説明

ガス状燻蒸気消毒剤の製造および使用

【課題】部屋、建物、コンビナート、通勤路線、または戦場等の広いエリアにわたって消毒可能な消毒方法を提供する。
【解決手段】(a)病原体等の微生物汚染されたエリアに、燻煙発生機等により大豆脂肪酸メチルエステル等の空気媒介性生物致死性油から発生させた燻蒸気を、汚染除去目的に有効な量で分散させる工程、および、(b)上記燻蒸気で該病原体を減弱させる工程、を包含する消毒方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(背景)
(1.発明の分野)
本発明は、例えば広いエリアにわたって、例えば、部屋、建物、コンビナート、通勤路
線、または戦場における、霧状化または気化している消毒剤の使用に関する。より具体的
には、その消毒剤は、植物性油誘導体または石油であり得る。
【背景技術】
【0002】
(2.関連分野の説明)
微生物による人間環境の汚染は、常に健康に対する脅威を提示し、今やヒトに対して、
およびその食物供給連鎖に対して直接的な、バイオテロの潜在性を有する。これには、ポ
リオ、腺ペスト、ヒト型結核、コレラ、サルモネラ菌症および、つい最近では、レジオネ
ラ菌および出血性大腸菌O157:H7の大発生が例示される。コレラおよび肝炎(多く
の地域において風土病的である)は、排出されたばかりの糞便によって蔓延し得る。肉類
および他の食物のサルモネラ菌種および大腸菌による汚染は、恒常的な問題である。近年
、微生物汚染の危険性が、食物媒介性疾患、病院内での院内感染およびバイオテロの脅威
の増加に伴って、より明らかになってきている。最近のバイオテロの事例は、米国の郵便
網が兵器グレードのBacillus anthracisによって汚染された際に起こ
り、郵便物だけでなく、郵便物が取り扱われたエリアおよび配達された地域を清浄化する
問題をもたらした。
【0003】
微生物はまた、植物および動物の両方の病原体であるため、そしてヒト食物連鎖の潜在
的汚染原因物質であるため、農業生産に対しても重大な問題である。防除されなければ、
一般的な動物共生体(animal symbiot)は、生産者および消費者の両方の
健康を脅かす濃度まで増加し得る。家禽のサルモネラ菌汚染は、長い間問題となっている
。この微生物は、家禽に随伴して見られる天然の細菌であり、生産系の天然の汚染原因物
質である。近年、家禽をどのように飼育し、加工処理して市場に出されるかにおける変化
によって、この微生物がヒト用食品の流路に、食品の不適正な調製の結果として侵入する
のが可能となった。サルモネラ菌に対処するため、およびそのヒトの健康に対する脅威を
縮小するための、かなりの取り組みが提唱されている。したがって、卵ならびに屠殺時ま
たはその後の屠殺体を、例えば放射線照射によって汚染除去する方法が開発されている。
【0004】
また、病原体を排除するための有効な方法がなくても、家禽をサルモネラ菌に対して免
疫処置する方法が開発されている。これらとしては、ひよこに摂取させるか、噴霧するか
、または別の方法で適用した場合に免疫を誘導する媒介手段として、非感染性のサルモネ
ラ単離菌を作製することが挙げられ、これは、Larosseらに対して発行された特許
文献1に報告されている。
【0005】
大腸菌O157:H7の研究は、ヒトの健康を脅かす家畜系微生物の1つの問題の特徴
を示し得る。抗生物質は、長い間動物の成長を促進するために少量で使用されている。こ
の使用により、抗生物質耐性微生物の出現および家畜の腸内微生物叢の改変がもたらされ
た。したがって、大腸菌O157−H7の流行の増加が見られた。この生物は、通常家畜
消化管に存在し、家畜に対して有害でないが、ヒトにおいては出血性となる(Madig
anら,2000)。大腸菌O157:H7の大発生が数回、北米で起こった。これらは
、屠殺体の加工処理中での汚染された肉類に起因するものであった。その大部分の感染は
、ファーストフードレストランで出された、加熱が不充分な肉類と関連していた。これら
の大発生は、特に小児および高齢者の間で死をもたらし、製品が製造業者に回収されるの
に費用がかかった。屠殺後の屠殺体または食肉解体処理中(蒸気または熱湯での処理を含
む)動物の汚染除去の方法が開発されたが、この場合も、課題を達成する有効で安全な方
法がないため、食肉解体または加工処理施設の汚染除去による発生源においてはその課題
に取り組まれていない。
【0006】
広い空間、例えば、オフィス建物、病院の部屋、手術室、貨物輸送機(例えば、トラッ
ク;船舶および航空機など)の汚染除去のための現行の方法は、塩素系溶媒、グルタルア
ルデヒド(glutraldehyde)、ホルムアルデヒド、市販の消毒剤、例えば、
Lysol(登録商標)およびPinesol(登録商標)ならびにアルコール系製品で
の表面の洗浄、または二酸化塩素を用いた燻蒸を伴う。これらの方法は、ある程度の有効
性をもたらすが、いずれも、充分効率的というわけではなく、各々、その使用に対して大
きな問題点を示す。これらの消毒剤の多くは毒性であるため、人が適用する際に特別な取
扱いが必要とされる。これらの消毒剤はすべて、汚染除去後に洗浄除去すべき残留物が残
る。これらの方法は、感知機器が存在する場合、使用することができない。現行の手順に
伴う問題の一例は、郵便網において配達された兵器グレードのBacillus ant
hraxisによる建物の汚染後、Hart Office Building(Was
hington,DC)の清掃中に生じた。二酸化塩素ガスは、病原体を減弱させるため
のえり抜きの方法であった。したがって、処理中およびその後、適正な換気が記録される
まで、この建物を空にしなければならなかった。最初の処理は十分でなく、第2回の適用
が必要とされた。
【0007】
広い空間の汚染除去のために開発された最新の手法の一例は、市販の噴霧器内で専売(
proprietary)物質との混合物の状態である一般的な消毒剤、例えば、Lys
ol(登録商標)またはChlorox(登録商標)の機械的懸濁液から発生させる水性
燻蒸気の生成を伴うものである。この燻蒸気は、汚染除去対象の空間に適用し、次いで、
紫外波長の光を用いて細菌の死滅を確実にする。この手法は、いくらか有効であるが排除
すべき残留物が残り、この手法は、郵便物または他の内包物質を滅菌するために使用する
ことができない。また、Petriらに対して発行された特許文献2には、表面を汚染除
去ための噴霧可能な消毒用組成物の化学組成および使用が記載されている。これらの消毒
剤組成物の使用のための好ましい実施形態は、加圧プロペラントによる推進である。
【0008】
郵便網の汚染除去は、γ放射線照射による放射線照射によってなされる。これは、特別
な格納施設およびその使用に対して特別に訓練された人員を必要とする。これらの施設は
高価であり、したがって、郵便物の分類および取扱いの場では、全く使用することができ
ない。放射線照射中は、最近の炭疽脅威後に、郵便物を汚染除去するための試みの際に起
こった発火によって示されるように、郵便物またはその内容物の損傷の可能性がある。
【0009】
潜在的な食物媒介性病原体を低減するため、および作業員の健康安全性を改善するため
の、広い農業生産または加工施設の消毒に対する適用への取り組みは、ほとんどまたは全
くされていない。このような施設、例えば、鳥小屋、畜舎および屠殺場などは広く、所定
の場所の動物または作業員に影響される。
【0010】
広いエリアから病原性真菌の増殖を汚染除去するコスト効率のよい方法は開発されてい
ない。これらの真菌は、建物建造およびコンテナ輸送において、問題となりつつあり、増
加している。
【0011】
重度に病原性の生物またはウイルス(例えば、炭疽胞子または天然痘ウイルス)による
汚染は、大きな脅威である。これらの病原体は、表面を汚染し得、より悪い場合はエアロ
ゾル化形態で導入され、ヒトの生命に対して大きな脅威となる。これらの病原体に対する
曝露は、テロ活動、偶発的放出および生物兵器の使用の結果起こり得る。細菌または真菌
で汚染された表面を消毒するために用いられる物質としては、二酸化塩素ガス、エチレン
オキシドおよび他の毒性の高いガスが挙げられる。これらは、例えば、残留物が残存しな
いことが所望される場合、および感知計測器が汚染除去エリア内に存在する場合に使用さ
れる。これらのガスは、紙に対してある程度の浸透性を有する。
【0012】
あまり有害でない病原体は、従来の消毒剤液および洗剤(中でも、例えば市販品のLy
sol、Pinesolなど)、ならびに植物油(中でも、例えばレモン油など)によっ
て減弱され得る。これらの消毒剤液と洗剤の組合せを含む水または他の溶媒をエアロゾル
化したものを、汚染された表面上に噴霧してもよい。より刺激の強い化学物質、例えば、
アルコールの水性希釈物、グリセルアルデヒドおよび他のアルデヒド(例えば、ホルムア
ルデヒドおよびグルタルアルデヒドなどを用いることにより、有効性の増大が得られ得る
。場合によっては、消毒を増強するため、紫外光に対する曝露がより穏やかな化学物質と
組み合わせて使用されている。
【0013】
化学消毒剤の使用は、問題がある。これらの化学物質の多くは刺激物質であり、強力な
免疫反応を誘発し得る。使用されている気体消毒剤は、ユーザーに対して毒性が高く、特
別な注意が必要とされる。これらは常に有効というわけではなく、多くの場合、1回より
多い適用が必要とされる。使用時、処理対象エリアは空にしなければならない。これらの
ガスを用いる利点は、残留物がほとんど残らないことである。洗剤および市販の消毒剤は
、汚染された表面に液状物として適用されるべきものであり、多くの場合、洗浄除去すべ
き残留物が残る。アルコールは、胞子形成性の菌および真菌に対して中程度しか有効でな
い。グリセルアルデヒドおよびホルムアルデヒドは、アレルギー誘発性および変異誘発性
の両方であり、相当注意して取り扱わなければばらない。
【0014】
この10年で、政府施設が、郵便物にて発送された病原体(最も顕著には、炭疽胞子)
のため機能障害に苦しむ多くの場面に直面してきた。政府施設内での郵便物の汚染除去は
、通常電子ボンバードメントによってなされる。これは、特別な注意を払うこと(例えば
、その専門家の遮蔽)を必要とする。実際面では、これは、中程度しか有効でないことが
証明されており、紙材料で発火を引き起こし、適用するには高価である。その有用性は、
特定の施設に限定される。
【0015】
植物油および脂肪酸の誘導体または脂質誘導体は、表面の消毒剤および滅菌剤として、
または局所、口腔または鼻腔内送達される抗微生物薬もしくは抗ウイルス薬として、また
は洗浄物質として使用され得、医薬用途、対抗療法、特許医薬および洗浄用溶液において
よく知られている。例えば、Heiらに対して発行された特許文献3には、第4級または
プロトン化性窒素化合物、酸化剤化合物およびハロゲン化物源が合わさった反応生成物と
して形成された酸化性の種を含有する抗菌性および抗ウイルス性組成物が記載されている
。Petriらに対して発行された特許文献2には、過酸化ハロゲン、抗菌性精油および
界面活性剤系を含有する噴霧可能な消毒性組成物が記載されている。Wrightに対し
て発行された特許文献4には、ヘリコバクター・ピロリに対して使用され得る、抗細菌性
の水中油型エマルジョンが記載されている。油状の非連続相は連続水相中に分散している
