説明

ガス濃度測定装置およびガス濃度測定方法

【課題】1個の半導体レーザを用いることで、回路規模の増大を抑制しつつ、高濃度ガスと低濃度ガスの濃度を安定して検出するとともに、応答性の劣化を抑制する。
【解決手段】切替制御部40は、レーザ光の波長のスキャンが行われている一部の期間内に周波数変調が行われるように周波数変調のタイミングを切り替え、制御プロセッサ50は、増幅器43から出力された受光光量信号に基づいて、高濃度ガスの濃度を算出するとともに、増幅器48から出力された2f成分検出信号に基づいて、低濃度ガスの濃度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス濃度測定装置およびガス濃度測定方法に関し、特に、周波数変調されたレーザ光を用いてガスの濃度を測定する方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
気体状のガス分子にはそれぞれ固有の光吸収スペクトルが有ることが知られており、ガス分子の吸収線の中心周波数における減衰量はガスの濃度に比例する。このため、ガス分子の吸収線の中心周波数に一致した発振周波数をもつ半導体レーザ光をガスに照射し、その時のレーザ光の減衰量を測定することで、ガスの濃度を推定することができる(特許文献1)。
この原理を発展させたものとして2波長差分方式及び周波数変調方式があり、2波長差分方式では、半導体レーザの発振周波数はTHzオーダの信号であることから、複雑な信号処理を行うことができないのに対して、周波数変調方式では、数kHzのベースバンド領域で信号処理を行うことができるという利点がある。
【0003】
この周波数変調方式では、中心周波数fc、変調周波数fmで半導体レーザの出力が周波数変調され、測定対象ガスに照射される。なお、周波数変調とは、半導体レーザに供給されるドライブ電流を正弦波状にすることである。そして、半導体レーザは、温度や電流によって出射光の波長が変化するので、半導体レーザに供給されるドライブ電流を正弦波状にすることで、半導体レーザの出射光の波長を変調することができる。ここで、測定対象ガスの吸収線は変調周波数に対してほぼ2次関数となっているので、この吸収線が弁別器の役割を果たし、変調周波数fmの2倍の周波数の成分(2倍波成分)が得られる。そして、測定対象ガスの濃度が高いほどレーザ光の吸収量も大きくなるので、2倍波成分の強度も強くなり、この2倍波成分を検出することで、測定対象ガスの濃度を測定することができる。なお、以下の説明では、変調周波数fmを1f、変調周波数fmの2倍波周波数を2fとも呼び、2倍波成分を2f成分とも呼ぶ。
【0004】
図11は、従来のガス濃度測定装置の受信側の概略構成を示すブロック図である。
図11において、ガス濃度測定装置の受信側には、半導体レーザから出射されたレーザ光を検出するフォトダイオード111、フォトダイオード111から出力される電流を電圧に変換するI−V変換回路112、I−V変換回路112から出力された電圧を増幅する増幅器113、増幅器113を介して出力された信号から変調周波数の2倍波成分を抽出するバンドパスフィルタ114、変調周波数fmの2倍波周波数を持つ2f参照信号を発生する2倍波周波数信号発生部115、2f参照信号を用いることで、バンドパスフィルタ114の出力から2f成分を抽出する検波器116、検波器116の出力から不要な高域成分を除去するローパスフィルタ117、ローパスフィルタ117から出力された電圧を増幅する増幅器118が設けられている。
【0005】
そして、例えば、NHガスの濃度を測定する場合、周波数変調されたレーザ光がNHガスを通過すると、NHガスによる吸収量に対応した減衰を受けた後、フォトダイオード111に入射し、フォトダイオード111にてレーザ光が検出される。そして、フォトダイオード111にて検出された電流はI−V変換回路112にて電圧に変換され、増幅器113にて増幅された後、バンドパスフィルタ114にて変調周波数の2倍波成分が抽出され、検波器116に入力される。そして、2倍周波数信号発生部115にて発生された2f参照信号とバンドパスフィルタ114からの出力が検波器116にて合成されることにより、バンドパスフィルタ114からの出力から2f成分が抽出される。そして、検波器116にて抽出された2f成分は、ローパスフィルタ117にて不要な高域成分が除去された後、増幅器118にて増幅され、2f成分検出信号として出力される。
