説明

ガス発生器用フィルター材及びガス発生器

【課題】高いガス冷却効果及びスラグ捕集効果を有するガス発生器用フィルター材と、それを用いたガス発生器とを提供する。
【解決手段】複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の周囲に突起部を有する金属板を巻き回して複数層を有する中空円筒状に成形されているエアバッグ用ガス発生器に使用されるフィルター材であって、前記突起部が、前記フィルター材内側に位置する前記金属板の一端から途中までの範囲内において、前記フィルター材外側に突出するように形成され、前記途中から前記フィルター材外側に位置する前記金属板の他端までの範囲内において、前記フィルター材内側に突出するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の衝突事故時に乗員が受ける衝撃を緩和して乗員の安全を図るエアバック装置のガス発生器に用いるフィルター材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突時に生じる衝撃から乗員を保護するために、エアバックを瞬時に展開させるガス発生器は、展開にあたりエアバッグが損傷を受けないように、ガス発生室内でガス発生剤を燃焼させて発生した高温高圧のガスを冷却して適温にすると共に、前記ガス中に含有されている金属酸化物を主成分とする高温のスラグを捕集してガスを清浄するという役割を持つフィルター材を備えている。発生したガスは、フィルター材を内側から外側へ通過し、フィルター材の外側に沿って、ガス発生器に設けられた複数個のガス放出孔を通って、ガス発生器からエアバック内へ流入し、エアバッグを展開する。
【0003】
したがって、エアバック用ガス発生器に用いられるフィルター材には十分なガス冷却及びスラグ捕集効果を発揮させるための機能が要求される。例えば、ガス冷却効果を有するフィルター材として、下記特許文献1のものが挙げられる。この特許文献1に開示されているフィルター材は、図8に示すように、突起部の先端をつぶして平坦化したフック金属板を多数巻きして形成された筒状体からなり、筒状体から剥がれないように金属板が固着されている。
【特許文献1】特開2002−249017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のようなガス発生器用フィルター材では、突起部と、金属板とが接触し、金属板間に空隙層が形成されるため、ガスが円滑に金属板間の空隙層を移動することができ、効率良くガスが冷却される。しかしながら、金属板を巻き回した際、金属板の各層における貫通孔の位置が全層において一致することがあり、該一致した貫通孔を通過するガスはスラグ捕集及びガス冷却がされることなくフィルター材を通過するため、スラグ捕集効果及びガス冷却効果が十分に発揮されないことがあった。
【0005】
そこで、本発明は、従来に比べさらなるガス冷却効果及びスラグ捕集効果を有するガス発生器用フィルター材と、それを用いたガス発生器とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
(1) 本発明のガス発生器用フィルター材は、複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の周囲に突起部を有する金属板を巻き回して複数層を有する中空円筒状に成形されているエアバッグ用ガス発生器に使用されるフィルター材であって、前記突起部が、前記フィルター材内側に位置する前記金属板の一端から途中までの範囲内において、前記フィルター材外側に突出するように形成され、前記途中から前記フィルター材外側に位置する前記金属板の他端までの範囲内において、前記フィルター材内側に突出するように形成されていることを特徴とする。
【0007】
(2) 本発明のガス発生器用フィルター材は、前記フィルター材の最内層が、前記フィルター材外側に突出している前記突起部を有し、前記フィルター材の最内層以外の層が、前記フィルター材内側に突出している前記突起部を有することが好ましい。
【0008】
(3) 本発明のガス発生器用フィルター材は、前記金属板の前記複数の貫通孔を、隣接する前記金属板に対して径方向に投影した際、前記貫通孔の投影領域が、各前記貫通孔がそれぞれ存在する層とは異なる層において、前記貫通孔以外の無孔領域と少なくとも一度は完全に重なり、前記貫通孔を通過したガスが、少なくとも一度は前記無孔領域に衝突することが好ましい。なお、本発明の無孔領域とは、金属板の貫通孔以外の領域を意味する。
