説明

ガス検知素子

【課題】長期安定性の良好なガス検知素子を提供する。
【解決手段】絶縁基板2の上に設けた検出電極3,4と、検出電極3、4に接触するカーボンナノチューブを主成分とする感応層5とを備え、カーボンナノチューブに誘電体膜を被覆した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
絶縁基板の上に設けた検出電極と、当該検出電極に接触するカーボンナノチューブを主成分とする感応層とを備えるガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス検知素子として、絶縁基板の上に一対の検出電極を設け、これらの検出電極と接触するように感応層を形成した基板型の半導体式ガス検知素子が知られている。このような半導体式ガス検知素子では、被検知ガスの吸着によって変化する感応層の電気抵抗値を検出電極で検出し、その感応層の電気抵抗値の変化に基づき被検知ガスを検知する。この種の半導体式ガス検知素子に用いられる感応層は、一般には、金属酸化物半導体が使用されており、被検知ガス種に応じた金属酸化物が適宜選択されている。
【0003】
これに対し、本発明者らは、感応層として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称する場合がある)を適用できることを見出し、既に提案している(例えば、特許文献1参照)。CNTを主成分とする感応層を備える半導体式ガス検知素子では、NO2、ハロゲン、一酸化炭素等の被検知ガスに対して検知可能であり、CNTに吸着した被検知ガスは常温下では脱離することなく蓄積させることができるため、検知時間を制御することでppbレベルの濃度のガスまで検知することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−162431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のCNTを主成分とする感応層を備えるガス検知素子は、上記の通り、被検知ガスに対して優れた検知性能を有する。しかし、このようなガス検知素子では、被検知ガスをCNTに直接吸着させることによって検知するため、被検知ガスがNO2やハロゲン等の酸化性ガスの場合には、吸着・脱離の際にCNTが酸化されて破壊される虞があり、長期安定性が必ずしも十分ではなかった。特に、ガス検知素子にCNTを加熱する手段を設け、ガス吸着力に相当する熱エネルギーを与えて吸着したガスを脱離させる場合には、CNTはその熱エネルギーによって活性化され酸化反応し、より破壊され易くなる虞があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、長期安定性の良好なガス検知素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るガス検知素子の第1特徴構成は、絶縁基板の上に設けた検出電極と、当該検出電極に接触するカーボンナノチューブを主成分とする感応層とを備え、前記カーボンナノチューブに誘電体膜を被覆した点にある。
【0008】
本構成によれば、感応層を誘電体膜で被覆したカーボンナノチューブを主成分として構成してあるため、被検知ガスが感応層に吸着した場合には、それがMOSFETにおけるゲート効果の役割を果たし(以下、「化学ゲート効果」と称する)、カーボンナノチューブへ電荷を誘起し、誘電体膜を設けない場合と同様に、被検知ガスを検知することができる。
一方、誘電体膜は、カーボンナノチューブを外界から遮断することができるため、酸化性ガスに対してもカーボンナノチューブが酸化されて破壊されることを防止できる。
したがって、本構成に係るガス検知素子は、被検知ガスに対する高い感度を保ちつつ、長期安定性が良好となる。
【0009】
本発明に係るガス検知素子の第2特徴構成は、前記誘電体膜を、シリコン酸化物、シリコン窒化物、アルミニウム酸化物、ハフニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、チタニウム酸化物からなる群から選択される少なくとも1種で構成した点にある。
【0010】
本構成によれば、絶縁性が良好で誘電率が高い誘電体膜とすることができるため、被検知ガスに対する感度を高くすることができる。
【0011】
本発明に係るガス検知素子の第3特徴構成は、前記誘電体膜の厚みを、2.5〜10nmとした点にある。
【0012】
本構成によれば、誘電体膜の膜厚を2.5〜10nmとすることにより、カーボンナノチューブを外界から遮断して長期安定性を確保しつつ、被検知ガスに対する感度を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るガス検知素子は、絶縁基板の上に設けた検出電極と、当該検出電極に接触するCNTを主成分とする感応層とを備え、前記CNTに誘電体膜を被覆したものである。従来の感応層にCNTを用いたガス検知素子では、例えば、被検知ガスとして、酸化性ガスであるNO2がCNTに吸着した場合には、図3(a)に示すように、NO2はCNTと電荷移動吸着してチャージアクセプターとして働き、それに伴いCNTの電子状態が変化することによりガスを検知する。本発明者らは、このような検知原理に着目し、CNTを誘電体膜で被覆することにより、CNTを外界から遮断しつつ、酸化性ガスが吸着した場合には、図3(b)に示すように、CNTのキャリアー輸送特性の変調(化学ゲート効果)によってガスが検知できることを見出した。このようなガス検知素子によれば、CNTが外界に曝されることがなくなり、酸化されて破壊されることを防止できるため、長期に亘って安定して使用することができる。尚、本発明に係るガス検知素子の検知対象となるガスは、誘電体膜を誘電分極できるものであれば、特に制限はなく、NO2、ハロゲン、一酸化炭素等のガスが例示される。