一方、送信側の変調方式として、変調の中心波長が常に吸収波長に一致するように制御するのは困難であるので、所定の振幅幅で1fの周波数にて変調しながら、変調幅の中心波長を徐々に変えて掃引する波長スキャン方式が採られることがある。
【0006】
図12(a)は、従来の半導体レーザを駆動する駆動電流の波形を示す図、図12(b)は、図12(a)の駆動電流で半導体レーザが駆動された時のレーザ光の発光波長を示す図である。なお、半導体レーザの発光光量は駆動電流にほぼ比例するため、発光光量の波形についても、図12(a)の波形と同様である。
図12において、波長スキャン方式では、例えば、0.5nm程度の範囲で波長をスキャンすることができる。ここで、あるガスAの吸収スペクトルの直ぐ近隣に別の種類のガスBの吸収スペクトルが存在する場合、1個の半導体レーザを用いて波長スキャンを行うことで、2種類のガスA、Bの濃度を検出することができる。
【0007】
ここで、ガスAは低濃度状態、ガスBは高濃度状態にある場合、図11のフォトダイオード111で検出される信号のレベルに大きな差が発生し、全く同一の信号処理でガスA、Bの濃度を精度よく検出することができなくなる。
例えば、1747.2nmに吸収スペクトルを持つ塩化水素HClと1747.1nmに吸収スペクトルを持つ水蒸気HOの濃度を1個の半導体レーザを用いて検出するものとする。塩化水素は水分に非常に吸着し易く、水分量により見かけの濃度が変化するので、塩化水素の濃度とともに水蒸気の濃度を検出することは、塩化水素の濃度を正確に見積る上で有用である。
【0008】
この場合、塩化水素はフルスケールレンジで10ppm〜500ppmの低濃度が測定され、水分は数vol%〜数十vol%程度の高濃度が測定されるのが通例である。このような状態では、各吸収スペクトルにおける吸光量は塩化水素の方が10倍以上大きいにもかかわらず、実際の吸光量は水蒸気の方が数10倍〜100倍以上大きくなる。
この結果、吸光量の大きな水蒸気の濃度が検出できるようにすると、吸光量の小さな塩化水素の検出時の信号対雑音比(SNR)が劣化し、吸光量の小さな塩化水素の濃度の検出精度を高くすると、吸光量の大きな水蒸気の検出信号が飽和する。
【0009】
このため、低濃度状態にあるガスAおよび高濃度状態にあるガスBの双方の濃度を精度よく検出できるようにするため、低濃度検出用回路と高濃度検出用回路の両方を設け、各濃度に合わせて回路ゲインを最適化する方法がとられることがある。
あるいは、図12(b)の波長スキャンにおいて、ガスAが吸収される時刻t1とガスBが吸収される時刻t2との間の境界のタイミングで検出回路のゲインを切り替える方法がとられることもある。
【特許文献1】特開平10−142148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、低濃度検出用回路と高濃度検出用回路の両方を設ける方法では、回路構成が大規模化し、コストアップを招くという問題があった。
また、検出回路のゲインを切り替える方法では、検出回路のゲインを切り替えた後に、過渡応答によってフィルタ回路などの特性が大きく変動し、これらの回路の動作が安定するまでに時間がかかる。このため、ガスAが吸収される時刻t1とガスBが吸収される時刻t2との間の間隔を大きくとる必要があり、スキャン時間を長くする必要があることから、応答性が劣化するという問題があった。
【0011】
また、低濃度状態にあるガスAおよび高濃度状態にあるガスBの双方の濃度を精度よく検出できるようにする方法として、低濃度状態にあるガスAは、変調周波数1fの2倍の周波数を持つ2f成分を同期検波法にて検出し、高濃度状態にあるガスBは、1f変調波形の包絡線から検出する方法も考えられる。
ただし、この方法では、包絡線の検出にはピークホールド回路が用いられるが、ピークホールドの応答性を良くすると、1fのピークから次のピークまでのピークホールド波形の変動が大きくなり、ピークホールド波形を安定させるためにピークホールドの時定数を大きくすると、包絡線の変化に追従できなくなる。