【0009】
(4) 本発明のガス発生器用フィルター材は、前記金属板の厚さを含めた突出部の厚さtが、0.55mm〜0.85mmであることが好ましい。
【0010】
(5) 本発明のガス発生器用フィルター材は、前記貫通孔の径dが、0.70mm〜1.5mmであることが好ましい。
【0011】
(6) 本発明のガス発生器用フィルター材は、前記金属板の長手方向1列の貫通孔数Nが、2.3〜6.0個/cmであることが好ましい。
【0012】
(7) 本発明のガス発生器用フィルター材は、前記複数の貫通孔が、長手方向及び短手方向のそれぞれに規則的に配列されていることが好ましい。
【0013】
(8) 本発明のガス発生器用フィルター材は、前記複数の貫通孔が、千鳥状に配列されていることが好ましい。
【0014】
(9) 本発明のガス発生器用フィルター材は、前記貫通孔が、前記金属板1cmあたり20〜35個形成されていることが好ましい。
【0015】
(10) 本発明のガス発生器用フィルター材は、前記金属板の厚さが、0.15mm〜0.25mmであることが好ましい。
【0016】
上記(1)〜(10)の構成によれば、金属板の各層における貫通孔の位置は、巻き回したとき全層において一致することはなく、貫通孔を通過したガスは、少なくとも一度は金属板に衝突する。従って、スラグ捕集及びガス冷却のされることのないガスがフィルター材を通過することを防止でき、さらなるスラグ捕集効果及びガス冷却効果が得られるガス発生器用フィルター材を提供することができる。また、ガス発生器用フィルター材の最内層の突起部をフィルター材外側に突出するように形成することによって、前記フィルター材を用いたガス発生器において、フィルター材内側に装填されているガス発生剤の損傷を防止することができる。
【0017】
(11) 本発明のガス発生器用フィルター材は、ガス放出孔を有するハウジングと、前記ハウジング内に形成され、燃焼により高温ガスを発生するガス発生剤が装填されている燃焼室と、点火薬を内包しており、前記ハウジング内に装着され、前記燃焼室内のガス発生剤を着火燃焼させるガス発生剤点火手段とを備えたガス発生器であって、前記ハウジングの内周に周方向にわたって、(1)に記載のフィルター材をさらに備え、前記ガス放出孔を前記ハウジングの外側から径方向に投影した際、該投影領域と前記フィルター材の貫通孔以外の無孔領域とが少なくとも一度は重なっていることを特徴とする。
【0018】
上記(11)の構成によれば、ガス発生室で発生したガスは、少なくとも一度はフィルター材を構成する金属板の表面に衝突してフィルター材を通過後、ハウジングの内周側に衝突し、ガス放出孔から放出される。従って、従来に比べ、さらなるガス冷却効果及びスラグ捕集効果を有するガス発生器を提供することができる。また、フィルター材の最内層の突起部がフィルター材外側に突出するように形成されたフィルター材を用いると、フィルター材内側に装填されているガス発生剤の損傷を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<第1実施形態>
以下、図面を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係るガス発生器用フィルター材について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るガス発生器用フィルター材を示す断面図である。図2は、図1のガス発生器用フィルター材に成形される前の金属板を示す図である。
【0020】
図1において、ガス発生器用フィルター材7は、規則性なく形成された貫通孔1を有する金属板3を略10回巻き回し、中空円筒状に成形されている。貫通孔1は、金属板3の長さ方向について一方の面から、突端部が角錐体のピンを用いて形成され、その周囲に突起部2が不連続に形成されている。ここで、金属板3としては、例えばステンレス鋼、鉄、鋼などを使用することができる。
【0021】
突起部2は、フィルター材内側4に位置する金属板始端部3aから巻き回し1回目終りまでのフィルター材7第1層においてフィルター材外側5に突出するように形成され、巻き回し2回目からフィルター材外側5に位置する金属板終端部3bまでのフィルター材7第2層〜第10層においてフィルター材内側4に突出するように形成されている。
