説明

ガス発生器

【課題】 性能の調整が容易で、性能のばらつきが小さなガス発生器の提供。
【解決手段】 ガス排出口11を有するハウジング3内部に、燃焼によりガスを発生させるガス発生剤成形体7と、ガス発生剤成形体7を着火燃焼させる点火手段(面状発熱体36)が配置されている。ガス発生剤成形体7は燃焼開始端面40を有しており、燃焼開始端面40と点火手段となる面状発熱体36が接触した状態にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車両に搭載するエアバッグシステム、あるいは歩行者保護装置に使用される人員拘束装置に使用するのに適したガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス発生剤の燃焼を正確にコントロールするため、ガス発生剤の形状を、単孔を有するもの、ペレット、ディスク状などに成型することで燃焼表面積を調整し、ガスの発生量を調整する工夫がなされている。
【0003】
特許文献1に示されたガス発生器は、ガス発生剤が端面燃焼をするものである。即ち、点火器によってガス発生剤の端面に点火することで、図1中に矢印で示された方向に端面燃焼が行われ、発生したガスは流通孔から流量制御バルブを通じてガス流通管に放出されて、ガス流通管から外部へ噴出されるようになっている。このガス発生器では、点火器11により燃焼が開始されるが、点火器11は、ガス発生剤10の燃焼端面(露出端面)10aに対向して配置されているが、燃焼端面10aの面積と比べると、点火器11の点火部の大きさはかなり小さくなっている。
【0004】
このような場合、点火器に近い部分の燃焼端面が着火・燃焼を開始しやすくなるため、斑に燃焼が進行する可能性がある。また、ガス発生剤の物理的な強度が小さい場合には、点火器が発する衝撃により着火端面が割れ等を生じて変形してしまい、均一な着火燃焼がなくなる結果、ガス発生量にばらつきが生じて、所望の性能を確保することができなくなる可能性がある。
【特許文献1】特開2002−204947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、端面燃焼型のガス発生剤成形体を含んだガス発生器であり、ガス発生器の性能の調整が容易で、性能のばらつきが小さなガス発生器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(請求項1)
本発明は、課題の解決手段として、
ガス排出口を有するハウジング内部に、燃焼によりガスを発生させるガス発生剤成形体と、前記ガス発生剤成形体を着火・燃焼させる点火手段が配置されたガス発生器であって、
前記ガス発生剤成形体が、前記点火手段によって着火・燃焼が開始される1面又は複数面の燃焼開始端面を有しており、
前記点火手段が面状発熱体であり、
前記燃焼開始端面と前記面状発熱体が接触した状態にある、ガス発生器を提供する。
【0007】
公知のガス発生器の多くは、多数のガス発生剤成形体が充填されており、全体として大きな表面積を有するものであるから、点火手段が作動して燃焼が開始されるときは、基本的に全面燃焼となる。
【0008】
一方、本発明のガス発生器では、ガス発生剤成形体が燃焼開始端面を有しており、前記燃焼開始端面から燃焼が開始され、燃焼が進行して行くものであるから、上記の全面燃焼に対して部分燃焼となる点で相違している。
【0009】
本発明のガス発生剤成形体は、1つのガス発生剤成形体でもよいし、複数のガス発生剤成形体が全体として1つの成形体を形成するように組み合わされたものでもよいが、1つのガス発生剤成形体が好ましい。1つのガス発生剤成形体の形状は、ガス発生剤成形体を充填する空間(例えば、ハウジング内壁、フィルタ内壁、必要に応じてハウジング内に配置される他の容器や仕切壁の内壁等で包囲される燃焼室)の内部形状と一致していることが好ましい。
【0010】
複数のガス発生剤成形体を組み合わせて用いるときは10個以下が好ましく、2〜8個がより好ましく、2〜6個が更に好ましく、2〜4個が特に好ましい。個々のガス発生剤成形体の形状は制限されるものではなく、円柱状、ディスク状、貫通孔又は非貫通孔(窪み)を有する円柱状又はディスク状等の公知形状のものを用いることができる。