そこで、本発明の目的は、1個の半導体レーザを用いることで、回路規模の増大を抑制しつつ、高濃度ガスと低濃度ガスの濃度を安定して検出するとともに、応答性の劣化を抑制することが可能なガス濃度測定装置およびガス濃度測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、請求項1記載のガス濃度測定装置によれば、半導体レーザから出射されるレーザ光の波長をスキャンさせる波長スキャン部と、前記半導体レーザから出射されるレーザ光を周波数変調する周波数変調部と、前記レーザ光の波長のスキャンが行われている一部の期間内に前記周波数変調が行われるように前記周波数変調のタイミングを切り替えるタイミング切替制御部と、前記周波数変調を伴うことなく波長のスキャンが行われたレーザ光および前記周波数変調を伴いながら波長のスキャンが行われたレーザ光を検出する光検出部と、前記光検出部にて検出された受光信号の変調周波数の2倍の周波数の2倍波周波数参照信号を発生する2倍波周波数信号発生部と、前記2倍波周波数信号発生部にて発生された2倍波周波数参照信号を、前記周波数変調を伴いながら波長のスキャンが行われた受光信号に掛け合わせることにより、前記受光信号の2倍波成分を抽出する検波部と、前記検波部にて抽出された前記受光信号の2倍波成分に基づいて、少なくとも2種類のガスのうちの吸光量が少ない方のガスの濃度を算出するとともに、前記周波数変調を伴うことなく波長のスキャンが行われた受光信号に基づいて、吸光量が多い方のガスの濃度を算出するガス濃度算出部とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2記載のガス濃度測定方法によれば、半導体レーザから出射されるレーザ光の波長をスキャンさせるステップと、前記レーザ光の波長のスキャンが行われている一部の期間内に前記レーザ光の周波数変調を行うステップと、前記周波数変調を伴うことなく波長のスキャンが行われたレーザ光および前記周波数変調を伴いながら波長のスキャンが行われたレーザ光を検出するステップと、前記検出された受光信号の変調周波数の2倍の周波数の2倍波周波数参照信号を発生するステップと、前記周波数変調を伴いながら波長のスキャンが行われた受光信号に前記2倍波周波数参照信号を掛け合わせることにより、前記受光信号の2倍波成分を抽出するステップと、前記抽出された前記受光信号の2倍波成分に基づいて、少なくとも2種類のガスのうちの吸光量が少ない方のガスの濃度を算出するステップと、前記周波数変調を伴うことなく波長のスキャンが行われた受光信号に基づいて、前記少なくとも2種類のガスのうちの吸光量が多い方のガスの濃度を算出するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、吸光量が少ない方のガスについては、受光信号の2倍波成分から濃度を検出することを可能としつつ、吸光量が多い方のガスについては、受光信号の2倍波成分を抽出することなく濃度を検出することが可能となる。このため、吸光量が多い方のガスの濃度を検出するために検波器などの回路が不要になり、吸光量が少ない方のガスが良好に検出できるように回路ゲインなどを最適化した場合においても、吸光量が多い方のガスの検出信号が飽和するのを防止することができる。この結果、1個の半導体レーザを用いた場合においても、回路規模の増大を抑制しつつ、高濃度ガスと低濃度ガスの濃度を安定して検出するとともに、応答性の劣化を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係るガス濃度測定装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るガス濃度測定装置の概略構成を示す断面図である。
図1において、ガス濃度測定装置の送信側には、レーザユニット17から出射されたレーザ光の発光波長をスキャンさせながら、スキャンが行われている一部の期間内に周波数変調を行う送信部基板14、レーザユニット17から出射されたレーザ光を平行ビームに変換するコリメートレンズ16およびレーザ素子が搭載されたレーザユニット17が設けられている。なお、レーザ素子としては半導体レーザを用いることができ、レーザユニット17には、レーザ素子の温度を検出するサーミスタおよびレーザ素子の温度を調整するペルチェ素子を搭載することができる。
【0016】
また、ガス濃度測定装置の受信側には、測定対象ガスを透過したレーザ光を集光する集光レンズ20、測定対象ガスを透過したレーザ光を検出する光検出部21および測定対象ガスを透過したレーザ光の2倍波周波数から低濃度ガスの濃度を算出するとともに、周波数変調を伴うことなく波長のスキャンが行われた受光信号に基づいて、高濃度ガスの濃度を算出する受信部基板22が設けられている。なお、光検出部21としては、例えば、フォトダイオードを用いることができる。
【0017】