【0022】
図2において、金属板3は、規則性なく形成された貫通孔1と、貫通孔1の周囲に形成されている突起部2とを有する。突起部2は、第1層において金属板3の表側に突出するように形成され、第2層〜第10層において金属板3の裏側に突出するように形成されている。
【0023】
金属板3の貫通孔1は、突端部が角錐体のピン状部材を突き刺して形成されている。このため、金属板3を巻き回して中空円筒状に成形すると、金属板3間に空隙層6が形成される。またこのとき、突起部2はピン先端の角錐体の側面に沿って形成され、不連続となっている。このことによって、金属板3の層と突起部2とは不規則に接することになり、空隙層6には比較的障害の少ないより開放的な空間が形成され、ガスが円滑に空隙層6を移動する。また、貫通孔1は、第1層において、金属板3の裏面から突き刺して形成され、第2層〜第10層において、金属板3の表面から突き刺して形成されている。
【0024】
フィルター材7において、フィルター材内側4に流入した高温高圧のガスは、先ずフィルター材内側4第1層における貫通孔1を通過し、該第1層と第2層との間の第1空隙層に噴出される。噴出と同時に、ガスは該第2層の金属板3の内側面に衝突し、ガス中に含有されているスラグは該第2層金属板3の内側面に付着し、その結果スラグの一部が除去されることとなる。第1空隙層を移動したガスは、さらに該第2層における貫通孔1へと移動する。そして同様に、ガスは該第2層における貫通孔1を通過し、該第2層と第3層との間の第2空隙層に噴出され、該第3層の金属板3の内側面に衝突し、スラグの一部が除去される。このような現象が、第1層から第10層にかけて、多数の貫通孔1と各層の金属板3面とを介して繰り返され、ガスに含有されているスラグが十分に捕集されると共に、ガスは、面積/体積比の大きな金属板3に熱を奪われ、効率よく冷却される。この結果、フィルター材外側5の貫通孔1から噴出されるガスは、スラグ含有量の極めて少ない清浄な適温のガスとなり、エアバッグ内に供給される。
【0025】
次に、本発明の第1実施形態に係るガス発生器用フィルター材7におけるガスの流路について、さらに具体的に説明する。図3は、本発明の実施形態に係るガス発生器用フィルター材の断面図の一部を模式的に表した図である。
【0026】
矢印は、フィルター材内側4から流入したガスの通路の一例を示すものである。図3において、フィルター材内側4から流入したガスは、ガスの通路が曲がりくねり、ガスに含有されているスラグが金属板3に引っ掛かりやすくなる。また、ガスの通路が曲がりくねっているため、通路が長くなり、ガスが冷却されやすい。
【0027】
本実施形態によれば、金属板3の各層における貫通孔1の位置は、巻き回したとき全層において一致することはなく、また、突起部2が、第2層からフィルター材内側4に突出するように形成されているので、貫通孔1を通過したガスは、少なくとも一度は金属板3に衝突する。従って、スラグ捕集及びガス冷却されることのないガスが、フィルター材7を通過することを防ぐことができ、さらなるスラグ捕集効果及びガス冷却効果が得られるガス発生器用フィルター材7を提供することができる。また、ガス発生器用フィルター材7の最内層の突起部2をフィルター材外側5に突出するように形成しているので、前記フィルター材7を用いたガス発生器において、フィルター材内側4に装填されているガス発生剤の損傷を防止することができる。
【0028】
<第1実施形態の変形例>
次に、本発明に係るガス発生器用フィルター材の変形例について説明する。図4は、本発明に係るガス発生器用フィルター材の変形例を示す図である。なお、第1実施形態におけるガス発生器用フィルター材7に成形される前の金属板3における符号1〜7がふられている各部と、本変形例において符号11〜17がふられている各部は、順に同様のものであるので、説明を省略することがある。
【0029】
本変形例のフィルター材17において、突起部12は、フィルター材内側14に位置する金属板始端部13aから巻き回し5回目終りまでのフィルター材17第1層〜第5層においてフィルター材外側15に突出するように形成され、巻き回し6回目からフィルター材外側15に位置する金属板終端部13bまでのフィルター材17第6層〜第10層においてフィルター材内側14に突出するように形成されているものである点において、第1実施形態のガス発生器用フィルター材7と異なっている。