【0014】
以下、本発明に係るガス検知素子の一実施形態について、図面を参照して説明する。ここでは、絶縁基板の上に一対の検出電極を設け、当該一対の検出電極に亘って感応層を形成した基板型のガス検知素子1に適用した場合について説明する。
【0015】
本実施形態に係るガス検知素子1は、図1に示すように、絶縁基板2の表面に一対の櫛型の検出電極3,4が蒸着等によって設けてあり、これらの検出電極3,4と接触するようにCNTを主成分とする感応層5が設けてある。絶縁基板2の裏面には、感応層5に吸着したガスを加熱して脱離させるための薄膜ヒータ6が設けてある。
【0016】
絶縁基板2は、従来の基板型のガス検知素子に用いられるものが好ましく適用でき、その大きさ、形状等は特に限定されない。また、絶縁基板2の材質は、電気絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、熱伝導性、耐熱性等を考慮して選択することが好ましく、例えば、アルミナ、シリカ、ガラス等を適用することが好ましい。中でもアルミナを絶縁基板2として用いることは、その表面は完全な平滑ではなく、ナノオーダーの凹凸を有するため、アンカー効果により検出電極3、4や薄膜ヒータ6との接合を強固にすることができ、特に好ましい。
【0017】
検出電極3、4は、導電性材料であれば、特に制限はなく、任意に選択可能である。例えば、白金、金、白金パラジウム合金等、従来の基板型のガス検知素子と同様のものを用いることができる。特に白金は非常に耐久性に優れた材料であり、検出電極3、4に好ましく適用することができる。また、検出電極3、4の大きさ、形状等についても特に限定されない。
【0018】
薄膜ヒータ6は、加熱手段の一例であり、例えば、白金、金、白金パラジウム合金等をスパッタリング法、蒸着法等の従来公知の方法によって設けることができる。また、加熱手段は、薄膜ヒータ6の他、従来公知の加熱手段を適用したり、外部加熱機構を別途設けてもよい。
【0019】
感応層5は、図2(a)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真、図2(b)の透過型電子顕微鏡(TEM)断面写真に示すように、誘電体膜の一例であるシリコン酸化膜(SiOx,x>0)で被覆したCNTを主成分として構成してある。感応層5は、CNTを主成分として構成してあれば、他の成分が含まれていても何ら構わない。CNTとしては、単層のCNTと、中空構造が複数に重なった多層のCNTとがあり、いずれのものも適用可能であるが、特には単層であって、より半導体的性質を有するCNTが好ましい。
【0020】
感応層5を構成するCNTの密度は、特に限定されないが、0.01〜0.5g/cm3であることが好ましい。密度が小さい方が、被検知ガスが感応層5の内部にまで拡散し易くなる。このため、応答速度が速やかになると共に、感応層5の電気抵抗値が高くなり、検出感度を高くすることができる。一方、密度が小さくなり過ぎると吸着サイトも減少するため、検出感度が低下する。
【0021】
CNTを被覆する誘電体膜は、誘電分極可能なものであれば特に制限はないが、上述の検知原理から、絶縁性が良好で高誘電率な材料で構成することが好ましい。このような材料としては、上記のシリコン酸化物の他、アルミニウム酸化物(AlOx,x>0)、ハフニウム酸化物(HfOx,x>0)、ジルコニウム酸化物(ZrOx,x>0)、チタニウム酸化物(TiOx,x>0)等の金属酸化物や、シリコン窒化物(SiNx,x>0)等の窒化物が例示される。
【0022】
誘電体膜の膜厚は、誘電体膜へのガスの吸着をMOSFETの構造で考える場合、ガスの吸着による化学ゲート効果により、CNTへ電荷を誘起すると考えられるため、ガス検知素子1の感度(コンダクタンスG)との関係においては、以下の式が成立する。この式によれば、ガス検知素子1の感度は誘電体膜の膜厚に反比例して減少するため、感度を向上させる観点からは、誘電体膜の膜厚は薄い方が好ましい。
G∝C=ε0・k・S/d(C:誘電体の静電容量、ε0:真空の誘電率(定数)、k:誘電体の比誘電率、S:誘電体膜の表面積、d:誘電体膜の膜厚)
【0023】
一方、CNTを外界から遮断して保護し、ガス検知素子1の長期安定性を確保するという観点からは、誘電体膜の膜厚は厚い方が好ましい。
したがって、ガス検知素子1の感度と長期安定性とを考慮した場合、誘電体膜の膜厚は、2.5〜10nmであることが好ましい。
【0024】
感応層5を構成するCNTは、従来公知の方法によって製造することができ、特に限定されない。CNT自体は、例えば、熱化学気相蒸着(CVD)法によって、表1に示す条件で製造することができる。
【表1】

【0025】
CNTに被覆する誘電体膜は、例えば、シリコン酸化膜の場合、パルスレーザー蒸着(PLD)法によって、表2に示す条件で製造することができる。また、ターゲットを他の種類の金属に変更すれば、金属酸化膜の種類を変更することができ、雰囲気ガスを窒素に変更すれば、窒化膜を製造することができる。