ここで、送信部基板14、コリメートレンズ16およびレーザユニット17はハウジング18に収容されるとともに、集光レンズ20、光検出部21および受信部基板22はハウジング19に収容されている。そして、煙道などの測定対象ガスが流れる配管などの隔壁11a、11bには、フランジ12a、12bが溶接などの方法にて取り付けられる。そして、送信部基板14、コリメートレンズ16およびレーザユニット17が収容されたハウジング18は、ウェッジ窓15aにて配管内と仕切られるようにしてフランジ12aに取り付けられるとともに、集光レンズ20、光検出部21および受信部基板22が収容されたハウジング19は、ウェッジ窓15bにて配管内と仕切られるようにしてフランジ12bに取り付けられる。
【0018】
そして、レーザユニット17から出射されたレーザ光の発光波長がスキャンされながら、発光波長のスキャンが行われている一部の期間内に中心周波数fc、変調周波数fmでレーザ光が周波数変調される。そして、発光波長がスキャンされながら周波数変調が間欠的に行われたレーザ光がレーザユニット17から出射され、コリメートレンズ16にて平行ビームに変換された後、ウェッジ窓15aを介して隔壁11a、11b間の種類の異なる2種類以上の測定対象ガスを透過する。そして、種類の異なる2種類以上の測定対象ガスを透過したレーザ光は、測定対象ガスのガス分子の吸収線にそれぞれ対応した波長の吸収を受けた後、ウェッジ窓15bを介して集光レンズ20に入射し、集光レンズ20にて光検出部21上に集光される。そして、光検出部21にレーザ光が入射すると、光検出部21にて電気信号に変換され、その電気信号が受信部基板22に送られる。そして、光検出部21にて変換された電気信号が受信部基板22に送られると、変調周波数の2倍波周波数を持つ2倍波周波数参照信号を受光信号に掛け合わせることにより、受光信号の2倍波成分を抽出し、その抽出された受光信号の2倍波成分に基づいて、低濃度ガスの濃度を算出するとともに、周波数変調を伴うことなく波長のスキャンが行われた受光信号に基づいて、高濃度ガスの濃度を算出することができる。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態に係る周波数変調方式によるガス濃度の測定原理を説明する図である。
図2において、中心周波数fc、変調周波数fmで半導体レーザの出力を周波数変調し、測定対象ガスに照射されたものとする。ここで、測定対象ガスの吸収線は変調周波数に対してほぼ2次関数となっているので、この吸収線が弁別器の役割を果たし、光検出部21では変調周波数fmの2倍の周波数の成分(2倍波成分)が得られる。そして、変調周波数fmは任意の周波数でよいので、例えば、変調周波数fmを数kHz程度に選ぶと、デジタル信号処理装置(DSP)または汎用のプロセッサを用い高度な信号処理を施すことが可能となる。
【0020】
そして、半導体レーザと光検出部21との距離に起因するレーザ光の減衰量の影響を周波数変調方式にてキャンセルするためには、半導体レーザの出力に周波数変調を行うと同時に変調周波数fmで振幅変調を行えばよく、半導体レーザの出力に周波数変調をかけることで振幅変調もかけることができる。そして、光検出部21でエンベロープ検波を行うことで振幅変調による基本波成分を推定することができ、この基本波成分の振幅と2倍波成分の振幅の比を位相同期させて取ることで、半導体レーザと光検出部21との距離に依存することなく、測定対象ガスの濃度に比例した値を得ることができる。
【0021】
図3は、本発明の一実施形態に係る駆動電流と半導体レーザの発光波長との関係を示す図である。
図3において、半導体レーザの発光波長は駆動電流が増加するに従って長くなる。このため、半導体レーザの駆動電流を制御することにより、半導体レーザの発光波長を調整することができる。
図4は、本発明の一実施形態に係る温度と半導体レーザの発光波長との関係を示す図である。
図4において、半導体レーザの発光波長は温度が増加するに従って長くなる。このため、半導体レーザの温度を制御することにより、半導体レーザの発光波長を調整することができる。
【0022】
図5は、本発明の一実施形態に係るガス濃度測定装置の送信側の概略構成を示すブロック図である。
図5において、ガス濃度測定装置の送信側には、半導体レーザ36が設けられ、半導体レーザ36には、半導体レーザ36の温度を検出するサーミスタ37および半導体レーザ36の温度を調整するペルチェ素子38が搭載されている。