【0030】
本変形例によれば、金属板13の各層における貫通孔11の位置は巻き回したとき全層において一致することはなく、また、突起部12が最内層においてフィルター材外側15に突出するように形成されているので、第1実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0031】
<第1実施形態の他の変形例>
次に、本発明に係るガス発生器用フィルター材の他の変形例について説明する。図5は、本発明に係るガス発生器用フィルター材の他の変形例を示す図である。なお、第1実施形態におけるガス発生器用フィルター材7に成形される前の金属板3における符号1〜7がふられている各部と、本変形例において符号21〜27がふられている各部は、順に同様のものであるので、説明を省略することがある。
【0032】
本変形例のフィルター材27において、突起部22は、フィルター材内側24に位置する金属板始端部23aから巻き回し9回目終りまでのフィルター材27第1層〜第9層においてフィルター材外側25に突出するように形成され、巻き回し10回目からフィルター材外側25に位置する金属板終端部23bまでのフィルター材27第10層においてフィルター材内側24に突出するように形成されているものである点において、第1実施形態のガス発生器用フィルター材7と異なっている。
【0033】
本変形例によれば、金属板の各層における貫通孔21の位置は巻き回したとき全層において一致することはなく、また、突起部22が最内層においてフィルター材外側25に突出するように形成されているので、第1実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0034】
次に、図面を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係るフィルター材7を用いたガス発生器の例について説明する。図6及び図7は、本発明の第1実施形態に係るフィルター材7を用いたガス発生器の例である。
【0035】
図6は、図1に示す第1実施形態と同様の構成のフィルター材7を備えた、一般に助手席用エアバッグに用いられる長尺円筒形の、本発明に係るガス発生器Xの断面図を示している。ガス発生器Xは、長尺円筒体からなるハウジング71内にガス発生剤72が装填され、その外周部に長手方向に沿って図1に示す第1実施形態と同様の構成のフィルター材7が配置され、ハウジング71の一端部には伝火剤69と点火器70とからなる点火手段74が配置されている。ハウジング71は、長尺で一端が開口された有底円筒形状の外筒材75と、孔76cに嵌合固定された点火手段74を備え、該外筒材75の開口端を覆う蓋部材76とで構成されている。該蓋部材76の外周縁部に形成された環状リブ76aと外筒材75の開口先端75bとが突合され、摩擦圧接されて、密閉空間が形成されている。点火手段74の伝火剤69がフィルター材7内に隣接する蓋部材76の凸部76bと微小隙間を隔てるように、配置されており、蓋部材76に嵌め込まれる鍔付きキャップ部材81によってガス発生剤72から区画されている。
【0036】
外筒材75の周面には、エアバッグ(図示せず)に通じる複数のガス放出孔75aが外筒材75の軸方向及び周方向に所定間隔ごとに形成されている。77はアルミ箔等で薄板帯状に形成されたバーストプレートであって、各ガス放出孔75aを閉塞するように外筒材75の内周面に貼着されている。これはガス発生剤72の燃焼時の圧力を調整すると共に、外部から水分やゴミがガス発生器X内に侵入するのを防止する役割を果たすものである。
【0037】
フィルター材7は、ハウジング71の内周に周方向にわたって備えられ、ガス放出孔75aをハウジング71の外側から径方向に投影すると、該投影部分とフィルター材7の無孔領域とが少なくとも一度は完全に重なっている。この構成により、ガス発生剤72の燃焼により発生したガスは、少なくとも一度はフィルター材7を構成する金属板3の表面に衝突してフィルター材7を通過し、その後、ハウジング71の内周側に衝突し、ガス放出孔75aから放出される。この結果、ガス冷却及び濾過(スラグ捕集)されることのないガスがガス放出孔75aから放出されるのを防止することができる。また、ガス発生器用フィルター材7の最内層の突起部2が、フィルター材外側5に突出するように形成されているので、フィルター材内側4に装填されているガス発生剤72の損傷を防止することができる。