【0011】
複数のガス発生剤成形体を組み合わせて用いるときは、全体の形状がガス発生剤成形体を充填する空間(例えば、上記の燃焼室)の内部形状と一致していることが好ましい。例えば、複数枚のディスク状のガス発生剤成形体を積み重ねて、全体としてガス発生剤成形体を充填する空間(例えば、上記の燃焼室)の内部形状と一致するようにしたものを用いることができる。
【0012】
ガス発生剤成形体は、ハウジング内壁面、フィルタ内壁面、必要に応じてハウジング内に配置される他の容器や仕切壁の内壁面に接触した状態で充填されるものであるため、これらの内壁面に接触せずに開放された面であって、点火手段(面状発熱体)によって着火・燃焼が開始される面が燃焼開始端面になる。なお、燃焼開始端面が着火・燃焼され、燃焼が進行して行くとき、ガス発生剤成形体の前記内壁面に接触している面からは燃焼し難い状態になっている。
【0013】
燃焼開始端面は、上記したとおり、ハウジング内壁面、フィルタ内壁面、必要に応じてハウジング内に配置される他の容器や仕切壁の内壁面との接触状態を調整することにより、1面又は複数面にすることができる。燃焼開始端面は、平面又は曲面でもよく、凹凸を有する平面又は曲面でもよく、孔(貫通孔又は窪み)を有する平面又は曲面でもよい。
【0014】
面状発熱体は、従来のガス発生器で用いている点火手段(電気式点火器)の代わりとなるものであり、燃焼開始端面に接触した状態で配置されているものである。面状発熱体は、導体を介して電源に接続される。
【0015】
一般に使用される電気式点火器の点火部面積は、燃焼開始端面の面積と比べるとかなり小さなものであるため、電気式点火器が作動したとき、ガス発生剤成形体の狭い部分を点火することになる。このため、燃焼開始端面が大きいと着火ムラが生じて、均一な燃焼がなされないおそれがある。
【0016】
また、電気式点火器の作動により生じる火炎や高温ガスの圧力を受けて、ガス発生剤成形体が割れたり、変形したりするおそれがあり、このような事態が生じると、着火ムラが生じて、均一な燃焼がなされないおそれがある。
【0017】
しかし、本発明のように従来の電気式点火器に代えて面状発熱体を用いると、ガス発生剤成形体の燃焼開始端面は圧力を受けることがないため、変形等を生じることがなく、全体が均一に着火・燃焼される。そして、面状発熱体を用いることにより、電気式点火器を用いた場合に比べて、ガス発生器全体を軽量化できる。
【0018】
(請求項2)
本発明は、課題の他の解決手段として、前記ガス発生剤成形体が、前記燃焼開始端面を除く一部又は全部の面が樹脂又はゴムで被覆されたものである、請求項1記載のガス発生器を提供する。
【0019】
このように、燃焼開始端面を除く一部又は全部の面が樹脂又はゴムで被覆されていると、ガス発生剤成形体の耐久性を高めることができる。被覆部分の厚みは、0.01〜3mm程度にすることができる。
【0020】
樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、ポリフタル酸ジアリル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ケイ素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリフェニレンエーテル、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等を挙げることができる。
【0021】
ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム等を挙げることができる。
【0022】
これらの中でも、−200℃〜400℃を超える温度範囲において、フレキシブル性、非溶融性、難燃性を有することから、ポリイミドが好ましい。このようなポリイミドでコーティングしたガス発生剤成形体を有するものをエアバッグ用ガス発生器として使用した場合、環境試験(南国の夏季を想定して、締め切った車内を想定した耐熱試験など)にも十分に適合する。