また、サーミスタ37にて検出された温度に基づいてペルチェ素子38を駆動することにより、半導体レーザ36の温度を制御する温度制御部35、半導体レーザ36から出射されるレーザ光の波長をスキャンさせる波長走査信号S1を発生させる波長走査駆動信号発生器31、半導体レーザ36から出射されるレーザ光を周波数変調する高周波信号S2を発生させる高周波変調信号発生部32、レーザ光の波長のスキャンが行われている一部の期間内に周波数変調が行われるように周波数変調のタイミングを切り替える切替制御部40、高周波変調信号発生部32の出力をオン/オフするスイッチ39、波長走査信号S1と高周波信号S2を合成する合成器33、波長走査信号S1に高周波信号S2が間欠的に合成された信号に基づいて半導体レーザ36を駆動する電流を制御する電流制御部34が設けられている。なお、波長走査駆動信号発生器31としては、三角波発生回路を用いることができ、安定性の観点からは、デジタルカウンタとDA変換器とを組み合わせた回路を用いるようにしてもよい。
【0023】
図6は、NHガスの吸収スペクトラムの一例を示す図である。
図6において、NHガスでは、1512nm付近に吸収波長帯のピークがある。このため、波長走査駆動信号発生器31は、周波数変調されたレーザ光の発光波長が1512nm付近をスキャンするように半導体レーザ36の駆動電流を変化させることで、NHガス中でレーザ光を吸収させ、NHガスの濃度を計測させることができる。また、温度制御部35は、ペルチェ素子38を駆動することにより、波長スキャン時の中心部分でNHガスの濃度が検出されるように半導体レーザ36の温度を事前に設定することができる。
【0024】
ここで、NHガスが高濃度状態にある場合、切替制御部40は、高周波変調信号発生部32の出力をオフし、波長走査信号S1に高周波信号S2が合成されない信号に基づいて半導体レーザ36を駆動させることができる。また、NHガスが低濃度状態にある場合、切替制御部40は、高周波変調信号発生部32の出力をオンし、波長走査信号S1に高周波信号S2が合成された信号に基づいて半導体レーザ36を駆動させることができる。
【0025】
図7は、本発明の一実施形態に係るガス濃度測定装置の受信側の概略構成を示すブロック図である。
図7において、ガス濃度測定装置の受信側には、半導体レーザから出射されたレーザ光を検出するフォトダイオード41、フォトダイオード41から出力される電流を電圧に変換するI−V変換回路42、I−V変換回路42から出力された電圧を増幅する増幅器43、増幅器43を介して出力された信号から変調周波数の2倍波成分を抽出するバンドパスフィルタ44、変調周波数fmの2倍波周波数を持つ2f参照信号を発生する2倍波周波数信号発生部45、2f参照信号を用いることで、バンドパスフィルタ44の出力から2f成分を抽出する検波器46、検波器46の出力から不要な高域成分を除去するローパスフィルタ47、ローパスフィルタ47から出力された電圧を増幅する増幅器48、増幅器43から出力された受光光量信号および増幅器48から出力された2f成分検出信号をデジタル信号に変換するAD変換器49およびガスの濃度の算出処理を行う制御プロセッサ50が設けられている。
ここで、制御プロセッサ50は、増幅器43から出力された受光光量信号に基づいて、高濃度ガスの濃度を算出するとともに、増幅器48から出力された2f成分検出信号に基づいて、低濃度ガスの濃度を算出することができる。
【0026】
図8は、本発明の一実施形態に係る波長スキャン方式によるガス濃度の測定方法を示す図である。ここで、図5の波長走査信号S1は、波長走査信号S1の強度が一定に保たれた一定信号73と、波長走査信号S1の強度が台形状に直線的に増加する波長掃引信号72と、波長走査信号S1の強度が0であるゼロ信号74とから構成することができる。なお、図8の例では、複数の測定対象ガスとして、HClガスとHOガスとを例にとった。
【0027】
そして、HClガスとHOガスの濃度を測定する場合、図5の温度制御部35は、ペルチェ素子38を駆動することにより、波長走査信号S1の中心の近隣部分でHClガスとHOガスの濃度が検出されるように半導体レーザ36の温度を事前に設定する。
そして、図5の波長走査駆動信号発生器31は、半導体レーザ36の発光を安定化させるために、波長走査信号S1の強度が半導体レーザ35のスレッショルドカレント以上になるようにして一定に保ちながら、波長走査信号S1の一定信号73を合成器33に出力するとともに、切替制御部40はスイッチ39をオンすることで、高周波変調信号発生部73は10kHz程度の正弦波からなる高周波信号S2をスイッチ39を介して合成器33に出力する。
【0028】