【0038】
フィルター材7の一端は、蓋部材76側からクッション材82によって閉塞され、他端はクッション材85によって閉塞されている。クッション材82、85としては、シリコン発泡体やセラミックファイバ等の成形物が好適である。尚、これらクッション材82、85は、フィルター材7端面からのガス流出の観点からは必ずしも必要なものではなく、前述したように、フィルター材7の端面に切削仕上げ加工を行うことによって、これらクッション材82、85を省略することも可能である。しかしながら、ハウジング71の摩擦圧接時における寸法変化と、ガス発生剤72の振動による粉化を考慮すると、係るクッション材82、85の配置は好ましいと言える。
【0039】
次に、このガス発生器Xの作動について説明する。衝突センサ(図示しない)が車両の衝突を検知すると、その衝突検知信号によって、点火手段74の点火器70が点火されて伝火剤69を着火し、その火炎がキャップ部材81の孔81aからガス発生剤72に向けて噴出され、ガス発生剤72が着火し、高温高圧ガスが発生する。発生した高温高圧のガスはフィルター材7内に流入し、該フィルター材7を半径方向及び周方向に渡って通過して前記フィルター材7外周面と外筒材75内面との間の空間G内に流入する。さらにガス発生剤72の燃焼が進み、外筒材75内が所定圧力に達すると、各ガス放出孔75aを閉塞しているバーストプレート77が破裂し、空間Gの清浄ガスが、各ガス放出孔75aからエアバッグ(図示しない)に放出され、エアバッグを急速に膨張展開させる。尚、ガスはフィルター材7内を流通する過程において、前述したように金属板3との衝突を繰り返しながら、フィルター材7を通過し、その後外筒材75内面側に衝突して、次第に含有スラグ成分が除去され、冷却されて各ガス放出孔75aからエアバッグ内に放出されることになる。
【0040】
以上のように、本発明の実施形態に係るフィルター材7を用いたガス発生器Xは、ガス発生室で発生したガスが、少なくとも一度はフィルター材7を構成する金属板3の表面に衝突しその後外筒材75内面側に衝突してガス冷却及びスラグ捕集がされ、ガス放出孔75aから放出される。従って、従来に比べ、さらなるガス冷却効果及びスラグ捕集効果を有するガス発生器Xを提供することができる。また、ガス発生器用フィルター材7の最内層の突起部2がフィルター材外側5に突出するように形成されているので、フィルター材内側4に装填されているガス発生剤72の損傷を防止することができる。さらに、本実施形態におけるガス発生器Xに用いられるフィルター材7は、従来のフィルター材に比べて孔のムラがないから圧力損失にバラツキが少ない。従って、ガス発生器の特性制御において、圧力損失のバラツキの影響を考慮する必要が少なくなり、設計が容易となる効果も期待される。
【0041】
尚、助手席用ガス発生器Xの構成としては、図6に示されているものに限定されず、例えばハウジング71内が仕切り部材によってガス発生剤72を収容するガス発生室とフィルター材7が装着されたフィルター室とに区画された構成、該フィルター室の左右両側に該ガス発生室が形成され、複数の点火手段74が設けられた構成なども採用できる。
【0042】
次に、図7は、図1に示す第1実施形態と同様の構成のフィルター材7を用いた運転席用ガス発生器Yの1例を示す断面図である。ガス発生器Yは、外筒材91aを具備する上容器91と、外筒材91aに対向する端部92aと内筒材92bとを有する下容器92とを有するガス発生器用ハウジング90から構成される。このガス発生器用ハウジング90は、溶接部96において、外筒材91aと端部92aとを夫々溶接接合して形成される。内筒材92b内には点火手段95と着火薬99とが配置され、その外側室にはガス発生剤72とフィルター材7とリテーナリング101、102とスポンジ103、104とが配置され、上容器91の外筒材91aにはガス放出孔98が形成されている。なお、リテーナリング101、102は、それぞれ上容器91、下容器92の内側有底部に沿って設けられている。また、スポンジ103、104は、それぞれガス発生剤72を挟み込むようにリテーナリング101、102の内部側に沿って設けられている。
【0043】