【0023】
(請求項3)
本発明は、課題の他の解決手段として、前記ガス発生剤成形体が、燃焼に際して、燃焼面積が変化する形状又は構造のものである、請求項1又は2記載のガス発生器を提供する。
【0024】
燃焼に際して燃焼面積が変化する形状又は構造とは、1つのガス発生剤成形体の場合は、径の異なる1又は2以上の部分を有する成形体、径の異なる1又は2以上の貫通孔を有する成形体、1又は2以上の非貫通孔(窪み)を有する成形体、深さの異なる2以上の非貫通孔(窪み)を有する成形体、貫通孔と非貫通孔(窪み)を有する成形体、内部に1又は2以上の中空部を有する成形体等の燃焼開始端面から燃焼が始まったときにその断面積が時間と共に変化する形状又は構造のものを挙げることができる。また、複数のガス発生剤成形体を組み合わせた場合は、全体として前記した形状又は構造になるように組み合わせたものを挙げることができる。
【0025】
なお、上記の例では、ガス発生剤成形体や貫通孔の径が異なることを挙げたが、これらの断面形状は円形に限定されるものではなく、多角形でもよい。
【0026】
このように、燃焼に際して燃焼面積が変化する形状又は構造にすると、燃焼時のガス発生量の変化を調整しやすい。これは、燃焼面積が変化する形状又は構造にしておくと、燃焼が進むにつれて着火・燃焼面積が徐々に広くなったり、狭くなったり、あるいは急激に広くなったり、狭くなったりするようにすることができ、燃焼面積を変化させることにより、単位時間当たりのガス発生量を変化させることができるためである。
【0027】
例えば、エアバッグと組み合わせる場合、燃焼初期の燃焼面積を小さくし、一定時間燃焼が進行した後に燃焼面積を広くすることで、作動初期はガス発生量を抑え、一定時間経過後より多くのガスを排出させることで、エアバッグの展開による乗員への衝撃を緩和したエアバッグシステム用のガス発生器となる。
【0028】
(請求項4)
本発明は、課題の他の解決手段として、前記面状発熱体が、前記燃焼開始端面が着火燃焼した後に変化することで、前記ガス排出口に至るガス排出経路を開放するものである、請求項1〜3のいずれかに記載のガス発生器を提供する。
【0029】
ガス発生剤成形体の充填空間とガス排出口との間に面状発熱体が配置されているようなものの場合、ガス発生剤成形体の燃焼後において面状発熱体がそのまま残存していると、ガス排出口に至るガス排出経路が閉塞されたり、ガスの排出の障害となる。このため、面状発熱体が燃焼開始端面を着火燃焼した後に変化することで、ガス排出口に至るガス排出経路を開放する。ここでいう「変化」とは、面状発熱体が、例えば、焼尽、破壊又は変形されたり、変位移動したりすることを意味する。
【0030】
面状発熱体を変形し易くする観点から、面状発熱体の厚さは0.01〜1mmが好ましく、0.03〜0.5mmがより好ましい。
【0031】
(請求項5)
本発明は、課題の他の解決手段として、前記面状発熱体が、可塑性を有し、厚さ方向に変形可能なものである、請求項1〜4のいずれかに記載のガス発生器を提供する。
【0032】
ガス発生剤成形体の燃焼開始端面の全体を確実に着火・燃焼させる観点からは、燃焼開始端面と面状発熱体が密着していることが好ましい。このため、面状発熱体として、金属箔のように、可塑性を有し、厚さ方向に変形可能なものを用いると、例えば、燃焼開始端面が凹凸を有するものであった場合でも、面状発熱体が前記凹凸面に密着されるように接触させることができる。
【0033】
(請求項6)
本発明は、課題の他の解決手段として、前記面状発熱体が、ニッケルセリサイト、ステンレス箔、ステンレス箔、シリコーンゴムコードヒータ、導電ゴム、チタン系金属を主体とした複合セラミック、カーボンフェルト、導電性カーボンを含む合成ゴム、ニクロム線から選ばれるものからなる、請求項1〜5のいずれかに記載のガス発生器を提供する。
【0034】