。油状の非連続相は、油担体と、グリセロールモノオレエートおよびグリセロールモノス
テアレートからなる群より選択されるグリセロールエステルとを含有し、カチオン系のハ
ロゲン化炭化水素を加えてもよい。
【0016】
植物油および脂肪酸の誘導体または脂質誘導体は、表面の消毒剤および滅菌剤に、また
は局所、口腔または鼻腔内送達される抗微生物薬もしくは抗ウイルス薬として、または洗
浄物質として使用され得、医薬用途、対抗療法、特許医薬および洗浄用溶液においてよく
知られている。
【0017】
大豆メチル(methyl soyate)の作製方法および大豆メチルの使用方法は
、環境および化学の分野でよく知られている。Heimannらに対して発行された特許
文献5には、抗菌目的に使用され得る洗浄用組成物が記載されており、大豆メチル、d−
リモネンおよび酸性pH調整剤の組み合わせを含有する。Stidhamらに対して発行
された特許文献6には、植物性油からの低級アルキルエステル生成物の調製方法が記載さ
れている。特に、大豆油を抽出し濾過して微細固形物を除去し、次いでゴム質を除去し漂
白する。調製された油を攪拌反応器内に導入し、ここに、低級脂肪族一価アルコールおよ
びアルカリ性触媒を導入する。アルコール分解を、事実上、完了するまで進行させる。低
級アルキルアルコールエステル相を分取し、水で洗浄して微量の未反応アルコールおよび
アルカリ性触媒を除去する。この方法は、大豆メチルを生成させるために使用され得る。
【0018】
二酸化塩素などの燻蒸剤が、生物学的に有害な微生物に感染したエリアを汚染除去する
ために用いられているが、これらの燻蒸剤は、後に、人に有害な毒性の残留物が残る。B
lancに対して発行された特許文献7には、部屋の汚染除去法が教示されている。噴霧
器を用い、精油を含有する生成物をミストとして拡散させる。精油は、安息香酸、ザロー
ルおよびチモールから本質的になる。しかしながら、このミストは、噴霧器により送達さ
れ、したがって、展開の広さおよびエリア全体の浸透性が非常に限定的である。
【0019】
ごく最近の方法では、同様の噴霧器アプローチを用いており、この場合、市販の消毒剤
(例えば、LysolおよびChloroxなどの製品などの塩素系物質などの組成物)
を混合し、表面上に噴霧した後、微生物が死滅する波長範囲の紫外光に曝露する。塩素消
毒剤での処理と同様、この手順では、曝露後に、洗浄すべき残留物が残る。
【0020】
広いエリアへの化学消毒剤の分散における使用に適した機構および化学消毒剤はほとん
どない。軍事目的の掩蔽性(obscurant)燻煙の形成に「霧状油(fog oi
l)」と呼ばれる石油系油を適用することは、軍用分野において、長年知られている。し
かしながら、この手法は汚染除去目的に転用されていない。燻煙の発生方法もまた、燻煙
を発生させるために用いられる機械およびエンジンとともに、当該分野においてよく知ら
れている。さらに、エアロゾルを噴出させる技術も、長年知られている。エアロゾルを生
成および噴出させる方法は、種々に変形されている。これらの手法は、一般的に、消毒剤
の適用用途において使用されていない。
【0021】
米国国防軍では、戦場状況において、敵軍が物資および人員の位置確認する能力を妨害
するために、掩蔽性の「霧」または「燻煙」を用いる。現在、この掩蔽性燻煙は、石油留
出物または「霧状油」(軽重量モーター(light weight motor)油と
同様の性質を有する炭化水素の複合混合物)を用いて発生させる。霧状油、およびそれゆ
えそれにより発生させる掩蔽性燻煙は、多核芳香族炭化水素(PAH)を含有し得る可能
性という安全性の懸念が生じる。これらの化合物は、動物系において潜在的に発癌性であ
ることがわかっている。米国陸軍が使用している物質は、厳格な水素処理によってPAH
無含有となっているとみなされている。しかしながら、この処理後に分析すると、PAH
は約1%レベルで残留し続けている。
【0022】
燻煙またはエアロゾル発生方法の一例は、圧電アクチュエーターを使用することである
。例えば、Denenに対して発行された特許文献8には、液状物を圧電振動器により霧
状にするための制御システムであって、電池式噴霧器が交流電圧を受け、この電圧が、ア
トマイジングメンブレンを振動させる圧電アクチュエーターに印加される制御システムが
記載されている。Fraccaroliに対して発行された特許文献9には、温度が高す
ぎる場合は、感知された温度に基づいて入力を減少させて霧化を中断し、温度が低すぎる
場合は、入力スループットを増加させることにより、圧電発振回路が温度制御される超音
波エアロゾル装置が記載されている。
【0023】
人工燻煙は、圧電デバイス以外の熱機械的デバイスでも発生させ得る。例えば、Ada
msらに対して発行された特許文献10には、ルノアールサイクルまたは一定容量の多種
燃料燃焼機関の作用によって掩蔽性燻煙を発生させるためのガソリン、ディーゼルまたは
灯油系燃料で作動し得る多種燃料燃焼機関の使用が記載されている。Humbersto
neに対して発行された特許文献11には、複合式薄壁型アクチュエーターによって振動
させるメンブレンを用いた噴霧器型噴霧デバイスが記載されている。Brassertら
に対して発行された特許文献12には、タービンホイールに固定され、これとともに回転
するスリンガー(slinger)ディスクの使用により霧状油を霧状にする霧状油燻煙
発生機であって、霧状油および高温タービンガスの混合物の状態の霧状油を霧状化および
蒸散させるための霧状油燻煙発生機が記載されている。Levin IIIらに対して発
行された特許文献13には、制御可能に燻煙を発生させるための方法および装置が記載さ
れており、この場合、燻煙発生用液を管状部材内で加熱して該液の実質的な量を気化させ
、気化した液を、管状部材内を上方に流動するガスと混合し、燻煙を生成させる。
【0024】
たとえ、従来の化学消毒剤を広いエリア(例えば、建物、コンビナート、通勤路線また
は戦場など)に分散させることが望ましい場合であっても、化学消毒剤それ自体が健康お
よび安全性に対して危険となることが問題となろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】米国特許第5,868,998号明細書
【特許文献2】米国特許第6,436,342号明細書
【特許文献3】米国特許第6,436,445号明細書
【特許文献4】米国特許第5,618,840号明細書
【特許文献5】米国特許第6,281,189号明細書
【特許文献6】米国特許第6,127,560号明細書
【特許文献7】米国特許第5,635,132号明細書
【特許文献8】米国特許第6,439,474号明細書
【特許文献9】米国特許第5,803,362号明細書
【特許文献10】米国特許第5,665,272号明細書
【特許文献11】米国特許第5,518.179号明細書
【特許文献12】米国特許第4,697,520号明細書
【特許文献13】米国特許第5,220,637号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0026】
(要旨)
本発明の手段は、広いエリアを汚染除去するために分散させ得る安全な化学消毒剤を提
供することにより、上記に概略を示した問題を解決し、当該技術を発展させるものである
。該分散システムは、例えば、エステル交換された植物性油、例えば大豆メチルを分散さ
せるための軍用燻煙発生技術を利用するものであり得る。
【0027】
メチル化された植物性油を燻煙またはエアロゾル消毒剤として使用することには、多く
の利点が存在する。かかる利点の1つは、この処置が残留物を残さず、真菌以外の真核生
物に対して無毒性であることである。燻煙発生機は容易に構築され得、かかる燻煙発生機
は様々なものが市販されている。気体燻蒸気を発生させるために用いられる原液(nea
t)油も燻蒸気それ自体も、本明細書において試験し示したように、いずれも毒性ではな
く、変異誘発性でもない。燻蒸気は、通常汚染除去した表面上に残留物を残さない。気体
燻蒸気は紙に浸透し得るため、有効な郵便による(in−mail)処理法となり得る。
専門家であれば、訓練により、これらの方法が容易に使用されよう。汚染除去され得る空
間の範囲は、他の方法を上回る。本明細書に開示する手段は、家禽および家畜の生産施設
および屠殺場において安全に使用され得る。燻蒸気は、油粒子が適用中に相応に凝縮され
た場合であっても速やかに消散し、検出可能な残留物を残さない。
【0028】
大空間の比較的廉価な汚染除去が、比較的容易に行なわれ得る。一例として、このよう
な空間としては、バイオテロによって汚染された部屋および他の屋内空間が挙げられる。
本明細書中の手段は、胞子形成性の菌、例えば、バチルス種(Bacillus ant
hraxis および Bacillus licheniformisなど)に対する
放射線照射の使用であり得る。家禽および家畜生産施設では、汚染除去は、食物連鎖に侵
入することが知られている病原性細菌、例えば、サルモネラ菌種、大腸菌O157 H7
および他の血清型、カンピロバクター菌種ならびに類似の細菌種について好都合に行な
われる。また、患者の安全性を改善するため、病院の部屋および手術着を汚染除去するこ
とも可能である。貨物輸送機(例えば、トラック、航空機および船舶)の汚染除去は、商
品のより安全な輸送をもたらし、テロ攻撃を予防し得る。適用農作物は、農業バイオテロ
を予防するために処理され得る。公共の場(例えば、学校および高齢者地域の汚染除去)
は、有害な赤痢菌属およびサルモネラ菌属などを排除し、幼児、小児および高齢成人のケ
アのためのより安全な環境を提供し得る。建物全体の処理は、病原性真菌、例えば、ペニ
シリウム属、アスペルギルス属、Stachybotryusなどによる汚染を改善また
は撲滅し得る。郵便網における郵便物の汚染除去は、郵便物取り扱い者の安全性を改善し
、郵便物によるバイオテロを予防し得る。
【0029】
多環芳香族炭化水素および脂肪酸エステルを含む油のエアロゾル、燻蒸気または燻煙(
例えば、霧状油および大豆メチル由来の油のエアロゾルなど)は、マウスおよびラットな
どの試験動物に対して非変異誘発性かつ無毒性である。このような物質は、容易に作製さ
れ得、広域にわたって展開され得る。本明細書において以下に記載するように、燻煙また
はエアロゾル形態のメチル化された植物性油は、微生物を死滅させるために使用され得る
。油のエアロゾルまたは燻煙に曝露することを基本とするアプローチは、あるエリアの汚
染除去法として、およびバイオテロ対策として使用され得る。
【0030】
さらなる利点は、この手順のコストが低いことに見出される。発生機に対する最大コス
トは、1,000〜3,000平方フィートの部屋を清掃するのに、または郵便網におけ
る郵便物を汚染除去するのに$20,000未満と概算される。これは、放射線により郵
便物を清浄化するための建物または施設を用意するためのほぼ$1,000,000と対
比的である。また、この手順では残留物が残らないため、処理後の清掃のためのコストは
全くないか、またはコストは最小限であり、したがって、発生機のコストは速やかに回収
され得る。有効な燻蒸気を発生させるための材料は、1ガロンあたり$5.00〜$15
.00のコストを有し、平均汚染除去では3〜5ガロンで回復する。この場合もまた、こ