本実施形態で用いられるフィルター材7も、前述の通り1枚の金属板3を複数回巻き回して成形された中空円筒体である。該流通過程において、含有スラグが除去され、冷却されてガス放出孔98からエアバッグ内に放出される。また、フィルター材7は、ハウジング90の内周に周方向にわたって備えられ、ガス放出孔98をハウジング90の外側から径方向に投影すると、該投影部分とフィルター材7の無孔領域とが少なくとも一度は完全に重なっており、また、ガス発生器用フィルター材7の最内層の突起部2が、フィルター材外側5に突出するように形成されているので、前述と同様の作用・効果が得られる。
【0044】
次に本発明に係るガス発生器用フィルター材と同様の構成のフィルター材を用いた運転席用ガス発生器の実施例を説明する。
【0045】
(実施例1)
図1に示す第1実施形態と同様の構成のフィルター材(内径:45mm、外径:60mm、高さ:35mm)を用いたガス発生器を、内容積60リットルの容器内で85℃にて作動させた。作動終了後、容器内に付着したスラグを洗い流し、洗い流したスラグを含む溶液を濾過し、残渣(スラグ)を乾燥させた。乾燥後の残渣重量を測定し、ガス発生器から放出されたガスに含有されているスラグ重量とした。なお、本実施例で用いたガス発生剤は、直径6mm、高さ2mmの円筒形状で、硝酸グアニジン54.5質量部、硝酸ストロンチウム22.0質量部、塩基性硝酸銅21.5質量部、バインダ2.0質量部を含有するものである。
【0046】
本実施例で用いたフィルター材の貫通孔は、板厚0.2mmの金属板に突端部が角錐体のピン状部材を突き刺して形成されたものである。この貫通孔は、直径が1.1mmで、金属板高さ方向2.1mm及び金属板長さ方向2.0mmの間隔で千鳥状に形成され、金属板高さ方向に16個存在する。また、ピン先端の角錐体の側面に沿って、貫通孔の周囲に高さ0.5mmの突起部が形成されている。本実施例で用いたフィルター材は、上記金属板を略10回巻き回し、中空円筒状に成形したものである。
【0047】
(比較例1)
図8に示す従来のガス発生器用フィルター材と同様の構成の、突起部が全層においてフィルター材外側に形成されているフィルター材を用いたガス発生器を使用して、実施例1と同様の条件で、ガス発生器から放出されたガスに含有されているスラグ重量を測定した。なお、本比較例1で用いたフィルター材は、貫通孔が実施例1と同様の方法で形成され、金属板を略10回巻き回し、中空円筒状に成形したものである。
【0048】
表1は、測定したスラグ量の結果をまとめた表である。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果から、実施例1のスラグ量は、比較例1のスラグ量よりも少なく、実施例1で用いたフィルター材は、比較例1で用いたフィルター材と比較して、スラグ捕集効果が高いことがわかる。従って、本実施形態に係るガス発生器用フィルター材を用いたガス発生器は、従来のガス発生器用フィルター材を用いたガス発生器と比較して、さらなるスラグ捕集効果が得られることがわかる。
【0051】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態、変形例及び実施例に限定されるものではない。例えば、本発明の第1実施形態に係るガス発生器用フィルター材7の代わりに、本発明の第1実施形態の変形例に係るフィルター材を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガス発生器用フィルター材の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るガス発生器用フィルター材に成形される前の金属板を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るガス発生器用フィルター材の断面図の一部を模式的に表した図である。
【図4】本発明の第1実施形態の変形例に係るガス発生器用フィルター材の断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態の他の変形例に係るガス発生器用フィルター材の断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るフィルター材を用いたガス発生器の1例における断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係るフィルター材を用いたガス発生器の他の例における断面図である。