面状発熱体は、ステンレス、ニッケルセリサイト、ステンレス箔+ポリイミド樹脂、ステンレス箔+ポリエステル樹脂、シリコンゴムコードヒータ+アルミ箔、導電ゴムを利用したもの、チタン系金属を主体とした複合セラミックからなるもの、カーボンフェルトを薄膜フィルムに構成したもの、導電性カーボンを合成ゴムに練りこんだもの、ニクロム線を蛇行配線したものからなるものが好ましい。
【0035】
ステンレスは、薄膜状に形成してステンレス箔とし、ポリイミド樹脂やポリエステル樹脂で露出面をコーティングしたもの、シリコンコードヒータは、アルミ箔などで被覆したものを用いることができる。導電ゴムは、それ自体抵抗値を有しているもので、特にゴムとして耐熱性の良いシリコーンゴムを用いたものが好ましい。
【0036】
チタン系金属を主体とした複合セラミックからなるものは、チタン系金属を主体とした複合セラミックをバインダに溶かした後、絶縁物の上に塗布し、乾燥させて得ることができる。
【0037】
(請求項7)
本発明は、課題の他の解決手段として、前記面状発熱体が、前記燃焼開始端面と同一又は近似した形状のものである、請求項1〜6のいずれかに記載のガス発生器を提供する。
【0038】
このようにすることで、ガス発生剤成形体の燃焼開始端面全体を均一に着火・燃焼させることができる。
【0039】
(請求項8)
本発明は、課題の他の解決手段として、前記面状発熱体と前記燃焼開始端面との間に着火補助剤が介在されている、請求項1〜7のいずれかに記載のガス発生器を提供する。
【0040】
着火補助剤としては、片面又は両面に伝火薬を塗布してなるフィルム状部材、ボロン硝石などの黒色火薬を含浸してなる多孔質薄板部材、火薬を含むスラリー状物質を硬化したもの、又は使用したガス発生剤成形体よりも燃焼温度の高いガス発生剤を燃焼開始端面に当接して配置させる。なお、スラリー状物質を使用する場合は、ガス発生剤の燃焼開始端面にスラリー状物質を塗布して乾燥させてもよい。
【0041】
着火補助剤は、ガス発生器の落下等の衝撃によって、ガス発生剤成形体の燃焼開始端面に割れや欠けなどの異常が発生することを防止する、補強手段として機能させることもできる。
【発明の効果】
【0042】
本発明のガス発生器によれば、ガス発生剤成形体の燃焼開始端面にて端面燃焼させることができるため、ガス発生器の性能の調整が容易であり、性能のばらつきが小さなガス発生器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
(1)図1に示すガス発生器
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1は本発明を運転席用エアバッグのガス発生器に適応した形態におけるエアバッグ用ガス発生器の軸方向(縦方向)の断面図である。
【0044】
ガス発生器100は、ディフューザシェル1とクロージャシェル2からなるハウジング3で外殻が形成されている。
【0045】
ディフューザシェル1は、鋼板をプレスにより成形してなるもので、円形部12と、この円形部12の外周部に形成される周壁部10と、この周壁部10の先端部に半径方向外側に延在するフランジ部19を有している。周壁部10には、ガス排出口11が周方向に均等間隔に形成されている。
【0046】
クロージャシェル2は、鋼板をプレスにより成形してなるもので、円形部30と、その中央部に形成される中央孔15と、円形部30の外周部に形成される周壁部47と、この周壁部47の先端部に半径方向外側に延在するフランジ部20を有している。中央孔15には、外部からの着火電流を中継する中継コネクタ50が配置されて、カシメにて固定されている
ディフューザシェル1とクロージャシェル2は、フランジ部同士19、20が重ね合わされ溶接21され、固定されている。
【0047】
ハウジング3内には、カップ8が収容されており、カップ8内が燃焼室7となる。カップ8は、開放端部側に周囲に複数のガス通過口26を有する小径部8a、閉塞端部側に大径部8b、小径部と大径部の間の中間部に傾斜面部8cを有しており、傾斜面部8cの外径は、小径部8aから大径部8bに向かって拡大されている。カップ8は、開放端部がクロージャ2の円形部30に当接され、閉塞端部がディフューザ1の円形部12に当接されている。
【0048】