れは現在使用されている手順よりも、かなり低いコストである。
【0031】
エステル交換された植物性油、例えば大豆メチルは、胞子を形成するすべての真菌に対
して有効とはなり得ず、真核生物病原体、例えば、線虫の卵または原虫に対しても有効と
はなり得ない。
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
病原体の減弱のためのエリアの汚染除去方法であって、該方法は、以下:
(a) 汚染されたエリアに、空気媒介性生物致死性油を、汚染除去目的に有効な量で
分散させる工程、および
(b) 生物致死性油で該病原体を減弱させる工程、
を包含する、方法。
(項目2)
前記空気媒介性生物致死性油が大豆メチルを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記病原体が、ウイルス、細菌、真菌、およびそれらの組合せからなる群より選択される
、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記病原体が、インフルエンザウイルス、西ナイルウイルス、天然痘ウイルス、およびそ
れらの組合せからなる群より選択されるウイルスである、項目2に記載の方法。
(項目5)
前記病原体が、バチルス属、エルジニア属、サルモネラ属、エシェリキア属、赤痢菌属、
シュードモナス属、セラチア属、エンテロバクター属、クロストリジウム属、カンピロバ
クター菌、クレブシエラ属、ミコバクテリウム属、ブドウ球菌属、ボルデテラ属、連鎖球
菌属、フランシセラ属、レジオネラ属、ビブリオ属およびそれらの組合せからなる群より
選択される細菌種の1つである、項目2に記載の方法。
(項目6)
病原体が、ブラストマイセス、カンジダ属、スタキボトリス属、アスペルギルス属、アク
レモニウム属、ヒストプラスマ属、白癬菌属、フザリウム属、セラトシスティス、クラド
スポリウム属、ペニシリウム属、およびボトリティス属からなる群より選択される真菌種
の1種である、項目2に記載の方法。
(項目7)
前記分散させる工程(a)が、前記大豆メチルを霧状化または気化させることを含む、請
求項2に記載の方法。
(項目8)
前記分散させる工程(a)が、前記大豆メチルを350℃〜650℃の範囲の温度まで加
熱すること、および該大豆メチルを適合性のあるキャリアガスと合わせることを含む、請
求項2に記載の方法。
(項目9)
前記分散させる工程(a)で使用される前記大豆メチルの有効量が、不活性キャリアガス
1リットルに対して少なくとも約0.05mLの大豆メチルを含む、項目2に記載の方
法。
(項目10)
前記分散させる工程(a)が、0.5ミクロン〜1.0ミクロンの範囲の直径を有するエ
アロゾル粒子が提供されるように、前記大豆メチルを霧状化することを含む、項目2に
記載の方法。
(項目11)
前記汚染されたエリアに存在する植物性物質を汚染除去する工程(c)をさらに包含する
、項目2に記載の方法。
(項目12)
前記汚染されたエリアに存在する動物または動物性産物を汚染除去する工程(c)をさら
に包含する、項目2に記載の方法。
(項目13)
前記分散させる工程(a)が、2〜60分間の範囲の時間、大豆メチルを分散させること
を含む、項目2に記載の方法。
(項目14)
大豆メチルと、少なくとも1種類の添加剤とを混合する工程(c)をさらに包含する、請
求項2に記載の方法。
(項目15)
前記添加剤が、着色剤、キャリア剤、芳香剤、およびそれらの組合せからなる群より選択
される、項目14に記載の方法。
(項目16)
病原体の減弱方法であって、該方法は、以下:
(a) 液状大豆メチルを貯蔵槽に添加する工程、
(b) 該液状大豆メチルを、該貯蔵槽から、加熱した管状加熱エレメントにポンピン
グする工程、
(c) 該液状大豆メチルを、該管状加熱エレメント内で気化させる工程、
(d) 該気化した大豆メチルを、該管状炉から不活性ガス流とともにバージし、流動
流を提供する工程、
(e) 該流動流からの液状物を凝縮する工程、および
(f) 該流動流を、汚染された対象物上または汚染されたエリア内に分散させ、病原
体を減弱させる工程、
を包含する、方法。
(項目17)
前記病原体が、微生物、病原体、寄生虫、およびそれらの組合せからなる群より選択され
る、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記パージ工程(d)で生成された前記流動流が、約0.5ミクロン〜約1.0ミクロン
の直径を有する気化した大豆メチルの粒子を含む、項目16に記載の方法。
(項目19)
前記分散させる工程(f)における前記汚染された対象物が、植物である、項目16に
記載の方法。
(項目20)
前記分散させる工程(f)における前記汚染された対象物が、動物または動物性産物であ
る、項目16に記載の方法。
(項目21)
前記分散させる工程(f)が、大豆メチルを約2〜約60分間分散させることを含む、請
求項16に記載の方法。
(項目22)
少なくとも1種類の添加剤と、前記大豆メチルとを混合する工程をさらに包含する、請求
項16に記載の方法。
(項目23)
少なくとも1種類の添加剤が、着色剤、キャリア剤、芳香剤、およびそれらの組合せから
なる群より選択される、項目21に記載の方法。
(項目24)
汚染除去システムであって、該システムは、以下:
燻煙発生における使用のための大豆メチル原料が供給された燻煙発生機であって、大豆
メチル原料を汚染されたエリアに汚染除去目的に有効な量で分散するように構成された燻
煙発生機、
を備える、汚染除去システム。
(項目25)
前記大豆メチル原料が、大豆メチルおよび少なくとも1種類の添加剤を含む、項目24
に記載の汚染除去システム。
(項目26)
前記少なくとも1種類の添加剤が、着色剤、キャリア剤、芳香剤、およびそれらの組合せ
からなる群より選択される、項目25に記載の霧状化装置。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、代表的な油のエアロゾル(燻煙)または燻蒸気発生機の計画図を示す。
【図2】図2は、図1の炉および油注入機の拡大(blow−up)の概略図を示す。
【図3】図3は、空気媒介性大豆メチルに曝露された時間の関数としてのサルモネラ菌の消滅を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(詳細な説明)
本明細書に開示する手段は、植物または動物、特にヒトに対して有害であるとみなされ
ているか、または生活の質に対していくらか負の価値を有するとみなされている微生物を
含み得るエリアを汚染除去するシステムおよび方法に関する。以下の記載は、一例として
教示するものであって、限定的ではない。
【0034】
大豆油エステル、例えば大豆メチルの燻煙および燻蒸気は、微生物に対する毒性が高い
。この驚くべき知見を、ここに、霧状油および大豆メチルの気体燻蒸気の消毒剤および/
または滅菌剤としての新規な適用用途の開発において完結させる。
【0035】
微生物汚染除去方法は、霧状油または大豆メチルを、有効な滅菌剤または汚染除去剤と
して作用する気体燻蒸気を高温において発生させる基剤として用いて行われ得る。霧状油
または大豆メチルは、エリアまたは表面に液体、燻煙、燻蒸気またはガスとして適用され
得る。気体燻蒸気を用いることが好ましく、これは、霧状油または大豆メチルから生成さ
れ、植物または動物、特にヒトに有害であり得る微生物を含み得るエリアまたは表面に送
達される。気体燻蒸気は、残留物を残すことなく、エリアまたは表面の有効な消毒をもた
らす。汚染除去対象のエリアは、少なくとも2分間、より好ましくは少なくとも15分間
〜30分間燻蒸消毒される。有効な汚染除去は、エリア内または表面上において有害であ
るとみなされている微生物の数の減少がある場合であって、宿主の病的感染または外寄生
の可能性のリスクが有意に低下した場合に存在する。
【0036】
一例として、消毒剤は、凝縮された油の燻蒸気から生成される気体燻蒸気またはエアロ
ゾル形態のものである。油は、石油系、動物系、植物系または合成系のものであり得る。
消毒剤は、エリアまたは表面に、例えば、空間またはエリアを少なくとも2分間持続する
気体燻蒸気で充満させることにより適用される。あるいはまた、気体燻蒸気を限定された
エリアにおよそ5分間適用し、次いで、その限定されたエリアを少なくともおよそ30分
間密閉するのであってもよく、その間に、エアロゾル化油粒子および/または気体燻蒸気
が該エリア浸透し、微生物を死滅させる。より好ましくは、該エリアを、気体燻蒸気また
はエアロゾル化油粒子に少なくとも15分間供する。試験して以下に報告する条件下では
、試験した細菌株のほとんどが、エアロゾル化油粒子または気体燻蒸気曝露の15分間の
後に死滅し、燻煙または気体燻蒸気に60分間供すると、試験した細菌株はすべて死滅し
た。
【0037】
天然の霧状油および大豆油エステルは、これらの油を350℃より高い温度で加熱する
とともに、残留水分を除去することにより生成する気体燻蒸気である、エアロゾル化方法
から捕集されるエアロゾル凝縮物の状態で提示される特別な抗菌特性を有する。これらの
物質は、好都合には、高等試験生物である動物(例えば、マウスおよびラットなど)なら
びにDrosophila melanogasterに対して非変異誘発性で無毒性で
ある(真核生物において変異誘発性および毒性特性を検出するために使用されるXアッセ
イ(以下に示す)により測定した場合)。他方、気体燻蒸気およびエアロゾル凝縮物は、
これまでに試験されたすべての細菌および真菌株に対して毒性が高く、これらの微生物で
汚染された表面の消毒に非常に有効である。エアロゾルおよび気体燻蒸気の広域抗菌性の
致死能力は、透過性バリア(例えば、紙および布など)中に燻蒸気が容易に拡散すること
によって増強され、かかるバリアの後ろ側の汚染された表面が滅菌される。消毒または滅
菌対象のエリアの性質によっては、2分間という短い曝露時間でも有効であることがわか
った。該油の気体燻蒸気は、容易に生成され、かつ広域にわたって展開させ得るため、該
油から生成させる気体燻蒸気への曝露に基づくアプローチは、消毒手法およびバイオテロ
対策としての潜在性をもつ。
【0038】
これらの手段の多くの利点としては、少なくとも:(1)哺乳動物(ヒトを含む)に対
して無毒性、(2)非変異誘発性、(3)広いエリアまたは狭い限定されたエリアへの使
用および適用が容易、(4)特にエアロゾル凝縮によって、無毒性だが殺微生物性の残留
物を残す予防膜が適用され得る、(5)布または紙への浸透により、郵便物消毒剤または
滅菌剤としての有用性を提供する、(6)当該技術分野において公知の方法および容易に
入手可能な設備を用いる適用、および(7)気体状の気化粒子が、エリア全体に完全に分
布され得、小さな裂け目に浸透し得ること、が挙げられる。胞子形成性の菌、例えばバチ
ルス種(Bacillus anthracisなど)、他のグラム陽性細菌、グラム陰
性細菌、真菌およびウイルスに対する広範囲の抗菌活性により、これらの手段はまた、国
内戦線または戦場におけるバイオテロ攻撃に対する保護のためにも有用である。さらなる
利点としては、通常の国内状況における使用、例えば、広範の環境における広いエリア(
例えば、農業生産および加工処理施設)を消毒するための使用が挙げられる。
【0039】