【図8】従来のガス発生器用フィルター材の断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1、11、21、31 貫通孔
2、12、22、32 突起部
3、13、23、33 金属板
3a、3b、13a、13b、23a、23b、33a、33b 金属板終始端部
4、14、24、34 フィルター材内側
5、15、25、35 フィルター材外側
6、16、26、36 空隙層
7、17、27、37 フィルター材
69 伝火剤
70 点火器
71、90 ハウジング
72 ガス発生剤
74、95 点火手段
75、91a 外筒材
75a、98 ガス放出孔
76 蓋部材
92b 内筒材
96 溶接部
99 着火薬
103、104 スポンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の周囲に突起部を有する金属板を巻き回して複数層を有する中空円筒状に成形されているエアバッグ用ガス発生器に使用されるフィルター材であって、
前記突起部が、前記フィルター材内側に位置する前記金属板の一端から途中までの範囲内において、前記フィルター材外側に突出するように形成され、前記途中から前記フィルター材外側に位置する前記金属板の他端までの範囲内において、前記フィルター材内側に突出するように形成されていることを特徴とするガス発生器用フィルター材。
【請求項2】
前記フィルター材の最内層が、前記フィルター材外側に突出している前記突起部を有し、
前記フィルター材の最内層以外の層が、前記フィルター材内側に突出している前記突起部を有することを特徴とする請求項1に記載のガス発生器用フィルター材。
【請求項3】
前記金属板の前記複数の貫通孔を、隣接する前記金属板に対して径方向に投影した際、前記貫通孔の投影領域が、各前記貫通孔がそれぞれ存在する層とは異なる層において、前記貫通孔以外の無孔領域と少なくとも一度は完全に重なり、
前記貫通孔を通過したガスが、少なくとも一度は前記無孔領域に衝突することを特徴とする請求項1に記載のガス発生器用フィルター材。
【請求項4】
前記金属板の厚さを含めた突出部の厚さtが、0.55mm〜0.85mmであることを特徴とする請求項1に記載のフィルター材。
【請求項5】
前記貫通孔の径dが、0.70mm〜1.5mmであることを特徴とする請求項1に記載のフィルター材。
【請求項6】
前記金属板の長手方向1列の貫通孔数Nが、2.3〜6.0個/cmであることを特徴とする請求項1に記載のフィルター材。
【請求項7】
前記複数の貫通孔が、長手方向及び短手方向のそれぞれに規則的に配列されていることを特徴とする請求項1に記載のフィルター材。
【請求項8】
前記複数の貫通孔が、千鳥状に配列されていることを特徴とする請求項1に記載のフィルター材。
【請求項9】
前記貫通孔が、前記金属板1cmあたり20〜35個形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフィルター材。
【請求項10】
前記金属板の厚さが、0.15mm〜0.25mmであることを特徴とする請求項1に記載のフィルター材。
【請求項11】
ガス放出孔を有するハウジングと、
前記ハウジング内に形成され、燃焼により高温ガスを発生するガス発生剤が装填されている燃焼室と、
点火薬を内包しており、前記ハウジング内に装着され、前記燃焼室内のガス発生剤を着火燃焼させるガス発生剤点火手段とを備えたガス発生器であって、
前記ハウジングの内周に周方向にわたって、請求項1に記載のフィルター材をさらに備え、
前記ガス放出孔を前記ハウジングの外側から径方向に投影した際、該投影領域と前記フィルター材の貫通孔以外の無孔領域とが少なくとも一度は重なっていることを特徴とするガス発生器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−273295(P2008−273295A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116782(P2007−116782)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(000230386)日本ラインツ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】