燃焼室7には、カップ8の内部形状と一致する塊状に形成された1つのガス発生剤成形体6が収容されている。ガス発生剤成形体6は、一面を除いてカップ8の内壁面に当接されており、開放面であるクロージャ2側の端面が燃焼開始端面40となっている。
【0049】
ガス発生剤成形体6は、外径Aの部分(小径部8aに相当する部分)、外径Bの部分(大径部8bに相当する部分)、外径Aと外径Bの中間部(傾斜面部8cに相当する部分)の3つの異なる外径部分(前記中間部の外径を平均値とした場合)からなるものであり、断面積の大小関係は、外径Aの部分<外径Aと外径Bの中間部<外径Bの部分となっている。
【0050】
ガス発生剤成形体6は、着火性の良いものであり、燃料(RDX)40質量%、酸化剤(過塩素酸カリウム)57質量%、成型用のバインダー(カルボキシメチルセルロースナトリウム)3質量%からなる組成物を用いて、下記の方法により、成形されたものである。
【0051】
50質量%のイオン交換水に3質量%のカルボキシルメチルセルロース(ダイセル化学工業製「CMCダイセル#2260」)を添加しながら、液温を40℃に調温した状態で撹拌溶解させた。その後、RDX(日本工機製粉砕品)40質量%、過塩素酸カリウム(日本カーリット製「KPD2」)57質量%を投入して、さらに1時間ゆっくりと撹拌し、均一混合させる。
【0052】
その後、常温まで冷却放置し、膠質状のガス発生剤組成物(含水物)を得る。これをカップ8内の空間(得ようとするガス発生剤成形体の形状と一致する空間)に充填する。次に、110℃にて24時間乾燥させ、カップ8内に所望形状のガス発生剤成形体6が充填されたものを得ることができる。その他、液体、粉体、コロイド等の形態のガス発生剤組成物を所定空間内に充填し、乾燥、反応硬化、圧縮、ゲル化等の方法により、固体、膠質状等の略円筒状、略円柱状、或いは任意の多角柱状、多角筒状の塊に成形することもできる。
【0053】
ガス発生剤組成物としては、そのほか、燃料としてHMX、5−ニトロテトラゾール、1H−テトラゾール、5−アミノテトラゾール、1H−テトラゾール-1,5−ジアミン、グアニジン硝酸塩、モノアミノグアニジン硝酸塩、カルボジヒドラジド、トリアミノグアニジン硝酸塩、1,2,4−トリアゾール-3-オン、5,5’−ビ−1H−テトラゾール、ジシアンジアミド、アゾジカルボンアミド、グリシン、セミカルバゾン、1H−1,2,4−トリアゾール−3,5−ジアミン、4−アミノグアナゾール及びグアニル尿素硝酸塩、表1に示す化合物から選ばれる1又はこれらの混合物と、酸化剤として過塩素酸アンモニウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸ストロンチウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム及び硝酸ストロンチウム、ヒドロキシアンモニウムナイトレート、アンモニウムヒドラジド、ジニトラミド、過酸化水素水から選ばれる1又はこれらの混合物を組み合わせたものを用いることができる。
【0054】
【表1】

【0055】
ガス発生剤成形体6は、端面燃焼させるものであることから、できるだけ着火、燃焼性能の良いガス発生剤を用いることが好ましく、10MPaの加圧条件下で、30mm/sec以上の燃焼速度を有するものが好ましい。
【0056】
ガス発生剤成形体6の燃焼開始端面40に接触するように、着火補助剤33が取り付けられている。着火補助剤33は、ボロン硝石をバインダに分散させ、コロイド状のスラリー溶液とし、燃焼開始端面40に塗布した後に乾燥させたものである。なお、着火補助剤33は、ニトログアニジン等の燃料、硝酸ストロンチウム等の酸化剤を含む、着火性の良いガス発生剤やボロン硝石を、ガス発生剤成形体6中に分散させたものでもよい。このような着火補助剤は、それ自体が燃焼して、ガス発生剤成形体6の燃焼温度を更に上昇させるように作用する。
【0057】