広いエリア、特に、植物または動物、特にヒトに対して病原性であるとみなされている
微生物を保有している危険性が高いか、または危険性が高いことが疑われるエリアが、汚
染除去または滅菌され得る。かかる微生物としては、限定されないが、インフルエンザウ
イルス、西ナイルウイルス、天然痘ウイルスなどのウイルス株、細菌株、例えば、バチル
ス属(Bacillus anthracis、B.lichenformis、B.m
egateriumなど)、エルジニア属(Yersinia pestisなど)、サ
ルモネラ属、エシェリキア属、赤痢菌属、シュードモナス属、セラチア属、エンテロバク
ター属、クロストリジウム属(Cloastridium botulinum)、カン
ピロバクター属、クレブシエラ属、ミコバクテリウム属、ブドウ球菌属、ボルデテラ属、
連鎖球菌属、フランシセラ属、レジオネラ属、ビブリオ属,など、病原性真菌、例えば、
ブラストマイセス(Blastomyces)、カンジダ属、スタキボトリス属、アスペ
ルギルス属(Aspergillus candidusおよびAspergillus
falvusなど)、アクレモニウム属、ヒストプラスマ属、白癬菌属、フザリウム属
(Fusarium solani セラトシスティス)、クラドスポリウム属(Cla
disporium)、ペニシリウム属、ボトリティス属などが挙げられる。この微生物
の列挙は例示であって、これらに限定されない。
【0040】
使用に適した環境としては、生物攻撃下にある疑いがある、食糧生産施設、鶏小屋およ
び他の家禽飼養施設、牛および豚の飼養および生産施設、研究室、生物兵器製造施設、フ
ィードロット、屠殺場、下水処理プラント、病院およびクリニック、模擬および実際の戦
場、船舶のバラストタンク、航空機のキャビンおよび貨物スペース、キッチン、郵便物取
扱い施設、国境検問施設、学校、ならびに建物および部屋が挙げられるが、これらに限定
されない。
【0041】
汚染除去の一様式は、本明細書に記載の組成であり、かつ記載のような凝縮システムを
用いて有効な気体燻蒸気に変換され得るエアロゾル化油の液滴を生成させる任意の装置を
用い、燻煙を発生させることである。より大規模での気体燻蒸気の展開では(例えば、戦
場、国境検問所、屠殺場においてなど)、米国陸軍のGenerator M−57の動
作(これは、燻煙発生分野において周知である)と同様の燻煙発生機(凝縮装置を備えた
もの)が使用され得る。より小規模での気体燻蒸気の展開では(例えば、研究室設備、鶏
小屋、郵便仕分け室、オフィス空間などにおいて)、より小規模の燻煙発生機、例えば、
図1に示すようなものが使用され得る。本発明を実施する当業者は、気体燻蒸気消毒剤が
適用され得る具体的な各状況に適合するように、種々の大きさおよび容量および作動様式
の燻煙発生機を代用し得る。
【0042】
以下の用語を本明細書において使用する。
【0043】
「大豆メチル」は、大豆から抽出された油の任意のエステルと定義する。該エステルは
、好ましくは、式RCOOCH(式中、Rは、炭素数が少なくとも2の任意の炭化水素
であり得る)のメチルエステルである。大豆メチルは、さらなる物質、例えば、着色剤、
キャリア剤、芳香剤、およびその組合せと混合されたものであってもよい。
【0044】
「油」または「油混合物」は、本明細書において、脂肪酸、リン脂質、ステロール、ス
テロイド、グリセリド、トリグリセリド、イソプレン、少なくとも2個の炭素を含む炭化
水素(芳香族炭化水素を含む)、石鹸および脂肪酸の塩、グリセリド、脂肪酸(飽和また
は不飽和のいずれかであって炭素数が少なくとも2のもの)、ステアリン酸、オレイン酸
、リノール酸、リノレン酸、およびトランス脂肪酸のメチルエステル、またはその混合物
、テルペン(モノ、ジ、トリおよびポリテルペンを含む)、テルペノイド、および植物の
テルペノイド樹脂成分(例えば、ベルベノン(verbenone)、ピネン リモネン
、ゲラニルおよびゲラノール)として示される脂肪の任意の1種と定義する。油は、石油
、植物、微生物または動物供給源由来のものであり得る。
【0045】
「燻煙(smoke)」は、本明細書で用いる場合、油の液滴または油燻蒸気の生成に
おいて使用される油の加熱中に生成される化学物質の液滴のエアロゾルから本質的になる
油燻蒸気の凝縮物と定義する。好ましくは、これらの手段において有用なエアロゾルは、
0.15μm〜1.5μmの間の直径の液滴を含む。「油のエアロゾル」および「燻煙」
は互換的に用いる。
【0046】
「燻蒸気(vapor)」は、本明細書で用いる場合、気相の油であって、一般的に、
油を少なくともその沸点まで加熱した後、油と水の残留物を除去し、凝縮時に残留物が残
らない気相をもたらすことにより生成される気相の油と定義する。
【0047】
「霧状油(fog oil)」は、掩蔽性の燻煙、または可視範囲の観測および追跡方
法を無効化する大量の白い雲霧状の油燻蒸気を生成させる目的のために使用される任意の
炭化水素と定義し、例えば、戦闘または戦闘訓練の際に使用されるものなどである。霧状
油の例としては、ディーゼル、JP4、JP8、MOGAS、Rev III、Rev
E、および他の石油系燃料が挙げられる。
【0048】
「微生物」は、本明細書で用いる場合、DNAまたはRNAを遺伝情報として有するあ
らゆる原核生物、単細胞真核生物およびウイルスを包含する。これらとしては、ウイルス
、例えば、天然痘および他のワクシニアウイルス、中でも植物のジェミニ(gemini
i)ウイルス、植物の胞子、細菌、シアノバクテリア、酵母、カビ、他の真菌、原生動物
門、およびその胞子が挙げられる。
【0049】
「病原体」は、本明細書で用いる場合、宿主または感染または侵入した因子由来の負の
生理学的応答をもたらすあらゆる生物体を包含する。これらとしては、疾患を引き起こす
か、または負の宿主応答を惹起することがわかっているウイルス、細菌および真菌が挙げ
られる。
【0050】
「寄生虫」は、宿主の動物または植物内に侵入して定着し、その機能は該宿主から栄養
分を得ることであるが、必ずしも明白な病原性状態を誘導するものでなく、その存在によ
って、該宿主がその自然な生理学的作用を行なう効率が低減される任意の生物体と定義す
る。
【0051】
「滅菌剤」または「消毒剤」は殺菌する薬剤と定義し、ここで、滅菌剤は、微生物を死
滅させるか無害にするものである。この一連の研究の目的のため、用語「滅菌する」およ
び「汚染除去する」は等価とし、互換的に用いる。
【0052】
図1は、汚染除去方法100を示す。工程102は、油系消毒剤または滅菌剤、例えば
、メチル化された植物性もしくは他の適当な油、油系材料または混合物の提供を伴う。工
程104では、油系消毒剤を加熱し、ガス、例えば、空気、窒素または希ガスと合わせ、
流動流において油系消毒剤をエアロゾル化および気化させる。気化目的に好適な油系消毒
剤の加熱としては、油系消毒剤を少なくとも350℃の温度まで加熱することが挙げられ
得る。エアロゾル化を、ベンチュリ、圧電デバイスまたはエアロゾルを生成させるための
他の機構の作用によって補助することが可能である。エアロゾルの形成は、好都合には、
さらなる気化を助長するための加熱を伴って使用される。しかしながら、エアロゾルミス
ト中の少量の液滴の存在は、これらの液滴の凝縮の有害な結果と関連し得る。凝縮が問題
となり得る場合は、工程106を用い、液状物を流動流から、例えば、繊維質フィルター
または遠心分離機の作用によって揮散させる。したがって、気化していない油および任意
の他の粒状物は流動流から燻煙または霧のみを、ガスと混合された流出気体燻蒸気として
残留させる凝縮手順によって除去され得る。
【0053】
必要に応じて、燻煙または霧を光学機器または電子機器により、工程108において、
燻煙または霧の量を確認するために解析し得る。工程108で生じた解析シグナルはフィ
ードバックとして、工程110において、燻煙または霧の量を油系消毒剤の流速、ガス流
速または加熱温度を変更することにより調整することができる電子制御措置に提供され得
る。燻煙または霧を用いる燻蒸消毒112は、微生物の死滅または動物に対する無害化を
もたらす。
【0054】
一例として、汚染除去対象のエリアは、微生物Bacillus anthracis
がテロ行為によって導入されるエリアであり、動物がヒトである。消毒を行なうため、該
エリアを少なくとも15分間、油混合物の少なくとも550℃までの加熱により形成され
る気体により燻蒸消毒する。
【0055】
別の例では、汚染除去対象のエリアは、ヒトが消費するための家禽または家畜が生産ま
たは調製されるエリアであり、細菌が、消費されると動物、特にヒトに対して病原性であ
る任意のあらゆる細菌である。これらとしては、限定されないが、大腸菌、サルモネラ種
、赤痢菌種、エンテロバクター属、カンピロバクター属(Camplyobcter)、
クレブシエラ属(Klebesella)、またはヘリコバクター属が挙げられる。消毒
を行なうため、該エリアを少なくとも15分間、植物または軽鉱物油の少なくとも550
℃までの加熱により生成されるエアロゾルまたは気体燻蒸気により、霧をたちこめるか、
または燻蒸消毒させる。
【0056】
図2は、図1に図示および説明した方法100を実施するために使用され得る消毒シス
テム200の一例を示す。消毒システム200は、平均的な大きさ、例えば、20フィー
ト×20フィート×10フィートの大きさの部屋を汚染除去するために用いるものであり
、そのためこの場合の流速は、より広いエリアおよびより小さなエリアに比例して調整し
得る。油貯蔵槽202には、植物性油誘導体が含まれ、これは、好ましくはメチル化され
た植物性油であり、最も好ましくは大豆メチルである。油貯蔵槽202はポンプ204に
、ライン206を介して原料を供給する。ポンプ204は、往復型デュアルピストン(r
eciprocating dual piston)ポンプまたは別の型のポンプであ
り得、例えば、油貯蔵槽202から植物性油誘導体の定常流を0.1ml/分〜10.0
ml/分の範囲の流速で送達できるものであり得る。ポンプ204は原料を、油貯蔵槽2
02から、サーモスタット制御された同心管状のオーブンまたは炉206、および選択し
た温度、一般的には、任意の温度または350℃〜650℃(±5℃)の範囲の温度で作
動するように電子制御される電子加熱コイルへ送達する。炉208の加熱作用により、透
過性チューブ210内の油系消毒剤の少なくとも一部が気化される。得られる燻蒸気およ
び、おそらくある程度の液体の液滴は、透過性チューブ210から注入された空気流21
2によって強制排出される。空気流速は、一般的に少なくとも約3L/分であり、適宜3
L/分〜15L/分の間の範囲であり得る。得られる混合流動流は、エアロゾル、ミスト
および燻蒸気を含有する。ライン216内を流れるより大量の液体の液滴は、凝縮油回収
部218内に回収され得、最終的には除去および廃棄される。混合流動流214の残部は
、フィルター分離部220、例えば、ガラスウール基材上への液滴の凝縮および凝集によ
って機能し得るガラスウールが充填されたデュアルチャンバ型ボックスを通過し、混合流
動流214において燻蒸気がエアロゾルまたはミスト成分からさらに分離され得る。
【0057】
混合流動流214の残部は、排出オリフィス222を介して、燻煙または霧224(こ
