濃度検出装置1Aで行うことにより、ガス濃度検出装置1と同様の効果、即ち、上記過渡期間において、ブリッジ回路2の一対の中点間に生じる電位差に含まれる上記誤差電位差Veを取り除くことができ、そのため、計装アンプ6における増幅率をより高めることができ、検出感度を向上できる。
【0087】
また、本実施形態は検出対象ガスの濃度を検出するものであったが、これに限らず、本発明は、成分不明の被検ガスに含まれるガスの種別を検出するガス種別検出装置など、他の種類のガス検出装置に適用してもよい。また、例えば、照度測定用のフォトトランジスタ(即ち、感応素子)と、温度補償のためのフォトトランジスタ(即ち、補償素子)と、を備えたブリッジ回路を有する照度測定装置など、感応素子と補償素子とを備えたブリッジ回路を用いて測定を行う測定装置などであれば、どのような装置でも本発明を適用することができる。
【0088】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0089】
1、1A ガス濃度検出装置(ガス検出装置)
2、2A ブリッジ回路
5 電圧供給源
6 計装アンプ(増幅器)
10 センサ回路部
11 感応素子
12 補償素子
13 第1固定抵抗器
14 第2固定抵抗器
15 ガスセンサユニット(吸着燃焼式ガスセンサ)
20 レファレンス回路部
50 補正回路部
51 デジタルポテンショメータ
52 第3固定抵抗器
53 第4固定抵抗器
60 MPU
61 CPU(回路切換手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)検出対象ガスと感応する感応素子及び前記検出対象ガスと感応しない補償素子からなる吸着燃焼式ガスセンサを含むブリッジ回路と、(b)前記感応素子の温度が前記検出対象ガスを吸着する低温となる低温駆動電圧、及び、前記感応素子の温度が前記感応素子に吸着した前記検出対象ガスを燃焼させる高温となる高温駆動電圧、を前記ブリッジ回路に順次供給する電圧供給源と、(c)前記ブリッジ回路における一対の中点と接続されて、これら一対の中点間に生じる電位差を所定の増幅率で増幅する、増幅器と、を有するガス検出装置において、
前記ブリッジ回路には、前記一対の中点間に生じる電位差を補正する補正回路部が設けられ、そして、
前記電圧供給源によって前記ブリッジ回路に前記高温駆動電圧が供給されたあとの前記感応素子及び前記補償素子の温度が上昇する過渡期間において、予め設定された補正情報に基づき、前記感応素子と前記補償素子との温度上昇特性の差異によって前記一対の中点間に生じる誤差電位差が無くなるように、前記補正回路部を制御する補正回路部制御手段が設けられている
ことを特徴とするガス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−52977(P2011−52977A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199487(P2009−199487)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】