更に着火補助剤33の表面に接した状態にて、面状発熱体36が配置されている。面状発熱体36は、厚さ30μm程度のステンレス箔の一面にのみ、厚さ20μm程度になるようにポリイミドフィルムをコーティングし、ステンレス箔の他面(着火補助剤33と接する面)はコーティングしていないものである。面状発熱体36は、外部からの着火電流を中継する中継コネクタ50を介して、電源と接続される。
【0058】
面状発熱体36と中継コネクタ50との間には、空間25が設けられている。空間25のハウジング3の半径方向(横方向)の断面積は、面状発熱体36の面積と同等以上であり、間隔は面状発熱体36の厚みよりも充分に大きい。
【0059】
面状発熱体36は、燃焼開始端面40への着火補助剤33の取り付けと並行して、面状発熱体36を貼り付けてもよいし(この場合、着火補助剤33の塗布乾燥により、面状発熱体36が燃焼開始端面40に貼り付けられる)、着火補助剤33の取り付けとは別に行ってもよく、その際は、例えば、両面テープ、耐熱性接着剤等を用いて、面状発熱体36を着火補助剤33に貼り付ける方法を適用できる。
【0060】
クーラント・フィルタ42は、カップ8を取り囲んで配設されており、カップ8とクーラント・フィルタ42間には、環状室41が形成されている。クーラント・フィルタ42は、鋼製平編の金網を半径方向に重ね、半径方向及び軸方向に圧縮して形成されたものである。クーラント・フィルタ42は、ガス発生剤成形体6の燃焼ガスを冷却し、燃焼残渣を捕集するものである。
【0061】
ハウジングの周壁部10、47と、クーラント・フィルタ42の間には、筒状間隙43が形成されている。この筒状間隙43により、燃焼ガスはクーラント・フィルタ42の全領域を通過するようになるため、燃焼ガスの効果的な冷却・浄化が達成される。
【0062】
次に、図1に示すガス発生器100の動作を説明する。車両の衝突時に、センサー(図示せず)が衝撃を感知し、コントロールユニット(図示せず)に信号を送る。コントロールユニットがそれを解析し、衝突と判断したら、中継コネクタ50に作動信号を送る。
【0063】
中継コネクタ50からリードワイヤを介して面状発熱体36に電流が流され、面状発熱体36の全体が発熱して、着火補助剤33が燃焼され、更にガス発生剤成形体6の燃焼開始端面40全体が着火・燃焼を始める。ガス発生剤成形体6は、燃焼開始端面40から反対端面35に向かって端面燃焼する。
【0064】
このとき、端面燃焼により発生した燃焼ガスの圧力を受けて、面状発熱体36は燃焼開始端面40から離れ、空間25内に移動して、その後の燃焼室7内の圧力の上昇により、円形部30の内壁面30aに貼り付けられた状態にて留まる。このため、面状発熱体36により、ガス排出経路となるガス通過口26が閉塞されることはない。
【0065】
発生した燃焼ガスは、ガス通過口26から環状室41に流入し、クーラント・フィルタ42で冷却・浄化された後、筒状間隙43を通ってディフューザシェルのガス排出口11に至り、防湿用のアルミニウムテープ44を破壊した後に排出される。
【0066】
ガス発生剤成形体6は、断面積の大小関係で示すと、外径Aの部分<外径Aと外径Bの中間部<外径Bの部分からなる3つの異なる断面積を有しているものであるから、燃焼開始端面40から反対端面35に向かって端面燃焼が進行するとき、断面積の増加に応じて単位時間当たりのガス発生量が増加することになる。
【0067】
(2)図2に示すガス発生器
図2は、特に助手席側に設けられるエアバッグ装置に適したガス発生器を示す軸方向に沿う断面図である。
【0068】
ガス発生器200は、助手席用のエアバッグシステムに好適なように、その全体形状がシリンダ形状に形成されている。外郭容器を構成するハウジング81は、一端側が閉塞され(閉塞面83)、反対側端部が開口された有底筒形状のものであり、開口端部側には、クロージャ82が取り付けられている。ハウジング81のクロージャ82が取り付けられた側には、防湿用のアルミニウムテープで閉塞されたガス排出口80が形成され、クーラント・フィルタ92が配置されている。
【0069】
ハウジング81の内部空間(燃焼室)には、前記内部空間の形状と一致したガス発生剤成形体89が配置されている。ガス発生剤成形体89は、図1のガス発生器で用いたガス発生剤成形体と同じ組成もので、同じ方法によって得られたものである。