そして、波長走査信号S1の一定信号73と高周波信号S2とは合成器33にて合成され、波長走査信号S1の一定信号73と高周波信号S2とが合成された信号に基づいて半導体レーザ36の電流が制御されることにより、HClガスとHOガスによる吸収を受けない波長λを中心として10kHz程度の正弦波にてレーザ光が周波数変調される。
【0029】
そして、周波数変調されたレーザ光はHClガスとHOガスを通過すると、HClガスとHOガスによる吸収を受けることなく図7のフォトダイオード41に入射し、フォトダイオード41にてレーザ光が検出される。そして、フォトダイオード41にて検出された電流はI−V変換回路42にて電圧に変換され、増幅器43にて増幅された後、バンドパスフィルタ44にて変調周波数の2倍波成分が抽出され、検波器46に入力される。そして、2倍周波数信号発生部45にて発生された2f参照信号とバンドパスフィルタ44からの出力が検波器46にて合成されることにより、バンドパスフィルタ44からの出力から2f成分が抽出される。そして、検波器46にて抽出された2f成分は、ローパスフィルタ47にて不要な高域成分が除去された後、増幅器48にて増幅され、2f成分検出信号としてAD変換器49に出力される。
【0030】
ここで、波長λを中心として周波数変調されたレーザ光はHClガスとHOガスによる吸収を受けないため、I−V変換回路42の出力から高周波信号S2の2倍の周波数成分が抽出されることはなく、検波器46からの出力は一定となる。
次に、図5の波長走査駆動信号発生器31は、HOガスの吸収波長帯をスキャンさせるために、波長走査信号S1の強度を台形状に直線的に増加させることで、波長走査信号S1の波長掃引信号72を合成器33に出力するとともに、切替制御部40はスイッチ39をオフすることで、高周波変調信号発生部32にて生成された10kHz程度の正弦波からなる高周波信号S2が合成器33に出力されるのを阻止する。なお、HClガスとHOガスの濃度を測定する場合、波長走査駆動信号発生器31は、0.2nm程度の線幅をスキャンできるように波長走査信号S1を発生することができる。
【0031】
そして、波長走査信号S1の波長掃引信号72は合成器33にて高周波信号S2と合成されることなく、電流制御部34に出力され、波長走査信号S1の波長掃引信号72に基づいて半導体レーザ36の電流が制御されることにより、HOガスの吸収波長帯を含むように波長λから波長λまでの範囲で波長がスキャンされたレーザ光が出射される。
【0032】
そして、波長がスキャンされたレーザ光はHOガスを通過すると、HOガスによる吸収量に対応した減衰を受けた後、図7のフォトダイオード45に入射し、フォトダイオード41にてレーザ光が検出される。そして、フォトダイオード41にて検出された電流はI−V変換回路42にて電圧に変換され、増幅器43にて増幅された後、受光光量信号としてAD変換器49に送られ、デジタルデータに変換される。そして、デジタルデータに変換された受光光量信号は制御プロセッサ50に送られ、デジタルデータに変換された受光光量信号に基づいて、HOガスの濃度が算出される。
【0033】
ここで、HOガスの吸収波長帯を含むように波長λから波長λまでの範囲で波長がスキャンされたレーザ光はHOガスによる吸収量に対応した減衰を受けるため、I−V変換回路42からの出力はHOガスによる吸収波形に対応した値となる。
次に、図5の波長走査駆動信号発生器31は、HClガスの吸収波長帯をスキャンさせるために、波長走査信号S1の強度を台形状にさらに直線的に増加させることで、波長走査信号S1の波長掃引信号72を合成器33に出力するとともに、切替制御部40はスイッチ39をオンすることで、高周波変調信号発生部32は10kHz程度の正弦波からなら高周波信号S2を合成器33に出力する。
【0034】
そして、波長走査信号S1の波長掃引信号72と高周波信号S2とは合成器33にて合成され、波長走査信号S1の波長掃引信号72と高周波信号S2とが合成された信号に基づいて半導体レーザ36の電流が制御されることにより、HClガスの吸収波長帯を含むように波長λから波長λまでの範囲を中心として10kHz程度の正弦波にてレーザ光が周波数変調される。
【0035】