【表2】

【0026】
PLD法では、レーザー光がターゲットに入射すると、その表面の温度が急激に上昇しアブレーションプラズマが発生し、このアブレーションプラズマ中に含まれるアブレーション粒子が雰囲気ガスとの衝突反応により状態を変化させながらCNTに蒸着される。このようなPLD法は、膜厚及び組成比の制御が可能で、均一被膜とすることができ、CNTと誘電体膜との密着性も良好となる。また、製膜の際には、不安定なCNT(欠陥サイトを有するCNT)を破壊することができる。
【0027】
CNTへの製膜方法としては、PLD法の他に、CVD法、ゾル・ゲル法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法等を用いることもできるが、CVD法では、作製工程が複雑であり、実用化には適しているとは言えない。ゾル・ゲル法では、CNTと誘電体膜との密着性が低い。電子ビーム蒸着法や真空蒸着法では、膜厚を制御し、均一被膜とすることはできるが、組成比を制御することが難しい。このため、CNTへの製膜方法としては、PLD法が特に好ましい。
【0028】
尚、その他のガス検知素子の構成、機能については、従来公知のガス検知素子と同様である。そして、本発明に係るガス検知素子は、既知のガス検知回路等に組み込むことにより、ガスセンサ等に適用することができる。
【実施例】
【0029】
以下に、本実施形態に係るガス検知素子1を用いた実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
絶縁基板2として、アルミナ基板を用い、従来の基板型の半導体式ガス検知素子の製造方法と同様にして、白金の検出電極3、4及び白金の薄膜ヒータ6を蒸着させた。次いで、絶縁基板2の上に、上記の方法により、誘電体膜としてシリコン酸化膜で被覆したCNTを作製し、感応層5とした。
【0031】
このようにして得られたガス検知素子1を用いて、NO2ガスに対する感度特性を調べた。その結果、図4に示すように、ppbレベルの濃度のガスに対しても良好な感度を示すことが分かった。
また、CNTに誘電体膜を被覆した場合と被覆しない場合とについて、NO2ガスに対する応答特性を調べたところ、図5に示すように、誘電体膜を被覆したCNTの方が感度が高いことが分かった。これは、化学ゲート効果に加えて、製膜の際に、欠陥サイトを有するCNTが破壊(ブレイクダウン)され、CNTの密度が低くなったために、感度が向上したものと考えられる。
【0032】
次に、ガス検知素子1のベースの経時特性を、感応層5の電気抵抗値の変化〔(|R0−Rn|/R0)×100、R0:初期の電気抵抗値、Rn:n回測定後の電気抵抗値〕によって調べた。その結果、図6に示すように、CNTに誘電体膜を被覆した感応層5を用いた方が安定していることが分かった。
また、0.5ppmのNO2ガスに対する感度の経時特性を調べたところ、図7に示すように、誘電体膜を被覆したCNTで構成した感応層5を有するガス検知素子1の方が感度が安定していた。
以上により、感応層5として誘電体膜を被覆したCNTを用いることにより、ガス検知素子1の長期安定性が向上することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る半導体式ガス検知素子は、従来のガスセンサ、ガス警報器、ガス測定器等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施形態に係るガス検知素子の概略図
【図2】本実施形態に係るガス検知素子の感応層を構成するCNTの写真
【図3】本実施形態に係るガス検知素子の検知原理を説明する図
【図4】本実施形態に係る半導体式ガス検知素子のNO2ガスに対する感度特性を示すグラフ
【図5】本実施形態に係る半導体式ガス検知素子のNO2ガスに対する応答特性を示すグラフ
【図6】本実施形態に係る半導体式ガス検知素子のベースの経時特性を示すグラフ
【図7】本実施形態に係る半導体式ガス検知素子のNO2ガスに対する感度の経時特性を示すグラフ
【符号の説明】
【0035】
1 ガス検知素子
2 絶縁基板
3 検出電極
4 検出電極
5 感応層
6 薄膜ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の上に設けた検出電極と、当該検出電極に接触するカーボンナノチューブを主成分とする感応層とを備え、
前記カーボンナノチューブに誘電体膜を被覆してあるガス検知素子。
【請求項2】
前記誘電体膜は、シリコン酸化物、シリコン窒化物、アルミニウム酸化物、ハフニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、チタニウム酸化物からなる群から選択される少なくとも1種で構成してある請求項1に記載のガス検知素子。
【請求項3】
前記誘電体膜の厚みは、2.5〜10nmである請求項1または2に記載のガス検知素子。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−38692(P2010−38692A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200991(P2008−200991)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000190301)新コスモス電機株式会社 (112)
【Fターム(参考)】