【0070】
ガス発生剤成形体89には、燃焼開始端面90が形成されており、その全面を面状発熱体91がカバーしている。面状発熱体91は、図1のガス発生器10と同じものを同じ方法で取り付けている。面状発熱体91は、外部からの着火電流を中継するコネクタ50を介して、電源と接続される。
【0071】
ガス発生器200では、外部からの信号が中継コネクタ50に伝えられ、中継コネクタ50からリードワイヤ51を介して面状発熱体91に電流が流され、面状発熱体91の全体が発熱して、ガス発生剤成形体89の燃焼開始端面90全体が着火・燃焼を始める。ガス発生剤成形体89は、燃焼開始端面90から閉塞面83側に向かって端面燃焼する。
【0072】
発生する燃焼ガスは、クーラント・フィルタ92を通って冷却・浄化された後、防湿用のアルミニウムテープを破壊した後にガス排出口80から外部へ排出される。
【0073】
本実施形態では、ガス発生剤成形体89の燃焼時に、面状発熱体91は少なくとも部分的に焼尽されたり、破壊されたりすることで、ガス排出口80までのガス通路が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】好ましい実施の形態におけるエアバッグ用ガス発生器の断面図。
【図2】別形態のエアバッグ用ガス発生器の断面図
【符号の説明】
【0075】
1 ディフューザシェル
2 クロージャシェル
3 ハウジング
6 ガス発生剤
7 燃焼室
8 カップ
11 ガス排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス排出口を有するハウジング内部に、燃焼によりガスを発生させるガス発生剤成形体と、前記ガス発生剤成形体を着火燃焼させる点火手段が配置されたガス発生器であって、
前記ガス発生剤成形体が、前記点火手段によって着火燃焼が開始される1面又は複数面の燃焼開始端面を有しており、
前記点火手段が面状発熱体であり、
前記燃焼開始端面と前記面状発熱体が接触した状態にある、ガス発生器。
【請求項2】
前記ガス発生剤成形体が、前記燃焼開始端面を除く一部又は全部の面が樹脂又はゴムで被覆されたものである、請求項1記載のガス発生器。
【請求項3】
前記ガス発生剤成形体が、燃焼に際して、燃焼面積が変化する形状又は構造のものである、請求項1又は2記載のガス発生器。
【請求項4】
前記面状発熱体が、前記燃焼開始端面が着火燃焼した後に変化することで、前記ガス排出口に至るガス排出経路を開放するものである、請求項1〜3のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項5】
前記面状発熱体が、可塑性を有し、厚さ方向に変形可能なものである、請求項1〜4のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項6】
前記面状発熱体が、ニッケルセリサイト、ステンレス箔、シリコーンゴムコードヒータ、導電ゴム、チタン系金属を主体とした複合セラミック、カーボンフェルト、導電性カーボンを含む合成ゴム、ニクロム線から選ばれるものからなる、請求項1〜5のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項7】
前記面状発熱体が、前記燃焼開始端面と同一又は近似した形状のものである、請求項1〜6のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項8】
前記面状発熱体と前記燃焼開始端面との間に着火補助剤が介在されている、請求項1〜7のいずれかに記載のガス発生器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−196775(P2007−196775A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15757(P2006−15757)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】