れは、油貯蔵槽202内の植物性油誘導体に由来する空気および燻蒸気を含む)として排
出される。フィルター/分離部220は、未濾過の流動流が直接排出され、凝縮液滴が意
図される使用環境において問題とならない場合、必要に応じて省略される。分析チャンバ
226には、必要に応じて、燻煙224の量を評価するための計測器228が取り付けら
れる。例えば、計測器228は光学的粒子計測器であり得、これは、プロセッサシステム
コントローラにフィードバックを提供し、該プロセッサシステムコントローラは、管状炉
208の温度、空気流212の質量流量および/またはポンプ204の出力を調整するこ
とにより、燻煙224において最適な特性が達成されるアルゴリズムがプログラムされて
いる。消毒剤燻煙発生機システム100は、広い範囲にわたる作動パラメータにおいて作
動させ得る。
【0058】
別の実施形態では、油貯蔵槽202内の植物性油系消毒剤材料は、石油系霧状油、例え
ば、ナフタレン、フェナントレン、フルオラントレン(fluoranthrene)お
よびピレンから選択される多環芳香族炭化水素と混合してもよい。該石油生成物は、気体
燻蒸気を生成させる凝縮手順において、実質的にすべてが除去される。別の実施形態では
、油系消毒剤は、フェナントレン、ジメチルフェナントレン(phenanathren
e)、パルミチン酸、パルミチン酸メチルエステル、ステアリン酸、ステアリン酸メチル
エステル、オレイン酸、オレイン酸メチルエステル、リノール酸、リノール酸メチルエス
テル、リノレン酸、およびリノレン酸メチルエステルと混合された大豆メチルを含むもの
であり得、この場合も、これらは、気体燻蒸気を生成させる凝縮手順において除去される
。別の実施形態では、油系消毒剤は、種油、中でも例えば、アマ(亜麻仁油)、コーン、
ヒマワリ、キャノーラ、またはヤシ由来の植物油、または植物の精油、例えば、限定され
ないが、テルペニオール(terpeniol)、リメノール(limenol)、ゲラ
ニオール、レモン油、ユーカリ油、バニラビーンズ油由来、もしくはナッツの種子油、例
えば、クルミ油由来の植物油である。これらの油は、大豆メチルを作製する様式でエステ
ル交換されたものであってもよい。
【0059】
燻蒸対象のエリアは、例えば、食糧生産施設、家禽飼養施設、家畜または豚の飼養また
は生産施設、生物兵器製造施設、フィードロット、屠殺場、下水処理プラント、病院、ヘ
ルスクリニック、戦場、船舶のバラストタンク、航空機のキャビン、病院の部屋(研究室
および手術室を含む)、キッチン、郵便物取扱い施設、国境検問施設、学校などであり得
る。死滅または無害化される微生物は、例えば、ウイルス、西ナイルウイルス、インフル
エンザウイルス、天然痘ウイルス、細菌、バチルス属、エルジニア属、サルモネラ属、エ
シェリキア属、赤痢菌属、シュードモナス属、セラチア属、エンテロバクター属、カンピ
ロバクター菌、クレブシエラ属、ミコバクテリウム属、ブドウ球菌属、セラチア属、ボル
デテラ属、連鎖球菌属、フランシセラ属、レジオネラ属、ビブリオ属、真菌、カンジダ属
、ヒストプラスマ属、白癬菌属などであり得る。
【0060】
一態様において、汚染除去対象のエリアは、バイオテロ攻撃の対象エリアであり得る。
該エリアは、屋内または屋外であり得る。該エリアは少なくとも30分間、霧状油または
大豆メチルを少なくとも350℃まで加熱することにより生成される気体燻蒸気により燻
蒸消毒し、生物兵器の残留痕跡を無害にし得る。このような様式の生物兵器の処置(re
mediation)としては、限定されないが、Yersinia pestis、B
acillus anthracis、レジオネラ属、ペニシリウム属、ボルデテラ属、
フザリウム属、アスペルギルス属、スタキボトリス属、天然痘ウイルス、エボラウイルス
などを分散させるものが挙げられる。
【0061】
また、掩蔽性の燻煙を発生させるために、油貯蔵槽202内において大豆油を用いるこ
とも可能である。大豆油は、石油留出物と同等の特性を有し、好都合には、PAHを含ま
ない。高温まで加熱し、発生機から霧として高速で送り出す(express)と、大豆
油は、およそ5μMの平均直径(1〜10μMの範囲)の粒子を含有するエアロゾルを生
成し、これは、石油留出物を生成する物質によって生じるものと同等である。大豆油霧は
、安定性において、霧状油により生成される霧と同等であり、実際には、より優れた掩蔽
体である。大豆油により生成される「霧」は、より良好な粒子生成効率をもたらし、燻煙
は、より安定である。加えて、大豆油系燻煙は、電磁スペクトルの赤外光範囲において広
域吸収バンドを有し、燻煙内に隠蔽されることが望まれる対象物のTR検出を妨害する。
他の植物性油も同様の特性を示し、掩蔽体の生成において等しい価値を有し得る。
【0062】
任意の大きさの油粒子を含むエアロゾルを含有する燻煙が、本発明の実施に適用可能で
あり得るが、エアロゾルを用いる場合、好ましい油の粒径は、直径がおよそ0.04ミク
ロン〜およそ2ミクロン範囲である。しかしながら、好ましい実施形態では、残留物の沈
積を抑制するために、気体燻蒸気が好ましい。
【0063】
燻煙は、好ましくは、油をおよそ350℃〜およそ650℃(±5℃)に加熱すること
により、まず油を気化させた後、気化させた油を、エアロゾル液滴および気体燻蒸気を凝
縮することによって発生させる。場合によっては、消毒システム200の動作を、エアロ
ゾル液滴が凝縮され、気体燻蒸気が汚染除去対象のエリアの空気中に分散されるように調
整することが好都合である。
【0064】
滅菌剤または消毒剤として有効な気体燻蒸気は、視覚の掩蔽体として使用され得、かつ
植物性(vegetable)または植物系の油、動物性脂肪またはそのエステル化誘導
体、例えば、大豆油またはそのメチルエステル(「大豆メチル」)に由来する、任意の石
油系霧状油、例えば、ディーゼル燃料、JP4、JP8、MOGASまたは他の石油系燃
料から作製され得る。霧状油、燻煙および大豆メチルの気体燻蒸気は、非常に多くの微生
物を死滅、または増殖を停止させるのに有効である。さらに、本発明の気体燻蒸気は、紙
に浸透して有効に微生物を死滅させ得ることが示された。したがって、本発明の気体燻蒸
気は、生物兵器として用いられる微生物(例えば、Bacillus anthraci
sなど)で汚染されていることが疑われる郵便物の消毒剤/消毒剤として使用され得る。
【0065】
上記の開示では、いくつかの実施形態を記載しているが、これらは、本発明の範囲の限
定と解釈されるべきではない。当業者には、本明細書に公然とは開示されていない本発明
の他の実施形態が認識されると想定される。以下のデータの裏づけのある実施例は、一例
として限定的でなく、好ましい材料および方法を示すために教示する。データの裏づけの
ある実施例は、開示し、特許請求の範囲に示したことの範囲の限定と解釈されないものと
する。
【実施例】
【0066】
(実施例1:燻煙発生方法)
種々の組成の気体燻蒸気を、米国陸軍のGenerator M−57の動作を模倣す
るように設計された小規模(研究室規模)燻煙発生機において生成させた。研究室規模の
気体燻蒸気発生機は、広い範囲にわたる作動パラメータ(油の種類、油流速、空気流速お
よび生成温度が挙げられる)において作動させ得る。この実施例で用いた気体燻蒸気発生
装置の概略を図2に示す。
【0067】
この実施例で用いた装置は、液体の定常流を0.1〜10.0ml/分で送達できる往
復型デュアルピストンポンプを備える。(6000型,Waters Associat
es)。ポンプからの液体は、図2に示すように、サーモスタット制御された同心管状オ
ーブンに送達した。管状炉の温度は、350℃〜650℃(±5℃)にわたる範囲で制御
可能であったが、550℃を用いた。気化させた油は、該管から空気流とともに、強制排
出された。得られたエアロゾルを、コールドフィンガー凝縮装置に供給し、ステンレス鋼
フレームを有するガラス内張り(glass−lined)モニター用チャンバ内へと通
過させ、一連の化学試験およびバイオアッセイに供した。
【0068】
(実施例2:燻煙成分の分析)
比較による化学的特徴付け試験を、異なる供給源の油材料、例えば、天然大豆油メチル
エステル、霧状油、ならびに実施例1で記載し、発生させた燻煙から回収したエアロゾル
凝縮物試料で行なった。ジメチルスルホキシド(DMSO)による試料の選択的抽出を、
シリカゲルでの溶出クロマトグラフィーと組み合わせて行なった。
【0069】
油試料のアリコートをn−ヘキサンで希釈し、1%溶液を得た。各溶液から一部の2μ
Lを採取し、5種類の重水素標識サロゲート芳香族、すなわち、l,4−ジクロロベンゼ
ン−d、ナフタレン−d、アセナフテン−d10、フェナントレン−d10、および
キセン(Chysene)−d12の各々500pgで強化した。強化した各試料を、5
mL DMSOで2回抽出した。2回目の抽出後、ヘキサン部分を廃棄し、一方、DMS
O集出物をプールした。10mLの有機物質無含有水を、プールしたDMSO抽出物に添
加した。次いで各混合物を、5mLの10%ベンゼン含有ヘキサンで2回逆抽出した。ヘ
キサン抽出物を濾過し、無水硫酸ナトリウム(NaSO)床に通すことにより「乾燥
」させた。NaSO床を、一部の20%n−ヘプタン含有ヘキサン5mLでリンスし
、これを、乾燥させたヘキサン抽出物に添加した。乾燥させた抽出物を1mLまで、ゼロ
グレード窒素気流下で濃縮した。濃縮された抽出物の一部である2Lを、ガスクロマトグ
ラフィー−質量分析(GC−MS)システム、5890型シリーズIIおよび5972型
(Hewlett−Packard Instruments)内にインジェクトした。
【0070】
ガスクロマトグラフィー分離は、30m×0.25mm(i.d.)融合シリカキャピ
ラリー(表面にポリシロキサンを結合)を用いて行なった(95%メチル+5%フェニル
)。ヘリウムを、キャリアガスとして動的圧力制御下で用いた。線流速を、35cm/分
で一定に維持した。質量分析計は、選択イオンモード(SIM)において作動させた。1
6種類の縮合環芳香族および選択したアルキル化芳香族に関する特性イオンを、ガスクロ
マトグラフィーの実行中、選択した時間窓においてモニターした。
【0071】
この実験の際に用いた霧状油(Rev.E)は、米陸軍化学学校(Fort Leon
ard Wood,MO)から入手した。種々の温度で発生させた燻煙から得た試料(非
加熱「天然」霧状油を含む)をガスクロマトグラフィー−質量分析(GC−MS)に供し
た。いくつかのピークの存在が、標識サロゲートおよび内部標準に加え、容易に観測され
た。保持時間およびイオン質量電荷比(m/z)マッチングにより、これらのピークが、
主に、ナフタレンおよびアルキル化芳香族などの芳香族炭化水素に対応することが明らか
になった。高級多環芳香族炭化水素(PAH)、例えば、フルオラテンおよびピレンもま
た、100万分の5〜22部(ppm)の範囲で検出された。燻煙発生温度を上げると、
縮合環PAHおよびアルキル化PAHの両方において、わずかだが測定可能な濃度の増加
がもたらされた。この増加は、フェナントレンの場合で最も顕著であり、その濃度は6か
ら28ppmに増加した。原液霧状油およびエアロゾル凝縮物中にて検出されたPAHお
よびアルキル化PAHの濃度を表1に示す。
【0072】
【表1−1】