そして、周波数変調されたレーザ光はHClガスを通過すると、HClガスによる吸収量に対応した減衰を受けた後、図7のフォトダイオード41に入射し、フォトダイオード41にてレーザ光が検出される。そして、フォトダイオード41にて検出された電流はI−V変換回路42にて電圧に変換され、増幅器43にて増幅された後、バンドパスフィルタ44にて変調周波数の2倍波成分が抽出され、検波器46に入力される。そして、2倍周波数信号発生部45にて発生された2f参照信号とバンドパスフィルタ44からの出力が検波器46にて合成されることにより、バンドパスフィルタ44からの出力から2f成分が抽出される。そして、検波器46にて抽出された2f成分は、ローパスフィルタ47にて不要な高域成分が除去された後、増幅器48にて増幅され、2f成分検出信号としてAD変換器49に送られることで、デジタルデータに変換される。そして、デジタルデータに変換された2f成分検出信号は制御プロセッサ50に送られ、デジタルデータに変換された2f成分検出信号に基づいて、HClガスの濃度が算出される。
【0036】
ここで、HClガスの吸収波長帯を含むように波長λから波長λまでの範囲を中心として周波数変調されたレーザ光はHClガスによる吸収量に対応した減衰を受けるため、検波器46からの出力はHClガスによる吸収波形に対応した値となる。
これにより、吸光量が少ない方のHClガスについては、受光信号の2倍波成分から濃度を検出することを可能としつつ、吸光量が多い方のHOガスについては、受光信号の2倍波成分を抽出することなく濃度を検出することが可能となる。このため、吸光量が多い方のHOガスの濃度を検出するために検波器などの回路が不要になり、吸光量が少ない方のHClガスが良好に検出できるように回路ゲインなどを最適化した場合においても、吸光量が多い方のHOガスの検出信号が飽和するのを防止することができる。この結果、1個の半導体レーザ36を用いた場合においても、回路規模の増大を抑制しつつ、高濃度ガスと低濃度ガスの濃度を安定して検出するとともに、応答性の劣化を抑制することが可能となる。
【0037】
図9(a)は、本発明の一実施形態に係る半導体レーザの駆動電流(または発光光量)の波形を示す図、図9(b)は、図9(a)の駆動電流で半導体レーザが駆動された時にフォトダイオードで受光された受光光量の波形を示す図である。
図9(a)において、図5の半導体レーザ36の駆動電流は、波長走査信号S1の波長掃引信号72に高周波信号S2が間欠的に重畳された波形になり、半導体レーザ36の発光光量の波形についても、図9(a)の波形と同様になる。
そして、図9(a)の発光光量のレーザ光がガス流路を通過すると、図9(b)に示すように、そのガスの特定波長の吸光量に対応した減衰を受ける。そして、その減衰を受けたレーザ光を図7のフォトダイオード41で受光し、領域R1の受光光量信号に基づいて、高濃度ガスの濃度を算出するとともに、領域R2の2f成分検出信号に基づいて、低濃度ガスの濃度を算出することができる。−
【0038】
図10は、図9(b)のRAの部分の時間軸を拡大して示す図である。
図10において、吸光が起きていない波長を点A、B、吸光が起きている波長を点Nとし、点A、点B、点Nの時刻をそれぞれt、t、t、点A、点B、点Nの波長での受光光量信号の電圧値をそれぞれy、y、yとすると、吸光量に相当する電圧値Vは、以下の(1)式にて求めることができる。
(t−t)(y−y)/(t−t)+y−y (1)
この電圧値Vはガスの濃度に比例することから、図9(b)のRAの部分から電圧値Vを求めることにより、ガスの濃度を検出することができる。
【0039】
このように、本発明の実施形態によれば、高濃度ガスの検出には1f変調を行うことなく波長掃引を行うことで受光信号の光量波形を計測し、低濃度ガスの検出には波長掃引を行いながら1f変調を行い、同期検波にて2f成分を計測するようにしたので、処理回路が複雑化したり、応答性が遅くなったり、波形の変動が大きくなったりするのを防止しつつ、簡易な構成を付加するだけで、複数の半導体レーザを用いることなく、高濃度ガスと低濃度ガスの濃度を安定して検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係るガス濃度測定装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る周波数変調方式によるガス濃度の測定原理を説明する図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る駆動電流と半導体レーザの発光波長との関係を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る温度と半導体レーザの発光波長との関係を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るガス濃度測定装置の送信側の概略構成を示すブロック図である。
【図6】NHガスの吸収スペクトラムの一例を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るガス濃度測定装置の受信側の概略構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る波長スキャン方式によるガス濃度の測定方法を示す図である。
【図9】図9(a)は、本発明の一実施形態に係る半導体レーザの駆動電流の波形を示す図、図9(b)は、図9(a)の駆動電流で半導体レーザが駆動された時にフォトダイオードで受光された受光光量の波形を示す図である。
【図10】図9(b)のRAの部分の時間軸を拡大して示す図である。
【図11】従来のガス濃度測定装置の受信側の概略構成を示すブロック図である。
【図12】図12(a)は、従来の半導体レーザを駆動する駆動電流の波形を示す図、図12(b)は、図12(a)の駆動電流で半導体レーザが駆動された時のレーザ光の発光波長を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
11a、11b 隔壁
12a、12b フランジ
14 送信部基板
15a、15b ウェッジ窓
16 コリメートレンズ
17 レーザユニット
18、19 ハウジング
20 集光レンズ
21 光検出部
22 受信部基板
31 波長走査駆動信号発生器
32 高周波変調信号発生部
33 合成器
34 電流制御部
35 温度制御部
36 半導体レーザ
37 サーミスタ
38 ペルチェ素子
39 スイッチ
40 切替制御部
41 フォトダイオード
42 I/V変換回路
43、48 増幅器
44 バンドパスフィルタ
45 2倍波周波数信号発生部
46 検波器
47 ローパスフィルタ
49 AD変換器
50 制御プロセッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザから出射されるレーザ光の波長をスキャンさせる波長スキャン部と、
前記半導体レーザから出射されるレーザ光を周波数変調する周波数変調部と、
前記レーザ光の波長のスキャンが行われている一部の期間内に前記周波数変調が行われるように前記周波数変調のタイミングを切り替えるタイミング切替制御部と、
前記周波数変調を伴うことなく波長のスキャンが行われたレーザ光および前記周波数変調を伴いながら波長のスキャンが行われたレーザ光を検出する光検出部と、
前記光検出部にて検出された受光信号の変調周波数の2倍の周波数の2倍波周波数参照信号を発生する2倍波周波数信号発生部と、
前記2倍波周波数信号発生部にて発生された2倍波周波数参照信号を、前記周波数変調を伴いながら波長のスキャンが行われた受光信号に掛け合わせることにより、前記受光信号の2倍波成分を抽出する検波部と、
前記検波部にて抽出された前記受光信号の2倍波成分に基づいて、少なくとも2種類のガスのうちの吸光量が少ない方のガスの濃度を算出するとともに、前記周波数変調を伴うことなく波長のスキャンが行われた受光信号に基づいて、吸光量が多い方のガスの濃度を算出するガス濃度算出部とを備えることを特徴とするガス濃度測定装置。
【請求項2】
半導体レーザから出射されるレーザ光の波長をスキャンさせるステップと、
前記レーザ光の波長のスキャンが行われている一部の期間内に前記レーザ光の周波数変調を行うステップと、
前記周波数変調を伴うことなく波長のスキャンが行われたレーザ光および前記周波数変調を伴いながら波長のスキャンが行われたレーザ光を検出するステップと、
前記検出された受光信号の変調周波数の2倍の周波数の2倍波周波数参照信号を発生するステップと、
前記周波数変調を伴いながら波長のスキャンが行われた受光信号に前記2倍波周波数参照信号を掛け合わせることにより、前記受光信号の2倍波成分を抽出するステップと、
前記抽出された前記受光信号の2倍波成分に基づいて、少なくとも2種類のガスのうちの吸光量が少ない方のガスの濃度を算出するステップと、
前記周波数変調を伴うことなく波長のスキャンが行われた受光信号に基づいて、前記少なくとも2種類のガスのうちの吸光量が多い方のガスの濃度を算出するステップとを備えることを特徴とするガス濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−192246(P2009−192246A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30467(P2008−30467)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】