【0073】
【表1−2】


表2は、大豆メチルを用いて得られた比較の解析結果を示す。
【0074】
【表2−1】

【0075】
【表2−2】


霧状油とは対照的に、天然大豆メチルは、PAHを実質的に含まなかった。この油の主
な構成成分は、5種類の脂肪酸メチルエステル、すなわち、パルミチン酸メチルエステル
、ステアリン酸メチルエステル、オレイン酸メチルエステル、リノール酸メチルエステル
、およびリノレン酸メチルエステルである。トータルイオンクロマトグラムにおいて観察
された唯一のピークは、サロゲートおよび内部標準のものであった。原液大豆メチルおよ
び異なる発生温度で得た大豆メチルのエアロゾル凝縮物中のPAHの濃度を表2に示す。
観察されたPAHの唯一の変化はフェナトレンの場合であり、濃度は<0.1から6pp
mに増加した。
【0076】
導入した油の単位容量あたりの生成したエアロゾル粒子の数を、本明細書では粒子密度
とよぶ。この値を、本研究室では、エアロゾル発生効率の尺度としてモニターした。発生
効率は、油流速0.25〜1.5mL/分、空気流速3〜15L/分および発生温度50
0〜600℃で測定した。これらの測定に用いた実験設備は、希釈チャンバ、バイポーラ
充電器(bipolar charger)、動的移動解析装置(DMA)および凝縮核
粒子計数器(CNC)で構成した。発生機からのエアロゾル負荷(laden)空気流は
、DMAおよびCNCアセンブリ内に導入する前に、236L/分の補助空気流で希釈し
た。DMAに通す試料ガス流速は、3L/分に維持した。1mL/分の油流で大豆メチル
および霧状油について行なったエアロゾル効率実験の結果を、それぞれ、表3および4に
示す。
【0077】
【表3】


大豆メチル油の流速は1mL/分に設定した。数密度は、粒子/ccで示す。
【0078】
【表4】


霧状油の流速は1mL/分に設定した。数密度は、粒子/ccで示す。
【0079】
1mL/分および他の油流速で得られた結果では、霧状油および大豆メチルの両方で同
様の傾向が示された。得られた粒子の密度は、非常に類似していた。大豆メチルでは、5
50℃および600℃においてより大きな数密度が得られたが、霧状油では、500℃に
おいて、わずかに高い密度が得られた。この差は、おそらく、2つの油の沸点と引火点の
差に起因するものである。大豆メチルの沸点および引火点は霧状油のものよりもわずかに
高い。エアロゾル発生効率および空気流速において、より大きな空気流速(すなわち、少
なくとも15L/分)では、発生機の温度が低くなり、発生効率の低下がもたらされたこ
と以外は、明白な差は観察されなかった。
【0080】
また、粒径分布もモニターした。実験により、0.1〜1ミクロンの間の粒子は、周囲
条件下の空気中において、比較的長い寿命を有することが示された。したがって、周囲条
件下の空気中において長い寿命を維持するには、0.3〜0.5ミクロンの平均直径を有
する粒子が最も望ましい。大豆メチルおよび霧状油で得られたエアロゾルの全般的な粒径
分布および数密度は、非常に類似していた。両方の型のエアロゾルの粒径分布は、0.0
4〜2ミクロンの範囲であり、モード範囲はおよそ0.15〜およそ1.5ミクロンであ
った。
【0081】
(実施例3:油のエアロゾル(燻煙)の抗菌特性の実証)
霧状油および大豆メチルのエアロゾルを、種々の微生物に対するこれらの毒性について
試験した。この試験で用いた油のエアロゾルは、米国陸軍が使用している「霧状油燻煙」
発生機の動作を模擬する方法により生成させた。この方法は、霧状油および大豆油エステ
ルの気化、およびそれに続く凝縮を包含し、可視光線に対する有効な掩蔽体であり、かつ
周囲空気中で30分間まで安定な、およそ0.5〜1ミクロンの直径の粒子を得る。
【0082】
富化(enriched)栄養最小寒天(MNA)培地を含むプレートを、サルモネラ
菌株を植菌し、曝露チャンバ内に入れ、霧状油または大豆メチルの燻煙におよそ30秒間
〜2分間の範囲の所要時間曝露した。燻煙(油のエアロゾル)は、0.5mL/分の油を
350℃に維持されたステンレス鋼製の管内に導入することにより発生させた。対照は、
MNA培地を含むプレートを、油のエアロゾルへの曝露の非存在下で曝露チャンバ内に3
0分間入れたものとした。曝露後、すべてのプレートを37℃で24時間インキュベート
し、サルモネラ菌コロニーの存在について検査した。エアロゾルに種々の時間間隔で曝露
したMNAプレートの検査において、サルモネラ菌コロニーは、油のエアロゾルに2分間
未満曝露したプレート上にのみ存在することが示された。より長い時間間隔で曝露したプ
レートではコロニーは観察されず、これは、油のエアロゾルがサルモネラ菌に対して高い
毒性を発揮することを示す。
【0083】
上記の実験の変形例において、MNAプレートを、普通の紙またはティッシュペーパー
で被覆し、油のエアロゾル(霧状油または大豆メチル)に2分間または5分間曝露した。
プレートをチャンバから取り出し、該細菌培養物を植菌し、24時間インキュベートし、
細菌コロニーの存在について検査した。コロニーの増殖はなく、これは、油のエアロゾル
中にある該殺微生物性の薬剤が、殺微生物剤としてのその有効性を維持したまま、紙に浸
透し得ることを示す。この紙での実験変形例において、プレートへの植菌前に油のエアロ
ゾルに曝露した紙およびティッシュペーパーの検査では、直接曝露したプレートで得られ
たものと同様の結果が得られた。サルモネラ菌コロニーは、2分間より長い間隔で曝露し
たプレートでは観察されなかった。この結果は、霧状油または大豆メチルのエアロゾル発
生中に生成された殺微生物性薬剤が、紙またはワイプティッシュ全体に容易に拡散され、
寒天マトリックス中に取り込まれ、寒天を微生物の増殖に適さないものにしたことを示す

【0084】
上記の実験のまた別の変形例において、MNAプレートを油のエアロゾル(霧状油また
は大豆メチル)に曝露し、チャンバから取り出した後、滅菌フード内に5〜30分の時間
入れた。次いで、プレートに該細菌培養物を植菌し、24時間インキュベートし、細菌コ
ロニーの存在について検査した。植菌前に油のエアロゾルに曝露したプレートの検査では
、直接曝露したプレートで得られたものと同様の結果が得られた。サルモネラ菌コロニー
は、2分間より長い間隔で曝露したプレートでは観察されなかった。この結果は、油のエ
アロゾル発生中に生成された該殺微生物性の薬剤が、寒天マトリックス中に取り込まれ、
寒天を微生物の増殖に適さないものにしたことを示す。
【0085】
広範囲の微生物株に対して霧状油および大豆メチルのエアロゾルの毒性を評価するため
、さらなる曝露実験を行なった。曝露実験は、表5に示した生物とともにプレインキュベ
ートし、霧状油および大豆メチルの「燻煙」に2分間に曝露したMNAプレートを用いて
繰返した。曝露後、このプレートを48時間37℃でインキュベートし、微生物のコロニ
ーの存在について検査した。結果を表5にまとめる。プラスの符号(+)は、微生物の増
殖を意味する。マイナスの符号(−)は、増殖なしまたは微生物の死を意味する。微生物
のコロニーは、霧状油の燻煙に曝露したプレートではいずれにおいても観察されなかった
が、大豆メチルのエアロゾルに曝露したPseudomonas aeruginose
プレートでは、いくつかのコロニーが観察された。
【0086】
【表5】


MNAを含むペトリ皿に細菌種を植菌し、24時間インキュベートした。次いで、ペト
リ皿を霧状油のエアロゾルに15分間、30分間、または60分間曝露した。霧状油のエ
アロゾル(燻煙)は、以下のパラメータ:油流速0.5mL/分、油の種類は霧状油(R
ev E.)とした、空気流10L/分;エアロゾル発生温度650℃のもとで発生させ
た。
【0087】
細菌コロニーを油のエアロゾルに曝露後、単離したコロニーをペトリ皿から0.5mL
のブイヨン中に移した。陰性対照は、細菌を含まないブイヨンとした。陽性対照は、既知
の細菌種のブイヨン中への導入を構成した。
【0088】
アスペルギルス属、カンジダ属、ヒストプラスマ属、クリプトコックス属、アカパンカ
ビ属(Neurosporra)、サッカロミセス属などの真菌株が、油のエアロゾルの
滅菌効果に対する感受性について、細菌に関して本明細書に示したものと同様にして試験
され得る。また、HIV、西ナイルウイルス、インフルエンザ、天然痘などのウイルス株
も、油のエアロゾルの滅菌効果に対する感受性について、細菌に関して本明細書に示した
ものと同様にして試験され得る。
【0089】
表6〜8に、油のエアロゾル曝露の結果をまとめる。表6は、栄養溶液の濁度(増殖)
で示した15分間曝露後の細菌の生存可能性を示す。プラス(+)の符号は増殖を示し、
一方、マイナス(−)の符号は、増殖なしまたは細菌の死滅を示す。この結果は、Bac
illus megaterium、Bacillus subtilis、Staph
ylococcus aureus および Pseudomonas aerugin
osなどの細菌種を死滅または抑止するには、15分間曝露レジメンで充分であることを
示す。しかしながら、他のKlebsiella pneumoniae、Entero
bacter cloacae、Serratia marcescens、Shige
lla flexneri、Salmonella typhimurium および大
腸菌種は、15分間曝露に対して生き残り得る。表7は、油のエアロゾルへの30分間の
曝露後の細菌の生存可能性を示す。この曝露は、この試験に含めた微生物種のほぼすべて
に対して毒性であった。Shigella flexneriのみが、油のエアロゾルへ
の30分間曝露に対して生き残った。油のエアロゾルへの60分間曝露は、試験した微生
物種すべてに対して致死性であることが示された。表8を参照のこと。
【0090】
【表6】

【0091】
【表7−1】

【0092】
【表7−2】

【0093】
【表8】


油のエアロゾルが微生物を含むエリアの汚染除去において有効であるために、油のエア
ロゾルの連続的な発生が必要であるか否かを試験するため、さらなる実験を行なった。以
下のパラメータ:油流速0.5mL/分、油の型は霧状油、空気流10L/分、エアロゾ
ル発生温度650℃を、これらの実験での燻煙の発生において用いた。
【0094】
油のエアロゾルをチャンバ内で発生させ、5分の間適用(administer)した
。24時間インキュベートした細菌を植菌したプレート、および胞子形成性の菌を植菌し
たプレートを入れたチャンバを、油のエアロゾル適用後、完全に密閉した。プレートを、
チャンバ内に30分または60分の間放置した。次いで、MNAプレートを、さらに24
時間37℃でインキュベートした。胞子形成性の菌(例えば、バチルス属などの菌株)の
培養物を滅菌フードに移し、トリプチカーゼ大豆ブロス中に植菌した。次いで、管を37
℃に維持した振とう機内でインキュベートした。試験した微生物はすべて、これらの実験
条件下で増殖しなかった。結果を表9に示す。プラスの符号(+)は、培養物の増殖を示
す。マイナスの符号(−)は、培養物の増殖なしを示す。
【0095】
【表9】


(実施例4:Drosphiliaにおける変異誘発性の欠如)
Drosophila melanogasterのX−染色体において生じる突然変
異は、雄ハエに変異を起こし、化合物−X,C(1)雌と交配させることにより容易に確
認され得る。これらの雌では、X染色体の両方が同じ動原体に結合している。これは、両
方のX染色体が、減数分裂第I期の際に互いに分離するのではなく、一体となって遺伝す
ることを意味する。これは、雌子孫は母由来の両方のX染色体を獲得し、重要なことには
、雄子孫は父由来のX染色体を獲得することを意味する。これは、父の精子に生じた任意
のX連鎖変異が、息子に受け継がれることを意味する。
【0096】
【化1】


y=黄色い体色
w=白色の目
f=フォーク型の剛毛
すべての変異はX連鎖である。Yは、母のY染色体である。Yは父のY−染色体で
ある。この交配では、雄子孫が、父由来のX−染色体および母由来のY染色体を獲得する
。これは、正常な伴性遺伝とちょうど反対である。
【0097】
伴性致死変異の発生は、化学物質変異原の存在についてモニターするための有効な方法
である。例えば、エチルメタンスルホン酸(EMS)は、この化学物質に曝露したDro
sophila melanogasterにおいて、40%を超える伴性致死がもたら
されることが示されている(Ohnishi,1977;Genetics 87:51
9−527)。この高率の変異原は、致死変異を伴うX−染色体を保有する雄は死亡する
ため、雄に対する雌の比率の低下として見られ得る。次いで、雌子孫に対する雄子孫の低
下が見られる。交配時、雄に対する雌の比率が、処理した雄において未処理の雄と比べて
有意に高い場合、処理により有意な数の致死変異が処理したX−染色体について引き起こ
されたと結論づけることができる。
【0098】
Yw/Y雄を、大豆メチルを65℃に加熱することにより発生させた気体燻蒸気に1
5〜30分間曝露した。対照のC(1)であるyf/Y 雌×yw/Y未処理雄を解析に
含めた。曝露した雄をバージンC(1)であるyf/Y雌と、標準的な手順を用い、ハエ
用飼料培地を含むガラスバイアル内で交配させた。交配に充分な時間後、親を取り除き、
雄と雌の数を、孵化した卵として計測した。表10に結果を報告する。
【0099】
【表10】


雄を消毒剤気体燻蒸気に曝露した交配では、雄の数は、雌の数と比べて比例的な有意差
が観察されなかったのに対し、対照交配では観察された。したがって、気体燻蒸気は、変
異誘発性の標準的な試験において非変異誘発性であると結論づけることができる。
【0100】
(実施例5:燻煙発生に用いる油の変異誘発潜在性)
研究室内で生成させる天然油の変異誘発性を、Ames試験を用いて評価した。毒性は
、両種類の油へのSalmonella typhimuriumの曝露に起因する変異
の頻度によって測定した。
【0101】
改良Ames試験を設計し、各々が異なる型の変異を有する一連のSalmonell
a typhimurium株における復帰変異を検出することにより、化合物の変異誘
発性を調べる。各S.typhimurium菌株は、ヒスチジン生合成に必要とされる
遺伝子内に点変異を含む。したがって、これらの菌株は、最少グルコース培地上で増殖さ
せる場合、ヒスチジンを成長因子として必要とする。各S.typhimurium菌株
を、変異を引き起こし得る化合物に曝露すると、菌株が、ヒスチジンの非存在下、最少グ
ルコース培地上で増殖するのを可能にする点変異の逆転がもたらされ得る。ヒスチジンの
非存在下での増殖に復帰する細菌の数は、化合物の変異誘発性と相関する。すべての変異
誘発性化合物が同じ型の変異を引き起こすわけではない。したがって、考えられ得るあら
ゆる変異原を検するためには、異なる型の点変異を含むS.typhimurium菌株
を用いることが必要である。また、いくつかの化学物質は、身体内に侵入して肝臓で処理
されるまでは変異誘発性でない。したがって、化合物を身体内で直面する状況を模擬する
肝臓抽出物の存在下で試験することもまた、重要である。
【0102】
Ames試験では、菌株TA97、TA98、TAl00およびTA102(特許権消
滅状態で利用可能)を用いた。高頻度の変異を引き起こすことがわかっている化学物質変
異原に対する各菌株感受性を対照として用いた。対照および試験化合物を、プレート取込
み(plate incorporation)アッセイおよびディスク拡散アッセイの
両方において調べた。
【0103】
プレート取込みアッセイでは、細菌および対照または試験化合物を、上層寒天において
一緒に合わせ、次いで最小限グルコース寒天プレートの表面上に塗布した。ディスク拡散
アッセイでは、S.typhimurium株を上層内に植菌し、上層寒天を最小限グル
コース寒天プレートの表面上に塗布し、次いで対照または試験化合物で飽和させた滅菌濾
紙ディスクを、固化した上層寒天に重層した表面に適用した。
【0104】
ディスク拡散アッセイは、より簡単に行なえ、かつ変異原がフィルターディスクから離
れる方に拡散する際に広範囲の変異原濃度への曝露を提供するものである。これは、高い
変異原レベルでは、多くの場合変異原が致死性となり(フィルターディスク周囲の透明な
ゾーンとして観察される)、低濃度では、変異原が、バックグラウンド復帰変異頻度より
上を検出するのに充分高い変異の頻度を引き起こさないため重要である。プレート取込み
アッセイは、より定量的であるという利点を有するが、試験生物に対して致死性ではない
が、検出対象の変異の頻度を引き起こすのに充分高い濃度を見出すために、数種類の濃度
を試験することが必要とされる。
【0105】
天然大豆メチルおよび霧状油ならびに油のエアロゾル由来の残留物の変異誘発性を、プ
レート取込みアッセイおよびフィルターディスクアッセイの両方において、4つの試験菌
株の各々を用いて試験した。直接プレートアッセイで用いた油は、原液大豆メチル、原液
霧状油(Rev.E)および発生管の末端で収集した凝縮油であった。水または市販のベ
ビーオイル試料(Johnson and Johnson)を対照とした。油塗布アッ
セイでは、油試料をアセトンまたはDMSO(1.5mL中125μL)に溶解し、溶液
の250アリコートを最少グルコース培地(MGM)プレート上層寒天に添加した。次い
で上層寒天を、すべての4種類のサルモネラ菌株を含有する培養物100μLとともにイ
ンキュベートした。プレートは、3日間インキュベートし、顕微鏡下でサルモネラ菌コロ
ニーの存在について検査した。油試料の25μLのアリコートを、ガラスビーズを有する
上層寒天上に塗布した。次いでプレートに該培養物を植菌し、3日間インキュベートした
。プレートを顕微鏡下でサルモネラ菌コロニーの存在について検査した。ディスクプレー
トアッセイは、異なる温度で得た油のエアロゾルに曝露し、次いで植菌したMGMプレー
ト上に置いて3日間インキュベートした滅菌フィルターディスク(2cm直径)を用いて
行なった。次いで、プレートを顕微鏡下でサルモネラ菌コロニーの存在について検査した

【0106】
表11は、霧状油に関する溶液取込みアッセイの結果を提供し、大豆メチルは表VIに
示す。アセトンを溶媒として使用し、水を対照として使用した。このアッセイは、一定の
コロニー計測数が得られるまで数回繰り返した。
【0107】
【表11】


対照と実験処理との間で変異誘発性率における比例的な有意差はなく、これは、両方の
原液油が非変異誘発性であることを示す。
【0108】
溶液取込みアッセイを、凝縮油を用いて繰り返した。油は、350℃、450℃および
550℃でのエアロゾル発生中に収集した。油の50μLアリコートを1.0mLのDM
SOに溶解した。一部である250μLを植菌前に添加し、3日間インキュベーションし
た。Johnson & Johnson製ベビーオイルを対照として使用した。大豆メ
チルの結果表12にまとめる。
【0109】
【表12】


ベビーオイルおよび凝縮されたメチルで観察されたコロニーの数は少なく、これらの油
では変異誘発性活性は示されなかった。凝縮された霧状油を用いて行なった同様のアッセ
イで得られた結果を表13に示す。
【0110】
【表13】


ベビーオイルおよび凝縮された霧状油で観察されたコロニーの数は少なく、これらの油
では変異誘発性活性は示されなかった。
【0111】
上記のアッセイで用いた溶媒が、サルモネラ菌株の変異誘発性率に対して何も効果を有
さないことを確認するため、油の薄層を、きれいな滅菌ホウケイ酸ガラスビーズを有する
上層寒天上に直接置いた。ベビーオイル(Johnson & Johnson)を対照
として使用した。結果に統計学的な差はなく、両方の大豆メチルおよび霧状油は変異誘発
性でないことを示す。
【0112】
【表14】


350℃、450℃および550℃で発生させた大豆メチルエアロゾルで得られた結果
を、表15に示す。
【0113】
【表15】


350、450および550℃で発生させた霧状油のエアロゾルで得られた結果を、表
16に示す。
【0114】
【表16】


(実施例6−食品加工環境)
一連の試験は、異なる曝露レジメン下でのサルモネラ菌株に対する油燻蒸気の毒性を確
認するために行なった。曝露時間は、発生機からの油燻蒸気の連続的燻蒸を示す。燻蒸気
への曝露はすべて、4立方フィートサイズのチャンバ内で20℃〜25℃の周囲室温およ
び25%〜60%の間の湿度で行なった。
【0115】
T−大豆寒天プレートに20μlの一夜増殖サルモネラ菌培養物(ODは0.2〜0.
6の範囲で、およそ10個の細胞を含有する)を植菌し、鉱物油または大豆メチル燻蒸
気に30分間曝露した。プレートを曝露チャンバから取り出し、24時間37℃でインキ
ュベートした。曝露したプレートでは、コロニーは観察されなかった。燻蒸気に曝露しな
かった対照プレートでは増殖が示された。
【0116】
T−大豆寒天プレートにサルモネラ菌を植菌し、一晩インキュベートし、次いで燻蒸気
にそれぞれ30分間および1時間曝露した。プレートを曝露チャンバから取り出し、プレ
ート上のコロニーを新たなT−大豆寒天プレートに移し、24時間37℃でインキュベー
トした。燻蒸気に1時間曝露したプレートのコロニーは、再び増殖はしなかった。しかし
ながら、30分間曝露したものは再び増殖した。
【0117】
T−大豆寒天プレートを鉱物油または大豆メチルの燻蒸気に30分間曝露した。曝露後
、サルモネラ菌を植菌し、24時間37℃でインキュベートした。サルモネラ菌コロニー
は、曝露したプレートでは観察されなかった。この実験では、燻蒸気発生中に生成された
毒性の薬剤が寒天マトリックス中に取り込まれ、寒天を微生物の増殖に適さないものにし
たことが示された。
【0118】
(実施例7:広域の抗微生物的有効性)
油燻蒸気の有効性を、広範囲の微生物に対して試験した。表17は、試験した生物の代
表の列挙を示す。また、生物の分類も示す。栄養寒天プレートに異なる細菌を植菌し、油
燻蒸気に曝露し、次いで、48時間37℃でインキュベートした。微生物のコロニーは、
油燻蒸気に曝露したプレートのいずれにおいても観察されず、これは、該抗菌性物質が広
域で作用することを示す。
【0119】
【表17】


(実施例8:消毒性アッセイの定量)
消毒活性の定量を、サルモネラ菌を用いて行なった。およそ10個のサルモネラ菌細
胞を、滅菌されたスライドカバーガラス(サイズは1インチ×1インチすなわち2.5c
m×2.5cm)上にスポットした。植菌したカバーガラスをペトリ皿内部に置き、燻蒸
気に種々の時間曝露した。曝露後、カバーガラスを、10mlのT−大豆ブロスの入った
50mlコニカルチューブに移し、3分間ボルテックスし、すべての細菌をカバーガラス
から剥離させた。次いで連続希釈を行ない、各希釈物の0.5mlをT−大豆寒天プレー
ト上にプレーティングし、一晩37℃で、またはコロニーが目でわかる増殖までインキュ
ベートした。カバーガラスにおいて生き残った細菌総数を、計測可能なコロニー(300
個未満のコロニー)が生成したプレート上で計測したコロニーの数から計算した。所定の
曝露時間での死滅率のパーセントを計算し、図3に示す。
【0120】
(実施例9:細菌(BACILLUS)および真菌(ASPERGILLUS NIG
ER)の胞子に対する毒性)
3種類の細菌の胞子系を、消毒剤燻蒸気に曝露した。系の1つはDuo−Spore(
登録商標)であり、これは、Propper Manufacturing Co,In
c(ロングアイランドシティ,ニューヨーク州)から市販されており、Bacillus
subtilis(3×10)およびBacillus stearothermo
philus(3×10)の胞子の混合物を紙片上に含むものである。この胞子片をペ
トリ皿に入れ、蓋を開けたまま燻蒸気に曝露した。別の系は、研究室で発生させた真菌の
胞子とした。
【0121】
Duo−SporeTM片をブイヨン中に入れ、Bacillus胞子を休止期細胞に
発芽させた。次いで休止期細胞を7日間以上インキュベートし、休止期細胞が再び胞子に
成長し得るように栄養の枯渇を誘導した。新たに形成された胞子を含有する栄養ブロスを
用い、95℃で20分間加熱して残留休止期細胞を死滅させた後,さらに試験を行なった
。胞子(合計10個の胞子)を含有するブロスのアリコートをワットマン紙上にスポッ
トし、80℃で10分間乾燥させペトリ皿に入れ、蓋を開けたまま燻蒸気に曝露した。3
)フォートレナードウッドの米陸軍化学学校から入手したBacillus anthr
acis−サロゲート−胞子粉末:この粉末は、Bacillus胞子を含むものであっ
た。陸軍では、これを、Bacillus anthracis(炭素菌)胞子の代用物
として使用している。0.05gの粉末をペトリ皿に入れ、次いで燻蒸気への曝露前に8
0℃で10分間インキュベートした。
【0122】
研究室で発生させた真菌の胞子では、Apergillus nigerをイモデキス
トロース寒天プレートに植菌し、2週間胞子形成させた。2週間のインキュベーション後
、黒い胞子の集塊を10mlの蒸留水を3滴のキッチン用洗剤Ivoryとともに入れた
チューブに移し、3分間ボルテックスして胞子を分散させた。また、溶液中の胞子の数を
Petro−Hausserチャンバ内で計測し、胞子(合計10個の胞子)のアリコ
ートをイモデキストロース寒天プレート上にスポットし、蓋を開けたまま燻蒸気に曝露し
た。
【0123】
燻蒸気は、実施例1のように、細菌および真菌の胞子の両方について、それぞれ30分
間、60分間、および90分間発生させた。
【0124】
Duo−SporeTM細菌胞子では、胞子試料をt−大豆ブロスを入れたチューブに
移し、2週間まで37℃でインキュベートした。生き残った胞子を、胞子の発芽後の細菌
細胞の増殖を示す培養ブロスの混濁によって評価した。
【0125】
研究室で発生させた真菌の胞子を含むプレートを曝露後に取り出し、部屋の中で2週間
インキュベートし、Aspergillus nigerの目でわかる増殖を観察した。
【0126】
60分間より長く曝露した胞子試料では、細菌および真菌の増殖は観察されず、これは
、鉱物油および大豆メチルの両方の燻蒸気が殺胞子性であることを示す。
【0127】
(実施例10:ラットにおける発癌性/酸化的ストレス試験)
鉱物油および大豆メチルの燻蒸気−エアロゾルの発癌性を、ラットにおいて試験した。
ラットを、空気、鉱物油、および大豆メチルに20分間曝露し、2時間後に致死させ、そ
の後、肺組織の解析を行なった。8−ヒドロキシグアニン(8−oxodG)の量によっ
て測定されるDNA損傷のレベル、MDA(マロンジアルデヒド)と呼ばれる脂質過酸化
副生成物のレベル、還元された形態のグルタチオン/酸化された形態のグルタチオンのレ
ベル(GSH/GSSGチオールレベル)、カタラーゼ活性のレベル(これらはすべて、
発癌性または酸化的ストレスの指標として用いられる)を検査し、結果を表18に示す。
【0128】
【表18】


この試験は、試験した酸化的ストレスの指標が、鉱物油および大豆メチルの燻蒸気−エ
アロゾルのいずれに対する曝露でも増加していないことを示す。しかしながら、鉱物油は
5倍のDNA損傷の増加を誘導したが、大豆メチルは誘導しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−97110(P2012−97110A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−107(P2012−107)
【出願日】平成24年1月4日(2012.1.4)
【分割の表示】特願2007−527517(P2007−527517)の分割
【原出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(506389115)
【出願人】(506389089)
【Fターム(参考)】